説明

歯車装置

【課題】安価な構成を用いてスカッフィング発生の兆候を高い精度で検出すること。
【解決手段】互いに噛み合う小歯車1と大歯車2からなる歯車対と、この歯車対の歯面に潤滑油を供給する潤滑油供給ノズル3と、歯車対の噛み合い部から設定角度回転した領域の歯面から飛散する飛沫油の温度を計測する温度センサ5と、この温度センサ5の検出温度に基づいて噛み合い部の歯面温度を推定して歯面温度を監視する温度監視手段8とを備えること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯車装置に係り、特に、歯車同士の噛み合い部の歯面温度を監視する温度監視手段を備えた歯車装置に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の歯車が噛み合い高速かつ大容量で運転される歯車装置においては、歯面が局所的に発熱することにより歯面を覆う潤滑油の油膜が突発的に破断し、いわゆるスカッフィングを生じることがある。このスカッフィングは、歯面同士の直接接触に起因する熱的な凝着摩耗と分類されているが、振動や騒音を発するだけでなく、これが進行すると歯の折損を招くおそれもあるため、装置の信頼性に大きく関わっている。
【0003】
スカッフィングの発生は、歯面修整や歯面に表面処理を施すことにより、ある程度予防することができるが、設計段階で発生の有無を精度よく予測する技術は現在のところ確立されていない。そのため潤滑油の供給量(給油量)や潤滑油の供給温度(給油温度)等の給油条件は経験に基づいて決定されている。
【0004】
一方、スカッフィングは歯面温度がある一定値を超えたときに発生すると考えられているため、例えば、温度センサを備えた機械的手段を用いて歯車の歯面温度を直接計測することができれば、スカッフィングの兆候を早期に検出し、損害が軽微なうちに対処することができる。しかし、高速で回転する歯車の歯面温度を直接計測するためには、回転する歯車軸から温度計測された結果を電気信号として取り出す必要があり、そのためには、例えば、回転円盤とブラシ等を備えたロータリコネクタを歯車の軸端に取り付けるか、或いは、回転側に設けた電波送信機と静止側に設けた受信機とからなる遠隔測定装置等を用いることにより、表面温度を検知することになるため、非常に高価な装置が必要となってくる。
【0005】
一方、歯車対の噛み合い部から排出される潤滑油の温度を計測し、その温度を監視するようにした歯車装置が開示されている(特許文献1参照。)。歯車対の噛み合い部から排出された直後の潤滑油の温度は、歯面の温度に近いため、この潤滑油の温度を測定することにより、高価な装置を用いなくてもスカッフィングの兆候を捉えることができる。
【0006】
【特許文献1】特開平11−337449号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、歯車対の噛み合い部を通過する潤滑油は、その大部分が歯車のポンプ作用により下方へ排出される一方、歯面に付着した残部は、遠心力により歯車の接線方向へと飛散する。この歯面に付着した潤滑油は、歯面に最も近い状態で歯面から熱を受け取り加熱されるため、歯面の温度の近くまで昇温されている。
【0008】
しかしながら、特許文献1では、例えば、噛み合い部の直下に温度センサが配置されており、噛み合い部から排出された潤滑油と歯面に付着したごく微量の潤滑油とが混在した状態で温度が計測されることになる。このため、スカッフィング発生の兆候を高い精度で検出する方法として、十分なものとはいえなかった。
【0009】
本発明は、安価な構成により、スカッフィング発生の兆候を高い精度で検出することができる歯車装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の歯車装置は、上記課題を解決するため、互いに噛み合う小歯車と大歯車からなる歯車対と、この歯車対の歯面に潤滑油を供給する潤滑油供給ノズルと、歯車対の噛み合い部から設定角度回転した領域の歯面から飛散する飛沫油の温度を計測する温度センサと、この温度センサの検出温度に基づいて噛み合い部の歯面温度を推定して歯面温度を監視する温度監視手段とを備えることを特徴としている。
【0011】
