説明

水不溶性色材の分散体及びこの製造方法、これを用いた記録液、インクセット、印画物、画像形成方法、及び画像形成装置

【課題】水不溶性色材微粒子の一次粒子が極めて微細なものであり、かつ分散安定性が高く、しかも保存安定性が非常に高いため所望の性能を維持して長期にわたり貯蔵しうる、上記疎水性有機溶剤を含有する水系インクの調製材料として適した水不溶性色材分散体、及びこれを効率良く得ることができる水不溶性色材分散体の製造方法を提供する。
【解決手段】少なくとも1種の水不溶性色材の微粒子を、特定の環構造基をもつ構成単位を有する高分子化合物または界面活性剤とともに、水を含む媒体に分散させた水不溶性色材分散体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水不溶性色材の分散体及びこの製造方法、これを用いた記録液、インクセット、印画物、画像形成方法、及び画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
分散体は一般的に粒子が凝集せずに液体中に安定して散在し浮遊あるいは懸濁している状態が好ましく、その分散状態を所望のものとすることは今日の産業において重要な研究開発の対象となっている。例えば磁性体などの無機粒子、化粧品、顔料、食品など様々な分野で粒子の分散状態の調節・制御が試みられている。そしてその分散状態を安定化し例えば高濃度にしたときにもその安定性を維持することができれば、性能劣化のない濃縮液を用いることによる製造工程での効率化・生産性の向上を実現し、また、着色料においては色の濃い均一で鮮やかな染色物とするなど一層の商品価値の向上が見込まれる。粒子の性能は一般に粒子径が小さいほど優れている傾向があり、サブミクロンまたはそれ以下のナノメートルサイズの粒子として、しかもその安定な分散体とすることが強く望まれている。
【0003】
ところで、インクジェット記録方法は、高速記録が可能であり、描画パターンの自由度が高く、記録時の騒音が少ない。また、短時間かつ低コストでの画像記録が可能であり、さらにはカラー記録が容易である等の利点がある。そのため今日においては急速に普及しさらに発展しつつある。この記録液として従来、水溶性染料を水性媒体に溶解させた染料インクが広く用いられてきた。しかし、染料インクは印刷物の耐水性や耐候性に劣るため、これを改善しうる顔料インクが検討されている。
【0004】
顔料インクは、通常水に不溶性の顔料を水性媒体に分散して得られる。そして一般的には、顔料および各種界面活性剤や水溶性高分子などを分散剤として、それらを単独あるいは併用して水性溶媒に添加し、サンドミル、ビーズミル、ボールミルなどの分散機を使用して粉砕し、顔料粒子径を微細化する方法が採用されている。これに対し、液相で顔料等を生成させるビルドアップ法を利用したものが開発されてきている。例えば、アルカリ存在下の非プロトン性有機溶媒中に、有機顔料と高分子分散剤、または分散剤として高分子化合物を溶解させた後、この溶液と水とを混合させ顔料分散液を調製する方法が開示されている(特許文献1参照)。またビルドアップ法に用いられる高分子化合物等の検討がなされており(特許文献2〜5参照)、粒子の分散安定性について解説したものもがあるが(例えば非特許文献1参照)、いまだ十分とはいえず、さらなる改良開発が望まれる。
【0005】
水系インクジェット印刷における要求として、フルカラー写真のようなインク量が多い図柄の場合、打滴後の紙がカールしてしまう現象があり、その改善が挙げられる。そのカールの原因はインク溶媒が紙に浸潤することにより支持体である紙の成分のセルロースの水素結合が切断され、乾燥時に再度結合する際に自由な状態で結合するためとされている。紙のカールを改善するための方法として、インクに添加する有機溶剤としてLogPの大きい疎水性有機溶剤を含有させることが提案されている(非特許文献2、特許文献6参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−43776号公報
【特許文献2】特開2003−26972号公報
【特許文献3】特開2003−113341号公報
【特許文献4】特開2006−342316号公報
【特許文献5】特開2007−119586号公報
【特許文献6】特開2006−192586号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】技術情報協会発行「最新 顔料分散 実務ノウハウ・事例集」2005年10月発刊,208〜211頁
【非特許文献2】飯島裕隆・大久保賢一・佐々木邦綱著 コニカミノルタテクノロジーレポートVol.4(2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように水系インクに疎水性有機溶剤を用いると、確かに紙のカールの改善効果は期待できる。しかし、インクに単に疎水性有機溶剤を含ませたのでは、その粘度や色材粒子の粒径の経時安定性が著しく悪化するとことが本発明者らの検討により分かってきた。本発明は、上記水系インクにおける特有の課題の解決を目的とする。
すなわち本発明は、水不溶性色材微粒子の一次粒子が極めて微細なものであり、かつ分散安定性が高く、しかも保存安定性が非常に高いため所望の性能を維持して長期にわたり貯蔵しうる水不溶性色材分散体、及びこれを効率良く得ることができる水不溶性色材分散体の製造方法の提供を目的とする。また、上記の優れた特性を有する水不溶性色材分散体は上記疎水性有機溶剤を含有する水系インクの調製材料として適し、該分散体を用いて、紙のカール性を改善し、しかも分散安定性が高く、かつ高い耐光性、透明性、吐出安定性を有する記録液、これを用いたインクセット、画像形成方法、及び画像形成装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題の解決に向け鋭意検討を重ねた結果、本出願人の出願による特開2007−9117号公報に開示された紫外線効果型インクの添加剤であって、その実施例では用いられていない下記一般式(I)で表される化合物、特にはアントラキノン構造の置換基を有する高分子化合物が、上述した疎水性有機溶剤を適用した水系インクの調製用分散体における分散剤として極めて効果的であり、その分散安定性の欠如という特有の問題点を克服するとともに、インクとしての諸特性において優れるものとしうることを見出した。本発明は上記の知見に基づいてなされたものであり、すなわち上記の目的は以下の手段により達成された。
【0010】
(1)少なくとも1種の水不溶性色材の微粒子を、下記一般式(I)で表される構成単位を有する高分子化合物または界面活性剤とともに、水を含む媒体に分散させた水不溶性色材分散体。
【化1】

[式中、Rは水素原子または置換基を表す。R〜Rのうちの1つはWと結合する単結合を表し、それ以外のものはそれぞれ独立に水素原子または置換基を表す。Qは、炭素原子とともに環を形成するのに必要な原子群を表す。Jは−CO−、−COO−、−CONR−、−OCO−、メチレン基、フェニレン基、または−CCO−基を表す。Rは水素原子、アルキル基、アリール基、またはアラルキル基を表す。Wは単結合または2価の連結基を表す。]
(2)前記高分子化合物または界面活性剤が、さらに、親水性部位として少なくとも1種類以上の酸基をもつ構成単位を有することを特徴とする(1)に記載の水不溶性色材分散体。
(3)前記酸基が、カルボン酸基、スルホン酸基、水酸基、及びリン酸基からなる群より選ばれることを特徴とする(2)に記載の水不溶性色材分散体。
(4)前記一般式(I)が下記一般式(II)であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれか1項に記載の水不溶性色材分散体。
【化2】

[式中、R〜R10はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表す。R〜R、JおよびWは前記一般式(1)におけるR〜R、JおよびWと同義である。]
(5)前記一般式(I)が下記一般式(III)であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれか1項に記載の水不溶性色材分散体。
【化3】

[式中、Qは、炭素原子および窒素原子とともに環を形成するのに必要な原子群を表す。R11はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表す。R11が置換基を表す場合、Qを構成する原子群とさらに結合し、縮環を形成してもよい。R〜R、JおよびWは前記一般式(1)におけるR〜R、JおよびWと同義である。]
(6)前記一般式(III)が下記一般式(IV)または(V)であることを特徴とする(5)に記載の水不溶性色材分散体。
【化4】

[式中、R12、R13、R14、R15およびR16はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表す。R〜R、JおよびWは前記一般式(1)におけるR〜R、JおよびWと同義である。]
(7)前記微粒子の平均粒子径が5〜100nmであることを特徴とする(1)〜(6)のいずれか1項に記載の水不溶性色材分散体。
(8)前記水不溶性色材が、キナクリドン有機顔料、ジケトピロロピロール有機顔料、モノアゾイエロー有機顔料、縮合アゾ有機顔料、キノフタロン有機顔料、ベンズイミダゾロン有機顔料、及びジスアゾイエロー有機顔料からなる群より選ばれる有機顔料であることを特徴とする(1)〜(7)のいずれか1項に記載の水不溶性色材分散体。
(9)(1)〜(8)のいずれか1項に記載の水不溶性色材分散体を製造する方法であって、
前記水不溶性色材と前記高分子化合物または界面活性剤と塩基とを非プロトン性水溶性有機溶剤に溶解し、該溶解液と水性媒体とを接触させ、前記水不溶性色材の微粒子を生成させ、水を含む媒体中に前記微粒子を分散させた水不溶性色材分散体とすることを特徴とする水不溶性色材分散体の製造方法。
(10)前記水不溶性色材の分散体を得た後、その微粒子を再分散可能に凝集させた軟凝集体とし、該軟凝集体を前記分散体から分離し、前記分離された軟凝集体の凝集を解き再分散媒体に前記微粒子を再分散させることを特徴とする(9)に記載の水不溶性色材分散体の製造方法。
(11)前記再分散前もしくはその後の分散体を加熱処理することを特徴とする(9)または(10)に記載の水不溶性色材分散体の製造方法。
(12)(1)〜(8)のいずれか1項に記載の水不溶性色材分散体を用いて作製される記録液であって、前記水不溶性色材を、記録液全質量の0.1〜20質量%含むことを特徴とする記録液。
(13)前記記録液がインクジェット用記録液である(12)に記載の記録液。
(14)(12)又は(13)に記載の記録液を用いたインクセット。
(15)(12)又は(13)に記載の記録液、あるいは(14)に記載のインクセットを用いて記録液を媒体に付与する手段により画像が記録された印画物であって、前記手段が記録液の付与量もしくは濃度を調整する機能を有し、該手段により印画物の濃淡が調整された印画物。
(16)(12)又は(13)に記載の記録液、あるいは(14)に記載のインクセットを用いて記録液を媒体に付与することにより、画像を記録する工程を有することを特徴とする画像形成方法。
(17)(12)又は(13)に記載の記録液、あるいは(14)に記載のインクセットを用いて記録液を媒体に付与することにより、画像を記録させるための手段を有することを特徴とする画像形成装置。
【発明の効果】
【0011】
本発明の分散体は、水不溶性色材の微粒子がナノメートルサイズにまで微細化されており、しかも経時で良好な分散安定性が維持され、保存安定性が非常に高いため所望の性能を維持して長期にわたり貯蔵することができる。また本発明の分散体は、疎水性有機溶剤を含むインクの調製材料に特に適しており、該インクに特有の打滴後の紙のカールの抑制効果も発揮するとともに、その欠点を克服し高い分散安定性を維持するという優れた作用効果を奏する。更にまた、本発明の上記分散体を用いた記録液は、透明性、耐光性、吐出性に優れ、高性能のインクセット、印画物、画像形成方法、及び画像形成装置に適用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明について詳しく説明するが、本発明はこれにより限定して解釈されるものではない。
【0013】
本発明の分散体は水不溶性色材の微粒子を、水を含む媒体に分散させた水不溶性色材分散体であって、下記一般式(I)で表される構成単位を有する高分子化合物あるいは界面活性剤を含む。
【0014】
一般式(I)について詳しく説明する。一般式(I)において、Rは水素原子または置換基を表す。R〜Rのうちの1つはWと結合する単結合を表し、それ以外のものはそれぞれ独立に水素原子または置換基を表す。Qは、炭素原子(詳しくは−C=C−C(O)−の3つの炭素原子)とともに環を形成するのに必要な原子群を表す。Jは−CO−、−COO−、−CONR−、−OCO−、メチレン基、フェニレン基、または−CCO−基を表す。Rは水素原子、アルキル基、アリール基、またはアラルキル基を表す。Wは単結合または2価の連結基を表す。
【0015】
置換基としては、下記に示される置換基群Zより選ばれるいずれか1つを用いることができる。すなわち、アルキル基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜10のアルキル基であり、例えばメチル、エチル、Iso−プロピル、tert−ブチル、n−オクチル、n−デシル、n−ヘキサデシル)、シクロアルキル基(好ましくは炭素数3〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数3〜10のシクロアルキル基であり、例えばシクロプロピル、シクロペンチル、シクロヘキシルなどが挙げられる。)、アルケニル基(好ましくは炭素数2〜30、より好ましくは炭素数2〜20、特に好ましくは炭素数2〜10のアルケニル基であり、例えばビニル、アリル、2−ブテニル、3−ペンテニルなどが挙げられる。)、アルキニル基(好ましくは炭素数2〜30、より好ましくは炭素数2〜20、特に好ましくは炭素数2〜10のアルキニル基であり、例えばプロパルギル、3−ペンチニルなどが挙げられる。)、アリール基(好ましくは炭素数6〜30、より好ましくは炭素数6〜20、特に好ましくは炭素数6〜12のアリール基であり、例えばフェニル、p−メチルフェニル、ナフチル、アントラニルなどが挙げられる。)、アミノ基(好ましくは炭素数0〜30、より好ましくは炭素数0〜20、特に好ましくは炭素数0〜10のアミノ基であり、例えばアミノ、メチルアミノ、ジメチルアミノ、ジエチルアミノ、ジベンジルアミノ、ジフェニルアミノ、ジトリルアミノなどが挙げられる。)、アルコキシ基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜10のアルコキシ基であり、例えばメトキシ、エトキシ、ブトキシ、2−エチルヘキシロキシなどが挙げられる。)、アリールオキシ基(好ましくは炭素数6〜30、より好ましくは炭素数6〜20、特に好ましくは炭素数6〜12のアリールオキシ基であり、例えばフェニルオキシ、1−ナフチルオキシ、2−ナフチルオキシなどが挙げられる。)、ヘテロ環オキシ基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12のヘテロ環オキシ基であり、例えばピリジルオキシ、ピラジルオキシ、ピリミジルオキシ、キノリルオキシなどが挙げられる。)、
【0016】
アシル基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12のアシル基であり、例えばアセチル、ベンゾイル、ホルミル、ピバロイルなどが挙げられる。)、アルコキシカルボニル基(好ましくは炭素数2〜30、より好ましくは炭素数2〜20、特に好ましくは炭素数2〜12のアルコキシカルボニル基であり、例えばメトキシカルボニル、エトキシカルボニルなどが挙げられる。)、アリールオキシカルボニル基(好ましくは炭素数7〜30、より好ましくは炭素数7〜20、特に好ましくは炭素数7〜12のアリールオキシカルボニル基であり、例えばフェニルオキシカルボニルなどが挙げられる。)、アシルオキシ基(好ましくは炭素数2〜30、より好ましくは炭素数2〜20、特に好ましくは炭素数2〜10のアシルオキシ基であり、例えばアセトキシ、ベンゾイルオキシなどが挙げられる。)、アシルアミノ基(好ましくは炭素数2〜30、より好ましくは炭素数2〜20、特に好ましくは炭素数2〜10のアシルアミノ基であり、例えばアセチルアミノ、ベンゾイルアミノなどが挙げられる。)、
【0017】
アルコキシカルボニルアミノ基(好ましくは炭素数2〜30、より好ましくは炭素数2〜20、特に好ましくは炭素数2〜12のアルコキシカルボニルアミノ基であり、例えばメトキシカルボニルアミノなどが挙げられる。)、アリールオキシカルボニルアミノ基(好ましくは炭素数7〜30、より好ましくは炭素数7〜20、特に好ましくは炭素数7〜12のアリールオキシカルボニルアミノ基であり、例えばフェニルオキシカルボニルアミノなどが挙げられる。)、スルホニルアミノ基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えばメタンスルホニルアミノ、ベンゼンスルホニルアミノなどが挙げられる。)、スルファモイル基(好ましくは炭素数0〜30、より好ましくは炭素数0〜20、特に好ましくは炭素数0〜12のスルファモイル基であり、例えばスルファモイル、メチルスルファモイル、ジメチルスルファモイル、フェニルスルファモイルなどが挙げられる。)、
【0018】
カルバモイル基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12のカルバモイル基であり、例えばカルバモイル、メチルカルバモイル、ジエチルカルバモイル、フェニルカルバモイルなどが挙げられる。)、アルキルチオ基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12のアルキルチオ基であり、例えばメチルチオ、エチルチオなどが挙げられる。)、アリールチオ基(好ましくは炭素数6〜30、より好ましくは炭素数6〜20、特に好ましくは炭素数6〜12のアリールチオ基であり、例えばフェニルチオなどが挙げられる。)、ヘテロ環チオ基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12のヘテロ環チオ基であり、例えばピリジルチオ、2−ベンズイミゾリルチオ、2−ベンズオキサゾリルチオ、2−ベンズチアゾリルチオなどが挙げられる。)、
【0019】
スルホニル基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12のスルホニル基であり、例えばメシル、トシルなどが挙げられる。)、スルフィニル基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12のスルフィニル基であり、例えばメタンスルフィニル、ベンゼンスルフィニルなどが挙げられる。)、ウレイド基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12のウレイド基であり、例えばウレイド、メチルウレイド、フェニルウレイドなどが挙げられる。)、リン酸アミド基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12のリン酸アミド基であり、例えばジエチルリン酸アミド、フェニルリン酸アミドなどが挙げられる。)、ヒドロキシ基、メルカプト基、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子であり、より好ましくはフッ素原子が挙げられる)、
【0020】
シアノ基、スルホ基、カルボキシル基、オキソ基、ニトロ基、ヒドロキサム酸基、スルフィノ基、ヒドラジノ基、イミノ基、ヘテロ環基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜12のヘテロ環基であり、ヘテロ原子としては、例えば窒素原子、酸素原子、硫黄原子、具体的には例えばイミダゾリル、ピリジル、キノリル、フリル、チエニル、ピペリジル、モルホリノ、ベンズオキサゾリル、ベンズイミダゾリル、ベンズチアゾリル、カルバゾリル基、アゼピニル基などが挙げられる。)、シリル基(好ましくは炭素数3〜40、より好ましくは炭素数3〜30、特に好ましくは炭素数3〜24のシリル基であり、例えばトリメチルシリル、トリフェニルシリルなどが挙げられる。)、シリルオキシ基(好ましくは炭素数3〜40、より好ましくは炭素数3〜30、特に好ましくは炭素数3〜24のシリルオキシ基であり、例えばトリメチルシリルオキシ、トリフェニルシリルオキシなどが挙げられる。)などが挙げられる。これらの置換基は、更に上記置換基群Zより選択されるいずれか1つ以上の置換基により置換されてもよい。
【0021】
Jは−CO−、−COO−、−CONR−、−OCO−、メチレン基、フェニレン基、または−CCO−基を表す。これらのうち、Jとしては−CO−、−CONR−、フェニレン基、−CCO−基が好ましく、−CCO−基がより好ましい。Rは水素原子、アルキル基、アリール基、またはアラルキル基を表し、水素原子、アルキル基、アリール基が好ましく、その好ましい範囲は置換基Zで説明したアルキル基、アリール基の好ましい範囲と同義である。
【0022】
Qは、炭素原子とともに環を形成するのに必要な原子群を表す。その原子群としては炭素、窒素、酸素、珪素、リン、及び/又は硫黄によって構成される環であり、好ましくは炭素、窒素、酸素、及び/又は硫黄であり、さらに好ましくは、炭素、窒素、及び/又は硫黄であり、より好ましくは炭素及び/又は窒素である。これらの原子群により構成されるQは飽和であっても不飽和であってもよく、置換可能である場合、置換基を有していてもよい。その置換基としては前記Zに説明した基と同義である。
【0023】
一般式(I)中、Wと結合する環構造基(R〜Rを有するアリール基及びQ(=O)からなる環構造基)としていうと、置換基を有してもよい下記(i)〜(viii)の環構造基が挙げられ(式中*はWと結合する部位を意味する。)、中でも置換基を有してもよい、下記(i)、(ii)、(iii)、(vi)、(vii)又は、(viii)の環構造基が好ましく、置換基を有してもよい下記(i)、(vii)、(viii)の環構造基がより好ましく、下記(i)の環構造基が特に好ましい。
別の観点からは、下記(i)〜(viii)の環構造基は、一般式(I)のQがヘテロ原子を含まない群((i)〜(iv))と含む群((v)〜(viii))に分けられ、後者の中では(vii)、(viii)が好ましい。
【0024】
【化5】

