気相物質の定性および定量分析のためのセンサ装置および方法
【課題】高い選択性と高い感度の両方を備えた、複数のガス状物質を同時に定性および定量分析するための新たなセンサおよび方法を提供する。
【解決手段】新たなセンサは、触媒コーティング熱伝達装置(HTD)および非触媒コーティング(または別の触媒によってコーティングされた)参照HTDと特定の物質の相互作用におけるエネルギーの特徴的な相違に依存する。分子検知は、センサの温度変化を誘起する傾向のある、センサの触媒表面と分子との間の発熱性または吸熱性の化学または物理反応によって実現される。高温および非破壊性低温検知の両方が可能である。特定の分子−触媒相互作用による吸熱性または発熱性熱伝達の大きさまたは速度は、分子濃度に関連している。
【解決手段】新たなセンサは、触媒コーティング熱伝達装置(HTD)および非触媒コーティング(または別の触媒によってコーティングされた)参照HTDと特定の物質の相互作用におけるエネルギーの特徴的な相違に依存する。分子検知は、センサの温度変化を誘起する傾向のある、センサの触媒表面と分子との間の発熱性または吸熱性の化学または物理反応によって実現される。高温および非破壊性低温検知の両方が可能である。特定の分子−触媒相互作用による吸熱性または発熱性熱伝達の大きさまたは速度は、分子濃度に関連している。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のガス状物質を同時かつ選択的に検知、識別および定量するための新規センサおよび方法を提供する。本発明は、物質が周囲条件下の気体でも、蒸発可能な液体でも、または昇華可能な固体であろうとも、気相分子または物質の形成を誘発させることが可能な任意の物質に適用できる。さらに本装置は、単一分子種の識別を提供しながら他の分子種を無視し、感度と選択性の両方が必要とされる多数の分析、医療、環境、安全およびセキュリティ用途において特に有用となっている。
【背景技術】
【0002】
最近の進歩にもかかわらず、気相分子および物質を測定するためのよりよい検知方法に対して多大な要求がなお存在する。費用効率的なセンサを用いて達成可能な場合には特に、より高い信頼性、再現性および感度を示す測定技法が望ましい。例えばある分析状況は、毒性、爆発性、腐食性、燃焼性、または他の危険な物質の存在を示す、低濃度の揮発性物質を監視する高感度装置を必要とする。他の状況は、他の分子からの干渉なしで、医療、環境、工学用途において単一分子種の存在を判定するための、高い選択性の方法を要求する。最も有用かつ適時の分析情報を供給するには、たいてい高度な感度および選択性の両方が好ましい。
【0003】
微量有機および無機気体の標準分析方法を現在使用している多数の技術用途は、高度な検知手段から著しく恩恵を得るであろう。例えば排気ガス放出試験、EPA準拠試験、または放流河川の化学分析などの環境保護用途は、さらに選択性かつ高感度の測定技法を必要とする。向上した感度を供給し、通常使用のためになお十分に安価かつ携帯可能である、さらに耐久性および信頼性の高いフィールドセンサが特に有用である。
【0004】
診断医療用途も、特定の病状を示すある揮発性化合物を測定する必要のある、よりよい検知方法を必要とする。例えば、病状を示す化合物または他の副生成物を皮膚を通して、創傷から、発汗中に低濃度で滲出するか、呼気中に発生することが可能であり、したがってそれらの測定には信頼性かつ高感度の分析技法を必要とする。改良センサは、麻酔剤、または麻酔下にある患者の皮膚から発散されたその代謝分解生成物の濃度を監視するためにも必要である。
【0005】
運転者または陸上競技者の呼気中のアルコール、薬剤または薬剤副生成物の存在を検査するために、さらに好都合で、迅速かつ正確な検知方法も必要である。そのような方法は、責任問題が発生する場合、トラック運転手、バス運転手、列車技師、大型船ならびに荷船船長、および重機オペレータにとって有用である。
【0006】
爆発性物質が診断用揮発性化合物の存在により検知する可能な、空港検査および政府建築物の防護などのセキュリティ用途において、改善された分析技法が至急必要とされている。これらの用途は、分子検知のための、再現性があり、高感度であり、費用効率的である方法を早急に必要としている。ガス検知が快適性と安全性の両方に関係する、家庭および職場のセキュリティ用途では、同様の要件を有する。同様に、診断用揮発性化合物を検知することによって、地雷が現れるかもしれない疑わしい地域を識別したり、地雷を探し当てることができる。
【0007】
迅速かつ信頼性の高いセキュリティ方法は、輸入港にてこれらの港に入る、またはトラックで国境を越える大量のコンテナ輸送を監視するために、早急に必要とされている。入国する各コンテナを、爆発物、危険物質、または有害物質の前駆体を検出できる分析試験にかけることが非常に望ましい。したがって必要なのは、1つ1つのコンテナを検査するのに必要な高いスループットを与えるのに十分迅速な、これらの物質を示す診断用揮発性化合物の存在の試験である。
【0008】
電子機器製造および保管施設での連続周囲空気監視も、高度な分析方法を必要とし、空気の完全性の維持には、空気中の汚染物質を検知する迅速かつ選択的手段を必要とする。空気の品質管理は、製造施設の範囲内に保管された高感度の電子構成要素に対する損傷を防止するために、周囲空気がその施設で生成または使用された有害レベルの蒸気を含みうる場合には、電子機器業界では特に重要である。腐食監視が重要である電子機器業界の1つの側面は、ディスクドライブなどの磁気記録データストレージシステムの製造である。
【0009】
公文書収納庫における空気品質監視も、改良検知方法および装置を必要とする。正確な空気品質測定は、記録文書、フィルム、写真、リトグラフ、歴史的書物および原稿、地図などの高感度資料の適正な貯蔵条件を保証するために、厳密な空気浄化とともに実施する必要がある。
【0010】
さらに、特に戦争またはテロリスト攻撃の間、政府建築物、大使館、防衛指揮および管理地区、一時的な現地作戦においてさえ、化学および生物兵器から人員を防護する多大な必要性がある。化学または生物剤のどちらかの存在、または同時に両方の存在を判定するために利用可能な技法が特に有用となる。
【0011】
現在、揮発性物質の検知および測定は、多数の方法で実施され、そのすべてが感度、選択性、操作の容易性、または費用効率における多様な制限で苦慮している。例えば、現在使用されている燃焼型分子検知器は、数百℃まで加熱される、抵抗ワイヤに直接結合した触媒コーティング、例えばプラチナワイヤ上のPt、PdまたはRhなどのアルミナ支持プラチナ金属を利用する。加熱触媒が標的ガスに接触すると、燃焼熱がプラチナワイヤの温度を上昇させ、これが温度上昇に反応したワイヤの電気抵抗の変化から生じる電圧変化として検知される。しかし正確な測定は、一部は、高温(T)において比較的小さい温度上昇(△T)を正確に定量することが困難であることによって難しい。さらに抵抗ワイヤは電磁干渉を受けやすく、気流内で物理的運動や乱流を受けて、信号ノイズを生じる。支持金属の化学汚染も信頼できない結果を生じうる。
【0012】
一般に使用される気相分子用センサの関連タイプは、特にSnO2などのn型半導体酸化物を利用し、セラミックビーズ上で支持される金属酸化物を利用する抵抗型センサである。これらの検知器は、標的分子の吸収酸素による触媒酸化と、半導体酸化物の付随的還元に基づいて動作し、自動車排気中の可燃性炭化水素またはCOの測定に使用されることが多い。可燃性ガスの酸化時の酸素脱離から生じるセンシング素子の抵抗の変化は、ガス濃度の代用として使用される。しかし現在利用可能なセンサは、アルコール、水分、Si含有化合物、他の揮発性有機化合物などの多くの妨害化合物に、および変化する酸素レベルにすら感受性であり、不正確かつ再現性のない結果を生じる。SnO2の化学汚染も問題をはらんでいる。さらに半導体自体の抵抗は、高温で変化するために、結果の信頼性をさらに低くする。
【0013】
一部のガスセンサは、特定の種類のガス状分子のみを検知するよう設計されているため、一般には適用できない。例えばある種類の検知器は、陽子伝導層に依存し、水素または他の陽子放出分子を解離し、それゆえ水素を検知するよう機能する。しかしそのような検知器は、陽子放出分子の測定のみに適している。同様に、O2を検知する一部の空気燃焼比センサは、酸素イオン伝導性固体電解質検知器を使用する。本装置は、電解質と接触したときに酸素を形成する分子の測定のみに適している。さらにそのような検知器は通例、非常に高い動作温度を必要とする(約700℃まで)。
【0014】
一部のガス検知器は、一部の従来型NOX分析器の場合のように、非常に明確な化学反応または標的分子の特定の分光特性に基づいている。例えば検知は、化学発光によって、または標的分子の各種の振動発色団の気相赤外またはラマンスペクトル分析によって実施できる。そのような方法は通例、流体流中にセンシング素子を直接配置するのにはたやすく適応されないため、一時的なガス濃度の分析には適切ではなく、フィードバック制御下の自動車排気システムなどの、検知を電子制御と組み合わせた場合に必要な性能である。これらのシステムは、光学構成要素の保守が頻繁に必要なため、さらにその有用性が低下する。
【0015】
分子汚染物質の識別に使用される他の装置は、検査するガスの熱伝達度の単純な変化に依存している。しかし熱伝達度は、検知器によって示されるガスの任意の混合物を評価する大規模測定である。そのような装置は、別個の分子を識別することはできず、むしろ定量測定ではなく定性測定を行う。結果としてその有用性は大きく制限され、例えば煙草の煙中の単一の代謝ガスまたは単一の成分などの、単一ガスの熱伝達度成分を区別することができない。
【0016】
燃料電池技術も、標的が特に低濃度で出現する場合に、特定分子の検知に利用されてきた。しかし燃料電池反応を引き起こす化学反応が無差別的であり、本方法が複数の分子種を識別する能力を損なうため、本技法は無効であることが多い。
【0017】
したがって、ガス状物質を検知、識別および定量するための新しい装置および新しい方法を提供することによって、気相分子検知に関する現在の制限に対処することは必須となっている。新規システムは好ましくは、向上した選択性を与えながら、必要な感度を維持する根本的に新しい検知方法を使用する。本発明は、ガス状物質を選択的に識別および測定するための新規センサおよび方法を供給することによってこれらの問題に対処する。新しいセンサは、高い感度を実現し、気相種の非常に低濃度での検知を可能にし、その応用範囲を大きく広げている。新しいセンサは、高い選択性でもあり、他のすべてを無視しながら、単一の分子種を区別することができる。この性能は本発明を、セキュリティおよび医療用途などの重要な分析分野で特に有用とする。この向上した選択性は、高い信頼性の測定をもたらし、干渉種からの交差感度を著しく低下させる。本発明は、複数の標的物質を同時かつ高い再現性で検出および測定するための新しい分析例も提供する。さらに本発明のセンサおよび方法は、現在の技術の多くと比べて比較的単純であり、それにより代わりに、エラーのない動作と著しく高い費用効率がもたらされる。
【0018】
本発明は、高い感度、選択性、信頼性および費用効率を達成する新しいセンサおよび方法を提供することによって、微量有機および無機種の気相分子検知における現在の制限の多くに対処する。新しいセンサは、ある種の結合エネルギー、吸着/脱離エネルギー、または反応エネルギーのいずれかの、特定の分子に関連する特性エネルギーに依存するため、センサは、多数の分子を定性的に識別することができる。
【0019】
通例、本発明のセンサは、熱伝達装置HTDの外部表面と熱接触する薄い触媒コーティングを含む。HTDは熱を受け入れ、温度変化として、または熱出力の流れとして観測および測定できるような方法で熱をその環境に送達する。通例、HTDは、抵抗温度検知装置にて発生する電気自己加熱によって運転温度まで上昇する。それゆえ抵抗温度検知器(RTD)は、非触媒加熱手段と温度検知手段の2つの目的を果たす。通例、触媒コーティングされた加熱HTDは、検知器上の汚染ガス流の流速を制御および測定する、チューブなどの通路内部に位置する。代表的な実施形態において、触媒コーティングなしの加熱HTDより成る参照検知器を、センサと参照検知器が同じガス流に接触するように、加熱した触媒コーティングHTDセンサ付近に配置する。
【0020】
本センサの運転概念を以下にまとめる。サンプルガスを触媒コーティングされたセンシングHTD素子に適正な温度で接触させると、ある種の化学または物理相互作用が発生することが可能である。(非触媒)熱源は、触媒表面を、通常は周囲温度より高い適切な反応温度まで加熱するのに用いられ、したがってHTDは、非触媒加熱機能および熱センシング手段の両方として作用する可変抵抗ヒータ(VRH)を含む。分子−触媒相互作用の種類とは無関係に、本相互作用と関連する、あるエンタルピー変化があり、したがってすべての反応性および吸着プロセスは、触媒表面とセンシングHTDとの本体との間に追加の「触媒」熱を誘起させる。本活動は、プロセスが発熱性である場合にはセンシングHTDの温度を上昇させ、プロセスが吸熱性である場合にはセンシングHTDの温度を低下させる。実質的に同じ環境にある参照HTDは、触媒表面を持っていないため、非触媒熱エネルギー伝達のみに反応する。参照およびセンサHTD素子での熱伝達の相違を電子的に比較することにより、サンプルが検知および定量化できる。
【0021】
一般論として、触媒表面における物理的および化学的反応性が検出および測定される(オフセットおよびゼロ平衡)2つの主要な測定方法、非触媒熱インプットレベルを確立するための各種のフィードバック制御手法、および2つの測定手法(シングルエンド、時には「シングル」および示差の、と呼ばれる)があり、測定パラメータは、直接観測値であるか、2またはそれ以上の別個の測定パラメータに由来する。好ましい測定方法、非触媒熱の制御手法、測定手法および測定されたパラメータは、特定の用途に固有の要求事項によって変化するであろう。
【0022】
オフセット(温度変化)またはゼロ平衡(実質的に望ましい瞬間温度を維持するための電力変化)測定方法のどちらかが、HTDをその運転温度に上昇させるのに用いた非触媒熱エネルギー流に加わる、またはそれから引かれる触媒熱エネルギー流によって発生する、センサHTDの総熱エネルギー流(電力)の変化を概算するために利用できる。ゼロ平衡測定方法は、HTDを所望の温度に維持するために必要な熱エネルギー伝達が熱力学活性の指標として観測される場合に利用される。したがってゼロ平衡は、センシングHTDを、反応開始前のその初期温度に維持するために必要な電力を測定する。オフセット測定方法は通例、2(またはそれ以上)のHTDの間の温度差が熱力学活性の指標として観測される場合に利用される。したがって、オフセット測定は、センシングHTDの、反応開始前のその初期温度からの温度変化より熱伝達を決定する。オフセット測定を実現するのに必要な器具は簡略化される傾向であるが、反応性または触媒活性から発生する熱力学をより完全に識別するためには、ゼロ平衡方法を利用するほうがより典型的である。
【0023】
本発明を用いた分子検知は、センサの触媒表面と分子との発熱性または吸熱性化学または物理反応のどちらかを、すなわちセンサにおける熱交換を誘起する反応を観測することにより実施できる。固有の分子−触媒相互作用による吸熱性または発熱性熱伝達の大きさおよび速度は、分子濃度に関係する。定性および定量的方法でその反応の熱を容易に観測するために、結果として起こるその正確な反応、または独自の温度/分子/触媒の組合せに関与する特定の化学量論を識別する必要はない。
【0024】
一般に、本発明の検知器が駆動可能な3つの運転方式、等温(一定温度)方式、熱量分光(可変温度)方式、および混合方式(可変参照温度を用いた一定センサHTD温度)がある。分子検知は、規定温度にて特定の触媒に接触した興味のある分子、すなわち独自の温度/分子/触媒の組合せに関連する、別個の特徴的な反応エネルギーに基づいている。
【0025】
等温方式において、検知される個々の標的種について、およびその標的種の反応を誘起する特定の触媒について、特定の運転温度が実験的に決定される。検知器は、参照およびセンサVRH素子に電流を通過させることにより作動する。センサにて反応が発生せず、参照およびセンサが同じ温度である場合、実質的に同一である参照およびセンサVRH素子との間の電圧落下には本質的に相違はない。
【0026】
監視信号は、電圧または電力などの都合のよい単位で表現できる。センサで微小な温度変化が生じた場合でも、その電気抵抗が変化し、センサと参照との間に生じた電圧差がただちに検知される。通例、センサVRHを通じた電流は次に、実質的に所望の瞬間温度、分子濃度に関連するプロセスの規模を維持するために、発熱性または吸熱性に応じて、上昇または低下する。それゆえ電流は、吸熱性プロセスでは上昇し、発熱性プロセスでは低下するため、センサHTDへの総(触媒と非触媒)熱インプット定数は維持される。異なる分子間の選択性は、興味のある分子の特定の反応を引き起こす、触媒特性と温度(印加電流により実質的に所望の瞬間温度に維持される)との独自の組合せがあるために可能である。
【0027】
オフセット測定方法を利用する場合、ここでセンサHTDと参照HTDとの温度差は変化することが可能であり、本温度差の方向および規模の両方は、触媒活性の測定値として観測される。センサHTDの非触媒熱源、VRHへの電力インプットを調節するために、複数の選択肢が利用できる。これらの選択肢は、これに限定されるわけではないが、VRHの電圧制御、VRHの電流制御およびVRHの抵抗制御を含む。これらの選択肢のうち、VRHの抵抗の制御は、結果として、HTDの温度を好ましいレベルに維持する。
【0028】
ゼロ平衡測定方法を利用する場合、ここでセンサおよび参照HTDの温度は、その個別の閉ループ手段によって実質的に同じ温度に維持される。本方法において、VRH素子に供給される電力(非触媒出力)の相違は、触媒活性の測定値として観測される。
【0029】
触媒表面と気相分子との間で発生する反応は、結合生成および結合切断プロセスを引き起こす、検知される分子の酸化であることが多い。しかし原則として、より低温での吸着および/または脱離などの、任意の種類の化学または物理反応を使用して、特定の分子の存在を検知することができる。新しいセンサは、気相分子の定性および定量測定の両方を供給することができる。熱流および生じた電気反応は濃度に正比例し、したがって濃度基準を使用することによって、どの特定のガスの定量測定もただちに実施できる。
【0030】
HTDセンサアセンブリは通例、ガス流下流の小型真空ポンプにより生成されたガス流によって、分子をHTDアセンブリに接触させるようにする、耐高温性変換器チューブ内部に配置される。本実施形態により、ガスサンプルは検知器アセンブリから近く、電子機器から遠くで収集することが可能となり、ガス流の連続監視がただちに可能となる。さらにセンサが測定中に移動する流体流に接触した場合、センサは標的分子の比較的一定の濃度にその流速で遭遇するため、信号の規模および温度は所与の流速にとって特有である。本機構は典型的であるが、センサは、分子検知が拡散制御されていると推定される静止空気条件下でも作動できる。本検知器は、気相に入れることが可能な物質、すなわち気化可能な液体または昇華可能な固体を検知するのにも適している。さらに本検知器は触媒と相互作用する特異性表面素子による空中浮遊病原体の検知と同様に、液中、とくに水中汚染物質を検知するために液体流内に配置することも考えられる。各種コーティングを用いたHTDセンサを、サンプルガス流に直列にまたは並列に配置して、異なる種類およびクラスの官能基および/または各種の反応温度を持つ追加分子を検出することができる。多種多様なコーティングは、HTD上の触媒として使用できるが、通例コーティングは金属酸化物を含む。たいていの場合、代表的な触媒コーティングは、第一列の遷移金属酸化物である。
【0031】
本発明の検知器を操作する熱量分光、または可変温度方式は、通常はプログラム温度と時間特性を連続して循環させることによる、規定の方法での検知器温度の変化を含む。複数の標的分子の定性および定量測定は、本熱量分光方式において検知器を操作することによって、すなわち温度変化範囲にわたる各温度に関連する熱量反応を連続的に監視することによって実施される。本方法は、特定の分子が熱量反応対温度の特異的パターンによって特徴付けられる、一連の温度/分子/触媒の独自の組合せデータ点を提供する。意義深いことに、本動的温度方式は、それぞれ異なる触媒コーティングを施されて実質的に同じ瞬間温度で作動する、または異なる触媒表面トポロジーを使用する同じコーティングが施された、検知器具内の複数のセンサを用いて操作される。独立した、実質的に同一の温度制御・監視電子機器は、各センサを操作し、温度が循環的かつ同期的に変化するときに、その熱量反応を観測する。本熱量分光方法を使用して、温度循環プログラムによって多次元データセットを収集することにより、複数の標的分子を定性的および定量的に同時に分析できる。本方法はそれによって、複数の標的分子の存在および濃度をほぼリアルタイムで同時に決定することができる。通常パターン認識および画像処理に使用される標準多次元相関技法は、特定の分子に対する各種触媒の熱量反応に特有の、データ内のパターンを比較および識別するために使用される、予備格納パターンを参照するのに適している。
【0032】
重要なことに本発明のセンサは、代表的な化学反応に必要な温度よりも実質的に低い温度において特異的な定性的および定量的な分子検知を供給する能力を持つ。したがって、共有結合破壊および結合生成が後に続くのに十分高い温度において、本センサを操作する必要はない。本センサは、特定の温度において、標的分子と触媒コーティングHTD表面との間の、独自の低エネルギー吸着または脱離反応を探ることができる。例えば特定の温度において所与の表面から所与の分子を脱離するのに必要なエネルギーは独自であり、温度対エネルギー特性は、他の分子種の排除に対する、分子およびその濃度を示すことができる。単純吸着および脱離に加えて、他の低温度現象を水素結合生成および解離などの特定の定性的および定量的分子検知情報、および触媒伝導帯の試験に使用できる。それゆえ温度対熱流特性の独自性が、標的分子と特異性表面との実質的にあらゆる化学または物理相互作用に利用できる。
【0033】
それゆえ本発明は、低濃度の分子および物質の高度に選択的な検知に関する新規方法および装置を提供する。
【0034】
本発明は、センサと分子との発熱性または吸熱性化学または物理相互作用のどちらかを測定することにより気相汚染物質を検知および定量するための根本的に新たな方法も含む。これらの相互作用は、センサにおける熱伝達を誘起し、この熱伝達は、非反応性参照に対して、センサを実質的に所望の瞬間温度に維持するために必要な電力の増加または減少を測定することにより観測される。
【0035】
さらに本発明は、異なるコーティング範囲を備えたHTDセンサを供給し、トポロジーを直列または並列構成に配置して、官能基の異なる種類およびクラス、異なる反応温度、および/または触媒コーティングHTDとの相互作用に関連した異なるエネルギー特性を持つ、追加の分子を検知することができる。
【0036】
本発明のセンサは、所与の温度における標的分子と触媒コーティングHTD表面との間の、独自の低エネルギー吸着または脱離反応エネルギーを探測することもでき、これによって、検知される分子の新たな範囲およびセンサの新たな用途が広がる。
【0037】
さらに本発明は、現在入手可能なセンサよりも感度、再現性、および費用効率を著しく向上させることが可能であり、なお十分安価で、通常使用のために携帯可能である、堅牢かつ信頼性のある分子検知センサを提供する。
【0038】
したがって本発明の1つの利点は、環境からの連続サンプリングによって監視できる、気相中の非常に低濃度の1またはそれ以上の特定の標的分子の測定である。
【0039】
本発明の別の利点は、現在利用可能な測定手法を用いて偽似信号を提供するサンプルから非標的分子を分離する必要のない、標的分子の検知および定量する方法を提供することである。
【0040】
本発明のさらなる利点は、特定の標的分子の存在を検知および測定することが可能であり、それによって分析測定の費用を低下させ、測定が得るための容易性を向上させる、簡単で、比較的低コストのセンシングおよび電子装置を供給することである。
【0041】
本発明の装置および方法のなお別の利点は、興味のある特定の標的分子の濃度および濃度変化速度の両方を表す、連続周囲空気監視から得られるデータを含む、連続電子データを得ることである。
【0042】
本発明の別の利点は、可変温度、または熱量分光、温度循環プログラムによって多次元データセットを収集する方法を用いた、複数の標的分子の同時の定性および定量分析である。
【0043】
本発明の1つの他の利点は、代表的な化学反応に必要な温度よりも実質的に低い温度における、特定の定性的および定量的分子検知データ、すなわち特定の温度における標的分子と触媒コーティングセンサ表面との間の低エネルギー吸着または脱離反応エネルギーから生じるデータにアクセスすることである。
【0044】
本発明のなお別の利点は、特定の標的分子の濃度変化を観測するのに必要な時間を短縮するセンサおよび方法の開発である。
【0045】
本発明の1つの別の利点は、装置のサンプリングおよびセンシング素子、すなわち検知器またはプローブを、信号調整電子機器からかなり離れて操作することによって、分析用サンプルを得るための装置および方法を供給することである。本性能によって、真空サンプリングチューブ内に位置する本発明の検知器は、流体流内に直接配置され、したがって一時ガス濃度を分析に適するようになる。本性能は、自動車排気システムにおいてなどの、検知をフィードバック制御下の電子装置と組み合わせる場合に特に有用である。
【0046】
本発明の別の利点は、特定の標的分子の低濃度および濃度変化に関する電子情報を、必要な任意のさらなる分析のためにデジタルプロセッサに供給することと、その後、所望の次の作用を実施することである。
【0047】
本発明のなお別の利点は、最小の回路干渉で、より高い感度、さらなる信号強度、およびさらに迅速な反応時間を達成するための、触媒コーティングの表面のすぐ下に位置するHTDの使用による、分子センシング触媒コーティングと検知器の加熱素子との間の密接な熱接触である。
【0048】
本発明のなお別の利点は、化学薬剤、生物薬剤、または両方同時の存在を判定するのに適した新規分析技法の開発である。
【0049】
本発明のなお別の利点は、標的化合物の濃度を正確かつ再現性をもって判定するために、潜在的な干渉化合物の存在下でさえも、気相中の特定の標的化合物を検知および測定することである。
【0050】
本発明のさらなる利点は、皮膚を通じて、または呼気中に低濃度で発散する化合物またはその副生成物の信頼性のある検知である。
【0051】
本発明のこれらおよび他の特徴、側面、目的および利点は、本発明の以下の詳細な説明の検討後に明らかになるであろう。
【0052】
発明の詳細な説明
本発明は、複数の気相物質、特に低濃度で存在する有機、無機および有機金属分子および病原体を同時に含む、気相物質を検知、識別および定量するための新しいセンサおよび方法を提供する。さらにこれらの新しいセンサおよび方法は、単一分子種の区別に備えながら、他の分子種を無視して、多くの技術分野における分析用途に役立つようにする。
【0053】
定義
本明細書で使用される用語をさらに明確に定義するために、以下の定義を与える。
【0054】
熱伝達装置(HTD)は、本明細書で使用されるように、熱エネルギーを周囲の環境へ、または周囲の環境から移動するための両方の手段を構成し、HTDと熱接触しているその環境または他の材料の温度を見積もるための手段も提供する、熱伝達および熱容量の係数が既知である物質より成る装置を一般に指す。HTDには2種類、すなわちセンシングHTDおよび参照HTDがあり、したがって本用語は通例、センシング素子、検知素子などと同意語として使用され、触媒コーティングを施したセンシング素子または触媒コーティングを施さない(またはセンシング素子とは異なる触媒コーティングを施した)参照素子のどちらかを構成する構成要素の機構を指す。センシング素子HTDおよび参照素子HTDの温度は、熱伝達手段と密接に熱接触した温度観測手段、通例、抵抗温度検知器(RTD)によって測定する。加熱手段は通例、可変抵抗ヒーター(VRH)によって、素子に非触媒加熱を与え、このヒーターは、所望の動作温度を達成するためにそれを流れる十分な電流を持つ抵抗温度検知器(RTD)そのものであることが多い。それゆえHTDは、熱エネルギーを蓄積する熱容量および各種の熱エネルギー源とHTDおよびHTDを取り巻く熱環境を構成するシンクとの間で熱エネルギーを移動する熱流に対する熱抵抗を示す。たいていの場合、HTDは、VRHと熱接触し、特にHTD動作中の熱を放散する役割を果たす、通例セラミック材料である熱伝導体を含む。
【0055】
本明細書で使用されるように、可変抵抗ヒーター、すなわちVRHという用語は、センシング素子および参照素子の1つの構成要素を構成する材料を指し、VRH材料を通過する電流によって各素子を内部加熱するための手段となる。例として、VRHは、空気中で加熱されたときに反応しないように十分に不動態化されたタングステンフィラメントより構成することができる。本発明の各HTD構成要素(センシングおよび参照)は、VRH素子を含む。センシングHTDは触媒コーティングを含み、参照HTDは、触媒コーティングを含まないか、センシングHTDとは異なる触媒コーティングを含む。このようにして、実質的に同一の熱伝達特性を持つ2またはそれ以上のVRHは、第一の触媒コーティングVRHで発生する熱伝達事象を、触媒コーティングされていない、または第一のVRHと異なる触媒でコーティングされた第二のVRHでの比較観測と比較する手段を供給するのに使用する。通例、VRHの加熱機能は、温度検知器として作用する同じ構成要素によって、すなわち必要な熱を供給するために十分な電流が流れる温度検知抵抗ワイヤによって実施される。したがって本発明において、VRHは、電気抵抗ヒーターおよび抵抗温度検知器の2つの機能を果たす抵抗温度検知器(RTD)を構成することが多い。このような場合、RTDおよびVRH機能を兼ね備えた単一の構成要素は、RTDまたはVRH構成要素のどちらかで呼ばれる。
【0056】
抵抗温度検知器、すなわちRTDという用語は、本明細書で使用されるように、一種の温度インジケータまたはセンシング素子および参照素子の検知器構成要素を指す。RTDは通例、必ずではないが、個々の素子の温度を予測する手段となる、正の抵抗熱係数を持つ材料から構成される。RTDは、温度−検知抵抗ワイヤを通過する電流によって内部加熱され、そのような場合にRTDは、抵抗温度検知器および可変抵抗ヒーター(VRH)の2つの機能を果たす。単一構成要素がRTDおよびVRH機能を兼ね備えている本実施形態は代表的であり、RTDまたはVRH構成要素のどちらかとして呼ぶことができる。
【0057】
センシング素子、反応性素子、センサ素子、センサVRHセンサHTD、能動素子、触媒コーティングHTD、触媒コーティングVRHという用語、および関連用語は、本明細書で使用されるように、温度検知器に取り付けられた触媒コーティングおよび可変抵抗ヒーターを含むセンサのHTD構成要素を指す。触媒コーティングは、温度検知器および可変抵抗ヒーターの両方に実質的に熱接触させてコーティングを確実に配置する任意の方法によって、温度検知器に取り付ける。通例触媒は、耐高温性結合材料によってHTDに接着させる。それゆえ、触媒熱源および非触媒熱源を含むサンプルガスと接触して配置されたセンサの一部は、センサHTDである。センシングHTDの加熱素子(VRH)は通例、VRH材料自体が加熱時に反応するのを防止する耐高温性非多孔性材料でコーティングすることにより不動態化される。高温および低温の両方の実施形態で、不動態化材料は通例、非多孔性電気絶縁体であり、VRH電気抵抗変化がある場合に触媒データに現れる迷走電流による触媒データの汚染を最小限にすることが望ましい。一部の場合では、VRHセンサの触媒コーティングは、VRH材料を不動態化するよう機能し、それにより単一の材料内に触媒機能と不動態化機能を組み合わせる。
【0058】
参照素子、参照VRH、参照HTD、非能動素子、未コーティングまたは非コーティングHTD、未コーティングまたは非コーティングVRHなどの用語、および同様の用語は、本明細書で使用されるように、非触媒コーティングを含むか、一部の実施形態においてはセンシングHTDと異なる触媒コーティングを含むHTDを指す。通例、参照HTDは、温度検知器および温度検知器と熱接触した可変抵抗ヒーターを含むが、触媒コーティングされていない。参照HTDは通常、環境とのその接触、および環境とのその反応を防止する耐高温性非多孔性材料でコーティングすることにより不動態化される。サンプルガスと接触して配置されたHTDの一部が非触媒熱源のみ、また一部の実施形態において、センサVRHとは異なる触媒熱源を含む場合、その機構は参照HTDである。
【0059】
本明細書で使用されるように、触媒、コーティング、触媒コーティング、反応性コーティングなどの用語は一般に、HTDと永久物理および熱接触して配置され、通例その上に層を形成して、センサアセンブリのセンシング素子を形成する任意の物質を指す。触媒という用語は、物質が実際に触媒機能を果たすか否かにかかわらず、そして物質をHTDに塗布する方法とは無関係に使用される。
【0060】
本明細書で使用されるように、センサ、検知器、検知素子、センサアセンブリ、検知器アセンブリ、HTDセンサアセンブリ、VRHセンサアセンブリ、プローブなどの用語、および同様の用語は、触媒コーティングを施したセンシングまたは反応性素子(センサHTD)、および触媒コーティングを施さないか、通例不動態化コーティングまたはセンシング素子と異なる触媒コーティングを施した参照素子(参照HTD)の両方を含む構成要素の機構を指すのに使用する。場合によりこれらの同じ用語は、電子機器部分も含み、それにより文脈が要求するように、装置または器具全体を構成する。
【0061】
分子、標的分子、化合物、物質、ガス状物質、汚染物質などの用語は、本発明のセンサおよび方法による検知の主題である任意の物質を指すために、本明細書で互換的に使用される。それは通例、気相化学種に適用されるが、ウィルスおよび細菌などの空中浮遊生体物質、またはセンサの参照素子との物理または化学相互作用に関連するエネルギー要素とは異なる、センサのセンシング(または反応性)素子との物理または化学相互作用に関連するエネルギー構成要素を通常持つ他の物質も指す。
【0062】
信号調整という用語は、適切な閉ループ制御下で非触媒エネルギーをその可変抵抗ヒーターに供給し、温度、電圧、電流、抵抗、電力などを決定する各種の測定値を観測および報告するために、HTDに接続される電子および空気圧器具を表すために本明細書で使用する。
【0063】
測定、推定などの用語は、温度、電圧、電流、電気抵抗、電力およびガス流などの物理量の規模、方向および極性の決定および報告を表すために本明細書で使用する。
【0064】
ゼロ平衡測定、ゼロ平衡方法、ゼロ平衡方式などの用語は、進行中の熱力学プロセスの間に一定であるセンサの一部の特性を維持するために必要なエネルギーの量を測定する場合に利用される測定方法を表すために本明細書で使用する。通常、実質的に所望の瞬間温度にHTDを維持するために必要な熱エネルギー伝導は、熱力学活性の示度として観測および測定される。必要な熱エネルギーは、示差測定では参照HTD、またはシングルエンド測定ではセンシングHTDの初期温度のどちらかに関して測定される。ゼロ平衡測定方法は、特に有用な方法でHTD熱力学現象を識別する利点を持つ。加えてゼロ平衡測定は、高温および低温範囲の両方で容易に得られる。
【0065】
オフセット測定、オフセット方法、オフセット方式などの用語は、センサまたは参照装置の一部の特性を監視するときの測定方法を表すために本明細書で使用し、進行中の熱力学工程の間にその特性が元の値からどれだけ遠くに移動するかが測定される。通常、示差測定では参照HTDの温度に関して、シングルエンド測定ではセンシングHTDの初期温度に関して、センサHTDにおける触媒活性による温度変化を観測する。オフセット測定方法は通例、容易であるという利点と、センサおよび参照HTDが必ず異なる温度で動作するという欠点を持つ。
【0066】
ゼロ平衡測定方法またはオフセット測定方法のどちらを使用するかとは関係なく、電子出力は以下で定義するように、シングル測定または示差測定のどちらかである。
【0067】
シングル測定、シングルエンド測定、シングルチャネル測定、シングルチャネル方式などの用語は、特性が測定されるある共通素子、条件または参照レベルが存在する場合に実施される実際の測定を表すために使用する。例えば電圧は、単純接地または共通接地参照に対して測定できる。センサHTDとその環境との間の熱エネルギー流を推定するために、シングルセンサHTDの温度および/または非触媒出力を観測する場合、その観測をシングルまたはシングルチャネル測定と呼ぶ。センサHTDのみを含むシングル測定は、HTDの熱環境の変化からの不確実性による系統誤差を含むであろう。系統誤差は通例、標的分子を含まないことが知られるサンプルガスを用いた測定による補正によって最小化されるが、多くの場合で、これらの必要な補正を避けるために示差測定を使用することが好ましい。
【0068】
示差測定、示差方式、デュアルチャネル測定などの用語は、電圧測定が共通信号電位に対して個別に参照されない場合に、2個の浮動点間の特性差、例えば電圧差が観測される実際の測定を現すために使用する。これらのHTDとその実質的に同一の環境との間の熱エネルギー流の相違を推定するために、2またはそれ以上のHTDに印加される温度差および/または非触媒出力差を観測する場合、その観測を示差測定と呼ぶ。1またはそれ以上のセンサHTDおよび少なくとも1の参照HTDとの間の示差測定はさらに代表的であり、通常は、HTDの熱環境における変化からの不確実性を避けるため、および補正を避けるために、シングル測定よりも好ましい。
【0069】
4ワイヤ測定、ケルビン測定、ケルビン配置、ケルビン測定回路トポロジーなどの用語はすべて、電気抵抗での電位または電圧差の測定に4本のワイヤを用いる古典的な回路トポロジーを指す。本トポロジーは、参照により本明細書に組み入れられている、IEEE Instrumentation & Measurement Magazine 1998、第1巻(第1号)、6〜15頁に述べられている。ケルビン測定は、シングルエンドまたは示差測定値のどちらかとして電気出力を与える。ケルビン測定出力は、リード線にわたる電圧降下または抵抗変化における不確実性を実質的に消滅させ、センサの電子機器部分からかなりの距離にある検知器部分の操作において、本機構を特に有用にする。
【0070】
熱抵抗という用語は、HTD内の領域間、およびHTD間、およびその周囲領域との温度差の、これらの領域間の熱エネルギー流速に対する比として定義される。
【0071】
熱容量という用語は、HTD内の領域における温度変化の、熱エネルギー変化の量に対する比として定義される。
【0072】
本発明を作動させる定温方式または等温方式という用語は、単一物質を検知するために、センシングおよび参照素子を本質的に1つの温度で作動させる方法を指す。分子検知は、規定温度にて特定の触媒に接触した興味のある分子に関連する、別個の特徴的な反応エネルギーに基づくため、通例、検知される個々の標的種について、およびその標的種の一部の反応を誘起する特定の触媒について、標的分子/温度/触媒の独自の組合せがある。所与の標的種では、種の検知に関与する反応の種類(酸化、還元、吸着、脱離など)には無関係に、考えられる触媒および検知温度のライブラリが決定できる。
【0073】
本発明を作動させる熱量分光方式、可変温度方式、動的温度方式、動的方式という用語は、ガス状サンプル中の複数の物質を検知するために、検知器温度(センシングおよび参照素子の両方)を規定の方法で変化させることによって、通常はプログラムされた温度対時間特性を連続的に循環させることによって、検知器を作動させる方法を指す。温度変化範囲にわたって別個の各温度と関連する熱量反応を連続的に監視することによって、複数の標的分子の定性的および定量的測定を実施する。本動的温度方式は通例、しかし必ずではないが、それぞれ異なる触媒コーティングを施され、実質的に同じ瞬間温度にて作動する、検知器具内の複数のセンサを用いて動作させる。
【0074】
熱伝達装置(HTD)検知器アセンブリおよびその動作の説明
