説明

気液反応方法及びそのための装置

【課題】反応基質を含む液体と反応気体との気液共存系における反応を効率的に行う。
【解決手段】微小管状反応器を用いて、液相の反応基質を反応気体と反応させて反応生成物を得る気液反応方法。微小管状反応器の内径の相当直径は5〜10,000μmであり、微小管状反応器は気体導入部を管長さ方向の2箇所以上に有する。反応器内部の気相体積に対する液相体積の割合が増加するため、滞留時間を稼ぐことができ、気液反応による生産性が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は気液反応方法及びそのための装置に係り、特に、微小流路内への気体導入部を2箇所以上有する微小管状反応器を用いて、気液混相流での反応を効率的に行う方法及びそのための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、気体と液体が共存する有機合成反応においては、フラスコや金属容器等の大容量の容器に所定の試料を収容し、気体を流通あるいは閉じこめることにより合成反応が行われていた。また、工業的には、気泡塔や、充填塔などの比較的大きなスケールでの反応が行われてきた。
【0003】
しかし、このような閉じこめ反応やスケールの大きな反応器を用いる方法により、気体と液体との反応を気液共存系で実施しようとすると、気相部分から液相部分への気体の溶解速度が反応の律速となるために、反応速度が低く、生産性が低いものとなる。また、気体の溶解速度が十分でないことから、液相の気体濃度が低下し、触媒の安定性が問題となる場合があった。加えて、反応による生成熱が大きいために、反応温度の制御に困難をきたす場合があった。
【0004】
これに対して、近年ではマイクロリアクターなどの微小な反応流路を用いた化学合成についての研究が行われてきている。例えば、特表2001−521816号公報には、微小流路中にフッ素を含むガスと反応基質の溶液とを流通させることにより、直接フッ素化を実施する方法が開示されている。このような、微小流路を用いた化学合成反応は、反応を効率的に行えると共に、高い除熱効率が達成できるため、発熱反応を伴う合成反応を安全に行える点や、収率が向上する点、更には取り扱いが容易な点から近年特に注目されている。
【特許文献1】特表2001−521816号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
マイクロリアクターの反応流路は微小であるため、リアクター容積は極めて小さいが、このような小容積のリアクター内では、気液反応の際の反応気体の体積割合が大きくなると反応基質の滞留時間が稼げなくなり収率は低下する。リアクター径を大きくすることで滞留時間を伸ばせるが、除熱効果が低下する。リアクター長を長くすることでも、滞留時間を伸ばせるが、圧力損失が大きくなる。また、流量を下げることによっても、滞留時間を伸ばせるが、生産性の低下は避けられない。
【0006】
上記特表2001−521816号公報には、フッ素化反応についてマイクロリアクターを使用することが記載されているが、リアクター中の反応液体の反応気体に対する体積比の増加によって生産性を向上させることは検討されておらず、そもそも、リアクター内の反応気体の割合が高くなると収率が低下することについて認識されておらず、気液共存系の反応をより効率的に行うための方法の開発が望まれている。
【0007】
従って、本発明は、微小管状反応器内で、液相の反応基質と反応気体との気液共存系における反応をより一層効率的に行う方法と、そのための装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、かかる事情に鑑み鋭意検討した結果、気液反応効率の向上のためには、反応気体の液相への溶解速度を向上させる方法が有効であり、そのためには微小管状反応器を用いることが好適であるが、この場合において、微小管状反応器の流通方向(管長さ方向)の2箇所以上から反応気体を導入することにより、微小管状反応器内での反応基質を含む液相部に対する反応気体の体積割合を低減させることができ、その結果、微小管状反応器内の反応基質の滞留時間を稼ぐことができ、収率の向上、生産性の増大を図ることができることを見出し、本発明に至った。
即ち、本発明は以下を要旨とする。
【0009】
[1] 微小管状反応器に、反応基質を含む液体成分と反応気体を含む気体成分とを流通させて、該微小管状反応器内で該反応基質と該反応気体とを反応させて反応生成物を得る気液反応方法において、該微小管状反応器の内径の相当直径が5〜10,000μmであり、該反応気体を含む気体成分を該微小管状反応器の前記流通方向の2箇所以上から該微小管状反応器内に導入することを特徴とする気液反応方法。
