説明

水処理方法及び水処理システム

【課題】第1鉄イオンを含有する被処理水の水処理を効果的に行うことができる水処理方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る水処理方法は、被処理水に含有される第1鉄イオンを酸化する第1ステップと、被処理水に担体を付与し、当該担体の表面に酸化後のオキシ水酸化鉄を析出させるとともに、被処理水の流動によってオキシ水酸化鉄を前記担体の表面から剥離する第2ステップと、被処理水に無機凝集剤を注入する第3ステップと、被処理水を急速攪拌する第4ステップと、被処理水を上向流を伴う沈殿池に導入し、当該上向流の経路に配置された複数の傾斜板の間を通過させる第5ステップとを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第1鉄イオンを含む地下水などの被処理水を処理する水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地下水は地表水に比べて多量の鉄分を含有しており、鉄分の多くは第1鉄イオンとして存在している。地下水を水処理する際には、第1鉄イオンを除去する必要があり、そのような方法として例えば、特許文献1に記載のものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−1157号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的に、被処理水から第1鉄イオンを除去するには、被処理水に塩素を注入して第1鉄イオンを酸化させ、水酸化鉄とした後に除去するという方法が採られることが多い。この方法は、酸化速度が速いこと、酸化設備をコンパクトにすることができるという利点があるものの、この方法で形成される水酸化鉄粒子は粗粒・低密化する一方、微細なまま残留する粒子が多いため、凝集沈殿における水酸化鉄粒子の除去率が低いという問題があった。また、沈澱処理に当たって微細粒子の除去率を向上させるため、多量の凝集剤を注入しているため、形成されるフロックは益々粗粒・低密化するという問題があった。そのため、ろ過処理で用いられてきた、細粒・高密なオキシ水酸化鉄を形成することのできる酸化方法を採用しても、凝集処理後のフロックは粗粒・低密化してしまうため、同酸化法が凝集沈澱に適用されることはなかった。更に、沈殿水中に残留する微フロックの数が多く、これに起因してろ過処理水中への微フロックの漏洩量が多くなるだけでなく、砂層のろ材表面を被覆するためマンガンの除去効果が低くなるという問題があった。その結果、ろ過池の洗浄頻度が多くなり、発生汚泥の沈降濃縮率が極めて悪かった。そのため、汚泥処理が困難であり、処理コストの増大も招いていた。
【0005】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、第1鉄イオンを含有する被処理水の水処理を効果的に行うことができる水処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る水処理方法は、被処理水に含有される第1鉄イオンを酸化する第1ステップと、被処理水に担体を付与し、当該担体の表面に酸化後のオキシ水酸化鉄を析出させるとともに、被処理水の流動によってオキシ水酸化鉄を前記担体の表面から剥離する第2ステップと、被処理水に無機凝集剤を注入する第3ステップと、被処理水を急速攪拌する第4ステップと、被処理水を上向流を伴う沈殿池に導入し、当該沈澱池内において、細粒・高密な母フロックを高濃度に集積したスラッジ・ブランケット層と、清澄分離ゾーンに配置された複数段の上向流傾斜板もしくは上向流傾斜管の間を通過させる第5ステップとを備えている。
【0007】
従来は、急速攪拌強度G値を低く、急速攪拌時間T値を短く取り、粒子ならびに微フロックの集塊化を凝集剤粒子の粗粒・低密化の際の付着力のみに依存してきた。その結果、フロックの粗粒・低密化、微細な水酸化鉄粒子及び微フロックの沈澱水中への残留などの問題点の多くは、第3、第4ステップの凝集条件に起因している。問題点の解決は、Me/SS比を低く保ち、攪拌条件を強化することが重要である。