歯面から飛散した飛沫油は、例えば、噛み合い部において歯面から熱を受け取り昇温されているため、この加熱された飛沫油の温度を計測することにより歯面の温度を高い精度で推定することができる。本発明では、噛み合い部から設定角度回転した領域の歯面から飛散する飛沫油の温度を計測するため、所定の位置に温度センサを配置しているため、この温度センサにより計測された飛沫油の温度に基づいてスカッフィングの兆候を高い精度で検出することができる。なお、設定角度は、歯面から飛散する飛沫油と歯車のポンプ作用により噛み合い部を通過して排出される潤滑油とが混在しない範囲で、適宜定めることができる。
【0012】
この場合において、温度センサは、小歯車又は大歯車の外周側の同一円周上に複数配置することにより、歯面温度の推定精度をより高めることができる。また温度センサは、飛沫油を取り込む開口部を有する飛沫油受けに包囲されて設けられるようにする。これによれば、温度センサの温度検出部に飛沫油を容易に集めることができるため、飛沫油の計測効率を高めることができる。ここで、飛沫油受けは、金属と比較して熱伝導の小さい樹脂等で形成し、容量を小さくすることにより、飛沫油の温度変化を抑制することができる。
【0013】
温度監視手段は、温度センサの検出温度に基づいて推定された噛み合い部の歯面温度が設定温度を超えた場合、その旨をランプやブザー等の報知手段で報知するように構成してもよいし、潤滑油供給ノズルから供給される潤滑油の供給量を増加させ、又は潤滑油供給ノズルから供給される潤滑油の供給温度を低下させるように構成してもよい。これによれば、スカッフィング発生の兆候が検出されたとき、直ちに所定の処置を施すことができるため、スカッフィング発生を未然に防ぎ、又はスカッフィング発生による損害を軽微なものに抑えることができる。
【0014】
また温度監視手段は、噛み合い部の歯面温度と温度センサの検出温度との関係を予め記録したデータベースを備え、温度センサの検出温度とデータベースとに基づいて噛み合い部の歯面温度を推定するようにしてもよい。これによれば、歯面温度の推定精度をより高めることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の歯車装置によれば、安価な構成により、スカッフィング発生の兆候を高い精度で検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を適用してなる歯車装置の第1の実施の形態について図面を参照して説明する。図1は本発明を適用してなる歯車装置の第1の実施の形態を示す構成図である。
【0017】
本実施の形態の歯車装置は、互いに噛み合う小歯車1と大歯車2からなる歯車対と、歯車対の歯面に潤滑油を供給する給油ノズル3と、給油ノズル3の内部に設置される給油用温度センサ4と、歯車の歯面から飛散する飛沫油の温度を検知する飛沫油用温度センサ5と、温度測定器7と、給油コントローラ8を含んで構成される。
【0018】
給油ノズル3は、歯車対が噛み合う噛み合い部の上部に配置され、噛み合い部に向けて潤滑油を噴出するようになっている。飛沫油用温度センサ5は、小歯車1の外周部近傍に設けられた断面U字状の容器からなる飛沫油受け6の内部に設けられ、噛み合い部から設定角度回転した歯車の外周付近に同一円周上で2組配置されている。飛沫油受け6は、開口部を飛沫油が飛散してくる方向に向けて配置し、ほぼ中央に飛沫油用温度センサ5が設けられている。飛沫油受け6は、金属よりも熱伝導の小さい樹脂等で形成し、容量をごく小さくすることにより、開口部から容器内に飛び込んできた飛沫油の温度変化を抑制するようになっている。
【0019】
給油用温度センサ4と飛沫油用温度センサ5は、歯車箱外に設けられた温度測定器7と電気的に接続されており、温度測定器7は給油コントローラ8と電気的に接続されている。給油コントローラ8は、給油ノズル3と連通する給油配管9上に設けられた給油量調整弁10と電気的に接続されており、給油量調整弁10の弁開度を調整可能になっている。
【0020】
次に、このように構成される歯車装置の動作を説明する。駆動歯車である小歯車1が時計方向11に回転すると、これと噛み合う大歯車2が反時計方向12に回転する。ここで、歯車対の噛み合い部を基準とすれば、鉛直上方が噛み合い開始側13、鉛直下方が噛み合い終了側14となる。噛み合い開始側13に設けられた給油ノズル3から、小歯車1及び大歯車2の歯面に潤滑油が供給されることにより歯面の潤滑及び冷却が行われる。
【0021】
