説明

殺菌用電子線照射装置

【課題】低エネルギーの電子線照射手段により効果的に滅菌処理が行えて、オゾンの発生がない殺菌用電子線照射装置を提供する。
【解決手段】被処理物となる筒状容器1を搬送する照射処理槽10と、この照射処理槽10の照射区画に電子線を照射する電子線発生手段40を設けている。照射処理槽10には、真空排気装置23を含む減圧手段13を備え、内部を所定の減圧状態にする。減圧手段13は、処理対象の被処理物に応じて10から80000Paに減圧するもので構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は殺菌用電子線照射装置に係り、特に食品等に使用する筒状容器や平板状部材の如き被処理物を、電子線で良好に殺菌処理するのに好適な殺菌用電子線照射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
最近では、飲料等の食品、医薬品や化粧品を充填のために、例えばプラスチック製の筒状容器を使用することが一般的になっている。これらの筒状容器は、内容物を充填する前に、内部を滅菌処理して無菌状態にし、その後内容物を充填して密封している。筒状容器の滅菌処理は、当初は薬剤を用いることが行われていた。しかし、筒状容器の薬剤処理は設備が大掛かりとなり、しかも後処理が必要なため、これに代えて電子線を使用し、高速で搬送する筒状容器の内外面を滅菌することが提案されてきている。
【0003】
一般的なPETボトルと呼ばれるプラスチック製の筒状容器を被処理物とした例で、内外面を滅菌処理する殺菌用電子線照射装置について説明する。特許文献1では、筒状容器の内外面を滅菌処理するため、搬送中に直立状態から横倒し状態に変え、電子線発生手段を設けた電子線の照射区域内を回転しながら移動させて行っている。また、特許文献2では、電子線の照射区域に電子線発生手段を縦長状に配置しておき、筒状容器を直立状態で自転させながら照射区域内に搬送し、電子線発生手段からの電子線で筒状容器の内外面を滅菌処理している。更に、特許文献3では、直立状態で照射区域内に筒状容器を搬送するとき、照射区域内に一つの電子線照射手段を設けおき、この電子線照射手段からの電子線を、交流磁場で容器の搬送方向に沿って走査し、電子線を放射状ノズルで細分化させ、複数個の筒状容器に順次電子線を照射して滅菌処理している。
【0004】
上記特許文献1の電子線照射装置のように、筒状容器の滅菌処理のために、筒状容器の搬送状態を変える装置では、横倒し機構や引起し機構が必要となる上、搬送状態を変更するため処理効率、つまり生産ラインに適用すると全体の生産効率が低下する。また、特許文献2の電子線照射装置は、生産効率の低下はないが、電子線発生手段の一個所の照射窓部分を通過するとき、電子線を側面から照射して筒状容器を滅菌処理するので、十分に滅菌するには搬送速度を遅くするか、高エネルギーの電子線発生手段を用いる必要がある。更に、特許文献3の電子線照射装置は、一つの電子線照射手段に多数の放射状ノズルを分岐して設ける必要があるので複雑な構造となるし、筒状容器の内部まで十分に電子線で照射して滅菌するには、上記と同様に搬送速度を落とす必要があり、生産ラインの効率を上げることができなくなる。
【0005】
また、牛乳やジュース類の如き飲料等の流体状食品を充填には、紙パックと呼ばれる紙製容器が多く用いられ、この成型用材料は供給装置から供給される平板状部材である。この種の被処理物となる平板状部材を、電子線で滅菌処理を行う例としては、特許文献4の電子線照射手段の電子線を用いて行う装置が知られている。この装置は、大気中の搬送路の一部に、被処理物となる平板状部材を挟むように二つの電子線照射手段を対向配置している。そして、各電子線照射手段から、100kV以下の電圧で加速する低エネルギーの電子線を、高速で移動する平板状部材に向けて照射し、平板状部材の両面を滅菌処理した後、成型工程の後工程側に搬送している。
【0006】
