説明

水またはガスの輸送用多層管

【課題】水またはガスの輸送用多層管。
【解決手段】管の内側から外側へ向かって下記の層(1)〜(6)を有する多層管:(1)フルオロポリマーの層C1(任意層)、(2)照射によって少なくとも一種の不飽和モノマーをグラフトしたフルオロポリマーの層C2(フルオロポリマーと混合されていてもよい)、(3)照射グラフト化フルオロポリマーを含む層C2に直接結合した接着結合層C3(任意層)、(4)任意層C3または層C2に直接結合したポリオレフィンの層C4(官能化ポリオレフィンと混合されていてもよい)、(5)バリヤ層C5(任意層)、および(6)ポリオレフィンの層C6(任意層)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不飽和モノマーを照射グラフトしたフルオロポリマーの層と、ポリオレフィンの層とを有する多層管に関するものである。このポリオレフィンはポリエチレン、特に高密度ポリエチレン(HDPE)または架橋ポリエチレン(以下、XPE)にすることができる。本発明の多層管は液体、特に熱水またはガスの輸送に使用できる。本発明はさらに、この多層管の使用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋼鉄または鋳鉄管はそれと均等なプラスチック製のものに置換されつつある。ポリオレフィン、特にポリエチレンは機械的特性が良く、加工が容易で、管の溶着が容易な熱可塑性樹脂で、広範囲に用いられている。また、ポリオレフィンは水または都市ガスの輸送用管で広く用いられている。高圧ガス(>10bar以上)の場合にはポリオレフィンは加圧ガスによって加えられる力に機械的に耐えることができなければならない。
【0003】
さらに、ポリオレフィンはアグレッシブな化学環境に曝されることがある。例えば、送水管の場合、水中に添加剤またはアグレッシブな化学品(例えば、水の精製に用いるオゾンや塩素化誘導体、漂白剤、これらは特に高温で酸化性である)が含まれていることがある。これらの添加剤または化学品によって、特に高温で水を輸送する場合(加熱回路や、細菌、バクテリアまたは微生物を除去するために水を高温に加熱する給水路の場合)に、ポリオレフィンは時間とともに損傷される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、本発明が解決しようとする課題の一つは耐薬品性を有する管を開発することにある。
本発明が解決しようとする別の課題は、バリヤ特性を有する管を提供することにある。「バリヤ」とは外部環境中に存在する汚染物質またはポリオレフィン中に存在する汚染物質(例えば酸化防止剤または重合残留物)が被輸送流体中へ移動するのを管が防止することを意味する。さらに、「バリヤー」とは被輸送流体中に存在する酸素または添加剤がポリオレフィン層へ移動するのを管が防止することを意味する。
さらに、管は優れた機械特性、特に優れた耐衝撃性を有していなければならず、また、各層は互いに十分に接着していなければならない(層間剥離がない)。
【0005】
本発明者は、上記の問題を解決する多層管を見出した。この多層管は輸送流体に対して特に優れた耐薬品性と上記バリヤ特性とを有している。
【0006】
下記文献には照射グラフト化フルオロポリマーを含む多層構造物が記載されている。
【特許文献1】欧州特許第1484346号公報(2004年12月8日公開)
【0007】
この構造物はボトル、タンク、容器またはホースの形にすることができる。この特許には本発明の多層管の構造に関する記載はない。下記文献には化学品の貯蔵または輸送のための照射グラフト化フルオロポリマーをベースとする多層構造物が記載されている。
【特許文献2】欧州特許第1541343号公報(2005年6月8日公開)
【0008】
この特許での「化学品」とは危険な製品、腐食性のある製品あるいは純粋さを維持しなければならない製品を意味する。この特許にも本発明の多層管の構造に関する記載はない。下記文献には中間層と外側保護層との間の接着力が0.2〜0.5N/mmであるプラスチック管が記載されている。
【特許文献3】米国特許第6016849号公報(1996年7月25日公開)
【0009】
しかし、照射グラフト化フルオロポリマーに関する記載はない。下記文献には金属外皮を有する多層管が記載されているが、照射グラフト化フルオロポリマーに関する記載はない。
【特許文献4】米国特許第2004/0206413号明細書
【特許文献5】国際特許第2005/070671号公報
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は請求項1に記載の多層管に関するものである。
本発明はさらに、水またはガスの輸送での上記多層管の使用に関するものである。
C型XPEの層を含む多層管の場合には、本発明はこの多層管の製造方法に関するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は添付図面を参照した以下の説明からより良く理解できよう。しかし、本発明が下記実施例に限定されるものではない。
下記の先のフランス国特許出願を優先権主張する下記の米国特許仮出願の内容は本明細書の一部を成す:
【特許文献6】フランス国特許出願第05/05603号公報
【特許文献7】フランス国特許出願第05/06189号公報
【特許文献8】米国特許出願第60/716429号明細書
【0012】
照射グラフト化フルオロポリマーはフルオロポリマーに不飽和モノマーを放射線の照射によってグラフトする以下で説明する方法で得られる。以下、不飽和モノマーを放射線の照射によってグラフトしたフルオロポリマーを単に「照射グラフト化フルオロポリマー」とよぶことにする。
【0013】
まず、フルオロポリマーを公知の任意の溶融混合技術を用いて不飽和モノマーと混合する。この混合段階は熱可塑性樹脂工業で使用される押出機または混練機等の任意の混合装置で実施できる。押出機を使用して混合物を顆粒の形にするのが好ましい。本発明では、下記文献の例に記載のような粉末の表面にグラフトするのではなく、グラフトは混合物中(マス全体で)起こる。
【特許文献9】米国特許第5576106号明細書
【0014】
次に、固体状態のフルオロポリマー/不飽和モノマー混合物に電子または光子源を線量10〜200kGy、好ましくは10〜150kGyで照射する。線量は2〜6Mrad、好ましくは3〜5Mradであるのが有利である。コバルト60を用いて照射するのが特に好ましい。例えばポリエチレン袋に混合物を入れ、空気を抜き、袋を密封してから照射することができる。
グラフトされる不飽和モノマーの率は0.1〜5重量%、すなわち99.9〜95重量部のフルオロポリマーに対してグラフトされた不飽和モノマーが0.1〜5重量部である。グラフトされた不飽和モノマーの含有率は0.5〜5%、さらに好ましくは0.9〜5%であるのが好ましい。グラフトされた不飽和モノマーの含有率は被照射フルオロポリマー/飽和モノマー混合物中の不飽和モノマーの初期含有率に依存し、さらにグラフト化効率、従って照射時間および照射エネルギーに依存する。
