説明

歯科用デバイス、ツール及びハンドピース

【課題】インプラント植立窩周囲の歯槽骨の密度を簡単かつ迅速に高めることができ、しかも、そのようにして周囲の骨密度を高めたインプラント植立窩に埋入したインプラント体の生着期間も短縮できる植立窩形成用デバイスを提供する。
【解決手段】歯槽骨10に形成したインプラント植立窩5を形成するための仮穴1に圧入するピン様部材2〜4であって、前記仮穴1への圧入により、仮穴を拡径させつつ、穴周囲の歯槽骨を圧縮せしめるものである、インプラント植立窩形成用の歯科用デバイス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インプラントを埋め込むための歯槽骨に十分な厚さや質量がなく、インプラントの植立が困難また適応外とされてきた患者にも適切にインプラントを植立することを可能にし得る歯科用のデバイス、ツール及びハンドピースに関し、詳しくは、インプラント植立窩拡大用のデバイス、口腔内骨片採取移植用ツール、及びこれらを用いたインプラントを植立するための口腔内作業を容易に行うためのハンドピースに関する。
【背景技術】
【0002】
歯科用インプラントでは、インプラント体(純チタンやチタン合金からなる円柱状物)は歯牙の無い顎骨に埋入(植立)して使用される。従って、従来から、歯科用インプラントに関わるメーカーでは、インプラント体だけなく、インプラント体を植立させるためのツール(例えば、顎骨(歯槽骨)にインプラント体を埋入するための穴(窩)を形成するためのドリル)や植立部位の位置決めを行うためのツール等についても研究がなされ、種々の提案がなされている(例えば、特許文献1等)。
【0003】
また、近年においては、歯科用インプラントの普及に伴い、歯槽骨高径の低い症例や骨幅の狭い症例に骨移植や骨増殖因子にて所定の骨稜を完成する技術や、抜歯窩骨造成後にインプラントを挿入する技術等についても種々の提案がなされ(特許文献2〜9)、また、骨腔拡大のためのオステオトーム技術やドリル装置(特許文献10、11)や骨内に形成した穴を広げる技術(特許文献12、13等)等についても提案がなされている。
【0004】
しかしながら、これら先行文献に記載の技術は、複雑で多機能を具有した口腔機能を損なうことなくインプラントを埋入することを課題にしており、骨質が脆弱であるために、インプラントの植立(挿入)自体が困難な患者に対するインプラントの植立を可能にする技術やそれに使用する治具等については十分に検討されていない。
【0005】
また、近年、特に問題になっているのは、インプラントの普及につれて容易にインプラントを植立できる患者と不可能な患者の中間にあり、インプラントを埋め込むための歯槽骨に十分な厚さがなく、インプラントを植立できるかどうかが微妙な患者へのインプラントの適用である。一般的には、上記のような患者の場合、薄い歯槽骨のまわりや骨欠損部位を骨片あるいは板状骨で覆い、更にその上をチタンメッシュ等のメンブランで覆い、チタン製の杭状のもので固定して、2〜6ヶ月待って歯槽骨の厚さを増した後に、メンブランを剥がした部位にドリルで穴(窩)を形成し、インプラントを植立することが行われている。しかしながら、かかる技術では、インプラントを希望する患者は高齢者が多く、歯槽骨の厚さの他にも歯槽骨の骨密度が小さい場合が多く、上記技術が使えない患者も多い。
【特許文献1】米国特許第6869282号明細書
【特許文献2】特開平5−64646号公報
【特許文献3】特開平7−23982号公報
【特許文献4】米国特許第7004974号明細書
【特許文献5】特表2005−533597号公報
【特許文献6】特開2002−224141号公報
【特許文献7】米国特許出願公開第2002/0009692号明細書
【特許文献8】特表2004−527273号公報
【特許文献9】米国特許第6921264号明細書
【特許文献10】米国特許第6899715号明細書
【特許文献11】米国特許出願公開第2005/0064368号明細書
【特許文献12】米国特許出願公開第2002/0172923号明細書
【特許文献13】米国特許第6146138号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記のような事情に鑑みなされたものであり、その解決しようとする課題は、インプラント植立窩周囲の歯槽骨の密度を簡単かつ迅速に高めることができ、しかも、そのようにして周囲の骨密度を高めたインプラント植立窩に埋入したインプラント体の生着期間も短縮できる植立窩形成用デバイスを提供することである。
また、他の課題は、口腔内作業によりインプラントの植立のために補充する骨片を下顎骨、特に下顎角部頬側や頤部から容易に採取することを可能にする、歯科用ノコギリツールを提供することである。
また、他の課題は、上記ノコギリツールをワンタッチで着脱でき、装着した前記ツールを上下往復運動(垂直運動)せしめて、最小限度の侵襲にて下顎骨を短冊状に摘出することを可能にする、歯科用ハンドピースを提供することである。
また、他の課題は、上記ノコギリツールをワンタッチで着脱でき、装着した前記ツールを水平往復運動せしめて、最小限度の侵襲にて下顎骨を短冊状に摘出することを可能にする、歯科用ハンドピースを提供することである。
また、他の課題は、インプラントの植立のために補充する骨片の採取効率及び冷却機能に優れる歯科用ドリルを提供することである。
また、他の課題は、インプラントの生着期間の短縮化を図ることができる歯科用骨片を効率良く生成するための歯科用骨片削粉器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、歯槽骨のインプラントを植立すべき予定部位に仮穴を開け、該仮穴にピン様部材を圧入して穴を押し広げることによって穴周囲の歯槽骨の骨密度が高まること、また、鋸歯を有する刃板やドリルの形状を工夫することで、インプラント植立窩の内面に移植する骨片を口腔内作業によって簡単に採取できること等を知見し、かかる知見に基づいてさらに研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、