本発明のセンサアセンブリは、2つの主要な素子または部分、すなわちセンシングまたは反応性素子および参照素子の機構である。センシング器具全体は、信号調整電子機器を含む。
【0075】
センサのHTDセンシング素子は、コーティングを実質的にHTDと熱接触させて確実に配置し、その作動中に遭遇する高温になお耐えることが可能な任意の手段によって、HTD表面に固定された触媒コーティングより成る。例えば耐高温性接着剤またはHTDへのコーティングの単純物理スパッタリングを使用して、コーティングをHTDに接着させることができる。技法の選択は、当業者によってただちに決定されるように、特定の技法(スパッタリング)へのコーティングの適用性と同様に、便利さおよび費用の考慮事項からなされる。コーティングは通例、コーティング表面全体にわたって約3〜10ミクロン(3〜10μm)の一定の厚さが得られるように均一に施される。厚さがいくらか厚いまたは薄いコーティングも施せるが、この代表的な厚さは、最小限の熱流干渉を示すのに十分な薄さである。それゆえ3〜10μmの厚さは、熱流を妨げずにセンシング素子の最大感度を可能にする代表的な厚さである。
【0076】
触媒として作用するHTD上のコーティング組成物はとりわけ:1)トポロジーが変化する金属酸化物;2)金属ホウ化物、炭化物、ケイ化物、窒化物、リン化物、ヒ化物、硫化物、セレン化物、テルル化物、ハロゲン化物(フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物)およびその他などの金属「非酸化物」素子組成物;3)1を超える金属が素子と化合した複合無機物質(例えばバイメタル硫化物);4)金属が1を超える他の素子と化合した複合無機物質、例えば金属オキシカーバイド;5)金属;6)窒化ホウ素などの非金属を非金属と化合させる、あるいはバイメタル合金などの金属と金属を化合させる他の二元または三元化合物;または7)その組合せを構成する。それゆえコーティング組成物は、単一の化合物を形成するために酸素と化合した1を超える金属による単一化学相である、BaTiO3またはYMnO3などの「混合酸化」化合物より成ってもよい。しかしコーティング組成物は、In2O3/SnO2混合物が一例である、2つの酸化化合物の単純化合物も含みうる。これらの成分のいずれかに含まれる金属は、遷移金属(マンガン、鉄、ニッケル、銅、またはモリブデンなど)または非遷移「典型」金属(スズ、インジウム、またはガリウムなど)のどちらかであることが可能である。触媒は、HTDと熱接触して配置可能であるが、センサが動作するのに十分な温度になお耐えることができる、有機または有機金属物質を構成することもある。
【0077】
通例、HTD上の触媒コーティングは金属酸化物である。特に本発明で使用できる触媒は、これに限定されるわけではないが、実質的に任意の酸化状態にあるすべてのdブロック遷移金属酸化物、混合価酸化物、混合金属酸化物、酸化物の組合せを含む。使用可能な金属酸化物触媒の例は、これに限定されるわけではないが、表1に示す触媒を含む。酸化物自体がHTDセンサ表面に固定されるか、純金属などの酸化物前駆体をHTDセンサに結合させて、酸化物触媒に変換してもよい。例えば銅をセンサに堆積させ、空気中で加熱して銅の酸化銅への変換を行うことができる。表1に示す酸化物に加え、ジルコニウム、ハフニウム、ニオブ、タンタル、タングステン、オスミウム、レニウムの酸化物またはその組合せも本発明で有用である。
【表1】
【0078】
「初期」第一列遷移金属酸化物(周期律表の左側に位置する)が還元反応をより開始しやすく、「後期」第一列遷移金属酸化物(周期律表の右側に位置する)が酸化反応をより開始しやすいという知識から、触媒は、第一列遷移金属酸化物の高温方式における分子に対して定性的に選択できる。それゆえ、確立された周期律的傾向は、これらの触媒の酸化傾向が、酸化スカンジウム(還元性)から酸化亜鉛(酸化性)まで周期律表の左から右にかけて上昇することを示唆している。結果として、複数の結合を含むアルコールまたは化合物の検知は、これらの化合物が酸化反応をより受けやすいため、通例、後期の金属酸化物を用いて実現される。アルデヒド、ケトン、またはカルボン酸など、より高い酸化状態の官能基を有する分子の検知は通例、これらの化合物がより還元反応を受けやすいため、初期の金属酸化物を用いて実現される。これらの還元反応は、ガス流中の水蒸気による水素原子の、検出される分子への移動を含むことが多い。
【0079】
低温吸着分析条件では、標的の電荷分布、分子極性、水素結合形成能力、成分原子の電気陰性度、および触媒表面における分子吸着のエネルギー特性に影響を与えるような他の特性に基づいて、標的種との強力な相互作用を形成することが予想される相補的物質を選ぶことによって、触媒を特定の標的分子に対して定性的に選択できる。例えば標的分子中のO−HまたはN−H結合の存在は、金属酸化物、窒化物、またはフッ化物触媒の選択、それによる標的と触媒との間の水素結合相互作用が助長されることを示唆している。電気陰性度の差が大きい素子間の化学結合を含む高極性の標的分子は、高い極性結合および同様に大きな電気陰性度差を含む触媒とさらに効果的に相互作用することが予想される。同様に、標的分子の原子または基と触媒の原子または基との間の電気陰性度差が大きいと、標的−触媒の相互作用がさらに強く、さらに有効となる。触媒物質が、これらのような既知の化学原理を用いて選択される場合、標的と触媒との間のより優れた相補的一致およびより強い全体的な相互作用が実現され、より大きい吸着/脱離信号がより低い温度で得られるようになる。
【0080】
表1のような単純酸化物は必要でないが、金属の含水酸化物、水和酸化物、水酸化物、および水素化化合物なども触媒として使用できる。ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、金、白金、イリジウム、レニウム、その組合せなどの、結晶性および粉末金属も使用できる。これらのような金属は、以下で述べるように低温方式で本発明を動作させる場合に触媒として特に有用である。金属および金属酸化物の混合物も触媒として使用できることに注意する。
【0081】
本発明のセンサのセンシングまたは反応性素子は、触媒コーティングを持たない単なる不動態化HTD構成要素である参照素子とともに動作する。それゆえ周囲基準を与えるために使用される参照素子は、コーティングされていないことを除いて、センシング/反応性素子と同一である。センサは、センシングおよび参照素子の両方を加熱し、触媒表面に標的分子を静電的に結合させるための電子を供給できる、HTDに電流を流すことによって作動する。センシング素子が標的分子に接触すると、その分子は有限の期間だけ、静電相互作用、ファンデルワールス力などの組合せによって触媒表面に付着するか、またはより近くに引き寄せられる。酸化、還元、任意の種類の酸−塩基反応、任意の結合形成または結合破壊反応、または単なる吸着ならびに脱離などの、分子と表面との任意の種類の反応時に、熱エネルギーは、正味の負または正の反応エンタルピーそれぞれの結果として、生成または消費される。標的分子に接触するのは、センシング素子だけでなく、参照素子も同様に接触する。したがってセンサは実際に、特定の分子と触媒コーティングHTD(センシング素子)との相互作用を、同じ分子と未コーティングHTD(参照素子)の相互作用と比較する。
【0082】
加熱または冷却のどちらが発生するかにかかわらず、反応に関連する温度変化はそれ自体、電子的に検知される、HTD回路の抵抗変化を明示する。本センサ装置は、検知と関連する別個の反応プロセスが発熱性であるか吸熱性であるかにかかわらず、標的分子の選択的検知を可能にする。
【0083】
触媒コーティングHTDと反応する標的分子の濃度と、プロセスで生成または吸収される熱の量との間に直接相関があるため、本発明は、得られる標的分子濃度に関連する定量情報も与える。そして交換された熱の量は、生じる電圧変化、およびセンサ回路内のセンシング素子と参照素子との間の該当する電気抵抗差によって(オフセット測定方法)またはVRH温度を所望のレベルに維持するために必要なVRHに対する電力の変化によって(ゼロ平衡測定方法)測定される。
【0084】
センサ動作の温度範囲
現在使用されている一般の抵抗型センサ、例えばSnO2などの金属酸化物を利用するセンサは、標的分子の触媒酸化を検知することに基づいて、高温で動作する。本発明はそれほど限定されていない。酸化または還元などの高エネルギー反応は、比較的高温範囲で動作中に本発明のセンサを用いてただちに検知可能であるが、本発明は、吸着および脱離などの低エネルギープロセスに基づいた標的種検知にも備えている。したがって、本センサは、検知が高エネルギー反応に基づく場合に必要な、古典的な高温範囲よりも実質的に低い温度において、標的分子または物質からの特異的な定性的および定量的情報を得ることができる。
【0085】
本発明を用いた高温センシングは通例、約220℃(一部の反応はより低い温度で起こるが)から約425℃で起こる。これらの特定の高温化学反応は通例、酸化、還元、および他の比較的エネルギー性反応に関連している。センシングの低温範囲は通例、非破壊性吸着および脱離、または標的分子および触媒表面の両方のさまざまな空間的および電子的特性によって支配される、標的分子と加熱センシング素子との間の他の一次物理相互作用に関連する。低温検知は、本発明を動作させる可変温度方式で使用されることが多く、ここでは例えば、所与の温度範囲にわたる特定の標的分子−触媒表面相互作用に特有の温度対熱流ダイアグラムが得られ、電子形式で格納および使用できる。
【0086】
検知の低温範囲は通例、約245℃までに起こる。いずれの場合でも本発明にとっては、検知時に標的分子が反応して他の分子を形成する、古典的な意味の化学反応が実際に起きるということは重要でない。センシングHTD対参照HTDの熱伝達に標的分子と触媒との間にある物理または化学相互作用による不均衡が存在することが、単に必要である。この不均衡は、参照HTD(触媒コーティングされていない場合)における無反応、センシングHTDとは異なる触媒によってコーティングされている場合の参照HTDにおける別の反応のどちらから生じる。そのような相互作用の発生が観測される温度範囲は通例、約−196℃〜約260℃である。さらに通例には、これらの相互作用の多くは、センシング素子および参照素子の温度を約−78℃〜約232℃に調節した場合に観測される。さらになお通例には、これらの相互作用は約0℃〜約232℃で観測される。最も通例には、これらの相互作用は、センシング素子および参照素子の温度を約25℃〜約200℃に制御した場合に観測される。
【0087】
検知器動作の低温範囲は一般に、標的物質と本発明のセンサとの間の、任意の種類の比較的低いエネルギー相互作用に当てはまる。特にこの機能は、分子とHTDに塗布される触媒コーティングとの間の吸着または脱離プロセスに関する、分子と非コーティング参照HTDとの間の同じプロセスに関するエネルギー特性と比較した、独自のエネルギー特性に関連している。
【0088】
センサを動作させるために使用される電流はセンサを加熱し、触媒コーティングHTDの表面に標的分子を静電的に固定する電子をさらに供給することができる。分子が静電相互作用、ファンデルワールス力、水素結合などを通じて、触媒表面に吸着または触媒表面から脱離する場合、熱エネルギーは、負または正の反応エンタルピーそれぞれの結果として生成または消費される。その相互作用を指示する標的分子および触媒の両方の反応特性は、とりわけ分子および触媒の分子構造および電子分布またはバンド構造、分子および触媒の反応部位の性質、両方の物質のHOMOおよびLUMOのエネルギーおよび対称特性、および分子−触媒相互作用自体の物理化学特性の関数である。分子が表面に吸着されるときに熱が放出され、分子がその表面から脱離するときに熱が消費される。この熱伝達プロセス現象は、センサによって検知され、定性的および定量的情報を与える。それゆえ、定性的データは、標的分子、触媒、および単一種が検知される温度の独自の組合せによる信号の存在から生じるが、これに対して定量的データは、センシング素子での物理化学相互作用または反応中の所与の温度における分子濃度および電圧変化に比例する熱流の量を決定することから生じる。定性測定は通例、標準濃度の標的分子の存在下で検知器反応を決定することを含む。
【0089】
以下の記述に縛られるものではないが、低温範囲において、センサ動作の高温反応範囲とは異なる機構によって特異性が生じると考えられる。図17は、空気中でイソプロパノールおよびn−プロパノールを検知する場合の、温度(抵抗)対電力の低温検知プロットを示し、酸化スカンジウム触媒が1つの成分を他の成分よりも「無視」せず、むしろ2つの非常に異なる検知曲線の生成を可能にし、それによって両方の化合物を同時に識別することを証明する。それゆえ低温特異性は、2つの別個の化学特性を同時に識別する能力によって生じる。特定の成分の識別は、正確な検知を行うために、混合物の各成分について個別の標準反応曲線を記録する必要がある。それに対して、混合物の1つの成分の選択的吸着を可能にするが、他の成分は吸着せず、それにより他の種を正式に「無視する」ことによって特異性を達成する触媒を選択できる。この後者の場合では、特異性は、検知の高温範囲と同じ方法で達成できる。
【0090】
高温および低温範囲はどちらも、一定温度方式または可変温度方式のどちらで動作するかにかかわらず、標的分子とセンサとの一部の相互作用が起こる任意の中間温度範囲と同様に本発明で有用である。それゆえ分子についての温度/触媒/標的の規定セットを低温でのその標的の検知に使用できる。さらに、低および高範囲の両方を含む広い温度範囲は、検知器温度が規定の方法で変化する可変温度(動的)方式において、プログラム温度対時間特性の一部として利用可能である。本発明の本実施形態において、標的分子に関する非常に詳細な定性的および定量的情報を得るために、吸着および脱離から触媒での一部の酸−塩基反応まで、さらにエネルギー性の酸化または還元プロセスまで、特定の標的の一連の反応を利用できる。さらに重要なことに、可変温度(動的)方式で動作させる場合、異なる分子が異なる温度にて触媒コーティングセンサと相互作用するため、単一のHTDセンサを用いて複数の標的物質を検出することができる。
【0091】
本発明の別の側面において、異なる触媒によってコーティングされ、可変温度方法(しかし通例、本質的に同じ瞬間温度において)ですべて動作する複数のセンサが使用される。各センサが個別の温度制御および監視電子機器によって動作する場合、温度が周期的および同時に変化するときに、各センサの熱量反応が観測される。それゆえ規定温度循環プログラムによって多次元データセットを収集することによって、複数の標的分子が同時に検知かつ測定できる。
【0092】
選択性を達成するためのその他の手段
本発明のセンサ装置の選択性は、触媒選択およびセンサ温度などの、多様な調節可能なパラメータによって達成できる。加えて、選択性が実現され、それゆえ構造的および電子的に非常に似た、異なる分子をそれでもなお識別できる他の手段がある。
【0093】
単一の触媒が利用される場合でも選択性を実現する1つのさらなる方法は、分子を識別するために触媒トポロジーを利用することによる。この概念は、触媒の個性を変化させるのではなく、特異性を実現するために同じ触媒のトポロジーを変化させることを含む。選択性のこのような触媒トポロジー方式は、物理および/または化学相互作用の両方を含め、高温および低温条件の両方で有効である。それゆえ結晶性触媒のどちらの固体状態面を露出させるかを調整(堆積、露出)することは、次に結晶における分子配向のエネルギー特性を変化させ、このことにより、同じ分子式の触媒を使用した場合でも、さらに迅速な検知と分子間の識別が可能となる。固体状態触媒を1層から複数の層に変化させるだけで、同様の変化が生じうる。識別するために触媒個性を単に使用する場合よりも、トポロジーの変化が、標的分子−触媒相互作用間の選択性をより向上させられることが考えられる。例えば貴金属を使用すると、結晶面は大半の分子に対して無用な一般的反応を示すが、これに対して、異なる原子トポロジーを持つ別の結晶面は、特異性を与えることがある。異なる結晶面を堆積または露出するための方法は、定着しており、当業者に既知である。触媒の結晶面を選択的に露出する例は、参照により本明細書に組み入れられている以下の参考文献に見られる:Pt(lll)については、D.F.Ogletree、M.A.Van Hove and G.A.Somorjai、Surf.Sci.183、1〜20(1987)およびPt(110)については、M.I.Ban、M.A.Van Hove and G.A.Somorjai、Surf.Sci.185、355〜72(1987);W(110)およびW(100)については、M.A.Van Hove and S.Y.Tong、Sufi.Sci.54、91−100(1976);Mo(100)およびMo(lll)については、C.Zhang、Van Hove and G.A.Somorjai、Surf.Sci.149、326〜40(1985);およびfcc(lll)およびhcp(0001)表面については、J. P.Iberian and M. A. Van Hove、Surf. Sci.138、361〜89(1984).
選択性を得る別の手段は、センシング素子HTDが1つの種類の触媒コーティングを有し、「参照」素子HTDが別の種類の触媒コーティングを持つ、すなわちセンサが2つの異なるセンシングHTD素子を用いて作動する、HTD構成要素の機構を使用することによる。この場合、本発明は通例、2つのセンシング素子間で示差測定を使用し、示差測定は、標的種を分析するための、熱量分光曲線を含む非常に詳細な情報を供給することができる。さらに2つの異なるセンシング素子間での示差測定は、第一のセンシング素子が触媒結晶の1つの結晶面によってコーティングされ、第二のセンシング素子が同じ触媒結晶の別の結晶面によってコーティングされる場合に、有用なデータを供給する。この場合、同一の相互作用から生じる共通の信号特徴は完全に取り除かれ、標的種と特定の結晶面との間の相互作用の相違から生じるエネルギープロセスのみが観測される。
【0094】
選択性を達成するなお別の方法は、同じ触媒を用いても分子間の識別を可能にする、半導体触媒のドーピングプロトコルを変更することによる。選択性のこの「半導体触媒方式」において、触媒は、トランジスタ、ダイオードまたは他の半導体を構成するか、トランジスタ、ダイオードまたは他の半導体として作用する。特異性は、次に触媒の特性に影響を及ぼす、化学ならびに物理特性の変化およびドーピング分子の濃度から生じる。半導体をドーピングする方法は、定着しており、当業者に既知である。
【0095】
熱伝達装置(HTD)センサアセンブリの各種実施形態の詳細な説明
図1は、本発明の熱伝達装置の1つの実施形態を示し、触媒コーティングセンシングHTD5(図1A)および参照HTD10(図1B)の構造を表示している。センシングおよび参照HTDは通例、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、他の高融点ガラス、およびその他の、支持用低熱容量セラミックサブストレート15上に構成される。センシングおよび参照HTDは、通例、支持体上に固定されたスパッタリングまたはプリントしたレイアウトパターンの形の、既知の温度抵抗係数を持つ耐電性VRH材料20より成る。
【0096】
センシングHTD5は、触媒30をVRH20と熱接触させるために触媒30の層に結合される、耐電性VRH材料20上に耐高温性結合剤または接着剤25(図1では見えない)のコーティングを含むことが多い。別の実施形態において、触媒コーティング30は、高温接着剤25を用いずに、耐電性VRH材料20上に直接堆積させることができる。この後者の実施形態は、触媒前駆体金属が支持サブストレートに電気化学的にまたはスパッタリングによって堆積される場合に代表的であり、続いてHTDを空気中で加熱して、触媒前駆体金属を対応する金属酸化物触媒に変換する。参照HTD10は通例、ほとんどの場合、金属の空気との接触を防止する温度耐性ポリマーコーティングまたは結合剤35によって不動態化する。センシングHTDで使用される耐高温性接着剤25は、センサおよび参照HTDの熱抵抗をほぼ同じにする、温度耐性ポリマーコーティングまたは結合剤35で使用したのと同じ物質でもよいが、同じ材料である必要はない。
【0097】
高導電性回路接続ワイヤまたは金属タブ40は、銅または他の高温はんだ適合性導体45によって部分的にコーティングする。電気抵抗測定に4ワイヤ(ケルビン)技法を使用できるようにするために、2本の電気接続ワイヤ50を各接続タブ40にはんだ付けする。それゆえ図1に示すセンシング5および参照10のHTDはどちらも、便宜上、信号調整器具との接続のために共通ワイヤ被覆55によって器具から出る4本の接続ワイヤ50によって、ケルビン回路トポロジーを用いた信号調整電子機器に接続される。4本の接続ワイヤ、ケルビン回路トポロジーは、リード線に沿った電圧低下または抵抗変化による不確定性が本質的にない、電子出力を与える。高温動作では、スポット溶接によるリード線取付が好ましい。
【0098】
セラミックまたは他の高温支持サブストレートおよび耐電性VRH材料はどちらも、高温で劣化せずに動作するように選択される。正の可変温度電気抵抗係数を持つVRH材料の例は、これに限定されるわけではないが、ニッケル、タングステン、白金およびその他などの遷移金属を含む。可変量のクロム、コバルト、鉄および他の一般的な金属がVRH材料に含まれていてもよい。VRHが特定の電気抵抗に関連する単一の温度を持つために、VRH材料は、電気抵抗の実質的に単調な可変温度VRHを持つ必要がある。この特徴は、平坦になったり、反転したりしない、導電性材料の抵抗対温度曲線に不変の傾きを与える。傾きの算術符号の反転または変化は、1を超える温度が特定の電気抵抗と関連していることを反映する。特に有用なVRH材料は、比較的大きな傾きを特徴とする抵抗対温度曲線を持つ。
【0099】
図2は、2種類のセンシングHTD5を示す。図2Aは、高温接着剤を使用せずに、触媒30の層がスパッタリングまたはプリントされた耐電性VRH材料20の表面に直接位置するセンシングHTD5を示す。この例では、触媒または触媒前駆体は通例、VRH材料20の表面に電気化学的に堆積またはスパッタリングされる。図2Bは、触媒30をVRHと熱接触させるために触媒30の層に結合される、耐高温性結合剤25のコーティングを施されたセンシングHTD5を示す。この例において触媒層30は、金属酸化物などの「予備形成」触媒、または後で金属酸化物触媒に変換される金属または特定の結晶性表面を持つ貴金属などの触媒前駆体のどちらでもよい。接続ワイヤの、図1に示したのと同じ配置を図2で使用し、それゆえ両方の種類のセンシングVRHが、便宜上、増幅回路との接続のために共通ワイヤ被覆55によって器具から出る4本の接続ワイヤ50を備えたケルビン回路トポロジーを用いた信号調整電子機器に接続される。
【0100】
図3は、センサアセンブリの1つの機構の全体透視図を示し、センシングおよび参照HTD素子の両方を含む主要構成要素の相対的配向を表す。センサアセンブリ全体が、主要な有用性が物理的支持である、それゆえ十分な剛性を必要とする物理支持体60上に静止する。熱障壁65がセンシングHTD5を参照HTD10から隔離している。熱障壁は、センサと参照HTDとの間の放射熱伝達を最小限にするように機能する。スペーサ70は、熱障壁65および各HTD5および10のそれぞれのサブストレート15に結合される。スペーサ70は通例、熱障壁65とHTD5および10との間に約2〜3mmの距離を与えるように設計される。本発明の電子信号処理構成要素は、この図には示していない。
【0101】
動作中のHTD素子5および参照HTD素子10は、障壁65から熱干渉を受けないのと同時に、HTD素子5と10との間の伝導、対流および放射により最小限の熱伝達干渉が発生するように、障壁65に十分近くなるように、熱障壁65から適切な距離に配置し、距離はスペーサ70によって維持する。図示した実施形態において、センシング5および参照10HTD素子は、熱障壁およびスペーサから離して配置されているため、それによって、熱障壁平面に平行な任意の方向にガス流が発生する場合に、有効なセンシングが可能となる。
【0102】
物理支持体60は、平行側部を備えた支持チャネルで構成されることが多く、平行側部にセンサアセンブリが取付け可能であり、その中に接続ワイヤ50を通すことができる。支持チャネル60形状は、5、10および65に効率的な固定具となり、同時にセンサアセンブリが収容される変換器チューブからワイヤが出るときに、ワイヤ50に支持を与える。支持チャネル60は通常、底部および2個の平行側部より成る銅などの比較的硬い金属であるが、多くの他の実施形態も可能である。支持体60は、センサアセンブリに支持を与え、必要に応じて支持体60の長さに沿って配置させ、ワイヤがセンサアセンブリを含む変換器チューブから出られるように、出口配置を設ける。
【0103】
HTDセンシング装置の別の側面および実施形態を、すなわち、センシング5および参照10素子が単一支持体の反対側に配置される組合せまたは両面センサ−参照HTDを図4に示す。図4は、温度耐性支持サブストレートの片面上に、触媒30の層が(耐高温性接着剤25のコーティングなしで)表面に直接位置するセンシングHTD5を示す。参照HTDの空気への接触を防止する温度耐性ポリマーコーティングまたは結合剤35によって不動態化された参照HTD10は、サブストレートの反対面に配置する。2本のワイヤ50を各接続タブ40に接続する高温はんだ適合性導体45によって、部分的にコーティングされた金属タブ40の同じ機構。
【0104】
ここで図5を参照すると、変換器チューブ75内の図3によるのHTDの配置が示されている。変換器チューブ75内は、興味のある標的分子を含む流体(通例空気)がセンサアセンブリによって規定された平面に対して平行に流れるような方法で、HTDアセンブリを固定するように機能する;それによって、実質的に同一の流動条件および速度にて、分子がセンシング5および参照10素子に接触するようになり、したがって、センシング5および参照10素子が同じ濃度の標的分子に遭遇することが可能となる。センサへの電気接触を維持するワイヤ50は通例、支持体60が固定具80によって変換器チューブ75の内壁に固定される場合、シリンダを通過する。通常の実施形態において、各キャップの中心に穴90が配置された気密エンドキャップ85を、円筒状変換器チューブ75の端にかぶせる。通例、短い剛性チューブ95が、各キャップ85中心に配置された穴90を通過し、気密的に固定される。可撓性ホース100の下流端剛性チューブ95の端に結合され、HTDセンサアセンブリ上にガス流を吸引する交流または小型直流真空ポンプに結合される。
【0105】
本発明によって、異なる種類およびクラスの官能基および/または異なる反応温度を持つ追加の分子を検出するために、しばしば各種コーティングを施された複数のHTDセンサを直列または並列のどちらかで同じフロー変換器内に配置することができる。図6は、直列の複数のHTDセンサ/参照アセンブリを含む、センサアセンブリの1つの側面を示す。そのような構造によって、単一のガス流サンプルによって複数の標的分子を同時に分析することができる。常に必ずというわけではないが、代表的な構造において、HTDアセンブリは、ガス流が各種のHTDセンサ/参照アセンブリの間を進むときにサンプルの冷却が自然に起こるように、十分に遠くに配置される。例えば冷却は、空気流変換器75の外部表面に配置された冷却コイルまたは冷却羽根110の使用によって向上させることができる。センサアセンブリの間隔は、ガス流が加熱される高温センシングよりもむしろ、ガス流が冷却を必要とする低温センシングがさらに問題となる。冷却は、サンプルガスが好ましい検知温度以上で検知器に達した場合に潜在的な問題になり、この場合、適切な検知器温度を維持するために、ガスサンプルは検知器の上流で冷却する必要があるか、または検知器自体を冷却する必要がある。
【0106】
複数の検知器アセンブリの別の実施形態を、7個のセンサ素子および1個の参照素子の並列状または放射状機構を図7に示す。この数よりも多いセンシング素子を有する図7のような放射状機構も考えられる。複数のセンサHTDは通例、実質的に同じ瞬間温度で作動するが、そうでない場合、参照HTDは、それぞれの異なる温度にて有用となり、HTDの物理機構は、一部のHTDが他のHTDと異なる温度であるという事実を考慮する必要がある。図6の直列機構と比較した図7のHTDの並列機能の利点の1つは、標的分子が並列に検知されるため、分析されるガス流の組成物が各センサにおいて同一であることである。さらに、そのような機構においては、冷却コイル通例が必要である。
【0107】
図7のセンサ構造は、センシングおよび参照素子を1個の支持体の反対側に配置するか、または2個のセンサを1個の支持体の反対側に配置して、参照素子を別の支持体に配置するのに有用である。センサと参照VRH素子との間の熱流は、センサと参照素子との間で発生可能な温度差を最小限にするために望ましくない。しかし、実質的に同じ温度で動作する各種のVRH素子間での熱伝達の機会が本質的にない。図7の構造はさらに、センシング素子のアセンブリに対する1個を超える参照素子と同様に、任意の数のセンシング素子のセンサアセンブリに対する1個の参照素子を予測する。参照素子の有効な数は、少なくとも1個の参照素子を、1個のセンシング素子と実質的に同一の分析される流体流に接触させる数である。
【0108】
本発明のさらなる側面は、HTDセンサアセンブリとの接触前に、分析される流体流を場合により予熱または予冷することである。ガス流の予冷は、熱分光に利用可能な温度範囲を広げることが可能であり、および/または熱限界をさらに有用なレベルにまで向上させ、熱飽和の可能性を最小限にすることができる。1つの実施形態において、センサ−変換器アセンブリは、この予熱機能を行うために、センサアセンブリの上流に加熱コイルなどの加熱素子を含むことができる。センサの作動中、センサが作動する反応温度は、特定の触媒および標的種に対する検知に基づく別個の相互作用を誘起するのに必要な温度である。したがって、ガス流の予熱はすべての標的分子の検知において必要なステップではない。触媒−分子複合体が反応の活性化障壁を乗り越えるのに必要な熱は、触媒を加熱することによって(HTDを加熱することによって)、分子を加熱することによって(ガス流を予熱することによって)またはその両方によって供給することができる。正常運転条件下では、加熱HTDは、センシング素子の触媒表面に、その温度を問題の分子が反応するために必要な特定の温度に上昇させるのに十分な熱を伝達する。十分な熱がHTDに供給されると、予熱素子またはコイルを次に用いて、必要な相互作用または反応温度に達するように、ガス流に、ひいては分析される標的分子に熱を供給できる。予熱は検知器の熱限界を低下させるため、HTDを加熱するのに必要な電力を最小限にすることが望ましい状況では有益である。
【0109】
図8に示す本発明の別の側面は、変換器機構を液体中の分子の分析に使用できる1つの構造を示す。チャンバ115は、内部にポート120を通じて興味のある標的分子を含む液体のサンプルを導入できる気密コンパートメントである。ポート120はストッパー125で密封され、変換器チューブの残りの部分から隔壁130および135によって隔離される。隔壁130および135は、変換器チューブが適切な時間にアクセスするために開くことができる。隔壁130および135が閉じた気密位置にある初期動作の間、液体のサンプルは、ポート120を通じてチャンバ115に配置され、ストッパー125で密封される。ヒーターコイル140は液体を蒸発させ、気流がチューブ内をポンプ輸送されると、可動隔壁が位置145および150まで移動する。隔壁を開けて、気流を誘起すると、加熱された蒸気がシリンダ内を流れ、通常の方法でセンサアセンブリによってサンプリングされる。
【0110】
本発明は、物質が周囲条件下のガス、蒸発可能な液体、または昇華可能な固体のいずれであるかにかかわらず、気相分子または物質の形成を促すことのできる、どの物質にも提供できる。したがって、本発明のさらなる側面は、本発明による液体または固体の分析であり、そこで液体または気体は、図5に示す変換器機構と離れた任意の手段によって気相にされる。例えば多量の液体または固体を収集し、それを揮発するまで十分に加熱することができるサンプリング装置は、液体または固体物質をサンプリングおよび分析するために、図5に示すHTDセンサアセンブリと合わせて使用することができる。
【0111】
当業者によって認識されるように、これらの図に示される側面は、HTDセンサが特定の分析にすぐに適合させることができる方法で構成または利用される、他のまたは変更された側面を除外しない。
【0112】
他のHTDセンサ素子および参照素子設計の例
本発明のHTDセンサアセンブリは、図9に示すように、上述と異なる形状および機構をとることがある。例えばHTDセンサ(図9A)および参照(図9B)の表示を参照すると、HTDセンシング装置の他の実施形態は、気流の妨害を最小限にして、サンプル−触媒接触を向上させるために広い表面積を与える、長方形、正方形または円筒形あるいは他の形状を備えた固体センシング素子である。形状にかかわらず、セラミックまたはガラスセンサおよびその正の抵抗温度VRH材料20は、薄層高温接着剤25によってコーティングされ、通例、金属酸化物あるいは他の化合物または金属である、粉末または粒状触媒30の薄層によってさらにコーティングされる(図9A)。参照素子(図9B)は本質的にセンシングHTDと同じであるが、触媒コーティング30を施されていない。それゆえ図9Bに示す実施形態において、参照素子は、センシング素子で用いたのと同じ薄層高温接着剤25によって不動態化される。
【0113】
図10は、巻かれた箔型のセンシング素子を利用する、HTDセンサ参照アセンブリの別の側面を示す。この種のHTDは、表面積を増加させ、センサ素子周囲の気流特性を改良するように設計され、図9のHTDセンサに対して改良された熱力学特性を持つことがある。箔センサは、正の抵抗温度VRH材料20を含み、金属酸化物または他の触媒30の薄層によってさらにコーティングされた高温接着剤25の薄層によって同様にコーティングされ、次に、箔の両面の間にロールの全長に沿って、気流スペースを維持しながら緩く巻かれる(図10A)。箔参照素子(図10B)はセンシングHTDと本質的に同じであるが、触媒コーティング30が施されていない。図10に示す実施形態において、箔参照素子は、センシング素子で用いたのと同じ薄層高温接着剤25によって不動態化される。
【0114】
本発明の別の側面は、本明細書で例示または説明する触媒コーティングセンシングHTDのいずれにも、すなわち予備形成触媒ではなく、HTDセンシング組織に結合された触媒前駆体を含むセンシングHTDの他の実施形態に適用される。例えばHTDは通例、高温接着剤を用いて、銅などの純金属箔の薄層でコーティングすることができる。金属箔は次に、熱または化学的手段による接着剤硬化の後に酸化されて、金属酸化物触媒表面、この例では酸化銅を与えることができる。この種のHTDセンサの1つの実施形態の断面を図11に示す。この実施形態において、白金抵抗ヒーター素子155はHTDの中央に位置する。ガス流およびHTD周囲に酸素障壁を設け、きわめて薄い膜を支持するポリイミドキャリア160は抵抗素子155を包囲して、155および160がともに、非触媒加熱機能(VRH)および温度検知器機能(RTD)と作用するセンサのVRH部を構成するようにする。この部分は、センシング(図11A)と参照(図11B)素子との間で共通である。高温接着剤165は金属箔170を、加熱時に触媒として作用する金属酸化物層を外部表面上に形成するHTD本体に結合させる。図11Bはさらに、抵抗ヒーター素子155およびポリイミドキャリア160を含み、接着剤または金属箔のないHTD参照素子を示す。
【0115】
本発明のHTDセンシングおよび参照素子の他の非常に簡単な例は、加熱ワイヤのセンシングHTDとしての使用であり、これに対して不動態化される同じ種類の加熱ワイヤが参照HTDを構成する。この種のセンサおよび参照は、可変抵抗ヒーター(VRH)、抵抗温度検知器(RTD)、および触媒の3つの機能すべてを1本の金属ワイヤ(例えば金)に組合わせる。それゆえ参照ワイヤは、その反応を防止するために不動態化する必要がある。
【0116】
検知の理論的考慮事項
以下の理論によって縛られるわけではないが、本発明のセンサ装置の高い選択性は、以下のように生じる。電流がVRHを通過するときに、抵抗的に触媒コーティング内の化学結合を加熱および励起する。通例、これらの結合は金属−酸素結合であり、その場合に標的分子の検知に関する反応は、酸化または還元でありうる。センシング素子がより高くなると、金属−酸素結合エネルギーと標的分子の酸化または還元電位との間でエネルギー一致が起こりうる点まで、より大きな触媒金属−酸素結合の励起エネルギーが誘起される。反応はこの場合は、標的分子への破壊された金属酸化物結合からの酸素結合の転移によって、この一致点で発生し、反応熱が検知される。エネルギー一致点における量子電子トンネル現象は、本センサおよび方法の選択性に寄与する。一致エネルギーによって、気相水またはガス流に含まれる他の分子または供給源を含む、他の供給源からの水素原子との各種の反応が可能となる場合、還元も生じる可能性がある。
【0117】
以下の記述に縛られるわけではないが、分子−触媒相互作用自体のエネルギー、対称および静電特性とともに、標的分子および触媒の両方の反応特性は一般に、特に標的分子の分子および電子構造、固体状態および帯域構造、反応部位の性質、両方の物質のHOMOおよびLUMOのエネルギーならびに対称特性の関数であることも考えられる。標的分子の酸化または還元の結合エネルギーによってさらに加熱される触媒によって表される信号は、反応誘起温度変化として検知される。センサのVRH電流を変化させることにより、触媒の温度が変化し、センサが分子および/または濃度を識別するであろう。それゆえ単一の分子種の別個の反応を引き起こす、標的分子の分子特性(対称、静電気およびエネルギーの考慮事項を含む)、触媒の特性(対称、静電気、およびエネルギー特性、温度、組成物、など)、触媒に熱を与えるVRH電流などの独自の組合せが発生する。この結果は、センサの温度、吸着などの物理相互作用などの可変性と同様に、センサコーティングおよび標的分子の活性部位の酸化または還元の金属酸素結合(または他の結合種)の結合エネルギー環の差から生じると考えられる。したがって、センサVRHの電流は、所与の分子反応または独自の吸着/脱離特性を開始させるために変更することが可能であり、この独自のエネルギーは相互作用可能な、または供給される分子のみと反応し、その独自の吸着/脱離特性を生じる。異なる構造および電子特性を持つ他の分子は、反応もせず、センサにおける温度変化にも影響を与えず、したがって、信号温度は、標的分子、触媒、および所与の電流の組合せに独自のものである。
【0118】
これらの同じ理論的考慮事項も、発熱性および吸熱性反応の両方が検出できるため、標的分子が受ける反応の種類にかかわらず、本発明において実施可能である。例えば大半の酸化の発熱性反応エネルギーは、金属酸化物コーティングの温度変化を引き起こすが、これに対して吸熱性反応は、負の温度変化を誘起する。どちらの場合も、温度変化はそれ自体、電子的に検知される、VRH回路の電気抵抗の変化として表される。酸化の場合、大気中のO2分子は分裂して、1個の原子に空になった金属の酸素部位を置換させ、それゆえ元の金属酸化物が再生されることが考えられる。他の酸素原子は標的分子と反応し、例えば2個の水素原子を置換して水を生成するか、または単に標的分子に移動してより高い酸化状態種を生成する。還元反応は、その予想される供給源としての大気中の水による電子および/または水素移動を含む、類似の反応によって特徴付けられやすい。吸着および脱離反応は、吸熱性または発熱性プロセスのどちらかとして選択性も示す。以下の記述によって縛られるわけではないが、静電的に活性化されたセンサからの電子の放出または「ガス抜け(out−gassing)」は、標的分子を金属酸化物または他の触媒表面に誘引または固定することも考えられる。信号特異性は、酸化、還元、または独自の吸着/脱離特性を作製する方法における、相互作用が存在する程度まで外部触媒を加熱するVRHの抵抗コアにおける電流と、標的分子の化学結合との相互作用によって実現される。
【0119】
一定温度動作方式における検知標的分子および物質を検知するための電子機器構成要素
