説明

気体の浄化機構

【課題】塩素ガスをできるだけ気相中に出さないようにすることができる気体の浄化機構を提供しようとするもの。
【解決手段】電解水(1)の貯留槽(2)とその上方のスクラバー部(3)を有し、前記電解水(1)をスクラバー部(3)で噴霧すると共に、前記貯留槽(2)の電解水(1)に気体をばっ気するようにした。貯留槽の電解水に気体をばっ気するようにしており、電解水の温度が上昇してきてもばっ気された気体がその熱を奪って水面から放出されるので、水温の上昇を抑制して塩素ガスが揮発し難い状態となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、各種化学工場や塗装工場のVOCガスの脱臭、居住空間の空気中のウイルスや微生物の殺菌などを行うことができる気体の浄化機構に関するものである。
【背景技術】
【0002】
先般、化学装置、排水処理装置、乾燥、焼却、し尿、廃棄物処理などのプロセス、焼き肉や焼き魚などの調理設備、病院、老健施設、事務所、家庭、パチンコ等ゲーム施設から出る排気または排煙の悪臭、煙、有害物質を効果的に除去すると共に殺菌消毒する方法に関する出願をしており、次の内容が記載されている(特許文献1)。
すなわち、この発明は、排気または排煙の悪臭、煙、有害物質を簡易で、比較的小型な装置で除去、脱臭、浄化でき、薬材の交換、水の補給も少なく、後で処理に困る廃水も出ない上に、副生物としてトリハロメタンなどの発生が少ない上にタンパク質、オイル・油脂等のミストが十分に除去出来る方法を提供することを目的とし、アルカリ性電解質である苛性ソーダと中性電解質である食塩の混合した水溶液を電気分解し、生成した電解水を吸収手段(脱臭塔)に導き排気または排煙に接触させることにより排気又は排煙の悪臭、煙、有害物質を除去するようにした、というものである。
ところで、排気や排煙などの処理すべき気体に対して脱臭塔で電解水のミストを噴霧しつつ循環して電解していると、電気分解時の電極の発熱によって水温が徐々に上昇してくることとなる。
しかし、水温が上昇すると電解水中の溶存塩素が塩素ガスとなって揮発し易くなるという問題があった。塩素ガスはなるべく気相中に出したくない。
【特許文献1】特許4,222,786号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
そこでこの発明は、塩素ガスをできるだけ気相中に出さないようにすることができる気体の浄化機構を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
前記課題を解決するためこの発明では次のような技術的手段を講じている。
(1)この発明の気体の浄化機構は、電解水の貯留槽とその上方のスクラバー部を有し、前記電解水をスクラバー部で噴霧すると共に、前記貯留槽の電解水に気体をばっ気するようにしたことを特徴とする。
この気体の浄化機構によると、電解水の貯留槽とその上方のスクラバー部を有し、前記電解水をスクラバー部で噴霧するようにしたので、処理すべき気体を電解水のミストでたたいて汚れ成分を下方の電解水の貯留槽に移行せしめ浄化された清浄気体の状態で排出することができると共に、前記貯留槽に移行せしめられた汚れ成分は電解水による酸化作用により分解せしめられることとなる。
【0005】
そして、貯留槽の電解水に気体をばっ気するようにしており、電解水の温度が上昇してきてもばっ気された気体がその熱を奪って水面から放出されるので、水温の上昇を抑制して塩素ガスが揮発し難い状態となると共に、ばっ気することにより電解水が撹拌作用を受けることとなって貯留槽内をムラのない均一な状態とすることができる。
ここで、前記電解水は食塩水、次亜塩素酸、次亜臭素酸、過酸化水素水などを電気分解することによって得ることができる。これらを電気分解することにより、・OHラジカルなどの活性種が生成すると考えられる。また、塩化物の共存下で電気分解すると次亜塩素酸などの有効塩素が生成する。電解水を生成させるには貯留槽内に電解機構を設けてもよいし、貯留槽とその外部の電解機構との間を循環させるようにしてもよい。
【0006】
(2)前記貯留槽の電解水には処理すべき気体の一部をばっ気するようにしてもよい。
このように構成すると、処理すべき気体の一部を分岐して貯留槽にばっ気することにより他の気体の導入が不要となると共に、ばっ気された処理すべき気体は先ず貯留槽内の電解水による浄化作用を受け、次いで気相に移行してスクラバー部の電解水のミストでたたくことにより浄化することができる。
ここで、処理すべき気体のうちばっ気する分の割合は、水温の上昇の抑制との関係から設定することができ、例えば貯留槽の水温が上昇気味の場合はばっ気する割合を増やし、貯留槽の水温が下降気味の場合はばっ気する割合を減らすことができる。