(1)歯槽骨に形成したインプラント植立窩形成用の仮穴に圧入するピン様部材であって、前記仮穴への圧入により、仮穴を拡径させつつ、穴周囲の歯槽骨を圧縮せしめるものであることを特徴とする、インプラント植立窩形成用の歯科用デバイス、
(2)上記(1)記載のデバイスを複数有し、それらの外径が互いに相異する、歯科用デバイスセット、
(3)インプラント植立窩に挿入する歯槽骨補充用骨片を下顎角部頬側外斜線から採取するための歯科用ノコギリツールであって、下記の(a)〜(e)から選ばれる少なくとも一種のツールを含む歯科用ノコギリツール、
(a):鋸歯が形成された刃板の外形が先細形である第1ツール
(b):鋸歯が形成された刃板の外形が先太形である第2ツール
(c):鋸歯が形成された刃板の外形が一定幅形である第3ツール
(d):先端部のみに鋸歯が突設された刃板を有する第4ツール
(e):断面がL字を呈する屈曲板からなり、先端側平板部の最先端部に鋸歯を形成した刃板を有する第5ツール
(4)上記(a)〜(e)のツールは、それぞれが、鋸歯の向きが180°反対方向を向く2種類の形態物を含む、上記(3)記載の歯科用ノコギリツール、
(5)歯科用ツールをワンタッチで着脱し得るプッシュ式のツール着脱機構と該機構に装着された歯科用ツールを上下往復運動させる機構とをハンドピース本体に設けてなる歯科用ハンドピース、
(6)歯科用ツールをワンタッチで着脱し得るプッシュ式のツール着脱機構と該機構に装着された歯科用ツールをツイスト運動させる機構とをハンドピース本体に設けてなる歯科用ハンドピース、
(7)筐体が、骨片投入および冷却水供給のための孔付き桶様部と、骨片切断加工部と、切断された骨片が溜まる貯骨部とに区画されており、骨片切断加工部は手動駆動される回転刃を内包し、前記孔付き桶様部より投入された骨片が、前記回転刃で切断されて、小片となって貯骨部に溜まるように構成されてなる、歯科用骨片削粉器、及び
(8)インプラント植立窩を形成するための歯科用ツールであって、
先端に穴中心切削刃部を突設させた中心軸部材を、先端に鋸歯状の端辺を有する辺縁骨把持部を突設させた円筒状部材が内包し、中心軸部材と円筒状部材の内側面を、中心軸部材の側面の相対する位置から互いに離反する方向に延設させた2枚の内部プレートで連結するとともに、該2枚のプレートの各端面に穴直径規定用切削刃部を設け、前記中心軸部材、円筒状部材及び内部プレートで仕切られる空間が骨片収容部として機能する構造体からなり、
前記円筒状部材の筒壁にその先端側から筒の中間部までを切り欠いた開窓部を有することを特徴とする、歯科用ドリル、に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の歯科用デバイスによれば、インプラント植立窩周囲の歯槽骨の密度を簡単かつ迅速に高めることができ、歯槽骨の骨密度が小さい患者へのインプラント体の植立が可能な骨状態を比較的短期間でつくることができる。
【0010】
また、本発明のデバイスによって周囲の骨密度を高めたインプラント植立窩にインプラント体を埋入すると、従来よりもインプラント体との良好なオッセオインテグレーションが期待できる。また、本発明のデバイスは、ラウンドバー、フィッシャーバー等を使用して形成した仮穴へデバイスを圧入(タッピング)するだけでよいので、作業性に優れている。
【0011】
また、本発明のノコギリツールによれば、少なくとも2種以上のツールを組み合わせて使用することで、口腔内作業によりインプラントの植立のために補充する骨片を下顎骨、特に頤部や下顎角部より、唇、舌および口腔内粘膜を傷つけずに最低限度の侵襲で必要な骨片を短冊状に摘出することができる。
【0012】
また、本発明の上下往復運動(垂直運動)ハンドピース及び水平往復運動ハンドピースによれば、上記本発明のノコギリツールをハンドピース本体にワンタッチで着脱でき、しかも、装着時にツールが強固に固定されて、ずれや微動を生じることなく、上下往復運動(垂直運動)又は水平往復運動させることができるので、上記骨片の採取作業を、ツールを取り替えながら、効率よく、行うことができる。
【0013】
また、本発明の歯科用骨片削粉器によれば、インプラント植立窩口より植立窩植立壁に挿入することで平均して移植でき、インプラント体の生着期間の短縮化により有効に作用する、特定幅以下の微小骨片(すなわち、最大幅部の幅が2mm以下の小片)を効率良く得ることができる、また摩擦熱発生を冷却水にて減少させるので移植骨の正嫡を阻害しない。
【0014】
また、本発明の歯科用ドリルは、冷却機能に優れ、しかも、研削した骨片を直接構造体の内部(骨収容部)に捕集でき、ドリルによる顎骨の研削作業(インプラント窩の形成作業)での摩擦による骨壊死を防止できるので、インプラント体の生着を速めることができる。また、研削した骨片を効率良く採取できるので、研削した骨片をそのまま骨補充のためにインプラント植立窩へ挿入する骨片としてそのまま利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を用いて本発明を詳しく説明する。
[歯科用デバイス]
本発明の歯科用デバイスは、歯槽骨に形成したインプラント植立窩形成用の仮穴に圧入するピン様部材である。ここで、「インプラント植立窩形成用の仮穴」とは、インプラントの植立位置を決定するための穴で、少なくとも穴内部(開口部より下側)の内径が、予定のインプラント植立窩(インプラント植立窩の設計値)の内径それよりも小さくなるように形成された穴のことである。なお、通常、インプラント植立窩の穴径は、患者の顎骨の頬舌および近遠心径や垂直径、インプラントに装着する義歯の大きさ等に応じて適宜決定されるが、概ね3〜5mmの範囲内で選択するのが一般的である。また、インプラント植立窩の深さ(骨埋入深度)は上下歯槽骨の頬舌径下顎管や上顎洞までの垂直径の点からは6〜14mmの範囲内で選択するのが好ましい。