被処理物に対する滅菌処理を、上記した各例のように、搬送路に設ける電子線照射手段を用いて大気中で行う場合、ある程度以上のエネルギーを持つ電子線を用いるから、より低エネルギーの電子線照射手段を使用することができない欠点がある。また、大気中で使用する電子線照射手段は、この電子発生源から放出されるX線を遮蔽する放射線遮蔽材を取り付けねばならず、装置全体が大型化する恐れがある。
【0007】
更に、大気中で使用の電子線照射手段は、プラズマが発生しやすいから、このプラズマで大気中の酸素からオゾンが生成される。生成されたオゾンは、滅菌処理した被処理物に付着してしまい、被処理物はオゾン臭がすることから、食品用として不適となる。被処理物のオゾン臭の除去対策のため、電子線の滅菌処理工程後に、更に窒素ガスを吹き付ける等の除去工程を設ける必要があり、装置全体が経済的に製作できない問題がある。
【0008】
一方、特許文献5には、被処理物の表面改質や薄膜形成等に用いる電子線照射処理装置が提案されている。この装置は、チャンバー(処理室)に電子線管や真空ポンプを設け、真空ポンプで減圧するチャンバー内に被処理物を配置しておき、電子線管からチャンバー内に照射する電子線により被処理物を照射処理する。しかし、電力供給線を内部に配置する装置なので、電力供給線と対地電位のチャンバーとの間で異常プラズマが発生する。異常プラズマを抑制するには、パッシェンの法則他で知られている放電の圧力依存性を考慮し、チャンバー内の真空度を5Pa以下に維持、或いは特許文献5記載の如く交流電源からシールドトランスを介してチャンバーに電力を供給する必要がある。
【0009】
また、電子線照射手段からの電子線の飛程や発散度合いは、電子線の照射領域の雰囲気圧力や雰囲気ガスの種類に依存することは、例えば非特許文献1で知られている。この非特許文献1には、電子発散(プラズマ化)の実験結果において、上記の雰囲気圧力や雰囲気ガスの種類の依存性に関して、60kVの電圧で加速した電子線を使用し、空気及びヘリウムガスの2種類の雰囲気ガスで、雰囲気圧力を1.33Pa(10−1mmHg)から101325Pa(760mmHg)の範囲で変化させて行った実験事例が示されている。
【0010】
本発明者らは、上記した大気中や減圧する処理室内で、被処理物に電子線の照射処理を行うときの諸問題を考慮し、減圧下で行う新しい殺菌用電子線照射装置を提案している。この装置は、照射処理槽内の搬送路の特定範囲を照射区域とし、照射区域の搬送路に電子線発生手段を設け、照射処理槽内は減圧した状態にしておき、搬送されてくる被処理物に対し、電子線を照射して滅菌処理するものである。
【0011】
【特許文献1】特開平10−268100号公報
【特許文献2】特開平11−1212号公報
【特許文献3】特開2002−104334号公報
【特許文献4】特表2004−524895号公報
【特許文献5】特開2003−312499号公報
【非特許文献1】Yoshiaki Arata et.el 「Some Fundamental Properties of Nonvacuum Electron Beam」Transactionsof J.W.S September 1970 40頁から59頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、被処理物に対する電子線の照射を、減圧下で行う殺菌用電子線照射装置では、照射処理槽内の減圧の程度をどの位にすれば、オゾンの発生がなく、また照射処理槽内に電子線による良好な滅菌処理が行えるのかが明確でなかった。
【0013】
照射処理槽内の真空度を、例えば特許文献5の装置で、異常プラズマの発生を抑制できる5Pa以下に維持するには、内部を減圧する減圧手段を大型にせねばならず、殺菌用電子線照射装置全体が経済的に製作できない問題がある。
【0014】
