説明

殺生物剤安定性を改善するためのポリマー分散体のスチームストリッピング

【課題】本発明は、分散体をストリッピングすることでイソチアゾロンの安定性を改善することによって、金属化合物の使用の必要性を軽減することを目的とする。
【解決手段】スチームまたは不活性ガスを使用して分散体をストリッピングすることを要件とする、ポリマー分散体の殺生物剤化合物を安定化させる方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマー分散体、すなわち本明細書において使用される場合の「分散体」を、殺生物剤を安定化させるための処理としてストリッピングする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本明細書において使用される場合、殺生物剤は、以下の3−イソチアゾロン化合物を意味する。
【0003】
【化1】

【0004】
上式中、Yは、1〜18個の炭素原子のアルキルまたは置換アルキル;約2〜8個の炭素原子の非置換またはハロゲン置換のアルケニルまたはアルキニル;約3〜12個の炭素原子のシクロアルキルまたは置換シクロアルキルまたは置換シクロアルキル;最大約10個の炭素原子のアラルキルまたはハロゲン置換、低級アルキル置換もしくは低級アルコキシ置換アラルキル;あるいは、最大約10個の炭素原子のアリールまたはハロゲン置換、低級アルキル置換、もしくは低級アルコキシ置換アリール、または水素であり;XおよびX'は、水素、ハロゲン、または(C1〜C4)アルキルであり;XとX'とが結合したものは縮合芳香族となる。
【0005】
これらは、非常に重要な種類の殺微生物剤である。いくつかの種類は商品化されており、細菌(bacteria)、菌類(fungi)、および藻類(algae)の増殖を阻害するために広く使用されている。一部の例は、メチルイソチアゾロンおよび5−クロロ2−メチル3−イソチアゾロン、2−メチル3−イソチアゾロン、2−n−オクチル3−イソチアゾロン、および1、2−ベンズ3−イソチアゾロンである。
【0006】
殺生物剤としてのイソチアゾロン化合物、特に3−イソチアゾロン類が、エマルジョン中での微生物の増殖を制御するために使用されることは、当業者には周知である。しかし、ポリマー分散体中でイソチアゾロン類を使用する場合に存在する問題の1つは、これらの化合物が、ポリマー分散体中に見られる酸化剤や還元剤によって破壊され得、それによって微生物の増殖を防止するイソチアゾロン類の有効性が低下することである。
【0007】
この問題の解決法の1つとして、当技術分野では、これらの殺生物剤を安定化させることが試みられている。従来、イソチアゾロン化合物は、無機金属化合物を使用することによって分散体環境中で安定化されてきた。このような無機金属化合物としては、これらに限定されるものではないが、金属硝酸エステルおよび金属硝酸塩が挙げられる。さらに、安定化剤としての銅の使用がよく知られている。これらの金属は殺生物剤成分の安定化に役立つが、それらの使用が多くの用途において望ましくない場合が多い。価数の高い金属化合物は、分散体を不安定化させる場合がある。分散体が不安定化されると、ゲルと呼ばれる凝集体が形成され、それらによって分散体の性能が低下しうる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、分散体をストリッピングすることでイソチアゾロンの安定性を改善することによってこれらの金属化合物の使用の必要性を軽減する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明において、水性ポリマー分散体中の殺生物剤を安定化させる方法であって:
水性ポリマー分散体とスチーム(steam)とを提供することと;
水性ポリマー分散体とスチームとをストリッパー中で接触させることと;
スチームを水性ポリマー分散体から分離することとを含み;
水性ポリマー分散体とスチームとをストリッパー中で接触させた後に少なくとも1種類の殺生物剤が加えられる、方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の水性ポリマー分散体は、エマルジョン重合、ミニエマルジョン重合、または懸濁重合によって調製することができる。溶液重合によって形成されたポリマーは、本発明において特に意図されない。
【0011】
本明細書において使用される場合、スチームは、水蒸気で飽和した不活性ガスまたは複数の非凝縮性不活性ガスの組み合わせとして定義される。
【0012】
ポリマー分散体およびスチーム混合物は、バッチ式または連続式のストリッピング装置中で接触させることができる。連続式の場合、供給は、並流、または向流であってよい。本明細書において使用される場合、「並流」は、分散体およびスチームの両方がいっしょにストリッパーを出入りすることを意味する。本明細書において使用される場合、向流は、分散体がストリッパーに入る場所からスチームが出て、スチームがストリッパーに入る場所から分散体が出ることを意味する。
