説明

歯科用セラミックス材の作製方法

【課題】高温の焼成において変色することなく、安価で簡単に歯牙の象牙質の色調に近似した色調を表現することが可能な歯科用セラミックス材の作製方法を提供する。
【解決手段】必要に応じて更に酸化アルミニウムを0.1〜30重量%含有させた安定化材を含む酸化ジルコニウムに、酸化アルミニウムに酸化マンガンを固溶したピンク色の着色材と、酸化ジルコニウムに酸化バナジウムを固溶した黄色の着色材とをそれぞれ0.001〜5重量%の範囲内で混合し、焼成して歯科用セラミックス材を作製する。安定化材としては、酸化イットリウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化セリウムの群から選ばれた1種以上であり、その含有量が3〜7重量%であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は安価で簡単に歯牙の象牙質の色調に近似した色調を表現することが可能な歯科用セラミックス材の作製方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に人の歯は表層であるエナメル質から内側の象牙質にかけて、少しずつ透明度が低下している。このため歯科技工士といわれる技術者は、歯科補綴物を作製する場合に、天然歯の色調に近似させるために、表面側に透明度のある材料を使用し、内部に透明度と彩度の低い材料を使用している。
【0003】
近年、歯科補綴物をセラミックス材で作製する際に、クラウンやブリッジ等の内冠となるセラミックスフレームや、歯科用インプラントの歯肉部を貫通する部材であるセラミックスアバットメントに安定化された酸化ジルコニウムが高い強度を有するために用いられるケースが多いが、酸化ジルコニウムは白色で不透明であるため、これらのセラミックスフレーム及びセラミックスアバットメント表面に透明度の高い材料を築盛した場合には、セラミックスフレーム及びセラミックスアバットメントが透けて見えてしまい審美的に好ましくないので、これを避けるためには表面に材料を築盛する前に多量のオペーカーを使用しなければならず、過大な技量が必要であった。
【0004】
そして歯科補綴物をセラミックスで作製する際には、セラミックスフレーム及びセラミックスアバットメントの表面に透明度のある材料を築盛した後に、1350℃〜1600℃で焼成するため、これまでに歯科で使用している着色材では着色材が分解してしまい、意図した色調が再現できないことも課題であった。
【0005】
一方、着色したジルコニウム焼結体が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。このジルコニウム焼結体を製造するには、着色剤として、Pr,Er,Fe,Co,Ni,Ti,V,Cr,Cu,Mnから成る群の要素の着色酸化剤を含み、Fe23,Er23,またはMnO2が好ましいとされているが、この着色剤はHClへの溶解にによって得られる酸化物の形で添加されなければならないため、1350℃〜1600℃で焼成した場合には着色が損なわれる場合もあり、上記したような種々の着色剤を組合せて使用した場合に歯科で求められる歯牙の象牙質の色調を得ることが困難なものも多く含んでいる。更に、これらの着色剤はHClへ溶解してから得られる酸化物の形で添加されなければならないため、非常に高価な原料を使用することになるので、製造コストがかかるという問題であった。
【0006】
また、安定化材を含む酸化ジルコニウムにEr23,Pr611,Fe23及びZnOを配合して象牙質色に着色する方法も提案されている(例えば、特許文献2参照。)。しかしながら、Er23等は一度塩酸や硝酸に溶解した溶液にして配合しないとうまく混合できない問題があり、溶液から得られた粉体を仮焼して更に鉄化合物及び亜鉛化合物を添加混合して焼結する必要があるので使用が面倒で煩雑であった。更に、Er23,Pr611を用いると、約1300℃で分解してしまうので、一般的な安定化材を含む酸化ジルコニウムの焼成温度である1350℃〜1600℃では使用できないという問題があった。
【0007】
【特許文献1】特表2004−527280号公報 段落番号0037,0040
【特許文献2】特許2571646号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明は、高温の焼成において変色することなく、簡単に歯牙の象牙質の微妙な色調を表現することが可能な歯科用セラミックス材の作製方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは前記課題を解決すべく鋭意研究の結果、安定化材を含む酸化ジルコニウムに、酸化アルミニウムに酸化マンガンを固溶したピンク色の着色材と、酸化ジルコニウムに酸化バナジウムを固溶した黄色の着色材とをそれぞれ所定の範囲内で混合した後に焼成すれば、簡単に歯牙の象牙質の微妙な色調を表現する歯科用セラミックス材を作製することができることを究明して本発明を完成したのである。
