説明

歯科用セラミックスライナー材

【課題】従来はオールセラミックス製歯冠修復物を作製するヒートプレス工程において、ワックス焼却の際にライナー材に面荒れが生じる事が多かった。更にセラミックスコアと歯科用ガラスとの接着性が悪く剥がれることがあった。
【解決手段】セラミックスコア材の上に塗布し、ワックスにて歯冠部分を成形し、埋没材に包埋後ロストワックス法にてセラミックスペレットで置換え、オールセラミックス製歯冠修復物を作製するライナー材であって、セラミックスペレットの溶融温度が900〜1200℃であって、ライナー材の溶融温度がセラミックスペレットの溶融温度より30〜80℃高温であることを特徴とする歯科用セラミックスライナー材である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は歯科治療に用いられるオールセラミックス製歯冠修復物を作製する際に使用するセラミックスコアと築盛する陶材の間に用いられる歯科用セラミックスライナー材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、歯科治療において、生体親和性に富む点や色調、透光性等の審美的に優れている点からオールセラミックス歯冠修復物が提唱されている。これらオールセラミックス歯冠修復物はアルミナやジルコニア、二ケイ酸リチウムガラス等のセラミックスコア(セラミックスコアや単にコアともいう)に歯冠部として象牙色の歯科用ガラスを被覆し作製する。従来はコアの上に粉末状にしたセラミック材料を築盛することで歯冠部を作製した。セラミックス粉を築盛するには長年の経験が必要であった。未経験者は、歯冠部の陶材との材料特性の違いから、接着性、審美性などの問題が発生する。
【0003】
未経験者でも容易に作製できる方法として、ロストワックス法を応用したヒートプレス法がある。この方法は、コア上にワックスにて歯冠部分を成形し、埋没材で包埋後ロストワックス法にてワックスをセラミックスペレットで置換え歯冠を形成する方法である。この方法では度々コアとセラミックペレットの接着力が弱いことがあり、気泡の混入や未接合部分が残る問題があった。また、ヒートプレス法ではコア材に安定化ジルコニア結晶および/またはα―アルミナ結晶およびジルコニア/アルミナ複合体を用いることがあるが、材質の違いから接着性が著しく低く、界面の接合状態が悪く、審美的な問題も発生し易く失敗を繰り返すことも多かった。
【0004】
またこれらの方法では支台歯色の反映により、歯冠色が発色しないことがあり、この問題を解決する為に、コアにステイン塗布やオペーク塗布などが試みられているが、十分な改善が見られなかった。
【0005】
これらの問題を解決するためにEP1396237A1には、部分安定化ジルコニアのセラミックスコアに歯科用ガラスをヒート−プレス法によりオールセラミックス歯冠修復物を作製することが記載され、プレス温度より低い焼成温度のライナー材をコーティングしたジルコニアコア上にワックスを形成する方法が記載されている。しかし、ワックスを焼却する工程でライナー材の面荒れや気泡の発現等が生じる。 さらに審美的観点からすれば、各々の色調に調製された歯科用ガラス(象牙色の歯冠部用ガラス)を用いたオールセラミックス歯冠修復物を口腔内に装着した際に目的とする色調に合わないことがあった。これはセラミックスコアが透光性をもつため、オールセラミックス歯冠修復物が支台歯の影響を受けることが原因の一つである。
【0006】
コア材そのものを象牙色で作製することにより支台歯の色調の影響を緩和する方法が知られている。この場合歯冠部分もコア材と同時に作製し、築盛やヒートプレス法の活用はエナメル色陶材のみの形成に用いられる。この場合、コア部分の強度が不十分であるため、応力によるコアの破折により支台歯に亀裂が生じる場合があり、2次齲蝕原因にもなっていた。
【0007】
【特許文献1】特公平3−74573号
【特許文献2】特許第3130028号
【特許文献3】特許第3492419号
【特許文献4】EP1396237A1
