説明

水処理プロセス制御装置

【課題】水処理プロセスでの処理水水質の維持と温室効果ガス低減を両立する制御を実施できる水処理プロセス制御装置を提供する。
【解決手段】水処理プロセスの好気槽1に設けた酸化還元電位計4の計測値から好気槽1の被処理水の硝化度を推定する推定部10と、好気槽1の被処理水の硝化度の目標値を設定する目標値設定部12と、好気槽1に空気を送り込むブロワ2と、推定部10で推定された硝化度の推定値が好気槽1の被処理水の硝化度の目標値となるように、ブロワ2の風量を制御する制御部11と、を備えた。そして、好気槽1の被処理水の硝化度の目標値が、第一目標値と前記第一目標値より大きい値の第二目標値の少なくとも二つであって、目標設定部12は、選択する制御モードに応じて、第一目標値あるいは第二目標値を硝化度の目標値とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下水処理場の処理水の水質や温室効果ガス排出量を制御する水処理プロセス制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
環境問題への対応が必須となった昨今、下水処理場においても、公共水域へ放流する処理水の水質向上の他に、温室効果ガス削減への取り組みが推進されている。
【0003】
下水処理場から放出される温室効果ガスには、電力消費に由来するCO2や一酸化二窒素(N2O)がある。水処理過程で放出されるN2Oは、下水処理場全体の温室効果ガスの約9%を占める。したがって、下水処理場では、処理水水質の向上と電力低減に加えて、N2Oガスを低減する運転が求められており、実現できる制御手法の開発が望まれている。
【0004】
処理水水質の向上を低電力で実現することを目的として、様々な制御指標が用いられてきた。一般的な制御指標として、安価な測定器で計測可能な溶存酸素濃度(DO)や酸化還元電位(ORP)がある。DOを制御指標として用いる場合、例えば、好気槽末端のDOを一定以上に保つことで、微生物の活性を維持し、有機物・りん除去や硝化反応を制御する。ORPは嫌気状態の保持に関する制御指標として、一定値以下に管理してりん除去を適正化する目的で使われることが多い。
【0005】
近年、水質をさらに高度に制御する技術開発が進められている。例えば、〔非特許文献1〕に記載のように、嫌気槽、無酸素槽、好気槽のORP値を制御して窒素・りん除去を管理する技術や、〔非特許文献2〕に記載のように、DO計に加えてアンモニア計を用いて硝化を高精度で制御し、電力低減を図る技術が提案されている。
【0006】
水処理過程で放出されるN2Oは、生物反応槽において好気条件下で進行する硝化反応、無酸素条件で進行する脱窒反応の両過程で生成する。このうち、硝化反応は酸素存在下で進行する酸化反応で、まずアンモニア性窒素(以下、NH4-N)が主にアンモニア酸化菌による働きで亜硝酸性窒素(以下、NO2-N)に酸化され、さらに、亜硝酸酸化菌の働きにより硝酸性窒素(以下、NO3-N)にまで酸化される。
【0007】
その反応過程で、NO2-Nの一部がアンモニア酸化菌の働きにより還元される際に副生成物としてN2Oが生成するというメカニズムが考えられている(〔非特許文献3〕参照)。
【0008】
このN2Oは溶存態として生成するが、好気槽では曝気気泡のパージにより大気中に放出される。このメカニズムから、NO2-Nが蓄積しやすいとN2Oガス放出量は増加する傾向があり、処理水のNO2-N濃度と処理場から排出されるN2Oガス量には相関関係がある。
【0009】
硝化工程におけるN2Oガス抑制制御技術には、〔特許文献1〕に記載のように、生物反応槽から発生するN2Oガスの濃度を直接測定して、供給する酸素の量を制御する方法がある。この方法では、N2Oガス濃度の上昇に基づき、供給する酸素の量を減少させることで、硝化反応の進行を抑制する。その結果、硝化反応の副生成物として生成する溶存N2OおよびN2Oガスの生成が抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特願2008−271664号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】三木理、加藤敏朗、高橋直哉、村上孝雄:高度処理プロセスのORPを用いた効率的制御手法の開発、学会誌「EICA」、Vol.11、No.2−3、pp.37−40(2006)