噛み合い部を通過した潤滑油の大部分は、歯車のポンプ作用により噛み合い終了側14へと排出され、歯面に付着した残部は、例えば、遠心力により歯面から歯車の接線方向(点線矢印)へと飛散する。ここで、スカッフィングの発生を精度よく検出するためには、この歯面から飛散した飛沫油の温度を計測する必要がある。この飛沫油は歯面から熱を受け取り所定の温度に加熱されているため、歯面の温度にかなり近い温度まで昇温されている。そのため、歯面から飛散する飛沫油に、歯車のポンプ作用により噛み合い終了側14へ排出される潤滑油が混入しないように、噛み合い部から所定の角度回転した領域における歯面の近傍、例えば、歯面の接線方向に、飛沫油受け6a,6bの開口を向けて配置するようにしている。これにより、飛沫油受け6a,6bには、歯面から飛散した飛沫油だけが効率的に集められ、飛沫油の温度を容易に計測することができる。
【0022】
ところで、噛み合い部を通過した歯面の温度は、歯車の回転に伴い、徐々に低下するため、歯車の周方向に設置された飛沫油用温度センサ5a,5bの検出値も、それぞれ異なった温度として検出される。この特性に基づき、各々の飛沫油用温度センサ5a,5bの検出値を外挿又はプロットすることにより、噛み込み部の歯面温度を推定することができる。ここで、飛沫油用温度センサ5の検出値は、温度測定器7によって記録され、この記録値に基づいて給油コントローラ8により歯面温度が推定される。
【0023】
給油コントローラ8には、スカッフィング発生温度が記録されているため、歯面の推定温度がこのスカッフィング発生温度を超えた場合、スカッフィング発生と判定される。スカッフィング発生と判定されると、給油コントローラ8は給油量調整弁10の弁開度を調整し、給油ノズル3から噴出される潤滑油の給油量を増加させることにより歯面温度を低下させることができる。ここで、歯面温度の低下は飛沫油の温度に反映されるため、給油コントローラ8による歯面の推定温度が基準値以下となるまで、給油量の増加状態を維持するようにする。
【0024】
一方、潤滑油の給油温度は、図示しないオイルクーラへ供給される冷却水の温度によって左右されるため、例えば、夏季においては、設定された給油温度が得られない場合がある。このようなときは、給油コントローラ8によりオイルクーラへ供給される冷却水の量を増加させ、給油温度を低下させることにより、潤滑油による冷却能力を向上させ、歯車装置の信頼性を高めることができる。また給油コントローラ8がスカッフィング発生の判定をした場合、給油条件を調整するとともに、例えば、図示しないランプを点滅させたり、ブザーを鳴らすことにより、歯車装置の不具合発生をオペレータに知らせることができる。
【0025】
次に、本発明を適用してなる歯車装置の第2の実施の形態について図面を参照して説明する。図2は本発明を適用してなる歯車装置の第2の実施の形態を示す構成図である。なお、第1の実施の形態と同じ構成については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0026】
本実施の形態は、給油ノズル3が噛み合い終了側に配置され、給油コントローラ8にデータベース15が接続されている以外は、第1の実施の形態と同じ構成である。例えば、歯車周速が比較的低速の歯車装置の場合、第1の実施の形態のように噛み合い開始側13から潤滑油を共有するのが一般的であるのに対し、歯車周速が比較的高速の歯車装置の場合、本実施の形態のように噛み合い終了側14から給油した方が、潤滑、冷却効果が高くなることがある。この場合、噛み合い終了側14近傍においては、給油ノズル3から供給された潤滑油と歯面から飛散する飛沫油が混在するため、飛沫油の温度を正確に計測するには、図1の例と比べて、飛沫油用温度センサ5を噛み合い終了側14からさらに遠ざけて配置する必要がある。しかし、このように噛み合い部から離れた歯面から飛散する飛沫油を集め、その飛沫油の検出温度から噛み合い部の歯面温度を推定する場合、十分な推定精度が得られないおそれがある。
【0027】
そのため、本実施の形態では、噛み合い部の歯面温度と飛沫油用温度センサ5の検出温度との関係を予め記録したデータベース15を備え、飛沫油用温度センサ5の検出温度を入力としてデータベース15に記録されたデータを読み出すようにしている。これにより、噛み合い部の歯面温度の推定精度を高く維持することができる。
【0028】
