説明

水中構造物を保護する方法

【課題】
特に水中構造物表面に対して、水中生物の付着を防止でき、防汚性、耐久性などに優れた保護塗膜を形成して水中構造物を保護する方法を提供する。
【解決手段】
水中構造物表面に、弾性塗膜を形成した後、該弾性塗膜上に防汚上塗り塗膜を形成する方法であって、該弾性塗膜が、ポリイソプレンポリオール、ポリカプロラクトンポリオール及びポリエーテルポリオールよりなる群から選ばれる少なくとも1種であるポリオールとポリイソシアネートを含有するウレタン系塗料から形成されることを特徴とする水中構造物を保護する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶、港湾施設、ブイ、パイプライン、橋梁、発電所の導水路管、海底基地、海底油田掘削設備、養殖網、定置網などの水中構造物の表面に水中生物が付着生育するのを防止し、該構造物を長期にわたって保護する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
海、河川、湖沼などの水中には、例えばフジツボ、ホヤ、セルプラ、ムラサキイガイ、カラスガイ、フサコケムシ、アオノリ、アオサなどの生物が多数生息しており、このような水中に上記水中構造物が設置もしくは就航すると、その飛沫部から没水部表面に生物が付着生育して種々の被害が発生する。
【0003】
上記水中構造物の生物付着防止方法として、従来は銅化合物又は有機錫化合物などの化学物質を防汚薬剤として塗料中に配合し、それを水中構造物に塗装し、塗膜から水中に徐々に溶出させることにより水中生物の付着を抑制していた。しかしながら、防汚薬剤は無毒ではないので、その低減が求められており、例えば特許文献1には、被膜形成樹脂に特定のオキシアルキレン基含有オルガノポリシロキサンを特定割合で含む防汚塗料を用いる方法が記載されている。該塗料によれば、防汚塗料における防汚薬剤の量を低減させても水中生物の付着が抑制できるが、付着した水中生物が水流によって取れ難くなることがあった。また、特許文献2には、特定のショアー硬度を有する弾性ポリウレタン塗膜を特定の厚さに形成する方法及び該弾性ポリウレタン塗膜の上にシリコーン系防汚塗膜を形成する方法が記載されている。該方法によれば、水中生物の付着を抑制することができ、付着しても容易に除去できるものであるが、ポリウレタン塗膜の弾性が不十分であり、長期間の浸漬により、塗膜の弾性が低下し水中生物が付着し易くなることがあった。また、その時付着した水中生物が水流によって取れ難くなることがあった。
【0004】
【特許文献1】特開平3−20370号公報
【特許文献2】特開平7−26174号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、水中構造物表面に対して、水中生物の付着を防止でき、防汚性、耐久性などに優れた保護塗膜を形成して水中構造物を保護する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記問題点を解決するために鋭意検討した結果、水中構造物表面と防汚上塗り塗膜の間に、特定のウレタン系塗料により形成される弾性塗膜を設けることにより本発明に到達した。即ち本発明は、
1. 水中構造物表面に、弾性塗膜を形成した後、該弾性塗膜上に防汚上塗り塗膜を形成する方法であって、該弾性塗膜が、ポリイソプレンポリオール、ポリカプロラクトンポリオール及びポリエーテルポリオールよりなる群から選ばれる少なくとも1種であるポリオールとポリイソシアネート化合物を含有するウレタン系塗料により形成されることを特徴とする水中構造物を保護する方法、
2. ウレタン系塗料が、シランカップリング剤を含有することを特徴とする1項に記載の方法、
3. ウレタン系塗料の樹脂成分から形成される塗膜が、弾性率が1500mN/mm以下且つ弾性変形率が90%以上であることを特徴とする1項または2項に記載の方法、
4. 防汚上塗り塗膜が、シリコーンゴム及びシリコーンオイルを含有するシリコーン系防汚上塗り塗料により形成される1項ないし3項に記載のいずれか1項に記載の方法、
5. 1項ないし4項のいずれか1項に記載の方法により、水中構造物表面に複層塗膜が形成されてなる塗装体、