【0025】
Wは単結合または2価の連結基を表す。2価の連結基としては、例えば、イミノ基、直鎖、分岐もしくは環状のアルキレン基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜12、さらに好ましくは炭素数1〜4のアルキレン基であり、例えばメチレン、エチレン、プロピレン、ブチレン、ペンチレン、へキシレン、オクチレン、デシレンなどが挙げられる。)、アラルキレン基(好ましくは炭素数7〜30、より好ましくは炭素数7〜13のアラルキレン基であり、例えばベンジリデン、シンナミリデンなどが挙げられる。)、アリーレン基(好ましくは炭素数6〜30、より好ましくは炭素数6〜15のアリーレン基であり、例えば、フェニレン、クメニレン、メシチレン、トリレン、キシリレンなどが挙げられる。)、−(CR1112nNHCONH−、−(CR1112nCONH−、(R11およびR12は水素原子または置換基を表し、好ましくは水素原子、アルキル基、ハロゲン原子、水酸基であり、さらに好ましくは水素原子またはアルキル基であり、より好ましくは水素原子である。複数存在するR11およびR12は互いに同一でも異なっていてもよい。nは正の整数を表し、好ましくは1〜10であり、より好ましくは2〜5である。)などが挙げられる。中でも、、−(CR1112nNHCONH−、−(CR1112nCONH−、イミノ基が好ましく、イミノ基がより好ましい。Wはさらに置換基を有していても、前記で説明したWを複数組み合わせた二価の連結基として構成されていてもよい。また、Wはそのなかにエーテル結合を有していることも好ましい。
【0026】
前記Wは、好ましくは、単結合、アルキレン基、またはアリーレン基であり、より好ましくは単結合、アルキレン基である。さらに好ましくは単結合である。
【0027】
一般式(I)において、Rは水素原子または置換基を表す。Rは水素原子あるいはアルキル基、あるいはアリール基が好ましく、さらに好ましくは水素原子またはアルキル基である。R〜Rは、単結合、水素原子または置換基を表し、R〜Rのうちいずれか一つはWと結合する単結合である。R〜RがWと結合する単結合以外の場合、好ましくは水素原子、アルキル基、アリール基、アミノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシルオキシ基、アシルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、スルホニルアミノ基、カルバモイル基、スルホニル基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、シアノ基、カルボキシル基、ニトロ基、ヘテロ環基であり、さらに好ましくは、水素原子、アルキル基、アリール基、アミノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシル基、アシルアミノ基、スルホニルアミノ基、カルバモイル基、スルホニル基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、シアノ基であり、より好ましくは、水素原子、アシル基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、シアノ基である。
【0028】
本発明においては上記一般式(I)で表される構成単位(繰り返し単位)を有する高分子化合物あるいは界面活性剤が、上記一般式(II)あるいは一般式(III)であることが好ましく、一般式(III)は一般式(IV)あるいは一般式(V)で表されるものであることがさらに好ましい。
【0029】
一般式(II)において、R〜R10はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表す。置換基を表す場合、その置換基は前記Zで挙げた基を表す。R〜R10は、好ましくは水素原子、アルキル基、アリール基、アミノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシルオキシ基、アシルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、スルホニルアミノ基、カルバモイル基、スルホニル基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、シアノ基、カルボキシル基、ニトロ基、ヘテロ環基であり、より好ましくは、水素原子、アルキル基、アリール基、アミノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシル基、アシルアミノ基、スルホニルアミノ基、カルバモイル基、スルホニル基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、シアノ基であり、さらに好ましくは、水素原子、アシル基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、シアノ基であり、特に好ましいのは水素原子である。
【0030】
〜R、JおよびWは、前記一般式(1)におけるR〜R、JおよびWと同義であり、その好ましい範囲は一般式(I)で説明した好ましい範囲と同義である。
【0031】
一般式(II)の好ましい組み合わせについていうと、一般式(II)においては、下記(a)の置換基の組合せが好ましく、下記(b)がより好ましく、下記(c)がさらに好ましく、下記(d)が特に好ましい。
(a)Jは、−CO−、−CONR−、フェニレン基、又は−CCO−基であり、Rは、水素原子、アルキル基、又はアリール基である。Wは、単結合、イミノ基、アルキレン基、又はアリーレン基である。Rは水素原子あるいはアルキル基、又はアリール基である。R〜Rは、単結合、水素原子、アルキル基、アリール基、アミノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシルオキシ基、アシルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、スルホニルアミノ基、カルバモイル基、スルホニル基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、シアノ基、カルボキシル基、ニトロ基、又はヘテロ環基である。ただし、R〜Rのいずれか一つはWと結合する単結合である。R〜R10は、水素原子、アルキル基、アリール基、アミノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシルオキシ基、アシルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、スルホニルアミノ基、カルバモイル基、スルホニル基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、シアノ基、カルボキシル基、ニトロ基、又はヘテロ環基である。
【0032】
(b)Jは、−CCO−、−CONR−、又はフェニレン基である。Rは水素原子あるいはアルキル基であり、Wは、イミノ基、単結合、又はアリーレン基である。Rは水素原子またはアリール基である。R〜Rは、水素原子、アルキル基、アリール基、アミノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシル基、アシルアミノ基、スルホニルアミノ基、カルバモイル基、スルホニル基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、又はシアノ基である。ただし、R〜Rのいずれか一つはWと結合する単結合である。R〜R10は、水素原子、アルキル基、アリール基、アミノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシル基、アシルアミノ基、スルホニルアミノ基、カルバモイル基、スルホニル基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、又はシアノ基である。
【0033】
(c)Jは、−CCO−又は−CONR−である。Rは水素原子である。Wは、イミノ基、単結合である。Rは水素原子またはアリール基である。R〜Rは、水素原子、アシル基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、又はシアノ基である。ただし、R〜Rのいずれか一つはWと結合する単結合である。R〜R10は、水素原子、アシル基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、又はシアノ基である。
【0034】
(d)Jは、、−CCO−である。Wはイミノ基である。Rは水素原子またはアリール基である。R〜Rは、水素原子、アシル基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、又はシアノ基であり、R〜Rのいずれか一つはWと結合する単結合である、R〜R10は水素原子である。
【0035】
次に一般式(III)について詳しく説明する。一般式(III)において、Qは、炭素原子および窒素原子とともに環を形成するのに必要な原子群を表し、その原子群としては炭素、窒素、酸素、珪素、リン、及び/又は硫黄によって構成される環であり、好ましくは炭素、窒素、酸素、及び/又は硫黄であり、さらに好ましくは、炭素、窒素、及び/又は硫黄であり、より好ましくは炭素及び/又は窒素である。これらの原子群により構成されるQは飽和であっても不飽和であってもよく、置換可能である場合、置換基を有していてもよい。その置換基としては前記Zに説明した基と同義である。
【0036】
11はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表す。置換基としては前記Zに説明した基があげられる。R11は水素原子あるいはアルキル基、あるいはアリール基が好ましく、より好ましくは水素原子またはアルキル基である。R11が置換基を表す場合、Q2を構成する原子群とさらに結合し、縮環を形成してもよい。
【0037】
〜R、JおよびWは前記一般式(I)におけるR〜R、JおよびWと同義であり、その好ましい範囲は一般式(I)で説明した好ましい範囲と同義である。
【0038】
一般式(III)は一般式(IV)あるいは一般式(V)であることがさらに好ましい。
一般式(IV)において、R12は水素原子または置換基を表す。置換基としては前記Zに説明した基があげられる。R12は水素原子あるいはアルキル基、あるいはアリール基が好ましく、より好ましくは水素原子あるいはアリール基である。R〜R、JおよびWは前記一般式(I)におけるR〜R、JおよびWと同義であり、その好ましい範囲は一般式(I)で説明した好ましい範囲と同義である。
【0039】
一般式(V)において、R13、R14、R15およびR16はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表す。置換基としては前記Zに説明した基があげられる。R13、R14、R15およびR16は好ましくは水素原子、アルキル基、アリール基、アミノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシルオキシ基、アシルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、スルホニルアミノ基、カルバモイル基、スルホニル基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、シアノ基、カルボキシル基、ニトロ基、ヘテロ環基であり、より好ましくは、水素原子、アルキル基、アリール基、アミノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシル基、アシルアミノ基、スルホニルアミノ基、カルバモイル基、スルホニル基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、シアノ基であり、さらに好ましくは、水素原子、アシル基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、シアノ基であり、特に好ましいのは水素原子である。R〜R、JおよびWは前記一般式(I)におけるR〜R、JおよびWと同義であり、その好ましい範囲は一般式(I)で説明した好ましい範囲と同義である。
【0040】
一般式(IV)の好ましい組み合わせについていうと、一般式(IV)においては、下記(IV-a)の置換基の組合せが好ましく、下記(IV-b)がより好ましく、下記(IV-c)がさらに好ましく、下記(IV-d)が特に好ましい。
【0041】
(IV-a)Jは、−CO−、−CONR−、フェニレン基、又は−CCO−基であり、Rは、水素原子、アルキル基、又はアリール基である。Wは、単結合、イミノ基、アルキレン基、又はアリーレン基である。Rは水素原子あるいはアルキル基、又はアリール基である。R〜Rは、単結合、水素原子、アルキル基、アリール基、アミノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシルオキシ基、アシルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、スルホニルアミノ基、カルバモイル基、スルホニル基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、シアノ基、カルボキシル基、ニトロ基、又はヘテロ環基である。ただし、R〜Rのいずれか一つはWと結合する単結合である。R12は水素原子あるいはアリール基である。
【0042】
(IV-b)Jは、−CCO−、−CONR−、又はフェニレン基である。Rは水素原子あるいはアルキル基であり、Wは、イミノ基、単結合、又はアリーレン基である。Rは水素原子またはアリール基である。R〜Rは、水素原子、アルキル基、アリール基、アミノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシル基、アシルアミノ基、スルホニルアミノ基、カルバモイル基、スルホニル基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、又はシアノ基である。ただし、R〜Rのいずれか一つはWと結合する単結合である。R12は水素原子あるいはアリール基である。
【0043】
(IV-c)Jは、−CCO−又は−CONR−である。Rは水素原子である。Wは、イミノ基、単結合である。Rは水素原子またはアリール基である。R〜Rは、水素原子、アシル基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、又はシアノ基である。ただし、R〜Rのいずれか一つはWと結合する単結合である。R12は水素原子である。
【0044】
(IV-d)Jは、、−CCO−である。Wはイミノ基である。Rは水素原子またはアリール基である。R〜Rは、水素原子、アシル基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、又はシアノ基であり、R〜Rのいずれか一つはWと結合する単結合である。R12は水素原子である。
【0045】
一般式(V)の好ましい組み合わせについていうと、一般式(V)においては、下記(V-a)の置換基の組合せが好ましく、下記(V-b)がより好ましく、下記(V-c)がさらに好ましく、下記(V-d)が特に好ましい。
【0046】
(V-a)Jは、−CO−、−CONR−、フェニレン基、又は−CCO−基であり、Rは、水素原子、アルキル基、又はアリール基である。Wは、単結合、イミノ基、アルキレン基、又はアリーレン基である。Rは水素原子あるいはアルキル基、又はアリール基である。R〜Rは、単結合、水素原子、アルキル基、アリール基、アミノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシルオキシ基、アシルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、スルホニルアミノ基、カルバモイル基、スルホニル基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、シアノ基、カルボキシル基、ニトロ基、又はヘテロ環基である。ただし、R〜Rのいずれか一つはWと結合する単結合である。R13、R14、R15およびR16は好ましくは水素原子、アルキル基、アリール基、アミノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシルオキシ基、アシルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、スルホニルアミノ基、カルバモイル基、スルホニル基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、シアノ基、カルボキシル基、ニトロ基、又はヘテロ環基である。
【0047】
(V-b)Jは、−CCO−、−CONR−、又はフェニレン基である。Rは水素原子あるいはアルキル基であり、Wは、イミノ基、単結合、又はアリーレン基である。Rは水素原子またはアリール基である。R〜Rは、水素原子、アルキル基、アリール基、アミノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシル基、アシルアミノ基、スルホニルアミノ基、カルバモイル基、スルホニル基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、又はシアノ基である。ただし、R〜Rのいずれか一つはWと結合する単結合である。R13、R14、R15およびR16は、水素原子、アルキル基、アリール基、アミノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシル基、アシルアミノ基、スルホニルアミノ基、カルバモイル基、スルホニル基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、又はシアノ基である。
【0048】
(V-c)Jは、−CCO−又は−CONR−である。Rは水素原子である。Wは、イミノ基、単結合である。Rは水素原子またはアリール基である。R〜Rは、水素原子、アシル基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、又はシアノ基である。ただし、R〜Rのいずれか一つはWと結合する単結合である。R13、R14、R15およびR16は、水素原子、アシル基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、又はシアノ基である。
【0049】
(V-d)Jは、、−CCO−である。Wはイミノ基である。Rは水素原子またはアリール基である。R〜Rは、水素原子、アシル基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、又はシアノ基であり、R〜Rのいずれか一つはWと結合する単結合である。R13、R14、R15およびR16は水素原子である。
【0050】
次に一般式(I)の具体例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0051】
【化6】