【0008】
上記水処理方法において、第5ステップは、従来の第3、第4ステップで形成されたフロックを自由沈降下に分離する横流沈澱池もしくは粗粒・低密な母フロックを集積するスラッジ・ブランケット型高速凝集沈澱池に替えて、細粒・高密な母フロックを高濃度に集積するスラッジ・ブランケット型高速凝集沈澱池を実現可能としたことを特徴としている。
【0009】
上記水処理方法において、第2ステップでは、被処理水を上向流を伴う水槽内で行うことができる。
【0010】
第2ステップで担体上に析出した細粒・高密なオキシ水酸化鉄を、第3、第4ステップの凝集処理過程ならびに第5ステップの沈澱分離過程において、細粒・高密を保持しつつ微細な凝集微フロックを高度に分離することができる。
【0011】
上記水処理方法において、第4ステップでは、被処理水を2以上の区画に直列に分割され、順次移行し得るように急速攪拌槽を通過させることで行うことができる。
【0012】
第3ステップでは、無機凝集剤中の金属含有量Meと、急速攪拌槽に流入させる被処理水中のSS濃度との比であるMe/SS比が0.1以下であり、更に急速攪拌後の凝集剤粒子の残留量を示す指標であるSTRが2.5以下となるように、無機凝集剤を注入することができる。
【0013】
また、第4ステップにおける急速攪拌強度G値が150s−1以上とし、急速攪拌時間T値は3分以上とすることができる。
【0014】
第5ステップにおける上向流傾斜板は、傾斜板の相互の間隔である取付ピッチが50mm以下とすることができる。
【0015】
また、第5ステップにおける急速攪拌槽出口水に対して10mg/L以下の無機凝集剤を再注入することができる。
【0016】
また、第5ステップにおけるスラッジ・ブランケットの母フロックの濃縮性を示す指標SDI値は、4.0mg/mL以上、好ましくは6.0mg/mL以上とすることができる。
【0017】
また、本発明に係る水処理システムは、被処理水に含有される第1鉄イオンを酸化する酸化手段と、担体が充填され、当該担体の表面に酸化後のオキシ水酸化鉄を析出させるとともに、被処理水の流動によってオキシ水酸化鉄を前記担体の表面から剥離する流動槽と、被処理水に無機凝集剤を注入する無機凝集剤注入手段と、急速攪拌槽と、細粒・高密な母フロックを高濃度に集積したスラッジ・ブランケット層と清澄分離ゾーンとを有し、清澄分離ゾーン内に複数段の上向流傾斜板もしくは上向流傾斜管を設けた沈殿池と、を備えている。
【0018】
上記水処理システムは、前記流動槽には、被処理水を上向させる上向流が流れているものとすることができる。
【0019】
上記水処理システムは、前記急速攪拌槽が2以上の区画に直列に分割され、順次移行し得るように設けられているものとすることができる。
【0020】
上記水処理システムは、前記無機凝集剤注入手段では、前記無機凝集剤中の金属含有量Meと、前記急速攪拌槽に流入させる被処理水中のSS濃度との比であるMe/SS比が0.1以下であり、更に急速攪拌後の凝集剤粒子の残留量を示す指標であるSTRが2.5以下となるように、無機凝集剤が注入されるものとすることができる。
【0021】
上記水処理システムは、前記急速攪拌槽では、急速攪拌強度G値が150s−1以上であり、急速攪拌時間T値は3分以上であるとすることができる。
【0022】
上記水処理システムは、前記上向流傾斜板は、傾斜板の相互の間隔である取付ピッチが50mm以下であるものとすることができる。
【0023】
上記水処理システムは、前記急速攪拌槽出口水に対して10mg/L以下の無機凝集剤を再注入する、注入手段をさらに備えているものとすることができる。
【0024】
上記水処理システムは、前記沈殿池における、スラッジ・ブランケットの母フロックの濃縮性を示す指標SDI値は、4.0mg/mL以上、好ましくは6.0mg/mL以上であるものとすることができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明に係る水処理方法によれば、効果的な水処理が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施形態における水処理システムを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明に係る水処理方法の一実施形態について説明する。図1は、本実施形態に係る水処理方法を実施するシステムの概略構成図である。