【非特許文献2】遠藤和広:アンモニア計とDO計を用いた送風量制御システムの開発、第47回下水道研究発表会講演集、pp.918−920(2010)
【非特許文献3】糸川ほか2名:間欠曝気を行うし尿処理施設における硝化・脱窒過程からの亜酸化窒素の発生と制御、環境工学研究論文集、第32巻、pp.311−319(1995)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
〔非特許文献1〕および〔非特許文献2〕の方法は、処理水の水質を制御するものであり、N2Oガスの生成抑制は考慮されていないという課題があった。〔特許文献1〕の方法では、硝化反応を抑制することでN2Oガスの生成を低減する。すなわち、N2Oガスが増加した際に硝化反応が抑制されるため、処理水の水質の悪化が懸念されるといった課題があった。
【0013】
本発明の目的は、水処理プロセスでの処理水水質の維持と温室効果ガス低減を両立する制御を実施できる水処理プロセス制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、本発明の水処理プロセス制御装置は、
水処理プロセスの被処理水の硝化度を推定する推定部と、前記硝化度の目標値を設定する目標値設定部と、前記水処理プロセスの好気槽に空気を送り込むブロワと、前記硝化度の推定値が前記目標値となるように、前記ブロワの風量を制御する制御部と、を備えた水処理プロセス制御装置において、前記硝化度を推定する手段として酸化還元電位計を備え、推定部の入力情報として少なくとも酸化還元電位を用いることを特徴とする。
【0015】
あるいは、前記目標値が、第一目標値と前記第一目標値より大きい第二目標値の少なくとも二つで、選択する制御モードに応じて、前記第一目標値あるいは前記第二目標値を前記硝化度の目標値とする目標値設定部と、を備えたことを特徴とする。
【0016】
あるいは、流入負荷推定部により推定された前記水処理プロセスへの流入負荷が、前記閾値より大きい場合に前記目標値を前記第一目標値とし、前記流入負荷が前記閾値以下の場合に前記目標値を前記第二目標値とすることを特徴とする。
【0017】
あるいは、前記被処理水の硝化度が前記目標値より大きい場合は、前記硝化度が目標値に近づくように前記ブロワの風量を制御して、前記被処理水の硝化度が前記目標値以下の場合は、あらかじめ設定した制御ルールに基づいて前記ブロワの風量を制御することを特徴とする。
【0018】
あるいは、前記被処理水の硝化度が前記目標値より小さい場合は、前記硝化度が目標値となるように前記ブロワの風量を制御して、前記被処理水の硝化度が前記目標値以上の場合は、あらかじめ設定した制御ルールに基づいて前記ブロワの風量を制御することを特徴とする。
【0019】
あるいは、水処理プロセスの被処理水の硝化度を推定する推定部と、前記硝化度の目標値を設定する目標値設定部と、前記水処理プロセスの好気槽に空気を送り込むブロワと、前記硝化度の推定値が前記目標値となるように、前記ブロワの風量を制御する制御部と、を備えた水処理プロセス制御装置において、前記被処理水の硝化度が前記目標値より大きい場合は、前記硝化度が目標値となるように前記ブロワの風量を制御して、前記被処理水の硝化度が前記目標値以下の場合は、あらかじめ設定した制御ルールに基づいて前記ブロワの風量を制御する制御部と、を備えたことを特徴とする。
【0020】
あるいは、水処理プロセスの被処理水の硝化度を推定する推定部と、前記硝化度の目標値を設定する目標値設定部と、前記水処理プロセスの好気槽に空気を送り込むブロワと、前記硝化度の推定値が前記目標値となるように、前記ブロワの風量を制御する制御部と、を備えた水処理プロセス制御装置において、前記被処理水の硝化度が前記目標値より小さい場合は、前記硝化度が目標値となるように前記ブロワの風量を制御して、前記被処理水の硝化度が前記目標値以上の場合は、あらかじめ設定した制御ルールに基づいて前記ブロワの風量を制御する制御部と、を備えたことを特徴とする。
