説明

歯科診療装置

【課題】診療作業時において、インスツルメントホルダをヘッドレストとの適正な相対位置に簡易且つ的確に位置付けることができる歯科診療装置を提供する。
【解決手段】ヘッドレスト13を備えた歯科診療台1と、該歯科診療台1の側部に設置されたスピットン装置2と、該スピットン装置2に可動アーム4を介して位置移動可能に保持されたインスツルメントホルダ5と、該可動アーム4を作動させる駆動手段400と、該駆動手段400の駆動を制御する制御部と、使用時における前記インスツルメントホルダ5の予め設定された前記ヘッドレストとの相対的な位置情報を記憶する記憶手段とを備え、前記制御部は、前記インスツルメントホルダ5の使用の為に前記可動アーム4の作動指示があった時、前記記憶手段から前記位置情報を読出し、前記駆動手段400を駆動させて、インスツルメントホルダ5を当該位置情報に基づく位置に位置付けるよう制御することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科診療装置に関し、更に詳しくは、歯科診療時に術者(ドクター、アシスタント)によって使用される各種インスツルメントを保持する為のインスツルメントホルダを備えた歯科診療装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
歯科診療装置は、座席シート、背板シート及びヘッドレストを備えた歯科診療台と、該歯科診療台の側部に設置されたスピットン装置とを主な構成部材として備える。そして、このような歯科診療装置による歯科診療においては、診療台上に仰臥した患者の患部(口腔)周りの適所に術者が位置して、インスツルメントホルダに保持された各種インスツルメントから診療態様に応じたインスツルメントをピックアップして歯科の診療を行う。インスツルメントホルダは、診療台の側部に位置移動可能に設置されるトレーテーブルや、背板シートの肩部若しくは側部、或いは、前記スピットン装置等に設けられている。インスツルメントは、歯科診療において頻繁に使用され、その為、術者の使い勝手や診療の効率性等の観点から、インスツルメントホルダが、インスツルメントのピックアップや収納がし易い位置にあることが望ましく、一方、インスツルメントを使用しない時には、診療の邪魔にならない位置にあることが望ましい。特許文献1及び特許文献2には、スピットン装置にアーム(支杆)を介してインスツルメントホルダが保持された例が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実公昭62−17055号公報
【特許文献2】実公昭62−17072号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記のような歯科診療台においては、座席シートが基台に対して上下昇降可能に支持され、また、背板シートが該座席シートの一端部に傾動可能に連設されている。近時、このような座席シート及び背板シートの機能に加えて、ヘッドレストを背板シートに対して伸縮可能とし、或いは背板シートを座席シートに対して伸縮可能とした歯科診療台も開発され実用化されるようになった。このような歯科診療台においては、患者を着座させた際に、患者の体格(身長、座高、体厚)に合わせて、座席シートの高さ、ヘッドレストや背板シートの出幅調整等ができる為、診療台上での患者の負担の少ない仰臥姿勢を確保しつつ術者個々の診療スタイルに簡易に適合させることができる。しかし、インスツルメントホルダが前記のようにスピットン装置に設けられる場合は、このような位置調整を行った際に、インスツルメントホルダとヘッドレスト上の患部(患者口腔部)との距離が初期状態から変化(接近或いは離反)することになる。このようにインスツルメントホルダとヘッドレストとの距離が変化すると、上記のように術者と患部との相対位置関係が適正に調整されたにも拘わらず、術者がインスツルメントをインスツルメントホルダからピックアップし、或いは、インスツルメントホルダに収納することがし難くなったりすることがある。その為、改めてインスツルメントホルダの位置調整を行う必要があり、これによる煩わしさはなお残存することは否めなかった。インスツルメントホルダとヘッドレストとの相対位置関係が適正でない場合は、背板シートからはみ出した患者の髪や肩等の患者の体の一部がインスツルメントのピックアップ或いは収納作業の障害となったり、術者がインスツルメントのピックアップ或いは収納を行おうとする際に不自然な姿勢となることによって、患者に不快感を与えてしまったりすることがある。これによって、診療の円滑性や快適性が損なわれることにもなる。
【0005】
特許文献1に開示された歯科診療装置においては、インスツルメントホルダが、屈折自在なアームを介し、水平移動可能にスピットン装置に保持されている。この場合、術者は、アームの屈折自在な機能を利用して、インスツルメントホルダを自らが診療し易い位置に引き寄せて診療作業を行う。しかし、診療台を前記のように上下等の位置調整をすると、スピットン装置の位置は変わらないから、ヘッドレストとインスツルメントホルダの相対位置が変化し、その都度インスツルメントホルダの位置調整を行う必要がある。また、特許文献2には、診療台の側部に沿って移動自在に設けられたスピットン装置に、インスツルメントホルダが支杆を介して水平回動可能に取付けられた歯科診療装置が開示されている。本特許文献において、スピットン装置を診療台の側部に沿って移動自在とした理由は、スピットン装置側から患者が診療台に乗り降りする場合にも支障がないようにする為であり、インスツルメントホルダは当該スピットン装置と共に移動するが、術者の使い勝手に合わせるよう移動されるものではない。そして、インスツルメントホルダは支杆の水平回動範囲内でその位置調整が可能とされているが、この場合も、診療台の位置調整を行うとその都度インスツルメントホルダを適正位置に調整する必要がある。これら特許文献に開示されたインスツルメントホルダは、いずれも、診療台の上下等の位置調整を行う毎に診療に適正な位置に位置付ける必要がある為、これが煩わしさを惹起し、また診療の円滑性を阻害する要因ともなる。
【0006】
