説明

水処理装置及び水処理方法

【課題】BOD成分と多価無機カチオンを含む被処理水をRO膜分離装置を用いて処理・回収する際、RO膜分離装置内での有機物の膜面付着によるフラックスの低下、バイオファウリングを防止すると共に、RO濃縮水のCOD値を効率的に低減して、RO濃縮水の排水処理等への悪影響を防止する。
【解決手段】被処理水に、生分解性のスケール防止剤を添加すると共に、アルカリを添加してpHを9.5以上に調整してRO膜分離装置4に通水する。RO濃縮水を生物処理する。RO給水のpHを9.5以上にすることによりRO膜分離装置でのバイオファウリングを防止し、非イオン性界面活性剤の膜面付着を防止してフラックスの低下を防止する。スケール防止剤の添加により、高pH条件での炭酸カルシウムスケールによる膜面閉塞を抑制する。生分解性のスケール防止剤を用い、濃縮水中を生物処理することにより濃縮水中のスケール防止剤を生分解してTOCを低減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子デバイス製造工場等から排出される排水等のBOD成分及び多価無機カチオンを含有する被処理水を、逆浸透(RO)膜分離装置を用いて処理・回収する際、RO膜分離装置内での有機物の膜面付着によるフラックスの低下や、バイオファウリングを防止して長期にわたり安定な処理を行うと同時に、水中TOC濃度を効率的に低減して高水質の処理水を得、また、RO膜分離装置の濃縮水をも容易かつ効率的に処理する水処理装置及び水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境基準ないし水質基準は益々厳しくなる傾向にあり、放流水についても高度に浄化することが望まれている。一方で、水不足解消の目的から、各種の排水を回収して再利用するためにも、高度な水処理技術の開発が望まれている。
【0003】
このような状況において、RO膜分離処理は水中の不純物(イオン類、有機物、微粒子など)を効果的に除去することが可能であることから、近年、多くの分野で使用されるようになってきた。例えば、半導体製造プロセスから排出されるアセトン、イソプロピルアルコールなどを含む高濃度TOCあるいは低濃度TOC含有排水を回収して再利用する場合、これをまず生物処理してTOC成分を除去し生物処理水をRO膜処理して浄化する方法が広く採用されている(例えば、特開2002−336886号公報)。
【0004】
しかしながら、近年、生物処理排水をRO膜分離装置に通水した場合、微生物による有機物分解で生成される生物代謝物により、RO膜の膜面が閉塞され、フラックスが低下するという問題が顕在化し始めるようになってきた。
【0005】
一方、生物処理を用いず、これらのTOC含有排水を直接RO膜分離装置に通水した場合には、RO膜分離装置に流入するTOC濃度が高いため、RO膜分離装置内では微生物が繁殖しやすい環境となる。そこでRO膜分離装置内でのバイオファウリングを抑制する目的から、通常はTOC含有排水にスライムコントロール剤を多量に添加することが行われているが、スライムコントロール剤は高価であるため、より安価なバイオファウリング抑制方法が求められている。
【0006】
また、電子デバイス製造工場から排出される排水には、RO膜分離装置の膜面に付着し、フラックスを低下させる恐れのある非イオン性界面活性剤が混入する場合があるため、従来、このような非イオン性界面活性剤含有排水には、RO膜分離処理を適用することはできなかった。
【0007】
このような問題を解決し、電子デバイス製造工場、その他各種の分野から排出される高濃度ないし低濃度有機物含有排水をRO膜分離装置を用いて処理・回収する際、RO膜分離装置内での有機物の膜面付着によるフラックスの低下、バイオファウリングを防止して長期にわたり安定な処理を行うと同時に、水中TOC濃度を効率的に低減して高水質の処理水を得る技術として、本出願人は、先に、有機物含有排水に、該有機物含有排水中のカルシウムイオンの5重量倍以上のスケール防止剤を添加すると共に、スケール防止剤添加の前、後又は同時に有機物含有排水にアルカリを添加してpHを9.5以上に調整し、その後RO分離処理する方法及び装置を提案した(特開2005−169372号公報)。
【0008】
このようにRO膜分離装置に導入する被処理水(以下「RO給水」と称す場合がある。)に所定量のスケール防止剤を添加すると共にpHを9.5以上に調整してRO膜分離装置に通水することにより、次のような作用効果で、RO膜分離装置内での有機物の膜面付着によるフラックスの低下や、バイオファウリングを防止して長期にわたり安定な処理を行うと共に、水中TOC濃度を効率的に低減して高水質の処理水を得ることが可能となる。