【0028】
図1に示すように、このシステムは、第1鉄イオンを含む地下水などの被処理水を処理するものである。ここでは、第1鉄イオンを含有する地下水の水処理について説明する。まず、処理対象となる地下水が流入する流入管1には、空気2が注入される(酸化手段)。これにより、流入管1が連結される第1槽の気液接触槽3においては、第1鉄イオンの酸化が行われる。酸化が行われた被処理水は、第2槽の触媒酸化槽(流動槽)4に導入される。第2槽の触媒酸化槽4には、上向流が形成されており、被処理水は、第2槽の触媒酸化槽4の下方から導入され上方へ向かう。この過程において、第2槽の触媒酸化槽4には、担体5が充填されている。担体は、例えば、比重1以上の砂粒をはじめ、合成樹脂,ガラス等にすることができる。また、単位体積当たりの表面積の大きな球形、または不定形粒子であることが好ましく、上向流によって流動できるようなものであればよい。担体の触媒作用により、酸化されたオキシ水酸化鉄は、担体の表面に析出する。そして、被処理水が上向する過程において、流動下の担体は、相互のせん断作用を受け、その結果、担体表面のオキシ水酸化鉄が剥離する。こうして、剥離したオキシ水酸化鉄を含む被処理水は、第2槽の触媒酸化槽4の上部から排出される。なお、オキシ水酸化鉄は鉄錆びそのものであり、一方水酸化第二鉄は綿状の凝集フロックであり、その密度は大きな違いがある。
【0029】
続いて、この被処理水には、無機凝集剤6が注入され(無機凝集剤注入手段)、その後、第3槽7に導入される。ここで用いられる無機凝集剤としては、例えば、硫酸アルミニウム、鉄と無機アニオンポリマーである重合ケイ酸(シリカ)とを組み合わせた鉄−シリカ無機高分子凝集剤(PSI)、ポリ塩化アルミニウム凝集剤(PAC)などの無機凝集剤などが例示できる。さらに、それら無機凝集剤の使用に加えて、有機性高分子凝集剤を併用することもできる。
【0030】
第3槽7は、急速攪拌槽であり、3つの処理槽(サブ処理槽)から構成されており、それぞれにモータ8で回転する攪拌翼が設けられている。なお、この例では、3つの処理槽を設けているが、2つ、またはそれ以上であることが好ましい。それは、同一の容量、攪拌強度の下では、槽分割数を増すほど微細粒子の数を低減化できるからである。ここでは、無機凝集剤が、急速攪拌槽7に導入される前の原水に注入されているが、急速攪拌槽7に導入後の被処理水に無機凝集剤を注入してもよい。
【0031】
そして、無機凝集剤の注入量を調整した上で、急速攪拌を行うと、被処理水中に存在する懸濁粒子と無機凝集剤中の凝集剤粒子とが衝突し、概ね1〜60μmの所定の粒度分布を有する微フロックが形成される。さらに、本実施形態においては、急速攪拌槽の出口において被処理水中の凝集剤粒子の水中残留量を示すSTRが2.0以下となるように無機凝集剤の注入率と急速攪拌強度を制御する。STRとは、Suction Time Ratio:被処理水と同温・等量の蒸留水を、同一の吸引の程度によって同一のろ紙を吸引させた場合に、被処理水の吸引時間をTsとし、蒸留水の吸引時間をTvとした場合、Ts/Tvによって表現される指標である。
【0032】
ここで無機凝集剤の注入率を上昇すると、高い急速攪拌強度を採用したとしても、急速攪拌後のSTRは高くなってしまい、後段のスラッジ・ブランケット層内で凝集剤粒子は粗粒・低密化してしまう。凝集剤粒子は被処理水中に存在する懸濁粒子の集塊化の際に微フロック中に取込まれて減少するので、無機凝集剤の注入率を可能な限り制限し、急速攪拌強度、急速攪拌時間を高めることによって、STRが2.5以下のより低い値とすることが好ましい。
【0033】
被処理水中に存在する懸濁粒子の除去効果は、次の衝突頻度式で表現されている。
【0034】
dni/dt = α×β×ni×nj (1)
ここで、α:衝突効率、β:衝突頻度、ni:流入粒子数、nj:既存フロック数