本発明は、上記に鑑みなされたものであり、診療作業時において、インスツルメントホルダをヘッドレストとの適正な相対位置に簡易且つ的確に位置付けることができる歯科診療装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る歯科診療装置は、ヘッドレストを備えた歯科診療台と、該歯科診療台の側部に設置されたスピットン装置と、該スピットン装置に可動アームを介して位置移動可能に保持されたインスツルメントホルダと、該可動アームを作動させる駆動手段と、該駆動手段の駆動を制御する制御部と、使用時における前記インスツルメントホルダの予め設定された前記ヘッドレストとの相対的な位置情報を記憶する記憶手段とを備え、前記制御部は、前記インスツルメントホルダの使用の為に前記可動アームの作動指示があった時、前記記憶手段から前記位置情報を読出し、前記駆動手段を駆動させて、インスツルメントホルダを当該位置情報に基づく位置に位置付けるよう制御することを特徴とする。
【0008】
本発明において、前記可動アームが、前記駆動手段によって前記インスツルメントホルダを水平方向に伸縮させる為の伸縮機構を含み、或いは、前記駆動手段によって前記インスツルメントホルダを水平旋回させるための旋回機構を含み、更には、前記駆動手段によって前記インスツルメントホルダを上下傾動させる為の傾動機構を含むものであっても良い。そして、前記伸縮機構としては、複数のレールを入れ子状に繋いで構成される多段レール機構を含むものとしても良い。
【0009】
本発明の歯科診療装置において、前記歯科診療台を予め設定された診療姿勢に自動的に姿勢制御する自動姿勢制御操作手段を更に備え、該自動姿勢制御操作手段の制御操作指令があった時には、前記制御部は、当該姿勢制御と並行して、前記インスツルメントホルダの位置付制御を行うよう構成しても良い。
【0010】
本発明の歯科診療装置において、初期位置設定手段を更に備え、該初期位置設定手段の操作がなされた時には、前記制御部は、前記駆動手段を逆駆動させて、前記インスツルメントホルダを初期位置に戻すよう制御するよう構成しても良い。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る歯科診療装置によれば、歯科診療台がヘッドレストを備えているから、該歯科診療台上の患者はヘッドレストにその頭部を凭せかけるようにして術者の診療を受けることができる。また、歯科診療台の側部にはスピットン装置が設置されているから、歯科診療台上の患者は、診療中のうがいを簡易に行うことができる。そして、スピットン装置にはインスツルメントホルダが可動アームを介して位置移動可能に保持されており、このインスルメントホルダを、術者が使用する為に、可動アームの作動指示、即ち、可動アームの作動操作を行うと、駆動手段及びこれを駆動制御する制御部によって、インスツルメントホルダが予め設定された前記ヘッドレストとの相対的な位置情報に基づく位置に位置付けられる。従って、術者は、簡易な操作によって、インスツルメントホルダを術者自身にとって診療操作がし易い適正な位置に的確に位置付けることができる。前記予め設定された位置情報は、術者毎に自らの使い勝手に対応するよう設定されるインスツルメントホルダとヘッドレストとの相対的な位置情報であり、患者の体格に応じて、或いは、診療態様に応じて、更には、術者の特性(術者特有の診療スタイル、術者の体格等)に応じて、ヘッドレストを含む歯科診療台が位置調整されたとしても、ヘッドレストの位置を逐次検出するようにすれば、前記操作によって、インスツルメントホルダは、予め設定されたヘッドレストとの相対位置関係に保たれるよう位置付けられる。これによって、術者はストレスの少ない環境で作業が行えることになる結果、診療の効率性のアップを図ることができ、患者も快適に診療を受けることができる。また、以前には異なる形態の歯科診療装置を使用していた術者でも、本発明に係る歯科診療装置を使用する場合、他の歯科診療装置のインスツルメントホルダの位置に関する使用感を再現し易いので、各術者の好みに随時対応できる。よって、前述の装置を導入する際、使用において馴化し易く術者の作業能率を損なわないという利点もある。
【0012】
前記可動アームとして、前記駆動手段によって前記インスツルメントホルダを水平方向に伸縮させる為の伸縮機構を含むもの、或いは、前記駆動手段によって前記インスツルメントホルダを水平旋回させるための旋回機構を含むもの、更には、前記駆動手段によって前記インスツルメントホルダを上下傾動させる為の傾動機構を含むものとした場合、歯科診療台とインスツルメントホルダとの位置関係によって、前記ヘッドレストとの予め設定された位置情報に基づきインスツルメントホルダを位置付けるに適した機構を適宜選択することができる。また、これらの機構を適宜組合せることによって、歯科診療台の種々の診療姿勢に的確に順応したインスツルメントホルダの前記位置付けを実現することができる。
【0013】
また、歯科診療台が、予め設定された診療姿勢に自動的に姿勢制御する自動姿勢制御操作手段を備えている場合に、該自動姿勢制御操作手段の制御操作指令があった時、前記制御部が、当該姿勢制御と並行して、前記インスツルメントホルダの位置付制御を行うよう構成すれば、術者は自動姿勢制御操作をすることによって、歯科診療台が予め設定された診療姿勢に位置決めされると共に、インスツルメントホルダがヘッドレストとの前記相対的な位置関係を保つよう位置付けられ、診療作業の円滑性がより向上する。ここでの歯科診療台における予め設定された診療姿勢は、座席シート(診療台)の高さ、背板シートの傾斜角度、背板シートの伸縮度合、ヘッドレストの背板シートからの出幅等が、術者の特性に応じ、或いは患者の体格等に応じ、予め設定されるものである。
【0014】
更に、前記駆動手段を逆駆動させて、前記インスツルメントホルダを初期位置に戻すよう制御する初期位置設定手段を更に備えるようにすれば、該初期位置設定手段を操作することにより、例えば、インスツルメントホルダを使用しない時には、インスツルメントホルダを診療等の邪魔にならない初期位置としての待機位置に退避させておくことができる。また、この初期位置が特定の診療態様に適した位置、例えば、アシスタントのみが使用する場合に適した位置である場合には、当該初期位置にインスツルメントホルダを保持してアシスタントの診療作業に供するようにすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る歯科診療装置の一実施形態を示す概略的平面図である。