【0015】
次に、グラフトされなかったモノマーと、グラフト化によって遊離した残留物、特にHFとを除去する。この段階は、グラフトされていないモノマーが接着を損なう、または毒物学的問題を引き起こす可能性がある場合に必要である。この操作は当業者に周知の技術で行うことができる。真空脱気(必要に応じて加熱する)で行うことができる。照射グラフト化フルオロポリマーをN−メチルピロリドン等の溶媒に溶かし、ポリマーを水またはアルコール等の非溶媒中で沈殿させたり、フルオロポリマーおよび照射グラフト化官能基に対して不活性な溶媒で洗浄することもできる。例えば、無水マレイン酸を用いてグラフトしたときには洗浄にクロロベンゼンを用いることができる。
【0016】
照射によるグラフト法の利点の1つは、ラジカル重合開始剤を用いた従来のグラフト法よりも高いグラフト化不飽和モノマー含有率を得ることができる点にある。すなわち、一般に、照射によるグラフト化法を用いると含有率は1%以上(99重量部のフルオロポリマーに対して1重量部の不飽和モノマー)、さらには1.5%以上になる。この含有率は従来の押出機を用いたグラフト化法では不可能である。
【0017】
さらに、照射によるグラフト化法は「低温」、一般に100℃以下、さらには50℃以下の温度で行うことができる。すなわち、従来のグラフト化法とは違ってフルオロポリマー/不飽和モノマー混合物を押出機で溶融状態にしないので、半結晶性フルオロポリマーの場合(例えばPVDFを用いた場合)、グラフトが非晶相中で起こり、結晶相中で起こらない。これに対して溶融押出機を用いたグラフト化の場合には均質なグラフト化が起こる。この違いが基本的な違いである。その結果、照射によるグラフトの場合と押出機を用いたグラフト化の場合とでフルオロポリマー鎖での不飽和モノマーの分布に違いが生じる。すなわち、本発明で変性されたフルオロポリマーはフルオロポリマー鎖上での不飽和モノマーの分布が押出機を用いたグラフト化で得られるポリマーとは異なっている。
【0018】
このグラフト段階では酸素が存在しないようにするのが好ましい。酸素を除去するためにはフルオロポリマー/不飽和モノマー混合物を窒素またはアルゴンでパージすることができる。
照射グラフト化フルオロポリマーは変性前のフルオロポリマーの優れた耐薬品性と優れた耐酸化性ならびに熱加工安定性を有している。
【0019】
フルオロポリマーとは鎖中に重合を開始できるビニル基を含み、このビニル基に直接結合した少なくとも一つのフッ素原子、フルオロアルキル基またはフルオロアルコキシ基を有する化合物の中から選択される少なくとも一種のモノマーを有する任意のポリマーを意味する。
【0020】
このモノマーの例としてはフッ化ビニル;フッ化ビニリデン(VDF、CH2=CF2);トリフルオロエチレン(VF3);クロロトリフルオロエチレン(CTFE);1,2−ジフルオロエチレン;テトラフルオロエチレン(TFE);ヘキサフルオロプロピレン(HFP);ペルフルオロ(メチルビニル)エーテル(PMVE)、ペルフルオロ(エチルビニル)エーテル(PEVE)およびペルフルオロ(プロピルビニル)エーテル(PPVE)等のペルフルオロ(アルキルビニル)エーテル;ペルフルオロ(1,3−ジオキソール);ペルフルオロ(2,2−ジメチル−1,3−ジオキソール)(PDD);式 CF2=CFOCF2CF (CF3)OCF2CF2X(ここで、XはSO2F、CO2H、CH2OH、CH2OCNまたはCH2OPO3H)の化合物;式 CF2=CFOCF2CF2SO2F)の化合物;式 F(CF2nCH2OCF=CF2(ここで、nは1、2、3、4または5)の化合物;式R1CH2OCF=CF2(ここで、R1は水素またはF(CF2zであり、zは1、2、3または4)の化合物;式 R3OCF=CH2(ここで、R3はF(CF2Z-であり、zは1、2、3または4)の化合物;ペルフルオロブチルエチレン(PFBE);3,3,3−トリフルオロプロペンおよび2−トリフルオロメチル−3,3,3−トリフルオロ−1−プロペンを挙げることができる。
【0021】
フルオロポリマーはホモポリマーでもコポリマーでもよく、エチレンまたはプロピレンのような非フルオロモノマーを含んでいてもよい。
一例として、フルオロポリマーは下記の中から選択される:
(1)フッ化ビニリデン(VDF、CH2=CF2)のホモポリマーと、好ましくは少なくとも50重量%のVDFを含むそのコポリマー。VDFのコモノマーはクロロトリフルオロエチレン(CTFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、トリフルオロエチレン(VF3)およびテトラフルオロエチレン(TFE)から選択することができる。
(2)エチレン/TFEコポリマー(ETFE)、
(3)トリフルオロエチレン(VF3)のホモポリマーおよびコポリマー、
(4)VDFとTFEとを結合したEFEP型のコポリマー(特にダイキン(Daikin)EFEP)、
(5)クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、テトラフルオロエチレン(TFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)および/またはエチレン単位(必要に応じてVDFおよび/またはVF3をさらに含むことができる)の残基を結合したコポリマー、特にターポリマー。
【0022】
フルオロポリマーはPVDFのホモポリマーまたはコポリマーであるのが好ましい。このフルオロポリマーは優れた耐薬品性、特に耐紫外線および薬品性を有し、加工が容易である(PTFEまたはETFE型コポリマーよりも容易である)。このPVDFは少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも75重量%、さらに好ましくは少なくとも85重量%のVDFを含むのが好ましい。コモノマーはHFPであるのが有利である。
【0023】
このPVDFの粘度は100Pa.S〜4000Pa.Sの範囲であるが有利である。粘度は細管レオメタ−を用いて100s-1の剪断速度で230℃で測定する。このPVDFは押出し成形および射出成形に特に適している。細管レオメターを用いて100s-1の剪断速度で230℃で測定したPVDFの粘度は300Pa.S〜1200Pa.Sの範囲であるが好ましい。
カイナー(Kynar、登録商標)710または720の名称で市販のPVDFが特に適している。
【0024】
不飽和モノマーは1つの二重結合C=Cと、少なくとも1つの極性官能基を有する。この極性官能基は下記の官能基の一つにすることができる、
カルボン酸官能基、
カルボン酸の塩、
無水カルボン酸、
エポキシド、
カルボン酸のエステル、
シリル、
アルコキシシラン、
カルボン酸アミド、
ヒドロキシ、
イソシアネート。
複数の不飽和モノマーとの混合物にすることもできる。
【0025】