【0016】
図1は歯槽骨10に対して上記仮穴1を形成した状態の模式図である。仮穴1の形成は、先ず、ラウンドバー(図示せず)等で歯槽骨10を覆っている口腔粘膜11を切開して浅い深さの穴(開口部)1aを形成し、該穴(開口部)1aからフィッシャーバー(図示せず)等で歯槽骨10に対して所定深さの細穴1bを穿設する。ラウンドバー、フィッシャ−バー等は市販品(汎用品)を使用することができる。ここで、仮穴1の深さ(全体深さ)は、通常、予定のインプラント植立窩の穴深さに一致させるが、上顎臼歯部の場合は、予定のインプラント植立窩の穴深さよりも、若干、浅い深さで止めてもよい。また、本発明の歯科用デバイスは、かかる仮穴1に圧入して、該仮穴の径を拡大させつつ、該穴周囲の歯槽骨を圧縮して骨密度を高める目的で使用するものであり、通常、仮穴1の穴内部の内径(細穴1bの穴径)は予定のインプラント植立窩の穴径よりも小さいが、この理由は仮穴1の穴内部の内径(細穴1bの穴径)と予定のインプラント植立窩の穴径とが同等であるとインプラント植立窩の周囲の骨密度を十分に高めることができず、オッセオイインテグレートが得られない虞れがあるためである。ただし、当該内径が小さすぎると、挿入時の過度の摩擦熱や急激な拡大のための骨折や骨壊死の可能性があるため、予定のインプラント植立窩の穴径との差は0.5mmまでであるのが好ましい。
【0017】
図2(a)〜(c)は、本発明の歯科用デバイスを用いて仮穴を拡径させてインプラント植立窩を完成させる過程の一例を示した図である。この例では、デバイスとして、円錐形状のピン様部材、円錐台形状のピン様部材、円柱状のピン様部材を使用している。
【0018】
図2(a)の模式図は前記図1で示した歯槽骨10に形成した仮穴1に円錐形状のピン様部材からなる第1のデバイス2を圧入した状態を示し、図2(b)の模式図は、図2(a)の状態の後、第1のデバイス2を抜き取り、抜き取り後の穴に円錐台形状のピン様部材からなる第2のデバイス3を圧入した状態を示している。すなわち、第2のデバイス(円錐台形状のピン様部材)3は第1のデバイス(円錐形状のピン様部材)2よりも縮径側端部の外径が大きくなっており、第1のデバイス2の圧入によって内径が拡大(拡径)した仮穴1は第2のデバイス3の圧入によってさらにその内径が拡大(拡径)している。この間、仮穴1の周囲の歯槽骨10は第1及び第2のデバイス2、3の圧入によって圧縮されて骨密度が増大する。
【0019】
さらに、図2(c)の模式図は、図2(b)の状態の後、第2のデバイス3を抜き取り、抜き取り後の穴に円柱形状のピン様部材からなる第3のデバイス4を圧入した状態を示しており、第3のデバイス(円柱形状のピン様部材)4の圧入によって、第2のデバイス3の圧入によって拡径した仮穴1をさらに拡大(拡径)させて、目的寸法のインプラント植立窩5を完成させている(すなわち、第3のデバイス(円柱形状のピン様部材)4はその高さと外径を、形成すべきインプラント植立窩5の深さと内径に略一致させている)。こうして得られるインプラント植立窩5はその周囲の歯槽骨10が仮穴1へのデバイス1〜3の圧入によって大きく圧縮されて骨密度が高まっているため、インプラント体(図示せず)の植立が可能な窩(穴)に形成される。
【0020】
本発明の歯科用デバイスの仮穴への圧入は、例えば、歯科用ツールやデバイスを上下往復運動させる公知の歯科用ハンドピース等で行えばよく、例えば、内外部注水型着脱式の上下往復運動ハンドピース等を使用してデバイスをタッピングすることによって行えばよい。
【0021】
上記図2(a)〜(c)に示すように、インプラント植立窩5の寸法を決定する第3のデバイス(円柱形状のピン様部材)4を圧入する前に、円錐形状や円錐台形状のピン様部材からなるデバイス(第1及び第2のデバイス2、3)を使用するのは、フィッシャーバーで形成した仮穴を一回のデバイスの圧入でインプラント植立窩5の大きさまで拡径すると、歯槽骨に過大な圧力や摩擦熱が作用して、歯槽骨の破壊や骨折や壊死等が生じやすくなり、結果として、骨密度も十分に増大しないためである。
【0022】
なお、図2(a)〜(c)の例では、最初に圧入する第1のデバイス2として円錐形状のピン様部材を使用したが、圧入によって仮穴の周囲の歯槽骨に過大な圧力が作用しなければ、最初に圧入する第1のデバイス2として円錐台形状のピン様部材を使用してもよい。また、図2(a)〜(c)の例では3個のデバイスを使用したが、4個以上のデバイスを使用してもよい。円錐形状や円錐台形状のピン様部材からなるデバイスの場合、後に圧入するデバイス程、縮径側端部の外径が漸次大きなものを使用し、円柱形状のピン様部材からなるデバイスの場合、後に圧入するデバイス程、外径(直径)が大きなものを使用する。
【0023】
使用するデバイスの数が多い程、歯槽骨に一時に過大な圧力を加えることなく、仮穴(インプラント植立窩)の周囲の骨密度を増大させることができる。ただし、数が多すぎるとデバイスの圧入回数が増えるので、作業効率は悪くなり、また、骨露出時間が長くなってしまう。従って、作業効率を大きく低下させず、窩(穴)周囲の骨密度が十分に増大したインプラント植立窩を得るという観点からは、デバイスの個数は3〜4個程度が好ましい。
【0024】
なお、使用者の作業性(デバイスの圧入順序の誤り防止等)等の点から、複数個のデバイスは予め個数と圧入する順番を決めたデバイスセットとして提供するのが好ましい。この様なデバイスセットは、一般的には、縮径側端部の外径を互いに相異させた円錐形状のピン様部材又は/及び円錐台形状のピン様部材からなる複数個のデバイスと、インプラント植立窩の寸法を決定するデバイス(最後に圧入するデバイス)一個を少なくとも含む一個又は複数個の円柱形状のピン様部材からなるデバイスとの組み合わせで構成される。