本発明の可変抵抗ヒーター(VRH)は通例、環境への熱流が最小限である、低熱塊および容量サブストレート上に形成される。通例、触媒コーティングセンサVRHおよび非コーティング参照VRHはそれぞれ、ケルビン測定回路トポロジーを用いて、4本の接続ワイヤによって信号調整電子機器に接続される。通常使用される、2または3本のリード線を用いたVRHへのホイートストンブリッジトポロジーは本用途で機能するが、ケルビントポロジーは、リード線インピーダンス効果による、ブリッジトポロジー実装で一般的な信号の減衰および汚染を実質的に消滅させる。本発明のセンサアセンブリを動作させるのに使用される信号調整電子機器をさらに十分に理解するために、電子的な例によって示すセンサ動作の熱力学モデルを実施例17に与える。
【0120】
代表的な測定手段は、可変抵抗センサアセンブリを信号調整するために、一定温度熱量測定方法を使用することである。Micko(米国特許第4、305、724号)およびYoung(米国特許第5、989、398号および第6、071、476号)は、どちらも参照により本明細書に組み入れられ、一定温度熱量測定の複雑なパルス化アナログおよび直接デジタル制御側面をそれぞれ述べている。本発明は、より少数の構成要素を必要とする連続アナログ機能における一定温度熱量方法の改良された実装を含み、さらなる情報を供給し、性能を向上させる。センシングおよび参照VRH素子の両方を米国特許第5、371、469号(参照により本明細書に組み入れられている)アンダーソンループ回路で接続することにより、および示差測定方式を使用することにより、出力電圧信号は、データから一次系統誤差を除去するためにさらなるデータ処理を必要としない。
【0121】
図12は、HTDを実質的に所望の瞬間温度に維持するために必要な電力の形の熱の量が熱活性の指標として測定される、ゼロ平衡測定方法のための信号調整手段の実施形態のブロック図を示す。ブロックで囲まれた図12の一部は、検知器内の各センサHTDに関連する信号調整を示す。それゆえ7個のセンサHTDおよび1個の参照HTDを持つ図7の検知器アセンブリは、図12のブロックに囲まれた7セットの器具より成る信号調整を必要とし、各セットは、図7の1個の参照HTDに接続された実質的に同一の1セットの器具とともに動作する、7個のセンサHTDのうち1個を調整する。
【0122】
図13は、参照HTDの温度に関する触媒活性による動作中センサの温度変化が、熱活性の基準として観測される、オフセット測定方法の信号調整手段の1つの実施形態のブロック図を示す。オフセット測定方法は通常、温度差(オフセット)がその間に出現できるように、センサHTDとその関連する参照HTDとの間に実質的な熱抵抗を必要とする。それゆえ、センサと参照HTDとの間に図3、5、6および8に示すよりもより低い熱抵抗を持つ図4および7に示すHTD構成は通例、図13の信号調整機構によって、あまりよく機能しない。
【0123】
センシングおよび参照素子それぞれの1個の温度−可変電気抵抗は、ヒーターおよび温度センサと同時に作用する。図12は、本発明の連続アナログ一定温度熱量計電子機器の1つの実施形態の設計図を示す。2個の高速アナログ乗算器−除算器構成要素(アナログ装置AD538)は、センシングおよび参照素子にわたる電圧、およびそれらを通る電流の比を表す出力電圧を生じる。これらのアナログ出力電圧は、電気抵抗(R=E/I)の代表であり、それにより可変抵抗センシングおよび参照ヒーター素子の温度である。図12に示すように、これらのアナログ信号は、高速アナログ制御ループ内の設定点電位における比較用フィードバックとして使用される。設定点電位は、制御電子機器によって可変抵抗ヒーターが所望の動作温度を実質的に達成させるように命令する。電気設定点電位は、手動調整によって、あるいはデジタル−アナログ変換器を通じてコンピュータによって与えることが可能であり、熱量分光に対して時間とともに変化させることができる。
【0124】
本発明の1つの側面は、センシングおよび参照可変抵抗加熱素子にわたる電圧、およびそれらを通る電流の高解像度測定値を受け取るコンピュータを使用する。コンピュータソフトウェアを利用して、次にセンサおよび参照温度HTDおよびそれぞれの温度コントローラの転送機能を予測し、所望のおよび測定したヒーター温度との差を通例0.1〜0.2℃以内に調整して、最小限にするよう操作する。触媒生成熱は上述の動作中のセンシング素子に加えられたり、それから引かれたりするため、素子をその所望動作温度に維持するために必要な電力は、センシング素子を実質的に所望の温度に維持するためにそれぞれ下降または上昇させられる。
【0125】
図12に示す実施形態において、その比が加熱素子抵抗を表すアナログ信号も、2台の追加のアナログ乗算器−除算器構成要素への乗じられた入力として与えられる。アナログ乗算器出力は、センシングおよび参照ヒーター素子を実質的に同じ温度に維持するために必要な電力の連続表示である。乗算器出力間の電位差は、センシングおよび参照加熱素子に印加される電力差を表し、それによりセンシング素子における触媒反応から生じる熱流の規模および方向を示す。本側面において、電力差信号は微分器回路を用いて数学的に微分され、その出力は次に動作中のセンサへの触媒生成熱流の変化率を表す。この出力は、動作中のセンサが観測している特定の分子のあらゆる濃度変化の、実質的な中間通知を与える。
【0126】
濃度および濃度の変化率データは、センサから連続的に入手可能であるため、本発明は、一時ガス濃度の分析などの汚染物質の連続監視が望ましい用途での使用にただちに適合する。さらに本センサは、センサ自体および電子構成要素を相互に、かなりの距離で配置することが望ましい場合のサンプル分析に適している。本機能により、プローブを流体流中に直接配置しなければならない場合や、自動車排気システムなどのフィードバック制御下で他の電子装置と組合わせなければならない場合に、装置を使用することが可能である。
【0127】
上述のセンサおよび参照抵抗(R=E/I)を計算するために使用される、センシングおよび参照素子電圧降下および電流の高分解能測定は、センシングおよび参照素子に印加される電力の差(P=E・I)および動作中および参照可変抵抗加熱素子の差の変化率(dP=dE・dI)をデジタル計算するために使用できる。デジタル手法は、デジタルコントローラが利用可能であり、連続デジタルシステムに固有の時間遅延が許容可能である場合に代表的な手法となる。抵抗および電力の計算で誤差を生じうる測定の不一致を最小限にするために、同じ参照電圧を、すべての設定点制御信号を使用するために、およびセンシングVRHおよび参照VRH素子にわたる電圧降下、およびそれらを通じた電流のすべてのデジタル概算値に使用される、アナログ−デジタル変換器への参照入力として使用することが通例である。
【0128】
したがって標的分子と触媒コーティングHTD表面との間の独自の相互作用(酸化、還元、吸着、脱離、酸−塩基反応、水素結合プロセス、ファンデルワールス相互作用、静電相互作用、結合生成反応、結合破壊反応、またはその組合せのいずれか)は、未コーティング(または別にコーティングされた)参照HTDに関して、電子信号をボルト、電力、または他の好都合な単位で与える。所与の温度にて特定の表面から所与の分子を脱離するために必要な電圧も独自であり、参照に関する温度対電圧特性は、分子およびその濃度を独自に識別する。
【0129】
それゆえ本発明が、これに限定されるわけではないが以下を含めて、以前のセンサと多くの点で異なることがわかる。本発明は、高温検知方式と同様に低温検知方式が可能であり、標的分子と触媒コーティングとの間の任意の種類のエネルギー相互作用が検知目的に使用できるため、標的分子の燃焼を故意に引き起こさない。本発明はさらに、センサおよび参照温度を調節するプロセスで望ましくないノイズが生じる切換方法ではなく、連続した独立温度制御システムを使用する。それゆえ滑らかで迅速な温度制御は、ブリッジ回路および測定感度のその固有の還元を使用せずに実現される。本発明の検知器において、複数のセンサ素子が同時に配置され、1個の参照素子を共有する。低電圧回路の使用は、センサのバッテリ動作を可能にし、本発明は、発熱性または吸熱反応のどちらかを使用して分子を検知する能力を提供し、多大な汎用性を供給する。通例本発明は、制御パルスの範囲を平均するのではなく、参照の測定値について連続的に電力変化を計算する。さらに、温度掃引は、本発明によって比較的迅速であり、ガス濃度変化による安定化は迅速である。
【0130】
熱量分光動作方式での標的分子および物質を検知する電子機器構成要素
前節は、センシングおよび参照素子が、各センサで1個の標的物質を検知するために一定温度運転で、ケルビン回路トポロジーを用いて信号調整電子機器に接続される方法を詳説した。本節は、可変温度、熱量分光方式で検知器を操作することによって、複数の標的種の、1個のセンサでの検知が達成される方法を詳説する。検知の本可変温度方式は、センサ温度を長期にわたって循環方式で変化させることと、熱量反応を温度変化の全範囲にわたって連続的に監視することとを含む。本プロセスは、ただちに入手可能なパターン認識ソフトウェアによって解析可能である特定の分子が、熱量反応対温度の規定パターンによって特徴付けられるデータを生じる。それゆえ、特定の触媒コーティングに関して、特定の物質が一部の規定温度範囲にわたって反応の一部の規定パターンによって検知されるが、一部の他の規定温度範囲で現れる一部の他の規定パターンにより、同じ触媒にて別の物質が検知される。利用される厳密な触媒コーティング、および横断される温度範囲は、その特定のセンサを用いて測定される標的種を指示する。熱量反応対温度パターンは大半の場合実験により決定されるが、標的分子−触媒相互作用の定性的理解は、酸化触媒を形成する金属の周期律表における位置などの特徴に基づく触媒の化学特性と同様に、標的分子の官能基および静電特性の知識により得られることに注意する。
【0131】
熱量分光(可変温度)方式は、プログラム温度対温度特性を含み、そこで検知器温度を、特にセンシングおよび参照素子の両方で規定の方法で変化させる。センサアセンブリを熱量分光方式で動作させる場合、異なる分子が触媒コーティングセンサと相互作用して異なる温度にて異なる反応を与えるため、1個のHTDセンサを用いて複数の標的物質を検知することができる。
【0132】
本発明の熱量分光方式の非常に有用な機能は、通例異なる触媒でそれぞれコーティングされ、通常(しかし必ずというわけではないが)実質的に同じ瞬間温度においてであるが、すべてが可変温度式で動作する、複数のセンサを利用して多次元データセットを収集することができる。各センシングおよび参照素子が個別かつ実質的に同一温度制御ならびに監視電子機器によって動作される場合、温度を循環かつ同期して変化させるときに、各センサからの相関可能な熱量反応が観測される。この方法で、規定の温度循環プログラムによって多次元データを収集することによって、複数の標的分子が同時に検知および測定できる。熱量分光方式に適した複数のセンサアレイの1つの実施形態を、7個のセンサ素子および1個の参照素子の並列または放射機構を描いた図7に示す。
【0133】
図4および7の検知器は通例、センサVRHおよび参照VRHの瞬間温度が実質的に同一となるように制御される、ゼロ平衡測定方法を用いて動作する。同じ温度の2個のVRH素子間には理論的に熱流がないため、各VRH温度コントローラは、もう1個のVRHからの熱伝達によって本質的に影響を受けない。伝導、放射および対流によって、これらの熱伝達装置表面から生じる熱流の速度が温度循環が起こりうる迅速度を決定するため、サンプルガス流がセンシングおよび参照VRH素子を冷却する第一の手段であることが好ましい。さらに、温度循環特性に比較的高温限度を含めることによって、さらなる測定を妨げる残留吸収物質を触媒から除去する準備をする。
【0134】
パターン認識および画像処理の各種分野で決まって使用される標準多次元相関技法は、規定され、電子的に格納された反応パターンを参照するよう適合させることができる。これらの参照パターンを使用して、熱量反応から実験的に得られたデータを比較および認識し、それにより特定の分子を識別することができる。本方法は、ほぼリアルタイムで複数の標的分子の存在および濃度を実質的に同時に識別する。この動作方法のための電子機器は、質量分析、核磁気共鳴およびフーリエ変換赤外器具などの標準分光測定分析器具で見られる、またはそれらから改造されたなどの、標準パターン認識ソフトウェアと組合わせて、データ収集を実施するようプログラミングされる。
【0135】
本明細書で述べる多次元マルチセンサ検知器は、各センサで同時に発生する観測エネルギー流(例えばジュール/秒、またワットで)を検知するための器具および方法より成る。熱分光は、閉ループ制御システムによって検知器温度変化を循環方法で設定することと、複数の電気VRH抵抗制御システムにより設定された温度変化のスペクトル内の各種の温度に関連する検知器電力散逸の概算値を記録、表示および解析することによってによって実現される。温度変化は明らかに、広い範囲、狭い範囲にわたって広がるか、検知される特定の標的分子の任意のセットにとって有用であるように、実質的にゼロを維持することさえできる。
【0136】
制御システムがVRH電気抵抗をスムーズに調節する機能は、多次元検知で特に有用である、検知器出力の基本的な分解能を確立する。VRH電気抵抗のスムーズな調節は、VRH電気抵抗を電圧および測定値から推定する能力に依存する。アナログ除法手段、例えばアナログ装置AD538は、実質的に同じ瞬間に観測され、10、000分の1の分解能を実現可能である信号によって本質的に動作する。デジタル−アナログ変換は、はるかに高い分解能を実現可能であるが、アナログレベルのデジタル概算値からの乗算および除算の結果は、概算値が得られる時間から本質的に遅延し、通例、直接アナログ処理によって得られた分解能より劣る最終的な分解能を示す。それゆえ測定システム全体の性能は基本的に、実施例17で詳説するように、検討中の機械設計に適した熱モデルにより解析可能である、検知器の性能によって制限される。
【0137】
電子例としての、熱量分光方式におけるセンサ動作の熱モデル
図14および15は、本発明の2つの別の側面の熱力学モデルを示す。これらの熱力学モデルは、すべての測定および動作方式に有用であり、モデル化構成の性能および制限の有用な予測を与えることができる。図14は、触媒コーティングセンシングVRHおよび参照VRHが図3に示すように別個の本体に位置する、電子例によるセンサアセンブリおよび動作の1つの熱力学モデルを示す。図15は、触媒コーティングセンシングVRHおよび参照VRHが図4に示すように同一のセラミック本体に位置する、分析および計算の便宜のための電子例によるセンサアセンブリおよび動作の1つの熱力学モデルを示す。どちらの場合においても、センサおよび参照VRH素子の両方は一般に、実質的に同じ瞬間温度を達成するように電気的に加熱される。電気制御システムは、一部の測定方法においては、HTD温度が一定に維持されるが、通例時間の関数として循環的に変化する適切なHTD温度を設定する。ヒーターは、通例(しかし必ずではないが)正の温度抵抗係数を備え、温度とともに単調に変化する電気抵抗を持つため、ヒーターの瞬間温度は、HTDの電気抵抗を観測することによって概算することができる。温度制御は、電源としてモデル化されたセンサまたは参照電力源から到着する電力の散逸によって、HTD電気抵抗を制御する手段によって行われる。
【0138】
図14および15の概略図が示すように、本可変温度分析での温度レベルおよび時間履歴を概算すると、熱エネルギーの代用は電荷であるが、温度の代用は電位である。熱抵抗および熱容量は、電気抵抗および電気容量としてそれぞれモデル化される。同様に温度変化の熱力学は、電流の時間履歴および生じた電位によってモデル化される。それゆえHTD素子は、電気エネルギーを実質的に同量の熱エネルギー(例えばどちらもジュールで測定される)とセンサおよび参照電力源によって示される測定速度(例えばジュール/秒またはワット)にて交換する。吸熱および発熱プロセスはどちらも本発明に含まれるため、本エネルギー変換は、両方向に実施可能である。HTDにエネルギー散逸は、標的分子が接触する、触媒の外部表面および触媒下のわずかな深さ、すなわち「表皮」領域の温度を、熱エネルギーが熱抵抗のネットワーク(熱エネルギー流速度(℃/ワット)によって引き起こされる温度降下を示す)を通じて表面から離れる速度によって、表面に到着する熱エネルギーの速度がバランスを保たれる温度まで、指数関数的に上昇させる。観測された指数関数的な温度変化を説明する時間定数は、熱抵抗および容量によって同様にモデル化され、格納された熱エネルギーの単位あたりの温度変化(℃/ジュール)で定義される。
【0139】
HTDセンシング素子での触媒物質の存在は、HTD参照素子に比較すると、触媒活性の各種方式による、発熱性または吸熱性のどちらかの熱エネルギーの移動に備えている。独立電子制御システムは、HTDセンシングまたは参照素子に印加される電力を変化させて、その電気抵抗が時間の関数として実質的に同じ瞬間温度を生じるようにする。触媒または電気エネルギー源のどちらかに由来するエネルギー(ジュール)は、実質的に同じ熱効果を持ち、したがって触媒発生型エネルギーを、電気発生型エネルギーへ互換的に置換しながら解析することができる。触媒発生型エネルギーの送達(到着または出発)速度は、センサおよび参照HTD素子の所望の電気抵抗を維持するために必要な電力レベルの差によって概算できる。
【0140】
電力を散逸させる必要なく、所望のHTD電気抵抗が得られたときに熱飽和が起こる。それゆえ熱飽和は、触媒活性から到着する熱エネルギーの速度が、触媒活性のないHTD電気抵抗を維持するのに必要な電力と同じか、それ以上である所与の周囲条件にて生じる。熱飽和に対するセンサの感受性は、センサが熱エネルギーを移動する各種の周囲温度およびセンサがその周囲に熱エネルギーを送達する機能によって変化する。これらの熱モデルの重要な機能は、センシング素子にて熱飽和を生じる触媒活性の速度を概算するために使用できることである。
【0141】
熱飽和は通例、オフセット測定方法を使用する場合に、測定範囲を制限する。しかしセンサHTDの温度が触媒活性によって上昇する場合、触媒温度がより高くなると、標的分子を観測するための最適条件を維持できないことがある。この効果は熱離調と呼ばれる。
【0142】
センシング素子の熱機械構造は、材料、物理寸法、センシング素子の取付け、および所期のHTD動作温度よりも実質的に低い温度にHTDを維持する速度にて、熱エネルギーを伝導、対流および放射によって離脱させる流動条件を選択することにより設計される。例えばより高い絶縁値を持つより長く、小さい断面積の材料によって、センサHTDをそのホルダーから分離すると、熱抵抗が上昇する。より小さい熱容量を持つ材料より成るセンサ本体は、HTD熱容量を減少させる。ガス流へのより大きな熱伝達は、より低い温度環境への放射と同様に、熱抵抗を低下させる。HTDが取付けされる通路の内部が研磨金属、銀めっき、金めっきなどである場合、放射熱伝達は最小限となり、放射による熱抵抗は上昇する。実際問題として、検知器が最初に作製され、続いてその性能が決定される。次に検知器の設計が調整されて、物理機構を調整することによってより高い有用性が実現され、さらに適切な熱抵抗および容量が実現される。明らかに低レベルの触媒活性に対してセンシング素子がより感受性になると、センサは熱飽和に対してより感受性になる。
【0143】
図14および15モデルの別の特徴は、関連参照素子のHTDの抵抗に対する、センサの温度変化の影響を概算する機能である。センシングと参照HTD制御システムとの間のクロストーク相互作用は、この影響によって作動される。設計により、実質的に同一の瞬間温度におけるセンシングおよび参照HTD素子の動作は、検知器温度が熱分光計の制御下で変化する場合でさえ、センサから参照への最小熱エネルギー流を引き起こす。
【0144】
HTDセンサ装置および方法のさらなる用途
上述の本センサ装置を使用する用途および方法に加えて、本発明を使用する他の多くの用途および方法がある。以下の実施例は、本発明のセンサおよび方法の多くの可能な用途の代表であり、網羅的であると見なすべきではない。どの標的種でも、その種の定性および定量分析は、任意の分析技法のための通常の方法で実施され、標的種を固有に識別するために実施例に示すような独自の抵抗(温度に比例)対電力プロットまたは電流対電圧プロットを用いるか、および/または定量情報を得るために濃度標準に対する反応を判定する。
【0145】
本発明の可能な用途の実施例は、迅速で、非侵襲的な、病状の測定および決定を含む。例えばグルコースレベルが計算できる、アセトンのメチルエチルケトンに対する濃度および比を判定することができる。特定の窒素代謝産物の存在を決定して、血流中のアヘン剤の存在および濃度を判定することができる。運転者、トラック運転手、バス運転手、列車技師、大型船ならびに荷船船長、パイロット、重機オペレータ、陸上選手、または患者のの血中アルコールレベル、呼気または汗中の薬剤、または薬剤副生成物の試験は明らかに、違反種またはその分解生成物の直接測定によって得ることができる。戦場での負傷の迅速な評価も、手術中の麻酔剤濃度の直接測定と同様に可能である。本発明を用いて手術前、手術中、手術後に患者をあらゆる病状について監視することも可能であり、このことは意識のない、または非協力的な患者に特に有用である。本発明を用いると、気相物質分子の形成を誘起させることができる種、病原体およびその他―薬剤、薬剤副生成物、代謝産物、症状または疾患の指標、または症状前駆体のいずれにせよ−を検知することができるため、あらゆる疾患および症状が検知できる。本機能は、癌、心臓疾患、腎機能、肝機能、および無数の他の内部病状診断において本発明を有用にしている。
【0146】
本発明のセキュリティおよび対テロリズム用途は同様に広範である。爆発性および爆発性残基は特に、乗客、機内搭乗員、地上勤務員、あらゆるタイプの空港勤務員、手荷物、航空貨物、およびあらゆるタイプのコンテナをスクリーニングするために、連続気相サンプリングによって検知可能である。セキュリティチェックポイント、搭乗ブリッジ、待合室、航空機、手荷物保管区域、荷物車両、給食車両、燃料および保守車両などは、検知目的でこの種の小型装置を装着することができる。同様に装置は、航空機に近接した地表面を含めて、検知が重要であるどの場所にでも配置できる。多くの状況において、複数のセンサを同時に使用する分子濃度測定は、どの用途においても標的物質源を三角法で測量して、位置決定するために使用できる。重要なのは、生物兵器および危険は、化学兵器と同様に本発明によって検知され、それによってテロリズムに対する戦いで特に有用となることに注意することである。それゆえ炭疽菌、天然痘、他の単または多細胞生物またはウィルス、およびその他はすべて、特定の温度にてこれらの種を特定の触媒表面に結合させる独自のエネルギー特性により、本方法によって検知することができる。これらの装置は、その携帯性により、潜在的なテロリストの攻撃や有害な化学薬品の流出または浸透が発生したおそれのある場所で毒素を監視するために非常に適している。本発明は、火山および地震予測データの、地質起源の特徴的なガスの連続監視にすら使用できる。
【0147】
本センサ装置は、その移動性によって自動車、有人または無人飛行機、ボートなどへの配備に利用できる。さらに検知器は、検知のための小型の携帯型装置を供給するために小型化することができる。本特徴は、例えばDEAによる薬剤検知のための、またはNOAAによる大気検査のための、モバイルまたはリモートセンサを用いたEPA準拠のセンシング動作においてなど、どのような現場条件下でもセンサの使用を可能にする。センサ動作事態はただちに自動化可能であり、センサからのデータは、分析のために遠隔データ監視局に送信することができる。さらに軍隊および警察部隊は、禁制物質、爆発物、化学または生物剤およびその他などの存在を判定するためにそのような装置を使用することができる。有蓋車、コンテナ船およびその他においてその中身を輸送のために牽引トレーラートラックに荷降ろしする前に、分子をセンシングする機能は、セキュリティ対策を大幅に促進および向上させる。本センサは、無人飛行機に設置して、全地球測位衛星(GPS)データを用いて、規定の飛行パターンを飛行して、位置に相関する濃度データを供給することによって、非合法または危険物質の検知を行うことができる。本例において、濃度データのマップによって、標的物質の発生源位置をただちに発見できる。
【0148】
これらの装置を用いた検知は、十分に安価かつ迅速であるため、港を通じてこの国に入る本質的に100%のコンテナ、トラックまたは鉄道により国境を渡るコンテナ、およびあらゆる手段で米国に入るすべて乗客のすべてのバッグを検査することができる。本発明はさらに、いかなる方法においてもその範囲に制限を課すると解釈されるべきではない、以下の実施例によって例証する。これに対して、手段は多様な他の実施形態、修正およびその同等物を持ち、本明細書の説明を読んだ後に、本発明の精神または添付請求項の範囲を逸脱せずに、当業者に自明となることが、明確に理解されるはずである。
【実施例1】
【0149】
粉末触媒を用いたVRHセンサ素子の構成
VRHセンサは、以下のように、予備成形された粉末触媒を用いて作製した。本センサは、オフセットまたはゼロ平衡測定方法のどちらかを用いて、シングルチャネル(シングルエンド)方式またはデュアルチャネル(示差)方式のどちらかで動作可能である。VRHは、シングルフィラメント、12ボルト、Sylvania#53ランプで構成されていた。電球アセンブリのガラスを注意深く割り、除去することによって露出させた。フィラメントはいったん露出させた後、すべての側面を、使用説明書に従って新たに調製したM Bond 600 歪ゲージ接着剤(Vishay Measurements Group、Raleigh、North Carolina)によってコーティングした。コーティングの直後に、フィラメント表面を360メッシュ触媒粉末によって完全に覆われる。したがってM Bond接着剤は、フィラメントを不動態化することと、触媒コーティングをフィラメントに接着させることの2つの機能を果たす。本方法で試験を行った粉末触媒はすべて、一貫性を保つために360メッシュサイズとして塗布される。フィラメントコーティングが完了したとき、電気リードを取付けたフィラメントアセンブリを予熱した120℃のオーブンに入れ、3時間硬化させた。オーブンを切って、約30分間、室温まで平衡にした。
【実施例2】
【0150】
耐高温性コーティングを作製するために電気めっきを用いたVRHセンサ素子の構成
VRHセンサ素子は、耐高温性コーティングを作製するために電解溶液を用いて、以下のように作製した。本センサは、触媒粉末の接着剤が高い動作温度に耐えられない場合に最も有用である。本明細書で述べるセンサは、シングルチャネルモードまたはデュアルチャネルモードのどちらかで動作可能である。シングルフィラメント、12ボルト、Sylvania#53ランプより成るVRHは、実施例1に述べるように得た。ある長さの24ゲージ銅ワイヤを陽極として用いて、コイルからの導電ワイヤを定電圧源(Cole−Palmer Instrument Co.Insteck直流電源、#PS−18300)に接地接続を通じて接続した。銅線を同様に、正の電圧接続で定電圧源に接続した。電気接続フィラメントコイルと銅線の両方を0.01%硫酸銅水溶液に接触させた。電圧源は、4秒間、回路に0.05アンペアを印加して、フィラメントに銅の層を電気めっきした。銅コーティングコイルを溶液から取り出し、水で洗浄して過剰な硫酸銅を除去し、空気乾燥した。次にコイルを3Vおよび.03アンペアの電圧源に接続することによって、15分間、温度93℃にして、その後、放冷した。本加熱ステップは、銅コーティングをセンサVRH素子上で酸化銅コーティングに変換した。
【実施例3】
【0151】
VRH参照素子の構成
VRH参照素子は以下のように作製した。シングルフィラメント、12ボルト、Sylvania#53ランプより成るVRHは、実施例1に述べるように得た。本フィラメントを次に、M Bond 600のコーティングをフィラメントに塗布し、次いでただちにコーティングM Bondフィルムを360メッシュ酸化アルミニウム(Alfa Aesar#42572)で塗布することによって不動態化した。その塗布は、実施例1で述べた触媒粉末と同じである。M Bond 600とともに塗布された酸化アルミニウム粉末を使用すると、フィラメントがより高い動作条件に耐えるのに役立つ。フィラメントコーティングが完了すると、電気リードを取付けた本参照VRHを予熱した120〜125℃のオーブンに入れ、3時間硬化させた。オーブンを切って、約30分間、室温まで平衡にした。
【実施例4】
【0152】
シングルセンサHTDを用いたセンサアセンブリの構成
図16のセンシング素子の実施形態の構成は、示差HTD測定よりもシングルHTDに適している。本実施例で述べるように、本実施形態は、同時にセンサおよび参照の両方を備えているのではなく、センサHTD素子または参照HTD素子のみを備えた変換器チューブを有する。実施例1による硬化させたセンサアセンブリは、センサ回路の両側の箇所での増幅器回路との接続のために、ランプの円筒状金属ホルダーにはんだ付けされた2本のワイヤ180を持つ。さらに、ランプの金属フィラメントホルダーは、ヒーターフィラメントのV字形ループを支持する。金属ホルダーは、ガラス変換器チューブを通じて固定するために、図16に示すようにビニルグロメット185によって包囲される。
【0153】
内径約23mmおよび長さ約75mmのガラスチューブ190(Pyrex #7740チューブ;Wale Co.、Inc.#BS−022)には、図16に示すようにランプグロメットアセンブリを安定した方法で支える、切欠き195が中に配置されている。切欠きのない別の同じガラスチューブ190をチューブ−VRHセンサの上に置いて、図16には示さないがマスキングテープ(例えば、3M general purpose Masking Tape、#2050)で所定の位置に固定する。ガラスチューブの接合点のさらなるエア漏れは、Super Glue’s Handi−Tak(#5059596)などの化合物によって防止することができる。コルク(Cole−Palmer #7754〜18)200に穴を開け、チューブ205(例えばK & S Engineering Round Brass#1148)を図16に示すように各穴に挿入して、器具全体に空気を通過させる。
【0154】
ある長さのポリ塩化ビニルチューブ(Fisher Scientific Co.#14−176〜217)210を両方の金属製ガスチューブの上に配置する。一方のチューブを真空ポンプ215(ASF Thomas、G 6/04EB# 0108000776)に接続し、もう一方のチューブを気密コンテナ220(US Plastics#65019)に接続する。サンプルコンテナ220の容量は約5ガロンまたは約19リットルである。温度計を収容するのに適した別のチューブ225を、温度計230を装着し、気密性にしたコンテナ220の壁を通じて挿入する。ポンプ215は低い流速(Cole Palmer’s mass flow detector u−32600−02によって指示されるように)を用いて作動させ、コンテナ220からのガスを図16に示すようにセンサチューブ内に、および排出された後にセンサアセンブリ175へ吸引する。検知器動作時間中の空気流は低く(約1mL/分)、動作時間は比較的短時間であり、コンテナ220からわずかなガスが除去される。通例、検知動作時間の後、温度計230とそのチューブ225との間のシールが破られて、大気圧平衡となる。
【実施例5】
【0155】
標的種を検知するためのシングルチャネルVRHセンサの低温動作
本発明のVRHセンサは、以下のプロトコルを使用して、標的種を検知するために低温範囲で動作する。本実施例は、より簡単なシングルVRHモードを使用した検知器動作を示し、ここでは標的分子のデータを収集するのに用いたのと同一の条件下で、ある温度範囲にわたって最初に空気中でデータを収集した。次に環境変動による系統誤差を実質的に補正するために、背景(基準、非反応性空気)データを標的分子データから引いた。センサの動作中に、IR検知器(Infrared Thermometer#U−39800−02、Cole−Palmer Instrument Co.)を用いてコイルの温度を測定した。
【0156】
サンプルコンテナ220に添加したサンプル液体またはガスを用いる代表的な検知試験は、以下のように実施する。液体の気化またはガスの完全混合の後に既知の分子濃度を達成するよう計算された既知量の液体またはガスサンプルを、既知の体積を持つコンテナ220に加える。液体の場合、コンテナ220を約30秒振盪し、次いで約1時間放置して液体を完全に気化させる。加熱パッドを用いて、液体の気化とサンプルガスの所望温度への調節を補助するために、コンテナをゆっくりと加熱することができる。約75〜85°Fの温度を通常使用した。
【0157】
信号調整電子機器をオンにして、ガスの温度を測定し、真空ポンプを作動させ、低ガス流(約1mL/分)を開始させた。ガス流は、Cole Palmer’s mass flow meter U−32600−02で監視した。ガス流路全体の標的分子濃度が一定にするために、検知開始の約1分間の間、ガス流を継続させた。シングルHTD動作では、基準を作成するために、標的種を含まない5ガロンコンテナによる空気サンプルに対する検知スキャンを最初に測定した。次に2回目の同じ検知スキャンを興味のある標的種を用いて調製した、5ガロンコンテナから取ったサンプルに対して行う。ある範囲のHTD温度にわたって標的分子および非反応性空気のデータを収集した後、空気のデータを標的分子のデータから引いて、所望の絶対分子データを得た。上の実験を確認のために、オフセット方式で示差測定を用いて反復した。
【実施例6】
【0158】
VRHセンサのシングルチャネル動作に関するデータ処理
データ解釈は以下の方法で、センサ温度を維持するために必要な電力を、標的分子濃度に関連付ける。電力(例えばワット)は、センサおよび参照での電圧および電流の瞬間の積である。電力は、センサにおける熱流として、例えばジュール/秒でも表現する。多様な物理および化学プロセスによってセンサにて生成または消費されるエネルギーは、温度、触媒、ガス流速度、および標的分子などの条件の所与の組合せに関する、放出または吸収される熱となっている。熱が放出または吸収される速度は、標的分子濃度に比例し、したがって電力は、分子濃度に比例する。
【0159】
標的分子と触媒コーティングセンサとの相互作用は、分子と触媒との相互作用から生じる熱交換を引き起こす。この相互作用による熱交換は、センサ温度の変化を引き起こす傾向がある。センサ器具の電子構成要素(図12および13)を使用して、センシング素子を実質的に所望の瞬間温度を維持するが、これには分子濃度に応じてある量の電力の追加(または散逸)が必要である。実質的に所望の瞬間温度を維持するために必要な電力は、図12および13の電子回路によって供給される非触媒電気「熱出力」、あるいは標的分子と触媒との間のある種の物理または化学相互作用を通じて発生する「触媒出力」のどちらかに由来する。標的分子の濃度が比較的高い場合、ほとんどまたは実質的にすべての電力は、触媒源から発生する。分子濃度が低いと、望ましい場合、温度を実質的に維持するために必要な、より高い割合の電力を、本発明の電子回路により供給する必要がある。結果として、センサ温度を維持するために必要な電力が少なくなると、所与の温度を維持するために、より大量の触媒出力が利用でき、したがって、サンプルガス中に存在する標的分子の濃度が高くなる。反対に、センサ温度を維持するために必要な電力が大きくなると、利用可能な触媒出力の量が小さくなり、サンプルガス中に存在する標的分子の濃度が低くなる。
【0160】
温度、電力、および分子濃度との間のこのような関係の結果として、電力および温度データを以下のように使用する。X軸上のセンサ電気抵抗(温度に比例)対Y軸上の電圧または電力(電気または触媒のどちらか)のプロットは、X軸に沿ったその形状、位置および大きさが、条件の所与の組合せに対して標的分子を、その濃度と同様に固有に識別するのに役立つ曲線を生じる。温度範囲は、図に与えたデータに示されている。曲線の形状および位置に影響を及ぼす条件は、これに限定されるわけではないが、使用される特定の触媒、触媒トポロジー、標的分子、センサ温度、およびその他を含む。曲線変動の大きさに影響を及ぼす条件は、これに限定されるわけではないが、標的分子の濃度、および熱飽和および存在する場合は、増幅器飽和などの信号調整条件を含む。それゆえ他の条件と同様に、異なる触媒、温度、トポロジーを使用することによって、さらに固有の識別曲線が得られる。
【実施例7】
【0161】
n−プロパノールからイソプロパノールを区別するためのVRHセンサの低温動作
実施例5および6に詳説したプロトコルを使用して、n−プロパノールからイソプロパノールを識別および区別するためにセンサ装置を使用できる。図17は、センシングVRHにコーティングされた酸化スカンジウム触媒を用いて低温方式で検知された、空気中の0.01%(体積/体積)イソプロパノールおよび0.01%(体積/体積)n−プロパノールについての、電力対温度のプロットである。サンプルガス流速は温度28℃のインレットガス温度にて、2mL/分であった。2種類のアルコールのデータを2回の個別の動作にて得た。これらのデータは、イソプロパノールおよびn−プロパノールの固有の電力対温度曲線が、明白な識別を可能にする方法を示す。
【実施例8】
【0162】
ニトロベンゼンを検知するためのVRHの低温動作
実施例5および6に詳説したプロトコルを使用して、ニトロベンゼンなどのニトロ化合物を識別および測定するためにセンサ装置を使用できる。図18は、酸化スカンジウム触媒でコーティングされたセンシングVRHを用いて低温方式で検知された、空気中の0.01%(体積/体積)ニトロベンゼンについての、電力対温度のプロットである。サンプルガス流速は温度28℃のインレットガス温度にて、2mL/分であった。これらのデータは、電力対温度曲線が所与の条件の組合せに対してニトロベンゼンを固有に識別する方法と、この曲線が同一の検知条件下でも、イソプロパノールおよびn−プロパノールなどの同様の化合物のデータからただちに区別される方法を示している。
【実施例9】
【0163】
酸化スカンジウム触媒にてエタノールを検知するためのVRHセンサの低温動作
実施例5および6に詳説したプロトコルを使用して、エタノールを識別および測定するためにセンサ装置を使用できる。図19は、酸化スカンジウム触媒でコーティングされたセンシングVRHを用いて低温方式で検知された、空気中の0.01%(体積/体積)エタノールについての、電力対温度のプロットである。サンプルガス流速は温度28℃のインレットガス温度にて、2mL/分であった。これらのデータは、電力対温度曲線が所与の条件の組合せに対してエタノールを固有に識別する方法と、この曲線が同一の検知条件下でも、イソプロパノールおよびn−プロパノールなどの同様の化合物のデータからただちに区別される方法を示している。
【実施例10】
【0164】
酸化銅触媒にてエタノールを検知するためのVRHセンサの低温動作
実施例5および6に詳説したプロトコルを使用して、エタノールを識別および測定するためにセンサ装置を使用できる。図20は、酸化銅触媒でコーティングされたセンシングVRHを用いて低温方式で検知された、空気中の0.01%(体積/体積)エタノールについての、電力対温度のプロットである。サンプルガス流速は温度28℃のインレットガス温度にて、2mL/分であった。これらのデータは、電力対温度曲線が所与の条件の組合せに対してエタノールを固有に識別する方法と、この曲線が、触媒以外は同一の検知条件下で、別の触媒と相互作用する同一の化合物のデータからただちに区別される方法を示している。この区別は、触媒を変えたときの分子−触媒相互作用に関するエネルギー特性の相違の直接的結果である。
【実施例11】
【0165】
示差測定用のセンサアセンブリの構成
示差HTD測定動作に適したセンサアセンブリは、図21に示すように変換器チューブ内にセンシングおよび参照VRH素子の両方を含むことが必要である。そのようなアセンブリは以下のように構成される。実施例4で述べられ、図16に示すランプ−グロメットアセンブリ(175、180、185)を収容するための切欠きを持つガラスチューブ190(Pyrex#7740 チューブ;Wale Co.、Inc.#BS−022)は図21に示すように、第一の切欠きと正反対のチューブ側部に位置する、第二の切欠きを備えている。一方の切欠きは実施例1で作製したセンシングVRH素子を装着し、これに対して第二の切欠きは実施例3で作製した参照VRH素子235を装着している。これらの素子は、実施例4でシングルチャネルのセンサアセンブリについて述べたのと同様の方法で固定する。