に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の方法によれば、特定のウレタン系塗料により設けられる弾性塗膜は、ゴム変形をする性質を有し、例えば水中生物などの接触の際などに大きく変形することができるものであり、水中生物がその変形に追随出来ず、付着しにくい効果を有するものである。また、さらにゴム変形を有する防汚上塗り塗膜を設けることにより、水中生物が付着しにくく水中生物が付着した場合であっても、水流により付着物が取り除かれやすい性質を有するものである。このように本発明方法によれば、水中構造物の表面に対する生物等の異物の付着を抑制でき、付着しても除去することが容易であり、また本発明方法に用いられる弾性塗膜は、基材面及び防汚上塗り塗膜との付着性にも優れることから、水中構造物の表面を長期にわたって保護することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明方法において、水中構造物としては、船舶、パイプライン、橋梁、発電所の導水路管、海底基地、海底油田掘削設備、養殖網、定置網などが挙げられる。
【0009】
本発明方法において、該水中構造物表面としては、上記水中構造物基体に直接又は該基体に旧塗膜が設けられてなる旧塗装面を包含し、さらに、該水中構造物基体又は該基体に旧塗膜が設けられてなる旧塗装面上に、あらかじめ下塗り塗料による下塗り塗膜を設けたものであってもよい。かかる下塗り塗膜としては、ウォッシュプライマー、ジンクエポキシ系ショッププライマー等のプライマー類を塗布して形成させたプライマー塗膜;ビニルタール系、油性サビ止め、塩化ゴム系、エポキシ系等の下塗りプライマー類を塗布して形成した下塗りプライマー塗膜;プライマー及び下塗りプライマーの塗料を塗布して形成させた複層塗膜等が挙げられる。
【0010】
本発明方法においては、下塗り塗膜として、エポキシ系の下塗りプライマー塗膜をあらかじめ設けることが望ましい。
【0011】
本発明方法は、上記水中構造物表面に、弾性塗膜を形成した後、該弾性塗膜上に防汚上塗り塗膜を形成する方法である。以下、該弾性塗膜を形成するためのウレタン系塗料について説明する。
【0012】
本発明方法に用いられるウレタン系塗料は、ポリオール及びポリイソシアネート化合物を含有するものであり、該ポリオールとしては、ポリイソプレンポリオール、ポリカプロラクトンポリオール及びポリエーテルポリオールよりなる群から選ばれる少なくとも1種である。
【0013】
上記ポリエーテルポリオールの具体例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ビスフェノールAポリエチレングリコールエーテル、ビスフェノールAポリプロピレングリコールエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、グリセリンにポリプロピレングリコールを付加したトリオール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、デカメチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリヘキサメチレングリコール等、これらポリエーテルポリオールにエチレンオキサイド又はプロピレンオキサイドを付加した化合物等が挙げられる。
【0014】
上記ポリオールは、塗膜の弾性、強靭さの点から、重量平均分子量が、500〜20,000、好ましくは1,000〜4,000の範囲内であることが望ましい。
【0015】
本明細書において、重量平均分子量は、溶媒としてテトラヒドロフランを使用し、ゲルパーミュエーションクロマトグラフィにより測定した重量平均分子量をポリスチレンの重量平均分子量を基準にして換算したときの値である。
【0016】
また、上記ポリオールの水酸基価としては、20〜300mgKOH/g、好ましくは40〜200mgKOH/gの範囲内であることが望ましい。
【0017】
また、上記ポリオールには、例えば、アクリルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリブタジエンポリオール、水酸基含有エポキシ樹脂、水酸基含有アルキド樹脂等の上記ポリオール以外のポリオール;1,3−ブチレングリコール、オクタンジオール、トリシクロデカンジメチロール、水添ビスフェノールA、シクロヘキサンジメタノールなどの低分子量グリコール類を必要により併用することができる。