【0052】
【化7】

【0053】
次に一般式(I)で表される構成単位を有する高分子化合物(共重合体)の具体例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、一般式(I)で表される構成単位を有する高分子化合物における末端基は特に限定されず、例えば水素原子もしくは重合停止剤残基であってもよい。
【0054】
【化8】

【0055】
【化9】

【0056】
【化10】

【0057】
本発明の分散体において上記一般式(I)で表される構成単位を有する特定の高分子化合物もしくは界面活性剤の含有量は特に限定されないが、分散体全量に対して5〜90質量%であることが好ましく、10〜80質量%であることがより好まい。また、水不溶性色材に対する質量比(D/P比)としては、0.01〜2.0倍であることが好ましく、0.1〜1.0倍であることがさらに好ましく、0.1〜0.5倍であることがより好ましく、0.1〜0.3倍であることが特に好ましい。上記範囲の使用量とすることにより、上記一般式(I)で表される化合物を疎水性有機溶媒を含有するインク組成物中で分散剤として機能させるとき、これと水不溶性色材との特有の相互作用を十分に引き出すことができ、他方、分散媒体中に浮遊しインク特性に影響するような余剰なものを出さずに、際立ったインク特性の良化を促すことができたものと推測される。
【0058】
また、上記特定の高分子化合物もしくは界面活性剤の分子量は特に限定されないが、これが高分子化合物であるとき、質量平均分子量が1000〜100000であることが好ましく、5000〜50000であることがより好ましい。この分子量が大きすぎると高分子鎖間の絡まりが大きくなりすぎ、分散剤としての機能を発揮しにくくなるため、良好な分散状態を保てない場合がある。なお、本発明において単に分子量というときには質量平均分子量を意味し、また質量平均分子量は、特に断らない限り、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(キャリア:テトラヒドロフラン)により測定されるポリスチレン換算の平均分子量である。分子量の好ましい範囲については、後述する別の高分子化合物ないし高分子分散剤についても同様である。
【0059】
上記の高分子化合物もしくは界面活性剤の分散体中における含有形態は特に限定されず、その他の成分とは独立して含まれていても、その他の成分と集合して含まれていてもよい。すなわち本発明において「水不溶性色材の微粒子と上記特定の高分子化合物もしくは界面活性剤とを含有させた分散体」とは、分散体中の水不溶性色材の微粒子の中に上記高分子化合物等が含まれていても、分散体中で微粒子とは別に上記高分子化合物等が共存していてもよい。したがって、上記高分子化合物等の一部が微粒子に吸着し、解離平衡状態になっているような含有形態も上記概念に含まれる。本発明の分散体においては、特に、後述する再沈法において微粒子を析出させる際に上記高分子化合物もしくは界面活性剤を共存させ、これにより該高分子化合物等を微粒子の中に取り込ませ又は強く吸着させ、その後の溶媒置換等においても脱離しにくくすることが好ましい。なお本発明において「分散体」とは、所定の微粒子が分散した組成物をいい、その形態は特に限定されず、液状の組成物(分散液)、ペースト状の組成物、及び固体状の組成物を含む意味に用いる。
【0060】
本発明の分散体において水不溶性色材を構成する有機顔料としては、色相ないし構造について特に限定されるものではなく、例えば、ペリレン有機顔料有機顔料、ペリノン有機顔料有機顔料、キナクリドン有機顔料有機顔料、キナクリドンキノン有機顔料有機顔料、アントラキノン有機顔料有機顔料、アントアントロン有機顔料有機顔料、ベンズイミダゾロン有機顔料有機顔料、ジスアゾ縮合有機顔料、ジスアゾ有機顔料、アゾ有機顔料、インダントロン有機顔料、インダンスレン有機顔料、キノフタロン有機顔料、キノキサリンジオン有機顔料、金属錯体アゾ有機顔料、フタロシアニン有機顔料、トリアリールカルボニウム有機顔料、ジオキサジン有機顔料、アミノアントラキノン有機顔料、ジケトピロロピロール有機顔料、ナフトールAS有機顔料、チオインジゴ有機顔料、イソインドリン有機顔料、イソインドリノン有機顔料、ピラントロン有機顔料、イソビオラントロン有機顔料、またはそれらの混合物などが挙げられる。
【0061】
更に詳しくは、例えば、C.I.ピグメントレッド179、C.I.ピグメントレッド190、C.I.ピグメントレッド224、C.I.ピグメントバイオレット29等のペリレン有機顔料、C.I.ピグメントオレンジ43、もしくはC.I.ピグメントレッド194等のペリノン有機顔料、C.I.ピグメントバイオレット19、C.I.ピグメントバイオレット42、C.I.ピグメントレッド122、C.I.ピグメントレッド192、C.I.ピグメントレッド202、C.I.ピグメントレッド207、もしくはC.I.ピグメントレッド209のキナクリドン有機顔料、C.I.ピグメントレッド206、C.I.ピグメントオレンジ48、もしくはC.I.ピグメントオレンジ49等のキナクリドンキノン有機顔料、C.I.ピグメントイエロー147等のアントラキノン有機顔料、C.I.ピグメントレッド168等のアントアントロン有機顔料、C.I.ピグメントブラウン25、C.I.ピグメントバイオレット32、C.I.ピグメントイエロー120、C.I.ピグメントイエロー180、C.I.ピグメントイエロー181、C.I.ピグメントオレンジ36、C.I.ピグメントオレンジ62、もしくはC.I.ピグメントレッド185等のベンズイミダゾロン有機顔料、C.I.ピグメントイエロー93、C.I.ピグメントイエロー94、C.I.ピグメントイエロー95、C.I.ピグメントイエロー128)、C.I.ピグメントイエロー166、C.I.ピグメントオレンジ34、C.I.ピグメントオレンジ13、C.I.ピグメントオレンジ31、C.I.ピグメントレッド144(C.I.番号20735)、C.I.ピグメントレッド166、C.I.ピグメントイエロー219、C.I.ピグメントレッド220、C.I.ピグメントレッド221、C.I.ピグメントレッド242、C.I.ピグメントレッド248、C.I.ピグメントレッド262、もしくはC.I.ピグメントブラウン23等のジスアゾ縮合有機顔料、C.I.ピグメントイエロー13、C.I.ピグメントイエロー83、C.I.ピグメントイエロー155、もしくはC.I.ピグメントイエロー188等のジスアゾ有機顔料、C.I.ピグメントレッド187、C.I.ピグメントレッド170、C.I.ピグメントイエロー74、C.I.ピグメントレッド48、C.I.ピグメントレッド53、C.I.ピグメントオレンジ64、もしくはC.I.ピグメントレッド247等のアゾ有機顔料、C.I.ピグメントブルー60等のインダントロン有機顔料、C.I.ピグメントブルー60等のインダンスレン有機顔料、C.I.ピグメントイエロー138等のキノフタロン有機顔料、C.I.ピグメントイエロー213等のキノキサリンジオン有機顔料、C.I.ピグメントイエロー129、もしくはC.I.ピグメントイエロー150等の金属錯体アゾ有機顔料、C.I.ピグメントグリーン7、C.I.ピグメントグリーン36、C.I.ピグメントグリーン37、C.I.ピグメントブルー16、C.I.ピグメントブルー75、もしくはC.I.ピグメントブルー15(15:1、15:6等を含む)等のフタロシアニン有機顔料、C.I.ピグメントブルー56、もしくはC.I.ピグメントブルー61等のトリアリールカルボニウム有機顔料、C.I.ピグメントバイオレット23、もしくはC.I.ピグメントバイオレット37等のジオキサジン有機顔料、C.I.ピグメントレッド177等のアミノアントラキノン有機顔料、C.I.ピグメントレッド254、C.I.ピグメントレッド255、C.I.ピグメントレッド264、C.I.ピグメントレッド272、C.I.ピグメントオレンジ71、もしくはC.I.ピグメントオレンジ73等のジケトピロロピロール有機顔料、C.I.ピグメントレッド187、もしくはC.I.ピグメントレッド170等のナフトールAS有機顔料、C.I.ピグメントレッド88等のチオインジゴ有機顔料、C.I.ピグメントイエロー139、C.I.ピグメントオレンジ66等のイソインドリン有機顔料、C.I.ピグメントイエロー109、C.I.ピグメントイエロー110、もしくはC.I.ピグメントオレンジ61等のイソインドリノン有機顔料、C.I.ピグメントオレンジ40、もしくはC.I.ピグメントレッド216等のピラントロン有機顔料、またはC.I.ピグメントバイオレット31等のイソビオラントロン有機顔料が挙げられる。
好ましくは、キナクリドン有機顔料、ジケトピロロピロール有機顔料、モノアゾイエロー有機顔料、縮合アゾ有機顔料、キノフタロン有機顔料、ベンズイミダゾロン有機顔料、及びジスアゾイエロー有機顔料からなる群より選ばれる有機顔料であり、さらに好ましくは、キナクリドン有機顔料、ジケトピロロピロール有機顔料、モノアゾイエロー有機顔料、及びジスアゾイエロー顔料からなる群より選ばれる有機顔料である。
【0062】
本発明の分散体において、分散体中の水不溶性色材の含有量は特に限定されず、インクとしての利用を考慮したとき例えば0.01〜30質量%であることが好ましく、1.0〜20質量%であることがより好ましく、1.1〜15質量%であることが最も好ましい。
【0063】
本発明における分散体は高濃度であっても色味の変化が小さく、且つ分散体の低粘度が維持される。例えば記録液として用いる場合、記録液に使用できる添加剤の種類や添加量の自由度が増すため、上記の範囲で好適に用いることができる。
【0064】
本発明の分散体に含まれる水不溶性色材は1種類単独でも2種以上の顔料を併用して用いてもよい。その有機顔料の組合せとしては特に限定はされないが、例えばアゾ有機顔料どうし、ジケトピロロピロール有機顔料どうしのように顔料化合物種が同一である、換言すれば類似の化合物骨格を有する組合せが好ましく、C.I.ピグメントバイオレット19とC.I.ピグメントレッド122、C.I.ピグメントバイオレット19とC.I.ピグメントレッド122とC.I.ピグメントレッド209、C.I.ピグメントイエロー128とC.I.ピグメントイエロー74、C.I.ピグメントイエロー128とC.I.ピグメントオレンジ13、C.I.ピグメントイエロー128とC.I.ピグメントオレンジ13等の組み合わせが好ましい。顔料の固溶体化については例えば特開昭60−35055号公報などを参考にすることができる。
2種以上の有機顔料成分としては、用いる1種の有機顔料の最大吸収波長(λmax)が10〜200nm異なる有機顔料を1種以上含有させることが好ましく、前記最大吸収波長(λmax)が10〜100nm異なる有機顔料を1種以上含有させることが特に好ましい。なお本発明における顔料の吸収波長は、粒子を形成した状態における吸収波長、すなわち媒体に塗布したり練りこんだりした状態における吸収波長を意味し、アルカリや酸などの特殊な媒体に溶解した溶液状態の吸収波長ではない。
【0065】
主成分有機顔料の最大吸収波長(λmax)の値は特に限定されないが可視光領域に最大吸収波長を有するものを用いることが着色用途において実際的であり、例えば、300〜750nmに最大吸収波長を有するものを用いることが好ましい。
【0066】
本発明の分散体は、水不溶性色材をアルカリ存在下の非プロトン性水溶性有機溶剤に溶解させ、その溶液と水性媒体とを接触させて、前記水不溶性色材を微粒子として生成させた分散体を調製するに当たり、上記一般式(I)もしくは(II)で表される高分子化合物又は界面活性剤を前記水不溶性色材の溶液および/または水性媒体に含有させることが好ましい。このようにして、前記水不溶性色材のビルドアップ微粒子と該高分子化合物もしくは界面活性剤とを含有する分散体として製造することが好ましい。
【0067】
前記、一般式(I)で表される構成単位を有する上記特定の高分子化合物もしくは界面活性剤は主として水不溶性色材の粒子分散性を向上させるものとして作用させることができるが、さらに上記再沈法における粒子析出時の粒子形成ないし成長調整剤として機能させてもよい。このような観点から、上記特定の高分子化合物もしくは界面活性剤を水不溶性色材の溶液及び/又は水性媒体に添加する量は水不溶性色材に対して0.001〜10000質量部であることが好ましく、0.05〜1000質量部であることがより好ましく、0.05〜500質量部であることがさらに好ましく、特に好ましくは0.1〜200質量部である。
【0068】
本発明の分散体においては一般式(I)で表される構成単位を有する特定の高分子化合物もしくは界面活性剤以外にも、さらに別の高分子化合物または低分子化合物を併用して用いてもよい。用いる別の高分子化合物としては、アルカリ存在下の非プロトン性有機溶剤に可溶であって、水不溶性色材と前記分散剤を溶解した溶液と水性媒体とを混合した際に、水性媒体中で顔料含有粒子を形成することで分散効果を得ることができるものが適宜使用可能である。例えばカルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基から選ばれる1種類以上の親水性部分として有する高分子化合物であって、前記親水性部分と疎水性部分を同一分子内に有する高分子化合物であり、本発明の目的を達成できるものであれば特に限定されるものではないが、親水性部分としては(メタ)アクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、フマール酸、β−CEA、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、4−ビニルベンゼンスルホン酸、アリルスルホン酸、3−(メタ)アクリロイルオキシプロパンスルホン酸、2−メチルアリルスルホン酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエタンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸およびそれらの塩、モノ{2−(メタ)アクリロイルオキシエチル}アシッドホスフェート、2−メタクリルオキシエチルホスホン酸に代表されるモノマーと、スチレン、4−メチルスチレン、4−エチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルナフタレン誘導体といった炭素数8〜20のα−オレフィン性芳香族炭化水素類、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルといった炭素数3〜20のビニルエステル類、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ステアリル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸−2−エチルへキシル、クロトン酸メチル、クロトン酸エチル等の炭素数4〜20のオレフィンカルボン酸エステル類、4−ビニルピリジン、4−ビニルアニリン等の炭素数8〜20のビニル系芳香族アミン類、アクリルアミド、メタクリルアミド、ベンジルメタクリルアミド等の炭素数3〜20のビニル系アミド化合物、4−ビニルフェノール等の炭素数8〜20のオレフィンフェノール類、ブタジエン、イソプレン等の炭素数4〜20のジエン系化合物といったモノマーに加えて、多官能性モノマーやマクロモノマー、その他従来公知であるモノマーおよびその誘導体から適宜選択されたモノマーとの組み合わせの結果得られる高分子化合物を好適に用いることができる。これらの別の高分子化合物は分散剤として機能し、1種類単独でまたは2種類以上を併用して用いることができる。
【0069】
一般式(I)で表される構成単位を有する高分子化合物及びこれとは別の高分子化合物は、親水性部位として少なくとも1種類以上の酸基をもつ構成単位を有するものであることが好ましい。該酸基は、カルボン酸基、スルホン酸基、及びリン酸基から選ばれることが好ましい。また、上記酸基の塩を構成成分とするモノマーや、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン高級脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルのような各ポリエーテル鎖を側鎖に有するビニルエーテル類、アリルエーテル類のような親水性モノマー成分も共重合させた高分子化合物を用いることも好ましい。重合方法については一般的なラジカル重合、イオン重合、リビング重合、配位重合、媒体として溶液、バルク、乳化などの手段において特に限定されないが溶液でのラジカル重合が操作の簡便さの観点から好ましい。
【0070】
上記一般式(I)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物及びこれとは別の高分子化合物は、ブロック共重合体であっても、ランダム共重合体であっても、グラフト共重合体であってもよいが、ブロック共重合体又はグラフト共重合体を用いることが、水不溶性色材に良好な分散性を付与しやすいため好ましい。
【0071】
一般式(I)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物及びこれとは別の高分子化合物において、前記酸基等の親水性部分と前記環構造基等の疎水性部分との比は特に限定されるものではないが、疎水性モノマー成分を多くしすぎないことが、水不溶性色材の微粒子に一層良好な分散安定性を付与する点で好ましい。なお、親水性とは水に対する親和性が大きく水に溶解しやすい性質であり、疎水性とは水に対する親和性が小さく水に溶解しにくい性質である。分散剤の親水性部分が第一、第二、第三級のアミノ基、第四級アンモニウム基など上記以外のものから選ばれるもののみで構成されている場合はアルカリを含む有機顔料の水性分散体において十分ではあるが分散安定化の程度が相対的に低くなる場合がある。本発明においては、上述のとおり分散剤として機能させる一般式(I)で表される高分子化合物もしくは界面活性剤ないしこれとは別の高分子化合物と水不溶性色材とをともに溶解状態で媒体中に存在させることが好ましく、これにより分散剤−水不溶性化合物の間での所望とする作用がもたらされるので、微粒子表面への接触効率が高く広範なものを分散剤として使用することができる。
【0072】
本発明の分散体の安定性をさらに高める上で、上記とはまた別の分散剤として界面活性剤や高分子分散剤をさらに加えることも可能である。界面活性剤の具体例としては、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、高級脂肪酸塩、高級脂肪酸エステルのスルホン酸塩、高級アルコールエーテルの硫酸エステル塩、高級アルコールエーテルのスルホン酸塩、高級アルキルスルホンアミドのアルキルカルボン酸塩、アルキルリン酸塩などのアニオン界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物、グリセリンのエチレンオキサイド付加物、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルなどの非イオン性界面活性剤、また、この他にもアルキルベタインやアミドベタインなどの両性界面活性剤、シリコン系界面活性剤、フッソ系界面活性剤などを含めて、従来公知である界面活性剤およびその誘導体から適宜選ぶことができる。
【0073】
高分子分散剤として、具体的にはポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリビニルメチルエーテル、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリアクリルアミド等が挙げられ、中でもポリビニルピロリドンを用いることも好ましい。
【0074】
また、その他の分散剤として用いられる高分子分散剤としては、アルブミン、ゼラチン、ロジン、シェラック、デンプン、アラビアゴム、アルギン酸ソーダ等の天然高分子化合物、およびこれらの変性物も好ましく使用することが出来る。また、これらの分散剤は、1種類単独でまたは2種類以上を併用して用いることができる。上記別の高分子化合物及び界面活性剤の使用量は特に限定されないが、例えば総量として、上述した一般式(I)で表される構成単位を有する高分子化合物もしくは界面活性剤の好ましい範囲となるように調節することが好ましい。
【0075】
本発明の分散体においては、後述するインクとして用いるときの耐光性の向上を考慮するとき、上述した高分子化合物、界面活性剤あるいは分散剤を好適に使用することができるが、耐光性を向上し、且つ分散体を高濃度化した場合でも低粘度を維持する観点から、後述する洗浄処理に用いられる特定の有機溶媒に対して可溶もしくは分散可能である高分子化合物、または高分子分散剤を用いることが特に好ましい。
【0076】
本発明に用いられる非プロトン性有機溶剤としては、水不溶性色材および高分子化合物を溶解させるもので、いかなるものでも使用可能である。また、水に対する溶解度が5質量%以上であるものが好ましく用いられ、さらには水に対して自由に混合するものが好ましい。
【0077】
具体的には、ジメチルスルホキシド、ジメチルイミダゾリジノン、スルホラン、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、アセトニトリル、アセトン、ジオキサン、テトラメチル尿素、ヘキサメチルホスホルアミド、ヘキサメチルホスホロトリアミド、ピリジン、プロピオニトリル、ブタノン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、エチレングリコールジアセテート、γ−ブチロラクトン等が好ましい溶剤として挙げられ、中でもジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルイミダゾリジノン、スルホラン、アセトン又はアセトニトリル、テトラヒドロフランが好ましく、より好ましくは、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドンである。また、これらは1種類単独でまたは2種類以上を併用して用いることができる。