【図2】同歯科診療装置の部分破断側面図である。
【図3】図2におけるX線部の構造の一例を説明する概念的部分破断拡大図である。
【図4】同歯科診療装置に採用されるスピットン装置を図1の矢示線Y方向から見た図である。
【図5】同歯科診療装置に採用されうるインスツルメントホルダの図1とは別の実施形態を示す概念的部分破断斜視図である。
【図6】本発明に係る歯科診療装置の他の実施形態を示す概略的平面図である。
【図7】図6の歯科診療装置の部分破断側面図である。
【図8】(a)(b)は図6の歯科診療装置における可動アームの伸縮機構を説明する概念的要部側面図であり、(a)は最も伸張した状態を、(b)は最も収縮した状態を示す。
【図9】本発明の歯科診療装置に装備される操作パネルの一例を示す要部平面図である。
【図10】本発明の歯科診療装置の動作制御の一例を示す制御ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の歯科診療装置の実施の形態について図面に基づき説明する。図1及び図2に示す歯科診療装置Aは、大略的に、歯科診療台1と、該歯科診療台1の側部床面に歯科診療台1とは別体に設置されたスピットン装置(独立型スピットン装置)2とより構成される。また、歯科診療台1は、基台10と、該基台10の上に昇降機構11aを介して上下昇降可能に支持された座席シート11と、該座席シート11の一端部に傾動機構12aを介して傾動自在に連設された背板シート12と、該背板シート12の上端部(着座する患者の頭部側端部)に傾動自在且つ伸縮自在に連設されたヘッドレスト13とより構成される。歯科診療台1における前記スピットン装置2が設置される側とは反対側の側部には、座席シート11の基体フレームにトレーテーブル3がハンガーアーム30を介して水平及び昇降移動可能に支持されている。更に、スピットン装置2の側部には、前記歯科診療台1の長手方向に沿った方向に伸びる可動アーム4を介してインスツルメントホルダ5が取付保持されている。図示の例では、スピットン装置2は、デンタルライト(不図示)用のライト支柱6と一体に設置されており、床面に設置されるスピットン基体2aの上面に、スピットン鉢2bと、コップ置台2cと、該コップ置台2c上に置かれたコップ(不図示)に給水する為の給水栓2dとを備えている。
尚、トレーテーブル3の付設箇所は、この形態に限定されず、トレーテーブル3が、基台10を含む歯科診療台1全体を床面に対して固定し設置する為の板状の基礎部材(不図示)に支持されるような構成でもよい。
【0017】
前記可動アーム4は、前記スピットン基体2a内に保持され、該スピットン基体2a内から歯科診療台1の長手方向に沿った方向に延出可能とされた伸縮可能な第1アーム41と、該第1アーム41の先端に水平旋回機構42及び傾動機構43を介して連結された第2アーム44とよりなり、該第2アーム44の先端に前記インスツルメントホルダ5が支持されている。図例では、インスツルメントホルダ5は、第2アーム44の先端に垂直軸50周りに回動可能且つ上下に傾動首振り可能に支持されている。第1アーム41の伸縮自在な機能は、伸縮機構40によって達成される。該伸縮機構40は、スピットン基体2a内に設置されたモータ(駆動手段)400と、該モータ400の出力軸に固着されたギヤ(ピニオンギヤ)401と、第1アーム41にその長手方向に沿って一体に設けられたラックギヤ402とよりなる。ピニオンギヤ401とラックギヤ402とが噛合し、モータ400の正逆回転に伴うラックギヤ402のピニオンギヤ401に対する螺進・螺退動作により、第1アーム41がスピットン基体2aの側部において水平に出没し得るようになされている。スピットン基体2a内には、第1アーム41の水平移動をガイドするガイド部材2eが設けられている。モータ400の出力軸にはポテンショメータ等からなる回転量検知手段が設けられており、この回転量検知手段を伸縮量検知手段400a(図10参照)としている。
【0018】
図3は、前記第1アーム41及び第2アーム44の連結部の構造を示し、図2のX線部に対応する。前記第1アーム41の先端に垂直軸心周りに回転可能な垂直支軸440が連結支持され、該垂直支軸440の上端部に水平軸周りに傾動可能に前記第2アーム44が連結されている。第1アーム41と垂直支軸440との連結部には、サーボモータ(旋回駆動手段)420と、該サーボモータ420の回転動力を垂直支軸440の垂直軸心周りの回転になるよう駆動伝達するギヤ機構421,422とが内装されている。このサーボモータ420とギヤ機構421,422とにより水平旋回機構42が構成される。また、垂直支軸440及び第2アーム44の連結部には、ターボモータ(傾動駆動手段)430と、該ターボモータ430の回転動力を第2アーム44の水平軸周りの傾動回転に駆動伝達するギヤ機構431,432が内装されている。このターボモータ430と、ギヤ機構431,432とにより第2アーム44の傾動機構43が構成される。第2アーム44内には、前記垂直支軸440とインスツルメントホルダ5の支持部との間に装架される平行リンク機構441が内装されている。平行リンク機構441を構成する固定側のピン441a,441bのうち、一方のピン441aは、前記傾動用のギヤ432と同心に設けられ、他方のピン441bは前記垂直支軸440に設けられている。そして、これらのピン441a,441bには等長の2本のリンク441c、441dがピン結合され、これらリンク441c、441dの揺動端は、一方が前記第2アーム44及びインスツルメントホルダ5の支軸50に取付けられたピン441eにピン結合され、他方が該支軸50に取付けられたピン441fにピン結合されている。形態はこれに限定されるものではないが、本実施形態においては、このような構成の平行リンク機構441により、第2アーム44の傾動に拘わらず、インスツルメントホルダ5の向き(水平状態乃至は傾き状態)が維持されるようなバランスアーム機構が構成されている。
【0019】