流入するi粒子の除去速度は、流入粒子iが既存フロックjと衝突する回数βと衝突の際に付着する割合αによって決まり、4つのファクターの積に比例する。付着は凝集剤粒子が与え、従来は衝突頻度βを向上させるための急速攪拌は行われなかったり、設置されたとしても急速攪拌強度GR値、急速攪拌時間TR値が低くかった。急速攪拌槽内の既存フロック数njの上昇は実質的に期待できないので、従来は凝集剤注入率を高めて付着力、つまり衝突効率αの上昇のみに依存する運転法が取られてきた。そのため、後続のスラッジ・ブランケット母フロックの粗粒・低密化は避けられなかった。そのため細粒・高密なオキシ水酸化鉄を形成させる意義はなく、より手軽な塩素酸化法が採用されるという背景があった。
【0035】
STRの算出方法としては、例えば、試料水500mL及びこれと同温・等量の蒸留水をそれぞれ合計45mmのメンブランろ紙(平均孔径0.45μm、多孔度38%であるADVANTEC社製のろ紙)を装着した吸引装置(具体的には減圧容器、フィルターフォルダー、真空到達度26.7kPaである吸引ポンプを備えた装置)にて吸引する時間をそれぞれT(sec)及びT(sec)とした場合のSTR=T/Tの比率とすることができる。
【0036】
上記のように、STRを2.5以下となるように、無機凝集剤が注入され、急速攪拌が行われると、被処理水中に含まれる微細な懸濁粒子の低減化と同時に、微フロックの集塊化と高密化が達成される。
【0037】
次いで、前記微フロックを含む被処理水を、細粒・高密な母フロックが高度に集積されたスラッジ・ブランケット層に流入させて、急速攪拌過程で形成された細粒・高密な微フロックを母フロックに抑留させる。
【0038】
ここでの母フロックによる微フロックの抑留に関しても、衝突頻度式で説明できる。まずSTRが2.5以上になると、凝集剤粒子はスラッジ・ブランケット層内で粗粒・低密化し、細粒・高密な母フロックを相互に付着させて粗大化させ、母フロック数njを減少させる。この時、母フロックの濃縮性は低下する。
【0039】
急速攪拌過程で形成された細粒・高密な微フロックを母フロックに抑留させ、STRを2.5以下と低く保つと、母フロックは小径ながらも、大きな沈降速度と高い濃縮性を保持することになる。スラッジ・ブランケット層内と急速攪拌過程との相違は、桁違いに高い母フロックが集積されていることである。しかも母フロック相互の間隙は狭小化していることから、周囲を通過する流入微フロックとの間に極めて高い衝突頻度βが与えられ除去率の向上が図られる。
【0040】
つまり衝突頻度式の高濃度の母フロック数njと高い衝突頻度βから、スラッジ・ブランケット層は、高い付着力を必要とすることなく高い衝突効率αを得ることができるという粒子分離特性を有している。その傾向は、流入粒子が径3.0μm以上となるとより高くなる。従って、急速攪拌過程の集塊化が重要な意味を持つ。
【0041】
ところが、STRを2.5以下と低く保つ条件は、母フロックを細粒・高密に維持することを目的としているが、一部の母フロックは流動層内の剪断力によって破壊され、母フロック破片が沈澱水中に流出するようになる。
【0042】
従来、以上のような凝集条件は、沈澱水濁度を高めるとして採用してはならないとされてきた。しかし、元来母フロック破片を含む微フロックは後続のろ過処理では分離されている粒子である。そこで、上向流傾斜板の取付ピッチを狭めてゆくと、傾斜板下端の剪断作用によって、傾斜板抑留面に向かう渦流の形成が確認され、同渦流が輸送する母フロック破片を含む微フロックは、傾斜板抑留面上の既存フロックと衝突し、砂ろ過と同じ分離機構によって高度に分離可能となる。つまり、細粒・高密な微フロックとは、大きな付着力を持たないため、そのような形状と大きな沈降速度を持つ。傾斜板抑留面上の既存フロックと衝突して、徐々に径を増した微フロックは、傾斜板との間の付着力が低いため容易に滑落することができる。その際、下方に抑留された微フロックを巻き込んで、更に径を増すことでより大きな沈降速度を得て、スラッジ・ブランケット層内に回収される。
【0043】
つまり、急速攪拌過程から上向流傾斜板における分離に至るまで、従来採用を避けるべきとされた集塊化における短所を全て長所に変えることによって本発明を考案するに至っている。
