説明

水力エネルギー回収装置

【課題】構造が簡易で小型軽量化が可能であり、低価格であって搬入・搬出が容易な水力エネルギー回収装置を提供する。
【解決手段】開水路2に設置される水力エネルギー回収装置1であって、少なくとも側壁14に渦巻き形状が付与された渦巻ケーシング3と、前記渦巻ケーシング3内に設けられ、下方へ向かって突出した下端部27が、渦巻ケーシング3内の水面S1よりも下方に位置する空気吸い込み防止部材26とを有する。当該装置1は、さらに、前記渦巻ケーシング3の底面に連通して設けられて渦巻ケーシング3から流れ込む水流を下方へ流す下降水流管5と、前記下降水流管5内に設けられて水流からエネルギーを回収する回転羽根6とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水力エネルギー回収装置に関し、特に、農業用水路、養殖場、廃水処理場などのオーバーフロー流水または開水路の流水エネルギーを回収して、回転動力等のエネルギーを得る小規模低落差水力エネルギーの回収装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、養殖場、農業用水路、廃水処理場等からの流体エネルギーを有効に回転等の動力エネルギーとして回収することを試みた技術が開発されており、例えば特許文献1、特許文献2に記載の水力発電装置が挙げられる。
【0003】
特許文献1に記載の水力発電装置は、農業用水路等に簡易な堰を作り、取水口に縦型のガイドべーンを設置することで、流れ込む水流を渦巻き水流として反動型水車に流入させるとともに、水車からの排水はL字型のドラフトチューブを用いて流出させている。
【0004】
また、特許文献2に記載の水力発電装置は、水路等に堰板を設置することにより水流を止めて落差を生じさせ、この堰板に形成された取水口から水を流している。この堰板からの流路に水が流れると、縦型のガイドべーンまたは水流方向変換用の固定フィンにより渦巻き水流が形成されて、流路に設置された水車が回転し、発電機が駆動される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−030179号公報
【特許文献2】特開平2001−153021号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の特許文献1および特許文献2に記載の水力発電装置は、水車へ渦巻き水流を与える方法として、縦型のガイドべーンまたは固定フィンを用いているが、この方法は、大型の水車等に用いられる方法であり、構造が複雑で大型となり重量も大きくなるため、高価なものとなる。また、取水口に設置され縦型のガイドべーン付近に空気吸い込み渦が発生して、自由水面から気泡を吸い込み、反動型水車へ気泡を同伴した水流(以下、気泡同伴水流と称する。)を供給する可能性がある。気泡同伴水流が供給された水車は、効率が極端に低下することが知られている。
【0007】
さらに、重量過大な装置は、洪水時、または水路の管理等で、装置の緊急避難的な移動が必要になった際に搬入・搬出が困難となるなど、保守性に課題が残る。
【0008】
本発明は、上記従来技術に伴う課題を解決するためになされたものであり、構造が簡易で小型軽量化が可能であり、低価格であって搬入・搬出が容易な水力エネルギー回収装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成する本発明に係る水力エネルギー回収装置は、開水路に設置される水力エネルギー回収装置であって、少なくとも側壁に渦巻き形状が付与された渦巻ケーシングと、前記渦巻ケーシング内に設けられ、下方へ向かって突出した下端部が、渦巻ケーシング内の水面よりも下方に位置する空気吸い込み防止部材とを有する。当該装置は、さらに、前記渦巻ケーシングの底面に連通して設けられて渦巻ケーシングから流れ込む水流を下方へ流す下降水流管と、前記下降水流管内に設けられて水流からエネルギーを回収する回転羽根とを有する。
【発明の効果】
【0010】