【0013】
ストリッパー装置は、バッチ式、1段階連続式、または多段階連続式の方法で動作させることができる。そのためには、1つのストリッパー、複数のストリッパー、1つの凝縮装置、または複数の凝縮装置を、ストリッピング装置として使用することができる。現在当業者に周知の任意のストリッパー装置を本発明に適用することができる。本発明に置いて有用なストリッパー装置の非限定的な例としては、バッチ式真空タンク、ジャケット付きシングルパスシェルアンドチューブ式熱交換器、マルチパスシェルアンドチューブ式熱交換器、およびスパイラル式熱交換器が挙げられる。ストリッパーのシェル中に1つのチューブまたは複数のチューブが存在することができる。
【0014】
本発明の一実施形態においては、ストリッパーに供給される前のポリマー分散体およびスチーム混合物に、少なくとも1種類の殺生物剤が加えられる。本発明の第2の実施形態においては、混合物のストリッピングの後に、少なくとも1種類の殺生物剤がポリマー分散体およびスチーム混合物に加えられる。本発明に有用な殺生物剤の非限定的な例としては、メチルイソチアゾロンおよび5−クロロ2−メチル3−イソチアゾロン、2−メチル3−イソチアゾロン、2−n−オクチル3−イソチアゾロン、および1,2−ベンズ3−イソチアゾロンまたは、それらの混合物が挙げられる。
【0015】
本発明の分散体ポリマーは、80℃未満の温度でストリッピングされる。より高温、たとえば80℃を超える温度でストリッピングを行うと、例えばゲルの形成や、装置への分散体ポリマーの付着などの、望ましくない性質が生じる。
【0016】
化合物混合物中に残留する殺生物の量は、経時で測定することができる。これを殺生物剤安定性と呼ぶ。本発明の利点の1つは、50℃において7日の保存の後、ストリッピングされ安定化された材料において、同様の状況でストリッピングされていない試料より多く、80重量%までより多い元のイソチアゾロンが見られることである。50℃において14日後、ストリッピングされ安定化された材料において、同様の状況でストリッピングされていない試料より多く、45重量%までより多い元のイソチアゾロンが見られる。
【0017】
以下は、本発明のいくつかの利点を示す非限定的な実施例である。
【実施例】
【0018】
試験方法
熱安定化試験
28グラムの分散体試料を50℃のオーブン中に入れる。7日後、1グラムの試料を有効成分分析のために取り出して、後述の方法で測定する。14日後、さらに1グラムの試料を分析する。この材料中のイソチアゾロン化合物レベルを後述の方法によって測定する。これらの結果を、ゼロ時間の対照と比較する。この対照は、オーブン中に入れなかった試料である。この対照は、入手してすぐに分析する。
【0019】
イソチアゾロンレベル測定
9部の水対1部の分散体の比率で分散体試料を脱イオン水で希釈する。試料を混合して、イソチアゾロンを水(水性)相中に抽出する。試料を遠心分離して、透明な液相を抜き取る。この透明な液体をHPLC試験機、たとえばアジレント1100シリーズ(Agilent 1100 Series)に注入して、イソチアゾロンレベルを測定する。
【0020】
実施例:ストリッピングした試料とストリッピングしていない試料とのイソチアゾロン安定性の比較
ポリマー分散体を、5ガロンのバッチ式反応器中で調製した。この分散体は、アクリル酸ブチル/スチレンの水性分散体であった。この分散体ポリマーを界面活性剤およびアクリル酸モノマーによって安定化させた。得られた分散体の固形分は53〜54重量%であった。この分散体の最終pHは6.8〜7.8の間であり、粘度は200cp未満であった。
【0021】
このポリマー試料を4つの部分に分けた。各部分には、以下の方法で加えたメチルイソチアゾロン(MIT)およびクロロメチルイソチアゾロン(CMIT)の組み合わせを有していた:
部分1.バッチ重合後にイソチアゾロンを加えた。
部分2.バッチ重合の2時間後にイソチアゾロンを加えた。
部分3.バッチ完了後にイソチアゾロンを加え、続いてその分散体試料のスチームストリッピングを行った。
部分4.試料のスチームストリッピングを行い、続いてイソチアゾロンを加えた。
【0022】
ストリッピングした試料は、1段階連続ストリッパーに3回通してストリッピングを行った。ストリッピング中のスチーム対分散体の相対流量は1:5であった。ストリッピングした試料が改善した安定性を示す場合、比較例のストリッピングしていない試料は熱安定性試験後に殺生物剤濃度が低くなる。
【0023】
前記試料を50℃のオーブン中に2週間入れた。各試料中のMITおよびCMITのレベルを、オーブン中の0日、7日、および14日において測定して、分散体中の殺生物剤の安定性を試験した。
【0024】
前述の部分2は、ストリッピングに必要な時間を表すために計画された保持時間を有する対照試料であった。
【0025】
実験結果を以下の表に示す。
【0026】
【表1】