【0044】
また、各処理槽において行われる急速攪拌は、急速攪拌強度であるG値を150sec−1以上とすることが好ましい。このときの、急速攪拌時間であるT値は、1分以上にすることが好ましく、3分以上にすることがさらに好ましい。なお、G値は、攪拌係数をC、攪拌翼の面積をA(m2)、攪拌翼の周辺速度をv(m/sec)、動粘性係数をγ(m2/sec)、攪拌槽の体積(容量)をV(m3)とした場合、以下の式で算出される。
【0045】
【数1】

【0046】
一般に、急速攪拌を行う各処理槽において、高密度化された微フロックを得る第一の条件は、低い凝集剤注入率の採用である。同条件において、攪拌強度Gを大きくし、しかも攪拌時間Tを大きくすると、凝集剤粒子は、懸濁粒子及び微フロックの衝突の際に付着を与えながら消費されるので、STRは低下してゆき、微フロックの密度は更に高くなる。ところが、急速攪拌後に、STRが所定の数値を超え、無機凝集剤が多量に残留するような高い凝集剤注入率を採用すると、その後のフロック化工程の段階において、凝集剤粒子の粗粒化、低密度化が避けられないため、急速攪拌で微細化、高密度化した微フロックは、必然的に粗粒化し、かつ低密度化することにならざるを得ない。したがって、STRを2.5以下とすることによって、フロックが粗粒化し、かつ低密度化することを防止することができる。
【0047】
また、この急速攪拌に先立って注入される無機凝集剤については、次のようにすることが好ましい。すなわち、無機凝集剤中の金属含有量Meと、急速攪拌槽に流入させる被処理水中のSS濃度との比であるMe/SS比が0.1以下であり、更に急速攪拌後の凝集剤粒子の残留量を示す指標であるSTRが2.5以下となるように、無機凝集剤を注入することが好ましい。
【0048】
こうして、急速攪拌槽7で処理された被処理水は、スラッジ・ブランケット型の高速凝集沈殿池9に導入される。この沈殿池には上向流が形成され、被処理水は下方から導入されて上方から排出されるようになっている。沈殿池における被処理水の経路の上部の清澄分離ゾーン内には、複数段の傾斜板11が配置されている。傾斜板11の間隔は、例えば、50mm以下にすることが好ましい。上記のように、急速攪拌槽7では、細粒高密化されたフロックが形成されるため、これらは傾斜板11において効果的に除去することができる。なお、高速沈殿池9は、公知の装置形状を概ね踏襲でき、コンセントレータ12,汚泥引き抜き管14、沈殿水流出管13が設けている。しかし、その実態は全く異なる装置と言える。つまり、従来の凝集沈澱処理においては、1)径の大きなフロックの形成を前提としていた:「フロックの沈降速度Vを大きくして、除去率をより良くしようという試みは、できるだけ大きく、沈降速度が大きなフロックを作ろうとするものであり、凝集剤や凝集補助剤の研究、凝集操作の在り方の研究等が行われてきた。」2)径の大きなフロックは剪断力に耐えられないので、攪拌強度には上限がある:「フロック形成の段階では、G値を大きくするとフロックの成長速度は増大するが、一方では、剪断力の増加によってフロックの破壊が起るので、G値を大きくするのは限界がある。」とされてきた。この2つの考え方が従来の凝集沈澱処理の効率が低く、処理コストの上昇要因となっていた。
【0049】
発明者は、凝集処理は被処理水中に含まれる最小懸濁粒子の除去技術であり、その集塊化特性ならびに分離の特性は共に上述の式(1)の衝突頻度式に依存することを確認した。従来の凝集沈澱法は、フロックの破壊が起こるとしてG値を抑えてきたが、同式では衝突頻度βを低く抑えて、凝集剤注入率を高めることで、その付着力に関わる衝突効率αに強く依存した運転法であったと指摘できる。しかも攪拌槽内の既存フロック数njは、集塊化が進行するほど減少し、フロック形成速度(dn/dt)の向上に殆ど寄与しない。
【0050】