上記のように構成した本発明に係る水力エネルギー回収装置は、渦巻ケーシングにより強い渦巻き水流を発生させつつ、空気吸い込み防止部材により空気の吸い込みを抑制できるため、水流方向変換用の固定案内羽根やガイドべーンを用いる必要がなく、構造を簡易にして小型軽量化、低価格化が可能となり、さらに搬入・搬出を容易とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態に係る水力エネルギー回収装置の概略平面図である。
【図2】図1のA−A線に沿う概略断面図である。
【図3】本実施形態に係る水力エネルギー回収装置によりエネルギーを回収する際を示す概略平面図である。
【図4】図3のB−B線に沿う概略断面図である。
【図5】空気吸い込み防止部材が設けられないエネルギー回収装置による実験例1を示す概略平面図である。
【図6】図5のC−C線に沿う概略断面図である。
【図7】空気吸い込み防止部材の流路規制部の頂部のみを水面下に沈めたエネルギー回収装置による実験例2を示す概略平面図である。
【図8】図7のD−D線に沿う概略断面図である。
【図9】空気吸い込み防止部材を水面下に沈めたエネルギー回収装置による実験例3を示す概略平面図である。
【図10】図9のE−E線に沿う概略断面図である。
【図11】空気吸い込み防止部材の流路規制部の形状の例を示し、(A)は半球形状とした例、(B)は円錐の先端を半球形状とした例、(C)は円錐形状とした例、(D)は側面を双曲線形状とした例を示す。
【図12】空気吸い込み防止部材の縁部の形状の例を示し、(A)は下降水流管の内径の3倍の直径とした例、(B)は下降水流管の内径の4倍の直径とした例、(C)は渦巻ケーシング内の水面の略全面を覆った例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。
【0013】
図1は、本発明の実施形態に係る水力エネルギー回収装置の概略平面図、図2は、図1のA−A線に沿う概略断面図である。
【0014】
本実施形態に係る水力エネルギー回収装置1は、図1,2に示すように、上方に開放された自由水面S1を有する開水路2に設置されて、水力エネルギーを回収するための装置である。
【0015】
水力エネルギー回収装置1は、開水路2から流水が導かれる渦巻ケーシング3と、渦巻ケーシング3の底面の中央部近傍に設けられて渦巻ケーシング3から水流が流れ込む下降水流管5と、下降水流管5の内部に設けられて、水流により回転されて水力エネルギーを回収する軸流プロペラ6(回転羽根)とを備えている。
【0016】
開水路2には、流水を放出できる放水口8が水路側壁9に設けられており、この放水口8に流水を導くための堰10が取り付けられる。
【0017】
渦巻ケーシング3は、開水路2の放水口8に取り付けられる取水口11を有しており、この取水口11からケーシング内に流水が導かれる。取水口11には、ゴミ除去用のフィルター12が設けられる。
【0018】
渦巻ケーシング3は、取り入れた水流がケーシングの内部で自由水面S1を形成するように、所定の高さの側壁14を備えている。渦巻ケーシング3の側壁14は、取水口11から導かれた流水が、コリオリ力を受けることで渦巻き状に回転しつつ下降水流管5に導かれる際に、下降水流管5へ流水が円滑に流入するように、渦巻き形状で形成されている。なお、コリオリ力を受けて渦巻き状に回転する水流を、本明細書では渦巻き水流と称することとする。
【0019】
渦巻ケーシング3の渦巻きの方向は、コリオリ力が作用する方向と一致する。渦巻ケーシング3の側壁14の、渦巻き方向の最も下流側には、上流側からの水流の流れ込みを防止する隔壁15が設けられる。なお、隔壁15は、渦巻ケーシング3の形状によっては、設けられなくてもよい。
【0020】
渦巻ケーシング3の形状および寸法は、流水量、流水速度、および水深などの、本装置1を設置する場所の諸条件に対応して決定されることが好ましい。すなわち、開水路2から導入した流水を、渦巻ケーシング3を用いて、より高速で強い渦巻き水流Xへ変換して、下降水流管5へ供給することを可能とする形状・構造とする。理論的には、下降水流管5の上部へ半径方向から流入する渦巻き水流Xの、下降水流管5の上部における周方向の流速分布が均一となるように、下降水流管5の外周部から渦巻ケーシング3の側壁14までの距離を、渦巻きの下流に向かうにつれて減少させるように設定できるが、実際には、種々の条件が複雑に影響することから、実測等に基づきつつ設定することが好ましい。