【0010】
[2] 該反応気体を含む気体成分を該微小管状反応器内に導入する箇所のうち少なくとも1箇所は、前記反応基質の転化率が10%以上の部分にある[1]に記載の気液反応方法。
【0011】
[3] 該反応気体を含む気体成分を該微小管状反応器に導入する箇所のうち少なくとも1箇所は、上記箇所よりも前記流通方向上流側の導入箇所で導入された反応気体の減少率が10%以上である部分にある[1]又は[2]に記載の気液反応方法。
【0012】
[4] 該微小管状反応器内の気液混相流が、プラグ流又はスラグ流である[1]〜[3]のいずれかに記載の気液反応方法。
【0013】
[5] 該液体成分中に均一触媒が含まれている[1]〜[4]のいずれかに記載の気液反応方法。
【0014】
[6] 該気液反応が、気液共存系での酸化反応である[1]〜[5]のいずれかに記載の気液反応方法。
【0015】
[7] 該気体成分が酸素を含む[1]〜[6]のいずれかに記載の気液反応方法。
【0016】
[8] 液相の反応基質を反応気体と反応させて反応生成物を得る気液反応に用いるための気液反応装置であって、内径の相当直径が5〜10,000μmである微小管状反応器を備え、かつ、該反応気体を該微小管状反応器の管長さ方向の2箇所以上から導入するための導入手段を備えていることを特徴とする気液反応装置。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、微小管状反応器を用いることによる液相部分への反応気体の溶解速度の向上及び熱交換効率の向上で気液反応速度が向上すると共に気液反応が安定化し、発熱量の大きい反応や反応条件の精密制御が困難な気液反応を行う場合であっても、効率的にかつ安全に気液反応を実施することが可能となる。
【0018】
しかも、この微小管状反応器の流通方向(管長さ方向)の2箇所以上から反応器内に反応気体を導入することによる、反応器内部の気相体積に対する液相体積の割合の増加(液相体積に対する気相体積の割合の低減)で、反応器内の反応基質の滞留時間を長くすることができ、従って、除熱効率、圧力損失や生産効率を損なうことなく、気液反応収率を向上させることができると共に、上記効果をより一層確実に得ることができる。
【0019】
即ち、前述の如く、微小管状反応器を用いることにより、気液接触効率を高め、また、除熱効率を高めて効率的な気液反応を行えるが、微小管状反応器の反応流路は微小であるため、反応気体の割合が大きくなると反応基質の反応器内滞留時間が稼げなくなり収率は低下する。滞留時間を伸ばす方策として、反応器の径や長さを大きくすることや、流量を小さくすることが考えられるが、反応器の径を大きくすることは除熱効果の低下に、また、反応器長を長くすることは、この圧力損失の増大につながる。また、流量を下げることは生産性の低下につながる。
【0020】
本発明では、このように、滞留時間の確保が困難な微小管状反応器において、反応気体を含む気体成分を流通方向(管長さ方向)の2箇所以上で微小管状反応器内に導入することにより、1つの導入箇所で導入する反応気体を含む気体成分量を低減することができ、また、反応器に導入された反応気体が気液反応で消費された後に、更に反応気体を追加導入することができるため、反応気体を1箇所から導入する場合に比べて、微小管状反応器内の各部における気相の体積を少なくすることができ、これにより、反応器内滞留時間を確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に本発明の気液反応方法及びそのための装置の実施の形態を詳細に説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々に変形して実施することができる。
【0022】
[微小管状反応器]
本発明に係る微小管状反応器は、単一の管から成っていても良く、また、複数の管を組み合わせたものであっても良い。
<内径の相当直径>
本発明で使用する微小管状反応器の内径の相当直径の下限は、通常5μm以上、好ましくは10μm以上、更に好ましくは50μm以上、最も好ましくは100μm以上で、上限は通常10,000μm以下、好ましくは5,000μm以下、最も好ましくは2,500μm以下である。微小管状反応器の相当直径が10,000μmを超えると反応器中で気体又は液体が合一することで気液界面積が減少したり、微小管状反応器中を用いることによる気液界面積の確保、及びそれによる気液反応速度の向上効果を十分に得ることができず、5μm未満では反応流体の流通抵抗が大きくなりすぎ、処理効率が低下する。
【0023】