【0009】
(1) RO給水のpHを9.5以上に調整することにより、次のような効果が得られる。
微生物はアルカリ性域では生息することができない。そのため、RO給水のpHを9.5以上調整することにより、RO膜分離装置内において、栄養源はあるが微生物が生息できない環境を作り出すことが可能となり、従来のような高価なスライムコントロール剤の添加を必要とすることなく、RO膜分離装置でのバイオファウリングを抑制することができる。
また、フラックスを低下させる恐れのある非イオン性界面活性剤はアルカリ性領域では膜面から脱着することが知られており、RO給水のpHを9.5以上にすることによりRO膜面へのこれらの成分の付着を抑制することが可能となる。
【0010】
(2) RO給水に、RO給水中のカルシウムイオンの5重量倍以上のスケール防止剤を添加することにより、次のような効果が得られる。
電子デバイス製造工場等から排出されるTOC含有排水中には稀にスケールの元となるカルシウムイオンなどの多価無機カチオンが混入する場合がある。RO給水のpHを9.5以上とする高pHのRO運転条件では、極微量の多価無機カチオンの混入でも炭酸カルシウムなどのスケールが生成し、RO膜が直ちに閉塞してしまう。そこで、このようなスケールによる膜面閉塞を抑制する目的から、RO給水に、RO給水中のカルシウムイオンの5重量倍以上のスケール防止剤を添加してスケールの生成を防止する。
【特許文献1】特開2002−336886号公報
【特許文献2】特開2005−169372号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特開2005−169372号公報記載の技術によれば、電子デバイス製造工場、その他各種の分野から排出される高濃度ないし低濃度有機物含有排水、特に非イオン性界面活性剤を含有する排水をRO膜分離装置を用いて処理・回収する際、RO膜分離装置内での有機物の膜面付着によるフラックスの低下、バイオファウリングを防止して長期にわたり安定な処理を行うと同時に、水中TOC濃度を効率的に低減して高水質の処理水を得ることができるが、次のような不具合がある。
【0012】
即ち、特開2005−169372号公報に記載の技術に従って、RO給水にスケール防止剤を添加してRO膜分離処理して得られた濃縮水(以下「RO濃縮水」と称す場合がある。)は、添加されたスケール防止剤が濃縮されることにより、COD成分であるスケール防止剤を多量に含有するものとなる。即ち、スケール防止剤はRO膜を透過しないために濃縮水側に濃縮される。特に、特開2005−169372号公報の技術に従って、RO給水中のカルシウムイオンの5重量倍以上の多量のスケール防止剤を添加してこれをRO膜分離処理して得られるRO濃縮水中には多量のスケール防止剤が含まれるものとなる。
【0013】
通常、RO濃縮水は排水処理工程に移送され、生物処理と凝集沈殿処理を経て放流されるが、一般に、スケール防止剤は凝集沈殿処理並びに生物処理で除去することは困難である上に、スケール防止剤は凝集反応を阻害するものでもある。従って、このように多量のスケール防止剤を含むRO濃縮水が排水処理工程に移送されると、排水処理工程の負荷が増大する上に、放流水中のCOD値を増加させるなど、水質を低減させる恐れがある。
【0014】
従って、本発明は、このRO濃縮水のスケール防止剤を効率的に低減して、RO濃縮水の排水処理等への悪影響を防止する水処理装置及び水処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明(請求項1)の水処理装置は、BOD成分及び多価無機カチオンを含有する被処理水に、該多価無機カチオンのスケール化を抑制する生分解性のスケール防止剤を添加するスケール防止剤添加手段と、該スケール防止剤添加の前、後又は同時に前記被処理水にアルカリを添加して該被処理水のpHを9.5以上に調整するpH調整手段と、該スケール防止剤添加手段及びpH調整手段を経た被処理水を透過水と濃縮水とに分離する逆浸透膜分離手段と、該濃縮水に含有されるBOD成分を処理する生物処理手段とを備えてなることを特徴とする。
【0016】
請求項2の水処理装置は、請求項1において、前記被処理水が前記生物処理手段の処理水の一部であることを特徴とする。
【0017】
