説明

気泡塔型炭化水素合成反応器

【課題】 フィッシャー・トロプシュ合成反応を行うための気泡塔型炭化水素合成反応器において,メインの合成ガスの吹き込み口の他にガス吹き込みノズルを設けることなく,反応器内の液体炭化水素中に触媒粒子を均等に分散させることを目的とする。
【解決手段】 本発明に係る気泡塔型炭化水素合成反応器1においては,液体炭化水素122中に固体の触媒粒子124を懸濁させたスラリー12を収容する反応器本体と,反応器本体12の下部に配設され,合成ガスを下方に噴射してスラリー12に供給する反応ガス供給部20と,反応ガス供給部20から噴射される合成ガスの噴射方向に配置され,スラリー12の流れを制限する障壁部材30とを設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,気泡塔型炭化水素合成反応器に関し,特に,液体炭化水素中に固体の触媒粒子を懸濁させたスラリー中に合成ガスを吹き込んでフィッシャー・トロプシュ合成反応を行うための反応器に関する。
【背景技術】
【0002】
水素と一酸化炭素を主成分とする合成ガスから炭化水素化合物と水を生成するフィッシャー・トロプシュ合成反応(以下,「FT反応」という。)の反応システムの1つとして,液体炭化水素中に固体の触媒粒子を懸濁させたスラリー中に合成ガスを吹き込んでFT反応を行わせる気泡塔型スラリー床FT反応システムがある。なお,FT反応により合成された炭化水素化合物は,主に燃料油や潤滑油の原料などとして利用される。
【0003】
この気泡塔型スラリー床FT反応システムに供するFT反応器においては,反応器内部の反応温度を均一に保つため,反応器内の液体炭化水素中に触媒粒子を均等に分散させる必要がある。ところが,触媒粒子は,液体炭化水素に比べて比重が大きいのが通常であり,そのために触媒粒子は反応器底部付近に偏在する傾向がある。
【0004】
このような問題を解決する方法として,メインの合成ガスの吹き込み口(ディストリビュータ)の上部に,第2のガス吹き込みノズルを設けることで,触媒粒子の分散状態を改善させる方法がある(例えば,特許文献1を参照)。
【0005】
【特許文献1】米国特許第5,252,613号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら,上記特許文献1に記載されたような第2のガス吹き込みノズルを設ける方法では,ガス吹き込み用ノズルを複数設置する必要があるため,反応器内部の構造および反応器外部の配管が複雑になる,という問題があった。
【0007】
また,上記複数のガス吹き込みノズルの間でスラリー中に供給するガスの流量を調整する必要があり,そのための調整機構(例えば,調節弁など)が必要となる,という問題もあった。
【0008】
そこで,本発明は,このような問題に鑑みてなされたもので,フィッシャー・トロプシュ合成反応を行うための気泡塔型炭化水素合成反応器において,メインの合成ガスの吹き込み口の他にガス吹き込みノズルを設けることなく,反応器内の液体炭化水素中に触媒粒子を均等に分散させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは,上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果,合成ガスの吹き込み口(ディストリビュータ)の直下に触媒粒子よりも目の細かいスクリーンを設置することで,このスクリーン上に堆積しようとする触媒粒子を,噴出されたガスの撹拌作用によりスラリー中へ分散させることができることを見出し,この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち,本発明の主旨とするところは,以下のとおりである。
(1)液体炭化水素中に固体の触媒粒子を懸濁させたスラリーを収容する反応器本体と;前記反応器本体の下部に配設され,水素および一酸化炭素を主成分とする合成ガスを下方に噴射して前記スラリーに供給する反応ガス供給部と;前記反応ガス供給部から噴射される合成ガスの噴射方向に配置され,前記スラリーの流れを制限する障壁部材と;を備えたことを特徴とする,気泡塔型炭化水素合成反応器。
(2)前記障壁部材は,前記反応ガス供給部から噴射される合成ガスが到達する範囲内に設置されることを特徴とする,(1)に記載の気泡塔型炭化水素合成反応器。
(3)前記障壁部材は,前記反応器本体の高さ方向に垂直な水平面に平行となるように設置されることを特徴とする,(1)に記載の気泡塔型炭化水素合成反応器。
(4)前記障壁部材は,前記スラリー中の触媒粒子のみの流れを制限するフィルタ要素を含むことを特徴とする,(1)に記載の気泡塔型炭化水素合成反応器。
