説明

歯科用適用体被覆

本発明は、酸化物セラミックを含む歯科用適用体であって、歯科用適用体が酸化物セラミック、好ましくは酸化ジルコニウムを含む本体材料、及び酸化イットリウム及び/又は酸化セリウム安定化酸化ジルコニウムを含む少なくとも一つの被覆を含み、酸化ジルコニウムに対する被覆内の安定化化合物(C[酸化イットリウム]、C[酸化セリウム])の含有量(mol%)がC[酸化イットリウム]+0.6×C[酸化セリウム]≧4の式を満足することを特徴とする。さらに、本発明は、歯科用適用体を製造するための方法であって、酸化物セラミック、好ましくは主相として正方晶微細構造を有する酸化ジルコニウムを含む本体材料を準備すること、及び酸化イットリウム及び/又は酸化セリウム安定化酸化ジルコニウムを含有する少なくとも一つの被覆を適用することを含み、酸化ジルコニウムに対する被覆内の安定化化合物(C[酸化イットリウム]、C[酸化セリウム])の含有量(mol%)がC[酸化イットリウム]+0.6×C[酸化セリウム]≧4の式を満足することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物セラミックを含む本体材料と少なくとも一つの被覆とを含む、酸化物セラミックを含む歯科用適用体に関する。さらに、本発明は、本体材料を準備し、少なくとも一つの被覆を適用することによって、及び歯科用適用体及び被覆を焼結することによってかかる歯科用適用体を製造するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科用適用におけるセラミック補綴物の使用は長年知られており、焼結された製品の適用は歯科用インプラント、ブリッジ、アバットメントなどを含む。一般に、金属材料に比較して、セラミック材料は特に強度、身体の適合性に関して改良された特性を有し、通常、インプラントを包囲する義歯とほとんど同じような色を持つ。歯科用インプラントとして使用されるセラミック材料のさらなる利点はその低い熱伝導性である。しかしながら、長期間の研究によって、これらのセラミック材料は老化しやすいこと、そして材料の疲労強度が極めて重要であることが明らかになっている。特に臼歯を代替するインプラントとして使用されるとき、インプラントは、それらの強度が特定のしきい値以下になることなしに10年以上の期間にわたって繰り返される応力に対して十分な抵抗力を与えなければならない。
【0003】
特にジルコニアセラミックを使用するとき、3mol%イットリアで安定化されたジルコニアセラミックの正方晶から単斜晶への変態の実施は耐老化性に対して有害な影響を持ち、既に調査されている。例えば、Jerome Chevalierらは、2004年にElsevier,Biomaterialsによって発行された論文「Critical effect of cubic phase on aging in 3mol−%−yttria−stabilised zirconia ceramic for hip replacement prosthesis」において人工股関節における立方相の存在の有意な影響を記載している。
【0004】
酸化ジルコニウムセラミックから作られたブランクは、主に酸化ジルコニウムを含み、さらに少量の酸化ハフニウム、酸化イットリウム並びにアルミニウム、ガリウム、ゲルマニウム、インジウムの酸化物などを含む混合物を使用する例えばEP1210054に開示されている。これらのブランクは50〜65%の細孔容積及び0.1〜3マイクロメートルの領域の細孔サイズを有する。混合物は、特に材料をブランク形態に圧縮することによって所望の形状に予め成形され、続いて850〜1000℃の範囲の温度で焼結される。
【0005】
歯科用インプラントの分野では、セラミック材料は本体の上に被覆を適用する可能性を与え、そこではこの被覆は本体材料に対して増加した気孔率を有する。インプラントの外側表面におけるこのより多孔性の構造はより大きい表面を与え、従ってインプラント自体の改良されたオッセオインテグレーションをもたらす。
【0006】
出願人によって開発又は試験されたそれらの多孔性の被覆のうち、一つは特に有利な結果を示した。この特有の被覆は主成分として酸化ジルコニウムを含む。
【0007】
歯科用インプラントの材料の老化を防止することはセラミックから作られた歯科用インプラントの製造者にとって極めて重要である。老化はインプラントの疲労強度の低下に導き、少なくともその表面においてインプラントの表面の一部がインプラント本体からはがれ落ちることをもたらす。
【0008】
しかしながら、多孔性外部層で被覆されたセラミック体で実施された試験によって、特定の条件下では、かかる被覆は少なくとも本体と被覆の間の界面の性能の老化の促進に導きうることが明らかになった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の実施形態は、好ましくは歯科用適用のためのプリカーサ材料として酸化物セラミックベース体を与えることによって上述のような業界の一つ以上の欠陥、欠点又は問題を単一で又はいかなる組み合わせでも軽減、緩和又は除去しようとするものであり、それは改良された老化能力を有し、たとえ多孔性被覆が改良された長期間安定性を与えるために適用されていたとしても、その全寿命にわたって十分な強度、特に疲労強度を与えるものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
これ及び他の問題は、請求項1の特徴を含む歯科用適用体、及び請求項14の特徴を含むこの歯科用適用体の製造方法によって達成される。本発明の好ましい実施形態はそれぞれの従属請求項に規定される。
【0011】
本発明によれば、酸化物セラミック、好ましくは、酸化ジルコニウム、最も好ましくは主相として正方晶微細構造を有する酸化ジルコニウムを含む本体材料と、酸化イットリウム及び/又は酸化セリウム安定化酸化ジルコニウムを含む少なくとも一つの被覆とを含む歯科用適用体であって、酸化ジルコニウムに対する被覆内の安定化化合物の含有量(C[酸化イットリウム]、C[酸化セリウム])(mol%)が式C[酸化イットリウム]+0.6×C[酸化セリウム]≧4を満足する歯科用適用体が提供される。
【0012】
