説明

歯車装置およびこれを含む電動パワーステアリング装置

【課題】小型で耐久性に優れた歯車装置を提供すること。
【解決手段】歯車装置は、金属製の第1の歯車としてのウォーム軸と、ウォーム軸に噛み合わされる第2の歯車としてのウォームホイール12とを備える。ウォームホイール12は、薄肉の金属板50と金属板50よりも硬度の低い薄肉の軟質板としての合成樹脂板51とを歯幅方向X1に交互に多数枚積層してなる。ウォームホイール12を形成するための歯車素体120〔図3(b)を参照〕の階段状の歯面Qに、なじみ運転装置の金属製のなじみ歯体を噛み合わせて、なじみ運転を行い、ウォームホイール12の歯面P〔図3(a)を参照〕を理想的な形状に仕上げる。歯当たりが良好となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は歯車装置および電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電動パワーステアリング装置の減速機として用いる歯車装置として、ウォームギヤ機構がある。そのウォームギヤ機構に、環状の芯金と、芯金の外周に固定された樹脂部材とを備え、樹脂部材の外周に歯部を形成したウォームホイールが提案されている(例えば特許文献1を参照)。しかしながら、樹脂部材で高トルクを伝達する強度を確保する場合、ウォームホイールが大型化し、ひいては、減速機や電動パワーステアリング装置が大型になるという問題がある。
【0003】
そこで、ウォームホイールを金属製とすることが考えられている。通例、電動パワーステアリング装置では、進み角を大きく確保する(例えば20度)必要があるため、ウォームが細くなる傾向にある。このため、ウォームホイールの加工のための工具が細くなり、工具の強度が不足するおそれがある。したがって、工具強度が確保された太い工具を使用せざるを得ず、その結果、ウォームホイールの理想的な歯当たりを提供する理想的な歯面の形状が得られないので、可及的に歯当たりが悪くなる。また、金属製のウォームホイールは、樹脂製のものと比較して摩擦が大きいため、潤滑剤切れを起こし易い。
【0004】
このように金属製の歯車では、歯当たりが悪くなることに加えて、潤滑剤切れを起こし易いので、耐久性が悪くなる。
一方、金属製の第1のギヤと、これに噛み合う第2のギヤとを備え、第2のギヤが、1枚の金属製の主ギヤと、少なくとも歯面が樹脂部材である1枚の複ギヤとを、軸方向に積層してなる伝達機構が提案されている(例えば特許文献2を参照)。
【0005】
また、金属製の歯車本体の両側面に弾性板を積層して構成した歯車を用いたり、一対の分割体からなる歯車本体の上記一対の分割体間に弾性板を挟持して構成した歯車を用いたりする電動パワーステアリング装置が提案されている(例えば特許文献3を参照)。
他方、高剛性部材と弾性変形し易い部材とを交互に積層した積層板を用いて、ウォームホイールを軸方向に予圧し、バックラッシを低減する電動パワーステアリング装置が提案されている(例えば特許文献4を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2009−222149号公報
【特許文献2】特開2009−228696号公報
【特許文献3】特開2007−232161号公報
【特許文献4】特開2002−67993号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2,3では、複合ギヤのなかで、金属製の主ギヤないし歯車本体が大部分の容積を占めており、上記の歯当たりや潤滑剤切れに関して、実質的に金属製の歯車と同様の問題を有している。
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、小型で耐久性に優れた歯車装置および電動パワーステアリング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明は、金属製の第1の歯車(11)と、上記第1の歯車に噛み合わされる第2の歯車(12;12A;12C)と、を備え、上記第2の歯車は、薄肉の金属板(50;50a,50b;50c)と上記金属板より硬度の低い薄肉の軟質板とを(51;51a;51c)とを歯幅方向(X1)に交互に多数枚積層してなる複合歯車であり、上記第2の歯車の歯面(P)が、金属製のなじみ歯体(61〜64)を噛み合わせてのなじみ運転により仕上げられている歯車装置(8)を提供する。
【0009】