【0027】
【表2】

【0028】
【表3】

【0029】
【表4】

【0030】
ストリッピングしていない両試料中のMITレベルは7日後に40〜43ppmまで減少した。これらの試料中のCMITレベルは7日後に0ppmまで減少した。比較として、ストリッピングした試料は7日後にMITレベルが243ppmおよび242ppmとなり、CMITレベルが10.2ppmおよび6.6ppmとなった。14日後、ストリッピングした試料中にCMITは検出されなかったがMITはある程度残留した。ストリッピングした試料において両方のイソチアゾロンの安定性が明確に改善された。2時間維持した後にイソチアゾロンを加えたストリッピングしていない試料は、重合完了時にイソチアゾロンを加えた試料と、殺生物剤量および殺生物剤安定性の差は見られなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性ポリマー分散体中の殺生物剤を安定化させる方法であって:
水性ポリマー分散体とスチームとを提供することと;
前記水性ポリマー分散体とスチームとをストリッパー中で接触させることと;
前記スチームを前記水性ポリマー分散体から分離することとを含み;
少なくとも1種類の殺生物剤が前記水性ポリマー分散体に加えられる、方法。
【請求項2】
前記水性ポリマー分散体とスチームとをストリッパー中で接触させる前に、前記少なくとも1種類の殺生物剤が加えられる、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記水性ポリマー分散体とスチームとをストリッパー中で接触させた後に、前記少なくとも1種類の殺生物剤が加えられる、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記水性ポリマー分散体とスチームとをストリッパー中で接触させながら、前記少なくとも1種類の殺生物剤が加えられる、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記少なくとも1種類の殺生物剤が、メチルイソチアゾロン、クロロメチルイソチアゾロン、またはそれらの混合物からなる群より選択される、請求項2記載の方法。
【請求項6】
前記少なくとも1種類の殺生物剤が、メチルイソチアゾロン、クロロメチルイソチアゾロン、またはそれらの混合物からなる群より選択される、請求項3記載の方法。
【請求項7】
前記少なくとも1種類の殺生物剤が、メチルイソチアゾロン、クロロメチルイソチアゾロン、またはそれらの混合物からなる群より選択される、請求項4記載の方法。
【請求項8】
前記ストリッパーの温度が80℃未満である、請求項1記載の方法。

【公開番号】特開2009−73816(P2009−73816A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2008−196003(P2008−196003)
【出願日】平成20年7月30日(2008.7.30)
【出願人】(590002035)ローム アンド ハース カンパニー (524)
【氏名又は名称原語表記】ROHM AND HAAS COMPANY
【Fターム(参考)】