また、殺菌用電子線照射装置の場合、照射処理槽の照射区域に設ける照射窓に、グラファイトシート等の薄膜を取り付けている。この場合、100kVの電圧で加速したエネルギーの電子線は、照射窓の薄膜を通過して照射処理槽に入射すると減衰し、70kVの電圧で加速したエネルギーのものと同等となってしまうことになる。これを考慮した電子線発生手段を使用するためには、電源装置の容量も大きくなって殺菌用電子線照射装置が大型化する欠点がある。
【0015】
本発明の目的は、適切な減圧状態を維持した照射処理槽を用いて、低エネルギーの電子線照射手段により効果的に滅菌処理が行え、しかもオゾンの発生もない殺菌用電子線照射装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の殺菌用電子線照射装置は、被処理物が移送される照射処理槽と、前記照射処理槽の照射区画に電子線を照射する電子線発生手段を備え、前記電子線発生手段からの電子線を被処理物に照射して滅菌処理する際に、前記照射処理槽にはこの内部を減圧する減圧手段を備え、前記減圧手段は10から80000Paに減圧するもので構成したことを特徴としている。
【0017】
好ましくは、前記被処理物は筒状容器であり、前記減圧手段は前記照射処理槽の内部を10から20000Paに減圧するものであることを特徴としている。
【0018】
また、好ましくは、前記被処理物は平板状部材であり、前記減圧手段は前記照射処理槽の内部を100から80000Paに減圧するものであることを特徴としている。
【発明の効果】
【0019】
本発明のように殺菌用電子線照射装置を構成すれば、電子線の照射区域内の内圧を減圧手段によって適切に管理し、被照射物を効果的に滅菌処理することができ、しかも減圧を維持した照射区域内でおこなうことから、オゾンの発生もない利点がある。また、照射区域内を適切な減圧状態に維持しているため、電子線は照射窓の通過した後でもその飛程を十分に確保できるから、100kV以下で加速する低エネルギーの電子線を発生する電子線照射手段を用いることができ、殺菌用電子線照射装置の全体を小型化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の殺菌用電子線照射装置は、被処理物が移送される照射処理槽と、この照射処理槽に設けて電子線を照射する電子線発生手段を有している。照射処理槽には、この内部を減圧する減圧手段を備えており、減圧手段は10から80000Paに減圧できるものを用いて構成する。
【実施例1】
【0021】
図1(a)に示す本発明を適用する殺菌用電子線照射装置は、PETボトルの如き筒状容器を被処理物としたものである。中央に配置する照射処理槽10の側面部に隣接して、前圧力調整槽20と後圧力調整槽30を配置して一体に連結している。これら各槽10、20、30内には、駆動機構(図示せず)により同期させて矢印で示すように回転させる回転搬送体11、21、31を回転可能に配置している。
【0022】
回転搬送体11、21、31の配置で、各槽10、20、30の外壁面との間に、筒状容器1を順に搬送する環状の搬送路を形成している。したがって、筒状容器1の生産ライン中には、前処理ラインに連なる前圧力調整槽20、次に照射処理槽10、最後に後処理ラインに連なる後圧力調整槽30が順に配置される状態になる。
【0023】
各回転搬送体11、21、31は、その外面に筒状容器1を保持して搬送する保持機構2を等間隔で複数を設けている。各保持機構2によって、筒状容器1は前処理ラインから後処理ラインまでの間で、各槽10、20、30内の回転搬送体11、21、31の相互間を、直立状態のままで順に円滑に受け渡しできる構成としている。
【0024】
照射処理槽10内は、内部を減圧できる耐圧の密封構造とし、この照射処理槽10に配管14を接続して真空排気装置13を含む減圧手段に連なるようにし、筒状容器1の周囲の雰囲気を、後述するような所定の減圧状態に維持している。しかも、照射処理槽10に設ける照射区域内で、電子線照射室となる搬送路に対応する部分に、電源に接続する電子線の電子線発生手段40を少なくとも一つを備えている。電子線発生手段40から、減圧状態の照射処理槽10内の搬送路に向けて電子線を照射し、搬送されてくる筒状容器1を連続して、順に滅菌処理をする。
