説明

気体分離膜用オルガノポリシロキサン

【課題】気体透過性能に優れ、溶液塗工法により簡便かつ高い生産性で製造できる気体分離膜用オルガノポリシロキサンおよび気体分離膜を提供する。
【解決手段】下記一般式(I)で示される繰り返し単位を含有する気体分離膜用オルガノポリシロキサン(A)。
【化1】


(式中、Rはシクロアルキル基を表し、mおよびnは各々独立に1以上の整数を表す。)
およびそれを分離層の素材として用いることを特徴とする気体分離膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は気体分離膜用オルガノポリシロキサンに関するものであり、特に大気中からの酸素ないし窒素の分離に適する気体分離膜用オルガノポリシロキサンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
気体分離膜による気体の分離・濃縮は、蒸留法や高圧吸着法などと比べてエネルギー効率に優れた省エネルギーで安全性の高い方法であり、近年再び注目を集めている。大気中の酸素を濃縮する酸素富化膜は、燃焼機器、空調機器、医療機器、健康機器等に利用される他、逆に濃縮酸素を排除して得られる窒素富化空気を利用してディーゼルエンジンの窒素酸化物の低減や消火システムへの活用が検討されている。また、合成ガスや天然ガスなどから温室効果ガスである二酸化炭素を気体分離膜を用いて除去回収する方法についても近年盛んに検討が行われている。
【0003】
一般に、気体分離膜における気体透過性は、透過速度と分離係数を指標として表される。透過速度は(分離層の透過係数)/(分離層の厚み)で表される。分離層の透過係数は、分離層の素材に固有の単位厚みあたりの気体透過性能である。上記式から明らかなように、気体透過速度の大きな膜を得るためには、分離層を透過係数の大きな素材とし、分離層の厚みを可能な限り薄くすることが必要である。また、分離係数は分離しようとする2種の気体の透過速度の比であり、原則的には分離層の素材に依存する値であるが、分離層にピンホールが存在する場合には分離係数は大きく低下する。以上のことから、気体分離膜として実用性の高い膜を得るためには、透過係数の大きな素材を用い、ピンホールを生じさせることなくその厚みを可能な限り薄くすることが必要となる。
【0004】
酸素透過性能の高い素材としては、ポリ[1−(トリメチルシリル)−1−プロピン]が知られている。ポリ[1−(トリメチルシリル)−1−プロピン]は、初期における酸素の透過係数が約60×10−8cm(STP)・cm/cm・sec・cmHgであり、高分子材料の中で最も高い酸素透過性能を示す。しかしながら、この酸素富化膜は酸素の透過係数に著しい経時変化があるため実用段階にはない(例えば特許文献1および非特許文献1参照)。
【0005】
ポリ[1−(トリメチルシリル)−1−プロピン]に次ぐ酸素透過係数を示す高分子素材として、ポリジメチルシロキサンが知られている。ポリジメチルシロキサンは、酸素透過係数が約6×10−8cm(STP)・cm/cm・sec・cmHgであり、酸素透過性の長期信頼性にも優れている。しかしながら機械的強度が低いことから、多孔質支持体上に分離層を積層する複合膜においてもピンホールを生じることなく薄膜化することが困難であった。そこで、この問題を解決すべく種々のオルガノポリシロキサン骨格を有するポリマーが検討されてきた。
【0006】
このような酸素富化膜としては、例えば、側鎖に活性水素を有するオルガノポリシロキサンと側鎖にビニル基を有するオルガノポリシロキサンの共重合体を多孔質の濾紙に積層した複合膜が提案されている(特許文献2参照)。当該複合膜は、分離層として用いる高分子の溶液を水面上に展開して薄膜を形成させ、次いでこの薄膜を支持体と接触させることにより支持体上に積層する水面展開法により製造されるが、水面上に形成された機械的強度の弱い薄膜を取り扱うこととなるため作業性が非常に悪く、さらに膜に欠陥を生じやすい傾向があることから大量生産に適さないという問題点を有する。
【0007】
これに対し、水面展開法に依らない複合膜の製造法として溶液塗工法がある。溶液塗工法は、分離層として用いる高分子の溶液を支持体に直接塗布し溶剤を乾燥させて複合膜とする方法であり、水面展開法に比べて生産性が大幅に向上する利点を有する。このような方法によって製造された膜の例として、ポリジメチルシロキサンとポリジフェニルシロキサンの混合物と多孔質支持体を溶液塗工法により複合化した膜が提案されている(特許文献3参照)。しかしながら、当該複合膜においても分離層の膜厚は2〜3μm程度であり、実用的な酸素透過速度を達成する程度にまで薄膜化するには至っていない。
【特許文献1】特開昭59−154106号公報
【特許文献2】特開昭56−26504号公報
【特許文献3】特開平05−111626号公報
【非特許文献1】K.Nagaiら、Prog.Polym.Sci.誌、2001年、第26巻、721〜798項
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、溶液塗工法を用いて多孔質支持体上に薄膜を形成することができ、気体透過性および分離性に優れた気体分離膜用オルガノポリシロキサンおよび気体分離膜を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、分離層の素材としてケイ素原子上にシクロアルキル基を特定量含有する特定のオルガノポリシロキサンを用いることで上記課題を解決できることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
(1)下記一般式(I)で示される繰り返し単位を含有する気体分離膜用オルガノポリシロキサン(A)、
【0011】
【化2】

