説明

歯周病治療及び予防用組成物、及び使用方法

【課題】生理的なpH範囲内にあり、歯周粘膜炎の症状を十分に治療できると同時に、免疫系を賦活して歯肉の回復を促進する歯周病の治療及び実質的な予防に利用可能な組成物及びその使用方法を提供する。
【解決手段】本発明は、エースマンナン、組織修復活性をもつ免疫賦活剤、及び金属の錯化剤に対するモル比が1:1であるポリカルボン酸ジアルカリモノ金属水和物を含む、歯周病治療及び予防用混合物である。前記混合物は、コラーゲン形成及び実質的な組織修復に関してリシル酸化酵素を活性化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、局所的に歯周病の治癒へ関与し、また歯周病を実質的に予防する組成物及びその使用方法に広く関係する。特に、前記組成物は、歯周病の治療及び実質的な予防のため、局所的に適用される免疫系賦活剤及び抗炎症剤を含む。
【背景技術】
【0002】
歯肉疾患としても知られる歯周病は、成人における歯牙欠損の主な原因である。事実、成人の歯牙欠損の約70%は歯周病に起因すると考えられ、彼らの4人中およそ3人が人生のある時期に歯周病に侵されることになる。
【0003】
歯周病のほとんどは、歯に生じる粘着性の無色膜として現れる細菌性の歯垢に起因している。別のタイプの歯周病として、異なるタイプの細菌に起因するものもある。細菌性の歯垢は、結石または歯石として知られる粗く、多孔性の物質へと硬化することがある。このような歯垢は、歯肉を刺激する毒素を生成して放出し、最終的に、歯に対し歯肉を堅固に保持する線維の破壊を引き起こす。
【0004】
線維の破壊につれて歯周ポケットが発達し、より多くの細菌及び毒素で満たされる。そして、より多くの深いポケットが築かれていく。細菌または細菌性酵素の外毒素は、最終的に歯を定位置へ保持する骨に接触し、これを破壊する。
【0005】
歯周病の治療及び予防としては、例えば、歯垢の原因となる細菌の除去、炎症過程の軽減、免疫系の賦活、及び歯肉の強化を含む方法の組み合わせが挙げられる。特に、口腔衛生がpHに過敏であり、生体組織に対して通常の生理的なpHレベルよりも高いpHまたは低いpHレベルを導入することが、生体組織の健康に有害となり得ることを考慮すれば、前記治療及び予防は、生理的なpHレベルで行われるべきである。
【0006】
現在のところ、銅のような金属を用いて組織の炎症を処置する方法が知られている。例えば、古代エジプト以来、銅が肉芽腫性の炎症の治療に適用されてきたことが確認されている。例えば、ブレスレットのような皮膚と接触して着用された銅製の宝飾品類からの銅の溶出が、治療的な抗炎症効果を有していた形跡が明らかになっている。他の調査では、ラットの皮下へ埋め込まれた銅が、抗炎症作用を示したことが明らかにされている。さらなる事例として、中性ビス(グリシン)銅(II)錯体を浸み込ませたネコの皮膚により、溶解銅が皮膚を透過することが立証されている。さらに、いくつかの経口及び非経口銅錯体が、炎症または関節炎の処置において多少なりとも成功裏に使用されている。そして、経皮的に適用する銅錯体は、薬学的な活性をもつ抗炎症剤として承認されている。
【0007】
いかにも、銅は、様々な従来技術の取り組みにおいて、炎症の要因を直接的に軽減し、組織修復を促進する手段として使用されてきた。そのことにより、炎症領域への銅の送達を最大限にするために改良された銅組成物及び剤形がいくつかもたらされている。このような銅の送達システムの例として、非経口(皮下、血管内、あるいは筋肉注射)、経口、外用、または挿入が挙げられる。銅の非経口送達は苦痛を伴い、不便であり、医師の存在を必要とし、また注射箇所にさらなる炎症を引き起こすことがある。一方、経口送達では、胃上皮によって銅が吸収されにくいため、抗炎症作用が低減してしまうことが度々ある。そして、銅の外用送達は、例えば、関節炎のような炎症の投薬治療において、投薬法を選択する場合によく用いられる。このような外用の剤形での投与は、それらのもつ独特且つ有利な特性から、明らかに好ましい。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