【0025】
本発明の歯科用デバイスは、タッピングによって歯槽骨に形成した仮穴に圧入できて、仮穴を拡径できる硬さを有するものであれば、その材質は特に限定されないが、清潔で高圧滅菌に耐えられる等の観点から、金属、セラミックス、合成樹脂等が好ましく、このような材質で骨以上の硬さを有するものであれば制限なく使用できる。具体的には、可塑性、価格等の面からステンレス合金が好適である。
【0026】
前述したように、従来、歯槽骨へのインプラント植立窩の形成はドリルで行うのが一般的で、ドリルによる歯槽骨の研削では発熱しやすく、そのために冷却することが必須である。仮穴へのデバイスの圧入作業(デバイスのタッピング作業)とによって比較的簡単にインプラント植立窩を形成でき、しかも、容易に患部を水で冷却することができる。従って、作業性に優れ、しかも、患者の負担を軽減できるという効果が得られる。
【0027】
また、デバイスの圧入で圧縮された穴の周囲部はその炎症作用によりいわゆる抗炎症物質や成長因子が分泌されるので、本発明の歯科用デバイスを使用して形成したインプラント植立窩にインプラント体を植立するとインプラント体の生着期間を従来よりも短縮することができる。
【0028】
以上説明した歯科用デバイスを使用したインプラント植立窩周囲の歯槽骨の骨密度の増大だけでは、インプラントの植立を適切に行え得る骨密度が得られない場合、インプラント植立窩へ自己骨片を補充するのがよい。しかしながら、従来からも治療において顎骨を採取する(切り取る)ことが行われているが、口腔内作業によって顎骨を必要最小限に採取することは費用、手術器具の大きさ、形等で容易でなかった。そこで、本発明者らは口腔内作業によって顎骨を比較的容易に採取できるツールを開発した。
【0029】
[歯科用ノコギリ]
以下、本発明の自家骨片を採取するための歯科用ノコギリツールについて説明する。
本発明のノコギリツールは、下顎骨外斜線や頤部より必要な移植用骨片を採取するためのツールであり、ハンドピースに装着して使用される。本ツールは下顎角外斜線膨隆部または頤部斜面より必要量の骨片を採取する為に刃板の外形がそれぞれ調整された複数の鋸刃手段を有する。具体的には、膨隆部上縁に使用する先細形、膨隆部下縁に使用する先太形、最大膨隆部に使用する一定幅形(並行形)、骨を短冊状に切開する際の下縁切開に使用する直角半円形等がある。また頤部斜面より骨片を採取するために使用する刃板の先端のみ鋸歯を突設した先端突出形もある。これらのツールは、それぞれ、その軸部をハンドピース等に連結することで、垂直(上下)方向又は水平方向で鋸進することが可能である。
【0030】
図3は膨隆部上縁に使用する先細形の刃板を有する鋸刃手段(すなわち、鋸歯21aが形成された刃板(薄鋸部))21の外形が先細形である第1ツール20の側面図である。図中の軸部22はハンドピースへの装着部となるもので、その一方側の端部に係着用の鉤部22aと切り欠き段差部22bが形成され、他方側の端部に刃板21の固定部となるネジ止め用ブロック24と刃板21の移動を阻止するためのストッパー23を有している。ネジ止め用ブロック24に止めボルト25で固定された刃板(薄鋸部)21は、当該手段(ツール)の使用時もストッパー23にてその移動が阻止される。なお、本発明でいう「先細形」とは刃板(薄鋸部)の板幅が先端側(すなわち、刃板(薄鋸部)21の軸部22から離反する側の端部21cの側)程狭くなっていることであり、「板幅」とは刃板(薄鋸部)の軸線L1と直交する方向の幅のことである。
【0031】
図4〜図6は、それぞれ、膨隆部下縁に使用する先太形の刃板(薄鋸部)を有する第2ツール30、最大膨隆部に使用する並行形の刃板(薄鋸部)を有する第3ツール40及び頤部斜面に使用する先端突設形の刃板(薄鋸部)を有する第4ツール50を示している。図4中の符号31は鋸歯31aが形成され、板幅が先端側程広くなっている刃板(薄鋸部)、図5中の符号41は鋸歯41aが形成され、板幅が一定である刃板(薄鋸部)、図6中の符号51は先端部のみに鋸歯51aが突設した刃板(薄鋸部)である。
【0032】
これら図4〜図6において、図3と同一符号は同一または相当する部分を示しており、第2ツール30、第3ツール40及び第4ツール50は、それぞれ、刃板(薄鋸部)31、41、51を、第1ツール20(図3)で使用されている軸部22(ネジ止め用ブロック24及びストッパー23を有する軸部22)と同じものに、止めボルト25で固定している。
【0033】
また、図7は骨を短冊状に切開する際に下縁切開に使用する直角半円形の刃板(薄鋸部)を有する第5ツール60を示し、図(a)はツールの正面図、図(b)はツールの側面図、図(c)は刃板(薄鋸部)の第2平板部の平面図である。なお、図中の図3と同一符号は同一または相当する部分を示している。
【0034】
該第5ツール60は、断面がL字を呈する屈曲板からなる刃板(薄鋸部)61を有し、該刃板(薄鋸部)61の第1平板部61Aを軸部22に固定し、L字をなす第2平板部61Bの最先端に鋸歯62を周設したものである。図に示されるように、当該第5鋸刃手段においても、刃板(薄鋸部)61を、第1鋸刃手段20(図3)で使用されている軸部22(ネジ止め用ブロック24及びストッパー23を有する軸部22)と同じものに、止めボルト25で固定している。なお、図7では、鋸歯部62の外形が半円形(円弧状)であるが、他の形状であってもよい。ただし、半円形であることで、骨切除時に運動軸が固定でき、他部位の硬軟組織を傷つける可能性を小さくできるという、利点がある。
【0035】
当該第5ツール60では、例えば、刃板(薄鋸部)61の第2平板部61Bを第1平板部61Aの軸線L1を回転軸にして回転させ、180°の回転角度の範囲で水平に往復移動させることで、骨を短冊状に切開することができる。
【0036】