【0010】
即ち本発明は、安定化材を含む酸化ジルコニウムに、酸化アルミニウムに酸化マンガンを固溶したピンク色の着色材と、酸化ジルコニウムに酸化バナジウムを固溶した黄色の着色材とをそれぞれ0.001〜5重量%の範囲内で混合し、焼成して歯科用セラミックス材を作製することを特徴とする歯科用セラミックス材の作製方法である。
【0011】
そして、安定化材を含む酸化ジルコニウムが、更に酸化アルミニウムを0.1〜30重量%含んでいれば、焼結後の強度が向上するので好ましい。
【0012】
また安定化材としては、酸化イットリウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化セリウムの群から選ばれた1種以上であり、その含有量が3〜7重量%であることが好ましいのである。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る歯科用セラミックス材の作製方法は、高温の焼成において変色することなく、簡単に歯牙の象牙質の微妙な色調を表現することが可能な歯科用セラミックス材の作製方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
即ち本発明は、安定化材を含む酸化ジルコニウムに、酸化アルミニウムに酸化マンガンを固溶したピンク色の着色材と、酸化ジルコニウムに酸化バナジウムを固溶した黄色の着色材とをそれぞれ0.001〜5重量%の範囲内で混合し、焼成して歯科用セラミックス材を作製することを特徴とする歯科用セラミックス材の作製方法である。
【0015】
本発明に係る歯科用セラミックス材の作製方法において、主原料である安定化材を含む酸化ジルコニウムにおける安定化材としては、酸化イットリウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化セリウムの群から選ばれた1種以上であり、その含有量が3〜7重量%であることが好ましい。これは、安定化材の含有量が3重量%未満であると酸化ジルコニウムの安定化効果が期待できず、7重量%を超えると靭性が低下してしまい好ましくないからである。
【0016】
また、主原料である安定化材を含む酸化ジルコニウムは、更に酸化アルミニウムを含み、その酸化アルミニウムの含有量が0.1〜30重量%であると、焼結後の強度が向上するので好ましい。これは酸化アルミニウムの含有量が0.1重量%未満であると焼結後の強度が向上する効果を期待できず、30重量%を超えると酸化アルミニウムの含有量が多くなりすぎるため主原料である安定化材を含む酸化ジルコニウムの含有量が少なくなって強度が低下してしまい好ましくないからである。
【0017】
これらの主原料に、本発明においては、酸化アルミニウムに酸化マンガンを固溶したピンク色の着色材と、酸化ジルコニウムに酸化バナジウムを固溶した黄色の着色材とをそれぞれ0.001〜5重量%の範囲内で混合し、焼成して歯科用セラミックス材を作製するのである。
【0018】
これは、これらの着色材において、ピンク色の着色材は酸化アルミニウムに酸化マンガンが固溶しており、黄色の着色材は酸化ジルコニウムに酸化バナジウムが固溶しているので、1350℃〜1600℃で焼成しても分解せず、しかも粉末状で主原料中に添加することができ、そのため高額な原料であるイオン溶液を使用しなくとも着色することができるからである。そして、その含有量はそれぞれ0.001〜5重量%の範囲内であり、その含有量が0.001重量%未満では所望の着色効果を得ることができず、5重量%を超えるとその5重量%を超えて含有させた色調が強くなって歯牙の象牙質の色調から懸け離れてしまうからである。
【0019】
また、酸化マンガンに酸化アルミニウムを固溶していない着色材や酸化バナジウムに酸化ジルコニウムを固溶していない着色材を安定化材を含む酸化ジルコニウムと混合して、1350℃〜1600℃で焼成した際には、着色材が分解してしまい白色の補綴物になってしまうので審美的に好ましくないことを本発明者らは確認済みである。
【0020】
この本発明に係る歯科用セラミックス材の作製方法により作製した歯科用セラミックス材を使用してセラミックスフレームやセラミックスアバットメントを作製するには、大別して次の二通りの方法がある。
一つは、安定化材を含む酸化ジルコニウムに必要に応じて酸化アルミニウムを混合した主原料中に前述したピンク色と黄色の2種類の着色材を所望量混合し、その後アクリル酸エステル等の有機質のバインダーを混ぜて機械によりプレスしグリーン体を作製し、所定温度まで所定の温度上昇率で加熱することによって有機分を除去した後、仮焼成してCAD/CAM装置などの専用の台座に取り付けてセラミックスフレームやセラミックスアバットメントの外形を研削加工した後に本焼成する方法と、有機分を除去したグリーン体を仮焼成せずに本焼成したものをCAD/CAM装置などの専用の台座に取り付けてセラミックスフレームやセラミックスアバットメントの外形を研削加工する方法である。また、バインダーを予め酸化ジルコニウムと混合してから着色剤を入れてもよいのは勿論である。
