説明

殺ウイルス助剤および殺ウイルス方法

【課題】オゾン曝気処理に用いる殺ウイルス効果を有する殺ウイルス助剤、および殺ウイルス方法の提供。
【解決手段】下記一般式(I)で表される化合物を含む、オゾン曝気処理に用いられる殺ウイルス助剤。[ただし、式(I)中、xは0〜2の整数を示し、R、R、Rはそれぞれ独立に、−H、−OH、炭素数1〜3のアルキル基を有するアルキルカルボニルオキシ、アルキルオキシカルボニル、アルキルエーテルで表される基からなる群から選択される基であって、R、R、Rの内の少なくとも1つはアルキルカルボニルオキシ基である。また、R、R、Rの内、−OHは1つ以下である。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は殺ウイルス助剤および殺ウイルス方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ノロウイルスは海中の牡蠣等の二枚貝に取り込まれ、冬季の食中毒の主原因の1つになっている。特にノロウイルスが問題となっている生牡蠣の浄化には無菌海水中での畜養や塩素系殺菌剤が使われている。しかし、無菌畜養は冬季の冷水では牡蠣の濾水量が減るため効果が低い。また、ノロウイルスは低濃度の塩素系殺菌剤には、耐性をもっているため、この方法で不活化するには高濃度での処理が必要になる。高濃度の塩素は食品を劣化させ、また強い臭気を伴うため作業環境等の対策が必要である。
一方、オゾンは、強い酸化力を有するとともに、分解すると酸素と水になり環境にやさしい側面を有していることから、食品や半導体の殺菌洗浄や水の浄化等様々な分野で利用が拡大している。オゾン処理の方法としては、処理対象物を含む被処理水中にオゾンガスを供給する方法(オゾン曝気)とオゾンが溶解したオゾン水中に処理対象物を浸漬する方法(オゾン水浸漬処理)とが一般的である。このうちオゾン曝気処理は、オゾン水処理に比べオゾン使用量が少ない、水の使用量が少ない、処理対象の有機物の量が多くても対応可能等の利点がある。
オゾンを高濃度(溶液濃度で0.1〜5重量%)で使用する殺菌方法(例えば、特許文献1)や、食品をオゾン水と有機酸溶液および/またはアルコール溶液とに、交互に処理する殺菌方法(例えば、特許文献2)が提案されている。また、オゾン水および界面活性剤を含有する殺菌洗浄組成物が提案されており、かかる殺菌洗浄組成物中に処理対象物を浸漬することにより殺菌効果が促進されることが記載されている(例えば、特許文献3)。これは主に油成分に対する洗浄効果を界面活性剤で補うとともに、オゾンの残存効果を狙ったものである。また、オゾン曝気処理において、特定の性質を有する化合物を用いる殺菌促進剤について記載されている(例えば、特許文献4)。
【特許文献1】特開2000−109887号公報
【特許文献2】特開平3−164155号公報
【特許文献3】特開平6−313194号公報
【特許文献4】国際公開第2007/040260号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、既存技術においては、いずれも処理対象物を細菌としたものであり、オゾンを利用した有効な殺ウイルス方法は見られない。
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、オゾン曝気処理に用いることで優れた殺ウイルス効果を発揮する殺ウイルス助剤、および殺ウイルス方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明のオゾン曝気処理に用いられる殺ウイルス助剤は、下記一般式(I)で表される化合物(以下、(a)成分という)を含むことを特徴とし、水溶性酸性成分(以下、(b)成分という)を含むことが好ましい
【0005】
【化1】

【0006】
[式(I)中、xは0〜2の整数を示し、R、R、Rはそれぞれ独立に、−H、−OH、下記一般式(1)〜(3)で表される基からなる群から選択される基であって、R、R、Rの内の少なくとも1つは下記一般式(2)で表される基である。また、R、R、Rの内、−OHは1つ以下である。]
【0007】
【化2】

【0008】
[式(1)〜(3)中、R、R、Rは、炭素数1〜3のアルキル基である。]
【0009】
本発明の殺ウイルス方法は、前記(a)成分と(b)成分とを有する殺ウイルス助剤を用いて、オゾン曝気処理により殺ウイルス処理をすることを特徴とする。
【0010】
本発明におけるオゾン曝気処理とは、オゾン発生器を用いて製造したオゾンガスを、散気管を用いて処理対象物を含有する被処理水に導入することを示す。加えて、成分(a)または、成分(a)と(b)を含む水溶液にオゾン曝気した水溶液を、オゾン処理対象物が入った槽に循環することも、本発明におけるオゾン曝気処理に含むものとする。