上記非プロトン性溶剤の使用割合は特に限定されないが、水不溶性色材のより良好な溶解状態と、所望とする微粒子径の形成の容易性、更に水性分散体の色濃度をより良好なものとするために、水不溶性色材1質量部に対して2〜500質量部、さらには5〜100質量部の範囲で用いるのが好ましい。
【0078】
水不溶性色材を可溶化するアルカリとしては、本発明の目的を達成できるものであればいかなるものでも使用可能であるが、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ金属のアルコキシド、アルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ土類金属のアルコキシド及び有機強塩基が、有機顔料の可溶化能力の高さから好ましい。具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム、水酸化リチウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウムなどの無機塩基、トリアルキルアミン、ジアザビシクロウンデセン(DBU)、ナトリウムメトキシド、tert−ブトキシナトリウム、tert−ブトキシカリウム、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、コリンヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド等の第四級アンモニウム化合物、グアニジン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン、1,8−ジアザビシクロ[4,3,0]−7−ノネンなどの無機塩基、有機塩基を併せて用いることができる。
上記アルカリとして、なかでも、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、コリンヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド等の第四級アンモニウム化合物が好ましい。
また、これらのアルカリは、1種類単独でまたは2種類以上を併用して用いることができる。上記のアルカリの使用割合は特に限定されるものではないが、水不溶性色材1質量部に対して、0.1〜10質量部用いるのが好ましく、さらに好ましくは0.5〜5質量部であり、より好ましくは1〜4質量部である。
【0079】
本発明において、水性媒体とは、水単独または水と水に可溶な有機溶媒との混合溶媒である。このとき有機溶媒の添加は、顔料や分散剤を均一に溶解するために水のみでは不十分な場合、および流路中を流通するのに必要な粘性を得るのに水のみで不十分な場合などに用いることが好ましい。有機溶媒として例えば、アルカリ性の場合はアミド系溶媒または含イオウ系溶媒であることが好ましく、含イオウ系溶媒であることがより好ましく、ジメチルスルホキシド(DMSO)であることが特に好ましい。酸性の場合はカルボン酸系溶媒、イオウ系溶媒、またはスルホン酸系溶媒であることが好ましく、スルホン酸系溶媒であることがより好ましく、メタンスルホン酸であることが特に好ましい。なお、水性媒体には必要に応じて無機化合物塩や後述する分散剤等を溶解させてもよい。
【0080】
このとき水不溶性色材を均一に溶解した溶液と水性媒体とを混合する実施態様は特に限定されない。例えば、水性媒体を撹拌しておきそこに水不溶性色材の溶液を添加する実施態様、該溶液及び水性媒体をそれぞれ長さのある流路に同一の長手方向に送りこみ、その流路を通過する間に両液を接触させ有機顔料微粒子を析出させる実施態様等が挙げられる。前者(撹拌混合する実施態様)については、特に水性媒体中に供給管等を導入しそこから水不溶性色材の溶液を添加する液中添加による実施態様が好ましい。さらに具体的には、国際公開WO2006/121018号パンフレットの段落0036〜0047に記載の装置を用いて液中添加を行うことができる。後者(流路を用いて両者を混合する実施態様)については、例えば、特開2005−307154号公報の段落0049〜52及び図1〜図4、特願2006−78637号公報の段落0044〜0050に記載のマイクロリアクターを用いることができる。
【0081】
また本発明においては、粒子析出時に空気や酸素などの気体を共存させてもよく、例えばそれらを酸化剤として用いることができる。共存させる態様は特に限定されず、気体を水不溶性色材の溶液及び/又は水性媒体にあらかじめ溶解させる、あるいは上記両液とは別に上記の気体を導入して接触させてもよい。
本発明の分散体を作製するにあたり、加熱する工程を導入することが好ましい。加熱工程を導入する意義については、特許公報第3936558号公報に記載の効果やいわゆるオストワルド熟成に代表されるものである。上記加熱は30〜110℃で行うことが好ましく、加熱時間は10〜360分であることが好ましい。この加熱処理は上記水不溶性色材溶液と水性媒体とを混合して微粒子を生成させた分散体とした後に行うことが好ましい。
【0082】
水不溶性色材の粒子を析出生成させる際の条件に特に制限はなく、常圧から亜臨界、超臨界条件の範囲を選択できる。常圧での温度は−30〜100℃が好ましく、−10〜60℃がより好ましく、0〜30℃が特に好ましい。水不溶性色材の溶液と水性媒体との混合比は体積比で1/50〜2/3が好ましく、1/40〜1/2がより好ましく、1/20〜3/8が特に好ましい。粒子を析出させたときの混合液中の粒子濃度は特に制限されないが、溶媒1000mlに対して水不溶性色材の粒子が10〜40000mgの範囲であることが好ましく、より好ましくは20〜30000mgの範囲であり、特に好ましくは50〜25000mgの範囲である。
【0083】
〔電子顕微鏡観察による平均粒径(TEM平均粒径)〕
本発明において、分散体に含まれる水不溶性色材は、走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)観察により粒子の形状を観察し、平均粒径を以下のようにして算出することができる。TEMについては、水不溶性色材の微粒子を含む分散体をカーボン膜を貼り付けたCu200メッシュに希釈し、これを載せて乾燥させ、TEM(日本電子製1200EX)で10万倍で撮影した画像から粒子300個の径を測定して平均値を求める。この際、上記のように分散体を前記Cu200メッシュ上で乾燥させるため、前記分散体中に水不溶性色材が良好に分散した状態であっても、乾燥の過程で水不溶性色材粒子が見かけ上凝集してしまい、正確な粒子径が判別しにくい場合がある。このような場合には、重なっていない独立した粒子300個の径を測定して平均値を求める。また、水不溶性色材が球状でない場合は、粒子の長径(粒子の最も長い径)を測定する。
【0084】
本発明においては、上記透過型電子顕微鏡観察により算出した水不溶性色材の平均粒子径が、5〜50nmであることが好ましく、5〜45nmであることがより好ましく、5〜40nmであることが特に好ましい。この平均粒径が小さすぎると、分散体中の安定な分散状態を長期間保つことが難しい場合があり、また良好な耐光性が得られない場合がある。一方で、大きすぎると、分散体の透明性が得られない場合がある。すなわち、上記粒径の範囲とすることが、分散体の透明性、分散安定性、及び耐光性を同時に高いレベルで満足する観点から好ましい。
【0085】
本発明において水不溶性色材の微粒子は顔料等の水不溶性色材のみからなるものであっても、水不溶性色材以外の化合物、例えば前記電子求引性基を有する特定の高分子化合物が含まれていてもよい。このとき、2種以上の顔料の固溶体が粒子を構成しているものであてもよい。ただし、粒子中に結晶構造を有する部分と結晶構造を有さない部分が混在していてもよい。また、顔料及び/又はその他の化合物が粒子の核をなし、そこに前記分散剤(高分子化合物、界面活性剤等)が被覆するように吸着して粒子をなしていてもよい。
【0086】
また、本発明の水不溶性色材は、樹脂微粒子や無機微粒子に含まれていてもよい。このとき、本発明の水不溶性色材の色味を損なわないため、前記樹脂微粒子及び無機微粒子は非着色成分であることが好ましい。前記樹脂微粒子及び無機微粒子の平均粒子径は6〜200nmであることが好ましく、インクジェット用記録液として用いる場合には良好な吐出安定性を得る観点から6〜150nmであることがさらに好ましく、6〜100nmであることが特に好ましい。
【0087】
〔動的光散乱法による平均粒径〕
本発明において、水不溶性色材の分散状態は動的散乱法により評価することもでき、これにより平均粒径を算出することができる。その原理は次のとおりである。粒径が約1nm〜5μmの範囲にある粒子は、液中で並進・回転等のブラウン運動により、その位置・方位を時々刻々と変えている。したがって、これらの粒子にレーザー光を照射し、出てくる散乱光を検出すると、ブラウン運動に依存した散乱光強度の揺らぎが観測される。この散乱光強度の時間の揺らぎを観測することで、粒子のブラウン運動の速度(拡散係数)が得られ、さらには粒子の大きさを知ることができる。
【0088】
この原理を用いて、水不溶性色材の平均粒径の測定を行い、その測定値が電子顕微鏡、特にTEM観察で得られた平均粒径に近い場合には、液中の粒子が単分散していること(粒子同士が接合したり凝集したりしていないこと)を意味する。すなわち、分散媒中において各粒子は互いに間隔をあけて分散しており、単独で独立して動くことができる状態にある。
【0089】
分散媒中の水不溶性色材に対して行った動的光散乱法による算術平均粒径が、TEM観察による平均粒径に対して近いものであることが好ましい。すなわち、分散媒中で水不溶色材の微粒子が単分散した状態が実現できることが好ましい。分散媒中の動的光散乱法による算術平均粒径は、50nm以下であることが好ましく、45nm以下であることがより好ましく、40nm以下であることが特に好ましい。本発明においては、特に断らない限り、単に平均粒径というときTEMにより測定した平均粒径をいう。
【0090】
本発明において分散体中に分散している水不溶性色材微粒子の粒径は単分散であることが好ましい。単分散であることにより、粒径が大きい粒子の光散乱等の影響が軽減できるほか、例えば分散体を用いて印字、記録等で凝集体形成する際には形成する凝集体の充填形態の制御等に有利である。分散体の分散性を評価する指標としては、例えば動的光散乱法で得られる算術平均粒径において、粒子の粒径分布関数
dG=f(D)xdD(Gは粒子数、Dは一次粒径を表す)
の積分式における、全粒子数の90個数%を占める粒子の粒径(D90)と10固数%を占める粒子の粒径(D10)との差を用いることができる。本発明においては、前記D90とD10の差が45nm以下であることが好ましく、1〜30nmであることがより好ましく、1〜20nmであることが特に好ましい。なおこの方法は、前述した電子顕微鏡により観察される粒子径を用いて作製する粒径分布曲線でも適用することができる。
【0091】
また、もう1つの分散性を示す指標の例としては、動的光散乱法により得られる体積平均粒径(Mv)及び個数平均粒径(Mn)の比(Mv/Mn)を用いることもできる。本発明の分散体は前記Mv/Mnの値が1.7以下であることが好ましく、1.6以下であることがより好ましく、1.5以下であることがさらに好ましい。
【0092】
本発明の分散体は、水不溶性色材微粒子が水を含んでいる媒体に対して分散している分散体であって、その一実施態様において、該分散体の可視光領域(例えば380〜700nm程度)の光の吸光度ピーク値を1としたときの光散乱強度が30,000cps以下である。このことは、可視光領域の光の吸光度ピークが1となる程度に水不溶性色材を含んでいるにも関らず、その光散乱強度が30,000cps以下と極めて低いことを意味しているものである。この光散乱強度が低いと、前記分散体、またはこの分散体を用いた記録液において高い透明性が視認できる。
【0093】
本発明においては、上述した水と水不溶性色材の微粒子と特定の高分子化合物もしくは界面活性剤とを含有する分散体を用い、この水不溶性色材の微粒子を再分散可能に凝集させた軟凝集体とし、該軟凝集体を前記分散体から分離することが好ましい。さらには、前記軟凝集体に再分散性を付与し、その凝集を解き再分散媒体に再分散させることが好ましい。これにより、分散媒体を所望のものに切り替えることができる。例えば、前記再分散媒体として特定の成分を含むものを用いて、前記再分散後の分散体にインク特性を良化する性質を付与することができる。特に、この分散媒体の切り替え時に上記一般式(I)で表される構成単位を有する高分子化合物もしくは界面活性剤の作用が発揮される。推定を含めていえば、その特有の環構造基が水不溶性色材分子と相互に作用して特別な吸着状態になると考えられる。これにより上記特定の高分子化合物もしくは界面活性剤が微粒子から脱離してしまうことなく粒子表面あるいは内部に好適に残存し、後述する疎水性有機溶媒を含みインク組成物中での良好な分散安定性が実現されたものと推測される。
【0094】
本発明の分散体の製造方法において、前記の水不溶性色材の粒子を再分散可能に凝集させた軟凝集体とし該軟凝集体を前記分散体から分離する工程、及び凝集体の凝集を解き再分散させる工程について詳しく説明する。
以下に具体的に述べるように、水不溶性色材の粒子を析出させた混合液を酸処理し、好ましくは凝集体の形成に酸を添加して処理し、粒子の凝集体を形成させることが好ましい。酸を用いた処理は、好ましくは、粒子を酸で凝集させてこれを溶剤(分散媒)と分離し、濃縮、脱溶剤および脱塩(脱酸)を行う工程を含む。系を酸性にすることで酸性の親水性部分による静電反発力を低下させ、粒子を凝集させることができる。
【0095】
ここで用いる酸としては、沈殿し難い微粒子となっているものを凝集させて、スラリー、ペースト、粉状、粒状、ケーキ状(塊状)、シート状、短繊維状、フレーク状などにして通常の分離法によって効率よく溶剤と分離できる状態にするものであれば、いかなるものでも使用できる。さらに好ましくは、アルカリと水溶性の塩を形成する酸を利用するのがよく、酸自体も水への溶解度が高いものが好ましい。また脱塩を効率よく行うために、加える酸の量は粒子が凝集する範囲でできるだけ少ない方がよい。具体的には塩酸、硫酸、硝酸、酢酸、リン酸、トリフルオロ酢酸、ジクロロ酢酸、メタンスルホン酸などが挙げられるが、塩酸、酢酸および硫酸が特に好ましい。酸によって容易に分離可能な状態にされた顔料粒子の水性分散液は遠心分離装置や濾過装置またはスラリー固液分離装置などで容易に分離することができる。この際、希釈水の添加、またはデカンテーションおよび水洗の回数を増やすことで脱塩、脱溶剤の程度を調節することができる。凝集方法としては、さらにミョウバンなどの無機化合物や高分子凝集剤を合わせて用いることも可能である。
【0096】
ここで得られた凝集体は、含水率の高いペーストやスラリーのままで用いることもできるが、必要に応じてスプレードライ法、遠心分離乾燥法、濾過乾燥法または凍結乾燥法などのような乾燥法により、微粉末として用いることもできる。
【0097】
この再分散処理としてアルカリ処理を挙げることができる。すなわち、酸を用いて凝集させた粒子をアルカリで中和し、粒子の析出時の一次粒子径で水等に再分散させることが好ましい。すでに脱塩および脱溶剤が行われているため、不純物の少ないコンクベースを得ることができる。ここで使用するアルカリは、酸性の親水性部分を持つ分散剤の中和剤として働き、水への溶解性が高まるもので、いかなるものでも使用できる。具体的にはアミノメチルプロパノール、ジメチルアミノプロパノール、ジメチルエタノールアミン、ジエチルトリアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ブチルジエタノールアミン、モルホリン等の各種有機アミン、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物、アンモニアが挙げられる。これらの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0098】
上記のアルカリの使用量は、凝集した粒子を水に安定に再分散できる範囲であれば特に限定されるものではないが、印刷インキやインクジェットプリンタ用インクなどの用途に用いる場合は各種部材の腐食の原因になる場合があるため、pHが6〜12、さらに好ましくは7〜11の範囲になる量を使用するのがよい。
【0099】
また、粒子析出時に用いる分散剤に応じて、上記のアルカリ処理とは異なる方法を用いてもよい。例えば、先に述べた低分子分散剤や高分子分散を使用した再分散処理があげられる。また、この際には従来公知の分散処理の手段を用いてもよく、例えばサンドミル、ビーズミル、ボールミル、ディゾルバーなどの分散機や、超音波分散も好ましく使用される。これらの再分散処理は前述したアルカリ処理と併用してもよい。
【0100】
また、凝集した粒子を再分散する際に、再分散用媒体として水溶性の有機溶剤を添加して、再分散しやすくすることができる。具体的に使用できる有機溶剤としては特に限定されるものではないが、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、tert−ブタノール等の低級アルコール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジアセトンアルコール等の脂肪族ケトン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、エチレングリコールモノメチルまたはモノエチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、トリプロピレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールフェニルエーテル、プロピレングリコールフェニルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルまたはモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルまたはモノエチルエーテル、N−メチルピロリドン、2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルイミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミドなどが挙げられる。これらは、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。また、顔料粒子を再分散させて水性分散液とするとき、ここにおける水の量は99〜20質量%であることが好ましく、95〜30質量%とすることがより好ましい。上記の水溶性有機溶剤の量は50〜0.1質量%であることが好ましく、30〜0.05質量%とすることがより好ましい。
【0101】
凝集した粒子に水、上記アルカリおよび水溶性の有機溶剤を加える際には、必要に応じて撹拌、混合、サンドミル、ビーズミル、ボールミル、ディゾルバーなどの分散機や超音波分散装置を用いることができる。特に含水率の高い有機顔料のペースト、スラリーを用いる際は水を加えなくてもよい。さらに、再分散の効率を高める目的、および不用となった水溶性有機溶剤または過剰なアルカリ等を除去する目的で加熱、冷却、または蒸留などを行うことができる。
【0102】
本発明の記録液(以下、これをインク組成物ということがある。)の調製方法は特に限定されないが、上記のように本発明の分散体を一度軟凝集状態とし再分散させる際に、例えば所定の高分子化合物、界面活性剤、水性溶剤等の各成分を混合し均一に溶解又は分散することにより調製することができる。本発明の記録液においては、前記水不溶性色材を0.1〜15質量%含有することが好ましい。また、調製したインクに過剰量のポリマー化合物や添加剤が含有される場合には、遠心分離や透析などの方法によって、それらを適宜除去し、インク組成物を再調製することができる。また本発明の記録液は単独で用いてもよいが、これとは別のインクと組み合わせて、本発明のインクセットとしてもよい。
【0103】
インク組成物の成分としては、乾燥防止剤、湿潤剤あるいは浸透促進剤の目的のために、水溶性溶剤を用いることが好ましい。特に、インクジェット記録方式の水系インク組成物として用いる場合は、乾燥防止剤、湿潤剤あるいは浸透促進剤の目的で、水溶性有機溶剤が好ましく使用される。ノズルのインク噴射口において該インクジェット用インクが乾燥することによる目詰まりを防止する目的で乾燥防止剤や湿潤剤が用いられ、乾燥防止剤や湿潤剤としては、水より蒸気圧の低い水溶性有機溶剤が好ましい。また、インク組成物(特に、インクジェット用インク組成物)を紙により良く浸透させる目的で、浸透促進剤として水溶性有機溶剤が好適に使用される。
【0104】
本発明においては、カールを抑制することを目的とし、(a)上記水溶性溶剤としてSP値27.5以下の疎水性溶剤(好ましくは疎水性有機溶剤)を90質量%以上含有し、かつ、下記一般式(VI)で表される化合物を含有することが好ましい。このとき、前記「SP値27.5以下の水溶性溶剤」の構成成分と「一般式(VI)で表される化合物」とが同一のものであってもよい。
【0105】
本発明でいう水溶性溶剤の溶解度パラメーター(SP値)とは、分子凝集エネルギーの平方根で表される値で、R.F.Fedors,Polymer Engineering Science,14,p147(1967)に記載の方法で計算することができ、本発明においてはこの数値を採用する。
【0106】
【化11】

