説明

気泡発生方法及び装置

【課題】複数又は多数の孔を備える部材を介して互いに隣接する液相と気相において、その気相を媒体として音波を供給することにより、両相間の状態を変化させることができる技術、特に、液相側への気泡の発生、液相側に発生している気泡の微細化及びその発生、微細化、流量、生成動力の制御又は調整を可能にする技術を提供する。
【解決手段】液相Lと気相Gとの間に配置する多孔質体に対してその気相を媒体として音波を供給することにより、液相Lと気相Gとの間の相状態を変化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液相と気相との間の状態を変化させる技術に関し、詳しくは、液相と気相との間に配置する多孔質体に対してその気相を媒体として音波を供給することにより、両相間の状態を変化させる技術、特に、液相側への気泡の発生、液相側に発生している気泡の微細化及びその発生や微細化の制御又は調整を可能にする技術に関する。
【背景技術】
【0002】
互いに隣接する液相と気相との間の相状態の遷移により、例えば、気相から液相への物質移動又はその物質移動状態の変化により、液相中に気泡を発生させたり、液相中に発生する気泡の大きさを変化させたりすることができる。この現象を利用すれば、液相の攪拌効率の向上、洗浄効果の向上、気体と液体との接触面積の増加、液相への気体の吸収効果の向上、化学反応の促進、目詰まり現象の抑制・防止、船舶の摩擦抵抗の低減に代表される有用な効果が期待できるので、この相状態の遷移に関連する技術はこれまで種々案出され、化学工業、醗酵工業、鉄鋼分野、船舶分野、汚水処理、汚泥処理、屎尿処理等の水処理分野、燃焼機器分野、洗濯機、皿洗い機、浴槽等の身近な家電機器の分野等、種々の産
業分野において広く使用されている。
【0003】
例えば、特許文献1に開示されている汚水処理槽はその典型例である。この処理槽では、小さな孔を多数形成した素材を介して気体を槽の下部から供給することによりその気体を微細気泡として槽内に送り込み、これにより槽の上部から引出される水量の脈動を低減している。
【0004】
しかし、複数又は多数の孔を備える部材を用いて微小気泡を発生させる場合には、気体の圧力損失が大きくなるため、気体を液相中に供給するためのポンプその他の設備が大型化し、設備コストや運転コストが増加し、しかも効率が悪いという問題がある。
【0005】
この問題を解決するために、環状の薄膜状に液相中に噴出した気体を超音波で粉砕して微小気泡に変換する技術(特許文献2参照)が開発されている。又、溶融金属にガスを吹き込む場合、多孔質煉瓦を介してガスを気泡に変換するとガス圧損が大きくなるので高圧ガス設備が必要になる。この問題を解決するために、溶融金属に向けて開口するガス配管に所謂ハルトマン発音器を設け、ガス流れを効率良く粗密波に変換して、ガス配管から溶融金属に向けて噴出する気泡を微細化する技術(特許文献3参照)が開発されている。
【0006】
特許文献2及び特許文献3に開示されているような技術(以下まとめて「従来技術A」という。)は、複数又は多数の孔を備える部材を採用しておらず、それ故、当該部材を通過させることにより気相中の気体を気泡に変換し、これを別相に移動させる技術的思想とは無縁であるという点で共通している。
【0007】
これに対して、気体を液相中に供給するためのポンプその他の設備が大型化を回避しながら、複数又は多数の孔を備える部材を用いて気泡を効率良く発生させる技術も開発されている。
【0008】
例えば、特許文献4には、ポンプにより圧力をかけられた気体を液体中に放出する複数孔を備えるノズルに対して超音波振動を与え、このノズルから極めて微小な気泡を発生させることにより、気体と液体の接触面積を増大させることにより、気体を液体によって洗気する洗気装置が開示されている。特許文献5には、空気吹出部を箱型やパイプ状にし、微細な孔を多数空けたものや、スポンジ状ブロックに空気を送り込むことで水中に気泡を発生させると同時に水中に超音波を照射して、この超音波によるキャビテーション効果と化学変化の増進効果を利用して、気泡注の空気に含まれる臭いや煙の成分を水中に溶解させることで空気の浄化を行う空気清浄方法が開示されている。特許文献6には、2mm以下の小さい網目の金網或いは多数の小孔のある孔あき板からなる気泡分割板を備え、水流中に吸引した気体を高速回転のインペラで粉砕し、更にこの気泡分割板の小孔と水流との摩擦力やせん断力によりほぼ一定のサイズの微細気泡にしてから、この小孔から外部の水中に放出する気泡発生装置が開示されている。
【0009】
又、特許文献7には、ポンプにより圧力をかけられた気体を散気管から液相中に放出して気泡を形成させる際に、液相を介して超音波を照射してその気泡をキャビテーション効果により超微細化して気泡と液体との接触面積を増加させ、液相への気体吸収効果を向上させる方法が開示されている。この方法で使用される散気管のヘッド部分は、多数の孔を有しているのが普通である。又、この方法で使用される超音波は16kHz以上であり、超音波は減衰し易いので、散気管と超音波発信装置との距離は、例えば3〜5mmの気泡を形成する散気管の場合には10〜100mmと非常に近接している。
【0010】
上記の特許文献8、特許文献9、特許文献10及び特許文献11の文献に開示されているような技術(以下まとめて「従来技術B」という。)は、複数又は多数の孔を備える部
材を介して互いに隣接する液相と気相において、当該部材を通過させることにより気体を気泡に変換し、これを液相に移動させるという点、並びに液相を媒体として音波又は超音波を当該部材又は発生した気泡に対して供給することにより、その気泡を微細化するという点で共通している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平6−134480号公報
【特許文献2】特開昭63−42724号公報
【特許文献3】特開平4−325619号公報
【特許文献4】特開昭57−171414号公報
【特許文献5】特開平3−288518号公報
【特許文献6】特開昭52−51786号公報
【特許文献7】特公平6−7909号公報
【特許文献8】特開昭57−171414号公報
【特許文献9】特開平3−288518号公報
【特許文献10】特開昭52−51786号公報
【特許文献11】特公平6−7909号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
複数又は多数の孔を備える部材を用いると、液相中に気体を供給するため設備が大型化し、設備コストや運転コストが増加し、効率も低下するという問題は、従来技術Aにおいて指摘又は示唆されている通りである。しかし、当該部材を介して互いに隣接する液相と気相において、例えば液相中に気泡を発生させる技術や、液相中に発生している気泡を微細化させるような両相間の状態遷移を可能にする技術の有用性は、過去においても、現在においても変わるものではなく、将来も同様であろう。両相間の相状態の遷移を可能にする簡便で、安価で、有用性の高い技術は常に求められており、これを如何にして実現するかが問題なのである。本発明は、従来技術Bとは異なるアプローチにより、これを実現する。
【0013】
かくして本発明の目的は、複数又は多数の孔を備える部材を介して互いに隣接する液相と気相において、その気相を媒体として音波を供給することにより、両相間の状態を変化させることができる技術、特に、液相側への気泡の発生、液相側に発生している気泡の微細化及びその発生、微細化、流量、生成動力の制御又は調整を可能にする技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するための本発明に係る第1の形態は、音波の供給がない状態で、多孔質体を挟んで気相側から液相側に気泡が発生している動的状態において、液相と気相との間に配置する多孔質体に対してその気相を媒体として音波を供給することにより、液相側に発生している気泡の発生量を調整することを特徴とする音波による気泡発生方法に関する。
【0015】
本発明に係る第2の形態は、上記第1の形態において、液相と気相との間に配置する多孔質体に対してその気相を媒体として音波を供給することにより、さらに、液相側に発生している気泡の大きさを調整することを特徴とする音波による気泡発生方法に関する。
【0016】
本発明に係る第3の形態は、上記第1または第2の形態において、液相と気相との間に配置する多孔質体に対してその気相を媒体として音波を供給するに当たり、音波供給の有無若しくは強弱又は音波の周波数、周波数の範囲若しくは周波数の組合せを変更することにより、液相側に発生している気泡の発生状態を調整することを特徴とする音波による気泡発生方法に関する。
【0017】
本発明に係る第4の形態は、第1乃至第3の何れかの形態において、気相を内包する屈曲配管又は分岐管の一方出口の側に配置する多孔質体に対して、他方出口から音波を供給する音波による処理方法に関する。
【0018】
本発明に係る第5の形態は、第1乃至第4の何れかの形態において、多孔質体に対して供給される音波が、その多孔質体の形態に固有の周波数又は周波数の範囲を有する音波による処理方法に関する。
【0019】