前記構成の可動アーム4においては、前記伸縮機構40(図2参照)の作動により第1アーム41が矢印a方向に伸縮する。また、サーボモータ420の回転駆動と、ギヤ機構421,422の駆動伝達により、垂直支軸440が矢印bのようにその軸心周りに回転する。更に、ターボモータ430の回転駆動と、ギヤ機構431,432の駆動伝達により第2アーム44が矢印cのように水平軸周りに傾動する。従って、これら作動部を適宜作動させることによって、術者にとって使い勝手の良い位置にインスツルメントホルダ5を位置付け、或いは、使用しない時には他の診療作業等に邪魔にならない位置にインスツルメントホルダ5を退避させておくことができる。そして、前記のように伸縮機構40による伸縮量を検知する伸縮量検知手段400a(図2参照)を設け、ギヤ422の軸にポテンショメータ等の回転量検知手段423を設け、更に、ギヤ432の軸にポテンショメータ等の傾斜量(回転量)検知手段433を設け(いずれも、図10も参照)、これらの検知情報に基づき、インスツルメントホルダ5の位置が算出される。この算出結果を参照して、後記するように、ヘッドレスト13との予め設定された相対的位置情報に対応する位置に、インスツルメントホルダ5が位置づけられる。
【0020】
インスツルメントホルダ5は、図1に示す例では4個のインスツルメント保持部51を備え、該保持部51には主にバキュームシリンジやスリーウェイシリンジ等(不図示)が保持される。そして、該インスツルメントホルダ5は、例えば、図1に示すような診療ポジション(12時の位置)での術者Dにとって、ヘッドレスト13との相対位置関係で、2点鎖線で示すような使い勝手の良い位置に位置付けられる。術者Dは、保持されているインスツルメントのいずれかを選択してピックアップし、歯科診療台1上に仰臥する患者(不図示)の口腔内の診療に使用し、使用後はいずれかの保持部51にインスツルメントを収納する操作を繰返す。インスツルメントホルダ5の一側部には取っ手部52が形成されており、術者Dが手動でインスツルメントホルダ5を引き寄せたりする場合に、この取っ手部52を把持してその操作がなされる。また、インスツルメントホルダ5の下面に長手方向に沿った長孔53が形成され、該長孔53に前記支軸50を相対摺動可能に挿通させることによって、インスツルメントホルダ5が該支軸50に対して相対スライド可能に支持されている。前記取っ手部52は、このスライド機構を利用して、術者Dがインスツルメントホルダ5の位置を微調整する為にも用いられる。
【0021】
図4は、図1における矢示線Y方向から見たスピットン装置2を示しており、可動アーム4の第1アーム41が収縮してスピットン基体2a内に略収納され、第2アーム44が第1アーム41に対して略垂直に起立された状態とされている。この状態は、インスツルメントを使用しない待機状態か、或いは、アシスタントのみがインスツルメントホルダ5に保持されるインスツルメントを使用する場合とされる。そして、同図において、実線或いは2点鎖線で示すように、インスツルメントホルダ5が支軸50に対して傾動可能とされており、術者Dは、自らの使い勝手に合うよう適宜この傾動角度を調整して使用する。この傾動機構の構造については、インスツルメントホルダやPCのディスプレイの一般的な角度調整機構などに用いられる従来技術である為、その説明を省略するが、電動若しくは手動で傾動が可能なように構成されており、手動として構成される場合は、固定側と傾動側との連結部分に、フリクション部材やトルクリミッタのような負荷手段を介在させて、所定以上の外力が付加されない限り傾動しないよう構成され、或いは、ロック手段が組み込まれる。特に、インスツルメントホルダ5には、インスツルメントの重力とそのピックアップ及び収納時の操作圧が加わり、或いは、インスツルメントホルダ5の上面に操作パネルが形成されている場合はスイッチ操作時の操作圧が加わる為、これら外圧による不要な傾動を防止する上で必要とされる。
【0022】
図5は、インスツルメントホルダ5の図1とは別の実施形態を示している。この例では、インスツルメントホルダ5が、第2アーム44の先端に水平軸(前記平行リンク機構441を構成するピン441e)周りに回転可能に取付けられた支軸50に回転可能に支持されており、インスツルメントホルダ5は、モータ50a及びギヤ機構501,502によって矢印dのように回転し、支軸50周りの任意の向きに位置付けられるようになされている。また、インスツルメントホルダ5の上面には操作パネル54が設けられ、一側部には前記と同様の4個のインスツルメント保持部51…が形成されている。操作パネル54については後記する。各保持部51は、下部が開口された筒状とされ、開口部の先側(インスツルメントホルダ5の辺部に位置する部位)には、インスツルメントをピックアップし、或いは収納させる際に、インスツルメント及びインスツルメントに接続されるインスツルメントホース(不図示)をガイドする鼓形状のガイドローラ51aが取付けられている。図例では、これらガイドローラ51aの取付パターンを4種例示している。
【0023】
図5に示す左端の保持部51では、保持部51にあたる切欠部上端の外周縁部に沿うように、3個のガイドローラ51aがインスツルメントホースの周囲を取り囲むように配設されている。この例では、インスツルメントをピックアップ或いは収納させる際において、インスツルメントホースの保持部51の内壁及び縁部に対する摺擦が緩和され、これによって、摺擦によるインスツルメントホースの磨耗が軽減される。特に、本発明のようにインスツルメントホルダ5が3次元的に様々な位置に位置付けられる構成では、インスツルメントのピックアップ或いは収納する方向が変化し、保持部51の内壁に対する摺擦態様も多様となる。従って、このように3個のガイドローラ51aをインスツルメントホースの周囲を取り囲むよう配設することは、インスツルメントホースの磨耗を軽減する上で有効である。また、左端から2番目の保持部51では、2個のガイドローラ51aがインスツルメントホースをホースの周方向において上下より挟むように配設されている。この例でも、前記摺擦によるインスツルメントホースの磨耗軽減に有効である。更に、左端から3番目の保持部51では、1個のガイドローラ51aがインスツルメント及びインスツルメントホースを下から支えるように配設されている。この例では、前2つの例に比べて磨耗軽減の効果は低いが、構造がシンプルで、構造上部品点数が少なくて済むという利点がある。これらは、操作性等を勘案して術者によって適宜選択採用される。
【0024】
