説明

残存ホルムアルデヒド含量の低減された水溶性ホルムアルデヒド縮合物の製造方法

【課題】ビスフェノール系ホルムアルデヒド縮合物水溶液および/またはナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物水溶液中に残存するホルムアルデヒドを、簡易な手法で、各種分散剤としての性能に影響を与えることなく、十分な残存ホルムアルデヒドを低減し、セメント用減水剤、石膏用分散剤などの各種用途向けの分散剤を得るための手段を提供する。
【解決手段】特定の成分からなるホルムアルデヒド縮合物にヒドロキシルアミン類を添加し、縮合物中に残存するホルムアルデヒドと反応させることで、ホルムアルデヒド含量の低減されたホルムアルデヒド縮合物の製造方法。また、このホルムアルデヒド低減方法によって得られる反応物からなるセメント用減水剤または石膏用分散剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホルムアルデヒド縮合物のホルムアルデヒド低減方法に関し、詳しくは、セメント用減水剤、石膏用分散剤や、顔料、窯業、顔料、染料、農薬等の用途の分散剤として有用なビスフェノール系ホルムアルデヒド縮合物水溶液やナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物水溶液中に残存するホルムアルデヒドの低減方法に関するものである。また、本発明は、前記ホルムアルデヒド低減方法によって得られる反応物を含むセメント用減水剤または石膏用分散剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ビスフェノール類骨格を分子構造中に有するビスフェノール系ホルムアルデヒド縮合物や、ナフタレン骨格を分子構造中に有するナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物は、セメント用減水剤、石膏用分散剤をはじめ、顔料、窯業、顔料、染料、農薬等の用途の分散剤としても使用されている。一方で、その製造工程、すなわちホルムアルデヒドとの縮合反応において、ホルムアルデヒドが未反応で残存してしまうという欠点を有している。ホルムアルデヒドは、特有の臭気を有すると共に健康上有害なため、各分野において、その低減が求められている。
【0003】
残ホルムアルデヒドの低減に関し、ビスフェノール系ホルムアルデヒド縮合物水溶液を対象とする従来技術は見当たらないが、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物水溶液については、各種の低減方法が提案されている。
【0004】
例えば、過酸化水素や次亜塩素酸ソーダ等の過酸化物によりホルムアルデヒドを酸化して蟻酸にする方法が一般的に知られているが、反応中における発泡に対処するために反応槽を大きくする対策や、副生物による反応槽の腐食防止が必要である等煩雑な問題が有り、残ホルムアルデヒドの低減効果も十分でない。また、残存ホルムアルデヒドを低減するために大過剰量の薬剤で処理した場合、セメント用減水剤、石膏用分散剤としての用途など分散剤としての性能が劣化してしまうという問題を有する。これらの方法をビスフェノール系ホルムアルデヒド縮合物水溶液に適用しても、同様の問題が起こることが予想される。
【0005】
中和後のナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物に含まれるホルムアルデヒドを薄膜蒸発装置により除去する方法が、特許文献1(特開平5−320120号公報)に記載されている。しかしながら、ホルムアルデヒドの低減効果が不十分であり、また、大がかりな装置を導入する必要がありコストが高く操作が煩雑である。
【0006】
特許文献2(特開平4−211046号公報)には、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合生成物を、縮合直後直ちに80℃より低くない温度において11.5より大なるpHで保持する手法が開示されている。しかしながら、得られる縮合物のpHは非常に高く一般的な分散剤用途に利用する場合取扱いの観点から問題を有している。
【0007】
また、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物に限らず、ホルムアルデヒドの低減剤として、アンモニア及びその塩(例えば硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム)による処理も知られているが、ビスフェノール系ホルムアルデヒド縮合物水溶液および/またはナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物水溶液中の残ホルムアルデヒド低減効果はほとんど認められない。
【0008】
以上のようにホルムアルデヒド縮合物水溶液中の残ホルムアルデヒド低減方法が、種々提案されているが、残ホルムアルデヒド量の十分な低減効果が有り、かつ、セメント用減水剤、石膏用分散剤など各種用途向けの分散剤としての性能に悪影響を与えない方法は今のところなく、開発が望まれている。
【0009】
なお、分野は異なるが、微小カプセル中のホルムアルデヒド低減法として、ヒドロキシルアミン類を用いる手法が開示されている(特開昭51−75676号公報(特許文献3)、特開昭54−5874号公報(特許文献4)、特開昭55−145524号公報(特許文献5))。しかしながら、残留ホルムアルデヒドの低減効果が十分でなく、残存するホルムアルデヒドによる刺激臭やヒドロキシルアミン類とホルムアルデヒドの反応やヒドロキシルアミン類の分解により生じるアンモニア及びその他の分解物の不快な複合臭が残るという欠点が指摘されており、工業的な実施には問題がある(特開昭61−438号公報:特許文献6)。
【0010】
【特許文献1】特開平5−320120号公報
【特許文献2】特開平4−211046号公報
【特許文献3】特開昭51−75676号公報
【特許文献4】特開昭54−5874号公報
【特許文献5】特開昭55−145524号公報
【特許文献6】特開昭61−438号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで、本発明はこのような問題点を解決するために成されたものである。本発明の目的は、ビスフェノール系ホルムアルデヒド縮合物水溶液および/またはナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物水溶液中に残存するホルムアルデヒドを低減する方法に関するもので、簡易な手法で、各種分散剤としての性能に影響を与えることなく、十分な残存ホルムアルデヒド低減効果を有する方法を提供することにある。また、残ホルムアルデヒドを低減したセメント用減水剤、石膏用分散剤などの各種用途向けの分散剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らが検討を重ねた結果、アルデヒド類の水溶液に、ヒドロキシルアミン類を添加し、前記水溶液中に残存するホルムアルデヒドと反応させることにより、残存ホルムアルデヒドを大幅に低減させることができることを見出した。また、この方法により得られる、ビスフェノール系ホルムアルデヒド縮合物水溶液および/またはナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物水溶液は、セメント用減水剤、石膏用分散剤としての性能に優れ、これらの分散剤としての用途に利用できることも確認し、本発明に到達した。
【0013】
すなわち、本発明は下記の発明を提供する。
〔1〕 下記成分(I)、(II)および(IV)の縮合物、および/または成分(III)および(IV)の縮合物に、ヒドロキシルアミン類を添加し、前記縮合物中に残存するホルムアルデヒドと反応させる工程を含むことを特徴とするホルムアルデヒド含量の低減されたホルムアルデヒド縮合物の製造方法。
(I)ビスフェノール類化合物又はその塩
(II)下記(a)〜(d)から選ばれる1種以上の化合物
(a)芳香族アミノスルホン酸またはその塩
(b)亜硫酸塩
(c)アミノ酸
(d)分子中にアミノ基を有する脂肪族スルホン酸
(III)ナフタレンスルホン酸またはその塩
(IV)アルデヒド類
〔2〕 前記成分(II)が、(a)芳香族アミノスルホン酸である〔1〕に記載のホルムアルデヒド縮合物の製造方法。
〔3〕 前記ヒドロキシルアミン類の添加量は、前記縮合物中に残存するホルムアルデヒドの1.3倍当量以上である〔1〕または〔2〕に記載のホルムアルデヒド縮合物の製造方法。
〔4〕 前記ヒドロキシルアミン類が硫酸ヒドロキシルアミンである〔1〕〜〔3〕のいずれか一項に記載のホルムアルデヒド縮合物の製造方法。
〔5〕 下記成分(I)、(II)および(IV)の縮合物、および/または成分(III)および(IV)の縮合物に、ヒドロキシルアミン類を添加し、前記縮合物中に残存するホルムアルデヒドと反応させることを特徴とするホルムアルデヒド縮合物水溶液中に残存するホルムアルデヒドを低減する方法。
(I)ビスフェノール類化合物又はその塩
(II)下記(a)〜(d)から選ばれる1種以上の化合物
(a)芳香族アミノスルホン酸
(b)亜硫酸塩
(c)アミノ酸
(d)分子中にアミノ基を有する脂肪族スルホン酸
(III)ナフタレンスルホン酸
(IV)アルデヒド類
〔6〕 〔1〕に記載の製造方法によって得られるホルムアルデヒド縮合物を含有するセメント用減水剤または石膏用分散剤。
〔7〕 下記成分(I)、(II)および(IV)の縮合物、および/または成分(III)および(IV)の縮合物であって、縮合物中の残存ホルムアルデヒド量が500ppm以下であるアルデヒド縮合物。
(I)ビスフェノール類化合物又はその塩
(II)下記(a)〜(d)から選ばれる1種以上の化合物
(a)芳香族アミノスルホン酸
(b)亜硫酸塩
(c)アミノ酸
(d)分子中にアミノ基を有する脂肪族スルホン酸
(III)ナフタレンスルホン酸
(IV)アルデヒド類
【発明の効果】
【0014】
従来のビスフェノール系ホルムアルデヒド縮合物やナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物の製法においては、縮合物に残存するホルムアルデヒドの危険性や人体への悪影響、有害性などが問題となっていた。本発明においては、縮合物中のホルムアルデヒド量を大幅に低減することができるので、安全なホルムアルデヒド縮合物を得ることができる。また、本発明により得られるホルムアルデヒド縮合物は、アンモニア及びその他の分解物による不快な複合臭も生じないことから、安全面だけでなく取り扱いにおいても有利である。また、建築用資材への利用においても有利である。
【0015】
また、本発明は、特定のホルムアルデヒド縮合物に対しヒドロキシルアミン類を添加するだけでホルムアルデヒド量低減効果を簡便かつ確実に得ることができる。そして、本発明により得られるホルムアルデヒド縮合物は、分散剤として用いた場合、その性能は同等以上であることから、セメント用減水剤、石膏用分散剤等の各種用途向けの分散剤として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明は、ホルムアルデヒドの残留が問題となっているビスフェノール系ホルムアルデヒド縮合物やナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物に、ヒドロキシルアミン類を添加し反応することにより、縮合物中のホルムアルデヒド含量を低減させる技術に関するものである。本発明により、これらの縮合物中に残存するホルムアルデヒド量を大幅に低減することが可能となり、安全面に優れ、かつ不快な複合臭の低減された縮合物を得ることができる。
【0017】
本発明においてホルムアルデヒド低減の対象とする縮合物は、下記成分(I)、(II)および(IV)の縮合物、下記成分(III)および(IV)との縮合物である。前者はいわゆるビスフェノール・ホルムアルデヒド縮合物に相当し、後者はナフタレンスルホン酸・ホルムアルデヒド縮合物に相当する。また、これらの縮合物は混合して分散剤として用いることもあるが、これらの混合物も本発明の対象である。
【0018】
成分(I)は、ビスフェノール類化合物又はその塩である。ビスフェノール類化合物とは例えばビスフェノールを有する化合物を意味し、例えば下記一般式(I)で表される化合物を挙げることができる。
【化1】