特に好ましい不飽和モノマーは4〜10個の炭素原子を有する不飽和ジカルボン酸とその誘導体、特にその無水物である。
これらの不飽和モノマーとしては例えばメタクリル酸、アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、ウンデシレン酸、アリル琥珀酸、シクロヘキシ−4−エン−1,2−ジカルボン酸、4−メチルシクロヘキシ−4−エン−1,2−ジカルボン酸、ビシクロ[2,2,1]へプト−5−エン−2,3−ジカルボン酸、x−メチルビシクロ[2,2,1]へプト−5−エン−2,3−ジカルボン酸、ウンデシレン酸亜鉛、カルシウムまたはナトリウム、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、ジクロロ無水マレイン酸、ジフルオロ無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水クロトン酸、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、グリシジルエーテルアリル、トリメトキシシランビニル、トリエトキシシランビニル、トリアセトキシシランビニル、γ−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン等のシランビニルが挙げられる。
【0026】
不飽和モノマーの他の例としては下記のものが挙げられる:不飽和カルボン酸のC1−C8アルキルエステルまたはグリシジルエステル誘導体、例えば、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、ブチルアクリレート、ブチルメタクリレート、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、マレイン酸モノエチル、マレイン酸ジエチル、フマル酸モノメチル、フマル酸ジメチル、イタコン酸モノメチルおよびイタコン酸ジエチル;不飽和カルボン酸のアミド誘導体、例えばアクリルアミド、メタクリルアミド、マレイン酸のモノアミド、マレイン酸のジアミド、マレイン酸のN−モノエチルアミド、マレイン酸のN,N−ジエチルアミド、マレイン酸のN−モノブチルアミド、マレイン酸のN,N−ジブチルアミド、フマル酸のモノアミド、フマル酸のジアミド、フマル酸のN−モノエチルアミド、フマル酸のN,N−ジエチルアミド、フマル酸のN−モノブチルアミド、フマル酸のN,N−ジブチルアミド;不飽和カルボン酸のイミド誘導体、例えば、マレイミド、N−ブチルマレイミドおよびN−フェニルマレイミド;および、不飽和カルボン酸の金属塩、例えばアクリル酸ナトリウム、メタクリル酸ナトリウム、アクリル酸カリウムおよびメタクリル酸カリウムおよびウンデシレン酸亜鉛、カルシウムまたはナトリウム。
【0027】
フルオロポリマーの架橋を引き起こす可能性がある2つの二重結合C=Cを有する不飽和モノマー、例えばジアクリレートまたはトリアクリレートは不飽和モノマーから除外される。
このような観点からホモ重合も架橋もほとんど起こさずにグラフト可能な無水マレイン酸、ウンデシレン酸亜鉛、カルシウムまたはナトリウムが好ましいグラフト化合物である。
【0028】
無水マレイン酸を用いるのが有利である。この不飽和モノマーは下記の利点を有する:
(1)固体であるため、溶融混合前にフルオロポリマー顆粒と一緒に導入するのが容易である。
(2)優れた接着性が得られる。
(3)官能化ポリオレフィン上の官能基(特にエポキシド官能基の場合)と反応することができる。
(4)その他の不飽和モノマー、例えば(メタ)アクリル酸またはアクリルエステルとは違って、単独重合しないので安定化させる必要がない。
【0029】
照射する化合物中のフルオロポリマーの重量比率は不飽和モノマー1〜20%に対してそれぞれ80〜99.9%である。フルオロポリマーの重量比率は不飽和モノマー1〜10%に対してそれぞれ90〜99%であるのが好ましい。
【0030】
ポリオレフィンとは主成分としてエチレンおよび/またはプロピレンの単位を含むポリマーを意味する。ポリオレフィンはエチレンのホモポリマーまたはコポリマーにすることができ、コモノマーはプロピレン、ブテン、ヘキセンまたはオクテンの中から選択できる。ポリオレフィンをプロピレンのホモポリマーまたはコポリマーにすることもでき、コモノマーはエチレン、ブテン、ヘキセンまたはオクテンの中から選択できる。
【0031】
ポリエチレンは特に高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖低密度ポリエチレン(LLDPE)または超低密度ポリエチレン(VLDPE)にすることができる。ポリエチレンはチーグラー−ナッタ触媒、フィリップス触媒またはメタロセン触媒を用いて、または高圧法を用いて得ることができる。ポリプロピレンはアイソタクチックまたはシンジオタクチックポリプロピレンにすることができる。
【0032】
ポリエチレンを架橋ポリエチレン(XPE)にすることもできる。架橋ポリエチレンは例えば加水分解シラン基(下記文献に記載)を含み、このシラン基間の反応で架橋したポリエチレンにすることができる。
【特許文献10】国際特許出願第WO 01/53367号公報
【特許文献11】米国特許出願第20040127641A1号明細書
【0033】
Si−ORシラン基間の反応はポリエチレン鎖を互いに結合するSi−O−Si結合を生じる。加水分解シラン基の含有率は100−CH2−単位当たり少なくとも0.1の加水分解シラン基にすることができる(赤外分析法で測定)。ポリエチレンは照射、例えばγ照射によって架橋できる。さらに、過酸化物型のラジカル開始剤を用いて架橋したポリエチレンにすることもできる。従って、A型XPE(ラジカル開始剤を用いた架橋)、B型XPE(シラン基を用いた架橋)またはC型XPE(照射架橋)を用いることができる。
【0034】
ポリエチレンは下記文献に記載されているようなビモダル(双峰)ポリエチレンとよばれるもの、すなわち平均分子量の異なるポリエチレンのブレンドからなるものにすることもできる。
【特許文献12】国際特許第WO 00/60001号公報
【0035】
ビモダルポリエチレンによって例えば耐衝撃性、耐応力亀裂性と、優れた剛性、優れた耐圧性とをうまくバランスさせることができる。
耐圧性にする必要があるパイプ、特に加圧ガスの輸送または水の輸送用管では、優れた耐低速亀裂成長性(SCG)と耐高速亀裂成長性(RCP)とを有するポリエチレンを用いるのが有利である。トータル・ペトロケミカルズ社から市販のHDPE XS 10 Bグレードは優れた耐亀裂性(低速または高速での耐亀裂成長性)を有する。これはコモノマーとしてヘキセンを含むHDPEであり、密度が0.959g/cm3(ISO 1183)、MI−5が0.3dg/分(ISO 1133)、HLMIが8dg/分(ISO 1133)、長期静水耐圧が11.2MPa(ISO/DIS 9080)、ノッチ付き管上での耐低速亀裂性が1000時間以上(ISO/DIS 13479)である。
【0036】
