説明

水またはメタノールによるCO2の固定化反応装置

【課題】 光照射面積が広く、外部から反応進行状況を観察することが可能で、シンプルな構成のCOの固定化反応装置を提供することを目的とする。
【解決手段】 装置外部から紫外光を照射することにより、光触媒の存在下でCOを水またはメタノールと反応させてCOを固定化するCOの固定化反応装置であって、反応槽12の上部開口部が光透過性材料11で封止されており、COガス導入口13及び反応生成ガス排出口14を、液面と接触しない反応槽12の側壁の上部に備えたことを特徴とするCOの固定化反応装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発電所、製鉄分野、石油化学産業分野、一般化学工業分野等において利用できる二酸化炭素(CO)の固定化反応装置に関する。
【背景技術】
【0002】
発電所、工場、自動車等の人間の社会的活動に伴って大気中に排出される二酸化炭素は地球温暖化の主たる原因であることが知られており、近年、この二酸化炭素の排出量を削減することが地球環境の保護の大きな課題となっている。これに対し、従来より、発電所等の排煙や大気中の二酸化炭素を固定化し除去するためのシステムが種々提案されている。
【0003】
二酸化炭素の固定化方法は、概ね生物的方法、物理的方法、化学的方法の3種類に分けられる。光合成を利用する生物的方法はかなりの量のCOの固定が期待でき、しかも熱帯林の保護や砂漠化防止にも役立つので、現在広範な植樹と微細藻類の多量かつ連続的な培養、増殖を行う研究開発が行われている。しかし、微細藻類による固定化反応は、微細藻類の表面で進行するため、微細藻類でCOを固定化するためには広大な面積の微細藻類が必要となる問題がある。
【0004】
物理的方法は、COの特殊な媒体への溶解、吸着を利用する分離・濃縮法であり、例えば、COをアルカリ溶液に溶解、反応後、炭酸塩として分離する方法、或いは、COをゼオライト媒体等に吸着させた後、脱着、濃縮する方法などが開発研究されている。しかし、吸着法ではCOの吸脱着に膨大なエネルギーを要する問題点がある。吸収法では大掛かりな装置が必要である。
【0005】
3番目の化学的方法は、電気化学法(電気化学的還元、電気化学的固定)、触媒反応を利用する方法、光反応を利用する方法に分けられる。電気化学法によるCOの還元は、特殊な電極を使用して電解溶液中のCOを分解し、ギ酸、メタン等を常温で生成する。電気化学的固定は、電気分解により例えばNaイオン源とCOを反応させ、炭酸Naとして固定する。
【0006】
触媒反応を利用するCOの還元は、COを一酸化炭素、メタノール等に転換してそれを利用するという手段のほかに、COを直接原料として用いる有機合成反応の研究等も行われている。二酸化炭素のような不活性分子を反応させる一般的な方法として、遷移金属化合物による配位活性化がある。
【0007】
光反応を利用するCOの還元は、自然界で発生している光合成反応と光触媒によるCOの還元に分けられる。自然界では、植物によりCOとHOから光を利用して炭水化物を合成する。この光合成反応は、緑色植物中の色素クロロフィルが光を吸収して励起状態になり、その励起状態から電子移動をし、最終的にCOを還元するというものである。また、光触媒反応によるCOの還元も報告されている。光触媒には、二酸化チタン(TiO)のような半導体微粒子や、金属を表面に担持した二酸化チタン、遷移金属錯体などが用いられる。しかし、光触媒反応を利用するCOの還元に関する研究の現状としては、近年進歩しているものの、まだ反応効率が低く、反応機構も十分に解明されていない状態である。
【0008】
光触媒を利用したCOの還元反応に関する報告として、特許文献1には、TiOなどの半導体光触媒を利用して水とCO混合物に紫外線照射することにより、COをギ酸、ホルムアルデヒド、メタノールおよびメタンに還元する方法が開示されている。この方法では純水100mlに光触媒1gを懸濁させ、COガスを前記懸濁水中に吹き込み攪拌しながら、ガラス製反応槽の側面に設けた石英板製の光照射用窓を介して超高圧水銀灯を用いて光を触媒に照射し、COを還元している。しかし、この装置では光照射面積が狭く、かつ、固定化反応を側面からの紫外線照射で行っているため、内部状況を観察するには光源を移動させなければならず、反応進行状況の観察が困難である。また、反応中の攪拌により触媒粒径が変化するため、実験の再現性が得られにくい問題がある。
