説明

水中移動体の角度計測装置及び水中移動体の角度計測方法

【課題】広域で自己の位置を計測できる広域位置計測システムを提供すること。
【解決手段】本発明の広域位置計測システムは、音響を用いて水中の物体の位置を測定する広域位置計測システムにおいて、極低周波の音波信号を送信することをその特徴とする。この広域位置計測システムは、極低周波の音波信号を送信する発音装置(ピンガーまたはトランスポンダ)1〜3と、AUV10に設けられ、前記各発音装置1〜3から送信されるそれぞれの音波信号を受信するフィルタ付受波器11と、前記フィルタ付受波器11によって受信された音波信号に基づいて、前記AUV10の位置を計測する演算処理部103とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音響を用いて水中の物体の位置を測定する広域位置計測システムに関し、より詳細には、低周波数の音波を用いて水中の物体を測位する広域位置計測システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水中における位置計測システムにおいては、約10km程度の測位範囲で十分であり、その場合には、1つのトランスポンダ(送波器)から送信された音波信号を2つの受波器で受信し、その2つの受波の時間差を用いて、潜水船(水中移動体)の位置を計測していた。
【0003】
従来のシステムとしては、特許文献1に記載の音響標識装置や、特許文献2に記載の音響測位装置などに開示されており、いずれの公報においても3つのトランスポンダが用いられ、それぞれのトランスポンダから周波数の異なる音波(水中音波)が送信されている。このシステムで採用される周波数は、前者の音響標識装置では、500Hz〜2kHz程度の低周波数であり、後者の音響測位装置では、15kHz、16kHz、17kHzである。
【0004】
また、後者の音響測位装置は、深度計を用いて、3つのトランスポンダから同時に得られる2つの位置から一方を特定しており、前者の音響標識装置は、深度の計測について開示していない。
【0005】
水中の音速は1500m/s程度であり、水中では低周波数の音波を用いることによって音波が長距離に伝達されることが知られている。従来のシステムにおいては、例えば、周波数が5kHzの音波を送信した場合、その波長は約30cmであり、2つの受波器が10cm程度離れていることで、2つの受信波の位相差を検出することができ、それによってトランスポンダと潜水船の進行方向との角度を計算することができていた。
【0006】
【特許文献1】特開平05−319376号公報
【特許文献2】特開平05−302974号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記のような従来の音響測位装置などでは、周波数が高いか、あるいは低周波であっても500Hz程度であるので、水中において音波を長距離伝達することができず、このシステムを広域で用いることができないという問題があった。すなわち、水中においては送信する音波の周波数が高ければ高いほど伝搬中の減衰が大きくなり、ノイズの影響を受けやすくなるので、ある程度の距離以上に音波を送信し、それを潜水船で受信することが困難であるという問題があった。
【0008】
特に、深海を探査する自律型無人潜水機(AUV:Autonomous Underwater Vehicle)は、深海において長距離移動する場合も考えられるので、広域で位置計測が可能なシステムの構築が切望される。例えば、AUVに北極海の氷海の下を横断させようとする場合、AUVは数千kmの距離を自律航走しなければならず、位置計測システムとしては少なくとも数千kmの距離を送信し、識別可能な音波を用いる必要がある。
【0009】
また、トランスポンダから送信する送信波として低周波数の音波を用いて広域で潜水船の位置計測を行うためには、個々のトランスポンダを相当の距離離隔して配置しなければならず、そのように配置された場合にあっては、潜水船は、2つのトランスポンダからしか音波を受信できないということも考えられる。このような場合にも、従来の慣性航法装置(INS)を用いて自己の位置を計測しなければならないということも考えられる。
【0010】
さらに、従来の装置よりも低い周波数を用いることにより、各周波数における波長が従来用いられた周波数の場合よりも長くなるため、潜水船に設置される複数の受波器の間隔を広くとらなければ、位相差を検出できないという問題もある。
【0011】
