説明

気泡シールド工法用起泡剤

【課題】 起泡力、生分解性に優れた気泡シールド工法用の起泡剤を提供する。
【解決手段】 下記一般式(1)
RCH=CH(CH2nSO3Z ・・・(1)
(式中、Rは炭素数8〜30の脂肪族炭化水素基、nは0〜5、Zはアルカリ金属および/またはアルカリ土類金属である。)で表わされるアルファオレフィンスルホン酸塩を有効成分として含むことを特徴とする気泡シールド工法用起泡剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は気泡シールド工法用起泡剤に関する。
【背景技術】
【0002】
起泡剤を含む液体を発泡させて生じる気泡を土圧シールドの推進方面に吹き付け、掘削土と気泡を攪拌混合させながら掘削する工法、即ち切羽の掘削抵抗低減と摩擦低減及び掘削土運搬処理の作業性を向上させた気泡シールド工法が提案されている。(例えば、特許文献1および特許文献2参照)
この気泡シールド工法で使用される起泡剤としては、動物性加水分解蛋白質などの蛋白系起泡剤及びアルキルエーテル硫酸エステル塩などの界面活性剤系起泡剤が提案されている。また、特許文献3では、アルキルエーテル硫酸エステル塩と高級アルコールとを併用した気泡シールド工法用起泡剤が、特許文献4では、アルキルエーテル硫酸エステル塩とポリアルキレングリコールとを併用した気泡シールド工法用起泡剤も提案されている。
【0003】
【特許文献1】特開昭55−45936号公報
【特許文献2】特開昭57−29792号公報
【特許文献3】特開2003−314191号公報
【特許文献4】特開2003−342560号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、これらの起泡剤は起泡力には優れるものの、気泡の生分解性については充分でないといった問題点が指摘されていた。
気泡シールド工法では掘削土と気泡が混合された気泡混合掘削土に消泡剤を添加して気泡を消泡後、セメント系固化材等を混合して、建築材料や土木材料などに一部は利用されているが、ほとんどは河川や湾岸などへの埋め立て材料として使用されている場合が多い。埋め立て材料として利用する場合、環境への配慮を充分考慮しなければならず、かような観点から、生分解性に優れた起泡剤が望まれている。
【0005】
そこで本発明は、気泡シールド工法に用いられる起泡力、生分解性に優れた起泡剤を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明の気泡シールド工法用起泡剤は、
下記一般式(1)
RCH=CH(CH2nSO3Z ・・・(1)
(式中、Rは炭素数8〜30の脂肪族炭化水素基、nは0〜5、Zはアルカリ金属および/またはアルカリ土類金属である。)で表わされるアルファオレフィンスルホン酸塩を有効成分として含むことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の気泡シールド工法用起泡剤は、優れた起泡力を有するとともに、生分解性に優れていることから環境汚染の問題を解消することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
一般式(1)中におけるRで表わされる炭素数8〜30の脂肪族炭化水素基は、飽和または不飽和のいずれでもよく、また、直鎖または分岐のいずれでもよい。例えば、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、エイコシル基、オレイル基、リノレイル基、リノレニル基などが挙げられる。これらのうち、炭素数8〜20のものが起泡力の観点から好ましく、特に好ましいのはテトラデシル基である。
【0009】
一般式(1)中におけるnはメチル基の平均モル数を示し、0〜5の範囲である。付加モル数が5を超えると起泡力が悪くなる。
【0010】
また、一般式(1)中のZはアルカリ金属、アルカリ土類金属または両者の混合物を示し、例えばリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ラジウム、およびこれらの2種類以上の混合物が挙げられる。これらのうち、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、バリウムが好ましく、特に好ましいものはナトリウム、カリウム、カルシウムである。