【0011】
本発明における殺ウイルスとは、ウイルスを生存不能にすることのみならず、感染力を失わせることをも含むものとする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、殺ウイルス助剤をオゾン曝気処理に用いることで優れた殺ウイルス効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
ウイルスと細菌は以下のような相違点があるため、殺ウイルスと殺菌の方法や効果が異なる。ウイルスは微生物の一種で、細胞ではなく、動物や植物等の細胞に入り込み宿主細胞の代謝機能を利用して新しいウイルス粒子を作り増殖するため、ウイルスのみでは増殖は出来ない。したがって、宿主細胞への感染を防ぐことでも一般的に言われる殺ウイルスと同等の効果を得ることができる。その他の微生物である、原虫・真菌・細菌(マイコプラズマ、リッケチア、クラミジアも含む)は自己の核酸(DNAとRNAの両方)・蛋白質・炭水化物・脂質を合成し成長して、そのほとんどが二分裂により増殖する単細胞である。
一般的には、殺ウイルスや殺菌とは、もはや生存が不能となり増殖できない状態である。細菌は次の成分からなっている。すなわち、細胞壁はリポ多糖、リポ蛋白質、ペプチドグルカンから、細胞質膜はリン脂質、膜蛋白質(酵素等)、多糖類からなっている。細胞成分には蛋白質(酵素、リボゾーム蛋白質)、RNA、DNA等がある。生存不能となる場合としては次の4つが挙げられる。
(1)酵素の変性(菌体の代謝・合成が不可能となる)
(2)細胞膜の損傷(細胞膜透過性の変化で細胞内よりCa2+やMg2+、RNA等が漏洩する)
(3)RNAやリボゾームの分解
(4)染色体またはその構成物質DNAの損傷
一方、ウイルスはDNAあるいはRNAとこれを包む外皮蛋白質のみで構成されており、宿主細胞への吸着、それに続くDNAあるいはRNAの宿主細胞への侵入が阻害されると増殖は阻害される。殺ウイルスの要因としては次の2つが挙げられる。
(1)外皮蛋白質の変性または破壊
(2)DNA、RNAの損傷
【0014】
上述のような細菌とウイルスとの相違点から、殺菌能力を有する組成物であっても、殺ウイルス能力を有するとは限らない。今般、オゾン曝気処理において特定の化合物を被処理液に添加することで、殺ウイルス効果が特異的に向上することを見い出して、本発明に至った。
【0015】
(殺ウイルス助剤)
本発明の殺ウイルス助剤は、(a)成分として前記(I)式で表される化合物を含有する。
【0016】
<(a)成分>
前記式(I)中、xは0〜2の整数を示し、好ましくは1である。
、R、Rはそれぞれ独立に、−H、−OH、下記一般式(1)〜(3)で表される基からなる群から選択される基であって、R、R、Rの内の少なくとも1つは前記一般式(2)で表される基である。また、R、R、Rの内、−OHは1つ以下である。R、R、Rの内の1または2個が、式(2)で表される基以外の基である場合、該基としては、−Hが好ましい。
【0017】
前記式(1)〜(3)中、R、R、Rは、炭素数1〜3のアルキル基であり、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基が挙げられる。この内、メチル基、エチル基であることが好ましく、特にメチル基が好ましい。
【0018】
前記式(I)で表される化合物としては、ジアセチン、トリアセチン、プロピレングリコールジアセタート、酢酸プロピル、酢酸1−エトキシ−2−プロパノール、ブタンジオールジアセタート等が挙げられる。ジアセチンは構造異性体が存在し、グリセリン−1,3−ジアセタート、グリセリン−1,2−ジアセタートが挙げられる。
本発明の殺ウイルス助剤には、これらの化合物のいずれ1種であっても良く、2種以上が含まれていても良い。
【0019】
本発明の(a)成分は、以下のように、25℃における0.5質量%水溶液の100ミリ秒(msec)時の動的表面張力が67mN/m以下で、かつ30秒(sec)時の動的表面張力が55〜63mN/mである化合物であることが好ましい。
【0020】
ここで、「動的表面張力」とは、新たに界面が形成される時、あるいは界面が不安定な流動・撹拌状態での表面張力を意味する。
具体的に、ストローから水中に気体を送り込む際の、気泡の形成過程を例に挙げて説明する。水中に斜めに差し込んだストローを介して気体を供給していくと、まず、ストローの先端から半球状の界面(水と気体との界面)が形成される。このとき、界面には、界面を元に戻そうとする力(表面張力)と、気体による浮力とが働いている。界面内の気体の量が多くなるにつれて浮力も大きくなる。表面張力よりも浮力の方が大きくなると、半球状の界面がストロー先端から離れて気泡(bubble)が形成され、気泡は水面へ上昇する。このような気泡の形成が繰り返されると、水面に気泡が集まり、そして泡沫(form)が形成される。
