説明

歯科用トレー、並びに、それを用いた歯科用装置及び歯科模型

【課題】 従来の6軸の顎運動を捕らえる考え方に加えて、上顎のあおり(重力方向及び正面方向と垂直な軸を中心とする回転)と、上顎の回転(正面方向の軸を中心とする回転)との2軸をくわえて8軸の計測を行う計測手法を利用することにより、正しい歯列の形状及び咬合状態を計測することができる歯科用トレー、並びに、それを用いた歯科用装置及び歯科模型を提供する。
【解決手段】 上顎の歯列の一部、又は、全部の形状を計測する歯列計測手段3、4を有する歯科用トレー1であって、前記形状を計測するときの基準とする重力方向及び正面方向を計測するための方向情報参照手段2、4を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科用トレー、並びに、それを用いた歯科用装置及び歯科模型に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科用トレーは、上顎及び下顎の歯列の一部、又は、全部の形状を計測するために用いられる。例えば、印象材が塗布された歯科用トレーを被験者に噛ませて、被験者の歯列を印象材に接触させる。そして、被験者の歯列を印象材に接触させた状態で印象材を硬化させることにより、歯列の形状(所謂、印象)を採得するものである(例えば、特許文献1参照)。その後、採得された歯列の形状から、歯列模型等を作製したりすることになる。
【特許文献1】特開2001−276094号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、このように採得された歯列の形状から、歯列模型を作製する際に、医師と技工士との間で補綴物位置付けの認識が相違したり、エラーが発生したりすることがあった。つまり、このように採得された歯列の形状から、本来あるべき歯列の形状及び咬合状態を把握することができなかった。
【0004】
そこで、このように採得された歯列の形状から、正しい歯列の形状及び咬合状態を把握することができない原因を、本発明者らの研究により明らかにした。すなわちこれは、立ったり、いすに座ったり、またその場合でも椅子の背もたれの角度など、姿勢の影響をうけて咬合位が変化する。また無意識のうちに脳が最も早く当たる点(早期接触)を感じ取り、前後左右のバランスをあわせようと、頭蓋や下顎の位置を偏位させてしまうなどの理由でも、微妙に咬合位が変化するからである。よって、頭蓋や全身の骨格、姿勢をコントロールしたうえで歯列形状や咬合位を計測することで、本来あるべき歯列形状や咬合状態を把握できることが、本発明者らの長年の研究により確かめられている。
【0005】
顎運動計測の考え方においては、上顎に対する下顎の相対的な6軸運動の情報を計測することが一般的であった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、従来の6軸の顎運動を捕らえる考え方に加えて、上顎のあおり(重力方向及び正面方向と垂直な軸を中心とする回転)と、上顎の回転(正面方向の軸を中心とする回転)との2軸をくわえて8軸の計測を行う計測手法を見出し、発明を完成させた。
すなわち、本発明の歯科用トレーは、上顎の歯列の一部、又は、全部の形状を計測する歯列計測手段を有する歯科用トレーであって、前記形状を計測するときの重力方向及び正面方向を計測するための方向情報参照手段を有するようにしている。
ここで、「正面方向」とは、被験者の正面の方向のことをいい、例えば、まっすぐにさせた視線の方向のことをいう。
【発明の効果】
【0007】
本発明の歯科用トレーによれば、上顎の歯列の一部、又は、全部の形状を計測するときの重力方向及び正面方向を計測することにより、上顎のあおりと上顎の回転とを把握することができるので、従来の6軸の顎運動の計測の考え方に対して、上顎のあおりと上顎の回転との2軸の計測を加えたシミュレーションを行うことができる。つまり、正しい歯列の形状及び咬合状態を計測することができる。
【0008】
(その他の課題を解決するための手段および効果)
また、本発明の歯科用トレーにおいては、前記歯列計測手段は、前記形状を記憶するとともに、前記方向情報参照手段は、前記重力方向及び正面方向を記憶するようにしてもよい。
このような本発明の歯科用トレーによれば、形状を記憶するとともに、重力方向及び正面方向を記憶しているので、歯科用トレーのみを用いて、正しい歯列の形状及び咬合状態の情報を得ることができる。
【0009】
また、本発明の歯科用装置においては、上述した歯科用トレーを備える歯科用装置であって、前記方向情報参照手段を用いて、前記重力方向及び正面方向を記憶するか、又は、記憶させる方向情報計測手段を備えるようにしてもよい。
