説明

気象レーダ装置およびパラメータ設定方法

【課題】迅速に適切な信号処理パラメータを設定する気象レーダ装置を提供する。
【解決手段】送信パルス信号を放出するとともに反射パルス信号を受信し、反射パルス信号をA/D変換およびI/Q検波してI/Q信号を出力する空中線部1と、I/Q信号をMTI処理して受信信号に変換して出力する信号処理部2と、受信信号を収集して観測データを出力するデータ処理部3と、観測データから反射断面積を算出する反射断面積推定部41と、反射断面積推定部41で算出された反射断面積からMTIフィルタ抑圧度を算出するMTIフィルタ抑圧度算出部42と、MTIフィルタ抑圧度から信号処理部2のMTI処理に用いられるパラメータを設定するパラメータ設定部45と、備える気象レーダ装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は気象レーダ装置およびパラメータ設定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地表面からの反射によるグランドクラッタに埋もれたターゲットを検出するのに、移動目標指示(Moving Target Indicator; MTI)装置が知られている。移動目標指示装置は、反射物体の速度がほとんどゼロであるグランドクラッタを抑圧し、移動している物体をターゲットとして取り出すような線形デジタルフィルタを備える。
【0003】
MTI処理を行う場合に、作業者は、晴天時に初期設定状態のMTI処理にて地形エコーの観測を行い、その残り状況から信号処理パラメータ(MTIフィルタ抑圧度)を調整し、再度MTI処理にて地形エコーの観測を行うことを繰り返し、最適な設定に近づけていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−227853号公報
【特許文献2】特開2003−194933号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、気象現象は時々刻々と変化するため、繰り返し信号処理パラメータを調整している間に観測データの条件が変化してしまうことがあった。そのため、適切な信号処理パラメータを設定するために多くの時間を要する場合があった。
【0006】
本発明は、上記事情を鑑みて成されたものであって、迅速に適切な信号処理パラメータを設定する気象レーダ装置およびパラメータ設定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態に係る気象レーダ装置は、送信パルス信号を放出するとともに反射パルス信号を受信し、反射パルス信号をA/D変換およびI/Q検波してI/Q信号を出力する空中線部と、前記I/Q信号をMTI処理して受信信号に変換して出力する信号処理部と、前記受信信号を収集して観測データを出力するデータ処理部と、前記観測データから反射断面積を算出する反射断面積推定部と、前記反射断面積推定部で算出された反射断面積からMTIフィルタ抑圧度を算出するMTIフィルタ抑圧度算出部と、前記MTIフィルタ抑圧度から前記信号処理部のMTI処理に用いられるパラメータを設定するパラメータ設定部と、備える。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の一実施形態に係る気象レーダ装置の構成例を説明するための図である。
【図2】図1に示す気象レーダ装置のパラメータ調整部の一構成例を説明するための図である。
【図3】図1に示す気象レーダ装置におけるパラメータ設定方法を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態に係る気象レーダ装置およびパラメータ設定方法ついて、詳細に説明する。
【0010】
図1は、本実施形態に係る気象レーダ装置の一構成例を概略的に示すブロック図である。本実施形態に係る気象レーダ装置は、空中線部1と、信号処理部2と、データ処理部3と、パラメータ調整部4と、を備えている。
【0011】
空中線部1は、アンテナと、送受信切替器と、送信機と、受信機と、を備えている。アンテナは、送信機で発生された送信パルス信号を繰り返し空間に放出するとともに、反射パルスを受信する。送受信切替器は、アンテナを送信と受信とで切り替える。アンテナから送信された送信パルス信号は、目標に照射され、四方に反射されるパルス信号の一部がアンテナで受信され、受信機で増幅されて検出される。
【0012】
空中線部1は、送信パルス送信時に、信号処理部2からの制御信号に従って、空中線を水平方向に360°回転させるとともに、送信パルス信号を増幅して空中に送出する。空中線部1の受信機は、反射パルス受信時に、空間上の降水や地表面等からの反射パルスを受信し、A/D変換して、I/Q検波し、検波したI/Q信号を信号処理部2に与える。
【0013】
本実施形態に係る気象レーダ装置は、目標を検出する前に、晴天時に地表面からの反射パルス(地形エコー)の観測を行う。空中線部1は、目標検出動作の前に、送信パルスを放出して、地表面からの反射パルスを受信し、A/D変換して、I/Q検波し、検波したI/Q信号を信号処理部2に与える。
【0014】
信号処理部2は、I/Q信号を受信し、不要輻射波のような不要な信号を除去し、所望の信号を通過させるMTI処理を行う。信号処理部2は、パラメータ調整部4によって設定されるパラメータに基づいて信号処理して、受信信号を生成するように構成されている。信号処理部2は、空中線部1から与えられたI/Q信号から、受信電力やドップラ速度を算出する。また、信号処理部2は、パラメータ調整部4から供給されるパラメータを用いて、MTI処理を行う。
【0015】
データ処理部3は、信号処理部2から受信信号を受信して、水平方向に360°の受信信号から観測データを構成する。データ処理部3は、観測データを、パラメータ調整部4および図示しない表示器へ出力する。
【0016】
パラメータ調整部4は、地形エコーの観測データから反射断面積を推定する反射断面積推定部41と、反射断面積から地形エコー除去に必要なMTIフィルタ抑圧度を自動算出するMTIフィルタ抑圧度算出部42と、パラメータ設定部45と、を備えている。
