説明

気液分離装置、水素製造装置及び燃料電池システム

【課題】長期に亘る使用においても高効率で気液分離が可能な気液分離装置並びにこれを用いた水素製造装置及び燃料電池システムを提供する。
【解決手段】本発明の気液分離装置は、気体と液体の二相間の密度差に基づいた慣性力の差によって、水素を含む気体と、液体とを含む気液混合流体を液体と気体に分離して排出する分岐管712と、気液混合流体から分離された液体を回収する液体回収容器601とを備え、分岐管712は、気液混合流体を導入する導入流路と、気体を排出する排気流路と、液体を排出する排液流路とを有し、排気流路は、気液混合流体の導入方向に対して鋭角かつ逆方向に設けて導入流路に連結されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気液混合流体を気体と液体に分離する気液分離装置、並びにこれを用いた水素製造装置及び燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型燃料電池(PEMFC:Polymer Electrolyte Membrane Fuell Cell)は、室温から100℃以下までの低温で動作し、迅速な起動停止、高出力密度が可能であるなどの特徴を有するため、民生用コージェネレーションや自動車用などの移動体用発電器、携帯用電源として期待されている。
【0003】
一般的に、固体高分子型燃料電池は、電解質膜層としての水素イオン伝導性高分子電解質膜と、その両面に配された触媒層と、さらにその両面に配されたガス拡散層とからなる多孔質の電極基材で構成された電極・電解質一体化物(MEA:Membrane electrode assembly)とを有している。
【0004】
固体高分子型燃料電池に用いる水素を製造する方法としては、例えば、アルミニウム、マグネシウム、ケイ素、亜鉛などの水素発生物質を含む水素発生材料と水とを化学反応させて水素を発生させる方法が知られている(例えば、特許文献1)。
【0005】
特許文献1には、水素発生材料を収容する水素発生材料収容容器に水を供給し、水素発生材料収容容器において水素発生材料と水とを反応させて水素を発生させ、発生した水素を水素発生材料収容容器に設けられた水素排出管を通じて燃料電池に供給する水素製造装置が記載されている。ところが、水素発生材料と水との反応の際には、未反応の水や水蒸気が水素と共に水素排出管から排出されてしまうことがある。そのため、特許文献1では、水素排出管の途中に、水蒸気を冷却して水にするための冷却部と、水と水素との気液混合流体を水(液体)と水素(気体)に分離する気液分離部とを設け、水素排出管の排出口からは水素を排出し、気液分離部で分離した水は水素発生材料に供給する水として回収する。
【0006】
しかし、特許文献1では、気液分離部にて気液混合流体を気体と液体に分離する際に、気液の重力差を利用しているため、燃料電池本体を傾けた状態や微小重力状態での効率的な気液分離は難しい。
【0007】
この問題を解決する技術として、例えば、二方向分岐管を通過させて気泡を含む液体から気体を分離する方法が提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−105926号公報
【特許文献2】特開2002−204905号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献2では、分岐管の内壁の半分が濡れ性に差が得られる物質を用いて形成され、この分岐管の内壁の濡れ性の差を利用することで効果的に気液分離する手法が提案されている。しかし、特許文献2に記載の方法では、水素発生材料と水とを化学反応させて水素を発生させる場合、水素発生材料由来の液体が配管内に蓄積し、特に長期間の使用においては、分岐管内部の濡れ性の差が低下し、気液分離効率が低下する可能性がある。また、特許文献2には、分岐管で分離した液体を回収することについて記載されていない。
【0010】
本発明は、上記問題点を解消するためになされたものであり、長期に亘る使用においても高効率で気液分離が可能な気液分離装置並びにこれを用いた水素製造装置及び燃料電池システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の気液分離装置は、気体と液体の二相間の密度差に基づいた慣性力の差によって、水素を含む気体と、液体とを含む気液混合流体を液体と気体に分離して排出する分岐管と、前記気液混合流体から分離された液体を回収する液体回収部と、を備え、前記分岐管は、前記気液混合流体を導入する導入流路と、気体を排出する排気流路と、液体を排出する排液流路とを含み、前記排気流路は、前記気液混合流体の導入方向に対して鋭角かつ逆方向に向けて前記導入流路に連結されていることを特徴とする。
【0012】
本発明の水素製造装置は、水との反応により水素を発生する水素発生材料に水を供給して水素を製造する水素製造装置において、上記本発明の気液分離装置を含むことを特徴とする。
【0013】
本発明の燃料電池システムは、上記本発明の水素製造装置と、前記水素製造装置で製造された水素を燃料とする燃料電池とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、気液の慣性力差を用いて気液分離を行うため、長期に亘る使用においても効率よく気液分離できる気液分離装置、並びにこれを用いた水素製造装置及び燃料電池システムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の気液分離装置に用いられる分岐管の一例を示す概略図である。
【図2】本発明の気液分離装置に用いられる分岐管の他の例を示す概略図である。
【図3】本発明の水素製造装置の一例を示す概略図である。
【図4】本発明の水素製造装置における他の一例を示す概略図である。
【図5】本発明の燃料電池システムの一例を示す概略図である。
【図6】本発明の燃料電池システムに用い得る燃料電池の一例を示す断面概略図である。
【図7】本発明の燃料電池システムに用い得る水素消費装置の一例を示す一部断面概略図である。
【図8】気液分離効率を調べるための気液分離装置の構成を示す概略図である。
【図9】実施例1の気液分離装置の構成を示す概略図である。
【図10】分岐管の分岐角と水回収率との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の気液分離装置は、気体と液体の二相間の密度差に基づいた慣性力の差によって、水素を含む気体と、液体とを含む気液混合流体を液体と気体に分離して排出する分岐管と、上記気液混合流体から分離された液体を回収する液体回収部と、を備え、上記分岐管は、上記気液混合流体を導入する導入流路と、気体を排出する排気流路と、液体を排出する排液流路とを有し、上記排気流路は、上記気液混合流体の導入方向に対して鋭角かつ逆方向に向けて上記導入流路に連結されていることを特徴とする。これにより、気液の慣性力差を用いて気液分離するため、長期に亘る使用においても効率よく気液分離できる。また、液体回収部を備えることで、分岐管で分離された液体の再利用が可能となる。
【0017】
本発明の水素製造装置は、水との反応により水素を発生する水素発生材料に水を供給して水素を製造する水素製造装置において、上記本発明の気液分離装置を備えることを特徴とする。これにより、水素製造装置から排出される水素を含む気体中に含まれる液体成分量を減少できる。そのため、本発明の水素製造装置は、燃料電池用の燃料源として利用できる。