(式中、Rはシクロアルキル基を表し、mおよびnは各々独立に1以上の整数を表す。)
(2)上記式(I)で表される繰り返し単位を含有しかつ1分子中にケイ素原子に結合したアルケニル基を少なくとも2個有するオルガノポリシロキサン(B)、および上記式(I)で表される繰り返し単位を含有しかつ1分子中にケイ素原子に結合した水素原子を少なくとも2個有するオルガノポリシロキサン(C)の反応物であることを特徴とする(1)に記載の気体分離膜用オルガノポリシロキサン(A)、
(3)上記式(I)で表される繰り返し単位を含有しかつ1分子中にケイ素原子に結合したアルケニル基を少なくとも2個有するオルガノポリシロキサン(B)、および1分子中にケイ素原子に結合した水素原子を少なくとも2個有するポリメチルハイドロジェンシロキサン(D)の反応物であることを特徴とする(1)に記載の気体分離膜用オルガノポリシロキサン(A)、
(4)1分子中にケイ素原子に結合したアルケニル基を少なくとも2個有するポリメチルアルケニルシロキサン(E)、および上記式(I)で表される繰り返し単位を含有しかつ1分子中にケイ素原子に結合した水素原子を少なくとも2個有するオルガノポリシロキサン(C)の反応物であることを特徴とする(1)に記載の気体分離膜用オルガノポリシロキサン(A)、
(5)シクロアルキル基Rの含有量が、ケイ素原子に結合している置換基の総量に対して0.1〜30モル%であることを特徴とする(1)〜(4)に記載の気体分離膜用オルガノポリシロキサン(A)、
(6)シクロアルキル基Rがシクロヘキシル基またはシクロペンチル基であることを特徴とする(1)〜(5)に記載の気体分離膜用オルガノポリシロキサン(A)、
(7)(1)〜(6)のいずれかに記載のオルガノポリシロキサン(A)を分離層として用いることを特徴とする気体分離膜、
(8)(1)〜(6)のいずれかに記載のオルガノポリシロキサン(A)からなる分離層を多孔質支持体上に積層してなることを特徴とする気体分離膜、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、特に大気中からの酸素ないし窒素の分離に好適であり、気体透過性能に優れ、溶液塗工法により簡便かつ高い生産性で製造できる気体分離膜用オルガノポリシロキサンおよび気体分離膜が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明について、以下具体的に説明する。
【0014】
本発明における気体分離膜の分離層として用いられるオルガノポリシロキサン(A)は一般式(I)で表される繰り返し単位を含有する。
【0015】
【化3】

(式中、mおよびnは各々独立に1以上の整数を表し、Rはシクロアルキル基を表す。)
シクロアルキル基の具体例としては、シクロオクチル基、シクロヘキシル基、シクロペンチル基などのモノシクロアルキル基、ノルボルニル基などのビシクロアルキル基等を挙げることができ、中でもシクロヘキシル基もしくはシクロペンチル基が好適である。
【0016】
シクロアルキル基の含有量は、オルガノポリシロキサン(A)のケイ素原子に結合している置換基の総量に対して、0.1〜30モル%が好適であり、さらに好適には1〜10モル%である。シクロアルキル基の含有量がオルガノポリシロキサン(A)のケイ素原子に結合している置換基の総量に対して30モル%より多い場合はオルガノポリシロキサン(A)の気体透過係数が低下する傾向にあるため好ましくない。逆に、シクロアルキル基の含有量が0.1モル%より少ない場合はシクロアルキル基導入の効果が低減し分離層にピンホールが生じやすくなる傾向が強まり好ましくない。
オルガノポリシロキサン(A)の分子構造は特に限定されず、直鎖体でも環状体でも、直鎖体と環状体の混合物であっても良い。また少量の分岐構造を含有しても良い。
オルガノポリシロキサン(A)の分子量は、テトラヒドロフランを展開溶媒とし単分散ポリスチレンを標準物質とするGPC(Gel Permiation Chromatography)によって計測した場合に、そのピークトップ分子量(Mp)が1万以上であることが好ましく、より好ましくは5万以上、さらに好ましくは10万以上である。Mpが1万より小さい場合はポリマーとしての強度が低下するため薄膜とすることが難しくなり好適ではない。
オルガノポリシロキサン(A)は、例えば、一般式(I)で表される繰り返し単位を含有しかつアルケニル基を有するオルガノポリシロキサン(B)と一般式(I)で表される繰り返し単位を含有しかつケイ素原子に結合した水素原子を有するオルガノポリシロキサン(C)との付加反応、オルガノポリシロキサン(B)とケイ素原子に結合した水素原子を有するポリメチルハイドロジェンシロキサン(D)との付加反応、または、アルケニル基を有するポリメチルアルケニルシロキサン(E)とオルガノポリシロキサン(C)との付加反応により製造することができる。
【0017】
オルガノポリシロキサン(B)は、一般式(I)で表される繰り返し単位を含有しかつ1分子中にケイ素原子に結合したアルケニル基を少なくとも2個有するオルガノポリシロキサンである。アルケニル基の具体例としては、ビニル基、アリル基、プロペニル基を挙げることができ、中でもビニル基が好適である。オルガノポリシロキサン(B)にはシクロアルキル基が含有されるが、シクロアルキル基の具体例は上で示した通りである。また、オルガノポリシロキサン(B)に含有されるシクロアルキル基の量は、オルガノポリシロキサン(C)もしくはポリメチルハイドロジェンシロキサン(D)との付加反応によって得られるオルガノポリシロキサン(A)中のシクロアルキル基の量が上で示した好適範囲を満たす量であれば特に限定されない。
【0018】
オルガノポリシロキサン(B)の分子量は付加反応によって得られるオルガノポリシロキサン(A)の好適分子量および付加反応における反応性を考慮して、Mpが1000〜20万の範囲が好適である。オルガノポリシロキサン(B)の分子構造は、直鎖体でも環状体でも直鎖体と環状体の混合物でも良く、少量の分岐構造を含有していても良い。このようなオルガノポリシロキサン(B)の構造の具体例を下式に示す。
【0019】
【化4】