官能化ポリオレフィンとはエチレンと、下記の中から選択される少なくとも一種の不飽和極性モノマーとのコポリマーである:
(1)C1−C8アルキル(メタ)アクリレート、特にメチル、エチル、プロピル、ブチル、2−エチルヘキシル、イソブチルおよびシクロヘキシル(メタ)アクリレート、
(2)不飽和カルボン酸とその塩およびその無水物、特に無水アクリル酸、無水メタクリル酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸および無水シトラコン酸、
(3)不飽和エポキシド、特に脂肪族グリシジルのエステルおよびエーテル、例えば、アリルグリシジルエーテル、ビニルグリシジルエーテル、マレイン酸グリシジル、イタコン酸グリシジル、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、脂環式グリシジルのエステルおよびエーテル、
(4)飽和カルボン酸ビニルエステル、特に酢酸ビニルまたはプロピオン酸ビニル。
【0037】
官能化ポリオレフィンはエチレンと上記の中から選択された少なくとも一種の不飽和極性モノマーとの共重合で得ることができる。官能化ポリオレフィンはエチレンと上記の中から選択された極性モノマーとのコポリマーまたはエチレンと上記の中から選択された2種の不飽和極性モノマーとのターポリマーにすることもできる。共重合は1000bar以上の高圧で高圧法に従って行う。共重合で得られた官能性ポリオレフィンは50〜99.9重量%、好ましくは60〜99.9重量%、さらに好ましくは65〜99重量%のエチレンと、0.1〜50重量%、好ましくは0.1〜40重量%、さらに好ましくは1〜35重量%の上記の中から選択された少なくとも一種の極性モノマーとを含む。
【0038】
官能化ポリオレフィンは例えばエチレンと不飽和エポキシド、好ましくはグリシジル(メタ)アクリレートと、任意成分としてのC1−C8アルキル(メタ)アクリレートまたは飽和カルボン酸のビニルエステルとのコポリマーにすることができる。不飽和エポキシド、特にグリシジル(メタ)アクリレートの含有率は0.1〜50重量%、好ましくは0.1〜40重量%、さらに好ましくは1〜35重量%、さらに好ましくは1〜20重量%である。官能化ポリオレフィンは、例えば本出願人の製品ロタダー(LOTADER、登録商標)AX8840(8重量%のグリシジルメタクリレート/92重量%のエチレン、ASTM D1238に従って測定したメルトインデックスが5)、ロタダー(LOTADER、登録商標)AX8900(8重量%のグリシジルメタクリレート/25重量%のメチルアクリレート/67重量%のエチレン、ASTM D1238に従って測定したメルトインデックスが6)またはロタダー(LOTADER、登録商標)AX8950(9重量%のグリシジルメタクリレート/15重量%のメチルアクリレート/76重量%のエチレン、ASTM D1238に従って測定したメルトインデックスが85)にすることができる。
【0039】
また、官能化ポリオレフィンはエチレンと、不飽和カルボン酸無水物、好ましくは無水マレイン酸と、任意成分としてのC1−C8アルキル(メタ)アクリレートまたは飽和カルボン酸のビニルエステルとのコポリマーにすることもできる。カルボン酸無水物、特に無水マレイン酸の含有率は、0.1〜50重量%、好ましくは0.1〜40重量%、さらに好ましくは1〜35重量%、さらに好ましくは1〜10重量%である。官能化ポリオレフィンは、例えば本出願人の製品ロタダー(LOTADER、登録商標)2210(2.6重量%の無水マレイン酸/6重量%のブチルアクリレート/91.4重量%のエチレン、ASTM D1238に従って測定したメルトインデックスが3)、ロタダー(LOTADER、登録商標)3340コポリマー(3重量%の無水マレイン酸/16重量%のブチルアクリレート/81重量%のエチレン、ASTM D1238に従って測定したメルトインデックスが5)、ロタダー(LOTADER、登録商標)4720コポリマー(0.3重量%の無水マレイン酸/30重量%のエチルアクリレート/69.7重量%のエチレン、ASTM D1238に従って測定したメルトインデックスが7)、ロタダー(LOTADER、登録商標)7500(2.8重量%の無水マレイン酸/20重量%のブチルアクリレート/77.2重量%のエチレン、ASTM D1238に従って測定したメルトインデックスが70)または本出願人の製品オレバック(OREVAC、登録商標)9309、オレバック9314、オレバック9307Y、オレバック9318、オレバック9304またはオレバック9305コポリマーにすることができる。
【0040】
また、「官能化ポリオレフィン」は上記の中から選択される不飽和極性モノマーをラジカル経路でグラフトしたポリオレフィンにすることもできる。このグラフトはラジカル開始剤の存在下で押出機または溶液中で行う。ラジカル開始剤の例としてはtert-ブチルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、ジイソプロピルベンゼンヒドロペルオキシド、ジ−tert-ブチルペルオキシド、tert-ブチルクミルペルオキシド、ジクミルペルオキシド、1,3−ビス−(tert-ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、ベンゾイルペルオキシド、イソブチリルペルオキシド、ビス(3,5,5−トリメチルヘキサノイル)ペルオキシドまたはメチルエチルケトンペルオキシドを用いることができる。不飽和極性モノマーのポリオレフィンへのグラフトは当業者に周知である。これらの詳細な説明は下記文献を参照されたい。
【特許文献13】欧州特許第689505号公報
【特許文献14】米国特許第5235149号明細書
【特許文献15】欧州特許第658139号公報
【特許文献16】米国特許第6750288B2号明細書
【特許文献17】米国特許第6528587B2号明細書
【0041】
不飽和極性モノマーがグラフトされるポリオレフィンはポリエチレン、特に高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖低密度ポリエチレン(LLDPE)または超低密度ポリエチレン(VLDPE)にすることができる。ポリエチレンはチーグラー−ナッタ触媒、フィリップス触媒またはメタロセン触媒を用いてまたは高圧法を用いて得ることができる。ポリオレフィンはポリプロピレン、特にアイソタクチックまたはシンジオタクチックポリプロピレンにすることもできる。ポリオレフィンはエチレンとプロピレンとのEPR型コポリマー、またはエチレンとプロピレンとジエンとのEPDM型ターポリマーにすることもできる。ポリオレフィンは例えば本出願人から商品名オレバック(OREVAC、登録商標)18302、18334、18350、18360、18365、18370、18380、18707、18729、18732、18750、18760、PP−CおよびCA100で市販の官能化ポリオレフィンの一つにすることもできる。