本発明によれば、第2の歯車において、積層された多数枚の金属板によって、相手方の金属製の第1の歯車との接触荷重を分散して受けることができ、小型でも十分な歯車強度を確保することができる。また、金属製のなじみ歯体を用いたなじみ運転により、第2の歯車の歯面として理想的な歯面を得ることができ、結果として、理想的な歯当たりを実現することができ、この点からも小型で耐久性を向上させることができる。
【0010】
交互に積層されている軟質板としては、合成樹脂板、ゴム板または軟質金属板を用いることができる。特に、軟質板として合成樹脂板を用いた場合には、合成樹脂板の外周において、歯面の一部を構成している部分は、相手方の金属製の第1の歯車の歯面に対する摩擦が小さいので、潤滑剤切れを起こし難い。したがって、小型で耐久性に優れた第2の歯車を実現でき、ひいては、小型で耐久性に優れた歯車装置を実現することができる。
【0011】
また、多数枚用いる薄肉の金属板として、プレス成形品を用いた場合には、安価に金属板の形状精度を得ることができる点で好ましい。また、上記第2の歯車の両側面が、上記金属板により構成されている場合には、第2の歯車の両側面の強度を向上させるうえで好ましい。
また、上記第2の歯車の歯幅方向に並ぶ上記金属板(50a,50b)の歯(53a,53b)は、交互の逆向きに周方向(C1)に位相をずらされており、上記軟質板は弾性を有している場合がある(請求項2)。この場合、第2の歯車において交互の逆向きに位相をずらされた金属板の歯が、第2の歯車の周方向に関して、軟質板の弾性による予圧を与えられた状態で、第1の歯車の歯と噛み合うので、両歯車間のバックラッシを0にすることができ、騒音低減とともに耐久性の向上に寄与することができる。
【0012】
また、交互の逆向きに位相をずらされている上記金属板は、同一形状品を表裏逆にして構成された複数対の金属板を含む場合がある(請求項3)。この場合、バックラッシを0にしつつ、量産効果により製造コストを安価にすることができる。
また、上記第2の歯車の歯面において上記金属板および上記軟質板の少なくとも一方に、上記第2の歯車の回転に伴って第1の歯車に対する噛み合い領域に移動可能な潤滑剤収容凹部(55)が形成されている場合がある(請求項4)。この場合、第2の歯車の回転に伴って、潤滑剤収容凹部に溜められた潤滑剤が噛み合い領域に供給されるので、長期にわたって良好な潤滑性を維持することができ、耐久性を向上することができる。
【0013】
上記歯車装置を用いて電動モータの出力回転を減速する電動パワーステアリング装置(100)であれば、小型で耐久性に優れている点で好ましい(請求項5)。
なお、上記において、括弧内の英数字は、後述する実施形態における対応構成要素の参照符号を表すものであるが、これらの参照符号により特許請求の範囲を限定する趣旨ではない。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施の形態に係る歯車装置が減速機に適用された電動パワーステアリング装置の概略構成を示す模式図である。
【図2】図1のII−II線に沿う断面図である。
【図3】(a)はウォームホイールの概略図であり、(b)はウォームホイールを形成するための歯車素体の概略図である。
【図4】なじみ運転装置の概略図である。
【図5】(a)は本発明の別の実施の形態の歯車装置のウォームホーイルの概略断面図であり、(b)はウォームホイールの歯の模式図である。
【図6】(a)は本発明のさらに別の実施の形態の歯車装置のウォームホイールの概略斜視図であり、(b)はウォームホイールの金属板の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。図1は、本発明の一実施形態の歯車装置を含む電動パワーステアリング装置の概略構成図である。
図1を参照して、電動パワーステアリング装置100では、ステアリングホイール等の操舵部材1を取り付けている入力軸としての第1の操舵軸2と、ラックアンドピニオン機構等の転舵機構81に連結される出力軸としての第2の操舵軸3とがトーションバー4を介して同軸的に連結されている。
【0016】
転舵機構81は、自在継手82、中間軸83および自在継手84を介して第2の操舵軸3と連結されたピニオン軸85と、ピニオン軸85の端部近傍に設けられたピニオン歯85aに噛み合うラック歯86aを有して自動車の左右方向に延びる転舵軸としてのラックバー86とを有している。ピニオン軸85およびラックバー86により転舵機構81が構成されている。
【0017】
ラックバー86は車体に固定されるハウジング87内に図示しない複数の軸受を介して直線往復動自在に支持されている。ラックバー86の両端部はハウジング87の両側へ突出し、各端部にはそれぞれタイロッド88が結合されている。各タイロッド88は対応するナックルアーム(図示せず)を介して対応する転舵輪89に連結されている。