【0018】
本発明の燃料電池システムは、上記本発明の水素製造装置と、上記水素製造装置で製造された水素を燃料とする燃料電池とを備えることを特徴とする。これにより、水と、水素を含む気体との気液混合流体が供給されることによる燃料電池の出力低下などの不具合の発生を防止できる。
【0019】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0020】
(実施形態1)
本実施形態1では、本発明の気液分離装置に用いられる分岐管について説明する。図1は、本発明の気液分離装置に用いられる分岐管の一例を示す概略図である。
【0021】
本実施形態の分岐管701は、図1に示すように、気液混合流体が導入される導入流路Xinと、気体を排出する排気流路Xex2と、液体を排出する排液流路Xex1とを有する二方向分岐管である。排気流路Xex2は、気液混合流体の導入方向に対して鋭角でかつ逆方向に向けて上記導入流路Xinに連結されている。
【0022】
分岐管701の導入流路Xinと排気流路Xex2との成す角度θ(以下、分岐角θと呼ぶ)は、20°以上90°未満の範囲であることが好ましく、より好ましくは、30°以上70°以下であることが望ましい。分岐角θは、20°未満になると排気流路Xex2方向への気体の分離が難しく、90°以上になると排気流路Xex2方向に液体が混入しやすくなるからである。
【0023】
分岐管701の形状としては、導入流路と排液流路とが屈曲している形状や、導入流路と排液流路とが直線を形成するように連結されている形状などが挙げられる。液体をスムーズに流すためには、図1に示すように、導入流路と排液流路とが直線を形成するように連結されている形状が望ましい。
【0024】
本実施形態の分岐管701の導入流路Xinに気液混合流体が導入されると、気液混合流体中の液体は排液流路Xex1の方向に排出され、上記気液混合流体中の気体は排気流路Xex2の方向に排出される。例えば、気液混合流体が、水と水素を含むものである場合、水は排液流路Xex1方向に排出され、水素は排気流路Xex2方向に排出される。これは、気体と液体の二相間の密度差に基づいた慣性力の差を利用することで、上記気液混合流体を、水と水素に分離できたと考えられる。
【0025】
(実施形態2)
本実施形態2では、本発明の気液分離装置に用いられる分岐管について説明する。図2は、本発明の気液分離装置に用いられる分岐管の一例を示す概略図である。図2において、図1と同一構成要素については同一符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0026】
本実施形態の分岐管711は、図2に示すように、分岐管701を複数(ここでは3個)連結して備え、隣接する一方の分岐管701の排気流路と、他方の分岐管701の導入流路とを、U字型継ぎ手(以下、ベンド管という。)を用いて連結したものである。より詳細に説明すると、第1の分岐管701(図2において上方に位置する)は、排気流路Xex2が図2において下方側になるように配置され、第2の分岐管701(図2において下方に位置する)は、排気流路Xex3が図2において上方側になるように配置され、第3の分岐管701(図2において真ん中に位置する)は、排気流路Xex4が図2において下方側になるように配置されている。そして、第1の分岐管701の排気流路Xex2と第2の分岐管701の導入流路Xinは、ベンド管702によって連結され、第2の分岐管701の排気流路Xex3と第3の分岐管701の導入流路Xinも、ベンド管702によって連結されている。ここで、分岐管701同士をベンド管702を用いて連結する理由は、ベンド管702の湾曲部を通過する際に気液混合流体中の気泡成分を偏在させ、気体と液体とが分離されやすい状態とし、液体が遠心力の作用で配管の外側に偏在させることができるからである。これにより、気液分離効率を高めることができる。
【0027】
本実施形態の分岐管711の導入流路Xinに気液混合流体が導入されると、上記気液混合流体は3個の分岐管701を経て、液体と気体に分離される。具体的に説明すると、気液混合流体は、第1の分岐管701を通過することにより、気液混合流体中の液体は排液流路Xex1方向に排出される。しかし、第1の分岐管701で気体と液体に完全に分離できない可能性がある。この場合、排液流路Xex1方向に排出されなかった液体は気体と共に排気流路Xex2方向に排出され、第1のベンド管702を経て第2の分岐管701へと輸送される。そして、第2の分岐管701によって、液体は排液流路Xex1-2方向に排出され、気体は排気流路Xex3方向に排出される。しかし、第2の分岐管701によっても気体と液体に完全に分離できない場合には、排液流路Xex1-2方向に排出されなかった液体は気体と共に排気流路Xex3方向に排出され、第2のベンド管702を経て第3の分岐管701へと輸送される。そして、第3の分岐管701によって、液体は排液流路Xex1-3方向に排出され、気体は排気流路Xex4方向に排出される。このように、気液混合流体中の液体を3個の分岐管701を用いて分離することで、排気流路Xex4方向に排出される気体中の液体成分量を減少させることができる。これにより、気液分離効率を向上できる。
【0028】
(実施形態3)
本実施形態3では、本発明の気液分離装置を含む水素製造装置について説明する。図3は、本発明の水素製造装置の一例を示す概略図である。図3において、図2と同一構成要素については同一符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0029】
本実施形態の水素製造装置は、図3に示すように、水との反応により水素を発生する水素発生材料604を収容する水素発生材料収容容器603と、気液分離装置700とを備えている。
【0030】
ここで、本発明の水素製造装置が気液分離装置700を備える理由について説明する。水素発生材料収容容器603内では、水素発生材料604と水とが反応して水素が発生し、発生した水素は、水素発生材料収容容器603に設けられた水素排出路(図3では、配管103及び配管104)から排出され、例えば燃料電池に供給される。ところが、水素発生材料604と反応しなかった水や水蒸気が水素と共に水素排出路から排出される場合がある。水や水蒸気が燃料電池に供給されると、燃料電池の出力低下などの不具合が生じる。このような不具合の発生を防止するため、本発明の水素製造装置では、水素排出路の途中(図3では、配管103と配管104との間)に気液分離装置700を設けることで、水素排出路内に混入した水や水蒸気を分離(除去)する。
【0031】
上記気液分離装置700は、気液混合流体を気体と液体に分離する分岐管712と、水602を収容する水収容容器601と、分岐管712と水収容容器601とを連結する配管113の途中に設置された逆止弁901と、水収容容器601内の水602を水素発生材料収容容器603に輸送する輸送部としての例えばポンプ201とを備えている。
【0032】
上記分岐管712は、導入管703と2個の分岐管701とを有し、それらの間をそれぞれベンド管702を用いて連結したものである。より詳細に説明すると、導入管703と第1の分岐管701の導入流路は、ベンド管702で連結され、第1の分岐管701の排気流路と第2の分岐管701の導入流路も、ベンド管702で連結されている。第1及び第2の分岐管701の排液流路は、配管113に連結されている。第2の分岐管701の排気流路は配管104に連結されている。
