説明

毛髪化粧料用基材及び毛髪化粧料

【課題】優れた整髪力を発揮すると共に柔軟な被膜形成能を有し、毛髪のべた付き、ごわつき、引っ掛かり、フレーキングの発生を防止し、且つ透明性が高く外観に優れた毛髪化粧料用基剤を提供する。
【解決手段】下記成分Aの共重合体、下記成分B及び下記成分Cを含有し、下記成分A乃至Cを含む混合液中で成分Aを溶液重合させることにより得られる。
A.分子内にカルボキシル基を一以上有するエチレン性不飽和単量体(a)を8〜40重量%含むエチレン性不飽和単量体成分
B.下記一般式(1)で示される、数平均分子量が100〜2000の化合物
C.親水性溶媒又は水と親水性溶媒との混合溶媒

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、毛髪化粧料用基剤及びそれを用いた毛髪化粧料に関し、更に詳しくは、特定の高分子界面活性剤の存在下にエチレン性不飽和単量体を共重合させて得られる共重合体を含む毛髪化粧料用基材及びそれを用いた毛髪化粧料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ヘアセットのための整髪剤として、従来、樹脂成分からなるものがあるが、このような樹脂成分を用いると整髪力に優れるかわりに風合いが悪くなるので、毛髪のごわつきが生じたり、櫛や手指を通した際に引っ掛かり感が生じたりフレーキングが発生したりしやすい等の欠点がみられた。そこで、樹脂にシリコーン化合物やエステル系オイルやワックスを添加することでこれらの問題の解消が図られてきたが、オイル成分のにじみ出しにより頭髪がべた付いたりして、樹脂本来のセット力を低下させてしまうという欠点があった。
【0003】
そこで、エチレン性不飽和単量体を特定のシリコーン化合物や特定のポリオキシアルキレン誘導体等の存在下に重合させて整髪用樹脂を製造することが提案されている(特許文献1〜3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−39835号公報
【特許文献2】特開2003−8145号公報
【特許文献3】特開2003−48817号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のような従来技術においても、毛髪化粧料により毛髪に形成される被膜には十分な柔軟性を付与することは困難であり、また毛髪化粧料の外観の透明性が悪く透明容器入りの化粧料には使用できないなど使用範囲が限定されるものであった。
【0006】
本発明は上記の点に鑑みて為されたものであり、優れた整髪力を発揮すると共に柔軟な被膜形成能を有して毛髪のべた付き、ごわつき、引っ掛かり、フレーキングの発生を防止し、且つ透明性が高く外観に優れた毛髪化粧料用基剤及びこれを用いた毛髪化粧料を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る毛髪化粧料用基剤は、下記成分Aの共重合体、下記成分B及び下記成分Cを含有し、下記成分A乃至Cを含む混合液中で成分Aを溶液重合させることにより得られるものであることを特徴とするものである。
A.分子内にカルボキシル基を一以上有するエチレン性不飽和単量体(a)を8〜40重量%含むエチレン性不飽和単量体成分
B.下記一般式(1)で示される化合物
C.親水性溶媒又は水と親水性溶媒との混合溶媒
【0008】
【化1】