【0021】
なお、本実施形態では、渦巻ケーシング3の渦巻き形状は、側壁14にのみに形成されて2次元的形状となっているが、渦巻ケーシング3の底面等にも形成を付与して、3次元的な渦巻き形状としてもよい。
【0022】
渦巻ケーシング3の底面には、渦巻き形状の中央部に、渦巻ケーシング3から水流が流れ込む下降水流管5が連通する。下降水流管5の下端は、開水路2よりも下方に設けられる排水路18の水面S2よりも下方まで延在する。下降水流管5は、軸流プロペラ6が設置される位置よりも下方において、流路断面積が下方に向かって徐々に大きくなる拡大管として形成される。なお、下降水流管5の内部の流路断面積は、かならずしも変化しなくてもよい。
【0023】
軸流プロペラ6は、渦巻き水流Xが下降水流管5の内部で極力減衰せずに軸流プロペラ6に作用するように、下降水流管5の内部の極力上方に、回転可能なシャフト19の一端に固定されて設けられる。シャフト19は上方から挿入されており、軸流プロペラ6を下降水流管5の上方に設置することで、軸流プロペラ6の設置が容易となっている。シャフト19の他端は、渦巻ケーシング3の上方に配置されるオイルレスエアポンプ20に連結されている。このシャフト19は、渦巻ケーシング3の側壁14を差し渡すように設けられるケーシング梁21に固定されたベアリング22と、下降水流管5の内壁から延びる管内梁24に固定されたベアリング23によって回転支持される。シャフト19は、軸流プロペラ6により回転されることで、渦巻ケーシング3の上方に設置されるオイルレスエアポンプ20を駆動させる役割を果たす。なお、動作される機械は、オイルレスエアポンプ20に限定されない。
【0024】
なお、軸流プロペラ6の下降水流管5の内部での設置位置は、下降水流管5の上下方向中心部よりも上方であることが好ましいが、かならずしも上方である必要はなく、下方に設けられてもよい。すなわち、軸流プロペラ6に渦巻き水流Xを作用させることができるのであれば、軸流プロペラ6の下降水流管5内での位置は限定されない。
【0025】
渦巻ケーシング3の内部には、渦巻ケーシング3内の自由水面S1からの空気の吸い込みを抑制するために、下端が下方へ向かって突出した空気吸い込み防止部材26が設けられる。この空気吸い込み防止部材26は、下方に突出して下端部27に頂部が形成される形状の流路規制部28と、流路規制部28の上端側から側方へ延びる平板形状の縁部29とを有している。ここで側方とは、上下方向と交差する方向であり、本実施形態の縁部29は水平方向へ延びているが、かならずしも水平方向と厳密に一致せずともよく、水平方向に対して傾斜してもよい。また、空気吸い込み防止部材26に縁部29が形成されず、空気吸い込み防止部材26が流路規制部28のみで形成されてもよい。
【0026】
流路規制部28は、下降水流管5の直上に位置する。流路規制部28の内部は中実であっても中空であってもよく、流路規制部28の中心軸上に、シャフト19が貫通する貫通穴が設けられる。縁部29は、下降水流管5の上部の内径の約2倍の直径を有する円板で形成されており、この円板の中心が、下降水流管5の、取水口11側と反対側(図1,2中の紙面左側)の縁に位置している。すなわち、縁部29の中心は、渦巻ケーシング3の側壁14の形状に対応して、流路規制部28の中心軸と偏芯している。空気吸い込み防止部材26は、本実施形態ではケーシング梁21から延びる固定梁30により、渦巻ケーシング3内に固定されている。なお、空気吸い込み防止部材26の固定方法は特に限定されず、例えば渦巻ケーシング3の側壁14に固定されてもよい。
【0027】
空気吸い込み防止部材26は、渦巻ケーシング3内の水面S1よりも下方に配置される。すなわち、空気吸い込み防止部材26の流路規制部28および縁部29の全体が、流水に水没する。また、空気吸い込み防止部材26は、流路規制部28の下端部27(頂部)が、下降水流管5の入口上部の近傍、あるいは下降水流管5の内部に位置する。
【0028】