【0021】
あるいは、前記水処理プロセスの被処理水の硝化度を推定する推定部への入力がアンモニア計であることを特徴とする。
【0022】
あるいは、前記水処理プロセスの被処理水の硝化度を推定する推定部への入力が硝酸計であることを特徴とする。
【0023】
あるいは、前記硝化度から推定された一酸化二窒素量と前記ブロワの消費電力量とを表示する表示部と、を備えたことを特徴とする。
【0024】
あるいは、前記水処理プロセスの被処理水の亜酸化窒素量を取得する亜酸化窒素量取得部と、前記亜酸化窒素濃度から前記一酸化窒素量を推定する一酸化窒素量推定部と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、水処理プロセスでの処理水水質の維持と温室効果ガス低減を両立する制御を実施できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】実施例1の水処理プロセス制御装置の構成図。
【図2】酸化還元電位(ORP)と硝化率の関係を表すグラフ。
【図3】硝化率と平均N2Oガス放出速度の関係を表すグラフ。
【図4】実施例1の表示画面例。
【図5】実施例1の制御による酸化還元電位の時間履歴を表すグラフ。
【図6】実施例2の水処理プロセス制御装置の構成図。
【図7】実施例2の制御フローチャート。
【図8】実施例2の制御による酸化還元電位の時間履歴を表すグラフ。
【図9】実施例3の水処理プロセス制御装置の構成図。
【図10】実施例3の制御フローチャート。
【図11】実施例3の表示画面例。
【図12】実施例3の制御による酸化還元電位の時間履歴を表すグラフ。
【図13】硝化促進モード時のDO制御とORP制御を組み合わせた際の酸化還元電位の時間履歴を表すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の各実施例について図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0028】
図1は、本発明の実施例1である水処理プロセス制御装置の構成図である。本実施例は、標準活性汚泥法に水処理プロセス制御装置を適用した例で、活性汚泥により下水を処理する好気槽1の処理を制御する。
【0029】
好気槽1には、空気を供給するブロワ2と、好気槽1の底部に設置されブロワ2から供給される空気を散気する散気管3と、好気槽1での被処理水の酸化還元電位を計測する酸化還元電位計4が設置されている。好気槽1に下水100が流入し、沈殿池5で固液分離され、上澄み液が処理水101として流出する。
【0030】
酸化還元電位計4に接続された推定部10は、酸化還元電位計4における計測値を取得し、硝化度を演算する。制御部11では、推定部10より推定された硝化度が、目標値設定部12で設定された目標硝化度となるように、ブロワ2を制御する。表示部13では、酸化還元電位計4の計測値とそれに対応する硝化度と、目標値設定部12で設定した目標硝化度とそれに対応する酸化還元電位値を表示する。
【0031】
本実施例では、硝化の進行を表す指標として硝化率を用いた。硝化率は、一般的には処理水の硝酸性窒素と脱窒により除去される窒素の合計と流入水の全窒素濃度の比率で定義されるが、本実施例では、各好気槽での硝化反応の進行状態を評価するため、好気槽中のNO3-N濃度[mgN/L]とNH4-N濃度[mgN/L]の和に占める、NO3-N濃度の比率を硝化率[%]と定義した。定義式を数1に示す。
【0032】
【数1】

【0033】
他の窒素態成分として、有機性窒素や亜硝酸性窒素などがあるが、ここでは実用的な観点から、主要成分のアンモニア性窒素と硝酸性窒素のみを考慮した。
【0034】
