説明

殺菌水製造装置および殺菌水の製造方法

【課題】長期間にわたって安定的に殺菌水を製造することができ、殺菌水製造装置自体を安価にすることができ、殺菌水の製造に伴うランニングコストを低減することが可能な、殺菌水製造装置を提供する。また、上記殺菌水製造装置を用いた殺菌水の製造方法を提供する。
【解決手段】アノード、カソード、第三電極、およびカソードと第三電極の間に直流電圧を印加可能な直流電源を有する殺菌水製造装置であって、アノードが貴金属、その酸化物またはそれらの組み合わせで被覆されたチタンから構成され、カソードおよび第三電極がチタンから構成される、殺菌水製造装置および当該殺菌水製造装置を用いた殺菌水の製造方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩素イオン含有水を電気分解することにより、次亜塩素酸を含有する殺菌水を生成するための、殺菌水製造装置および殺菌水の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
塩素イオン含有水、例えば塩化ナトリウム水溶液、塩酸水溶液などを電気分解すると、水中に次亜塩素酸および/または次亜塩素酸イオンが生成する。生成した次亜塩素酸および次亜塩素酸イオン、特に殺菌作用の高い次亜塩素酸を利用した殺菌方法、ならびにこれらの化学種を含有する殺菌水の製造方法および製造装置がこれまでに開示されている。
【0003】
特許文献1(特開2006−239531号明細書)は、「塩化ナトリウムを含む水中に一対の交流電極と、該交流電極より小面積乃至同面積の第一の接地電極と、前記一対の交流電極の合計面積より大面積且つ接地状態と非接地状態とを切り換えることができる第二の接地電極とを配設し、該第二の接地電極を非接地状態にすると共に、前記一対の交流電極間に交流を印加し電気分解することにより次亜塩素酸ナトリウム塩を発生させて前記水を殺菌した後、前記第二の接地電極を接地状態に切り換える共に、前記一対の交流電極間に交流を印加し電気分解することにより前記次亜塩素酸ナトリウム塩を塩化ナトリウムに還元して前記水を浄化することを特徴とする次亜塩素酸ナトリウム塩を用いた水の浄化方法」を記載している。
【0004】
特許文献2(特開2005−262003号明細書)は、「電解槽内に3枚以上の電極板を設け、両端の電極板のみをそれぞれ直流電源の陽極と陰極に直列に接続し、電解槽に塩素化合物並びにマグネシウム化合物及び/又はカルシウム化合物を含む着色廃水を流通させつつ、直流電流を通電して電解処理を行なうことを特徴とする、着色廃水の脱色方法」を記載している。
【0005】
特許文献3(特開平10−180259号明細書)は、「水道水等の原水が通過する導電性吸着部に第1電極を接触させるとともに第2電極を該導電性吸着部と間隔をおいて配置し、該第1電極を陽極とし該第2電極を陰極とする正極性の直流電圧を印加し、該導電性吸着部に細菌等を捕捉させかつ付着した細菌等の繁殖を抑制する制菌モードを有する浄水殺菌装置において、前記第2電極と前記導電性吸着部との間に該第2電極と対向するよう前記第1電極と同一極性の第3電極を配置するとともに、前記各電極の極性を切り換える極性切り換え手段と、前記各電極に印加する電圧値を設定できる電圧設定手段とを有することを特徴とする浄水殺菌装置」を記載している。
【0006】
殺菌水の製造装置の多くは電気分解方式を採用しており、アノードとカソードの間に隔膜を使用する構造(隔膜型)と使用しない構造(無隔膜型)に大別される。いずれの構造も、一般に、アノードおよびカソードとして、白金、イリジウムなどの貴金属またはその酸化物などで被覆されたチタン板を使用する。また、殺菌水を安価に製造する一般的な方法として、水道水、地下水などに食塩を溶解した塩素イオン含有水を電気分解することにより、次亜塩素酸を生成させることが知られている。
【0007】
水道水などに塩化ナトリウムなどを添加して調製された塩素イオン含有水は、一般に、マグネシウム、カルシウムなどのアルカリ土類金属のイオンや、水中に溶解したイオン状シリカなどの成分も含む。このような塩素イオン含有水を用いて長期間連続して電気分解を行うと、アルカリ土類金属イオン、イオン状シリカなどの成分が、スケールとしてカソード表面に析出し付着して次第に電流が流れなくなる。その結果、殺菌水製造装置の電気分解能力が低下して、次亜塩素酸の生成量が低下するなどの問題があった。
