説明

歯周疾患治療用組成物

【課題】一般用歯周病薬(歯槽膿漏薬)として配合前例のあるクロルヘキシジン塩酸塩0.1質量%と同等以上の歯垢形成抑制効果を示す濃度(0.1質量%以上)の塩化セチルピリジニウムを含有し、油溶性香料が可溶化されて外観性状も好適で、かつ口腔適用時の苦み・刺激感が低減され使用感にも優れた、歯周疾患治療用組成物を提供すること。
【解決手段】(A)塩化セチルピリジニウムを0.1〜0.5質量%
(B)炭素数2〜4の一価又は二価のアルコールを1〜15質量%
(C)l−メントールを0.05〜0.2質量%
(D)グリセリンを5〜50質量%
含有することを特徴とする、歯周疾患治療用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯周疾患治療用組成物に関する。より詳細には、本発明は、塩化セチルピリジニウムを含有する歯周疾患治療用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
歯周病は歯周疾患とも呼ばれ、歯周病原菌が口腔内に定着することにより始まる炎症性疾患であり、歯肉炎と歯周炎に大別される。口腔清掃が不十分であるとプラーク(口腔細菌とその代謝産物)が歯肉と歯の境目に付着後、定着し、増殖する。この異物に反応して好中球やマクロファージが浸潤し、炎症が起こる。これが歯肉炎といわれる状態で、主に歯肉の発赤・はれ、ブラッシング時の出血などの症状を呈する。この段階ではブラッシングやフロスの使用などの口腔清掃によりプラークを除去すれば、歯肉の炎症は改善する。
【0003】
しかし、プラークが蓄積したまま放置すると炎症がさらに拡大し、歯根膜の破壊による歯周ポケット形成、歯槽骨吸収へと進行する。歯周ポケットが形成されると、そこに蓄積したプラークはブラッシング等のセルフケアによる除去が難しいため、病状がより悪化する。ひとたび破壊された歯根膜や吸収した歯槽骨は元に戻らない。このような歯周組織の破壊を伴った状態が歯周炎である。この状態では歯肉の発赤・はれ、出血が慢性的におこり、口臭がひどくなり、さらには歯周組織の破壊から、歯が動揺し始め、炎症部から膿が漏れてくるようになる。
【0004】
歯周病は、炎症状態が長く続いたまま放っておくと、病状が進行し、不可逆的な歯周組織の破壊につながることから、日常でのセルフケアにおいては、症状がみられる歯肉に対し、抗炎症剤や止血剤などの対処療法剤を用いると共に、歯垢の沈着を抑制する殺菌剤を配合した製剤を用いることが歯周病の進行・悪化を防ぐ目的で重要である。
【0005】
歯垢の沈着を抑制する殺菌剤としては、塩化セチルピリジニウム(以下「CPC」ということがある)、ヒノキチオール、塩酸クロルヘキシジンが、一般用歯周病薬(歯槽膿漏薬)として用いられてきた。しかしながら、クロルヘキシジン類は、歯垢沈着抑制効果は高いものの粘膜への適用に際しアナフィラキシーショックを起こす可能性があり、また、ヒノキチオールは不安定で安定化のためには油性基剤を選定する必要があることから使用感が悪いといった問題がある。
【0006】
また、塩化セチルピリジニウムは、一般用歯周病薬(歯槽膿漏薬)の配合前例である0.1%塩酸クロルヘキシジンと同等以上の歯垢形性抑制効果を得るためには、従来認められていたCPC配合濃度(0.05%)よりは、高濃度配合する必要がある。さらに、塩化セチルピリジニウムは苦み・刺激感を呈する物質であり、あまりに多量に配合すると刺激感が増して使用感が悪化してしまう。また、特に高濃度配合して用いる場合には、苦みをマスキングするために香料を配合することが求められる。当該マスキング用の香料としては、l−メントール(以下、単にメントールということがある)等の油溶性香料が好適に用いられるが、油溶性であることから、可溶化のために界面活性剤を多量に口腔用組成物に配合する必要がある(例えば、特許文献1〜6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭60−255717号公報
【特許文献2】特開平4−198120号公報
【特許文献3】特開平8−259428号公報
【特許文献4】国際公開第95/34277号
【特許文献5】特開2001−72561号公報
【特許文献6】特開2007−31394号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、以上の知見を参考にしつつ、一般用歯周病薬(歯槽膿漏薬)として配合前例のあるクロルヘキシジン塩酸塩0.1質量%と同等以上の歯垢形成抑制効果を示す濃度(0.1質量%以上)の塩化セチルピリジニウムを含有し、油溶性香料が可溶化されて外観性状も好適で、かつ口腔適用時の苦み・刺激感が低減され使用感にも優れた、歯周疾患治療用組成物を提供することを目的に、研究を進めた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上述のような歯周疾患治療用組成物の製造を鋭意検討し、驚くべき事に、