本発明の好ましい実施形態では、酸化ジルコニウムに対する被覆内の安定化化合物の含有量(C[酸化イットリウム]、C[酸化セリウム])(mol%)が式C[酸化イットリウム]+0.6×C[酸化セリウム]≧6を満足する。
【0013】
本発明の被覆は、両安定化化合物の必要な重量を示す式が満足される限り、単に少なくとも4mol%の酸化イットリウム、好ましくは少なくとも6mol%の酸化イットリウムを添加することによって、又は単に少なくとも6.7mol%の酸化セリウム、好ましくは少なくとも10mol%の酸化セリウムを添加することによって、又は酸化イットリウムと酸化セリウムの好適な混合物を選択することによって安定化されてもよい。
【0014】
本発明は、酸化物セラミック、例えば歯科用インプラントの酸化ジルコニウム本体材料が、本体が酸化イットリウム及び/又は酸化セリウム安定化酸化ジルコニウムを含有する被覆で被覆される限り、酸化セリウム及び酸化イットリウムの含有量が式C[酸化イットリウム]+0.6×C[酸化セリウム]≧4、好ましくはC[酸化イットリウム]+0.6×C[酸化セリウム]≧6を満足する限り、インプラントの耐老化性を全体として劣化させずに好ましくは多孔質の外部層で被覆されることができるという認識に基づく。
【0015】
上述の範囲内でイットリウム及び/又はセリウム酸化物含有量を有するこれらの安定化酸化ジルコニウム材料は今まで脆すぎて、上で説明した種類の歯科用適用のために十分に強くないと考えられてきた。しかしながら、本発明者による研究によって、酸化物セラミック本体材料の上部にかかる被覆を与えることにより、歯科用適用に使用される本体のために十分な強度及び安定性を有し、同時に歯科用インプラントにおける老化特性を全体として防止する本体が提供されることが明らかになった。この文脈において、本体材料は本体の全体強度を与え、本体材料に適用される被覆は、通常の被覆されていない本体と比較して特定の改良を追加するのに好適である。
【0016】
本発明による本体で観察される効果はまだ完全に理解されていない。しかしながら、第一に、式C[酸化イットリウム]+0.6×C[酸化セリウム]≧4好ましくは≧6を満足する含有量を有するセリウム及び/又はイットリウム酸化物で安定化された酸化ジルコニウムが、正方晶ジルコニア材料の老化の基本的な原因と考えられている本体材料中へのいかなる水分子の侵入もほとんど防止できると考えられる。この化学組成物は微細クラックがない無傷のままであるからである。第二に、立方晶酸化ジルコニウムのようなセリウム及び/又はイットリウム酸化物で完全に安定化された酸化ジルコニウム自体は、特に歯科用インプラントとして使用されるときにセラミック材料を包囲する生物圏によって誘発される老化に対して、例えば正方晶酸化ジルコニウムと比較して老化感受性がない。第三に、かかる酸化ジルコニウム被覆は少なくとも一つの被覆の上への外部層の適用のためのより良好な表面及び界面を与える。
【0017】
一般に、本発明による歯科用適用体及び本発明による方法を実施することによって製造されるものは、金属歯科用適用と比較して良好な視覚的外観、正確なオッセオインテグレーション、及び老化感受性の低下、従ってその全寿命にわたって改良された疲労強度を持つセラミック歯科用インプラントを提供する。
【0018】
本発明による本体材料は、従来技術で既に知られたタイプの酸化物セラミックを含む。好ましくは、本体材料のために使用される酸化物セラミックは酸化ジルコニウムを含み、好ましくは主相として正方晶微細構造を持つ。最も好ましくは、正方晶酸化ジルコニウムはアルミナ強化ジルコニアである。ジルコニア複合物は約80容量%又はさらには約50容量%の3mol%酸化イットリウムを有する酸化ジルコニウムを含み、残りの部分は主に酸化アルミニウムを含んでもよい。あるいは、複合物は50容量%〜100容量%の酸化ジルコニウムを含み、残りの部分は酸化アルミニウムを含む。化合物はセリアで安定化されてもよい。
【0019】
これは、5.5重量%以下のY含有量を有する酸化ジルコニウムを含む本体材料をもたらす。
【0020】
用語「主相」は、微細構造の少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%、最も好ましくは75%超が均質な化学組成を有する単一相からなる組成物を包含することを意味される。
【0021】
一般に、本体材料のアルミナ含有は剛いマトリックスをもたらし、従って強い材料をもたらす。さらに、増大したアルミナ含有量を有する材料は老化しにくい。なぜならばアルミナは、歯科用インプラントを一般に包囲する環境と接触しても不活性であるからである。しかし、アルミナ含有量を50%以上に増加すると、弱い材料に導きうる。なぜならばかかる複合物は酸化ジルコニウムよりむしろ酸化アルミニウムの特性を得るように変わるからである。
【0022】
本発明によれば、酸化ジルコニウムに対する被覆内の安定化合物の含有量(C[酸化イットリウム]、C[酸化セリウム])(mol%)が式C[酸化イットリウム]+0.6×C[酸化セリウム]≧4を満足する、酸化イットリウム及び/又は酸化セリウム安定化酸化ジルコニウムを含有する少なくとも一つの被覆は、本体材料の上に適用される。本発明によれば、被覆は本体材料の表面の少なくとも50%、好ましくはその表面の75%より多く被覆する。特に好ましい実施形態では、被覆は本体材料の表面に適用され、その表面は使用時に湿潤環境と接触している。
【0023】
被覆されたセラミック本体を製造する方法は、例えば同じ出願人によって出願された公開番号WO2005/02777/A1を有する国際特許出願に開示されており、その全内容は参考としてここに組み入れられる。この公報の主題はここにクレームされる組成物での被覆に加えて歯科用適用を製造及び作成するために適用されうることが認識される。
【0024】
本発明の好ましい実施形態では、被覆は、酸化ジルコニウム含有量に基づいて10〜20重量%、好ましくは12〜15重量%のセリア含有量を有する酸化ジルコニウムを含む。本発明のさらに好ましい実施形態では、被覆材料は50容量%までのAlを含む。さらに、被覆材料は50〜100容量%の量で酸化セリウム安定化酸化ジルコニウムを含むことが好ましい。
【0025】