なお、本発明において、微小管状反応器の内径の相当直径とは、反応器を反応流体の進行方向(反応成分の気液混相流の流通方向)に垂直な断面(以下、この面を単に「断面」と称す。)で切断した場合について、4×S(断面積)/L(断面の周の長さ)で定義される値であり、断面が完全な円であった場合には、その直径が相当直径となる。なお、微小管状反応器の内径の相当直径が部分的に変化する場合、本発明に係る内径の相当直径は、次式で表される平均径で考えることができる。
【0024】
【数1】

【0025】
<断面形状>
微小管状反応器の断面の形状は、円状、楕円状、正方形、長方形等、その他多角形状等種々の形状のものが使用できる。この微小管状反応器の断面形状及びその内径の相当直径は微小管状反応器の位置によって異なるものであっても良い。
【0026】
<長さ>
微小管状反応器の長さは、反応が進行するのに十分に長い時間、反応流体が反応器内に滞留するように決定される。滞留時間を長くとる目的から、反応器の長さが長くなる場合には、装置が大型になるのを避けるために、反応器をコイル状にしても良い。
【0027】
<材質>
反応器の材質は、反応によって発生する熱を反応器壁面から高効率に除去する目的から、熱伝導率の高い材質が好ましい。更に、反応器内圧に対する強度を確保する目的から、機械的強度に優れた材質が好ましい。具体的には、金属、ガラス、石英、有機高分子が挙げられる。金属としては、単体でも合金でも構わないが、鉄、銅、ニッケル、ステンレス、ハステロイが使用でき、中でも、ステンレス鋼管が好適に使用される。これらの材料よりなる反応器の肉厚は特に限定されない。
【0028】
<気体導入部>
本発明に係る微小管状反応器は、反応器内に反応気体を含む気体成分を導入する箇所(以下「気体導入部」と称す場合がある。)を、該反応器の反応成分の気液混相流の流通方向の2箇所以上に有する。即ち、気体導入部を流通方向(管長さ方向)に2個以上有する。
【0029】
好ましくは、該微小管反応器において、気体導入部のうち少なくとも1つは、該微小管状反応器に導入された反応基質の転化率が通常10%以上、好ましくは20%以上、最も好ましくは30%以上の位置に設置される。この気体導入部設置位置における反応基質の転化率の上限は、通常99.9%以下、好ましくは99.0%以下である。
【0030】
また、好ましくは、気体導入部のうち少なくとも1つはそれよりも上流側の気体導入部で導入された反応気体の減少率が通常10%以上、好ましくは20%以上、最も好ましくは30%以上、とりわけ50%以上の位置に設置される。
【0031】
気体導入部のうちの少なくとも1つが、該微小管状反応器に導入された反応基質の転化率10%以上の位置に設置されていないと、反応器内部の気相体積に対する液相体積の割合の増加効果を十分に得ることができず、よって、気液反応の生産性を上げることはできない。
【0032】
但し、触媒反応においては触媒を活性化するために反応気体を用いることも可能であり、その場合には反応基質の転化率が10%未満の位置で反応気体を導入していても本発明の効果を奏することが期待でき、その場合には触媒の活性化による転化率を反応基質の転化率として扱うことで、本発明は適用される。
【0033】
なお、本発明において、この反応基質の転化率(又は触媒の活性化による転化率)は、気体導入部設置位置における、反応器内の反応流体の進行方向(反応成分の気液混相流の流通方向)に垂直な断面における値であり、反応器中又は反応器の外部からのIR測定、UV測定、NMR測定などの光学的な測定や、測定したい部分までの反応器を作成し、その部分での反応基質分析による測定等により決定することができる。
【0034】
また、気体導入部のうち少なくとも1つが、それよりも上流側の気体導入部で導入された反応気体の減少率10%以上の部分に設置されていないと、反応器内部の気相体積に対する液相体積の増加効果を十分に得ることができず、よって、気液反応の生産性を上げることはできない。
【0035】
ここで、反応気体の減少率も、気体導入部設置位置における、反応器内の反応流体の進行方向(反応成分の気液混相流の流通方向)に垂直な断面における値であり、反応器中の反応気体の減少率は、透過部を有する流路を微小管反応器に接続して、撮影による測定、屈折率測定による手法や、測定したい部分までの反応器を作成し、その部分での反応気体を回収する手法等によって測定することができる。
【0036】
本発明に係る微小管状反応器の気体導入部数は、2以上であれば良く、特に制限はないが、気体導入部数が多過ぎると、微小管状反応器構成や気体導入配管等が複雑となり、工業的に好ましくない。通常、微小管状反応器の気体導入部数は2〜100、特に2〜10であることが好ましい。
【0037】
<気液混相流>