本発明に係る第6の形態は、第1乃至第5の何れかの形態において、音波の周波数が20kHz未満である音波による処理方法に関する。
【0020】
本発明に係る第7の形態は、液相と気相との間に配置する多孔質体に対してその気相を媒体として音波を供給するに当たり、音波供給の有無若しくは強弱又は音波の周波数、周波数の範囲若しくは周波数の組合せを変更することにより、両相間の状態を切り替える方法に関する。
【0021】
本発明に係る第8の形態は、液相と気相との間に配置する複数個の多孔質体のそれぞれに対してその気相を媒体として音波を供給するに当たり、音波供給の有無若しくは強弱又は音波の周波数、周波数の範囲若しくは周波数の組合せを変更することにより、ぞれぞれの多孔質体から液相に向けて気泡を発生させる、又は、前記多孔質体から液相に向けて発生していた気泡の大きさを変化させる気泡発生方法に関する。
【0022】
本発明に係る第9の形態は、液相を収容する第1の隔室と、気相を収容する第2の隔室と、第1及び第2の隔室間に配置する多孔質体と、第2の隔室内の気相を媒体として前記多孔質体に対して供給される音波を発生させる音波発生装置とを備え、音波の供給がない状態で、多孔質体を挟んで第2の隔室内の気相側から第1の隔室内の液相側に気泡が発生している動的状態にある場合において、前記音波発生装置が音波を発生させることにより、前記第1の隔室内の液相側に発生している気泡の発生量を調整することを特徴とする気泡発生装置に関する。
【0023】
本発明に係る第10の形態は、上記第9の形態において、音波発生装置が音波を発生させることにより、さらに、前記第1の隔室内の液相側に発生している気泡の大きさを調整
することを特徴とする請求項4に記載の気泡発生装置に関する。
【0024】
本発明に係る第11の形態は、上記第9または第10の形態において、音波発生装置が、音波供給の有無若しくは強弱又は音波の周波数、周波数の範囲若しくは周波数の組合せを変更することにより、第1の隔室内の液相側に発生している気泡の発生状態を調整することを特徴とする気泡発生装置に関する。
【0025】
本発明に係る第12の形態は、第11の形態において、多孔質体と音波発生装置との間に配置し、第2の隔室と接続する屈曲配管又は分岐管を備える気泡発生装置に関する。
【0026】
本発明に係る第13の形態は、第11又は第12の形態において、多孔質体に対して供給される音波が、その多孔質体の形態に固有の周波数又は周波数の範囲を有する気泡発生装置に関する。
【0027】
本発明に係る第14の形態は、第11乃至第13の何れかの形態において、音波の周波数が20kHz未満である気泡発生装置に関する。
【0028】
本発明に係る第15の形態は、気相と液相との間に配置する多孔質体を通じて気相の側から液相の側に気体を移動させ、液相の側に気泡を発生させる気泡発生方法であって、前記多孔質体に対して前記気相を媒体として音波を供給することにより気泡を発生させるために必要な気相の圧力を相対的に低減することを特徴とする気泡発生方法に関する。
【0029】
本発明に係る第16の形態は、気相と液相との間に配置する多孔質体を通じて前記気相の側から前記液相の側に気体が移動することにより前記液相の側に気泡を発生させる気泡発生方法であって、前記多孔質体に対して前記気相を媒体として音波を供給することにより前記気泡の発生量又は大きさを調整することを特徴とする気泡発生方法に関する。。
【0030】
本発明に係る第17の形態は、気相と液相との間に配置する多孔質体を通じて気相の側から液相の側に気体を移動させ、液相の側に気泡を発生させる気泡発生方法であって、孔径が異なる複数の多孔質体に各多孔質体に接する気相を媒体として音波を供給する際、当該音波の周波数を変えることにより選択的に、特定の多孔質体から気泡を発生させることを特徴とする気泡発生方法に関する。
【0031】
本発明に係る第18の形態は、第15乃至第17のいずれかの形態において、前記音波発生装置と第2の隔室との間を連通する配管内の気体を媒体として、前記多孔質体に接する気相に音波を伝達することを特徴とする気泡発生方法に関する。
【0032】
本発明に係る第19の形態は、第20の形態において、前記配管が、曲部又は枝分かれした部分を備えることを特徴とする気泡発生方法に関する。
【0033】
本発明に係る第20の形態は、第15乃至第19のいずれかの形態において、前記音波が、0Hzよりも大きく2000Hz以下の周波数の音波であることを特徴とする気泡発生方法に関する。
【0034】
本発明に係る第21の形態は、第15乃至第20のいずれかの形態において、前記多孔質体に対して前記気相を媒体として音波を供給するに当たり、音波供給の有無若しくは強弱又は音波の周波数、周波数の範囲若しくは周波数の組合せを変更することにより、前記気泡の発生量又は大きさを調整することを特徴とする気泡発生方法に関する。
【0035】
本発明に係る第22の形態は、液相を収容する第1の隔室と、気相を収容する第2の隔室と、第1及び第2の隔室間に配置する多孔質体と、第2の隔室内の気相を媒体として前記多孔質体に対して供給される音波を発生させる音波発生装置とを備える気泡発生装置であって、前記多孔質体を通じて第2の隔室内の気相の側から気体が移動し、第1の隔室内の液相の側に気泡を発生させるために必要な圧力が、前記音波発生装置により音波を発生させることにより相対的に低減されることを特徴とする気泡発生装置に関する。
【0036】
本発明に係る第23の形態は、液相を収容する第1の隔室と、気相を収容する第2の隔室と、第1及び第2の隔室間に配置する多孔質体と、第2の隔室内の気相を媒体として前記多孔質体に対して供給される音波を発生させる音波発生装置とを備える気泡発生装置であって、前記音波発生装置により音波を発生させることにより、前記多孔質体を通じて第1の隔室内の液相の側に発生する気泡の発生量又は大きさが調整されることを特徴とする気泡発生装置に関する。
【0037】
本発明に係る第24の形態は、液相を収容する第1の隔室と、気相を収容する第2の隔室と、第1及び第2の隔室間に配置する多孔質体とを備え、前記多孔質体に対して前記気相を媒体として音波が供給されることにより気泡が発生し得る気泡発生単位と、複数個の前記気泡発生単位と接続する配管と、該配管内の気体を媒体として各気泡発生単位の多孔質体に接する気相に伝達されることにより、その多孔質体に対して供給される音波を発生させる音波生成部とを備える気泡発生装置であって、前記複数個の気泡発生単位の多孔質体は互いに孔径が異なり、前記音波生成部により各多孔質体に対して供給される音波の周波数が変わることにより、気泡が発生する気泡発生単位が選択可能であることを特徴とする気泡発生装置に関する。
【0038】
本発明に係る第25の形態は、第22乃至第24のいずれかの形態において、前記配管が、曲部又は枝分かれした部分を備えることを特徴とする気泡発生装置に関する。
【0039】
本発明に係る第26の形態は、第22乃至第25のいずれかの形態において、前記音波が、0Hzよりも大きく2000Hz以下の周波数の音波であることを特徴とする気泡発生装置に関する。
【0040】
本発明に係る第27の形態は、第22乃至第26のいずれかの形態において、前記音波発生装置が、音波供給の有無若しくは強弱又は音波の周波数、周波数の範囲若しくは周波数の組合せを変更する機能を有し、これにより、前記気泡の発生量又は大きさを調整されることを特徴とする気泡発生装置に関する。
【発明の効果】
【0041】
本発明においては、液相と気相との間に配置する多孔質体に対してその気相を媒体として音波を供給して、液相と気相との間の平衡状態を崩して気泡を発生させる際に、音波の強弱の変更、音波の周波数の変更、又は音波周波数の範囲の変更、あるいはそれらの条件の組み合わせを行うことにより、気泡の発生量あるいは気泡の大きさを変化させることができる。このため、気泡の発生量、気泡の大きさ等を、簡便でかつ大動力を要しない方法で調整・制御することができる。
【0042】
又、上記条件を所定の範囲に設定することにより、液相側に発生する気泡を一段と微細化することができるので、液体中に気体を溶解させることによって反応が進行する下水処理場の曝気槽、化学反応器、湖沼の浄化装置、汚染土壌の浄化装置などに適用すれば、それらの装置内における反応が効率よく進行し、それらの装置を小型化することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の基礎となる現象が起こる基本系を示す図である。
【図2】音波の供給・停止に伴う相の遷移・回復を示す概念図である。
【図3】供給する音波の強弱、周波数、周波数の範囲又は周波数の組合わせの変更に伴う相の遷移、およびこれらを元に戻すことによる相の回復を示す概念図である。
【図4】供給する音波の強弱、周波数、周波数の範囲又は周波数の組合わせの変更により遷移した相に、これらの更なる変更を加えることにより更に相が遷移すること、およびこれらを元に戻すことにより相が回復を示す概念図である。
【図5】燃料電池の液相における相状態の変化を示す図である。
【図6】本発明の基礎となる現象を実測するための装置であり、かつ本発明を液相への気相吹込みに適用した実施例の説明図である。