【0042】
不飽和極性モノマーがグラフトされたポリマーはエチレンと、下記の中から選択される少なくとも一種の不飽和極性モノマーとのコポリマーにすることもできる:
(1)C1−C8アルキル(メタ)アクリレート、特にメチル、エチル、プロピル、ブチル、2−エチルヘキシル、イソブチルおよびシクロヘキシル(メタ)アクリレート、
(2)飽和カルボン酸ビニルエステル、特に酢酸ビニルまたはプロピオン酸ビニル。
【0043】
このポリマーは例えば本出願人から商品名オレバック(OREVAC、登録商標)18211、18216または18360で市販の官能化ポリオレフィンの一つにすることができる。官能化ポリオレフィンは、フルオロポリマーにグラフトされた不飽和モノマー上の官能基が官能化ポリオレフィンの極性モノマー上の官能基と反応するように選択するのが好ましい。例えば、フルオロポリマーにカルボン酸無水物、例えば無水マレイン酸をグラフトする場合、官能化ポリオレフィンの層はエチレンと不飽和エポキシド、例えばグリシジルメタクリレートと(必要に応じてさらにアルキルアクリレートと)のコポリマー(エチレンコポリマーは必要に応じてポリオレフィンと混合できる)にすることができる。
【0044】
別の実施例では、フルオロポリマーに不飽和エポキシド、例えばグリシジルメタクリレートをグラフトした場合、官能化ポリオレフィンの層はエチレンとカルボン酸無水物、例えば無水マレイン酸と(必要に応じてさらにアルキルアクリレートと)のコポリマー(エチレンコポリマーは必要に応じてポリオレフィンと混合できる)にすることができる。
以下、多層管およびその変形例を詳細に説明する。
【0045】
多層管は下記の層(1)〜(6)を(管の内側から外側へ向かって下記順序で)有する:
(1)フルオロポリマーの層C1(任意層)、
(2)照射グラフト化フルオロポリマーの層C2(フルオロポリマーと混合されていてもよい)、
(3)照射グラフト化フルオロポリマーを含む層C2に直接結合した接着結合層C3(任意層)、
(4)任意層C3または層C2に直接結合したポリオレフィンの層C4
(5)バリヤ層C5(任意層)、
(6)ポリオレフィンの層C6(任意層)。
流体と接触する内側層はC1層またはC2層のいずれかである。多層管の全ての層は同心円であるのが好ましい。多層管は円筒形であるのが好ましい。各層は各接触領域で互いに接着している(すなわち連続した2つの層が互いに直接結合している)のが好ましい。
【0046】
本発明多層管の利点
本発明の多層管は下記の利点を有する:
(1)(層C1および/またはC2を介した)輸送流体に対する耐薬品性を有する。
(2)汚染物質が外部媒体から被輸送流体中へ移動するのを阻止する。
(3)C4層および/またはC6層のポリオレフィン中に存在する汚染物質が被輸送流体中へ移動するのを阻止する。
(4)被輸送流体中に存在する酸素または添加剤がC4層へ移動するのを阻止する。
【0047】
層C1(任意層)
この層は少なくとも一種のフルオロポリマーを含む(このフルオロポリマーは照射グラフトで変性されていない)。このフルオロポリマーはPVDFのホモポリマーまたはコポリマーまたはVDFとTFEとをベースにしたEFEP型のコポリマーであるのが好ましい。
【0048】
層C2
この層は少なくとも一種の照射グラフト化フルオロポリマーを含む。この照射グラフト化フルオロポリマーはポリオレフィン層とフルオロポリマー層との間の結合層の役目をする。層C2は層C1に直接結合しているのが有利である。
層C2は照射グラフト化フルオロポリマーをそのまま用いるか、フルオロポリマーとの混合物にして用いることができる。この場合、この混合物は1〜99重量%、好ましくは10〜90重量%、さらに好ましくは10〜50重量%の照射グラフト化フルオロポリマーに対してフルオロポリマー(グラフト化されていない)をそれぞれ99〜1重量%、好ましくは90〜10重量%、さらに好ましくは50〜90重量%含む。
層C2中で用いられるグラフト化フルオロポリマーと、層C1および/または層C2中で用いられる照射グラフトされていないポリマーとは同じ種類であるのが有利である。例えば、これらは照射グラフト化されたPVDFと変性されていないPVDFとにすることができる。
【0049】
層C3(任意層)
この層は層C2と層C4との間に配置され、これら2つの層の間の接着を強める役目をする。この層は接着結合剤、すなわち層間の接着を良くするポリマーを含む。
この接着結合剤は例えば官能化ポリオレフィン(ポリオレフィンと混合されていてもよい)である。混合物を用いる場合には1〜99重量%、好ましくは10〜90重量%、さらに好ましくは50〜90重量%の官能化ポリオレフィンに対してポリオレフィンはそれぞれ99〜1重量%、好ましくは90〜10重量%、さらに好ましくは10〜50重量%含まれる。官能化ポリオレフィンとの混合物で用いられるポリオレフィンはポリエチレンであるのが好ましい。この2つのポリマーは良好な相溶性を示す。層C3は2種以上の官能化ポリオレフィンの混合物を含むこともできる。例えば、層C3をエチレンと不飽和エポキシドと(必要に応じてさらにアルキル(メタ)アクリレートと)のコポリマーと、エチレン/アルキル(メタ)アクリレートコポリマーとの混合物にすることもできる。
【0050】
層C4
この層C4は少なくとも一種のポリオレフィン(官能化ポリオレフィンと混合されていてもよい)を含む。混合物の場合、この層は1〜99重量%、好ましくは10〜90重量%、さらに好ましくは10〜50重量%の官能化ポリオレフィンに対してポリオレフィンをそれぞれ99〜1重量%、好ましくは90〜10重量%、さらに好ましくは50〜90重量%含む。官能化ポリオレフィンとの混合物で用いられるポリオレフィンはポリエチレンであるのが好ましい。この2つのポリマーは良好な相溶性を示す。
層C4または層C3に官能化ポリオレフィンを用いる場合と、これらの層の一つが層C2と直接接触している場合には、官能化ポリオレフィンがフルオロポリマーにグラフトされた官能基と反応可能な官能基を有するように選択するのが好ましい。例えば、フルオロポリマーに無水官能基をグラフトした場合、官能化ポリオレフィンはエポキシドまたはヒドロキシ官能基を含むのが有利である。同様に、例えば、フルオロポリマーにエポキシドまたはヒドロキシ官能基をグラフトした場合には官能化ポリオレフィンは無水官能基を含むのが有利である。
流体と接触する内側層は層C1または層C2のいずれかである。
【0051】
バリヤ層C5(任意層)
バリヤ層の役目は多層管の外から中へまたはその逆に化合物が拡散するのを防ぐことである。例えば、このバリヤ層は汚染物質によって流体が汚染されるのを防ぐ。酸素および化学品、例えば炭化水素は汚染物質である。気体の場合の特殊な例では、湿気を汚染物質とみなすことができる。
【0052】
このバリヤ層はバリヤポリマー、例えばポリジメチルケテンで構成することができる。ポリジメチルケテンは下記文献に記載のイソ酪酸無水物の熱分解によって得ることができる(下記文献は参考として本明細書の一部を成す)。