上記第1〜第5のツールは、それぞれ、軸部22に対して180°反対方向に鋸歯を向けて刃板(薄鋸部)を取り付けた右作業用と左作業用の2種類の手段に組み立てて使用することができ、こうすることで、左利きの外科医にも患者に過度な苦痛を与えることなく必要量の骨片を採取できる。また、軸部、刃板及び止めボルトに分割されるので、容易に大量生産できコスト低下や臨床現場での形の設計変更にも対応できる。また、口腔内で、他組織を傷つけずに、下顎角部外斜線やオトガイ部、特に、下顎骨部から骨採取を行えるように、刃板(薄鋸部)の形態、寸法が調整される。形態としては下顎骨特に下顎角部頬側膨隆や頤部からの骨採取に安全で必要量の採取に最適な形態のバリエーションであればよい。
【0037】
具体的には、例えば、第1ツール20(図3)においては、刃板(薄鋸部)21の軸線L1と平行な方向の寸法D1は15〜25mm程度、ツール全体の寸法D2は25〜30mm程度とするのが一般的である。また、刃板(薄鋸部)21における鋸歯21aの傾斜角(θ1)は80〜70°の範囲から選択するのが一般的であり、刃板(薄鋸部)21の厚みは0.2〜0.8mm程度が一般的である。なお、第2〜第4ツール30、40、50(図4〜図6)の全体寸法、刃板(薄鋸部)31、41、51の寸法D3、D4、D5及び刃板(薄鋸部)の厚みは、通常、第1ツール20のそれと同等の範囲から選択され、第2ツール30(図4)の刃板(薄鋸部)31における鋸歯31aの傾斜角(θ2)は80〜70°の範囲から選択するのが一般的である。また、第5ツール60(図7)の全体の寸法D6は20〜30mm程度が一般的であり、第2平板部61Bの幅D7と突出長さD8はそれぞれ3〜10mm程度、3〜10mm程度が一般的である。
【0038】
以上説明した第1〜第5ツールにおいて、刃板(薄鋸部)の材質は特に限定されず、従来から、顎骨の切削用ツールで使用されている材料を適用することができる。具体的には、骨以上の硬度を持つ金属、セラミックス、合成樹脂等であり、好ましくはステンレスを主体とする合金等が挙げられる。また、刃板は高圧滅菌、金属疲労や人体の為害作用への配慮から使い捨て可能な材料で構成して使い捨てにしてもよい。
【0039】
本発明のノコギリツールは、上記第1〜第5ツールのうちの少なくとも一種を具備する構成で提供されるが、上記第1〜第5のツールのうちの少なくとも2種以上のツールを組み合わせて使用することで、口腔内作業により、下顎角部頬側や頤部斜面からより簡単に骨採取することができる。よって、第1〜第5のツールから選択される少なくとも2種類のツールを常備させた構成(ツールセット)で提供するのが好ましい。なお、その際、各ツール毎に鋸歯の向きが180°反対方向を向く2種類の形態物含む構成とするのが好ましく、さらに各ツール毎の特に好ましい適用部位や操作例についての説明書を沿えておくのが好ましい。また、本発明のノコギリツールは、上記のとおり、異なるツール間でハンドピースへの装着(連結)部となるツールの軸部を共通化しているので、1本の軸部、複数種の刃板(薄鋸部)及び止めボルトからなるツールセットして提供することもできる。
【0040】
[ハンドピース]
図12、13は本発明による歯科用ツールの上下往復運動(垂直運動)を可能にするハンドピースの一例の断面図であり、図12はハンドピース本体に装着したツールが最も下位置にある状態を示し、図13はハンドピース本体に装着したツールが最も上位置にある状態を示している。
【0041】
図12、13において、71はハンドピース本体、72はツールチャッカー、73は内スリーブ、74は外スリーブ、75は回転シャフト、76は偏芯カム、77は回動防止用ピン、78は回動防止用ピンのための溝、56は軸受けメタル、22はツール、100はハンドピースである。
【0042】
ハンドピース本体71内にはツール(の軸部)22を着脱自在に把持したツールチャッカー72が上下動自在に嵌装されている。
【0043】
ツールチャッカー72の上方には、ツール(の軸部)22の上端の鉤部22aの下に形成された溝に嵌合し得る縊れ部31a、32aを有する2個の半円筒形ブッシュ31、32が対向配置され、該半円筒形ブッシュ31、32の縊れ部31a、32aに爪用スプリング37が嵌着している。従って、対向する半円筒形ブッシュ31、32は爪用スプリング37で締め付けられて、その縊れ部31a、32bがツール22の鉤部22aを支持した状態で固定される。一方、ツール(の軸部)22の上端の鉤部22aとは180°反対側には切り欠き段差部22bが形成されており、該切り欠き段差部22bはツールチャッカー72の上端に形成され鉤部72aと係合する。従って、ツール22がツールチャッカー72に把持されたとき、ツール22のツールチャッカー72内での上下動及び左右動が阻止される。
【0044】
また、半円筒形ブッシュ31、32を囲むコイルバネ34が内スリーブ73の上端面に配置され、該コイルバネ34に、第1蓋材(ボタン)35が被せられ、該第1蓋材35の外周縁35aに、第2蓋材36の内周縁が係着し、該第2蓋材36の外周縁が内スリーブ73の上端に嵌着されている。従って、第1蓋材(ボタン)35はコイルバネ34で上方へ付勢されており、操作者が該第1蓋材(ボタン)35を押し下げると、その下面の円錐台形状の凸部35bが対向する半円筒形ブッシュ31、32の間に進入して、両者の間を広げるので、ツール22の鉤部22aと半円筒形ブッシュ31、32の縊れ部31a、32aとの係止状態が解除され、ツール20をツールチャッカー72から抜き取ることができる。なお、ツール22をハンドピースに装着する場合、操作者が第1蓋材(ボタン)35を押し下げ(半円筒形ブッシュ31、32の間を広げ)、この状態でツール22をツールチャッカー72内に嵌挿し、操作者が第1蓋材(ボタン)35から指を外すと、半円筒形ブッシュ31、32が爪用スプリング37で締め付けられ、ツール22の鉤部22aと半円筒形ブッシュ31、32の縊れ部31a、32aとが係着して、ツール22がツールチャッカー72で把持される。