そこで、この発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、従来用いられていたよりも低い周波数の音波を用いることにより、広域で自己の位置を計測できる広域位置計測システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明は、水中における測位法により位置の計測を行う広域位置計測システムにおいて、水中に極低周波の音波信号を送信し、該音波信号を受信することで位置計測を行うことを特徴とする。送信信号に極低周波の音波信号を用いることにより、水中において音波信号が減衰し難くなるから、広域で対象物の位置を計測することができる。ここで、本発明において、極低周波の音波信号とは、20〜300Hzの周波数帯の音波信号である。水中音波はその周波数が低いほど長距離伝搬するという特性を有するため、本発明ではこの特性を位置計測に適用するものである。
【0013】
また、上記課題を解決するために、本発明の広域位置計測システムは、極低周波の音波信号を送信するピンガーまたはトランスポンダを含む発音装置と、水中移動体に設けられ、前記各発音装置から送信されるそれぞれの音波信号を受信する受信手段と、前記受信手段によって受信された音波信号に基づいて、前記水中移動体の位置を計測する位置計測手段とを備えることを特徴とする。
【0014】
この発明によれば、発音装置が極低周波の音波信号を送信し、それを水中移動体の受信手段によって水中移動体で受信し、受信された音波信号に基づいて、水中移動体の位置計測手段により、該水中移動体の位置を計測する。したがって、本発明によって、水中移動体の位置を広域で計測することができる。
【0015】
ここで、前記音波信号は、少なくとも識別信号に基づいて、それ自体がコード化されてもよく、あるいは、前記音波信号が搬送波であり、該搬送波に少なくとも識別信号をのせるために変調されていてもよい。少なくとも識別信号とは、発音装置の識別信号、送信時間などが含まれる。このような識別信号などを用いることによって、どの発音装置から何時送信されたかを特定することができ、その発音装置の位置情報とともに、水中移動体の位置を計測することができる。
【0016】
また、送信時間がコード化されている場合には、発音装置から音波信号が送信される時間が予め決められていないとしても、受信音波信号により送信時間を特定することができ、その受信時間と送信時間の時間差によって該発音装置から水中移動体までの距離を計測することができる。そして、識別信号がコード化されている場合には、それぞれの発音装置から送信される音波の周波数が同一のものであったとしても、それらが重ならない限りにおいて、いずれの発音装置から送信された音波信号であるかを判断することができる。
【0017】
さらに、前記受信手段は、前記各発音装置から送信される音波信号を複数回受信するとともに、前記位置計測手段は、それぞれの音波信号から計測された位置情報データを平均化処理して、現在の位置を計測することとしてもよい。これにより、ノイズの影響を小さくすることができ、より精度の高い位置計測を行うことができる。
【0018】
また、本発明の広域位置計測方法は、発音装置から極低周波の音波信号を送信する段階と、前記発音装置から送信された音波信号を受信する段階と、前記音波信号の伝搬時間に基づいて、前記各発音装置から水中移動体までの距離を演算する段階と、演算された前記それぞれの距離データに基づいて、又は前記それぞれの距離及び前記水中移動体の深度センサから得られる深度データに基づいて、該水中移動体の位置を計測する段階とを有することを特徴とする。
【0019】
さらに、上記広域位置計測方法は、前記それぞれの段階を複数回繰り返し、それぞれの位置計測段階で得られた位置データを平均化処理する段階を更に有してもよい。これらの広域位置計測方法も、上記広域位置計測システムと同様の効果を奏する。
【0020】
また、上記課題を解決するために、本発明の発音装置は、極低周波の音波信号を送信することを特徴とする。そして、前記音波信号は、少なくとも識別信号に基づいて、それ自体がコード化されていてもよく、前記音波信号が搬送波であり、該搬送波に少なくとも識別信号をのせるために変調されてもよい。
【0021】
次に、上記課題を解決するために、本発明の水中移動体の角度計測装置は、極低周波の音波信号を送信する少なくとも1つの発音装置からの音波信号を受信する水中移動体に装備される角度計測装置であって、受信された1番目の音波信号に基づいて、前記発音装置と前記水中移動体との距離を算出する第1の演算手段と、受信された2番目の音波信号に基づいて、前記発音装置と前記水中移動体との距離を算出する第2の演算手段と、前記1番目と2番目の音波信号の受信時刻に基づいて、前記水中移動体の移動距離を計測する移動距離計測手段と、前記第1及び第2の演算手段、並びに移動距離計測手段により得られた3つの距離に基づいて、前記水中移動体の進行方向に対する前記発音装置の位置する角度を算出する角度算出手段とを備えることを特徴とする。
【0022】