発明者は、この硝化率とORPの関係を実験により見出した。結果を図2に示す。図2示す結果は、好気槽末端での計測値である。図2から分かるように、誤差はあるが、硝化率はORPに対して一意的に決まるとみなすことができ、硝化率をORPにより推定可能と考えられる。
【0035】
ORPはNernstの式によって定義されており、酸化体と還元体の濃度によって算出することができる。算出式を数2に示す。
【0036】
【数2】

【0037】
ここでOxは酸化体物質、Redは還元体物質で、m、nは平衡式における係数を表す。また、Eh[V]:電極電位、E0[V]:標準電極電位、R[J/(K・mol)]:気体定数、T[K]:絶対温度、n[mol]:酸化還元反応において授受される電子数、F[C/mol]:ファラデー定数である。活性汚泥混合液中に含まれる酸化還元物質のうち、硝化反応ではNO3−NがNH4−Nに酸化される反応が主反応で、他の物質の濃度は一定と仮定すると、ORP値は、log([NO3−N]/[NH4−N])の一次式で表される。これより、数1の硝化率[%]は、数3で表される。
【0038】
【数3】

【0039】
ここで、A、Bは硝化率の推定に用いた係数で、ORP[mV]は実測値である。この実験結果では、A=−0.013、B=0.94となり、相関係数0.95とよい近似となった。他の実験では異なる係数値となったが、相関係数は同程度であった。計数値の違いには、活性汚泥菌叢や、水温や、水温等の影響による活性汚泥の活性の違いが影響していると考えられる。これらの影響を考慮した推定式の作成は今後の課題であるが、実用上は、対象とする下水処理場毎に計数値を取得し、処理状況が水温等の影響で大きく変化した際に校正することで対応できる。
【0040】
以上説明したように、好気槽に設置したORP計でその好気槽の硝化率を演算できることが分かった。ここで、硝化率は好気槽末端の値であるが、沈殿池においては硝化が進行しないため、処理水の硝化率と同程度とみなせる。また、好気槽の上流側においても、計測点以降の硝化を考慮した関数などにより同様に処理水の硝化率の推定が可能である。計測点以降の硝化を考慮した関数には、例えば、処理水硝化率=C×計測硝化率+Dなどがある。
【0041】
発明者は、この硝化率と好気槽から大気中に放出されるN2Oガス量の関係を、実験により見出した。結果を図3に示す。ここで、平均N2Oガス放出速度[mgN/(m3・h)]は、単位活性汚泥懸濁液体積から放出されるN2Oガス放出速度で、採取した気体中に含まれるN2Oガス濃度[mgN/m3(gas)]と送気量[m3(gas)/h]と好気槽体積[m3]から算出した。これより、平均N2Oガス放出速度は硝化率に対して極大値を持つ傾向が示された。
【0042】
硝化がある程度以上促進されると、平均N2Oガス放出速度は低減したが、DOが増大した。DOの増大は、酸素を消費するNH4-Nや有機物が生物反応の進行にともない減少したためと考えられる。N2Oの生成は、高いDOで抑制されるとされているが、これはNO3-N、NO2-NからN2Oへの還元反応が低いDOでは局所的に生じることに対して、高いDOでは速やかに酸化反応が進行するため、溶存N2Oが蓄積しない可能性が考えられる。
【0043】
以上の説明のように、活性汚泥処理において、硝化率に対してN2Oガス放出量が極大値を持ち、その硝化率は好気槽のORP計で推定できることが明らかとなり、硝化を適正に制御することで温室効果ガスを低減できることが分かった。
【0044】
下水処理場の運用では、状況に応じて求める水質が異なり、硝化抑制運転とする場合もあれば、硝化促進運転とする場合もある。水質維持とN2Oガス低減を両立するためには、図3の結果から分かるように、硝化抑制時はN2O放出量が大きくなる領域の硝化率より小さな硝化率を目標とし、硝化促進時はN2O放出量が大きくなる領域の硝化率より大きな硝化率を目標とすればよい。
【0045】
表示部13に表示する画面例を図4に示す。この例では、画面の上部に、計測した酸化還元電位値とそれと対応する硝化率が表示される。この例では、画面中の中段には目標値設定部12が表示され、制御モードとして硝化抑制モードと硝化促進モードを選択できる。また、目標酸化還元電位を入力でき、硝化度の目標値として、それに対応する目標硝化率が表示される。あるいは、目標硝化率を入力することで、それに対応する目標酸化還元電位が表示される。