【0045】
ハンドピース本体内の水平方向には、シャフト75が回転自在に支承され、マイクロモータ及び歯車等(図示せず)を介して駆動される。シャフト75の先端には偏芯カム76が固設され、外スリーブ74の外周には案内溝74aが形成され、案内溝74aには前記の偏芯カム76が係合する。外スリーブ74はシャフト75の偏芯カム76の回転により上下動するが回動しない。すなわち、偏芯カム76の先端面に回動防止用のピン77を突設させ、案内溝74a内の底部に回動防止用ピン77が挿入される縦長溝78を設けて、偏芯カム76の回転によって外スリーブ74に回動が生じないように構成しており、その結果、図12、13に示されるように、シャフト75の回転により外スリーブ74とこれに嵌着する内スリーブ73及びツールチャッカー72が一体的に上下動し、ツールチャッカー72に拘持されたツール22が上下動する。
【0046】
当該ハンドピース100では、装着したツール22がツールチャッカー72内で上下動及び左右動することなく拘持されて、上下往復運動をするので、特に、ノコギリツール等の比較的強い力を作用させて直線方向に往復動させるツールの操作用として好適に使用できる。また、ボタン(第1蓋材)を押すことで、ツールをワンタッチで着脱できることから、ツールを極めて簡単に取り替えることができる。従って、前記で説明した本発明のノコギリツール20、30、40、50(図3〜図6)による骨片採取作業を当該ハンドピースを使用して行えば、所望の骨片を、容易かつ確実に、しかも、短時間で採取することができる。
【0047】
図14は本発明による歯科用ツールのツイスト運動(水平往復運動)を可能にする歯科用ハンドピースの一例の断面図である。また、図15(a)、(b)は図14中のA−A線での断面図である。
【0048】
図14及び図15(a)、(b)において、図13と同一符号は同一または相当する部分を示し、51は軸部、52は偏芯球部、53は上下動防止用ピン、54は上下動防止用ピンのための円周溝、71’は外スリーブ、101はハンドピースである。
【0049】
当該ハンドピース101における、ツールチャッカー72、半円筒形ブッシュ31、32、コイルバネ34、第1蓋材(ボタン)35、第2蓋材36及び爪用スプリング37によるツールの着脱機構は、前記図13のハンドピース100と同じであり、ツールの着脱動作は前記で説明した通りである。
【0050】
ハンドピース本体1内の水平方向に挿通されたシャフト75は回転自在に支承されており、マイクロモータ及び歯車等(図示せず)を介して駆動される。シャフト75先端の軸部51には偏芯球部52が突設し、外スリーブ74’の周壁には縦長の貫通孔74bが穿設され、縦長の貫通孔74bに前記の偏芯球部52が係合する。偏芯球部52は外周が球状に形成されているので、シャフト75が回転すると、図15(a)、(b)に示されるように、該偏芯球部52が係合する縦長の貫通孔74bを有する外スリーブ74’はツイスト運動(水平往復運動)するが、このとき、外スリーブ74’に嵌着している内スリーブ73及び内スリーブ73に嵌装されているツールチャッカー72も同時にツイスト運動(水平往復運動)し、ツールチャッカー72に把持されているツール22がツイスト運動(水平往復運動)する。図15(a)は外スリーブ74’が最も左回りに回転した状態であり、図15(b)は外スリーブ74’が最も右回りに回転した状態である。
【0051】
なお、外スリーブ74’の外周面には円周溝54が形成され、ハンドピース本体71に上下動防止用ピンの挿入孔71aが形成され、該挿入孔71aを通して外スリーブ74’の円周溝54に上下動防止用ピン53を嵌挿されているため、偏芯球部52の移動に伴う外スリーブの垂直方向の運動(上下動)は防止される。従って、ツールチャッカー72に把持されているツール22は上下動することなく、ツイスト運動のみをする。
【0052】
当該ハンドピース101では、装着したツール22がツールチャッカー72内で上下動及び左右動することなく拘持されて、ツイスト運動するので、特に、ノコギリツール、ドリルツール、リーマー等の比較的強い力を作用させてツイスト運動させるツールの操作用として好適に使用できる。また、ツールをワンタッチで着脱できることから、ツールを極めて簡単に取り替えることができる。従って、前記で説明した本発明のノコギリツール60(図7)による骨片採取作業を当該ハンドピース101を使用して行えば、所望の骨片を、容易かつ確実に、しかも、短時間で採取することができる。
【0053】
本発明者らは、インプラント植立窩の内側面に貼り付ける骨片のサイズについても検討した。かかる骨片はその幅が2mm以下、すなわち、最大幅部の幅が2mm以下の小片にすることが、インプラント植立窩に挿入したインプラント体の生着期間の短縮化に有効であることを動物実験(ラット)によって確認にした。このことは、新規な知見であった。従って、本発明では、インプラント植立窩の内面に貼り付けて使用される歯槽骨補充用骨片であって、最大幅部の幅が2mm以下の小片からなる、歯科用骨片を提供する。また、そのための歯科用骨片削粉器を提供する。なお、骨片が小さ過ぎると、骨壊死の可能性が大きくなりインプラント生着不良の傾向となる。従って、本発明の最大幅部の幅が2mm以下の小片からなる歯科用骨片は、最大幅部の幅が0.5mm以上であるのが好ましい。なお、「最大幅部」とは、骨片表面の任意の2点(2点を結ぶ直線が骨片の重心を通る任意の2点)を結ぶ線分で、最大距離となる2点間の線分の長さを意味する。
【0054】
図8は本発明の歯科用骨片削粉器の模式図である。本発明の歯科用骨片削粉器90は、骨片投入および冷却水供給のための孔付き桶様部91と、骨片切断加工部94と、切断された骨片が溜まる貯骨部95を区画した筐体92を本体とし、骨片切断加工部94に手動駆動される回転刃93を内包させ、骨片投入口91に投入された骨片が、前記回転刃で切断されて小片となって貯骨部95に溜まるように構成したものである。なお、骨片投入口91には骨片押さえ栓(図示せず)を設けるのが好ましく、筐体の底には骨粉作成時の発熱を抑制するための細穴を設けるのが好ましい。