【0007】
(3)前記ばっ気は貯留槽の電解水中に微細気泡として圧入するようにしてもよい。
このように構成すると、電解水中に圧入された微細気泡は液圧に抗して圧縮された状態から(圧縮の度合いにより程度の差はあるが基本的には)膨張しようと挙動する。そして、液圧に抗して圧縮された状態から膨張しようと挙動する微細気泡は電解水中で(程度の差こそあれ)表面積が拡大することとなり、これにより微細気泡と電解水との相互間の接触態様を表面積が液中で増大する動的なものとすることができ、気体の浄化(脱臭、脱色、殺菌)をより高度に遂行することができることとなる。
【0008】
気体を圧入するための昇圧手段として、ダイヤフラムポンプやコンプレッサーなどを例示することができる。気体を微細気泡とするために散気管などを使用することができる。微細気泡のサイズは、電解水との接触面積の拡大の観点から例えば1μm以下のナノバブルのように細かい方が好ましい。
微細気泡は電解水の貯留槽の深い位置に供給すると、水面に浮き上がるまでの時間を多く取れるので電解水との相互作用を行う時間を長くとれることとなる。電解水の貯留槽内にデミスター(邪魔板、当て板)を設置すると、微細気泡が上昇する途中で前記デミスターに当接することにより要浮上時間を延長して微細気泡と液体との相互間の接触時間を延長することができると共に、気泡を砕いてより微細にして分散させることができる。前記デミスターは回転又は回動してもよい。
【0009】
(4)電解水の貯留槽内の残留塩素濃度(微細気泡に対する攻撃力の一指標)の設定(電気分解する次亜塩素酸等の濃度や電気分解の条件〔電流値や電圧値、電極の極間距離など〕により可変できる)を調整することにより、処理対象の気体を最適な状況下(浄化が可能である最小限度)で処理することができ、処理コストをできるだけ低減することができる。
例えば、空気中のウイルスやバクテリアなどの菌類を除菌乃至殺菌する場合、電解水の貯留槽内の残留塩素濃度は5ppm以下でも十分な殺菌効果が得られた。これに対し、病院などの重汚染領域の空気を処理する場合には10〜20ppm程度のより高い残留塩素濃度に設定することができ、処理対象によっては残留塩素濃度をもっと高く設定(例えば12万ppm)することもできる。すなわち、貯留槽の電解水の残留塩素濃度は所望の経済的に見合う濃度に設定することが可能である。
【発明の効果】
【0010】
この発明は上述のような構成であり、次の効果を有する。
水温の上昇を抑制して塩素ガスが揮発し難い状態となるので、塩素ガスをできるだけ気相中に出さないようにすることができる気体の浄化機構を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、この発明の実施の形態を説明する。
(1)図1に示すように、この実施形態の気体の浄化機構(脱臭、脱色、殺菌など)は、電解水1の貯留槽2とその上方のスクラバー部3を有し、前記電解水1をスクラバー部3で噴霧すると共に、前記貯留槽2の電解水1に気体をばっ気するようにしている。また、貯留槽2からポンプPで引き出し外部の電解機構Eで電解水を生成させ、これをスクラバー部3で噴霧することにより電解水1を循環させるようにしている。
前記電解水は食塩水、次亜塩素酸、次亜臭素酸、過酸化水素水などを電気分解することによって得ることができる。これらを電気分解することにより、・OHラジカルなどの活性種が生成すると考えられる。また、塩化物の共存下で電気分解すると次亜塩素酸などの有効塩素が生成する。
【0012】
前記貯留槽2の電解水1には処理すべき気体4の一部をばっ気するようにしている。前記ばっ気は貯留槽2の電解水1中に微細気泡5として圧入するようにしている。気体を貯留槽2に圧入するための昇圧手段としてダイヤフラムポンプDPを用いたが、コンプレッサーなどを用いることもできる。気体を微細気泡5とするために散気管6を使用した。微細気泡5のサイズは、電解水1との接触面積の拡大の観点から例えば1μm以下のナノバブルのように細かい方が好ましい。
そして、念のため出口に活性炭吸着層7を設け、塩素ガスの外部への漏洩を防止しつつ浄化された清浄気体8を排出するようにしている。
【0013】
次に、この実施形態の気体の浄化機構の使用状態を説明する。
この気体の浄化機構によると、電解水1の貯留槽2とその上方のスクラバー部3を有し、前記電解水1をスクラバー部3で噴霧するようにしたので、処理すべき気体4をファンFで供給し電解水1のミストでたたいて汚れ成分を下方の電解水1の貯留槽2に移行せしめ浄化された清浄気体の状態で排出することができると共に、前記貯留槽2に移行せしめられた汚れ成分は電解水1による酸化作用により分解せしめられることとなる。