請求項3の水処理装置は、請求項1又は2において、前記スケール防止剤添加手段において、前記被処理水に、該被処理水中の多価無機カチオン含有総量の1/10重量倍以上のスケール防止剤を添加することを特徴とする。
【0018】
請求項4の水処理装置は、請求項1ないし3のいずれか1項において、前記逆浸透膜分離装置の逆浸透膜が、1500mg/Lの食塩水を1.47MPa、25℃、pH7の条件で逆浸透膜分離処理した時の塩排除率が95%以上の脱塩性能を有するポリビニルアルコール系の低ファウリング用逆浸透膜であることを特徴とする。
【0019】
請求項5の水処理装置は、請求項1ないし4のいずれか1項において、前記pH調整手段において、前記被処理水のpHを10.5〜12に調整することを特徴とする。
【0020】
請求項6の水処理装置は、請求項1ないし5のいずれか1項において、前記生物処理手段に導入される濃縮水に酸を添加してpH5〜8に調整する手段を有することを特徴とする。
【0021】
本発明(請求項7)の水処理方法は、BOD成分及び多価無機カチオンを含有する被処理水に、該多価無機カチオンのスケール化を抑制する生分解性のスケール防止剤を添加するスケール防止剤添加工程と、該スケール防止剤添加の前、後又は同時に前記被処理水にアルカリを添加して該被処理水のpHを9.5以上に調整するpH調整工程と、該スケール防止剤添加工程及びpH調整工程を経た被処理水を逆浸透膜分離装置に供給して透過水と濃縮水とに分離する逆浸透膜分離工程と、該濃縮水に含有されるBOD成分を処理する生物処理工程とを備えてなることを特徴とする。
【0022】
請求項8の水処理方法は、請求項7において、前記被処理水が前記生物処理工程の処理水の一部であることを特徴とする。
【0023】
請求項9の水処理方法は、請求項7又は8において、前記スケール防止剤添加工程において、前記被処理水に、該被処理水中の多価無機カチオン含有総量の1/10重量倍以上のスケール防止剤を添加することを特徴とする。
【0024】
請求項10の水処理方法は、請求項7ないし9のいずれか1項において、前記逆浸透膜分離装置の逆浸透膜が、1500mg/Lの食塩水を1.47MPa、25℃、pH7の条件で逆浸透膜分離処理した時の塩排除率が95%以上の脱塩性能を有するポリビニルアルコール系の低ファウリング用逆浸透膜であることを特徴とする。
【0025】
請求項11の水処理方法は、請求項7ないし10のいずれか1項において、前記pH調整手段において、前記被処理水のpHを10.5〜12に調整することを特徴とする。
【0026】
請求項12の水処理方法は、請求項7ないし11のいずれか1項において、前記生物処理工程に導入される濃縮水に酸を添加してpH5〜8に調整する工程を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0027】
本発明の水処理装置及び水処理方法水処理装置及び水処理方法によれば、電子デバイス製造工場、その他各種の分野から排出される高濃度ないし低濃度有機物含有排水、特に非イオン性界面活性剤を含有する排水をRO膜分離装置を用いて処理・回収する際、RO膜分離装置内での有機物の膜面付着によるフラックスの低下、バイオファウリングを防止して長期にわたり安定な処理を行うと同時に、水中TOC濃度を効率的に低減して高水質の処理水を得ることができる。しかも、RO濃縮水中のスケール防止剤を含む有機物質をも容易かつ効率的に処理して、後段の排水処理工程への負荷を軽減することができる。
【0028】
即ち、本発明においては、RO給水にスケール防止剤を添加すると共にpHを9.5以上に調整してRO膜分離装置に通水するため、前述の如く、RO膜分離装置でのバイオファウリングを抑制すると共に、スケールによる膜面閉塞を抑制することができる。
【0029】
しかも、本発明においては、スケール防止剤として生分解性のスケール防止剤を用いるため、RO濃縮水中のスケール防止剤を後段の生物処理により分解除去することができる。
【0030】
なお、生分解性のスケール防止剤を用いた場合、それ自体がBOD成分であるためpH中性領域でRO膜分離処理を行う場合、スケール防止剤添加量の増大に伴いRO膜分離装置内でバイオファウリングを引き起こす可能性が非常に高くなるが、本発明では上記記載の如くpH9.5以上のアルカリ領域でRO膜分離処理するため、このような問題は生じない。
【0031】
本発明において、RO濃縮水の生物処理は、別途そのための生物処理装置を設けて行うこともできるが、電子デバイス製造工場、その他各種の分野から排出される排水の生物処理水をRO膜分離装置で処理している場合、そのRO膜分離装置の前段の生物処理系統にこのRO濃縮水を返送して生物処理することが好ましい。即ち、この場合には、RO濃縮水を生物処理して得られる処理水の一部が被処理水としてRO膜分離装置に供給されることになる(請求項2,8)。