【0017】
反射断面積推定部41は、レーダ観測データから地形の反射断面積を算出し出力する。例えば、反射断面積推定部41は、信号対クラッタ比を算出して気象レーダ装置の評価を行う際に用いる下記の式(1)を利用して、反射断面積を算出する(ステップS1)。下記式(1)では、信号対クラッタ比が大きいほど、ターゲットが検出されやすくなり、信号対クラッタ比が小さいほど、ターゲットがクラッタに埋もれて検出することが困難である。
【0018】
SCR = 10*LOG({π^6*|K|^2*10^(-18)}/4)-40*LOG(λ)+10*LOG(θ)
+10*LOG(R)+Z-σc ・・・式(1)
SCR[dB] :信号対クラッタ比
|K|^2 =0.93とする
λ[m] :波長
θ[deg] :ビーム幅
R[km] :観測距離
Z[dBZ] :ターゲット(ウェザー)の反射強度
σc[m^2] :クラッタの反射断面積
上記式(1)は、アンテナが水平方向(空中線仰角EL=0deg方向)に向けて空中線を放出するときのクラッタの反射断面積に相当する反射強度をZc[dBZ]とすると、ターゲットとクラッタとが同じレベルで検出されるときには下記式(2)のようになる。
【0019】
SCR = Z / Zc = 0 = 10*LOG({π^6*|K|^2*10^(-18)}/4)-40*LOG(λ)
+10*LOG(θ)+10*LOG(R)+Zc+Lel-σc ・・・式(2)
ここで、上記式(2)のLelは、アンテナの水平方向に対する方向(仰角方向)に対応するクラッタの反射強度の減衰量である。Lelの値は、各気象レーダ装置の運用に応じて決定され、アンテナが水平方向に対して上向きになるほど、大きくなる。上記式(2)よりクラッタの反射断面積は、
σc = 10*LOG({π^6*|K|^2*10^(-18)}/4)-40*LOG(λ)+10*LOG(θ)
+10*LOG(R)+Zc+Lel
により算出される。
【0020】
MTIフィルタ抑圧度算出部42は、地形の反射断面積にレーダの運用条件(空中線回転数、仰角等)や、気象条件等の外的条件(風速、波、渋滞等)を加味してMTIフィルタ抑圧度43を算出し、出力する(ステップS2)ように構成されている。
【0021】
パラメータ設定部45は、信号処理部2にパラメータを自動的に設定するように構成されている。本実施形態では、あらかじめ複数の抑圧度に対応するパラメータ44が用意されている。複数のパラメータ44は、例えばパラメータ調整部4が備えるメモリに記録されていてもよく、外部からパラメータ調整部4へ供給されるものであってもよい。
【0022】
パラメータ設定部45は、MTIフィルタ抑圧度算出部42から出力されるMTIフィルタ抑圧度43に応じて、用意された複数のパラメータ44の中から使用するパラメータを選択し、信号処理部2に設定する(ステップS3)。
【0023】
なお、パラメータ設定部45は、MTIフィルタ抑圧度からパラメータを算出するための数式を用いて、適切なパラメータを算出し、算出したパラメータを信号処理部2に設定するように構成されていてもよい。
【0024】
上記の一連の動作を行うことにより、一度の観測で自動的に信号処理パラメータを算出および設定することができ、調整作業者の行動を支援することができる。
【0025】
すなわち、本実施形態によれば、晴天時に一度だけ地形エコーの観測を行えば、その観測データから地形エコー除去に必要な抑圧度を自動的に算出することができ、最適な信号処理パラメータを迅速に導出および設定することが可能な気象レーダ装置およびパラメータ設定方法を提供することができる。
【0026】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0027】
1…空中線部、2…信号処理部、3…データ処理部、4…パラメータ調整部、41…反射断面積推定部、42…MTIフィルタ抑圧度算出部、45…パラメータ設定部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信パルス信号を放出するとともに反射パルス信号を受信し、反射パルス信号をA/D変換およびI/Q検波してI/Q信号を出力する空中線部と、
前記I/Q信号をMTI処理して受信信号に変換して出力する信号処理部と、
前記受信信号を収集して観測データを出力するデータ処理部と、
前記観測データから反射断面積を算出する反射断面積推定部と、
前記反射断面積推定部で算出された反射断面積からMTIフィルタ抑圧度を算出するMTIフィルタ抑圧度算出部と、
前記MTIフィルタ抑圧度から前記信号処理部のMTI処理に用いられるパラメータを設定するパラメータ設定部と、備える気象レーダ装置。
【請求項2】
MTIフィルタ抑圧度に対するパラメータが複数記録された記録手段をさらに備え、
前記パラメータ設定部は、前記MTIフィルタ抑圧度算出部で算出されたMTIフィルタ抑圧度に対応するパラメータを選択し、前記信号処理部に設定するように構成されている請求項1記載の気象レーダ装置。
【請求項3】
送信パルス信号を放出するとともに反射パルス信号を受信し、反射パルス信号をA/D変換およびI/Q検波してI/Q信号を出力する空中線部と、
前記I/Q信号をMTI処理して受信信号に変換して出力する信号処理部と、
前記受信信号を収集して観測データを出力するデータ処理部と、
前記信号処理部でのMTI処理に用いられるパラメータを設定するパラメータ設定部と、を備えた気象レーダ装置におけるパラメータ設定方法であって、
前記パラメータ設定部は、
前記観測データから反射断面積を算出し、
算出された前記反射断面積からMTIフィルタ抑圧度を算出し、
前記MTIフィルタ抑圧度から前記信号処理部のMTI処理に用いられるパラメータを設定する、パラメータ設定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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