【0107】
一般式(VI)中、l、m、及びnは、それぞれ独立に、1以上の整数で、かつ、l+m+n=3〜15を表す。l+m+nが3未満だとカール抑制力が小さく、また15を超えると吐出性が悪化する。上記の中でも、l+m+nが3〜12が好ましく、3〜10がより好ましい。上記一般式(VI)中、AOは、エチレンオキシ及び/又はプロピレンオキシを表すが、中でも、プロピレンオキシ基が好ましい。前記(AO)、(AO)、及び(AO)の各AOはそれぞれ同一でも異なってもよい。
【0108】
以下に、SP値が27.5以下に該当する水溶性溶剤及び上記一般式(VI)で表される化合物の例について、SP値(カッコ内)と共に示す。但し、本発明はこれに限定されるものではない。
【0109】
・ジエチレングリコールモノエチルエーテル(22.4)
・ジエチレングリコールモノブチルエーテル(21.5)
・トリエチレングリコールモノブチルエーテル(21.1)
・ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(21.3)
・ジプロピレングリコール(27.2)
【0110】
【化12】

【0111】
・nC4H9O(AO)4-H (AO=EO又はPOで、比率はEO:PO=1:1) (20.1)
・nC4H9O(AO)10-H (AO=EO又はPOで、比率はEO:PO=1:1) (18.8)
・HO(A’O)40-H (A’O=EO又はPOで、比率はEO:PO=1:3) (18.7)
・HO(A’’O)55-H (A’’O=EO又はPOで、比率はEO:PO=5:6) (18.8)
・HO(PO)3-H (24.7)
・HO(PO)7-H (21.2)
・1,2-ヘキサンジオール (27.4)
本発明において、EO、POはエチレンオキシ基、プロピレンオキシ基を表す。
【0112】
上記一般式(VI)の化合物の(a)水溶性溶剤中に占める割合(含有量)は、10%以上が好ましく、30%以上がより好ましく、更に50%以上が好ましい。その値が高くとも問題は生じるものではない。上記範囲とすることにより、インクの安定性及び吐出性の向上効果一層高まり、しかもカールを好適に抑制することができ好ましい。
【0113】
また本発明においては、SP値が27.5以下の溶剤比率が90%未満にならない範囲で、他の溶剤を併用しても良い。
併用できる水溶性有機溶媒の例として、グリセリン、1,2,6−ヘキサントリオール、トリメチロールプロパン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ペンタエチレングリコール、ジプロピレングリコール、2−ブテン−1,4−ジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、1,2−オクタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−ペンタンジオール、4−メチル−1,2−ペンタンジオール等のアルカンジオール(多価アルコール類);ヴルコース、マンノース、フルクトース、リボース、キシロース、アラビノース、ガラクトース、アルドン酸、グルシトール、(ソルビット)、マルトース、セロビオース、ラクトース、スクロース、トレハロース、マルトトリオース等の糖類;糖アルコール類;ピアルロン酸類;尿素類等のいわゆる固体湿潤剤;エタノール、メタノール、ブタノール、プロパノール、イソプロパノールなどの炭素数1〜4のアルキルアルコール類;
【0114】
エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、エチレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、エチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、1−メチル−1−メトキシブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−iso−プロピルエーテルなどのグリコールエーテル類;2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、ホルムアミド、アセトアミド、ジメチルスルポキシド、ソルビット、ソルビタン、アセチン、ジアセチン、トリアセチン、スルホラン等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0115】
乾燥防止剤や湿潤剤の目的としては,多価アルコール類が有用であり、例えば、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、3−メチル−1,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、テトラエチレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、ポリエチレングリコール、1,2,4−ブタントリオール、1,2,6−ヘキサントリオール、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0116】
浸透剤の目的としては、ポリオール化合物が好ましく、脂肪族ジオールとしては、例えば、2−エチル−2−メチル−1,3−プロパンジオール、3,3−ジメチル−1,2−ブタンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−2−プロピル−1,3−プロパンジオール、2,4−ジメチル−2,4−ペンタンジオール、2,5−ジメチル−2,5−ヘキサンジオール、5−ヘキセン−1,2−ジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオールなどが挙げられる。これらの中でも、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールが好ましい例として挙げることができる。
【0117】
本発明の記録液に使用される(a)水溶性溶剤は、単独で使用しても、2種類以上混合して使用しても構わない。水溶性溶剤の含有量としては、全インク組成物中、安定性および吐出信頼性確保の点から、1質量%以上60質量%以下が好ましく、5質量%以上40質量%以下がより好ましく、10質量%以上30質量%以下が特に好ましい。
【0118】
本発明の記録液に使用される(c)水の添加量は特に制限は無いが、全インク組成物中、安定性および吐出信頼性確保の点から、好ましくは10質量%以上99質量%以下であり、より好ましくは30質量%以上80質量%以下であり、更に好ましくは、50質量%以上70質量%以下である。
【0119】
本発明の記録液は、各種印刷法、インクジェット法、電子写真法等の様々な画像形成方法および装置に使用でき、この装置を用いた画像形成方法により描画することができる。また、このインクジェット法により微細パターンを形成したり、薬物の投与を行ったりすることができる。
【0120】
本発明の記録液はインクジェット用記録液とすることが好ましく、これを用いたインクセットとすることが好ましい。また、本発明の記録液又はインクセットを用いて、記録液を媒体に付与する手段により画像が記録された印画物とすることが好ましく、前記手段が記録液の付与量もしくは濃度を調整する機能を有し、該手段により印画物の濃淡が調整された印画物とすることが好ましい。さらに上記の記録液又はインクセットは、記録液を媒体に付与することにより、画像を記録する工程を有する画像形成方法に用いることが好ましい。さらに本発明においては、上記記録液又はインクセットを用いて記録液を媒体に付与することにより、画像を記録させるための手段を有する画像形成装置とすることができる。
【0121】
上記の優れた特性を有する本発明の分散体は、インクとして用い高品位・高精彩な画像記録を実現しうるものである。また、その他にカラーフィルタを形成する材料としても好適に用いることができる。
【実施例】
【0122】
以下に実施例に基づき本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。なお、文中「部」及び「%」とあるのは特に示さない限り質量基準とする。また、各分散体の動的散乱法による平均粒子径はイオン交換水で希釈した後、堀場製作所(株)社製のLB−500(商品名)を用いて測定を行った。このとき、料屈折率を1.600、分散媒のイオン交換水の屈折率を1.333として入力し、各分散体の体積平均粒径Mv、個数平均粒径Mnの測定も行った。さらに、透過型電子顕微鏡(TEM)観察による平均粒径評価は、カーボン膜を貼り付けたCu200メッシュに希釈した分散体を滴下した後乾燥させ、TEM(日本電子社製、1200EX(商品名))で10万倍に拡大した画像から、重なっていない独立した粒子300個の長径を測定して平均値を平均粒径として算出した(以下、TEM観察により算出した平均粒径をTEM平均粒径と記述する。)。
【0123】
【化13】