本発明における微小管状反応器内を流通する気液混相流の状態としては、気体プラグ、液体プラグが交互に流れるプラグ流(plug flow)、気体プラグと液体スラグが交互に流れるスラグ流(slug flow)の他、気泡流(bubbly flow)、チャーン流(churn flow、froth flow、semi−annular flow)、環状流(annular flow)、環状噴霧流(annular−dispersed flow)、せん状流(plug flow)、成層流(stratified flow)、波状流(wavy flow)が適用できるが、特に微小管状反応器の断面をほぼ満たすような大きい気体プラグを有するプラグ流、又はスラグ流では、気体体積の減少による滞留時間の増加効果が大きく、気液混相流の状態として好ましい。
【0038】
ここで、反応器中の気液混相流の状態は、透過部を有する流路を微小管反応器に接続して目視又は撮影することにより、或いは、高速エックス線CTによる内部の可視化のような直接的手法、流路の差圧変動信号の統計的性質からの分類による確認のような気液混相流の物理状態の測定による手法、計算機シミュレーションによる手法等により確認することができる。
【0039】
[反応基質を含む液体成分]
<反応基質>
本発明で実施される気液反応としては特に制限はないが、例えば、有機化合物の反応でよく知られている以下の反応のうちで反応原料の組み合わせが気体と液体であるものを挙げることができる。従って、本発明に係る反応基質としては、以下に挙げた反応の出発原料であるヒドロキシカルボニル基含有化合物、アルコール、アルカン、アルケン、アミン等が挙げられる。
【0040】
ヒドロキシカルボニル基含有化合物の有機過酸化物への酸化反応;アルコールのアルデヒド及び/又はケトンへの酸化反応;アルカンのアルケンへの脱水素反応;アルケンのアルデヒド及び/又はケトンへの酸化反応;アルケンのケタール及び/又はアセタールへの酸化反応;アルケンのアルキンへの脱水素反応;アルケンの溶媒付加反応;アルケンのアルケンオキサイドへの酸化反応;アミンの酸化反応によるニトロ基合成反応;アミンの酸化反応によるN−Oラジカル合成反応;アルケンのヒドロホルミル化反応;アルケンのカルボキシル化反応;アルケンのエステル化反応;アルケンの水素付加反応;アルキンの水素付加反応;カルボニル基含有化合物のカルボニル基への水素付加反応;アルキンのハロゲン付加反応;メチレン基含有化合物のメチレン基のハロゲン置換反応;芳香族基含有化合物の芳香族基のハロゲン置換反応;炭化水素化合物の炭化水素結合へのヒドロキシル基導入反応;その他の各種の付加反応等。
【0041】
これらのうち、本発明は、アルコールのアルデヒド及び/又はケトンへの酸化等の反応への適用が期待できる。また、本発明は炭化水素結合へのヒドロキシル基導入反応、特にケトエステルの酸素によるヒドロキシル化反応にも有効である。
【0042】
<均一系触媒>
本発明においては、反応基質を反応させる際に、触媒を使用しても良いし、使用しなくても良い。
触媒を用いる場合は均一系触媒が好適に用いられ、特に周期律表第4〜12族の元素(金属)及びランタノイドから選ばれる元素(金属)の少なくとも1種を含有するものが用いられる。また触媒は、周期律表第4〜12族の元素(金属)、及びランタノイドから選ばれる該触媒金属以外の金属の少なくとも1種を含有するものであっても良い。触媒はまたハロゲンを含むものであっても良い。
【0043】
これらの触媒は、通常、反応基質を含む液体成分中に含有されて微小管状反応器に供給される。
触媒の使用量は特に制限はないが、反応基質に対して有効成分量として0.1ppm以上、特に1ppm以上、10,000,000ppm以下、特に1,000,000ppm以下とすることが好ましい。触媒量がこの範囲より少ないと十分な気液反応速度を得ることができず、多いと製造コストの面で不利である。
【0044】
<溶媒>
本発明においては、反応基質を反応させる際に、溶媒を使用しても良いし、反応基質自体を溶媒量使用して反応を行っても良い。溶媒を使用する場合には、反応基質を溶解させて反応器に供給してもよいし、反応基質と別々に供給しても良い。
【0045】