【特許文献18】フランス国特許出願2,851,562号
【特許文献19】フランス国特許出願2,851,562号
【0053】
ポリジメチルケテンを得る方法は以下の通り:(a)1〜50体積%のイソ酪酸無水物に対してそれぞれ99〜50体積%の不活性ガスを含む混合物を大気圧で、300〜340℃で予熱し、(b)次いで、この混合物を400〜550℃の温度にし、接触時間を0.05〜10秒にしてジメチルケテンと不活性ガスとイソ酪酸と未反応イソ酪酸無水物との混合物を得て、(c)この流れを冷却してイソ酪酸アルコールおよびイソ酪酸無水物からジメチルケテンと不活性ガスを分離し、(d)ジメチルケテンを次いで飽和または不飽和の脂肪族または脂環式の置換または未置換炭化水素型の溶媒に吸収させ、次いで、この溶媒に可溶で且つ開始剤と触媒と共触媒とを含むカチオン触媒系を用いてジメチルケテンの重合を開始し、(e)重合終了後、未反応ジメチルケテンを除去し、溶媒および触媒系の残留物からポリジメチルケテンを分離する。触媒は例えばAlBr3にすることができ、開始剤は例えばtert-ブチル塩化物、共触媒は例えばo−クロラニルである。
【0054】
バリヤ層C5の接着を良くするために、バリヤ層C5とポリオレフィン層C4との間および/またはバリヤ層C5とポリオレフィン層C6(任意層)との間に接着結合層を配置するのが有利である。接着結合層は例えば上記の官能化ポリマーにすることができる。例えば、接着結合層をラジカルグラフトによって得られる官能化ポリオレフィンにすることができる。これはカルボン酸またはカルボン酸無水物、例えば(メタ)アクリル酸または無水マレイン酸がグラフトされたポリオレフィンであるのが有利である。従って、(メタ)アクリル酸または無水マレイン酸がグラフトしたポリエチレン、または、(メタ)アクリル酸または無水マレイン酸がグラフトしたポリプロピレンにすることができる。官能化ポリオレフィンの例としては本出願人の製品オレバック(OREVAC、登録商標)18302、18334、18350、18360、18365、18370、18380、18707、18729、18732、18750、18760、PP−CおよびCA100、または、ユニロイヤルケミカル社の製品ポリボンド(POLYBOND)1002または1009(アクリル酸がグラフトしたポリエチレン)が挙げられる。
【0055】
層C6(任意層)
本発明の多層管は少なくとも一種のポリオレフィンを含む層C6を任意層として有することもできる。層C4と層C6のポリオレフィンは同一でも異なっていてもよい。層C6は(例えば多層管を取り付けるときの衝撃から)多層管を機械的に保護するため、特に層C4またはバリヤ層C5が存在する場合はこの層を保護するために用いる。C6はさらに多層管全体を機械的に強化することができるため、その他の層の厚さを減らすことができる。そのために、層C6は少なくとも一種の強化剤、例えば無機充填材を含むことができる。
XPEは良好な熱機械的特性を有するので、層C4および/または層C6に用いるのが有利である。
多層管の各層、特に一つまたは複数のポリオレフィン層は熱可塑性樹脂に混合する通常の添加剤、例えば酸化防止剤、潤滑剤、着色剤、難燃剤、無機または有機充填材およびカーボンブラックまたはカーボンナノチューブのような帯電防止剤を含むことができる。多層管はその他の層、例えば外側絶縁層を有することもできる。
【0056】
以下、本発明の多層管の各種実施例を説明する。
第1実施例では、多層管は層C2および層C2に直接結合した層C4を(管の内側から外側へ向かって下記順序で)有する。
第2実施例では、層C1、層C2および層C2に直接結合した層C4を(管の内側から外側へ向かって下記順序で)有する。
第3実施例では、層C1、層C2、層C2に直接結合した層C3、層C3に直接結合した層C4、層C5および層C6を(管の内側から外側へ向かって下記順序で)有する。
【0057】
最適な第3実施例による多層管の例
1:PVDFホモポリマーまたはコポリマー、
2:無水マレイン酸を照射によってグラフトしたPVDFのホモポリマーまたはコポリマー、
3:接着結合層、好ましくは無水マレイン酸(ポリオレフィンと混合されていてもよい)と反応可能な官能基を有する官能化ポリオレフィン。これはエポキシドまたはヒドロキシ官能基を有する官能化ポリオレフィンであるのが有利である。官能化ポリオレフィンは例えばエチレンと、不飽和エポキシド、例えばグリシジルメタクリレートと(必要に応じてさらにアルキルアクリレートと)のコポリマーにすることができる。
4:ポリエチレン、好ましくはXPE型のもの
5:バリヤ層、および
6:ポリエチレン、好ましくはXPE型のもの。
【0058】
接着結合層はC5とC4の間および/またはC5とC6との間に配置されるのが好ましい。接着結合剤は官能化ポリオレフィンであるのが好ましい。
【0059】
各層の厚さ
層C1、C2、C3およびC5の厚さはそれぞれ0.01〜30mm、好ましくは0.05〜20mm、さらに好ましくは0.05〜10mmであるのが好ましい。ポリオレフィン層C4およびC6の厚さはそれぞれ0.1〜10,000mm、好ましくは0.5〜2000mm、さらに好ましくは0.5〜1000mmであるのが好ましい。
【0060】
多層管の製造
多層管は共押出技術を用いて製造できる。この技術では押し出す層と同じ数の押出機を使用する。
層C4および/または層C6(任意層)のポリオレフィンがB型XPE(シラン基による架橋)の場合には、まず最初に未架橋ポリオレフィンを押出し成形する。押出成形された管を熱水浴中に浸漬して架橋を開始する。A型のXPE(ラジカル開始剤を用いる架橋)の場合には、押出中に熱的に活性化されるラジカル開始剤を用いて架橋を行う。C型のXPEでは先ず最初に全ての層を押出し、次に、多層管全体に放射線を照射してポリエチレンの架橋を開始する。照射は3〜35Mradの電子ビームによって行う。
【0061】
本発明はさらに、下記(1)と(2)の工程からなる、少なくとも一つのC型XPEの層を有する多層管の製造方法に関するものである:
(1)多層管の各層を共押出しし、次いで、
(2)こうして形成された多層管に放射線を照射して一層または複数のポリエチレン層を架橋する。
【0062】
管の使用
本発明の多層管は種々の流体の輸送で用いることができる。
本発明多層管は特に熱水の輸送、特に熱水の水道の輸送に適している。多層管は暖房用の熱水(60℃、さらには90℃以上の温度)を輸送するのに用いることができる。有利な用途の一例は熱水運搬用の管を床下に配置した輻射床暖房である。水をボイラーで加熱して本発明多層管に流す。本発明の別の例では本発明多層管は熱水をラジエータへ運搬する役目をする。従って、本発明多層管は輻射熱水暖房装置で使用できる。本発明はさらに、本発明多層管を含む暖房回路網に関するものである。
【0063】
本発明多層管の耐薬品性は、ポリオレフィン、特にポリエチレンを変性させる可能性のある(特に高温で)化学添加剤を含む水(一般に1%以下の少量)に適合している。これらの添加剤としては酸化剤、例えば塩素および次亜塩素酸、塩素化誘導体、漂白剤、オゾン等が挙げられる。