【0124】
モノマー(C)の合成
200mlの三口フラスコに4−ビニル安息香酸16.6g(0.112mol)、トルエン80ml、N,N−ジメチルホルムアミド2滴を入れて室温下で攪拌しているところに、塩化チオニル9.7ml(0.14mol)を加えて60℃で2時間加熱攪拌した。その後、系内を40℃付近まで冷却して減圧下でトルエンおよび過剰の塩化チオニルを除去して化合物(B)を得た。この化合物(B)はこれ以上精製することなく、速やかに次の反応に用いた。
500mlの三口フラスコに2−アミノアントラキノン22.5g(0.101mol)、ピリジン110mlを加えて、氷冷下で攪拌しているところに(B)を滴下ロートでゆっくりと滴下した。氷冷下で30分攪拌した後、60℃で3時間加熱攪拌した。その後、室温下まで冷却し、反応混合物を攪拌しながら水を加えた。生じた粗結晶を濾別し、水、メタノールでかけ洗いしたのち、集めた粗結晶を500mlの三口フラスコに入れ、メタノール500mlを加えて60℃で加熱攪拌した。その後、結晶を濾別し、メタノールで洗浄、乾燥することで化合物(C)21.5gを得た(収率:75%)。化合物(C)のNMR測定結果を下記に示した。
1H-NMR(300MHz,CDCl3)δ=5.48(br.d,1H、J=12.0Hz),6.07(br.d、1H、J=17.4Hz),6.89(br.dd、1H、J=12.0、17.4Hz)、7.78(br.d、2H、J=8.4Hz)、7.94-8.05(m、4H)、8.08(br.d、2H、J=8.4Hz)、8.19-8.24(m、1H)、8.29-8.34(m、1H)、9.19(dd、1H、J=1.5、6.9Hz)、13.1(br.s、1H).
【0125】
モノマー(D)の合成
前記モノマー(C)の合成と同様にして、1−アミノアントラキノン22.5g(0.101mol)から、モノマー(D)を20.2g得た(収率71%)。化合物(D)のNMR測定結果を下記に示した。
1H-NMR(300MHz,CDCl3)δ=5.46(br.d,1H、J=12.0Hz),6.04(br.d、1H、J=17.7Hz),6.92(br.dd、1H、J=12.0、17.7Hz)、7.72(br.d、2H、J=9.0Hz)、7.92-8.03(m、2H)、8.14(br.d、2H、J=9.0Hz)、8.34(br.d、2H、J=9.0Hz)、8.49(br.d、2H、J=9.0Hz)、8.80(br.d、2H、J=9.0Hz)、10.1(br.s、1H).
【0126】
【化14】

【0127】
モノマー(F)の合成
前記モノマー(C)の合成と同様にして、2−アミノアントラキノン22.5g(0.101mol)、メタクリロイルクロリド11.6g(0.111mol)から、モノマー(F)15.3gを得た(収率52%)。化合物(F)のNMR測定結果を下記に示した。
300 MHz in CDCl3
δ=2.12(s,3H),5.58(s,1H),5.91(s,1H),7.74-7.84(m,3H),8.16-8.42(m,5H).
【0128】
モノマー(H)の合成
前記モノマー(C)の合成と同様にして、2−アミノアントラキノン22.5g(0.101mol)、カレンズMOI(商品名、昭和電工製)16.4g(0.106mol)から、モノマー(H)を25.9g得た(収率68%)。化合物(H)のNMR測定結果を下記に示した。
300 MHz in DMSO-d6
δ=1.90(s,3H),3.45(br.q,2H,J=5.7Hz),4.18(br.t,2H,J=5.7Hz),5.71(s,1H),6.09(s,1H),6.54-6.62(m,1H),7.84-7.95(m,3H),8.11(br.d,1H,J=11.4Hz),8.16-8.22(m,2H),8.28-8.32(m,2H),9.46(br.2,1H).
【0129】
モノマー(M)の合成
1(L)三口フラスコに2-クロロ-4-ニトロ安息香酸80.6g(0.40mol)、2-アミノピリジン75.2g(0.80mol)、銅粉2.0g(0.031mol)、炭酸カリウム27.6g(0.200mol)、ジメチルホルムアミド250mlを加えて、160℃で6時間過熱攪拌した。その後、室温まで冷却した後、一晩放置した。反応混合物に水、アセトンを加えて、生じた結晶をろ過した。結晶を水、アセトンで洗浄して乾燥させて化合物(K)を42g得た。(収率44%)
2(L)三口フラスコに還元鉄を20g(0.36mol)、塩化アンモニウム2.0g(0.037mol)、水4ml、2−プロパノール200mlを加えて加熱還流しているところに、酢酸2mlを加えた。さらに加熱還流を5分間実施した後、化合物(K)20.0g(0.083mol)を少しずつ添加した。加熱還流を1hほど継続させた後、2−プロパノール15mlを追加した。反応混合物をセライトろ過し、生じた無機塩を除去した。ろ液をロータリーエバポレーターで濃縮して残渣を氷水に注加し、化合物(L)7.2gを得た。(収率42%)(スキーム中AcOHは酢酸、IPAは2−プロパノールである。)
さらに前記モノマー(C)の合成と同様にして、化合物(L)7.0g(0.034mol)から、モノマー(M)を6.3g得た(収率55%)。
化合物(K)のNMR測定結果を下記に示した。
300 MHz in DMSO-d6
δ=7.22-7.28(m,1H),7.67(br.d,1H,J=9.0Hz),7.87(d,1H,J=9.3Hz),7.91-7.98(m,1H),8.58(dd,1H,J=3.3,9.3Hz),8.87-8.93(m,1H),9.04(d,1H,3.3Hz)
化合物(L)のNMR測定結果を下記に示した。
300 MHz in DMSO-d6
δ=5.74(br.s,2H),6.84-6.88(m,1H),7.28(br.dd,1H,J=2.4,8.4Hz),7.32-7.42(m,2H),7.44-7.56(m,2H),8.69(br.d,1H,J=7.5Hz),
化合物(M)のNMR測定結果を下記に示した。
300 MHz in DMSO-d6
δ=5.61(d,1H,J=11.4Hz),6.21(d,1H,J=18Hz),7.03(dd,1H,J=11.4,18Hz),7.24(br.t,1H,J=6.6Hz),7.70(br.d,1H,J=8.7Hz),7.85(d,2H,J=8.4Hz),7.82-7.91(m,1H),7.97(d,1H,J=9.3Hz),8.20(d,2H,J=8.4Hz),8.48(br.dd,1H,J=2.7,8.7Hz),8.99(br.d,1H,J=7.2Hz),9.06(br.d,1H,J=2.4Hz),10.80(s,1H).
【0130】
モノマー(N)の合成
200mlの三口フラスコに4−ビニル安息香酸9.1g(0.061mol)、トルエン45ml、N,N−ジメチルホルムアミド2滴を入れて室温下で攪拌しているところに、塩化チオニル4.7ml(0.067mol)を加えて60℃で2時間加熱攪拌した。その後、系内を40℃付近まで冷却して減圧下でトルエンおよび過剰の塩化チオニルを除去して化合物(B)を得た。この化合物(B)はこれ以上精製することなく、速やかに次の反応に用いた。
500mlの三口フラスコにアミノフタルイミド10.0g(0.062mol)、N−メチルピロリドン100mlを加えて、氷冷下で攪拌しているところに(B)のアセトニトリル溶液50mlを滴下ロートでゆっくりと滴下した。氷冷下で30分攪拌した後、室温で3時間加熱攪拌した。その後、反応混合物を攪拌しながら水を加えた。生じた粗結晶を濾別し、水、アセトニトリルでかけ洗いし、結晶を濾別し、乾燥することでモノマー(N)14.4gを得た(収率:80%)。モノマー(N)のNMR測定結果を下記に示した。
300 MHz in DMSO-d6
δ=5.43(d,1H,J=11.7Hz),6.03(d,1H,J=18.0Hz),6.85(dd,1H,J=11.7,18.0Hz),7.67(d,2H,J=8.4Hz),7.83(d,1H,J=8.4Hz),7.99(d,2H,J=8.4Hz),8.15(dd,1H,J=1.8,8.4Hz),8.34(br.d,1H,J=1.8Hz),10.77(s,1H),11.27(s,1H).
【0131】
(高分子化合物の合成)
スチレン/メタクリル酸共重合体の合成
500mlの三口フラスコにジメチルスルホキシド75gを加え、窒素気流下、80℃の内温で加熱しているところに、スチレン70g(0.67mol)、メタクリル酸(MAA)30g(0.35mol)、V−601(商品名、ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)1.77g(7.67 mmol)、ジメチルスルホキシド150gの混合溶液を2時間かけて滴下した。滴下終了後、80℃でそのまま2時間加熱攪拌したのち、V−601(ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)0.88g(3.8 mmol)、ジメチルスルホキシド2g溶液を追加し、さらに90℃で1時間攪拌した。得られた混合物にジメチルスルホキシド148gを加え、室温下まで冷却した。5Lのステンレスバケツに、メタノール1L、水1Lを加えて室温下で攪拌しているところに、得られたスチレン/メタクリル酸の共重合体混合物をゆっくりと滴下した。得られた白色の粉体を濾別し、スチレン/メタクリル酸の共重合体(酸価178、質量平均分子量33000)を67.5g得た。
【0132】
高分子化合物1
200mlの三口フラスコにスチレン8.9g(0.085mol)、モノマー(C) 5.0g(0.014 mol)、メタクリル酸6.1g(0.071 mol)、N−メチルピロリドン45.7gを加え、窒素気流下、80℃の内温で加熱しているところに、V−601(ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)0.39g(1.7mmol)、N−メチルピロリドン0.5gの混合溶液を加えた。80℃でそのまま加熱攪拌した。2時間おきに、V−601(ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)0.39g(1.7mmol)、N−メチルピロリドン0.5gの混合溶液を3回追添加し、さらに80℃で2時間攪拌したあと混合物を室温下まで冷却した。3Lのステンレスバケツにメタノール600ml、水600mlを加えて攪拌しているところに、得られたスチレン/モノマー(C)/メタクリル酸の共重合体混合物をゆっくりと滴下した。得られた粉体を濾別し、高分子化合物1(酸価185、質量平均分子量20000)を10.5g得た。
【0133】
高分子化合物2
高分子化合物1の合成と同様にしてスチレンモノマー、モノマー(D)およびメタクリル酸から、スチレン/モノマー(D)/メタクリル酸の共重合体(酸価182、分子量15000)を得た。
【0134】
高分子化合物3
200mlの三口フラスコにtert−ブチルスチレン8.9g(0.085mol)、モノマー(C) 5.0g(0.014 mol)、メタクリル酸6.1g(0.071 mol)、N−メチルピロリドン45.7gを加え、窒素気流下、80℃の内温で加熱しているところに、V−601(ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)0.39g(1.7mmol)、N−メチルピロリドン0.5gの混合溶液を加えた。80℃でそのまま加熱攪拌した。2時間おきに、V−601(ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)0.39g(1.7mmol)、N−メチルピロリドン0.5gの混合溶液を3回追添加し、さらに80℃で2時間攪拌したあと混合物を室温下まで冷却した。3Lのステンレスバケツにメタノール600ml、水600mlを加えて攪拌しているところに、得られたtert−ブチルスチレン/モノマー(C)/メタクリル酸の共重合体混合物をゆっくりと滴下した。得られた粉体を濾別し、高分子化合物3(酸価154、質量平均分子量34000)を11.0g得た。
【0135】
高分子化合物4
200mlの三口フラスコにスチレン9.86g(0.095mol)、モノマー(C) 5.0g(0.014 mol)、アクリル酸5.14g(0.071 mol)、N−メチルピロリドン45.7gを加え、窒素気流下、80℃の内温で加熱しているところに、V−601(ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)0.415g(1.8mmol)、N−メチルピロリドン0.5gの混合溶液を加えた。80℃でそのまま加熱攪拌した。2時間おきに、V−601(ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)0.415g(1.8mmol)、N−メチルピロリドン0.5gの混合溶液を3回追添加し、さらに80℃で2時間攪拌したあと混合物を室温下まで冷却した。3Lのステンレスバケツにメタノール400ml、水800mlを加えて攪拌しているところに、得られたスチレン/モノマー(C)/アクリル酸の共重合体混合物をゆっくりと滴下した。得られた粉体を濾別し、高分子化合物4(酸価152、質量平均分子量30000)を10.9g得た。
【0136】
高分子化合物5
200mlの三口フラスコにスチレン0.3g(2.9mmol)、モノマー(C) 5.0g(0.014 mol)、4−ビニルベンゼンスルホン酸ナトリウムx水和物14.7g(約0.071 mol)、ジメチルスルホキシド79.0gを加え、窒素気流下、80℃の内温で加熱しているところに、V−601(ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)0.203g(0.881mmol)、N−メチルピロリドン0.5gの混合溶液を加えた。80℃でそのまま加熱攪拌した。2時間おきに、V−601(ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)0.203g(0.881mmol)、ジメチルスルホキシド0.5gの混合溶液を3回追添加し、さらに80℃で2時間攪拌したあと混合物を室温下まで冷却した。3Lのステンレスバケツにアセトン1500mlを加えて攪拌しているところに、得られたスチレン/モノマー(C)/4−ビニル安息香酸ナトリウムの共重合体混合物をゆっくりと滴下した。得られた粉体を濾別し、高分子化合物5を19.2g得た。
【0137】
高分子化合物6
200mlの三口フラスコにtert−ブチルスチレン8.9g(0.085mol)、モノマー(F) 5.0g(0.017 mol)、メタクリル酸6.1g(0.071 mol)、N−メチルピロリドン45.7gを加え、窒素気流下、80℃の内温で加熱しているところに、V−601(ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)0.39g(1.7mmol)、N−メチルピロリドン0.5gの混合溶液を加えた。80℃でそのまま加熱攪拌した。2時間おきに、V−601(ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)0.39g(1.7mmol)、N−メチルピロリドン0.5gの混合溶液を3回追添加し、さらに80℃で2時間攪拌したあと混合物を室温下まで冷却した。3Lのステンレスバケツにメタノール600ml、水600mlを加えて攪拌しているところに、得られたtert−ブチルスチレン/モノマー(F)/メタクリル酸の共重合体混合物をゆっくりと滴下した。得られた粉体を濾別し、高分子化合物6(酸価159、質量平均分子量31000)を12.5g得た。
【0138】
高分子化合物7
200mlの三口フラスコにtert−ブチルスチレン8.9g(0.085mol)、モノマー(H) 5.0g(0.013 mol)、メタクリル酸6.1g(0.071 mol)、N−メチルピロリドン45.7gを加え、窒素気流下、80℃の内温で加熱しているところに、V−601(ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)0.39g(1.7mmol)、N−メチルピロリドン0.5gの混合溶液を加えた。80℃でそのまま加熱攪拌した。2時間おきに、V−601(ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)0.39g(1.7mmol)、N−メチルピロリドン0.5gの混合溶液を3回追添加し、さらに80℃で2時間攪拌したあと混合物を室温下まで冷却した。3Lのステンレスバケツにメタノール600ml、水600mlを加えて攪拌しているところに、得られたtert−ブチルスチレン/モノマー(H)/メタクリル酸の共重合体混合物をゆっくりと滴下した。得られた粉体を濾別し、高分子化合物7(酸価163、質量平均分子量39000)を13.2g得た。
【0139】
高分子化合物8
200mlの三口フラスコにtert−ブチルスチレン8.9g(0.085mol)、モノマー(M) 5.0g(0.015 mol)、メタクリル酸6.1g(0.071 mol)、N−メチルピロリドン45.7gを加え、窒素気流下、80℃の内温で加熱しているところに、V−601(ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)0.39g(1.7mmol)、N−メチルピロリドン0.5gの混合溶液を加えた。80℃でそのまま加熱攪拌した。2時間おきに、V−601(ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)0.39g(1.7mmol)、N−メチルピロリドン0.5gの混合溶液を3回追添加し、さらに80℃で2時間攪拌したあと混合物を室温下まで冷却した。3Lのステンレスバケツにメタノール600ml、水600mlを加えて攪拌しているところに、得られたtert−ブチルスチレン/モノマー(M)/メタクリル酸の共重合体混合物をゆっくりと滴下した。得られた粉体を濾別し、高分子化合物8(酸価155、質量平均分子量29000)を14.1g得た。
【0140】
高分子化合物9
200mlの三口フラスコにtert−ブチルスチレン8.9g(0.085mol)、モノマー(N) 5.0g(0.017 mol)、メタクリル酸6.1g(0.071 mol)、N−メチルピロリドン45.7gを加え、窒素気流下、80℃の内温で加熱しているところに、V−601(ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)0.39g(1.7mmol)、N−メチルピロリドン0.5gの混合溶液を加えた。80℃でそのまま加熱攪拌した。2時間おきに、V−601(ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)0.39g(1.7mmol)、N−メチルピロリドン0.5gの混合溶液を3回追添加し、さらに80℃で2時間攪拌したあと混合物を室温下まで冷却した。3Lのステンレスバケツにメタノール600ml、水600mlを加えて攪拌しているところに、得られたtert−ブチルスチレン/モノマー(N)/メタクリル酸の共重合体混合物をゆっくりと滴下した。得られた粉体を濾別し、高分子化合物9(酸価161、質量平均分子量27000)を10.3g得た。
【0141】
(実施例1)
C.I.ピグメントレッド122(以下、PR122と略す) 6.6gをジメチルスルホキシド83.2g、アルカリとしてテトラメチルアンモニウムヒドロキシド(以下、MeNOH、25%メタノール溶液)を16.8g、前記の高分子化合物1を3.3g加え、40℃にて加熱攪拌し完全に溶解させ濃青紫色の顔料溶解液を得た。
【0142】
5Lのビーカーにイオン交換水1200gを加え氷冷却下で攪拌しているところに、前記の顔料溶解液をテルモ株式会社製のテルモシリンジ(商品名:SS−50ESZ)、テルモニードル(商品名:NN−1838R、口径1.20mm×長さ38mm)にて吸い上げ、速やかに吐出し、顔料分散体を得た。氷冷却下で30分攪拌したのち、2Lの三口フラスコに移し、外温設定50℃で3時間加熱した。その後、室温まで冷却した後、この顔料分散体に希塩酸を滴下してpHを7.0に調整し、顔料の分散体から顔料粒子を凝集させ、軟凝集体を得た。得られた凝集物を平均孔径0.2μmのメンブレンフィルターを用いて減圧濾過し、イオン交換水で2回水洗して、顔料軟凝集体の粉体aを得た。その後、集めた顔料粉体aにアセトン200mlを加えて室温下で1時間攪拌し、再度0.2μmのメンブレンフィルターを用いて減圧濾過し、脱塩及び脱溶剤された顔料粒子の分散体粉体bを得た。
【0143】
次に、この粉体に顔料分10%になるようにイオン交換水、15%水酸化ナトリウム水溶液を4.72g加え、株式会社日本精機製作所製の超音波ホモジナイザーUS−150Tで超音波分散処理を9時間行い、高濃度顔料分散体Aを得た。この顔料分散液Aの動的光散乱法による平均粒径(Mv)は32nm(TEM平均粒径:25nm)であり、粘度は4.58mPa・sであった
【0144】
(実施例2〜9、比較例1、2)
実施例1で高分子化合物1を高分子化合物2〜9(実施例2〜9、分散体B〜I)に、高分子化合物1をスチレン/メタクリル酸共重合体(St/MAA)に(比較例1、分散体J)、高分子化合物1をM−4を組成に有する高分子化合物D−1(比較例2、分散体K)に変えた以外は同様の操作を実施して顔料分散体を得た。
比較例1、2および実施例1〜9における顔料分散体の粒子径の測定結果を以下の表1に示す。
【0145】
【化15】