【0011】
アルファオレフィンスルホン酸塩は、アルファオレフィンのスルホン化により製造できるが、通常はアルケニルスルホン酸塩とヒドロキシアルカンスルホン酸塩の混合物として得られるため、市販品としてもこれらの混合物として入手できる。
【0012】
本発明の起泡剤には必要に応じて、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤、両性界面活性剤、脂肪酸、水溶性無機金属塩、水溶性有機溶媒、水溶性高分子、分散剤などを併用しても良い。特にアニオン界面活性剤や水溶性有機溶媒は、起泡剤水溶液の安定性を向上させる効果がある。
【0013】
アニオン界面活性剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル酸エステル塩、アルキルエーテル硫酸エステル塩などが挙げられ、これらの1種または2種以上の混合物が使用できる。これらのうち、好ましいものはアルキルエーテル硫酸エステル塩である。
アニオン界面活性剤の添加量は、アルファオレフィンスルホン酸塩100質量部に対して通常0〜100質量部、好ましくは10〜50質量部である。
【0014】
カチオン界面活性剤としては、本発明の起泡剤の起泡性を阻害しないものを用いる必要があり、例えば、モノアルキルアンモニウムクロライド、ジアルキルアンモニウムクロライド、EO付加アンモニウムクロライド、テトラメチルアンモニウムクロライド、ベンジルトリメチルアンモニウムクロライドなどが挙げられる。好ましくはモノアルキルアンモニウムクロライドである。
カチオン界面活性剤の添加量は、アルファオレフィンスルホン酸塩100質量部に対して通常0〜100質量部、好ましくは1〜30質量部である。
【0015】
ノニオン界面活性剤としては、アルキルエーテル型、アルキルフェノール型、アルキルエステル型、ソルビタンエステル型、ソルビタンエステルエーテル型などが挙げられ、これらの1種または2種以上の混合物が使用できる。これらのうち、好ましいものはアルキルエーテル型である。
ノニオン界面活性剤の添加量は、アルファオレフィンスルホン酸塩100質量部に対して通常0〜100質量部、好ましくは1〜30質量部である。
【0016】
両性界面活性剤としては、本発明の起泡剤の起泡性を阻害しないものを用いる必要があり、例えば、アラニン型、イミダゾリニウムベタイン型、アミノプロピルベタイン型、アミノジプロピオン型などが挙げられる。好ましくはイミダゾリニウムベタイン型である。
両性系界面活性剤の添加量は、アルファオレフィンスルホン酸塩100質量部に対して通常0〜100質量部、好ましくは1〜30質量部である。
【0017】
脂肪酸としては、直鎖または分岐、天然または合成、飽和または不飽和のいずれでもよく、例えばカプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸、牛脂脂肪酸、オレイン酸、ヒマシ硬化脂肪酸、リノール酸、パルミトレイン酸、リノレン酸などが挙げられ、これらの1種または2種以上の混合物が使用できる。これらのうち、好ましいものはステアリン酸やパルミチン酸である。
脂肪酸の添加量は、アルファオレフィンスルホン酸塩100質量部に対して通常0〜50質量部、好ましくは0.1〜10質量部である。
【0018】
水溶性無機金属塩としては、例えばナトリウム塩(硫酸ナトリウム、塩化ナトリウムなど)、カリウム塩(硫酸カリウム、塩化カリウムなど)、マグネシウム塩(硫酸マグネシウム、塩化マグネシウムなど)、カルシウム塩(硫酸カルシウム、塩化カルシウムなど)などが挙げられ、これらの1種または2種以上の混合物が使用できる。これらのうち、好ましいものは硫酸マグネシウムや硫酸ナトリウムである。
水溶性無機金属塩の添加量は、アルファオレフィンスルホン酸塩100質量部に対して通常0〜50質量部、好ましくは0.01〜10質量部である。
【0019】