ところが、低い凝集剤注入率と高い衝突頻度を与えることのできる凝集条件を採用すると、個々の微フロックは自由沈降下では分離できないが、既存フロックである母フロックを高濃度に集積したスラッジ・ブランケットは、径3.0μm以上の微フロックを97%以上の高率で抑留し、その時形成される細粒・高密な微フロックは、細粒・高密な母フロックを形成し、径の大きなフロックを遥かに上回る大きな群沈降速度と高い濃縮性を有することを見出した。つまり衝突頻度式の既存フロック数及び衝突頻度βを高めることによって、抑留つまり分離効率は飛躍的に向上し、径の大きなフロックを形成することなく沈殿分離を実現できる。
【0051】
なお、この凝集条件は、2以上の区画に直列に分割され、順次移行し得るようにした急速攪拌槽を用いるとともに、Me/SSを0.1以下の低い凝集剤注入率を採用し、G値150s−1以上、T値3分以上で、被処理水中に含まれる最小懸濁粒子数と凝集剤粒子の水中残留量(STR)の低減化を図ることによって達成される。その結果、母フロックの濃縮性を示す指標SDI値は上昇する。
【0052】
この凝集条件では、従来のスラッジ・ブランケット型高速凝集沈澱池の場合、清澄ゾーンは自由沈降による分離であるため、母フロックの破壊に伴って流出する母フロック破片などの沈澱水中への流出により、沈澱水濁度は高くなる。そのため「攪拌強度の上昇はフロックを破壊する」との説明に繋がっていた。また清澄ゾーンには通常傾斜板あるいは傾斜管などが採用されているが、取付ピッチ(傾斜板間の間隔)は広く、分離効果は高くなかった。
【0053】
しかし、従来破壊によって生じ、沈澱水濁度上昇の要因となる母フロック破片は、傾斜板の取付ピッチを狭めると、傾斜板下端の剪断作用により生じる渦流は傾斜板抑留面に向かい、傾斜板上の既抑留微フロックとの間に衝突が生じて、沈澱水中に流出することなく抑留分離されることを、発明者らは見出した。より具体的には、径3.0〜7.0μm微フロックは、自由沈降下では分離できず、取付ピッチ50mmでは除去率9%に過ぎないが、同24mmでは約60%、同11mmでは75%除去可能となる。また径7.0μm以上の微フロックになると、取付ピッチ50mmで除去率50%、同24mm、同11mmでは共に85%以上の高率で除去される。
【0054】
ここでの分離効果は、式(1)の衝突頻度式に従い、また母フロックと流入微フロックとの衝突、抑留と同一の分離機構に基づいている。つまり自由沈降下にフロックを分離するという従来の凝集沈澱方法の考え方に替えて、群沈降速度の大きな母フロックと取付ピッチの狭い傾斜板の2つの接触フロック形成機能を導入した新たな概念の凝集沈澱方法を提供することで、ろ過処理のみで採用されてきた「オキシ水酸化鉄法」の採用を可能とすることができたのである。
【0055】
以上のように本実施形態によれば、被処理水中の第1鉄イオンの効率的な酸化が可能になり、細粒・高密なオキシ酸化鉄を形成することができる。また、細粒・高密なオキシ酸化鉄に対して無機凝集剤をMe/SS比が0.1以下となるように制限して注入した後、急送攪拌しているので、オキシ水酸化鉄を細粒・高密に保ったまま、更に細粒・高密な微フロックを形成することができ、例えば、3.0μm以下のオキシ水酸化鉄粒子数の低減を図ることができる。
【0056】
さらに、高速凝集沈殿池においては、高密な母フロックを高度に集積するようにしたので、母フロックと微フロックとの間に極めて高い衝突頻度を与えることができ、結果として凝集剤注入率を高くする必要がない。よって、微フロックを高率で抑留することかできる。また、高速凝集沈殿池においては、上部の清澄ゾーンに取付ピッチの狭い傾斜板11を設けている。このため、低い凝集剤注入率による母フロックの破壊に伴い流出する母フロック破片を含む各径微フロックを高効率沈殿分離が可能となり、極めて良好な沈殿水を得ることができる。
【0057】
そして、沈殿水中に残留する微フロックの数が少なく、且つ細粒高密であることから、ろ過水中への微フロック漏洩量の低減を実現できる。その結果、ろ過水質は飛躍的に向上し、ろ過池の洗浄頻度を低減することができる。また、スラッジ・ブランケット10の母フロックは高密に維持されるので、発生した汚泥の処理・処分を大幅に軽減することができる。さらに、凝集沈殿処理効率が極めて高いので、沈殿池のコンパクト化と建設コストの低減を図ることができる。また、ろ過池洗浄頻度の低下と発生汚泥の処理・処分の軽減は浄水処理コストの低下につながる。