上記成分Bは、上記一般式(1)で示される化合物として、特にポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブチルエーテルを含有することが好ましい。
【0009】
また、上記成分Bが、上記一般式(1)で示される化合物を含有すると共に、特に前記化合物の数平均分子量が100〜2000であることも好ましい。
【0010】
また、上記のような毛髪化粧料用基剤においては、成分Aの共重合体が、塩基性化合物にて中和されたものであるようにすることも好ましい。
【0011】
本発明に係る毛髪化粧料は、上記のような毛髪化粧料用基剤を含有することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、毛髪化粧料用基剤に、優れた整髪力を付与すると共に柔軟な被膜形成能を有して毛髪のべた付き、ごわつき、引っ掛かり、フレーキングの発生を防止し、且つ透明性が高く外観に優れたものとすることができるものである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明をその実施をするための最良の形態に基づいて説明する。
【0014】
A.エチレン性不飽和単量体成分(成分A)
この成分Aは、重合性のエチレン性不飽和単量体からなるものであり、且つ分子内にカルボキシル基を一以上有するエチレン性不飽和単量体(a)を8〜40重量%の範囲で含むものである。
【0015】
上記単量体(a)は、成分Aによる共重合体中にカルボキシル基を導入し、またこの共重合体を後述するように塩基性化合物で中和して用いる場合には、その被膜に水溶性を付与して洗髪性を向上させるために配合される。また、洗髪性を必要としない場合でも、被膜に適度な硬さを与えるために配合される。このように被膜に適度な硬さを与えるためには、上記のように成分Aは単量体(a)を8〜40重量%の範囲で含むことが必要とされるのである。
【0016】
上記単量体(a)の具体例としては、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、クロトン酸等が挙げられ、これらの単量体はそれぞれ単独で又は併せて用いられる。
【0017】
一方、成分A中における、上記単量体(a)以外の重合性エチレン性不飽和単量体(b)は、主として樹脂の親油性、柔軟性に関与し、形成される被膜の硬さ、柔軟性、耐湿性及び毛髪への密着性を調節する機能を有する。
【0018】
上記単量体(b)としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ウンデシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸ミリスチル、(メタ)アクリル酸ペンタデシル、(メタ)アクリル酸パルミチル、(メタ)アクリル酸ヘプタデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸イソステアリル、(メタ)アクリル酸オレイル等の直鎖若しくは分岐鎖又は脂環式の炭化水素基を有するアルコールの(メタ)アクリル酸エステル等が例示される。
【0019】
また、単量体(b)としては、上記の炭化水素系モノアルコールの(メタ)アクリル酸エステル以外のエチレン性不飽和単量体であって、上記単量体(a)と共重合可能なものでもよく、例えば、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸グリセリル、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル、(メタ)アクリル酸メトキシジエチレングリコール、(メタ)アクリル酸メトキシテトラエチレングリコール、(メタ)アクリル酸エトキシジエチレングリコール、(メタ)アクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、N−オクチルアクリルアミド、N−t−オクチルアクリルアミド、N−t−ブチルアクリルアミド、アクリロニトリル、酢酸ビニル、スチレン、ビニルピロリドン等を用いることもできる。
【0020】
上記例示したような単量体(b)は、一種単独で用いるほか、二種以上を併用しても良い。
【0021】
ここで、上記単量体(b)のうち、特に(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ウンデシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸ミリスチル、(メタ)アクリル酸ペンタデシル、(メタ)アクリル酸パルミチル、(メタ)アクリル酸ヘプタデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸イソステアリル、(メタ)アクリル酸オレイル等の直鎖若しくは分岐鎖又は脂環式の炭化水素基を有するアルコールの(メタ)アクリル酸エステル、N−オクチルアクリルアミド、N−t−オクチルアクリルアミド、N−t−ブチルアクリルアミド等を用いた場合には、得られる共重合体のLPG(液化石油ガス)に対する溶解性が良くなる。このため、毛髪化粧料としてLPGを用いたエアゾール製品を調製する場合に好適に使用される。
【0022】
B.下記一般式(1)で示される化合物と、下記一般式(2)及び(3)で示されるリン酸エステル化合物とから選ばれる、少なくとも一種の化合物(成分B)
【0023】
【化2】