【0021】
また他の一つは、患者の口腔内から採得した印象から口腔内の石膏模型を予め作製し、安定化材を含む酸化ジルコニウムに必要に応じて酸化アルミニウムを混合した主原料中に前述したピンク色と黄色の2種類の着色材を所望量混合し、その後アクリル酸エステル等の有機質のバインダーを混ぜた混合物を、石膏模型の表面に噴霧したり、射出成型法や押出し成型法やスリップキャスト法でセラミックスフレームやセラミックスアバットメントの外形に合致した形状体を作製し、所定温度まで所定の温度上昇率で加熱することによって有機分を除去した後、本焼成する方法である。
【0022】
かくしてセラミックスフレームやセラミックスアバットメントの外形に合致した歯科用セラミックス材が作製できたら、この歯科用セラミックス材の表面に透明度のある焼付け用陶材を所望の歯科用補綴物の外形となるように築盛して、再度焼成すれば所望の歯科用補綴物型を製作することができるのである。
【実施例】
【0023】
<実施例1>
酸化アルミニウム60重量部に酸化マンガン40重量部を予め攪拌・加熱により固溶してピンク色の着色材を作製する。
酸化ジルコニウム95重量部に酸化バナジウム5重量部を予め攪拌・加熱により固溶して黄色の着色材を作製する。
安定化材である酸化イットリウム5重量部と、酸化ジルコニウム94重量部と、更に酸化アルミニウム0.2重量部とから成る主原料に、前述のピンク色の着色材0.3重量部と黄色の着色材0.6重量部とを混合する。この混合物にアクリル酸エステルのバインダーを5重量%加えて再度攪拌し、プレス成形しグリーン体を得た。このグリーン体を700℃まで100℃/hourで上昇させ脱脂を行う。その後、1150℃で仮焼成し、CAD/CAM装置の専用の台座に取り付けて臼歯用のセラミックスフレームの形状に加工したものを1500℃で2時間焼成し、臼歯用のセラミックスフレームを得た。このセラミックスフレームは歯牙の象牙質の色調と略同一に色調に着色されていた。
そこでこの臼歯用のセラミックスフレームに「ビタVM9」(ビタ社製セラミック用焼付け陶材)をA3の色調になるように築盛して960℃で焼成して臼歯用クラウンを製作した処、その色調は患者の歯牙と何ら遜色のない色調のものであった。
【0024】
<実施例2>
酸化アルミニウム60重量部に酸化マンガン40重量部を予め攪拌・加熱により固溶してピンク色の着色材を作製する。
酸化ジルコニウム95重量部に酸化バナジウム5重量部を予め攪拌・加熱により固溶して黄色の着色材を作製する。
安定化材である酸化イットリウム5重量部と、酸化ジルコニウム94重量部と、更に酸化アルミニウム0.2重量部とから成る主原料に、前述のピンク色の着色材0.3重量部と黄色の着色材0.6重量部とを混合する。この混合物にアクリル酸エステルのバインダーを5重量%加えて再度攪拌し、プレス成形しグリーン体を得た。このグリーン体を700℃まで100℃/HOURで上昇させ脱脂を行う。その後、1500℃で2時間本焼成し、CAD/CAM装置の専用の台座に取り付けて前歯用のセラミックスフレームを得た。このセラミックスフレームは歯牙の象牙質の色調と略同一に色調に着色されていた。
そこでこの前歯用のセラミックスフレームに「ビタVM9」(ビタ社製セラミック用焼付け陶材)をA3.5の色調になるように築盛して960℃で焼成して前歯用クラウンを製作した処、その色調は患者の歯牙と何ら遜色のない色調のものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
安定化材を含む酸化ジルコニウムに、酸化アルミニウムに酸化マンガンを固溶したピンク色の着色材と、酸化ジルコニウムに酸化バナジウムを固溶した黄色の着色材とをそれぞれ0.001〜5重量%の範囲内で混合し、焼成して歯科用セラミックス材を作製することを特徴とする歯科用セラミックス材の作製方法。
【請求項2】
安定化材を含む酸化ジルコニウムが更に酸化アルミニウムを含み、該酸化アルミニウムの含有量が0.1〜30重量%である請求項1に記載の歯科用セラミックス材の作製方法。
【請求項3】
安定化材が、酸化イットリウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化セリウムの群から選ばれた1種以上であり、その含有量が3〜7重量%である請求項1又は2に記載の歯科用セラミックス材の作製方法。

【公開番号】特開2007−210822(P2007−210822A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−31149(P2006−31149)
【出願日】平成18年2月8日(2006.2.8)
【出願人】(000181217)株式会社ジーシー (279)
【Fターム(参考)】