また、右端の保持部51では、1個のガイドローラ51aが保持部51の内壁に出没自在に収納されるよう構成されている。診療態様によっては、インスツルメントホースがインスツルメントホルダ5に規制されない状態で使用する方が術者にとって好ましい場合や診療を円滑に行うことができる場合があり、このような場合には、ガイドローラ51aを保持部51の内壁に没入させることによって、インスツルメントホースをインスツルメントホルダ5の規制から開放させることができる。或いは、メンテナンス等の為に、インスツルメントをインスツルメントホースから分離させる必要がある場合には、ガイドローラ51aを保持部51の内壁に没入させておけば、メンテナンス作業に有利である。この出没自在な機能は、前3例の先側開口部に位置するガイドローラ51aにも適用し得ることは言うまでもない。
尚、図5では前記ガイドローラ51aの取付パターンの4種の例を纏めて例示したが、これらのいずれかのみ、或いはこれらを適宜組合せて構成することはもとより可能であり、ニーズを勘案した仕様によって適宜選択設定される。
【0025】
図6及び図7は本発明の歯科診療装置の他の実施形態を示す。この例の歯科診療装置Bにおいては、スピットン装置20が歯科診療台1に一体に設置された一体型のスピットン装置とされている。スピットン装置20は、そのスピットン基体20aをして座席シート11の基体フレームに固設され、昇降機構11aによって座席シート11と共に上下昇降可能とされている。そして、スピットン装置20は、スピットン基体20aの上面に、前記と同様に、スピットン鉢20bと、コップ置台20cと、該コップ置台20c上に置かれたコップ(不図示)に給水する為の給水栓20dとを備えている。歯科診療台1における前記スピットン装置2が設置される側とは反対側の側部には、前記と同様に座席シート11の基体フレームにトレーテーブル3が水平及び昇降移動可能に支持されている。更に、スピットン装置20の側部には、前記歯科診療台1の長手方向に沿った方向に伸びる可動アーム4を介してインスツルメントホルダ5が取付保持されている。この例の可動アーム4も、前記実施形態と同様に、前記スピットン基体20a内に保持され、該スピットン基体20a内から歯科診療台1の長手方向に沿った方向に延出可能とされた伸縮可能な第1アーム41と、該第1アーム41の先端に水平旋回機構42及び傾動機構43を介して連結された第2アーム44とよりなり、該第2アーム44の先端に前記インスツルメントホルダ5が支持されている。第1の実施形態及び第2の実施形態においても、インスツルメントホルダ5が図5に示すように構成されていても良い。
【0026】
この例の可動アーム4は、複数のレールを入れ子状に繋いで構成される多段レール機構からなる伸縮機構40を含む。この伸縮機構40の詳細構成について図8(a)(b)も参照して説明する。図8(a)(b)では、第2アーム44及びその先側部分の図示を省略しているが、水平旋回機構42、傾動機構43及び平行リンク機構441等も、図3に示す例と同様に組み込まれている。第1アーム41は、2本のレール411,412を入れ子状に繋いで構成される2段のレール機構からなり、以下では、該2本のレール411,412のうち、前者を基部側レール411、後者を先側レール412と称す。基部側レール411は角筒体からなり、一方、先側レール412は角棒状体からなり、基部側レール411の筒内に、その長手方向に沿って先端部より出没自在に遊挿されている。そして、基部側レール411は、スピットン基体20a内に形成されたレールハウジング20eに水平状態で且つ先側レール412と共に歯科診療台1の長手方向に沿った方向に出没自在に支持されている。
【0027】
前記レールハウジング20eには、伸縮駆動手段としてのモータ400が設置され、該モータ400の出力軸に固着された出力ギヤ403に噛合する基部側ピニオンギヤ404がモータ400のベース部又はレールハウジング20eに設置されている。モータ400の出力軸には、前記と同様にポテンショメータ等からなる回転量検知手段が設けられており、この回転量検知手段を伸縮量検知手段400a(図10参照)としている。そして、該基部側ピニオンギヤ404には、前記基部側レール411の下面にその長手方向に沿って固着された基部側ラックギヤ405が噛合しており、モータ400の回転動力が、出力ギヤ403及び基部側ピニオンギヤ404を介して基部側ラックギヤ405に伝達され、基部側ピニオンギヤ404に対する基部側ラックギヤ405の螺進・螺退動作により、基部側レール411が前記レールハウジング20eに対して出没するよう構成される。また、基部側レール411内の先側には、先側ピニオンギヤ407が設置され、前記基部側ピニオンギヤ404の駆動軸404aと、先側ピニオンギヤ407の駆動軸407aとは、フレキシブルシャフト406によって連結されている。該フレキシブルシャフト406は、基部側ピニオンギヤ404の駆動軸404aの回転による捩れ力を先側ピニオンギヤ407の駆動軸407aに伝達するものであり、基部側ピニオンギヤ404が軸回転すると先側ピニオンギヤ407が軸回転する。該先側ピニオンギヤ407は、前記先側レール412の下面にその長手方向に沿って固着された先側ラックギヤ408に噛合している。従って、基部側ピニオンギヤ404が回転すると、その回転動力はフレキシブルシャフト406及び先側ピニオンギヤ407を介して先側ラックギヤ408に伝達され、先側ピニオンギヤ407に対する先側ラックギヤ408の螺進・螺退動作により、先側レール412が基部側レール411に対して出没する。即ち、モータ400、基部側ピニオンギヤ404、基部側ラックギヤ405、フレキシブルシャフト406、先側ピニオンギヤ407及び先側ラックギヤ408により、第1アーム41の伸縮機構40が構成される。
【0028】