(一般式(I)中、Xは下記一般式(p),(q),(r)または O のいずれかを示す。
【化2】

【化3】

【化4】

(一般式(p),(q)及び(r)のうち、R,R,Rは夫々独立して水素またはアルキル基を示す。また、Rはアルキル基を示す。)
【0019】
下記一般式(I)で表される化合物としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、4,4´−ジヒドロキシジフェニルスルホン(ビスフェノールS)、4,4´−ジヒドロキシジフェニルメタン(ビスフェノールF)、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、4,4´−ジヒドロキシビフェニル(DHBP)、4,4´−ジヒドロキシジフェニルエーテル(DHPE)、4,4´−エチリデン−ビスフェノール、4,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)吉草酸(DPA)、4,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)酪酸、およびこれらの異性体、またはそれらの塩を挙げることができる。これらは1種類を用いることもできるし、2種類以上を組み合わせて用いることもできる。このうち、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、4,4´−ジヒドロキシジフェニルスルホン(ビスフェノールS)が好ましい。中でも特に2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)が好ましい。2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)の化学構造は下記構造式(I−1)で示すとおりであり、4,4´−ジヒドロキシジフェニルスルホン(ビスフェノールS)の化学構造は下記化学式(I−2)で示されるとおりである。
【化5】

【化6】

【0020】
ビスフェノール化合物の塩としては、上記一般式(I)で表される化合物の金属塩を挙げることができる。
【0021】
成分(I)としては、上記化合物またはその塩のうち1種を単独で、或いは2種以上を用いることができる。
【0022】
成分(II)は、(a)芳香族アミノスルホン酸またはその塩、(b)亜硫酸塩、(c)アミノ酸、および(d)分子中にアミノ基を有する脂肪属スルホン酸から選ばれる1種以上の化合物である。
【0023】
(a)芳香族アミノスルホン酸とは、芳香環、アミノ基およびスルホン酸基を有する化合物またはその塩を意味し、例えば一般式(II)で示される化合物またはその塩が挙げられる。
【化7】

(一般式(II)中、Yは水素またはアルキル基を示す。)
【0024】
一般式(II)で示される化合物としては、4−アミノベンゼンスルホン酸、2−アミノ−5−メチルベンゼンスルホン酸、それらの異性体などを挙げることができ、4−アミノベンゼンスルホン酸が好ましい。4−アミノベンゼンスルホン酸の化学構造は、下記構造式(II−1)で示される。
【化8】