(式中、Rはシクロアルキル基を表し、Aはアルケニル基を表し、a、b、c、d、e、f、gは各々独立に1以上の整数を表す。)
これらのオルガノポリシロキサン(B)のうち、製造の容易性および付加反応における反応性から下式に示すものがより好適に使用される。
【0020】
【化5】


(式中、R、Aおよびa〜cは上で定義したとおりである。)
これらのオルガノポリシロキサン(B)は1種のみを使用するだけでなく、複数種を組み合わせて使用することもできる。
【0021】
オルガノポリシロキサン(C)は一般式(I)の繰り返し単位を含有しかつケイ素原子に結合した水素原子を1分子中に少なくとも2個含有するオルガノポリシロキサンである。オルガノポリシロキサン(C)にはシクロアルキル基が含有されるが、シクロアルキル基の具体例は上で示した通りである。また、オルガノポリシロキサン(C)に含有されるシクロアルキル基の量は、オルガノポリシロキサン(B)もしくはポリメチルアルケニルシロキサン(E)との付加反応によって得られるオルガノポリシロキサン(A)に含有されるシクロアルキル基の量が上で示した好適範囲を満たす量であれば特に限定されない。
【0022】
オルガノポリシロキサン(C)の分子量は、付加反応によって得られるオルガノポリシロキサン(A)の好適分子量および付加反応における反応性を考慮して、Mpが1000〜20万の範囲が好適である。オルガノポリシロキサン(C)の分子構造は、直鎖体でも環状体でも直鎖体と環状体の混合物でも良く、少量の分岐構造を含有していても良い。このようなオルガノポリシロキサン(C)の構造の具体例を下式に示す。
【0023】
【化6】


(式中、Rはシクロアルキル基を表し、p、q、r、s、t、u、vは各々独立に1以上の整数を表す。)
これらのオルガノポリシロキサン(C)のうち、製造の容易性および付加反応における反応性から下式に示すものがより好適に使用される。
【0024】
【化7】


(式中、Rおよびp〜rは上で定義したとおりである。)
これらのオルガノポリシロキサン(C)は1種のみを使用するだけでなく、複数種を組み合わせて使用することもできる。
【0025】
ポリメチルアルケニルシロキサン(E)はケイ素原子に結合したアルケニル基を1分子中に少なくとも2個含有するオルガノポリシロキサンである。アルケニル基の具体例としては、ビニル基、アリル基、プロペニル基を挙げることができ、中でもビニル基が好適である。
【0026】
ポリメチルアルケニルシロキサン(E)の分子量は、オルガノポリシロキサン(C)との付加反応によって得られるオルガノポリシロキサン(A)の好適分子量および付加反応における反応性を考慮して、Mpが1000〜30万の範囲が好適である。また、ポリメチルアルケニルシロキサン(E)の分子構造は、直鎖体でも環状体でも直鎖体と環状体の混合物でも良く、少量の分岐構造を含有していても良い。このようなポリメチルアルケニルシロキサン(E)の構造の具体例を下式に示す。
【0027】
【化8】


(式中、Rはシクロアルキル基を表し、Aはアルケニル基を表し、h、i、j、k、lは各々独立に1以上の整数を表す。)
これらのポリメチルアルケニルシロキサン(E)のうち、製造の容易性および付加反応における反応性から、下式に示すものがより好適に用いられる。
【0028】
【化9】