この発明によれば、1番目及び2番目の音波信号に基づいてそれぞれ音波信号を受信した位置における発音装置と水中移動体との距離を算出するとともに、この2回の音波信号の受信時刻に基づいて、その間に水中移動体が移動した距離を計測し、これら3つの距離を用いて水中移動体の進行方向に対する発音装置の位置する角度を算出する。
【0023】
したがって、水中移動体と発音装置の作り出す三角形の3辺の距離を用いることによって、水中移動体の進行方向に対する発音装置の位置する角度を算出することができ、水中移動体に備えられた深度センサの出力とこの角度に基づいて水中移動体の位置を計測することができる。また、水中移動体自体の移動距離を用いることにより、音波信号を受信し、位相差から角度を検出するための複数の受波器を必要とすることなく、水中移動体の位置を特定することができる。
【0024】
ここで、前記角度算出手段は、三角形の3辺が既知の場合における余弦定理を用いて前記角度を算出してもよい。
【0025】
また、本発明の水中移動体の角度計測方法は、極低周波の音波信号を送信する少なくとも1つの発音装置からの音波信号を受信する水中移動体と該発音装置との角度を計測する水中移動体の角度計測方法であって、受信された1番目の音波信号に基づいて、前記発音装置と前記水中移動体との距離を算出する段階と、受信された2番目の音波信号に基づいて、前記発音装置と前記水中移動体との距離を算出する段階と、前記1番目と2番目の音波信号の受信時刻に基づいて、前記水中移動体の移動距離を計測する段階と、前記それぞれの段階により得られた3つの距離に基づいて、前記水中移動体の進行方向に対する前記発音装置の位置する角度を算出する段階とを有することを特徴とする。
【0026】
ここで、前記角度算出段階において、三角形の3辺が既知の場合における余弦定理を用いて前記角度が算出されてもよい。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、発音装置の送信周波数として極めて低い周波数を用いるので、水中移動体は、長距離離れた場所においても送信信号を受信できるので、広域で位置を計測できる。また、送信信号に識別信号などをコード化するので、送信周波数が同じであってもそれぞれの発音装置を識別することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、図1〜図7を参照して本発明に係る広域位置計測システムの実施の形態を詳細に説明する。なお、この実施の形態は例示として挙げるものであり、これにより本発明を限定的に解釈すべきではない。
【0029】
(実施の形態1)
図1〜図4を参照して、本発明の第1の実施の形態を説明する。図1は、本発明の実施の形態1における広域位置計測システムの概略的な配置図である。この図1において、広域位置計測システムは、AUV10、3つの発音装置(ピンガーまたはトランスポンダ。以下同様)1、2、及び3から構成され、AUV10は、各発音装置からの信号を受信する1つのフィルタ付受波器11を備える。
【0030】
発音装置1〜3は、海底からおよそ100mの深さに沈めて、あるいは海面からアンカーを降ろして、又は、母線の船底に固定されて配置され、それぞれ異なる周波数を持つ音波(水中音波)を発生して送信するものである。この発音装置1〜3は、設置時に同期をとり、例えば原子時計を用いて、すべてが同時刻に、あるいは必要に応じて所定時間ずらして音波信号を発生するようにされている。同期方法は、周知の海洋音響トモグラフィー技術(海洋音響トモグラフィーは、音波を使って日本の陸地の総面積の約3倍の広さの海の様子を、一瞬のうちに知ることができるCT(断層写真撮影装置)である。)を利用することにより可能である。なお、発音装置1〜3及び後述するAUV10のタイマ部104は、予め同期がとられている。
【0031】
例えば、AUVが北極海を横断する場合を考えると、発音装置は、北極海の周りでそれぞれを適当に離隔して配置される。
【0032】
これらの発音装置から送信される水中音波の周波数は、通常の、あるいは従来用いられていたよりも低いものであり、実際には、50Hz〜200Hz程度の周波数を持つ音波が用いられる。上記海洋音響トモグラフィー技術を用いることにより、水中において、音波の周波数が200Hzでは500km程度、100Hzでは1000km以上の距離を伝達することができる。そして、音波の周波数が50Hzでは、音波は、数千km程度の距離を伝搬可能である。
【0033】
次いで、図2を用いて、AUVにおける位置計測の方法を説明する。図2は、本発明の第1の実施の形態におけるAUV10で受波された音波の処理を示すブロック図である。この図2において、信号処理部100は、受波部101、増幅部102、演算処理部103、及びタイマ部104から構成される。なお、図示していないが、この信号処理部100は、バッテリに接続され、更に表示部などを備えてもよい。そして、タイマ部104は原子時計を含む。