【0046】
このように、処理対象である硝化率の目標値と、計測値である酸化還元電位の目標値を並べて表示することで、処理目標と制御目標を容易に把握でき、適切な運転方法を導出する上での支援情報となる。温室効果ガスとして、ブロワの電力に由来するCO2排出量とN2Oガスを換算したCO2排出量を示した。ブロワの電力に由来するCO2排出量は、ブロワの消費電力に、消費電力に対するCO2排出量の原単位を乗じることで算出できる。
2Oガス排出量は、推定した硝化率を図3に示す関係に適用することで推定でき、CO2排出量は、N2Oの温室効果係数を乗じることで算出できる。
【0047】
図3に示す関係、すなわち平均N2Oガス放出速度は硝化率に対して極大値を持つ傾向は定性的には成立するが、定量的には変動する。N2Oガスの排出量は、処理水のNO2濃度と相関があることから、処理水のNO2濃度を計測して、その計測値から、例えば比例定数や関数形を決めて、N2Oガスの排出量を概算することができる。処理水のNO2濃度は日単位程度では大きく変化しないため、定期的に計測した値を用いても良い。このように、トレードオフの関係にある処理水の硝化率と温室効果ガス排出量の表示は、最適な運転方法を導出する上での支援情報となる。
【0048】
制御部11は、選択したモードの目標値によりブロワ2を制御する。図4は、硝化抑制モードを選択した例で、図5は、硝化抑制モードによる制御状況を表す。
【0049】
第一目標値である第一目標酸化還元電位は、硝化抑制モードにおける目標値、第二目標値である第二目標酸化還元電位は、硝化促進モードにおける目標値であり、硝化促進モードの第二目標酸化還元電位は、硝化抑制モードの第一目標酸化還元電位よりも大きくなる。これらの目標値は、N2Oガス抑制の観点から、図3に示したN2Oガスの放出量が大きくなる領域を避けて設定されることが望ましい。
【0050】
本実施例では、硝化抑制モードが選択されており、実線で示す酸化還元電位の計測値は第一目標酸化還元電位110mV近傍となるように制御されている。すなわち、図4で示したように、硝化率70%近傍となるように制御されている。この制御により、ブロワ風量不足による水質悪化を避けることができ、ブロワ風量過多によるN2Oガスと電力消費由来のCO2の増加を抑制できる。
【0051】
硝化促進モードを選択した場合は、第二目標酸化還元電位近傍となるように制御することで、ブロワ風量不足による水質悪化とN2O増加を避けることができ、ブロワ風量過多による電力由来のCO2の増加を抑制できる。
【0052】
本実施例では、硝化率の推定に酸化還元電位計4を用いたが、アンモニウムイオン濃度を計測するアンモニア計でも良い。この場合、硝化率の演算に処理前の水質が必要となるが、これには流入水の水質の計測値や、既存の値からの推定値を用いても良い。また、硝化度を表す指標としてアンモニウムイオン濃度を直接用いてもよい。アンモニウムイオン濃度は硝化率とは負の相関を持つ。そのため、図3と同様に、N2Oガスが大きくなる領域が存在するため、二つの目標値を用いることで、所望の水質を得つつ、N2Oガスの低減を図れる。
【0053】
本実施例では、硝化率の推定に酸化還元電位計4を用いたが、硝酸イオン濃度を計測する硝酸計でも良い。この場合は、硝化率の演算に処理前の水質が必要となるが、流入水の水質の計測値や、既存の値からの推測値を用いても良い。また、硝化度を表す指標として硝酸イオン濃度を直接用いてもよい。硝酸イオン濃度は硝化率とは正の相関を持つ。そのため、図3と同様に、N2Oガスが大きくなる領域が存在するため、二つの目標値を用いることで、所望の水質を得つつ、N2Oガスの低減を図れる。
【0054】
本実施例では、制御モードを硝化促進と硝化抑制の二つとし、それぞれに対応する制御目標値を示したが、これらは三つ以上でもよい。
【実施例2】
【0055】