溶媒としては、水、有機溶媒、イオニックリキッド、液体の無機化合物等の1種又は2種以上が使用可能である。有機溶媒としては、ヘキサンなどの脂肪族系炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、アセトン、ジエチルケトン、メチルエチルケトン等のケトン類、ブチルアルデヒドなどのアルデヒド類、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、ジイソブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエ−テル類、酢酸エチル、酢酸ブチル、ジ−n−オクチルフタレ−ト等のエステル類、トリエチルアミン、ピロリジン、ピペリジンなどのアミン類、ジメチルホルムアミド等のアミド類、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール等のアルコール類、エチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール等のジオール類、アセトニトリル等のニトリル類、トリエチルアミン等のアミン類、ピリジン等の複素芳香族化合物、四塩化炭素、クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン等のハロゲン溶媒、酢酸、蟻酸等のカルボン酸類、スルホン酸類が挙げられ、これらの2種以上の任意の割合の混合溶媒を用いることもできる。液体の無機化合物としては、硫酸、リン酸、亜リン酸等のリン酸類、硝酸、過酸化水素水等が挙げられる。溶媒としては、中でも、水系溶媒と有機溶媒が好ましく、更に好ましくは炭化水素類やアルコール類が好ましく、特にアルコール類が好適である。
【0046】
溶媒を用いる場合、その使用量には特に制限はなく、用いる反応基質の種類やその他の反応条件等によって適宜決定されるが、反応基質の濃度が溶媒1リットルに対して通常0.01モル以上、好ましくは0.1モル以上、更に好ましくは0.5モル以上で、20モル以下、好ましくは10モル以下、更に好ましくは6モル以下となるような量の溶媒を用いるのがよい。溶媒の使用量がこの範囲より多いと生産性が低下して不利であり、少ないと触媒或いは反応基質を溶解させる点で不利である。
【0047】
[反応気体を含む気体成分]
反応気体としては、酸素、オゾン、水素、フッ素、塩素、一酸化炭素、二酸化炭素、二酸化硫黄、塩酸ガス、アンモニアガス等が挙げられ、酸素は一重項酸素及び三重項酸素が挙げられる。またこれらの混合ガス、或いは、これらの反応気体と他の気体との混合ガスを使用しても良い。
【0048】
気体成分中の反応気体の濃度は特に制限はないが、体積割合で0.01〜100%の範囲から選ばれ、好ましくは0.1%以上、より好ましくは5%以上で、特に好ましくは10%以上であり、好ましくは99%以下である。反応気体の濃度が上記範囲よりも低いと十分な反応効率を得ることができない。
【0049】
[反応条件]
<気液体積比>
微小管状反応器に複数の気体導入部から導入する反応気体を含む気体成分の総体積Vは、反応基質及び必要に応じて均一系触媒や溶媒を含む液体成分の総体積Vに対して、標準状態の体積比V/V(以下「気液体積比V/V」と称す。)で0.1以上、中でも1以上、特に10以上、とりわけ50以上であることが好ましい。また、この気液体積比V/Vは10,000以下であることが好ましく、特に1,000以下あることが好ましい。気液体積比V/Vが0.1未満では、十分な気液の混合効果を得ることができず、10,000を超えると反応器内での滞留時間を十分に確保することができない。
【0050】
<気体成分導入割合>
本発明においては、前述の如く、微小管状反応器内の反応成分(気液混相流)の流通方向(管の長さ方向)の2箇所以上の気体導入部から、反応気体を含む気体成分を導入するが、微小管状反応器に設けられた気体導入部を該流通方向の上流側からD,D,………D(nは2以上の気体導入部設置数)とし、各々の気体導入部から導入される反応気体を含む気体成分の体積をVG1,VG2,………VGn(nは2以上の気体導入部設置数)とすると、標準状態のいずれか2つの体積のうち小さな方を分母とした体積比が1000以下、中でも100以下、特に50以下、とりわけ10以下が好ましい。この体積比が1000を超えると、反応器中の気相体積に対する液相の体積の割合の増加が見込めない。ただし、この体積比の下限は1である。
【0051】
なお、微小管状反応器の全長をLとし、微小管状反応器の基端点をD、気体導入部の点を微小管状反応器の上流側から下流側へ向けてD,D,………Dとし、基端Dから気体導入部Dまでの距離をLD1で表し、同様にして、基端Dから導入部Dまでの距離をLDnで表した場合、気体導入部の任意の2点(D、D)間の距離は、LDq−LDpとなる(1≦p<q≦n)が、D、Dは次式
(L−LD1)×1/(10×n)≦LDq−LDp≦(L−LD1)(1−1/(10×n))
を満たすように、その位置を決めることが好ましい。
すなわち、LDq−LDpの最大値はLDn−LD1であるが、これが(L−LD1)(1−1/10n)以下となるように位置決めをする。LDq−LDpの最小値は隣り合う2点であるが、その距離が(L−LD1)×1/10n以上となるように位置決めをする。
【0052】
<反応圧力>