【図7】孔径20μmの多孔質体での供給音波の周波数と気泡発生が観測された気相圧力の関係を示す図である。
【図8】孔径40μmの多孔質体での供給音波の周波数と気泡発生が観測された気相圧力の関係を示す図である。
【図9】孔径75μmの多孔質体での供給音波の周波数と気泡発生が観測された気相圧力の関係を示す図である。
【図10】散気板での音波供給による溶存酸素濃度の変化を示す図である。
【図11】孔径40ミクロンの多孔質体での音波の周波数による気相から液相への気体流量(気泡発生量)の変化を示す図である。
【図12】孔径40ミクロンの多孔質体での周波数194Hz周辺における気泡発生状況を示す図である。
【図13】音波強度と気相から液相への気体流量(気泡発生量)の関係を示す図である。
【図14】微細孔径20ミクロン、音波周波数294Hzにおける気泡径の変化を示す図である。
【図15】微細孔径40ミクロン、音波周波数194Hzにおける気泡径の変化を示す図である。
【図16】微細孔径40ミクロン、音波周波数194Hzにおける音波出力強度の変化に対する気泡径の影響を示す図である。
【図17】材質の変化による比表面積の変化を示す図である。
【図18】多孔質体での圧力の違いによる平均気泡径の変化(孔径75ミクロン、周波数190Hzの場合)を示す図である。
【図19】多孔質体での圧力の違いによる平均気泡径の変化(孔径75ミクロン、周波数194Hzの場合)を示す図である。
【図20】多孔質体での圧力の違いによる平均気泡径の変化(孔径75ミクロン、周波数200Hzの場合)を示す図である。
【図21】多孔質体での圧力の違いによる平均気泡径の変化(孔径75ミクロン、周波数220Hzの場合)を示す図である。
【図22】微細孔径40ミクロン、音波周波数194Hz周辺における気相から液相への気体流量の変化を示す図である。
【図23】微細孔径40ミクロン、音波周波数194Hz周辺における気泡径の変化を示す図である。
【図24】本発明を液相への気相吹込みに適用したマイクロバブル発生装置の一例を示す図である。
【図25】本発明を液相への気相吹込みに適用したマイクロバブル発生装置の他の例を示す図である。
【図26】本発明を下水処理場の曝気槽に適用した実施例の説明図である。
【図27】本発明を化学反応器に適用した実施例の説明図である。
【図28】本発明を本湖沼の浄化に適用した実施例の説明図である。
【図29】本発明を汚染土壌の浄化装置に適用した実施例の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
1.本発明に係る用語の定義
まず、本発明に関連する用語の定義を行う。「気相」とは、音波発生源から多孔質体までの空間を、実質的に、音響的に接続する気体その他の物質の集合体が形成する領域を意味する。ここで「音響的に接続する」とは、音波発生源から伝播する音波の本発明における作用効果を多孔質体まで到達させることができることの意である。従って、音波発生源から多孔質体まで到達する空間が直線状である必要はなく、一部又は全部が曲線状であっても構わないし、音波発生源から多孔質体までの空間の一部を占有する障害物が存在していても、音波発生源から多孔質体までの空間を音響的に接続するものである限り、本発明における気相である。又、本発明における気相は、音波発生源から多孔質体までの空間を音響的に接続する限り、それを構成する物質の種類、組成成分、組成成分の存在比率等、当該空間内の温度、圧力(組成成分の各分圧を含む。)、湿度等、当該空間を構成する配管、隔室、隔壁等の材質、形状、厚さ等は一切問わない。尚、本発明のある形態では、気体の泡又は気泡の発生が必須要件になっているので、気相は気体の集合体である必要がある。しかし、その場合であっても、当該形態に係る気相から、液体や固体が混合又は分散している気体の集合体が除外されるものと解釈されてはならない。
【0045】
又、「液相」とは、物性的に気相と区別される相であり、水、油、溶融物、電解質その他の物質の集合体が形成する領域を意味する。従って、例えば排水中の懸濁物質、コロイド物質、油状物質等やこれを少なくとも1種類含む汚泥水のような固体と液体とが互いに混合又は分散した物質(スラリー状物質を含む。)、或いは既に気体を内部に分散又は溶解している物質、或いは溶融金属、ゲルも、本発明における液相たり得る。ここで言う液相とは、一様に広がった集合状態のみでなく、多孔質体等に担持された状態も含む。更に、本発明における液相は、気相と区別し得る限り、それを構成する物質の種類、組成成分、組成成分の存在比率等、温度、圧力(組成成分の各分圧を含む。)、湿度等は一切問わない。液相の存在を空間的に画するために配管、隔室、隔壁等が使用される場合、その配管、隔室、隔壁等の材質、形状、厚さ等により、本発明における液相の意味が制限されることはない。但し、本発明のある形態では、液相への気体の泡又は気泡の発生が必須要件になっているので、その限りにおいて、液相は気体の泡又は気泡を生成するに足る性質を有するものでなければならない。しかし、その場合であっても、気体や固体が混合又は分散している物質の集合体が本発明における気相と物性的に区別できる限り、当該形態に係る液相から、かかる物質の集合体が除外されるものと解釈されてはならない。
【0046】
液相と気相との間の「相状態の変化」とは、着目する相における、圧力、温度、溶存物質の濃度、物質の密度、移動速度又は移動量、その他、当該相に関連付けられた指標となり得るパラメータが変化することを意味する。例えば、次に掲げる場合が相状態の変化の具体例である。
(1)当初、気相と液相とが平衡状態にあり、その後、その平衡が崩れて非平衡状態又は更に非平衡の度合いを高めた状態になる場合。
(2)当初、気相と液相とが非平衡状態にあるとき、その後、平衡状態になる場合。
(3)当初、気相と液相とが非常に高い非平衡の度合いにあり、その後、その非平衡の度合いが緩和された非平衡状態になる場合。
(4)当初、気相から液相に気体が移動して液相中に気泡が発生している状態にあり、その後、その気泡の発生が停止したり、発生している気泡の大きさが変化したり、気泡を発生させるに必要な気相側の圧力が低減若しくは増加したりする場合。
(5)当初、気相から液相に気体が移動しておらず液相中に気泡が発生していない状態にあり、その後、その気泡が発生したり、発生している気泡の大きさが変化したり、気泡を発生させるに必要な気相側の圧力が低減若しくは増加したりする場合。
(6)当初、気相から液相に気体が移動しておらず液相中に気泡が発生していない状態にあり、その後、液相で反応などにより発生した気泡が気相に移動したりする場合。例えば、図5に示すような燃料電池で、気相である空気中の酸素が、液相である電解質中の水素イオン(H+)と反応し、水蒸気(H2O)を生成すような場合である。
【0047】
尤も、「相状態の変化」は、直接肉眼で確認できると否とを問わず、結果として変化していれば足り、又は間接的な方法により変化が実質的に確認できれば足りる。例えば、化学反応系において、反応前の状態から反応途中の状態、更には反応後の状態への「相状態の変化」は、肉眼で確認できるとは限らない。中間反応生成物や最終反応生成物の存否や量により化学反応の進行を知ることができるのであり、このような場合には肉眼で確認できなくとも最終反応生成物により結果として又は中間反応生成物により間接的に若しくは結果として「相状態の変化」が確認できる。
【0048】
例えば、液相Lと気相Gとのバランスにより、液相Lから気相Gの方向に、又は、液相Lから気相Gの方向に、液体が移動し、又は、気体が移動するという「動的状態」を設定できる。そのバランス如何によっては、いずれの方向にも実質的に又は見掛け上気体又は液体が移動しないような「静的状態」も設定できる。本発明における「相状態の変化」とは、当初、静的状態にある相が、動的状態になる場合と別の静的状態になる場合のいずれも含み、加えて、当初、動的状態にある相が、静的状態になる場合と別の動的状態になる場合のいずれも含む。尚、以下の説明においては「相状態の変化」を、文脈上、単に「状態の変化」と記載することがある。
【0049】
「(相)状態を切り替えること」とは、「相状態の変化」を執り行うこと、即ち、従前又は当初の状態から従後又は当初とは別の状態に着目する相を変化させることを意味する。
【0050】
「多孔質体」とは、限定する意図なく具体的に説明するならば、複数又は多数の孔を備える部材のことである。簡単な例は、規則的に又は不規則に複数個の孔を設けた平板状、円筒状の構造体であり、散気板、散気筒がその代表である。「多孔質体」は、一又は二以上の部材から構成され、孔又は孔とみなせる隙間の連結路(以下「疑似孔」という。)を多数備える構造体として、より正確に定義でき、その構造体を構成する個々の部材としては、上記の平板材の他、ブロック状、ボール状、小片状、ナゲット状等と種々の形態がある。複数個の孔又は疑似孔が存在することが「多孔質体」であることの最低条件であり、本発明の目的、作用・効果を奏するものは、部材の形態や集合の仕方、孔や疑似孔の形態の如何を問わず、本発明における「多孔質体」の概念から一切排除されない。
【0051】