芳香族アミノスルホン酸の塩としては、上記一般式(II)で表される化合物の金属塩を挙げることができる。
【0025】
(a)芳香族アミノスルホン酸またはその塩としては、上記化合物またはその塩のうち1種を単独で、或いは2種以上を用いることができるが、一般式(II)で示される化合物が好ましく、特に、4−アミノベンゼンスルホン酸が好ましい。一般式(II)で示される化合物またはその塩の中では、4−アミノベンゼンスルホン酸が残ホルムアルデヒドの低減効果が優れており、セメント用減水剤、石膏用分散剤等の各種用途向けの分散剤としての適性が高いことから好んで用いられる。
【0026】
(b)亜硫酸塩としては亜硫酸ナトリウム、亜硫酸アンモニウム、亜硫酸水素ナトリウム、ピロ亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸カリウム、重亜硫酸アンモニウムなどを、1種類単独で、または2種類以上組み合わせて用いることもできる。このうち亜硫酸ナトリウムが好ましい。
【0027】
(c)アミノ酸としては、グルタミン酸、グリシン、イミノ二酢酸、アラニン、アスパラギン酸、セリン、アミノ酪酸、グルタチオン、アミノカプロン酸、バリン、フェニルアラニン、メチオニン、ロイシンなどを、1種類、または2種類以上を組み合わせて用いることもできる。
【0028】
(d)分子中にアミノ基を有する脂肪族スルホン酸としては、メラミン、アセトグアナミン、ベンゾグアナミンなどのスルホン化物、スルファミン酸等が使用可能である。尚、メラミン、アセトグアナミン、ベンゾグアナミンのスルホン化に連続して、本発明で用いるビスフェノール系ホルムアルデヒド縮合物を製造することもできる。
【0029】
成分(II)としては、上記(a)〜(d)から選ばれる化合物を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。特に、(a)芳香族アミノスルホン酸またはその塩を用いることが好ましく、中でも、一般式(II)で示される化合物またはその塩を用いることが好ましい。
【0030】
成分(III)は、ナフタレンスルホン酸またはその塩である。ナフタレンスルホン酸は、ナトリウム塩、カルシウム塩などの金属塩であってもよい。
【0031】
成分(IV)は、アルデヒド類である。アルデヒド類とは、アルデヒド基を有する化合物を意味し、例えば、ホルムアルデヒドのほか、パラホルムアルデヒド、ヘキサメチレンテトラミン等のホルムアルデヒド重合および縮合物、アセトアルデヒドなどを挙げることができる。また、これらの誘導体であってもよい。成分(IV)としては、上記化合物またはその塩のうち1種を単独で、或いは2種以上を用いることができるが、ホルムアルデヒド、その誘導体を用いることが特に好ましい。
【0032】
成分(I)、成分(II)および成分(IV)の縮合物として最も好ましいものは、成分(I)としての2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンまたはその塩と、成分(II)としての4−アミノベンゼンスルホン酸と、成分(IV)としてのホルムアルデヒドを縮合反応させて得られる縮合物である。
【0033】
上記成分(I)、成分(II)および成分(IV)縮合反応させる際の条件は特に制限されない。各成分の配合割合も特に制限されないが、特に成分(I)、(II)および(IV)の縮合物の場合に、成分(II)として一般式(II)で示される化合物またはその塩を用いる場合には、好ましくは成分(I)と成分(II)の構成モル比が0.2〜1.4:1.0、より好ましくは0.3〜1.3:1.0となる範囲で調整することができる。
【0034】
成分(I)、(II)および(IV)の縮合物は、各成分をアルカリ存在下で、水性条件で加熱して縮合することによって得られる。反応温度、時間、pHなどの条件については特に制限なく、化合物の種類や用途などに応じて適宜定めることができる。例えば、反応温度については、30〜140℃、反応時間は、2〜50時間程度である。縮合反応は、成分(I)と(II)を入れた反応器に(成分3)を滴下することにより行われるが、成分(IV)は、1〜3時間で滴下するのが望ましく、反応濃度は通常20〜50重量%で行う。
【0035】
縮合反応時に用いるアルカリ触媒は、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化カリウムなどの金属水酸化物、及びアンモニウム基の水酸化物などを用いることができる。前記アルカリ触媒を用いて、縮合反応時のpHを6〜14,好ましくは、7〜12に調整することが好ましい。
【0036】
また、縮合反応は水の存在下で行うが、本発明においては、縮合反応終了後に得られる縮合物の水溶液をそのまま処理対象とすることができる。尚、成分(I)、(II)および(IV)の縮合物の重量平均分子量は10,000〜50,000であることが好ましい。また、縮合物のほかにリグニンなど他の成分を含有していてもよい。
【0037】
一方、成分(III)および成分(IV)の縮合物として最も好ましいものは、成分(III)としてのナフタレンスルホン酸またはその塩と、成分(IV)としてのホルムアルデヒドを縮合反応させて得られる縮合物である。また、後述の実施例で用いる日本製紙ケミカル(株)製のバニオールHDL−100(商品名)などの市販品も用いることができる。
【0038】
成分(III)および成分(IV)を縮合反応させる際の条件は特に限定されない。すなわち、縮合の際の反応時間、温度、pH等の条件に特に制限はなく、成分(III)と成分(IV)との縮合反応が高度に進む条件を適宜定めることができる。また、縮合反応は水の存在下で行うが、本発明においては、縮合反応終了後に得られる縮合物の水溶液をそのまま処理対象とすることができる。また、縮合物のほかにリグニンなど他の成分を含有していてもよい。上記成分(I)、(II)および(IV)の縮合物と上記成分(III)と(IV)の縮合物を混合して用いる場合、それらの配合比は、特に限定されない。
【0039】