【0033】
分岐管701及びベンド管702としては、耐熱性及び耐腐食性に優れたものであれば、その材質や形状及び異種材質の張り合わせなど特に限定はされないが、水や水素が漏れない材質や形状が好ましい。具体的な容器の材質としては、水及び水素を透過しにくく、かつ120℃程度に加熱しても容器が破損しない材質が好ましく、例えば、アルミニウム、鉄などの金属、アクリル、フッ素樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの樹脂を用いることができる。また、容器の形状としては、角柱状、円柱状などが採用できる。ベンド管702の曲率半径Rは、5mm以上であれば特に制限されないが、好ましくは20mm以下であることが望ましい。ベンド管702の曲率半径Rが20mmより大きい場合、分岐管自体の大きさが大きくなってしまい、装置全体を小型化できない。一方、ベンド管702の曲率半径Rが5mmより小さい場合、遠心力の作用で配管の外側に偏在させる効果が乏しくなる虞がある。
【0034】
水収容容器601は、上記分岐管712を構成する各分岐管701の排液流路に逆止弁901を介して配管113で連結されている。これにより、分岐管712で分離された液体(ここでは、水)は水素製造用の水として水収容容器601に回収できるため、水の効率的な利用が可能であり、また、水収容容器601内の水602が分岐管712側に逆流するのを逆止弁901により防止でき、方向自在性を確保できる。さらに、分岐管712で分離された液体を回収するための液体回収容器を別途設ける必要がないため、装置全体をコンパクト化できる。
【0035】
逆止弁901としては、気密性を有するものであって一方向の通気孔機能を有するものであれば特に限定されないが、例えば、平行移動する弁体を有するリフト型逆止弁、蝶番運動をする弁体を有するスイング型逆止弁、球状の弁体を有するボール弁などの方向逆止弁を用いることができる。その他、減圧弁、安全弁、逃がし弁(チェックバルブ)などの圧力制御弁なども好適に用いることができる。また、上記例示の弁を電気的に駆動可能な電磁弁とすれば、電気的に制御することもできる。
【0036】
逆止弁901における開放開始作動圧力の好適値は、燃料電池システムの大きさなどによって変動し得るが、例えば、ゲージ圧で0.5MPa以下であることが好ましい。
【0037】
逆止弁901の材料としては、気密性と耐腐食性とを有するものであれば特に限定されないが、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリプロピレン(PP)、ポリアセタールなどの樹脂が挙げられる。
【0038】
水収容容器601については特に制限はなく、例えば、従来の水素製造装置に使用されているものと同様の水を収容するタンクなどが採用できる。
【0039】
水素発生材料収容容器603は、水素を発生させる水素発生材料604を収納可能であれば、その材質や形状は特に限定されないが、水の供給口や水素の導出口以外から水や水素が漏れない材質や形状が好ましい。具体的な容器の材質としては、水及び水素を透過しにくく、かつ120℃程度に加熱しても容器が破損しない材質が好ましく、例えば、アルミニウム、鉄などの金属、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの樹脂を用いることができる。また、容器の形状としては、角柱状、円柱状などが採用できる。
【0040】
水素発生材料収容容器603及び水収容容器601は脱着式とすることもできる。これにより、水素発生材料収容容器603内の水素発生材料604が消費されつくしたり、水収容容器601内の水がなくなったりした場合に、これらを取り外し、水素発生材料604が充填された水素発生材料収容容器603や水が充填された水収容容器601を新たに取り付けることで、再び水素を製造することができる。
【0041】
水収容容器601に収容する水は、中性の水、酸性水溶液、アルカリ性水溶液など、少なくとも水を含む液体であればよく、使用する水素発生材料604との反応性などに応じて好適なものを選択すればよい。
【0042】
水素発生材料収容容器603に収容される水素発生材料604としては、水と反応して水素を発生させる水素発生物質を含むものであれば特に制限はないが、水と120℃以下の低温で反応して水素を発生し得る水素発生物質を含むことが望ましい。
【0043】
水素発生物質としては、例えば、アルミニウム、ケイ素、亜鉛、マグネシウムといった金属や、アルミニウム、ケイ素、亜鉛、及びマグネシウムの中の一種以上の元素を主体とする合金、さらには、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム、水素化リチウムといった金属水素化物などが好適に使用できる。上記合金を用いる場合、主体となる元素以外の金属成分は特に限定されない。主体とは、合金全体に対して50質量%以上、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上含有されていることを意味する。なお、水素発生物質としては、上記例示のものを1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用しても良い。
【0044】
水素発生材料604は、水と反応して発熱する発熱物質(水素発生物質以外の物質)をさらに含むことが好ましい。この場合、低温(例えば5℃程度)の水を供給しても、上記発熱物質の発熱によって反応系内の温度を高めて、迅速な水素発生が可能となる。水と反応して発熱する発熱物質としては、例えば、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硫酸カルシウムなど、水との反応により水酸化物となるか、あるいは、水和することにより発熱するアルカリ金属またはアルカリ土類金属の酸化物、塩化物、硫酸化合物などが挙げられる。
【0045】
次に、本実施形態の水素製造装置の動作について図3を用いて説明する。
【0046】
水収容容器601に収容されている水602は、ポンプ201により輸送され、配管101及び配管102を通じて水素発生材料収容容器603内に供給される。水素発生材料収容容器603内では、水素発生材料604と水602とが反応して水素が発生し、水素は配管103に排出される。上記水素と共に水蒸気が配管103に排出された場合、水蒸気は配管103内で冷却されて水となる。そして、水と水素との気液混合流体が分岐管712に導入される。分岐管712では、液体と気体との二相間の密度差に基づいた慣性力の差を利用することによって、気液混合流体は、水素を含む気体と、水とに分離される。分離された水素を含む気体は、配管104を通じて燃料電池などに供給される。一方、分離された水は、配管113を通じて水収容容器601で回収され、その後、水素発生材料収容容器603に供給される水602として再利用されることになる。
【0047】
このように本実施形態の水素製造装置によれば、水素排出路の途中に分岐管712を設けることで、配管104から排出される水素を含む気体中の液体成分量を削減できる。また、水素製造用の水を収容している水収容器601を液体回収容器として利用することで、分岐管712で分離された水を回収するための水回収容器を別途備える必要がなく、水素製造装置全体をコンパクトにすることができる。また、分岐管712によって分離された水を水素製造用の水として再利用でき、水の利用率を高めることができる。