次に、本実施形態に係る水力エネルギー回収装置1の作用について説明する。
【0029】
図3は、本実施形態に係る水力エネルギー回収装置によりエネルギーを回収する際を示す概略平面図、図4は、図3のB−B線に沿う概略断面図である。
【0030】
図3,4に示すように、開水路2に流水が流れ込むと、開水路2に設けられた堰10により流水が放水口8から流出して、渦巻ケーシング3の取水口11に流れ込む。取水口11では、フィルター12によりゴミ等の粒子の粗い物質が除去される。
【0031】
取水口11から流れ込んだ流水は、渦巻ケーシング3の渦巻き形状の側壁14に沿って流れ、コリオリ力を受けて渦巻き水流Xとなる。渦巻き水流Xは、渦巻ケーシング3から下降水流管5へ流れ込み、下降水流管5内の軸流プロペラ6に作用して回転させる。このとき、軸流プロペラ6が下降水流管5の内部の上方に位置しているため、渦巻き水流Xが、下降水流管5内でほとんど減衰されることなく軸流プロペラ6まで到達する。渦巻き水流Xにより回転された軸流プロペラ6は、シャフト19を回転させて、エアポンプ20を駆動させる。
【0032】
この後、軸流プロペラ6を通過した水流は、流路断面積が下方へ向かって徐々に大きくなる下降水流管5内を流れることで、流速を減少させつつ整流されて水の速度エネルギーが効率よく回収されて、排水路18に達する。このとき、下降水流管5の下端が排水路18の水面S2よりも下に位置するため、低落差の水位を有効に活用することができる。
【0033】
渦巻き水流Xが渦巻ケーシング3から下降水流管5へ流れ込む際には、空気吸い込み防止部材26により、渦巻ケーシング3内の自由水面S1からの空気の吸い込み渦の発生が抑制される。すなわち、空気吸い込み防止部材26が設けられない場合には、渦巻ケーシング3およびコリオリ力により発生する強い渦巻き水流Xによって、自由水面S1から空気の吸い込み渦が発生しやすくなる。空気の吸い込み渦が発生すると、気泡同伴水流が軸流プロペラ6に作用することとなり、エネルギー回収効率が極端に低下する。さらに、空気吸い込み防止部材26の流路規制部28が設けられないことで、渦巻ケーシング3から下降水流管5へ流れ込む流路が縮小されないため、下降水流管5へ流入する強い渦巻き水流Xの流線が大きく不規則に乱れて安定せず、空気吸い込み渦の発現や、空気吸い込み渦の伸長、分散化および散逸化が顕著となり、これらを抑制することが困難となる。
【0034】
これに対し、本実施形態に係る水力エネルギー回収装置1は、下方へ突出する流路規制部28を備えた空気吸い込み防止部材26が設けられるため、渦巻ケーシング3から下降水流管5へ流れ込む流路が縮小される。これにより、下降水流管5へ流入する強い渦巻き水流Xの流線が安定し、空気吸い込み渦の発現や、当該空気吸い込み渦の伸長、分散化および散逸化を抑制できる。
【0035】
また、本実施形態に係る装置1は、空気吸い込み防止部材26の上端が、渦巻ケーシング3の自由水面S1よりも下に位置するため、自由水面S1と空気吸い込み防止部材26の間に、流速の遅い、またはよどみとなる上層領域Rが形成される。この上層領域Rは、空気吸い込み防止部材26の下方に形成される強い渦巻き水流Xが自由水面S1へ到達することを抑制するため、空気吸い込み渦Yの発現を抑制できる。
【0036】
また、空気吸い込み防止部材26に縁部29が形成されることで、より広い範囲で上述の上層領域Rを形成することができ、より効果的に空気吸い込み渦Yの発現を抑制できる。
【0037】
さらに、本実施形態によれば、渦巻ケーシング3により渦巻き水流Xを発生させて、渦巻き水流Xによって下降水流管5内の軸流プロペラ6を回転させるため、水流方向変換用の固定案内羽根やガイドべーンを用いることなしに、高効率で軸流プロペラ6から水力エネルギーを回収できる。さらに、ガイドべーン等を設ける必要がなく、構造が簡易であるため、小型軽量化が可能であり、低価格で製造できるとともに、搬入・搬出が容易となる。
【0038】
また、流路規制部28の下端部27が、下降水流管5の入口の上方または下降水流管5の内部に位置するため、渦巻ケーシング3から下降水流管5へ流れ込む流路を確実に縮小して渦巻き水流Xの流線を安定させることができ、空気吸い込み渦の発現や、当該空気吸い込み渦の伸長、分散化および散逸化をより確実に抑制できる。