【0064】
本発明多層管中を流れる水が飲料水、医薬用途で用いる水または生体液体である用途では、水と接触する層(層C1)として未変性フルオロポリマーの層を有するのが好ましい。フルオロポリマー、特にPVDF上では微生物(バクテリア、細菌、カビの生育など)はほとんど生育しない。さらに、水または生体液体と接触する層は非グラフト化(遊離)不飽和モノマーが水または生体液体中に移動するのを防ぐために変性フルオロポリマーの層より未変性フルオロポリマーの層であるのが好ましい。
【0065】
本発明多層管はそのバリヤ特性によって輸送流体への汚染物質の移動が阻止され、汚染地盤中での水の輸送で有用である。また、バリヤ特性は酸素が水中に移動するのを防ぐのに有用である(DIN 4726)。この移動は暖房用熱水の輸送に本発明多層管を用いる場合に有害となることがある(酸素の存在は暖房設備の鋼または鉄部材の腐食の原因になる)。ポリオレフィン層中に存在する汚染物質(酸化防止剤、重合残留物等)が輸送流体中に移動するのを阻止することも望ましい。
より一般的には、本発明多層管は化学製品、特にポリオレフィンを化学的に劣化させる傾向がある化学製品の輸送に使用可能である。
【0066】
さらに、本発明多層管はガス、特に加圧ガスの輸送に用いることができる。ポリオレフィンがPE80またはPE100型のポリエチレンである場合は、10bar以上または20bar以上、さらには30bar以上の圧力に耐えるのに特に適している。ガスは種々のタイプのガスにすることができ、例えば、下記のガスが挙げられる:
(1)炭化水素ガス(例えば都市ガス、アルカンガス、特にエタン、プロパンまたはブタン、またはアルケンガス、特にエチレン、プロピレンまたはブテン)、
(2)窒素、
(3)ヘリウム、
(4)水素、
(5)酸素、
(6)腐食性ガスまたはポリエチレンまたはポリプロピレンを劣化する危険のあるガス、例えば、酸性または腐食性ガス、例えばH2SまたはHClまたはHFにすることができる。
【0067】
さらに、本発明多層管は空調の用途で用いられる冷媒(クライオジェン)のガスにも有利である。冷媒はCO2、特に超臨界CO2、HFCまたはHCFCガスにすることができる。層C1(任意層)または層C2はフルオロポリマーであるのでこれらのガスに対して優れた耐性を有する。層C1および層C2のフルオロポリマーは特に耐性のあるPVDFであるのが好ましい。冷媒を空調回路内のある点で凝縮して液体にすることもできる。従って、本発明多層管は極低温ガスを液体の形に凝縮させた場合にも適用できる。
【実施例】
【0068】
変性カイナー(KYNAR、登録商標)720の製造
PVDF(アルケマ社、ARKEMA)のカイナー(Kynar、登録商標)720)に2重量%の無水マレイン酸を加えた混合物を調製する。この混合物は二軸スクリュー押出機を用いて230℃、150回転/分、押出量10kg/時で調製した。こうして調製し、顆粒にした生成物をアルミニウムの袋に入れ、アルゴンでパージして酸素を除去した。
次に、袋に3Mrad(加速10MeV)のγ放射線(コバルト60)を17時間照射した。グラフト化率は50%であった。このグラフト化率はN−メチルピロリドンへ溶解し、次に水/THF(50/50重量)の混合物中で沈殿させて調べた。グラフト操作後に得られた生成物を130℃で減圧下に一晩放置して残留無水マレイン酸と照射中に遊離したフッ化水素酸とを除去した。
グラフト化無水マレイン酸の最終含有率は1%であった(約1870cm-1帯域C=0における赤外分光学による分析)。
【0069】
多層管の製造
下記構成の多層管を共押出技術を用いて製造した:変性カイナー(Kynar、登録商標)720(300μm)/ロタダー(LOTADER、登録商標)AX 8840(100μm)/XPE(2600μm)。XPE層は外側層にした。ロタダー(LOTADER、登録商標)は変性PVDFとXPEとの間の接着結合剤の役目をした。全ての層は上記の順序で互いに接着した。
この多層管はシラン基で変性したポリエチレンの層(押出温度:約230℃)と、ロタダー(LOTADER、登録商標)AX 8840(押出温度:約250℃)の層と、1重量%の無水マレイン酸を照射グラフトしたカイナー(Kynar、登録商標)720の層(押出温度:約250℃)とを共押出して製造した。押出機はMc Neil押出機を使用した。押出ヘッドの温度は265℃、ダイ温度は250℃にした。各層の厚さは(32mmの外径の管で)2.6mmのXPE、100μmのロタダー(LOTADER、登録商標)AX8840および300μmの変性カイナー(Kynar、登録商標)720にした。
ポリエチレン層は95%のボレアリ(Borealis)社の製品ボルペクス(BORPEX、登録商標)ME2510グレードと、5%のボレアリ(Borealis)社の製品MB51とを含むマスターバッチを押し出して製造した。押出してから5日後に測定した層間接着力は50N/cmであった。この多層管を60℃の熱水タンクに72時間入れてXPEにした。溶解技術で測定したこの多層管で得られるゲル含有率は75%であった。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】は本発明の一実施例による多層管9の断面図であり、この多層管9は下記の複数の同心円層(1〜8)を有する円筒管である(各層は1から8の順で互いに接するように配置される): 層1:フルオロポリマー層C1、 層2:照射グラフト化フルオロポリマーの層C2、 層3:接着結合層C3、 層4:ポリオレフィン層C4、 層5:接着結合層、 層6:バリヤ層C5、 層7:接着結合層、 層8:ポリオレフィンの層C6

【特許請求の範囲】
【請求項1】
管の内側から外側へ向かって下記の層(1)〜(6)を下記の順序で有する多層管:
(1)フルオロポリマーの層C1(任意層)、
(2)少なくとも一種の不飽和モノマーを、必要な場合にはフルオロポリマーと混合した状態で、放射線の照射によってグラフトしたフルオロポリマーの層C2
(3)放射線の照射によってグラフトした上記のフルオロポリマーの層C2に直接結合した接着結合層C3(任意層)、
(4)上記任意層C3または上記層C2に直接結合した、官能化ポリオレフィンと混合されていてもよいポリオレフィンの層C4
(5)バリヤ層C5(任意層)、
(6)ポリオレフィンの層C6(任意層)。
【請求項2】
管の内側から外側へ向かって層C2とこの層C2に直接結合した層C4とをこの順序で有する請求項1に記載の多層管。
【請求項3】
管の内側から外側へ向かって層C1と、層C2と、この層C2に直接結合した層C4とをこの順序で有する請求項1に記載の多層管。
【請求項4】
管の内側から外側へ向かって層C1と、層C2と、この層C2に直接結合した層C3と、この層C3に直接結合した層C4と、層C5と、層C6とをこの順序で有する請求項1に記載の多層管。
【請求項5】
上記の各層が各接触領域で互いに接着している請求項1〜4のいずれか一項に記載の多層管。