【0166】
1/16インチ銅チューブ240は、均整のとれた長方形245を貫通させ、エポキシ(Devon S210−21045)でそれに接着する。図21に示すように、長方形245の主軸をガラス流チューブの側面と平行に向け、チューブの中心線に一致させる。センサと参照VRH素子との間の放射加熱を防止するための熱シールドとして主に作用するアルミニウム箔250の薄いシートで、長方形245の両側面を覆う。アセンブリの残りの部分は、図16および実施例4と同じである。
【実施例12】
【0167】
標的種を検知するためのデュアルチャネルVRHセンサの高温動作
本発明のVRHセンサは標的種を検知するために、以下のプロトコルを用いて高温範囲で動作する。本実施例は、センシングVRH素子および参照VRH素子の両方を使用するデュアルチャネルまたは示差測定方式を用いた検知器動作を示す。サンプリング器具は、実施例5および6で述べた低温測定と同様にVRHセンサ用の同一の物理構成を使用する。触媒を用いずに作製したVRH参照素子は、VRHが空気と接触するのを防止するために不動態化する。IEEE Instrumentation & Measurement Magazine 1998、1巻(1号)、6−15頁および米国特許第5、371、469号(どちらも参照により本明細書に組み入れられている)で述べられているようにアンダーソンループ測定回路トポロジーを用い、および示差測定方式を用いて、センシングおよび参照VRH素子の両方を接続することによって、出力電圧信号は、データから一次系統誤差を除去するための、さらなるデータ処理を必要としない。
【0168】
代表的な高温測定試験は、実施例5で述べた低温試験で使用されたのと実質的に同じ方法で実施した。シングルHTD動作と示差HTD動作のどちらも、低温または高温範囲のどちらでも使用できることに注意する。本実施例において、高温−示差HTD動作は、センシングおよび参照VRH素子接続するために、アンダーソンループ増幅回路を利用した。センサの動作中、コイルの温度は、IR検知器(赤外温度計#U−39800−02、Cole−Palmer Instrument Co.)を用いて測定した。
【0169】
代表的な検知試験において、液体の気化またはガスの完全混合の後に既知の分子濃度を達成するよう計算された既知量の液体またはガスサンプルを、既知の体積を持つコンテナに加える。液体の場合、サンプルコンテナを約30秒振盪し、次いで約1時間放置して液体を完全に気化させる。加熱パッドを用いて、液体の気化とサンプルガス温度の上昇ならびに調節を補助するために、コンテナをゆっくりと加熱することが可能であり、この場合、熱平衡もこの1時間の間に同じく生じる。
【0170】
ガスの温度を測定し、真空ポンプを作動させ、低いガス流(約1mL/分)を開始させる。ガス流路全体の標的分子濃度を一定にするために、検知を開始する前にガス流を50〜60秒継続した。デュアルチャネル動作の場合、1回のスキャンのみが必要であり、基準スキャンや基準(空気のみ)スキャンデータを引くことは必要ない。
【実施例13】
【0171】
VRHセンサの示差動作のデータ処理
示差、高温動作時間中にオフセット方法を用いて記録されたパラメータは以下のとおりである。参照VRH対センサVRHでの抵抗(温度に比例する)は電気的に変化させる。X軸上の抵抗のプロットも、VRHの温度に比例する。反応時には触媒表面と標的分子との間のエネルギー伝達が起こり、VRHは発熱プロセスのために触媒加熱される。センサVRH加熱は、回路での抵抗の増大を引き起こし、これは反応による温度変化に比例し、次に消費される標的種の分子濃度に直接関連付けられる。
【0172】
抵抗に直接比例する電圧は、温度とともに上昇する;それゆえ回路から測定された電圧の大きさは、サンプルガス流中の興味のある分子の分子濃度に直接関連付けられる。抵抗対電圧(Y軸)のプロットによって、所与のガス流速度における、その濃度ともに特定の分子の決定が可能となる。ガス流は、実施例5で概説した器具を用いて監視した。最大電圧対対応触媒温度は、所与のサンプルガス流速における分子の所与の濃度に関する識別情報である。
【0173】
電圧、電流、触媒、標的分子、ガス流速度、およびその他のデータの集合は、特定の標的分子を固有に識別する。励起プロセスの有効性は、触媒ごとに異なり、したがって、所与の温度の最大電圧は、利用する特定の触媒によって変化する。したがって、別の触媒を使用すると、その別の触媒が少しでも触媒を誘起するならば、特定の分子および流速に対して、別の温度において別の電圧反応が与えられる。この選択性特性は、異なる触媒を用いて、異なる標的分子の各種の混合物を分解または分離できるという点で有用である。
【実施例14】
【0174】
酸化銅触媒にてエタノールおよびアセトンを検知するためのVRHセンサの高温動作
実施例12および13に詳説したプロトコルを使用して、エタノールおよびアセトンを識別および測定するためにセンサ装置を使用できる。図22は、実施例2のように酸化銅触媒でコーティングされたVRHを用いて高温方式で検知された、空気中の0.01%(体積/体積)エタノールおよび0.01%(体積/体積)アセトンについての、電流(mA)対電位(mV)高温示差スキャンである。サンプルガス流速は温度28℃のインレットガス温度にて、2mL/分であった。
【0175】
図22は、2つの異なる化合物の酸化に必要な異なる温度を示し、これらの2つの化合物を区別する酸化銅の反応性能力を証明している。混乱を避けるために、2つのスキャンは最大反応のみをミリボルトで示す。これらのデータは、温度対電圧曲線に比例する電流が所与の条件の組合せに対して化合物を固有に識別する方法と、化合物が異なる以外は同一の検知条件下で、異なる化合物が同一の触媒にてさえ、ただちに区別される方法を示している。この区別は、異なる化合物の分子−触媒相互作用に関するエネルギー特性の相違の直接的結果である。
【実施例15】
【0176】
センサ動作の熱力学モデル
本発明のセンサアセンブリを動作させるために使用する信号調整電子機器によって満足される必要条件をさらに十分に理解するために、電気回路例によるセンサ動作の熱力学モデルを図14および15に与える。図14は、放射シールドによって隔離されたセンシングVRHおよび参照VRHが個別の本体に存在する、センサアセンブリ熱力学の電気回路類似物を示す。図15は、触媒コーティングセンシングVRHおよび参照VRHが同じ本体に位置する、センサアセンブリの熱力学の電気回路類似物を示す。
【0177】
略語
信号調整電子機器は、以下の略語を用いた図14および15における電気構成要素の類似性によって熱力学的に理解できる、熱流および温度の監視を含むタスクを実施することが要求される。すべての計算が内部的に一致している限り、これらの量のいずれかで異なる単位を使用してもよい。
【0178】
C=熱容量、C=Q/℃
CCF=触媒表面の熱容量
G=センサHTDのゲージ率、単位標的ガス濃度あたりのTcにおける触媒エネルギー流速(ワット/(モル/リットル))。
【0179】
K=オフセット測定方法の校正係数、センサHTDと参照HTDとの間の温度差の、標的ガス濃度(モル/リットル)/℃のリットルあたりの標的ガスグラム分子量、(モル/リットル)/℃
P=電力、熱または電気エネルギー流速のどちらかによる(ジュール/秒またはワット)、P=Q/t
PC=センサHTDに印加された触媒出力(ワット)
PL=熱マージン0での標的分子濃度xで発生する触媒出力
PN=測定ノイズレベルを表す触媒出力の不確実性
PR=参照HTDに印加される非触媒熱出力、通例、電力(ワット)
PS=センサHTDに印加される非触媒熱出力、通例、電力(ワット)
ΔPS=同じサンプルガス中に配置されたセンサHTDに印加される非触媒熱出力および参照HTDに印加される非触媒熱出力の瞬間の差
Q=エネルギー、熱または電気のどちらか、ジュール
R=熱抵抗、R=℃/W
RC=HTD触媒表面からその周囲温度までの全熱抵抗
RCF=HTDの触媒表面からその表面容量までの熱伝達抵抗
RN=HTDの表面からその環境までの熱抵抗変動(ノイズ)
T=温度(℃)
ΔT=温度変化(℃)
T1=熱源の温度
T2=ヒートシンクの温度
TB=HTD本体の温度
TC=触媒熱流が観測される温度
TG=HTDからの熱伝達が対流によって起こるサンプルガスの温度
TH=HTDからの熱伝達が伝導によって起こるHTDホルダーの温度
TM=熱マージン、HTDの温度を制御するために非触媒出力を使用する場合の、最大有効AT
TR=参照熱流が観測される温度、ゼロ平衡測定のTCと実質的に等しく、オフセット測定のTCとは異なるであろう
TS=センサ熱流が観測される温度、ゼロ平衡測定のTCと実質的に等しく、オフセット測定のTCとは異なる
TW=HTDからの熱伝達が放射によって起こる壁の温度
x=モル/リットルで識別される分子の濃度
Δx=識別される分子の濃度の変化
xL=識別される分子の飽和限界濃度
ΔxL=一時的なΔxによる飽和限界濃度の変化
信号調整電子機器は、以下に述べるセンサHTDを実質的に所望の瞬間温度に維持するために必要な電力の変化から、標的分子濃度の測定値を提供する。
【0180】
触媒熱流
PCは、触媒熱流が観測される温度TCにおいて、ガスのある濃度xの存在によって、センサHTDの触媒にて発生した触媒熱流の速度を表す。所与のHTDでは、触媒の利用可能な表面積は特に、TCにて発生する触媒熱流を決定する。
【0181】
Gは、HTDのゲージ率(または感度)として定義される。Gは、ガスサンプル中の標的分子の単位濃度あたりの、センサHTDの触媒にて発生した触媒熱流で、通常、グラム分子量/リットルの濃度である。センサHTDは、かなりの大きさのGを持ち、設計により、参照HTDは本質的にゼロのGを持つであろう。
【0182】
G=PC/x
Gは、発熱性触媒活性では正の値、吸熱性触媒活性では負の値をとる。
【0183】
温度動作の範囲にわたるG対TCのプロットは、サンプルガス中の特定の標的ガスの存在および濃度を識別するのに使用することが可能なパターンである。一部の場合では、Gの最大および最小値は、所与の触媒および唯一の標的分子に固有の温度にて発生する。そのような場合、実質的に所望の瞬間温度における検知器動作は、特に標的ガスを識別するであろう。
【0184】
濃度測定
標的分子の濃度xは、センサHTDの温度を変更するために動作する触媒出力PCの存在下で、センサHTDを所望の温度TCに維持するために必要な非触媒出力の変化ΔPSを観測することによって、ゼロ平衡測定で概算される。
【0185】
x=ΔPS/G
x=PC/G
上で述べた測定は通常、「シングルエンド」測定と呼ばれ、測定結果に影響を与え、したがって悪化させる周囲条件の変動を避けるために注意を払う必要がある。結果として、センサHTDに印加される非触媒熱出力と、参照HTDに印加される非触媒熱出力との間の瞬間が観測される場合、以下のように周囲条件の変動による不確かさは通例、「示差」測定を用いることにより低減される。
【0186】
ΔPS=PS−PR
x=(PS−PR)/G
標的分子の濃度xは、センサHTDの温度を変化させるために動作するPSによりセンサHTDで発生する温度の変化ΔTを観測することによって、シングルエンドオフセット測定で概算される。校正係数Kは、センサHTDの温度変化をサンプルガス中の標的分子の濃度の変化に関連付ける。
【0187】
x=KΔT
標的分子の濃度xは、センサHTD温度を変化させるために動作するPSによるセンサHTDと、xの変動により温度を変化させない参照HTDとの間に発生する温度差ΔTを観測することによって、示差オフセット測定で概算される。
【0188】
ΔT=(TS−TR)
Kの大きさは、特定の検知器ならびに測定方法および非触媒エネルギー制御方法に固有の校正によって決定される。
【0189】
代表的なオフセット測定手法は、センサVRHを所望の温度TCに維持するための閉ループ制御下の励起レベルによって、アンダーソンループ測定回路トポロジーを用いて動作するセンサVRHおよび参照VRHを実装する。アンダーソンループ測定回路トポロジーは、参照によりその全体が本明細書に組み入れられている米国特許第5、371、469号に、およびIEEE Instrumentation & Measurement Magazine 1998、1巻(1号)、6−15頁に述べられている。
【0190】
熱マージン
熱マージンTMは、触媒熱流が観測される温度と、HTDから熱が流れる周囲温度との差として定義される。それはHTDへの非触媒エネルギー入力を低下させることによって得られる最大温度変化であり、以下で述べるように熱飽和の可能性を評価する重要な因子である。
【0191】
TM=TC−TA
TMの大きさを増大させる傾向のある触媒反応の観測は、HTDの温度をTCに維持するために必要な非触媒熱エネルギーを低下させる傾向がある。
【0192】
電力散逸は通例、非触媒熱エネルギーをHTDに供給するための手段である場合に、非触媒熱エネルギーを供給するために使用する。電気抵抗のみが電流の流れによる電力を散逸できるため、制御を実施するために負の電力散逸(その加熱よりも冷却)が必要となる場合には、VRHは所望の温度をTCに維持できなくなる。
【0193】
TMは、追加の非触媒エネルギー流がゼロ平衡測定でのTMの大きさを低下させる傾向のある特定の試験温度条件TCでの、使用可能な最大ΔTを表す。HTDの温度を制御するために非触媒出力を使用する場合、非触媒冷却が必要となるために、TMはHTDの温度を制御できない危険性を識別する。
【0194】
熱抵抗
熱抵抗Rは、温度T1の熱源と温度T2のヒートシンクの間の温度差と、この温度差から生じる1秒あたりの熱流(熱出力)との比である。
【0195】
R=(T1−T2)/P
HTDの触媒表面からHTDが動作している環境までの全有効熱抵抗は、RCである。それは、伝導、対流および放射のあらゆる手段を含む、利用可能なすべての手段による熱伝達を含む。RCは、VRH温度、例えばTC、周囲温度、例えばTG、および非触媒出力、PCの定常状態条件の間の測定から概算できる。RCは、各種の熱抵抗構成要素を概算した後に、熱力学モデルからただちに計算できる。
【0196】
各種の内部熱抵抗および容量は、各種の過渡温度条件中の測定から概算される。温度の指数関数的な上昇および降下の時間定数を用いて、HTD熱力学をモデル化するパラメータを識別することができる。この目的には、標準パラメータ概算ソフトウェアも利用できる。
【0197】
熱マージンによる最大濃度測定
定常状態動作(一定温度)では、ゼロ平衡測定方法を用いて観測できる標的分子の最大濃度は、熱マージン(TM)、HTDの触媒表面からその周囲温度までの全熱抵抗(RC)、ゲージ率(G)、および標的分子濃度(x)およびその他を含む、複数の因子によって制限される。
【0198】
TM=PC/RC
として、PC=GXで置換し、x=xLと設定すると、熱飽和を生じる標的分子濃度は、
TM=GxL/RC
である。xLについて解くと、
xL=(TMRC)/G
である。
【0199】
上の式は、特定のセンサHTDによって観測できる、ガスサンプル中の標的分子の最大濃度を計算する。実際には、安全性因子を用いて、標的分子の濃度で予測されるレベルおよび変化の不確かさを処理し標的ガス以外による分子濃度が多少の触媒熱流を生じる可能性も処理する。
【0200】
熱容量
熱エネルギーは、温度変化ΔTがHTDで生じたときの、HTDのすべての部分の熱容量Cに保存される。
【0201】
C=Q/ΔT
熱抵抗および熱容量は、分散(物質の表面積または体積中で均一に存在する)パラメータであるが、集中(表面積または体積全体のセグメントの単要素表現)パラメータを用いて、HTDの有用な熱力学モデルを構成することができる。図14に示すように触媒および参照VRHを別個の本体に備えた、および続く図15に示すように同一本体に備えたセンサの熱モデルは、簡単な集中パラメータモデルである。
【0202】
RとCの積は時間tの単位を持ち、熱入力の段階的変化の後に、定常状態温度分布の63%に達するために必要な時間を表す(時間定数の代表的な定義)。Cは、定常状態計算(一定温度)では無視され、動的計算(可変温度)では含まれる。
【0203】
過渡条件
標的ガス濃度xの突然の(t<<RC)変化の場合、より低い熱抵抗および容量が優勢となるため、定常状態濃度よりも低い濃度で過渡熱飽和に達する。本明細書で示す熱力学モデルおよび図14および15において、触媒表面膜の熱抵抗RCFおよび容量CCFが優勢となる。いわゆる「表面膜」領域は、迅速な過渡挙動を予測するためにモデル化される、触媒自体の外部表面と触媒下のわずかな深さより成るHTDの領域をモデル化する。標的ガス濃度の突然の上昇は、HTDの大部分が加熱し始める前に、HTDの表面膜温度の温度を上昇させるであろう。濃度のほぼ瞬間的な変化では、膜温度(表面からのわずかな深さにおける)は、本質的に以前のTCにおいては一瞬維持されるが、熱飽和を生じる濃度xLは、ΔxLだけ低下する。
【0204】
ΔxL=(TMRCF)/G
RCFは、RCよりも低くなる。xLの初期値がゼロ濃度である場合、過渡熱飽和を実現するのに必要なΔxLは、定常状態熱飽和のxLよりも著しく小さくなる。
【0205】
信号対ノイズ比
正常なシステム動作条件下で観測されるPCに多少の変動がある。HTDの環境での変動は、PC測定でのこのような変動を生み、それにより測定の不確かさを引き起こす。このような変動は主に、HTDとサンプルがストの間の熱対流に変動を生じる、HTD付近のサンプルガス流における変動および乱流によるものと考えられる。このような変動は、測定におけるノイズの原因である有効な熱抵抗変化を表すRNによって表現することができる。この類似構成要素は図に含まれていない。
【0206】
xLのランダム変動によって生じる不確かさは通例、サンプルガス流における乱流によるRのランダム変動よりはるかに小さいため、RNによるノイズ解析は、出力のランダム変動に対する好ましいモデル化手法である。RNは、システムのノイズフロアと、それによるサンプルガス濃度測定全体の精度を優勢的に確立する。
【0207】
我々は信号対ノイズ比SNRを、熱マージン内の利用可能な最大信号PLの、測定信号ノイズフロアPNに対する比として、以下のように定義する。
【0208】
SNR=PL/PN=(GxL/RC)/(GxL/RN)
SNR=RN/RC
サンプルガス流の変動と乱流を減少させることによって、測定ノイズフロアを低下させて信号対ノイズ性能を改良することができる。これは、測定間隔中にサンプルガスポンプを瞬間的に遮断するだけで実施できる。このことは、サンプルガスポンプが測定間隔中に遮断されている間に、サンプルガス濃度が触媒作用によって最小限の影響を受けるときはいつでも、実際的なノイズ削減方法である。
【0209】
本明細書で触れたすべての刊行物または特許は、その全体が参照により本明細書に組み入れられている。上の実施例は本発明の単なる例であり、添付請求項の範囲を制限するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0210】
【図1】どちらも電気リードを取り付けて示し、どちらも低温度塊サブストレートの片側に固定化した、本発明の触媒コーティングセンシングHTD(図1A)および非コーティング参照HTD(図1B)の1つの実施形態を示す。
【図2】コーティングセンシングHTDの2つの異なる実施形態の断面図を示す。図2Aは、高温接着剤を使用しない、電気抵抗材料の表面に直接配置された触媒層を備えたセンシングHTDを示す。図2Bは、HTDと熱接触する触媒を配置するために、触媒層に結合される耐高温性接着剤のコーティングを備えたセンシングHTDを示す。
【図3】熱障壁からある距離に各素子を維持する隔設手段によって分離されたセンシングHTD素子、参照HTD素子、および熱障壁の相対的方向を示す、本発明のセンサアセンブリの1つの実施形態を示す。
【図4】触媒コーティングセンシングHTDおよび非コーティング参照HTDが同じ低温度塊支持サブストレートの反対側に位置する、本発明のセンサアセンブリの1つの実施形態の断面図を示す。
【図5】完全なHTDセンサアセンブリを耐高温性変換器チューブの内部に配置することによって空気流を監視および制御すること可能であり、それを通じてガス流が真空ポンプによって生成され、チューブの反対端が興味のある分子を含むガスのサンプルを収集するために使用される可撓性ホースに接続される、本発明の完全なセンサの1つの実施形態を示す。
【図6】複数のHTDセンサアセンブリが単一の耐温度性変換器チューブ内に直列に位置し、それによって複数の興味のある気相分子の同時検知および測定が可能となる、本発明のセンサの1つの実施形態を示す。
【図7】複数のHTDセンサアセンブリが単一の耐温度性変換器チューブ内に並列に位置し、それによって複数の興味のある気相分子の同時検知および測定が可能となる、本発明のセンサの1つの実施形態を示す。並列の複数の検知器の本実施形態は、7個のセンサ素子および1個の参照素子の放射状配置を構成する。
【図8】HTDセンサアセンブリの一部および変換器チューブが表示され、蒸発可能な液体と使用するのに適している、本発明の実施形態を示す。
【図9】センシング素子が、触媒コーティングをサブストレートに接着させる高温接着剤によってコーティングされた耐温度性検知器(RTD)の長方形固体を構成する、HTDセンシング素子(図9A)の別の実施形態の一部切欠き図を示す。高温接着剤または結合剤が層を保護するよう作用するHTD参照素子(図9B)は、触媒層なしで同様に構成される。他の実施形態は、熱伝導体として作用するセラミックサブストレート上にRTD材料を支持することを含んでいるが、図9Aおよび9Bにおいて、RTD材料は支持なしで示している。
【図10】ポリイミド包囲センシング素子が、巻かれて高度表面範囲センシング装置となり、触媒コーティングをサブストレートに接着させる高温接着剤によってコーティングされた箔型、正の耐温度性RTDセンシング素子を構成する、HTDセンシング素子(図10A)の別の実施形態の一部切欠き図を示す。高温接着剤または結合剤が層を保護するよう作用するHTD参照素子(図10B)は、触媒層なしで同様に構成される。他の実施形態は、熱伝導体として作用するセラミックサブストレート上にRTD材料を支持することを含んでいるが、図10Aおよび10Bにおいて、RTD材料は支持なしで示している。
【図11】金属箔がセンシング素子VRHに結合され、次に参加された金属酸化物触媒表面を与える、本発明の触媒コーティングセンシングHTD(図11A)および触媒コーティングのない参照HTD(図11B)の1つの実施形態の断面図を示す。
【図12】特にゼロ平衡測定方法のための、本発明の調整電子機器の1つの実施形態の概略図を示す。
【図13】特にオフセット測定方法のための、本発明の調整電子機器の1つの実施形態の概略図を示す。
【図14】触媒コーティングセンシングVRHおよび参照VRHが別個の本体に位置する、電子的枠組みでのセンサアセンブリおよび動作の1つの熱力学モデルを示す。
【図15】触媒コーティングセンシングVRHおよび参照VRHが同じセラミック体に位置する、電子的枠組みでのセンサアセンブリおよび動作の1つの熱力学モデルを示す。
【図16】シングルエンド測定(参照HTDを連続使用せず)に適した、本発明のセンシング素子の1つの実施形態を示す。本実施形態において、変換器チューブは、HTDセンシング素子またはHTD参照素子のどちらかを、両方同時ではなく含む。
【図17】サンプルガス速度2mL/分およびインレットガス温度28℃における、酸化スカンジウム触媒の存在下での空気中の0.01%(体積/体積)イソプロパノールおよび0.01%(体積/体積)n−プロパノールを検知するための、温度(抵抗)対電力の低温検知プロットである。
【図18】サンプルガス速度2mL/分およびインレットガス温度28℃における、酸化スカンジウム触媒の存在下での空気中の0.01%(体積/体積)ニトロベンゼンを検知するための、温度(抵抗)対電力の低温検知プロットである。
【図19】サンプルガス速度2mL/分およびインレットガス温度28℃における、酸化スカンジウム触媒の存在下での空気中の0.01%(体積/体積)エタノールを検知するための、温度(抵抗)対電力の低温検知プロットである。
【図20】サンプルガス速度2mL/分およびインレットガス温度28℃における、酸化銅触媒の存在下での空気中の0.01%(体積/体積)エタノールを検知するための、温度(抵抗)対電力の低温検知プロットである。
【図21】示差測定に適した、本発明HTDセンサアセンブリの1つの実施形態を示す。本実施形態において、変換器チューブは、熱シールドによって隔離された、ガス流に同時接触させるためのHTDセンシング素子およびHTD参照素子の両方を含む。
【図22】サンプルガス速度2mL/分およびインレットガス温度28℃における、酸化銅触媒の存在下での空気中の0.01%(体積/体積)エタノールおよび0.01%(体積/体積)アセトンの電流(mA)対(電位)(mV)の高温示差走査である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のガス状物質を同時かつ選択的に検知、識別および定量するための新規センサおよび方法を提供する。本発明は、物質が周囲条件下の気体でも、蒸発可能な液体でも、または昇華可能な固体であろうとも、気相分子または物質の形成を誘発させることが可能な任意の物質に適用できる。さらに本装置は、単一分子種の識別を提供しながら他の分子種を無視し、感度と選択性の両方が必要とされる多数の分析、医療、環境、安全およびセキュリティ用途において特に有用となっている。
【背景技術】
【0002】
最近の進歩にもかかわらず、気相分子および物質を測定するためのよりよい検知方法に対して多大な要求がなお存在する。費用効率的なセンサを用いて達成可能な場合には特に、より高い信頼性、再現性および感度を示す測定技法が望ましい。例えばある分析状況は、毒性、爆発性、腐食性、燃焼性、または他の危険な物質の存在を示す、低濃度の揮発性物質を監視する高感度装置を必要とする。他の状況は、他の分子からの干渉なしで、医療、環境、工学用途において単一分子種の存在を判定するための、高い選択性の方法を要求する。最も有用かつ適時の分析情報を供給するには、たいてい高度な感度および選択性の両方が好ましい。
【0003】
微量有機および無機気体の標準分析方法を現在使用している多数の技術用途は、高度な検知手段から著しく恩恵を得るであろう。例えば排気ガス放出試験、EPA準拠試験、または放流河川の化学分析などの環境保護用途は、さらに選択性かつ高感度の測定技法を必要とする。向上した感度を供給し、通常使用のためになお十分に安価かつ携帯可能である、さらに耐久性および信頼性の高いフィールドセンサが特に有用である。
【0004】
診断医療用途も、特定の病状を示すある揮発性化合物を測定する必要のある、よりよい検知方法を必要とする。例えば、病状を示す化合物または他の副生成物を皮膚を通して、創傷から、発汗中に低濃度で滲出するか、呼気中に発生することが可能であり、したがってそれらの測定には信頼性かつ高感度の分析技法を必要とする。改良センサは、麻酔剤、または麻酔下にある患者の皮膚から発散されたその代謝分解生成物の濃度を監視するためにも必要である。
【0005】
運転者または陸上競技者の呼気中のアルコール、薬剤または薬剤副生成物の存在を検査するために、さらに好都合で、迅速かつ正確な検知方法も必要である。そのような方法は、責任問題が発生する場合、トラック運転手、バス運転手、列車技師、大型船ならびに荷船船長、および重機オペレータにとって有用である。
【0006】
爆発性物質が診断用揮発性化合物の存在により検知する可能な、空港検査および政府建築物の防護などのセキュリティ用途において、改善された分析技法が至急必要とされている。これらの用途は、分子検知のための、再現性があり、高感度であり、費用効率的である方法を早急に必要としている。ガス検知が快適性と安全性の両方に関係する、家庭および職場のセキュリティ用途では、同様の要件を有する。同様に、診断用揮発性化合物を検知することによって、地雷が現れるかもしれない疑わしい地域を識別したり、地雷を探し当てることができる。
【0007】
迅速かつ信頼性の高いセキュリティ方法は、輸入港にてこれらの港に入る、またはトラックで国境を越える大量のコンテナ輸送を監視するために、早急に必要とされている。入国する各コンテナを、爆発物、危険物質、または有害物質の前駆体を検出できる分析試験にかけることが非常に望ましい。したがって必要なのは、1つ1つのコンテナを検査するのに必要な高いスループットを与えるのに十分迅速な、これらの物質を示す診断用揮発性化合物の存在の試験である。
【0008】
電子機器製造および保管施設での連続周囲空気監視も、高度な分析方法を必要とし、空気の完全性の維持には、空気中の汚染物質を検知する迅速かつ選択的手段を必要とする。空気の品質管理は、製造施設の範囲内に保管された高感度の電子構成要素に対する損傷を防止するために、周囲空気がその施設で生成または使用された有害レベルの蒸気を含みうる場合には、電子機器業界では特に重要である。腐食監視が重要である電子機器業界の1つの側面は、ディスクドライブなどの磁気記録データストレージシステムの製造である。
【0009】
公文書収納庫における空気品質監視も、改良検知方法および装置を必要とする。正確な空気品質測定は、記録文書、フィルム、写真、リトグラフ、歴史的書物および原稿、地図などの高感度資料の適正な貯蔵条件を保証するために、厳密な空気浄化とともに実施する必要がある。
【0010】
さらに、特に戦争またはテロリスト攻撃の間、政府建築物、大使館、防衛指揮および管理地区、一時的な現地作戦においてさえ、化学および生物兵器から人員を防護する多大な必要性がある。化学または生物剤のどちらかの存在、または同時に両方の存在を判定するために利用可能な技法が特に有用となる。
【0011】
現在、揮発性物質の検知および測定は、多数の方法で実施され、そのすべてが感度、選択性、操作の容易性、または費用効率における多様な制限で苦慮している。例えば、現在使用されている燃焼型分子検知器は、数百℃まで加熱される、抵抗ワイヤに直接結合した触媒コーティング、例えばプラチナワイヤ上のPt、PdまたはRhなどのアルミナ支持プラチナ金属を利用する。加熱触媒が標的ガスに接触すると、燃焼熱がプラチナワイヤの温度を上昇させ、これが温度上昇に反応したワイヤの電気抵抗の変化から生じる電圧変化として検知される。しかし正確な測定は、一部は、高温(T)において比較的小さい温度上昇(△T)を正確に定量することが困難であることによって難しい。さらに抵抗ワイヤは電磁干渉を受けやすく、気流内で物理的運動や乱流を受けて、信号ノイズを生じる。支持金属の化学汚染も信頼できない結果を生じうる。
【0012】
一般に使用される気相分子用センサの関連タイプは、特にSnO2などのn型半導体酸化物を利用し、セラミックビーズ上で支持される金属酸化物を利用する抵抗型センサである。これらの検知器は、標的分子の吸収酸素による触媒酸化と、半導体酸化物の付随的還元に基づいて動作し、自動車排気中の可燃性炭化水素またはCOの測定に使用されることが多い。可燃性ガスの酸化時の酸素脱離から生じるセンシング素子の抵抗の変化は、ガス濃度の代用として使用される。しかし現在利用可能なセンサは、アルコール、水分、Si含有化合物、他の揮発性有機化合物などの多くの妨害化合物に、および変化する酸素レベルにすら感受性であり、不正確かつ再現性のない結果を生じる。SnO2の化学汚染も問題をはらんでいる。さらに半導体自体の抵抗は、高温で変化するために、結果の信頼性をさらに低くする。
【0013】
一部のガスセンサは、特定の種類のガス状分子のみを検知するよう設計されているため、一般には適用できない。例えばある種類の検知器は、陽子伝導層に依存し、水素または他の陽子放出分子を解離し、それゆえ水素を検知するよう機能する。しかしそのような検知器は、陽子放出分子の測定のみに適している。同様に、O2を検知する一部の空気燃焼比センサは、酸素イオン伝導性固体電解質検知器を使用する。本装置は、電解質と接触したときに酸素を形成する分子の測定のみに適している。さらにそのような検知器は通例、非常に高い動作温度を必要とする(約700℃まで)。
【0014】
一部のガス検知器は、一部の従来型NOX分析器の場合のように、非常に明確な化学反応または標的分子の特定の分光特性に基づいている。例えば検知は、化学発光によって、または標的分子の各種の振動発色団の気相赤外またはラマンスペクトル分析によって実施できる。そのような方法は通例、流体流中にセンシング素子を直接配置するのにはたやすく適応されないため、一時的なガス濃度の分析には適切ではなく、フィードバック制御下の自動車排気システムなどの、検知を電子制御と組み合わせた場合に必要な性能である。これらのシステムは、光学構成要素の保守が頻繁に必要なため、さらにその有用性が低下する。
【0015】
分子汚染物質の識別に使用される他の装置は、検査するガスの熱伝達度の単純な変化に依存している。しかし熱伝達度は、検知器によって示されるガスの任意の混合物を評価する大規模測定である。そのような装置は、別個の分子を識別することはできず、むしろ定量測定ではなく定性測定を行う。結果としてその有用性は大きく制限され、例えば煙草の煙中の単一の代謝ガスまたは単一の成分などの、単一ガスの熱伝達度成分を区別することができない。
【0016】
燃料電池技術も、標的が特に低濃度で出現する場合に、特定分子の検知に利用されてきた。しかし燃料電池反応を引き起こす化学反応が無差別的であり、本方法が複数の分子種を識別する能力を損なうため、本技法は無効であることが多い。
【0017】
したがって、ガス状物質を検知、識別および定量するための新しい装置および新しい方法を提供することによって、気相分子検知に関する現在の制限に対処することは必須となっている。新規システムは好ましくは、向上した選択性を与えながら、必要な感度を維持する根本的に新しい検知方法を使用する。本発明は、ガス状物質を選択的に識別および測定するための新規センサおよび方法を供給することによってこれらの問題に対処する。新しいセンサは、高い感度を実現し、気相種の非常に低濃度での検知を可能にし、その応用範囲を大きく広げている。新しいセンサは、高い選択性でもあり、他のすべてを無視しながら、単一の分子種を区別することができる。この性能は本発明を、セキュリティおよび医療用途などの重要な分析分野で特に有用とする。この向上した選択性は、高い信頼性の測定をもたらし、干渉種からの交差感度を著しく低下させる。本発明は、複数の標的物質を同時かつ高い再現性で検出および測定するための新しい分析例も提供する。さらに本発明のセンサおよび方法は、現在の技術の多くと比べて比較的単純であり、それにより代わりに、エラーのない動作と著しく高い費用効率がもたらされる。
【0018】
本発明は、高い感度、選択性、信頼性および費用効率を達成する新しいセンサおよび方法を提供することによって、微量有機および無機種の気相分子検知における現在の制限の多くに対処する。新しいセンサは、ある種の結合エネルギー、吸着/脱離エネルギー、または反応エネルギーのいずれかの、特定の分子に関連する特性エネルギーに依存するため、センサは、多数の分子を定性的に識別することができる。
【0019】
通例、本発明のセンサは、熱伝達装置HTDの外部表面と熱接触する薄い触媒コーティングを含む。HTDは熱を受け入れ、温度変化として、または熱出力の流れとして観測および測定できるような方法で熱をその環境に送達する。通例、HTDは、抵抗温度検知装置にて発生する電気自己加熱によって運転温度まで上昇する。それゆえ抵抗温度検知器(RTD)は、非触媒加熱手段と温度検知手段の2つの目的を果たす。通例、触媒コーティングされた加熱HTDは、検知器上の汚染ガス流の流速を制御および測定する、チューブなどの通路内部に位置する。代表的な実施形態において、触媒コーティングなしの加熱HTDより成る参照検知器を、センサと参照検知器が同じガス流に接触するように、加熱した触媒コーティングHTDセンサ付近に配置する。
【0020】
本センサの運転概念を以下にまとめる。サンプルガスを触媒コーティングされたセンシングHTD素子に適正な温度で接触させると、ある種の化学または物理相互作用が発生することが可能である。(非触媒)熱源は、触媒表面を、通常は周囲温度より高い適切な反応温度まで加熱するのに用いられ、したがってHTDは、非触媒加熱機能および熱センシング手段の両方として作用する可変抵抗ヒータ(VRH)を含む。分子−触媒相互作用の種類とは無関係に、本相互作用と関連する、あるエンタルピー変化があり、したがってすべての反応性および吸着プロセスは、触媒表面とセンシングHTDとの本体との間に追加の「触媒」熱を誘起させる。本活動は、プロセスが発熱性である場合にはセンシングHTDの温度を上昇させ、プロセスが吸熱性である場合にはセンシングHTDの温度を低下させる。実質的に同じ環境にある参照HTDは、触媒表面を持っていないため、非触媒熱エネルギー伝達のみに反応する。参照およびセンサHTD素子での熱伝達の相違を電子的に比較することにより、サンプルが検知および定量化できる。
【0021】
一般論として、触媒表面における物理的および化学的反応性が検出および測定される(オフセットおよびゼロ平衡)2つの主要な測定方法、非触媒熱インプットレベルを確立するための各種のフィードバック制御手法、および2つの測定手法(シングルエンド、時には「シングル」および示差の、と呼ばれる)があり、測定パラメータは、直接観測値であるか、2またはそれ以上の別個の測定パラメータに由来する。好ましい測定方法、非触媒熱の制御手法、測定手法および測定されたパラメータは、特定の用途に固有の要求事項によって変化するであろう。
【0022】
オフセット(温度変化)またはゼロ平衡(実質的に望ましい瞬間温度を維持するための電力変化)測定方法のどちらかが、HTDをその運転温度に上昇させるのに用いた非触媒熱エネルギー流に加わる、またはそれから引かれる触媒熱エネルギー流によって発生する、センサHTDの総熱エネルギー流(電力)の変化を概算するために利用できる。ゼロ平衡測定方法は、HTDを所望の温度に維持するために必要な熱エネルギー伝達が熱力学活性の指標として観測される場合に利用される。したがってゼロ平衡は、センシングHTDを、反応開始前のその初期温度に維持するために必要な電力を測定する。オフセット測定方法は通例、2(またはそれ以上)のHTDの間の温度差が熱力学活性の指標として観測される場合に利用される。したがって、オフセット測定は、センシングHTDの、反応開始前のその初期温度からの温度変化より熱伝達を決定する。オフセット測定を実現するのに必要な器具は簡略化される傾向であるが、反応性または触媒活性から発生する熱力学をより完全に識別するためには、ゼロ平衡方法を利用するほうがより典型的である。
【0023】
本発明を用いた分子検知は、センサの触媒表面と分子との発熱性または吸熱性化学または物理反応のどちらかを、すなわちセンサにおける熱交換を誘起する反応を観測することにより実施できる。固有の分子−触媒相互作用による吸熱性または発熱性熱伝達の大きさおよび速度は、分子濃度に関係する。定性および定量的方法でその反応の熱を容易に観測するために、結果として起こるその正確な反応、または独自の温度/分子/触媒の組合せに関与する特定の化学量論を識別する必要はない。
【0024】
一般に、本発明の検知器が駆動可能な3つの運転方式、等温(一定温度)方式、熱量分光(可変温度)方式、および混合方式(可変参照温度を用いた一定センサHTD温度)がある。分子検知は、規定温度にて特定の触媒に接触した興味のある分子、すなわち独自の温度/分子/触媒の組合せに関連する、別個の特徴的な反応エネルギーに基づいている。
【0025】
等温方式において、検知される個々の標的種について、およびその標的種の反応を誘起する特定の触媒について、特定の運転温度が実験的に決定される。検知器は、参照およびセンサVRH素子に電流を通過させることにより作動する。センサにて反応が発生せず、参照およびセンサが同じ温度である場合、実質的に同一である参照およびセンサVRH素子との間の電圧落下には本質的に相違はない。
【0026】
監視信号は、電圧または電力などの都合のよい単位で表現できる。センサで微小な温度変化が生じた場合でも、その電気抵抗が変化し、センサと参照との間に生じた電圧差がただちに検知される。通例、センサVRHを通じた電流は次に、実質的に所望の瞬間温度、分子濃度に関連するプロセスの規模を維持するために、発熱性または吸熱性に応じて、上昇または低下する。それゆえ電流は、吸熱性プロセスでは上昇し、発熱性プロセスでは低下するため、センサHTDへの総(触媒と非触媒)熱インプット定数は維持される。異なる分子間の選択性は、興味のある分子の特定の反応を引き起こす、触媒特性と温度(印加電流により実質的に所望の瞬間温度に維持される)との独自の組合せがあるために可能である。