これらの組成物は好ましくは、被覆の主要部材を形成する酸化ジルコニウムの安定した立方相を与え、特に疲労強度、被覆及び本体の全体としての色に関する歯科用インプラントの全ての改良された特性を与える本体材料の製造を可能にし、さらなる外部層、好ましくは本体及び被覆より多孔質の構造を有するそれらの層、任意選択的には被覆の上部に適用されるもの、例えばヒドロキシアパタイト(HA)、骨成長促進物質(BMP)、又はオッセオインテグレーションを促進するための他の関連生物学的物質との接続を可能にする。
【0026】
本発明による被覆の厚さは、本体材料の支持能力及び歯科用インプラントの構造的一体性が有害な影響を受けない限り、特定の範囲に制限されない。しかしながら、本発明の好ましい実施形態では、被覆の厚さは5〜300μm,最も好ましくは10〜150μmの範囲にある。この好ましい範囲の厚さを有する被覆は、一方では本体材料、他方では被覆材料の材料特性の改良された組み合わせを提供する。特に、かかる好ましい厚さを有する被覆は本体材料中への実質的な湿分侵入を防止し、さらに被覆の上のさらなる層との信頼性のある接続を可能にする。
【0027】
本発明のさらに好ましい実施形態では、被覆のための基本的な原材料を形成する酸化イットリウム及び/又は酸化セリウム安定化酸化ジルコニウム被覆粉末は0.20〜1.00μm,好ましくは0.40〜0.90μmの粒子サイズを有する。かかる粒子サイズは、同じサイズの他のセラミック体の製造に適用されるものとは顕著に異なる焼結方式(保持時間及び温度)を適用する必要性なしで焼結された成形体を製造するときのプリカーサ材料内の改良された完全な焼結反応を可能にする。
【0028】
さらに、もし少なくとも一つのさらなる(外部)層が被覆に適用されるなら、それは被覆より多孔質である構造を提供することが好ましい。これは、本体材料の上に被覆を形成する安定化された酸化ジルコニウムによって与えられる改良された特性に影響を及ぼさずに本体上へのいかなる外部又は上部層の良好な結合も可能にする。
【0029】
既に上述のように、上記種類の酸化物セラミックは予め造形され、続いて高温で焼結される。上述のような化学組成物を含有するプリカーサ材料は焼結製品のためのプリカーサ材料として使用される。プリカーサ材料は未加工体又は予備焼結体であり、それは被覆及び最終焼結の適用前に例えばフライス加工により機械加工される。このプリカーサ材料に適用される焼結温度は、達成されるべき微細構造及び機械特性に依存する。本発明の好ましい実施形態では、本発明による本体の焼結温度は1300〜1600℃の範囲、好ましくは1400〜1500℃の範囲である。
【0030】
この文脈において、当業者は、相変態のような焼結時の未加工成形体内の望ましい反応が一般に材料に適用される温度及び圧力の結果からもたらされ、そこでは高い圧力は低下した焼結温度、及びその逆も可能にするということを完全に気づいている。いずれの場合においても、好ましい範囲内の温度で焼結を実施することは、望ましい適用のために要求される特性を持つ被覆の微細構造を確実にする。
【0031】
焼結処理は周囲圧力で従来の炉で達成されることができる。しかしながら、本発明の好ましい実施形態では、プリカーサ材料は、高い等静圧がプリカーサ材料上に適用されながら焼結が実施される焼結及び/又は熱間等静圧圧縮成形処理を適用することによって焼結製品に変形される。これは、焼結された本体材料の上の焼結された被覆の安定した接続を可能にする。
【0032】
非焼結本体材料の上に被覆を適用した後に焼結処理が実施されることができることが注目されるべきである。しかしながら、本発明の好ましい実施形態では、本体材料は最初の工程において予備焼結され、被覆は予備焼結された本体に適用され、次いで好ましくは最初の予備焼結工程に既に適用されたものより高い温度で焼結される。さらに、焼結操作は、化学組成、プリカーサ材料の厚さ、及び焼結処理によって達成される微細構造及び/又は強度に依存した適切な焼結温度を考慮して実施される。
【0033】
かくして達成された焼結製品は歯科用インプラントのためのプリカーサ材料であることが好ましい。ブリッジ、アバットメント、クラウン又はコーピングなどの他の適用は本発明による組成を持って形成されてもよい。但し、製造における詳細は様々な所望の特性によってある程度逸脱してもよい。いかなる場合においても、プリカーサ材料の焼結の実施は好ましくは、本体材料と被覆の間の界面を含む焼結製品に導き、かくして好ましくは両材料間の境界に内孔又は他の欠陥なしで被覆から本体材料までの滑らかな移行を与える、本体材料と被覆の間の改良された結合又は接続に導く。
【0034】
本発明による本体の製造のための方法は、酸化物セラミック、好ましくは主相として正方晶微細構造を有する酸化ジルコニウムを含有する本体材料を準備し、酸化イットリウム及び/又は酸化セリウム安定化酸化ジルコニウムを含有する少なくとも一つの被覆を適用する工程を含み、酸化ジルコニウムに対する被覆内の安定化化合物の含有量(C[酸化イットリウム]、C[酸化セリウム])(mol%)は式C[酸化イットリウム]+0.6×C[酸化セリウム]≧4好ましくは≧6を満足する。
【0035】
これらの方法工程を実施することは、有利な特性及び既に上述したような特性を与える焼結製品のためのプリカーサ材料として歯科用適用体に導くだろう。
【0036】
本発明による方法の好ましい実施形態では、本体材料は予備焼結され、続いて焼結される。さらなる工程では、被覆は、第一に、被覆材料を含有するスラリーを準備し、第二にこのスラリーを本体の表面上に噴射し、続いて乾燥処理を行うことによって焼結された本体に適用される。本発明の特に好ましい実施形態では、被覆は、所望の厚さの被覆を達成するまで、一連の交互の噴射及び乾燥工程で本体に適用される。
【0037】
以下の表1に与えられた組成を有する材料試料が製造され、それらの密度、強度及び老化特性に関して試験された。
【0038】
【表1】

【0039】
全ての材料試料は所定温度で焼結され、粉砕され、電子顕微鏡を使用することによって視覚的に検査された。さらに、材料試料はそれらの微細構造、それらの本体材料の密度、及びそれらの二軸強度試験における強度に関して検査された。
【0040】
さらに、全ての材料試料は老化試験を受け、そこでは一つの試料は約140℃の温度を有する熱水に24時間にわたって試験され、他の試料(長期間)は約90℃の高温を有する熱水に6週間にわたって行なわれた。材料試料の微細構造は、それらの単斜晶微細構造の含有量を評価するために調査された。それは正方晶から単斜晶への相変態から生じるものであると期待され、それは老化試験時の材料試料に起こる老化の量の指標であると考えられる。第二の調査は、同じ条件下で12週間後に行なわれた。