【0032】
本発明において、被処理水へのスケール防止剤の添加量が少な過ぎると十分なスケール防止効果を得ることができないことから、被処理水への生分解性のスケール防止剤の添加量は、被処理水中の多価無機カチオン含有総量の1/10重量倍以上とすることが好ましい(請求項3,9)。
なお、本発明において、スケール防止剤の添加量は、当該スケール防止剤がナトリウム塩等の塩である場合も、酸の形で換算した値である。
【0033】
また、本発明においては、特に、RO膜として、1500mg/Lの食塩水を1.47MPa、25℃、pH7の条件でRO膜分離処理した時の塩排除率(以下、単に「塩排除率」と称す。)が95%以上の脱塩性能を有するポリビニルアルコール系の低ファウリング用RO膜を用いてRO膜分離処理することが好ましい(請求項4,10)。このような低ファウリング用RO膜を用いることが好ましい理由は以下の通りである。
【0034】
即ち、上記低ファウリング用RO膜は通常用いられる芳香族ポリアミド膜と比較して、膜表面の荷電性をなくし、親水性を向上させているため、耐汚染性において非常に優れている。しかしながら、非イオン性界面活性剤を多量に含む水に対してはその耐汚染性効果は低減し、経時によりフラックスは低下してしまう。
【0035】
一方、本発明では、RO給水のpHを9.5以上に調整することにより、RO膜フラックスを低下させる恐れのある非イオン性界面活性剤は膜面から脱着するため、通常用いられる芳香族系ポリアミド膜を使用した場合であっても、極端なフラックスの低下を抑制することは可能である。しかし、RO給水中の非イオン性界面活性剤濃度が高い場合にはその効果も低減し、長期的にはフラックスは低下してしまう。
【0036】
そこで、本発明においては、このような問題点を解決するために、好ましくは、上記特定の脱塩性能を有するポリビニルアルコール系の低ファウリング用RO膜と、RO給水のpHを9.5以上として通水する条件とを組み合わせることにより、高濃度の非イオン性界面活性剤を含むRO給水に対してもフラックス低下を起こすことなく長期にわたり安定した運転を行うことを可能とする。
【0037】
本発明においては、より効率的な処理を行うために、次のような条件を採用することが好ましい。
(1) RO給水pHは好ましくは10.5以上、特に10.5〜12とする(請求項5,11)。
(2) スケール防止剤の添加量は多価無機カチオン濃度の1/10〜5倍量とする。
(3) RO給水の多価無機カチオン濃度が高い場合は、スケール防止剤添加の前処理としてカチオン交換処理を行って、多価無機カチオンを除去する。
(4) 生物処理するRO濃縮水に酸を添加してpH5〜8に調整する(請求項6,12)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
以下に図面を参照して本発明の水処理装置及び水処理方法の実施の形態を詳細に説明する。
【0039】
図1は本発明の水処理装置及び水処理方法の実施の形態を示す系統図である。
この実施の形態では、電子デバイス製造工場、その他各種の分野から排出される排水を生物処理槽1で生物処理した後、凝集沈殿槽2で固液分離して得られる処理水の一部が、タンク3を経て原水(BOD成分及び多価無機カチオンを含む被処理水)として、RO膜分離装置4にて処理される。排水の生物処理系では凝集沈殿槽2で固液分離された分離汚泥の一部が余剰汚泥として系外へ排出され、残部が生物処理槽1に返送される。凝集沈殿槽2の分離水のうち、一部が用水として回収再利用するためにタンク3に送給され、残部は系外へ排水される。タンク3の原水は、生分解性のスケール防止剤が添加された後、アルカリが添加されてpH9.5以上とされ、その後RO膜分離装置4に導入されてRO膜分離処理される。
【0040】
本発明において、処理対象原水中に含まれる多価無機カチオンとは、水系で不溶化してスケール化し易いカチオンであり、代表的には2価ないし3価のカチオンであり、例えば、Ca2+、Mg2+、Fe3+、Al3+などのイオンが挙げられる。これらの無機イオンは、水酸化物イオン、炭酸イオン、リン酸イオン、フッ素イオンなどの不溶化し易い対イオンが存在するとスケール化する。
【0041】
このような多価無機カチオンとBOD成分を含む被処理水としては特に制限はないが、例えば液晶工場排水、半導体工場排水等の電子デバイス製造排水、その他の各種の分野の排水や、その生物処理水が挙げられる。
