説明

歯科用セラミックスおよび該歯科用セラミックスを製造するための方法

本発明は、0.5〜1.0の間のZr/Si比を有する二酸化ジルコニウムおよび二酸化ケイ素と、1質量%〜12質量%の酸化アルミニウムと、最大2質量%のアルカリ金属酸化物またはアルカリ土類金属酸化物とを含有している歯科用セラミックスおよび該歯科用セラミックスを製造するための方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科用セラミックスおよび該歯科用セラミックスを製造するための方法に関する。
【0002】
歯科用セラミックスとして歯科技術に使用するために適したセラミックスは、特別な要求を満たしていなければならない。この要求には、特に、僅かな化学的な溶解度と、歯の基本色への着色または顔料での色の形成を可能にする色とが属している。
【0003】
DIN EN ISO 6872は、歯科用セラミックスの化学的な溶解度に対する上限を100μg/cmに規定している。
【0004】
色の特徴付けは、国際照明委員会(CIE)(ウィーン在、1986年)のCIE−L表色系により行われる。この体系には、
人間の目の網膜の明度感覚を意味するパラメータLと、
人間の目の網膜の赤/緑感覚を意味するパラメータa(この場合、a>0は赤
の感覚、a<0は緑の感覚)と、
人間の目の網膜の黄/青感覚を意味するパラメータb(この場合、b>0は黄
の感覚、b<0は青の感覚)と
が記載してある。
【0005】
フルセラミックス義歯のためには、ケイ酸塩セラミックスまたは酸化物セラミックスが適している。この場合、この酸化物セラミックスは、たとえば、いわゆる「圧縮セラミックス」に比べて簡単に所望の形にもたらすことができない。セラミックス粉末から、まず、いわゆる「圧粉体」が製造される。この圧粉体は、次いで、焼結される。多孔質の圧粉体の焼結時には、粉末粒子が圧縮され、これによって、固いセラミックスが形成される。しかし、この場合、必然的に最大50パーセントの体積の収縮が生ぜしめられる。この焼結収縮は、セラミックス義歯の製造時にその都度考慮されなければならない。
【0006】
ドイツ連邦共和国特許出願公開第19547129号明細書には、粉末状の酸化物セラミックス、たとえば二酸化ジルコニウムまたは酸化アルミニウムと、粉末状の金属間化合物と、ケイ素有機ポリマとから酸化物セラミックス焼結体を収縮なしに製造するための方法が開示されている。しかし、考えられ得るあらゆる組成は、歯科用セラミックスに課せられる上述した要求に応じたセラミックスに繋がらない。一般的には、前記方法によって製造されたセラミックスの色が白ではなく、黄緑であり、このセラミックスの化学的な溶解度が過度に高い値を有している。
【0007】
J.R.Binder、S.RayおよびE.Klose著の「Schwindungsfreie Keramiken im System Zr−Si−O」(DKG Handbuch、第3.6.4.4章、2002年)によれば、ジルコニウム−ケイ素−酸化物(Zr−Si−O)系における収縮なしのセラミックスの製造は、焼結プロセス時に不可避に生ぜしめられる収縮をケイ化ジルコニウム(ZrSi)の体積増加酸化反応によって補償することに基づいている。この場合、反応焼結させられるこのような形式のセラミックスの機械的な特性は、Zr/Si比に著しく関連している。
【0008】
H.SalmangおよびH.Scholze著の「Keramik,Teil 2:Keramische Werkstoffe」(第6版、1983年、Springer出版、第168〜169頁)に基づき、酸化アルミニウム(Al)の製造時に焼結助剤として0.1〜0.5質量%の酸化マグネシウムMgOの添加剤を使用することが公知である。
【0009】
Tosoh社(日本、1999年)の製品情報「New Improved Zirconia Powder」から、二酸化ジルコニウムを形成するための焼結助剤としての0.25質量%の酸化アルミニウムAlの添加が、焼結温度を約100℃だけ低下させることを知ることができる。
【0010】