【図面の簡単な説明】
【0041】
本発明は、例証的試料で実施される試験の結果を示す添付図面を参照して以下に詳細に説明されるだろう。これらの図は本発明のための限定であると考えられず、例証目的だけのために与えられる。
【0042】
【図1a】図1aは、ジルコニア(酸化ジルコニウム)ベース材料をイットリア(酸化イットリウム)でドープする量に依存して老化試験を受ける別個の試料の単斜晶含有量(%)を示すダイヤグラムである。
【0043】
【図1b】図1bは、シュミレートされた老化試験の前に3mol%の酸化イットリウムで安定化されたジルコニアを含む本体材料2の試料の四つの写真の一覧である。
【0044】
【図2a−1】図2a:1は、各々が異なる含有量の酸化イットリウムで実質的に緻密な外部層を有する本体材料に適用された6週間の長期間老化試験後の中間結果を示す試料からの二つのSEM顕微鏡写真の一覧である。
【図2a−2】図2a:2は、各々が異なる含有量の酸化イットリウムで実質的に緻密な外部層を有する本体材料に適用された6週間の長期間老化試験後の中間結果を示す試料からの二つのSEM顕微鏡写真の一覧である。
【0045】
【図2b−1】図2b:1は、各々が異なる含有量の酸化イットリウムで実質的に緻密な外部層を有する本体材料に適用された12週間の長期間老化試験後の結果を示す試料からの二つのSEM顕微鏡写真の一覧である。
【図2b−2】図2b:2は、各々が異なる含有量の酸化イットリウムで実質的に緻密な外部層を有する本体材料に適用された12週間の長期間老化試験後の結果を示す試料からの二つのSEM顕微鏡写真の一覧である。
【0046】
【図3a−1】図3a:1は、各々が異なる含有量の酸化イットリウムで多孔質外部層を有する本体材料に適用された6週間の長期間老化試験後の中間結果を示す試料からの二つのSEM顕微鏡写真の一覧である。
【図3a−2】図3a:2は、各々が異なる含有量の酸化イットリウムで多孔質外部層を有する本体材料に適用された6週間の長期間老化試験後の中間結果を示す試料からの二つのSEM顕微鏡写真の一覧である。
【0047】
【図3b−1】図3b:1は、各々が異なる含有量の酸化イットリウムで多孔質外部層を有する本体材料に適用された12週間の長期間老化試験後の結果を示す試料からの二つのSEM顕微鏡の一覧である。
【図3b−2】図3b:2は、各々が異なる含有量の酸化イットリウムで多孔質外部層を有する本体材料に適用された12週間の長期間老化試験後の結果を示す試料からの二つのSEM顕微鏡の一覧である。
【0048】
【図4】図4は、図3b:1の試料の拡大されたSEM顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0049】
図1aは、ジルコニアベース材料を酸化イットリウムでドープする量に依存して第一老化試験を受けた別個の試験試料の単斜晶含有量(%)を示すダイヤグラムを示す。粉末は700Kg/cmの一軸適用圧力で圧縮され、1500℃の温度で2時間にわたって焼結され、焼結された試料の完全な正方晶構造をもたらす。老化試験条件は、約140℃の温度の熱水に試料を24時間浸漬することを含んでいた。試験試料は、微細構造の検査を実施するために、乾燥され、表面研磨され、エッチングされた。各試料において実現される老化の量は、正方晶から単斜晶への相変態から生じる各試料内の単斜晶相の量と一致する。結果として、それらの少ない単斜晶相の含有量を示す試料は老化感受性がないものとして考えられ、一方、それらの微細構造内に単斜晶相の増大した含有量を有するそれらの試料は低下した老化耐性を有するものとして考えられた。ダイヤグラムは酸化イットリウム安定化ジルコニアのグレードに言及し、そこではグレード2は約4mol%のイットリウム含有量と一致し、グレード5は約5mol%のイットリウム含有量と一致するなどである。ダイヤグラムは、3mol%のイットリア含有量が80.8%の老化試験後の単斜晶相の量に導き、4mol%のイットリア含有量が42.4%の老化試験後の単斜晶相の量に導き、5mol%のイットリア含有量が3.5%の老化試験後の単斜晶相の量に導くこと、及び8mol%以上のイットリア含有量が0%の老化試験後の単斜晶の量に導くことを示す。本発明の目的のために、少なくとも4mol%のイットリウム含有量が要求される。なぜならばジルコニアベース材料のかかるドーピングは高温の材料内の顕著に低下した相変態に導き、かくして改良された老化耐性を明らかに示すからである。
【0050】
この知見に基づいた試験は、本発明による教示では、ジルコニアベース材料を安定化するために使用される酸化イットリウムの含有量が本体材料2内の老化を十分な方法で抑制するためには6mol%であることを最終的にもたらした。試料A−Dに対して、第一バッチの試料が作られ、そこでは各試料は第一タイプの外部層を有していた。試料E−Hに対して、第二バッチの試料が作られ、そこでは各試料は第二タイプの外部層を有していた。また、各バッチについて外部層は異なる量のドーピング材料を有していた。第一バッチの外部層は第二バッチの外部層より緻密であった。第一外部層は緻密層として言及され、それは第二外部層より緻密であることを意味する。対応して、第二外部層は多孔質外部層として言及され、それは第一外部層より多孔質であることを意味する。各バッチに対して、シュミレートされた老化が6週間及び12週間のそれぞれで実施された。
【0051】
図1bは、3mol%酸化イットリウムで安定化されたジルコニアを含む本体材料2の試料の四つの写真からなる。本体材料2は、6mol%酸化イットリウムで安定化されたジルコニアを含む実質的に緻密な外部層で被覆される。図1bの試料は表1の材料No.3に相当する。写真I及びIIは試料のSEM写真の異なる分解能を示す。写真III及びIVは試料のEDXマッピングであり、そこでは写真IIIは試料の相対的なジルコニウム含有量を示し、試料IVは試料の相対的なイットリウム含有量を示す。写真IIでわかるように、実質的に緻密な外部層は前記層1における明度の差でわかるように厚さtを有する。厚さは写真IVでもわかることができ、それはまた、明度の差から明らかである。図1bの試料はシュミレートされた老化にさらされず、老化前の図2a及び2bの試料に匹敵する。