この成分Bは、本発明に係る毛髪化粧料用基剤により形成される被膜に柔軟性、低粘着性及び平滑性を与え、また被膜の乾燥過程における平滑性と低粘着性をも付与するものである。
【0024】
上記一般式(1)で示される化合物としては、特にポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブチルエーテルを用いることが好ましく、この場合、樹脂との相溶性がよく透明性の良いもの、低タックで柔軟性に優れたものが得られる。
【0025】
また、上記リン酸エステル化合物としては、例えば互応化学工業株式会社製の「パーロンEP−70」、「パーロンEP−71」、「パーロンEP−77」、「ゲラゾールE−50」、東邦化学工業株式会社製の「フォスファノールRS−410」、「RS−610」、「RS−710」、「RD−510Y」、「RB−410」、「RL−210」、「RA−600」、「ML−220」等を挙げることができる。
【0026】
特に上記リン酸エステル化合物として、互応化学工業株式会社製の「ゲラゾールE−50」等のようなポリオキシエチレンオレイルエーテルリン酸を用いると、毛髪化粧料用基剤にて被膜を形成する場合に、その被膜の乾燥過程と乾燥後において平滑性と柔軟性が特に優れたものとなる。
【0027】
成分Bは、一般式(1)で示される化合物のみを含有するものであっても良く、また上記リン酸エステル化合物のみを含有するものでも良いが、好ましくは両者を共に含有するものを用いるものであり、この場合、単独で用いた場合より柔軟・平滑で耐湿性が良好なものが得られる。両者を併用する場合は、リン酸エステル化合物の割合が成分B全量に対して1〜99重量%の割合、特に20〜80重量%の割合で含有させると、毛髪化粧料用基剤にて形成される被膜に特に優れた低粘着性、平滑性、風合いを付与することができ、また製品に高い経時安定性を付与することもできる。
【0028】
また、上記一般式(1)で示される化合物は、数平均分子量が100〜2000の範囲であることが好ましくは、より好ましくは200〜1000の範囲のものを用いるものであり、このようにすると、平滑性と柔軟性のバランスが優れたものとなり、また特に成分Bとして一般式(1)で示される化合物のみを含むものを用いる場合でも、平滑性と柔軟性のバランスの良いものが得られる。
【0029】
なお、上記成分Bのほかに、本発明の効果を阻害しない範囲で、他の高分子界面活性剤、非イオン性界面活性剤、ベタイン型界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、シリコーン化合物、エステル系オイル等が併用されても良い。
【0030】
C.親水性溶媒又は水と親水性溶媒との混合溶媒(C成分)
上記成分Aの溶液重合による共重合には、親水性溶媒又は水と親水性溶媒との混合溶媒Cが介在する。
【0031】
親水性溶媒とは、水に対する溶解度が25℃において水100gに対して10g以上である有機溶媒を意味する。このような親水性溶媒の具体例としては、例えばメタノール、エタノール、2−プロパノール、エチレングリコール及びグリセリン等の炭素数が1〜4の脂肪族1〜4価アルコール、並びにエチルセロソルブ及びブチルセロソルブ等のグリコールエーテル、並びにジオキサン、ジメチルホルムアミド等が挙げられ、これらを単独で又は併せて用いることができる。なお、本発明の毛髪化粧料用基剤は、目粘膜等、広く人体に関わるので、人体に適用されることを考慮すれば、親水性溶媒としてエタノール又は2−プロパノールを単独に又は併せて用い、必要に応じてこれらに水を併用して溶媒Cとすることが好ましい。
【0032】
また、この成分Cとしては、特に上記成分A及び成分Bを共に溶解させることができるものを用いることが好ましい。この場合、重合反応系がより均一になることで重合反応が安定化し安全性の改善された反応となる。具体的には、エタノールや2−プロパノールが望ましい。
【0033】
上記C成分の配合量は特に限定されるものではないが、共重合工程に際しては、上記成分A全量に対して50〜150重量%使用されることが好ましく、この範囲で安定な共重合状態及び高い重合率が得られる。なお、共重合後に中和や希釈等を行う場合に溶媒を使用することもできるが、この場合の溶媒の配合量についても特に制限されない。
【0034】
上記C成分は、本毛髪化粧料用基剤が水性化粧料に使用される場合は、共重合工程終了後の中和工程や希釈工程でさらに加えられても良い。
【0035】
本発明に係る毛髪化粧料用基剤は、上記成分C中において上記成分Bの存在下で成分Aを溶液重合させることにより得られるものであり、このため本発明に係る毛髪化粧料用基剤は、成分Aの共重合体、成分B、及び成分Cを含有させることとなる。
【0036】