【0048】
ところで、本実施形態では、逆止弁901を設けた水素製造装置について説明したが、逆止弁901に代えて、図4に示すように、ポンプ202を設けても良い。この場合、分岐管712で分離された水を、分岐管712側に逆流するのを防止しながら水収容容器601へと輸送して水収容容器601で回収できるため、排液流路を重力方向に配置させなくても、つまり、排液流路から排出される液体の流動方向が重力方向とは逆向きであっても気液分離が可能となり、優れた方向自在性が得られる。また、分岐管712側に存在する気体が水収容容器601側に漏れることも防止できる。ポンプとしては、逆流防止機能付きであれば特に限定されないが、特に、逆流防止機能付きの容積式ポンプ(チューブポンプ)を好適に用いることができる。
【0049】
図4では、2個の分岐管701の各排液流路に排出された液体を1個のポンプ202によって水収容容器601に輸送する様子を示しているが、2個の分岐管701の各排出流路にそれぞれポンプ202を設け、各分岐管701で分離された水を水収容容器601に輸送するようにしても良い(図示せず)。この場合、水回収効率を向上できる。
【0050】
(実施形態4)
本実施形態4では、本発明の燃料電池システムについて説明する。図5は、本発明の燃料電池システムの一例を示す概略図である。図5において、図4と同一構成要素については同一符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0051】
本実施形態の燃料電池システムは、図5に示すように、気液分離装置700、水素発生材料604を収容する水素発生材料収容容器603、燃料電池500、及び送風ファン501を備えている。また、この燃料電池システムは、燃料電池500内のガスを燃料電池500外に排出するための排気手段として、圧力センサ400、パージバルブ310及び水素消費装置800をさらに備えている。
【0052】
気液分離装置700は、図4に示した構成に加え、上記排気手段によって燃料電池500から排気されたガス中に含まれる水分を分離するための分岐管713を備える。この分岐管713は、分岐管712と同一の構成である。分岐管713を構成する各分岐管701の排液流路は配管108に連結され、配管108は配管113に連結されている。
【0053】
燃料電池500は、電気的に直列に接続された複数の膜電極接合体(MEA)(図示しない)を有し、水素を燃料源として発電する。なお、燃料電池500の詳細な構成については後で述べる。
【0054】
送風ファン501は、燃料電池500の正極への空気の供給、水素消費装置800への空気の供給、及び燃料電池500の冷却のためのものである。図5において、送風ファン501から上方向に向かう矢印は、送風ファン501から排出される空気の流れの方向を示している。本発明の燃料電池システムにおいて、送風ファン501は必須の構成要素ではないが、燃料電池システムは送風ファン501を有していることが好ましい。
【0055】
圧力センサ400は、燃料電池500の負極側の圧力(ここでは、燃料ガス供給路である配管106内の圧力)を測定し、測定値に基づいてパージバルブ310の開閉動作を制御する。これにより、燃料電池500内の圧力を所定値以下に保ちながら、燃料電池を適性に発電させることができるため、燃料電池内の圧力が高くなりすぎて燃料電池から水素が漏れ出たり、燃料電池が破裂したりすることを防止できる。さらに、燃料電池の出力状態と圧力変動とを考慮して、出力を適正に維持できるように発電させることも可能となる。
【0056】
圧力センサ400の設置位置は、燃料電池500内の圧力を検出できれば特に限定されないが、燃料電池の圧力変動をすぐに察知するためには、図5に示すように、燃料電池の燃料入力側の配管106に設置するのが望ましい。
【0057】
圧力センサ400によるパージバルブ310の開閉動作の制御は、燃料電池500内の負極の圧力と外部の圧力(例えば大気圧)との差圧が5〜300kPaに達した段階で行うことが望ましい。差圧が5kPa未満で開く場合は、圧力差が小さすぎて水を排出する能力が低下し、差圧が300kPaを超えるまで開かない場合は、内圧が高くなりすぎてMEAを破損する虞が生じる。
【0058】
水素消費装置800としては、省スペースでシステム内の水素を消費できるものであれば特に制限されないが、例えば、MEAを有し、燃料電池に係るMEAによる発電と同じ機構により水素を消費する装置や、水素を酸化し得る触媒を有する装置などが挙げられる。なお、水素消費装置800の詳細な構成については後で述べる。
【0059】
次に、燃料電池500の詳細な構成について図6を用いて説明する。図6は、本発明の燃料電池システムに用い得る燃料電池500の一例を示す断面概略図である。なお、図6においては、3つのMEA510が組み合わさって一つの燃料電池500を構成している状態を示しているが、これは一例であり、一単位としての燃料電池におけるMEAの数は3つに限定されず、また、複数のMEAから構成される一単位の燃料電池を、複数接続して全体を一つの燃料電池とすることもできる。
【0060】
図6において、燃料電池500は、正極拡散層511及び正極触媒層512からなる正極と、固体高分子電解質膜513と、負極拡散層515及び負極触媒層514からなる負極とが、順次積層されてなるMEA510を3個有する。ここでは、3個のMEA510は平面状に配置されている。
【0061】
各MEA510の正極側には、正極集電プレート524、正極絶縁プレート522及び正極パネルプレート520が順次配置されている。また、各MEA510の負極側には、負極集電プレート526、負極絶縁プレート523及び負極パネルプレート521が順次配置されている。そして、全てのMEA510が、正極パネルプレート520と負極パネルプレート521とに挟持されて一体化している。また、図6では明らかにしていないが、隣り合うMEA510同士は、正極集電プレート524と負極集電プレート526との電気的接続によって、直列に接続されている。
【0062】
正極集電プレート524、正極絶縁プレート522及び正極パネルプレート520には、燃料電池500外の酸素を正極に導入するための酸素導入孔が複数設けられている。そして、正極集電プレート524の酸素導入孔、正極絶縁プレート522の酸素導入孔及び正極パネルプレート520の酸素導入孔により、正極パネルプレート520の外表面からMEA510の正極拡散層511にまで到達する複数の正極開口部530が形成され、これら正極開口部530から、燃料電池外の酸素(空気)が拡散により正極拡散層511に供給される。
【0063】
負極集電プレート526、負極絶縁プレート523及び負極パネルプレート521には、燃料タンク部529内の燃料を負極に導入するための燃料導入孔が複数設けられている。そして、負極集電プレート526の燃料導入孔、負極絶縁プレート523の燃料導入孔及び負極パネルプレート521の燃料導入孔により、負極パネルプレート521の燃料タンク部529側表面からMEA510の負極拡散層515にまで到達する複数の負極開口部531が形成され、これら負極開口部531から、燃料タンク部529内の燃料(水素)が負極拡散層515に供給される。
【0064】
正極パネルプレート520と負極パネルプレート521(更には燃料タンク部529)は、ボルト532とナット533によって固定されている。図6中、528a及び528bはシール部である。
【0065】