【0008】
上記問題を回避または解決するために、水道水の代わりに純水を使用する、あるいは軟水器を使用して水道水を軟水化するなどの方法が採用されている。しかし、これらの方法を使用すると、純水の製造コストや軟水器の使用に伴うランニングコストが発生してしまう。また、アノードとカソードの間に逆の極性の電圧を印加して、カソードに付着したスケールを剥離することも行われている。この方法によれば、初期の段階ではスケールが完全に剥離して電気分解性能を維持できるが、スケール剥離を繰り返し行うにつれて、剥離しきれないスケールがカソード表面に残留する。その結果、カソード表面の抵抗が高くなり、スケールを剥離するためにより高い電圧が必要となる。そのような高電圧でスケール剥離を行うと、電極表面の白金被覆(例えば白金めっきなど)にピンホールが空く、白金被覆が剥離する、などの問題が生じる場合があった。そのため、このような方法を使用する場合、高価な白金被覆チタン板から構成される電極を定期的に交換しなければならなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−239531号明細書
【特許文献2】特開2005−263003号明細書
【特許文献3】特開平10−180259号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、長期間にわたって安定的に殺菌水を製造することができ、殺菌水製造装置自体を安価にすることができ、殺菌水の製造に伴うランニングコスト、特に電極に関係するランニングコストを低減することが可能な、殺菌水製造装置を提供することを目的とする。また、本発明は、上記殺菌水製造装置を用いた殺菌水の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願は、上記課題を解決するために以下の発明を提供する。
【0012】
1.アノード、カソード、第三電極、および前記カソードと前記第三電極の間に直流電圧を印加可能な直流電源を有する殺菌水製造装置であって、前記アノードが貴金属、その酸化物またはそれらの組み合わせで被覆されたチタンから構成され、前記カソードおよび前記第三電極がチタンから構成される、殺菌水製造装置。
【0013】
2.前記アノードが白金被覆チタンから構成される、上記1に記載の殺菌水製造装置。
【0014】
3.前記カソードと前記第三電極の間に印加される直流電圧の極性を反転させる極性切替装置をさらに有する、上記1または2のいずれかに記載の殺菌水製造装置。
【0015】
4.前記アノード、前記カソードおよび前記第三電極を収容する電解槽と、前記電解槽の底部に取り付けられたドレンとを有する、上記1〜3のいずれか一項に記載の殺菌水製造装置。
【0016】
5.前記カソードの表面に酸化チタン被膜が予め形成されている、上記1〜4のいずれか一項に記載の殺菌水製造装置。
【0017】
6.アノード、カソード、第三電極、および前記カソードと前記第三電極の間に直流電圧を印加可能な直流電源を有する殺菌水製造装置であって、前記アノードが貴金属、その酸化物またはそれらの組み合わせで被覆されたチタンから構成され、前記カソードおよび前記第三電極がチタンから構成される、殺菌水製造装置を提供する工程と、
前記アノードおよび前記カソードの周囲に、前記アノードと前記カソードの間で導通があるように塩素イオン含有水を配置する工程と、
前記アノードと前記カソードの間に直流電圧を印加することにより、前記塩素イオン含有水を電気分解して、次亜塩素酸を含有する殺菌水を生成する工程と、
前記カソードおよび前記第三電極の周囲に、前記カソードと前記第三電極の間で導通があるように洗浄水を配置する工程と、
前記カソードと前記第三電極の間に、前記カソード側が正となる直流電圧を印加することにより、前記カソード表面の酸化被膜を絶縁破壊して、それにより前記カソード表面に付着したスケールを剥離する工程と、
を有する、殺菌水の製造方法。
【0018】