本発明の気液反応を行う際の反応圧力は、通常常圧〜300気圧(30MPa)、好ましくは常圧〜100気圧(10MPa)、特に好ましくは常圧〜30気圧(3MPa)、最も好ましくは常圧〜11気圧(1.1MPa)の範囲から選ばれる。
【0053】
<反応温度>
反応温度については、従来用いられてきた条件が使用でき、通常−80℃以上、好ましくは−60℃以上、更に好ましくは−30℃以上で、通常1000℃以下、好ましくは500℃以下、更に好ましくは300℃以下、最も好ましくは200℃以下の範囲から選ばれる。
【0054】
[反応方法]
本発明の気液反応は、気体と液体からなる混相流の気液反応であり、その気液混相流の流通方向、即ち、管の長さ方向の2箇所以上に気体導入部を有する微小管状反応器内で実施される。代表的には、反応気体を含む気体成分と、反応基質及び必要に応じて均一系触媒及び/又は溶媒を含む液体成分とを各々導入管より反応器に供給し、合流後、反応器内において反応させる。又は、反応気体を含む気体成分と、反応基質を含む液体成分と、触媒を含む液体成分とを各々導入管から反応器に供給し、合流後、反応器内において反応させることもでき、この場合の合流の順番は適宜選ばれる。また、気液混相流を導入管より反応器に供給しても良い。反応器に供給する反応気体を含む気体成分は、複数の気体導入部から供給されるが、反応器に供給する液体成分及び反応気体以外の気体成分は、それぞれ一回で供給されても良いし、複数回供給されても良い。
【0055】
なお、微小管状反応器内での反応基質と反応気体との反応時に、必要に応じて第3成分を存在させても良く、このような第3成分としては、有機塩基、有機酸、及び無機物等が挙げられ、有機塩基としては、ピリジン、トリエチルアミン、ピペリジンなどの含窒素化合物が挙げられ、有機酸としては、安息香酸、トルエンスルホン酸等が挙げられ、無機物としては、モレキュラーシーブ、水酸化ナトリウム、塩化水素等が挙げられる。これらは、溶解するものは予め溶解して供給され、溶解しないものは、スラリーとして、或いは、微小管状反応器の壁面に固定化する形で存在させることができる。また、反応器に導入される気体成分は、溶媒や反応基質、生成物等の他の成分の蒸気を含んでいても良い。
【0056】
本発明の気液反応方法は、特に、後述するように、微小管状反応器と、その供給部の上流側の液体供給装置及び気体供給装置とを有する気液反応装置を用いて、反応気体を含む気体成分と、反応基質及び必要に応じて均一系触媒及び/又は溶媒を含む液体成分とを、微小管状反応器に流通させて実施することが好ましい。これにより、反応速度の増加と、触媒の安定化、反応温度の精緻な制御が図れる。
【0057】
微小管状反応器には加熱及び/又は冷却装置を設けて反応温度を制御しても良く、この場合、特に反応が高温もしくは低温で行われる場合には、熱交換器を用いて熱回収を図ることが、経済的に有利である。また、反応器の部分によって温度、濃度、圧力等の反応条件を変えてもよく、反応に応じて最適な形式が選択されることが好ましい。
【0058】
気液反応により得られた反応生成物を含む気液混相流は、微小管状反応器内の下流側で反応気体含有量の低い不活性ガスと混合することも可能である。特に反応気体として爆発性のものを用いる場合には、このようにして、気液混相流もしくはオフガスを反応器から取り出す前に不活性ガスで希釈し、気相の雰囲気を爆発範囲外とすることで安全性を高めることができる。この場合、希釈用の不活性ガスとしては、窒素、ヘリウム、アルゴンもしくは二酸化炭素等、或いはこれらの混合ガスが使用できるが、窒素の使用が経済的に最も好ましい。
【0059】
[気液反応装置]
図1に本発明の気液反応方法に好適な本発明の気液反応装置の一例を示す。
この気液反応装置は、反応気体流通用気体送給装置3、4、原料(反応基質)溶液流通用送液装置1及び触媒液流通用送液装置2から、それぞれ反応気体、原料溶液、触媒液が、反応不活性充填物を有する微小管状反応器であるマイクロリアクター5,6に送給されるように構成されている。
【0060】
原料(反応基質)溶液流通用送液装置1からの原料溶液と触媒液流通用送液装置2からの触媒液は合流点11で合流し、これらの液流は更に第1反応気体流通用気体送給装置3からの反応気体と合流点12(第1の気体導入部)で合流し、反応気体、原料及び触媒を含む気液混相流は、第1マイクロリアクター5に送給され、更に合流点13(第2の気体導入部)で第2反応気体流通用気体送給装置4からの反応気体と合流し、気液混相流は第2マイクロリアクター6に供給される。このマイクロリアクター5,6は恒温槽9内に配置され、温度が一定に保持されている。マイクロリアクター5,6内で気液反応した後の気液混相流はマイクロリアクター6から流出し、背圧弁を備える気液分離装置7で気液分離され、液体の反応生成物が貯留槽8に貯留される。