【0055】
骨片投入口91へ投入された骨片96は回転刃93で切断され、最大幅部の幅が2mm以下の小片97になって、貯骨部95に溜められる。
【0056】
本発明の歯科用骨片削粉器の筐体は通常高圧滅菌に耐えられるステンレス等で形成され、切断用の回転刃93は骨以上の硬度を持つステンレス等の金属、セラミック、合成樹脂等で形成される。削粉器の大きさ(容量)は特に限定されないが、手のひらサイズ程度が好適である。また、上記図8では、回転刃は星型であるが、特に限定されず、種々の形状のものが使用可能である。回転刃の刃数は4〜8程度が好適である。
【0057】
かかる本発明の歯科用骨片削粉器では、インプラント体の生着期間の短縮化に有効な、特定幅以下の微小骨片(すなわち、最大幅部の幅が2mm以下の小片)を効率良く得ることができ、また、孔付き桶様部より冷却水を供給して、摩擦熱の発生を抑制乃至減少させることができるので、移植骨の正嫡を阻害しないという効果がある。
【0058】
ところで、前述したように、従来からドリル等のツールで顎骨を研削してインプラント植立窩を形成する際に発生する摩擦熱がインプラント体の生着を阻害していると考えられていることから、本発明はドリルツールについての改良も検討した。
【0059】
[歯科用ドリル]
図9及び図10は本発明の歯科用ドリル(ツール)を模式的に示したものであり、図9(a)は要部の斜視図、図9(b)は平面図、図10は側面図である。
【0060】
本発明のドリルツール80は、図9及び図10に示すように、先端に穴中心切削刃部82aを突設させた中心軸部材82を、先端に鋸歯状の端辺を有する辺縁骨把持部83aを突設させた円筒状部材83が内包し、中心軸部材82と円筒状部材83の内側面を、中心軸部材82の側面の相対する位置から互いに離反する方向に延設させた2枚の内部プレート84、85で連結するとともに、該2枚のプレート84、85の各端面に穴直径規定用切削刃部84a、85aを設けた、前記中心軸部材82、円筒状部材83及び内部プレート84、85で仕切られる空間が骨片収容部86として機能する構造体であって、円筒状部材83の筒壁に、その先端側から筒の中間部まで切り欠いた開窓部83bを有することが特徴である。
【0061】
なお、鋸歯状の端辺を有する辺縁骨把持部83aは、円筒状部材83の周方向において一端から他端へと幅が順次拡大しつつ、円筒状部材83の外方へ傾倒した状態から傾倒角度が順次減少して最終的に起立した状態に変化させているが、こうすることで、骨壁とドリルの間に空隙が生じ、過度な摩擦熱の発生を防止するとともに冷却水による冷却効果も期待できる。
【0062】
かかる本発明のドリルツール80は、従来からの歯科用ハンドピース等の歯科用駆動機器に装着して使用され、通常のハンドピースのごとく着脱式にて注水下直接挿入部位歯槽頂にあてゆっくり下げることにより、先端歯によりインプラント挿入窩を掘り、骨片を蓄えながら植立窩を形成できる。この際、軸高位直径は歯部直径より小さくすることにより冷却水が器具と植立窩壁に入りやすく骨の過度な摩擦による骨壊死の可能性を小さくできる。なお、「軸高位」とは歯部分より少し上(距離的に2〜数mm程度離れた位置)のことである。
【0063】
本発明のドリルツールは、上記のような特殊な構造(すなわち、切削された骨片を収容する空間(骨片収容部)と開窓部を有する構造)であることから、従来のこの種のツールに比べて冷却機能が極めて優れており、骨採取作業中の患者の負担が軽減され、しかも、インプラント植立窩を形成する際に発生する摩擦熱によってインプラント体の生着が阻害されることも軽減乃至防止さることから、結果的に、インプラント体の生着期間が短縮される。また、切削された骨片を直接、構造体内部(骨収容部)に捕集できるので、骨片の採取効率に優れる。従って、該ツールで穴開け加工を行った後(インプラント窩を形成した後)、採取した骨片を骨補充のためにインプラント植立窩へ挿入する骨片としてそのまま使用することができる。よって、複数(3本以上)のインプラントの植立を行う際に特に好適に使用することができる。
【0064】
上記本発明の歯科用ツール(ノコギリツール、ドリルツール等)を使用すれば、下顎角部頬側外斜線(頬の内側)から、例えば、幅が5〜10mm程度の骨片を、効率よく採取することができる。従来から、インプラントの植立のための骨量が不足する場合、歯槽骨の外側から骨片を生着することが行われるが、本発明の歯科用ツールで採取する骨片は比較的小さく、インプラント体を植立する際、かかる骨片をインプラント植立窩の内側(穴の内面)に貼り付けることによって、植立と同時に骨補充ができる。従来の技術ではインプラント体の生着するまで2〜6ヶ月を要したが本法では生着期間の短縮が期待できる。
【0065】
図11は本発明を適用して下顎(歯槽骨)10にインプラント(体)6を植立し、義歯7を装着した状態の断面を模式的に示した図である。すなわち、インプラント植立窩形成用の仮穴にデバイスを圧入してインプラント植立窩を形成後(図2(a)〜(c)を参照)、インプラント植立窩5にインプラント体6を挿入するとともにインプラント植立窩5の内面に本発明の最大幅部の幅が2mm以下の小片からなる骨片97を貼り付け、インプラント体6が生着した後、義歯7を装着したものである。
【0066】