【0042】
被処理水に添加する生分解性のスケール防止剤としては特に制限はなく、例えば、ポリアスパラギン酸、ポリグルタミン酸、ポリアラニン、ポリロイシン、ポリリシン、ポリアルギン酸などを用いることができる。これらの生分解性のスケール防止剤は1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
上記スケール防止剤は微少スケール結晶の表面に付着し、核の成長を抑制することによりRO膜の膜面閉塞を抑制する。即ち、上記薬品は金属イオンと錯体を形成し、スケールの生成を抑制するキレート系スケール防止剤に比べ、少量の添加でスケールの生成を抑制することが可能となる。
【0043】
本発明において、スケール防止剤の添加量は、原水(スケール防止剤が添加される水)中のカルシウムイオン等の多価無機カチオン含有量の1/10重量倍以上とすることが好ましい。スケール防止剤の添加量が原水中の多価無機カチオン含有量の1/10重量倍未満では、スケール防止剤の添加効果を十分に得ることができない。スケール防止剤は過度に多量に添加しても薬剤コストの面で好ましくないことから、原水中の多価無機カチオン含有量の1/10〜5重量倍とすることが好ましい。
【0044】
生分解性のスケール防止剤を添加した原水は、次いでアルカリ剤を添加してpH9.5以上、好ましくは10以上、より好ましくは10.5〜12、例えばpH10.5〜11に調整してRO膜分離装置4に導入する。ここで使用するアルカリ剤としては水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなど、原水のpHを9.5以上に調整できる無機物系アルカリ剤であれば良く、特に限定されない。
【0045】
RO膜分離装置4のRO膜としては耐アルカリ性を有するもの、例えば、ポリエーテルアミド複合膜、ポリビニルアルコール複合膜、芳香族ポリアミド膜などが挙げられるが、好ましくは、前述の理由から、塩排除率が95%以上のポリビニルアルコール系の低ファウリング用RO膜を用いる。このRO膜は、スパイラル型、中空糸型、管状型等、いかなる型式のものであっても良い。
【0046】
RO膜分離装置4の透過水は、次いで酸を添加してpH4〜8に調整し、必要に応じて更に活性炭処理等を施した後、再利用される。ここで使用する酸としては、特に制限はなく、塩酸、硫酸などの鉱酸が挙げられる。
【0047】
一方、RO膜分離装置4の濃縮水は、好ましくは酸を添加してpH5〜8に調整された後、前段の生物処理槽1に返送されて生物処理され、次いで凝集沈殿槽2で固液分離され、分離水の一部が系外へ放流され、残部がタンク3に送給されてRO膜分離処理される。なお、濃縮水のpH調整に使用する酸としては、特に制限はなく、塩酸、硫酸などの鉱酸が挙げられる。
【0048】
図1に示すように、原水に所定量のスケール防止剤を添加すると共に、pH9.5以上に調整した後RO膜分離処理することにより、RO膜分離装置におけるフラックスの低下を引き起こすことなく、長期に亘り安定な処理を行って、TOCが高度に除去された高水質処理水を得ることができる。また、このRO膜分離処理で得られたRO濃縮水を生物処理することにより、濃縮水中の生分解性のスケール防止剤を含め有機物質を高度に生物処理して除去することができる。なお、この際、前述の如く、スケール防止剤が生分解されることで、生物処理系内で多価無機カチオンが遊離し、この多価無機カチオンが汚泥中に取り込まれ、汚泥の沈降性を高めることにより、後段の凝集沈殿槽における汚泥の沈降性を高めて固液分離性を向上させることができる。
【0049】
なお、図1は、本発明の実施の形態の一例を示すものであって、本発明はその要旨を超えない限り、何ら図示のものに限定されるものではない。図1では、原水にスケール防止剤を添加した後、アルカリを添加してpH調整を行うが、原水にアルカリを添加してpH調整を行った後スケール防止剤を添加しても良く、また、pH調整とスケール防止剤の添加とを同時に行っても良い。また、RO膜分離装置による処理は一段処理に限らず、2段以上の多段処理であっても良い。また、電子デバイス製造工場から排出されるTOC含有排水等では、基本的にはスケールの原因となるカルシウムイオンなどの多価無機カチオンなどが混入するケースは少ないが、原水中にカルシウムイオンなど多価無機カチオンなどが混入する場合は、スケール防止剤の添加に先立ち多価無機カチオンを除去するカチオン交換塔を設け、予め多価無機カチオンを除去しても良い。更に、pH調整やスケール防止剤の添加のための混合槽を設けても良い。