【0039】
また、軸流プロペラ6が、下降水流管5の上下方向中央部よりも上方に設けられるため、渦巻き水流Xを下降水流管5内で極力減衰させずに軸流プロペラ6まで到達させることができ、高効率で軸流プロペラ6から水力エネルギーを回収できる。
【0040】
<実験例>
実験により、エネルギー回収装置の効果を検証した。
【0041】
図5は、空気吸い込み防止部材が設けられないエネルギー回収装置による実験例1を示す概略平面図、図6は、図5のC−C線に沿う概略断面図である。図7は、空気吸い込み防止部材の流路規制部の頂部のみを水面下に沈めたエネルギー回収装置による実験例2を示す概略平面図、図8は、図7のD−D線に沿う概略断面図である。図9は、空気吸い込み防止部材を水面下に沈めたエネルギー回収装置による実験例3を示す概略平面図、図10は、図9のE−E線に沿う概略断面図である。
【0042】
実験例1のエネルギー回収装置1Aは、図5,6に示すように、空気吸い込み防止部材が設けられておらず、本発明に係るエネルギー回収装置と比較するための比較例である。実験例2のエネルギー回収装置1Bは、空気吸い込み防止部材26の流路規制部28の頂部のみが水面下に沈められた本発明の一例である。実験例3のエネルギー回収装置1Cは、空気吸い込み防止部材26の全体が水面下に沈められた本発明の他の一例である。
【0043】
なお、実験例1〜3の装置1A〜1Cは、いずれも下降水流管5の流路断面積が上下にわたって一定であり、軸流プロペラ6が下降水流管5の上下方向中心部よりも下方に設けられている。また、実験例2,3の装置1B,1Cは、いずれも空気吸い込み防止部材26に縁部29が設けられていない。実験例3の装置1Cでは、空気吸い込み防止部材26の上端が水面S1よりも約5cm下に位置するように、全体を水没させた。
【0044】
実験例1〜3のエネルギー回収装置の実験条件を、下表で示す。
【0045】
【表1】

【0046】
上記の表のように、開水路2からエネルギー回収装置1A〜1Cへ流れ込む平均流量は、28.1リットル/分であり、開水路2と排水路18の間の落差は、1.1mであった。また、駆動されるオイルレスエアポンプ20からの低圧の圧縮空気は、開水路2の近くに設置した水槽へエアレーションするために使用した。エアレーションは、水槽に差し込んだチューブにより行い、吹き込み深さ(水槽における空気吹き出し位置の深さ)は70cmであった。
【0047】
実験により計測されたエアポンプ20の回転数および、この回転数における送風量を、下表に示す。
【0048】
【表2】

【0049】
上記の表のように、空気吸い込み防止部材が設けられない実験例1の装置1Aに比べ、空気吸い込み防止部材26が設けられた実験例2および実験例3の装置1B,1Cの方が、エネルギーの回収効率が高いことが確認された。さらに、実験例2と実験例3を比較すると、流路規制部28の下端部27のみが水面下に沈められた実験例2の装置1Bよりも、空気吸い込み防止部材26の全体が水面下に沈められた実験例3の装置1Cの方が、エネルギーの回収効率が高いことが確認できた。
【0050】
詳細には、実験例1の装置1Aでは、図5,6に示すように、下降水流管5の中心付近へ空気吸い込み渦Yが流入して、気泡同伴水流が下降水流管5へ供給されることが、目視により確認された。エアポンプ20の回転数および送風量が低値である理由としては、下降水流中に気泡が存在することで、気泡の浮力や摩擦等により水力エネルギーが損失して、軸流プロペラ6によるエネルギーの回収が大幅に減少したもの考えられる。
【0051】
実験例2の装置1Bにおいても、図7,8に示すように、下降水流管5の中心付近へ空気吸い込み渦Yが流入して、気泡同伴水流が下降水流管5へ供給されることが、目視により確認された。すなわち、流路規制部28の頂部のみが水面下に沈められたのみでは、空気吸い込み渦Yの発生を完全に防止することができず、下降水流中に気泡が存在することで水力エネルギーの回収効率が減少したもの考えられる。しかし、実験例1の装置1Aよりは、エネルギーの回収効率が向上していることが、エアポンプ20の回転数および送風量から確認できる。これは、実験例2の装置1Bでは、流路規制部28が設置されていることで渦巻ケーシング3内の流路が縮小されて、実験例1の装置よりも強く整った渦巻き水流Xが下降水流管5へ供給されて、軸流プロペラ6によるエネルギーの回収効率が上昇したもの考えられる。