以上のような構成の可動アーム4において、モータ400が第1アーム41を伸張させる方向に回転すると、基部側ピニオンギヤ404の回転に伴う基部側ラックギヤ405の螺進動作により、基部側レール411がレールハウジング2eより突出するよう作動する。また、基部側レール411の突出動作と並行して、基部側ピニオンギヤ404の回転動力がフレキシブルシャフト406を介して先側ピニオンギヤ407に伝達され、先側ピニオンギヤ407の回転に伴う先側ラックギヤ408の螺進動作により、先側レール412が基部側レール411より突出するよう作動する。図8(a)は、第1アーム41が最大に伸張した状態を示している。そして、モータ400が上記とは逆方向に回転すると、伸縮機構40を構成する各機構部が逆に作動し、先側レール412が基部側レール411内に収納されると共に、基部側レール411がレールハウジング20e内に収納され、図8(b)に示すように第1アーム41が最も収縮した状態とされ、この状態が可動アーム4及びインスツルメントホルダ5の初期位置とされる。図7において、符号44A、5Aで示す状態は、可動アーム4及びインスツルメントホルダ5がこの初期位置にあることを示している。このように、第1アーム41が、2本のレール411,412による伸縮機構40によって伸縮するから、伸縮ストロークを大きくすることができる。従って、歯科診療台1に一体に設置されるスピットン装置20のスピットン基体20aが、歯科診療台1の機構上の制約を受けて大きくできない場合でも、インスツルメントホルダ5をヘッドレスト13に対する適正な相対位置に位置付ける為の設計自由度を確保することができる。また、基部側ピニオンギヤ404及び先側ピニオンギヤ407のギヤ径を異ならせることによって、基部側レール411及び先側レール412の突出速度及び収納速度を異ならせることができる。更に、出力ギヤ403をなしとし、モータ400の出力軸に直接基部側ピニオンギヤ404を固着して同様に伸縮機構40を構成することも可能である。
【0029】
図9は、本発明の歯科診療装置に装備される操作パネルの一例を示す要部平面図であり、図10は同操作パネルを用いて歯科診療装置の動作制御を行う場合の制御ブロック図の一例を示す。図9に示す操作パネル7は、図1及び図6に示すトレーテーブル3の一側部に形成されており、この操作パネル7の下部には主にドクターによって使用される各種インスツルメントを保持する為のインスツルメントホルダ8が設けられている。図例では、このインスツルメントホルダ8に、スリーウェイシリンジ8a、エアタービンハンドピース8b、8c及びマイクロモータハンドピース8dが保持されている例を示している。トレーテーブル3は、図1及び図6に示すようにハンガーアーム30によって歯科診療台1の側部に水平及び昇降移動可能に支持されており、術者(ドクター)Dはトレーテーブル3に形成されたハンドル3aを把持操作して診療し易い位置にトレーテーブル3を位置調整して診療にあたる。トレーテーブル3上には、歯科診療に必要な各種薬品や、ピンセット等の診療器具が載置され、更には、その側部に図10に示すように診療情報等を表示する表示手段7Aが設置される。
【0030】
操作パネル7には、各種操作スイッチが設けられており、スイッチ7a〜7dは、診療台の自動姿勢制御操作手段としての自動位置制御スイッチであり、診療態様により予め定められた動作パターンに対応する。例えば、奥歯或いは前歯の診療を行う場合の座席シート11の適正高さ、背板シート12の適正傾斜角度が後記するチェア部(歯科診療台)1のチェア制御部(以下、チェアCPUと言う)100に含まれる記憶手段100aに記憶されており、スイッチ7a及びスイッチ7bはこれらの診療態様に対応する。スイッチ7aを操作すると、座席シート11及び背板シート12の昇降機構11a及び傾動機構12aが作動して、座席シート11及び背板シート12が、前記予め設定された奥歯診療に適正な高さ及び傾斜角度に自動的に位置決めされる。また、スイッチ7bを操作すると、座席シート11及び背板シート12が、同様に前歯診療に適正な高さ及び傾斜角度に自動的に位置決めされる。スイッチ7cは、座席シート11及び背板シート12の高さ及び傾斜角度を元の状態に戻す為の操作スイッチであって、この場合の適正な高さ及び傾斜角度も予め前記チェアCPU100の記憶手段100aに記憶されている。診療が終ると、このスイッチ7cを操作して元の状態に戻すことにより患者の退出をし易くする。そして、この状態に維持して次の患者の導入まで待機させる。スイッチ7dは、診療中患者にうがいをさせる為の背板シート12の傾動操作スイッチであって、仰臥診療中にうがいをさせる必要が生じた時は、術者はこのスイッチ7dを操作すると背板シート12が起立し、うがいに適正な角度に位置決めされる。うがいが終了し仰臥診療態勢に戻す場合は、このスイッチ7dを再度操作することにより、背板シート12は元の仰臥診療姿勢に戻る。
【0031】
スイッチ7e,7fは、座席シート11を単独で昇降させる為の操作スイッチであり、スイッチ7g,7hは、背板シート12を単独で傾動させる為の操作スイッチである。また、スイッチ7i〜7kは、それぞれ、前記可動アーム4の伸縮機構40、傾動機構43及び水平旋回機構(アーム回転機構)42を単独で作動させる為の操作スイッチである。これらのスイッチ7i〜7kは、収納される各種インスツルメント8a〜8dgが扱い易い位置にインスツルメントホルダ5を微調整等する為に、術者によって個々に操作される。スイッチ7mは、座席シート11の昇降動作或いは背板シート12の傾動動作と連動して、可動アーム4の前記伸縮機構40、傾動機構43及び水平旋回機構42を作動させる為の切替えスイッチであり、インスツルメントホルダ5とヘッドレスト13との予め定められた相対位置情報を記憶する記憶手段500aから該記憶情報を読み出す指令信号を発するものである。記憶手段500aは、インスツルメントホルダ制御部(以下、ホルダCPUと言う)500に含まれる。このスイッチ7mを操作して連動状態とされている時に、例えば、前記スイッチ7a,7b或いはスイッチ7i〜7kのいずれかが操作されると、前記チェアCPU100は、各7a,7b或いはスイッチ7i〜7k毎に予め割り付けられた歯科診療台1の姿勢(座席シート11の高さ、背板シート12の傾斜角度)に対応する姿勢に歯科診療台1を自動的に姿勢制御すると共に、ホルダCPU500は、インスツルメントホルダ5をヘッドレスト13との予め設定された位置情報に基づく位置に位置付けるよう前記伸縮機構40、傾動機構43及び水平旋回機構42の各駆動手段400,430,420を駆動制御する。従って、スイッチ7i〜7kも診療台の自動姿勢制御操作手段を構成する。スイッチ7mが操作された状態で、各スイッチ7a,7b或いはスイッチ7i〜7kに割り付けられる歯科診療台1の姿勢パターンは、例えば、前述の通り前歯診療の場合はスイッチ7aが、奥歯診療の場合はスイッチ7bが、患者の体格が大きい場合はスイッチ7iが、普通の場合はスイッチ7jが、小さい場合は7kがそれぞれ相当するように割り付けられる。或いは、同じ歯科診療台1でも複数の術者が診療に当る場合は、各術者の特性(体格や診療スタイル等)に合うような診療台姿勢を予め設定し、それぞれにスイッチ7i〜7kを割り付けることも可能である。