インプラント体6の周囲はインプラント植立窩5の形成用の仮穴へのデバイスの圧入により移動(圧縮)した歯槽骨10aと、移植された骨片97とが存在し、十分な骨量が得られている。従って、本発明によれば、歯槽骨の厚さが薄かったり、歯槽骨の密度が小さいために、そのままでは、インプラント植立が困難な患者に対し、簡単な操作で短時間に歯槽骨の骨量を増やしてインプラントの植立を可能にすることができ、また、挿入したインプラント体の生着期間が短縮することも期待できる。また、一度の手術でよいため、感染リスク、費用も軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】歯槽骨に対してインプラント植立窩形成用の仮穴を形成した状態の模式図である。
【図2】(a)〜(c)は本発明の歯科用デバイスを用いてインプラント植立窩形成用の仮穴を拡径させてインプラント植立窩を完成させる過程の一例を示した図である。
【図3】本発明の歯科用ノコギリツールにおける第1ツールの側面図である。
【図4】本発明の歯科用ノコギリツールにおける第2ツールの側面図である。
【図5】本発明の歯科用ノコギリツールにおける第3ツールの側面図である。
【図6】本発明の歯科用ノコギリツールにおける第4ツールの側面図である。
【図7】本発明の歯科用ノコギリツールにおける第5ツールの図であり、図(a)はツールの正面図、図(b)はツールの側面図、図(c)は刃板(薄鋸部)の第2平板部の平面図である。
【図8】本発明の歯科用骨片削粉器を模式的に示した図である。
【図9】本発明の歯科用ドリルツールを模式的に示した図であり、図(a)は要部斜視図、図(b)は平面図である。
【図10】本発明の歯科用ドリルツールの側面図である。
【図11】本発明を適用して下顎(歯槽骨)にインプラント(体)を植立し、義歯を装着した状態の断面の模式図である。
【図12】本発明のハンドピースの一例の断面図(装着したツールが最も下位置にある状態の図)である。
【図13】本発明のハンドピースの一例の断面図(装着したツールが最も上位置にある状態の図)である。
【図14】本発明による歯科用ツールのツイスト運動(水平往復運動)を可能にする歯科用ハンドピースの一例の断面図である。
【図15】図14中のA-A線での断面図であり、図(a)は外スリーブが最も左回りに回転した状態の図であり、図(b)は外スリーブが最も右回りに回転した状態の図である。
【符号の説明】
【0068】
1 仮穴
2〜4 ピン様部材からなるデバイス
5 インプラント植立窩
10 歯槽骨
11 口腔粘膜
20、30、40、50、60 ノコギリツール
31、32 半円筒形ブッシュ
34 コイルバネ
37 爪用スプリング
52 偏芯球部
56 軸受メタル
71 ハンドピース本体
72 ツールチャッカー
73 内スリーブ
74、74’ 外スリーブ
75 回転シャフト
76 偏芯カム
77 回動防止用ピン
78 回動防止用ピンのための溝
80 ドリルツール
90 骨片削粉器
100、101 ハンドピース


【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯槽骨に形成したインプラント植立窩形成用の仮穴に圧入するピン様部材であって、前記仮穴への圧入により、仮穴を拡径させつつ、穴周囲の歯槽骨を圧縮せしめるものであることを特徴とする、インプラント植立窩形成用の歯科用デバイス。
【請求項2】
請求項1記載のデバイスを複数有し、それらの外径が互いに相異する、歯科用デバイスセット。
【請求項3】
インプラント植立窩に挿入する歯槽骨補充用骨片を下顎角部頬側外斜線から採取するための歯科用ノコギリツールであって、下記の(a)〜(e)から選ばれる少なくとも一種のツールを含む歯科用ノコギリツール。
(a):鋸歯が形成された刃板の外形が先細形である第1ツール
(b):鋸歯が形成された刃板の外形が先太形である第2ツール
(c):鋸歯が形成された刃板の外形が一定幅形である第3ツール
(d):先端部のみに鋸歯が突設された刃板を有する第4ツール
(e):断面がL字を呈する屈曲板からなり、先端側平板部の最先端部に鋸歯を形成した刃板を有する第5ツール
【請求項4】
上記(a)〜(e)のツールは、それぞれが、鋸歯の向きが180°反対方向を向く2種類の形態物を含む、請求項3記載の歯科用ノコギリツール。
【請求項5】
歯科用ツールをワンタッチで着脱し得るプッシュ式のツール着脱機構と該機構に装着された歯科用ツールを上下往復運動させる機構とをハンドピース本体に設けてなる歯科用ハンドピース。
【請求項6】
歯科用ツールをワンタッチで着脱し得るプッシュ式のツール着脱機構と該機構に装着された歯科用ツールをツイスト運動させる機構とをハンドピース本体に設けてなる歯科用ハンドピース。
【請求項7】
筐体が、骨片投入および冷却水供給のための孔付き桶様部と、骨片切断加工部と、切断された骨片が溜まる貯骨部とに区画されており、骨片切断加工部は手動駆動される回転刃を内包し、前記孔付き桶様部より投入された骨片が、前記回転刃で切断されて、小片となって貯骨部に溜まるように構成されてなる、歯科用骨片削粉器。
【請求項8】
インプラント植立窩を形成するための歯科用ツールであって、
先端に穴中心切削刃部を突設させた中心軸部材を、先端に鋸歯状の端辺を有する辺縁骨把持部を突設させた円筒状部材が内包し、中心軸部材と円筒状部材の内側面を、中心軸部材の側面の相対する位置から互いに離反する方向に延設させた2枚の内部プレートで連結するとともに、該2枚のプレートの各端面に穴直径規定用切削刃部を設け、前記中心軸部材、円筒状部材及び内部プレートで仕切られる空間が骨片収容部として機能する構造体からなり、
前記円筒状部材の筒壁にその先端側から筒の中間部までを切り欠いた開窓部を有することを特徴とする、歯科用ドリル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2008−188037(P2008−188037A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−22166(P2007−22166)
【出願日】平成19年1月31日(2007.1.31)
【出願人】(504205521)国立大学法人 長崎大学 (226)
【Fターム(参考)】