例えば、ハニカム状部材やコルゲート状部材は、それ自体に多数の孔が形成されており、一個であっても2個以上であっても、本発明における「多孔質体」足り得る。孔は、その長手方向では通常直線状に貫通しており、その断面は、殆どの場合一定であり、例えば四角、三角、六角形、多角形、略半円、略正弦波乃至波形等の形をしている。ボール状部
材が複数個集合してなる「多孔質体」では、ボール部材間の隙間の空間連結により疑似孔が形成される。この場合の疑似孔は、通常直線状であるとは限らないし、その断面についても、ボール径、異なるボール径の組み合わせ、或いは異形状のボール状部材の混在のさせ方により、一定にはならない。更に、ボール状部材とハニカム状部材が混在してなる「多孔質体」では、ハニカム状部材が存在する領域では、孔は直線状かもしれないが、ボール状部材が存在する領域では、孔(擬似孔)は直線状とは言えない。小塊状のハニカム状部材が多数集合してできる「多孔質体」も、個々の部材に着目すると孔は直線状かもしれないが、部材間の隙間の空間的連結により非直線状の疑似孔が形成される。
【0052】
2.本発明の基礎となる現象
次に、本発明の基礎となっている、新たに知得した現象(以下「本件現象」という。)について具体的データに基づき説明する。尚、この現象の原理やメカニズムについては、幾つかの推測は可能であるが、少なくとも本出願の時点では正確には確定できていない。
【0053】
2.1 本件現象が起こる基本系
先ず、本件現象が起こる基本系は、図1に示すように、液相Lと気相Gとが多孔質体Pを挟んで隣接しており、その気相Gを媒体として供給される音波Sにより構成される。音波Sを供給するためには、音波発生源が必要である。その音波発生源は、通常、例えば、スピーカその他の音波発信機、増幅装置、制御装置その他の装置で構成される。しかし、音波発生源やその詳細な構成は、本件現象を説明するためには不可欠とまでは言えないので、この図1には示していない。
【0054】
図1に示す基本系において起こる本件現象を図2乃至図4を参照して説明する。気相Gを媒体として多孔質体Pに音波Sを供給すると、当初、状態L1にあった液相L(又は状態G1にあった気相G)は、状態L2の液相L(又は状態G2の気相G)に遷移し(T12)、音波Sの供給を停止すると、状態L1の液相L(又は状態G1の気相G)に遷移又は回復する(T21)。気相Gを媒体として多孔質体Pに供給する音波Sの強弱、周波数、周波数の範囲又は周波数の組合せを変更すると、当初、状態L3にあった液相L(又は状態G3にあった気相G)は、状態L4の液相L(状態G4の気相G)に遷移し(T34)、その変更を停止し、変更前の音波Sの強弱、周波数、周波数の範囲又は周波数の組合せに戻すと、状態L3の液相L(又は状態G3の気相G)に遷移又は回復する(T43)。気相Gを媒体として多孔質体Pに供給する音波Sの強弱、周波数、周波数の範囲又は周波数の組合せを変更すると、当初、状態L5にあった液相L(又は状態G5にあった気相G)は、状態L6の液相L(状態G6の気相G)に遷移し(T58)、この変更を停止すると、元の状態に遷移又は回復するが(T65)、音波Sの強弱、周波数、周波数の範囲又は周波数の組合せを更に変更すると、状態L6にあった液相L(又は状態G6にあった気相G)は、状態L7の液相L(状態G7の気相G)に遷移する(T67)。この更なる変更を停止すると、状態L7の液相L(状態G7の気相G)から状態L6の液相L(状態G6の気相G)に遷移又は回復する(T76)。従って、気相Gを媒体として多孔質体Pに供給する音波Sの有無、強弱、周波数、周波数の範囲又は周波数の組合せを変更すると、液相L及び/又は気相Gの相状態を変化させることができる。このことは、液相L及び/又は気相Gの状態又はその変化を音波Sにより制御できることをも意味している。
【0055】
尚、以上の図1乃至図4の説明における相状態の変化は、液相L又は気相Gのみの変化であれば足り、従って、本件現象は両相の変化が同時に起こる場合に限定されない。
【0056】
2.2 本件現象を実測するための装置
本件現象が起こる基本系を図1で説明したが、この現象を実測するための装置は、大別して、液相部、気相部、多孔質体部、気体供給調整部、音波生成部の5個の基本部分から構成され、図6に示す通りである。
【0057】
図6において、501は、気体gを収容し、隔壁をもって気体gの周囲へ離散することを防止する配管であり、この気体gが集合して気相Gを構成する。502は、液体lを収容し、隔壁をもって液体lの周囲へ離散することを防止する容器である。この液体lが集合して液相Lを構成する。配管501及び容器502は、それぞれ液相L及び気相Gを収容する隔室ともいえる。気体gから成る気相Gとこれを収容する隔室501、並びに、液体lから成る液相Lとこれを収容する隔室502を、それぞれ気相部及び液相部と定義する。
【0058】
容器502内の配管501の先端501Aには、多孔質体Pが組み込まれた部材(以下、便宜的に「ノズル部」という。)503が据え付けられており、ノズル部503が備える多孔質体Pは、気相Gを収容する隔室(配管501)と液相Lを収容する隔室(容器502)の間に配置し、これにより、多孔質体Pが液相Lと気相Gの中間に配置する系を構成する。
【0059】
液相L中の気体lと気相G中の気体gとは多孔質体Pの孔の表面開口部若しくはその近傍、又はその内部において接触する。多孔質体Pが存在する領域のどの位置で液相Lと気相Gとの境界が形成されるかは、多孔質体Pが有する孔の形状、断面積、材質その他多孔質体P自体に関連する因子(以下「多孔質体Pの固有因子」という。)、各相の圧力、温度、密度、液相の表面張力その他各相に関連する因子によって変わる。従って、正確には、多孔質体Pが気相Gと液相Fとを物理的に分離している訳ではない。
【0060】
本発明では、多孔質体Pが気相Gと液相Fとが厳密に分離しているかどうかはそれほど問題ではなく、多孔質体Pが存在する領域が液相部と気相部とが見掛け上を区別されていれば足りる。このような領域を多孔質体部と定義する。この結果、多孔質体部は主としてノズル部を意味することになるが、後述のように超音波振動装置をノズル部に設置して、多孔質体Pを振動させるような場合には、この超音波振動装置も多孔質体部を構成する。
【0061】
配管501の一方の先端には、ノズル部503が据え付けられるが、他端501Bには気体gの供給とその調整を可能にする系(図示せず)が接続される。この系によれば、気体gの圧力、供給速度、供給量、成分・組成、温度その他の因子を設定、調整又は制御することにより、多孔質体Pに音波Sを供給する前後の相状態を観測する際に、外乱が入らないように観測条件を適正維持することができる。このような基本機能を有する系を、気体供給調整部と定義する。
【0062】
配管501は、直管状であっても、両端501A、501Bとの間に屈曲又は湾曲した部分を備えていても構わない。504は、配管501の両端の間に設置された発音機である。発音機504は、音波発生源であり、先述の通り、例えば、スピーカその他の音波発信機、増幅装置、周波数可変装置、制御装置その他の装置を通常の基本的ハードウエア構成とする。発音機504は、この図6では、配管501に非常に近い位置に据え付けられているが、音波Sを配管501内の気相Gに向けて発するとともに、その音波Sをノズル部503の多孔質体Pまで伝播させる音波発生源として機能する限り、どの位置に設置されていても構わない。例えば、所望の長さの音波供給管501A(図示せず)の一端を配管501に接続し、その他端に発音機504を設置し、この音波供給管501Aを介して配管501内部に向けて音波Sを発するように構成しても構わない。例えば、振動面を振動させて音波Sを生成する形式の音波発信機であり、その振動面の前面を配管501内の気相Gに向け、その背面を配管501により気相Gと離隔される外部雰囲気に向けている場合、配管501内の気相Gが外部雰囲気よりも高圧であると、振動面の振動が起こりにくくなり、この結果、音波発信機から音波Sを多孔質体Pにまで十分到達させることが困難になるという問題が生じる。この問題を解決するためには、配管501にバイパス配管
501Dを設けて、そのバイパス配管501Dの途中に振動面を配置し、その前面も背面も気相Gにして、振動面の前後の圧力差をなくすと良い。そのため、配管501に分岐管501Cを設け、スピーカ背面部に繋げ、501Aへ繋がるバイパス配管501Dは、スピーカ前面に繋げればよい。この場合におけるバイパス配管501Dは、音波供給管501Aに相当する。
【0063】
音波発生源と、音波供給管その他の付帯設備とをまとめて、音波生成部と呼ぶ。
【0064】
以上のように、本件現象を実測するための装置の基本構成は、大別して、液相部、気相部、多孔質体部、気体供給調整部、音波生成部の5個である。尤も、本件現象は、後述の通り、液相L側への気泡の発生として視覚的に把握できるので、発生する気泡の大きさを測定するための粒度分布計505が必要になる。この粒度分布計505は、収束ビーム反射測定法により、水中の気泡径、高濃度スラリー中の粒子径など、1mm以下の大きさについて測定可能である。粒度分布計505は、容器502内のノズル部503に近接した位置に配置するプローブ505Aを備え、このプローブ505Aから気泡に向けてレーザー光を照射する。レーザー光は気泡を貫いて進み、気泡表面通過時に反射光を生ずる。この反射光を、プローブ505A内の高感度な光検出器により検出し、通過時間差から気泡の径を演算する。気泡の平均的な大きさを統計処理し、図示しない表示装置に出力する。計測機器505は、本件現象の応用技術においては必ずしも必須とはいえないが、本件現象をより精密に本件現象を実測するために付加的に必要な第6番目の要素と考えることができる。