【0014】
そして、貯留槽2の電解水1に気体をばっ気するようにしており、電解水1の温度が上昇してきてもばっ気された気体がその熱を奪って水面から放出されるので、水温の上昇を抑制して塩素ガスが揮発し難い状態となり、塩素ガスをできるだけ気相中に出さないようにすることができるという利点がある。
また、ばっ気することにより電解水1が撹拌作用を受けることとなって貯留槽2内をムラのない均一な状態とすることができる。
【0015】
(2)前記貯留槽2の電解水1には処理すべき気体4の一部をばっ気するようにしており、処理すべき気体4の一部を分岐して貯留槽2にばっ気することにより他の気体の導入が不要となると共に、ばっ気された処理すべき気体4は先ず貯留槽2内の電解水1(次亜塩素酸などを含有する)による浄化作用を受け、次いで気相に移行してスクラバー部3の電解水1のミストでたたくことにより汚れ成分をミストに移動させて(気体から汚れ成分が除去される)浄化することができる。
処理すべき気体4のうちばっ気する分の割合は、水温の上昇の抑制との関係から設定することができ、例えば貯留槽2の水温が上昇気味の場合はばっ気する割合を増やし、貯留槽2の水温が下降気味の場合はばっ気する割合を減らすことができる。この実施形態では、処理すべき気体4の約10%を電解水1に対してばっ気するようにした。
【0016】
微細気泡5は電解水1の貯留槽2の深い位置に供給すると、水面に浮き上がるまでの時間を多く取れるので電解水1との相互作用を行う時間を長くとれることとなる。電解水1の貯留槽2内にデミスター(邪魔板、当て板)を設置すると(図示せず)、微細気泡5が上昇する途中で前記デミスターに当接することにより要浮上時間を延長して微細気泡5と液体との相互間の接触時間を延長することができると共に、気泡を砕いてより微細にして分散させることができる。前記デミスターは回転又は回動してもよい。
【0017】
(3)前記ばっ気は貯留槽2の電解水1中に微細気泡5として圧入するようにしており、電解水1中に圧入された微細気泡5は液圧に抗して圧縮された状態から(圧縮の度合いにより程度の差はあるが基本的には)膨張しようと挙動する。そして、液圧に抗して圧縮された状態から膨張しようと挙動する微細気泡5は電解水1中で(程度の差こそあれ)表面積が拡大することとなり、これにより微細気泡5と電解水1との相互間の接触態様を表面積が液中で増大する動的なものとすることができ、電解水1中の次亜塩素酸等と汚れ成分の相互作用を活性化させることができる。
【0018】
(4)塗装工場、液晶製造工場、化学工場等のVOCガスを脱臭する際、従来のスクラバー方式(気体への液滴噴霧方式)よりも高度に無臭化することができる。このVOCガスの浄化についてテストを行ったところ、次のような結果となった。
すなわち、悪臭ガスの供給源として硫化水素とメチルメルカプタンの標準ガスを準備し、電解機構で0.5重量%の食塩水を電気分解して貯留槽2との間で循環することにより電解水1Eの残留塩素濃度が80ppmになるように調整した。そして、この気体の浄化機構の入口で測定(北川式検知管を使用)すると、硫化水素が4.2ppmであったのが出口では0.1ppmに低減しており、メチルメルカプタンが2.3ppmであったのが出口では検出限界以下に低減しており、気体の浄化はほぼ完全に行われていた。
ところで、水に対して難溶解性の有機化合物(例えばベンゼンやトルエン等)が含有されるVOCガスを処理する場合、VOCガスと電解水1との相溶性を向上させるために両親媒性溶媒であるDMSO、DMAc、エタノールなどを電解水1に溶解させておくと、前記VOCガスの電解水1への親和性・溶解性が向上して取り込まれることとなり気体の浄化効率が上昇することとなる。
【0019】
(5)煙草の煙の浄化についてテストを行ったところ、次のような結果となった。
すなわち、電解機構で0.5重量%の食塩水を電気分解して貯留槽2との間で循環することにより貯留槽2の電解水1の残留塩素濃度が80ppmになるように調整し、チャンバー内で煙草5本(銘柄:マイルドセブン《登録商標》)を連続燃焼させ気体の浄化機構に供給した。そして、この気体の浄化機構の入口で測定すると(北川式ガス採取器を使用)、アセトアルデヒドが2.1ppmであったのが出口では0.3ppmに低減し、アンモニアが4.7ppmであったのが出口では0.2
ppmとなり、一酸化炭素が65ppmであったのが出口では15ppmに低減し、酢酸が0.9ppmであったのが出口では0.1ppmとなり、NOxが1.3ppmであったのが出口では0.3ppmとなった。これにより、気体の浄化が十分に行われたことが確認できた。