(式中、R、Aおよびh、iは上で定義したとおりである。)
これらのポリメチルアルケニルシロキサン(E)は1種のみを使用するだけでなく、複数種を組み合わせて使用することもできる。
【0029】
ポリメチルハイドロジェンシロキサン(D)はケイ素原子に結合した水素原子を少なくとも2個含有するオルガノポリシロキサンである。ポリメチルハイドロジェンシロキサン(D)の分子量は、オルガノポリシロキサン(B)との付加反応によって得られるオルガノポリシロキサン(A)の好適分子量および付加反応における反応性を考慮して、Mpが1000〜30万の範囲が好適である。また、ポリメチルハイドロジェンシロキサン(D)の分子構造は、直鎖体でも環状体でも直鎖体と環状体の混合物でも良く、少量の分岐構造を含有していても良い。このようなポリメチルハイドロジェンシロキサン(D)の構造の具体例を下式に示す。
【0030】
【化10】


(式中、Rはシクロアルキル基を表し、w、x、y、z、αは各々独立に1以上の整数を表す。)
これらのポリメチルハイドロジェンシロキサン(D)のうち、製造の容易性および付加反応における反応性から、下式に示すものがより好適に用いられる。
【0031】
【化11】


(式中、Rおよびw、xは上で定義したとおりである。)
これらのポリメチルハイドロジェンシロキサン(D)は1種のみを使用するだけでなく、複数種を組み合わせて使用することもできる。
【0032】
アルケニル基を含有するオルガノポリシロキサンとケイ素原子上に水素原子を含有するオルガノポリシロキサンとの付加反応において、触媒として公知のものを使用することができる。具体例としては、白金系、パラジウム系、ロジウム系などの触媒を挙げることができ、これらの中で白金系触媒が好ましい。また、白金系触媒として、例えば塩化白金酸、塩化白金酸のアルコール溶液やアルデヒド溶液、塩化白金酸の各種オレフィンまたはビニルシロキサンとの錯体、白金黒が挙げられる。これら触媒は系中のアルケニル基のモル数に対して1〜10,000ppmの割合で使用される。
【0033】
また、付加反応は有機溶剤を用いて溶液中で行うことができる。有機溶剤としては、例えばトルエン、キシレン、ベンゼンなどの芳香族炭化水素系溶剤、ヘキサン、ヘプタン、オクタンなどの脂肪族炭化水素系溶剤、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサンなどのエーテル系溶剤、クロロホルム、塩化メチレン、テトラクロロエチレンなどのハロゲン系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶剤、酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸イソプロピルなどのエステル系溶剤、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミドなどの非プロトン製極性溶媒を挙げることができる。これらは1種単独でも2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0034】
反応温度および反応時間については特に制限はなく、50℃〜200℃、10秒〜20時間の範囲で反応の速度に応じて適宜選択される。
【0035】
アルケニル基を含有するオルガノポリシロキサンとケイ素上に水素原子を有するオルガノポリシロキサンとの付加反応は、気体分離膜を製造におけるどの工程において行われても良い。例えば、後述する多孔質支持体上への溶液塗工法による複合膜の製造において、多孔質支持体に溶液を塗工する工程、溶液塗工後の多孔質支持体を乾燥する工程において付加反応が行われても良く、多孔質支持体を乾燥後に複合膜を加熱し付加反応を行っても良い。また、多孔質支持体に溶液を塗工する前に付加反応が行われてもよいが、この場合は溶剤不溶成分が生じない程度に留めておかなければならない。
【0036】
本発明におけるオルガノポリシロキサン(A)を単独で製膜し、気体分離膜として使用することができる。しかし、気体分離膜として充分な気体透過量を得るためには薄膜とする必要があり、薄膜化した際の強度や取り扱い性の点から多孔質支持体上に薄膜を形成・積層させ複合膜として用いるのが通常である。
【0037】
複合膜における多孔質支持体としては。多孔質フォーム、不織布、織布などが挙げられ、孔の大きさ、孔径の均一性、支持体の厚みなどの点から多孔質フォームを用いることが好ましい。多孔質フォームは抽出法、延伸法、物理的な開口法など様々な方法によって製造されるが、製法に限定されることなく使用できる。多孔質支持体の材質としては特に制約はないが、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリカーボネート、ポリフェニレンオキシド、ポリアミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリスルホンアミド、酢酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、テフロン(登録商標)、ポリフッ化ビニリデン等の高分子材料、ガラス、金属、セラミック等の無機材料を用いることができるが、賦形性、柔軟性、機械的強度などの点から高分子材料を用いることが好ましく、特に耐溶剤性に優れたポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンが好適に使用される。
【0038】
これら多孔質支持体の形状は、目的とする分離膜の形状に応じて種々のものが使用でき、平膜状、管状膜状、中空糸状のものが挙げられる。また、多孔質支持体は対称構造でも非対称構造でも使用できる。
【0039】