操舵部材1が操作されて第1の操舵軸2が回転されると、この回転がピニオン歯85aおよびラック歯86aによって、自動車の左右方向に沿ってのラックバー86の直線運動に変換される。これにより、転舵輪89の転舵が達成される。
【0018】
第1及び第2の操舵軸2,3を支持するハウジング5は、例えばアルミニウム合金からなり、車体(図示せず)に取り付けられている。ハウジング5は、互いに嵌め合わされるセンサハウジング6とギヤハウジング7により構成されている。具体的には、ギヤハウジング7は筒状をなし、その上端の環状縁部7aがセンサハウジング6の下端外周の環状段部6aに嵌め合わされている。ギヤハウジング7は、ウォームギヤ機構からなる歯車装置8を収容し、センサハウジング6はトルクセンサ9及び制御基板10等を収容している。ギヤハウジング7に歯車装置8を収容することで減速機90が構成されている。
【0019】
上記歯車装置8は、図2に示すように、電動モータMの回転軸32に例えばスプライン継手等の継手機構33を介して連結される第1の歯車としてのウォーム軸11と、このウォーム軸11と噛み合い、且つ図1に示すように、第2の操舵軸3の軸方向中間部に一体回転可能で且つ軸方向移動を規制された第2の歯車としてのウォームホイール12とを備える。図示していないが、ウォーム軸11はギヤハウジング7内に一対の軸受を介して回転可能に支持されている。
【0020】
ギヤハウジング7内において、ウォーム軸11とウォームホイール12の噛み合い部分Aを少なくとも含む領域に潤滑剤が充填されている。すなわち、潤滑剤は噛み合い部分Aのみに充填しても良いし、噛み合い部分Aとウォーム軸11の周縁全体に充填しても良いし、ギヤハウジング7内全体に充填しても良い。
第2の操舵軸3は、ウォームホイール12を軸方向の上下に挟んで配置される第1及び第2の転がり軸受13,14により回転可能に支持されている。第1の転がり軸受13の外輪15は、センサハウジング6の下端の筒状突起6b内に設けられた軸受保持孔16に嵌め入れられて保持されている。第1の転がり軸受13の外輪15の上端面は環状の段部17に当接しており、センサハウジング6に対する軸方向上方への移動が規制されている。一方、第1の転がり軸受13の内輪18は第2の操舵軸3に締まりばめにより嵌め合わされている。内輪18の下端面はウォームホイール12に当接している。
【0021】
また、第2の転がり軸受14の外輪19は、ギヤハウジング7の軸受保持孔20に嵌め入れられて保持されている。第2の転がり軸受14の外輪19の下端面は、環状の段部21に当接し、ギヤハウジング7に対する軸方向下方への移動が規制されている。第2の転がり軸受14の内輪22は、第2の操舵軸3に一体回転可能で且つ軸方向相対移動を規制されて取り付けられている。内輪22は第2の操舵軸3の段部23と、第2の操舵軸3のねじ部に締め込まれるナット24との間に挟持されている。
【0022】
トーションバー4は第1及び第2の操舵軸2,3を貫通している。トーションバー4の上端4aは、連結ピン25により第1の操舵軸2と一体回転可能に連結され、トーションバー4の下端4bは、連結ピン26により第2の操舵軸3と一体回転可能に連結されている。第2の操舵軸3の下端は、図示しない中間軸を介してラックアンドピニオン機構等の舵取機構に連結されている。上記の連結ピン25は、第1の操舵軸2と同軸に配置される第3の操舵軸27を、第1の操舵軸2と一体回転可能に連結している。第3の操舵軸27はステアリングコラムを構成するチューブ28内を貫通している。
【0023】
第1の操舵軸2の上部は、例えば針状ころ軸受からなる第3の転がり軸受29を介してセンサハウジング6に回転自在に支持されている。第1の操舵軸2の下部の縮径部30と第2の操舵軸3の上部の孔31とは、第1及び第2の操舵軸2,3の相対回転を所定の範囲に規制するように、回転方向に所定の遊びを設けて嵌め合わされている。次いで、図2を参照して、ウォーム軸11はギヤハウジング7により保持される第4及び第5の転がり軸受34,35によりそれぞれ回転自在に支持されている。第4及び第5の転がり軸受34,35は例えば玉軸受からなる。
【0024】
第4及び第5の転がり軸受34,35の内輪36,37がウォーム軸11の対応するくびれ部に嵌合されている。また、第4及び第5の転がり軸受34,35の外輪38,39は、ギヤハウジング7の軸受保持孔40,41にそれぞれ保持されている。ギヤハウジング7は、ウォーム軸11の周面の一部に対して径方向に対向する部分7bを含んでいる。また、ウォーム軸11の一端部11aを支持する第4の転がり軸受34の外輪38は、ギヤハウジング7の段部42に当接し位置決めされている。一方、第4の転がり軸受34の内輪36は、ウォーム軸11の位置決め段部43に当接することにより、ウォーム軸11の他端部11b側への移動が規制されている。