【0034】
また、演算処理部103は、各種処理を実行するためのコンピュータで用いられるアプリケーションプログラムを記憶した記憶部を備え、この記憶部は、各発音装置の座標データ(経度、緯度、及び深度)を予め記憶するとともに、後述の演算処理によって得られた位置情報を随時記憶するためにも用いられる。更に、演算処理部103は、AUV10の深度を計測する深度センサ(図示せず)からの深度情報を受け取り、この情報と演算処理された経度・緯度情報をもとに現在の位置を算出する。
【0035】
図3は、本発明の第1の実施の形態における演算処理部103の機能ブロックを示す図である。この図3において、演算処理部103は、発音装置−水中移動体間距離算出手段1031、3点測位手段1032、深度検出手段1033、及び位置計測手段1034から構成される。本実施の形態において、発音装置−水中移動体間距離算出手段1031が、3つの発音装置1〜3とAUV10との距離を算出し、その算出結果に基づいて、3点測位手段1032が、AUV10の位置を特定し、深度検出手段1033が、AUV10の深度を検出して、特定された位置データを補正する(AUV10が3点を含む平面のいずれの側にあるのかを決定する)。
【0036】
次に、図4を用いて、本発明の動作を説明する。図4は、本発明の第1の実施の形態におけるAUV10の位置計測処理のフローチャートである。3つの発音装置1〜3から音波信号が送信されると(ステップS1)、AUV10は、フィルタ付受波器11で、発音装置1〜3から送信された音波信号を受信する(ステップS2)。このとき、受波器11〜13で受信された音波信号は、受波部101に出力され、増幅部102で増幅されて、演算処理部103に入力される。
【0037】
演算処理部103では、入力された音波信号の搬送波にコード化してのせられ、あるいはコード化された音波自体からコード化情報が抽出される。このコード化された情報は、少なくとも識別信号、送信時刻が含まれる。識別信号情報は、この音波信号がいずれの発音装置から送信されたものかを示し、伝搬中に減衰しあるいはノイズの影響を受けることなどにより受波された音波信号の周波数を誤認しないために用いられ、送信時刻情報が含まれることにより、決まった時間に発音装置から音波信号を発生しなくても、その音波信号の伝搬時間を演算することができる。
【0038】
演算処理部103は、このように搬送波にコード化された情報から得られた送信時刻とタイマ部104内の原子時計の受信時刻との差を伝搬時間とし、水中における音速(約1500m/s)と掛け合わせて、AUV10からそれぞれの発音装置1〜3までの距離(伝搬距離)を算出する(ステップS3)。
【0039】
3つの発音装置1〜3からAUV10までの距離と、図示しない深度センサから得られる深度データに基づいて、演算処理部103は、広域におけるAUV10の現在位置を計測する(ステップS4)。しかしながら、ノイズの影響なども考えられるので、その影響を小さくするために、本発明における広域位置計測システムでは、複数回の演算を基にした平均化処理を行ってもよい。この場合、各回の演算結果は、演算処理部103内の記憶部に一時格納され、すべての位置計測が行われた後、演算処理部103は、演算結果(位置情報)の経度、緯度、及び深度を平均して、現在位置を特定する(ステップS5)。それから、演算処理部103は、特定された現在位置データを記憶部に格納する(ステップS6)。
【0040】
以上のように、本発明の実施の形態1における広域位置計測システムでは、複数の発音装置1〜3から送信する音波信号の周波数として、従来のものより低い、50〜200Hz程度のものを使用し、その音波信号の搬送波に識別信号、及び送信時間の情報をコード化してのせることとした。
【0041】
したがって、送信される音波信号は、数千kmの長距離を伝搬することができるので、AUV10は、従来よりも広域(広範囲)でその音波信号を受信することができ、広域で自己の位置を計測することが可能である。
【0042】
また、本発明の広域位置計測システムでは、搬送波に識別信号などをコード化するので、予め決められた所定の時刻に音波信号を発生しなくても、AUV10の現在位置を計測することができる。
【0043】
なお、本実施の形態では、3つの発音装置1〜3を用いているが、当然ではあるが、4つ以上の発音装置を用いてもよい。
【0044】
(実施の形態2)
図5〜図7を用いて本発明の第2の実施の形態を説明する。図5は、本発明の実施の形態2におけるAUV10の発音装置に対する角度計測装置の概略的な説明図である。この図5において、AUV10が3つ示されているが、破線のものは虚位置を示し、それ以外は、所定時間の経過の前後におけるAUV10の位置を示す。図から分かるように、AUV10は、図の左から右の方向に進行している。