成分Aの共重合は、公知の溶液重合方法を用いることができるが、例えば、単量体(a)と他の単量体(b)からなる上記成分Aを、成分Bを含む溶媒Cと共に反応容器中に投入し、攪拌混合した後、上記ラジカル重合開始剤を添加し、窒素気流下に撹拌しながら加熱する、いわゆる一括重合法、上記成分Aを、成分Bを含む溶媒Cとラジカル重合開始剤の入った反応容器中に滴下し、窒素気流下に撹拌しながら加熱する、いわゆる滴下重合法、その他、成分Aの分割投入による重合方法等が挙げられる。
【0037】
上記ラジカル重合開始剤としては、溶液重合法に用いられるものであれば特に制限されない。その具体例としては、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル及び過酸化水素等に代表される過酸化物、並びに過硫酸アンモニウム及び過硫酸カリウム等に代表される過硫酸塩、並びに2,2'−アゾビスイソブチロニトリル及び2,2'−アゾビスイソバレロニトリル等に代表されるアゾ系化合物等の公知のものが挙げられ、その何れを用いても良い。
【0038】
上記ラジカル重合開始剤の使用量は特に制限されるものではないが、上記成分Aの全量に対して0.01〜10重量%の範囲であることが好ましい。この範囲の使用量で、高い重合率が得られると共に最終生成物の性能を高く保つことができる。
【0039】
本発明では、上記のように成分C中で成分Bの存在下、成分Aを共重合させることに大きな特徴を有する。すなわち、成分Aを共重合した後に成分Bを加えるのではなく、成分Bの存在下で成分Aを共重合させることで、毛髪化粧料用基剤にて形成される被膜に十分な柔軟性を付与することができ、また、毛髪化粧料用基剤の透明も高くなって外観が向上するものである。その理由は明確なものではないが、本発明では前記工程を経て成分Aを共重合させることにより、成分Aの共重合体に対して成分Bが相溶して成分Bの分散性が著しく向上したことがその要因の一つであると推察される。
【0040】
上述のようにして得られる組成物は、そのままでも毛髪化粧料用基剤として好適に使用できるが、組成物中の成分Aの共重合体におけるカルボキシル基を塩基性化合物で中和することにより、毛髪化粧料用基剤に特に良好な洗髪性を付与することができる。
【0041】
塩基性化合物としては、適宜の塩基性有機化合物や塩基性無機化合物を用いることができる。塩基性有機化合物の具体例としては、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モルホリン、トリイソプロパノールアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、2−アミノ−2−エチル−1,3−プロパンジオール、2−アミノ−2−メチル−1,3−プロパンジオール及びトリスヒドロキシエチルアミノメタン等が挙げられる。また、塩基性無機化合物の具体例としては、アンモニア、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウム等が挙げられる。これらの塩基性化合物Eは、一種単独で用い、或いは二種以上を併用できる。
【0042】
ここで、毛髪化粧料用基剤に特に適度の洗髪性を付与したい場合には、好ましくは成分Aによる共重合体中のカルボキシル基のうち30〜100%のものが中和されるように塩基性化合物の使用量を調整するものであり、特に好ましくは、前記共重合体中のカルボキシル基の40〜75%が前記塩基性化合物で中和されるように調整され、この範囲で、洗髪時に毛髪化粧料用基材を容易に洗浄除去することができ、且つ毛髪化粧料用基材にて形成される被膜の水に対する耐性が低下しすぎないようにして適度な耐湿性を付与すると共に被膜の硬度が過度に高く脆くなることを防止し、毛髪のセット力を長持ちさせることができる。
【0043】
また、使用後に毛髪化粧料を洗い落とさない場合で耐水性の必要な用途に本毛髪化粧料用基剤を使用するときは、必ずしも中和する必要はない。但し、この場合においても中和して用いることは可能であり、このとき中和されるカルボキシル基は共重合体中のカルボキシル基の50%以下となるようにすることが好ましく、特に好ましくは0.01〜30%である。
【0044】
また、毛髪化粧料用基剤を用いた毛髪化粧料が洗髪性を要求される場合には、成分Aを共重合させる前に、成分A中の単量体(a)の一部を予め塩基性化合物で中和しておいても良い。この場合も塩基性化合物は、上記のように成分Aによる共重合体中のカルボキシル基のうち好ましくは30〜100%のもの、特に望ましくは40〜75%のものが中和されるように配合するものである。但し、単量体(a)を中和してから重合すると重合度があがりにくく、耐湿性の低下が見られることが多いため、耐湿性を高い水準で維持するためには、成分Aの共重合後に中和を行うことが好ましい。
【0045】
上記の塩基性化合物による中和の効果は、成分A中における単量体(a)の含有量を8〜40重量%とすることと相まって達成されるものであり、特に単量体(a)の含有量が15〜30重量%であるとき、洗髪性と耐湿性や被膜の硬さのバランスがとれ、高湿下でのセット力を保ちつつ、洗髪時には容易に洗い落とすことが可能になる。