このような本発明の歯科用装置によれば、歯科用トレーの構造を軽量化できるので、被験者は歯科用トレーを挿入した状態で、楽に印象材を硬化させることができる。
【0010】
また、本発明の歯科用装置においては、前記方向情報計測手段は、前記重力方向及び正面方向を示す凹凸形状を有する転写プレートを備え、前記方向情報参照手段は、前記凹凸形状を転写されるようにしてもよい。
このような本発明の歯科用装置によれば、歯科用トレーの構造を軽量化できるので、被験者は歯科用トレーを挿入した状態で、楽に印象材を硬化させることができる。
そして、その後、歯科用トレーが形状を記憶するとともに、重力方向及び正面方向を記憶しているので、歯科用トレーのみを用いて、正しい歯列の形状及び咬合状態の情報を得ることができる。
【0011】
そして、本発明の歯科用装置においては、前記方向情報計測手段は、光線を照射するとともに検知する光学装置を備え、前記方向情報参照手段は、前記光線を反射するようにしてもよい。
このような本発明の歯科用装置によれば、光学装置により重力方向及び正面方向を瞬時に記憶できるので、被験者は歯科用トレーを挿入した状態で、楽に印象材を硬化させることができる。
【0012】
そして、本発明の歯科用装置においては、被験者の頭蓋の位置と骨盤の位置とを規制する診療用いすを備えるようにしてもよい。
このような本発明の歯科用装置によれば、被験者の頭蓋の位置と骨盤の位置とを規制することにより、被験者の個々の脊椎の生理的湾曲を保障して、筋肉の緊張を可及的に緩和させることができる。よって、被験者を診療用いすに着座させて、計測することにより、人体のバランスを総合的に追求することができるので、より正しい歯列の形状及び咬合状態の情報を得ることができる。
【0013】
さらに、本発明の歯科模型においては、上述した歯科用トレーを用いて製造された歯科模型であって、前記重力方向及び正面方向を記憶しているようにしてもよい。
このような本発明の歯科模型によれば、上顎のあおりと上顎の回転との情報もコンピュータに入力することにより、コンピュータで重力方向に対する下顎の運動を再現することができる。
よって、歯列模型を作製する際に、従来の6軸の顎運動の計測の考え方に対して、上顎のあおりと上顎の回転との2軸の計測を加えたシミュレーションを行うことができるので、医師と技工士との間で補綴物位置付けの認識が相違したり、エラーが発生したりすることがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。なお、本発明は、以下に説明するような実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の態様が含まれることはいうまでもない。
【0015】
まず、歯列の形状と重力方向及び正面方向とが記録された歯科用トレー1を作製する方法について説明する。
図1(a)は、本発明の一実施形態である歯科用トレーを示す平面図である。図1(b)は、図1(a)に示すA−A線の断面図である。
歯科用トレー1は、板状体である。板状体の上面の一端に、凹部3を有するとともに、板状体の上面の他の一端付近に、凹部2を有する。
【0016】
凹部3は、上顎の歯列の一部、又は、全部の形状を計測するものである。凹部3に印象材が入れられる。つまり、歯列計測手段3は、凹部3と印象材とで構成される。なお、上顎の歯列の一部、又は、全部の形状を計測するときには、凹部3は、被験者の口の内に挿入される。
【0017】
凹部2は、上顎の歯列の一部、又は、全部の形状を計測するときの重力方向及び正面方向を計測するためのものである。凹部2に印象材が入れられる。つまり、方向情報参照手段2は、凹部2と印象材とで構成される。なお、上顎の歯列の一部、又は、全部の形状を計測するときには、凹部2は、被験者の口の外に配置される。
【0018】
また、図2(a)は、本発明に係る方向情報計測器具の一例を示す側面図である。図2(b)は、図2(a)に示す方向情報計測器具の正面図であり、図2(c)は、図2(a)に示す方向情報計測器具の下面図である。
方向情報計測器具5は、板状体の上面の中心に、柱状体が直立するように形成されるとともに、板状体の下面の中央に、断面がV字状である凸部6が板状体の下面の一端から他端まで一直線に伸びるように形成されている。つまり、一直線状の凸部6は、正面方向を示すことになる。
なお、上顎の歯列の一部、又は、全部の形状を計測するときには、方向情報計測器具5は、印象材が入れられた凹部2に回転せずにかつ垂直に挿入される。このとき、方向情報計測器具5は、凸部6(正面方向を示すことになる)と重力方向と被験者の正面方向との関係がわかるように、例えば、診療用いす等に取り付けられて、使用される。