(A)塩化セチルピリジニウムを0.1〜0.5質量%
(B)炭素数2〜4の一価又は二価のアルコールを1〜15質量%
(C)l−メントールを0.05〜0.2質量%
(D)グリセリンを5〜50質量%
含有することを特徴とする、歯周疾患治療用組成物であれば、クロルヘキシジン塩酸塩0.1質量%と同等以上の歯垢形成抑制効果を示す濃度(0.1質量%以上)の塩化セチルピリジニウムを含有し、油溶性香料が可溶化されて外観性状も好適で、かつ口腔適用時の苦み・刺激感・灼熱感が低減されて使用感にも優れた、歯周疾患治療用組成物を提供できることを見出し、さらに改良を重ねて本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明は例えば以下の項1〜3の口腔用組成物に係るものである。
項1.
(A)塩化セチルピリジニウムを0.1〜0.5質量%
(B)炭素数2〜4の一価又は二価のアルコールを1〜15質量%
(C)l−メントールを0.05〜0.2質量%
(D)グリセリンを5〜50質量%
含有することを特徴とする、歯周疾患治療用組成物。
項2.
塩化セチルピリジニウムを0.1〜0.3質量%含有する、項1に記載の歯周疾患治療用組成物。
項3.
炭素数2〜4の一価又は二価のアルコールが、エタノール、プロピレングリコール、及び1,3−ブチレングリコールからなる群より選択される少なくとも1種である、項1又は2に記載の歯周疾患治療用組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、クロルヘキシジン塩酸塩0.1質量%と同等以上の歯垢形成抑制効果を示す濃度(0.1質量%以上)の塩化セチルピリジニウムを含有し、油溶性香料が可溶化されて外観性状も好適で、かつ口腔適用時の苦み・刺激感・灼熱感が低減され使用感にも優れた、歯周疾患治療用組成物を得ることができる。さらに、当該歯周疾患治療用組成物は、CPCのみを水に溶解させた組成物に比べ、CPCの歯牙への吸着力が大きく、歯垢形成抑制効果が増強されている。
【0012】
これにより、クロルヘキシジン塩酸塩の使用によりアナフィラキシーショックを起こすというリスクを回避しつつ、これと同等以上の歯垢形成抑制効果を得られる歯周疾患治療用組成物が提供される。
【0013】
また、後述する実施例にて示すように、界面活性剤によって塩化セチルピリジニウムの殺菌効果・歯垢形成抑制効果は弱められてしまう。しかし、本発明に係る歯周疾患治療用組成物は実質的に界面活性剤を含有しないため、このような心配もない。
【0014】
また、メントールが安定に配合され析出しないため、安定性及び外観透明性にも優れる。さらに、メントールが偏在して一部分において香りが強く刺激的になることもない。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について、さらに詳細に説明する。
【0016】
本発明の歯周疾患治療用組成物は、塩化セチルピリジニウムを0.1〜0.5質量%、好ましくは0.1〜0.4質量%、さらに好ましくは0.1〜0.3質量%含有する。従来塩化セチルピリジニウムが配合された歯周疾患治療用組成物は、その配合量は0.05質量%以下であり、塩化セチルピリジニウムを0.1〜0.5質量%含有する本発明の歯周疾患治療用組成物は、従来の歯周疾患治療用組成物に比べかなりの高濃度の塩化セチルピリジニウムを含有するといえる。
【0017】
本発明の歯周疾患治療用組成物はさらに、l−メントールを0.05〜0.2質量%、好ましくは0.1〜0.2質量%含有する。l−メントールは歯周疾患治療用組成物を含めた口腔用組成物に頻用される油溶性香料であり、当該量配合することで、本発明の歯周疾患治療用組成物が含有する量の塩化セチルピリジニウムの苦みを改善できる。
【0018】
なお、ペパーミント油やハッカ油等、メントールを含有する香料をメントールに替えて又は一緒に、本発明の歯周疾患治療用組成物に配合しても良い。
【0019】
本発明の歯周疾患治療用組成物はさらに、基剤成分として、炭素数2〜4の一価又は二価のアルコールを1〜15質量%含有する。炭素数2〜4の一価又は二価のアルコールであれば特に制限されないが、なかでもプロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、エタノールが好ましい。なお、炭素数2〜4の一価又は二価のアルコールは、1種又は2種以上を組み合わせて配合できる。
【0020】
本発明の歯周疾患治療用組成物はさらに、グリセリンを含有する。配合量は特に制限されないが、好ましくは5〜50質量%、より好ましくは5〜35質量%、さらに好ましくは5〜20質量%である。
【0021】