多孔質支持体の孔の大きさは0.001μm〜1μmが好適であり、より好適には0.01μm〜0.1μmである。孔の大きさが0.001μmよりも小さい場合、得られる複合膜の気体透過速度が不十分となる場合がある。逆に孔の大きさが1μmより大きい場合、分離層が孔中に浸透したり孔中に落ち込んだりして孔中に充填されてしまうため、気体透過速度の低下を引き起こしやすくなる。
【0040】
また、多孔質支持体はJIS P 8117の装置により測定された透気度が20秒〜3000秒が好適であり、より好適には50秒〜1000秒である。透気度が20秒未満のものは機械的強度が不足する場合があり、逆に透気度が3000秒を超えるものは充分な気体透過速度が得られず好ましくない。
【0041】
多孔質支持体の膜厚は5μm〜10mmが好適であり、より好適には10μm〜1000μmである。膜厚が5μmより小さいと、支持体としての機械的強度が充分でない場合が多く、10mmより大きいと膜の柔軟性が損なわれ取り扱いが難しくなる傾向があり、また、気体透過の抵抗が大きくなることがあるため好ましくない。
【0042】
多孔質支持体上に分離層を形成させる方法としては、オルガノポリシロキサン(A)を溶剤に溶解後、水面上に展延し水面膜を作成し、次いでこの薄膜を多孔質支持体上と接触させることにより多孔質支持体上に積層する水面展開法、オルガノポリシロキサン(A)を溶剤に溶解し多孔質支持体上に塗工した後、溶媒を乾燥させ複合膜とする溶液塗工法等が挙げられるが、品質の安定した膜を簡便に大量生産できる点から溶液塗工法が好ましい。
【0043】
以下、溶液塗工法について説明する。
【0044】
溶液塗工法を行うにあたり用いられる溶剤はオルガノポリシロキサン(A)を溶解するものであれば特に限定されず、トルエン、キシレン、ベンゼンなどの芳香族炭化水素系溶剤、ヘプタン、ヘキサン、オクタンなどの脂肪族炭化水素系溶剤、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサンなどのエーテル系溶剤、クロロホルム、塩化メチレン、テトラクロロエチレンなどのハロゲン系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶剤、酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸イソプロピルなどのエステル系溶剤、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミドなどの非プロトン製極性溶媒などを使用することができる。これらは1種単独でも2種以上を組み合わせても使用することができる。
【0045】
溶液塗工法に用いられる溶液中におけるオルガノポリシロキサン(A)の濃度は0.01重量%〜50重量%が好ましく、0.1重量%〜10重量%がより好ましい。オルガノポリシロキサン(A)の濃度が0.01重量%よりも小さい場合は薄膜を形成しにくくなったり、分離層にピンホールなどの欠陥を生じやすくなる傾向が強まり好ましくない。逆に、50重量%よりも大きい場合は多孔質支持体上に形成される分離層の厚みが大きくなりやすく充分な気体透過量が得られなくなるため好ましくない。
【0046】
オルガノポリシロキサン溶液を多孔質支持体に塗布する方法としては種々の方法を用いることができ、バーコーター、ロールコーター、リバースコーター、グラビアコーター、エアナイフコーター、高精度のオフセットコーター、多段ロールコーター等を用いる公知の塗工方法を利用することができる。また、オルガノポリシロキサン(A)の溶液に多孔質支持体を浸漬するディップコート法や、溶液表面に多孔質支持体の片面のみを接触させるフロートコート法も利用できる。
【0047】
塗工は大気中で行うことができるが、溶剤が揮発する際に大気中の水蒸気が結露して分離層の形成に影響を及ぼすことを防ぐため、相対湿度20%以下の乾燥空気下で塗工を行うか、実質的に水蒸気を含まない窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気下で塗工を行うことが望ましい。
【0048】
塗工が終了した多孔質支持体は乾燥工程を経るが、乾燥は大気中で行われても、窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気下で行われても、減圧下にて行われてもよい。また乾燥に際し多孔質支持体に損傷を与えない程度に加熱を行うことが望ましい。
【0049】
本発明による気体分離膜は、混合気体からある特定の気体の濃度を変化させるために用いられる限りにおいては特にその使用方法に限定はない。対象とする気体は、特に限定されないが、例えば酸素、窒素、水素、二酸化炭素、メタン、一酸化炭素、アンモニア、二酸化硫黄、酸化窒素類、ハロゲン含有ガスが挙げられるが、最も好適に用いられるのは、大気中からの酸素ないし窒素の濃縮用途である。
【実施例】
【0050】
以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0051】
本発明に用いられる特性値は以下の方法により測定した。
(1)ポリマーのピークトップ分子量(Mp)
HLC−8120GPC(東ソー社製)にTSKguardcolumnHXL−L、TSKgelG5000HXLおよびTSKgelG4000HxL(いずれも東ソー社製)を取り付けた装置を用い、テトラヒドロフランを溶離液とし示差屈折計により測定を行った。標準試料として単分散ポリスチレンを使用しピークトップ分子量(Mp)を求めた。
(2)複合膜の分離層厚み
膜を液体窒素冷却下で割断し白金蒸着した後、走査型電子顕微鏡FE−SEM S−800(日立製作所製)により断面写真を撮影し分離層の厚みを求めた。
(3)酸素透過速度および分離係数