【0019】
次に、図3を用いて、歯科用トレー1及び方向情報計測器具5の使用方法の一例について説明する。
まず、凹部3と凹部2とに、印象材4を入れる。上記印象材としては、例えば、アルギン酸等が挙げられる。
次に、被験者の視線がほぼ水平になるように被験者の頭を手や器具等で固定しながら、印象材4が入れられた凹部3を被験者の口に挿入し、被験者の歯列を印象材4に接触させる。このとき、印象材4が入れられた凹部2に、方向情報計測手段5の凸部6が、正面方向を示すとともに、重力方向と垂直となるように挿入する。
そして、被験者の歯列を印象材4に接触させた状態で印象材4を硬化させることにより、印象材4に歯列の形状が記録される。このとき、方向情報計測器具5の凸部6も印象材4に接触させた状態で印象材4を硬化させることにより、印象材4に凸部6(重力方向及び正面方向)も記録される。
このようにして、歯列の形状と重力方向及び正面方向とが記録された歯科用トレー1が得られる。
【0020】
次に、歯列の形状と重力方向及び正面方向とが記録された歯科用トレー1から、歯列の形状と重力方向及び正面方向とが記録された歯列模型を作製する方法の一例について説明する。
図4(a)は、本発明に係る歯列模型形成器具の一例を示す側面図である。図4(b)は、図4(a)に示す歯列模型形成器具の下面図であり、図4(c)は、図4(a)に示す歯列模型形成器具の正面図である。
印象形成器具11は、2つの略直方体が結合されたものであり、一の略直方体の下面に凸部12を有するとともに、他の略直方体の下面に凸部13を有する。
【0021】
歯列模型形成器具11の凸部12は、方向情報計測器具5の凸部6と同様の形状である。つまり、方向情報計測器具5の凸部6が記録された印象材4に、歯列模型形成器具11の凸部12を挿入することができる。
【0022】
歯列模型形成器具11の凸部13は、断面がV字状である凸部が一直線に伸びるように形成されている。さらに、歯列模型形成器具11の凸部13は、歯列模型形成器具11の凸部12と同方向となるように形成されている。
なお、方向情報計測器具5の凸部6が記録された印象材4に、歯列模型形成器具11の凸部12を挿入したときには、歯列模型形成器具11の凸部13は、歯列の形状が記録された印象材4の上方に配置されるように形成されている。このときには、凸部13も、重力の方向及び正面方向を示すことになる。
【0023】
次に、図5を用いて、歯科用トレー1及び歯列模型形成器具11の使用方法の一例について説明する。なお、図6は、歯列の形状と重力方向及び正面方向とが記録された歯列模型の一例の斜視図である。
まず、歯列の形状が記録された印象材4に、石膏材15を入れる。上記石膏材としては、例えば、石膏等が挙げられる。
次に、方向情報計測器具5の凸部6が記録された印象材4に、歯列模型形成器具11の凸部12を挿入する。このとき、歯列の形状が記録された印象材4に入れられた石膏材15は、歯列模型形成器具11の凸部13に押さえつけられる。
そして、歯列模型形成器具11の凸部13と歯列の形状が記録された印象材4とで挟まれた石膏材15を硬化させることにより、歯列の形状と重力方向及び正面方向とが記録された歯列模型20が得られる。
【0024】
次に、歯科用トレーと、方向情報計測器具と、被験者の頭蓋の位置と骨盤の位置とを規制する診療用いすとを備える歯科用装置の一例について説明する。
図7は、本発明に係る歯科用装置の一例を示す側面図である。図8は、図7に示す歯科用装置の背面図であり、図9は、図7に示す歯科用装置のA−A線の断面図であり、図10は、図7に示す歯科用装置のB−B線の断面図であり、図11は、図7に示す歯科用装置のC−C線の断面図である。
【0025】
歯科用装置40は、上述した歯科用トレー1と、診療用いす50と、歯科用トレー計測機構41とを備える。診療用いす50には、床面Fに据え付けられる基板51に対して鉛直方向にコラム52が固定されている。さらに、コラム52には、座席支持体53の基端が固定されているとともに、下から順に骨盤・膝位置規制機構54、腰椎押圧機構55、脇位置規制機構56、頭蓋位置規制機構57が取り付けられている。
【0026】
なお、コラム52は重力方向となるように正確に立設される必要がある。このため、例えば、基板51の下方に水平調整用の脚を設けるとともに、コラム52の内部に重錘を垂らし、その周囲にリングを配するように構成する。これにより、重錘がリングの中央に位置するように水平調整用の脚を調整することで、コラム52が重力方向となるように正確に立設する。
【0027】