【0065】
2.3 本件現象の観測
以上の装置を用いて、以下に言及する第1及び第2の観測を行い、第1及び第2の本件現象をそれぞれ確認した。又、第1の本件現象に引き続いて第2の本件現象が起こっていることも確認した。
【0066】
2.3.1 第1の観測及び第1の本件現象
第1の観測により、次に掲げる新たな知見を得ることができた。
(イ)音波Sを気相Gを介して多孔質体Pに供給すると、気相Gと液相Lとの当初の静的状態から動的状態へ変化する、即ち、例えば、液相Lに気泡が発生していない状態から液相Lに気泡が発生するという状態へ変化する現象が起こる。
(ロ)その現象には音波Sの周波数や音量への依存性が認められる。即ち、(a)その現象が起こるのに適した音波Sの周波数の範囲があり、(b)その現象が起こる音波Sの周波数の範囲内にあっても、供給する周波数によって発生する気泡の大きさや発生量が変わり、(c)その現象は、音波Sの音量が大きいほど起こりやすく、定量的にも顕著に起こる。
(ハ)その現象が起こるのに適した音波Sの周波数の範囲は、多孔質体Pの固有因子の組み合わせによって変動する。
(ニ)その現象には多孔質体Pでの圧力への依存性が認められる。即ち、(a)その現象が起こるのに適した圧力の範囲があり、(b)その現象が起こる音波Sの周波数の範囲内にあっても、多孔質体での圧力によって、その範囲は変動する。
【0067】
以上の知見で確認される気泡発生を中心とする現象を、「第1の本件現象」と呼ぶ。
【0068】
第1の観測においては、表1に記載する仕様で構成した。この装置系において、気相Gを介して音波Sを多孔質体Pに供給する前の液相Lと気相Gとの相状態(初期状態)を、液相Lと気相Gのいずれの方向にも実質的に又は見掛け上気体又は液体が移動しないような状態とした。これは、以下のように実現される。多孔質体Pの開口部から気泡が生成されるためには、開口部から生成される気泡の圧力が、液相の表面張力を上回らなければならない。開口径をr、液相の表面張力をσ、液相−気相境界にある開口から表面張力に打勝って、気泡が生ずるために必要な圧力差をΔpとすると、Δpは(1)式で表される。
【0069】
Δp=2σ/γ ・・・(1)
【0070】
【表1】

【0071】
【表2】

【0072】
そこで、以下の観測例での平衡状態は、気相の圧力が、この気泡が生ずるために必要な圧力差Δpより小さい状態を維持した。その後、周波数や音量(強度)の異なる種々の音波Sを供給して、又、多孔質体Pの固有因子も変更して相状態の変化を観測した。
【0073】
第1の観測の結果の一例を図7に示す。この図の横軸は、音波Sの周波数を、縦軸は多孔質体Pでの気相圧力を表し、孔径20ミクロンの多孔質体Pに対して一定の周波数を供給した状態で、第1の本件現象が観測された多孔質体Pでの気相圧力を線状で示している。一例として、孔径20ミクロンの多孔質体での観測結果を示した図7では、音波Sの供給が無い場合、多孔質体Pでの気相圧力が1060mmHO以上でなければ、気泡は観測されない。しかし、例えば、周波数294Hzの音波Sを供給すると、自然には気泡が発生しない328mmHOの気相圧力で、気泡発生が観測される。
【0074】
(1)音波Sの周波数との関係
先ず、気相Gを介して多孔質体Pに供給する音波Sの周波数を種々変化させて、液相L及び気相Gにおける相状態の変化を観測した。その結果を図7、図8、図9に示す。これらの図は、多孔質体Pの孔径がそれぞれ、20、40、75ミクロンにおける第1の本件現象の観測結果である。これらの図から分かるように、音波Sの周波数によって、少なくとも肉眼では、液相L側に気泡が観測される場合と観測されない場合があることが判った。
【0075】
気相Gから液相Lへの気体gの移動量を気泡発生量と考えると、気泡発生量は、僅かな周波数変化で、大きく変化する。図11に示すように、多孔質体Pの孔径が40ミクロンの場合、音波Sの周波数が190Hzでの気泡発生量は2.7cm/秒であるが、周波数Sを194Hzに変更すると、気泡発生量は大きくなり、3.5cm/秒となる。更に、周波数を上げ、周波数Sを198Hzとすると、気泡発生量は減少し、2.6cm/秒となる。
【0076】
尚、図11での気相圧力は600mmHOである。この気相圧力は、音波Sを供給せずに、気泡が発生する最低圧力750mmHO以下であるため、少なくとも圧力150mmHOに相当するエネルギーを節約できることを意味するものと言える。
【0077】
図10は、下水処理に利用されるポリプロピレン製の多孔質体の散気板を用いて、空気を液相Lに吹き込んだ観測結果を示したものである。多孔質体の平均孔径は200〜300ミクロン、音波Sの周波数を120Hzとし、液相Lに溶解する酸素濃度の時間推移を示したものである。一般に、液相L側に気泡が発生している場合、時間の経過に伴い,液体に溶解する酸素の量は増加する。しかし、図10から判るように、音波Sの有無により、この酸素の溶解速度、従って単位時間当たりの溶存量は異なること、特に、音波Sを供給した方が、気体中の酸素の溶解速度が増加した。このことは、音波Sにより、液相Gの相状態が、気体の溶解速度又は溶存量という点で変化したことを意味している。
【0078】
図12に孔径40ミクロンの多孔質体での音波の周波数194Hz付近での気泡発生状況を示す。音波Sの周波数194Hzとして、気相G側の圧力を0から徐々に増加させた場合、気相G側の圧力が100mmHO以上で気泡が発生する。更に、圧力を増加させると、気相G側の圧力が380mmHO以上では、気泡発生が停止する。その後、気相G側の圧力を増加させていくと、480mmHO以上で再度気泡が発生し、その後は、音波Sなしで気泡が発生する気相G側圧力750mmHOまで、気泡発生は継続する。気相G側の圧力によっても、気泡発生状態が変化することが判る。
【0079】
その後、音波Sの周波数を188Hz以下若しくは200Hz以上に設定し直すと、液相L側に観測されていた気泡の発生が弱まり、やがて停止して元の静的状態に回復した。
【0080】
尚、液相L側で気泡が発生する点に着目して観測を行ってはいるが、液相L側で気泡が発生するときは、気相G側においても、少なくとも供給気相の配管中の流量に変化が起こるので、液相Lの状態の変化とともに供給気相の状態の変化も起こっていると言える。
【0081】
(2)音波Sの音量との関係
次に、音波Sの音量(強度)を変化させて、液相L側に気泡が発生するか否かを観測した。その結果、音波Sの音量(強度)が小さい場合には、たとえ190Hzから198Hzの範囲にある周波数であっても、液相L側への気泡の発生は見掛け上観測されなかった。しかし、音波Sの音量(強度)が徐々に大きくなると、液相体L側に気泡が発生し始め、その量を増していった。その後音波Sの音量を元のように小さくすると、液相L側への気泡の発生の程度が弱まり、やがて発生は停止した。
【0082】
音波Sの音量(強度)を変化させて、気泡発生量を観測した結果を図13に示す。音波Sの音量(強度)が、1Wの場合、気泡発生量は2cm/秒であるが、音波Sの音量(強度)を徐々に大きくすると、5〜6Wの場合、気泡発生量は4cm/秒と、その量を増していった。
【0083】
(3)多孔質体Pの固有因子との関係
多孔質体Pの孔径と気泡発生時の最低気相圧力、その際の音波Sの周波数を表3に示す。この表から、液相L側に気体の発生が認められるという現象は、多孔質体Pの孔径にも依存していることが判る。また、図7〜9は、多孔質体Pの孔径と、この現象が起こる音波Sの周波数との関係を示している。このデータを測定する際、多孔質体Pの固有因子は孔の形態以外は同じにした。因みに多孔質体Pの材質はステンレス鋼(SUS304)であった。これらの結果から、この現象が起こる音波Sの周波数の範囲は、多孔質体Pの形態により変化することが判る。
【0084】
要すれば、液相L側に気体が発生する現象を起こす音波Sの周波数の範囲は、多孔質体Pの固有因子の組み合わせによって変化する。
【0085】
【表3】

【0086】
以上の知見で確認される気泡発生を中心とした現象を、「第1の本件現象」と呼ぶ。この第1の本件現象を利用すれば、多孔質体Pを挟んで静的的状態にある液相L及び気相Gを、音波Sを気相Gを介して多孔質体Pへ供給することにより、動的状態に変化させることができる。又、音波Sの供給を停止することにより元の静的状態に戻すことができる。具体的には、音波Sを気相Gを介して多孔質体Pへ供給するだけで気泡を発生させることが可能になり、液相Lに対する気相Gの相対圧力を実質的に増加させることができるとともに、音波Sの供給とその停止、音波Sの周波数や音量の変更により、気泡の発生の有無、発生する気泡の大きさや発生量を調整又は制御することが可能になる。音波Sの周波数により第1の本件現象を調整又は制御しようとする場合、多孔質体Pの固有因子の調整も考慮してその周波数(の範囲)を適宜選定することになる。