本発明において、ホルムアルデヒド含量の低減されたホルムアルデヒド縮合物を製造するに当たっては、上記成分(I)、(II)および(IV)の縮合物、および/または成分(III)および(IV)の縮合物に、ヒドロキシルアミン類を添加し、前記縮合物中に残存するホルムアルデヒドと反応させる工程を含むことを特徴とする。すなわち、前記縮合物にヒドロキシルアミン類を添加し、所定の反応を起こさせる工程を含むものであればよく、市販の縮合物を用いて前記工程のみを実施してもよいし、また、前記工程の前に縮合反応により縮合物を得るための工程を別途設けてもよい。縮合物を得るための工程については、上記各縮合物についての例で述べたとおりである。
【0040】
本発明ではヒドロキシルアミン類を用いる。ヒドロキシルアミン類の具体例としては、ヒドロキシルアミン、ヒドロキシアミノ酢酸、オキシフェニルヒドロキシルアミン、o−メチルヒドロキシルアミン、o−エチルヒドロキシルアミン、N−メチルヒドロキシルアミン、N−エチルヒドロキシルアミン、N−ヒドロキシプロピルヒドロキシルアミン、フェニルヒドロキシルアミン、N−ホルミル−N−フェニルヒドロキシルアミン、トリルヒドロキシルアミン、メトキシフェニルヒドロキシルアミン等が挙げられ、通常は、塩酸、硫酸、リン酸、硝酸、酢酸、シュウ酸、クエン酸などの酸との塩として用いられる。また、これらの1つまたは2つ以上を組み合わせて用いても良い。中でも硫酸ヒドロキシルアミン、塩酸ヒドロキシルアミン、リン酸ヒドロキシルアミンが好ましいが、残ホルムアルデヒド量の低減効果に優れることや、塩素を含まない、安価である等の理由から硫酸ヒドロキシルアミンが最適である。
【0041】
ヒドロキシルアミン類の添加の形態としては、粉末を添加しても良いが、取扱いや均一な反応ができるという観点から、水溶液の形で添加するほうがより好ましい。水溶液とする際のヒドロキシルアミン類の量は特に限定されないが、安全性の点から50重量%以下であることが好ましく、また、取り扱いの点から10〜30重量%とすることが好ましい。
【0042】
ヒドロキシルアミン類の添加量は、ビスフェノール系ホルムアルデヒド縮合物水溶液および/またはナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物水溶液中に残存するホルムアルデヒドよりも多い量であることが好ましく、好ましくは残存ホルムアルデヒド量に対し1.1倍以上が好ましく、1.3倍以上が好ましい。特に、添加量が1.3倍より少ないと、残ホルムアルデヒドの低減効果が十分に発揮されないおそれがある。また、上限については、2.5倍量以下とすることが好ましい。2.5倍量以上添加してもそれ以上の効果を得ることはできず、また、ヒドロキシルアミン類は高価である為、添加コストが高くなる。
【0043】
本発明において、上述の縮合物に、ヒドロキシルアミン類を添加する反応は、縮合物(通常は縮合物の水溶液)を、攪拌条件下、ヒドロキシルアミン類を添加して行うことができる。
【0044】
本発明においては、反応時の反応物のpH(20℃における測定値)が通常は、3.0〜9.5の範囲であり、3.0〜9.0の範囲であることが望ましく、より望ましくはpH範囲6.0〜8.5、中でも望ましくは6.0〜8.0である。特にpH範囲3.0〜9.0を外れると、残ホルムアルデヒド量を十分低減できないおそれがあり、製品の取扱い(酸性、アルカリ性)の面からも好ましくない。反応時の反応物のpHの調整は、例えば、ヒドロキシルアミン類を添加する前に、縮合物にNaOHなどのアルカリ薬剤を予め添加して行うことができる。pHの調整はいずれの時期でもよく、反応開始前、反応中、反応後など適宜選択できる。
【0045】
また、反応温度が、通常20〜80℃であり、好ましくは30〜70℃であり、より好ましくは40〜60℃の範囲で定めることができる。温度が低いと、所望の残アルデヒド低減量を得るための反応時間がかかり過ぎ効率が悪く、生産性が悪い。また、温度が高すぎると、残ホルムアルデヒド量の低減効果が十分でない。
【0046】
また、反応時間は0.5〜30時間が一般的であり、中でも0.5〜20時間で適宜定めることが好ましい。反応時間が短すぎると残ホルムアルデヒド量の低減効果が十分でなく、反応時間が長すぎると効率が悪く生産性が悪い。本発明においては、上記反応温度と反応時間の組み合わせを、30〜70℃で0.5〜20時間、中でも40〜60℃で2〜4時間とすることが特に好ましい。
【0047】
本発明により製造されるホルムアルデヒド縮合物は、ホルムアルデヒド含量が大幅に低減されている。従来の製法により製造されたホルムアルデヒド縮合物のホルムアルデヒド含有量は、通常800〜1000ppm前後であるが、本発明に基づきヒドロキシルアミンを添加し反応させることにより、これよりも減量させることができる。通常は、500ppm以下まで低下させることができ、好ましくは、200ppmを下回る量まで、更に好ましくは検出限界程度(0.1ppm以下)まで低下させることができる。尚、本発明に従いヒドロキシルアミンとの添加反応製造されたホルムアルデヒド縮合物を長期保管などするとホルムアルデヒド含量が再び高まる場合があるが、このような縮合物を再度本発明の対象として処理することにより、再びホルムアルデヒド低含有の縮合物を得ることができる。
【0048】
また、本発明により得られるホルムアルデヒド縮合物は、従来の製法により製造された縮合物と同様の分散性を保持していることから、残ホルムアルデヒド量を大幅に低減したセメント用減水剤、石膏用分散剤等の各種用途向けの分散剤として利用することができる。
すなわち、本発明により得られるホルムアルデヒド縮合物は、セメント、モルタル、コンクリートなどのセメント組成物に対する減水性が高く、また、流動時の経時的低下が少なく、施工性、作業性が改善できるので、セメント組成物の減水剤として利用することができる。また、石膏の分散性能に優れ、石膏用の分散剤として利用することができる。さらに、染料用の分散剤、石炭・水スラリー、炭酸カルシウム等の分散剤としても利用することができる。本発明により得られるホルムアルデヒド縮合物を、上記減水剤、分散剤として利用する場合は、他の添加剤を添加してもよい。
【0049】
[作用]