【0018】
本発明方法において、形成塗膜の弾性に優れ、水中生物の付着が抑制できることからポリオールとして、ポリイソプレンポリオールが好適である。
【0019】
本発明方法に用いられるウレタン系塗料に硬化剤として用いられるポリイソシアネートとしては、分子中に少なくとも2個のイソシアネート基を含有する化合物が挙げられ、例えば、トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート;1,3−シクロペンタンジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、1,2−シクロヘキサンジイソシアネートなどの脂肪族環式ジイソシアネート;キシリレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート;イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ノルボルナンジイソシアネートメチル等の脂環族ジイソシアネート等が挙げられる。また、これら例示の化合物のビューレット体、ヌレート体、さらにはカプロラクトン等により変性したアダクト体であってもよく、これらは単独でもしくは2種以上併用して用いることができる。これらの中でも脂肪族ジイソシアネートが好適である。
【0020】
上記ポリオールとポリイソシアネートの配合割合は、硬化性及び塗膜の弾性の点から、上記ポリオールのOH基に対してポリイソシアネートのイソシアネート基の比が当量比で0.5〜1.5、好ましくは0.8〜1.2の範囲内になるように配合することが望ましい。
【0021】
また、上記ウレタン系塗料は、水中構造物表面又は後述の防汚上塗り塗膜との付着性を向上させる目的から、シランカップリング剤を含有することが望ましい。かかるシランカップリング剤としては、具体的にはN−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルジメトキシエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン等のアミノ系シランカップリング剤;γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン等のエポキシ系シランカップリング剤等が挙げられる。
【0022】
該シランカップリング剤は、上記ウレタン系塗料の樹脂固形分に対して0.1〜5重量%、好ましくは0.5〜3重量%の範囲内で使用することが好適である。
【0023】
上記ウレタン系塗料は、必要に応じて、フタル酸系の可塑剤;キシレン樹脂、クマロン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂等の改質用樹脂;酸化チタン、酸化鉄、タルク、シリカ、カオリン、マイカ、アルミナ、炭酸カルシウム等の顔料;防腐剤、防カビ剤、防藻剤、抗菌剤、湿潤剤、消泡剤、増粘剤、レベリング剤、顔料分散剤、沈降防止剤、たれ防止剤、艶消し剤、染料、酸化防止剤、界面活性剤、造膜助剤、香料等の添加剤;有機溶剤等を配合することができる。
【0024】
上記ウレタン系塗料は、通常、2液型塗料として提供され、使用直前に混合され塗布に供される。
【0025】
本発明方法において、上記ウレタン系塗料から形成される塗膜は、適度なゴム変形(小さな外力で大きい変形を起こし、外力を除くと急速に殆どもとの形に戻る性質)をすることが可能であり、具体的には該ウレタン系塗料の樹脂成分による塗膜の弾性率が1500mN/mm以下、特に300〜1500mN/mm、さらに特に500〜1200mN/mm且つ弾性変形率が90%以上、特に95%以上とすることができる。
【0026】
該塗膜の弾性率が1500mN/mmを超えると、塗膜が硬くなり、水中生物が付着しやすくなることがあり、他方、弾性変形率が90%未満では、塗膜が外力による変形後もとに戻りにくい性質になり、水中生物が付着しやすくなることがある。
【0027】
一般に弾性率は、物体が弾性限界内で変化するときの応力とひずみの比を意味し、本明細書においては、20℃、一週間の乾燥条件で作成した乾燥膜厚が100μmのフリー塗膜を試験片として、引っ張り試験機「EZ−TEST」(商品名、SIMADZU社製)を用いて、測定条件を200mm/minで測定した値(mN/mm)とする。