【0052】
図2a:1−2a:2は、第一バッチの二つの試料、試料A及び試料Bからの四つのSEM顕微鏡写真の一覧であり、各々が異なる含有量の酸化イットリウムを有する実質的に緻密な外部層21a、21bを有する本体材料22に適用された長期間老化試験(6週間後)の中間結果を示す。試料Aの本体材料22(図2a:1、写真I及びII)は3mol%酸化イットリウムで安定化されたジルコニアである。試料Aの実質的に緻密な外部層21aは、6mol%酸化イットリウムで安定化されたジルコニアである。試料Aは表1の材料No.3に相当する。試料Aによる組成とは対照的に、参照として使用される試料B(図2a:2、写真III及びIV)は、3mol%酸化イットリウムで安定化されたジルコニアを含む本体材料22,及び同様に3mol%酸化イットリウムを含有する実質的に緻密な外部層1bを有する。試料Bは、表1の材料No.1に相当する。図2a:1−2a:2の全ての写真I〜IVは、約90℃の高温を有する熱水中に試料を6週間浸漬することによって実施される同じシュミレートされた老化処理を受けた試料A及びBの顕微鏡写真を示す。両試料A及びBにおいて、実質的に緻密な外部層1a、1bは写真I及びIIIに示されるように本体材料22の上側に適用され、緻密な外部層21a、21bは写真II及びIVに示されるように本体材料22の下側に全く適用されない。従って、本体材料22の下側は高温を有する水に直接さらされ、一方、本体材料22は試料の上側で高温の水から保護された。図2a:1の写真IとIIを比較するとき、実質的に緻密な外部層と本体材料22の間の界面の上側の本体材料22(写真I)が連続的な濃い灰色であり、一方、高温の水にさらされた下側の本体材料2(写真II)が前記水にさらされた表面からさらに離れるほど濃い灰色になる薄い灰色の層23aを有して見えることが明らかである。試料Aで実施されるさらなる分析は、この明度の差が相変態が薄い灰色の領域、即ち本体材料22の下側で起こることを示すことを明らかに示した。これとは対照的に、6mol%酸化イットリウムを含有する実質的に緻密な外部層21aで被覆された本体材料22の上側では相変態は全く出現しなかった。試料Bを示す図2a:2の写真III及びIVに移ると、写真IIIでは、本体材料22は実質的に緻密な外部層1bで薄い灰色層24を有し、本体材料22は実質的に緻密な外部層21aから離れるほど濃くなる灰色を有する。写真IVでは、高温の水にさらされた下側の本体材料22は薄い灰色を有する層23bを持ち、前記水にさらされた表面から離れるほど濃い灰色である。層23a及び層24は同様の色を持つ。さらに、層24の厚さt1は層23bの厚さt2と実質的に同じである。従って、相変態は実質的に緻密な外部層21a(それは層24によって示される)で起こることが明らかである。さらに、実質的に緻密な外部層21aにおける相変態の量、従って老化は、本体材料22が3mol%酸化イットリウムを含有する実質的に緻密な外部層21bによって保護されるかどうかにかかわらず同じであると見られる。図2a:1−2a:2の写真の分析の結果として、本体材料22の正方晶から単斜晶の微細構造への相変態は、3mol%の酸化イットリウム含有量を有するジルコニアを含む実質的に緻密な外部層21bで本体材料2を被覆することによって実質的に延期されないこと(試料B、写真III及びIV)が結論づけられる。実質的に緻密な層はそれ自体老化の傾向を持つからである。一方、高温の水によって誘導される本体材料22の老化は、6mol%の酸化イットリウム含有量を有するイットリア安定化ジルコニアを含む実質的に緻密な外部層21aによって被覆されるときにほとんど観察されることはない(試料A、写真I)。但し、かかる老化は高温の水に直接さらされた本体材料22の下側で実際に起こる(写真II)。従って、老化試験は、後者の被覆で老化の開始が少なくとも延期されることを示す。ある実施形態では、実質的に緻密な外部層21a、21bは表面被覆である。
【0053】
図2b:1−2b:2は、第一バッチの二つの試料、試料C及び試料Dからの四つの顕微鏡写真の一覧であり、長期間老化試験(12週間後)の最終結果を示す。この試験では、図2a:1−2a:2と同じ本体材料及び実質的に緻密な外部層が使用され、長いシュミレートされた老化にさらされた。従って、試料C及び試料Dのそれぞれの本体材料32は、異なる含有量の酸化イットリウムを有する実質的に緻密な外部層31a、31bを持つ。試料Cの本体材料32(写真I及びII)は3mol%酸化イットリウムで安定化されたジルコニアである。試料Cの実質的に緻密な外部層31aは6mol%酸化イットリウムで安定化されたジルコニアである。試料Cは表1の材料No.3に相当する。試料D(写真III及びIV)は、3mol%酸化イットリウムで安定化されたジルコニアを含む本体材料32、及び同様に3mol%酸化イットリウムで安定化されたジルコニアを含む実質的に緻密な外部層31bを有する。試料Dは、表1の材料No.1に相当する。図2b:1−2b:2の全ての写真I〜IVは、約90℃の高温を有する熱水中に試料を12週間浸漬することによって実施される同じシュミレートされた老化処理を受けた試料C及びDの顕微鏡写真を示す。両試料C及びDにおいて、実質的に緻密な外部層31a、31bは、写真I及びIIIに示されるように本体材料32の上側に適用され、緻密な外部層31a、31bは写真II及びIVに示されるように本体材料32の下側に適用されない。従って、本体材料32の下側は高温を有する水に直接さらされた。写真IとIIを比較するとき、実質的に緻密な外部層と本体材料32の間の界面の上側の本体材料32(写真I)が濃い灰色であり、一方、高温の水にさらされた下側の本体材料32(写真II)が薄い灰色及び実質的に均一な厚さt3を有する層33aを持ち、前記水にさらされる表面から遠いほど濃い灰色であることが明らかである。試料Cで実施されるさらなる分析は、相変態が本体材料32の下側で起こり、一方、6mol%酸化イットリウムを含有する実質的に緻密な外部層31aによって保護された本体材料32で相変態は実質的に起こらないことを明らかに示した。試料Dを示す図2b:2の写真III及びIVに移ると、写真IIIでは、高温の水から本体材料32を保護する層31bは厚さt4及び薄い灰色を有する層34を持ち、層31bの表面から離れるほど濃い灰色である。