(5)前記フィルタ要素は,前記障壁部材の一部に設けられていることを特徴とする,(4)に記載の気泡塔型炭化水素合成反応器。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば,フィッシャー・トロプシュ合成反応を行うための気泡塔型炭化水素合成反応器において,ディストリビュータから噴射されたガスの撹拌作用により,障壁部材上に堆積された触媒粒子が撹拌され,スラリー中への分散効果を高めることができる。したがって,このことにより,反応器内部の温度をより均一に保つことができ,生成物(製品)である液体炭化水素の組成を安定させることが可能である。
【0012】
また,ガスの吹き込みノズルを複数設置する必要がないため,反応器の内部構造や反応器外部の配管形状を単純にすることができる。さらに,複数のガス吹き込みノズルの間で,スラリー中に供給するガスの流量を調整するための機構も必要としない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に添付図面を参照しながら,本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお,本明細書及び図面において,実質的に同一の機能構成を有する構成要素については,同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0014】
(第1の実施形態)
まず,図1に基づいて,本発明の第1の実施形態に係る気泡塔型炭化水素合成反応器の一例としての気泡塔型スラリー床FT合成反応器1(以下,単に「FT反応器1」という。)の構成について説明する。なお,図1は,本実施形態に係るFT反応器1の全体構成を示す縦断面図である。
【0015】
図1に示すように,本実施形態に係るFT反応器1は,反応器本体10と,ディストリビュータ20と,障壁部材30と,冷却管40と,を主に備える。
【0016】
反応器本体10は,直径が1〜20m程度,好ましくは2〜10m程度,高さが10〜50m程度,好ましくは15〜45m程度の略円筒型の金属製の容器であり,その内部には,液体炭化水素(FT反応の生成物)122中に,固体の触媒粒子124を懸濁させたスラリー12が収容される。
【0017】
ディストリビュータ20は,本実施形態に係る反応ガス供給部の一例であり,反応器本体10の下部に配設され,水素および一酸化炭素を主成分とする合成ガスを下方に噴射してスラリー12に供給する。このディストリビュータ20は,合成ガス供給管22と,合成ガス供給管22の先端部に取り付けられたノズルヘッダー24と,ノズルヘッダー24の側部に設けられた複数の合成ガス供給ノズル26とを備えるが,その詳細については後述する。
【0018】
障壁部材30は,ディストリビュータ20から噴射される合成ガスの噴射方向,すなわち,ディストリビュータ20の下方に設置され,スラリー12の流れを制限する。また,障壁部材30は,スラリー12中の触媒粒子124のみの流れを制限するフィルタ要素を含んでいてもよい。このフィルタ要素により液体炭化水素122と触媒粒子124とを分離して,液体炭化水素122だけを反応器本体10の底部に設けられた液体炭化水素排出口14から排出することができる。一方,液体炭化水素122を反応器本体10の底部から排出する必要のないときは,障壁部材30にフィルタ要素を設けなくてもよい。なお,障壁部材30の詳細については後述する。
【0019】
冷却管40は,反応器本体10の内部に反応器本体10の高さ方向に沿って設けられ,FT合成反応により発生する熱により温度が上昇したスラリー12を冷却する。この冷却管40は,例えば,図1に示すように,1本の管が鉛直方向に沿って上下に複数回(例えば,図1では2往復)するような形状に形成することができる。ただし,冷却管の形状および本数は上記形状および本数に限られるわけではなく,反応器本体10内部に均等に配置されて,スラリー12を均等に冷却することに寄与できるものであればよい。例えば,バイヨネット型と呼ばれる二重管構造の冷却管を反応器本体10内部に複数配置してもよい。
【0020】
この冷却管40内には,冷却管入口42から導入された,例えば反応器本体10内の温度との差が−50〜0℃程度の冷却水が流通しており,この冷却水が冷却管40内を通り,冷却水の一部が水蒸気となって冷却管出口44から排出されることにより,反応器本体10内部のスラリー12が冷却される。なお,スラリー12を冷却するための媒体としては,上記のような冷却水に限られず,例えば,C4〜C10の直鎖,分岐鎖および環状のパラフィン,オレフィン,低分子量シラン,シリルエーテル,シリコンオイルなどを使用することができる。
【0021】