図6は本発明の実施例2である水処理プロセス制御装置の構成図である。本実施例では、実施例1の水処理プロセス制御装置の構成図に水処理プロセスへの流入負荷を推定する流入負荷推定部6として流量計を設置している。
【0056】
実施例1と同様に、制御モードは、硝化抑制モードと硝化促進モードの二つで、それぞれに第一目標酸化還元電位と第二目標酸化還元電位の値が割りつけられている。N2Oガスを低減するためには、これらの目標値の間のN2Oガス量が極大となる領域を避けることが望まれる。しかし、ブロワ風量には上限値および下限値があり、流入負荷が小さいため、硝化率、すなわち酸化還元電位を第一目標酸化還元電位に下げられない場合がある。
また、流入負荷が大きいため、酸化還元電位を第二目標酸化還元電位に上げられない場合がある。
【0057】
そこで、本実施例では流入負荷に閾値を設け、流入負荷に応じて制御モードを切り替える。図7に制御フローを、図8に制御時の酸化還元電位の時間変動を示す。
【0058】
ステップ(S1)で、第一目標酸化還元電位および第二目標酸化還元電位に加えて流入負荷の閾値を入力し、ステップ(S2)で、好気槽のORP値を計測し、ステップ(S3)で、流入負荷を計測する。ステップ(S4)で、流入負荷とその閾値を比べ、この流入負荷が閾値より大きい場合は、ステップ(S5−1)で、第一酸化還元電位を目標値とする制御モードとし、閾値以下の場合は、ステップ(S5−2)で、第二酸化還元電位を目標値とする制御モードとする。ステップ(S6)で、得られた目標値でORP制御を実施し、ステップ(S7)で、ブロワ風量を出力する。以上を一制御周期で実施し、再びステップ(S2)で、ORP値を計測する。これにより、一定レベル以上の処理水水質を得つつ、N2Oガスの増大を避けることができる。
【0059】
本実施例では、硝化率の推定に酸化還元電位計4を用いたが、アンモニウムイオン濃度を計測するアンモニア計でも良い。この場合、硝化率の演算に処理前の水質が必要となるが、これには流入水の水質の計測値や、既存の値からの推定値を用いても良い。また、硝化度を表す指標としてアンモニウムイオン濃度を直接用いてもよい。アンモニウムイオン濃度は硝化率とは負の相関を持つ。そのため、図3と同様に、N2Oガスが大きくなる領域が存在するため、二つの目標値を用いることで、所望の水質を得つつ、N2Oガスの低減を図れる。
【0060】
本実施例では、硝化率の推定に酸化還元電位計4を用いたが、硝酸イオン濃度を計測する硝酸計でも良い。この場合は、硝化率の演算に処理前の水質が必要となるが、これには流入水の水質の計測値や、既存の値からの推測値を用いても良い。また、硝化度を表す指標として硝酸イオン濃度を直接用いてもよい。硝酸イオン濃度は硝化率とは正の相関を持つ。そのため、N2Oガスが大きくなる領域は図3と同様に存在するため、二つの目標値を用いることで、所望の水質を得つつ、N2Oガスの低減を図れる。
【0061】
本実施例では、制御モードを硝化促進と硝化抑制の二つとし、それぞれに対応する制御目標値を示したが、これらは三つ以上でもよい。
【実施例3】
【0062】
処理対象となる水質は硝化量のみではないため、水処理プロセスの運用では、DO制御や流量比例制御や流入負荷制御やこれらの組合せを含め、これまでの運用実績に応じた制御方法を用いて運転を実施している。本実施例では、これらの運転方法と組合せた場合について述べる。一例として、あらかじめ設定した制御ルールをDO制御とし、これと硝化制御方式を組合せた制御方式について説明する。
【0063】
図9は、本発明の実施例3である水処理プロセス制御装置の構成図である。本実施例は、実施例1の水処理プロセス制御装置の構成図に、好気槽の溶存酸素濃度を計測するDO計7を設置している。
【0064】
図10は表示部13の表示画面である。本実施例では、硝化抑制モードでDO制御+硝化制御とし、硝化促進モードで硝化制御とした。DO制御では目標DO値とDO下限値を設定できる。
【0065】