【0045】
発音装置1〜3から送信される音波信号の周波数が50〜200Hzと極めて低いので、複数の受波器で1つの発音装置からの音波信号を適当な位相差をもって受信できない。そのため、本実施の形態では、AUV10が自走することによって1つの受波器を複数の受波器と見立てることにより、AUV10の進行方向に対する発音装置の位置する角度を計測するものである。
【0046】
なお、AUV10の受波された音波信号の処理を示すブロック図は、実施の形態1と同様であるため、この実施の形態においては図示を省略し、必要ならば図2の符号を用いて説明する。図6は、本発明の実施の形態2における演算処理部103の機能ブロックを示す図である。この図6において、演算処理部103は、発音装置1−水中移動体間距離算出手段1035と、水中移動体移動距離検出手段1036と、発音装置2−水中移動体間距離算出手段1037と、発音装置角度計測手段1038とを備える。
【0047】
図5に戻って、AUV10と発音装置1の配置を説明する。発音装置1(及び2)は、一定間隔で音波信号を送信している。そして、AUV10は、最初のAUV10の位置(図において左側の実線)において発音装置1から送信された音波信号をフィルタ付受波器11を介して最初に受信する。このときの伝搬距離は、図においてl2+l4で示される。次に、AUV10は、一定時間経過後、この図の右側の位置において再度発音装置1から音波信号を受信する。このときの伝搬距離は、l3で示される。ここで、AUV10は、上述のINSを備えるので、音波信号を最初に受信してから次に受信するまでの自己の移動距離を計測することができる。この図では、その間のAUV10の移動距離は、l1で示される。また、最初の位置におけるAUV10の進行方向と発音装置1及び2のなす角度は、それぞれα11及びα12であり、次の位置では、それぞれα21及びα22である。
【0048】
第1の実施の形態と同様に、すべての発音装置1,2(図5では2つのみ示す)とAUV10は、同期がとられ(同期クロックが内蔵され)、AUV10の図示しない記憶部には発音装置1,2の地球上における位置情報(経度及び緯度)と深度情報が予め記憶されている。
【0049】
また、音波信号には識別信号、送信周波数、送信時刻などの情報がコード化されている。そのため、AUV10で音波信号が受信された時刻とコード化された送信時刻から発音装置とAUV10との間の距離(図5では、l2+l4とl3)が計算される。AUV10は、音波信号を最初に受信してから次に受信するまでの間に距離l1だけ移動する。この距離とAUV10の移動方向は、AUV10に備えられるINSで計測される。更に、AUV10の深度は、図示しない深度センサによって計測される。
【0050】
本実施の形態における一つの角度計測方法は、図5における2つのAUV10と発音装置1を結ぶ三角形において余弦定理を適用して角度α11を求めることである。すなわち、この方法は、3辺の長さがl1、l2+l4、l3の三角形において、cosα11={l12+(l2+l42−l32}/2*l1*(l2+l4)に既知の3つの距離を代入して、角度α11を算出するものである。但し、角度α11には虚位置が発生するので発音装置2から算出される角度α12を参照し、実位置を特定できる。また、AUV10を変針させることにより実位置を算出することも可能である。
【0051】
次に、図7を用いて、本発明の動作を説明する。図7は、本発明の第2の実施の形態におけるAUV10の進行方向に対する発音装置の位置の角度計測処理のフローチャートである。演算処理部103は、発音装置から送信された1番目の音波信号をフィルタ付受波器11を介して受信すると(ステップS11)、受信した音波信号にコード化された送信時刻を抽出し、受信時刻と比較することにより伝搬時間を算出し、この伝搬時間に基づいて第1の伝搬距離を算出する(ステップS12)。
【0052】
続いて、AUV10が所定時間移動した後、2番目の音波信号を受信し(ステップS13)、同様に第2の伝搬距離を算出する(ステップS14)。このとき、1番目と2番目の音波信号を受信する間の時間をタイマ14によって計測し(ステップS15)、INSを用いて、その間にAUV10が移動した自走距離を算出する(ステップS16)。
【0053】
このようにして求められた3つの距離に基づいて、前述の方法のいずれかを用いることにより、AUV10の進行方向に対する発音装置の角度を算出し(ステップS17)、算出された角度データを図示しない記憶部に格納する(ステップS18)。
【0054】
なお、このようにしてAUV10の進行方向に対する発音装置の角度が算出されると、演算処理部103内の図示しない記憶部に格納された各発音装置の位置情報(経度、緯度及び深度)とこの角度から、AUV10の現在位置を算出することができ、本発明にこのステップを更に追加することとしてもよい。