次に,図1〜図3に基づいて,本実施形態に係るディストリビュータ20および障壁部材30の構成および作用について詳細に説明する。なお,図2(a)は,図1に示したFT反応器1の要部を拡大した縦断面図であり,図2(b)は,図2(a)に示したディストリビュータ20を構成する合成ガス供給ノズル26の拡大縦断面図であり,図3は,図2(a)に示したFT反応器1をIII−III線で切断した横断面図である。
【0022】
ディストリビュータ20は,上述したように,合成ガス供給管22と,ノズルヘッダー24と,複数の合成ガス供給ノズル26とを備える。
【0023】
合成ガス供給管22は,反応器本体10の側面を貫通し,反応器本体10の中央部付近で鉛直方向下方に向かって屈曲している。屈曲した合成ガス供給管22の先端部には,ノズルヘッダー24が取り付けられており,このノズルヘッダー24は,反応器本体10の径方向に延設されている。また,ノズルヘッダー24の長手方向両側部には,ノズルヘッダー24と略直交する方向に複数(本実施形態ではノズルヘッダー24の片側に9本ずつ)の合成ガス供給ノズル26が設けられている。ここで,合成ガスが反応器本体10内部のスラリー12に均等に供給されるように,本実施形態では,各合成ガス供給ノズル26の長さは,反応器本体10の形状に応じて,ノズルヘッダー24の中央部に行くほど長く,両端部に行くほど短くなるように形成されている。ただし,ノズルヘッダー24や合成ガス供給ノズル26の形状や数は特に限定されない。
【0024】
さらに,合成ガス供給ノズル26には,図2(b)および図3に示すように,その長手方向に沿って複数の合成ガス噴射口26a,26b,26cが形成されている(図3においては,説明の便宜のため,噴射口26a,26cを図示していない)。この合成ガス噴射口26a〜26cは,合成ガスが下方(反応器本体10の底部の方向)へ噴射されるように,合成ガス供給ノズル26の鉛直方向下側半分の範囲内に形成されることが好ましい。ただし,合成ガス噴射口26a〜26cは,必ずしも合成ガス供給ノズル26の鉛直方向下側半分の範囲内に形成される必要はなく,合成ガスが下方に向けて噴射されるような構造であれば,任意の位置に形成することができる。また,合成ガスが下方に向けて噴射される噴射口に加えて,合成ガスが上方に向けて噴射される噴射口が鉛直方向上側に形成されていてもよい。
【0025】
なお,図2(b)に示すように,本実施形態に係る合成ガス噴射口26a〜26cは,合成ガスを効率よく均等に噴射するために,隣り合う噴射口による合成ガスの噴射方向が45°ずれるように形成されているが,合成ガス噴射口26a〜26cの配置は上記の配置に限定されるわけではない。また,噴射口の数は,3個に限定されるものではない。
【0026】
上述したような構成を有するディストリビュータ20においては,反応器本体10の外部から合成ガス供給管22を通じて供給された合成ガスは,合成ガスノズルヘッダー24の内部を通過し,合成ガス供給管26の下部側(反応器本体10の底部側)に設けられた合成ガス供給口26a,26b,26cから下方(図の細矢印で示した方向)に向かって噴射される。このようにしてディストリビュータ20から吹き込まれた合成ガスは,気泡28となって,スラリー12中を反応器本体10の高さ方向(鉛直方向)下方から上方へ向かって流れる際に液体炭化水素122中に溶解し,触媒粒子124と接触することにより,液体炭化水素の合成反応(FT合成反応)が行われる。
【0027】
また,上記のように合成ガスが反応器本体10の底部から吹き込まれ,吹き込まれた合成ガスが気泡28となって反応器本体内を上昇することにより,反応器本体10内部においては,図1に太矢印で示したように,中央部(反応器本体10の中心軸付近)にスラリー12の上昇流が生じるとともに,反応器本体10の内壁付近(円周部付近)には主として下降流が生じる。
【0028】
障壁部材30は,図2(a)に示すように,本実施形態に係るフィルタ要素の一例としてのスクリーン32と,スクリーン32を下方から支持するスクリーン支持部材34とからなり,ディストリビュータ20から噴射された合成ガスの噴射方向,すなわち,ディストリビュータ20の下方に設置される。
【0029】
スクリーン32は,例えば,触媒粒子124の粒径よりも小さなスリット幅を有する複数のスリットを含み,触媒粒子124を透過させず,液体炭化水素122および気泡28のみを透過させるフィルタとすることができる。したがって,このスクリーン32を反応器本体10の底部に設置することにより,スクリーン32より下方への触媒粒子の流れだけが制限される。
【0030】
スクリーン支持部材34は,スクリーン32を下方から支持する支持部材であり,スクリーン32のフィルタとしての役割を果たすために,少なくとも液体炭化水素122および気泡28が透過可能なように構成されている。
【0031】