外用の剤形についての知名度にかかわらず、過去現在における多くの外用の銅錯体は、銅を用いて炎症または関節炎を効果的且つ簡便に処置する手段としての期待を果たしていない。例えば、皮膚のようなタンパク質性の膜へ金属塩を塗布すると、膜成分への銅イオンの付着が起こり、銅タンパクまたは塩が形成される。すなわち、可溶化、イオン化状態の銅が、例えば関節炎領域といった標的となる炎症に導入されることはほとんどない。さらに、銅塩は皮膚に対して腐食性を有し、場合によって患者へ様々なタイプの溶解作用を負わせることがある。この好ましくない特性を克服するため、銅イオンを配位子またはキラント(chelant)と錯化させて、金属錯体を形成させる。すなわち、銅を膜成分との結合から遮蔽する。このような外用の錯体の例として、銅−アミン錯体および銅−EDTAが挙げられる。残念なことに、これらの錯体には、その実用を妨げる好ましくない特性がある。
【0009】
本発明と同じ発明者による米国特許第4,680,309号において、組織の炎症は、アルファまたはベータ−ヒドロキシポリカルボン酸のジアルカリ金属モノ重金属キレートからなる金属錯体の送達により軽減されるものと考えられた。投与された金属錯体の例は、クエン酸モノ銅(II)ジアルカリ金属塩である。
【0010】
一部の個体には、上記の典型を超えた歯周衛生上の問題点がある。強化化学療法及び放射線治療を受けている個体の口腔衛生は、さらに、口腔粘膜炎によって脅かされている。口腔粘膜炎は、一般的に、口の乾燥感及び唇のひび割れから始まる。症状の進行につれて、歯肉上に痛みを伴う白っぽい斑点が発現し、個体の飲食を非常に困難にさせる。がん患者の約40%が、大抵重度の歯周炎の前駆となる口腔粘膜炎を経験する。2004年12月発行のThe New England Journal of Medicineによれば、治療法または効果的な治療は判明していない。
【0011】
口腔粘膜炎の治療は、疾患に係る症状を治療するに十分な効力をもつと同時に、個体に痛みを与えない程度に穏やかなものであることも必要とされる。
【0012】
生理的なpH範囲内にあり、歯周粘膜炎の症状を実質的に治療することができると同時に、実質的に免疫系を賦活して歯肉の回復を強化及び促進する、歯周病の治療及び実質的な予防用に適した組成物が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の様々な典型的実施形態は、歯周病の治療及び予防用組成物を包含するものである。前記組成物は、エースマンナンと、金属の錯化剤に対するモル比が1:1であるポリカルボン酸ジアルカリモノ金属水和物とから構成される。
【0014】
さらに、様々な典型的実施形態は、歯周病の治療及び予防方法を包含する。前記方法は、 エースマンナンと、金属の錯化剤に対するモル比が1:1であるポリカルボン酸ジアルカリモノ金属水和物とを含む組成物を調製する段階、及び、前記組成物を個体の口腔へ導入する段階を含む。
【0015】
本発明の様々な典型的実施形態は、免疫系賦活剤及び抗炎症剤を含む。
【0016】
本発明の典型的実施形態において、免疫系賦活剤はエースマンナンとして存在する。エースマンナンは、アロエベラ由来の複合糖質抽出物であり、アロエベラの治癒特性の一次活性成分と考えられている。エースマンナンは、腫瘍壊死因子、ガンマインターフェロン及びインターロイキン1の量を増進すると考えられている。これらは全て、身体の防衛能力を促進し、ウイルス、細菌及び腫瘍細胞を実質的に排除する。細胞の栄養物として、エースマンナンは治療特性を有する。
【0017】
エースマンナンと併せ、例えば、クエン酸モノ銅(II)二ナトリウム二水和物(MCC)及び関連する銅錯体のような、金属の錯化剤に対するモル比が1:1であるポリカルボン酸ジアルカリモノ金属水和物として、抗炎症剤を配合することができる。
【0018】