【0052】
実験例3の装置1Cにおいては、図9,10に示すように、空気吸い込み渦Yが発生せず、気泡を含まない水流が下降水流管へ供給されることが、目視により確認された。これは、空気吸い込み防止部材26が水没して設置されていることで、空気吸い込み防止部材26の上方に流れの遅い上層領域Rが発生して、空気の吸い込みが抑制されたと考えられる。これにより、気泡を含まない渦巻き水流Xが下降水流管5へ供給されて、さらに渦巻ケーシング3内の流路が流路規制部28により縮小されて渦巻き水流Xが強くなり、軸流プロペラ6によるエネルギーの回収効率が上昇したもの考えられる。実験例3の装置1Cにおけるエアポンプ20の回転数および送風量の計測結果を実験例1と比較すると、エネルギーの回収効率が約2倍に向上していることが確認できた。
【0053】
なお、本発明は上述した実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の範囲内で種々改変することができる。
【0054】
例えば、空気吸い込み防止部材26の流路規制部28は、下方へ突出した形状であれば他の形状とすることができる。図11は、空気吸い込み防止部材の流路規制部の形状の例を示し、(A)は半球形状とした例、(B)は円錐の先端を半球形状とした例、(C)は円錐形状とした例、(D)は側面を双曲線形状とした例を示す。図11(A)のような半球形状の流路規制部28Aは、渦巻ケーシング3の水深が比較的深い場合、図11(B)のような円錐の先端を半球形状とした流路規制部28Bは、渦巻ケーシング3の水深がやや浅い場合に適する。また、図11(C)のような上述の実施形態にも適用される円錐形状の流路規制部28Cは、渦巻ケーシング3の水深が浅い場合、図11(D)のような側面を双曲線形状とした流路規制部28Dは、渦巻ケーシング3の水深が極めて浅い場合に適する。すなわち、図11の(A)から(B),(C)を経て(D)の形状となるにしたがって、流路規制部28が頂部へ向かって鋭利な形状となり、渦巻ケーシング3から下降水流管5への流路が滑らかに変化することになるため、下降水流管5へ流入する強い渦巻き水流Xの流線が安定し、空気吸い込み渦Yの発現を抑制する効力が増大する。したがって、図11(D)のように流路規制部28Dが頂部へ向かって鋭利な形状となるほど、渦巻ケーシング3の水深が浅く、若しくは渦巻ケーシング3への流入速度が速くまたは乱れて空気吸い込み防止部材26がなければ空気吸い込み渦Yが発生しやすい条件において有効である。なお、図11(D)の双曲線形状とは、厳密に双曲線の形状である必要はなく、側面が窪んだ形状であればよい。
【0055】
また、空気吸い込み防止部材26の縁部29は、本実施形態のように必ずしも円形である必要はなく、条件に応じて適宜変更できる。図12は、空気吸い込み防止部材の縁部の形状の例を示し、(A)は下降水流管の内径の3倍の直径とした例、(B)は下降水流管の内径の4倍の直径とした例、(C)は渦巻ケーシング内の水面の略全面を覆った例を示す。なお、図12中の一点鎖線は、渦巻ケーシング3の内壁を表し、二点鎖線は、縁部の切り取られた部位を表している。図12(A),(B)の縁部29A,29Bは、円形状を、渦巻ケーシング3の側壁14の形状に対応して切り抜いた形状となっており、縁部29A,29Bと渦巻ケーシング3の間には、所定の隙間が形成されている。この隙間は、例えば5mm以下で設定される。また、図12(C)においても、縁部29Cと渦巻ケーシング3の間には、例えば5mm以下の隙間が形成されている。
【0056】