【0028】
また、弾性変形率は、弾性エネルギー(We)と塑性エネルギー(Wr)の和に対する弾性エネルギーの割合であり、本明細書においては、塩化ビニル板に試料を乾燥膜厚が100μmとなるように20℃、1週間の乾燥条件で作成した試験体を、フィッシャー硬度計「FISCHER SCOPE H−100」(商品名、FISCHER社製)を用いて、測定条件を荷重10mN、モード:LOADING+CREEP+UNLOADING+CREEPに設定して測定した値(%)とする。
【0029】
また、上記ウレタン系塗料において、樹脂成分から形成される塗膜の表面張力は、一般に、20dyn/cm以上、特に20〜60dyn/cmの範囲内とすることができる。
【0030】
本明細書において、塗膜の表面張力は、塩化ビニル板に試料を乾燥膜厚が150μmとなるように20℃、1週間の乾燥条件で作成した試験体を用いて、接触角計「FACE」(商品名、協和界面科学株式会社製)を用いて、20℃雰囲気で水およびパラフィンを滴下した時の接触角を測定して、算出した値とする。
【0031】
本発明方法では上記ウレタン系塗料を前記水中構造物表面に刷毛塗り、吹付け塗り、ローラー塗り、浸漬等の公知の手段で塗布して弾性塗膜を形成することができる。形成された弾性塗膜の膜厚は、一般に、乾燥膜厚として25〜500μm、好ましくは75〜300μmの範囲内が適当である。塗膜の乾燥は室温(例えば40℃以下)で行うことができるが、必要に応じて加熱乾燥を行ってもよい。
【0032】
本発明方法は、上記弾性塗膜上に防汚上塗り塗膜を形成する方法である。
【0033】
防汚上塗り塗膜を形成しうる防汚上塗り塗料に含有される樹脂としては、特に制限されるものではなく、例えばアクリル樹脂、アクリルシリコーン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フッ素樹脂、ポリブテン樹脂、シリコーンゴム、ウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、塩化ビニル系共重合樹脂、塩素化オレフィン樹脂、スチレン・ブタジエン共重合樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂、塩化ビニル樹脂、アルキド樹脂、クマロン樹脂、トリアルキルシリルアクリレート(共)重合体(シリル系樹脂)、石油樹脂等の樹脂が挙げられ、水系、有機溶剤系のいずれの樹脂であってもよいが、形成塗膜がゴム変形を有し、水中生物が付着し難いことから、シリコーンゴムが好適である。
【0034】
上記防汚上塗り塗料がシリコーンゴムを含有する場合において、該防汚上塗り塗料が、シリコーンゴムに加えてさらにシリコーンオイルを含有することが望ましい。これにより該シリコーンオイルが徐々に塗膜表層に滲み出し、生物付着を抑制する効果を向上させることができる。
【0035】
シリコーンオイルとしては、従来公知のものが制限なく使用でき、例えばジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、メチルハイドロジエンシリコーンオイル、アルキル変性シリコーンオイル、アルキルアラルキル変性シリコーンオイル、フッ素変性シリコーンオイル、エポキシ変性シリコーンオイル、エポキシポリエーテル変性シリコーンオイル、フェノール変性シリコーンオイル、アクリル変性シリコーンオイル、ポリエーテル変性シリコーンオイル、アルコール変性シリコーンオイル、アミノ変性シリコーンオイル、カルボキシル変性シリコーンオイル、メルカプト変性シリコーンオイルが挙げられる。
シリコーンゴム及びシリコーンオイルの配合割合は、シリコーンゴム100重量部に対して、シリコーンオイルが10〜100重量部、好ましくは30〜80重量部の範囲内であることが望ましい。
【0036】
また、上記防汚上塗り塗料は、水中における生物など異物付着防止効果を向上させるために当該分野にて公知の防汚剤を必要に応じて含有することもできる。
【0037】