【0087】
以上の現象を確認する際に、音波Sは、連続する粗密波で供給され、波形は信号発生器による正弦波である。
【0088】
2.3.2 第2の観測及び第2の本件現象
第2の観測により、次に掲げる新たな知見を得ることができた。
【0089】
音波Sを気相Gを介して多孔質体Pに供給すると、気相Gと液相Lとの当初の動的状態から別の動的状態へ変化する、即ち、例えば、液相Lに気泡が発生している状態からより小さな多数の気泡が発生する状態へと変化する現象が起こる。
【0090】
その現象には音波Sの周波数の依存性が認められる。即ち、(a)その現象が起こるのに適した音波Sの周波数の範囲があり、(b)その現象が起こる音波Sの周波数の範囲内にあっても、供給する周波数によって発生する気泡の大きさが変わる。
【0091】
その現象が起こるのに適した音波Sの周波数の範囲は、多孔質体Pの固有因子の組み合わせによって変動する。
【0092】
その現象には多孔質体Pでの圧力への依存性が認められる。即ち、圧力によって、その現象による効果が変動する。
【0093】
以上の知見で確認される気泡の微細化を中心とする現象を、「第2の本件現象」と呼ぶ
ことにする。
【0094】
第2の観測においては、表4に示す仕様になるように上記の5個の構成部を調整し、気相Gを介して音波Sを多孔質体Pに供給する前の液相Lと気相Gとの相状態(初期状態)を、気相G側から液相L側に気体gが移動して、液相L側に気泡が発生しているのが肉眼でも確認できる動的状態に設定した。このような初期状態を実現するための最も簡単な方法は、第1の観測における気相Gと液相Lの初期状態において気相G側の圧力を増やすことである。その後、周波数や音量(強度)の異なる種々の音波Sを供給して相状態の変化を観測した。その際の具体的な観測条件を表4に示すが、音波Sを供給する前後で、その音波Sの供給の有無以外の条件は同一に維持した。
【0095】
【表4】

【0096】
第2の観測の結果の一例を、まず図14及び表5に示す。気相Gを介して多孔質体Pに供給する音波Sの周波数を種々変化させて、液相L及び気相Gにおける相状態の変化を観測した。音波Sを供給する前の初期状態において、液相L側に発生している気泡の大きさは平均834ミクロンであった。引き続き、音波Sの周波数を294Hzとすると、液相L側に発生している気泡の大きさが顕著に小さくなり、多数の気泡へと変化した。これは元の動的状態とは異なる別の動的状態へと相状態が変化したことを意味している。このとき、発生する気泡の大きさは、平均834ミクロンから平均681ミクロンへと微細化した。
【0097】
【表5】

【0098】
多孔質体Pの孔径を20ミクロンから40ミクロンに変化させて、同様の観察を行った。その結果を図15及び表6に示す。音波Sを供給する前の初期状態において、液相L側に発生している気泡の大きさは平均655ミクロンであった。引き続き、音波Sの周波数を294Hzとすると、液相L側に発生している気泡の大きさが顕著に小さくなり、多数の気泡へと変化した。これは元の動的状態とは異なる別の動的状態へと相状態が変化したことを意味している。このとき、発生する気泡の大きさは、平均655ミクロンから平均507ミクロンへと微細化した。
【0099】
【表6】

【0100】
次に、音波Sの音量(強度)を変化させて、発生する気泡径が変化するか否かを観測した。図16及び表7に、その結果を示す。音量(強度)の変化に対して、気泡径の変化は少なく、音量(強度)の依存性は小さい。
【0101】
【表7】

【0102】
第2の観測現象は、多孔質体Pの材質にも依存している。図17及び表8に多孔質体の材質を変化させて、行った観察の結果を示す。この図では、気泡径φ1mm以下の比表面積を用いて、発生した気泡の大きさを比較している。比表面積とは、発生した気泡の表面積の総和を発生した気泡の体積の総和で除した値であり、発生した気泡が小さいほど、大きな値となる。図17は、音波を供給した場合の比表面積を供給をしていない場合での値で除した比(比表面積比)で示しており、音波供給による気泡微細化の効果を表している。その結果、周波数の依存性はあるものの、ポリプロピレンよりもセラミックの方が、音波供給による微細化効果が大きいことが判った。
【0103】
【表8】

【0104】
図18、図19、図20及び図21は、多孔質体Pでの圧力の違いによる第2の本件現象の効果の違いを示したものである。音波Sの周波数は、それぞれ、190Hz、194Hz、200Hz、220Hzである。これらの観測では、孔径75ミクロンの多孔質体Pにおいて、自然に気泡は発生しない多孔質体での圧力範囲において、気泡径の変化を計測した。それぞれの周波数において、多孔質体Pでの圧力と気泡径との相関は異なるが、圧力が高くとも、気泡径が小さくなる場合が多い。
【0105】
この第2の本件現象を利用すれば、多孔質体Pを挟んで動的状態にある液相L及び気相Gを、音波Sを気相Gを介して多孔質体Pへ供給することにより、別の動的状態に変化させることができる。又、音波Sの供給を停止することにより元の動的状態に戻すことができる。具体的には、音波Sを気相Gを介して多孔質体Pへ供給するだけで発生していた気泡の状態や様相を変更することが可能になり、液相Lに対する気相Gの相対圧力を実質的に増加させることができるとともに、音波Sの供給とその停止、音波Sの周波数や音量の変更により、気泡の大きさや発生量を調整又は制御することが可能になる。音波Sの周波数により第2の本件現象を調整又は制御しようとする場合、多孔質体Pの固有因子の調整も考慮してその周波数(の範囲)を適宜選定することになる。
【0106】
2.3.3 第1及び第2の本件現象の共存の可能性
音波Sの周波数によっては、第1の本件現象が起こる領域と第2の本件現象が起こる領域とが重複している。それ故、この周波数の範囲にある音波Sを、気相Gを介して多孔質体Pに供給する場合、第1の本件現象において第2の本件現象も起こっている可能性がある。一方、第2の本件現象は、気相Gと液相Lとの当初の相状態が液相L側に気泡が発生している動的状態である場合に、この動的状態が、音波Sを気相Gを介して多孔質体Pに向けて供給することにより別の動的状態に遷移する現象であるが、気相Gから液相Lへの気体gの移動量が気体供給調整部により一定に維持されると、多孔質体Pの固有因子を始めとするその他の実証装置や観測条件が変わらない限り、液相L側に発生する気泡の大きさが変化する現象とも言える。すると、第1の本件現象において第2の本件現象も起こるのならば、第1の本件現象が起こっているときに発生する気泡の大きさは、第2の本件現象が起こる周波数の音波Sを供給することにより、変化するはずである。
【0107】
そこで、気相Gと液相Lとが多孔質体Pを挟んで一種の平衡状態にあり、見掛け上液相L側に気泡の発生が認められない相状態において、第1の本件現象が起こる190Hzから198Hzの周波数の音波Sを気相Gを介して多孔質体Pに向けて供給したときに液相L側に発生する気泡の発生量を、観測Aの結果として、図22に示す。観測Aに引き続き、第2の本件現象が起こる190Hzから198Hzの周波数の音波Sを供給したときの液相L側に発生する気泡の大きさを、観測Bとして計測した。尚、同一の孔径40ミクロンでの音波を供給しない場合の気泡径は、表6に示した通り655ミクロンである。一方、観測Bの結果を図23に示すが、観測Bの全ての周波数において、気泡径は全て655ミクロンを下回って微細化されており、第2の本件現象が観測されている。この図22及び図23における観測A及び観測Bの結果から分かるように、第1の本件現象と第2の本件現象のそれぞれが観測される音波Sの周波数の範囲においては、第1の本件現象に引き続き第2の本件現象が起こっている可能性がある。
【0108】
2.4 本件現象のまとめ
第1及び第2の本件現象に細分化されるものの、総括すると、本件現象は、次に掲げる特徴を有する。
(イ)本件現象は、気相Gと液相Lとが多孔質体Pを介して存在する系において、音波Sを気相Gを介して多孔質体Pに供給することにより、気相Gと液相Lとの当初の相状態から別の相状態へ変化する現象である。
(ロ)本件現象は、気相Gでは液相L側に向けて気体が移動し、液相Lでは気相G側から気体が移動して気泡が発生する現象として具体的に認識しでき、音波Sによる液相Lに対する気相Gの相対圧力の増加、又は、その増加分に相当する気相Gと液相Lとの間のエネルギー障壁の低減としても理解することができる。このエネルギー障壁の低減は、気相G中の気体が液相L側に移動する際に多孔質体Pを通過する際に生じる圧力損失をより少なくすることができることも意味している。
(ハ)本件現象には、音波Sの周波数や音量への依存性が認められる。即ち、(a)本件現象が起こるのに適した音波Sの周波数の範囲があり、(b)本件現象が起こる音波Sの周波数の範囲内にあっても、供給する周波数によって発生する気泡の大きさや発生量が変わり、(c)本件現象は、音波Sの音量が大きいほど起こりやすく、定量的にも顕著に起こる。