作製した膜より直径47mmの円形を切り出しタンク付きステンレスホルダーKST−47(アドバンテック東洋社製)に取り付けた。次いでゲージ圧0.1MPaの酸素および窒素を透過させ、透過側に15ccの気体が透過する時間を計測することにより酸素透過速度および窒素透過速度を求めた。分離係数は酸素透過速度と窒素透過速度の比より求めた。
【0052】
[実施例1]
α−ジメチルビニルシリル−ω−ジメチルビニルシロキシ−ポリ(シクロヘキシルメチルシロキサン−co−ジメチルシロキサン)の合成−1
ジクロロジメチルシラン83gとシクロヘキシルメチルジクロロシラン71gの混合物を水500gに滴下し1時間攪拌した。水を除去し乾燥して得られた液体10gに触媒としてクロロホスファゼンを200ppm添加し減圧下120℃で2時間重合した。続いて1,3−ジビニルー1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンを72mg添加し窒素雰囲気下120℃で1時間反応を行った。得られた化合物を減圧下200℃に加熱し低分子量化合物を除去した。得られたポリマーはMp=26,000であり、ケイ素原子に結合している置換基の総量に対するシクロヘキシル基の割合は18モル%であった。
[実施例2]
α−ジメチルビニルシリル−ω−ジメチルビニルシロキシ−ポリ(シクロヘキシルメチルシロキサン−co−ジメチルシロキサン)の合成−2
ジクロロジメチルシラン39gとシクロヘキシルメチルジクロロシラン138gを用い、実施例1と同様の方法でポリマーを合成した。得られたポリマーはMp=25,000、ケイ素原子に結合している置換基の総量に対するシクロヘキシル基の割合は35モル%であった。
[実施例3]
α−ヒドロジメチルシリル−ω−ヒドロジメチルシロキシ−ポリ(シクロヘキシルメチルシロキサン−co−ジメチルシロキサン)の合成−1
1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンの代わりに1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンを64mg用いた以外は実施例1と同様の方法で行った。得られたポリマーはMp=21,000であり、ケイ素原子に結合している置換基の総量に対するシクロヘキシル基の割合は20モル%であった。
[実施例4]
α−ヒドロジメチルシリル−ω−ヒドロジメチルシロキシ−ポリ(シクロヘキシルメチルシロキサン−co−ジメチルシロキサン)の合成−2
ジクロロジメチルシラン116gとシクロヘキシルメチルジクロロシラン20gの混合物を水500gに滴下し1時間攪拌した。水を除去し乾燥して得られた液体10gに触媒としてクロロホスファゼンを200ppm添加し減圧下120℃で2時間重合した。 1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンを140mg添加し窒素雰囲気下120℃で1時間反応を行った。得られた化合物を減圧下200℃に加熱し低分子量化合物を除去した。得られたポリマーはMp=9,800であり、ケイ素原子に結合している置換基の総量に対するシクロヘキシル基の割合は5モル%であった。
[実施例5]
α−ヒドロジメチルシリル−ω−ヒドロジメチルシロキシ−ポリ(シクロヘキシルメチルシロキサン−co−ジメチルシロキサン)の合成−3
1,3−ジビニルー1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンの代わりに1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンを60mg用いた以外は実施例2と同様の方法で行った。得られたポリマーはMp=22,000であり、ケイ素原子に結合している置換基の総量に対するシクロヘキシル基の割合は35モル%であった。
[実施例6]
実施例3で合成したα−ヒドロジメチルシリル−ω−ヒドロジメチルシロキシ−ポリ(シクロヘキシルメチルシロキサン−co−ジメチルシロキサン)1.5gとα−ジメチルビニルシリル−ω−ジメチルビニルシロキシ−ポリジメチルシロキサンであるGelest社のDMS−V52(商品名)4.6gとトルエン25gを混合し、ここに白金触媒としてユミコアプレシャスメタルズ社製PT−VTSC−3.0X(商品名)を1mg添加し窒素雰囲気下80℃で5時間加熱した。得られたポリマーはMp=120,000、ケイ素原子に結合した置換基の総量に対するシクロヘキシル基の割合は5モル%であった。
【0053】
このポリマーをトルエンに溶解し0.5重量%の溶液とし、旭化成ケミカルズ社製ポリエチレン多孔質膜ハイポア(登録商標)NB630(膜厚30μm)を用いて窒素雰囲気下にて膜の片面のみを溶液表面に浮遊・接触させ連続的に引き上げる方法(フロートコート法)で塗工を行った。得られた複合膜における分離層の厚みは0.5μmであり、酸素透過速度は600×10−6cm(STP)/cm・sec・cmHg、酸素透過速度と窒素透過速度の比(分離係数)は2.1であった。
[実施例7]
実施例1で合成したα−ジメチルシリル−ω−ジメチルシロキシ−ポリ(シクロヘキシルメチルシロキサン−co−ジメチルシロキサン)5gと実施例3で合成したα−ヒドロジメチルシリル−ω−ヒドロジメチルシロキシ−ポリ(シクロヘキシルメチルシロキサン−co−ジメチルシロキサン)4.2gとトルエン45gを混合し、ここに白金触媒としてユミコアプレシャスメタルズ社製PT−VTSC−3.0X(商品名)を2.8mg添加し窒素雰囲気下80℃で5時間加熱した。得られたポリマーはMp=105,000、ケイ素原子に結合した置換基の総量に対するシクロヘキシル基の割合は19%であった。
【0054】
このポリマーをトルエンに溶解し0.5重量%の溶液とし、実施例6と同様の方法でポリエチレン多孔質支持体との複合膜を作製した。得られた複合膜における分離層の厚みは0.5μmであり、酸素透過速度は460×10−6cm(STP)/cm・sec・cmHg、酸素透過速度と窒素透過速度の比(分離係数)は2.1であった。