気泡の界面は不安定な状態であるが、気泡となった後(気体の供給が止まった後)、その界面は経時的に安定化していく。そして、表面張力は、この安定化に伴って次第に低下していき、ある一定の値(平衡値)となる。
このように、気泡の界面が形成されてから表面張力が平衡値に達するまで(界面が安定な状態になるまで)の表面張力を動的表面張力といい、動的表面張力は測定時間毎に変化する値である。
【0021】
かかる気泡の形成において、表面張力よりも浮力の方が大きくなる時点の気体の供給量が少ないほど、気泡の大きさは小さくなり浮力も小さくなる。つまり、この時点での表面張力も小さくなる。その後の動的表面張力は、この時点の表面張力の値から次第に小さくなっていくが、その変化の仕方は液体の成分によって異なる。
また、平衡値は小さいほど、気泡や泡沫の安定性が高く、壊れにくい傾向があり、逆に平衡値が大きいほど、気泡や泡沫の安定性が低く、壊れやすい傾向がある。
したがって、(a)成分は、オゾン曝気により被処理水中に生じる気泡について、このような特性をコントロールすることにより、後述するような優れた効果が得られる。
【0022】
(a)成分は、100msec動的表面張力が67mN/m以下が好ましく、64mN/m以下がより好ましく、62mN/m以下が特に好ましい。下限値としては、特に制限はないが、55mN/m以上が好ましい。
ここで、100msec動的表面張力とは、気体の供給を開始した時点を0とし、その時点から100msec後の動的表面張力である。すなわち、上記ストローから気体を送り込む例において、ストロー内への気体の供給を開始してから100msec後の動的表面張力を示す。100msec動的表面張力が67mN/m以下であると、気体の供給量が少ない時点で、表面張力よりも浮力の方が大きくなり、半球状の界面がストロー先端から気泡が分離する。すなわち、微細な気泡が形成される。
そして、気泡の微細化により、オゾンと処理対象物と接触効率が向上し、結果、オゾン処理効率が向上する。
【0023】
さらに(a)成分は、30sec動的表面張力が55〜63mN/mの範囲が好ましく、56〜62mN/mの範囲であることがより好ましい。
ここで、30sec動的表面張力とは、気体の供給を開始した時点を0とし、その時点から30sec後の動的表面張力である。一般に、動的表面張力が平衡値に達するのには数十時間を要するものもあり、その測定には時間を要する。本発明において採用した30sec動的表面張力は、平衡値とは必ずしも同一ではないが、曝気処理を行う場合の処理時間を考慮すると、30sec動的表面張力でも充分、気泡や泡沫の安定性を評価する指標として有用である。
30sec動的表面張力が55〜63mN/mの範囲であることにより、形成された気泡が適度な安定性を有するものとなる。しかし、30sec動的表面張力が55mN/m未満であると、気泡の安定性が高くなりすぎ、曝気処理を行った際に水面が泡立ち、オーバーフロー等が生じてしまい、処理自体が困難となる。一方、30sec動的表面張力が63mN/mを超えるとオゾン処理効率が悪くなる。これは、気泡の安定性が低く、気泡が処理対象物に接触する前に壊れてしまうことによると推測される。
【0024】
100msec動的表面張力および30sec動的表面張力は、例えば、当該化合物を水に溶解して0.5質量%水溶液(25℃)を調製し、市販の動的表面張力計、例えば英弘精機株式会社製シータt60(商品名)等を用いて測定することができる。
【0025】
本発明の殺ウイルス助剤における、(a)成分の含有量は特に限定されないが、0.01質量%以上であると殺ウイルス効果が良好に発現する。従って、0.01質量%以上であることが好ましい。
また、(a)成分の被処理水中における濃度が30ppm未満であると、オゾン曝気処理による殺ウイルス効果を向上できない。したがって、被処理液中には(a)成分が30ppm以上含まれており、50ppm以上含まれることが好ましく、100ppm以上含まれることがより好ましい。
【0026】
上述したように、(a)成分は、100msec動的表面張力が67mN/m以下であることにより微細なオゾンの気泡が形成され、気泡の微細化により、オゾンの溶解効率やオゾンと処理対象物との接触効率が向上する。また、30sec動的表面張力が55〜63mN/mの範囲であることにより、形成された気泡が処理対象物に接触するまでの間、安定に存在し、かつ比較的短時間で壊れる適度な安定性を有するものとなる。これらの相乗効果により、オゾンと処理対象物との接触効率を向上させてオゾン酸化が促進されると共に、水面の泡立ちが抑制されると推測される。