【0050】
また、RO膜分離装置により2段以上の多段処理を行う場合、1段目のRO膜分離装置のRO濃縮水のみについてこのような生物処理を行っても良く、その他のRO濃縮水についても同様に処理を行っても良い。しかし、2段RO膜分離処理の場合は、2段目のRO膜分離装置の濃縮水は原水側に戻すのが通常である。
【0051】
なお、本発明における生物処理は、活性汚泥法、生物膜法など、濃縮水からBOD成分を除去できるものであれば特に限定されない。
また、本発明における被処理水としては、例えば総合排水(放流水)、酸アルカリ排水、フッ素含有排水、有機排水等が挙げられる。また、原水のTOC濃度には特に制限はないが、特に1〜5mg/Lであることが好ましい。
【実施例】
【0052】
以下に実施例、比較例及び参考例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0053】
実施例1
まず、電子デバイス製造工場から排出される排水を想定してTOC濃度10mg/L、多価無機カチオンとしてカルシウムイオン濃度100mg/Lを含む水を調製し、原水とした。このように調製した原水に易生物分解性スケール分散剤としてポリアスパラギン酸をカルシウムイオン濃度の1/10倍(10mg/L)となるように添加した後、NaOHを添加してpH10.5とし、RO膜分離装置(日東電工製低圧芳香族ポリアミド型RO膜「NTR−759」)で通水量75L/h、回収率80%の条件でRO膜分離処理を行った。
【0054】
このときのRO膜分離装置の膜フラックス(25℃,1.47MPa)の低下率の経時変化を調べ、結果を図2に示した。
また、このRO膜分離処理で得られたRO濃縮水にHClを添加してpH8に調整した後、スポンジ充填型生物処理装置にHRT(Hydric Retention Time:水理学的滞留時間)3hの条件で通水した。なお、生物処理の運転は処理能力が定常状態となった時点で開始した。
この生物処理に供給される生物処理給水(濃縮水)のTOCと生物処理水のTOCを経時的に調べ、結果を表1に示した。
【0055】
比較例1,2
実施例1において、RO給水のpHを7(比較例1)又は5(比較例2)としたこと以外は同様にして原水の処理を行い、結果を図2に示した。
【0056】
参考例1,2
実施例1において、スケール防止剤を原水のカルシウムイオン濃度の1/20倍(5mg/L)(参考例1)、又は1/15倍(6.7mg/L)(参考例2)となるように添加したこと以外は同様にして原水の処理を行い、結果を図2に示した。
【0057】
比較例3
スケール分散剤として難生物分解性であるEDTA系スケール防止剤をカルシウムイオン濃度の5倍(500mg/L)となるように添加したこと以外は実施例1と同条件でRO膜分離処理並びに生物処理を実施した。このときの生物処理に供給される生物処理給水(濃縮水)のTOCと生物処理水のTOCを経時的に調べ、結果を表1に示した。
【0058】
【表1】

【0059】
以上の結果から次のことが分かる。
<原水のRO膜分離処理>
実施例1では、スケール防止剤を添加してRO給水のpHを調整することにより、長期にわたり膜フラックスの低下を防止することができた。これに対して、比較例1,2では運転開始からわずか20日で膜フラックスは初期膜フラックスの約60%程度まで低下することが明らかとなった。この閉塞した膜面からは有機物の吸着が観測された。一方、参考例1,2より、スケール分散剤添加量が多い程膜フラックスの低下は緩やかになるものの、スケール分散剤を原水のカルシウムイオン濃度に対し1/10倍以上となるように添加しないと膜面が閉塞することが明らかとなった。この閉塞した膜面を分析したところ、CaCOスケールの析出が観測された。
【0060】
<RO濃縮水の生物処理>
スケール分散剤として難生物分解性のものを用いた比較例3では生物処理水のTOC濃度を20%程度しか低減できなかったのに比べ、スケール分散剤として易生物分解性のものを用いた実施例1では、生物処理水のTOC濃度を70%以上低減することができ、生分解性のスケール防止剤と生物処理との組み合わせの有効性が明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、電子デバイス製造分野、半導体製造分野、その他の各種産業分野で排出される高濃度ないし低濃度TOC含有排水の放流、又は回収・再利用のための水処理に有効に適用される。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の水処理装置及び水処理方法の実施の形態を示す系統図である。