ここから出発して、本発明の課題は、前述した欠点および制限を有していない歯科用セラミックスおよび該歯科用セラミックスを製造するための方法を提案することである。特に、僅かな化学的な溶解度と、歯の基本色への着色または顔料での色の形成を可能にする色とを有する、収縮なしに製造することができる歯科用セラミックスが提供されることが望ましい。
【0011】
この課題は、歯科用セラミックスに関して請求項1の特徴によって解決され、方法に関して請求項7によって解決される。従属請求項には、それぞれ本発明の有利な構成および実施態様が記載してある。
【0012】
本発明による酸化物セラミックス焼結体は、
−二酸化ジルコニウムZrOと二酸化ケイ素SiOとを含有しており、この場合、ジルコニウム(Zr)の割合とケイ素(Si)の割合との間の比(Zr/Si比)が、0.5〜1.0の間の値、有利には0.7〜0.9の間の値、特に有利にはほぼ0.8をとっており、これによって、特に有利な範囲で54質量%〜61質量%の二酸化ジルコニウムと33質量%〜37質量%の二酸化ケイ素との組成が生ぜしめられ、
−1質量%〜12質量%、有利には2質量%〜12質量%、特に有利には3質量%〜8質量%の酸化アルミニウムAlを含有しており、
−0質量%〜2質量%のアルカリ金属酸化物またはアルカリ土類金属酸化物、有利には酸化マグネシウムMgO、特に有利には0.25質量%〜0.75質量%、特にほぼ0.4質量%の酸化マグネシウムMgOを含有しており、
この場合、前述した成分が、それぞれ全体的に多くとも100質量%に合算される。
【0013】
特別な構成では、本発明による酸化物セラミックス焼結体が、付加的にさらに、製造時にイットリウム安定化された二酸化ジルコニウムZrOの形で添加された最大2質量%、有利には1.5質量%の酸化イットリウムYを含有していてよい。
【0014】
本発明によるセラミックスの化学的な溶解度は、十分な範囲で、歯科用セラミックスに対する100μg/cmの、DIN EN ISO 6872に規定された上限値を下回っている。有利な構成では、化学的な溶解度が20μg/cmよりも僅かであることが分かった;特に有利には、化学的な溶解度の値が10μg/cmを下回っている。
【0015】
本発明によるセラミックスの色はほぼ白であり、したがって、顔料によって容易に歯の基本色に着色することができる。この観察には、国際照明委員会(CIE)のL表色系におけるパラメータL、aおよびbに対する以下の有利な値が相当している:
−Lは、有利には92〜96の間の値をとっている。すなわち、セラミックスの色が人間の目の網膜によって希望通り明るいと感じられ、添加剤によって歯の基本色へ暗くすることができる。
−aは、有利には−2〜+2の間の値、特に有利には+1.5〜−1.5の間の値をとっている。すなわち、目の網膜がセラミックスを白いと感じる。この色調は、適切な顔料によって所望の別の色調にシフトさせることができる。
−bは、有利には0〜10の間の値、特に有利には0〜4の間の値をとっている。すなわち、セラミックスが観察者の目に白の感覚ないし多くとも僅かに黄の感覚を生ぜしめる。このことは、歯の基本色への着色の意に添っている。
【0016】
少なくとも1質量%のAlの添加によって、化学的な溶解度が著しく低下させられるのに対して、少なくとも3質量%のAlの添加によって、セラミックスが白くなり、もはや黄でなくなる。酸化マグネシウムMgOの添加は焼結特性の改善に役立つのに対して、酸化アルミニウムAlの単独の添加は焼結特性の改善に繋がらない。
【0017】
酸化マグネシウムMgOの代わりに、別のアルカリ金属酸化物またはアルカリ土類金属酸化物、たとえば酸化カルシウムCaOが、各元素に対して固有の濃度で使用されてもよい。この濃度はルーチン試験によって容易に検出することができる。また、酸化アルミニウム割合はセラミックスの特性にも影響を与える;この酸化アルミニウム割合の濃度影響は、選択されたアルカリ金属酸化物またはアルカリ土類金属酸化物に関連している。
【0018】