【0046】
また、本発明に係る毛髪化粧料用基剤には、上記成分の他、紫外線防止剤、酸化防止剤、毛髪栄養剤等の添加剤を含ませることも可能である。
【0047】
また、成分Aの共重合を行うにあたっては、成分C中で成分Bの存在下において成分Aを共重合するにあたり、成分C中に非反応性のシリコーンを添加して、この非反応性のシリコーンの存在下で成分Aの共重合を行うようにしても良い。ここで、シリコ−ンを重合後に加える場合には、べたつきやまとまり感の低下が起こる場合があるが、このように非反応性のシリコーンを添加した状態で重合を行うと、前記のような問題の発生を抑制しつつ、シリコーンの添加により平滑性を付与することが可能である。
【0048】
上記非反応性のシリコーンとしては、特に制限されないが、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、トリメチルシロキシケイ酸、ポリエーテル変性シリコーン、フッ素変性シリコーン、メチルスチリル変性シリコーン、アルキル変性シリコーン、高級脂肪酸エステル変性シリコーン、高級アルコキシ変性シリコーン等を用いることが好ましい。また、非反応性のシリコーンは少量配合するだけで大きな効果が得られるが、特に成分Aのモノマーの総重量に対して0.1〜10重量%の割合で配合することが好ましい。
【0049】
このようにして得られる本発明に係る毛髪化粧料用基剤は、親水性溶媒、又は水と親水性溶媒との混合溶媒に溶解すると共に毛髪化粧料の各種添加剤を加えて、ヘアスプレー、ヘアクリーム、ヘアワックス、ヘアローション、ノンガスエアゾール(ヘアミスト)、ヘアゲル、ヘアスタイリングフォーム(ヘアムース)、カーラーウォーター等の整髪料の一成分としても用いることができる。また、前記毛髪化粧料用基剤は、頭髪用着色固着剤として頭髪着色料を混合し、カラースプレー、カラーフォーム、マスカラ等とすることもできる。また、ヘアートリートメント剤、ヘアコンディショナ、ヘアシャンプー、ヘアリンス等に用いることができる。
【0050】
特に、本発明に係る毛髪化粧料用基剤をエアゾール用整髪剤として用いる場合には、上記毛髪化粧料用基剤を例えば上記成分Cとして用いる親水性溶媒又は水及び親水性溶媒に溶解等したものを、LPGやジメチルエーテル等の噴射剤及びその他添加剤等と共にエアゾール容器内に加圧充填し、封入すれば良い。この場合、エアゾール容器内に充填される各種成分の配合割合は、通常、それぞれの目的、用途等に応じて適宜調整することが望ましい。
【実施例】
【0051】
以下に、本発明を実施例及びそれを用いた処方例によって比較例及びそれを用いた比較処方例と対比させながら具体的に説明するが、本発明はそれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下に使用される部及び%は、特に示さない限り全て重量基準である。また、下記各表中に示されている配合量は、全て重量部で表したものである。
【0052】
〔毛髪化粧料用基剤の製造〕
〔実施例1〜4、参考例5〜8〕
各実施例及び参考例において、原料として表1に示すものを用い、まず還流冷却器、温度計、窒素置換用管及び撹拌機を取り付けた1リットル四つ口フラスコに、表1における塩基性化合物を除く成分を加え、窒素気流下、還流状態(約80℃)で8時間共重合を行った。前記共重合の終了後、50℃にて塩基性化合物を同量のエタノールで希釈して加えて中和し、固形分40%となるようにエタノールで希釈し、毛髪化粧料用基剤を得た。
【0053】
〔参考例9〕
原料として表1に示すものを用い、実施例1〜4、参考例5〜8と同様にして毛髪化粧料用基剤を得た。但し、表1に示すように塩基性化合物は用いず、塩基性化合物による共重合体の中和は行わなかった。
【0054】
〔比較例1,2〕
原料として表1に示すものを用い、実施例1〜4、参考例5〜8と同様にして毛髪化粧料用基剤を得た。但し、表1に示すように、高分子界面活性剤として、成分Bに該当しない他の化合物を用いた。
【0055】
〔比較例3〕
原料として表1に示すものを用い、実施例1〜4、参考例5〜8と同様にして毛髪化粧料用基剤を得た。但し、成分Bは成分Aの共重合時には配合せず、共重合終了後に加えるようにした。
【0056】
〔比較例6〕
原料として表1に示すものを用い、実施例1〜4、参考例5〜8と同様にして毛髪化粧料用基剤を得た。但し、成分Bを含め高分子界面活性剤は配合せず、また塩基性化合物による中和は行わなかった。
【0057】
〔カラーペーストの調製〕
参考例9及び比較例6について、毛髪化粧料用基剤とカーボンブラックとを、前者の固形分対後者の重量比が65:35となるように混合し、三段ロールを用いて混練した後、固形分が30重量%になるように調整して、カラースプレー用のカラーペーストを調製した。
【0058】
【表1】