【0025】
減圧雰囲気の照射処理槽10内で、筒状容器1の内外面に電子線を照射して滅菌処理するので、電子線発生手段40には後述するような低エネルギーのものを使用できる。照射処理槽10内が減圧状態にあると、電子線の減衰が大幅に軽減されるから、低エネルギーの電子線であっても、電子の飛程(飛行距離)が長くなり、しかも電子線の発散量が少なく、筒状容器1の内外面への電子線の照射が効果的に行える。
【0026】
照射処理槽10内の減圧状態を維持可能にし、電子線の照射を良好に行えるようにするため、筒状容器1の搬入側である前処理ライン側及び搬出側である後処理ラインに連なる前圧力調整槽20と後圧力調整槽30は、内部に配置する回転搬送体21、31構造を工夫している。回転搬送体21、31は、それぞれ各保持機構2間を区分する隔壁3を突設し、回転搬送体21、31の回転移動時に、各保持機構2の両側の隔壁3と槽壁面との間で、複数の小区画22、32が形成できる構造としている。
【0027】
そして、前圧力調整槽20側では、筒状容器1を前工程ラインから取り込んだ位置から照射処理槽10に移動する範囲に存在する複数の小区画22を減圧するため、壁面に配管24を接続してそれぞれ真空排気装置23Aを含む減圧手段23に連なる構造としている。これにより、筒状容器1を前工程ラインより前圧力調整槽20に搬入してから、照射処理槽10までの範囲に存在する小区画22を、大気圧から所望の減圧の状態までの圧力調整範囲に管理している。
【0028】
また、後圧力調整槽30側では、筒状容器1を照射処理槽10から後工程ラインの位置に移動する範囲に形成される小区画32を減圧するため、上記と同様に壁面に配管34を接続してそれぞれ真空排気装置33Aを含む減圧手段23に連なる構造としている。このため、照射処理槽10から後圧力調整槽30の後工程ライン側には、筒状容器1が搬出される範囲の小区画32を、所望の減圧の状態から大気圧までの状態となる圧力調整範囲に管理している。
【0029】
小区画22、32を形成する各隔壁3は、図1(b)に示すように各槽20、30の外壁との間に微小な間隙Gを有するように設けている。隔壁3は、照射処理槽10から前圧力調整槽20や後圧力調整槽30の大気開放側の各範囲に、複数個存在することになるから、ラビリンスシール構造の働きと同様なる。このため、照射処理槽10から大気圧の外部までの流路抵抗が大きくなるので、特別にシール等を使用する必要もなく、照射処理槽10の減圧状態を維持することができる。
【0030】
この滅菌用電子線照射装置では、筒状容器1は前工程ラインからの直立状態のまま各前圧力調整槽20に送り込まれ、順に前圧力調整槽20から所定の減圧状態とした照射処理槽10を経て、後圧力調整槽30から後工程ラインに搬出される。筒状容器1を搬送する照射処理槽10部分の所定範囲は、照射区域として電子線発生手段40を配置している。このため、照射処理槽10内を移動しながら自転する筒状容器1の内外面は、薄膜を設けた照射窓を通過してきた電子線により、減圧雰囲気内で照射されて滅菌処理される。したがって、飲料等の生産ラインで、直立状態のまま高速で搬送される筒状容器1は、低エネルギーの電子線発生手段40を使用して、減圧下で電子線による筒状容器1の滅菌処理を効果的に行い、しかもオゾンの発生も抑制することができる。
【0031】
本発明では減圧手段による照射処理槽10内の減圧の程度は、照射窓を通過してきた低エネルギーの電子線が、筒状容器1の内外面を照射可能な飛程が、十分に確保できる内圧に維持する。被処理物が例えばPETボトルや紙製容器等の長さがあって、電子線を内部まで照射する必要のある筒状容器1の場合、照射処理槽10内は10から20000Paに減圧し、電子線の飛程を確保できるようにする。
【0032】