本発明のホルムアルデヒド縮合物水溶液中の残ホルムアルデヒド低減方法は、ビスフェノール系ホルムアルデヒド縮合物水溶液および/またはナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物水溶液に、ヒドロキシルアミン類を添加し反応することで達成できる。この反応では、ホルムアルデヒドとヒドロキシルアミン類が反応しオキシム化合物が生成していると考えられる。例えばヒドロキシルアミン類が硫酸ヒドロキシルアミンの場合を例にとると以下の式1のようになると考えられる。
〔式1〕
2HCHO+(NHOH)2HSO → 2HC=NOH+HSO+H
【0050】
微小カプセル中のホルムアルデヒド低減のような他の用途で、残ホルムアルデヒド低減効果が十分でなく、ビスフェノール系ホルムアルデヒド縮合物水溶液および/またはナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物水溶液に、ヒドロキシルアミン類を添加する反応において残ホルムアルデヒド低減効果が優れている理由については、確かな理由は不明であるが、ビスフェノール系ホルムアルデヒド縮合物水溶液および/またはナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物水溶液とヒドロキシルアミン類との相性が非常に良く、ホルムアルデヒドとヒドロキシルアミン類との反応効率が良く、その他の不要な副反応等が生じないことなどが考えられる。
【実施例】
【0051】
以下、本発明を実施例にしたがって更に詳述するが、本発明はこれによって限定されるものではない。
【0052】
重量平均分子量の測定は、GPC法により、ポリエチレングリコールを標準とし、示差屈折計を検出器として求めた。また使用したカラムと溶離液は以下に示した。
カラム:OH pak KB−806+KB−802.5+KB−802.5(昭和電工株式会社製)
溶離液:0.05モル硝酸ナトリウム水溶液とアセトニトリルの体積比が8:2の溶液
【0053】
なお、残ホルムアルデヒド量は、和光純薬工業(株)製のホルムアルデヒド測定用のホルムアルデヒド−テスト ワコーの測定キットを用いて定量した。以下の実施例においても同様である。
【0054】
製造例1(ビスフェノール類・アミノベンゼンスルホン酸・ホルムアルデヒド縮合物水溶液の製造)
攪拌装置、還流装置、温度計、およびホルムアルデヒド水溶液滴下装置の付いた反応器に、4−アミノベンゼンスルホン酸 173.20g(1モル)、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホン 100.12g(0.5モル)、95% NaOH 48.43g(1.15モル)、および水 736.00gを仕込んだ。
【0055】
次にこの固液懸濁液に温度90℃で35%ホルムアルデヒド水溶液171.43g(2モル)を還流下に加え、反応混合物を還流下で10時間撹拌し、縮合物の水溶液を得た。
【0056】
得られた縮合物の重量平均分子量(Mw)は、21,000であった。
【0057】
製造例2(ビスフェノール類・アミノベンゼンスルホン酸・ホルムアルデヒド縮合物水溶液の製造)
攪拌装置、還流装置、温度計、およびホルムアルデヒド水溶液滴下装置の付いた反応器に、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン 297部(1.2モル)、4−アミノベンゼンスルホン酸 173部(1.0モル)、水酸化ナトリウム 44部(1.1モル)、および 水 1575部を仕込んだ。
【0058】
次にこの固液懸濁液に温度90℃で37重量%ホルムアルデヒド水溶液 211部(2.6モル)を還流下に滴下し、更にその温度で分子量2万以下の割合が40重量%以下になるまでGPC法で分析しながら反応した。製造例2の反応で、分子量2万以下の割合が40重量%以下になるのに要した時間は35時間である。
【0059】
また得られた縮合物水溶液の重量平均分子量と分子量2万以下の重量%は、それぞれ24,000、31重量%であった。
【0060】
製造例3(ビスフェノール類・亜硫酸塩・ホルムアルデヒド縮合物水溶液の製造)
攪拌装置、還流装置、温度計、およびホルムアルデヒド水溶液滴下装置の付いた反応器に、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン228.3部(1モル)、亜硫酸ナトリウム126.3部(1モル)、水826部を仕込んだ。
【0061】
次にこの固液懸濁液に温度90℃で37重量%ホルムアルデヒド水溶液243.3部(ホルムアルデヒド 3モル)を1時間で滴下し、更にその温度で14時間反応させて本発明の縮合物の水溶液を得た。得られた縮合物の重量平均分子量は29,000であった。尚、表1〜8において、本製造例2で得られた縮合物を「ビスフェノール系縮合物(2)」と表記するものとする。
【0062】
尚、上記製造例1,2および3で得られた縮合物は、後述の表1〜8において、それぞれ「ビスフェノール系縮合物(1)」、「ビスフェノール系縮合物(2)」、「ビスフェノール系縮合物(3)」と表記するものとする。
【0063】
実施例1
製造例1で得られたビスフェノール類・アミノベンゼンスルホン酸・ホルムアルデヒド縮合物水溶液(残ホルムアルデヒド量:対液900ppm)に、残ホルムアルデヒド量の1.2倍当量の硫酸ヒドロキシルアミンの10%濃度水溶液を添加し、50℃で3時間反応を行った。反応時の反応物のpHは7.0(20℃)になるように、硫酸ヒドロキシルアミンの添加前にNaOHで予め調整した。得られた反応物の残ホルムアルデヒド量を測定したところ、200ppmであった。また、この反応による不快な臭気の発生も無かった。
【0064】
実施例2〜7
硫酸ヒドロキシルアミンの添加量を表1に示す量に変えたほかは、実施例1と同様にして実施した。得られた反応物の残ホルムアルデヒド量は表1に示すとおりであり、いずれの実施例においても優れたホルムアルデヒド低減効果が発揮され、更に1.8倍量以上の実施例4〜7では検出限界(0.1ppm)以下であった。
【0065】
【表1】