7.前記アノードが白金被覆チタンから構成される、上記6に記載の殺菌水の製造方法。
【0019】
8.前記カソードと前記第三電極の間に、前記第三電極側が正となる直流電圧を印加することにより、前記第三電極表面の酸化被膜を絶縁破壊して、それにより前記第三電極表面に付着したスケールを剥離する工程をさらに有する、上記6または7のいずれかに記載の殺菌水の製造方法。
【0020】
9.前記殺菌水製造装置が、前記アノード、前記カソードおよび前記第三電極を収容する電解槽と、前記電解槽の底部に取り付けられたドレンとを有しており、剥離したスケールを洗浄水と一緒に前記ドレンから排出する工程をさらに有する、上記6〜8のいずれか一項に記載の殺菌水の製造方法。
【0021】
10.前記カソードの表面に酸化チタン被膜が予め形成されている、上記6〜9のいずれか一項に記載の殺菌水の製造方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明の殺菌水製造装置においては、貴金属、その酸化物またはそれらの組み合わせで被覆されたチタン電極をアノードのみに使用し、チタン電極をカソードと第三電極に使用する。カソード表面にスケールが付着したら、第三電極とカソードに通電することによって、カソード表面の酸化被膜の絶縁破壊を起こし、カソード表面に付着したスケールを破壊された酸化被膜と一緒に剥離することができる。
【0023】
したがって、本発明によれば、純水や軟水器を使用しなくても、カソード表面を電気分解に適した状態に維持することができ、次亜塩素酸を効率よく生成することができる。また、カソード表面のスケール除去に際して、アノードに電気的ストレスを与える必要がないことから、長期間安定してアノードを使用できる。また、高価な貴金属、その酸化物またはそれらの組み合わせで被覆されたチタン電極はアノードのみに使用すればよく、カソードと第三電極を安価なチタン電極とすることができるため、より安価な殺菌水製造装置を提供することができる。さらに、電極の消耗に伴う定期的な電極交換は、安価なチタン電極を用いたカソードおよび第三電極について行うだけでよいため、長期間電気分解を行ったときのランニングコストも低減できる。
【0024】
なお、上述の記載は、本発明の全ての実施態様及び本発明に関する全ての利点を開示したものとみなしてはならない。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一実施態様による殺菌水製造装置の概略図である。
【図2a】本発明の一実施態様による、アノード、カソードおよび第三電極の形状および配置を示す概略図である。
【図2b】本発明の別の実施態様による、アノード、カソードおよび第三電極の形状および配置を示す概略図である。
【図3a】本発明の一実施態様による殺菌水の製造方法の説明図である。
【図3b】本発明の一実施態様による殺菌水の製造方法の説明図である。
【図3c】本発明の一実施態様による殺菌水の製造方法の説明図である。
【図4】本発明の別の実施態様による殺菌水製造装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図を参照しながら、本発明の代表的な実施態様を例示する目的でより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施態様に限定されない。
【0027】
図1は、本発明の一実施態様による殺菌水製造装置の概略図である。殺菌水製造装置10は、アノード(陽極)20と、カソード(陰極)30と、第三電極40とを有しており、アノード20、カソード30および第三電極40が、極性切替装置(不図示)を備えた直流電源50に接続されている。この殺菌水製造装置10は、いわゆる無隔膜型である。この無隔膜型の実施態様は、後述する隔膜型の実施態様と比較して、装置構成が単純であることから殺菌水製造装置を安価に製作することができ、水中のイオンがアノードとカソードの間を自由に移動できることから電気分解速度が高く、隔膜の交換に伴うランニングコストもかからないといった利点がある。
【0028】