また、先端部が分かれた略U字形をしている座席60の表面(座面)の角度は、座席支持体53の水平面に対して、変化するように形成されている。
座席支持体53の上面の先端部には、座席60の先端部が2つのヒンジ59dを介して移動可能に支持されている。一方、座席支持体53の下面の後端部には、ピニオン59aがピローブロック等によって回転自在に支持されている。ピニオン59aはハンドル59bの操作により回転する。さらに、ピニオン59aには鉛直方向に伸びるラック59cが噛み合っている。そして、ラック59cの上端部に、座席60の後端部がピン接合されている。つまり、ハンドル59bを操作してピニオン59aを回転させることによって、ラック59cを上下動することが可能となる。これにより、座席60の表面(座面)の角度を水平面に対して変化させることができる。
【0028】
足裏当接板62は、被験者が座席60に座った状態で、両足の裏を密着できるように形成されている。
基板51には、2本の鉛直ガイド61aが固定されているとともに、ハンドル61bを有するねじ61cが回動自在に固定されている。さらに、足裏搭載板62が、2本の鉛直ガイド61aとねじ61cとにより、3点支持される。なお、足裏搭載板62は、ブッシュ62aを介して各鉛直ガイド61aに摺動自在に形成されるとともに、固着されたナット(図示せず)を介してねじ61cにねじ込まれている。つまり、ハンドル61bを操作してねじ61cを回転させることによって、足裏搭載板62は水平を保った状態で上下動することが可能となる。これにより、座席60の座面と足裏搭載板62の表面との鉛直方向距離を変化させることができる。
【0029】
骨盤・膝位置規制機構54、腰椎押圧機構55、脇位置規制機構56、頭蓋位置規制機構57及び歯科用トレー計測機構41は、それぞれコラム52に沿って上下動するための上下動機構を有する。
また、骨盤・膝位置規制機構54、脇位置規制機構56及び頭蓋位置規制機構57は、それぞれ、被験者の該当部位に左右から当接して該当部位の位置を決めるための一対の当接部材と、その一対の当接部材を左右から中心面に向かって等量ずつ互いに接近/離隔するための接近/離隔機構とを有する。
ここで、中心面とは、コラム52が示す鉛直方向(重力方向)と、後述する正面方向を含む所定の平面のことをいう。
【0030】
また、骨盤・膝位置規制機構54は、上下動機構と、接近/離隔機構と、接近/離隔機構により左右から中心面に向かって等量ずつ互いに接近/離隔する一対のアーム54aと、被験者の骨盤に左右から当接するために各アーム54aの内側に固定されている骨盤当接部材54bとを有するとともに、中心面に45度で開くように各アーム54aの先端に形成された屈曲部54cとを有する。これにより、座席60に座った被験者の骨盤に対し、一対のアーム54aを左右から接近/離隔させることにより、骨盤当接部材4bを左右から当接させることが可能となる。このとき、被験者の両足の外側を屈曲部54cに当接させることにより、両足を45度で開かせた状態とすることも可能となる。
【0031】
また、脇位置規制機構56は、上下動機構と、接近/離隔機構と、接近/離隔機構により左右から中心面に向かって等量ずつ互いに接近/離隔する一対のアーム56aとを有する。これにより、座席60に座った被験者の各脇に対し、一対のアーム56aを左右から接近/離隔させることにより、アーム56aを左右から当接させることが可能となる。すなわち、被験者の胴体の位置が規制される。
【0032】
また、頭蓋位置規制機構57は、上下動機構と、接近/離隔機構と、接近/離隔機構により左右から中心面に向かって等量ずつ互いに接近/離隔する一対のアーム57aと、被験者の耳を迂回して頬骨弓近傍に左右から当接するために一対の各アーム57aの内側に形成された頭蓋当接部材57bと、頭蓋前後位置規制部材58とを有する。なお、各アーム57aに対する頭蓋当接部材57bの位置は、前後に調節を可能とする。また、コラム52に対する頭蓋前後位置規制部材58の位置も、前後に調節を可能とする。これにより、座席60に座った被験者の頭蓋に対し、一対のアーム57aを左右から接近/離隔させることにより、頭蓋当接部材57bを左右から当接させるとともに、頭蓋前後位置規制部材58の位置を前後に調節することにより、頭蓋前後位置規制部材58を後ろから当接させることが可能となる。すなわち、被験者の頭蓋の位置が規制される。
【0033】