上記表1中に示された配合量は全て重量部で表されている。
【0059】
〔毛髪化粧料用基剤の性質の経時的変化の評価〕
上記各実施例及び比較例で得られた各毛髪化粧料用基剤或いはこれと上記カラーペーストを用い、ヘアースプレー、ヘアスタイリングミスト、ヘアスタイリングフォーム、カラースプレーの各種剤型の毛髪化粧料に処方し、それらの性能を評価した。各種剤型の毛髪化粧料の処方及び性能の評価を表2〜10に示す。各毛髪化粧料の性能の評価方法は、以下に示す通りである。各処方例及び比較処方例における配合組成については、特に示されない限り全て重量基準であり、また表2〜10では使用した各基剤中の固形分濃度を括弧内に示した。尚、特に定めのない場合の判定基準は次の通りである。
【0060】
◎…非常に良い。○…良い。△…やや悪い。×…悪い。
【0061】
(イ)カールリテンション法によるセット保持力(耐湿性)評価
長さ22cm、重量2gの毛髪束に、試験処方を0.4g塗布し、櫛で全体に広げた。この毛髪束を直径2.2cmのカーラーに巻き、温度20℃にて、20時間乾燥させた。この毛髪束を螺旋状に解いて垂直に建てた目盛りつきのガラス板に取り付け、30℃、95%R.H.に調湿した恒温恒湿器中に放置し、10時間経過後における毛髪の先端位置を記録し、次式に基づいてカールリテンションを算出した。数値が大きいほどセット力があることを示す。
カールリテンション(%)={(L−Lt)/(L−L0)}×100
L:試験毛髪を伸ばしたときの長さ
t:恒温恒湿器中に放置し、10時間経過後における試験毛髪の先端位置
0:恒温恒湿器に入れる前における試験毛髪の先端位置
(ロ)乾燥過程の平滑性
長さ22cm、重量2gの乾燥した毛髪束に試験処方を噴霧又は塗布し、その直後から乾燥するまでの間にこの毛髪束を社内モニターが手で解いたときの通過のし易さを判定し、滑りが良好なものが良く、タックやきしみがあるものが悪いとして評価した。
【0062】
(ハ)乾燥後の平滑性
長さ22cm、重量2gの乾燥した毛髪束に試験処方を噴霧又は塗布し、これを乾燥した後に、この毛髪束を社内モニターが手で解いたときの通過のし易さを判定し、滑りが良好なものが良く、タックやきしみがあるものが悪いとして評価した。
【0063】
(ニ)洗髪感
長さ22cm、重量2gの乾燥した毛髪束に試験処方を噴霧又は塗布し、これを乾燥した後に洗髪し、この洗髪すすぎ時に毛髪束を社内モニターが手で解いたときの通過のし易さを判定し、ぬめり感があるものが良く、引っ掛かりやきしみがあるものが悪いとして評価した。
【0064】
(ホ)べた付き感
乾燥した毛髪束を用意し、試験処方を噴霧又は塗布して、乾燥後の毛髪束を手の平で握りしめた時のベタ付き感を評価した。
◎…手指で触ると、べた付きがなく、さらさらしている。
○…手指で触ると、わずかにべた付きがある。
△…手指で触ると、べた付きがある。
×…手指で触ると、べた付いて手指から離れがたくなる。
【0065】
(ヘ)フレーキング
セット保持力評価の場合と同様に作製した毛髪束をくしで解いたときに脱落した樹脂の量を次のように評価した。
◎…脱落がなかった。
○…やや脱落があった。
△…脱落が多い。
×…粉ふき状態となった。
【0066】
(ト)風合
セット保持力評価の場合と同様に作製した毛髪に手で触れたときの感触を、社内モニターを使った官能試験により次のように評価し、さらに1日経過後に同様の試験をしたときの経時的変化も評価した。評価基準を下記に示す。