[実施例8]
実施例1で合成したα−ジメチルビニルシリル−ω−ジメチルビニルシロキシ−ポリ(シクロヘキシルメチルシロキサン−co−ジメチルシロキサン)5gとα−ヒドロジメチルシリル−ω−ヒドロジメチルシロキシ−ポリジメチルシロキサンであるGelestst社製のDMS−H41(商品名)2.8gとトルエン25gを混合し、白金触媒としてユミコアプレシャスメタルズ社製PT−VTSC−3.0X(商品名)を1.5mg添加し窒素雰囲気下80℃で3時間加熱した。得られたポリマーはMp=14.0万、ケイ素原子に結合した置換基の総量に対するシクロヘキシル基の割合は6.5%であった。
【0055】
このポリマーをトルエンに溶解して0.5重量%の溶液とし、実施例6と同様の方法でポリエチレン多孔質支持体との複合膜を作製した。得られた複合膜における分離層の厚みは0.6μmであり、酸素透過速度は580×10−6cm(STP)/cm・sec・cmHg、酸素透過速度と窒素透過速度の比(分離係数)は2.0であった。
[実施例9]
実施例1で合成したα−ジメチルビニルシリル−ω−ジメチルビニルシロキシ−ポリ(シクロヘキシルメチルシロキサン−co−ジメチルシロキサン)の代わりに実施例4で合成したα−ジメチルビニルシリル−ω−ジメチルビニルシロキシ−ポリ(シクロヘキシルメチルシロキサン−co−ジメチルシロキサン)を用いた以外は実施例7と同様の方法でポリマーを合成した。得られたポリマーはMp=108,000、ケイ素原子に結合ししている置換基の総量に対するシクロヘキシル基の割合は0.45モル%であった。
【0056】
このポリマーをトルエンに溶解し2.0重量%の溶液とし、実施例6と同様の方法でポリエチレン多孔質支持体との複合膜を作製した。得られた複合膜における分離層の厚みは1.3μmであり、酸素透過速度は1200×10−6cm(STP)/cm・sec・cmHg、酸素透過速度と窒素透過速度の比(分離係数)は1.5であった。
[実施例10]
実施例2で合成したα−ジメチルビニルシリル−ω−ジメチルビニルシロキシ−ポリ(シクロヘキシルメチルシロキサン−co−ジメチルシロキサン)5gと実施例5で合成したα−ヒドロジメチルシリル−ω−ヒドロジメチルシロキシ−ポリ(シクロヘキシルメチルシロキサン−co−ジメチルシロキサン)を用い、実施例8と同様の方法でポリマーを合成した。得られたポリマーはMp=130,000、ケイ素原子に結合した置換基の総量に対するシクロヘキシル基の割合は35%であった。
【0057】
このポリマーをトルエンに溶解し0.5重量%の溶液とし、実施例6と同様の方法でポリエチレン多孔質支持体との複合膜を作製した。得られた複合膜における分離層の厚みは0.5μmであり、分離係数は2.3であったが、酸素透過速度は97×10−6cm(STP)/cm・sec・cmHgであった。
[比較例1]
α−ジメチルビニルシリル−ω−ジメチルビニルシロキシ−ポリジメチルシロキサンであるGelest社製のDMS−V41(商品名)5.8gとα−ヒドロジメチルシリル−ω−ヒドロジメチルシロキシ−ポリジメチルシロキサンであるGelest社製のDMS−H41(商品名)6.3gとトルエン50gを混合し、ここに白金触媒としてユミコアプレシャスメタルズ社製PT−VTSC−3.0X(商品名)を14mg添加し窒素雰囲気下80℃で4時間加熱した。得られたポリマーはMp=180,000であった。
【0058】
このポリマーをトルエンに溶解して1重量%の溶液とし、実施例6と同様の方法でポリエチレン多孔質支持体との複合膜を作製した。得られた複合膜における分離層の厚みは1.1μmであり、酸素透過速度は2000×10−6cm(STP)/cm・sec・cmHg、分離係数は1.1であった。
[比較例2]
側鎖にSiH基を有するポリメチルハイドロジェンシロキサンであるGelest社製のHMS−992(商品名)0.8gと側鎖にビニル基を有するポリシロキサンであるGelest社製のVDT−954(商品名)10gとトルエン50gを混合し、ここに白金触媒としてユミコアプレシャスメタルズ社製PT−VTSC−3.0X(商品名)を80mg添加し窒素雰囲気下80℃で10分間加熱した。得られたポリマー溶液にトルエンを添加し1重量%の溶液とし、実施例6と同様の方法でポリエチレン多孔質支持体との複合膜を作製した。得られた複合膜における分離層の厚みは1.0μであり、酸素透過速度は2300×10−6cm3(STP)/cm・sec・cmHg、分離係数は1.1であった。
[参考例1]
α−ヒドロジメチルシリル−ω−ヒドロジメチルシロキシ−ポリ(フェニルメチルシロキサン−co−ジメチルシロキサン)の合成
フェニルメチルジクロロシラン76gとジメチルクロロシラン77gを用いて実施例3と同様の方法を行った。得られたポリマーはMp=30,000、ケイ素原子に結合している置換基の総量に対するフェニル基の割合は20モル%であった。
[比較例3]
実施例3で合成したα−ヒドロジメチルシリル−ω−ヒドロジメチルシロキシ−ポリ(シクロヘキシルメチルシロキサン−co−ジメチルシロキサン)の代わりに参考例1で合成したα−ヒドロジメチルシリル−ω−ヒドロジメチルシロキシ−ポリ(フェニルメチルシロキサン−co−ジメチルシロキサン)を使用した以外は、実施例6の方法と同様の方法を行った。得られたポリマーは、Mp=135,000.ケイ素原子に結合している置換基の総量に対するフェニル基の割合は6モル%であった。
【0059】
このポリマーをトルエンに溶解し1重量%の溶液とし、実施例6と同様の方法でポリエチレン多孔質支持体との複合膜を作製した。得られた複合膜における分離層の厚みは1.2μmであり、酸素透過速度は1500×10−6cm(STP)/cm・sec・cmHg、分離係数は1.1であった。
【0060】
以上の結果を表1に示す。
【0061】
【表1】