塩化セチルピリジニウムの殺菌作用及び歯牙への吸着向上の点から、本発明の歯周疾患治療用組成物は25℃におけるpHを5.5〜8.0に調整することが好ましい。pH調整のため、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、塩酸等をpH調整剤として用いることができる。また、歯周疾患治療用組成物に用い得る緩衝液を適量配合してもよい。
【0022】
本発明の歯周疾患治療用組成物には、本発明の効果を損なわない限り、通常歯周疾患治療用組成物に配合される添加剤をさらに配合することができる。
【0023】
例えば、当該組成物を洗口剤(マウスウォッシュ)として用いる場合は、さらに防腐剤、湿潤剤、甘味剤等を配合してもよい。例えば、防腐剤として、パラオキシ安息香酸アルキル、安息香酸塩等を、湿潤剤もしくは甘味剤としてソルビトール、キシリトール、マルチトール等を、甘味剤としてスクロース、アセスルファムカリウム等が、それぞれ例示できるが、これらに限定されない。なお、このような添加剤は、それぞれ1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0024】
また、さらに増粘剤を配合することで、口腔用塗布剤(軟膏剤)として用いることができる。ただし、アニオン性の増粘剤は塩化セチルピリジニウムと塩を形成し、塩化セチルピリジニウムの活性を減少させるので好ましくない。また、界面活性剤として作用する増粘剤も好ましくない。ノニオン性又はカチオン性の水溶性高分子である増粘剤を用いるのが好適である。なかでも、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、プルラン、ポリビニルピロリドン等が好ましい。なお、このような増粘剤は1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0025】
また、本発明の歯周疾患治療用組成物は、本発明の効果を損なわない限り、塩化セチルピリジニウム以外の薬効成分を配合することもできる。配合される薬効成分としては、例えばアラントイン及びその塩、グリチルリチン酸ジカリウム及びその他塩類、グリチルレチン酸、グアイアズレンスルホン酸ナトリウム、ε−アミノカプロン酸、トラネキサム酸、塩化リゾチーム、ビタミンE及びその誘導体、ビタミンC及びその誘導体等の抗炎症剤、創傷治癒剤、血流促進剤、止血剤と、塩化ベンゼトニウム、塩化ベンザルコニウム等の殺菌剤を適宜配合することができる。また、本発明の効果や性状安定性を損なわない限り、嗜好性を高めるために香料も適宜配合することができる。
【0026】
本発明の歯周疾患治療用組成物は、例えば上述した塩化セチルピリジニウム、l−メントール、炭素数2〜4の一価又は二価のアルコール、甘味剤(グリセリン及び/又はソルビトール)を混合して製造できる。また、これらに各種添加剤、その他薬効成分等を加えてもよい。混合方法は特に限定されず、常法に従えばよい。例えば、これらの成分をミキサーで撹拌することによって製造することができる。なお、撹拌時に泡立てることは好ましくない。
【0027】
このようにして製造される本発明の歯周疾患治療用組成物は、界面活性剤を配合しなくともメントールを安定に配合でき、かつ、塩化セチルピリジニウムが高濃度配合された歯周疾患治療用組成物である。また、当該歯周疾患治療用組成物は、界面活性剤による塩化セチルピリジニウムの殺菌効力や歯垢形性抑制効果の低下がなく、むしろ増強される。また、メントールが安定に配合され析出しないため、安定性及び外観透明性にも優れる。さらに、l−メントールが偏在して一部分において香りが強く刺激的となることもない。
【0028】
なお、当該歯周疾患治療用組成物の安定性は、日本国において、医薬品として認可されるにあたって求められる条件をもクリアできるものである。
【実施例】
【0029】
以下、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の例に限定されるものではない。なお、各例中の配合量は、特に断りのない限り質量%を示す。
【0030】
試験1
高濃度CPCを組成物中に配合する場合、その苦みをマスキングするために油溶性香料、特にメントールの配合が必要になる。そこでまず、メントールを可溶化でき、かつメントールの結晶の析出を起こさない系を確立するため、各種基剤成分(アルコール及び界面活性剤)にメントールが安定に溶解するか検討した。
【0031】
<組成物の調整>
表1に記載の組成で各成分を泡立てないよう撹拌混合して、各組成物(参考例1〜25)を製造した。なお、メントールはエタノールに一旦溶解させてから用いた。
【0032】
<組成物の性能評価>
製造した各組成物について、目視により白濁もしくはメントールの結晶の析出が起こるかを観察し、組成物の安定性を評価した。具体的には、製造直後のもの及び製造後5℃で一週間静置させたものを目視し、白濁もしくは結晶の析出が起こるか、又は透明であるかを判定した。結果を表1に示す。
【0033】
【表1】