100kVの電圧で加速した低エネルギーの電子線は、照射窓の薄膜を通過するとき減衰してしまい、通過後は70kV相当となってしまい、このときの電子線の飛程は、大気中で5cm程である。電子線の飛程は、照射区画の減圧値に反比例して長くなり、発散が少なくなるから、照射区域が大気圧の約1/5の20000Paであると飛程は5倍の25cm程に、また大気圧の約1/10の1000Paであると10倍の50cm程にもなって発散が少なくなる。このため、照射処理槽10内の減圧の程度を適宜選択することにより、処理対象の深さの異なる筒状容器に対して、電子線を一方向からの照射であっても滅菌処理が確実に行える。
【0033】
また、照射処理槽10内の所定の減圧下にあると気体分子が少ないため、磁石を使用する磁場レンズ等の手段を設ければ、飛程の長くなった電子線は、収束や発散や偏向の制御ができるから、筒状容器の形状に応じた電子線照射を行わせることができる。
【実施例2】
【0034】
図2に示す本発明を適用する殺菌用電子線照射装置は、平板状部材を被処理物とした殺菌用電子線照射装置の例である。この図2は、被処理物となる平板状部材を用いる紙パックの製造工程中の一部で、搬送路50はステンレス鋼材等の金属板を用いて、平板状部材のシートを取り囲む中空箱状に形成し、内部を大気と遮断できる構造としている。この中空箱状の搬送路50内を、供給装置(図示せず)からの平板状部材が高速で搬送される。
【0035】
搬送路50は、その一部に電子線の照射区画51を設け、照射区画51には排気ポンプP等を有する排気系統57で真空排気装置等の減圧手段56と接続しており、これによって照射区画51内を大気圧より低く減圧された状態にしている。
【0036】
また、照射区画51に隣接する平板状部材61の搬入側及び搬出側の搬送路50には、それぞれ例えば上下の隔壁73とローラー74で区画する少なくとも1つの小区画52を形成している。各小区画52も排気ポンプP等を有する排気系統58で減圧手段56と接続している。電子線の照射区画51に隣接して少なくとも1つの小区画52を設けると、ラビリンスシール構造の働きと同様に、大気圧の外部までの流路抵抗が大きくなるので、特別にシール等を使用することなく区画できる。このため、平板状部材61の搬入側及び搬出側にそれぞれ設ける少なくとも1つの小区画52の働きで差動排気構成になり、照射区画51は効果的に所定圧力の減圧状態を効果的に維持することができる。
【0037】
図2に示す装置の例では、平板状部材61の搬入側及び搬出側にそれぞれ3つの小区画52設けたものである。このため、平板状部材61の搬入側の小区画52は、照射区画51に近づくしたがって、大気圧から次第に所望の圧力の減圧状態となる圧力調整範囲になり、逆に平板状部材61の搬出側の小区画52は、照射区画51から離れるにしたがって、所望の圧力の減圧状態から次第に大気圧の圧力調整範囲になる。
【0038】
排気系統57と排気系統58を、減圧手段56と接続して強制排気することにより、照射区画51及び平板状部材61の搬入側及び搬出側の各小区画52を大気圧より低くし、特に照射区画51内は各小区画52のために、所定の減圧状態を維持することができる。照射区画51内は、後述する如く平板状部材61に対する電子線の照射を良好にするため、適切な減圧値を維持できるように構成する。
【0039】
搬送路50中の照射区画51の両側には、平板状部材61を挟んで対向するように二つの電子線照射手段54を配置し、電源装置(図示せず)と接続している。これら電子線照射手段54の電子線発生源55からの電子線を、破線矢印で示す如くグラファイトシート等の薄膜を設ける照射窓54Aから照射する。電子線は、減圧状態を維持した照射区画51内の平板状部材61に向けて照射されて、平板状部材61の両面を滅菌処理する。
【0040】
搬送路50の照射区画51が減圧状態に維持されていると、電子線照射手段54からの電子線の減衰が大幅に軽減されるので、低い加速電圧で加速した低エネルギーの電子線で平板状部材61の両面に照射し、オゾンの発生も抑制して効果的に照射滅菌することができる。
【0041】