(ニ)本件現象が起こるのに適した音波Sの周波数の範囲は、多孔質体Pの固有因子の組み合わせによって変動する。従って、固有因子の組み合わせが異なる複数の多孔質体Pに対して同一の音波Sを供給すると、当該複数の多孔質体Pは、本件現象が起こるものと起こらないものとに区別され、しかも当該音波Sの周波数を変更することにより、本件現象が起こるものと起こらないものとを変更することができる。
(ホ)その現象には多孔質体Pでの圧力への依存性が認められる。即ち、(a)その現象が起こるのに適した圧力の範囲があり、(b)その現象が起こる音波Sの周波数の範囲内にあっても、多孔質体での圧力によって、その程度、範囲は変動する。
【0109】
2.5 本件現象の適用・応用
上記のような特徴を有する本件現象は、次のような具体的な技術的有用性を有している。
(イ)液相Lと気相Gとが多孔質体Pを挟んで並存している系において、多孔質体Pに対してその気相Gを媒体として音波Sを供給するという非常に簡便な手段により、より少ないエネルギー消費で、相状態を変化させることができ、特に、物質移動や物質移動の程度の変更を実現できる。ここで物質移動の程度とは、例えば、液相L側に発生する気泡の有無、大きさ、量を意味する。
(ロ)液相Lと気相Gとが多孔質体Pを挟んで並存している系において、多孔質体Pに対してその気相Gを媒体として音波Sを供給する際に、音波供給の有無若しくは強弱又は音波の周波数若しくは周波数の範囲を変更するという非常に簡単な手段により、より少ないエネルギー消費で、相状態の切り替えを実現でき、特に、相状態の変化を引き起こしたり、停止したりすることができ、又、相状態の変化の程度を選択することができる。その際、音波Sの音量を選択することによっても、相状態の変化の程度を選択することができる。
(ハ)固有因子の組み合わせが異なる複数の多孔質体Pに対して音波Sを供給する際に、その音波Sの周波数を変更するという非常に簡単な手段により、より少ないエネルギー消費で、本件現象が起こる多孔質体と、起こらない多孔質体とを選択又は変更することができる。
【0110】
3.本発明の実施例
上記のような具体的な技術的有用性を有する本件現象を用いれば、次のような分野へ適用又は応用が可能となる。この適用又は応用の具体例を、本発明の実施の形態として以下に説明する。但し、本発明は、当該実施の形態のみに限定されない。
【0111】
3.1 マイクロバブル発生装置(その1)
図6は、本発明を液相への気相吹込みに適用した実施例の説明図である。本装置は、空気を昇圧する気体吹込み装置、吹き込み装置と多孔質体を接続する配管、音波を供給するスピーカを備えた容器、容器と配管を接続する同圧配管、液体中へ気泡を吹出す多孔質体とを備えている。スピーカで発生する音波を効率的に気相に付与するため、スピーカ後方に供給気体の配管を接続し、スピーカ前後での圧力差を生じないように設置する必要がある。
【0112】
ここで示した多孔質体は、円板形状であり、材質はポリプロピレン製、平均孔径は約200〜300ミクロンである。
【0113】
気体吹込み装置により昇圧された気体は、スピーカで音波を供給され、配管により連結された多孔質体を通して、液体中に放出される。音波は、正弦波として連続的に与えられる。
【0114】
この音波により、多孔質体から放出される気泡が微細化されるため、曝気槽内の下水の溶存酸素濃度が増加し、好気性微生物の活性が高まり、下水の浄化速度が向上する。例えば、本装置を用いて、水槽中の水へ空気を吹込み、この吹込み空気に周波数120Hzの音波を付与した場合、水への酸素溶解速度を表す総括酸素移動容量係数は、付与しない場合に比べて、21%増加した。その結果、同一の酸素溶解速度であれば、吹込み空気流量を21%減少出来るため、気体吹込み動力を21%削減し、運転コスト低減、省エネが可能となる。
【0115】
また、空気吹込み量の減少は、気体吹込み装置の小型化を可能とし、初期設備コストが低減される。あるいは、空気吹込み量を同一に保った場合、散気装置の設置数を21%削減してもよい。いずれの場合も、初期設備コストが低減される。
【0116】
3.2 マイクロバブル発生装置(その2)
図24は、本発明を液相への気相吹込みに適用した実施例の説明図である。本装置は、空気を昇圧する気体吹込み装置、吹き込み装置と多孔質体を接続する配管、音波を供給するスピーカを備えた容器、容器と配管を接続する同圧配管、液体中へ気泡を吹出す多孔質体とを備えている。ここでは、多孔質体は、表面に微細な孔を有する円板形状であり、材質はポリプロピレン製である。
【0117】
気体吹込み装置により昇圧された気体は、スピーカで音波を供給され、配管により連結された多孔質体を通して、液体中に放出される。
【0118】
この音波により、多孔質体から放出される気泡が微細化されるため、曝気槽内の下水の溶存酸素濃度が増加し、好気性微生物の活性が高まり、下水の浄化速度が向上する。
【0119】
更に、図24の実施例では、多孔質体を気体の放出方向に対して鉛直に振動を付与することにより、気体内部圧力が水の表面張力に抗して気泡となって放出される前に、気液界面でのせん断力により、気泡となり、放出されるため、より微細化される。そのため、気液接触面積を増加させ、同一の溶解効率であれば、吹込み空気流量を低減することが可能となり、運転動力、コストを削減する。
【0120】
また、同一の空気吹込み量で溶存酸素濃度が増加するため、気体吹込み装置の小型化あるいは多孔質体設置個数の減少が可能となり、初期設備コストが低減される。
【0121】
3.3 マイクロバブル発生装置(その3)
図25は、本発明を液相への気相吹込みに適用した実施例の説明図である。本装置は、空気を昇圧する気体吹込み装置、吹き込み装置と多孔質体を接続する配管、音波を供給するスピーカを備えた容器、容器と配管を接続する同圧配管、液体中へ気泡を吹出す多孔質体とを備えている。スピーカで発生する音波を効率的に気相に付与するため、スピーカ後方に供給気体の配管を接続し、スピーカ前後での圧力差を生じないように設置する必要がある。
【0122】
また、吹き込み装置と多孔質体を接続する配管に分岐を設けることにより、音波を印可するスピーカ1つに対し、複数の多孔質体を有している。そして、これらの多孔質体の孔径を例えば、20、40、75、150ミクロンとして設置する。
【0123】
気体吹込み装置により昇圧された気体は、スピーカで音波を供給され、配管により連結された多孔質体を通して、液体中に放出される。音波は、正弦波として連続的に与えられる。
【0124】
例えば、周波数50Hzの音波を供給すると、孔径75ミクロンの多孔質体のみから気泡が発生する。また、周波数62Hzの音波を供給すると、孔径40ミクロンの多孔質体のみから気泡が発生する。更に、周波数194Hzの音波を印可すると、孔径20ミクロン、孔径40ミクロン及び孔径75ミクロンの多孔質体から気泡が発生する。このように、印可する音波の周波数を変える事により、選択的に気泡を発生する多孔質体を変更することが可能となる。
【0125】
また、発生する周波数は、信号発生器等により、容易に重ね合わせて供給することが可能であるため、単一の周波数のみ供給して制御するだけでなく、復数の周波数を重ね合わせて制御する事が可能である。
【0126】
これを用いる事により、以下の制御が容易に実施可能となる。
(イ)処理量に応じて、気泡を発生する多孔質体の数を変更する制御
(ロ)槽を多孔質体と同様に区切り、気泡を発生する槽あるいは区域を制御
(ハ)多孔質体出口に更に、配管を設置し、多孔質体を通過する気体を制御
水中に漏洩の恐れのある弁等を設置することなく、電源ケーブル、信号ケーブルの設置も不要であるため、低コストで吹込み気体の制御システムを構築可能であり、初期設備コスト及び運転コストも低減される。
【0127】
3.4 マイクロバブル発生装置の応用例
3.4.1 下水処理場曝気槽での実施例
図26は、本発明を下水処理場曝気槽に適用した実施例の説明図である。本装置は、空気を昇圧する気体吹込み装置、吹き込み装置とタンクを接続する配管、音波を供給するスピーカーを備えたタンク、タンクと複数の多孔質体を接続する配管系、液体中へ気泡を吹出す多孔質体とを備えている。ここでは、多孔質体は、表面に微細な孔を有する円筒形状であり、材質はポリプロピレン製である。
【0128】
気体吹込み装置により昇圧された気体は、スピーカーを備えたタンク内で音波を供給され、配管により連結された多孔質体を通して、液体中に放出される。この例では、音波を供給された空気は、配管分岐により分岐され、複数の多孔質体から水中に放出される。
【0129】
この音波により、多孔質体から放出される気泡が微細化されるため、曝気槽内の下水の溶存酸素濃度が増加し、好気性微生物の活性が高まり、下水の浄化速度が向上する。図25の実施例では、吹き込み気体に周波数63MHz、105Wの音波を供給することにより、気泡を微細化し、気液接触面積を5%増加させる。これは、運転コストの5%削減に相当する。更に、音波の出力を上げることにより、運転コストを低減することが可能である。
【0130】
また、同一の空気吹込み量で溶存酸素濃度が増加するため、気体吹込み装置の小型化あるいは多孔質体設置個数の減少が可能となり、初期設備コストが低減される。
【0131】