図11に制御フローを示す。ステップ(S1)で、第一目標値および第二目標値に加えて硝化抑制モード時の目標DO値と、制御全体におけるDO下限値を入力し、ステップ(S2)で、好気槽のORP値を計測し、ステップ(S3)で、DO値を計測する。ステップ(S4)で、計測したDO値と設定したDO下限値を比較し、計測値が大きければ、ステップ(S5)で、運転モードを確認する。
【0066】
硝化促進モードであれば、ステップ(S7−1)で、第二目標値を酸化還元電位目標値とする。運転モードが硝化抑制モードであれば、ステップ(S6)で、ORP計測値と第一目標値を比較して、第一目標値が大きければ第一目標値を酸化還元電位目標値とする。
そうでなければ、ステップ(S8−2)で、設定した目標DO値をDO目標値として、ステップ(S9−1)で、DO制御を実施し、ステップ(S10)で、ブロワ風量を出力する。DO値がDO下限値以下であれば、ステップ(S8−1)で、DO下限値をDO目標値とし、ステップ(S9−1)で、DO制御を実施する。ステップ(S7−1)、(S7−2)で、酸化還元電位目標値が設定された場合は、ステップ(S9−2)で、ORP制御を実施し、ステップ(S10)で、ブロワ風量を出力する。以上を一制御周期で実施し、再びステップ(S2)で、ORP値を計測する。これにより、これまでの実績をもつ風量制御方法を利用しつつ、N2Oガスの生成を抑制できる。
【0067】
図12は、硝化抑制モードでのDO制御と硝化(ORP)制御の組合せ制御の時間履歴を示す図である。酸化還元電位が第一目標値を上回る場合はORP制御とし、以下となる場合はDO制御となっている。図13は、硝化促進モード時にDO制御と硝化(ORP)制御を組み合わせた際の時間履歴の例で、酸化還元電位が第二目標値を下回る場合はORP制御とし、酸化還元電位が第二目標値以上となる場合はDO制御となっている。いずれの場合も、これまでの制御方法ではN2O発生量が大きくなるおそれがあったが、この領域付近でORP制御に切り替えることで、N2O発生を抑制できる。
【0068】
本実施例では、あらかじめ設定した制御ルールとして、ブロワ風量をDO値で制御する方法を示したが、ブロワ風量一定制御、流入流量比例制御でもよい。また、流入負荷を計測してこれを関数とする制御方法でもよい。また、以上説明した制御方法の組合せでもよい。また、酸化還元電位目標値とORP計測値との差分からブロワ風量の増加減値を求めて、あらかじめ設定した制御ルールで算出したブロワ風量値を増加減してもよい。
【0069】
本実施例では、硝化率の推定に酸化還元電位計4を用いたが、アンモニウムイオン濃度を計測するアンモニア計でも良い。この場合は、硝化率の演算に処理前の水質が必要となるが、これには流入水の水質の計測値や、既存の値からの推定値を用いても良い。また、硝化度を表す指標としてアンモニウムイオン濃度を直接用いてもよい。アンモニウムイオン濃度は硝化率とは負の相関を持つ。そのため、図3と同様に、N2Oガスが大きくなる領域は存在するため、この領域付近でORP制御に切り替えることで、N2Oガスの低減を図れる。
【0070】
本実施例では、硝化率の推定に酸化還元電位計4を用いたが、硝酸イオン濃度を計測する硝酸計でも良い。この場合は、硝化率の演算に処理前の水質が必要となるが、これには流入水の水質の計測値や、既存の値からの推測値を用いても良い。また、硝化度を表す指標として硝酸イオン濃度を直接用いてもよい。硝酸イオン濃度は硝化率とは正の相関を持つ。そのため、図3と同様に、N2Oガスが大きくなる領域は存在するため、二つの目標値を用いることで、所望の水質を得つつ、N2Oガスの低減を図れる。
【0071】
本実施例では、制御モードを硝化促進と硝化抑制の二つとし、それぞれに対応する制御目標値を示したが、これらは三つ以上でもよい。
【符号の説明】
【0072】
1 好気槽
2 ブロワ
3 散気管
4 酸化還元電位計
5 沈殿池
6 流入負荷推定部
7 DO計
10 推定部
11 制御部
12 目標値設定部