また、平板状部材61の搬入側や搬出側、特に搬出側の大気圧に近い側となる小区画52に隣接させて、ガス区画53を設けている。このガス区画53は、例えば隔壁73とローラー74で区画するものであり、このガス区画53に送風ポンプFPを有する供給系統72で、適切なフィルタを備える清浄空気発生装置等の清浄空気供給手段71と接続し、ガス区画53内を大気圧と同程度かそれ以上の圧力となるようにしている。このようなガス区画53を設けると、滅菌処理した平板状部材61が送り出される搬出側から、雑菌が圧力調整範囲の小区画52側に進入することがなくなるから、滅菌処理後の平板状部材61に雑菌が付着する恐れもなくなる。
【0042】
減圧手段56は、図2の例では搬送路50中の照射区画51と平板状部材61の搬入側及び搬出側に設ける各小区画52の排気系統57、58の全てを接続し、1台で排気を行っている。この減圧手段56は、小区画52の微小間隙から外部に漏れる量や、1台当りの排気容量を考慮して使用し、照射区画51と搬入側及び搬出側の複数の小区画52とは、それぞれに別の減圧手段を備えて接続してもよく、また適宜共用できる。
【0043】
本発明における搬送路50中の照射区画51は、減圧手段56を使用して飛程が短くて広がりのある電子線が得られる内圧に維持する。平板状部材61や皿状容器の如き被処理物の場合、上記した実施例1と同様な低エネルギーの電子線照射手段54を用いるとき、照射区画51内は、100から80000Paに減圧できる減圧手段56を使用し、所望の飛程と均一な広がり(発散)のある電子線を確保できるようにする。
【0044】
電子線の飛程は、照射区画の減圧値に反比例するから、実施例1と同様に大気圧中で5cmの飛程のときは、大気圧の約4/5の80000Paであるときの飛程は、6.25cm程に留まった広がりのある電子線となるから、被照射物の幅広い面を均一に照射するのに好適となるし、照射区画に設ける照射窓を少なくできる利点がある。
【0045】
本発明の殺菌用電子線照射装置では、減圧手段により照射区域内を所望の減圧値に維持するものであるが、照射区域内の減圧の程度は、滅菌処理対象の被照射物の種類に応じて、電子線の飛程及び均一な広がりを考慮して定めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明を適用する一実施例の殺菌用電子線照射装置の原理を示す概略図である。
【図2】本発明を適用する実施例の殺菌用電子線照射装置を示す概略図である。
【符号の説明】
【0047】
1…筒状容器、10…照射処理槽、11…回転搬送体、12…回転軸、13、23、33、56…減圧手段、40、54…電子線発生手段、50…搬送路、51…照射区画、61…平板状部材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理物が移送される照射処理槽と、前記照射処理槽の照射区画に電子線を照射する電子線発生手段を備え、前記電子線発生手段からの電子線を被処理物に照射して滅菌処理する殺菌用電子線照射装置であって、前記照射処理槽にはこの内部を減圧する減圧手段を備え、前記減圧手段は10から80000Paに減圧するもので構成したことを特徴とする殺菌用電子線照射装置。
【請求項2】
請求項1において、前記被処理物は筒状容器であり、前記減圧手段は前記照射処理槽の内部を10から20000Paに減圧するものであることを特徴とする殺菌用電子線照射装置。
【請求項3】
請求項1において、前記被処理物は平板状部材であり、前記減圧手段は前記照射処理槽の内部を100から80000Paに減圧するものであることを特徴とする殺菌用電子線照射装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−237452(P2008−237452A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−80800(P2007−80800)
【出願日】平成19年3月27日(2007.3.27)
【出願人】(501383635)株式会社日本AEパワーシステムズ (168)
【Fターム(参考)】