正極拡散層511及び負極拡散層515は、多孔性の電子伝導性材料などから構成され、例えば、撥水処理を施した多孔質炭素シートなどが用いられる。なお、正極拡散層511や負極拡散層515の触媒層側には、更なる撥水性向上及び触媒層との接触向上を目的として、フッ素樹脂粒子[ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂粒子など]を含む炭素粉末のペーストが塗布されている場合もある。
【0066】
正極触媒層512は、正極拡散層511を介して拡散してきた酸素を還元する機能を有する。正極触媒層512は、例えば、触媒を担持した炭素粉末(触媒担持炭素粉末)と、プロトン伝導性材料とを含有する。また、必要に応じて、樹脂バインダを更に含有していてもよい。
【0067】
正極触媒層512で用いられる触媒としては、酸素を還元できるものであれば特に制限はないが、例えば、白金微粒子が挙げられる。上記触媒は、鉄、ニッケル、コバルト、錫、ルテニウム及び金よりなる群から選ばれる少なくとも1種の金属元素と白金との合金で構成される微粒子などであってもよい。
【0068】
触媒の担体である炭素粉末としては、例えば、BET比表面積が10〜2000m2/gであり、平均粒子径が20〜100nmのカーボンブラックなどが用いられる。炭素粉末への上記触媒の担持は、例えば、コロイド法などで行うことができる。炭素粉末と触媒との含有比率としては、例えば、炭素粉末100質量部に対して、触媒が5〜400質量部であることが好ましい。このような含有比率であれば、十分な触媒活性を有する正極触媒層が構成できるからである。例えば、炭素粉末上に触媒を析出させる方法(例えば、コロイド法)で触媒担持炭素粉末が作製される場合には、炭素粉末と触媒とが上記の含有比率であれば、触媒の径が大きくなりすぎず、十分な触媒活性が得られるからである。
【0069】
正極触媒層512に含まれるプロトン伝導性材料としては、特に制限はないが、例えば、ポリパーフルオロスルホン酸樹脂、スルホン化ポリエーテルスルホン酸樹脂、スルホン化ポリイミド樹脂などのスルホン酸基を有する樹脂を用いることができる。ポリパーフルオロスルホン酸樹脂としては、具体的には、デュポン社製の「ナフィオン(登録商標)」、旭硝子社製の「フレミオン(登録商標)」、旭化成工業社製の「アシプレックス(商品名)」などが挙げられる。
【0070】
正極触媒層512におけるプロトン伝導性材料の含有量は、触媒担持炭素粉末100質量部に対して、2〜200質量部であることが好ましい。プロトン伝導性材料が上記の量で含有されていれば、正極触媒層において十分なプロトン伝導性が得られ、電気抵抗値が大きくなりすぎず、電池性能の良好な燃料電池を得ることができるからである。
【0071】
正極触媒層512に係るバインダとしては、特に制限はないが、例えば、PTFE、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体(E/TFE)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)及びポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)などのフッ素樹脂や、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、ポリスチレン、ポリエステル、アイオノマー、ブチルゴム、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・エチルアクリレート共重合体及びエチレン・アクリル酸共重合体などの非フッ素樹脂などを用いることができる。
【0072】
正極触媒層512におけるバインダの含有量は、触媒担持炭素粉末100質量部に対して、0.01〜100質量部であることが好ましい。バインダが上記の量で含有されていれば、正極触媒層について十分な結着性が得られ、電気抵抗値が大きくなりすぎず、電池性能の良好な燃料電池を得ることができるからである。
【0073】
負極触媒層514は、負極拡散層515を介して拡散してきた水素などの燃料を酸化する機能を有している。負極触媒層514は、例えば、触媒を担持した炭素粉末(触媒担持炭素粉末)と、プロトン伝導性材料とを含有している。必要に応じて、樹脂などのバインダを更に含有していてもよい。
【0074】
負極触媒層514に係る触媒は、水素などの燃料を酸化できれば特に制限はなく、例えば、正極触媒層512に係る触媒として例示した上記の各触媒を用いることができる。負極触媒層514に係る上記炭素粉末、プロトン伝導性材料、及びバインダについても、正極触媒層512に係る炭素粉末、プロトン伝導性材料、及びバインダとして例示した上記の各材料を用いることができる。
【0075】
固体高分子電解質膜513は、プロトンを輸送可能であり、かつ電子伝導性は示さない材料で構成された膜であれば、特に制限はない。固体高分子電解質膜513を構成し得る材料としては、例えば、ポリパーフルオロスルホン酸樹脂、具体的には、デュポン社製の「ナフィオン(登録商標)」、旭硝子社製の「フレミオン(登録商標)」、旭化成工業社製の「アシプレックス(商品名)」などが挙げられる。その他、スルホン化ポリエーテルスルホン酸樹脂、スルホン化ポリイミド樹脂、硫酸ドープポリベンズイミダゾールなども、固体高分子電解質膜513の材料として用いることができる。
【0076】
なお、図6では示していないが、燃料電池の有するMEAは、正極と負極とを、例えば、抵抗及びスイッチを介してリード体などで接続するなどして、導通可能なように形成されていることが好ましい。この場合、燃料電池による発電の終了時に、上記のスイッチを入れるなどしてMEAに係る正極と負極とを短絡させて、燃料電池内に残留する水素を消費できる。そのため、燃料電池による発電の終了時に燃料電池内に残留する水素による燃料電池の劣化を抑制できる。
【0077】
燃料電池に係るMEAにおいて、正極と負極とを、上記のように抵抗を介して導通可能なように構成する場合、かかる抵抗としては、例えば、燃料電池システムに係る燃料電池の停止後、MEAの正極−負極間の電圧が0.1V以下となるのに要する時間が1分以内となるような抵抗値を有するものを用いればよく、抵抗を用いなくても、このような時間でMEAの正極−負極間の電圧を上記のように下げることができるのであれば、抵抗を用いずにスイッチのみを介してリード体などで接続して、導通可能としてもよい。
【0078】
次に、水素消費装置800の詳細な構成について図7を用いて説明する。図7は、本発明の燃料電池システムに用い得る水素消費装置800の一例を示す一部断面概略図である。
【0079】
図7において、水素消費装置800は、正極と負極とを導通可能にしたMEA810を有する。MEA810は、酸素を還元する正極触媒層812と、水素を酸化する負極触媒層814とを有しており、更に、正極触媒層812と負極触媒層814との間に固体高分子電解質膜813を備えている。正極触媒層812の固体高分子電解質膜813側とは反対側の面には正極拡散層811が積層され、負極触媒層814の固体高分子電解質膜813側とは反対側の面には負極拡散層815が積層されている。これら各層の材料は、図6で説明した燃料電池500に係るMEA510と同様の材料を使用できる。
【0080】