写真VIでは、高温の水にさらされた下側の本体材料32は厚さt5を有する薄い灰色層33bを持ち、前記水にさらされた表面から離れるほど濃い灰色である。層34及び層33bは実質的に同じ色及び厚さt4,t5を有する。従って、相変態は、実質的に緻密な外部層31aによって保護された本体材料32並びに前記水に直接さらされた表面において起こったことが明らかである。従って、相変態の量、従って老化は、本体材料が3mol%酸化イットリウムで安定化されたジルコニアを含む実質的に緻密な外部層31bによって被覆されるかどうかにかかわらず同じである。図2b:1−2b:2の写真の分析の結果として、本体材料32の正方晶から単斜晶の微細構造への相変態は3mol%の酸化イットリウム含有量を有するジルコニアを含む実質的に緻密な外部層31bで本体材料を被覆することによって実質的に延期されないこと(試料D、写真III及びIV)、一方、高温の水によって誘導される本体材料32の老化は、本体材料32が6mol%の酸化イットリウム含有量を有するイットリア安定化ジルコニアを含む実質的に緻密な外部層31aによって被覆されるときにほとんど観察されることはない(試料C、写真I)ことが結論づけられる。但し、かかる老化は高温の水にさらされた本体材料32の下側(試料C、写真II)において実際に起こり、それはいかなる緻密な外部層も全く持たず、前記水に直接さらされる。従って、12週間の長い老化試験は、後者の被覆で老化の開始が少なくとも延期されることを確認する。ある実施形態では、実質的に緻密な外部層31a、31bは表面被覆である。老化にさらされない図1bの試料と図2b:1の試料1を比較することによって、層1、1aと本体材料2、32の明度の差は実質的に同じである。従って、この差はシュミレートされた老化に原因がある。
【0054】
図3a:1−3a:2は、第二バッチの二つの試料、試料E及び試料Fからの四つのSEM顕微鏡写真の一覧であり、各々が異なる含有量の酸化イットリウムを有する多孔質の外部層41a、41bを有する本体材料42に適用された長期間老化試験(6週間後)の中間結果を示す。試料Eの本体材料42(図3a:1、写真I及びII)は3mol%酸化イットリウムで安定化されたジルコニアである。試料Eの多孔質の外部層41aは、6mol%酸化イットリウムで安定化されたジルコニアである。試料Eは表1の材料No.4に相当する。試料Eによる組成とは対照的に、試料F(図3a:2、写真III及びIV)は、3mol%酸化イットリウムで安定化されたジルコニアを含む本体材料42,及び同様に3mol%酸化イットリウムを含有する多孔質の外部層41bを有する。試料Fは、表1の材料No.2に相当する。図3a:1−3a:2の全ての写真I〜IVは、約90℃の高温を有する熱水中に試料を6週間浸漬することによって実施される同じシュミレートされた老化処理を受ける試料E及びFの顕微鏡写真を示す。両試料E及びFにおいて、多孔質の外部層41a、41bは写真I及びIIIに示されるように本体材料42の上側に適用され、多孔質の外部層41a、41bは写真II及びIVに示されるように本体材料42の下側に全く適用されない。従って、本体材料42の下側は高温を有する水に直接さらされ、一方、本体材料42は試料の上側で高温の水から部分的に保護された。図3a:1の写真IとIIを比較するとき、多孔質の外部層と本体材料42の間の界面の上側の本体材料42(写真I)が連続的な濃い灰色であり、一方、高温の水にさらされた下側の本体材料42(写真II)が濃い灰色の中に薄い灰色の層43aを有して見えることが明らかである。試料Eで実施されるさらなる分析は、この明度の差が相変態が薄い灰色の領域、即ち本体材料42の下側で起こることを示すことを明らかに示した。これとは対照的に、6mol%酸化イットリウムを含有する多孔質の外部層41aで被覆された本体材料42の上側では相変態は全く出現しなかった。試料Fを示す図3a:1の写真III及びIVに移ると、写真IIIでは、本体材料42は多孔質の外部層41bと本体材料42の間の界面で厚さt6の薄い灰色層44を有し、多孔質の外部層41aから離れるほど濃くなる灰色を有する。写真IVでは、高温の水にさらされた下側の本体材料42は薄い灰色を有する厚さt7の層43bを持ち、前記水にさらされた表面から離れるほど濃い灰色である。層43a及び層44は同様の色を持つ。さらに、層44の厚さは層43bの厚さと実質的に同じである。従って、相変態は、層43bによって示される、前記水に直接さらされた表面の本体材料2、並びに層44によって示される、多孔質外部層41bによって部分的に保護された本体材料42で起こることが明らかである。さらに、本体材料42における相変態の量、従って老化は、本体材料42が3mol%酸化イットリウムを含有する多孔質の外部層41bによって部分的に保護されるかどうかにかかわらず同じであると見られる。図3a:1−3a:2の写真の分析の結果として、本体材料42の正方晶から単斜晶の微細構造への相変態は3mol%の酸化イットリウム含有量を有するジルコニアを含む多孔質の外部層41bで本体材料42を被覆することによって実質的に防止されないこと(試料F、写真III及びIV)、一方、高温の水によって誘導される本体材料42の老化は、6mol%の酸化イットリウム含有量を有するイットリア安定化ジルコニアを含む多孔質の外部層41aによって被覆されるときにほとんど観察されることができないこと(試料E、写真I)が結論づけられる。但し、かかる老化は高温の水に直接さらされた本体材料42の下側で実際に起こる(写真II)。従って、老化試験は、後者の被覆で老化の開始が少なくとも延期されることを示す。ある実施形態では、多孔質の外部層41a、41bは表面被覆である。
【0055】