【0066】
実施例8〜14
実施例1において、硫酸ヒドロキシルアミンに代えて塩酸ヒドロキシルアミンを表2に示す各量用いた他は、実施例1と同様にして実施した。得られた反応物の残ホルムアルデヒド量は表2に示すとおりであり、いずれの実施例においてもホルムアルデヒド量が低減されていた。特に添加量が1.3倍量以上とした実施例9〜14においては優れたホルムアルデヒド低減効果が発揮され、更に2.0倍量以上の実施例12〜14では検出限界(0.1ppm)以下であった。
【0067】
【表2】

【0068】
実施例15〜21
実施例1において、硫酸ヒドロキシルアミンに代えてリン酸ヒドロキシルアミンを表3に示す各量用いた他は、実施例1と同様にして実施した。得られた反応物の残ホルムアルデヒド量は表3に示すとおりであり、いずれの実施例においてもホルムアルデヒド量が低減されていた。特に添加量を1.3倍量以上とした実施例16〜21においては優れたホルムアルデヒド低減効果が発揮され、更に2.0倍量以上の実施例19〜21では検出限界(0.1ppm)以下であった。
【0069】
【表3】

【0070】
実施例22〜26
実施例5において、pHを表4に示す数値になるように調整した他は、実施例1と同様にして実施した。得られた反応物の残ホルムアルデヒド量は表4に示すとおりであり、いずれの実施例においてもホルムアルデヒド量が低減されていた。特にpHを3〜9の間で調整した実施例23〜25においては優れたホルムアルデヒド低減効果が発揮され、更にpH3〜7の実施例23および24では検出限界(0.1ppm)以下であった。
【0071】
【表4】

【0072】
実施例27〜33
実施例5において、反応温度を表5に示す数値になるように調整した他は、実施例1と同様にして実施した。得られた反応物の残ホルムアルデヒド量は表5に示すとおりであり、いずれの実施例においてもホルムアルデヒド量が低減されていた。特に30〜70℃に調整した実施例28〜32においては優れたホルムアルデヒド低減効果が発揮され、更に50〜60℃の実施例30および31では検出限界(0.1ppm)以下であった。
【0073】
【表5】

【0074】
実施例34〜40
実施例5において、反応時間を表6に示す数値になるように調整した他は、実施例1と同様にして実施した。得られた反応物の残ホルムアルデヒド量は表6に示すとおりであり、いずれの実施例においてもホルムアルデヒド量が低減されていた。特に0.5時間以上に調整した実施例35〜40においては優れたホルムアルデヒド低減効果が発揮され、更に1〜10時間の実施例36〜38では検出限界(0.1ppm)以下であった。
【0075】
【表6】

【0076】
実施例41
製造例1で得られたビスフェノール類・アミノベンゼンスルホン酸・ホルムアルデヒド縮合物水溶液(残ホルムアルデヒド量:対液900ppm)とナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物(日本製紙ケミカル(株)製 商品名 バニオールHDL−100、残ホルムアルデヒド量:対液1000ppm)とを有姿重量比で50:50に混合した。これに、残ホルムアルデヒド量の2.3倍当量の硫酸ヒドロキシルアミンの20%濃度水溶液を添加し、50℃で4時間反応を行った。反応時の反応物のpHは7.5(20℃)になるように、硫酸ヒドロキシルアミンの添加前にNaOHで予め調整した。得られた反応物の残ホルムアルデヒド量を測定したところ、検出限界(0.1ppm)以下であった(表7)。また、この反応による不快な臭気の発生も無かった。
【0077】
実施例42
ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物(日本製紙ケミカル(株)製 商品名 バニオールHDL−100、残ホルムアルデヒド量:対液1000ppm)に、残ホルムアルデヒド量の1.8倍当量の硫酸ヒドロキシルアミンの30%濃度水溶液を添加し、60℃で1時間反応を行った。反応時の反応物のpHは7.8(20℃)になるように、硫酸ヒドロキシルアミンの添加前にNaOHで予め調整した。得られた反応物の残ホルムアルデヒド量を測定したところ、検出限界(0.1ppm)以下であった(表7)。また、この反応による不快な臭気の発生も無かった。
【0078】
実施例43
製造例2で得られたビスフェノール類・アミノベンゼンスルホン酸・ホルムアルデヒド縮合物水溶液(残ホルムアルデヒド量:対液800ppm)に、残ホルムアルデヒド量の2.3倍当量の硫酸ヒドロキシルアミンの20%濃度水溶液を添加し、45℃で8時間反応を行った。反応時の反応物のpHは6.6(20℃)になるように、硫酸ヒドロキシルアミンの添加前にNaOHで予め調整した。得られた反応物の残ホルムアルデヒド量を測定したところ、検出限界(0.1ppm)以下であった(表7)。また、この反応による不快な臭気の発生も無かった。
【0079】
実施例44
製造例2で得られたビスフェノール類・アミノベンゼンスルホン酸・ホルムアルデヒド縮合物水溶液(残ホルムアルデヒド量:対液800ppm)に、残ホルムアルデヒド量の1.8倍当量の硫酸ヒドロキシルアミンの20%濃度水溶液を添加し、80℃で2時間反応を行った。反応時の反応物のpHは8.3(20℃)になるように、硫酸ヒドロキシルアミンの添加前にNaOHで予め調製した。得られた反応物の残ホルムアルデヒド量を測定したところ、対液90ppmであった(表7)。また、この反応による不快な臭気の発生も無かった。
【0080】
実施例45
製造例2で得られたビスフェノール類・アミノベンゼンスルホン酸・ホルムアルデヒド縮合物水溶液(残ホルムアルデヒド量:対液800ppm)に、残ホルムアルデヒド量の2.3倍当量の硫酸ヒドロキシルアミンの20%濃度水溶液を添加し、25℃で25時間反応を行った。反応時の反応物のpHは9.2(20℃)になるように、硫酸ヒドロキシルアミンの添加前にNaOHで予め調整した。得られた反応物の残ホルムアルデヒド量を測定したところ、対液120ppmであった(表7)。また、この反応による不快な臭気の発生も無かった。
【0081】
実施例46
製造例2で得られたビスフェノール類・アミノベンゼンスルホン酸・ホルムアルデヒド縮合物水溶液(残ホルムアルデヒド量:対液800ppm)に、残ホルムアルデヒド量の2.3倍当量の塩酸ヒドロキシルアミンの20%濃度水溶液を添加し、25℃で25時間反応を行った。反応時の反応物のpHは9.2(20℃)になるように、塩酸ヒドロキシルアミンの添加前にNaOHで予め調整した。得られた反応物の残ホルムアルデヒド量を測定したところ、対液160ppmであった(表7)。また、この反応による不快な臭気の発生も無かった。
【0082】
実施例47
製造例1で得られたビスフェノール類・アミノベンゼンスルホン酸・ホルムアルデヒド縮合物水溶液(残ホルムアルデヒド量:対液900ppm)に、残ホルムアルデヒド量の1.5倍当量の硫酸ヒドロキシルアミンの10%濃度水溶液を添加し、75℃で1時間反応を行った。反応時の反応物のpHは7.3(20℃)になるように、硫酸ヒドロキシルアミンの添加前にNaOHで予め調整した。得られた反応物の残ホルムアルデヒド量を測定したところ、対液50ppmであった(表7)。また、この反応による不快な臭気の発生も無かった。
【0083】
実施例48
製造例1で得られたビスフェノール類・アミノベンゼンスルホン酸・ホルムアルデヒド縮合物水溶液(残ホルムアルデヒド量:対液900ppm)に、残ホルムアルデヒド量の1.1倍当量のリン酸ヒドロキシルアミンの10%濃度水溶液を添加し、80℃で1時間反応を行った。反応時の反応物のpHは9.4(20℃)になるように、リン酸ヒドロキシルアミンの添加前にNaOHで予め調整した。得られた反応物の残ホルムアルデヒド量を測定したところ、対液240ppmであった(表7)。また、この反応による不快な臭気の発生も無かった。
【0084】
実施例49
製造例3で得られたビスフェノール類・亜硫酸塩・ホルムアルデヒド縮合物水溶液(残ホルムアルデヒド量920ppm)に、残ホルムアルデヒド量の1.2倍当量のリン酸ヒドロキシルアミンの10%濃度水溶液を添加し、80℃で2時間反応を行った。反応時の反応物のpHは9.4(20℃)になるように、リン酸ヒドロキシルアミンの添加前に硫酸で予め調整した。得られた反応物の残ホルムアルデヒド量を測定したところ、対液290ppmであった(表7)。また、この反応による不快な臭気の発生も無かった。
【0085】
【表7】