したがって、この気体の浄化機構は各種公共機関の施設や個人宅の室内空間の煙草の煙の浄化に有用である。
【0020】
(6)各種建築物の室内の空気中のウイルスやバクテリアなどの浮遊菌類を除菌乃至殺菌及び浮遊微粒子の除去を行う際、ウイルスやバクテリアに対する殺菌浄化作用はスクラバー部3と電解水1の貯留槽2内に行われ、電解水1のミストや塩素ガスは外部には流出しないので人がそれを吸い込んで悪影響を受ける心配はない。
焼却炉やボイラーの排気に含まれる有機物の炭化物(異臭を発する)や有害物質(ダイオキシン等)が含まれる気体を脱臭・無害化して無臭化することができた。
【産業上の利用可能性】
【0021】

気体の浄化対象物として、空気感染性のウイルス(例えばインフルエンザウイルス)・バクテリア等の浮遊菌類などの生物的成分、VOCガス・煙草の煙などの化学的成分、塵埃や焼却後に生じる炭化物その他の浮遊微粒子などの物理的成分を例示することができる。
そして貯留槽の電解水中の・OHラジカルなどの作用により、前記生物的成分は滅菌乃至殺菌されて衛生化され、化学的成分は酸化分解されて脱臭され、また物理的成分は電解水中に取り込まれて除去されることとなり、処理前の汚染された気体は浄化されて清浄なものとなり、リフレッシュされた状態として室内に戻されたり大気中に排出されたりすることとなる。
【0022】
これによりこの気体の浄化機構は、病院・学校・幼稚園・老人保健施設・各種の公共機関・デパートやショッピングセンターの喫煙室・パチンコ店(一般的に煙草でかなり煙っている場合が多い)・個人の住居の居住空間等の空気清浄、また塗装工場・液晶製造工場・化学工場等のVOCガスの空気清浄、さらに焼却炉・ボイラーの排気の無害化・無臭化その他の種々の用途に適用することができる。
また、旅客機・飛行機・航空機内は閉ざされた狭い空間であるのでたとえ短時間であっても病気の感染が非常に懸念されるところ、この気体の浄化機構を装備しておくと、海外から国内への病気(例えば新種のインフルエンザ)の侵入を水際で防止することができることとなる。
【0023】
さらに、この気体の浄化機構を搭載可能な大きさの自動車に装備しておくと、渋滞時に他の車の排気ガスが車内に侵入してきても、これを気体の浄化機構で浄化してフレッシュなクリーン・エアーとして車内に吹き出すようにすることができ、快適なドライブを行うことができる。
その他に電車・バス・船舶その他の種々の乗り物・交通機関などにも適用することができる。例えばラッシュ時満員になる電車に装備しておくと、皆が吐く息によりよどんで不快となった空気をリフレッシュして車内に戻すことができ、乗客の疲労感・虚脱感・いらいらを大きく緩和することができると共に、既述の通り、病気の感染防止も担保することができることとなる。
【0024】
この気体の浄化機構は、浮遊微粒子などの物理的成分の除去も行うことができるので、クリーンルームに適用することもできる。すなわち、クリーンルーム内の微粒子やまたその室内で発生した揮発性化学成分の除去を行うことができる。また、化学実験室のドラフトで吸い込んだ有害な化学成分を浄化し、清浄なものとして大気中に排出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】この発明の気体の浄化機構の実施形態を説明するシステム・フロー図。
【符号の説明】
【0026】
1 電解水
2 貯留槽
3 スクラバー部
4 処理すべき気体
5 微細気泡

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解水(1)の貯留槽(2)とその上方のスクラバー部(3)を有し、前記電解水(1)をスクラバー部(3)で噴霧すると共に、前記貯留槽(2)の電解水(1)に気体をばっ気するようにしたことを特徴とする気体の浄化機構。
【請求項2】
前記貯留槽(2)の電解水(1)には処理すべき気体(4)の一部をばっ気するようにした請求項1記載の気体の浄化機構。
【請求項3】
前記ばっ気は貯留槽(2)の電解水(1)中に微細気泡(5)として圧入するようにした請求項1又は2記載の気体の浄化機構。

【図1】
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【公開番号】特開2011−88025(P2011−88025A)
【公開日】平成23年5月6日(2011.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−240940(P2009−240940)
【出願日】平成21年10月20日(2009.10.20)
【出願人】(399049981)株式会社オメガ (70)
【Fターム(参考)】