本発明によるセラミックスを製造するためには、まず、単斜晶のまたは場合により一緒にイットリウム安定化された二酸化ジルコニウムZrOと、酸化アルミニウムAlと、酸化マグネシウムMgOと、二ケイ化ジルコニウムZrSiと、ケイ素有機化合物、たとえばメチルポリシロキサンと、圧縮助剤とから成る均質な混合物が製造される。その後、この均質な混合物から、圧粉体が成形される。この圧粉体はすでに所望の形を有しているかまたは加工(たとえばフライス削り)によって所望の形にもたらされ、その後、1回の反応焼結プロセスによって圧縮(焼結)され、これによって、歯科用セラミックスが形成される。
【0019】
有利な実施態様では、この均質な混合物に対して、付加的な適切な顔料が添加される。この顔料は歯科用セラミックスを完全に所望の色に着色する。
【0020】
有利な実施態様では、本発明によるセラミックスは、このセラミックスを低収縮にもしくは収縮なしに、すなわち、寸法・形状不変に製造することができることによって特徴付けられる。このためには、歯科用セラミックスの密度ρ
ρ=(m/m)ρ
の値をとるように、圧粉体の密度ρが選択される。この場合、mは圧粉体の質量であり、mは歯科用セラミックスの質量である。これによって、全体的に焼結収縮が生ぜしめられないことが保証されている。
【0021】
以下に、本発明を3つの実施例および図面につき詳しく説明する。
【0022】
実施例1
本発明による歯科用セラミックスを製造するためには、二ケイ化ジルコニウムと、単斜晶の二酸化ジルコニウムと、酸化マグネシウムと、酸化アルミニウムと、メチルポリシロキサンと、有機圧縮助剤とから成る圧粉体が1回の反応焼結プロセスによって圧縮され、これによって、セラミックスが形成された。この場合、このジルコンベースの密なセラミックスは0.8のZr/Si比を有していた。酸化マグネシウムの割合が0.4質量%であったのに対して、酸化アルミニウムの割合は0〜16質量%の間で変化させられた。これによって、以下のセラミックスが得られた:
【表1】

【0023】
付加的には、Nr.4〜Nr.8の歯科用セラミックスに対して、歯科用セラミックスの焼結密度ρと、質量変化
Δm=(m/m)−1
と、圧粉体密度ρとが、圧粉体製造の間の200MPa〜600MPaの間の軸方向の圧縮圧において規定された。ここから、関係式
ΔV=(1+Δm)・(ρ/ρ)−1
により、相応の体積変化ΔVが検出された:
【表2】

【0024】
図面には、MPaで示された、圧粉体製造の間の軸方向の圧縮圧において、曲線4’,5’…8’として、Nr.4〜Nr.8のセラミックスの焼結密度ρがg/cmで示してあり、曲線4,5…8として、Nr.4〜Nr.8のセラミックスの値(1+Δm)・ρがg/cmで示してある。セラミックスの収縮がないことは、それぞれ互いに関係する曲線4’,4、曲線5’,5等が交差する場合に生ぜしめられる。この条件は、Nr.4〜Nr.6のセラミックスによって満たされる。したがって、このセラミックスは特に有利な範囲に位置している。Nr.4およびNr.5のセラミックスに対する交差点は直接図面から知ることができるのに対して、Nr.6のセラミックスのためには、600MPaよりも高い圧縮圧が必要となる。同じくさらに歯科用セラミックスとして、Nr.3およびNr.7のセラミックスも適している。これによって、このセラミックスは、主として、有利な範囲を制限している。
【0025】
実施例2
本発明による歯科用セラミックスを製造するためには、二ケイ化ジルコニウムと、イットリウム安定化された二酸化ジルコニウム(3mol.% Y)と、酸化マグネシウムと、酸化アルミニウムと、メチルポリシロキサンと、有機圧縮助剤とから成る圧粉体が1回の反応焼結プロセスによって圧縮され、これによって、セラミックスが形成された。この場合、このジルコンベースの密なセラミックスは0.8のZr/Si比を有していた。酸化マグネシウムの割合が0.4質量%であったのに対して、酸化アルミニウムの割合は0〜5.4質量%の間で変化させられた。以下のセラミックスが得られた:
【表3】

【0026】
実施例3
本発明による歯科用セラミックスの製造は、実施例1と同様に行われた。この場合、ここでは、比較して、酸化マグネシウムの割合が1.1もしくは1.2質量%であった。これによって、以下のセラミックスが得られた。この場合、Nr.3およびNr.5のセラミックスの値は実施例1から知られている:
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】圧粉体製造の間の軸方向の圧縮圧とセラミックスの焼結密度との関係を示す線図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯科用セラミックスにおいて、当該歯科用セラミックスが、0.5〜1.0の間のZr/Si比を有する二酸化ジルコニウムおよび二酸化ケイ素と、1質量%〜12質量%の酸化アルミニウムと、最大2質量%のアルカリ金属酸化物またはアルカリ土類金属酸化物とを含有していることを特徴とする、歯科用セラミックス。
【請求項2】
当該歯科用セラミックスが、2質量%〜12質量%の酸化アルミニウムと、最大2質量%の酸化マグネシウムとを含んでいる、請求項1記載の歯科用セラミックス。
【請求項3】
当該歯科用セラミックスが、ほぼ0.8のZr/Si比で、54質量%〜61質量%の二酸化ジルコニウムと、33質量%〜37質量%の二酸化ケイ素とを含んでいる、請求項2記載の歯科用セラミックス。
【請求項4】
当該歯科用セラミックスが、3質量%〜8質量%の酸化アルミニウムと、0.25質量%〜0.75質量%の酸化マグネシウムとを含んでいる、請求項3記載の歯科用セラミックス。
【請求項5】
当該歯科用セラミックスが、CIE−L表色系により測色のために規定された、−2〜+2の間の網膜の赤/緑感覚に対するa値と、0〜10の間の網膜の黄/青感覚に対するb値とを有している、請求項1から4までのいずれか1項記載の歯科用セラミックス。
【請求項6】
当該歯科用セラミックスが、10μg/cm未満の化学的な溶解度を有している、請求項1から5までのいずれか1項記載の歯科用セラミックス。
【請求項7】
請求項1から6までのいずれか1項記載の歯科用セラミックスを製造するための方法において、
a)場合によりイットリウム安定化された二酸化ジルコニウムと、二ケイ化ジルコニウムと、酸化アルミニウムと、場合によりアルカリ金属酸化物またはアルカリ土類金属酸化物と、ケイ素有機化合物と、場合により圧縮助剤とから成る均質な混合物を製造し、この場合、該混合物のZr/Si比が、0.5〜1.0の間にあり、
b)均質な混合物から圧粉体を成形し、
c)このように成形された圧粉体を焼結し、これによって、歯科用セラミックスを形成することを特徴とする、歯科用セラミックスを製造するための方法。
【請求項8】
圧粉体をフライス削りによって所望の形にもたらす、請求項7記載の方法。
【請求項9】
均質な混合物が、付加的な顔料を含有している、請求項7または8記載の方法。
【請求項10】
圧粉体の密度ρを、歯科用セラミックスの密度ρが、
ρ=(m/m)ρ
の値をとるように選択し、この場合、mが、圧粉体の質量であり、mが、歯科用セラミックスの質量である、請求項7から9までのいずれか1項記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2008−513343(P2008−513343A)
【公表日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−532801(P2007−532801)
【出願日】平成17年9月14日(2005.9.14)
【国際出願番号】PCT/EP2005/009854
【国際公開番号】WO2006/032394
【国際公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(591004618)フォルシュングスツェントルム カールスルーエ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (50)
【氏名又は名称原語表記】Forschungszentrum Karlsruhe GmbH
【住所又は居所原語表記】Weberstrasse 5, D−76133 Karlsruhe,Germany
【Fターム(参考)】