【図2】実施例1、比較例1,2及び参考例1,2における膜フラックスの経時変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0063】
1 生物処理槽
2 凝集沈殿槽
3 タンク
4 RO膜分離装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
BOD成分及び多価無機カチオンを含有する被処理水に、該多価無機カチオンのスケール化を抑制する生分解性のスケール防止剤を添加するスケール防止剤添加手段と、
該スケール防止剤添加の前、後又は同時に前記被処理水にアルカリを添加して該被処理水のpHを9.5以上に調整するpH調整手段と、
該スケール防止剤添加手段及びpH調整手段を経た被処理水を透過水と濃縮水とに分離する逆浸透膜分離手段と、
該濃縮水に含有されるBOD成分を処理する生物処理手段と
を備えてなる水処理装置。
【請求項2】
請求項1において、前記被処理水が前記生物処理手段の処理水の一部であることを特徴とする水処理装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記スケール防止剤添加手段において、前記被処理水に、該被処理水中の多価無機カチオン含有総量の1/10重量倍以上のスケール防止剤を添加することを特徴とする水処理装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、前記逆浸透膜分離装置の逆浸透膜が、1500mg/Lの食塩水を1.47MPa、25℃、pH7の条件で逆浸透膜分離処理した時の塩排除率が95%以上の脱塩性能を有するポリビニルアルコール系の低ファウリング用逆浸透膜であることを特徴とする水処理装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項において、前記pH調整手段において、前記被処理水のpHを10.5〜12に調整することを特徴とする水処理装置。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項において、前記生物処理手段に導入される濃縮水に酸を添加してpH5〜8に調整する手段を有することを特徴とする水処理装置。
【請求項7】
BOD成分及び多価無機カチオンを含有する被処理水に、該多価無機カチオンのスケール化を抑制する生分解性のスケール防止剤を添加するスケール防止剤添加工程と、
該スケール防止剤添加の前、後又は同時に前記被処理水にアルカリを添加して該被処理水のpHを9.5以上に調整するpH調整工程と、
該スケール防止剤添加工程及びpH調整工程を経た被処理水を逆浸透膜分離装置に供給して透過水と濃縮水とに分離する逆浸透膜分離工程と、
該濃縮水に含有されるBOD成分を処理する生物処理工程と
を備えてなる水処理方法。
【請求項8】
請求項7において、前記被処理水が前記生物処理工程の処理水の一部であることを特徴とする水処理方法。
【請求項9】
請求項7又は8において、前記スケール防止剤添加工程において、前記被処理水に、該被処理水中の多価無機カチオン含有総量の1/10重量倍以上のスケール防止剤を添加することを特徴とする水処理方法。
【請求項10】
請求項7ないし9のいずれか1項において、前記逆浸透膜分離装置の逆浸透膜が、1500mg/Lの食塩水を1.47MPa、25℃、pH7の条件で逆浸透膜分離処理した時の塩排除率が95%以上の脱塩性能を有するポリビニルアルコール系の低ファウリング用逆浸透膜であることを特徴とする水処理方法。
【請求項11】
請求項7ないし10のいずれか1項において、前記pH調整手段において、前記被処理水のpHを10.5〜12に調整することを特徴とする水処理方法。
【請求項12】
請求項7ないし11のいずれか1項において、前記生物処理工程に導入される濃縮水に酸を添加してpH5〜8に調整する工程を有することを特徴とする水処理方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2007−253073(P2007−253073A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−81088(P2006−81088)
【出願日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】