【0086】
比較例1
製造例1で得られたビスフェノール類・アミノベンゼンスルホン酸・ホルムアルデヒド縮合物水溶液(残ホルムアルデヒド量:対液900ppm)に、残ホルムアルデヒド量の2.0倍当量の硫酸アンモニウムの10%濃度水溶液を添加し、50℃で3時間反応を行った。得られた反応物の残ホルムアルデヒド量を測定したところ、850ppmであり、ほとんど残ホルムアルデヒドの低減効果が認められなかった(表8)。
【0087】
比較例2
製造例1で得られたビスフェノール類・アミノベンゼンスルホン酸・ホルムアルデヒド縮合物水溶液(残ホルムアルデヒド量:対液900ppm)をpH12に調整した。縮合物水溶液中の固形分重量に対して、2重量%の過酸化水素液(濃度30%)を添加し、90℃で3時間反応を行った。得られた反応物の残ホルムアルデヒド量を測定したところ、500ppmであった(表8)。
【0088】
比較例3
製造例2で得られたビスフェノール類・アミノベンゼンスルホン酸・ホルムアルデヒド縮合物水溶液(残ホルムアルデヒド量:対液800ppm)300gに、次亜塩素酸ソーダ液(有効塩素5%)を30g添加し、60℃で3時間反応を行った。得られた反応物の残ホルムアルデヒド量を測定したところ、750ppmであり、ほとんど残ホルムアルデヒドの低減効果が認められなかった(表8)。
【0089】
比較例4
製造例2で得られたビスフェノール類・アミノベンゼンスルホン酸・ホルムアルデヒド縮合物水溶液(残ホルムアルデヒド量:対液800ppm)をpH11.7に調整した。縮合物水溶液中の固形分重量に対して、2.5重量%の過酸化水素液(濃度30%)を添加し、90℃で3時間反応を行った。得られた反応物の残ホルムアルデヒド量を測定したところ、550ppmであった(表8)。
【0090】
比較例5
製造例1で得られたビスフェノール類・アミノベンゼンスルホン酸・ホルムアルデヒド縮合物水溶液(残ホルムアルデヒド量:対液900ppm)をそのまま用いた(表8)。
【0091】
比較例6
製造例2で得られたビスフェノール類・アミノベンゼンスルホン酸・ホルムアルデヒド縮合物水溶液(残ホルムアルデヒド量:対液800ppm)をそのまま用いた(表8)。
【0092】
比較例7
製造例1で得られたビスフェノール類・アミノベンゼンスルホン酸・ホルムアルデヒド縮合物水溶液(残ホルムアルデヒド量:対液900ppm)とナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物(日本製紙ケミカル(株)製 商品名 バニオールHDL−100、残ホルムアルデヒド量:対液1000ppm)とを有姿で50:50に混合した(表8)。
【0093】
比較例8
ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物(日本製紙ケミカル(株)製 商品名 バニオールHDL−100、残ホルムアルデヒド量:対液1000ppm)をそのまま用いた(表8)。
【0094】
【表8】

【0095】
[試験例]
●コンクリート試験
実施例に示した本発明のホルムアルデヒド低減方法によって得られる反応物からなるセメント用減水剤を表10に示す量添加したコンクリートのコンシステンシー(粘稠性)を、比較例の減水剤を添加したコンクリートのコンシステンシーと比較して示した。
配合を表9に示す。
【0096】
【表9】