図3b:1−3b:2は、第二バッチの二つの試料からの四つの顕微鏡写真の一覧であり、長期間老化試験(12週間後)の最終結果を示す。この試験では、図3b:1−3b:2と同じ本体材料及び多孔質の外部層が使用され、長いシュミレートされた老化にさらされた。従って、試料G及び試料Hのそれぞれの本体材料52は、異なる含有量の酸化イットリウムを有する多孔質の外部層51a、51bを持つ。試料Gの本体材料52(写真I及びII)は3mol%酸化イットリウムで安定化されたジルコニアである。試料Gの多孔質の外部層51aは6mol%酸化イットリウムで安定化されたジルコニアである。試料Gは表1の材料No.4に相当する。試料H(写真III及びIV)は、3mol%酸化イットリウムで安定化されたジルコニアを含む本体材料52、及び同様に3mol%酸化イットリウムで安定化されたジルコニアを含む多孔質の外部層51bを有する。試料Hは、表1の材料No.2に相当する。図3b:1−3b:2の全ての写真I〜IVは、約90℃の高温を有する熱水中に試料を12週間浸漬することによって実施される同じシュミレートされた老化処理を受けた試料G及びHの顕微鏡写真を示す。両試料G及びHにおいて、多孔質の外部層51a、51bは、写真I及びIIIに示されるように本体材料52の上側に適用され、多孔質の外部層51a、51bは写真II及びIVに示されるように本体材料52の下側に適用されない。従って、本体材料52の下側は高温を有する水に直接さらされた。写真IとIIを比較するとき、多孔質の外部層と本体材料52の間の界面の上側の本体材料52(写真I)が多孔質の外部層51aからわかるように凸部を除いて濃い灰色で写真Iの中央において薄い灰色領域55であり、一方、高温の水にさらされた下側の本体材料52(写真II)が薄い灰色及び実質的に均一な厚さを有する層53aを持ち、前記水にさらされる表面から遠いほど濃い灰色であることが明らかである。また、層53aは、試料の表面から測定すると領域55より厚い。試料Gで実施されるさらなる分析は、領域55と多孔質の外部層53aの間の幅の差が、本体材料52の下側で起こった相変態の量が6mol%酸化イットリウムを含有する多孔質の外部層51aによって部分的に保護された本体材料52の領域55で起こった相変態の量より大きいことを示すことを明らかに示した。多孔質の外部層と本体材料52の間の界面で起こった相変態は、3mol%酸化イットリウムで安定化されたジルコニア、及び3mol%酸化イットリウムで安定化されたジルコニアを含む多孔質の外部層51bと比較して実質的に妨げられる。これはさらに図4に示され、そこでは試料Gの幅広い部分が示され、複数の凸状領域55a、55b、55cにおいて持続した相変態のための種として作用する少ない局所的な粒子で相変態が起こっている。試料Hを示す図3b:2の写真III及びIVに移ると、写真IIIでは、高温の水から部分的に保護された本体材料52は、厚さt8及び前記層51bに向かって薄くなる灰色を有する層54を持ち、前記層51bの表面から離れるほど濃い灰色である。写真IVでは、高温の水にさらされた下側の本体材料52は、厚さt9を有する薄い灰色層53bを持ち、前記水にさらされた表面から離れるほど濃い灰色である。層54及び層53bは実質的に同じ色及び厚さt8,t9を有する。従って、相変態は、多孔質の外部層51aによって部分的に保護された本体材料52並びに前記水に直接さらされた表面において起こったことが明らかである。従って、相変態の量、従って老化は、本体材料が3mol%酸化イットリウムで安定化されたジルコニアを含む多孔質の外部層51bによって被覆されるかどうかにかかわらず同じである。図3b:1−3b:2の写真の分析の結果として、本体材料52の正方晶から単斜晶の微細構造への相変態は3mol%の酸化イットリウム含有量を有するジルコニアを含む多孔質の外部層51bで本体材料52を被覆することによって妨げられないこと(試料F、写真III及びIV)、一方、高温の水によって誘導される本体材料52の老化は、本体材料52が6mol%の酸化イットリウム含有量を有するイットリア安定化ジルコニアを含む多孔質の外部層51aによって被覆されるときにほとんど観察されることができないこと(試料G、写真I)が結論づけられる。但し、かかる老化は高温の水にさらされた本体材料52の下側(試料G、写真II)において実際に起こり、それはいかなる多孔質の外部層も全く持たず、前記水に直接さらされる。従って、12週間の長い老化試験は、後者の被覆で老化の開始が少なくとも延期されることを確認する。ある実施形態では、実質的に緻密な外部層31a、31bは表面被覆である。ある実施形態では、多孔質の外部層51a、51bは表面被覆である。
【0056】
上記実施形態から結論づけられるように、酸化イットリウム及び/又は酸化セリウム安定化酸化ジルコニウムを含む少なくとも一つの被覆によって保護された酸化ジルコニウムのような酸化物セラミックを含む本体の本体材料は、酸化ジルコニウムに対する被覆内の安定化化合物の含有量(C[酸化イットリウム]、C[酸化セリウム])(mol%)が式C[酸化イットリウム]+0.6×C[酸化セリウム]≧4を満足する場合には老化の開始を少なくとも延期することができる。
【0057】
また、上の実施形態から、開始の延期は被覆又は層の多孔性に依存することが結論づけられる。緻密な被覆又は層は、同じ材料組成を有する多孔質な層又は被覆より老化の開始を延期することができる。
【0058】
本発明の実施形態による歯科用適用体は、老化が問題となる適用において有用である。かかる老化は、例えば骨固定インプラントのような人間の組織の臨床使用に直接関連することができる。かかるインプラントは、例えば負荷を受けるインプラント、例えばインプラントを固定するためのねじ構造を含む骨固定歯科用フィクスチャーを含む歯科用インプラントを含んでもよい。かかる適用では、老化の開始を少なくとも延期する、例えば臨床的に関連するものを越えて延期することが望ましい。臨床的に関連するものは実際の適用に依存する。上で述べたように、本体材料の上の被覆又は層の多孔性は、老化の開始の延期を制御するために使用されることができる。
【0059】
本発明は、特定の実施形態を参照して上で説明された。しかしながら、上記以外の他の実施形態は本発明の範囲内で等しく可能である。本発明の様々な特徴及び工程は上記以外の他の組み合わせで組み合わされることができる。本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によって限定されるにすぎない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物セラミックを含む歯科用適用体であって、歯科用適用体が
− 酸化物セラミック、好ましくは酸化ジルコニウムを含む本体材料、及び
− 酸化イットリウム及び/又は酸化セリウム安定化酸化ジルコニウムを含む少なくとも一つの被覆