ここで,図4を参照しながら,本実施形態に係る障壁部材30の構成について詳細に説明する。なお,図4は,本実施形態に係る障壁部材30の構成を示す上面図であり,(a)はスクリーン32が障壁部材30の全面に設けられた例を示し,(b)はスクリーン32が障壁部材30の一部に設けられた例を示している。
【0032】
まず,スクリーンを障壁部材30の全面に設ける場合には,図4(a)に示すように,障壁部材30の上面全体に,触媒粒子122の粒径よりも小さな幅dを有する複数のスリット32aと,スリット32aの両側に形成されたワイヤー32bとを有するスクリーン32が設置される。このスクリーン32のスリット幅dは,触媒粒子122がスクリーン32の下方へ透過しないように,触媒粒子122の平均粒径よりも十分に小さなものとすることが好ましい。スリット幅dは,触媒粒子の平均粒径の例えば50%以下,好ましくは10〜30%程度とすることが好ましい。
【0033】
このように,触媒粒子122の平均粒径よりも十分に小さなスリット幅dの複数のスリット32aを有するスクリーン32を設置することにより,液体炭化水素122と触媒粒子124とを分離して,液体炭化水素122だけを反応器本体10の底部に設けられた液体炭化水素排出口14から排出することができる。
【0034】
一方,触媒粒子122は,スクリーン32を透過することができないので,スクリーン32上に堆積しようとするが,このスクリーン32上に堆積しようとする触媒粒子122を,上述したディストリビュータ20から合成ガスをスクリーン32に向けて噴射することにより,触媒粒子122が反応器本体10の上方に向かって巻き上げられる。なお,詳細については後述する。
【0035】
次に,スクリーンを障壁部材30の一部に設ける場合には,図4(b)に示すように,例えば,中央に開口部が形成された遮蔽板36の開口部に設置されたスクリーン32が,スクリーン支持部材34により下方から支持される。これにより,反応器本体10内部において,中央部にフィルタ要素としてのスクリーン32が設置され,周縁部(反応器本体10の内壁側)に遮蔽板36が設置された障壁部材が設けられることとなる。
【0036】
上述したような遮蔽板36は,スリット32aが形成されているスクリーン32と異なり,ディストリビュータ20から噴射した合成ガスが下方に透過することがないため,スクリーン32よりも触媒粒子124を効率的に上方に巻き上げることができ,触媒粒子124を反応器本体10内部のスラリー12中に効果的に分散させることができる。また,障壁部材の一部にスクリーンが設置されることにより,反応器本体10内の液体相(液体炭化水素122)を反応器本体10の底部の液体炭化水素排出口14より排出できる。
【0037】
なお,スクリーン32を設ける範囲,すなわち,フランジの開口部の大きさは特に限定されないが,液体炭化水素122の排出効率と触媒粒子124の拡散効果とのバランスを考慮して決定されることが好ましい。また,遮蔽版36としては,同様の形状と,十分な機械的強度および耐熱温度を有するものであれば,鋼板,アルミ板など,任意の材質のものを用いることができる。
【0038】
また,本実施形態のように,フィルタ要素の一例としてのスクリーン32を,障壁部材30の中央部に設け,周縁部を遮蔽板36で覆うようにしたのは,触媒粒子124は障壁部材30の周縁部に堆積しやすいので,周縁部に触媒粒子124の拡散効果に優れる遮蔽板36を配置した方が,より効果的に触媒粒子124をスラリー12中に分散させることができるためである。
【0039】
なお,液体炭化水素122を反応器本体10の底部から排出する必要のないときは,障壁部材30にフィルタ要素を設けずに,障壁部材30として鋼板などの金属板を用いてもよい。この場合は,底部が平坦な反応器を用いることと実質的に変わりはない。
【0040】
また,障壁部材30は,ディストリビュータ20から噴射された合成ガスが到達する範囲内に設置されることが好ましい。具体的には,例えば,障壁部材30とディストリビュータ20との距離が30cm以下,好ましくは10cm程度となるように,障壁部材30を設置することができる。このように,障壁部材30とディストリビュータ20とを十分に近い距離に配置することにより,障壁部材30のスクリーン32上に堆積しようとする触媒粒子に対し,ディストリビュータ20から噴射された合成ガスを直接に吹き付けることにより,触媒粒子122が十分に撹拌され,触媒粒子122をスラリー12中に効果的に分散させることができる。
【0041】
また,障壁部材30は,水平に,すなわち,反応器本体10の高さ方向に垂直な水平面に平行となるように設置される。通常,反応器の圧力容器としての構造的強度を考慮して,反応器本体10の底部は図2(a)等に示すように曲面に形成されているが,このような場合には,反応器本体10底部の中央部にはディストリビュータ20から噴射された合成ガスが到達し難くなるため,その部分に触媒粒子124が堆積し易くなってしまう。そこで,本実施形態のように,障壁部材30を水平に設置することにより,触媒粒子124が堆積することを防止している。