【0009】
そこで、特許文献2には、光透過性多孔質無機粉末を光透過性フッ素樹脂に熱溶着させた光触媒複合材料とCOおよび水を接触させ、内部照射型反応管を用いて光を照射し、メタノールを生成するCOの光固定化方法が開示されている。この方法では、特殊な複合材料を用いることで、反応中の攪拌による触媒粒径の変化を抑制し、さらに反応後の光触媒の回収および再生を速やかに行えるため、高精度でCO固定化反応を繰り返し行うことができるとされている。しかし、装置自体が複雑なため経済性に劣り、反応進行状況の観察も困難である。
【特許文献1】特開昭55−105625号公報(特許請求の範囲(1)、第3頁左上欄、第6頁第1図等)
【特許文献2】特開平5−146671号公報(請求項1、段落番号0006、0011、図2等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述したように、反応装置の構成がシンプルで、反応槽の内部観察が容易で、光照射面積の広いCOの固定化装置は、得られていなかった。本発明は、上記課題に鑑み、光照射面積が広く、外部から反応進行状況を観察することが可能で、シンプルな構成のCOの固定化反応装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するため、本発明者らは鋭意検討した結果、以下に示す装置により前記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、光触媒の存在下、装置外部から紫外光を照射することにより、COを水またはメタノールと反応させてCOを固定化するCOの固定化反応装置であって、反応槽の上部開口部が光透過性材料で封止され、COガス導入口及び反応生成ガス排出口が液面と接触しない反応槽側壁の上部に備えられたことを特徴とするCOの固定化反応装置を提供する。
【0012】
前記において、反応は流動床式が好ましく、光触媒は粒子径が小さくて表面積の大きい超微粒子状または取扱い性のよい粒状のものが好ましく用いられる。チタニアゾルなどの光触媒ゾルや、光触媒の水に分散させた分散体なども使用することができる。
【0013】
光触媒としては、特に限定されないが、紫外光領域に吸収を有する金属酸化物などが用いられる。例えば、アナターゼ型、ルチル型、あるいはブルッカイト型の二酸化チタン(TiO2)、ガリウムリン(GaP)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化錫(SnO)、酸化第二鉄(FeO)、酸化タングステン(WO)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO)等を使用することができる。好ましくは、プラズマ法や湿式法(アンモニア加水分解処理)などによる酸素欠陥型の酸化チタン光触媒(TiO2−x)(より好ましくは、アナターゼ型酸化チタン)、窒素ドープ法などによる窒素ドープ型酸化チタン光触媒(TiO2−x,x=N)(より好ましくは、アナターゼ型酸化チタン)、コロイド焼成法などによるPd、Pt、Au等の金属超微粒子担持酸化チタン触媒(より好ましくは、ルチル型酸化チタン)、イオン注入法や、金属ドープ法などによるV、Cr、Ni、Mn、Fe、W等の遷移金属注入型酸化チタン(より好ましくは、アナターゼ型酸化チタン)、マグネトロンスパッタ法などによる薄膜型酸化チタン光触媒などの可視光応答可能な酸化チタン光触媒が良い。また、CdS、Fe、硫化モリブデン、GaAs、WOなどの可視光応答性が良いが光触媒活性が弱いもしくは不安定な物質(単一もしくは複数)をHTiなどの半導体の層間に包接することで、活性を向上させた光触媒を用いることも考えられる。これらの光触媒は、一種又は複数種を適宜混合して用いてもよい。
【0014】
光触媒は、水またはメタノールに懸濁した状態で反応に供される。水とメタノールは、ともにCO還元の水素供与体として作用する。水、メタノールは単独で使用してもよいし、混合して使用してもよい。
【0015】
また、反応装置には少なくとも二酸化炭素を含むガスを供給する。供給ガスは、発電所の排ガス等であってもよい。ガスを供給する手段は、特に限定されないが、例えばコンプレッサ、ポンプなどを駆動させて供給する。