【0032】
スイッチ7nは初期位置設定用のスイッチ(初期位置設定手段)である。前記スイッチ7mが操作され、スイッチ7a,7b或いはスイッチ7i〜7kのいずれかが操作されて、歯科診療台1が対応する姿勢に位置決めされ、且つ、インスツルメントホルダ5がヘッドレスト13との予め設定された相対位置に位置付けられた後に、このスイッチ7nが操作されると、ホルダCPU500は、前記伸縮機構40、傾動機構43及び水平旋回機構42の各駆動手段400,430,420を逆駆動させて、インスツルメントホルダ5を初期位置(例えば、図7の符号5Aで示す位置)に設定する。この状態を待機位置とし、或いはアシスタントの使用位置とされる。尚、図7に示すこの初期位置5Aは、インスツルメントホルダ5がその支軸50の周りに90°向きを変えた状態を示している。
【0033】
図5に示す実施形態のようにインスツルメントホルダ5に操作パネル54が形成されている場合、前記操作パネル7に備えられたスイッチのうち、スイッチ7i,7j,7k,7m,7nと同様のスイッチ54a,54b,54c,54d,54eを設け、例えば、アシスタントの操作によって同様の操作制御を行うよう構成することができる。即ち、スイッチ54a〜54cは、それぞれ、前記可動アーム4の伸縮機構40、傾動機構43及び水平旋回機構(アーム回転機構)42を単独で作動させる為の操作スイッチであり、これらのスイッチ54a〜54cは、インスツルメントホルダ5を診療し易い位置に位置付ける為に、術者(アシスタント)によって個々に操作される。スイッチ54dは、座席シート11の昇降動作或いは背板シート12の傾動動作と連動して、可動アーム4の前記伸縮機構40、傾動機構43及び水平旋回機構42を作動させる為の切替えスイッチであり、インスツルメントホルダ5とヘッドレスト13との予め定められた相対位置情報を記憶する記憶手段500aから該記憶情報を読み出す指令信号を発するものである。従って、これらスイッチ54a〜54cも診療台の自動姿勢制御操作手段を構成する。また、スイッチ54eは、前記と同様の初期位置設定用のスイッチである。図5の例では、更にロック用のスイッチ54fが設けられている。このスイッチ54fは、該スイッチ54fが操作されると、前記スイッチ54dが操作されて歯科診療台1と可動アーム4とが連動状態にある時に、他のスイッチが不意に操作されてもこの状態に維持し、他のスィッチ操作が無効になるよう機能するものである。
以上に述べた、各スイッチ7a〜7n、54a〜54fの構成は、一実施形態であり、各スイッチを別位置に設けたり、各スイッチに対応する制御内容や機能が異なっていたりしてもよい。少なくとも本発明構成の実施に必要なスイッチが備えられていればよい。
【0034】
図10は前記のような構成の歯科診療装置を動作制御させる制御ブロック図の一例を示すものである。操作部は前記操作パネル7に相当し、前記各スイッチ7a〜7nが操作手段に相当する。表示手段7Aは例えば前記トレーテーブル3の一側部に設けられ、各種動作部の動作状態や、患者に関する各種診療情報等が表示される。操作パネル7には操作部用制御部としてCPU7Bが配設されているが、これはチェア部1のチェアCPU100或いはインスツルメントホルダ・アーム部4,5のホルダCPU500と一体に構成しても良い。チェア部1は、その制御の中枢を司る制御部としてのチェアCPU100を備え、チェア駆動手段101は前記座席シート11の昇降機構11aや背板シート12の傾動機構12aであり、背板シート12の伸縮機構やヘッドレスト13の伸縮機構を備えている場合は、これらもチェア駆動手段101に含まれる。また、インスツルメント駆動手段102は、各種インスツルメントに応じた作用媒体(空気、電気、水、バキューム等)の供給等を制御するものである。また、サーボ制御部103は、座席シート11や背板シート12の昇降機構11aや傾動機構12a等に使用される油圧機構における油圧バルブを開閉して座席シート11や背板シート12の昇降及び傾動スピードを制御する。モータ制御部104は、当該油圧機構の油圧ポンプを制御する。更に、SV制御部105は当該油圧機構に配設される各種電磁弁の制御を行う。前記のようにスイッチ操作により、座席シート11や背板シート12の昇降或いは傾動等の指示があると、これら各制御部103〜105の制御により、チェア駆動手段101が作動して、座席シート11や背板シート12の所定の昇降或いは傾動動作等がなされる。チェアCPU100は、座席シート11の高さ位置或いは背板シート12の傾斜角度等の検知情報に基づき、チェア位置情報を算出する。
【0035】
インスツルメントホルダ・アーム部4,5は、アーム伸縮機構40、アーム回転機構(水平旋回機構)42及びアーム傾動機構43を含み、これらの動作を制御する制御部としてホルダCPU500が設けられている。該ホルダCPU500は前記のヘッドレスト13とインンスツルメントホルダ5との予め設定された相対位置情報を記憶する記憶手段500aを含んでいる。これら機構40,42,43の駆動手段400,420,430は、前記各モータに相当する。伸縮量検知手段400a、回転量検知手段423、傾動量検知手段433は、アーム伸縮機構40、アーム回転機構42及びアーム傾動機構43による位置変化を検知するもので、これら位置検知手段としては、各動作部分に組み込まれるポテンショメータ等が用いられる。ホルダCPU500は、これら位置検知手段400a,423,433による位置検知情報を元に、インスツルメントホルダ5の位置情報を算出する。
【0036】