図26の実施例のように、配管経路に曲管、分岐管が存在しても、供給する音波の周波数が低いため、曲管、分岐管での音波の減衰は非常に小さく、効率良く気泡の微細化が可能となる。
【0132】
図26の実施例では、1箇所のタンクで音波を供給しているが、これは、小さなスピーカーを分岐後の配管に複数配置してもよい。
【0133】
3.4.2 化学反応器
図27は、本発明を化学反応器に適用した実施例の説明図である。本装置は、空気を昇圧する気体吹込み装置、吹込み装置とタンクを接続する配管、内部に液を含み、音波を供給するスピーカと気体を吹込む多孔質体を備えた反応器とを備えている。ここでは、多孔質体は、表面に微細な孔を有し、材質はステンレス製である。
【0134】
化学プラントにおいては、気液の接触による反応プロセスでは、上図に示すような反応器が多数使用されている。これらの反応器では、反応器内の液体に気体を吹込み、気液を接触させて、液相への気相の溶解あるいは化学反応を促進させている。従って、吹込む気体の気泡径を小さくすることで、同一の吹込み量で、気液の接触面積が大きくなり、溶解効率あるいは反応効率を増大する。従来は、吹込み気体の気泡径を微細化するために、液相へ気泡を吹き込む多孔質体の孔径を微細化していたが、これは、多孔質体の通気抵抗を増大させ、気相を吹込むコンプレッサあるいはブロアの消費動力を増大させ、引いては運転コストの増大を招いていた。
【0135】
図27に示すように、吹き込み気体に音波を供給することにより、気泡を微細化し、気液接触面積を増加させることが可能である。そのため、同一の溶解効率であれば、吹込み空気流量を低減することが可能となり、運転動力、コストを削減する。
【0136】
3.4.3 湖沼の浄化装置
図28は、本発明を湖沼の浄化に適用した実施例の説明図である。本装置は、空気を昇圧する気体吹込み装置、吹込み装置とタンクを接続する配管、音波を供給するスピーカーと湖沼へ空気を吹込む多孔質体を備えている。ここでは、多孔質体は、表面に微細な孔を有し、材質はポリプロピレン製である。
【0137】
湖沼など水の出入りが少ない水系では、湖底にアオコ、ヘドロ等が堆積し、水の濁りや悪臭を放つ等の汚染が生ずる。これを防ぐために、湖沼内に微細気泡を吹込み、湖底のアオコ、ヘドロを気泡に付着し、アオコ、ヘドロを水面に浮上、堆積物の拡散を促し、光合成によるアオコの分解を促進させる。また、溶存酸素濃度の増加により、好気性微生物の活性が高まり、ヘドロなどの有機物の分解が促進される。これらの浄化効果を促進するには、気泡径を微細化することにより、気液の接触面積を増加する必要があるが、そのために気泡を発生する多孔質体の孔径を微細化することは、空気の通気抵抗を増大させるため、運転に消費するエネルギーが増大する。
【0138】
図28に示すように、吹き込み気体に音波を供給することにより、気泡を微細化し、気液接触面積を増加させることが可能である。そのため、同一の溶解効率であれば、吹込み空気流量を低減することが可能となり、運転動力、コストを削減する。
【0139】
3.4.4 汚染土壌の浄化装置
図29は、本発明を油等で汚染した土壌を浄化する装置に、適用した例である。液を満たした槽内に汚染土壌を入れ、微細化した気泡を槽内に吹き込む。気泡が、汚染土壌を通過する際に、土壌中の油分を含み、槽内を浮上し、水面に達する。したがって、水面に油分が集まり、これを回収することにより、土壌中の油分等汚染物質を分離回収可能である。
【0140】
図29に示すように、吹き込み気体に音波を供給することにより、気泡を微細化し、気液接触面積を増加させることが可能である。そのため、同一の気液接触面積であれば、吹込み空気流量を低減することが可能となり、運転動力、コストを削減する。
【符号の説明】
【0141】
501 気体gを収容し、隔壁をもって気体gの周囲へ離散することを防止する配管
502 液体lを収容し、隔壁をもって気体lの周囲へ離散することを防止する容器
501A 配管501の先端
503 ノズル部
501B 配管501の他端
504 発音器
501D バイパス配管
501C 分岐管
505 粒度分布計
505A 粒度分布計のプローブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気相と液相との間に配置する多孔質体を通じて気相の側から液相の側に気体を移動させ、液相の側に気泡を発生させる気泡発生方法であって、前記多孔質体に対して前記気相を媒体として音波を供給することにより気泡を発生させるために必要な気相の圧力を相対的に低減することを特徴とする気泡発生方法。
【請求項2】
気相と液相との間に配置する多孔質体を通じて前記気相の側から前記液相の側に気体が移動することにより前記液相の側に気泡を発生させる気泡発生方法であって、前記多孔質体に対して前記気相を媒体として音波を供給することにより前記気泡の発生量又は大きさを調整することを特徴とする気泡発生方法。
【請求項3】
気相と液相との間に配置する多孔質体を通じて気相の側から液相の側に気体を移動させ、液相の側に気泡を発生させる気泡発生方法であって、孔径が異なる複数の多孔質体に各多孔質体に接する気相を媒体として音波を供給する際、当該音波の周波数を変えることにより選択的に、特定の多孔質体から気泡を発生させることを特徴とする気泡発生方法。
【請求項4】
前記音波発生装置と第2の隔室との間を連通する配管内の気体を媒体として、前記多孔質体に接する気相に音波を伝達することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の気泡発生方法。
【請求項5】
前記配管が、曲部又は枝分かれした部分を備えることを特徴とする請求項4に記載の気泡発生方法。
【請求項6】
前記音波が、0Hzよりも大きく2000Hz以下の周波数の音波であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の気泡発生方法。
【請求項7】
前記多孔質体に対して前記気相を媒体として音波を供給するに当たり、音波供給の有無若しくは強弱又は音波の周波数、周波数の範囲若しくは周波数の組合せを変更することにより、前記気泡の発生量又は大きさを調整することを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の気泡発生方法。
【請求項8】
液相を収容する第1の隔室と、気相を収容する第2の隔室と、第1及び第2の隔室間に配置する多孔質体と、第2の隔室内の気相を媒体として前記多孔質体に対して供給される音波を発生させる音波発生装置とを備える気泡発生装置であって、前記多孔質体を通じて第2の隔室内の気相の側から気体が移動し、第1の隔室内の液相の側に気泡を発生させるために必要な圧力が、前記音波発生装置により音波を発生させることにより相対的に低減されることを特徴とする気泡発生装置。
【請求項9】
液相を収容する第1の隔室と、気相を収容する第2の隔室と、第1及び第2の隔室間に配置する多孔質体と、第2の隔室内の気相を媒体として前記多孔質体に対して供給される音波を発生させる音波発生装置とを備える気泡発生装置であって、前記音波発生装置により音波を発生させることにより、前記多孔質体を通じて第1の隔室内の液相の側に発生する気泡の発生量又は大きさが調整されることを特徴とする気泡発生装置。
【請求項10】
液相を収容する第1の隔室と、気相を収容する第2の隔室と、第1及び第2の隔室間に配置する多孔質体とを備え、前記多孔質体に対して前記気相を媒体として音波が供給されることにより気泡が発生し得る気泡発生単位と、複数個の前記気泡発生単位と接続する配管と、該配管内の気体を媒体として各気泡発生単位の多孔質体に接する気相に伝達されることにより、その多孔質体に対して供給される音波を発生させる音波生成部とを備える気泡発生装置であって、
前記複数個の気泡発生単位の多孔質体は互いに孔径が異なり、
前記音波生成部により各多孔質体に対して供給される音波の周波数が変わることにより、気泡が発生する気泡発生単位が選択可能であることを特徴とする気泡発生装置。
【請求項11】
前記配管が、曲部又は枝分かれした部分を備えることを特徴とする請求項10に記載の気泡発生装置。
【請求項12】
前記音波が、0Hzよりも大きく2000Hz以下の周波数の音波であることを特徴とする請求項8乃至11のいずれかに記載の気泡発生装置。
【請求項13】
前記音波発生装置が、音波供給の有無若しくは強弱又は音波の周波数、周波数の範囲若しくは周波数の組合せを変更する機能を有し、これにより、前記気泡の発生量又は大きさが調整されることを特徴とする請求項8乃至12のいずれかに記載の気泡発生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【公開番号】特開2009−82923(P2009−82923A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−14108(P2009−14108)
【出願日】平成21年1月26日(2009.1.26)
【分割の表示】特願2006−237294(P2006−237294)の分割
【原出願日】平成14年1月31日(2002.1.31)
【出願人】(000004123)JFEエンジニアリング株式会社 (1,044)
【Fターム(参考)】