【0061】
マイクロリアクター6からの排出側配管は、マイクロリアクター5又は6への気液混相流の導入側配管と熱交換されるように設けられていても良い。また、マイクロリアクター6からの排出側配管には、希釈用の不活性ガスの導入配管が接続されていても良い。
【実施例】
【0062】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に制約されるものではない。なお、以下において圧力はゲージ圧力を示す。
【0063】
実施例1
硝酸セリウム6水和物(26.05g)を500mLのイソプロピルアルコールに加え、触媒液を調製した。
【0064】
以下のようにして、図1に示す構成の気液反応装置を組み立てた。
第1マイクロリアクター5として使用した微小管状反応器は内径(相当直径)0.75mm、長さ1.00m、容積0.442cmのテフロン製であり、第2マイクロリアクター6として使用した微小管状反応器は内径(相当直径)0.75mm、長さ1.00m、容積0.442cmのテフロン製であり、マイクロリアクター5、6の合計容量は0.884cmであった。
【0065】
微小管状反応器(第1マイクロリアクター5)を水平に置き、その微小管状反応器の一端に、PEEK製のT字型ユニオン(合流点12)を取り付けた。そのT字型ユニオンの一つの端を、酸素ガスを導入するためにマスフローコントローラー(第1反応気体流通用気体送給装置3)と繋ぎ、もう一つの端は、別のT字型ユニオン(合流点11)の一つの端とチューブで繋いだ。新たに繋いだT字型ユニオンの一つの端は、反応基質溶液を導入するため、プランジャーポンプ(原料(反応基質)溶液流通用送液装置1)とチューブで繋ぎ、もう一つの端は、触媒液を導入するため、プランジャーポンプ(触媒液流通用送液装置2)とチューブで繋いだ。
【0066】
第1マイクロリアクター5の他端にPEEK製のT字型ユニオン(合流点13)を取り付けた。そのT字型ユニオンの一つの端を、酸素ガスを導入するためにマスフローコントローラー(第2反応気体流通用気体送給装置4)と繋いだ。もう一つの端には、水平に置いた微小管状反応器(第2マイクロリアクター6)を取り付けた。
微小管状反応器5及び6は一定温度に保たれるように恒温槽9を調整した。反応生成液は気液分離装置7を経て貯留槽8に回収した。
【0067】
第1反応気体流通用気体送給装置3からは5.70SCCM、第2反応気体流通用気体送給装置4からは25.0SCCMの酸素ガスをそれぞれ流通させ、原料(反応基質)溶液流通用送液装置1、触媒液流通用送液装置2からは、反応基質であるエチル−2−オキソシクロペンタカルボキシレートと触媒液を、それぞれ0.400ml/min、0.800ml/minの量で流通させた。反応中の液相のセリウム濃度は11210ppmであった。
【0068】
恒温槽9は40℃で反応を行った。
また、第1マイクロリアクター5の入口圧力は0.807MPaG、第2マイクロリアクター6の入口圧力は0.780MPaGであり、出口圧力は0.760MPaGであった。また、第1マイクロリアクター5出口では気体状酸素は認められず(第1反応気体流通用気体送給装置3から導入した酸素ガスの減少率100%)、この部分において、第2マイクロリアクター6とT字型ユニオン13を取り外した系で、同じ第1マイクロリアクターのみを用いて反応を行い、反応液をガスクロマトグラフィーにより分析した結果、反応基質のエチル−2−オキソシクロペンタカルボキシレートの転化率は18.0%であった。
【0069】
第2マイクロリアクター6の出口で回収した気液混相流は、気液分離後にガスクロマトグラフィーで分析し、生成物であるエチル−1−ヒドロキシ−2−オキソシクロペンタカルボキシレートと生成物が加水分解した1−ヒドロキシ−2−オキソシクロペンタカルボキシルアシッドの合計の収率を求めた。反応後の液は、均一であり、沈殿等は観察されなかった。
【0070】
転化率は、
転化率=1−残存する原料モル/反応開始時の原料モル
の式により百分率で求めた。
【0071】
生成物の収率は、
収率=反応液中に含まれる生成物のモル/反応開始時の原料モル
の式により百分率で求めた。
【0072】
選択率は、
選択率=収率/転化率
の式により百分率で求めた。
【0073】
生成液の分析から原料であるエチル−2−オキソシクロペンタカルボキシレートは0.3%残存しており、転化率は99.7%であった。エチル−1−ヒドロキシ−2−オキソシクロペンタカルボキシレートの収率が98.0%、1−ヒドロキシ−2−オキソシクロペンタカルボキシルアシッドの収率が1.2%であり、合計収率は99.2%であり、選択率は99.5%であった。