【0025】
ウォーム軸11の他端部11b(継手側端部)の近傍を支持する第5の転がり軸受35の内輪37はウォーム軸11の位置決め段部44に当接することにより、ウォーム軸11の一端部11a側への移動が規制されている。また、第5の転がり軸受35の外輪39は予圧調整用のねじ部材45により、第4の転がり軸受34側へ付勢されている。ねじ部材45は、ギヤハウジング7に形成されるねじ孔46にねじ込まれることにより、一対の転がり軸受34,35に予圧を付与すると共に、ウォーム軸11を軸方向に位置決めしている。ロックナット47は予圧調整後のねじ部材45を止定するためにねじ部材45に係合されるナットである。
【0026】
図3(a)に示すように、第2の歯車としてのウォームホイール12は、薄肉の金属板50と、金属板50より硬度の低い軟質板としての薄肉の合成樹脂板51とを歯幅方向X1に交互に積層してなる複合歯車である。ウォームホイール12の両側面は、金属板50により構成されている。ウォームホイール12の歯53の一対の歯面Pは、滑らかな湾曲状をなしており、歯53の歯厚t1が、歯幅方向X1の中央部に向かうにしたがって次第に薄くなるようにされている。
【0027】
図1に示すように、金属板50の外周に歯形形状が形成され、金属板50の内周は円筒面に形成されている。同じく、合成樹脂板51の外周に歯形形状が形成されている。合成樹脂板51の内周は、金属板50の内周の円筒面と等径の円筒面に形成されており、金属板50および合成樹脂板51は、同心に配置され、また、図示していないが、歯形に関して、各金属板50および各合成樹脂板51の周方向の位相が一致するように積層されている。
【0028】
ウォームホイール12を製造するときは、プレス成形により形成された金属板素体500と合成樹脂板素体510とを交互に積層して、図3(b)に示すような歯車素体120を、まず作成する。金属板素体500は、例えばプレス加工により打ち抜き形成されたものからなる。
金属板素体500は、肉厚方向(歯幅方向X1に相当)に関して均等な断面を有しており、合成樹脂板素体510は、肉厚方向(歯幅方向X1に相当)に関して均等な断面を有している。
【0029】
歯車素体120の歯130の一対の歯面Qは、階段状をなしている。歯車素体120の歯厚130の歯厚t2は、歯幅方向X1の中央部に向かうにしたがって、次第に薄くなるようにされている。また、各合成樹脂板素体510は、歯車素体120の軸方向の端部側に隣接する金属板素体500と同じ形状、同じ大きさにされている。
次いで、歯車素体120に対して、図4に示すなじみ運転装置60を用いて、適宜の負荷を与えながら、なじみ運転を行う。なじみ運転装置60は、歯車素体120の回転域を臨む複数の位置にその軸点が互いに直交するように回転可能に支持され、ウォーム軸11のウォームと等しい歯形(ウォームの設計寸法の中央値を実現した)金属製の、例えば第1〜第4のなじみ歯体61,62,63,64と、第1のなじみ歯体61の一端にトルク伝達可能に連結されたモータ等の駆動部材65とを有している。
【0030】
各なじみ歯体61〜64の両端は、軸受66によって回転可能に支持されている。また、第1のなじみ歯体61の他端と第2のなじみ歯体62の一端、第2のなじみ歯体62の他端と第3のなじみ歯体63の一端、第3のなじみ歯体63の他端と第4のなじみ歯体64の一端とが、夫々同期用の一対の傘歯車67を介して連動回転されるようになっている。駆動部材65を駆動することにより、第1のなじみ歯車61を駆動し、傘歯車67を介して第2〜第4のなじみ歯車62,63,64を同期回転させるように構成してある。
【0031】
なじみ運転装置60は、回転可能に支持した歯車素体120に90度の位相差で夫々のなじみ歯車61〜64を適宜の負荷で噛合させ、なじみ歯車61〜64を同期して正回転/逆回転させつつ歯車素体120を1/4回転ずつ従動回転させ、歯車素体120の歯に負荷を加える。
図3(b)に示すような歯車素体120の階段状の歯面Qに、なじみ運転装置60の金属製のなじみ歯体61〜64を噛み合わせ、負荷を加えたなじみ運転を行い、ウォームホイール12の歯面Pを図3(a)に示すような滑らかな湾曲状に仕上げる。
【0032】