このように動的表面張力が上記条件を満たすことにより、当該オゾン酸化助剤を含有する水溶液をオゾン曝気処理する際に適度な安定性を有する微細なオゾンの気泡が形成されるため、オゾン酸化を促進することができる。そして、オゾン処理におけるオゾン使用量の低減および効率化が達成できる。
【0027】
<(b)成分:水溶性酸性成分>
(b)成分である水溶性酸性成分は、純水(pH7.0)に0.5%程度溶解したときのpHが7.0未満となるような水溶性の化合物である。加えて、溶媒がpH6以下の弱酸性であっても、水溶性酸性成分は水溶性を示すものである。ここで示すpHとは、25℃において水素電極等を用いて測定されるpH値であるが、本発明の利用温度はこの温度に限定されず、本発明の水溶液をいかなる温度で使用するとしても、pHは25℃において示す値と定義する(以降において同じ)。
例えば、有機酸、無機酸、酸性基を有する水溶性のキレート剤等が挙げられる。具体例として、下記(1)〜(3)等が挙げられるが、本発明はこれらに限定されない。
(1)有機酸としては、酢酸、乳酸、クエン酸、アジピン酸、リンゴ酸、こはく酸、マレイン酸、フマル酸、グルコン酸、酒石酸、グルタル酸、蓚酸、及びこれらを水酸化ナトリウム等のアルカリ剤で一部を中和した塩、等。
(2)無機酸としては、塩酸、リン酸、硫酸、硝酸等。
(3)酸性基(酸解離性の官能基)であるカルボキシル基やリン酸、ホスホン酸基等を
有する水溶性のキレート剤。
このような化合物として、クエン酸、蓚酸、エチレンジアミン四酢酸、ニトロソ三酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、トリエチレンテトラミン−N,N,N’,N’’,N’’’N’’’−六酢酸等の多価カルボン酸化合物、ヘキサメタリン酸、ピロリン酸、トリポリリン酸、フィチン酸等のリン酸化合物、1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸等のホスホン酸化合物、等が挙げられる。
本発明の(b)成分として、これらの化合物から1種を用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。またpHが低下しすぎて不具合が生じることのないよう、水酸化ナトリウム等のアルカリ剤で一部を中和して用いることもできる。
そして好ましくは、酢酸、クエン酸、こはく酸、アジピン酸、リン酸、またはこれらの混合物である。
【0028】
本発明の殺ウイルス助剤の(b)成分の含有量は特に規定されないが、0.01質量%以上であると殺ウイルス効果が良好に発現する。したがって、0.01質量%以上であることが好ましい。
また、(b)成分の被処理水中における濃度が30ppm未満であると、オゾン曝気処理による殺ウイルス効果を向上できない。したがって、被処理液中には(a)成分が30ppm以上含まれており、50ppm以上含まれることが好ましく、100ppm以上含まれることがより好ましい。
【0029】
(b)成分は、(a)成分のような界面科学的性質を持たず、気泡の状態に対する影響は少ないが、両成分を混合した殺ウイルス助剤を用いた場合のオゾンの殺ウイルス効果が相乗的に向上し、オゾン使用量の低減、殺ウイルス助剤の低減および高効率化を達成できる。
【0030】
<任意成分>
本発明の殺ウイルス助剤は、その他の成分として、オゾン殺ウイルス効果を阻害しない範囲で、使用性や製品の安定化、機能付与のために、各種界面活性剤、香料、酵素、蛍光剤、増粘剤、分散剤、無機塩、アルコール類、糖類等を含有してもよい。
界面活性剤としては、特に制限はなく、従来公知の界面活性剤の中から、目的に応じて適宜選択でき、たとえば、下記(1)〜(4)等が挙げられる。
(1)アルキルベンゼンスルホン酸、アルキル硫酸、アルキルフェニルエーテル硫酸、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸、アシルアミドアルキル硫酸、アルキル燐酸、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸、パラフィンスルホン酸、α−オレフィンスルホン酸、α−スルホカルボン酸及びそれらのエステル等の水溶性塩、石鹸等のアニオン界面活性剤。