アノード20は、貴金属、その酸化物またはそれらの組み合わせで被覆されたチタンから構成される電極である。貴金属として電気触媒活性を有するものが使用でき、白金、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、およびそれらの組み合わせが挙げられ、白金、イリジウム、およびその組み合わせが好ましい。触媒性能が高いことから、アノード20は、白金被覆チタンであることが好ましい。
【0029】
カソード30および第三電極40は、チタンから構成される電極である。カソード30および第三電極40は、電極表面に酸化被膜(酸化チタン被膜)を有してもよいが、他の種類の金属で被覆されていない。ある実施態様では、例えば、チタン電極を約400〜600℃で約10分〜1時間加熱処理することよって、電極表面に酸化チタン被膜が予め形成される。カソード30の表面に酸化チタン被膜が予め形成されていると、殺菌水の製造中にアノード20とカソード30の間に印加される直流電圧が若干高くなるが、塩素イオン含有水の電気分解に必要な電流を流しつつ、カソード30の表面に付着するスケールの量を効果的に減少させることができる。酸化チタン被膜の厚さは、一般に約1nm以上、約130nm以下であり、約5nm以上、約100nm以下であることが好ましい。また、カソード表面からスケールを除去する工程で第三電極の表面に付着するスケールの量を効果的に減少させるために、第三電極の表面にこのような酸化チタン被膜を予め形成してもよい。
【0030】
アノード20、カソード30、第三電極40の寸法および形状は、殺菌水製造装置の必要とされる能力、設置場所などに応じて、適宜決定することができる。電極の形状として、例えば、板状、丸棒状、角棒状、中空円筒状などが挙げられ、一般に使用される角形の電解槽に収容しやすいことや単位質量当たりの有効処理面積が大きいことなどから、板状電極が好ましい。図1では、アノード20とカソード30が対向しており、カソード30の斜め下方に第三電極40が配置されているが、これらの電極の配置および電極間の距離は、殺菌水製造装置の形状および設置場所、塩素イオン含有水の供給ラインおよび殺菌水排出ラインの取り付け位置、直流電源の能力、塩素イオン含有水の塩素イオン濃度などに応じて適宜決定することができる。但し、第三電極40は、アノード20とカソード30の間に入らないように、すなわち、殺菌水の製造時にアノード20とカソード30の間に生じる電界を第三電極40が遮蔽しないように配置される。例えば、図2aに示すように、アノード20、カソード30、第三電極40を板状として、アノード20とカソード30が対向し、カソード30のアノード対向面と反対の面でカソード30と第三電極40が対向するように、これらの電極を一列に並べてもよい。また、図2bに示すように、中心に棒状電極のアノード20、その周りを取り囲むように中空円筒状電極のカソード30、さらにカソード30の周りを取り囲むように第三電極40を配置してもよい。
【0031】
直流電源50は、殺菌水の製造時にアノード20とカソード30の間に直流電圧を印加する。また、直流電源50は、カソード30と第三電極40の間に直流電圧を印加できるようにもなっている。図1では一つの直流電源にアノード20、カソード30、第三電極40の全てが接続されているが、殺菌水製造装置10が、アノード20とカソード30に直流電圧を印加する第1直流電源と、カソード30と第三電極40に直流電圧を印加する第2直流電源とを別々に有してもよい。直流電源は、定電流を流すことが可能な直流安定化電源であってもよい。
【0032】
極性切替装置は、カソード30と第三電極40の間に印加される直流電圧の極性を反転させる。本発明では、カソード表面に付着したスケールを剥離するときに、カソード側が正、第三電極側が負となる直流電圧が印加される。その結果、カソードとして機能する第三電極の表面にスケールが付着する場合がある。極性切替装置は、逆の極性の直流電圧、すなわち、第三電極側が正、カソード側が負となる直流電圧を印加することを可能にし、カソード表面からのスケール除去と同様の機構により、第三電極表面に付着したスケールを除去することも可能にする。極性切替装置は、所定時間毎に極性反転を行う動作機構を備えていてもよい。
【0033】