【0027】
オフセット測定方法を利用する場合、ここでセンサHTDと参照HTDとの温度差は変化することが可能であり、本温度差の方向および規模の両方は、触媒活性の測定値として観測される。センサHTDの非触媒熱源、VRHへの電力インプットを調節するために、複数の選択肢が利用できる。これらの選択肢は、これに限定されるわけではないが、VRHの電圧制御、VRHの電流制御およびVRHの抵抗制御を含む。これらの選択肢のうち、VRHの抵抗の制御は、結果として、HTDの温度を好ましいレベルに維持する。
【0028】
ゼロ平衡測定方法を利用する場合、ここでセンサおよび参照HTDの温度は、その個別の閉ループ手段によって実質的に同じ温度に維持される。本方法において、VRH素子に供給される電力(非触媒出力)の相違は、触媒活性の測定値として観測される。
【0029】
触媒表面と気相分子との間で発生する反応は、結合生成および結合切断プロセスを引き起こす、検知される分子の酸化であることが多い。しかし原則として、より低温での吸着および/または脱離などの、任意の種類の化学または物理反応を使用して、特定の分子の存在を検知することができる。新しいセンサは、気相分子の定性および定量測定の両方を供給することができる。熱流および生じた電気反応は濃度に正比例し、したがって濃度基準を使用することによって、どの特定のガスの定量測定もただちに実施できる。
【0030】
HTDセンサアセンブリは通例、ガス流下流の小型真空ポンプにより生成されたガス流によって、分子をHTDアセンブリに接触させるようにする、耐高温性変換器チューブ内部に配置される。本実施形態により、ガスサンプルは検知器アセンブリから近く、電子機器から遠くで収集することが可能となり、ガス流の連続監視がただちに可能となる。さらにセンサが測定中に移動する流体流に接触した場合、センサは標的分子の比較的一定の濃度にその流速で遭遇するため、信号の規模および温度は所与の流速にとって特有である。本機構は典型的であるが、センサは、分子検知が拡散制御されていると推定される静止空気条件下でも作動できる。本検知器は、気相に入れることが可能な物質、すなわち気化可能な液体または昇華可能な固体を検知するのにも適している。さらに本検知器は触媒と相互作用する特異性表面素子による空中浮遊病原体の検知と同様に、液中、とくに水中汚染物質を検知するために液体流内に配置することも考えられる。各種コーティングを用いたHTDセンサを、サンプルガス流に直列にまたは並列に配置して、異なる種類およびクラスの官能基および/または各種の反応温度を持つ追加分子を検出することができる。多種多様なコーティングは、HTD上の触媒として使用できるが、通例コーティングは金属酸化物を含む。たいていの場合、代表的な触媒コーティングは、第一列の遷移金属酸化物である。
【0031】
本発明の検知器を操作する熱量分光、または可変温度方式は、通常はプログラム温度と時間特性を連続して循環させることによる、規定の方法での検知器温度の変化を含む。複数の標的分子の定性および定量測定は、本熱量分光方式において検知器を操作することによって、すなわち温度変化範囲にわたる各温度に関連する熱量反応を連続的に監視することによって実施される。本方法は、特定の分子が熱量反応対温度の特異的パターンによって特徴付けられる、一連の温度/分子/触媒の独自の組合せデータ点を提供する。意義深いことに、本動的温度方式は、それぞれ異なる触媒コーティングを施されて実質的に同じ瞬間温度で作動する、または異なる触媒表面トポロジーを使用する同じコーティングが施された、検知器具内の複数のセンサを用いて操作される。独立した、実質的に同一の温度制御・監視電子機器は、各センサを操作し、温度が循環的かつ同期的に変化するときに、その熱量反応を観測する。本熱量分光方法を使用して、温度循環プログラムによって多次元データセットを収集することにより、複数の標的分子を定性的および定量的に同時に分析できる。本方法はそれによって、複数の標的分子の存在および濃度をほぼリアルタイムで同時に決定することができる。通常パターン認識および画像処理に使用される標準多次元相関技法は、特定の分子に対する各種触媒の熱量反応に特有の、データ内のパターンを比較および識別するために使用される、予備格納パターンを参照するのに適している。
【0032】
重要なことに本発明のセンサは、代表的な化学反応に必要な温度よりも実質的に低い温度において特異的な定性的および定量的な分子検知を供給する能力を持つ。したがって、共有結合破壊および結合生成が後に続くのに十分高い温度において、本センサを操作する必要はない。本センサは、特定の温度において、標的分子と触媒コーティングHTD表面との間の、独自の低エネルギー吸着または脱離反応を探ることができる。例えば特定の温度において所与の表面から所与の分子を脱離するのに必要なエネルギーは独自であり、温度対エネルギー特性は、他の分子種の排除に対する、分子およびその濃度を示すことができる。単純吸着および脱離に加えて、他の低温度現象を水素結合生成および解離などの特定の定性的および定量的分子検知情報、および触媒伝導帯の試験に使用できる。それゆえ温度対熱流特性の独自性が、標的分子と特異性表面との実質的にあらゆる化学または物理相互作用に利用できる。
【0033】
それゆえ本発明は、低濃度の分子および物質の高度に選択的な検知に関する新規方法および装置を提供する。
【0034】
本発明は、センサと分子との発熱性または吸熱性化学または物理相互作用のどちらかを測定することにより気相汚染物質を検知および定量するための根本的に新たな方法も含む。これらの相互作用は、センサにおける熱伝達を誘起し、この熱伝達は、非反応性参照に対して、センサを実質的に所望の瞬間温度に維持するために必要な電力の増加または減少を測定することにより観測される。
【0035】
さらに本発明は、異なるコーティング範囲を備えたHTDセンサを供給し、トポロジーを直列または並列構成に配置して、官能基の異なる種類およびクラス、異なる反応温度、および/または触媒コーティングHTDとの相互作用に関連した異なるエネルギー特性を持つ、追加の分子を検知することができる。
【0036】
本発明のセンサは、所与の温度における標的分子と触媒コーティングHTD表面との間の、独自の低エネルギー吸着または脱離反応エネルギーを探測することもでき、これによって、検知される分子の新たな範囲およびセンサの新たな用途が広がる。
【0037】
さらに本発明は、現在入手可能なセンサよりも感度、再現性、および費用効率を著しく向上させることが可能であり、なお十分安価で、通常使用のために携帯可能である、堅牢かつ信頼性のある分子検知センサを提供する。
【0038】
したがって本発明の1つの利点は、環境からの連続サンプリングによって監視できる、気相中の非常に低濃度の1またはそれ以上の特定の標的分子の測定である。
【0039】
本発明の別の利点は、現在利用可能な測定手法を用いて偽似信号を提供するサンプルから非標的分子を分離する必要のない、標的分子の検知および定量する方法を提供することである。
【0040】
本発明のさらなる利点は、特定の標的分子の存在を検知および測定することが可能であり、それによって分析測定の費用を低下させ、測定が得るための容易性を向上させる、簡単で、比較的低コストのセンシングおよび電子装置を供給することである。
【0041】
本発明の装置および方法のなお別の利点は、興味のある特定の標的分子の濃度および濃度変化速度の両方を表す、連続周囲空気監視から得られるデータを含む、連続電子データを得ることである。
【0042】
本発明の別の利点は、可変温度、または熱量分光、温度循環プログラムによって多次元データセットを収集する方法を用いた、複数の標的分子の同時の定性および定量分析である。
【0043】
本発明の1つの他の利点は、代表的な化学反応に必要な温度よりも実質的に低い温度における、特定の定性的および定量的分子検知データ、すなわち特定の温度における標的分子と触媒コーティングセンサ表面との間の低エネルギー吸着または脱離反応エネルギーから生じるデータにアクセスすることである。
【0044】
本発明のなお別の利点は、特定の標的分子の濃度変化を観測するのに必要な時間を短縮するセンサおよび方法の開発である。
【0045】
本発明の1つの別の利点は、装置のサンプリングおよびセンシング素子、すなわち検知器またはプローブを、信号調整電子機器からかなり離れて操作することによって、分析用サンプルを得るための装置および方法を供給することである。本性能によって、真空サンプリングチューブ内に位置する本発明の検知器は、流体流内に直接配置され、したがって一時ガス濃度を分析に適するようになる。本性能は、自動車排気システムにおいてなどの、検知をフィードバック制御下の電子装置と組み合わせる場合に特に有用である。
【0046】
本発明の別の利点は、特定の標的分子の低濃度および濃度変化に関する電子情報を、必要な任意のさらなる分析のためにデジタルプロセッサに供給することと、その後、所望の次の作用を実施することである。
【0047】
本発明のなお別の利点は、最小の回路干渉で、より高い感度、さらなる信号強度、およびさらに迅速な反応時間を達成するための、触媒コーティングの表面のすぐ下に位置するHTDの使用による、分子センシング触媒コーティングと検知器の加熱素子との間の密接な熱接触である。
【0048】
本発明のなお別の利点は、化学薬剤、生物薬剤、または両方同時の存在を判定するのに適した新規分析技法の開発である。
【0049】
本発明のなお別の利点は、標的化合物の濃度を正確かつ再現性をもって判定するために、潜在的な干渉化合物の存在下でさえも、気相中の特定の標的化合物を検知および測定することである。
【0050】
本発明のさらなる利点は、皮膚を通じて、または呼気中に低濃度で発散する化合物またはその副生成物の信頼性のある検知である。
【0051】
本発明のこれらおよび他の特徴、側面、目的および利点は、本発明の以下の詳細な説明の検討後に明らかになるであろう。
【0052】
発明の詳細な説明
本発明は、複数の気相物質、特に低濃度で存在する有機、無機および有機金属分子および病原体を同時に含む、気相物質を検知、識別および定量するための新しいセンサおよび方法を提供する。さらにこれらの新しいセンサおよび方法は、単一分子種の区別に備えながら、他の分子種を無視して、多くの技術分野における分析用途に役立つようにする。
【0053】
定義
本明細書で使用される用語をさらに明確に定義するために、以下の定義を与える。
【0054】
熱伝達装置(HTD)は、本明細書で使用されるように、熱エネルギーを周囲の環境へ、または周囲の環境から移動するための両方の手段を構成し、HTDと熱接触しているその環境または他の材料の温度を見積もるための手段も提供する、熱伝達および熱容量の係数が既知である物質より成る装置を一般に指す。HTDには2種類、すなわちセンシングHTDおよび参照HTDがあり、したがって本用語は通例、センシング素子、検知素子などと同意語として使用され、触媒コーティングを施したセンシング素子または触媒コーティングを施さない(またはセンシング素子とは異なる触媒コーティングを施した)参照素子のどちらかを構成する構成要素の機構を指す。センシング素子HTDおよび参照素子HTDの温度は、熱伝達手段と密接に熱接触した温度観測手段、通例、抵抗温度検知器(RTD)によって測定する。加熱手段は通例、可変抵抗ヒーター(VRH)によって、素子に非触媒加熱を与え、このヒーターは、所望の動作温度を達成するためにそれを流れる十分な電流を持つ抵抗温度検知器(RTD)そのものであることが多い。それゆえHTDは、熱エネルギーを蓄積する熱容量および各種の熱エネルギー源とHTDおよびHTDを取り巻く熱環境を構成するシンクとの間で熱エネルギーを移動する熱流に対する熱抵抗を示す。たいていの場合、HTDは、VRHと熱接触し、特にHTD動作中の熱を放散する役割を果たす、通例セラミック材料である熱伝導体を含む。
【0055】
本明細書で使用されるように、可変抵抗ヒーター、すなわちVRHという用語は、センシング素子および参照素子の1つの構成要素を構成する材料を指し、VRH材料を通過する電流によって各素子を内部加熱するための手段となる。例として、VRHは、空気中で加熱されたときに反応しないように十分に不動態化されたタングステンフィラメントより構成することができる。本発明の各HTD構成要素(センシングおよび参照)は、VRH素子を含む。センシングHTDは触媒コーティングを含み、参照HTDは、触媒コーティングを含まないか、センシングHTDとは異なる触媒コーティングを含む。このようにして、実質的に同一の熱伝達特性を持つ2またはそれ以上のVRHは、第一の触媒コーティングVRHで発生する熱伝達事象を、触媒コーティングされていない、または第一のVRHと異なる触媒でコーティングされた第二のVRHでの比較観測と比較する手段を供給するのに使用する。通例、VRHの加熱機能は、温度検知器として作用する同じ構成要素によって、すなわち必要な熱を供給するために十分な電流が流れる温度検知抵抗ワイヤによって実施される。したがって本発明において、VRHは、電気抵抗ヒーターおよび抵抗温度検知器の2つの機能を果たす抵抗温度検知器(RTD)を構成することが多い。このような場合、RTDおよびVRH機能を兼ね備えた単一の構成要素は、RTDまたはVRH構成要素のどちらかで呼ばれる。
【0056】
抵抗温度検知器、すなわちRTDという用語は、本明細書で使用されるように、一種の温度インジケータまたはセンシング素子および参照素子の検知器構成要素を指す。RTDは通例、必ずではないが、個々の素子の温度を予測する手段となる、正の抵抗熱係数を持つ材料から構成される。RTDは、温度−検知抵抗ワイヤを通過する電流によって内部加熱され、そのような場合にRTDは、抵抗温度検知器および可変抵抗ヒーター(VRH)の2つの機能を果たす。単一構成要素がRTDおよびVRH機能を兼ね備えている本実施形態は代表的であり、RTDまたはVRH構成要素のどちらかとして呼ぶことができる。
【0057】
センシング素子、反応性素子、センサ素子、センサVRHセンサHTD、能動素子、触媒コーティングHTD、触媒コーティングVRHという用語、および関連用語は、本明細書で使用されるように、温度検知器に取り付けられた触媒コーティングおよび可変抵抗ヒーターを含むセンサのHTD構成要素を指す。触媒コーティングは、温度検知器および可変抵抗ヒーターの両方に実質的に熱接触させてコーティングを確実に配置する任意の方法によって、温度検知器に取り付ける。通例触媒は、耐高温性結合材料によってHTDに接着させる。それゆえ、触媒熱源および非触媒熱源を含むサンプルガスと接触して配置されたセンサの一部は、センサHTDである。センシングHTDの加熱素子(VRH)は通例、VRH材料自体が加熱時に反応するのを防止する耐高温性非多孔性材料でコーティングすることにより不動態化される。高温および低温の両方の実施形態で、不動態化材料は通例、非多孔性電気絶縁体であり、VRH電気抵抗変化がある場合に触媒データに現れる迷走電流による触媒データの汚染を最小限にすることが望ましい。一部の場合では、VRHセンサの触媒コーティングは、VRH材料を不動態化するよう機能し、それにより単一の材料内に触媒機能と不動態化機能を組み合わせる。
【0058】
参照素子、参照VRH、参照HTD、非能動素子、未コーティングまたは非コーティングHTD、未コーティングまたは非コーティングVRHなどの用語、および同様の用語は、本明細書で使用されるように、非触媒コーティングを含むか、一部の実施形態においてはセンシングHTDと異なる触媒コーティングを含むHTDを指す。通例、参照HTDは、温度検知器および温度検知器と熱接触した可変抵抗ヒーターを含むが、触媒コーティングされていない。参照HTDは通常、環境とのその接触、および環境とのその反応を防止する耐高温性非多孔性材料でコーティングすることにより不動態化される。サンプルガスと接触して配置されたHTDの一部が非触媒熱源のみ、また一部の実施形態において、センサVRHとは異なる触媒熱源を含む場合、その機構は参照HTDである。
【0059】
本明細書で使用されるように、触媒、コーティング、触媒コーティング、反応性コーティングなどの用語は一般に、HTDと永久物理および熱接触して配置され、通例その上に層を形成して、センサアセンブリのセンシング素子を形成する任意の物質を指す。触媒という用語は、物質が実際に触媒機能を果たすか否かにかかわらず、そして物質をHTDに塗布する方法とは無関係に使用される。
【0060】
本明細書で使用されるように、センサ、検知器、検知素子、センサアセンブリ、検知器アセンブリ、HTDセンサアセンブリ、VRHセンサアセンブリ、プローブなどの用語、および同様の用語は、触媒コーティングを施したセンシングまたは反応性素子(センサHTD)、および触媒コーティングを施さないか、通例不動態化コーティングまたはセンシング素子と異なる触媒コーティングを施した参照素子(参照HTD)の両方を含む構成要素の機構を指すのに使用する。場合によりこれらの同じ用語は、電子機器部分も含み、それにより文脈が要求するように、装置または器具全体を構成する。
【0061】
分子、標的分子、化合物、物質、ガス状物質、汚染物質などの用語は、本発明のセンサおよび方法による検知の主題である任意の物質を指すために、本明細書で互換的に使用される。それは通例、気相化学種に適用されるが、ウィルスおよび細菌などの空中浮遊生体物質、またはセンサの参照素子との物理または化学相互作用に関連するエネルギー要素とは異なる、センサのセンシング(または反応性)素子との物理または化学相互作用に関連するエネルギー構成要素を通常持つ他の物質も指す。
【0062】
信号調整という用語は、適切な閉ループ制御下で非触媒エネルギーをその可変抵抗ヒーターに供給し、温度、電圧、電流、抵抗、電力などを決定する各種の測定値を観測および報告するために、HTDに接続される電子および空気圧器具を表すために本明細書で使用する。
【0063】
測定、推定などの用語は、温度、電圧、電流、電気抵抗、電力およびガス流などの物理量の規模、方向および極性の決定および報告を表すために本明細書で使用する。
【0064】
ゼロ平衡測定、ゼロ平衡方法、ゼロ平衡方式などの用語は、進行中の熱力学プロセスの間に一定であるセンサの一部の特性を維持するために必要なエネルギーの量を測定する場合に利用される測定方法を表すために本明細書で使用する。通常、実質的に所望の瞬間温度にHTDを維持するために必要な熱エネルギー伝導は、熱力学活性の示度として観測および測定される。必要な熱エネルギーは、示差測定では参照HTD、またはシングルエンド測定ではセンシングHTDの初期温度のどちらかに関して測定される。ゼロ平衡測定方法は、特に有用な方法でHTD熱力学現象を識別する利点を持つ。加えてゼロ平衡測定は、高温および低温範囲の両方で容易に得られる。
【0065】
オフセット測定、オフセット方法、オフセット方式などの用語は、センサまたは参照装置の一部の特性を監視するときの測定方法を表すために本明細書で使用し、進行中の熱力学工程の間にその特性が元の値からどれだけ遠くに移動するかが測定される。通常、示差測定では参照HTDの温度に関して、シングルエンド測定ではセンシングHTDの初期温度に関して、センサHTDにおける触媒活性による温度変化を観測する。オフセット測定方法は通例、容易であるという利点と、センサおよび参照HTDが必ず異なる温度で動作するという欠点を持つ。
【0066】
ゼロ平衡測定方法またはオフセット測定方法のどちらを使用するかとは関係なく、電子出力は以下で定義するように、シングル測定または示差測定のどちらかである。
【0067】
シングル測定、シングルエンド測定、シングルチャネル測定、シングルチャネル方式などの用語は、特性が測定されるある共通素子、条件または参照レベルが存在する場合に実施される実際の測定を表すために使用する。例えば電圧は、単純接地または共通接地参照に対して測定できる。センサHTDとその環境との間の熱エネルギー流を推定するために、シングルセンサHTDの温度および/または非触媒出力を観測する場合、その観測をシングルまたはシングルチャネル測定と呼ぶ。センサHTDのみを含むシングル測定は、HTDの熱環境の変化からの不確実性による系統誤差を含むであろう。系統誤差は通例、標的分子を含まないことが知られるサンプルガスを用いた測定による補正によって最小化されるが、多くの場合で、これらの必要な補正を避けるために示差測定を使用することが好ましい。
【0068】
示差測定、示差方式、デュアルチャネル測定などの用語は、電圧測定が共通信号電位に対して個別に参照されない場合に、2個の浮動点間の特性差、例えば電圧差が観測される実際の測定を現すために使用する。これらのHTDとその実質的に同一の環境との間の熱エネルギー流の相違を推定するために、2またはそれ以上のHTDに印加される温度差および/または非触媒出力差を観測する場合、その観測を示差測定と呼ぶ。1またはそれ以上のセンサHTDおよび少なくとも1の参照HTDとの間の示差測定はさらに代表的であり、通常は、HTDの熱環境における変化からの不確実性を避けるため、および補正を避けるために、シングル測定よりも好ましい。
【0069】
4ワイヤ測定、ケルビン測定、ケルビン配置、ケルビン測定回路トポロジーなどの用語はすべて、電気抵抗での電位または電圧差の測定に4本のワイヤを用いる古典的な回路トポロジーを指す。本トポロジーは、参照により本明細書に組み入れられている、IEEE Instrumentation & Measurement Magazine 1998、第1巻(第1号)、6〜15頁に述べられている。ケルビン測定は、シングルエンドまたは示差測定値のどちらかとして電気出力を与える。ケルビン測定出力は、リード線にわたる電圧降下または抵抗変化における不確実性を実質的に消滅させ、センサの電子機器部分からかなりの距離にある検知器部分の操作において、本機構を特に有用にする。
【0070】
熱抵抗という用語は、HTD内の領域間、およびHTD間、およびその周囲領域との温度差の、これらの領域間の熱エネルギー流速に対する比として定義される。
【0071】
熱容量という用語は、HTD内の領域における温度変化の、熱エネルギー変化の量に対する比として定義される。
【0072】
本発明を作動させる定温方式または等温方式という用語は、単一物質を検知するために、センシングおよび参照素子を本質的に1つの温度で作動させる方法を指す。分子検知は、規定温度にて特定の触媒に接触した興味のある分子に関連する、別個の特徴的な反応エネルギーに基づくため、通例、検知される個々の標的種について、およびその標的種の一部の反応を誘起する特定の触媒について、標的分子/温度/触媒の独自の組合せがある。所与の標的種では、種の検知に関与する反応の種類(酸化、還元、吸着、脱離など)には無関係に、考えられる触媒および検知温度のライブラリが決定できる。
【0073】
本発明を作動させる熱量分光方式、可変温度方式、動的温度方式、動的方式という用語は、ガス状サンプル中の複数の物質を検知するために、検知器温度(センシングおよび参照素子の両方)を規定の方法で変化させることによって、通常はプログラムされた温度対時間特性を連続的に循環させることによって、検知器を作動させる方法を指す。温度変化範囲にわたって別個の各温度と関連する熱量反応を連続的に監視することによって、複数の標的分子の定性的および定量的測定を実施する。本動的温度方式は通例、しかし必ずではないが、それぞれ異なる触媒コーティングを施され、実質的に同じ瞬間温度にて作動する、検知器具内の複数のセンサを用いて動作させる。
【0074】
熱伝達装置(HTD)検知器アセンブリおよびその動作の説明
本発明のセンサアセンブリは、2つの主要な素子または部分、すなわちセンシングまたは反応性素子および参照素子の機構である。センシング器具全体は、信号調整電子機器を含む。
【0075】
センサのHTDセンシング素子は、コーティングを実質的にHTDと熱接触させて確実に配置し、その作動中に遭遇する高温になお耐えることが可能な任意の手段によって、HTD表面に固定された触媒コーティングより成る。例えば耐高温性接着剤またはHTDへのコーティングの単純物理スパッタリングを使用して、コーティングをHTDに接着させることができる。技法の選択は、当業者によってただちに決定されるように、特定の技法(スパッタリング)へのコーティングの適用性と同様に、便利さおよび費用の考慮事項からなされる。コーティングは通例、コーティング表面全体にわたって約3〜10ミクロン(3〜10μm)の一定の厚さが得られるように均一に施される。厚さがいくらか厚いまたは薄いコーティングも施せるが、この代表的な厚さは、最小限の熱流干渉を示すのに十分な薄さである。それゆえ3〜10μmの厚さは、熱流を妨げずにセンシング素子の最大感度を可能にする代表的な厚さである。
【0076】
触媒として作用するHTD上のコーティング組成物はとりわけ:1)トポロジーが変化する金属酸化物;2)金属ホウ化物、炭化物、ケイ化物、窒化物、リン化物、ヒ化物、硫化物、セレン化物、テルル化物、ハロゲン化物(フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物)およびその他などの金属「非酸化物」素子組成物;3)1を超える金属が素子と化合した複合無機物質(例えばバイメタル硫化物);4)金属が1を超える他の素子と化合した複合無機物質、例えば金属オキシカーバイド;5)金属;6)窒化ホウ素などの非金属を非金属と化合させる、あるいはバイメタル合金などの金属と金属を化合させる他の二元または三元化合物;または7)その組合せを構成する。それゆえコーティング組成物は、単一の化合物を形成するために酸素と化合した1を超える金属による単一化学相である、BaTiO3またはYMnO3などの「混合酸化」化合物より成ってもよい。しかしコーティング組成物は、In2O3/SnO2混合物が一例である、2つの酸化化合物の単純化合物も含みうる。これらの成分のいずれかに含まれる金属は、遷移金属(マンガン、鉄、ニッケル、銅、またはモリブデンなど)または非遷移「典型」金属(スズ、インジウム、またはガリウムなど)のどちらかであることが可能である。触媒は、HTDと熱接触して配置可能であるが、センサが動作するのに十分な温度になお耐えることができる、有機または有機金属物質を構成することもある。
【0077】
通例、HTD上の触媒コーティングは金属酸化物である。特に本発明で使用できる触媒は、これに限定されるわけではないが、実質的に任意の酸化状態にあるすべてのdブロック遷移金属酸化物、混合価酸化物、混合金属酸化物、酸化物の組合せを含む。使用可能な金属酸化物触媒の例は、これに限定されるわけではないが、表1に示す触媒を含む。酸化物自体がHTDセンサ表面に固定されるか、純金属などの酸化物前駆体をHTDセンサに結合させて、酸化物触媒に変換してもよい。例えば銅をセンサに堆積させ、空気中で加熱して銅の酸化銅への変換を行うことができる。表1に示す酸化物に加え、ジルコニウム、ハフニウム、ニオブ、タンタル、タングステン、オスミウム、レニウムの酸化物またはその組合せも本発明で有用である。
【表1】
【0078】
「初期」第一列遷移金属酸化物(周期律表の左側に位置する)が還元反応をより開始しやすく、「後期」第一列遷移金属酸化物(周期律表の右側に位置する)が酸化反応をより開始しやすいという知識から、触媒は、第一列遷移金属酸化物の高温方式における分子に対して定性的に選択できる。それゆえ、確立された周期律的傾向は、これらの触媒の酸化傾向が、酸化スカンジウム(還元性)から酸化亜鉛(酸化性)まで周期律表の左から右にかけて上昇することを示唆している。結果として、複数の結合を含むアルコールまたは化合物の検知は、これらの化合物が酸化反応をより受けやすいため、通例、後期の金属酸化物を用いて実現される。アルデヒド、ケトン、またはカルボン酸など、より高い酸化状態の官能基を有する分子の検知は通例、これらの化合物がより還元反応を受けやすいため、初期の金属酸化物を用いて実現される。これらの還元反応は、ガス流中の水蒸気による水素原子の、検出される分子への移動を含むことが多い。
【0079】
低温吸着分析条件では、標的の電荷分布、分子極性、水素結合形成能力、成分原子の電気陰性度、および触媒表面における分子吸着のエネルギー特性に影響を与えるような他の特性に基づいて、標的種との強力な相互作用を形成することが予想される相補的物質を選ぶことによって、触媒を特定の標的分子に対して定性的に選択できる。例えば標的分子中のO−HまたはN−H結合の存在は、金属酸化物、窒化物、またはフッ化物触媒の選択、それによる標的と触媒との間の水素結合相互作用が助長されることを示唆している。電気陰性度の差が大きい素子間の化学結合を含む高極性の標的分子は、高い極性結合および同様に大きな電気陰性度差を含む触媒とさらに効果的に相互作用することが予想される。同様に、標的分子の原子または基と触媒の原子または基との間の電気陰性度差が大きいと、標的−触媒の相互作用がさらに強く、さらに有効となる。触媒物質が、これらのような既知の化学原理を用いて選択される場合、標的と触媒との間のより優れた相補的一致およびより強い全体的な相互作用が実現され、より大きい吸着/脱離信号がより低い温度で得られるようになる。
【0080】
表1のような単純酸化物は必要でないが、金属の含水酸化物、水和酸化物、水酸化物、および水素化化合物なども触媒として使用できる。ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、金、白金、イリジウム、レニウム、その組合せなどの、結晶性および粉末金属も使用できる。これらのような金属は、以下で述べるように低温方式で本発明を動作させる場合に触媒として特に有用である。金属および金属酸化物の混合物も触媒として使用できることに注意する。
【0081】
本発明のセンサのセンシングまたは反応性素子は、触媒コーティングを持たない単なる不動態化HTD構成要素である参照素子とともに動作する。それゆえ周囲基準を与えるために使用される参照素子は、コーティングされていないことを除いて、センシング/反応性素子と同一である。センサは、センシングおよび参照素子の両方を加熱し、触媒表面に標的分子を静電的に結合させるための電子を供給できる、HTDに電流を流すことによって作動する。センシング素子が標的分子に接触すると、その分子は有限の期間だけ、静電相互作用、ファンデルワールス力などの組合せによって触媒表面に付着するか、またはより近くに引き寄せられる。酸化、還元、任意の種類の酸−塩基反応、任意の結合形成または結合破壊反応、または単なる吸着ならびに脱離などの、分子と表面との任意の種類の反応時に、熱エネルギーは、正味の負または正の反応エンタルピーそれぞれの結果として、生成または消費される。標的分子に接触するのは、センシング素子だけでなく、参照素子も同様に接触する。したがってセンサは実際に、特定の分子と触媒コーティングHTD(センシング素子)との相互作用を、同じ分子と未コーティングHTD(参照素子)の相互作用と比較する。
【0082】
加熱または冷却のどちらが発生するかにかかわらず、反応に関連する温度変化はそれ自体、電子的に検知される、HTD回路の抵抗変化を明示する。本センサ装置は、検知と関連する別個の反応プロセスが発熱性であるか吸熱性であるかにかかわらず、標的分子の選択的検知を可能にする。
【0083】
触媒コーティングHTDと反応する標的分子の濃度と、プロセスで生成または吸収される熱の量との間に直接相関があるため、本発明は、得られる標的分子濃度に関連する定量情報も与える。そして交換された熱の量は、生じる電圧変化、およびセンサ回路内のセンシング素子と参照素子との間の該当する電気抵抗差によって(オフセット測定方法)またはVRH温度を所望のレベルに維持するために必要なVRHに対する電力の変化によって(ゼロ平衡測定方法)測定される。
【0084】
センサ動作の温度範囲
現在使用されている一般の抵抗型センサ、例えばSnO2などの金属酸化物を利用するセンサは、標的分子の触媒酸化を検知することに基づいて、高温で動作する。本発明はそれほど限定されていない。酸化または還元などの高エネルギー反応は、比較的高温範囲で動作中に本発明のセンサを用いてただちに検知可能であるが、本発明は、吸着および脱離などの低エネルギープロセスに基づいた標的種検知にも備えている。したがって、本センサは、検知が高エネルギー反応に基づく場合に必要な、古典的な高温範囲よりも実質的に低い温度において、標的分子または物質からの特異的な定性的および定量的情報を得ることができる。
【0085】
本発明を用いた高温センシングは通例、約220℃(一部の反応はより低い温度で起こるが)から約425℃で起こる。これらの特定の高温化学反応は通例、酸化、還元、および他の比較的エネルギー性反応に関連している。センシングの低温範囲は通例、非破壊性吸着および脱離、または標的分子および触媒表面の両方のさまざまな空間的および電子的特性によって支配される、標的分子と加熱センシング素子との間の他の一次物理相互作用に関連する。低温検知は、本発明を動作させる可変温度方式で使用されることが多く、ここでは例えば、所与の温度範囲にわたる特定の標的分子−触媒表面相互作用に特有の温度対熱流ダイアグラムが得られ、電子形式で格納および使用できる。
【0086】
検知の低温範囲は通例、約245℃までに起こる。いずれの場合でも本発明にとっては、検知時に標的分子が反応して他の分子を形成する、古典的な意味の化学反応が実際に起きるということは重要でない。センシングHTD対参照HTDの熱伝達に標的分子と触媒との間にある物理または化学相互作用による不均衡が存在することが、単に必要である。この不均衡は、参照HTD(触媒コーティングされていない場合)における無反応、センシングHTDとは異なる触媒によってコーティングされている場合の参照HTDにおける別の反応のどちらから生じる。そのような相互作用の発生が観測される温度範囲は通例、約−196℃〜約260℃である。さらに通例には、これらの相互作用の多くは、センシング素子および参照素子の温度を約−78℃〜約232℃に調節した場合に観測される。さらになお通例には、これらの相互作用は約0℃〜約232℃で観測される。最も通例には、これらの相互作用は、センシング素子および参照素子の温度を約25℃〜約200℃に制御した場合に観測される。
【0087】
検知器動作の低温範囲は一般に、標的物質と本発明のセンサとの間の、任意の種類の比較的低いエネルギー相互作用に当てはまる。特にこの機能は、分子とHTDに塗布される触媒コーティングとの間の吸着または脱離プロセスに関する、分子と非コーティング参照HTDとの間の同じプロセスに関するエネルギー特性と比較した、独自のエネルギー特性に関連している。
【0088】
センサを動作させるために使用される電流はセンサを加熱し、触媒コーティングHTDの表面に標的分子を静電的に固定する電子をさらに供給することができる。分子が静電相互作用、ファンデルワールス力、水素結合などを通じて、触媒表面に吸着または触媒表面から脱離する場合、熱エネルギーは、負または正の反応エンタルピーそれぞれの結果として生成または消費される。その相互作用を指示する標的分子および触媒の両方の反応特性は、とりわけ分子および触媒の分子構造および電子分布またはバンド構造、分子および触媒の反応部位の性質、両方の物質のHOMOおよびLUMOのエネルギーおよび対称特性、および分子−触媒相互作用自体の物理化学特性の関数である。分子が表面に吸着されるときに熱が放出され、分子がその表面から脱離するときに熱が消費される。この熱伝達プロセス現象は、センサによって検知され、定性的および定量的情報を与える。それゆえ、定性的データは、標的分子、触媒、および単一種が検知される温度の独自の組合せによる信号の存在から生じるが、これに対して定量的データは、センシング素子での物理化学相互作用または反応中の所与の温度における分子濃度および電圧変化に比例する熱流の量を決定することから生じる。定性測定は通例、標準濃度の標的分子の存在下で検知器反応を決定することを含む。
【0089】
以下の記述に縛られるものではないが、低温範囲において、センサ動作の高温反応範囲とは異なる機構によって特異性が生じると考えられる。図17は、空気中でイソプロパノールおよびn−プロパノールを検知する場合の、温度(抵抗)対電力の低温検知プロットを示し、酸化スカンジウム触媒が1つの成分を他の成分よりも「無視」せず、むしろ2つの非常に異なる検知曲線の生成を可能にし、それによって両方の化合物を同時に識別することを証明する。それゆえ低温特異性は、2つの別個の化学特性を同時に識別する能力によって生じる。特定の成分の識別は、正確な検知を行うために、混合物の各成分について個別の標準反応曲線を記録する必要がある。それに対して、混合物の1つの成分の選択的吸着を可能にするが、他の成分は吸着せず、それにより他の種を正式に「無視する」ことによって特異性を達成する触媒を選択できる。この後者の場合では、特異性は、検知の高温範囲と同じ方法で達成できる。
【0090】
高温および低温範囲はどちらも、一定温度方式または可変温度方式のどちらで動作するかにかかわらず、標的分子とセンサとの一部の相互作用が起こる任意の中間温度範囲と同様に本発明で有用である。それゆえ分子についての温度/触媒/標的の規定セットを低温でのその標的の検知に使用できる。さらに、低および高範囲の両方を含む広い温度範囲は、検知器温度が規定の方法で変化する可変温度(動的)方式において、プログラム温度対時間特性の一部として利用可能である。本発明の本実施形態において、標的分子に関する非常に詳細な定性的および定量的情報を得るために、吸着および脱離から触媒での一部の酸−塩基反応まで、さらにエネルギー性の酸化または還元プロセスまで、特定の標的の一連の反応を利用できる。さらに重要なことに、可変温度(動的)方式で動作させる場合、異なる分子が異なる温度にて触媒コーティングセンサと相互作用するため、単一のHTDセンサを用いて複数の標的物質を検出することができる。
【0091】
本発明の別の側面において、異なる触媒によってコーティングされ、可変温度方法(しかし通例、本質的に同じ瞬間温度において)ですべて動作する複数のセンサが使用される。各センサが個別の温度制御および監視電子機器によって動作する場合、温度が周期的および同時に変化するときに、各センサの熱量反応が観測される。それゆえ規定温度循環プログラムによって多次元データセットを収集することによって、複数の標的分子が同時に検知かつ測定できる。
【0092】
選択性を達成するためのその他の手段
本発明のセンサ装置の選択性は、触媒選択およびセンサ温度などの、多様な調節可能なパラメータによって達成できる。加えて、選択性が実現され、それゆえ構造的および電子的に非常に似た、異なる分子をそれでもなお識別できる他の手段がある。
【0093】
単一の触媒が利用される場合でも選択性を実現する1つのさらなる方法は、分子を識別するために触媒トポロジーを利用することによる。この概念は、触媒の個性を変化させるのではなく、特異性を実現するために同じ触媒のトポロジーを変化させることを含む。選択性のこのような触媒トポロジー方式は、物理および/または化学相互作用の両方を含め、高温および低温条件の両方で有効である。それゆえ結晶性触媒のどちらの固体状態面を露出させるかを調整(堆積、露出)することは、次に結晶における分子配向のエネルギー特性を変化させ、このことにより、同じ分子式の触媒を使用した場合でも、さらに迅速な検知と分子間の識別が可能となる。固体状態触媒を1層から複数の層に変化させるだけで、同様の変化が生じうる。識別するために触媒個性を単に使用する場合よりも、トポロジーの変化が、標的分子−触媒相互作用間の選択性をより向上させられることが考えられる。例えば貴金属を使用すると、結晶面は大半の分子に対して無用な一般的反応を示すが、これに対して、異なる原子トポロジーを持つ別の結晶面は、特異性を与えることがある。異なる結晶面を堆積または露出するための方法は、定着しており、当業者に既知である。触媒の結晶面を選択的に露出する例は、参照により本明細書に組み入れられている以下の参考文献に見られる:Pt(lll)については、D.F.Ogletree、M.A.Van Hove and G.A.Somorjai、Surf.Sci.183、1〜20(1987)およびPt(110)については、M.I.Ban、M.A.Van Hove and G.A.Somorjai、Surf.Sci.185、355〜72(1987);W(110)およびW(100)については、M.A.Van Hove and S.Y.Tong、Sufi.Sci.54、91−100(1976);Mo(100)およびMo(lll)については、C.Zhang、Van Hove and G.A.Somorjai、Surf.Sci.149、326〜40(1985);およびfcc(lll)およびhcp(0001)表面については、J. P.Iberian and M. A. Van Hove、Surf. Sci.138、361〜89(1984).