金属−錯化剤は、金属と配位子の比が1:1である多価金属及び多官能性有機配位子であり、pM−pH図上にS字曲線で表されるような解離特性をもつ。金属錯体の具体例としては、クエン酸モノ銅(II)二ナトリウム、〜二カリウム、または〜二リチウムで表されるようなクエン酸モノ銅(II)のジアルカリ塩がある。これらのクエン酸モノ銅(II)ジアルカリ塩は、2方向の曲線がpH約7から約9の範囲内で交わるS字曲線で表されるような解離特性を有する。これらのモノ銅(II)錯体は、pHが約9から約12程度の塩基性媒体中において非常に安定する、すなわち、有効安定度定数であるKeffを、おおよそ約1012から約1013の範囲で有することが確認されている。しかしながら、これらのクエン酸モノ銅(II)錯体のpH約7〜9におけるKeffは、約10から約1012程度である。したがって、pH約7におけるクエン酸モノ銅(II)錯体の有効安定度定数はかなり低く(1000倍から数10万倍低い)、顕著な遊離Cu++濃度は抗炎症に有効である。例えば、pH9または約9では錯体中の銅の0.1%がイオン化状態となるが、pH7または約7では約10%の銅がイオン化状態となる。
【0019】
つまり、本発明の抗炎症錯体はpHに対する感受性が高いと考えられ、pHが約7に低下するかもしくは7より低くなるにつれて、銅イオンがより多量に得られるようになる。組織が無傷、すなわち外傷のない健康な状態である場合、銅イオンの解離を誘発する内因性の反応成分の遊離はほとんどない。炎症による外傷がある場合、銅イオンの解離および前記の外傷に関連する内因性の反応成分との錯体化が誘導され、それによって炎症は軽減ないし緩和される。一般に、前記錯体は約3から約12のpH範囲で解離する傾向がある。pHが約12を超えると、前記錯体はアルカリ性媒質によって損なわれやすくなり、水和金属酸化物として媒質から沈殿する。pHが約7より低いと、金属錯体の不安定性が、先述した抗炎症作用をもたらす遊離Cu++の高濃度化を要求に応じて引き起こす。約7という病理的pH値において、皮膚の下へ制御放出することが最も効果的である。前記錯体は、典型的な投与の際、組織の通過に適した約6.5から約9のpHをもつ組成物とし、炎症活性に関連する内因性の反応成分の存在状態で金属イオンの制御放出をもたらすように媒体中へ分散させることが好ましい。
【0020】
この記載及び現下での好適な実施形態において、多官能性有機配位子のその他の金属錯体が、標準的なpM−pH図上におけるS字曲線で特徴付けられる解離特性を示す場合、それらが本発明のモデルに相当することは明らかであろう。例えば、本発明のモノ金属−多官能性有機配位子錯体に基づき、一価または多価性の他の金属イオン、特に亜鉛、ニッケル、クロム、ビスマス、水銀、銀、コバルト及びその他の類似する金属または重金属カチオンを含む二価及び多価カチオンが使用され得る。本発明の好適な実施形態によって特に例示されるクエン酸に代え、他の多官能性有機配位子を用いることができる。他の多官能性有機配位子としては、幅広い種類のアルファまたはベータ−ヒドロキシポリカルボン酸が含まれ、クエン酸もここに分類される。また、本発明の金属錯体の分子モデルにおいて、アルファまたはベータアミノ、スルフヒドロ、ホスフィノール等のような他の官能基で置換された酸を代用し、同様の結果を達成することもできる。
【0021】
1:1ジアルカリモノ金属多官能性有機配位子キレート類において、特に望ましい金属錯体の一つは、CAS登録番号65330−59−8のクエン酸モノ銅(II)二ナトリウム二水和物(disodium monocopper(II) citrate dihydrate)である。この物質はMCCTMの商品名で、オハイオ州シンシナティのナショナル リサーチ ラボラトリーズ社によって販売されている。
【0022】
ほとんどの微生物は、pH7前後での生存能力をもつ。MCCは、生理的pHレベル内であって、微生物が安定するpHレベルであるpH7〜9において、その配位構造から多量の有害な金属イオンを放出することにより、微生物の細胞タンパク質を変性させ、微生物の細胞死を引き起こすという点で有利である。
【0023】
驚くべきことに、エースマンナン及びMCCは、その併用において、リシル酸化酵素の活性化を誘発してコラーゲン生成を促進し、また、それにより続く組織修復及び組織再生を増進する。
【0024】
様々な典型的実施形態において、エースマンナンは、完成物の重量に対し90%以下の量で存在する。