また、MEA810は、正極拡散層811の上部に配置された正極集電板821と、負極拡散層815の下部に配置された負極集電板822とで挟持されており、正極集電板821と負極集電板822とは、例えばボルト829とナット830により固定されている。図7中、823はシリコンゴムなどからなるシール材であり、824はタンク部(水素タンク部)である。タンク部824には、水素消費装置800によって水素を除去した残りのガスをシステム外に排出するための配管111、及び水素を含むガスを水素消費装置800に導入するための配管110が接続されている。
【0081】
正極集電板821及び負極集電板822としては、例えば、白金、金などの貴金属や、ステンレス鋼などの耐食性金属、またはカーボンなどから構成される。また、それらの材料に耐食性向上のために、表面にメッキや塗装が施されている場合もある。
【0082】
正極集電板821には複数の空気孔821aが形成されており、これら空気孔821aを通じて大気中の酸素がMEA811の正極に供給されるようになっている。一方、負極集電板822には複数の水素導入孔822aが形成されており、これら水素導入孔822aを通じて配管110からタンク部824へ導入された水素を含むガスがMEA810の負極に供給される。
【0083】
正極集電板821の端部には正極リード線825が、負極集電板822の端部には負極リード線826が、それぞれ接続されている。また、これらのリード線825、826は、抵抗827及びスイッチ828を介して接続されている。そして、水素消費装置800によってガス中の水素を消費する必要が生じた場合に、スイッチ828を入れ、MEA810の正極−負極間を導通させることで、ガス中の水素を消費できる。これにより、燃料電池500内から排気され、システム外に排出する必要のあるガス中の水素や、燃料電池500による発電の終了時に、水素供給源から燃料電池500内に侵入する水素を、完全に無くすか、またはそれらの水素量を大幅に低減することができる。
【0084】
なお、図7に示す水素消費装置800では、MEA810の正極と負極とを、抵抗827を介して接続しているが、かかる抵抗827としては、例えば、水素消費装置内に水素が導入されてから、MEA810の正極−負極間の電圧が0.1V以下となるのに要する時間が1分以内となるような抵抗値を有するものを用いればよく、抵抗827を用いなくても、このような時間でMEA810の正極−負極間の電圧を上記のように下げることができるのであれば、MEA810の正極と負極とは、抵抗を用いずにスイッチのみを介してリード体などで接続して、導通可能としてもよい。
【0085】
なお、水素消費装置は、上記の通り、燃料電池と同様にMEAを備えているため、例えば、燃料電池に複数のMEAを有するもの(スタック)を使用し、その一部のMEA(例えば、1つ)を水素消費装置として使用する形態で、燃料電池と水素消費装置とを一体化した構成とすることもできる(図5には、燃料電池500と水素消費装置800とが一体となった構成を示している。)。このような構成とすることで、燃料電池システムの小型化がより容易となる。この場合、水素消費装置として使用するMEAと発電用に使用するMEAとは接続せず、また、水素消費装置で水素を除去したガスを効率よくシステム外に排気でき、かつ効率よく発電できるように、水素消費装置として使用するMEAと発電用に使用するMEAとは、互いに内部のガスが行き来できないように構成する。
【0086】
水素を酸化し得る触媒を有する水素消費装置としては、例えば、上記触媒を含有するフィルタ、筒状などの外装体に上記触媒を充填したもの、などが例示できる。なお、水素を酸化し得る触媒としては、例えば、MEAの負極触媒層における触媒として先に例示した各種触媒などを用いることができる。
【0087】
次に、本実施形態の燃料電池システムの動作について説明する。
【0088】
水収容容器601に収容されている水602は、ポンプ201によって輸送され、配管101及び配管102を通じて水素発生材料収容容器603に供給される。水素発生材料収容容器603内では、水素発生材料604と水602とが反応し、水素が発生する。発生した水素は、配管103、配管104、配管105及び配管106を通じて燃料電池500へ供給される。また、上記水素とともに水や水蒸気などの水分が配管103に排出された場合、水蒸気は配管103内で冷却されて水となる。配管103を流れる水は、分岐管712により水素と分離され、ポンプ202によって輸送され、配管113を通じて水収容容器601で回収される。分岐管712で分離された水は水素製造用の水として再利用でき、水の利用効率を高めることができる。
【0089】
燃料電池500は配管104から排出された水素を用いて発電するが、燃料電池500の発電に伴い、燃料電池500の負極側にガス(発電に関与しなかった残留水素、及び発電の際に正極側から拡散してくる不純ガスを含むガス)や生成水が蓄積し、燃料電池500内、及び配管106内の圧力が上昇する。そこで、本実施形態では、圧力センサ400によって配管106内の圧力を測定し、配管106内の圧力がある程度高まった時点で、パージバルブ310を開くように制御する。パージバルブ310が開くと、燃料電池500内に蓄積しているガスや水は、気液混合流体として配管107に排出される。このように、パージバルブ310の開閉動作によって、燃料電池500内のガスや生成水を間欠的に燃料電池500外に排出できる。
【0090】
燃料電池500内から配管107に排出された気液混合流体は、分岐管713によって、水と、水素を含むガスに分離される。分離された水は、ポンプ202によって輸送され、配管108及び配管113を通じて水収容容器601で回収される。本実施形態では、水収容容器601が液体回収容器を兼ねており、燃料電池500から排出された水は水素製造用の水として再利用できる。
【0091】
一方、分岐管713によって分離された水素を含むガスは、配管110を通じて水素消費装置800に導入され、水素消費装置800によりガス中の水素が消費(除去)される。上述したように、本実施形態では、燃料電池500から排出された気液混合流体中の水を除去した上で、水素を含むガスを水素消費装置800に供給できるため、水素消費装置800内で生成水が溜まることによる水素消費効率の低下を抑制でき、より効率良く水素を除去できる。
【0092】
水素消費装置800に連結されている配管111は外気に接しているため、水素消費装置800によって水素が除去されたガスは、配管111を通じてシステム外に排出される。なお、図5では、配管111の排出口部分が送風ファン501からの送風が当たるように配置されているため、水素消費装置800で消費できなかった水素が排出ガス中に含まれていたとしても、送風ファン501からの送風によって希釈されつつシステム外に排出される。
【0093】
ところで、一般には、燃料電池の発電が停止している際に、燃料電池内の正極に空気が、負極に水素がそれぞれ貯留した状態が長時間継続すると、燃料電池の劣化が生じる。この劣化の原因は定かではないが、燃料電池の電圧が発電時よりも高い状態で維持されるために、正極及び負極の炭素や触媒(詳しくは後述する)が酸化するためではないかと推測される。そのため、燃料電池システムは、燃料電池の発電の終了時に燃料電池内への水素の侵入を防止可能な構成や、燃料電池の発電の終了時に燃料電池内に残留する水素を除去可能な構成を有することが好ましい。
【0094】