選択性を得る別の手段は、センシング素子HTDが1つの種類の触媒コーティングを有し、「参照」素子HTDが別の種類の触媒コーティングを持つ、すなわちセンサが2つの異なるセンシングHTD素子を用いて作動する、HTD構成要素の機構を使用することによる。この場合、本発明は通例、2つのセンシング素子間で示差測定を使用し、示差測定は、標的種を分析するための、熱量分光曲線を含む非常に詳細な情報を供給することができる。さらに2つの異なるセンシング素子間での示差測定は、第一のセンシング素子が触媒結晶の1つの結晶面によってコーティングされ、第二のセンシング素子が同じ触媒結晶の別の結晶面によってコーティングされる場合に、有用なデータを供給する。この場合、同一の相互作用から生じる共通の信号特徴は完全に取り除かれ、標的種と特定の結晶面との間の相互作用の相違から生じるエネルギープロセスのみが観測される。
【0094】
選択性を達成するなお別の方法は、同じ触媒を用いても分子間の識別を可能にする、半導体触媒のドーピングプロトコルを変更することによる。選択性のこの「半導体触媒方式」において、触媒は、トランジスタ、ダイオードまたは他の半導体を構成するか、トランジスタ、ダイオードまたは他の半導体として作用する。特異性は、次に触媒の特性に影響を及ぼす、化学ならびに物理特性の変化およびドーピング分子の濃度から生じる。半導体をドーピングする方法は、定着しており、当業者に既知である。
【0095】
熱伝達装置(HTD)センサアセンブリの各種実施形態の詳細な説明
図1は、本発明の熱伝達装置の1つの実施形態を示し、触媒コーティングセンシングHTD5(図1A)および参照HTD10(図1B)の構造を表示している。センシングおよび参照HTDは通例、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、他の高融点ガラス、およびその他の、支持用低熱容量セラミックサブストレート15上に構成される。センシングおよび参照HTDは、通例、支持体上に固定されたスパッタリングまたはプリントしたレイアウトパターンの形の、既知の温度抵抗係数を持つ耐電性VRH材料20より成る。
【0096】
センシングHTD5は、触媒30をVRH20と熱接触させるために触媒30の層に結合される、耐電性VRH材料20上に耐高温性結合剤または接着剤25(図1では見えない)のコーティングを含むことが多い。別の実施形態において、触媒コーティング30は、高温接着剤25を用いずに、耐電性VRH材料20上に直接堆積させることができる。この後者の実施形態は、触媒前駆体金属が支持サブストレートに電気化学的にまたはスパッタリングによって堆積される場合に代表的であり、続いてHTDを空気中で加熱して、触媒前駆体金属を対応する金属酸化物触媒に変換する。参照HTD10は通例、ほとんどの場合、金属の空気との接触を防止する温度耐性ポリマーコーティングまたは結合剤35によって不動態化する。センシングHTDで使用される耐高温性接着剤25は、センサおよび参照HTDの熱抵抗をほぼ同じにする、温度耐性ポリマーコーティングまたは結合剤35で使用したのと同じ物質でもよいが、同じ材料である必要はない。
【0097】
高導電性回路接続ワイヤまたは金属タブ40は、銅または他の高温はんだ適合性導体45によって部分的にコーティングする。電気抵抗測定に4ワイヤ(ケルビン)技法を使用できるようにするために、2本の電気接続ワイヤ50を各接続タブ40にはんだ付けする。それゆえ図1に示すセンシング5および参照10のHTDはどちらも、便宜上、信号調整器具との接続のために共通ワイヤ被覆55によって器具から出る4本の接続ワイヤ50によって、ケルビン回路トポロジーを用いた信号調整電子機器に接続される。4本の接続ワイヤ、ケルビン回路トポロジーは、リード線に沿った電圧低下または抵抗変化による不確定性が本質的にない、電子出力を与える。高温動作では、スポット溶接によるリード線取付が好ましい。
【0098】
セラミックまたは他の高温支持サブストレートおよび耐電性VRH材料はどちらも、高温で劣化せずに動作するように選択される。正の可変温度電気抵抗係数を持つVRH材料の例は、これに限定されるわけではないが、ニッケル、タングステン、白金およびその他などの遷移金属を含む。可変量のクロム、コバルト、鉄および他の一般的な金属がVRH材料に含まれていてもよい。VRHが特定の電気抵抗に関連する単一の温度を持つために、VRH材料は、電気抵抗の実質的に単調な可変温度VRHを持つ必要がある。この特徴は、平坦になったり、反転したりしない、導電性材料の抵抗対温度曲線に不変の傾きを与える。傾きの算術符号の反転または変化は、1を超える温度が特定の電気抵抗と関連していることを反映する。特に有用なVRH材料は、比較的大きな傾きを特徴とする抵抗対温度曲線を持つ。
【0099】
図2は、2種類のセンシングHTD5を示す。図2Aは、高温接着剤を使用せずに、触媒30の層がスパッタリングまたはプリントされた耐電性VRH材料20の表面に直接位置するセンシングHTD5を示す。この例では、触媒または触媒前駆体は通例、VRH材料20の表面に電気化学的に堆積またはスパッタリングされる。図2Bは、触媒30をVRHと熱接触させるために触媒30の層に結合される、耐高温性結合剤25のコーティングを施されたセンシングHTD5を示す。この例において触媒層30は、金属酸化物などの「予備形成」触媒、または後で金属酸化物触媒に変換される金属または特定の結晶性表面を持つ貴金属などの触媒前駆体のどちらでもよい。接続ワイヤの、図1に示したのと同じ配置を図2で使用し、それゆえ両方の種類のセンシングVRHが、便宜上、増幅回路との接続のために共通ワイヤ被覆55によって器具から出る4本の接続ワイヤ50を備えたケルビン回路トポロジーを用いた信号調整電子機器に接続される。
【0100】
図3は、センサアセンブリの1つの機構の全体透視図を示し、センシングおよび参照HTD素子の両方を含む主要構成要素の相対的配向を表す。センサアセンブリ全体が、主要な有用性が物理的支持である、それゆえ十分な剛性を必要とする物理支持体60上に静止する。熱障壁65がセンシングHTD5を参照HTD10から隔離している。熱障壁は、センサと参照HTDとの間の放射熱伝達を最小限にするように機能する。スペーサ70は、熱障壁65および各HTD5および10のそれぞれのサブストレート15に結合される。スペーサ70は通例、熱障壁65とHTD5および10との間に約2〜3mmの距離を与えるように設計される。本発明の電子信号処理構成要素は、この図には示していない。
【0101】
動作中のHTD素子5および参照HTD素子10は、障壁65から熱干渉を受けないのと同時に、HTD素子5と10との間の伝導、対流および放射により最小限の熱伝達干渉が発生するように、障壁65に十分近くなるように、熱障壁65から適切な距離に配置し、距離はスペーサ70によって維持する。図示した実施形態において、センシング5および参照10HTD素子は、熱障壁およびスペーサから離して配置されているため、それによって、熱障壁平面に平行な任意の方向にガス流が発生する場合に、有効なセンシングが可能となる。
【0102】
物理支持体60は、平行側部を備えた支持チャネルで構成されることが多く、平行側部にセンサアセンブリが取付け可能であり、その中に接続ワイヤ50を通すことができる。支持チャネル60形状は、5、10および65に効率的な固定具となり、同時にセンサアセンブリが収容される変換器チューブからワイヤが出るときに、ワイヤ50に支持を与える。支持チャネル60は通常、底部および2個の平行側部より成る銅などの比較的硬い金属であるが、多くの他の実施形態も可能である。支持体60は、センサアセンブリに支持を与え、必要に応じて支持体60の長さに沿って配置させ、ワイヤがセンサアセンブリを含む変換器チューブから出られるように、出口配置を設ける。
【0103】
HTDセンシング装置の別の側面および実施形態を、すなわち、センシング5および参照10素子が単一支持体の反対側に配置される組合せまたは両面センサ−参照HTDを図4に示す。図4は、温度耐性支持サブストレートの片面上に、触媒30の層が(耐高温性接着剤25のコーティングなしで)表面に直接位置するセンシングHTD5を示す。参照HTDの空気への接触を防止する温度耐性ポリマーコーティングまたは結合剤35によって不動態化された参照HTD10は、サブストレートの反対面に配置する。2本のワイヤ50を各接続タブ40に接続する高温はんだ適合性導体45によって、部分的にコーティングされた金属タブ40の同じ機構。
【0104】
ここで図5を参照すると、変換器チューブ75内の図3によるのHTDの配置が示されている。変換器チューブ75内は、興味のある標的分子を含む流体(通例空気)がセンサアセンブリによって規定された平面に対して平行に流れるような方法で、HTDアセンブリを固定するように機能する;それによって、実質的に同一の流動条件および速度にて、分子がセンシング5および参照10素子に接触するようになり、したがって、センシング5および参照10素子が同じ濃度の標的分子に遭遇することが可能となる。センサへの電気接触を維持するワイヤ50は通例、支持体60が固定具80によって変換器チューブ75の内壁に固定される場合、シリンダを通過する。通常の実施形態において、各キャップの中心に穴90が配置された気密エンドキャップ85を、円筒状変換器チューブ75の端にかぶせる。通例、短い剛性チューブ95が、各キャップ85中心に配置された穴90を通過し、気密的に固定される。可撓性ホース100の下流端剛性チューブ95の端に結合され、HTDセンサアセンブリ上にガス流を吸引する交流または小型直流真空ポンプに結合される。
【0105】
本発明によって、異なる種類およびクラスの官能基および/または異なる反応温度を持つ追加の分子を検出するために、しばしば各種コーティングを施された複数のHTDセンサを直列または並列のどちらかで同じフロー変換器内に配置することができる。図6は、直列の複数のHTDセンサ/参照アセンブリを含む、センサアセンブリの1つの側面を示す。そのような構造によって、単一のガス流サンプルによって複数の標的分子を同時に分析することができる。常に必ずというわけではないが、代表的な構造において、HTDアセンブリは、ガス流が各種のHTDセンサ/参照アセンブリの間を進むときにサンプルの冷却が自然に起こるように、十分に遠くに配置される。例えば冷却は、空気流変換器75の外部表面に配置された冷却コイルまたは冷却羽根110の使用によって向上させることができる。センサアセンブリの間隔は、ガス流が加熱される高温センシングよりもむしろ、ガス流が冷却を必要とする低温センシングがさらに問題となる。冷却は、サンプルガスが好ましい検知温度以上で検知器に達した場合に潜在的な問題になり、この場合、適切な検知器温度を維持するために、ガスサンプルは検知器の上流で冷却する必要があるか、または検知器自体を冷却する必要がある。
【0106】
複数の検知器アセンブリの別の実施形態を、7個のセンサ素子および1個の参照素子の並列状または放射状機構を図7に示す。この数よりも多いセンシング素子を有する図7のような放射状機構も考えられる。複数のセンサHTDは通例、実質的に同じ瞬間温度で作動するが、そうでない場合、参照HTDは、それぞれの異なる温度にて有用となり、HTDの物理機構は、一部のHTDが他のHTDと異なる温度であるという事実を考慮する必要がある。図6の直列機構と比較した図7のHTDの並列機能の利点の1つは、標的分子が並列に検知されるため、分析されるガス流の組成物が各センサにおいて同一であることである。さらに、そのような機構においては、冷却コイル通例が必要である。
【0107】
図7のセンサ構造は、センシングおよび参照素子を1個の支持体の反対側に配置するか、または2個のセンサを1個の支持体の反対側に配置して、参照素子を別の支持体に配置するのに有用である。センサと参照VRH素子との間の熱流は、センサと参照素子との間で発生可能な温度差を最小限にするために望ましくない。しかし、実質的に同じ温度で動作する各種のVRH素子間での熱伝達の機会が本質的にない。図7の構造はさらに、センシング素子のアセンブリに対する1個を超える参照素子と同様に、任意の数のセンシング素子のセンサアセンブリに対する1個の参照素子を予測する。参照素子の有効な数は、少なくとも1個の参照素子を、1個のセンシング素子と実質的に同一の分析される流体流に接触させる数である。
【0108】
本発明のさらなる側面は、HTDセンサアセンブリとの接触前に、分析される流体流を場合により予熱または予冷することである。ガス流の予冷は、熱分光に利用可能な温度範囲を広げることが可能であり、および/または熱限界をさらに有用なレベルにまで向上させ、熱飽和の可能性を最小限にすることができる。1つの実施形態において、センサ−変換器アセンブリは、この予熱機能を行うために、センサアセンブリの上流に加熱コイルなどの加熱素子を含むことができる。センサの作動中、センサが作動する反応温度は、特定の触媒および標的種に対する検知に基づく別個の相互作用を誘起するのに必要な温度である。したがって、ガス流の予熱はすべての標的分子の検知において必要なステップではない。触媒−分子複合体が反応の活性化障壁を乗り越えるのに必要な熱は、触媒を加熱することによって(HTDを加熱することによって)、分子を加熱することによって(ガス流を予熱することによって)またはその両方によって供給することができる。正常運転条件下では、加熱HTDは、センシング素子の触媒表面に、その温度を問題の分子が反応するために必要な特定の温度に上昇させるのに十分な熱を伝達する。十分な熱がHTDに供給されると、予熱素子またはコイルを次に用いて、必要な相互作用または反応温度に達するように、ガス流に、ひいては分析される標的分子に熱を供給できる。予熱は検知器の熱限界を低下させるため、HTDを加熱するのに必要な電力を最小限にすることが望ましい状況では有益である。
【0109】
図8に示す本発明の別の側面は、変換器機構を液体中の分子の分析に使用できる1つの構造を示す。チャンバ115は、内部にポート120を通じて興味のある標的分子を含む液体のサンプルを導入できる気密コンパートメントである。ポート120はストッパー125で密封され、変換器チューブの残りの部分から隔壁130および135によって隔離される。隔壁130および135は、変換器チューブが適切な時間にアクセスするために開くことができる。隔壁130および135が閉じた気密位置にある初期動作の間、液体のサンプルは、ポート120を通じてチャンバ115に配置され、ストッパー125で密封される。ヒーターコイル140は液体を蒸発させ、気流がチューブ内をポンプ輸送されると、可動隔壁が位置145および150まで移動する。隔壁を開けて、気流を誘起すると、加熱された蒸気がシリンダ内を流れ、通常の方法でセンサアセンブリによってサンプリングされる。
【0110】
本発明は、物質が周囲条件下のガス、蒸発可能な液体、または昇華可能な固体のいずれであるかにかかわらず、気相分子または物質の形成を促すことのできる、どの物質にも提供できる。したがって、本発明のさらなる側面は、本発明による液体または固体の分析であり、そこで液体または気体は、図5に示す変換器機構と離れた任意の手段によって気相にされる。例えば多量の液体または固体を収集し、それを揮発するまで十分に加熱することができるサンプリング装置は、液体または固体物質をサンプリングおよび分析するために、図5に示すHTDセンサアセンブリと合わせて使用することができる。
【0111】
当業者によって認識されるように、これらの図に示される側面は、HTDセンサが特定の分析にすぐに適合させることができる方法で構成または利用される、他のまたは変更された側面を除外しない。
【0112】
他のHTDセンサ素子および参照素子設計の例
本発明のHTDセンサアセンブリは、図9に示すように、上述と異なる形状および機構をとることがある。例えばHTDセンサ(図9A)および参照(図9B)の表示を参照すると、HTDセンシング装置の他の実施形態は、気流の妨害を最小限にして、サンプル−触媒接触を向上させるために広い表面積を与える、長方形、正方形または円筒形あるいは他の形状を備えた固体センシング素子である。形状にかかわらず、セラミックまたはガラスセンサおよびその正の抵抗温度VRH材料20は、薄層高温接着剤25によってコーティングされ、通例、金属酸化物あるいは他の化合物または金属である、粉末または粒状触媒30の薄層によってさらにコーティングされる(図9A)。参照素子(図9B)は本質的にセンシングHTDと同じであるが、触媒コーティング30を施されていない。それゆえ図9Bに示す実施形態において、参照素子は、センシング素子で用いたのと同じ薄層高温接着剤25によって不動態化される。
【0113】
図10は、巻かれた箔型のセンシング素子を利用する、HTDセンサ参照アセンブリの別の側面を示す。この種のHTDは、表面積を増加させ、センサ素子周囲の気流特性を改良するように設計され、図9のHTDセンサに対して改良された熱力学特性を持つことがある。箔センサは、正の抵抗温度VRH材料20を含み、金属酸化物または他の触媒30の薄層によってさらにコーティングされた高温接着剤25の薄層によって同様にコーティングされ、次に、箔の両面の間にロールの全長に沿って、気流スペースを維持しながら緩く巻かれる(図10A)。箔参照素子(図10B)はセンシングHTDと本質的に同じであるが、触媒コーティング30が施されていない。図10に示す実施形態において、箔参照素子は、センシング素子で用いたのと同じ薄層高温接着剤25によって不動態化される。
【0114】
本発明の別の側面は、本明細書で例示または説明する触媒コーティングセンシングHTDのいずれにも、すなわち予備形成触媒ではなく、HTDセンシング組織に結合された触媒前駆体を含むセンシングHTDの他の実施形態に適用される。例えばHTDは通例、高温接着剤を用いて、銅などの純金属箔の薄層でコーティングすることができる。金属箔は次に、熱または化学的手段による接着剤硬化の後に酸化されて、金属酸化物触媒表面、この例では酸化銅を与えることができる。この種のHTDセンサの1つの実施形態の断面を図11に示す。この実施形態において、白金抵抗ヒーター素子155はHTDの中央に位置する。ガス流およびHTD周囲に酸素障壁を設け、きわめて薄い膜を支持するポリイミドキャリア160は抵抗素子155を包囲して、155および160がともに、非触媒加熱機能(VRH)および温度検知器機能(RTD)と作用するセンサのVRH部を構成するようにする。この部分は、センシング(図11A)と参照(図11B)素子との間で共通である。高温接着剤165は金属箔170を、加熱時に触媒として作用する金属酸化物層を外部表面上に形成するHTD本体に結合させる。図11Bはさらに、抵抗ヒーター素子155およびポリイミドキャリア160を含み、接着剤または金属箔のないHTD参照素子を示す。
【0115】
本発明のHTDセンシングおよび参照素子の他の非常に簡単な例は、加熱ワイヤのセンシングHTDとしての使用であり、これに対して不動態化される同じ種類の加熱ワイヤが参照HTDを構成する。この種のセンサおよび参照は、可変抵抗ヒーター(VRH)、抵抗温度検知器(RTD)、および触媒の3つの機能すべてを1本の金属ワイヤ(例えば金)に組合わせる。それゆえ参照ワイヤは、その反応を防止するために不動態化する必要がある。
【0116】
検知の理論的考慮事項
以下の理論によって縛られるわけではないが、本発明のセンサ装置の高い選択性は、以下のように生じる。電流がVRHを通過するときに、抵抗的に触媒コーティング内の化学結合を加熱および励起する。通例、これらの結合は金属−酸素結合であり、その場合に標的分子の検知に関する反応は、酸化または還元でありうる。センシング素子がより高くなると、金属−酸素結合エネルギーと標的分子の酸化または還元電位との間でエネルギー一致が起こりうる点まで、より大きな触媒金属−酸素結合の励起エネルギーが誘起される。反応はこの場合は、標的分子への破壊された金属酸化物結合からの酸素結合の転移によって、この一致点で発生し、反応熱が検知される。エネルギー一致点における量子電子トンネル現象は、本センサおよび方法の選択性に寄与する。一致エネルギーによって、気相水またはガス流に含まれる他の分子または供給源を含む、他の供給源からの水素原子との各種の反応が可能となる場合、還元も生じる可能性がある。
【0117】
以下の記述に縛られるわけではないが、分子−触媒相互作用自体のエネルギー、対称および静電特性とともに、標的分子および触媒の両方の反応特性は一般に、特に標的分子の分子および電子構造、固体状態および帯域構造、反応部位の性質、両方の物質のHOMOおよびLUMOのエネルギーならびに対称特性の関数であることも考えられる。標的分子の酸化または還元の結合エネルギーによってさらに加熱される触媒によって表される信号は、反応誘起温度変化として検知される。センサのVRH電流を変化させることにより、触媒の温度が変化し、センサが分子および/または濃度を識別するであろう。それゆえ単一の分子種の別個の反応を引き起こす、標的分子の分子特性(対称、静電気およびエネルギーの考慮事項を含む)、触媒の特性(対称、静電気、およびエネルギー特性、温度、組成物、など)、触媒に熱を与えるVRH電流などの独自の組合せが発生する。この結果は、センサの温度、吸着などの物理相互作用などの可変性と同様に、センサコーティングおよび標的分子の活性部位の酸化または還元の金属酸素結合(または他の結合種)の結合エネルギー環の差から生じると考えられる。したがって、センサVRHの電流は、所与の分子反応または独自の吸着/脱離特性を開始させるために変更することが可能であり、この独自のエネルギーは相互作用可能な、または供給される分子のみと反応し、その独自の吸着/脱離特性を生じる。異なる構造および電子特性を持つ他の分子は、反応もせず、センサにおける温度変化にも影響を与えず、したがって、信号温度は、標的分子、触媒、および所与の電流の組合せに独自のものである。
【0118】
これらの同じ理論的考慮事項も、発熱性および吸熱性反応の両方が検出できるため、標的分子が受ける反応の種類にかかわらず、本発明において実施可能である。例えば大半の酸化の発熱性反応エネルギーは、金属酸化物コーティングの温度変化を引き起こすが、これに対して吸熱性反応は、負の温度変化を誘起する。どちらの場合も、温度変化はそれ自体、電子的に検知される、VRH回路の電気抵抗の変化として表される。酸化の場合、大気中のO2分子は分裂して、1個の原子に空になった金属の酸素部位を置換させ、それゆえ元の金属酸化物が再生されることが考えられる。他の酸素原子は標的分子と反応し、例えば2個の水素原子を置換して水を生成するか、または単に標的分子に移動してより高い酸化状態種を生成する。還元反応は、その予想される供給源としての大気中の水による電子および/または水素移動を含む、類似の反応によって特徴付けられやすい。吸着および脱離反応は、吸熱性または発熱性プロセスのどちらかとして選択性も示す。以下の記述によって縛られるわけではないが、静電的に活性化されたセンサからの電子の放出または「ガス抜け(out−gassing)」は、標的分子を金属酸化物または他の触媒表面に誘引または固定することも考えられる。信号特異性は、酸化、還元、または独自の吸着/脱離特性を作製する方法における、相互作用が存在する程度まで外部触媒を加熱するVRHの抵抗コアにおける電流と、標的分子の化学結合との相互作用によって実現される。
【0119】
一定温度動作方式における検知標的分子および物質を検知するための電子機器構成要素
本発明の可変抵抗ヒーター(VRH)は通例、環境への熱流が最小限である、低熱塊および容量サブストレート上に形成される。通例、触媒コーティングセンサVRHおよび非コーティング参照VRHはそれぞれ、ケルビン測定回路トポロジーを用いて、4本の接続ワイヤによって信号調整電子機器に接続される。通常使用される、2または3本のリード線を用いたVRHへのホイートストンブリッジトポロジーは本用途で機能するが、ケルビントポロジーは、リード線インピーダンス効果による、ブリッジトポロジー実装で一般的な信号の減衰および汚染を実質的に消滅させる。本発明のセンサアセンブリを動作させるのに使用される信号調整電子機器をさらに十分に理解するために、電子的な例によって示すセンサ動作の熱力学モデルを実施例17に与える。
【0120】
代表的な測定手段は、可変抵抗センサアセンブリを信号調整するために、一定温度熱量測定方法を使用することである。Micko(米国特許第4、305、724号)およびYoung(米国特許第5、989、398号および第6、071、476号)は、どちらも参照により本明細書に組み入れられ、一定温度熱量測定の複雑なパルス化アナログおよび直接デジタル制御側面をそれぞれ述べている。本発明は、より少数の構成要素を必要とする連続アナログ機能における一定温度熱量方法の改良された実装を含み、さらなる情報を供給し、性能を向上させる。センシングおよび参照VRH素子の両方を米国特許第5、371、469号(参照により本明細書に組み入れられている)アンダーソンループ回路で接続することにより、および示差測定方式を使用することにより、出力電圧信号は、データから一次系統誤差を除去するためにさらなるデータ処理を必要としない。
【0121】
図12は、HTDを実質的に所望の瞬間温度に維持するために必要な電力の形の熱の量が熱活性の指標として測定される、ゼロ平衡測定方法のための信号調整手段の実施形態のブロック図を示す。ブロックで囲まれた図12の一部は、検知器内の各センサHTDに関連する信号調整を示す。それゆえ7個のセンサHTDおよび1個の参照HTDを持つ図7の検知器アセンブリは、図12のブロックに囲まれた7セットの器具より成る信号調整を必要とし、各セットは、図7の1個の参照HTDに接続された実質的に同一の1セットの器具とともに動作する、7個のセンサHTDのうち1個を調整する。
【0122】
図13は、参照HTDの温度に関する触媒活性による動作中センサの温度変化が、熱活性の基準として観測される、オフセット測定方法の信号調整手段の1つの実施形態のブロック図を示す。オフセット測定方法は通常、温度差(オフセット)がその間に出現できるように、センサHTDとその関連する参照HTDとの間に実質的な熱抵抗を必要とする。それゆえ、センサと参照HTDとの間に図3、5、6および8に示すよりもより低い熱抵抗を持つ図4および7に示すHTD構成は通例、図13の信号調整機構によって、あまりよく機能しない。
【0123】
センシングおよび参照素子それぞれの1個の温度−可変電気抵抗は、ヒーターおよび温度センサと同時に作用する。図12は、本発明の連続アナログ一定温度熱量計電子機器の1つの実施形態の設計図を示す。2個の高速アナログ乗算器−除算器構成要素(アナログ装置AD538)は、センシングおよび参照素子にわたる電圧、およびそれらを通る電流の比を表す出力電圧を生じる。これらのアナログ出力電圧は、電気抵抗(R=E/I)の代表であり、それにより可変抵抗センシングおよび参照ヒーター素子の温度である。図12に示すように、これらのアナログ信号は、高速アナログ制御ループ内の設定点電位における比較用フィードバックとして使用される。設定点電位は、制御電子機器によって可変抵抗ヒーターが所望の動作温度を実質的に達成させるように命令する。電気設定点電位は、手動調整によって、あるいはデジタル−アナログ変換器を通じてコンピュータによって与えることが可能であり、熱量分光に対して時間とともに変化させることができる。
【0124】
本発明の1つの側面は、センシングおよび参照可変抵抗加熱素子にわたる電圧、およびそれらを通る電流の高解像度測定値を受け取るコンピュータを使用する。コンピュータソフトウェアを利用して、次にセンサおよび参照温度HTDおよびそれぞれの温度コントローラの転送機能を予測し、所望のおよび測定したヒーター温度との差を通例0.1〜0.2℃以内に調整して、最小限にするよう操作する。触媒生成熱は上述の動作中のセンシング素子に加えられたり、それから引かれたりするため、素子をその所望動作温度に維持するために必要な電力は、センシング素子を実質的に所望の温度に維持するためにそれぞれ下降または上昇させられる。
【0125】
図12に示す実施形態において、その比が加熱素子抵抗を表すアナログ信号も、2台の追加のアナログ乗算器−除算器構成要素への乗じられた入力として与えられる。アナログ乗算器出力は、センシングおよび参照ヒーター素子を実質的に同じ温度に維持するために必要な電力の連続表示である。乗算器出力間の電位差は、センシングおよび参照加熱素子に印加される電力差を表し、それによりセンシング素子における触媒反応から生じる熱流の規模および方向を示す。本側面において、電力差信号は微分器回路を用いて数学的に微分され、その出力は次に動作中のセンサへの触媒生成熱流の変化率を表す。この出力は、動作中のセンサが観測している特定の分子のあらゆる濃度変化の、実質的な中間通知を与える。
【0126】
濃度および濃度の変化率データは、センサから連続的に入手可能であるため、本発明は、一時ガス濃度の分析などの汚染物質の連続監視が望ましい用途での使用にただちに適合する。さらに本センサは、センサ自体および電子構成要素を相互に、かなりの距離で配置することが望ましい場合のサンプル分析に適している。本機能により、プローブを流体流中に直接配置しなければならない場合や、自動車排気システムなどのフィードバック制御下で他の電子装置と組合わせなければならない場合に、装置を使用することが可能である。
【0127】
上述のセンサおよび参照抵抗(R=E/I)を計算するために使用される、センシングおよび参照素子電圧降下および電流の高分解能測定は、センシングおよび参照素子に印加される電力の差(P=E・I)および動作中および参照可変抵抗加熱素子の差の変化率(dP=dE・dI)をデジタル計算するために使用できる。デジタル手法は、デジタルコントローラが利用可能であり、連続デジタルシステムに固有の時間遅延が許容可能である場合に代表的な手法となる。抵抗および電力の計算で誤差を生じうる測定の不一致を最小限にするために、同じ参照電圧を、すべての設定点制御信号を使用するために、およびセンシングVRHおよび参照VRH素子にわたる電圧降下、およびそれらを通じた電流のすべてのデジタル概算値に使用される、アナログ−デジタル変換器への参照入力として使用することが通例である。
【0128】
したがって標的分子と触媒コーティングHTD表面との間の独自の相互作用(酸化、還元、吸着、脱離、酸−塩基反応、水素結合プロセス、ファンデルワールス相互作用、静電相互作用、結合生成反応、結合破壊反応、またはその組合せのいずれか)は、未コーティング(または別にコーティングされた)参照HTDに関して、電子信号をボルト、電力、または他の好都合な単位で与える。所与の温度にて特定の表面から所与の分子を脱離するために必要な電圧も独自であり、参照に関する温度対電圧特性は、分子およびその濃度を独自に識別する。
【0129】
それゆえ本発明が、これに限定されるわけではないが以下を含めて、以前のセンサと多くの点で異なることがわかる。本発明は、高温検知方式と同様に低温検知方式が可能であり、標的分子と触媒コーティングとの間の任意の種類のエネルギー相互作用が検知目的に使用できるため、標的分子の燃焼を故意に引き起こさない。本発明はさらに、センサおよび参照温度を調節するプロセスで望ましくないノイズが生じる切換方法ではなく、連続した独立温度制御システムを使用する。それゆえ滑らかで迅速な温度制御は、ブリッジ回路および測定感度のその固有の還元を使用せずに実現される。本発明の検知器において、複数のセンサ素子が同時に配置され、1個の参照素子を共有する。低電圧回路の使用は、センサのバッテリ動作を可能にし、本発明は、発熱性または吸熱反応のどちらかを使用して分子を検知する能力を提供し、多大な汎用性を供給する。通例本発明は、制御パルスの範囲を平均するのではなく、参照の測定値について連続的に電力変化を計算する。さらに、温度掃引は、本発明によって比較的迅速であり、ガス濃度変化による安定化は迅速である。
【0130】
熱量分光動作方式での標的分子および物質を検知する電子機器構成要素
前節は、センシングおよび参照素子が、各センサで1個の標的物質を検知するために一定温度運転で、ケルビン回路トポロジーを用いて信号調整電子機器に接続される方法を詳説した。本節は、可変温度、熱量分光方式で検知器を操作することによって、複数の標的種の、1個のセンサでの検知が達成される方法を詳説する。検知の本可変温度方式は、センサ温度を長期にわたって循環方式で変化させることと、熱量反応を温度変化の全範囲にわたって連続的に監視することとを含む。本プロセスは、ただちに入手可能なパターン認識ソフトウェアによって解析可能である特定の分子が、熱量反応対温度の規定パターンによって特徴付けられるデータを生じる。それゆえ、特定の触媒コーティングに関して、特定の物質が一部の規定温度範囲にわたって反応の一部の規定パターンによって検知されるが、一部の他の規定温度範囲で現れる一部の他の規定パターンにより、同じ触媒にて別の物質が検知される。利用される厳密な触媒コーティング、および横断される温度範囲は、その特定のセンサを用いて測定される標的種を指示する。熱量反応対温度パターンは大半の場合実験により決定されるが、標的分子−触媒相互作用の定性的理解は、酸化触媒を形成する金属の周期律表における位置などの特徴に基づく触媒の化学特性と同様に、標的分子の官能基および静電特性の知識により得られることに注意する。
【0131】
熱量分光(可変温度)方式は、プログラム温度対温度特性を含み、そこで検知器温度を、特にセンシングおよび参照素子の両方で規定の方法で変化させる。センサアセンブリを熱量分光方式で動作させる場合、異なる分子が触媒コーティングセンサと相互作用して異なる温度にて異なる反応を与えるため、1個のHTDセンサを用いて複数の標的物質を検知することができる。
【0132】
本発明の熱量分光方式の非常に有用な機能は、通例異なる触媒でそれぞれコーティングされ、通常(しかし必ずというわけではないが)実質的に同じ瞬間温度においてであるが、すべてが可変温度式で動作する、複数のセンサを利用して多次元データセットを収集することができる。各センシングおよび参照素子が個別かつ実質的に同一温度制御ならびに監視電子機器によって動作される場合、温度を循環かつ同期して変化させるときに、各センサからの相関可能な熱量反応が観測される。この方法で、規定の温度循環プログラムによって多次元データを収集することによって、複数の標的分子が同時に検知および測定できる。熱量分光方式に適した複数のセンサアレイの1つの実施形態を、7個のセンサ素子および1個の参照素子の並列または放射機構を描いた図7に示す。
【0133】
図4および7の検知器は通例、センサVRHおよび参照VRHの瞬間温度が実質的に同一となるように制御される、ゼロ平衡測定方法を用いて動作する。同じ温度の2個のVRH素子間には理論的に熱流がないため、各VRH温度コントローラは、もう1個のVRHからの熱伝達によって本質的に影響を受けない。伝導、放射および対流によって、これらの熱伝達装置表面から生じる熱流の速度が温度循環が起こりうる迅速度を決定するため、サンプルガス流がセンシングおよび参照VRH素子を冷却する第一の手段であることが好ましい。さらに、温度循環特性に比較的高温限度を含めることによって、さらなる測定を妨げる残留吸収物質を触媒から除去する準備をする。
【0134】
パターン認識および画像処理の各種分野で決まって使用される標準多次元相関技法は、規定され、電子的に格納された反応パターンを参照するよう適合させることができる。これらの参照パターンを使用して、熱量反応から実験的に得られたデータを比較および認識し、それにより特定の分子を識別することができる。本方法は、ほぼリアルタイムで複数の標的分子の存在および濃度を実質的に同時に識別する。この動作方法のための電子機器は、質量分析、核磁気共鳴およびフーリエ変換赤外器具などの標準分光測定分析器具で見られる、またはそれらから改造されたなどの、標準パターン認識ソフトウェアと組合わせて、データ収集を実施するようプログラミングされる。
【0135】
本明細書で述べる多次元マルチセンサ検知器は、各センサで同時に発生する観測エネルギー流(例えばジュール/秒、またワットで)を検知するための器具および方法より成る。熱分光は、閉ループ制御システムによって検知器温度変化を循環方法で設定することと、複数の電気VRH抵抗制御システムにより設定された温度変化のスペクトル内の各種の温度に関連する検知器電力散逸の概算値を記録、表示および解析することによってによって実現される。温度変化は明らかに、広い範囲、狭い範囲にわたって広がるか、検知される特定の標的分子の任意のセットにとって有用であるように、実質的にゼロを維持することさえできる。
【0136】
制御システムがVRH電気抵抗をスムーズに調節する機能は、多次元検知で特に有用である、検知器出力の基本的な分解能を確立する。VRH電気抵抗のスムーズな調節は、VRH電気抵抗を電圧および測定値から推定する能力に依存する。アナログ除法手段、例えばアナログ装置AD538は、実質的に同じ瞬間に観測され、10、000分の1の分解能を実現可能である信号によって本質的に動作する。デジタル−アナログ変換は、はるかに高い分解能を実現可能であるが、アナログレベルのデジタル概算値からの乗算および除算の結果は、概算値が得られる時間から本質的に遅延し、通例、直接アナログ処理によって得られた分解能より劣る最終的な分解能を示す。それゆえ測定システム全体の性能は基本的に、実施例17で詳説するように、検討中の機械設計に適した熱モデルにより解析可能である、検知器の性能によって制限される。
【0137】
電子例としての、熱量分光方式におけるセンサ動作の熱モデル
図14および15は、本発明の2つの別の側面の熱力学モデルを示す。これらの熱力学モデルは、すべての測定および動作方式に有用であり、モデル化構成の性能および制限の有用な予測を与えることができる。図14は、触媒コーティングセンシングVRHおよび参照VRHが図3に示すように別個の本体に位置する、電子例によるセンサアセンブリおよび動作の1つの熱力学モデルを示す。図15は、触媒コーティングセンシングVRHおよび参照VRHが図4に示すように同一のセラミック本体に位置する、分析および計算の便宜のための電子例によるセンサアセンブリおよび動作の1つの熱力学モデルを示す。どちらの場合においても、センサおよび参照VRH素子の両方は一般に、実質的に同じ瞬間温度を達成するように電気的に加熱される。電気制御システムは、一部の測定方法においては、HTD温度が一定に維持されるが、通例時間の関数として循環的に変化する適切なHTD温度を設定する。ヒーターは、通例(しかし必ずではないが)正の温度抵抗係数を備え、温度とともに単調に変化する電気抵抗を持つため、ヒーターの瞬間温度は、HTDの電気抵抗を観測することによって概算することができる。温度制御は、電源としてモデル化されたセンサまたは参照電力源から到着する電力の散逸によって、HTD電気抵抗を制御する手段によって行われる。
【0138】
図14および15の概略図が示すように、本可変温度分析での温度レベルおよび時間履歴を概算すると、熱エネルギーの代用は電荷であるが、温度の代用は電位である。熱抵抗および熱容量は、電気抵抗および電気容量としてそれぞれモデル化される。同様に温度変化の熱力学は、電流の時間履歴および生じた電位によってモデル化される。それゆえHTD素子は、電気エネルギーを実質的に同量の熱エネルギー(例えばどちらもジュールで測定される)とセンサおよび参照電力源によって示される測定速度(例えばジュール/秒またはワット)にて交換する。吸熱および発熱プロセスはどちらも本発明に含まれるため、本エネルギー変換は、両方向に実施可能である。HTDにエネルギー散逸は、標的分子が接触する、触媒の外部表面および触媒下のわずかな深さ、すなわち「表皮」領域の温度を、熱エネルギーが熱抵抗のネットワーク(熱エネルギー流速度(℃/ワット)によって引き起こされる温度降下を示す)を通じて表面から離れる速度によって、表面に到着する熱エネルギーの速度がバランスを保たれる温度まで、指数関数的に上昇させる。観測された指数関数的な温度変化を説明する時間定数は、熱抵抗および容量によって同様にモデル化され、格納された熱エネルギーの単位あたりの温度変化(℃/ジュール)で定義される。
【0139】
HTDセンシング素子での触媒物質の存在は、HTD参照素子に比較すると、触媒活性の各種方式による、発熱性または吸熱性のどちらかの熱エネルギーの移動に備えている。独立電子制御システムは、HTDセンシングまたは参照素子に印加される電力を変化させて、その電気抵抗が時間の関数として実質的に同じ瞬間温度を生じるようにする。触媒または電気エネルギー源のどちらかに由来するエネルギー(ジュール)は、実質的に同じ熱効果を持ち、したがって触媒発生型エネルギーを、電気発生型エネルギーへ互換的に置換しながら解析することができる。触媒発生型エネルギーの送達(到着または出発)速度は、センサおよび参照HTD素子の所望の電気抵抗を維持するために必要な電力レベルの差によって概算できる。
【0140】
電力を散逸させる必要なく、所望のHTD電気抵抗が得られたときに熱飽和が起こる。それゆえ熱飽和は、触媒活性から到着する熱エネルギーの速度が、触媒活性のないHTD電気抵抗を維持するのに必要な電力と同じか、それ以上である所与の周囲条件にて生じる。熱飽和に対するセンサの感受性は、センサが熱エネルギーを移動する各種の周囲温度およびセンサがその周囲に熱エネルギーを送達する機能によって変化する。これらの熱モデルの重要な機能は、センシング素子にて熱飽和を生じる触媒活性の速度を概算するために使用できることである。