【0074】
比較例1
実施例1において、第2反応気体流通用気体送給装置4、第2マイクロリアクター6を取り外し、第1マイクロリアクター5を気液分離装置7と接続したこと以外は各々同様に実験を行い、同様に反応を評価した。
【0075】
ただし、第1マイクロリアクター5としては、内径(相当直径)0.75mm、長さ2.00m、容積0.884cmのテフロン製の微小管状反応器を用いた。また、第1反応気体流通用気体送給装置3からは30.40SCCMの酸素ガスを流通させ、原料(反応基質)溶液流通用送液装置1、触媒液流通用送液装置2からは、反応基質であるエチル−2−オキソシクロペンタカルボキシレートと触媒液を、それぞれ0.400ml/min、0.800ml/minの量で流通させた。
反応中の液相のセリウム濃度は11210ppmであった。
【0076】
恒温槽9は40℃で反応を行った。また、第1マイクロリアクター5の入口圧力は0.808MPaGであり、出口圧力は0.755MPaGであった。
【0077】
生成液の分析から原料であるエチル−2−オキソシクロペンタカルボキシレートは8.5%残存しており、転化率は91.5%であった。エチル−1−ヒドロキシ−2−オキソシクロペンタカルボキシレートの収率が89.0%、1−ヒドロキシ−2−オキソシクロペンタカルボキシルアシッドの収率が1.1%であり、合計収率は90.1%であり、選択率は98.5%であった。
【0078】
上記比較例1と実施例1との対比から、本発明によれば、微小管状反応器を用いた気液反応による酸化反応生成物の生産性の向上が達成されることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明の気液反応装置の実施の形態を示す系統図である。
【符号の説明】
【0080】
1 原料(反応基質)溶液流通用送液装置
2 触媒液流通用送液装置
3 第1反応気体流通用気体送給装置
4 第2反応気体流通用気体送給装置
5 第1マイクロリアクター
6 第2マイクロリアクター
7 気液分離装置
8 貯留槽
9 恒温槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微小管状反応器に、反応基質を含む液体成分と反応気体を含む気体成分とを流通させて、該微小管状反応器内で該反応基質と該反応気体とを反応させて反応生成物を得る気液反応方法において、
該微小管状反応器の内径の相当直径が5〜10,000μmであり、
該反応気体を含む気体成分を該微小管状反応器の前記流通方向の2箇所以上から該微小管状反応器内に導入することを特徴とする気液反応方法。
【請求項2】
該反応気体を含む気体成分を該微小管状反応器内に導入する箇所のうち少なくとも1箇所は、前記反応基質の転化率が10%以上の部分にある請求項1に記載の気液反応方法。
【請求項3】
該反応気体を含む気体成分を該微小管状反応器に導入する箇所のうち少なくとも1箇所は、該箇所よりも前記流通方向上流側の導入箇所で導入された反応気体の減少率が10%以上である部分にある請求項1又は2に記載の気液反応方法。
【請求項4】
該微小管状反応器内の気液混相流が、プラグ流又はスラグ流である請求項1ないし3のいずれか1項に記載の気液反応方法。
【請求項5】
該液体成分中に均一触媒が含まれている請求項1ないし4のいずれか1項に記載の気液反応方法。
【請求項6】
該気液反応が、気液共存系での酸化反応である請求項1ないし5のいずれか1項に記載の気液反応方法。
【請求項7】
該気体成分が酸素を含む請求項1ないし6のいずれか1項に記載の気液反応方法。
【請求項8】
液相の反応基質を反応気体と反応させて反応生成物を得る気液反応に用いるための気液反応装置であって、内径の相当直径が5〜10,000μmである微小管状反応器を備え、かつ、該反応気体を該微小管状反応器の管長さ方向の2箇所以上から導入するための導入手段を備えていることを特徴とする気液反応装置。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2007−105668(P2007−105668A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−300393(P2005−300393)
【出願日】平成17年10月14日(2005.10.14)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(「平成15年度新エネルギー・産業技術総合開発機構「革新的部材産業創出プログラム「マイクロ分析・生産システムプロジェクト」」」、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】