【0146】
[表1]
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
顔料 分散剤 粒径(Mv) TEM平均粒径
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
比較例1 PR122 St/MAA 28nm 24nm
比較例2 PR122 D−1 37nm 25nm
実施例1 PR122 高分子化合物1 32nm 25nm
実施例2 PR122 高分子化合物2 36nm 29nm
実施例3 PR122 高分子化合物3 33nm 27nm
実施例4 PR122 高分子化合物4 32nm 25nm
実施例5 PR122 高分子化合物5 35nm 28nm
実施例6 PR122 高分子化合物6 29nm 25nm
実施例7 PR122 高分子化合物7 32nm 25nm
実施例8 PR122 高分子化合物8 22nm 19nm
実施例9 PR122 高分子化合物9 37nm 29nm
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
本発明の特定の高分子化合物を用いた分散体は、十分に粒子径が小さく、また単分散でかつ粒径分布の狭いものであった。
【0147】
(実施例10)
C.I.ピグメントレッド122(以下、PR122と略す) 6.6gをジメチルスルホキシド83.2g、アルカリとしてテトラメチルアンモニウムヒドロキシド(以下、MeNOH、25%メタノール溶液)を16.8g加え、40℃にて加熱攪拌し完全に溶解させ濃青紫色の顔料溶解液を得た。
【0148】
5Lのビーカーにイオン交換水166gを加え氷冷却下で攪拌しているところに、前記の顔料溶解液をテルモ株式会社製のテルモシリンジ(商品名:SS−50ESZ)、テルモニードル(商品名:NN−1838R、口径1.20mm×長さ38mm)にて吸い上げ、速やかに吐出し、顔料分散体を得た。氷冷却下で30分攪拌したのち、2Lの三口フラスコに移し、あらかじめ作製した前記の高分子化合物3 3.3gを25%テトラメチルアンモニウムヒドロキシド3.5g、ジメチルスルホキシド:水=1:2の溶液30gで溶解させた分散剤溶液を加え、さらに外温設定50℃で3時間加熱した。その後、室温まで冷却した後、この顔料分散体に希塩酸を滴下してpHを7.0に調整し、顔料の分散体から顔料粒子を凝集させ、軟凝集体を得た。得られた凝集物を平均孔径0.2μmのメンブレンフィルターを用いて減圧濾過し、イオン交換水で2回水洗して、顔料軟凝集体の粉体を得た。その後、集めた顔料粉体aにアセトン200mlを加えて室温下で1時間攪拌し、再度0.2μmのメンブレンフィルターを用いて減圧濾過し、脱塩及び脱溶剤された顔料粒子の分散体粉体を得た。
【0149】
次に、この粉体に顔料分10%になるようにイオン交換水、15%水酸化ナトリウム水溶液を4.72g加え、株式会社日本精機製作所製の超音波ホモジナイザーUS−150Tで超音波分散処理を9時間行い、高濃度顔料分散体Lを得た。この顔料分散体Lの動的光散乱法による平均粒径(Mv)は38nm(TEM平均粒径:28nm)であり、粘度は5.12mPa・sであった
【0150】
(分散剤残存率)
つぎに、比較例1、2・実施例1〜3、実施例6〜10で作製した軟凝集体の粉体をそれぞれ有機溶剤(トリエチレングリコールモノブチルエーテル)で洗浄した後、濾別し、N−メチルピロリドンに溶解させUV吸収スペクトルから顔料純度を算出し、その差分より顔料粒子に含まれる分散剤の残存率を求めた。
[表2]
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
分散剤/顔料比 分散剤/顔料比 分散剤残存率
分散剤 (仕込み) (洗浄後) (%)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
比較例1 St/MAA 0.5 0.01 2
比較例2 D−1 0.5 0.06 12
実施例1 高分子化合物1 0.5 0.18 36
実施例2 高分子化合物2 0.5 0.12 24
実施例3 高分子化合物3 0.5 0.19 38
実施例6 高分子化合物6 0.5 0.16 32
実施例7 高分子化合物7 0.5 0.15 30
実施例8 高分子化合物8 0.5 0.32 64
実施例9 高分子化合物9 0.5 0.12 24
実施例10 高分子化合物3 0.5 0.17 34
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
(分散剤/顔料比(D/P比):質量比率、分散剤残存率:質量比率)
表2の結果にあるように、従来のスチレン/メタクリル酸共重合体では有機溶剤洗浄後の残存率が低くインク中に溶出しやすいが、本発明の特定の高分子化合物を用いた分散体においては該高分子化合物の残存率が高く、溶剤耐性が向上していることがわかる。
【0151】
(実施例11〜14)
実施例1で顔料PR122をC.I.ピグメントイエロー74(以下、PY74、実施例11、分散体M)、128(以下、PY128、実施例12、分散体N)、C.I.ピグメントレッド254(以下、PR254、実施例13、分散体O)、C.I.ピグメントバイオレット19(以下、PV19、実施例14、分散体P)に変えた以外は同様の操作を実施して顔料分散体を得た。
[表3]
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
顔料 分散剤 粒径(Mv) TEM平均粒径
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
実施例11 PY74 高分子化合物1 43nm 39nm
実施例12 PY128 高分子化合物1 37nm 30nm
実施例13 PR254 高分子化合物1 39nm 32nm
実施例14 PV19 高分子化合物1 32nm 25nm
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
本発明によれば、前述のPR122のものと同様に顔料種を代えても十分に粒子径が小さく、また単分散でかつ粒径分布の狭い顔料分散体を得ることができた。
【0152】
(インク組成物の調製)
(実施例15)
前記顔料分散体A(実施例1)を50質量部用い、グリセリン(SP値:33.5)、CLogP:−1.538)17.5質量部、アセチレノールEH(商品名、川研ファインケミカル社製)0.2質量部、及びイオン交換水32.3質量部と混合した後超音波処理し、インク組成物1−1を得た。
【0153】
(比較例3、4)
比較例1および2で得られた分散液J、Kを50質量部用い、グリセリン17.5質量部、アセチレノールEH(商品名、川研ファインケミカル社製)0.2質量部、及びイオン交換水32.3質量部と混合した後超音波処理し、インク組成物1−2、1−3を得た。
〔保存安定性の評価〕
得られたインク組成物1−1〜1−3について、まず調製当日の動的光散乱平均粒子径を測定した。次に、該インク組成物を外部温度設定60℃での加熱条件にて経時保存した後、再度動的光散乱による平均粒子径を測定した。このときの経時粒子径変動を表4に示す。
【0154】
[表4]
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
顔料 分散剤 初期粒径 経時粒径
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
実施例15 PR122 高分子化合物1 29nm 33nm
比較例3 PR122 St/MAA 28nm 64nm
比較例4 PR122 D−1 37nm 44nm
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
(粒径:体積平均粒径[Mv])
【0155】
表4の結果が示すように、本発明の特定の高分子化合物を含有する分散体により作製されたインク組成物は、その保存安定性が、従来のインク(比較例)に対して大幅に向上し極めて高いことが示された。
【0156】
(実施例16、17)
前記顔料分散体C(実施例3)、分散体H(実施例8)を50質量部用い、トリエチレングリコールモノブチルエーテル(和光純薬株式会社)17.5質量部、アセチレノールEH(商品名、川研ファインケミカル社製)0.2質量部、及びイオン交換水32.3質量部と混合した後超音波処理し、インク組成物1−4、1−5を得た。
【0157】
(比較例5、6)
比較例1および比較例2で得られた分散液J、Kを50質量部用い、トリエチレングリコールモノブチルエーテル(和光純薬株式会社)(SP値:21、CLogP:0.569)17.5質量部、アセチレノールEH(商品名、川研ファインケミカル社製)0.2質量部、及びイオン交換水32.3質量部と混合した後超音波処理し、インク組成物1−6、1−7を得た。
【0158】
〔保存安定性の評価〕
得られたインク組成物1−4〜1−7について、まず調製当日の動的光散乱平均粒子径を測定した。次に、該インク組成物を外部温度設定60℃での加熱条件にて経時保存した後、再度動的光散乱による平均粒子径を測定した。このときの経時粒子径変動を表5に示す。また、同様に加熱径時試験の前後におけるインク組成物の粘度を測定した。
[粘度の測定方法]
東機産業株式会社製の回転式E型粘度計(RE−80L(商品名))を用いて、25℃の恒温状態にて測定した。
【0159】
[表5]
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
顔料 分散剤 初期粒径 初期粘度 経時粒径 経時粘度
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
比較例5 PR122 St/MAA 130 測定不能 測定不能 測定不能
比較例6 PR122 D−1 70 測定不能 測定不能 測定不能
実施例16 PR122 高分子化合物3 37 8.6 49 9.3
実施例17 PR122 高分子化合物8 22 7.9 51 9.1
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
(粒径:体積平均粒径Mv[単位:nm]、粘度:[単位:mPa・sec.])
【0160】
表5のように従来のSt/MAAやD−1では疎水的なインクを作製すると速やかに凝集し、測定不能になるほど粒径・粘度が上昇するが、本発明の特定の高分子化合物を含有する分散体を用いたインクは、安定性が著しく改善されていることが分かる。
【0161】
(実施例18)
(マゼンタ分散液Qの作製)
高分子化合物1 20部にメチルエチルケトン100部、30%水酸化ナトリウム水溶液3.0部を加えて、高速ディスパーで5分間攪拌し、さらにマゼンタ顔料C.I.PR122を480.0部加え、高速ディスパーで1時間攪拌し、顔料分散スラリーを得た。そして、その顔料分散スラリーを超高圧ホモジナイザー(マイクロフルイダイザー、商品名、みずほ工業株式会社製)により200MPaの圧力で10回連続して分散を繰り返し、顔料分散液を得た。
【0162】
さらに、そのようにして得られた顔料分散液からエバポレーターを用いた減圧蒸留によりメチルエチルケトンおよび水の一部を留去し、遠心分離機(05P−21、商品名、日立製作所製)により30分5000rpmで遠心分離させた後、顔料濃度15質量%になるようにイオン交換水を添加して顔料分散液Qを調製した。
そして、2.5μmのメンブレンフィルター(アドバンテック社製)を用いて加圧ろ過した。この顔料分散液Qを超純水で1,000倍に希釈した後、動的光散乱法により求めた体積平均粒径(分散平均粒径)は79.2nm(TEM平均粒径:53.5nm)であり、単分散性の指標である体積平均粒径Mv/個数平均粒径Mnの比は1.62であった。その後、実施例16の顔料分散体Cの代わりに、分散液Qに変えた以外は同様にしてインク組成物1−8を得た。
【0163】
(実施例19)(マゼンタ分散液Rの作製)
マゼンタインクQの作製において、高速ディスパーを用いた攪拌をピコミル(商品名、浅田鉄鋼(株)製)(分散メディア:ジルコニア、温度:20℃、分散メデイア/分液質量比:8/2)を用いて周速8m/sにて12.5時間の分散処理に変えたほかは同様にして顔料分散液Rを得た。その後、実施例16の顔料分散体Cの代わりに、分散液Rに変えた以外は同様にしてインク組成物1−9を得た。
(比較例7、8)
マゼンタ分散液Aの作製において、高分子化合物1をスチレン/メタクリル酸共重合体あるいは高分子化合物D−1に変えたほかは同様にして顔料分散液S、Tを得た。その後、実施例16の顔料分散体Cの代わりに、分散液S、Tに変えた以外は同様にしてインク組成物1−10、1−11を得た。
【0164】
〔保存安定性の評価〕
得られたインク組成物1−8〜1−11について、まず調製当日の動的光散乱平均粒子径を測定した。次に、該インク組成物を外部温度設定60℃での加熱条件にて経時保存した後、再度動的光散乱による平均粒子径を測定した。このときの経時粒子径変動を表6に示す。
[表6]
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
顔料 分散剤 初期粒径 初期粘度 経時粒径 経時粘度
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
比較例7 PR122 St/MAA 91 10.9 150 31.3
比較例8 PR122 D−1 78 7.3 120 12.4
実施例17 PR122 高分子化合物3 79 7.5 89 8.3
実施例18 PR122 高分子化合物3 84 7.4 91 8.3
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
【0165】
本発明の分散剤を用いた分散液、インクはブレークダウン法においても優れた安定性を有する。
【0166】
(比較例9〜11)
C.I.ピグメントレッド122 20g、オレイン酸ナトリウム1.3g、イオン交換水78.7gを混合して、ビーズミルを用いて4時間分散を行い、顔料分散体Uを得た。顔料分散液Uの動的光散乱法による平均粒径は80.1nm(TEM平均粒径:79.2nm)であった。ナノメートルサイズの粒子が得られたが、その微細化に時間を要するとともに粉砕のためのエネルギーを要した。またそこで得られた顔料微粒子は、上記ビルドアップ法のものに対して粒径の大きなものであった。
【0167】
上記顔料分散体UにおけるC.I.ピグメントレッド122の代わりにC.I.ピグメントレッド254、C.I.ピグメントバイオレット19に変えた以外は同様にしてビーズミルを用いて4時間分散を行い、顔料分散体Vおよび顔料分散体Wを得た。顔料分散液Mの動的光散乱法による平均粒径は87.5nm(TEM平均粒径:84.9nm)であり、顔料分散液Nの動的光散乱法による平均粒径は85.0nm(TEM平均粒径:93.4nm)であった。上記と同様に微細化に時間及びエネルギーを要し、上記ビルドアップ法のものに対して粒径の大きなものであった。
【0168】
上記顔料分散体U〜Wを50質量部に、グリセリン17.5質量部、アセチレノールEH0.2質量部、イオン交換水32.3質量部を混合した後超音波処理し、インク組成物1−12〜1−14を得た。
【0169】
〔耐光性の評価〕
インク組成物1−1をガラス基板上にスピンコートし、これを退色試験機にセットし、キセノンランプを照度170,000ルクスで4日間照射して耐光性の試験を行った。UVフィルタとしてTEMPAXフィルタ(商品名)(イーグルエンジニアリング社製、材質はSCHOTT社製TEMPAX(商品名)ガラス)を光源と試料の間に配置した。インク組成物Aの、照射前の吸光度(Abs.)、照射後の吸光度を測定し、吸光度の残存率(照射後の吸光度÷照射前の吸光度×100)は80.3%であった。
【0170】
同様にしてインク組成物βをガラス基板上にスピンコートし、退色試験を行った。インク組成物1−2の吸光度の残存率は69.8%であった。この結果から、本発明によれば、インクの耐光性が高められることがわかる。
【0171】
〔透明性の評価〕
インク組成物の透明性を、下記の基準に則り目視にて評価した。
また、前記インク組成物を厚さ60μmのポリエチレンテレフタレート(PET)シート(商品名:PPL/レーザープリンター用ゼロックスフィルム OHP FILM,富士ゼロックス社製)上にバーコーターで塗工し、乾燥させ印画物を作製した後、印画部の透明性を下記の基準に則り目視にて評価した。(3:極めて良好、2:良好、1:不良)
【0172】
〔吐出性の評価〕
インク組成物をインクジェットプリンタ(PX−G930(商品名)、エプソン(株)製)のカートリッジに詰め、インクジェットペーパー(写真用紙<光沢>エプソン(株)製)にベタ画像(反射濃度が1.0)を全面に印字して、白スジの発生数を計測し、下記の基準に則り吐出性の評価を行った。
【0173】
3:印字面全体で全く未印字部である白スジが発生していない
2:僅かに白スジの発生は認められるが、実用上許容範囲にある
1:印字面全体に亘り白スジが多発し、実用上不可の品質である
評価結果を下表7に示す。
【0174】
[表7]
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
インク組成物 インク組成物の透明性 印画部の透明性 インクの吐出性
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
実施例15 3 2 3
比較例9 1 1 1
比較例10 1 2 1
比較例11 1 1 1
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
【0175】
表7から分かるように、本発明のインク組成物(記録液)、及び該インク組成物を用いた印画物は非常に高い透明性を有し、また吐出性、耐光性に優れることがわかる。
【0176】
(実施例19、比較例12〜14)
〔顔料ペーストの作製〕
前記実施例1において顔料分散体Aを調製する途中に得た顔料粉体bに対して、中和に必要な量のテトラメチルヒドロキシドを少量添加し、新日本石油(株)製の5号ソルベント(以下、溶剤と表記する)を少量加え、スーパーミキサーARE−250((商品名)シンキー(株)社製)で混練した後、顔料ペーストaを得た。
【0177】
前記分散体U〜Wに塩酸を滴下してpHを3.5に調整し、顔料の分散体から顔料粒子を凝集させた。得られた凝集物を平均孔径0.2μmのメンブレンフィルターを用いて減圧濾過し、イオン交換水で2回水洗し、脱塩及び脱溶剤された顔料粒子の分散体を得た。それらの顔料粉体に中和に必要な量のテトラメチルヒドロキシドを少量添加し、新日本石油(株)製の5号ソルベント(以下、溶剤と表記する)を少量加え、スーパーミキサーARE−250((商品名)シンキー(株)社製)で混練した後、顔料ペーストb〜dを得た。
【0178】
(樹脂ワニスの作製)
ロジン変性フェノール樹脂(日立化成ポリマー(株)製、テスポール1355)をアマニ油と5号ソルベントの混合溶剤中に加熱溶解し、樹脂ワニスA(樹脂濃度55質量%)を得た。また、ロジン変性フェノール樹脂(日立化成ポリマー(株)製、テスポール1304(商品名))をアマニ油と5号ソルベントの混合溶剤中に加熱溶解し、樹脂ワニスB(樹脂濃度55質量%)を得た。
【0179】
(顔料分散用樹脂の作製)
冷却管、水分分離管、温度計、窒素導入管を備えたセパラブルフラスコに12−ヒドロキシステアリン酸100部、キシレン10部、テトラ−n−ブチルチタネート0.1部の混合物を入れ、180〜200℃で6時間加熱撹拌した。このとき窒素気流下に生成する水を水分分離管に分離しながら行った。次いでキシレンを減圧留去して質量平均分子量4,000、酸価30の淡褐色重合物であるカルボキシル基を有するポリエステル樹脂(以下、顔料分散用樹脂と表記する)を得た。
【0180】
(インク組成物)
以下に示す処方によりインクベース1〜3を作製した。なお、最初に顔料ペーストa〜dにそれぞれ溶剤を加え超音波処理を十分に行った後に他の成分を加え攪拌し、3本ロールにて練肉を行った。
【0181】
[表8]
(インクベースの処方) 単位(質量部)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
成分 ベース1 ベース2 ベース3 ベース4
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
顔料ペーストa 40
顔料ペーストb 40
顔料ペーストc 40
顔料ペーストd 40
顔料分散用樹脂 8 8 8 8
樹脂ワニスA 42 42 42 42
溶剤 10 10 10 10
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
【0182】
これを用いて以下の配合によりインク組成物2−1〜2−4を調製した。なお、インクベース1がインク組成物2−1に、同様にインクベース2〜4がインク組成物2−2〜2−4に対応する。
【0183】
(インクの処方)
−−−−−−−−−−−−−−−−−
成分 部
−−−−−−−−−−−−−−−−−
インクベース 40
樹脂ワニスB 50
ワックス 5
溶剤 5
−−−−−−−−−−−−−−−−−
【0184】
上記の処方において、ワックスとしては、シャムロック社製のポリエチレンワックスコンパウンドを用いた。樹脂ワニスBは、ロジン変性フェノール樹脂(日立化成ポリマー(株)製、テスポール1304(商品名))とアマニ油と前記溶剤とを混合し、過熱溶解したもの(樹脂濃度55質量%)を用いた。
【0185】
またインク組成物調製の際には溶剤を上記インクベースに加え、十分に超音波処理をした後に他の成分を加え攪拌し、最終的に顔料分15%になるように溶剤をさらに加え、インク組成物を調製した。
【0186】
〔透明性の評価〕
インク組成物2−1〜2−4を厚さ60μmのポリエチレンテレフタレート(PET)シート上にバーコーターで塗工し、乾燥させた後、透明性を目視で評価した。
2:良好
1:不良
【0187】
〔耐光性の評価〕
インク組成物2−1〜2−4をPremium Glossy Photo Paper((商品名)セイコーエプソン社製)にバーコーターで塗工し、乾燥させた後、初期反射濃度(I)を測定した。その後キセノンランプを照度170,000ルクスで4日間照射し、再び反射濃度(I)を測定した。I/I(%)の比を計算し以下のごとく評価した。
【0188】
3:95%〜100%
2:90%以上〜95%未満
1:90%未満
【0189】
各評価結果を表9に示す。
【0190】
[表9]
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
透明性 耐光性
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
インク組成物2−1(実施例19) 2 3
インク組成物2−2(比較例12) 1 2
インク組成物2−3(比較例13) 1 2
インク組成物2−4(比較例14) 1 1
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
【0191】
表9から分かるように本発明のインク組成物(記録液)を用いた印画物は高濃度であっても透明性に優れ、且つ耐光性に優れる。
【0192】
上記の結果より、本発明の分散体は、そこに含まれる水不溶性色材の粒子がナノメートルサイズにまで微細化されており、さらにその凝集が抑えられ良好な分散性が維持される。さらに本発明の製造方法によれば上記の優れた特性を有する分散体を効率良くかつ純度良く製造することができる。さらに本発明の記録液及びこれを用いた印画物は非常に高い透明性を有し、また粒径が小さく吐出性に優れるのでインクジェト記録方式等、印画物の濃淡をインクの打滴量で調整する場合のインクとして好適に用いることができる。本発明の分散体から作製したインク組成物は透明性かつ耐光性に優れることにより精度および品質の高い記録液、画像形成方法、画像形成装置を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種の水不溶性色材の微粒子を、下記一般式(I)で表される構成単位を有する高分子化合物または界面活性剤とともに、水を含む媒体に分散させた水不溶性色材分散体。
【化1】