【0141】
熱飽和は通例、オフセット測定方法を使用する場合に、測定範囲を制限する。しかしセンサHTDの温度が触媒活性によって上昇する場合、触媒温度がより高くなると、標的分子を観測するための最適条件を維持できないことがある。この効果は熱離調と呼ばれる。
【0142】
センシング素子の熱機械構造は、材料、物理寸法、センシング素子の取付け、および所期のHTD動作温度よりも実質的に低い温度にHTDを維持する速度にて、熱エネルギーを伝導、対流および放射によって離脱させる流動条件を選択することにより設計される。例えばより高い絶縁値を持つより長く、小さい断面積の材料によって、センサHTDをそのホルダーから分離すると、熱抵抗が上昇する。より小さい熱容量を持つ材料より成るセンサ本体は、HTD熱容量を減少させる。ガス流へのより大きな熱伝達は、より低い温度環境への放射と同様に、熱抵抗を低下させる。HTDが取付けされる通路の内部が研磨金属、銀めっき、金めっきなどである場合、放射熱伝達は最小限となり、放射による熱抵抗は上昇する。実際問題として、検知器が最初に作製され、続いてその性能が決定される。次に検知器の設計が調整されて、物理機構を調整することによってより高い有用性が実現され、さらに適切な熱抵抗および容量が実現される。明らかに低レベルの触媒活性に対してセンシング素子がより感受性になると、センサは熱飽和に対してより感受性になる。
【0143】
図14および15モデルの別の特徴は、関連参照素子のHTDの抵抗に対する、センサの温度変化の影響を概算する機能である。センシングと参照HTD制御システムとの間のクロストーク相互作用は、この影響によって作動される。設計により、実質的に同一の瞬間温度におけるセンシングおよび参照HTD素子の動作は、検知器温度が熱分光計の制御下で変化する場合でさえ、センサから参照への最小熱エネルギー流を引き起こす。
【0144】
HTDセンサ装置および方法のさらなる用途
上述の本センサ装置を使用する用途および方法に加えて、本発明を使用する他の多くの用途および方法がある。以下の実施例は、本発明のセンサおよび方法の多くの可能な用途の代表であり、網羅的であると見なすべきではない。どの標的種でも、その種の定性および定量分析は、任意の分析技法のための通常の方法で実施され、標的種を固有に識別するために実施例に示すような独自の抵抗(温度に比例)対電力プロットまたは電流対電圧プロットを用いるか、および/または定量情報を得るために濃度標準に対する反応を判定する。
【0145】
本発明の可能な用途の実施例は、迅速で、非侵襲的な、病状の測定および決定を含む。例えばグルコースレベルが計算できる、アセトンのメチルエチルケトンに対する濃度および比を判定することができる。特定の窒素代謝産物の存在を決定して、血流中のアヘン剤の存在および濃度を判定することができる。運転者、トラック運転手、バス運転手、列車技師、大型船ならびに荷船船長、パイロット、重機オペレータ、陸上選手、または患者のの血中アルコールレベル、呼気または汗中の薬剤、または薬剤副生成物の試験は明らかに、違反種またはその分解生成物の直接測定によって得ることができる。戦場での負傷の迅速な評価も、手術中の麻酔剤濃度の直接測定と同様に可能である。本発明を用いて手術前、手術中、手術後に患者をあらゆる病状について監視することも可能であり、このことは意識のない、または非協力的な患者に特に有用である。本発明を用いると、気相物質分子の形成を誘起させることができる種、病原体およびその他―薬剤、薬剤副生成物、代謝産物、症状または疾患の指標、または症状前駆体のいずれにせよ−を検知することができるため、あらゆる疾患および症状が検知できる。本機能は、癌、心臓疾患、腎機能、肝機能、および無数の他の内部病状診断において本発明を有用にしている。
【0146】
本発明のセキュリティおよび対テロリズム用途は同様に広範である。爆発性および爆発性残基は特に、乗客、機内搭乗員、地上勤務員、あらゆるタイプの空港勤務員、手荷物、航空貨物、およびあらゆるタイプのコンテナをスクリーニングするために、連続気相サンプリングによって検知可能である。セキュリティチェックポイント、搭乗ブリッジ、待合室、航空機、手荷物保管区域、荷物車両、給食車両、燃料および保守車両などは、検知目的でこの種の小型装置を装着することができる。同様に装置は、航空機に近接した地表面を含めて、検知が重要であるどの場所にでも配置できる。多くの状況において、複数のセンサを同時に使用する分子濃度測定は、どの用途においても標的物質源を三角法で測量して、位置決定するために使用できる。重要なのは、生物兵器および危険は、化学兵器と同様に本発明によって検知され、それによってテロリズムに対する戦いで特に有用となることに注意することである。それゆえ炭疽菌、天然痘、他の単または多細胞生物またはウィルス、およびその他はすべて、特定の温度にてこれらの種を特定の触媒表面に結合させる独自のエネルギー特性により、本方法によって検知することができる。これらの装置は、その携帯性により、潜在的なテロリストの攻撃や有害な化学薬品の流出または浸透が発生したおそれのある場所で毒素を監視するために非常に適している。本発明は、火山および地震予測データの、地質起源の特徴的なガスの連続監視にすら使用できる。
【0147】
本センサ装置は、その移動性によって自動車、有人または無人飛行機、ボートなどへの配備に利用できる。さらに検知器は、検知のための小型の携帯型装置を供給するために小型化することができる。本特徴は、例えばDEAによる薬剤検知のための、またはNOAAによる大気検査のための、モバイルまたはリモートセンサを用いたEPA準拠のセンシング動作においてなど、どのような現場条件下でもセンサの使用を可能にする。センサ動作事態はただちに自動化可能であり、センサからのデータは、分析のために遠隔データ監視局に送信することができる。さらに軍隊および警察部隊は、禁制物質、爆発物、化学または生物剤およびその他などの存在を判定するためにそのような装置を使用することができる。有蓋車、コンテナ船およびその他においてその中身を輸送のために牽引トレーラートラックに荷降ろしする前に、分子をセンシングする機能は、セキュリティ対策を大幅に促進および向上させる。本センサは、無人飛行機に設置して、全地球測位衛星(GPS)データを用いて、規定の飛行パターンを飛行して、位置に相関する濃度データを供給することによって、非合法または危険物質の検知を行うことができる。本例において、濃度データのマップによって、標的物質の発生源位置をただちに発見できる。
【0148】
これらの装置を用いた検知は、十分に安価かつ迅速であるため、港を通じてこの国に入る本質的に100%のコンテナ、トラックまたは鉄道により国境を渡るコンテナ、およびあらゆる手段で米国に入るすべて乗客のすべてのバッグを検査することができる。本発明はさらに、いかなる方法においてもその範囲に制限を課すると解釈されるべきではない、以下の実施例によって例証する。これに対して、手段は多様な他の実施形態、修正およびその同等物を持ち、本明細書の説明を読んだ後に、本発明の精神または添付請求項の範囲を逸脱せずに、当業者に自明となることが、明確に理解されるはずである。
【実施例1】
【0149】
粉末触媒を用いたVRHセンサ素子の構成
VRHセンサは、以下のように、予備成形された粉末触媒を用いて作製した。本センサは、オフセットまたはゼロ平衡測定方法のどちらかを用いて、シングルチャネル(シングルエンド)方式またはデュアルチャネル(示差)方式のどちらかで動作可能である。VRHは、シングルフィラメント、12ボルト、Sylvania#53ランプで構成されていた。電球アセンブリのガラスを注意深く割り、除去することによって露出させた。フィラメントはいったん露出させた後、すべての側面を、使用説明書に従って新たに調製したM Bond 600 歪ゲージ接着剤(Vishay Measurements Group、Raleigh、North Carolina)によってコーティングした。コーティングの直後に、フィラメント表面を360メッシュ触媒粉末によって完全に覆われる。したがってM Bond接着剤は、フィラメントを不動態化することと、触媒コーティングをフィラメントに接着させることの2つの機能を果たす。本方法で試験を行った粉末触媒はすべて、一貫性を保つために360メッシュサイズとして塗布される。フィラメントコーティングが完了したとき、電気リードを取付けたフィラメントアセンブリを予熱した120℃のオーブンに入れ、3時間硬化させた。オーブンを切って、約30分間、室温まで平衡にした。
【実施例2】
【0150】
耐高温性コーティングを作製するために電気めっきを用いたVRHセンサ素子の構成
VRHセンサ素子は、耐高温性コーティングを作製するために電解溶液を用いて、以下のように作製した。本センサは、触媒粉末の接着剤が高い動作温度に耐えられない場合に最も有用である。本明細書で述べるセンサは、シングルチャネルモードまたはデュアルチャネルモードのどちらかで動作可能である。シングルフィラメント、12ボルト、Sylvania#53ランプより成るVRHは、実施例1に述べるように得た。ある長さの24ゲージ銅ワイヤを陽極として用いて、コイルからの導電ワイヤを定電圧源(Cole−Palmer Instrument Co.Insteck直流電源、#PS−18300)に接地接続を通じて接続した。銅線を同様に、正の電圧接続で定電圧源に接続した。電気接続フィラメントコイルと銅線の両方を0.01%硫酸銅水溶液に接触させた。電圧源は、4秒間、回路に0.05アンペアを印加して、フィラメントに銅の層を電気めっきした。銅コーティングコイルを溶液から取り出し、水で洗浄して過剰な硫酸銅を除去し、空気乾燥した。次にコイルを3Vおよび.03アンペアの電圧源に接続することによって、15分間、温度93℃にして、その後、放冷した。本加熱ステップは、銅コーティングをセンサVRH素子上で酸化銅コーティングに変換した。
【実施例3】
【0151】
VRH参照素子の構成
VRH参照素子は以下のように作製した。シングルフィラメント、12ボルト、Sylvania#53ランプより成るVRHは、実施例1に述べるように得た。本フィラメントを次に、M Bond 600のコーティングをフィラメントに塗布し、次いでただちにコーティングM Bondフィルムを360メッシュ酸化アルミニウム(Alfa Aesar#42572)で塗布することによって不動態化した。その塗布は、実施例1で述べた触媒粉末と同じである。M Bond 600とともに塗布された酸化アルミニウム粉末を使用すると、フィラメントがより高い動作条件に耐えるのに役立つ。フィラメントコーティングが完了すると、電気リードを取付けた本参照VRHを予熱した120〜125℃のオーブンに入れ、3時間硬化させた。オーブンを切って、約30分間、室温まで平衡にした。
【実施例4】
【0152】
シングルセンサHTDを用いたセンサアセンブリの構成
図16のセンシング素子の実施形態の構成は、示差HTD測定よりもシングルHTDに適している。本実施例で述べるように、本実施形態は、同時にセンサおよび参照の両方を備えているのではなく、センサHTD素子または参照HTD素子のみを備えた変換器チューブを有する。実施例1による硬化させたセンサアセンブリは、センサ回路の両側の箇所での増幅器回路との接続のために、ランプの円筒状金属ホルダーにはんだ付けされた2本のワイヤ180を持つ。さらに、ランプの金属フィラメントホルダーは、ヒーターフィラメントのV字形ループを支持する。金属ホルダーは、ガラス変換器チューブを通じて固定するために、図16に示すようにビニルグロメット185によって包囲される。
【0153】
内径約23mmおよび長さ約75mmのガラスチューブ190(Pyrex #7740チューブ;Wale Co.、Inc.#BS−022)には、図16に示すようにランプグロメットアセンブリを安定した方法で支える、切欠き195が中に配置されている。切欠きのない別の同じガラスチューブ190をチューブ−VRHセンサの上に置いて、図16には示さないがマスキングテープ(例えば、3M general purpose Masking Tape、#2050)で所定の位置に固定する。ガラスチューブの接合点のさらなるエア漏れは、Super Glue’s Handi−Tak(#5059596)などの化合物によって防止することができる。コルク(Cole−Palmer #7754〜18)200に穴を開け、チューブ205(例えばK & S Engineering Round Brass#1148)を図16に示すように各穴に挿入して、器具全体に空気を通過させる。
【0154】
ある長さのポリ塩化ビニルチューブ(Fisher Scientific Co.#14−176〜217)210を両方の金属製ガスチューブの上に配置する。一方のチューブを真空ポンプ215(ASF Thomas、G 6/04EB# 0108000776)に接続し、もう一方のチューブを気密コンテナ220(US Plastics#65019)に接続する。サンプルコンテナ220の容量は約5ガロンまたは約19リットルである。温度計を収容するのに適した別のチューブ225を、温度計230を装着し、気密性にしたコンテナ220の壁を通じて挿入する。ポンプ215は低い流速(Cole Palmer’s mass flow detector u−32600−02によって指示されるように)を用いて作動させ、コンテナ220からのガスを図16に示すようにセンサチューブ内に、および排出された後にセンサアセンブリ175へ吸引する。検知器動作時間中の空気流は低く(約1mL/分)、動作時間は比較的短時間であり、コンテナ220からわずかなガスが除去される。通例、検知動作時間の後、温度計230とそのチューブ225との間のシールが破られて、大気圧平衡となる。
【実施例5】
【0155】
標的種を検知するためのシングルチャネルVRHセンサの低温動作
本発明のVRHセンサは、以下のプロトコルを使用して、標的種を検知するために低温範囲で動作する。本実施例は、より簡単なシングルVRHモードを使用した検知器動作を示し、ここでは標的分子のデータを収集するのに用いたのと同一の条件下で、ある温度範囲にわたって最初に空気中でデータを収集した。次に環境変動による系統誤差を実質的に補正するために、背景(基準、非反応性空気)データを標的分子データから引いた。センサの動作中に、IR検知器(Infrared Thermometer#U−39800−02、Cole−Palmer Instrument Co.)を用いてコイルの温度を測定した。
【0156】
サンプルコンテナ220に添加したサンプル液体またはガスを用いる代表的な検知試験は、以下のように実施する。液体の気化またはガスの完全混合の後に既知の分子濃度を達成するよう計算された既知量の液体またはガスサンプルを、既知の体積を持つコンテナ220に加える。液体の場合、コンテナ220を約30秒振盪し、次いで約1時間放置して液体を完全に気化させる。加熱パッドを用いて、液体の気化とサンプルガスの所望温度への調節を補助するために、コンテナをゆっくりと加熱することができる。約75〜85°Fの温度を通常使用した。
【0157】
信号調整電子機器をオンにして、ガスの温度を測定し、真空ポンプを作動させ、低ガス流(約1mL/分)を開始させた。ガス流は、Cole Palmer’s mass flow meter U−32600−02で監視した。ガス流路全体の標的分子濃度が一定にするために、検知開始の約1分間の間、ガス流を継続させた。シングルHTD動作では、基準を作成するために、標的種を含まない5ガロンコンテナによる空気サンプルに対する検知スキャンを最初に測定した。次に2回目の同じ検知スキャンを興味のある標的種を用いて調製した、5ガロンコンテナから取ったサンプルに対して行う。ある範囲のHTD温度にわたって標的分子および非反応性空気のデータを収集した後、空気のデータを標的分子のデータから引いて、所望の絶対分子データを得た。上の実験を確認のために、オフセット方式で示差測定を用いて反復した。
【実施例6】
【0158】
VRHセンサのシングルチャネル動作に関するデータ処理
データ解釈は以下の方法で、センサ温度を維持するために必要な電力を、標的分子濃度に関連付ける。電力(例えばワット)は、センサおよび参照での電圧および電流の瞬間の積である。電力は、センサにおける熱流として、例えばジュール/秒でも表現する。多様な物理および化学プロセスによってセンサにて生成または消費されるエネルギーは、温度、触媒、ガス流速度、および標的分子などの条件の所与の組合せに関する、放出または吸収される熱となっている。熱が放出または吸収される速度は、標的分子濃度に比例し、したがって電力は、分子濃度に比例する。
【0159】
標的分子と触媒コーティングセンサとの相互作用は、分子と触媒との相互作用から生じる熱交換を引き起こす。この相互作用による熱交換は、センサ温度の変化を引き起こす傾向がある。センサ器具の電子構成要素(図12および13)を使用して、センシング素子を実質的に所望の瞬間温度を維持するが、これには分子濃度に応じてある量の電力の追加(または散逸)が必要である。実質的に所望の瞬間温度を維持するために必要な電力は、図12および13の電子回路によって供給される非触媒電気「熱出力」、あるいは標的分子と触媒との間のある種の物理または化学相互作用を通じて発生する「触媒出力」のどちらかに由来する。標的分子の濃度が比較的高い場合、ほとんどまたは実質的にすべての電力は、触媒源から発生する。分子濃度が低いと、望ましい場合、温度を実質的に維持するために必要な、より高い割合の電力を、本発明の電子回路により供給する必要がある。結果として、センサ温度を維持するために必要な電力が少なくなると、所与の温度を維持するために、より大量の触媒出力が利用でき、したがって、サンプルガス中に存在する標的分子の濃度が高くなる。反対に、センサ温度を維持するために必要な電力が大きくなると、利用可能な触媒出力の量が小さくなり、サンプルガス中に存在する標的分子の濃度が低くなる。
【0160】
温度、電力、および分子濃度との間のこのような関係の結果として、電力および温度データを以下のように使用する。X軸上のセンサ電気抵抗(温度に比例)対Y軸上の電圧または電力(電気または触媒のどちらか)のプロットは、X軸に沿ったその形状、位置および大きさが、条件の所与の組合せに対して標的分子を、その濃度と同様に固有に識別するのに役立つ曲線を生じる。温度範囲は、図に与えたデータに示されている。曲線の形状および位置に影響を及ぼす条件は、これに限定されるわけではないが、使用される特定の触媒、触媒トポロジー、標的分子、センサ温度、およびその他を含む。曲線変動の大きさに影響を及ぼす条件は、これに限定されるわけではないが、標的分子の濃度、および熱飽和および存在する場合は、増幅器飽和などの信号調整条件を含む。それゆえ他の条件と同様に、異なる触媒、温度、トポロジーを使用することによって、さらに固有の識別曲線が得られる。
【実施例7】
【0161】
n−プロパノールからイソプロパノールを区別するためのVRHセンサの低温動作
実施例5および6に詳説したプロトコルを使用して、n−プロパノールからイソプロパノールを識別および区別するためにセンサ装置を使用できる。図17は、センシングVRHにコーティングされた酸化スカンジウム触媒を用いて低温方式で検知された、空気中の0.01%(体積/体積)イソプロパノールおよび0.01%(体積/体積)n−プロパノールについての、電力対温度のプロットである。サンプルガス流速は温度28℃のインレットガス温度にて、2mL/分であった。2種類のアルコールのデータを2回の個別の動作にて得た。これらのデータは、イソプロパノールおよびn−プロパノールの固有の電力対温度曲線が、明白な識別を可能にする方法を示す。
【実施例8】
【0162】
ニトロベンゼンを検知するためのVRHの低温動作
実施例5および6に詳説したプロトコルを使用して、ニトロベンゼンなどのニトロ化合物を識別および測定するためにセンサ装置を使用できる。図18は、酸化スカンジウム触媒でコーティングされたセンシングVRHを用いて低温方式で検知された、空気中の0.01%(体積/体積)ニトロベンゼンについての、電力対温度のプロットである。サンプルガス流速は温度28℃のインレットガス温度にて、2mL/分であった。これらのデータは、電力対温度曲線が所与の条件の組合せに対してニトロベンゼンを固有に識別する方法と、この曲線が同一の検知条件下でも、イソプロパノールおよびn−プロパノールなどの同様の化合物のデータからただちに区別される方法を示している。
【実施例9】
【0163】
酸化スカンジウム触媒にてエタノールを検知するためのVRHセンサの低温動作
実施例5および6に詳説したプロトコルを使用して、エタノールを識別および測定するためにセンサ装置を使用できる。図19は、酸化スカンジウム触媒でコーティングされたセンシングVRHを用いて低温方式で検知された、空気中の0.01%(体積/体積)エタノールについての、電力対温度のプロットである。サンプルガス流速は温度28℃のインレットガス温度にて、2mL/分であった。これらのデータは、電力対温度曲線が所与の条件の組合せに対してエタノールを固有に識別する方法と、この曲線が同一の検知条件下でも、イソプロパノールおよびn−プロパノールなどの同様の化合物のデータからただちに区別される方法を示している。
【実施例10】
【0164】
酸化銅触媒にてエタノールを検知するためのVRHセンサの低温動作
実施例5および6に詳説したプロトコルを使用して、エタノールを識別および測定するためにセンサ装置を使用できる。図20は、酸化銅触媒でコーティングされたセンシングVRHを用いて低温方式で検知された、空気中の0.01%(体積/体積)エタノールについての、電力対温度のプロットである。サンプルガス流速は温度28℃のインレットガス温度にて、2mL/分であった。これらのデータは、電力対温度曲線が所与の条件の組合せに対してエタノールを固有に識別する方法と、この曲線が、触媒以外は同一の検知条件下で、別の触媒と相互作用する同一の化合物のデータからただちに区別される方法を示している。この区別は、触媒を変えたときの分子−触媒相互作用に関するエネルギー特性の相違の直接的結果である。
【実施例11】
【0165】
示差測定用のセンサアセンブリの構成
示差HTD測定動作に適したセンサアセンブリは、図21に示すように変換器チューブ内にセンシングおよび参照VRH素子の両方を含むことが必要である。そのようなアセンブリは以下のように構成される。実施例4で述べられ、図16に示すランプ−グロメットアセンブリ(175、180、185)を収容するための切欠きを持つガラスチューブ190(Pyrex#7740 チューブ;Wale Co.、Inc.#BS−022)は図21に示すように、第一の切欠きと正反対のチューブ側部に位置する、第二の切欠きを備えている。一方の切欠きは実施例1で作製したセンシングVRH素子を装着し、これに対して第二の切欠きは実施例3で作製した参照VRH素子235を装着している。これらの素子は、実施例4でシングルチャネルのセンサアセンブリについて述べたのと同様の方法で固定する。
【0166】
1/16インチ銅チューブ240は、均整のとれた長方形245を貫通させ、エポキシ(Devon S210−21045)でそれに接着する。図21に示すように、長方形245の主軸をガラス流チューブの側面と平行に向け、チューブの中心線に一致させる。センサと参照VRH素子との間の放射加熱を防止するための熱シールドとして主に作用するアルミニウム箔250の薄いシートで、長方形245の両側面を覆う。アセンブリの残りの部分は、図16および実施例4と同じである。
【実施例12】
【0167】
標的種を検知するためのデュアルチャネルVRHセンサの高温動作
本発明のVRHセンサは標的種を検知するために、以下のプロトコルを用いて高温範囲で動作する。本実施例は、センシングVRH素子および参照VRH素子の両方を使用するデュアルチャネルまたは示差測定方式を用いた検知器動作を示す。サンプリング器具は、実施例5および6で述べた低温測定と同様にVRHセンサ用の同一の物理構成を使用する。触媒を用いずに作製したVRH参照素子は、VRHが空気と接触するのを防止するために不動態化する。IEEE Instrumentation & Measurement Magazine 1998、1巻(1号)、6−15頁および米国特許第5、371、469号(どちらも参照により本明細書に組み入れられている)で述べられているようにアンダーソンループ測定回路トポロジーを用い、および示差測定方式を用いて、センシングおよび参照VRH素子の両方を接続することによって、出力電圧信号は、データから一次系統誤差を除去するための、さらなるデータ処理を必要としない。
【0168】
代表的な高温測定試験は、実施例5で述べた低温試験で使用されたのと実質的に同じ方法で実施した。シングルHTD動作と示差HTD動作のどちらも、低温または高温範囲のどちらでも使用できることに注意する。本実施例において、高温−示差HTD動作は、センシングおよび参照VRH素子接続するために、アンダーソンループ増幅回路を利用した。センサの動作中、コイルの温度は、IR検知器(赤外温度計#U−39800−02、Cole−Palmer Instrument Co.)を用いて測定した。
【0169】
代表的な検知試験において、液体の気化またはガスの完全混合の後に既知の分子濃度を達成するよう計算された既知量の液体またはガスサンプルを、既知の体積を持つコンテナに加える。液体の場合、サンプルコンテナを約30秒振盪し、次いで約1時間放置して液体を完全に気化させる。加熱パッドを用いて、液体の気化とサンプルガス温度の上昇ならびに調節を補助するために、コンテナをゆっくりと加熱することが可能であり、この場合、熱平衡もこの1時間の間に同じく生じる。
【0170】
ガスの温度を測定し、真空ポンプを作動させ、低いガス流(約1mL/分)を開始させる。ガス流路全体の標的分子濃度を一定にするために、検知を開始する前にガス流を50〜60秒継続した。デュアルチャネル動作の場合、1回のスキャンのみが必要であり、基準スキャンや基準(空気のみ)スキャンデータを引くことは必要ない。
【実施例13】
【0171】
VRHセンサの示差動作のデータ処理
示差、高温動作時間中にオフセット方法を用いて記録されたパラメータは以下のとおりである。参照VRH対センサVRHでの抵抗(温度に比例する)は電気的に変化させる。X軸上の抵抗のプロットも、VRHの温度に比例する。反応時には触媒表面と標的分子との間のエネルギー伝達が起こり、VRHは発熱プロセスのために触媒加熱される。センサVRH加熱は、回路での抵抗の増大を引き起こし、これは反応による温度変化に比例し、次に消費される標的種の分子濃度に直接関連付けられる。
【0172】
抵抗に直接比例する電圧は、温度とともに上昇する;それゆえ回路から測定された電圧の大きさは、サンプルガス流中の興味のある分子の分子濃度に直接関連付けられる。抵抗対電圧(Y軸)のプロットによって、所与のガス流速度における、その濃度ともに特定の分子の決定が可能となる。ガス流は、実施例5で概説した器具を用いて監視した。最大電圧対対応触媒温度は、所与のサンプルガス流速における分子の所与の濃度に関する識別情報である。
【0173】
電圧、電流、触媒、標的分子、ガス流速度、およびその他のデータの集合は、特定の標的分子を固有に識別する。励起プロセスの有効性は、触媒ごとに異なり、したがって、所与の温度の最大電圧は、利用する特定の触媒によって変化する。したがって、別の触媒を使用すると、その別の触媒が少しでも触媒を誘起するならば、特定の分子および流速に対して、別の温度において別の電圧反応が与えられる。この選択性特性は、異なる触媒を用いて、異なる標的分子の各種の混合物を分解または分離できるという点で有用である。
【実施例14】
【0174】
酸化銅触媒にてエタノールおよびアセトンを検知するためのVRHセンサの高温動作
実施例12および13に詳説したプロトコルを使用して、エタノールおよびアセトンを識別および測定するためにセンサ装置を使用できる。図22は、実施例2のように酸化銅触媒でコーティングされたVRHを用いて高温方式で検知された、空気中の0.01%(体積/体積)エタノールおよび0.01%(体積/体積)アセトンについての、電流(mA)対電位(mV)高温示差スキャンである。サンプルガス流速は温度28℃のインレットガス温度にて、2mL/分であった。
【0175】
図22は、2つの異なる化合物の酸化に必要な異なる温度を示し、これらの2つの化合物を区別する酸化銅の反応性能力を証明している。混乱を避けるために、2つのスキャンは最大反応のみをミリボルトで示す。これらのデータは、温度対電圧曲線に比例する電流が所与の条件の組合せに対して化合物を固有に識別する方法と、化合物が異なる以外は同一の検知条件下で、異なる化合物が同一の触媒にてさえ、ただちに区別される方法を示している。この区別は、異なる化合物の分子−触媒相互作用に関するエネルギー特性の相違の直接的結果である。
【実施例15】
【0176】
センサ動作の熱力学モデル
本発明のセンサアセンブリを動作させるために使用する信号調整電子機器によって満足される必要条件をさらに十分に理解するために、電気回路例によるセンサ動作の熱力学モデルを図14および15に与える。図14は、放射シールドによって隔離されたセンシングVRHおよび参照VRHが個別の本体に存在する、センサアセンブリ熱力学の電気回路類似物を示す。図15は、触媒コーティングセンシングVRHおよび参照VRHが同じ本体に位置する、センサアセンブリの熱力学の電気回路類似物を示す。
【0177】
略語
信号調整電子機器は、以下の略語を用いた図14および15における電気構成要素の類似性によって熱力学的に理解できる、熱流および温度の監視を含むタスクを実施することが要求される。すべての計算が内部的に一致している限り、これらの量のいずれかで異なる単位を使用してもよい。
【0178】
C=熱容量、C=Q/℃
CCF=触媒表面の熱容量
G=センサHTDのゲージ率、単位標的ガス濃度あたりのTcにおける触媒エネルギー流速(ワット/(モル/リットル))。
【0179】
K=オフセット測定方法の校正係数、センサHTDと参照HTDとの間の温度差の、標的ガス濃度(モル/リットル)/℃のリットルあたりの標的ガスグラム分子量、(モル/リットル)/℃
P=電力、熱または電気エネルギー流速のどちらかによる(ジュール/秒またはワット)、P=Q/t
PC=センサHTDに印加された触媒出力(ワット)
PL=熱マージン0での標的分子濃度xで発生する触媒出力
PN=測定ノイズレベルを表す触媒出力の不確実性
PR=参照HTDに印加される非触媒熱出力、通例、電力(ワット)
PS=センサHTDに印加される非触媒熱出力、通例、電力(ワット)
ΔPS=同じサンプルガス中に配置されたセンサHTDに印加される非触媒熱出力および参照HTDに印加される非触媒熱出力の瞬間の差
Q=エネルギー、熱または電気のどちらか、ジュール
R=熱抵抗、R=℃/W
RC=HTD触媒表面からその周囲温度までの全熱抵抗
RCF=HTDの触媒表面からその表面容量までの熱伝達抵抗
RN=HTDの表面からその環境までの熱抵抗変動(ノイズ)
T=温度(℃)
ΔT=温度変化(℃)
T1=熱源の温度
T2=ヒートシンクの温度
TB=HTD本体の温度
TC=触媒熱流が観測される温度
TG=HTDからの熱伝達が対流によって起こるサンプルガスの温度
TH=HTDからの熱伝達が伝導によって起こるHTDホルダーの温度
TM=熱マージン、HTDの温度を制御するために非触媒出力を使用する場合の、最大有効AT
TR=参照熱流が観測される温度、ゼロ平衡測定のTCと実質的に等しく、オフセット測定のTCとは異なるであろう
TS=センサ熱流が観測される温度、ゼロ平衡測定のTCと実質的に等しく、オフセット測定のTCとは異なる
TW=HTDからの熱伝達が放射によって起こる壁の温度
x=モル/リットルで識別される分子の濃度
Δx=識別される分子の濃度の変化
xL=識別される分子の飽和限界濃度
ΔxL=一時的なΔxによる飽和限界濃度の変化
信号調整電子機器は、以下に述べるセンサHTDを実質的に所望の瞬間温度に維持するために必要な電力の変化から、標的分子濃度の測定値を提供する。
【0180】
触媒熱流
PCは、触媒熱流が観測される温度TCにおいて、ガスのある濃度xの存在によって、センサHTDの触媒にて発生した触媒熱流の速度を表す。所与のHTDでは、触媒の利用可能な表面積は特に、TCにて発生する触媒熱流を決定する。
【0181】
Gは、HTDのゲージ率(または感度)として定義される。Gは、ガスサンプル中の標的分子の単位濃度あたりの、センサHTDの触媒にて発生した触媒熱流で、通常、グラム分子量/リットルの濃度である。センサHTDは、かなりの大きさのGを持ち、設計により、参照HTDは本質的にゼロのGを持つであろう。
【0182】
G=PC/x
Gは、発熱性触媒活性では正の値、吸熱性触媒活性では負の値をとる。
【0183】
温度動作の範囲にわたるG対TCのプロットは、サンプルガス中の特定の標的ガスの存在および濃度を識別するのに使用することが可能なパターンである。一部の場合では、Gの最大および最小値は、所与の触媒および唯一の標的分子に固有の温度にて発生する。そのような場合、実質的に所望の瞬間温度における検知器動作は、特に標的ガスを識別するであろう。
【0184】
濃度測定
標的分子の濃度xは、センサHTDの温度を変更するために動作する触媒出力PCの存在下で、センサHTDを所望の温度TCに維持するために必要な非触媒出力の変化ΔPSを観測することによって、ゼロ平衡測定で概算される。
【0185】
x=ΔPS/G
x=PC/G
上で述べた測定は通常、「シングルエンド」測定と呼ばれ、測定結果に影響を与え、したがって悪化させる周囲条件の変動を避けるために注意を払う必要がある。結果として、センサHTDに印加される非触媒熱出力と、参照HTDに印加される非触媒熱出力との間の瞬間が観測される場合、以下のように周囲条件の変動による不確かさは通例、「示差」測定を用いることにより低減される。
【0186】
ΔPS=PS−PR
x=(PS−PR)/G
標的分子の濃度xは、センサHTDの温度を変化させるために動作するPSによりセンサHTDで発生する温度の変化ΔTを観測することによって、シングルエンドオフセット測定で概算される。校正係数Kは、センサHTDの温度変化をサンプルガス中の標的分子の濃度の変化に関連付ける。
【0187】
x=KΔT
標的分子の濃度xは、センサHTD温度を変化させるために動作するPSによるセンサHTDと、xの変動により温度を変化させない参照HTDとの間に発生する温度差ΔTを観測することによって、示差オフセット測定で概算される。
【0188】
ΔT=(TS−TR)
Kの大きさは、特定の検知器ならびに測定方法および非触媒エネルギー制御方法に固有の校正によって決定される。
【0189】
代表的なオフセット測定手法は、センサVRHを所望の温度TCに維持するための閉ループ制御下の励起レベルによって、アンダーソンループ測定回路トポロジーを用いて動作するセンサVRHおよび参照VRHを実装する。アンダーソンループ測定回路トポロジーは、参照によりその全体が本明細書に組み入れられている米国特許第5、371、469号に、およびIEEE Instrumentation & Measurement Magazine 1998、1巻(1号)、6−15頁に述べられている。
【0190】
熱マージン
熱マージンTMは、触媒熱流が観測される温度と、HTDから熱が流れる周囲温度との差として定義される。それはHTDへの非触媒エネルギー入力を低下させることによって得られる最大温度変化であり、以下で述べるように熱飽和の可能性を評価する重要な因子である。
【0191】
TM=TC−TA
TMの大きさを増大させる傾向のある触媒反応の観測は、HTDの温度をTCに維持するために必要な非触媒熱エネルギーを低下させる傾向がある。
【0192】
電力散逸は通例、非触媒熱エネルギーをHTDに供給するための手段である場合に、非触媒熱エネルギーを供給するために使用する。電気抵抗のみが電流の流れによる電力を散逸できるため、制御を実施するために負の電力散逸(その加熱よりも冷却)が必要となる場合には、VRHは所望の温度をTCに維持できなくなる。
【0193】
TMは、追加の非触媒エネルギー流がゼロ平衡測定でのTMの大きさを低下させる傾向のある特定の試験温度条件TCでの、使用可能な最大ΔTを表す。HTDの温度を制御するために非触媒出力を使用する場合、非触媒冷却が必要となるために、TMはHTDの温度を制御できない危険性を識別する。
【0194】
熱抵抗
熱抵抗Rは、温度T1の熱源と温度T2のヒートシンクの間の温度差と、この温度差から生じる1秒あたりの熱流(熱出力)との比である。
【0195】
R=(T1−T2)/P
HTDの触媒表面からHTDが動作している環境までの全有効熱抵抗は、RCである。それは、伝導、対流および放射のあらゆる手段を含む、利用可能なすべての手段による熱伝達を含む。RCは、VRH温度、例えばTC、周囲温度、例えばTG、および非触媒出力、PCの定常状態条件の間の測定から概算できる。RCは、各種の熱抵抗構成要素を概算した後に、熱力学モデルからただちに計算できる。
【0196】
各種の内部熱抵抗および容量は、各種の過渡温度条件中の測定から概算される。温度の指数関数的な上昇および降下の時間定数を用いて、HTD熱力学をモデル化するパラメータを識別することができる。この目的には、標準パラメータ概算ソフトウェアも利用できる。
【0197】
熱マージンによる最大濃度測定
定常状態動作(一定温度)では、ゼロ平衡測定方法を用いて観測できる標的分子の最大濃度は、熱マージン(TM)、HTDの触媒表面からその周囲温度までの全熱抵抗(RC)、ゲージ率(G)、および標的分子濃度(x)およびその他を含む、複数の因子によって制限される。
【0198】
TM=PC/RC
として、PC=GXで置換し、x=xLと設定すると、熱飽和を生じる標的分子濃度は、
TM=GxL/RC
である。xLについて解くと、
xL=(TMRC)/G
である。
【0199】
上の式は、特定のセンサHTDによって観測できる、ガスサンプル中の標的分子の最大濃度を計算する。実際には、安全性因子を用いて、標的分子の濃度で予測されるレベルおよび変化の不確かさを処理し標的ガス以外による分子濃度が多少の触媒熱流を生じる可能性も処理する。
【0200】
熱容量
熱エネルギーは、温度変化ΔTがHTDで生じたときの、HTDのすべての部分の熱容量Cに保存される。
【0201】
C=Q/ΔT
熱抵抗および熱容量は、分散(物質の表面積または体積中で均一に存在する)パラメータであるが、集中(表面積または体積全体のセグメントの単要素表現)パラメータを用いて、HTDの有用な熱力学モデルを構成することができる。図14に示すように触媒および参照VRHを別個の本体に備えた、および続く図15に示すように同一本体に備えたセンサの熱モデルは、簡単な集中パラメータモデルである。
【0202】
RとCの積は時間tの単位を持ち、熱入力の段階的変化の後に、定常状態温度分布の63%に達するために必要な時間を表す(時間定数の代表的な定義)。Cは、定常状態計算(一定温度)では無視され、動的計算(可変温度)では含まれる。
【0203】
過渡条件
標的ガス濃度xの突然の(t<<RC)変化の場合、より低い熱抵抗および容量が優勢となるため、定常状態濃度よりも低い濃度で過渡熱飽和に達する。本明細書で示す熱力学モデルおよび図14および15において、触媒表面膜の熱抵抗RCFおよび容量CCFが優勢となる。いわゆる「表面膜」領域は、迅速な過渡挙動を予測するためにモデル化される、触媒自体の外部表面と触媒下のわずかな深さより成るHTDの領域をモデル化する。標的ガス濃度の突然の上昇は、HTDの大部分が加熱し始める前に、HTDの表面膜温度の温度を上昇させるであろう。濃度のほぼ瞬間的な変化では、膜温度(表面からのわずかな深さにおける)は、本質的に以前のTCにおいては一瞬維持されるが、熱飽和を生じる濃度xLは、ΔxLだけ低下する。
【0204】
ΔxL=(TMRCF)/G
RCFは、RCよりも低くなる。xLの初期値がゼロ濃度である場合、過渡熱飽和を実現するのに必要なΔxLは、定常状態熱飽和のxLよりも著しく小さくなる。
【0205】
信号対ノイズ比
正常なシステム動作条件下で観測されるPCに多少の変動がある。HTDの環境での変動は、PC測定でのこのような変動を生み、それにより測定の不確かさを引き起こす。このような変動は主に、HTDとサンプルがストの間の熱対流に変動を生じる、HTD付近のサンプルガス流における変動および乱流によるものと考えられる。このような変動は、測定におけるノイズの原因である有効な熱抵抗変化を表すRNによって表現することができる。この類似構成要素は図に含まれていない。
【0206】
xLのランダム変動によって生じる不確かさは通例、サンプルガス流における乱流によるRのランダム変動よりはるかに小さいため、RNによるノイズ解析は、出力のランダム変動に対する好ましいモデル化手法である。RNは、システムのノイズフロアと、それによるサンプルガス濃度測定全体の精度を優勢的に確立する。
【0207】
我々は信号対ノイズ比SNRを、熱マージン内の利用可能な最大信号PLの、測定信号ノイズフロアPNに対する比として、以下のように定義する。
【0208】
SNR=PL/PN=(GxL/RC)/(GxL/RN)