アノード20、カソード30および第三電極40は、電解槽60の内部に収容されている。電解槽60の形状は、立方体、直方体、円筒など様々であってよい。電解槽60の底部にはドレン70が取り付けられており、ドレン70は手動または自動のドレンバルブ72によって開閉できる。電解槽60の底部がドレン70に向かって低くなるように傾斜していてもよく、その傾斜角は一般に約25度〜約35度とすることができる。電解槽60は、殺菌水の原料となる塩素イオン含有水を槽内に供給するための給水ライン80および給水ポンプ82、製造した殺菌水を槽から外部に取り出すための殺菌水排出ライン90および排出ポンプ92を備えている。図1では、給水ライン80が電解槽60の下部側面に取り付けられ、排水ライン90が電解槽60の上部から殺菌水を取り出すように取り付けられているが、これに限らず、給水ライン80および殺菌水排出ライン90を電解槽60に取り付ける位置は、殺菌水製造装置の形状および設置場所などに応じて適宜決定することができる。ある実施態様では、ドレン70を殺菌水排出ライン90として兼用することもできる。塩素イオン含有水として、塩化ナトリウム水溶液、例えば食塩水、塩化カリウム水溶液、塩酸水溶液、海水などを使用することができ、これらは必要に応じて濾過してから電解槽60に供給してもよい。塩素イオン含有水に含まれる塩素イオン濃度は、一般に約0.01質量%以上、約10質量%以下であり、約0.05質量%以上、約5.0質量%以下であることが好ましい。
【0034】
図3a〜3cは、本発明の一実施態様による殺菌水の製造方法の説明図である。これらの図では、本方法の基本的な原理を説明する目的で、アノード20、カソード30、第三電極40および極性切替装置を備えた直流電源50のみを図示する。図1および図3a〜3cを参照しながら、本発明の一実施態様による殺菌水の製造方法を以下詳述する。
【0035】
塩素イオン含有水は、給水ポンプ82によって給水ライン80から電解槽60の内部に供給される。アノード20およびカソード30の周囲に、アノード20とカソード30の間で導通があるように塩素イオン含有水が配置されたら、図3aに示すように、直流電源50によってアノード側に正電圧を印加しカソード側に負電圧を印加すると、塩素イオン含有水の電気分解が起こり、次亜塩素酸を含有する殺菌水が生成する。電気分解に使用される直流電圧および電極の単位面積当たりの電流密度は、一般に、約0.5V以上、約20V以下、および約0.5A/m2以上、約50A/m2以下である。
【0036】
塩素イオン含有水を電気分解したときに、アノード側では塩素イオンが塩素となり、その塩素が水と反応して次亜塩素酸と塩酸が生じる。一方、例えば塩素イオン含有水を一定濃度の塩化ナトリウム水溶液とした場合、カソード側ではナトリウムイオンと水の反応で水酸化ナトリウムと水素ガスが生じる。このとき、次亜塩素酸の量は水中のpHによって変化する。
アノード側:2Cl-→Cl2+2e-
Cl2+H2O→HClO+HCl
カソード側:2Na++2H2O+2e-→2NaOH+H2
【0037】
一般に、無隔膜で電気分解を行うと、殺菌水全体のpHは中性から弱アルカリ性(pH7〜8程度)となる。弱アルカリ性では次亜塩素酸イオンの量が多くなり(HClO+OH-→ClO-+H2O)、系中のカチオンとの塩、例えば次亜塩素酸ナトリウムとなって水中に存在する。殺菌効果の高い次亜塩素酸はpH2〜7で多く存在することが知られている。よって、殺菌水に存在する次亜塩素酸の量をより増加したい場合、供給する塩素イオン含有水および/または生成した殺菌水に塩酸などの酸を適量添加して、殺菌水のpHを2〜7に保つことが好ましい。
【0038】
生成した殺菌水は、排水ポンプ92によって排水ライン90から電解槽60の外部に取り出される。このとき、必要に応じて、取り出された殺菌水を水道水、脱イオン水などで希釈してもよい。
【0039】
塩素イオン含有水の電気分解を継続すると、塩素イオン含有水に含まれているカルシウムイオン、マグネシウムイオンなどのアルカリ土類金属イオンおよびイオン状シリカなどのスケール成分が、電気泳動によってカソードに引き寄せられる。そして、これらのスケール成分が、カソード表面で還元される、カソード近傍のpHが高いために飽和濃度に達するなどの様々な機構により、カソードの表面又は表面近傍にスケールとして析出する。このようなスケールの一部はカソード表面に付着して電気分解の妨げとなる。