また、腰椎押圧機構55は、筐体55aと、筐体55aに固着されたナット55bと、ナット55bにねじ込まれたねじ55cと、筐体55aに対してブッシュ55dを介して軸方向に摺動自在に支持されたガイドバー55eと、ガイドバー55eに対してねじ止めされ、かつ、ねじ55cを軸受55fを介して回動自在に支持する押圧部材55gとを有する。なお、ねじ55cは、ハンドル55hの操作により回転させることが可能である。これにより、座席60に座った被験者の腰椎の適宜箇所に対し、押圧部材55gを後ろから当接させることが可能となる。すなわち、被験者の腰椎の位置が規制される。
【0034】
また、歯科用トレー計測機構41は、上下動機構と、アーム41aと、方向情報計測手段固定部42とを有する。また、歯科用トレー計測機構41は、コラム52の上部に取り付けられる。
方向情報計測手段固定部42には、方向情報計測器具5が固定されている。なお、方向情報計測器具5の凸部6は、重力方向と垂直となり、かつ、正面方向となるように固定されている。つまり、重力方向と正面方向とを含む所定の平面である中心面を作成するように、方向情報計測器具5を方向情報計測手段固定部42に固定することになる。
アーム41aは、方向情報計測手段固定部42の位置を、前後に調節することを可能とするとともに、上下に調節することも可能とする。このとき、方向情報計測器具5の凸部6が示す方向は、常に一定の方向を示すように形成されている。すなわち、重力の方向と正面方向とを含む所定の平面である中心面は、常に一定である。
【0035】
次に、歯科用装置40の使用方法の一例について説明する。
まず、被験者を座席60の座面に座らせた後、足裏搭載板62を上下動させることにより、被験者の両足の裏が足裏搭載板62の表面に密着するように調節する。このとき、必要に応じて座面60の角度を調節する。
【0036】
次に、骨盤・膝位置規制機構54を調節することにより、被験者の骨盤の位置を規制するとともに、被験者の両足を中心面に対して45度で開かせた状態とする。
次に、被験者の腰部(臍の近傍)を前方に出させた姿勢をとらせた状態で、被験者の腰椎の高さに腰椎押圧機構55の押圧部材55gの高さを合わせ、被験者の腰椎の位置に押圧部材5gが当たるように調節する。
【0037】
次に、脇位置規制機構56の各アーム56bの幅を被験者の体に適した幅に調節した後、脇位置規制機構56を下から上へ移動させることにより、被験者の脇の位置で止める。
次に、頭蓋位置規制機構57の頭蓋押圧部材57bの位置が被験者の左右の頬骨弓の高さになるように調節し、かつ、頭蓋押圧部材57bの前後の位置を調整することにより、頭蓋押圧部材57bの先端が頬骨弓に当たるようにする。このとき、頭蓋前後位置規制部材58を調節することにより、被験者の視線がほぼ水平になるようにする。
【0038】
ここで、歯科用トレー1の凹部3と凹部2とに、印象材4を入れる。
次に、印象材4が入れられた凹部3を被験者の口に挿入し、被験者の歯列を印象材4に接触させる。このとき、印象材4が入れられた凹部2に、方向情報計測手段固定部42の位置を前後上下に調整することにより、方向情報計測器具5の凸部6を挿入する。
そして、被験者の歯列を印象材4に接触させた状態で印象材4を硬化させることにより、印象材4に歯列の形状が記録される。このとき、方向情報計測器具5の凸部6も印象材4に接触させた状態で印象材4を硬化させることにより、印象材4に凸部6(重力方向及び正面方向)も記録される。
このようにして、歯列の形状と重力方向及び正面方向とが記録された歯科用トレー1が得られる。
【0039】
このような本発明の歯科用装置40によれば、被験者の各部の位置を規制したときには、被験者の頭蓋の中心と骨盤の中心とが、いずれも中心面に位置した状態とすることができる。また、両足が中心面から45度で開いた状態で、両足の裏が足裏搭載板12に密着した状態とすることができる。さらに、頭蓋前後位置規制機構55と頭蓋前後位置規制部材58とによる規制により、被験者の骨盤、腰椎、胸椎及び頸椎でS字形の生理的湾曲を回復させることができる。つまり、被験者の個々の脊椎の生理的湾曲を保障して、筋肉の緊張を可及的に緩和させることができる。
よって、被験者を診療用いす50に着座させて、計測することにより、人体のバランスを総合的に追求することができるので、より正しい歯列の形状及び咬合状態の情報を得ることができる。
【0040】
(他の実施形態)
図12は、本発明の一実施形態である歯科用トレーの他の一例を示す平面図である。
歯科用トレー101は、板状体である。板状体の上面の一端に、凹部103を有するとともに、板状体の上面の他の一端付近に、方向情報参照手段である凸部102を有する。
なお、凹部103は、上述した凹部3と同様のものであるので、説明を省略する。
【0041】