表1の結果から分かるように、本発明に係る実施例6〜8は、シクロアルキル基としてシクロヘキシル基を含有するオルガノポリシロキサンを用いることにより分離層が1μmより薄くても2以上の分離係数を示した。実施例9ではシクロヘキシル基の含有量が低下することで分離係数が若干低下する傾向がみられ、実施例10ではシクロヘキシル基の含有量が多いため酸素透過速度が低下する傾向がみられた。従って特定範囲のシクロヘキシル基含有量が好適であることが分かる。
【0062】
一方、シクロアルキル基を含有しない比較例1〜3では分離層が1μmよりも厚くても分離係数が低く分離層にピンホールが生じやすい傾向にあることが分かった。すなわち、シクロアルキル基を含有するオルガノポリシロキサンを使用することでピンホールを生じることなく分離層を薄膜化することが可能となり、有効な分離係数を有し透過速度の大きな膜が得られることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の気体分離膜用オルガノポリシロキサンおよび気体分離膜は、燃焼機器、空調機器、医療機器、健康機器等の分野における空気からの酸素富化用途として好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で示される繰り返し単位を含有する気体分離膜用オルガノポリシロキサン(A)。
【化1】


(式中、Rはシクロアルキル基を表し、mおよびnは各々独立に1以上の整数を表す。)
【請求項2】
上記式(I)で表される繰り返し単位を含有しかつ1分子中にケイ素原子に結合したアルケニル基を少なくとも2個有するオルガノポリシロキサン(B)、および上記式(I)で表される繰り返し単位を含有しかつ1分子中にケイ素原子に結合した水素原子を少なくとも2個有するオルガノポリシロキサン(C)の反応物であることを特徴とする請求項1に記載の気体分離膜用オルガノポリシロキサン(A)。
【請求項3】
上記式(I)で表される繰り返し単位を含有しかつ1分子中にケイ素原子に結合したアルケニル基を少なくとも2個有するオルガノポリシロキサン(B)、および1分子中にケイ素原子に結合した水素原子を少なくとも2個有するポリメチルハイドロジェンシロキサン(D)の反応物であることを特徴とする請求項1に記載の気体分離膜用オルガノポリシロキサン(A)。
【請求項4】
1分子中にケイ素原子に結合したアルケニル基を少なくとも2個有するポリメチルアルケニルシロキサン(E)、および上記式(I)で表される繰り返し単位を含有しかつ1分子中にケイ素原子に結合した水素原子を少なくとも2個有するオルガノポリシロキサン(C)の反応物であることを特徴とする請求項1に記載の気体分離膜用オルガノポリシロキサン(A)。
【請求項5】
シクロアルキル基Rの含有量が、ケイ素原子に結合している置換基の総量に対して0.1〜30モル%であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の気体分離膜用オルガノポリシロキサン(A)。
【請求項6】
シクロアルキル基Rがシクロヘキシル基またはシクロペンチル基であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の気体分離膜用オルガノポリシロキサン(A)。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のオルガノポリシロキサン(A)を分離層として用いることを特徴とする気体分離膜。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかに記載のオルガノポリシロキサン(A)からなる分離層を多孔質支持体上に積層してなることを特徴とする気体分離膜。

【公開番号】特開2007−269938(P2007−269938A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−96277(P2006−96277)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】