そこで、本実施形態の燃料電池システムは、燃料電池の発電終了時に燃料電池内への水素の侵入を防止するために、水素発生材料収容容器603で発生した水素を燃料電池500へ導入するための配管104と配管105との間に三方形弁302を設けて、配管104を三方形弁302を介して配管109とも接続させ、この配管109を配管107に接続させている。燃料電池500の発電終了時には、三方形弁302を作動させ、水素発生材料収容容器603で発生した水素を、配管109、配管107、分岐管713、及び配管110を通じて水素消費装置800に供給する。これにより、水素発生材料収容容器603で発生した水素の燃料電池500への侵入を防止しつつ、その水素を水素消費装置800で消費できる。また、燃料電池500内への水素の侵入を防止できるため、水素による燃料電池500の劣化を大幅に抑制することができる。
【0095】
また、本実施形態の燃料電池システムは、燃料電池の発電終了時に燃料電池内に残留する水素を除去するために、水収容容器601と水素発生材料収容容器603とを接続する配管101と配管102との間に三方形弁301を設けて、配管101を三方形弁301を介して配管112とも接続させるとともに、配管105と配管106との間に三方形弁303を設けて、配管112を三方形弁303を介して配管106と接続させている。燃料電池500の発電終了時には、三方形弁301及び三方形弁303を作動させるとともにパージバルブ310を閉じ、水収容容器601内の水602を配管101、配管112及び配管106を通じて、燃料電池500内に供給する。これにより、燃料電池500内は水で満たされる。ところで、一般的な固体高分子形燃料電池では、長時間停止していると固体高分子電解質膜が乾燥するため、発電開始時に発電による自己湿潤が必要となり、出力の立ち上がりに時間を要するようになる。しかしながら、本実施形態の燃料電池システムでは、上述したように、燃料電池500による発電の終了時に、燃料電池500内を水で満たすことができるため、固体高分子電解質膜の乾燥を防いで、再起動時に初期から高い出力を発揮することが可能となる。また、燃料電池500の発電終了時に燃料電池500内に供給する水を水収容容器601から供給するようにしているため、水収容容器などを別途備える必要がなく、システム全体をコンパクト化できる。
【0096】
ただし、燃料電池内が水で満たされている状態で燃料電池システムを起動させた場合、水素発生材料収容容器603内で発生した水素が、水で充填された燃料電池500内に供給されることで燃料電池500内で大きな圧力変動が生じ、MEAの破損の原因ともなるため、燃料電池システムの起動前に燃料電池500内の水を除去する必要がある。燃料電池500内の水を除去する方法としては、例えば、ポンプ201を一定時間逆転させるなどして燃料電池500内の水を水収容容器601に戻すことで対応可能である。
【実施例】
【0097】
ここでは、実施例を用いて本発明を詳細に説明するが、その前に、分岐管の気液分離効率について検討した。
【0098】
(分岐管の気液分離効率)
まず、図1の分岐管701を用い、図8に示す気液分離装置を組み立てた。このとき、分岐管701の分岐角θを90°とし、分岐管701の排気流路を重力方向とは逆方向(図8において気体が上側に排出される方向)に配置した。なお、水収容容器620には、水の回収に伴い容器内の内圧が上昇するのを防止するため、内圧調整用の配管116を設けた。また、水収容容器601には、水の排出に伴い容器内の内圧が減少するのを防止するため、内圧調整用の配管119を設けた。
【0099】
そして、水収容容器601から分岐管701の導入流路の直前までの配管内に水を満たした後、下記の操作を行った。
【0100】
水素ボンベ610に収容されている水素を配管114内に供給した。このとき、水素ボンベ610をデジタルマスフローコントローラ611で制御し、水素供給速度を600ml/minとした。これと同時に、水収容容器601に収容されている水602を、ポンプ203によって配管114内に供給した。このときの水供給速度を5.0g/minとし、水供給時間を2分間とした。
【0101】
上記操作により、配管114内には水と水素との気液混合流体が流れる。この気液混合流体は、分岐管701によって水と水素に分離される。分岐管701によって分離された水は、ポンプ204によって配管115を通じて水回収容器620で回収した。このとき、ポンプ204による水の輸送速度は、ポンプ203による水供給速度と同じ速度とした。
【0102】
一方、分岐管701によって分離された水素は、配管117、水回収容器621を通じて配管118から排出した。このとき、水素と共に配管117に排出された水は水回収容器621に回収した。
【0103】
そして、ポンプ203による水収容容器601から配管114への水602の供給量と、水回収容器620で回収された水602の量とから、排液側の水回収率(wt%)を求めた。
【0104】
また、上記分岐角θが90°である分岐管701に代えて、分岐角θが60°、30°、20°である各分岐管701を用いて図8に示す気液分離装置をそれぞれ組み立てた。そして、上記の操作を行い、排液側の水回収率を求めた。
【0105】
さらに、分岐角θが90°、60°、30°、20°である上記各分岐管701について、排気流路を重力方向(図8において気体が下側に排出される方向)に配置した場合についても同様の操作を行い、排液側の水回収率(wt%)を求めた。
【0106】
図10に、分岐管701の角度θ及び排気流路の配置位置と、排液側の水回収率(wt%)との関係を示した。図10において、「Up」は、分岐管701の排気流路を重力方向とは逆方向に配置した場合の排液側の水回収率(wt%)を示しており、「Down」は、分岐管701の排気流路を重力方向に配置した場合の排液側の水回収率(wt%)を示している。
【0107】
図10に示されるように、分岐管701の分岐角θが小さくなるにつれ、排液側の水回収率が向上していることが確認された。排気流路の配置位置については、重力方向とは逆方向に配置した場合の方が水回収率が良いことが確認された。これらの結果から、特に、分岐角θが20°〜30°の範囲で、かつ、排気流路は重力方向とは逆方向に配置した場合に水回収率が良い、つまり、気液分離効率が高いことがわかった。
【0108】
(2個の分岐管を有する分岐管の気液分離効率)
図8における分岐管701を図3に示す分岐管712に代えて、図8に示す気液分離装置を組み立てた。分岐管712を構成する分岐管701の分岐角θは20°とし、分岐管701の排気流路を重力方向とは逆方向に配置した。そして、上述した操作を行い、排液側の水回収率(wt%)を求めた。
【0109】
分岐管701の排気流路を重力方向に配置した場合についても同様の操作を行い、水回収率(wt%)を求めた。
【0110】
上記結果を表1に示す。なお、分岐角θが20°の分岐管701の結果も同時に示した。
【0111】
【表1】

【0112】
表1の結果から、分岐管701を2個有する分岐管712を用いた場合の水回収率(wt%)は、分岐管701の排気流路の配置位置に関係なく、分岐管701が1個である場合よりも優れていることが分かった。
【0113】
以上の結果を踏まえ、下記実施例に基づいて本発明を詳細に述べる。ただし、下記実施例は本発明を制限するものではない。
【0114】
(実施例1)
図9に示すように、気液分離装置700、水素供給源となる水素発生材料収容容器603、排気側の水回収容器621を備えた水素製造装置を組み立てた。配管103には圧力センサ605を設置した。水回収容器621に水素を排出可能な配管118を設け、配管118には、乾燥剤120及び水素モニタリング装置としてのデジタルマスフローメータ612を設置した。なお、水収容容器620には、水の回収に伴い容器内の内圧が上昇するのを防止するため、内圧調整用の配管116を設けた。また、水収容容器601には、水の排出に伴い容器内の内圧が減少するのを防止するため、内圧調整用の配管119を設けた。