を含み、酸化ジルコニウムに対する被覆内の安定化化合物(C[酸化イットリウム]、C[酸化セリウム])の含有量(mol%)が以下の式を満足することを特徴とする歯科用適用体:
[酸化イットリウム]+0.6×C[酸化セリウム]≧4
【請求項2】
酸化ジルコニウムに対する被覆内の安定化化合物の含有量(mol%)が以下の式を満足することを特徴とする請求項1に記載の歯科用適用体:
[酸化イットリウム]+0.6×C[酸化セリウム]≧6
【請求項3】
被覆が酸化イットリウム安定化酸化ジルコニウムを含むこと、及び酸化ジルコニウムに対する被覆内の酸化イットリウム含有量が少なくとも6mol%であることを特徴とする請求項1又は2に記載の歯科用適用体。
【請求項4】
被覆が酸化セリウム安定化酸化ジルコニウムを含むこと、及び酸化ジルコニウムに対する被覆内の酸化セリウム含有量が少なくとも10mol%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の歯科用適用体。
【請求項5】
被覆が酸化ジルコニウム含有量に基づいて10〜20重量%、好ましくは12〜15重量%のY含有量を有する酸化ジルコニウムを含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の歯科用適用体。
【請求項6】
被覆材料が50重量%までのAlを含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の歯科用適用体。
【請求項7】
被覆材料が50重量%までの量で酸化セリウム安定化酸化ジルコニウムを含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の歯科用適用体。
【請求項8】
被覆の厚さが5〜300μm、好ましくは10〜150μmの範囲であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の歯科用適用体。
【請求項9】
酸化イットリウム安定化酸化ジルコニウム被覆が主相として立方相を有することを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の歯科用適用体。
【請求項10】
酸化イットリウム又は酸化セリウム安定化酸化ジルコニウム被覆が粉末から作られ、それが0.20〜1.00μm、好ましくは0.40〜0.90μmの粒子サイズを有することを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の歯科用適用体。
【請求項11】
歯科用適用体が被覆の上に少なくとも一つのさらなる層を含むことを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の歯科用適用体。
【請求項12】
少なくとも一つのさらなる層が本体及び被覆と比べて増加した気孔率を有することを特徴とする請求項11に記載の歯科用適用体。
【請求項13】
本体がインプラント、ブリッジ、アバットメント、クラウン、及び顎顔面領域に使用するためのクラウンのいずれか一つのためのプリカーサ材料であることを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載の歯科用適用体。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれかに記載の歯科用適用体を製造するための方法であって、方法が
− 酸化物セラミック、好ましくは主相として正方晶微細構造を有する酸化ジルコニウムを含む本体材料を準備すること、及び
− 酸化イットリウム及び/又は酸化セリウム安定化酸化ジルコニウムを含有する少なくとも一つの被覆を適用すること
を含み、酸化ジルコニウムに対する被覆内の安定化化合物(C[酸化イットリウム]、C[酸化セリウム])の含有量(mol%)が以下の式を満足することを特徴とする方法:
[酸化イットリウム]+0.6×C[酸化セリウム]≧4
【請求項15】
歯科用適用体が焼結製品を製造するために焼結処理を受けること、及び焼結が13000〜1600℃、好ましくは1400〜1500℃の範囲の焼結温度で実施されることを特徴とする請求項14に記載の方法。

【図1a】
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【図1b】
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【図2a−1】
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【図2a−2】
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【図2b−1】
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【図2b−2】
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【図3a−1】
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【図3a−2】
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【図3b−1】
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【図3b−2】
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【図4】
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【公表番号】特表2012−530091(P2012−530091A)
【公表日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−515393(P2012−515393)
【出願日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際出願番号】PCT/EP2010/003636
【国際公開番号】WO2010/145822
【国際公開日】平成22年12月23日(2010.12.23)
【出願人】(506260386)ノベル バイオケア サーヴィシィズ アーゲー (42)
【Fターム(参考)】