水溶性有機溶媒としては、本発明の起泡剤の起泡性を阻害しないものを用いる必要があり、例えばセロソルブ系溶剤(メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブなど)、カルビトール類(エチルカルビトール、ブチルカルビトールなど)、エチレンオキシドの付加モル数が3〜10のポリオキシエチレン低級アルキルエーテル、ジオール類(エチレングリコール、ジエチレングリコールなど)、アルコール類(エチルアルコール、ラウリルアルコールなど)などが挙げられ、これらの1種または2種以上の混合物が使用できる。これらのうち、好ましいものはセロソルブ系溶剤およびジオール類であり、具体的にはブチルセロソルブ、イソブチルセロソルブ、エチレングリコール、ジエチレングリコールである。
水溶性有機溶媒の添加量は、アルファオレフィンスルホン酸塩100質量部に対して通常0〜100質量部、好ましくは5〜70質量部である。
【0020】
水溶性高分子としては、例えばセルロース系誘導体(メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースなど)、ポリビニルアルコール、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルエーテル、ポリエチレングリコールなどが挙げられ、これらの1種または2種以上の混合物が使用できる。好ましいものはセルロース系誘導体である。
水溶性高分子の添加量は、アルファオレフィンスルホン酸塩100質量部に対して通常0〜30質量部、好ましくは0.01〜20質量部である。
【0021】
分散剤としては、本発明の起泡剤の起泡性を阻害しないものを用いる必要があり、例えばナフタレンスルホン酸系、アルキルナフタレンスルホン酸系、ポリカルボン酸系、ポリスチレンスルホン酸系、アルキルアミン型、アルキルフェノール型などが挙げられる。好ましいものはポリカルボン酸系である。
分散剤の添加量は、アルファオレフィンスルホン酸塩100質量部に対して通常0〜100質量部、好ましくは1〜50質量部である。
【0022】
本発明の起泡剤を気泡シールド工法に使用するに際しては、起泡剤をあらかじめ水溶液の形で泡立たせておき、この気泡を掘削面に送り掘削土と混合して使用する方法や、発泡装置を用いて発泡させた気泡を、連続的に掘削面に送り掘削土と混合して使用する方法などを採用することができる。
【0023】
起泡剤をあらかじめ水溶液の形で泡立たたせる方法や、発泡装置を用いて気泡を作製する方法のいずれにおいても、気泡を掘削面に送り掘削土と混合して使用する場合には、起泡剤の起泡効果を阻害させない範囲で、必要に応じて従来から慣用されている各種混和剤を併用することも可能である。これらの混和剤としては、公知の水溶性高分子(メチルセルロース、ポリアクリル酸ナトリウムなど)、増粘剤(キサンタンガム、グアーガム、アルギン酸ナトリウムなど)、粘土鉱物(ベントナイトなど)、高吸水性樹脂などを挙げることができる。
【実施例】
【0024】
以下に実施例を挙げて本発明の効果を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0025】
[実施例1]:生分解性試験
一般式(1)の本発明の起泡剤としてアルファオレフィンスルホン酸ナトリウム(商品名「リポランLB−440」、ライオン(株)製:RCH=CH(CH2nSO3NaとRCH2CH(OH)(CH2mSO3Naとの混合物(Rの炭素数14))を使用して、この起泡剤の生分解性を調べた。生分解性試験は、(財)日本下水道協会発行「下水試験方法 上巻」 第2編 第3章 第12節の3に記載されている下水試験方法(主にJIS K3363「合成洗剤の生分解度試験方法」による方法)に準じて行った。この方法は、微生物源に下水処理場の活性汚泥を用い、試験物質濃度30mg/Lとした基礎培養液を、好気的に振とう培養して試験物質を活性汚泥により分解させ、所定日数後の培養液中の試験物質残存量を定量する方法である。
【0026】
<基礎培養液の調製>
次の試薬を精製水1Lに溶解して調製する。
塩化アンモニウム (NH4Cl) 3.0g
りん酸1水素カリウム(K2HPO4) 1.0g
硫酸マグネシウム (MgSO4) 0.25g
塩化カリウム (KCl) 0.25g
塩化鉄(II) (FeCl2) 0.002g
酵母エキス 0.3g
【0027】
<活性汚泥の調製>