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来はオールセラミックス製歯冠修復物を作製するヒートプレス工程において、ワックス焼却の際にライナー材に面荒れが生じる事が多かった。更にセラミックスコアと歯科用ガラスとの接着性が悪く剥がれることがあった。審美的な観点からも、コア材からの色調に影響されずに、また歯科用ガラスの透明性や適合性を十分に発揮できなかった。2次齲蝕の発生を抑え、長く口腔内で補綴物として機能するものが求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明はセラミックスコア材の上にライナー材を塗布し、ワックスにて歯冠部分を成形し、埋没材に包埋後ロストワックス法にてセラミックスペレットに置換え、オールセラミックス製歯冠修復物を作製するライナー材であって、セラミックスペレットの溶融温度が900〜1200℃であって、ライナー材の溶融温度がセラミックスペレットの溶融温度より30〜80℃高温であることを特徴とする歯科用セラミックスライナー材である。本発明はセラミックスコア材が安定化ジルコニア結晶および/またはα―アルミナ結晶およびジルコニア/アルミナ複合体を含むセラミックスライナー材である。
【0010】
本発明はセラミックスライナー材の組成が
SiO2 40〜50重量%、
Al2O3 8.0〜12.0重量%、
B2O3 0.5〜2.0重量%、
Na2O 3.0〜5.0重量%、
K2O 5.0〜9.0重量%、
CaO 0.5〜2.0重量%、
MgO 0.1〜1.0重量%を含むことを特徴とするセラミックスライナー材である。
【0011】
本発明はセラミックスライナー材の組成にMgOを0.1〜1.0重量%を含むことが好ましい。
【0012】
また、本発明の歯科用セラミックスライナー材は、成型されたセラミックスコア上に歯科用ガラス(セラミックスペレット)をヒートプレスする工程において、該セラミックスコアとセラミックスペレットの中間層に一層コーティングされることを特徴とする歯科用セラミックスライナー材である。
【0013】
また、本発明のセラミックスライナー材は、粉末の90重量%が40μm以下の粒径のセラミックス粉末を用いて調整され、該粉末がSnO、TiO、ZrO、ZrSiO、CeOに挙げられるうちの一種又は二種以上の混合物を含むことを特徴とする歯科用セラミックスライナー材である。
【0014】
また、本発明の歯科用セラミックスライナー材は、有機液体が2価または3価のアルコール又はヒドロキシル基を有するエーテル、またはそれら誘導体からなる群よりから選ばれた一種または二種以上の有機液体または水を用いて調整されることを特徴とするセラミックスライナー材である。
【発明の効果】
【0015】
本発明はオールセラミックス製歯冠修復物を作製するヒートプレス法において、ワックス焼却の際にコア界面に面荒れが生じることなく、セラミックスコアと歯科用ガラスとの接着性に優れ、透光性をもつセラミックスコアが支台歯からの色調に影響されずに、また歯科用ガラスの透明性や適合性を十分に発揮させ得る事ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明はセラミックスライナー材の組成が
SiO2 45〜50重量%、
Al2O3 10.0〜12.0重量%、
B2O3 1.0〜1.5重量%、
Na2O 4.0〜5.0重量%、
K2O 6.0〜8.0重量%、
CaO 0.8〜1.5重量%、
MgO 0.3〜0.8重量%を含むことを特徴とするセラミックスライナー材である。
【0017】
本発明の歯科用セラミックスライナー材は、線熱膨張係数α(25〜500℃の温度範囲において、以下同じ)=6.0〜9.5×10−6−1とすることが好ましい。具体的には、用いるセラミックスコアの熱膨張係数α(安定化ジルコニア結晶:α=10×10−6−1、α―アルミナ結晶:α=7.0×10−6−1)よりよりそれぞれ0.5×10−6−1以下であることが好ましい。セラミックスライナー材の熱膨張係数がセラミックスコアの熱膨張係数よりも高いと引張応力が生じ、ヒビ割れやクラックが生じ、低過ぎると過度の圧縮応力が加わりクラックが発生する。好ましくは、適用するセラミックスコアの熱膨張係数と歯科用セラミックスライナー材の熱膨張係数の差が0.5〜1.5×10−6−1以下であることが好ましい。