【実施例】
【0058】
以下、本発明の実施例について説明する。但し、本発明は以下の実施例には限定されない。ここでは、本実施例と、2つの比較例について検討する。
【0059】
【表1】

【0060】
上記表1の比較例1は、水酸化第一鉄の酸化剤に次亜塩素酸ソーダを用いている。従って図1に示す触媒酸化槽4は設置せずに酸化処理を実施した。また、凝集処理過程に従来の低く短い攪拌条件を採用し、Al/SS比として0.3と多量のPACを注入して凝集処理を行った。ところが、懸濁粒子として最小径の0.5〜1.0μm粒子は213000個/mLと多量に残留し、沈澱水濁度は0.24度と高かった。この比較例1では、酸化過程で形成される水酸化第二鉄が既に高い含水率を有しているのみならず、凝集過程で注入された凝集剤粒子は沈澱水STRの3.4が示すように急速攪拌後に残留し、スラッジ・ブランケット層内で粗粒・低密化した。その結果、フロックの濃縮性を示すSDI値は2.21mg/mLと低く、後続のろ過処理ならびに汚泥処理は極めて困難であった。
【0061】
次の比較例2は、水酸化第一鉄の酸化処理に空気を用い、図1の気液接触槽3、触媒酸化槽4によってオキシ水酸化鉄を形成させた。従って、この段階におけるオキシ水酸化鉄の密度は高い。しかしながら、凝集処理過程に槽分割数1、滞留時間1分と従来の低い急速攪拌条件を採用し、Al/SS比として0.2と未だ高いPACを注入して凝集処理を行った。その結果、沈澱水中に0.5〜1.0μm粒子が多数残留し、沈澱水濁度も0.16度と未だ高く、低減化は十分ではない。そのため、沈澱水STRの2.6が示すように急速攪拌後に残留した凝集剤粒子の粗粒・低密化は避けられない。つまり、比較例1に比べるとフロックの濃縮性を示すSDI値は3.82mg/mLと若干高くなるものの、十分とは言えない状況にあることがわかる。以上のように、折角高密度のオキシ水酸化鉄を形成しても、凝集剤粒子の粗粒・低密化はそれを台無しにしてしまう。そのため、後続のろ過処理ならびに汚泥処理の困難さは、比較例1と大きな差異はなかった。
【0062】
これに対して実施例の高効率分離法は、図1のシステムを用い、比較例2と同様水酸化第一鉄の酸化処理に空気を用い、図1の気液接触槽3、触媒酸化槽4においてオキシ水酸化鉄を形成させた。次いで、凝集処理過程に槽分割数3、滞留時間6分と高いGT値の急速攪拌条件ならびにAl/SS比として0.08と低い凝集剤注入率を採用して実験をおこなった。また、スラッジ・ブランケット層の清澄分離ゾーン内に配置された複数段の上向流傾斜板の間を通過させる第5ステップを具備するようにして処理を行った。その結果、まず凝集過程における0.5〜1.0μm粒子数の低減化が進み、沈澱水中の同粒子は86900個/mLに、沈澱水濁度は0.08度へと低下した。また低いAl/SS比を採用した上、沈澱水STRが1.20まで低下しているように、急速攪拌後の凝集剤粒子残留量が減少したので、母フロックの密度は高く保たれ、濃縮性を示すSDI値は6.24mg/mLまで向上した。ところでこのように、急速攪拌後の凝集剤粒子の残留量が減少すると、母フロックが径を維持するための付着力を十分付与できなくなるので、母フロックの破壊によって沈澱水中に母フロック破片が流出するようになるが、傾斜板の相互の間隔である取付ピッチが狭められているので、沈澱水中への母フロック破片の流出を防ぐことができた。その結果、ろ過処理ならびに汚泥処理は大幅に軽減でき、処理コストの削減が図れるようになった。
【符号の説明】
【0063】
3 気液接触槽
4 触媒酸化槽
7 急速攪拌槽
9 高速沈殿池
11 上向流傾斜板



【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理水に含有される第1鉄イオンを酸化する第1ステップと、
被処理水に担体を付与し、当該担体の表面に酸化後のオキシ水酸化鉄を析出させるとともに、被処理水の流動によってオキシ水酸化鉄を前記担体の表面から剥離する第2ステップと、
被処理水に無機凝集剤を注入する第3ステップと、
被処理水を急速攪拌する第4ステップと、