基礎培養液500mLを含む容量1Lのフラスコに、試験物質を30mg/Lになるように添加し、活性汚泥を5mL添加してから25±3℃で振とうによる72時間馴化培養を2回行う。活性汚泥は、主として生活排水を処理している活性汚泥法の返送汚泥で、MLSSが5700mg/Lになるように調整したものを、採取後5時間以内に使用した。
【0028】
<生分解性試験方法>
活性汚泥5mLが入っている容量500mLの平底フラスコに基礎培養液を加えて250mLとし、試験物質(アルファオレフィンスルホン酸ナトリウム)30mg/Lを添加してから、25±3℃で振とうし(170rpm前後で往復振とう機使用)、培養開始時、培養1日後、3日後、7日後、8日後に1時間静置後の上澄み培養液を一部採取し、試験物質の残存量を分析した。培養開始前の試験物質分析量が試験物質初期濃度となる。
なお、対照試験として、標準物質としての直鎖−ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(商品名「ドデセン−1−LAS」、和光純薬工業(株)製:C1225(C64)SO3Na)を用いて同様の操作を行った。また、試験物質や標準物質を全く添加していない系(空試験)についても同様に行った。結果を表1に併せて示す。
【0029】
<生分解度の算出>
生分解度(%)は次式により算出した。

Dt:t日後の生分解度(%)
So:試験開始時の試験物質又は標準物質の濃度(mg/L)
Bo:試験開始時の空試験値
St:t日後の試験物質又は標準物質の濃度(mg/L)
Bt:t日後の空試験値
短い日数で生分解度の数値が高まる程、生分解性が良好といえる。
【0030】
【表1】

【0031】
表1中の標準物質については、培養7日後の生分解率が97.5%以上であれば、生分解性試験が有効に行われていることを示しており、今回行った生分解性試験が有効に行われたことが確認できる。表1の結果から、本発明の起泡剤であるアルファオレフィンスルホン酸ナトリウムは、標準物質よりも生分解性に優れていることがわかる。
【0032】
[実施例2]:発泡試験
一般式(1)の本発明の起泡剤としてアルファオレフィンスルホン酸ナトリウム(商品名「リポランLB−440」、ライオン(株)製)を使用して、有効成分であるアルファオレフィンスルホン酸ナトリウムが0.5質量%および1質量%となるように水で調整した希釈水溶液を調製し、下記の発泡条件で発泡させて最高発泡倍率を測定した。
発泡条件 空気吐出量:10L/分
空気圧力: 0.4MPa
水温・気温:20±2℃
【0033】
発泡は豆碍子入り発泡装置を用いて行い、希釈水溶液流量をバルブで調整して、気泡を1L容器に採りその質量(g)を測定し、次式により発泡倍率を算出した。結果を表2に示す。
発泡倍率(倍)=1000/気泡の質量(g)
発泡倍率が大きい程、起泡剤の気泡力が優れているといえる。
【0034】
なお比較例として、一般に慣用されているアニオン界面活性剤の起泡剤であるポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム(商品名「サンノールNL−1430」、ライオン(株)製:RO(CH2CH2O)nSO3Na(Rの炭素数12))を用いて、同様の発泡試験を行った。結果を表2に併せて示す。
【0035】
【表2】

【0036】
表2の結果から、本発明の起泡剤であるアルファオレフィンスルホン酸ナトリウムは、従来のアニオン界面活性剤の起泡剤と同等またはそれ以上の気泡力を有していることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
RCH=CH(CH2nSO3Z ・・・(1)
(式中、Rは炭素数8〜30の脂肪族炭化水素基、nは0〜5、Zはアルカリ金属および/またはアルカリ土類金属である。)
で表わされるアルファオレフィンスルホン酸塩を有効成分として含むことを特徴とする気泡シールド工法用起泡剤。

【公開番号】特開2007−2168(P2007−2168A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−186441(P2005−186441)
【出願日】平成17年6月27日(2005.6.27)
【出願人】(595024869)第一化成産業株式会社 (5)
【Fターム(参考)】