【0018】
セラミックスコアを所望の歯冠修復物の形態へと作製する方法については何ら限定されるものは無い。予め仮焼または部分焼結したセラミックス部材をCAD/CAMにて研削しその後に高密度焼結体とする工程で作製されてもよい。または、セラミックス粉材を高温等方加圧法(HIP)にて所望の形態に成型され、その後仮焼および高密度焼結体とする工程で作製されてもよい。
【0019】
本発明においてのセラミックスライナー材は、粉末で構成されるが、使用に適した粘性を付与するため液体との混合物としてもよい。本発明の歯科用セラミックスライナー材の粉末には、ガラスフリット粉末とSnO、ZrO、TiO、ZrSiO、CeO又はそれらの混合物からなるとするが、ガラスフリット粉末の成分には、公知の歯科用に用いられる陶材を含んでいても良い。この歯科用に用いられる陶材とは、例えば、リューサイト、カリ長石、フッ素金雲母、ディオプサイト、マイカ、β−スポジュウメン、β−メタリン酸カルシウム、アパタイト、チタン酸マグネシウム、カルジオプサイト、リチウムジシリケート、等を挙げることができ、これらの結晶が適宜一種または二種以上組み合わせて用いられても良い。しかも、陶材中のガラス成分についても、用途に応じて単一組成から二種以上のものを組み合わせた組成にされていても良い。また、これら粉末に対して、必要に応じて所定量の着色成分を含ませるのが好ましい。着色成分としては、一般に各種の着色用無機顔料を複合して多用な色調を出すがその一例を表2に示す。
【0020】
かかる粉末の粒径は、粉末の90重量%が50μm〜100μmの粒径の粉末を用いて調整されるが、粉末の90重量%の粒径が100μm以上であるとセラミックスコアに一層塗布する際、ざらざらとした感覚が顕著になり著しく操作性が低下し、50μm以下であると液体と混錬した際に操作しにくくなる。
【0021】
本発明においての歯科用セラミックスライナー材に使用される液体成分は、有機液体が2価または3価のアルコール又はヒドロキシル基を有するエーテル、またはそれら誘導体からなる群よりから選ばれた一種または二種以上の有機液体または水を用いて構成される。2価または3価のアルコール又はヒドロキシル基を有するエーテル、またはそれら誘導体とされる有機液体は、例えば1,2-エタンジオール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、2,4-ペンタンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチル-1,4-ブタンジオール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール等の2価のアルコール、グリセリン等の3価のアルコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、ジグリセロール等のヒドロキシル基の残存したエーテル等が挙げることができ、これら一種または二種以上を混合して使用できる。また、上記に挙げた有機液体の代わりに水を使用したり、前述した特定の有機液体と水を混合物として使用することもできる。
【0022】
さらにこれら溶液に対して、必要に応じ分散剤、界面活性剤、防腐剤、保湿剤、消泡剤を一種または二種以上を適宜組み合わせて用いてもよい。これら添加物の添加量は添加量と液体成分の合計100重量部に対して、0.1〜5重量部の範囲であることが好ましい。0.1重量部未満では添加剤の効果が得られず、5重量部を超えた場合には添加剤により液体成分の粘性に悪影響を及ぼすことがある。
【0023】
本発明においての歯科用セラミックスライナー材は、セラミックスライナー材100重量部に対して、液成分10〜50重量部の範囲であることが好ましい。10重量部未満であると、歯冠修復物に塗布際の操作性が著しく悪くなり、50重量部を超えた場合にはセラミックスライナー材を焼き付ける際に面荒れ、ヒビ割れ等のトラブルを起こし得る。さらに好ましくは、15〜40重量部である。
【実施例】
【0024】