該防汚剤としては、例えば、トリフェニルボロン・アミン錯体、テトラフェニルボロン・アンモニウム塩、トリフェニルボロンピリジン塩等のボロン系化合物;ジンクピリチオン、銅ピリチオン等の金属ピリチオン系化合物;ビス(トリフェニルスズ)オキサイド、ビス(トリブチルスズ)オキサイド、トリブチルスズアセテート、トリブチルスズクロライド、トリフェニルスズハイドロオキサイド、トリフェニルスズバーサテート、ビス(トリブチルスズ)α、α´−ジブロムサクシネート等の有機錫系化合物;テトラメチルチウラムジスルファイド等の含窒素硫黄系化合物;ジンクジメチルジチオカーバメート、マンガン−2−エチレンビスジチオカーバメート等の金属ジチオカルバミン酸化合物;2,4,5,6−テトラクロロイソフタロニトリル等のニトリル系化合物;N,N−ジメチルジクロロフェニル尿素等の尿素系化合物、4,5−ジクロロ−2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン等のイソチアゾリン系化合物;2,4,6−トリクロロフェニルマレイミド等のマレイミド系化合物;2−メチルチオ−4−tert−ブチルアミノ−6−シクロプロピルアミノ−s−トリアジン等のトリアジン系化合物、塩基性酢酸銅、亜鉛化銅、チオシアン銅、銅粉末等の銅系防汚剤;ベンゾチアゾール系化合物等が挙げられ、単独でもしくは2種以上併用して使用することができる。
【0038】
上記防汚剤を配合する場合はその配合量は、形成塗膜の耐ワレ性の点から、防汚上塗り塗料の樹脂固形分に対して300重量%以下、好ましくは250重量%以下とすることが適当である。
【0039】
また、上記防汚上塗り塗料は、必要に応じて、フタル酸系の可塑剤;キシレン樹脂、クマロン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂等の改質用樹脂;酸化チタン、酸化鉄、タルク、シリカ、カオリン、マイカ、アルミナ、炭酸カルシウム等の顔料;防腐剤、防カビ剤、防藻剤、抗菌剤、湿潤剤、消泡剤、増粘剤、レベリング剤、顔料分散剤、沈降防止剤、たれ防止剤、艶消し剤、染料、酸化防止剤、界面活性剤、造膜助剤、香料等の添加剤;有機溶剤等を配合することができる。
【0040】
本発明方法において上記防汚上塗り塗膜は、形成塗膜がゴム変形をすることができ、具体的には防汚上塗り塗料から形成される塗膜の弾性率が1500mN/mm以下且つ弾性変形率が90%以上とすることができる。
【0041】
該防汚上塗り塗膜の弾性率の好ましい範囲としては、1000mN/mm以下、さらには800mN/mm以下を挙げることができ、弾性変形率の好ましい範囲としては、95%以上を挙げることができる。
【0042】
また、該防汚上塗り塗膜の表面張力としては、30dyn/cm以下、好ましくは5〜25dyn/cm、さらに好ましくは10以上且つ20dyn/cm以下の範囲内とすることができる。
【0043】
上記防汚上塗り塗料は、刷毛塗り、吹付け塗り、ローラー塗り、浸漬等の公知の手段で塗布することができる。その塗布量は、一般的に、乾燥膜厚として25〜500μm、好ましくは75〜300μmの範囲内が適当である。塗膜の乾燥は室温(例えば40℃以下)で行うことができるが、必要に応じて加熱乾燥を行ってもよい。
【実施例】
【0044】
つぎに、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0045】
ウレタン系塗料の製造
製造例1〜6及び比較製造例1
表1の配合組成に基づき、表1のベース塗料を均一化するまで混合攪拌し、各ベース塗料を作成した。つぎに、表1の組成に準じて各ベース塗料に各イソシアネート化合物を塗装の直前に混合、攪拌し、均一化し、ウレタン系塗料を調製した。表1には各ウレタン系塗料による塗膜のショアー硬度を併記した。ショアー硬度は、各ウレタン系塗料を乾燥膜厚が1000μmとなるようにフリー塗膜を作成し、デュラメータにて測定した値を示した。また、各ウレタン系塗料の樹脂成分によるクリヤー塗膜の弾性率、弾性変形率及び表面張力を表1に併記した。弾性率、弾性変形率及び表面張力は、明細書中の記載に準じて測定した。
【0046】
【表1】

【0047】
(注1)「Poly ip」:商品名、出光石油化学(株)社製、ポリイソプレンジオール、重量平均分子量2500、水酸基価46.6
(注2)「L220AL」:商品名、ダイセル化学(株)社製、ポリカプロラクトンジオール、重量平均分子量2000、水酸基価53〜59
(注3)「CM211」:商品名、旭電化(株)社製、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、水酸基価100