【0040】
カソード表面に付着したスケールの量がある程度に達したところで、電解槽60に入っている殺菌水を排水ライン90またはドレン70から排出する。次に、水道水、脱イオン水などを洗浄水として電解槽60に供給して、カソード30および第三電極40の周囲に、カソード30と第三電極40の間で導通があるように洗浄水を配置する。その後、図3bに示すように、直流電源50によってカソード側に正電圧を印加し第三電極側に負電圧を印加すると、カソード表面に酸化被膜が生成して電極表面の抵抗値が上昇する。酸化被膜は、ある程度の電圧が印加されると絶縁破壊して剥落するため、カソード表面に付着していたスケールは剥落する酸化被膜と一緒に剥離して、カソード表面から除去される。このとき、カソード30と第三電極40の間に印加される直流電圧は、一般に、約15V以上、約25V以下である。
【0041】
剥離したスケールと酸化被膜は電解槽60の底部に沈降させてから、ドレンバルブ72を開いて洗浄水と一緒にドレン70から排出する。このようにして、カソード表面に付着したスケールを除去することにより、カソード表面を電気分解に適した状態に再生することができる。その後、再び塩素イオン含有水を電解槽60に供給し、電気分解することにより、殺菌水を製造することができる。
【0042】
カソード表面からスケールを除去する工程で、殺菌水製造中のカソードと同様に、第三電極40にスケールが付着する場合がある。このときは、カソード30からスケールを除去する工程と同様に、洗浄水を電解槽60に供給して、カソード30および第三電極40の周囲に、カソード30と第三電極40の間で導通があるように洗浄水を配置した後、図3cに示すように、直流電源50によって、図3bとは逆の極性の電圧、すなわち第三電極側に正電圧を印加しカソード側に負電圧を印加すると、同様の機構により、第三電極表面からスケールを除去することができる。この工程は、カソード表面からスケールを除去する工程と一緒に、すなわちカソード表面からスケールを除去する際に使用した洗浄水を交換せずに行ってもよい。スケールの排出は、上述したように、ドレン70を介して行うことができる。
【0043】
図4は、本発明の別の実施態様による殺菌水製造装置の概略図である。この実施態様では、アノード20と、カソード30および第三電極40とを隔てて隔膜100が設けられており、アノード室102とカソード室104が電解槽60の内部に画定されている。隔膜100として、公知のイオン交換膜を使用することができる。この実施態様では、アノード室102で強酸性の殺菌水が生成し、同時にカソード室104で強アルカリ水が生成する。アノード室102中の強酸性の殺菌水は排出ポンプ92を使用して殺菌水排出ライン90から外部に取り出すことができる。カソード室104中の強アルカリ水は、別途設けられた強アルカリ水排出ライン(不図示)またはドレン70から外部に取り出すことができる。この実施態様において、カソード表面からのスケール除去、および第三電極表面からのスケール除去は、上述した手順で行うことができる。
【0044】
上記実施態様は、あくまでも本発明を例示する目的で記載されたものであり、本発明はこれらに限定されない。本発明の範囲は、本明細書に記載した実施態様についての、当業者にとって明らかな変更、拡張、修正、置換を包含するものとする。例えば、本明細書では、電解槽を備えた殺菌水製造装置の実施態様について説明したが、アノード20、カソード30および第三電極40を、塩素イオン含有水が流れる配管中に設置して、連続的に殺菌水を製造することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、塩素イオン含有水を用いた、次亜塩素酸を含有する殺菌水の製造に適用できる。
【符号の説明】
【0046】
10 殺菌水製造装置
20 アノード
30 カソード
40 第三電極
50 直流電源
60 電解槽
70 ドレン
72 ドレンバルブ
80 給水ライン