被処理水を上向流を伴う沈殿池に導入し、当該沈澱池内において、細粒・高密な母フロックを高濃度に集積したスラッジ・ブランケット層と、清澄分離ゾーンに配置された複数段の上向流傾斜板もしくは上向流傾斜管の間を通過させる第5ステップと
を備えている,水処理方法。
【請求項2】
前記第2ステップは、被処理水を上向流を伴う水槽内で行われる、請求項1に記載の水処理方法。
【請求項3】
前記第4ステップは、被処理水を2以上の区画に直列に分割された急速攪拌槽を順次移行し得るように通過させることで行われる、請求項1または2に記載の水処理方法。
【請求項4】
前記第3ステップでは、前記無機凝集剤中の金属含有量Meと、前記急速攪拌槽に流入させる被処理水中のSS濃度との比であるMe/SS比が0.1以下であり、更に急速攪拌後の凝集剤粒子の残留量を示す指標であるSTRが2.5以下となるように、前記無機凝集剤が注入される,請求項1から3のいずれかに記載の水処理方法。
【請求項5】
前記第4ステップにおける急速攪拌強度G値は150s−1以上であり、急速攪拌時間T値は3分以上である、請求項1から4のいずれかに記載の水処理方法。
【請求項6】
前記第5ステップにおける上向流傾斜板は、傾斜板の相互の間隔である取付ピッチが50mm以下である、請求項1から5のいずれかに記載の水処理方法。
【請求項7】
前記第5ステップにおける急速攪拌槽出口水に対して10mg/L以下の無機凝集剤を再注入する、請求項1から6のいずれかに記載の水処理方法。
【請求項8】
前記第5ステップにおけるスラッジ・ブランケットの母フロックの濃縮性を示す指標SDI値は、4.0mg/mL以上、好ましくは6.0mg/mL以上である、請求項1から7のいずれかに記載の水処理方法。
【請求項9】
被処理水に含有される第1鉄イオンを酸化する酸化手段と、
担体が充填され、当該担体の表面に酸化後のオキシ水酸化鉄を析出させるとともに、被処理水の流動によってオキシ水酸化鉄を前記担体の表面から剥離する流動槽と、
被処理水に無機凝集剤を注入する無機凝集剤注入手段と、
急速攪拌槽と、
細粒・高密な母フロックを高濃度に集積したスラッジ・ブランケット層と清澄分離ゾーンとを有し、清澄分離ゾーン内に複数段の上向流傾斜板もしくは上向流傾斜管を設けた沈殿池と、
を備えている,水処理システム。
【請求項10】
前記流動槽には、被処理水を上向させる上向流が流れている、請求項9に記載の水処理システム。
【請求項11】
前記急速攪拌槽が2以上の区画に直列に分割され、順次移行し得るように設けられている、請求項9または10に記載の水処理システム。
【請求項12】
前記無機凝集剤注入手段では、前記無機凝集剤中の金属含有量Meと、前記急速攪拌槽に流入させる被処理水中のSS濃度との比であるMe/SS比が0.1以下であり、更に急速攪拌後の凝集剤粒子の残留量を示す指標であるSTRが2.5以下となるように、無機凝集剤が注入される,請求項9から11のいずれかに記載の水処理システム。
【請求項13】
前記急速攪拌槽では、急速攪拌強度G値が150s−1以上であり、急速攪拌時間T値は3分以上である、請求項9から12のいずれかに記載の水処理システム。
【請求項14】
前記上向流傾斜板は、傾斜板の相互の間隔である取付ピッチが50mm以下である、請求項9から13のいずれかに記載の水処理システム。
【請求項15】
前記急速攪拌槽出口水に対して10mg/L以下の無機凝集剤を再注入する、注入手段をさらに備えている、請求項9から14のいずれかに記載の水処理システム。
【請求項16】
前記沈殿池における、スラッジ・ブランケットの母フロックの濃縮性を示す指標SDI値は、4.0mg/mL以上、好ましくは6.0mg/mL以上である、請求項9から15のいずれかに記載の水処理システム。

【図1】
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【公開番号】特開2010−274180(P2010−274180A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−128040(P2009−128040)
【出願日】平成21年5月27日(2009.5.27)
【出願人】(506035692)
【Fターム(参考)】