【0034】
試験2
試験1の結果から、メントールを溶解させるのに適すると考えられる基剤成分を選択した。そして、さらにこれらの成分とメントール及びCPCを表2に記載の組成で混合して各種組成物(参考例26〜30)を調製し、それぞれの組成物の安定性を評価した。具体的には、製造直後のもの及び製造後5℃で一週間静置させたものを目視し、おりが出るなどして白濁するか、それとも透明であるかを判定した。結果を表2に示す。
【0035】
【表2】

【0036】
当該結果から、基剤成分としてアニオン性界面活性剤を用いた場合には白濁が起こり安定性が不良である一方、基剤成分としてノニオン性界面活性剤を用いた場合には安定性に優れることがわかった。
【0037】
試験3
ノニオン性界面活性剤、メントール及びCPCを表3に記載の組成で混合して各種組成物(参考例29〜34)を調製し、それぞれの組成物中のCPCのヒドロキシアパタイト(以下「HA」ということがある)への吸着能を下記の方法により検討した。結果を表3に示す。なお、ヒドロキシアパタイトは歯牙表面(エナメル層)と同様の構造を有しており、CPCのヒドロキシアパタイトへの吸着能が高いほど、CPCの抗菌活性が保持され、歯牙表面での歯垢形成を抑制できると考えられる。
【0038】
<CPCのヒドロキシアパタイトへの吸着能測定方法>
検討は、各評価サンプルについてn=2で行った。
【0039】
まず、自然分泌唾液70mLを遠心分離して(11000rpm、10分、5℃)上清を採取した。そして当該上清を1時間紫外線照射して実験用唾液とし、その後使用時まで冷蔵保存した。
【0040】
次にHA300mgをPP(ポリプロピレン製)チューフ゛(15mL)に秤量し、蒸留水2mLを添加した。これをタッチミキサーで3秒攪拌後、振とう機で1時間以上振とうし、遠心分離(3000rpm、10分)して上清を除去した。さらにこれに実験用唾液2mLを添加し、タッチミキサーで3秒攪拌後、シーソーシェイカーで37℃恒温室内、一晩振とうしペリクル(獲得被膜)を形成させた。ペリクル形成後、遠心分離(3000rpm、10分)し、上清を除去した。
【0041】
さらに、当該ペリクルを形成させたヒドロキシアパタイトが入った該チューブへ各組成物2mLを試料としてそれぞれ添加し、タッチミキサーで3秒攪拌後、シーソーシェイカーで37℃恒温室内、15分間振とうし、遠心分離(3000rpm、5分)して上清を除去した。
【0042】
これらのチューブに対して「蒸留水2mLを添加して、タッチミキサーで3秒攪拌後、遠心分離(3000rpm、5分)し、上清を除去」という洗浄操作を2回行った。そして、ヒドロキシアパタイト上のCPCを検出するため、HPLC移動層(SLS混液)5mLを添加し、タッチミキサーで3秒攪拌後、振とう機で10分間振とうし、遠心分離(3000rpm、5分)して上清を50mLメスフラスコへ移した。HPLC移動層(SLS混液)で当該メスフラスコを50mLにメスアップし、HPLCでCPC含量を測定した。
【0043】
なお、HPLC移動層として用いたSLS混液は、以下のようにして調製した。
(1)クエン酸二水素ナトリウム4.64gとり、水500mLに溶解する。
(2)クエン酸一水和物4.2gとり、水500mLに溶解する。
(3)クエン酸一水和物溶液をクエン酸二水素ナトリウム溶液に加えながら、pH3.0に調整する。
(4)この液500mLにラウリル硫酸ナトリウムを1.44g溶解させ、アセトニトリル1500mLを加える。
【0044】
このようにして測定されるCPC量は、HAに吸着したCPC量を表す。測定値を基にし、各組成物中に含まれていたCPC量を100%としたときHA吸着CPC量が何%に当たるかを算出して表3に示す。なお、CPCを精製水に溶解させた組成物をコントロールとして用いた(表3)。
【0045】
【表3】