【0115】
分岐管712を構成する2個の分岐管701の各分岐角θは20°とした。排気流路は重力方向とは逆方向に配置した。配管101、102、113及び114には、内径1.0mmのSiチューブを用い、配管103、104、116、118、119には、内径3.0mmのSiチューブを用いた。
【0116】
水収容容器601には、水602を600g収容した。水素発生材料収容容器603には、内容積100cm3のポリプロピレン製角柱状の容器を用い、その中に、平均粒径6μmのアルミニウム粉末(水素発生物質)72.7gと、酸化カルシウム(発熱物質)10.1gとを収容した。
【0117】
そして、下記の試験を行った。
【0118】
まず、水収容容器601に収容されている水602を、ポンプ201を用いて5.0g/minの供給速度で配管101及び配管102を通じて水素発生材料収容容器603に供給した。水素発生材料収容容器603内では、水素発生材料604と水602とが反応して水素が発生し、水素は、配管103から排出される。このとき、水素と共に水や水蒸気などの水分も排出された場合、水分は分岐管712で分離される。
【0119】
分岐管712で分離された水分は、ポンプ202あるいはポンプ203によって輸送され、配管113あるいは配管114を通じて水回収容器620に回収した。チューブポンプ202及び203の供給速度は、5.0g/minとした。一方、分岐管712で分離された水素を含む気体は配管104、水回収容器621、配管118を通じて外部に排出される。水回収容器621には、配管104から排出された水素を含む気体中の水分が回収される。
【0120】
上記水素発生材料収容容器603への水602の供給を開始してから2.5時間後に、ポンプ201を止め、水素発生を終了させた。
【0121】
水素発生を行っている間、圧力センサ605によって配管103内の圧力をモニタリングしたところ、上記2.5時間の試験中の配管103内における圧力に対する標準偏差は、4.3であり、最大値及び最小値は、それぞれ33kPa及び0kPaであった。また、水回収容器620及び水回収容器621に収容されている水の合計量に対する、水回収容器620に回収された水の重量割合は、95%であった。
【0122】
以上のことから、管内の圧力変動がある場合においても、分岐管712による気液分離の効果を確認できた。従って、本発明の気液分離装置に用いられる分岐管は、導入流路と排気流路の成す角が鋭角である分岐管701を複数個使用すると、排液流路を重力方向に配置するか否かに係わらず、気液分離効率を向上できると考えられた。
【産業上の利用可能性】
【0123】
本発明の気液分離装置は、長期に亘る使用においても効率よく気液分離できる装置として様々な分野で利用可能である。本発明の水素製造装置は、例えば、燃料電池用の燃料源として利用可能である。本発明の水素製造装置を用いた燃料電池システムは、特にポータブル電源に適している。
【符号の説明】
【0124】
101、102、103、104、105、106、107、108、109、110、111、112、113、114、115、116、117、118、119 配管
120 乾燥剤
201、202、203、204 ポンプ
301、302、303 三方形弁
310 パージバルブ
400 圧力センサ
500 燃料電池
501 送風ファン
510 電極・電解質一体化物(MEA)
511 正極拡散層
512 正極触媒層
513 固体電解質膜
514 負極触媒層
515 負極拡散層
520 正極パネルプレート
521 負極パネルプレート
522 正極絶縁プレート
523 負極絶縁プレート
524 正極集電プレート
526 負極集電プレート
529 燃料タンク部
531 負極開口部
532 ボルト
533 ナット
528a、528b シール部
600 水素供給源
601 水収容容器
602 水
603 水素発生材料収容容器
604 水素発生材料
605 圧力センサ
610 水素ボンベ
611 マスフローコントローラ
612 マスフローメータ
620、621 水回収容器
700 気液分離装置
701、711、712、713 分岐管
702 ベンド管
703 導入管
800 水素消費装置
810 電極・電解質一体化物(MEA)
811 正極拡散層
812 正極触媒層
813 固体高分子電解質膜
814 負極触媒層
815 負極拡散層
821a 空気孔
822a 水素導入孔
821 正極集電板
822 負極集電板
823 シール材
824 タンク部(水素タンク部)
825 正極リード線
826 負極リード線
827 抵抗
828 スイッチ
829 ボルト
830 ナット
901 逆止弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気体と液体の二相間の密度差に基づいた慣性力の差によって、水素を含む気体と、液体とを含む気液混合流体を液体と気体に分離して排出する分岐管と、
前記気液混合流体から分離された液体を回収する液体回収部と、を備え、
前記分岐管は、前記気液混合流体を導入する導入流路と、気体を排出する排気流路と、液体を排出する排液流路とを含み、
前記排気流路は、前記気液混合流体の導入方向に対して鋭角かつ逆方向に向けて前記導入流路に連結されていることを特徴とする気液分離装置。
【請求項2】
前記液体回収部は、前記分岐管の排液流路から排出される液体を回収する液体回収容器と、前記分岐管の排液流路と前記液体回収容器との間に配置され、前記分岐管の排液流路から排出された液体の逆流を防ぐための逆止弁とを含む請求項1に記載の気液分離装置。
【請求項3】
前記液体回収部は、前記分岐管の排液流路から排出される液体を回収する液体回収容器と、前記分岐管の排液流路と前記液体回収容器との間に配置され、前記分岐管の排液流路から排出された液体が逆流しないように前記液体回収容器に輸送するポンプとを含む請求項1に記載の気液分離装置。
【請求項4】
前記分岐管を複数連結して含み、隣接する一方の分岐管の排気流路と、他方の分岐管の導入流路とが、U字型継ぎ手を介して連結されている請求項1ないし3のいずれか1項に記載の気液分離装置。
【請求項5】
前記分岐管の前記導入流路と前記排気流路との成す角度は20°以上90°未満である請求項1ないし4のいずれか1項に記載の気液分離装置。
【請求項6】
水との反応により水素を発生する水素発生材料に水を供給して水素を製造する水素製造装置において、
請求項1〜5のいずれか1項に記載の気液分離装置を含むことを特徴とする水素製造装置。
【請求項7】
前記気液分離装置の前記液体回収部によって回収した液体を、前記水素発生材料に供給する水として利用する請求項6に記載の水素製造装置。
【請求項8】
請求項6または7に記載の水素製造装置と、前記水素製造装置で製造された水素を燃料とする燃料電池とを含むことを特徴とする燃料電池システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−566(P2011−566A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−147641(P2009−147641)
【出願日】平成21年6月22日(2009.6.22)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】