[式中、Rは水素原子または置換基を表す。R〜Rのうちの1つはWと結合する単結合を表し、それ以外のものはそれぞれ独立に水素原子または置換基を表す。Qは、炭素原子とともに環を形成するのに必要な原子群を表す。Jは−CO−、−COO−、−CONR−、−OCO−、メチレン基、フェニレン基、または−CCO−基を表す。Rは水素原子、アルキル基、アリール基、またはアラルキル基を表す。Wは単結合または2価の連結基を表す。]
【請求項2】
前記高分子化合物または界面活性剤が、さらに、親水性部位として少なくとも1種類以上の酸基をもつ構成単位を有することを特徴とする請求項1に記載の水不溶性色材分散体。
【請求項3】
前記酸基が、カルボン酸基、スルホン酸基、水酸基、及びリン酸基からなる群より選ばれることを特徴とする請求項2に記載の水不溶性色材分散体。
【請求項4】
前記一般式(I)が下記一般式(II)であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の水不溶性色材分散体。
【化2】

[式中、R〜R10はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表す。R〜R、JおよびWは前記一般式(1)におけるR〜R、JおよびWと同義である。]
【請求項5】
前記一般式(I)が下記一般式(III)であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の水不溶性色材分散体。
【化3】

[式中、Qは、炭素原子および窒素原子とともに環を形成するのに必要な原子群を表す。R11はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表す。R11が置換基を表す場合、Qを構成する原子群とさらに結合し、縮環を形成してもよい。R〜R、JおよびWは前記一般式(1)におけるR〜R、JおよびWと同義である。]
【請求項6】
前記一般式(III)が下記一般式(IV)または(V)であることを特徴とする請求項5に記載の水不溶性色材分散体。
【化4】

[式中、R12、R13、R14、R15およびR16はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表す。R〜R、JおよびWは前記一般式(1)におけるR〜R、JおよびWと同義である。]
【請求項7】
前記微粒子の平均粒子径が5〜100nmであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の水不溶性色材分散体。
【請求項8】
前記水不溶性色材が、キナクリドン有機顔料、ジケトピロロピロール有機顔料、モノアゾイエロー有機顔料、縮合アゾ有機顔料、キノフタロン有機顔料、ベンズイミダゾロン有機顔料、及びジスアゾイエロー有機顔料からなる群より選ばれる有機顔料であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の水不溶性色材分散体。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の水不溶性色材分散体を製造する方法であって、
前記水不溶性色材と前記高分子化合物または界面活性剤と塩基とを非プロトン性水溶性有機溶剤に溶解し、該溶解液と水性媒体とを接触させ、前記水不溶性色材の微粒子を生成させ、水を含む媒体中に前記微粒子を分散させた水不溶性色材分散体とすることを特徴とする水不溶性色材分散体の製造方法。
【請求項10】
前記水不溶性色材の分散体を得た後、その微粒子を再分散可能に凝集させた軟凝集体とし、該軟凝集体を前記分散体から分離し、前記分離された軟凝集体の凝集を解き再分散媒体に前記微粒子を再分散させることを特徴とする請求項9に記載の水不溶性色材分散体の製造方法。
【請求項11】
前記再分散前もしくはその後の分散体を加熱処理することを特徴とする請求項9または10に記載の水不溶性色材分散体の製造方法。
【請求項12】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の水不溶性色材分散体を用いて作製される記録液であって、前記水不溶性色材を、記録液全質量の0.1〜20質量%含むことを特徴とする記録液。
【請求項13】
前記記録液がインクジェット用記録液である請求項12に記載の記録液。
【請求項14】
請求項12又は13に記載の記録液を用いたインクセット。
【請求項15】
請求項12又は13に記載の記録液、あるいは請求項14に記載のインクセットを用いて記録液を媒体に付与する手段により画像が記録された印画物であって、前記手段が記録液の付与量もしくは濃度を調整する機能を有し、該手段により印画物の濃淡が調整された印画物。
【請求項16】
請求項12又は13に記載の記録液、あるいは請求項14に記載のインクセットを用いて記録液を媒体に付与することにより、画像を記録する工程を有することを特徴とする画像形成方法。
【請求項17】
請求項12又は13に記載の記録液、あるいは請求項14に記載のインクセットを用いて記録液を媒体に付与することにより、画像を記録させるための手段を有することを特徴とする画像形成装置。

【公開番号】特開2010−196032(P2010−196032A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−129697(P2009−129697)
【出願日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成17年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 ナノテクノロジープログラム「ナノテク・先端部材実用化研究開発」/「有機顔料ナノ結晶の新規製造プロセスの研究開発」委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】