なじみ運転装置60のなじみ運転によって、金属板素体500および合成樹脂板素体510の歯形が、なじみ歯体61〜64によって調整され、理想的な歯形形状を有するウォームホイール12が得られる。特に、なじみ運転によって、合成樹脂板51が当該合成樹脂板51を挟んだ両側の金属板50間を滑らかに接続するような形状に形成され、理想的な歯面Pの形状が得られる。
【0033】
仮に、歯車素体と現実に組み合わされるウォーム軸を組み込んだ実機において、なじみ運転を行う場合には、各部品の寸法のばらつきを含んだ状態でのなじみ運転となるため、なじみ運転によって実機の歯車間のバックラッシが増大してしまい、その結果、実機となる電動パワーステアリング装置の使用の初期において、既にバックラッシが大きな状態となってしまうおそれがある。
【0034】
これに対して、本実施の形態では、図4に示されるなじみ運転装置60を用いて、互いに噛み合わされた歯車素体120およびなじみ歯体61〜64の位置精度が厳密に設定された状態で、比較的高い負荷を加えながら、なじみ運転を行うことにより、設計寸法に忠実なばらつきの少ない寸法精度、形状精度の歯面を持つウォームホイール12を得ることができる。したがって、電動パワーステアリング装置1の使用初期において、歯車装置8として、適正なバックラッシ量を得ることが可能である。
【0035】
本実施の形態によれば、第2の歯車としてのウォームホイール12において、積層された多数枚の金属板50によって、相手方の金属製の第1の歯車としてのウォーム軸11との接触荷重を分散して受けることができ、小型でも十分な歯車強度を確保することができる。
また、金属製のなじみ歯体61〜64を用いたなじみ運転により、ウォームホイール12の歯面として、理想的な歯面を得ることができ、結果として、理想的な歯当たりを実現することができ、この点からも小型で耐久性を向上させることができる。
【0036】
また、交互に積層されている軟質板としての合成樹脂板51の外周において、歯面の一部を構成している部分は、相手方の金属製のウォーム軸11の歯面に対する摩擦が小さいので、潤滑剤切れを起こし難い。したがって、小型で耐久性に優れたウォームホイール12を実現でき、ひいては、小型で耐久性に優れた歯車装置8を実現し、小型で耐久性に優れた電動パワーステアリング装置1を実現することができる。
【0037】
特に、多数枚用いる薄肉の金属板50として、プレス成形品を用いた場合には、安価に金属板50の形状精度を得ることができる点で好ましい。また、図3(a)に示すように、ウォームホイール12の両側面が、金属板50により構成されている場合には、ウォームホイール12の両側面の強度を向上させるうえで好ましい。
なお、金属板50よりも硬度の低い軟質板として、上記の合成樹脂板51に代えて、ゴム板を用いたり、例えばアルミニウム、黄銅、青銅等の軟質金属板を用いるようにしてもよい。
【0038】
なお、図4のなじみ運転装置60では、4つのなじみ歯体61〜64を用いたが、少なくとも1つのなじみ歯体を用いればよい。
次いで、図5(a)は本発明の別の実施の形態の歯車装置の第2の歯車としてのウォームホイール12Aの断面図であり、図5(b)はウォームホイール12Aの要部の模式図である。
【0039】
本実施の形態が図3の実施の形態と主に異なるのは、図5(a)に示すようにウォームホイール12Aの歯幅方向X1に交互に並ぶ同形状の金属板50a,50bが、図5(b)に示すように、交互の逆向きに周方向に位相をずらされていることである。また、軟質板51aが弾性材により形成されていることである。すなわち、各金属板50aは同位相であり、各金属板50bは同位相であり、金属板50aの歯53aとと金属板50bの歯53bとでは、例えば1〜2分程度、位相がずらされている。
【0040】
上記弾性材は、有機材料(高分子材料)からなる。上記弾性材として、例えば、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン)、ポリエチレン、ポリエチレン多孔質樹脂、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、フラン樹脂、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、変成ポリフェニレンオキシド、ポリブチレンテレフタレート、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアリレート、熱可塑性ポリエステルエラストマーなどの合成樹脂を用いることができる。また、上記弾性材として、例えば、ニトリルゴム、水素添加ニトリルゴム、アクリルゴム、シリコーンゴム、フルオロシリコーンゴム、フッ素ゴム、エチレンプロピレンゴム、クロロプレンゴム、クロロスルフォン化ポリエチレン、スチレンブタジエンゴム、ブチルゴム、ウレタンゴムなどのゴムを用いることができる。