(2)ポリオキシアルキルエーテル、ポリオキシアルキルフェニルエーテル等のエトキシ化ノニオン、ポリグリセリン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、グルコシドエステル、シュガーエステル、メチルグルコシドエステル、エチルグルコシドエステル、アルキルポリグルコキシド等の糖系活性剤、アルキルアミンオキサイド、アルキルジエタノールアミド、脂肪酸N−アルキルグルカミド等のアミド系活性剤、アルキルアミンオキサイド等のノニオン界面活性剤。
(3)アルキルカルボキシベタイン、アルキルスルホキシベタイン、アルキルアミドプロピルベタイン、アルキルアラニネート等のアミノカルボン酸塩、イミダゾリン誘導体、アルキルアミンオキシド等の両性界面活性剤。
(4)アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩等のカチオン界面活性剤。
界面活性剤は1種類のみからなるものでもよいし、複数種を含有することもできる。
【0031】
(オゾン曝気処理方法)
本発明の殺ウイルス方法は、オゾン酸化により処理対象物を処理するオゾン処理方法であって、前記(a)成分、(b)成分の存在下において、処理対象物を含有する非処理水中にオゾン曝気する工程を有することを特徴とする。
オゾン曝気処理の方法は特に限定されることはなく、散気板、散気筒、ディフューザー等、従来使用されている方法が使用できる。オゾン曝気処理は、例えば殺ウイルス助剤および処理対象物を含有する被処理水を容器に収容し、該被処理水中に、少なくともオゾンを含むガス(曝気ガス)を供給することにより行うことができる。また、被処理水に曝気ガスを供給しつつ、殺ウイルス助剤を被処理水中に添加してもよい。また、本工程においては、曝気を行う際、被処理水中を攪拌するために攪拌装置等を併用することも可能である。
処理容器は被処理水を収容し、曝気を行う容器(処理容器)としては、オゾンの酸化力が強いため、被処理水に接する面の材質がガラス、テフロン(登録商標)(ポリテトラフルオロエチレン)、チタン、オゾン処理(高濃度オゾンによる強固な酸化皮膜形成)をしたアルミやステンレスのものが好ましい。
オゾンに対する耐性が低いニトリルゴム、シリコンあるいはウレタン等の材質のものを使用する場合、処理容器の劣化に充分に注意する必要がある。
【0032】
オゾン曝気処理に用いる曝気ガスは発生させたオゾンをそのまま用いても良く、希釈ガスで希釈して供給してもよい。オゾンの発生方式は特に限定されず、電子線、放射線、紫外線等高エネルギーの光を酸素に照射する方法や、化学的方法、電解法、放電法等がある。工業的には、発生コストや発生量から無声放電法が多く用いられている。オゾンの発生には。市販のオゾン発生器が利用でき、例えば低濃度オゾン発生器として株式会社ベテル製BO−90(商品名)等が市販されており、高濃度オゾン発生器としてナビ・エンジニアリング株式会社HO−100(商品名)等が市販されている。オゾンは自己分解性を持つことから調製後すぐに使用することが望ましい。
オゾンの希釈に用いる希釈ガスとしては、オゾンに対して不活性あるいは反応性に乏しいガスが好ましく、例えば、ヘリウム、アルゴン、二酸化炭素、酸素、空気、窒素等を挙げることができる。
【0033】
前記オゾン曝気処理において、曝気に使用される曝気ガスのオゾン濃度が、0.1vol・ppm未満では、オゾンが他の化合物との反応により消費されて、オゾン量が低下し、効果が発揮されない。また、10000vol・ppmを超えると作業環境に問題が生じ、安全対策のため排オゾン分解装置等の設備が必要である。500vol・ppm程度であれば、簡易な処理装置で対応可能である。したがって、オゾン曝気処理に用いる曝気ガスのオゾン濃度は0.1〜10000vol・ppmが好ましく、1〜500vol・ppmがより好ましい。
【0034】
本発明のオゾン曝気処理工程におけるpHは特に限定されないが、通常はpH8.5以下であることが好ましい。オゾンはアルカリ性が高いと自己分解が促進されるため効率が悪化し、また成分(a)は強酸、強アルカリ下では分解する。そのため、殺ウイルス効果も弱酸性〜弱アルカリ性付近が好ましい。
【0035】
被処理物水の、より好ましいpHは2.0〜6.0の範囲であり、さらに好ましくはpH3.0〜5.5の範囲であり、特に好ましくはpH3.5〜5.0の範囲である。pHが6を超えると(b)成分を用いる効果が低下し、pHが2未満の強酸性では、例えば食品の殺菌洗浄では、洗浄対象である食品自体の品質の劣化を招き、好ましくない。
【0036】
オゾン曝気処理を行う際の処理時間(曝気を行う時間)は、特に限定されず、処理目的、被処理水中の対象物の濃度、温度、処理容積等を考慮して設定すればよい。
また、オゾン曝気処理を行う際の処理温度、すなわち被処理液の温度は特に限定されることなく、殺ウイルス対象物の性状等を考慮して決定することができる。
【0037】
<水>