【0046】
当該結果から、ノニオン性界面活性剤はメントールを可溶化させるには有用であるが、CPCのヒドロキシアパタイトへの吸着能を低下させてしまうことがわかった。吸着能が低下すると、組成物に含まれるCPCの歯垢形性抑制効果は低下してしまうため、好ましくない。限定的な解釈は望まないが、このような結果となるのは、界面活性剤によって塩化セチルピリジニウムの活性部位が不活化されたり、あるいは、界面活性剤により形成されるミセル中に塩化セチルピリジニウムが取り込まれる等するためではないかと考えられた。
【0047】
試験4
従来から、メントールの可溶化のためには界面活性剤が用いられてきたが、試験3の結果から、CPCを配合する組成物においてはノニオン性界面活性剤を用いるとCPCの効果を低下させてしまうことが強く示唆された。そこで、基剤成分として界面活性剤を用いずに、メントール及びCPCを安定に可溶化させ、苦み・刺激感が低減された組成物を得ることができないか検討した。具体的には、各種基剤成分、メントール及びCPCを表4に記載の組成で混合して各種組成物(検討例1〜18)を調製し、それぞれの組成物の安定性、並びに苦み及び刺激感を評価した。安定性評価については試験1と同様に行った。また、苦み及び刺激感の評価については、専門パネラー5人に各組成物にて口を濯いでもらい、最も人数の多い評価(+、−、又は±)を代表値として表4に示した。なお、+、−、±はそれぞれ以下の評価を示す。
【0048】
−:ほとんど感じられない、気にならない程度
±:やや感じられる、やや気になる
+:強く感じる、気になる
【0049】
【表4】

【0050】
当該結果から、各種基剤成分(エタノール、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール)、メントール及びCPCを混合するのみでは、CPCを安定に溶解し、かつ苦み及び刺激感が改善された組成物を得ることは難しいことがわかった。
【0051】
試験5
そこで、各種基剤成分(エタノール、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール)、メントール及びCPCに加え、さらにグリセリンを配合した組成物について詳細に検討した。具体的には、各種基剤成分、メントール、CPC及びグリセリンを表5に記載の組成で混合して各種組成物(実施例1〜29、比較例1〜17)を調製し、それぞれの組成物の安定性、並びに苦み・刺激感・灼熱感を評価した。安定性評価については試験1と同様に行った。また、苦み・刺激感・灼熱感の評価については、専門パネラー5人に各組成物にて口を濯いでもらい最も人数の多い評価(+、−、又は±)を代表値として表5に示した。なお、+、−、±はそれぞれ上記「試験4」で記載したものと同様の評価を示す。
【0052】
【表5】

【0053】
当該結果から、
(A)塩化セチルピリジニウムを0.1〜0.5質量%(好ましくは0.1〜0.3質量%)
(B)炭素数2〜4の一価又は二価のアルコール(特にエタノール、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール)を1〜15質量%
(C)l−メントールを0.05〜0.2質量%
(D)グリセリン
含有する組成物であれば、安定性、並びに苦み・刺激感・灼熱感が良好となることがわかった。
【0054】
試験6
各種基剤成分(エタノール、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール)、メントール、CPC、及びグリセリンを含有する組成物について、当該組成物中のCPCのヒドロキシアパタイトへの吸着能を検討した。当該検討は、試験3における「CPCのヒドロキシアパタイトへの吸着能測定方法」と同様にして行った。結果を表6に示す。なお、実施例31は実施例18と同じである。
【0055】
【表6】

【0056】
当該結果から、試験5において見出された、各種基剤成分(エタノール、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール)、メントール、CPC、及びグリセリンを適量含有する組成物であればCPC吸着量は減少せず、意外なことに、むしろCPC吸着量は増加することがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)塩化セチルピリジニウムを0.1〜0.5質量%
(B)炭素数2〜4の一価又は二価のアルコールを1〜15質量%
(C)l−メントールを0.05〜0.2質量%
(D)グリセリンを5〜50質量%
含有することを特徴とする、歯周疾患治療用組成物。
【請求項2】
塩化セチルピリジニウムを0.1〜0.3質量%含有する、請求項1に記載の歯周疾患治療用組成物。
【請求項3】
炭素数2〜4の一価又は二価のアルコールが、エタノール、プロピレングリコール、及び1,3−ブチレングリコールからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の歯周疾患治療用組成物。

【公開番号】特開2010−280610(P2010−280610A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−135367(P2009−135367)
【出願日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【出願人】(000106324)サンスター株式会社 (200)
【Fターム(参考)】