以上述べたように、上述した実施の形態によれば、噛み合い部から設定角度回転した領域の歯面から飛散する飛沫油を回収し、その回収された飛沫油の検出温度から推定される噛み合い部の歯面温度を監視するようにしているから、スカッフィング発生を未然に防ぎ、又はスカッフィング発生による損害を軽微なものに抑えることができ、その結果、歯車装置の信頼性を向上させることができる。
【0029】
加えて、本実施の形態によれば、歯車対の噛み合い部における歯面の温度を直接測定する必要がないため、装置の構成が簡単になり、安価な歯車装置を提供することができる。
【0030】
また上述した実施の形態では、単位時間当たりの回転数が多く、より高温となり易い小歯車1の外周付近に飛沫油用温度センサ5を配置する例を説明したが、小歯車1の外周付近に飛沫油用温度センサ5を配置することが構造上困難な場合は、例えば、小歯車1の外周付近に設置する場合よりも多くの飛沫油用温度センサ5を大歯車2の外周付近に設置することで、同様の効果を得ることができる。なお、上記の実施の形態では、小歯車1を駆動歯車、大歯車2を従動歯車とする例を説明したが、この例に限らず、小歯車1を従動歯車、大歯車を駆動歯車としても同様の効果を得ることができる。
【0031】
さらに、上述した実施の形態においては、飛沫油用温度センサ5及び飛沫油受け6を同一円周上に2組配置する例を説明したが、この例に限らず、例えば、1組だけ配置してもよいし、3組以上配置するようにしてもよい。このように設置数を多くすれば、歯面温度の推定精度をより高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明を適用してなる歯車装置の第1の実施の形態を示す構成図である。
【図2】本発明を適用してなる歯車装置の第2の実施の形態を示す構成図である。
【符号の説明】
【0033】
1 小歯車
2 大歯車
3 給油ノズル
4 給油用温度センサ
5 飛沫油用温度センサ
6 飛沫油受け
7 温度測定器
8 給油コントローラ
9 給油配管
10 給油量調整弁
11 時計方向
12 反時計方向
13 噛み合い開始側
14 噛み合い終了側
15 データベース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに噛み合う小歯車と大歯車からなる歯車対と、該歯車対の歯面に潤滑油を供給する潤滑油供給ノズルと、前記歯車対の噛み合い部から設定角度回転した領域の歯面から飛散する飛沫油の温度を計測する温度センサと、該温度センサの検出温度に基づいて前記噛み合い部の歯面温度を推定して該歯面温度を監視する温度監視手段とを備えてなる歯車装置。
【請求項2】
前記温度センサは、前記小歯車又は大歯車の外周側の同一円周上に複数設置されていることを特徴とする請求項1に記載の歯車装置。
【請求項3】
前記温度センサは、前記飛沫油を取り込む開口部を有する飛沫油受けに包囲されて設けられることを特徴とする請求項1又は2のいずれかに記載の歯車装置。
【請求項4】
前記温度監視手段は、前記温度センサの検出温度に基づいて推定された前記噛み合い部の歯面温度が設定温度を超えた場合、その旨を報知することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の歯車装置。
【請求項5】
前記温度監視手段は、前記温度センサの検出温度に基づいて推定された前記噛み合い部の歯面温度が設定温度を超えた場合、前記潤滑油供給ノズルから供給される潤滑油の供給量を増加させ、又は前記潤滑油供給ノズルから供給される潤滑油の供給温度を低下させることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の歯車装置。
【請求項6】
前記温度監視手段は、前記噛み合い部の歯面温度と前記温度センサの検出温度との関係を予め記録したデータベースを備え、前記温度センサの検出温度と前記データベースとに基づいて前記噛み合い部の歯面温度を推定することを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の歯車装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−85423(P2009−85423A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−259936(P2007−259936)
【出願日】平成19年10月3日(2007.10.3)
【出願人】(303025663)株式会社日立ニコトランスミッション (25)
【Fターム(参考)】