◎…なめらかで且つドライタッチであった。
○…多少のごわ付き感はあるが満足のいくものであった。
△…ごわ付くか或いは粘着した。
×…かなりごわ付くか或いは強く粘着した。
【0067】
(チ)洗髪性
上記試験処方を試験用毛髪束に均一に噴霧し、室温で一晩静置して乾燥し、40℃の2重量%ポリオキシエチレン(3EO)ラウリルエーテル硫酸ナトリウム液に10分間浸漬した後、指で軽く擦り、これを乾燥した後の状態を観察した。評価基準を下記に示す。
◎…容易に除去可能であった。
○…僅かに白い粉状のものが残った。
△…白い粉状のものが残った。
×…被膜が除去されていなかった。
【0068】
(リ)処方外観
上記試験処方を、室温で12時間静置した後の状態を目視により観察した。評価基準を下記に示す。
◎…透明であった。
○…乳白色を呈した。
△…濁った。
×…分離した。
【0069】
(ヌ)経時安定性
上記試験処方を室温で一ヶ月静置した後、処方成分の分離の程度を目視により観察し、次のように評価した。
◎…全く分離を生じなかった。
○…僅かに分離しており、一分間振蕩し、7日間静置したが、分離を生じなかった。
△…僅かに分離しており、1分間振蕩することにより、再分散可能であったが、1時間後には再び分離を生じた。
×…分離を生じており、振蕩を加えても再度分散させることができなかった。
【0070】
(ル)泡の弾力性
ヘアスタイリングムースの処方のみの評価として、社内モニターが前記試験処方の泡を手に取って、その泡が細かく均一なものを良好であるとして下記基準にて評価した。
◎…非常に良好。
○…良好。
△…やや悪い。
×…悪い。
【0071】
(ヲ)泡のきめ
ヘアスタイリングムースの処方のみの評価として、社内モニターが前記試験処方の泡を手に取って、その泡が適度に弾力性のあるものを良好であるとして下記基準にて評価した。
◎…非常に良好。
○…良好。
△…やや悪い。
×…悪い。
【0072】
(ワ)つや
カラースプレーの処方のみの評価として、2gの白髪の束に前記試験処方をそれぞれ10秒間噴射した後、十分乾燥させ、つやの有無を目視で観察し、下記基準で評価した。
◎…非常に良好。
○…良好。
△…やや白化する。
×…白化が強い。
【0073】
(カ)発色性
カラースプレーの処方のみの評価として、2gの白髪の束に前記試験処方をそれぞれ10秒間噴射した後、十分乾燥させ、下地の隠蔽の状態を目視により観察した。評価基準を下記に示す。
◎…下地となる白髪の色が完全に隠蔽され、被膜は黒色を呈した。
○…下地となる白髪の色の影響を僅かに受け、被膜は僅かに灰色がかったものとなった。
△…下地となる白髪の色の影響を受けて、被膜の外観が薄い灰色となった。
×…下地となる白髪の色がほとんど隠蔽されず、また色むらも生じた。
【0074】
(ヨ)色写りのなさ
カラースプレーの処方のみの評価として、2gの白髪の束に試験処方をそれぞれ10秒間噴射した後、十分乾燥させ、学振型摩擦試験器により、100gの荷重をかけて30回、綿布と摩擦した後、綿布の汚れを目視で観察した。評価基準を下記に示す。
◎…綿布は全く汚れなかった。
○…綿布上に僅かに汚れが確認された。
△…綿布上に明確な黒色の色写りが確認された。
×…綿布上に濃厚な黒色の色写りが確認されると共に、毛髪状の被膜の色も一部失われた。
【0075】
以上の結果を下記の表に記す。
【0076】
下記表2は、毛髪化粧料としてヘアースプレーとして調製した場合の結果を示す。
【0077】
【表2】