操作部7において、前記スイッチ7a〜7nの操作がなされると、操作部7のCPU7Bは、チェアCPU100及びホルダCPU500にその操作情報を送出する。チェアCPU100は、この選択操作されたスイッチに対応する姿勢情報を記憶手段100aから読み出し、チェア駆動手段101、サーボ制御部103、モータ制御部104及びSV制御部105を制御して、歯科診療台1を所定の姿勢に位置決めする。チェアCPU100は、更に、この時の歯科診療台1の前記位置情報を算出し、ホルダCPU500に送出する。ホルダCPU500は、前記操作部CPU7Bからの操作情報及びチェアCPU100からのチェア位置情報を受け、記憶手段500aから予め設定されたヘッドレスト13との相対位置情報を読み出す。そして、前記アーム伸縮機構40、アーム回転機構42及びアーム傾動機構43の駆動手段400,420,430を駆動させ、この駆動中における各検知手段400a,423,433による位置検知情報から、インスツルメントホルダ5の位置情報を算出し、これと前記入力されたチェア位置情報と比較し、読み出されたヘッドレスト13との前記相対位置情報に対応する位置にインスツルメントホルダ5を位置付ける。
【0037】
このように、ヘッドレスト13とインスツルメントホルダ5との相対的な位置を、診療態様、術者の診療スタイル、或いは患者の体格等に応じて適正に設定し、これを記憶手段500aに位置情報として予め記憶させておけば、歯科診療台1を診療姿勢に位置決めさせる際に、この位置情報を読み出し、可動アーム4(インスツルメントホルダ・アーム部4,5)の駆動手段400,420,430を駆動させて、インスツルメントホルダ5をヘッドレスト13に対して診療に適正な位置に自動的に位置付けることができる。これによって、術者の診療ポジションの移動に合わせたインスツルメントホルダの位置調整作業や、移動したインスツルメントホルダを元に戻すような煩わしい作業を不要とし、常時術者にとって最適な位置にインスツルメントホルダ5を配置させることができ、円滑な診療を行うことができる。
【0038】
尚、インスツルメントホルダ5や可動アーム4の構造は例示のものに限定されず、他の構造のものも採用可能である。また、前記実施形態では、可動アーム4が、伸縮機構40、旋回機構42、傾動機構43の全てを備えた例を示したが、これに限定されず、これらのいずれか、或いは組合せて構成することも可能であり、伸縮機構40、旋回機構42、傾動機構43も例示の機構に限定されるものではない。更に、可動アーム4が作動する際に歯科診療台1や術者に当って破損するようなことを未然に防止する為、適宜センサを設け、センサの検出情報により当該作動を停止するよう構成することも可能である。加えて、スピットン装置2,20は、歯科診療台1に対して図示とは反対側の側部に設置されるものであっても良い。
【符号の説明】
【0039】
1 歯科診療台(チェア部)
13 ヘッドレスト
2 スピットン装置(独立型スピットン装置)
20 スピットン装置(診療台一体型スピットン装置)
4 可動アーム
40 伸縮機構(アーム伸縮機構)
400 伸縮用モータ(駆動手段)
420 サーボモータ(旋回駆動手段、駆動手段)
430 ターボモータ(傾動駆動手段、駆動手段)
411,412 レール(多段レール機構)
42 水平旋回機構(アーム旋回機構)
43 傾動機構(アーム傾動機構)
5 インスツルメントホルダ
500 インスツルメントホルダ制御部(ホルダCPU)
500a 記憶手段
7a,7b 操作スイッチ(自動姿勢制御操作手段)
7i〜7k 操作スイッチ(自動姿勢制御操作手段)
7n 初期位置設定手段
A,B 歯科診療装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘッドレストを備えた歯科診療台と、該歯科診療台の側部に設置されたスピットン装置と、該スピットン装置に可動アームを介して位置移動可能に保持されたインスツルメントホルダと、該可動アームを作動させる駆動手段と、該駆動手段の駆動を制御する制御部と、使用時における前記インスツルメントホルダの予め設定された前記ヘッドレストとの相対的な位置情報を記憶する記憶手段とを備え、
前記制御部は、前記インスツルメントホルダの使用の為に前記可動アームの作動指示があった時、前記記憶手段から前記位置情報を読出し、前記駆動手段を駆動させて、インスツルメントホルダを当該位置情報に基づく位置に位置付けるよう制御することを特徴とする歯科診療装置。
【請求項2】
請求項1に記載の歯科診療装置において、
前記可動アームが、前記駆動手段によって前記インスツルメントホルダを水平方向に伸縮させる為の伸縮機構を含むことを特徴とする歯科診療装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の歯科診療装置において、
前記可動アームが、前記駆動手段によって前記インスツルメントホルダを水平旋回させるための旋回機構を含むことを特徴とする歯科診療装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の歯科診療装置において、
前記可動アームが、前記駆動手段によって前記インスツルメントホルダを上下傾動させる為の傾動機構を含むことを特徴とする歯科診療装置。
【請求項5】
請求項2に記載の歯科診療装置において、
前記伸縮機構が、複数のレールを入れ子状に繋いで構成される多段レール機構を含むことを特徴とする歯科診療装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の歯科診療装置において、
前記歯科診療台を予め設定された診療姿勢に自動的に姿勢制御する自動姿勢制御操作手段を更に備え、該自動姿勢制御操作手段の制御操作指令があった時には、前記制御部は、当該姿勢制御と並行して、前記インスツルメントホルダの位置付制御を行うことを特徴とする歯科診療装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の歯科診療装置において、
初期位置設定手段を更に備え、該初期位置設定手段の操作がなされた時には、前記制御部は、前記駆動手段を逆駆動させて、前記インスツルメントホルダを初期位置に戻すよう制御することを特徴とする歯科診療装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−273917(P2010−273917A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−130390(P2009−130390)
【出願日】平成21年5月29日(2009.5.29)
【出願人】(000138185)株式会社モリタ製作所 (173)
【Fターム(参考)】