3つの凸部102a〜102cは、上顎の歯列の一部、又は、全部の形状を計測するときの重力方向及び正面方向を計測するためのものである。各凸部102a〜102cは、半球状であり、かつ、それぞれが三角形の頂点となるように配置されている。そして、凸部102a〜102cは、所定の光線を反射する材料で形成されている。なお、上顎の歯列の一部、又は、全部の形状を計測するときには、凸部102は、被験者の口の外に配置される。
一方、方向情報計測器具は、所定の光線を照射するとともに検知する光学装置を有する。このとき、方向情報計測器具は、重力方向と被験者の正面方向との関係がわかるように、例えば、診療用いす等に取り付けられて、使用される。
したがって、被験者の歯列を印象材に接触させた状態で印象材を硬化させたときに、光学装置から凸部102a〜102cに向けて所定の光線を照射するとともに、光学装置で凸部102a〜102cから反射された所定の光線を検出することにより、重力方向及び正面方向を計測することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、歯列の形状を計測することができる歯科用トレー、並びに、それを用いた歯科用装置及び歯科模型に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の一実施形態である歯科用トレーを示す図である。
【図2】本発明に係る方向情報計測器具の一例を示す図である。
【図3】歯科用トレー及び方向情報計測器具の使用方法の一例を示す図である。
【図4】本発明に係る歯科模型形成器具の一例を示す図である。
【図5】歯科用トレー及び歯科模型形成器具の使用方法の一例を示す図である。
【図6】歯列の形状と重力方向及び正面方向とが記録された歯列模型の一例の斜視図である。
【図7】本発明に係る歯科用装置の一例を示す側面図である。
【図8】図7に示す歯科用装置の背面図である。
【図9】図7に示す歯科用装置のA−A線の断面図である。
【図10】図7に示す歯科用装置のB−B線の断面図である。
【図11】図7に示す歯科用装置のC−C線の断面図である。
【図12】本発明の一実施形態である歯科用トレーの他の一例を示す平面図である。
【符号の説明】
【0044】
1、101: 歯科用トレー
2、3、103: 凹部
4: 印象材
5: 方向情報計測器具
11: 印象形成器具
15: 石膏材
20: 歯列模型
40: 歯科用装置
102: 凸部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上顎の歯列の一部、又は、全部の形状を計測する歯列計測手段を有する歯科用トレーであって、
前記形状を計測するときの重力方向及び正面方向を計測するための方向情報参照手段を有することを特徴とする歯科用トレー。
【請求項2】
前記歯列計測手段は、前記形状を記憶するとともに、
前記方向情報参照手段は、前記重力方向及び正面方向を記憶することを特徴とする請求項1に記載の歯科用トレー。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の歯科用トレーを備える歯科用装置であって、
前記方向情報参照手段を用いて、前記重力方向及び正面方向を記憶するか、又は、記憶させる方向情報計測手段を備えることを特徴とする歯科用装置。
【請求項4】
前記方向情報計測手段は、前記重力方向及び正面方向を示す凹凸形状を有する転写プレートを備え、
前記方向情報参照手段は、前記凹凸形状を転写されることを特徴とする請求項3に記載の歯科用装置。
【請求項5】
前記方向情報計測手段は、光線を照射するとともに検知する光学装置を備え、
前記方向情報参照手段は、前記光線を反射することを特徴とする請求項3に記載の歯科用装置。
【請求項6】
被験者の頭蓋の位置と骨盤の位置とを規制する診療用いすを備えることを特徴とする請求項3〜5のいずれか1項に記載の歯科用装置。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の歯科用トレーを用いて製造された歯科模型であって、
前記重力方向及び正面方向を記憶していることを特徴とする歯科模型。





【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図3】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−209607(P2007−209607A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−34080(P2006−34080)
【出願日】平成18年2月10日(2006.2.10)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】