(注4)「Y−403」:商品名、伊藤製油(株)社製、ポリブタジエンジオール、分子量600〜700、水酸基価150〜170
(注5)「R−45HT」:商品名、出光石油化学(株)社製、ポリブタジエンポリオール、分子量2800、水酸基価46.6
(注6)「SH6040」:商品名、東レダウコーニング(株)社製、エポキシ系シランカップリング剤
(注7)「レタン6000硬化剤」:商品名、関西ペイント社製、ヘキサメチレンジイソシアネート系イソシアヌレート、有効成分50%、イソシアネート含量11.3%
(注8)「E−402−90T」:商品名、旭化成ケミカルズ(株)社製、カプロラクトン変性ヘキサメチレンジイソシアネート系硬化剤、有効成分90%、イソシアネート含量8.5%。
【0048】
実施例1〜6及び比較例1
試験塗板の作成
10cm×30cmのサンドブラスト板にエポキシ系防食塗料を乾燥膜厚が300μmとなるように塗装して試験塗板とし、上記製造例で得られた各ウレタン系塗料をエアスプレーを用いて乾燥塗膜膜厚が200μmになるように塗装し、20℃で1日乾燥させて、ポリウレタン弾性塗膜を形成した。次いで該弾性塗膜上に、「バイオックスL」(関西ペイント社製、シリコーンゴム、シリコーンオイル及びシリカ含有防汚塗料)を乾燥塗膜が100μmになるようにハケ塗り塗装し、20℃で7日以上乾燥することで浸漬試験用の試験板を得た。尚、防汚上塗り塗料として使用した、「バイオックスL」の弾性率、弾性変形率、表面張力を明細書記載の方法に準じて測定したところ、弾性率が800mN/mm、弾性変形率が98%、表面張力が16dyn/cmであった。
【0049】
性能評価
上記実施例1〜6比較例1で得られた各試験板を用いて、下記性能評価に供した。結果を表2に示す。
【0050】
【表2】

【0051】
浸漬試験
(*1)付着性:表2記載の浸漬期間後の試験塗板の塗膜の剥離面積を目視で観察し、下記基準で評価した。
○:剥離なし、○△:剥離面積が10%未満、△:剥離面積が10%以上且つ30%未満、×:剥離面積が30%以上
(*2)防汚性:表2記載の浸漬期間後の試験板への貝類などの付着面積を目視で観察し、下記基準を目安として10段階で評価した。
10点:付着物がほとんどなし良好、5点:付着物の面積が50%程度、0点:付着物の面積がほぼ100%
(*3)クリーニング性:24ヶ月浸漬後の試験板に付着した付着生物を手で取り除くことができるかどうかを評価した。
○:全て手で容易に除去可能、○△:手で除去可能な付着性物は容易に除去可能であるが、手で除去できない付着生物が少しある、△:手で除去可能な付着性物は除去し難く、また手で除去できない付着生物が少し残る、×:付着生物が全く取れない

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中構造物表面に、弾性塗膜を形成した後、該弾性塗膜上に防汚上塗り塗膜を形成する方法であって、該弾性塗膜が、ポリイソプレンポリオール、ポリカプロラクトンポリオール及びポリエーテルポリオールよりなる群から選ばれる少なくとも1種であるポリオールとポリイソシアネート化合物を含有するウレタン系塗料により形成されることを特徴とする水中構造物を保護する方法。
【請求項2】
ウレタン系塗料が、シランカップリング剤を含有することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ウレタン系塗料の樹脂成分から形成される塗膜が、弾性率が1500mN/mm以下且つ弾性変形率が90%以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
防汚上塗り塗膜が、シリコーンゴム及びシリコーンオイルを含有するシリコーン系防汚上塗り塗料により形成される請求項1ないし3に記載のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の方法により、水中構造物表面に複層塗膜が形成されてなる塗装体。

【公開番号】特開2006−43579(P2006−43579A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−227823(P2004−227823)
【出願日】平成16年8月4日(2004.8.4)
【出願人】(000001409)関西ペイント株式会社 (815)
【Fターム(参考)】