【0016】
固定化反応装置への紫外線照射は、上部の光透過性材料を通じてキセノンランプ、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ等により行う。紫外線照射出力は、特に限定されず、適宜に決定する。通常、5W〜1kWである。固定化反応時の反応圧力は1〜5MPaとするのが好ましい。
【0017】
固定化反応装置の反応槽は円筒状であることが好ましい。このように設計することにより、加圧条件下でも固定化反応を円滑に進行させることができる。また、フランジ12aで形成される上部開口部の径を反応槽の内径以上に設計することにより、反応槽への光照射を充分に行うことができるため、好ましい。
【0018】
反応終了後、ガス排出口から反応生成ガスを取り出して、ガスクロマトグラフィー(GC)等の分析装置を用いて生成ガスを同定、定量すると同時に、水またはメタノール中に溶存している反応生成物を同定、定量する。
【発明の効果】
【0019】
以上説明した通り、本発明のCOの固定化反応装置によれば、光触媒を利用した紫外線照射によるCOの還元反応を高圧状態で行うことができる。また、装置そのものがシンプルな構成で、しかも、光透過部の径が従来より広く確保されるので、光照射面積が広く、反応槽内への光の導入も容易である。光透過部を通して装置内部の反応進行状況を観察することもでき、随時サンプリングすることも可能である。
【0020】
上記の特徴を備えていることから、実機やCO固定化反応の試験装置として利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は本発明の固定化反応装置の構成を示す断面図であり、図2は同固定化装置の上面図である。図中1は固定化反応装置であり、円筒状の反応槽12内部には水素供与体(水またはメタノール)22と光触媒23が充填されている。反応槽12のフランジ12aは、その上面が光透過性材料11(例えば、石英ガラスなど)で封止されている。光透過性材料11は図示しないパッキンを介して上蓋17およびボルト18によりフランジ12aに連結固定されている。上蓋17は点線で示す貫通孔を有している。これにより、反応装置内は、紫外光が外部から導入可能であるとともに密閉可能な状態となる。図2に示すように、フランジ12aで形成される上部開口部の径および上蓋17の貫通孔の径は、反応槽12の内径と等しい。
【0022】
反応槽12には、図示されていないがポンプが配管接続され、ポンプはCOガスの供給源(COガスボンベ)に配管接続される。コンプレッサ、ポンプなどの駆動により、COガス21が反応装置1内に、反応槽12の側壁の上方に備えられたCOガス導入口13から供給され、反応装置1内において反応に供される。COガス導入口13の先端には、図示していないが、水素供与体22にCOガスを吹き込むための吹き込みラインを取り付けることもできる。反応槽12としては、ステンレス製の耐圧容器などが使用される。固定化反応における金属の影響をなくすため、内側にテフロン(登録商標)コーティングしたものなどでもよい。また、テフロン(登録商標)培養パックなどを容器内部に装着することもできる。
【0023】
また、固定化反応装置1には、反応生成ガス24を排出する排出口14が備えられており、さらに、反応圧力を測定するための圧力計15が備えられている。COがス導入ライン13およびガス排出ライン14には、反応装置へのガスの供給および反応装置からのガスの排出を適宜調整するための調整バルブ16、16’が設けられている。
【0024】
調整バルブ16を開き、調整バルブ16’を閉めた状態で、COガスを反応装置1内に導入する。その後、固定化反応に必要な紫外光を、反応装置1の上方に配置された紫外線ランプ等から照射する。照射された紫外光は、上蓋17の貫通孔、光透過性材料11およびフランジ12aで形成される開口部を通して反応槽内部に入射して光触媒に当ることで、反応が進行する。紫外線ランプは、図示しない電圧調整装置により出力調整できるようになっており、これにより反応速度の調整が可能になる。COガス供給後は、調整バルブ16を閉じ、所定時間、紫外線を継続して照射する。反応途中、COガス排出口に備えられた調整バルブ16’を開くことにより、経時による反応生成ガスを定性、定量分析することもできる。
【0025】