【0025】
様々な典型的実施形態において、MCCは、約100mg銅/リットル(約0.01w/v%)から約600mg銅/リットル(約0.06w/v%)の有効量で存在する。
【0026】
コラーゲン生成及びそれに続く組織修復に関するリシル酸化酵素の活性化に加え、MCCは、口腔においてデオドラント剤及び抗炎症剤としても機能する。
【0027】
本発明の様々な典型的実施形態の組成物は、固体、ペースト、ゲル、発泡体または液体の形をなすことができる。
【0028】
本発明は上記した具体的実施形態とともに説明されるものであるが、多くの代替、変形及び変種が当業者にとって明白であることは明らかである。したがって、上記した本発明の好適な実施形態は実例を意図するものであって、制限を意図するものではない。本発明の精神と範囲から逸脱することなく、種々変更が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エースマンナンと、
金属の錯化剤に対するモル比が1:1であるポリカルボン酸ジアルカリモノ金属水和物と、
を含むことを特徴とする歯周病治療及び予防用組成物。
【請求項2】
金属の錯化剤に対するモル比が1:1であるポリカルボン酸ジアルカリモノ金属水和物が、クエン酸モノ銅(II)二ナトリウム二水和物(MCC)であることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
MCCが、約100mg銅/リットルから約600mg銅/リットルとして存在していることを特徴とする請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
エースマンナンを組成物中に90%以下含むことを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
組成物が、固体、ペースト、ゲル、発泡体または液体の形をなしていることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
エースマンナンと、
金属の錯化剤に対するモル比が1:1であるポリカルボン酸ジアルカリモノ金属水和物と、
を含む組成物を調製する段階、及び、
前記組成物を個体の口腔へ導入する段階、
を含むことを特徴とする歯周病の治療及び予防方法。
【請求項7】
金属の錯化剤に対するモル比が1:1であるポリカルボン酸ジアルカリモノ金属水和物が、クエン酸モノ銅(II)二ナトリウム二水和物(MCC)であることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
MCCが、約100mg銅/リットルから約600mg銅/リットルとして存在していることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
エースマンナンを組成物中に90%以下含むことを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項10】
組成物が、固体、ペースト、ゲル、発泡体または液体の形をなしていることを特徴とする請求項6に記載の方法。

【公表番号】特表2008−528609(P2008−528609A)
【公表日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−553226(P2007−553226)
【出願日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際出願番号】PCT/US2006/002788
【国際公開番号】WO2006/081358
【国際公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【出願人】(507137047)ナショナル リサーチ ラボラトリーズ リミテッド (5)
【氏名又は名称原語表記】NATIONAL RESEARCH LABORATORIES,LTD.
【住所又は居所原語表記】3567 Blue Rock Road,Cincinnati,OH 45247
【Fターム(参考)】