【0041】
本実施の形態によれば、図3の実施の形態と同じ作用効果を奏することに加えて、ウォームホイール12Aにおいて交互の逆向きに位相をずらされた金属板50a,50bの歯53a,53bが、ウォームホイール12Aの周方向に関して上記弾性材(上記の合成樹脂または上記のゴム)である軟質板51aの弾性による予圧を与えられた状態で、ウォーム軸11の歯と噛み合うので、バックラッシを0にすることができる。騒音低減とともに耐久性の向上に寄与することができる。
【0042】
特に、交互の逆向きに位相をずらされている金属板50a,50bが、同一形状品を表裏逆にして構成された複数対の金属板であれば、バックラッシを抑制しつつ、量産効果により製造コストを安価にすることができる。
本発明は上記各実施の形態に限定されるものではなく、例えば、図6(a)に示すように、ウォームホイール12Cの歯53cの一対の歯面Pの少なくとも一方において、金属板50cおよび軟質板51cの少なくとも一方(図6の例では、金属板50c)に、回転に伴ってウォーム軸11に対する噛み合い領域Aに移動可能な潤滑剤収容凹部55が、図6(b)に示すように切欠き形成されていてもよい。軟質板51cは、金属板50cよりも硬度の低い合成樹脂板、ゴム板または軟質金属板により構成されている。
【0043】
理想的な歯当たりを実現できる歯面Pの理想的な形状とした場合、歯当たりが面当たりとなり、潤滑剤の保持が悪くなる懸念があるが、本実施の形態では、ウォームホイール12Cの回転に伴って、潤滑剤収容凹部55に溜められた潤滑剤が噛み合い領域Aに供給されるので、長期にわたって良好な潤滑性を維持することができ、耐久性をより向上することができる。なお、潤滑剤収容凹部55は、少なくとも一部の金属板50cまたは少なくとも一部の軟質板51cの少なくとも一部の歯に形成されていればよい。
【0044】
また、本発明は、第1の歯車としての金属歯車とこれに噛み合う第2の歯車(複合歯車)を有する種々の歯車装置に適用することができる。例えば、第1の歯車としてのラックおよび第2の歯車としてのピニオンを有する歯車装置に適用することもできる。その他、本発明の特許請求の範囲で種々の変更を施すことができる。
【符号の説明】
【0045】
1…操舵部材、8…歯車装置、11…ウォーム軸(第1の歯車)、12,12A,12C…ウォームホイール(第2の歯車。複合歯車)、50;50a,50b;50c…金属板、51…合成樹脂板(軟質板)、51a;51c…軟質板、53a,53b;53c…歯、55…潤滑剤収容凹部、60…なじみ運転装置、81…転舵機構、100…電動パワーステアリング装置、120…歯車素体、500…金属板素体、510…合成樹脂板素体、A…噛み合い領域、M…電動モータ、P…歯面、X1…歯幅方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製の第1の歯車と、上記第1の歯車に噛み合わされる第2の歯車と、を備え、
上記第2の歯車は、薄肉の金属板と上記金属板より硬度の低い薄肉の軟質板とを歯幅方向に交互に多数枚積層してなる複合歯車であり、
上記第2の歯車の歯面が、金属製のなじみ歯体を噛み合わせてのなじみ運転により仕上げられている歯車装置。
【請求項2】
請求項1において、上記第2の歯車の歯幅方向に並ぶ上記金属板の歯は、交互の逆向きに周方向に位相をずらされており、
上記軟質板は弾性を有している歯車装置。
【請求項3】
請求項2において、交互の逆向きに位相をずらされている上記金属板は、同一形状品を表裏逆にして構成された複数対の金属板を含む歯車装置。
【請求項4】
請求項1から3の何れか1項において、上記第2の歯車の歯面において上記金属板および上記軟質板の少なくとも一方に、上記第2の歯車の回転に伴って第1の歯車に対する噛み合い領域に移動可能な潤滑剤収容凹部が形成されている歯車装置。
【請求項5】
請求項1から4の何れか1項に記載の歯車装置を用いて電動モータの出力回転を減速する電動パワーステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−127722(P2011−127722A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−288408(P2009−288408)
【出願日】平成21年12月18日(2009.12.18)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】