反応終了後、調整バルブ16’を開いてガス排出口14から反応生成ガス24を取り出し、ガスクロマトグラフィー(GC)等の分析装置を用いて生成ガスを同定、定量する。さらに、反応槽12内の水またはメタノール中に溶存している反応生成物を、液体クロマトグラフィー(LC)等の分析装置を用いて同定、定量する。
【0026】
以上の操作に従って、本発明のCO固定化反応装置を使用することにより、光触媒によるCOの固定化反応を簡易な装置構成で実施することができる。
【実施例】
【0027】
以下、実施例を用いて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0028】
(実施例1)
COガス導入口と生成ガス排出口とを備えたステンレス製の耐圧容器(内径:40mm、高さ:160mm、容量200ml)に、純水20mlを入れ、これにイオウを担持した可視光応答型酸化チタン光触媒1gを懸濁させた。COガス供給ラインの先端には、テフロン(登録商標)チューブ製の吹き込みラインを接続し、その先端が液面により下になるように設置した。反応槽の上部に、パッキンを介して厚さ約30mmの石英ガラス製光透過性材料を設置し、さらにその上にパッキンを介してステンレス製上蓋を設置し、全体をボルトで固定することにより、図1に示す固定化反応装置を製作した。
【0029】
反応装置内に窒素ガスを通して酸素を排出した後、COガスをCOガス導入口から反応装置内に供給し、装置内の圧力を1.3MPaに調整した。波長305nm、出力5Wの放電管を使用して発光させ、反応装置内に紫外光を照射し、室温で21日間、COの光固定化反応を行った。反応後、生成ガス排出口の調整バルブを開けて生成ガスを取り出し、これを島津製作所製ガスクロマトグラフィー(GC−8A、GC−17A)により同定・定量した。その結果を表1に示した。
【0030】
(実施例2)
純水の変わりにメタノールを使用し、光触媒としてパラジウム1%を担持した酸化チタン光触媒を使用した以外は、実施例1と同様の方法により、室温で21日間、COの光固定化反応を行った。反応後、生成ガス排出口の調整バルブを開けて生成ガスを取り出し、これをガスクロマトグラフィー(GC)により同定・定量した。その結果を表1に示した。
【0031】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】固定化反応装置の断面図である。
【図2】固定化反応装置の上面図である。
【符号の説明】
【0033】
1 固定化反応装置
11 光透過性材料
12 反応槽
12a フランジ
13 COガス導入口
14 生成ガス排出口
15 圧力計
16,16’ 調整バルブ
17 上蓋
18 ボルト
21 COガス
22 水またはメタノール
23 光触媒
24 生成ガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光触媒の存在下、装置外部から紫外光を照射することにより、COを水またはメタノールと反応させてCOを固定化するCOの固定化反応装置であって、反応槽の上部開口部が光透過性材料で封止され、COガス導入口及び反応生成ガス排出口が液面と接触しない反応槽側壁の上部に備えられたことを特徴とするCOの固定化反応装置。
【請求項2】
反応圧力が1〜5MPaであることを特徴とする請求項1に記載の固定化反応装置。
【請求項3】
光触媒が超微粒子状または粒状であることを特徴とする請求項1または2に記載の固定化反応装置。
【請求項4】
反応槽が円筒状であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の固定化反応装置。
【請求項5】
反応槽の上部開口部の径が反応槽の内径以上であることを特徴とする請求項4に記載の固定化反応装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−102679(P2006−102679A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−294516(P2004−294516)
【出願日】平成16年10月7日(2004.10.7)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【Fターム(参考)】