【0097】
(表9の脚注)
* C セメント:普通ポルトランドセメント:比重3.16
W 水道水
S 細骨材:広島産加工砂 比重2.59、F.M.2.59
G 粗骨材:山口産砕石 比重2.71、F.M.6.86
【0098】
コンクリートは、セメント、骨材、及び水または減水剤を含む水を100リットル可搬傾胴式ミキサーにて3分間混練し、直後のスランプを測定した。コンクリートのスランプ及び空気量の測定は、JISに準拠して行った。すなわち、スランプの測定は、JIS A 1101のスランプ試験に従って行い、コーン(上面の内径10cm、下面の内径20cm、高さ30cm)に詰めたコンクリートが、コーンを引き抜いた後に最初の高さからどのくらい下がるかをスランプ値として示した。また、空気量は、JIS A 1128の空気量試験方法に従い、空気室の圧力減少により求めた。
【0099】
測定結果は、表10の通りである。実施例5、47、48に示した本発明のホルムアルデヒド低減方法によって得られる反応物からなるセメント用減水剤は、ホルムアルデヒド低減処理を行う前の減水剤(比較例5)と比べて、同等のスランプが得られており、ホルムアルデヒド低減処理によるスランプへの影響が無いことが分かる。また、実施例42と比較例8、実施例41と比較例7の関係も同様の結果が得られている。
【0100】
一方で、比較例1、2に示したホルムアルデヒド低減方法によって得られる反応物からなるセメント用減水剤は、ホルムアルデヒド低減処理を行う前の減水剤(比較例5)に比べて、スランプの低下による性能低下が認められる。
【0101】
【表10】

【0102】
●石膏分散性試験
実施例に示した本発明のホルムアルデヒド低減方法によって得られる反応物からなる石膏用分散剤を添加した石膏スラリーの分散性を、比較例の分散剤を添加した石膏スラリーの分散性と比較して示した。
【0103】
石膏(SK:睦化学工業株式会社製の商品名)110gと水65g(石膏用分散剤含む)をミキサーで15秒攪拌し、内径50mm、高さ50mmの中空の円柱容器に流しこみ、更に容器を上方に引き抜いた後、石膏スラリーの円状の広がりの直径(フロー値)を2箇所測定し平均する。分散剤の添加量(固形分換算)は、対石膏重量で0.1%である。フロー値が大きいほど、石膏分散性能が優れていることを示す。
【0104】
石膏分散性試験の結果は、表11の通りであるが、実施例43、44、45、46に示した本発明のホルムアルデヒド低減方法によって得られる反応物からなる石膏用分散剤は、ホルムアルデヒド低減処理を行う前の分散剤(比較例6)と比べて、同等のフロー値が得られており、ホルムアルデヒド低減処理によるフロー値への影響が無く、石膏用分散剤としての性能を維持している。また、実施例42と比較例8の関係、実施例41と比較例7の関係も同様の結果が得られている。
【0105】
一方で、比較例3、4に示したホルムアルデヒド低減方法によって得られる反応物からなる石膏用分散剤は、ホルムアルデヒド低減処理を行う前の分散剤(比較例6)に比べて、フロー値の低下による石膏分散性能の低下が認められる。
【0106】
【表11】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分(I)、(II)および(IV)の縮合物、および/または成分(III)および(IV)の縮合物に、ヒドロキシルアミン類を添加し、前記縮合物中に残存するホルムアルデヒドと反応させる工程を含むことを特徴とするホルムアルデヒド含量の低減されたホルムアルデヒド縮合物の製造方法。
(I)ビスフェノール類化合物又はその塩
(II)下記(a)〜(d)から選ばれる1種以上の化合物
(a)芳香族アミノスルホン酸またはその塩
(b)亜硫酸塩
(c)アミノ酸
(d)分子中にアミノ基を有する脂肪族スルホン酸
(III)ナフタレンスルホン酸またはその塩
(IV)アルデヒド類
【請求項2】
前記成分(II)が、(a)芳香族アミノスルホン酸である請求項1に記載のホルムアルデヒド縮合物の製造方法。
【請求項3】
前記ヒドロキシルアミン類の添加量は、前記縮合物中に残存するホルムアルデヒドの1.3倍当量以上である請求項1または2に記載のホルムアルデヒド縮合物の製造方法。
【請求項4】
前記ヒドロキシルアミン類が硫酸ヒドロキシルアミンである請求項1〜3のいずれか一項に記載のホルムアルデヒド縮合物の製造方法。
【請求項5】
下記成分(I)、(II)および(IV)の縮合物、および/または成分(III)および(IV)の縮合物に、ヒドロキシルアミン類を添加し、前記縮合物中に残存するホルムアルデヒドと反応させることを特徴とするホルムアルデヒド縮合物水溶液中に残存するホルムアルデヒドを低減する方法。
(I)ビスフェノール類化合物又はその塩
(II)下記(a)〜(d)から選ばれる1種以上の化合物
(a)芳香族アミノスルホン酸
(b)亜硫酸塩
(c)アミノ酸
(d)分子中にアミノ基を有する脂肪族スルホン酸
(III)ナフタレンスルホン酸
(IV)アルデヒド類
【請求項6】
請求項1に記載の製造方法によって得られるホルムアルデヒド縮合物を含有するセメント用減水剤または石膏用分散剤。
【請求項7】
下記成分(I)、(II)および(IV)の縮合物、および/または成分(III)および(IV)の縮合物であって、縮合物中の残存ホルムアルデヒド量が500ppm以下であるアルデヒド縮合物。
(I)ビスフェノール類化合物又はその塩
(II)下記(a)〜(d)から選ばれる1種以上の化合物
(a)芳香族アミノスルホン酸
(b)亜硫酸塩
(c)アミノ酸
(d)分子中にアミノ基を有する脂肪族スルホン酸
(III)ナフタレンスルホン酸
(IV)アルデヒド類

【公開番号】特開2009−19079(P2009−19079A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−181227(P2007−181227)
【出願日】平成19年7月10日(2007.7.10)
【出願人】(502368059)日本製紙ケミカル株式会社 (86)
【Fターム(参考)】