本発明で使用される水は特に限定されるものではなく、純水、イオン交換水、水道水、井戸水、河川湖沼の水、海水等のいずれを用いることができる。
【0038】
殺ウイルスの対象物としては特に制限はなく、一般的にオゾン処理が行われているものであれば良い。処理対象物としては、食品、包装容器、調理器具、床、手指、配管、半導体装置等が挙げられる。中でも、本発明の殺ウイルス方法は食品の殺ウイルスに特に好適であり、具体的にはカキ、イカ、ハマグリ、エビ、アジ、シラス等の魚介類等;レタス、キャベツ、ネギ等の野菜;イチゴ、りんご等の果実の殺ウイルスに好適である。また、本発明の殺ウイルス方法は、水の浄化にも好適である。
【実施例】
【0039】
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、実施例は本発明を限定するものではない。
【0040】
<動的表面張力の測定>
(a)成分として用いる化合物を選定するに当たり、表1に示した式(I)で表される化合物について、25℃における0.5質量%水溶液の100msec動的表面張力および30sec動的表面張力を以下の方法で測定した。結果を表1に示す。
動的表面張力の測定方法は表1に示す化合物をそれぞれ水に溶解して0.5質量%水溶液(25℃)を調製し、各水溶液の100msec動的表面張力および30sec動的表面張力を英弘精機株式会社製シータt60を使用して測定した。使用した水はADVANTEC製GSR−210を用いて精製した抵抗率18MΩ以上の超純水を利用した。
【0041】
<被処理液の調製>
(実施例1)
100mLのガラス製試験管に、ネコカリシウイルス液(F−9株)800μLを入れた。トリアセチン(特級、関東化学株式会社製)と滅菌水を前記試験管に添加し、トリアセチン濃度が100ppmの被処理液が15mLとなるように調製し、被処理液を得た。
ついで、オゾンガス発生器(REI−SEA製 Ozonizer MODEL YGR-5)を用いてオゾンを発生させ、小型ポンプを用いて60vol・ppm、70mL/minとなるように調製した。調製したオゾンガスを、散気管(木下式ガラスフィルター501G No.4、木下理化工業株式会社製)に通じて被処理液に対して、オゾン曝気処理を行った。
曝気開始前の被処理液、および5分間の曝気後の被処理液について、後述する感染力の測定(TCID50法)を実施した。また、曝気開始前の被処理液と10分間の曝気後の被処理液についてウイルス量の測定を行った。それぞれの結果を表2に示す。
【0042】
(実施例2)
トリアセチンに加え、こはく酸(関東化学株式会社製、特級)濃度が100ppmとなるようにこはく酸を添加した以外は、実施例1と同様にオゾン曝気処理を行った。曝気開始前の被処理液、および5分間の曝気後の被処理液について、後述する感染力の測定を実施した。また、曝気開始前の被処理液と10分間の曝気後の被処理液についてウイルス量の測定を行った。それぞれの結果を表2に示す。
【0043】
(実施例3)
トリアセチン濃度が50ppmとなるように調製した以外は、実施例1と同様にオゾン曝気処理を行った。曝気開始前の被処理液、および5分間の曝気後の被処理液について、後述する感染力の測定を行い、その結果を表2に示す。
【0044】
(実施例4)
トリアセチンの代わりに酢酸n−プロピル(特級、関東化学株式会社製)濃度が100ppmとなるように調製した以外は、実施例1と同様にオゾン曝気処理を行った。曝気開始前の被処理液、および5分間の曝気後の被処理液について、後述する感染力の測定を行い、その結果を表2に示す。
【0045】
(実施例5)
トリアセチンの代わりに1,2−プロピレングリコールジアセタート(東京化成工業株製)濃度が100ppmとなるように調製した以外は、実施例1と同様にオゾン曝気処理を行った。曝気開始前の被処理液、および5分間の曝気後の被処理液について、後述する感染力の測定を行い、その結果を表2に示す。
【0046】
(比較例1)
トリアセチンを添加しなかった以外は、実施例1と同様にオゾン曝気処理を行った。曝気開始前の被処理液、および5分間の曝気後の被処理液について、後述する感染力の測定を実施した。また、曝気開始前の被処理液と10分間の曝気後の被処理液についてウイルス量の測定を行った。それぞれの結果を表2に示す。
【0047】
(比較例2)
トリアセチンの代わりにモノアセチン(特級、関東化学株式会社製)濃度が100ppmとなるように調製した以外は、実施例1と同様にオゾン曝気処理を行った。曝気開始前の被処理液、および5分間の曝気後の被処理液について、後述する感染力の測定を実施した。
【0048】
<感染力の測定>
(測定方法)