【請求項6】
層C1および/または層C2のフルオロポリマーが、鎖中に重合を開始できるビニル基と、このビニル基に直接結合した少なくとも一つのフッ素原子、フルオロアルキル基またはフルオロアルコキシ基とを有する化合物の中から選択される少なくとも一種のモノマーを有するポリマーである請求項1〜5のいずれか一項に記載の多層管。
【請求項7】
層C1および/または層C2のフルオロポリマーがVDFのホモポリマーまたは少なくとも50重量%のVDFを含むそのコポリマーまたはEFEPである請求項1〜6のいずれか一項に記載の多層管。
【請求項8】
不飽和モノマーをグラフトしたフルオロポリマーがVDFのホモポリマーまたは少なくとも50重量%のVDFを含むそのコポリマーまたはEFEPである請求項1〜6のいずれか一項に記載の多層管。
【請求項9】
フルオロポリマーにグラフトした不飽和モノマーが1つの二重結合C=Cと、少なくとも1つの極性官能基とを有し、この極性官能基はカルボン酸官能基、カルボン酸の塩、無水カルボン酸、エポキシド、カルボン酸のエステル、シリル、アルコキシシラン、カルボン酸アミド、ヒドロキシまたはイソシアネートにすることができる請求項1〜8のいずれか一項に記載の多層管。
【請求項10】
フルオロポリマーにグラフトした不飽和モノマーが4〜10個の炭素原子を有する不飽和カルボン酸およびその誘導体、好ましくはその無水物である請求項1〜9のいずれか一項に記載の多層管。
【請求項11】
グラフトする不飽和モノマーがメタクリル酸、アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、ウンデシレン酸、アリル琥珀酸、シクロヘキシ−4−エン−1,2−ジカルボン酸、4−メチルシクロヘキシ−4−エン−1,2−ジカルボン酸、ビシクロ[2,2,1]へプト−5−エン−2,3−ジカルボン酸、x−メチルビシクロ[2,2,1]へプト−5−エン−2,3−ジカルボン酸、ウンデシレン酸亜鉛、カルシウムまたはナトリウム、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、ジクロロ無水マレイン酸、ジフルオロ無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水クロトン酸、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、アリルグリシジルエーテル、トリメトキシシランビニル、トリエトキシシランビニル、トリアセトキシシランビニル、γ−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシランのようなシランビニルである請求項1〜9のいずれか一項に記載の多層管。
【請求項12】
接着結合剤が、ポリオレフィンと混合されていてもよい官能化ポリオレフィンである請求項1〜11のいずれか一項に記載の多層管。
【請求項13】
層C3が層C2と直接接触している場合で、官能化ポリオレフィンがフルオロポリマーにグラフトされた官能基と反応可能な官能基を有する請求項12に記載の多層管。
【請求項14】
層C4が層C2と直接接触している場合で、官能化ポリオレフィンがフルオロポリマーにグラフトされた官能基と反応可能な官能基を有する請求項1〜12のいずれか一項に記載の多層管。
【請求項15】
層C4および/または層C6のポリオレフィンがエチレンおよび/またはプロピレンの単位を主成分とするポリマーである請求項1〜14のいずれか一項に記載の多層管。
【請求項16】
ポリオレフィンがエチレンのホモポリマーまたはコポリマーまたはプロピレンのホモポリマーまたはコポリマーである請求項15に記載の多層管。
【請求項17】
ポリオレフィンがXPEである請求項16に記載の多層管。
【請求項18】
管の内側から外側へ向かって下記の層(1)〜(6)を下記の順序で有する多層管:
(1)PVDFのホモポリマーまたはコポリマーの層C1
(2)放射線の照射によって無水マレイン酸をグラフトしたフPVDFのホモポリマーまたはコポリマーの層C2
(3)接着結合層C3
(4)ポリエチレン層C4、好ましくはXPE型のポリエチレンの層、
(5)バリヤ層C5
(6)ポリエチレン層C6、好ましくはXPE型のポリエチレン層。
【請求項19】
接着結合層がC5とC4の間および/またはC5とC6との間に配置されている請求項18に記載の多層管。
【請求項20】
各層が各接触領域で互いに接着している請求項18または19に記載の多層管。
【請求項21】
接着結合剤が無水マレイン酸と反応可能な官能基を有する官能化ポリオレフィンであり、この官能化ポリオレフィンにはポリオレフィンと混合されていてもよい請求項18〜20のいずれか一項に記載の多層管。
【請求項22】
官能化ポリオレフィンがエポキシドまたはヒドロキシ官能基を有する請求項21に記載の多層管。
【請求項23】
官能化ポリオレフィンが、チレンと、不飽和エポキシド、例えばグリシジルメタクリレートとのコポリマーであり、のコポリマーが要に応じてさらにアルキルアクリレートを含むことができる請求項21または22に記載の多層管。
【請求項24】
請求項1〜23のいずれか一項に記載の多層管の、水、特に熱水、化学製品またはガスの輸送での使用。
【請求項25】
請求項1〜23のいずれか一項に記載の多層管の、床暖房装置(plancher radiant)または熱水のラジエータへの運搬での使用。
【請求項26】
請求項1〜23のいずれか一項に記載の多層管の輻射暖房装置(systemes de chauffage par rayonnement)での使用。
【請求項27】
上記のガスが炭化水素ガス、窒素、ヘリウム、水素、酸素、腐食性ガスまたはポリエチレンまたはポリプロピレンを劣化させるガスまたは冷媒である請求項24に記載の使用。
【請求項28】
下記の(1)と(2)の工程を有する、少なくとも一つのC型XPEの層を有する請求項1〜23のいずれか一項に記載の多層管の製造方法:
(1)上記の各層を共押出しして多層管を作り、
(2)成形された多層管に放射線を照射して一層または複数のポリエチレン層を架橋させる。
【請求項29】
請求項1〜23のいずれか一項に記載の少なくとも一つの多層管を含む輻射暖房装置。

【図1】
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【公表番号】特表2008−542075(P2008−542075A)
【公表日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−514150(P2008−514150)
【出願日】平成18年6月2日(2006.6.2)
【国際出願番号】PCT/FR2006/001292
【国際公開番号】WO2006/129029
【国際公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【出願人】(505005522)アーケマ・フランス (335)
【Fターム(参考)】