[実施例1、比較例1および2]表1に記載した化学成分のガラスフリットをボールミルで粉砕し、175メッシュ以下に粉砕した。ついで、着色用無機顔料を混合した。着色混合された混合粉材と、有機溶剤としてプロピレングリコールを適量使用して、ボールミルにて混合しペースト状のライナー材を得た。
【0025】
[焼付け試験]焼付け試験は、5%Y2O3部分安定化ジルコニアの基板(10×10×0.5mm)上の中央部5×5mmに表2に示すセラミックスライナー材それぞれを塗布し、所定の焼成温度で焼き付けた。セラミックスライナー材上に歯科用ワックスを用いて1.1mm厚になるようにワックスアップを施した。その後、歯科用埋没材を用いて埋没した。プレスファーネスに設置してガラスセラミックスペレット(SiO2;59.0%、Al2O3;16.8%、B2O3;4.3%、Na2O;7.1、K2O;8.3%、CaO;4.1%、MgO;0.2% 熱膨張係数9.5×10-6/℃(25~500℃))をプレスし、試験片に焼き付けた。プレススケジュールは700℃で予備加熱後920℃まで50℃/分で昇温した。920℃において20分係留したのち、5分間でガラスペレットの鋳込みを行い自然放冷した後、埋没材中から掘り出して試験片を得た。得られた試験片をインストロン社製万能試験機を用い剪断接着試験により(クロスヘッドスピード;0.1mm/分)、焼付け試験の評価をした。
【0026】
(焼付け試験の評価基準)
1:5%Y2O3部分安定化ジルコニアの基板にライナー材及びセラミックスペレット材料が残存している割合:0〜50%:悪
2:5%Y2O3部分安定化ジルコニアの基板にライナー材及びセラミックスペレット材料が残存している割合:50〜99%:普通
3:5%Y2O3部分安定化ジルコニアの基板にライナー材及びセラミックスペレット材料が残存している割合:100%:良
【0027】
[実施例1および比較例1〜2]得られたペースト状セラミックスライナー材を用いて5%Y2O3部分安定化ジルコニアの基板(10×10×0.5mm)上に焼き付けた際の、焼成温度および焼付け強度を調べた結果を表1に示した。
[比較例3]セラミックスライナー材を使用しないで、[焼付け試験]に従い試験体を作製し、焼付け試験の評価を行った。
【0028】
【表1】

【0029】
※焼付け試験スコアー:1→悪、2→普通、3→良、
表2は着色材料の成分を示し、各実施例にあわせて適宜A3色となる様に調合した。
【0030】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0031】
失敗なく容易にオールセラミックス製歯冠修復物を作製するライナー材を大量に作製することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックスコア材の上に塗布し、ワックスにて歯冠部分を成形し、埋没材に包埋後ロストワックス法にてセラミックスペレットで置換え、オールセラミックス製歯冠修復物を作製するライナー材であって、セラミックスペレットの溶融温度が900〜1200℃であって、ライナー材の溶融温度がセラミックスペレットの溶融温度より30〜80℃高温であることを特徴とする歯科用セラミックスライナー材。
【請求項2】
請求項1記載のセラミックスコア材が安定化ジルコニア結晶および/またはα―アルミナ結晶およびジルコニア/アルミナ複合体である請求項1記載のセラミックスライナー材。
【請求項3】
請求項1記載のセラミックスライナー材の組成が
SiO2 40〜50重量%、
Al2O3 8.0〜12.0重量%、
B2O3 0.5〜2.0重量%、
Na2O 3.0〜5.0重量%、
K2O 5.0〜9.0重量%、
CaO 0.5〜2.0重量%、
MgO 0.1〜1.0重量%を含むことを特徴とするセラミックスライナー材。

【公開番号】特開2006−212065(P2006−212065A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−25061(P2005−25061)
【出願日】平成17年2月1日(2005.2.1)
【出願人】(390011143)株式会社松風 (125)
【Fターム(参考)】