得られた被処理液について、オゾン曝気処理前および5分間のオゾン曝気処理後のそれぞれの被処理液から0.5mLを採取し、2%MEM培地(MEM Earle’s、メーカー:GIBCO、2%牛胎児血清を含む)4.5mLにそれぞれ加えた。被処理液が添加された2%MEM培地から20μLを採取し、2%MEM培地180μLに加えた。この作業を繰り返して10倍ずつ段階希釈した被処理液を用意した。
予め、10%MEM培地を用いてCRFK細胞(ネコ腎細胞)を培養したプレート(96well)の10%MEM培地を抜き取り、代わりに2%MEM培地を1wellにつき180μL添加した。ついで、前記プレートをCOインキュベーターに入れ、37℃1時間放置した。その後、プレートを取り出し、前記の段階希釈した被処理液20μLをプレートのwell内のCRFK細胞に添加(各段階希釈液毎に4個のwellに添加)した。前記プレートをCOインキュベーターに入れて35℃で1〜5日放置後、顕微鏡観察を行った。細胞の変形が観察されたものが50%(4個のwell中2個)以上の場合を感染とした。感染と非感染の閾値を確認し、感染した最も薄い濃度をウイルスの感染力とした。
【0049】
(評価方法)
○:非感染(ウイルス感染細胞が4well中に1個以下)
×:感染(ウイルス感染細胞が4well中に2個以上)
相対濃度は希釈前の被処理液中のウイルス濃度を1とし、順次段階希釈したウイルス液の濃度を1E−01(10−1)、1E−02(10−2)、1E−03(10−3)・・とした。
【0050】
<ウイルス量の測定>
(測定方法)
得られた被処理液について、オゾン曝気処理前および10分間のオゾン曝気処理後のウイルス量をリアルタイムPCR法により測定した。
後述する方法により、オゾン曝気被処理液からRNAを抽出し、抽出したRNAを用いて、cDNAを合成した。さらにcDNAを用いてDNA合成を行い、リアルタイムPCRにより、蛍光強度を経時でモニタリングした。
DNAの増幅中の蛍光強度について、既知相対濃度のネコカリシウイルスを用いて作成した検量線を用いてウイルス相対濃度を算出した。そして、オゾン曝気処理前のウイルス量と10分オゾン曝気処理後のウイルス量を用い、下記式(1)にてウイルスの対数減少係数を求めた。
ウイルスの対数減少係数=Log(初発のウイルス相対濃度)―Log(10分オゾン曝気処理後のウイルス相対濃度) ・・・式(1)
【0051】
(RNA抽出)
試薬キットA:QIAamp Viral RNA Mimi Kit(QIAGEN社製)とエタノール(分子生物学用、和光純薬工業株式会社製)を用いて、以下の手順によりRNA抽出を行った。なお、試薬調製において使用される、エタノール以外の試薬は試薬キットAの構成試薬である。
[試薬調製]
(1) Carrier RNA−Buffer AVLの調製
Carrier RNA310μgにBuffer AVL310μLを添加し、完全に溶解した後、Buffer AVLを加えて全量を560μLとした。
(2) Buffer AW1の調製
19mLのAW1にエタノール25mLを加えて調製した。
(3) Buffer AW2の調製
13mLのAW2にエタノール30mLを加えて調製した。
【0052】
[抽出]
実施例1、2ならびに比較例1において、曝気前の被処理液と、10分間の曝気処理後の被処理液を採取し、2%MEM培地で1/10に希釈した分散液をサンプル原液とした。
1.5mLのマイクロチューブに、前記サンプル原液140μLと前記Carrier RNA−Buffer AVL560μLとを入れ、ボルテックスミキサで15秒間混合し、10分間室温で静置後、スピンダウンした。エタノール560μLを前記マイクロチューブに加え、ボルテックスミキサで15秒間混合し、10分間室温で静置後、スピンダウンした。前記マイクロチューブ内の混合液から630μLをQIAampスピンカラムに入れた。前記スピンカラムを2mlコレクションチューブにセットし、遠心処理(8100rpm、1分)をした。前記スピンカラムを新たな2mLコレクションチューブにセットし、前記マイクロチューブ内の混合液630μLを入れ、同様に遠心処理をした。
ついで、QIAampスピンカラムにBuffer AW1を500μL添加し、遠心処理(8100rpm、1分)を行った。続いて、QIAampスピンカラムにBuffer AW2を500μL添加し、遠心処理(13200rpm、3分)を行った。
QIAampスピンカラムを新しい2mLコレクションチューブに移し、遠心処理(13200rpm、1分)を行った。
QIAampスピンカラムを新しい1.5mLコレクションチューブにセットし、AWE60μLを添加し、室温で静置後、遠心処理(8100rpm、1分)を行い、濾液として抽出RNAを得た。
【0053】