13 表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水処理プロセスの好気槽に設けた酸化還元電位計の計測値から好気槽の被処理水の硝化度を推定する推定部と、前記好気槽の被処理水の硝化度の目標値を設定する目標値設定部と、前記好気槽に空気を送り込むブロワと、前記推定部で推定された硝化度の推定値が前記好気槽の被処理水の硝化度の目標値となるように、前記ブロワの風量を制御する制御部と、を備えた水処理プロセス制御装置。
【請求項2】
水処理プロセスの好気槽に設けた酸化還元電位計の計測値から好気槽の被処理水の硝化度を推定する推定部と、前記好気槽の被処理水の硝化度の目標値を設定する目標値設定部と、前記好気槽に空気を送り込むブロワと、前記推定部で推定された硝化度の推定値が前記好気槽の被処理水の硝化度の目標値より大きい場合は、前記好気槽の被処理水の硝化度が前記目標値となるように前記ブロワの風量を制御し、前記好気槽の被処理水の硝化度が前記目標値以下の場合は、あらかじめ設定した制御ルールに基づいて前記ブロワの風量を制御する制御部と、を備えたことを特徴とする水処理プロセス制御装置。
【請求項3】
水処理プロセスの好気槽に設けた酸化還元電位計の計測値から好気槽の被処理水の硝化度を推定する推定部と、前記好気槽の被処理水の硝化度の目標値を設定する目標値設定部と、前記好気槽に空気を送り込むブロワと、前記推定部で推定された硝化度の推定値が前記好気槽の被処理水の硝化度の目標値より小さい場合は、前記硝化度が目標値となるように前記ブロワの風量を制御して、前記被処理水の硝化度が前記目標値以上の場合は、あらかじめ設定した制御ルールに基づいて前記ブロワの風量を制御する制御部と、を備えたことを特徴とする水処理プロセス制御装置。
【請求項4】
前記被処理水の硝化度の目標値と、前記被処理水の硝化度の目標値に対応する前記酸化還元電位計の酸化還元電位値を表示する表示部を備えたことを特徴とする請求項1から請求項3記載の水処理プロセス制御装置。
【請求項5】
前記酸化還元電位計の計測値と、前記酸化還元電位計の計測値に対応する硝化度を表示する表示部を備えたことを特徴とする請求項1から4に記載の水処理プロセス制御装置。
【請求項6】
前記好気槽の被処理水の硝化度の目標値が、第一目標値と前記第一目標値より大きい値の第二目標値の少なくとも二つであって、前記目標設定部は、選択する制御モードに応じて、前記第一目標値あるいは前記第二目標値を前記硝化度の目標値とすることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の水処理プロセス制御装置。
【請求項7】
前記水処理プロセスへの流入負荷を推定する流入負荷推定部を具備し、前記目標値設定部は、前記流入負荷の閾値を設定し、前記流入負荷が前記閾値より大きい場合には前記第一目標値を前記好気槽の被処理水の硝化度の目標値とし、前記流入負荷が前記閾値以下の場合に前記第二目標値を前記好気槽の被処理水の硝化度の目標値をとすることを特徴とする請求項6記載の水処理プロセス制御装置。
【請求項8】
前記水処理プロセスの好気槽に設けた酸化還元電位計の代わりにアンモニア計を備え、前記推定部が、前記アンモニア計により好気槽の被処理水の硝化度を推定することを特徴とする請求項1から7に記載の水処理プロセス制御装置。
【請求項9】
前記水処理プロセスの好気槽に設けた酸化還元電位計の代わりに硝酸計を備え、前記推定部が、前記硝酸計により好気槽の被処理水の硝化度を推定することを特徴とする請求項1から7に記載の水処理プロセス制御装置。
【請求項10】
前記硝化度から推定された一酸化二窒素量と前記ブロワの消費電力量とを表示する表示部と、を備えたことを特徴とする請求項1から9に記載の水処理プロセス制御装置。
【請求項11】
前記水処理プロセスの被処理水の亜酸化窒素量を取得する亜酸化窒素量取得部と、前記亜酸化窒素濃度から前記一酸化窒素量を推定する一酸化窒素量推定部と、を備えたことを特徴とする請求項1から10に記載の水処理プロセス制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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