【0055】
以上のように、本発明の実施の形態2における角度計測装置では、発音装置1,2から送信される音波信号の周波数として、従来のものより低い50〜200Hz程度のものを使用し、その音波信号の搬送波に識別信号、送信周波数、及び送信時間の情報をコード化してのせ、AUV10は、その音波信号を2度受信し、受信した地点における発音装置との距離とその間のAUV10の移動距離を算出することにより、AUV10の進行方向に対する発音装置の角度を計測することとした。
【0056】
したがって、音波信号が低周波の場合でも、AUV10に2つ以上の受波器を設けて送信された音波信号の位相差を計測することなく、AUV10の進行方向に対する発音装置の角度を計測することができる。そして、各発音装置の位置がAUV10の記憶部に予め記憶されている場合には、それらの座標と計測された角度、深度センサによって得られる深度によりAUV10の位置を特定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の実施の形態1における広域位置計測システムの概略的な配置図である。
【図2】本発明の実施の形態1におけるAUVで受波された音波信号の処理を示すブロック図である。
【図3】本発明の実施の形態1における演算処理部の機能ブロックを示す図である。
【図4】本発明の実施の形態1におけるAUVの位置計測処理のフローチャートである。
【図5】本発明の実施の形態2におけるAUVの発音装置に対する角度計測装置の概略的な説明図である。
【図6】本発明の実施の形態2における演算処理部の機能ブロックを示す図である。
【図7】本発明の実施の形態2におけるAUVの進行方向に対する発音装置の位置の角度計測処理のフローチャートである。
【符号の説明】
【0058】
1,2,3 発音装置
10 AUV
11 フィルタ付受波器
101 受波部
102 増幅部
103 演算処理部
104 タイマ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中にて極低周波の音波信号を送信する少なくとも1つの発音装置からの音波信号を受信する水中移動体に装備される角度計測装置であって、
受信された1番目の音波信号に基づいて、前記発音装置と前記水中移動体との距離を算出する第1の演算手段と、
受信された2番目の音波信号に基づいて、前記発音装置と前記水中移動体との距離を算出する第2の演算手段と、
前記1番目と2番目の音波信号の受信時刻に基づいて、前記水中移動体の移動距離を計測する移動距離計測手段と、
前記第1及び第2の演算手段、並びに移動距離計測手段により得られた3つの距離に基づいて、前記水中移動体の進行方向に対する前記発音装置の位置する角度を算出する角度算出手段と、
を備えたことを特徴とする水中移動体の角度計測装置。
【請求項2】
前記角度算出手段は、三角形の3辺が既知の場合における余弦定理を用いて前記角度を算出することを特徴とする請求項1に記載の水中移動体の角度計測装置。
【請求項3】
極低周波の音波信号を送信する少なくとも1つの発音装置からの音波信号を受信する水中移動体と該発音装置との角度を計測する水中移動体の角度計測方法であって、
受信された1番目の音波信号に基づいて、前記発音装置と前記水中移動体との距離を算出する段階と、
受信された2番目の音波信号に基づいて、前記発音装置と前記水中移動体との距離を算出する段階と、
前記1番目と2番目の音波信号の受信時刻に基づいて、前記水中移動体の移動距離を計測する段階と、
前記それぞれの段階により得られた3つの距離に基づいて、前記水中移動体の進行方向に対する前記発音装置の位置する角度を算出する段階と、
を有することを特徴とする水中移動体の角度計測方法。
【請求項4】
前記角度算出段階において、三角形の3辺が既知の場合における余弦定理を用いて前記角度が算出されることを特徴とする請求項3に記載の水中移動体の角度計測方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−119149(P2006−119149A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−356723(P2005−356723)
【出願日】平成17年12月9日(2005.12.9)
【分割の表示】特願2002−216944(P2002−216944)の分割
【原出願日】平成14年7月25日(2002.7.25)
【出願人】(504194878)独立行政法人海洋研究開発機構 (110)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】