図12の(A)から(B),(C)と縁部29A,29Bおよび29Cの面積が広くなるほど、渦巻ケーシング3内の自由水面S1と空気吸い込み防止部材26の間の上層領域Rが広くなり、空気吸い込み渦Yの発現を抑制する効果が増大する。すなわち、縁部29の面積が広くなるほど、渦巻ケーシング3の水深が浅く、若しくは渦巻ケーシング3への流入水速度が速くまたは乱れて、空気吸い込み防止部材26がなければ空気吸い込み渦Yが発生しやすい条件において有効である。
【0057】
また、本実施形態に係る水力エネルギー回収装置1は、開水路側に取り付けられているが、装置1および装置1内の水の重量を支えるために、水力エネルギー回収装置1から下方へ延びて排水路側等に固定される支持柱等が設けられてもよい。また、空気吸い込み防止部材26の流路規制部28の中心軸が、下降水流管5の中心軸と偏芯して設けられてもよい。また、水力エネルギー回収装置1により駆動される装置は、エアポンプ20でなくてもよく、例えば揚水ポンプ、空気圧縮機、冷凍圧縮機、発電機等の他の装置であってもよい。また、開水路2の水路側壁9に水力エネルギー回収装置1を取り付けるのではなく、開水路2に設置される堰10に取り付けることもできる。また、渦巻ケーシング3内に自由水面S1を形成できるのであれば、渦巻ケーシング3の上面を蓋体で覆ってもよい。
【0058】
なお、本発明は、開水面S1において水の自由落下の際に生じる渦巻き水流Xを、気泡の吸い込みを抑制しつつ積極的に利用したエネルギー回収装置1であり、自由落下ではなく水を吸い込むことにより吸い込み側で渦が発生するポンプとは、全く異なるものである。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の水力エネルギー回収装置は、農業用水路や養殖場、排水処理施設などの流水のエネルギーを回転動力等として回収し、揚水ポンプ、空気圧縮機、冷凍圧縮機、または発電機等へ供給して、自然エネルギーの利活用に寄与する。
【符号の説明】
【0060】
1 水力エネルギー回収装置、
2 開水路、
3 渦巻ケーシング、
5 下降水流管、
6 軸流プロペラ(回転羽根)、
11 取水口、
14 側壁、
18 排水路、
26 空気吸い込み防止部材、
27 下端部、
28 流路規制部、
29 縁部、
R 上層領域、
S1 ケーシング内の水面、
S2 排水路の水面、
X 渦巻き水流、
Y 空気吸い込み渦。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開水路に設置される水力エネルギー回収装置であって、
少なくとも側壁に渦巻き形状が付与された渦巻ケーシングと、
前記渦巻ケーシング内に設けられ、下方へ向かって突出した下端部が、渦巻ケーシング内の水面よりも下方に位置する空気吸い込み防止部材と、
前記渦巻ケーシングの底面に連通して設けられて渦巻ケーシングから流れ込む水流を下方へ流す下降水流管と、
前記下降水流管内に設けられて水流からエネルギーを回収する回転羽根と、
を有する水力エネルギー回収装置。
【請求項2】
前記空気吸い込み防止部材は、上端が前記渦巻ケーシング内の水面下に位置する請求項1に記載の水力エネルギー回収装置。
【請求項3】
前記空気吸い込み防止部材は、下端部よりも上方に、上下方向と交差する側方へ広がる平板形状の縁部が形成された請求項1または2に記載の水力エネルギー回収装置。
【請求項4】
前記空気吸い込み防止部材の下端部が、前記下降水流管の上方または当該下降水流管の内部に位置する請求項1〜3のいずれか1項に記載の水力エネルギー回収装置。
【請求項5】
前記回転羽根は、前記下降水流管の上下方向中央部よりも上方に位置する請求項1〜4のいずれか1項に記載の水力エネルギー回収装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−174678(P2010−174678A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−16357(P2009−16357)
【出願日】平成21年1月28日(2009.1.28)
【出願人】(504224153)国立大学法人 宮崎大学 (239)
【出願人】(391011700)宮崎県 (63)
【出願人】(509027917)
【出願人】(501310365)南九州向洋電機株式会社 (1)
【Fターム(参考)】