【0042】
次に,図5Aおよび図5Bに基づいて,本実施形態における触媒粒子124の分散方法について説明する。なお,図5Aは,本実施形態における触媒粒子124の分散方法を示す説明図であり,(a)はスクリーン上に触媒粒子が堆積している状態を示し,(b)は触媒粒子が撹拌される状態を示している。また,図5Bは,本実施形態の変形例に係るディストリビュータ200により触媒粒子が撹拌される状態を示す説明図である。また,図5Aおよび図5Bにおいては,説明の便宜のため,FT反応器1の構成については簡略化して記載している。
【0043】
従来のようにガスをディストリビュータ200´から上方に吹き込むノズルを設けている場合には,別途のガス吹き込みノズルを設けて,障壁部材30の下方からガスを吹き込まないと,図5A(a)に示すように,障壁部材30上に触媒粒子124が堆積してしまう。特に,反応器本体10の周縁部(内壁側)に触媒粒子124が堆積しやすくなる。
【0044】
そこで,本実施形態では,図5A(b)に示すように,障壁部材30から十分に近い距離にディストリビュータ20を設け,このディストリビュータ20から障壁部材30に向けて下方にガスを噴射することにより,障壁部材30上に堆積しようとする触媒粒子124を上方に巻き上げ(図5A(b)の太矢印参照),反応器本体10内部のスラリー12中に触媒粒子124を均等に分散させることができる。
【0045】
また,図5Bに示すように,合成ガスを吹き込む反応ガス供給部として,上段吹き込みノズル210と下段吹き込みノズル220の2段のガス吹き込みノズルを有するディストリビュータ200を用いてもよい。この場合は,上段吹き込みノズル210から合成ガスが上方に向けて噴射され,下段吹き込みノズル220から合成ガスが少なくとも下方のスクリーン30に向けて噴射される。なお,下段吹き込みノズル220からは,下方に向けて合成ガスを噴射することに加えて,上方に向けて合成ガスを噴射するようにしてもよい。
【0046】
このように,ガス吹き込みノズルを2段にすることにより,下段吹き込みノズル220からスクリーン30に噴射された合成ガスにより巻き上げられた触媒粒子124を,上段吹き込みノズル210から噴射された合成ガスによるエアリフト効果により,さらに上方へ浮上させることができる。したがって,2段のガス吹き込みノズルを有するディストリビュータ200を使用することにより,図5A(b)に示したような1段のガス吹き込みノズルを有するディストリビュータ20を用いた場合よりも,触媒粒子124の分散効果をさらに向上させることができ,生成される液体炭化水素122の組成をより安定させることができる。
【0047】
以上説明したように,本実施形態に係るFT反応器1によれば,ディストリビュータ20またはディストリビュータ200の下段吹き込みノズル220から噴射したガスを障壁部材30に向けて吹き付けることにより,障壁部材30上に堆積しようとする触媒粒子124が撹拌され,触媒粒子124のスラリー12中への分散を促進することができる。したがって,反応器本体10内部の温度をより均一に保つことができ,これにより,FT反応により合成される生成物である液体炭化水素の組成を安定させることができる。
【0048】
また,反応器本体10内に水平に障壁部材30を設け,この障壁部材30に向けて,ディストリビュータ20またはディストリビュータ200の下段吹き込みノズル220からガスを噴射する構造とすることにより触媒粒子の分散効果を高めることができる。したがって,従来のように,触媒粒子124をスラリー12中に分散させる効果を高めるために,複数のガス吹き込みノズルを設置する必要がないため,反応器本体10内部の構造や反応器本体10外部の配管形状を単純にすることができる。さらに,ガスを吹き込むための部材としてはディストリビュータ20またはディストリビュータ200単独で足りるため,従来のような複数のガス吹き込みノズル間のガスの流量を調整するための機構を設ける必要もない。

【0049】
以上,添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが,本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば,特許請求の範囲に記載された範疇内において,各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり,それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0050】