82 給水ポンプ
90 殺菌水排出ライン
92 排出ポンプ
100 隔膜
102 アノード室
104 カソード室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノード、カソード、第三電極、および前記カソードと前記第三電極の間に直流電圧を印加可能な直流電源を有する殺菌水製造装置であって、前記アノードが貴金属、その酸化物またはそれらの組み合わせで被覆されたチタンから構成され、前記カソードおよび前記第三電極がチタンから構成される、殺菌水製造装置。
【請求項2】
前記アノードが白金被覆チタンから構成される、請求項1に記載の殺菌水製造装置。
【請求項3】
前記カソードと前記第三電極の間に印加される直流電圧の極性を反転させる極性切替装置をさらに有する、請求項1または2のいずれかに記載の殺菌水製造装置。
【請求項4】
前記アノード、前記カソードおよび前記第三電極を収容する電解槽と、前記電解槽の底部に取り付けられたドレンとを有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の殺菌水製造装置。
【請求項5】
前記カソードの表面に酸化チタン被膜が予め形成されている、請求項1〜4のいずれか一項に記載の殺菌水製造装置。
【請求項6】
アノード、カソード、第三電極、および前記カソードと前記第三電極の間に直流電圧を印加可能な直流電源を有する殺菌水製造装置であって、前記アノードが貴金属、その酸化物またはそれらの組み合わせで被覆されたチタンから構成され、前記カソードおよび前記第三電極がチタンから構成される、殺菌水製造装置を提供する工程と、
前記アノードおよび前記カソードの周囲に、前記アノードと前記カソードの間で導通があるように塩素イオン含有水を配置する工程と、
前記アノードと前記カソードの間に直流電圧を印加することにより、前記塩素イオン含有水を電気分解して、次亜塩素酸を含有する殺菌水を生成する工程と、
前記カソードおよび前記第三電極の周囲に、前記カソードと前記第三電極の間で導通があるように洗浄水を配置する工程と、
前記カソードと前記第三電極の間に、前記カソード側が正となる直流電圧を印加することにより、前記カソード表面の酸化被膜を絶縁破壊して、それにより前記カソード表面に付着したスケールを剥離する工程と、
を有する、殺菌水の製造方法。
【請求項7】
前記アノードが白金被覆チタンから構成される、請求項6に記載の殺菌水の製造方法。
【請求項8】
前記カソードと前記第三電極の間に、前記第三電極側が正となる直流電圧を印加することにより、前記第三電極表面の酸化被膜を絶縁破壊して、それにより前記第三電極表面に付着したスケールを剥離する工程をさらに有する、請求項6または7のいずれかに記載の殺菌水の製造方法。
【請求項9】
前記殺菌水製造装置が、前記アノード、前記カソードおよび前記第三電極を収容する電解槽と、前記電解槽の底部に取り付けられたドレンとを有しており、剥離したスケールを洗浄水と一緒に前記ドレンから排出する工程をさらに有する、請求項6〜8のいずれか一項に記載の殺菌水の製造方法。
【請求項10】
前記カソードの表面に酸化チタン被膜が予め形成されている、請求項6〜9のいずれか一項に記載の殺菌水の製造方法。

【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【図3a】
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【図3b】
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【図3c】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−81448(P2012−81448A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−231618(P2010−231618)
【出願日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【出願人】(000145611)株式会社コガネイ (142)
【Fターム(参考)】