下記表3は、ヘアスタイリングミストとして調製した場合の結果を示す。
【0078】
【表3】

下記表4は、ヘアスタイリングフォームとして調製した場合の結果を示す。
【0079】
【表4】

下記表5は、カラースプレーとして調製した場合の結果を示す。
【0080】
【表5】

また、実施例4で得られた毛髪化粧料用基剤を用い、剤型として下記表6に示す組成のヘアスタイリングスプレーに処方した。
【0081】
このようにして得られたヘアスタイリングスプレーは、乾燥途中・乾燥後の各平滑性および洗髪感が良好であり、べたつきが少なく、自然な風合いを長時間維持できた。
【0082】
【表6】

また、参考例8で得られた毛髪化粧料用基剤を用い、剤型として下記表7に示す組成のヘアトリートメントに処方した。
【0083】
このようにして得られたヘアトリートメントは、すすぎ時の指通りが良好で、乾燥後の毛髪にしっとりとした質感を与えた。
【0084】
【表7】

また、参考例5で得られた毛髪化粧料用基剤を用い、剤型として下記表8に示す組成のヘアワックスに処方した。
【0085】
このようにして得られたヘアワックスは、塗布性が良好で、べたつかず、自然な風合いながら高いセット力を長時間キープできた。また経時安定性も非常に良好であった。
【0086】
【表8】

また、実施例2で得られた毛髪化粧料用基剤を用い、剤型として下記表9に示す組成のヘアスタイリングゲルに処方した。
【0087】
このようにして得られたヘアスタイリングゲルは、塗布時および塗布後の毛髪の平滑性が良好で、自然な風合いを有していた。また経時安定性も非常に良好であった。
【0088】
【表9】

また、参考例6で得られた毛髪化粧料用基剤を用い、剤型として下記表10に示す組成のカーラーウォーターに処方した。
【0089】
このカーラーウォーターは、塗布時および塗布後の毛髪の平滑性が良好で、べたつかず自然な風合いを有していた。また経時安定性も非常に良好であった。
【0090】
【表10】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分Aの共重合体、下記成分B及び下記成分Cを含有し、下記成分A乃至Cを含む混合液中で成分Aを溶液重合させることにより得られるものであることを特徴とする毛髪化粧料用基剤。
A.分子内にカルボキシル基を一以上有するエチレン性不飽和単量体(a)を8〜40重量%含むエチレン性不飽和単量体成分
B.下記一般式(1)で示される、数平均分子量が100〜2000の化合物
C.親水性溶媒又は水と親水性溶媒との混合溶媒
【化1】

【請求項2】
上記成分Bが、上記一般式(1)で示される化合物として、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブチルエーテルを含有することを特徴とする請求項1に記載の毛髪化粧料用基剤。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の毛髪化粧料用基剤において、成分Aの共重合体が、塩基性化合物にて中和されたものであることを特徴とする毛髪化粧料用基剤。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の毛髪化粧料用基剤を含有することを特徴とする毛髪化粧料。

【公開番号】特開2010−248256(P2010−248256A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−173472(P2010−173472)
【出願日】平成22年8月2日(2010.8.2)
【分割の表示】特願2005−15909(P2005−15909)の分割
【原出願日】平成17年1月24日(2005.1.24)
【出願人】(000166683)互応化学工業株式会社 (57)
【Fターム(参考)】