例えば,上述した実施形態においては,反応器本体10の形状が略円筒状の場合について説明したが,障壁部材または反応器本体の底面上に堆積しようとする触媒粒子を上方に巻き上げて,触媒粒子をスラリー中に均等に分散できるものであれば,反応器本体の形状は特に限定されない。
【0051】
また,上述した実施形態においては,冷却管が1本の管が鉛直方向に沿って上下に複数回往復するような形状である場合について説明したが,反応器本体内部に均等に配置されて,スラリーを均等に冷却することに寄与できるものであれば,冷却管の形状や本数は特に限定されない。例えば,いわゆるバイヨネット型と呼ばれる二重管構造の冷却管を反応器内部に複数配置してもよい。
【0052】
また,上述した実施形態においては,障壁部材に含まれるフィルタ要素として,複数のスリットが形成されたスクリーンを使用した場合について説明したが,上記フィルタ要素としては,特に限定されず,例えば,触媒粒子の粒径よりも十分に小さな口径のメッシュを有するメッシュ状のフィルタであってもよい。また,多孔質の焼結板などを用いることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は,気泡塔型炭化水素合成反応器に適用可能であり,特に,液体炭化水素中に固体の触媒粒子を懸濁させたスラリー中に合成ガスを吹き込んでフィッシャー・トロプシュ合成反応を行うための反応器に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るFT反応器の全体構成を示す縦断面図である。
【図2】(a)は,図1に示した本発明の第1の実施形態に係るFT反応器の要部を拡大した縦断面図であり,(b)は,(a)に示したディストリビュータを構成する合成ガス供給ノズルの拡大縦断面図である。
【図3】図2(a)に示したFT反応器をIII−III線で切断した横断面図である。
【図4】本発明の第1の実施形態に係る障壁部材の構成を示す上面図であり,(a)はスクリーンが全面に設けられた例を示し,(b)はスクリーンが一部に設けられた例を示す。
【図5A】本発明の第1の実施形態における触媒粒子の分散方法を示す説明図であり,(a)はスクリーン上に触媒粒子が堆積している状態を示し,(b)は触媒粒子が撹拌される状態を示している。
【図5B】本発明の第1の実施形態の変形例に係るディストリビュータにより触媒粒子が撹拌される状態を示す説明図である。
【符号の説明】
【0055】
1 気泡塔型スラリー床FT反応器
10 反応器本体
12 スラリー
14 液体炭化水素排出口
20 ディストリビュータ
22 合成ガス供給管
24 ノズルヘッダー
26 合成ガス供給ノズル
26a,26b,26c 合成ガス噴射口
28 気泡
30 障壁部材
32 スクリーン
32a スリット
32b ワイヤー
34 スクリーン支持部材
36 遮蔽板
40 冷却管
42 冷却管入口
44 冷却管出口
122 液体炭化水素
124 触媒粒子
200 ディストリビュータ
210 上段吹き込みノズル
220 下段吹き込みノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体炭化水素中に固体の触媒粒子を懸濁させたスラリーを収容する反応器本体と;
前記反応器本体の下部に配設され,水素および一酸化炭素を主成分とする合成ガスを下方に噴射して前記スラリーに供給する反応ガス供給部と;
前記反応ガス供給部から噴射される合成ガスの噴射方向に配置され,前記スラリーの流れを制限する障壁部材と;
を備えたことを特徴とする,気泡塔型炭化水素合成反応器。
【請求項2】
前記障壁部材は,前記反応ガス供給部から噴射される合成ガスが到達する範囲内に設置されることを特徴とする,請求項1に記載の気泡塔型炭化水素合成反応器。
【請求項3】
前記障壁部材は,前記反応器本体の高さ方向に垂直な水平面に平行となるように設置されることを特徴とする,請求項1に記載の気泡塔型炭化水素合成反応器。
【請求項4】
前記障壁部材は,前記スラリー中の触媒粒子のみの流れを制限するフィルタ要素を含むことを特徴とする,請求項1に記載の気泡塔型炭化水素合成反応器。
【請求項5】
前記フィルタ要素は,前記障壁部材の一部に設けられていることを特徴とする,請求項4に記載の気泡塔型炭化水素合成反応器。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【公開番号】特開2007−197405(P2007−197405A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−20659(P2006−20659)
【出願日】平成18年1月30日(2006.1.30)
【出願人】(306022513)新日鉄エンジニアリング株式会社 (897)
【Fターム(参考)】