(逆転写反応)RT反応:RNAからcDNA合成
試薬キットB:ReverTra Plus(東洋紡績株式会社製)と前記抽出RNAにより反応液を調製した。なお、反応液の調製において使用される、抽出RNA以外の試薬は試薬キットBの構成試薬である。
[反応液の調製]
PCRチューブにRNaseフリー水9μL、ランダムプライマー1μL、RNA抽出物2μLを入れ、65℃の湯浴で5分間インキュベートした後、氷上で急冷した。
続いて、前記PCRチューブに5XRTバッファー4μL、10mM−4dNTP2μL、10U/μL−RNaseインヒビター1μL、ReverTraACE1μLを加えて反応液を調製した。
[cDNA合成]
調製した反応液を、下記条件にてcDNAを合成した。
反応条件:アニーリング30℃10分、逆転写42℃60分、変性85℃5分
使用機器:RC320(株式会社アステック製)
【0054】
(cDNAからのDNA合成)
[サンプル液]
試薬キットC:LightCycler Fast Start DNA Master SYBRGreen I(Roche社製)と、プライマー(F)、プライマー(R)、cDNAによりサンプル液を調製した。なお、サンプル液の調製において使用される、下記(1)〜(3)の試薬は、前記試薬キットCの構成試薬である。
(1)HO バランス
(2)MgCl 2μL
(3)SYBGreenI 2μL
(4)プライマー(F) 0.4μL
Sequence:5’−3’
塩基配列:ACCCGAGCAAGGAACAATGGT
(塩基配列におけるA、T、C、Gはそれぞれアデニン、チミン、シトシン、グアニンを表す。以下同様とする。)
(5)プライマー(R) 0.4μL
Sequence:5’−3’
塩基配列:GAGCAAAGGGCCTAAGGATTGT
(6)逆転写物(cDNA) 2μL
上記内容にて試薬、プライマー、cDNAにてサンプル液を調製した。
(1)〜(6)の合計量は20μLとし、(4)、(5)はサンプル液中それぞれ0.2μmolになるように調製した。
[リアルタイムPCR]
得られたサンプル液を下記条件にてDNAの合成を行い、検出波長530nmを用いてモニタリングを行った。
検量線は、既知相対濃度のネコカリシウイルスを用いて、検出波長530nmの蛍光強度から、各相対濃度のサイクル数を求めて作成した。
反応条件:95℃、10分
PCR反応:45サイクル(95℃10秒、63℃10秒、72℃5秒)
使用機器:LightCycler(Roche社製)
【0055】
【表1】

【0056】
【表2】

【0057】
表1の結果から、測定例1〜5はいずれも100msec動的表面張力ならびに30sec表面張力の値が、本発明の殺ウイルス助剤として好ましい値であった。特に100msec動的表面張力が比較的低く、かつ30sec動的表面張力が比較的高いという特性をもつ化合物として、トリアセチンがより好ましいといえる。
実施例1〜5は、いずれの希釈倍率においてもCRFK細胞に対して非感染であった。一方で、比較例1の結果から、殺ウイルス助剤を添加しないオゾン曝気処理のみでは、ウイルスの感染力を著しく低下させることはできなかった。また、実施例1は比較例1に比べてウイルス量を減少させていた。実施例2では、(a)成分に、(b)成分である水溶性酸性成分を添加することで、さらにウイルス量を減少させることができることがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表される化合物を含むことを特徴とする、オゾン曝気処理に用いられる殺ウイルス助剤。
【化1】

[式(I)中、xは0〜2の整数を示し、R、R、Rはそれぞれ独立に、−H、−OH、下記一般式(1)〜(3)で表される基からなる群から選択される基であって、R、R、Rの内の少なくとも1つは下記一般式(2)で表される基である。また、R、R、Rの内、−OHは1つ以下である。]
【化2】

[式(1)〜(3)中、R、R、Rは、炭素数1〜3のアルキル基である。]
【請求項2】
前記殺ウイルス助剤が、水溶性酸性成分を含むことを特徴とする、請求項1に記載の殺ウイルス助剤。
【請求項3】
請求項1または2に記載の殺ウイルス助剤を、オゾン曝気処理による殺ウイルス処理に用いることを特徴とする、殺ウイルス方法。


【公開番号】特開2009−46445(P2009−46445A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−215859(P2007−215859)
【出願日】平成19年8月22日(2007.8.22)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【Fターム(参考)】