SNR=RN/RC
サンプルガス流の変動と乱流を減少させることによって、測定ノイズフロアを低下させて信号対ノイズ性能を改良することができる。これは、測定間隔中にサンプルガスポンプを瞬間的に遮断するだけで実施できる。このことは、サンプルガスポンプが測定間隔中に遮断されている間に、サンプルガス濃度が触媒作用によって最小限の影響を受けるときはいつでも、実際的なノイズ削減方法である。
【0209】
本明細書で触れたすべての刊行物または特許は、その全体が参照により本明細書に組み入れられている。上の実施例は本発明の単なる例であり、添付請求項の範囲を制限するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0210】
【図1】どちらも電気リードを取り付けて示し、どちらも低温度塊サブストレートの片側に固定化した、本発明の触媒コーティングセンシングHTD(図1A)および非コーティング参照HTD(図1B)の1つの実施形態を示す。
【図2】コーティングセンシングHTDの2つの異なる実施形態の断面図を示す。図2Aは、高温接着剤を使用しない、電気抵抗材料の表面に直接配置された触媒層を備えたセンシングHTDを示す。図2Bは、HTDと熱接触する触媒を配置するために、触媒層に結合される耐高温性接着剤のコーティングを備えたセンシングHTDを示す。
【図3】熱障壁からある距離に各素子を維持する隔設手段によって分離されたセンシングHTD素子、参照HTD素子、および熱障壁の相対的方向を示す、本発明のセンサアセンブリの1つの実施形態を示す。
【図4】触媒コーティングセンシングHTDおよび非コーティング参照HTDが同じ低温度塊支持サブストレートの反対側に位置する、本発明のセンサアセンブリの1つの実施形態の断面図を示す。
【図5】完全なHTDセンサアセンブリを耐高温性変換器チューブの内部に配置することによって空気流を監視および制御すること可能であり、それを通じてガス流が真空ポンプによって生成され、チューブの反対端が興味のある分子を含むガスのサンプルを収集するために使用される可撓性ホースに接続される、本発明の完全なセンサの1つの実施形態を示す。
【図6】複数のHTDセンサアセンブリが単一の耐温度性変換器チューブ内に直列に位置し、それによって複数の興味のある気相分子の同時検知および測定が可能となる、本発明のセンサの1つの実施形態を示す。
【図7】複数のHTDセンサアセンブリが単一の耐温度性変換器チューブ内に並列に位置し、それによって複数の興味のある気相分子の同時検知および測定が可能となる、本発明のセンサの1つの実施形態を示す。並列の複数の検知器の本実施形態は、7個のセンサ素子および1個の参照素子の放射状配置を構成する。
【図8】HTDセンサアセンブリの一部および変換器チューブが表示され、蒸発可能な液体と使用するのに適している、本発明の実施形態を示す。
【図9】センシング素子が、触媒コーティングをサブストレートに接着させる高温接着剤によってコーティングされた耐温度性検知器(RTD)の長方形固体を構成する、HTDセンシング素子(図9A)の別の実施形態の一部切欠き図を示す。高温接着剤または結合剤が層を保護するよう作用するHTD参照素子(図9B)は、触媒層なしで同様に構成される。他の実施形態は、熱伝導体として作用するセラミックサブストレート上にRTD材料を支持することを含んでいるが、図9Aおよび9Bにおいて、RTD材料は支持なしで示している。
【図10】ポリイミド包囲センシング素子が、巻かれて高度表面範囲センシング装置となり、触媒コーティングをサブストレートに接着させる高温接着剤によってコーティングされた箔型、正の耐温度性RTDセンシング素子を構成する、HTDセンシング素子(図10A)の別の実施形態の一部切欠き図を示す。高温接着剤または結合剤が層を保護するよう作用するHTD参照素子(図10B)は、触媒層なしで同様に構成される。他の実施形態は、熱伝導体として作用するセラミックサブストレート上にRTD材料を支持することを含んでいるが、図10Aおよび10Bにおいて、RTD材料は支持なしで示している。
【図11】金属箔がセンシング素子VRHに結合され、次に参加された金属酸化物触媒表面を与える、本発明の触媒コーティングセンシングHTD(図11A)および触媒コーティングのない参照HTD(図11B)の1つの実施形態の断面図を示す。
【図12】特にゼロ平衡測定方法のための、本発明の調整電子機器の1つの実施形態の概略図を示す。
【図13】特にオフセット測定方法のための、本発明の調整電子機器の1つの実施形態の概略図を示す。
【図14】触媒コーティングセンシングVRHおよび参照VRHが別個の本体に位置する、電子的枠組みでのセンサアセンブリおよび動作の1つの熱力学モデルを示す。
【図15】触媒コーティングセンシングVRHおよび参照VRHが同じセラミック体に位置する、電子的枠組みでのセンサアセンブリおよび動作の1つの熱力学モデルを示す。
【図16】シングルエンド測定(参照HTDを連続使用せず)に適した、本発明のセンシング素子の1つの実施形態を示す。本実施形態において、変換器チューブは、HTDセンシング素子またはHTD参照素子のどちらかを、両方同時ではなく含む。
【図17】サンプルガス速度2mL/分およびインレットガス温度28℃における、酸化スカンジウム触媒の存在下での空気中の0.01%(体積/体積)イソプロパノールおよび0.01%(体積/体積)n−プロパノールを検知するための、温度(抵抗)対電力の低温検知プロットである。
【図18】サンプルガス速度2mL/分およびインレットガス温度28℃における、酸化スカンジウム触媒の存在下での空気中の0.01%(体積/体積)ニトロベンゼンを検知するための、温度(抵抗)対電力の低温検知プロットである。
【図19】サンプルガス速度2mL/分およびインレットガス温度28℃における、酸化スカンジウム触媒の存在下での空気中の0.01%(体積/体積)エタノールを検知するための、温度(抵抗)対電力の低温検知プロットである。
【図20】サンプルガス速度2mL/分およびインレットガス温度28℃における、酸化銅触媒の存在下での空気中の0.01%(体積/体積)エタノールを検知するための、温度(抵抗)対電力の低温検知プロットである。
【図21】示差測定に適した、本発明HTDセンサアセンブリの1つの実施形態を示す。本実施形態において、変換器チューブは、熱シールドによって隔離された、ガス流に同時接触させるためのHTDセンシング素子およびHTD参照素子の両方を含む。
【図22】サンプルガス速度2mL/分およびインレットガス温度28℃における、酸化銅触媒の存在下での空気中の0.01%(体積/体積)エタノールおよび0.01%(体積/体積)アセトンの電流(mA)対(電位)(mV)の高温示差走査である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
気相物質を検知するためのセンサであって:
a)第一のヒーターと、
第一のヒーターと熱接触した第一の温度検知器と、
第一の温度検知器および第一のヒーターと熱接触した触媒と、
を含むセンシング素子と;
b)第二のヒーターと、
第二のヒーターと熱接触した第二の温度検知器と
を含む参照素子と;
c)これらの素子にて発生する熱プロセスから生じる、参照素子に対するセンシング素子への吸熱性熱流およびセンシング素子からの発熱性熱流を測定するための熱流モニタと;
を含むセンサ。
【請求項2】
センシング素子が、第一の可変抵抗ヒーターと熱接触した第一の熱伝導体をさらに含み、参照素子が、第二の可変抵抗ヒーターと熱接触した第二の熱伝導体をさらに含む、請求項1に記載のセンサ。
【請求項3】
第一のヒーターが第一の可変抵抗ヒーターであり、第二のヒーターが第二の可変抵抗ヒーターである、請求項1に記載のセンサ。
【請求項4】
第一の温度検知器が第一の抵抗温度検知器であり、第二の温度検知器が第二の抵抗温度検知器である、請求項1に記載のセンサ。
【請求項5】
熱流モニタが、第一の抵抗温度検知器と第二の抵抗温度検知器との間の電気抵抗の差を観測するためのアンダーソンループ測定回路トポロジーを含む、請求項4に記載のセンサ。
【請求項6】
熱流モニタが、第一の抵抗温度検知器と第二の抵抗温度検知器との間の電気抵抗の差を観測するためのホイートストーンブリッジ測定回路トポロジーを含む、請求項4に記載のセンサ。
【請求項7】
センシング素子を所望の瞬間温度に維持するためにセンシング素子へのおよびセンシング素子からの吸熱性および発熱性熱流を調節するフィードバック制御システムをさらに含む、請求項1に記載のセンサ。
【請求項8】
触媒が、金属酸化物、ホウ化物、炭化物、ケイ化物、窒化物、リン化物、ヒ化物、硫化物、セレン化物、テルル化物、フッ化物、塩化物、臭化物、またはヨウ化物;非金属酸化物、ホウ化物、炭化物、ケイ化物、窒化物、リン化物、ヒ化物、硫化物、セレン化物、テルル化物、フッ化物、塩化物、臭化物、またはヨウ化物;合金;1を超える金属または1を超える非金属が元素と組合された物質;1つの金属または非金属が1を超える他の元素と組合された物質;またはその組合せから選択される、請求項1に記載のセンサ。
【請求項9】
触媒が金属、金属酸化物、またはその組合せを含む、請求項1に記載のセンサ。
【請求項10】
触媒がスカンジウム、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、ニオブ、タンタル、バナジウム、ニッケル、マンガン、鉄、銅、クロム、コバルト、モリブデン、タングステン、オスミウム、レニウム、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、イリジウム、白金、亜鉛、アルミニウム、スズの酸化物、またはその組合せから選択される、請求項1に記載のセンサ。
【請求項11】
熱流モニタが、触媒と気相物質との間の発熱性または吸熱性相互作用の結果として、センシング素子を一定温度に維持するために必要な電力の量を決定する、請求項1に記載のセンサ。
【請求項12】
熱流モニタが、触媒と気相物質との間の発熱性または吸熱性相互作用の結果として、参照素子を一定温度に維持するために必要な電力の量と比較して、センシング素子を一定温度に維持するために必要な電力の量を決定する、請求項1に記載のセンサ。
【請求項13】
熱流モニタが、触媒と気相物質との間の発熱性または吸熱性相互作用の結果として、センシング素子の温度変化を決定する、請求項1に記載のセンサ。
【請求項14】
熱流モニタが、触媒と気相物質との間の発熱性または吸熱性相互作用の結果として、参照素子の温度と比較して、センシング素子の温度変化を決定する、請求項1に記載のセンサ。
【請求項15】
熱プロセスが、酸化、還元、酸−塩基反応、吸着、脱離、水素結合プロセス、ファンデルワールス相互作用、静電相互作用、結合生成反応、結合破壊反応、またはそれら組合せから選択される、請求項1に記載のセンサ。
【請求項16】
気相物質を検知するためのセンサであって:
a)温度検知器および可変抵抗ヒーターとして機能する第一の抵抗温度検知器と、
第一の抵抗温度検知器と熱接触した触媒と、
を含むセンシング素子と;
b)温度検知器および可変抵抗ヒーターとして機能する第二の抵抗温度検知器と、
を含む参照素子と;
c)これらの素子にて発生する熱プロセスから生じる、参照素子に対するセンシング素子への吸熱性熱流およびセンシング素子からの発熱性熱流を測定するための熱流モニタと;
を含むセンサ。
【請求項17】
第一のおよび第二の抵抗温度検知器がニッケル、白金、またはタングステンから選択される物質を含む、請求項16に記載のセンサ。
【請求項18】
気相物質を検知するためのセンサであって:
a)温度検知器および可変抵抗ヒーターとして機能する第一の抵抗温度検知器と、
第一の抵抗温度検知器と熱接触した金属酸化物触媒と、
を含むセンシング素子と;
b)温度検知器および可変抵抗ヒーターとして機能する第二の抵抗温度検知器と、
を含む参照素子と;
c)第一の抵抗温度検知器と第二の抵抗温度検知器との間の電気抵抗の差を観測するためのアンダーソンループ測定回路トポロジーを含む、これらの素子にて発生する熱プロセスから生じる、参照素子に対するセンシング素子への吸熱性熱流およびセンシング素子からの発熱性熱流を測定するための熱流モニタと;
d)センシング素子を所望の瞬間温度に維持するためにセンシング素子へのおよびセンシング素子からの熱流を調節するフィードバック制御システムをさらに含む、
を含むセンサ。
【請求項19】
気相物質を検知するためのセンサであって:
a)ヒーターと、
ヒーターと熱接触した温度検知器と、
温度検知器およびヒーターと熱接触した触媒と、
を含むセンシング素子と;
b)センシング素子にて発生する熱プロセスから生じる、参照素子に対する環境への吸熱性熱流およびセンシング素子からの発熱性熱流を測定するための熱流モニタと;
を含むセンサ。
【請求項20】
センシング素子が、可変抵抗ヒーターと熱接触した熱伝導体をさらに含む、請求項19に記載のセンサ。
【請求項21】
ヒーターが可変抵抗ヒーターである、請求項19に記載のセンサ。
【請求項22】
温度検知器が抵抗温度検知器である、請求項19に記載のセンサ。
【請求項23】
センシング素子を所望の瞬間温度に維持するためにセンシング素子へのおよびセンシング素子からの吸熱性および発熱性熱流を調節するフィードバック制御システムをさらに含む、請求項19に記載のセンサ。
【請求項24】
触媒が、金属酸化物、ホウ化物、炭化物、ケイ化物、窒化物、リン化物、ヒ化物、硫化物、セレン化物、テルル化物、フッ化物、塩化物、臭化物、またはヨウ化物;非金属酸化物、ホウ化物、炭化物、ケイ化物、窒化物、リン化物、ヒ化物、硫化物、セレン化物、テルル化物、フッ化物、塩化物、臭化物、またはヨウ化物;合金;1を超える金属または1を超える非金属が元素と組合された物質;1つの金属または非金属が1を超える他の元素と組合された物質;またはその組合せから選択される、請求項19に記載のセンサ。
【請求項25】
触媒が金属、金属酸化物、またはその組合せを含む、請求項19に記載のセンサ。
【請求項26】
触媒がスカンジウム、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、ニオブ、タンタル、バナジウム、ニッケル、マンガン、鉄、銅、クロム、コバルト、モリブデン、タングステン、オスミウム、レニウム、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、イリジウム、白金、亜鉛、アルミニウム、スズの酸化物、またはその組合せから選択される、請求項19に記載のセンサ。
【請求項27】
熱流モニタが、触媒と気相物質との間の発熱性または吸熱性相互作用の結果として、センシング素子を一定温度に維持するために必要な電力の量を決定する、請求項19に記載のセンサ。
【請求項28】
熱流モニタが、触媒と気相物質との間の発熱性または吸熱性相互作用の結果として、センシング素子の温度変化を決定する、請求項19に記載のセンサ。
【請求項29】
熱プロセスが、酸化、還元、酸−塩基反応、吸着、脱離、水素結合プロセス、ファンデルワールス相互作用、静電相互作用、結合生成反応、結合破壊反応、またはその組合せから選択される、請求項19に記載のセンサ。
【請求項30】
気相物質を検知するためのセンサであって:
a)温度検知器および可変抵抗ヒーターとして機能する抵抗温度検知器と、
抵抗温度検知器と熱接触した触媒と、
を含むセンシング素子と;
b)センシング素子にて発生する熱プロセスから生じる、参照素子に対する環境への吸熱性熱流およびセンシング素子からの発熱性熱流を測定するための熱流モニタと;
を含むセンサ。
【請求項31】
抵抗温度検知器が、ニッケル、白金、またはタングステンから選択される物質を含む、請求項30に記載のセンサ。
【請求項32】
気相物質を検知するためのセンサであって:
a)第一の可変抵抗ヒーターと、
第一の可変抵抗ヒーターと熱接触した第一の温度検知器と、
第一の温度検知器および第一の可変抵抗ヒーターと熱接触した第一の触媒と、
を含むセンシング素子と;
b)第二の可変抵抗ヒーターと、
第二の可変抵抗ヒーターと熱接触した第二の温度検知器と
第二の温度検知器および第二の可変抵抗ヒーターと熱接触した第二の触媒と、
を含む参照素子と;
c)これらの素子にて発生する熱プロセスから生じる、第一のセンシング素子に対する第二のセンシング素子への吸熱性熱流およびセンシング素子からの発熱性熱流を測定するための熱流モニタと;
を含むセンサ。
【請求項33】
気相物質を規定温度にて検知する方法であって:
a)物質を、
第一のヒーターと、
第一のヒーターと熱接触した第一の温度検知器と、
第一の温度検知器および第一のヒーターに熱接触した触媒と、
を含むセンシング素子、および
第二のヒーターと
第一のヒーターと熱接触した第一の温度検知器と、
を含む参照素子に、接触させることと;
b)センシング素子および参照素子の温度を、触媒と物質との間で反応が起こる特定の温度に実質的に一致するように調節することと;
c)これらの素子にて発生する発熱性および吸熱性プロセスから生じる、参照素子に対するセンシング素子へのおよびセンシング素子からの熱流を測定することと;
を含む方法。
【請求項34】
センシング素子が、第一の可変抵抗ヒーターと熱接触した第一の熱伝導体をさらに含み、参照素子が、第二の可変抵抗ヒーターと熱接触した第二の熱伝導体をさらに含む、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
第一のヒーターが第一の可変抵抗ヒーターであり、第二のヒーターが第二の可変抵抗ヒーターである、請求項33に記載の方法。
【請求項36】
第一の温度検知器が第一の抵抗温度検知器であり、第二の温度検知器が第二の抵抗温度検知器である、請求項33に記載の方法。
【請求項37】
触媒が、金属酸化物、ホウ化物、炭化物、ケイ化物、窒化物、リン化物、ヒ化物、硫化物、セレン化物、テルル化物、フッ化物、塩化物、臭化物、またはヨウ化物;非金属酸化物、ホウ化物、炭化物、ケイ化物、窒化物、リン化物、ヒ化物、硫化物、セレン化物、テルル化物、フッ化物、塩化物、臭化物、またはヨウ化物;合金;1を超える金属または1を超える非金属が元素と組合された物質;1つの金属または非金属が1を超える他の元素と組合された物質;またはその組合せから選択される、請求項33に記載の方法。
【請求項38】
発熱性および吸熱性プロセスが、酸化、還元、酸−塩基反応、吸着、脱離、水素結合プロセス、ファンデルワールス相互作用、静電相互作用、結合生成反応、結合破壊反応、またはその組合せから選択される、請求項33に記載の方法。
【請求項39】
センシング素子を所望の瞬間センシング素子温度に維持するためにセンシング素子へのおよびセンシング素子からの吸熱性および発熱性熱流を調節するフィードバック制御システムをさらに含む、請求項33に記載の方法。
【請求項40】
センシング素子および参照素子の温度が約−196℃〜約260℃に調節される、請求項33に記載の方法。
【請求項41】
センシング素子および参照素子の温度が約−78℃〜約232℃に調節される、請求項33に記載の方法。
【請求項42】
センシング素子および参照素子の温度が約0℃〜約232℃に調節される、請求項33に記載の方法。
【請求項43】
センシング素子および参照素子の温度が約25℃〜約200℃に調節される、請求項33に記載の方法。
【請求項44】
センシング素子へのまたはセンシング素子からの熱流の測定が、センシング素子の温度またはセンシング素子への非触媒出力のどちらかを決定する、請求項33に記載の方法。
【請求項45】
センシング素子へのまたはセンシング素子からの熱流の測定が、センシング素子と参照素子との間の温度差または非触媒出力差を決定する、請求項33に記載の方法。
【請求項46】
気相物質を規定温度にて検知する方法であって:
a)物質を、
温度検知器および可変抵抗ヒーターとして機能する第一の抵抗温度検知器と、
第一の抵抗温度検知器に熱接触した触媒と、
を含むセンシング素子、および
温度検知器および可変抵抗ヒーターとして機能する第二の抵抗温度検知器と、
を含む参照素子に、接触させることと;
b)センシング素子および参照素子の温度を、触媒と物質との間で反応が起こる特定の温度に実質的に一致するように調節することと;
c)これらの素子にて発生する発熱性および吸熱性プロセスから生じる、参照素子に対するセンシング素子へのおよびセンシング素子からの熱流を測定することと;
を含む方法。
【請求項47】
第一および第二の抵抗温度検知器がニッケル、白金、またはタングステンから選択される物質を含む、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
気相物質を規定温度にて検知する方法であって:
a)物質を、
第一の可変抵抗ヒーターと、
第一の抵抗温度ヒーターに熱接触した第一の温度検知器と、
第一の温度検知器および第一の抵抗温度ヒーターに熱接触した触媒と
を含むセンシング素子に、接触させることと;
b)センシング素子の温度を、触媒と物質との間で反応が起こる特定の温度に実質的に一致するように調節することと;
c)センシング素子にて発生する発熱性および吸熱性プロセスから生じる、センシング素子へのおよびセンシング素子からの熱流を測定することと;
d)物質を、
第二の可変抵抗ヒーターと、
第二の抵抗温度ヒーターに熱接触した第二の温度検知器と、
を含む参照素子に、接触させることと;
e)参照素子の温度を、センサ素子の温度に実質的に一致するように調節することと;
f)参照素子にて発生する発熱性および吸熱性プロセスから生じる、参照素子へのおよび参照素子からの熱流を測定することと;
g)物質を検知するために、センシング素子へのおよびセンシング素子からの熱流を、参照素子へのおよび参照素子からの熱流と比較することと;
を含む方法。
【請求項49】
複数の気相物質を熱量分光法によって検知する方法であって:
a)物質を、
第一の可変抵抗ヒーターと、
第一の可変抵抗ヒーターと熱接触した第一の温度検知器と、
第一の温度検知器および第一の可変抵抗ヒーターと熱接触した触媒と、
を含む少なくとも1つのセンシング素子と、および
第二の可変抵抗ヒーターと、
第二の可変抵抗ヒーターと熱接触した第二の温度検知器と、
を含む少なくとも1つの参照素子に、接触させることと;
b)触媒と物質との間で反応が起こる不連続な温度が瞬間的に達成されるように、センシング素子および参照素子の温度をある温度範囲にわたって同時に上昇および下降させることと;
c)同じ温度範囲にわたって、これらの素子にて発生する発熱性および吸熱性プロセスから生じる、参照素子に対するセンシング素子へのおよびセンシング素子からの熱流を測定することと;
を含む方法。
【請求項50】
センシング素子を所望の瞬間温度に維持するためにセンシング素子へのおよびセンシング素子からの吸熱性および発熱性熱流を調節するフィードバック制御システムをさらに含む、請求項49に記載の方法。
【請求項51】
センシング素子および参照素子の温度が約−196℃〜約260℃に調節される、請求項49に記載の方法。
【請求項52】
発熱性および吸熱性プロセスが、酸化、還元、酸−塩基反応、吸着、脱離、水素結合プロセス、ファンデルワールス相互作用、静電相互作用、結合生成反応、結合破壊反応、またはその組合せから選択される、請求項49に記載の方法。
【請求項1】
気相物質を検知するためのセンサであって:
a)第一のヒーターと、
第一のヒーターと熱接触した第一の温度検知器と、
第一の温度検知器および第一のヒーターと熱接触した触媒と、
を含むセンシング素子と;
b)第二のヒーターと、
第二のヒーターと熱接触した第二の温度検知器と
を含む参照素子と;
c)これらの素子にて発生する熱プロセスから生じる、参照素子に対するセンシング素子への吸熱性熱流およびセンシング素子からの発熱性熱流を測定するための熱流モニタと;
を含むセンサ。
【請求項2】
センシング素子が、第一の可変抵抗ヒーターと熱接触した第一の熱伝導体をさらに含み、参照素子が、第二の可変抵抗ヒーターと熱接触した第二の熱伝導体をさらに含む、請求項1に記載のセンサ。
【請求項3】
第一のヒーターが第一の可変抵抗ヒーターであり、第二のヒーターが第二の可変抵抗ヒーターである、請求項1に記載のセンサ。
【請求項4】
第一の温度検知器が第一の抵抗温度検知器であり、第二の温度検知器が第二の抵抗温度検知器である、請求項1に記載のセンサ。
【請求項5】
熱流モニタが、第一の抵抗温度検知器と第二の抵抗温度検知器との間の電気抵抗の差を観測するためのアンダーソンループ測定回路トポロジーを含む、請求項4に記載のセンサ。
【請求項6】
熱流モニタが、第一の抵抗温度検知器と第二の抵抗温度検知器との間の電気抵抗の差を観測するためのホイートストーンブリッジ測定回路トポロジーを含む、請求項4に記載のセンサ。
【請求項7】
センシング素子を所望の瞬間温度に維持するためにセンシング素子へのおよびセンシング素子からの吸熱性および発熱性熱流を調節するフィードバック制御システムをさらに含む、請求項1に記載のセンサ。
【請求項8】
触媒が、金属酸化物、ホウ化物、炭化物、ケイ化物、窒化物、リン化物、ヒ化物、硫化物、セレン化物、テルル化物、フッ化物、塩化物、臭化物、またはヨウ化物;非金属酸化物、ホウ化物、炭化物、ケイ化物、窒化物、リン化物、ヒ化物、硫化物、セレン化物、テルル化物、フッ化物、塩化物、臭化物、またはヨウ化物;合金;1を超える金属または1を超える非金属が元素と組合された物質;1つの金属または非金属が1を超える他の元素と組合された物質;またはその組合せから選択される、請求項1に記載のセンサ。
【請求項9】
触媒が金属、金属酸化物、またはその組合せを含む、請求項1に記載のセンサ。
【請求項10】
触媒がスカンジウム、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、ニオブ、タンタル、バナジウム、ニッケル、マンガン、鉄、銅、クロム、コバルト、モリブデン、タングステン、オスミウム、レニウム、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、イリジウム、白金、亜鉛、アルミニウム、スズの酸化物、またはその組合せから選択される、請求項1に記載のセンサ。
【請求項11】
熱流モニタが、触媒と気相物質との間の発熱性または吸熱性相互作用の結果として、センシング素子を一定温度に維持するために必要な電力の量を決定する、請求項1に記載のセンサ。
【請求項12】
熱流モニタが、触媒と気相物質との間の発熱性または吸熱性相互作用の結果として、参照素子を一定温度に維持するために必要な電力の量と比較して、センシング素子を一定温度に維持するために必要な電力の量を決定する、請求項1に記載のセンサ。
【請求項13】
熱流モニタが、触媒と気相物質との間の発熱性または吸熱性相互作用の結果として、センシング素子の温度変化を決定する、請求項1に記載のセンサ。
【請求項14】
熱流モニタが、触媒と気相物質との間の発熱性または吸熱性相互作用の結果として、参照素子の温度と比較して、センシング素子の温度変化を決定する、請求項1に記載のセンサ。
【請求項15】
熱プロセスが、酸化、還元、酸−塩基反応、吸着、脱離、水素結合プロセス、ファンデルワールス相互作用、静電相互作用、結合生成反応、結合破壊反応、またはそれら組合せから選択される、請求項1に記載のセンサ。
【請求項16】
気相物質を検知するためのセンサであって:
a)温度検知器および可変抵抗ヒーターとして機能する第一の抵抗温度検知器と、
第一の抵抗温度検知器と熱接触した触媒と、
を含むセンシング素子と;
b)温度検知器および可変抵抗ヒーターとして機能する第二の抵抗温度検知器と、
を含む参照素子と;
c)これらの素子にて発生する熱プロセスから生じる、参照素子に対するセンシング素子への吸熱性熱流およびセンシング素子からの発熱性熱流を測定するための熱流モニタと;
を含むセンサ。
【請求項17】
第一のおよび第二の抵抗温度検知器がニッケル、白金、またはタングステンから選択される物質を含む、請求項16に記載のセンサ。
【請求項18】
気相物質を検知するためのセンサであって:
a)温度検知器および可変抵抗ヒーターとして機能する第一の抵抗温度検知器と、
第一の抵抗温度検知器と熱接触した金属酸化物触媒と、
を含むセンシング素子と;
b)温度検知器および可変抵抗ヒーターとして機能する第二の抵抗温度検知器と、
を含む参照素子と;
c)第一の抵抗温度検知器と第二の抵抗温度検知器との間の電気抵抗の差を観測するためのアンダーソンループ測定回路トポロジーを含む、これらの素子にて発生する熱プロセスから生じる、参照素子に対するセンシング素子への吸熱性熱流およびセンシング素子からの発熱性熱流を測定するための熱流モニタと;
d)センシング素子を所望の瞬間温度に維持するためにセンシング素子へのおよびセンシング素子からの熱流を調節するフィードバック制御システムをさらに含む、
を含むセンサ。
【請求項19】
気相物質を検知するためのセンサであって:
a)ヒーターと、
ヒーターと熱接触した温度検知器と、
温度検知器およびヒーターと熱接触した触媒と、
を含むセンシング素子と;
b)センシング素子にて発生する熱プロセスから生じる、参照素子に対する環境への吸熱性熱流およびセンシング素子からの発熱性熱流を測定するための熱流モニタと;
を含むセンサ。
【請求項20】
センシング素子が、可変抵抗ヒーターと熱接触した熱伝導体をさらに含む、請求項19に記載のセンサ。
【請求項21】
ヒーターが可変抵抗ヒーターである、請求項19に記載のセンサ。
【請求項22】
温度検知器が抵抗温度検知器である、請求項19に記載のセンサ。
【請求項23】
センシング素子を所望の瞬間温度に維持するためにセンシング素子へのおよびセンシング素子からの吸熱性および発熱性熱流を調節するフィードバック制御システムをさらに含む、請求項19に記載のセンサ。
【請求項24】
触媒が、金属酸化物、ホウ化物、炭化物、ケイ化物、窒化物、リン化物、ヒ化物、硫化物、セレン化物、テルル化物、フッ化物、塩化物、臭化物、またはヨウ化物;非金属酸化物、ホウ化物、炭化物、ケイ化物、窒化物、リン化物、ヒ化物、硫化物、セレン化物、テルル化物、フッ化物、塩化物、臭化物、またはヨウ化物;合金;1を超える金属または1を超える非金属が元素と組合された物質;1つの金属または非金属が1を超える他の元素と組合された物質;またはその組合せから選択される、請求項19に記載のセンサ。
【請求項25】
触媒が金属、金属酸化物、またはその組合せを含む、請求項19に記載のセンサ。
【請求項26】
触媒がスカンジウム、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、ニオブ、タンタル、バナジウム、ニッケル、マンガン、鉄、銅、クロム、コバルト、モリブデン、タングステン、オスミウム、レニウム、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、イリジウム、白金、亜鉛、アルミニウム、スズの酸化物、またはその組合せから選択される、請求項19に記載のセンサ。
【請求項27】
熱流モニタが、触媒と気相物質との間の発熱性または吸熱性相互作用の結果として、センシング素子を一定温度に維持するために必要な電力の量を決定する、請求項19に記載のセンサ。
【請求項28】
熱流モニタが、触媒と気相物質との間の発熱性または吸熱性相互作用の結果として、センシング素子の温度変化を決定する、請求項19に記載のセンサ。
【請求項29】
熱プロセスが、酸化、還元、酸−塩基反応、吸着、脱離、水素結合プロセス、ファンデルワールス相互作用、静電相互作用、結合生成反応、結合破壊反応、またはその組合せから選択される、請求項19に記載のセンサ。
【請求項30】
気相物質を検知するためのセンサであって:
a)温度検知器および可変抵抗ヒーターとして機能する抵抗温度検知器と、
抵抗温度検知器と熱接触した触媒と、
を含むセンシング素子と;
b)センシング素子にて発生する熱プロセスから生じる、参照素子に対する環境への吸熱性熱流およびセンシング素子からの発熱性熱流を測定するための熱流モニタと;
を含むセンサ。
【請求項31】
抵抗温度検知器が、ニッケル、白金、またはタングステンから選択される物質を含む、請求項30に記載のセンサ。
【請求項32】
気相物質を検知するためのセンサであって:
a)第一の可変抵抗ヒーターと、
第一の可変抵抗ヒーターと熱接触した第一の温度検知器と、
第一の温度検知器および第一の可変抵抗ヒーターと熱接触した第一の触媒と、
を含むセンシング素子と;
b)第二の可変抵抗ヒーターと、
第二の可変抵抗ヒーターと熱接触した第二の温度検知器と
第二の温度検知器および第二の可変抵抗ヒーターと熱接触した第二の触媒と、
を含む参照素子と;
c)これらの素子にて発生する熱プロセスから生じる、第一のセンシング素子に対する第二のセンシング素子への吸熱性熱流およびセンシング素子からの発熱性熱流を測定するための熱流モニタと;
を含むセンサ。
【請求項33】
気相物質を規定温度にて検知する方法であって:
a)物質を、
第一のヒーターと、
第一のヒーターと熱接触した第一の温度検知器と、
第一の温度検知器および第一のヒーターに熱接触した触媒と、
を含むセンシング素子、および
第二のヒーターと
第一のヒーターと熱接触した第一の温度検知器と、
を含む参照素子に、接触させることと;
b)センシング素子および参照素子の温度を、触媒と物質との間で反応が起こる特定の温度に実質的に一致するように調節することと;
c)これらの素子にて発生する発熱性および吸熱性プロセスから生じる、参照素子に対するセンシング素子へのおよびセンシング素子からの熱流を測定することと;
を含む方法。
【請求項34】
センシング素子が、第一の可変抵抗ヒーターと熱接触した第一の熱伝導体をさらに含み、参照素子が、第二の可変抵抗ヒーターと熱接触した第二の熱伝導体をさらに含む、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
第一のヒーターが第一の可変抵抗ヒーターであり、第二のヒーターが第二の可変抵抗ヒーターである、請求項33に記載の方法。
【請求項36】
第一の温度検知器が第一の抵抗温度検知器であり、第二の温度検知器が第二の抵抗温度検知器である、請求項33に記載の方法。
【請求項37】
触媒が、金属酸化物、ホウ化物、炭化物、ケイ化物、窒化物、リン化物、ヒ化物、硫化物、セレン化物、テルル化物、フッ化物、塩化物、臭化物、またはヨウ化物;非金属酸化物、ホウ化物、炭化物、ケイ化物、窒化物、リン化物、ヒ化物、硫化物、セレン化物、テルル化物、フッ化物、塩化物、臭化物、またはヨウ化物;合金;1を超える金属または1を超える非金属が元素と組合された物質;1つの金属または非金属が1を超える他の元素と組合された物質;またはその組合せから選択される、請求項33に記載の方法。
【請求項38】
発熱性および吸熱性プロセスが、酸化、還元、酸−塩基反応、吸着、脱離、水素結合プロセス、ファンデルワールス相互作用、静電相互作用、結合生成反応、結合破壊反応、またはその組合せから選択される、請求項33に記載の方法。
【請求項39】
センシング素子を所望の瞬間センシング素子温度に維持するためにセンシング素子へのおよびセンシング素子からの吸熱性および発熱性熱流を調節するフィードバック制御システムをさらに含む、請求項33に記載の方法。
【請求項40】
センシング素子および参照素子の温度が約−196℃〜約260℃に調節される、請求項33に記載の方法。
【請求項41】
センシング素子および参照素子の温度が約−78℃〜約232℃に調節される、請求項33に記載の方法。
【請求項42】
センシング素子および参照素子の温度が約0℃〜約232℃に調節される、請求項33に記載の方法。
【請求項43】
センシング素子および参照素子の温度が約25℃〜約200℃に調節される、請求項33に記載の方法。
【請求項44】
センシング素子へのまたはセンシング素子からの熱流の測定が、センシング素子の温度またはセンシング素子への非触媒出力のどちらかを決定する、請求項33に記載の方法。
【請求項45】
センシング素子へのまたはセンシング素子からの熱流の測定が、センシング素子と参照素子との間の温度差または非触媒出力差を決定する、請求項33に記載の方法。
【請求項46】
気相物質を規定温度にて検知する方法であって:
a)物質を、
温度検知器および可変抵抗ヒーターとして機能する第一の抵抗温度検知器と、
第一の抵抗温度検知器に熱接触した触媒と、
を含むセンシング素子、および
温度検知器および可変抵抗ヒーターとして機能する第二の抵抗温度検知器と、
を含む参照素子に、接触させることと;
b)センシング素子および参照素子の温度を、触媒と物質との間で反応が起こる特定の温度に実質的に一致するように調節することと;
c)これらの素子にて発生する発熱性および吸熱性プロセスから生じる、参照素子に対するセンシング素子へのおよびセンシング素子からの熱流を測定することと;
を含む方法。
【請求項47】
第一および第二の抵抗温度検知器がニッケル、白金、またはタングステンから選択される物質を含む、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
気相物質を規定温度にて検知する方法であって:
a)物質を、
第一の可変抵抗ヒーターと、
第一の抵抗温度ヒーターに熱接触した第一の温度検知器と、
第一の温度検知器および第一の抵抗温度ヒーターに熱接触した触媒と
を含むセンシング素子に、接触させることと;
b)センシング素子の温度を、触媒と物質との間で反応が起こる特定の温度に実質的に一致するように調節することと;
c)センシング素子にて発生する発熱性および吸熱性プロセスから生じる、センシング素子へのおよびセンシング素子からの熱流を測定することと;
d)物質を、
第二の可変抵抗ヒーターと、
第二の抵抗温度ヒーターに熱接触した第二の温度検知器と、
を含む参照素子に、接触させることと;
e)参照素子の温度を、センサ素子の温度に実質的に一致するように調節することと;
f)参照素子にて発生する発熱性および吸熱性プロセスから生じる、参照素子へのおよび参照素子からの熱流を測定することと;
g)物質を検知するために、センシング素子へのおよびセンシング素子からの熱流を、参照素子へのおよび参照素子からの熱流と比較することと;
を含む方法。
【請求項49】
複数の気相物質を熱量分光法によって検知する方法であって:
a)物質を、
第一の可変抵抗ヒーターと、
第一の可変抵抗ヒーターと熱接触した第一の温度検知器と、
第一の温度検知器および第一の可変抵抗ヒーターと熱接触した触媒と、
を含む少なくとも1つのセンシング素子と、および
第二の可変抵抗ヒーターと、
第二の可変抵抗ヒーターと熱接触した第二の温度検知器と、
を含む少なくとも1つの参照素子に、接触させることと;
b)触媒と物質との間で反応が起こる不連続な温度が瞬間的に達成されるように、センシング素子および参照素子の温度をある温度範囲にわたって同時に上昇および下降させることと;
c)同じ温度範囲にわたって、これらの素子にて発生する発熱性および吸熱性プロセスから生じる、参照素子に対するセンシング素子へのおよびセンシング素子からの熱流を測定することと;
を含む方法。
【請求項50】
センシング素子を所望の瞬間温度に維持するためにセンシング素子へのおよびセンシング素子からの吸熱性および発熱性熱流を調節するフィードバック制御システムをさらに含む、請求項49に記載の方法。
【請求項51】
センシング素子および参照素子の温度が約−196℃〜約260℃に調節される、請求項49に記載の方法。
【請求項52】
発熱性および吸熱性プロセスが、酸化、還元、酸−塩基反応、吸着、脱離、水素結合プロセス、ファンデルワールス相互作用、静電相互作用、結合生成反応、結合破壊反応、またはその組合せから選択される、請求項49に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【公開番号】特開2009−109504(P2009−109504A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2008−310002(P2008−310002)
【出願日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【分割の表示】特願2003−514224(P2003−514224)の分割
【原出願日】平成14年7月9日(2002.7.9)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.PYREX
【出願人】(504017968)センサー テック インコーポレイテッド (1)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−310002(P2008−310002)
【出願日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【分割の表示】特願2003−514224(P2003−514224)の分割
【原出願日】平成14年7月9日(2002.7.9)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.PYREX
【出願人】(504017968)センサー テック インコーポレイテッド (1)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]