説明

水域浄化方法

【課題】複雑な設備を必要とせず、自然環境に悪影響を与えることなく、水域底部の有機物汚泥を効率良く浄化するとともに、水質の清浄化も図ることのできる水域浄化方法を提供する。
【解決手段】一定の海域に浮かべられた筏51とその下方の海中に設置された網52などで形成された生け簀50と、生け簀50に隣接して配置された筏71上に設けられた管理システム70とによって魚類養殖場80が形成されている。生け簀50の網52内には多数の鯛53が飼育され、生け簀50内の海中に微細気泡発生部1が配置され、生け簀50が設けられた海域の底部54aに大量のイトゴカイ55が撒布されている。筏71上の発電機72および空気ポンプ73から微細気泡発生部1へ電気および空気を送給することによって発生させた微細気泡NB混じりの海水が生け簀50内の海水W中へ供給される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海洋の沿岸海域などの海水域あるいは河川、湖沼などの淡水域などの様々な水域を浄化する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
日本各地の沿岸海域においては、従来、タイやハマチなどの魚貝類を育成して出荷する養殖漁業が営まれている。これらの魚類養殖場においては、海面に撒布される多量の餌の残渣や、飼育されている魚貝類の排泄物が発生するため、その海域の底部には大量の有機物が堆積している。海底に堆積した大量の有機物は、夏季の高水温期には、嫌気的な分解過程により有害な硫化水素を発生するため、海底は、生物が生息不可能な大量の有機物汚泥(ヘドロ)で汚染され、養殖場の魚貝類の生育に深刻な悪影響を及ぼしている。特に、地形的閉鎖性内湾で魚類養殖漁業が行われている場所では、養殖魚への給餌が水中への溶存物の付加ならびに海底への有機物負荷をもたらし、水質および底質に対して強い影響を及ぼしている。また、河川や湖沼などの淡水域、あるいは、河川などから流入する淡水と海水とが混合して形成される汽水が恒常的にあるいは季節的に存在する河口域や内湾(いわゆる汽水域)においても生活排水や産業排水などによる水質悪化、あるいは有機物汚泥の堆積に起因する底質や水質の悪化が生じている。
【0003】
ところで、魚類養殖場においては、その海水温度が低下する秋季になると、付近の海域に対流が生じ、海底の有機物汚泥に酸素が供給されるようになるため、これらの有機物汚泥を栄養源とするベントス(底生生物)の活動が活発化し、その生命活動により、有機物汚泥が浄化される。そこで、本願発明者は、大量に培養したベントスを、海底の有機物汚泥の上に撒いて繁殖させ、これらのベントスの有機物消費力を利用して有機物汚泥を効率良く浄化する技術を提案している(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
また、海底に堆積した有機物汚泥を分解、浄化する技術として、底部付近の海域へ溶存酸素量を高めた海水あるいは微細気泡を供給することによって海中の溶存酸素を増大させて有機物汚泥中への酸素供給を図るもの(例えば、特許文献2,3参照。)、あるいは底部に堆積した有機物汚泥中へ微細気泡混合水を噴射することによって、底有機物汚泥の撹拌、耕耘と酸素供給とを行うもの(例えば、特許文献4参照。)などがある。
【0005】
【特許文献1】特開2001−231394号公報
【特許文献2】特開平8−281292号公報
【特許文献3】特開2004−290893号公報
【特許文献4】特開2003−265063号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された有機物汚泥の浄化技術の場合、魚類養殖場の海水温度が低い時期には底生生物の活動が活発化するため、優れた浄化効果を得ることができるが、海水温度が高まる時期においては底生生物が減少するため、浄化作用が低下してしまう。このため、魚貝類の生育が悪化するだけでなく、浄化作用が回復するまで養殖場の使用を休止しなければならない。
【0007】
また、特許文献2,3に記載された汚泥浄化技術の場合、使用されている微細気泡発生手段によって海中へ供給される微細気泡の粒径は比較的大きいため、海中へ供給されると同時に上昇を開始し、その殆どが海面まで浮上して消失する。このため、海水中における気泡の滞留時間が比較的短くなる結果、海水中へ酸素を充分に溶解させることができず、有機物汚泥中への酸素供給作用も不十分である。特に、真水より大きな浮力を受ける海水中では、気泡の上昇速度は速くなるため、充分な酸素供給効果を得ることができない。
【0008】
また、特許文献2,3に記載された汚泥浄化技術を用いて、海域の底部の有機物汚泥中への酸素供給量を増やすためには、微細気泡発生手段を底部直上に配置しなければならない。このため、海面または海上(地上)に配置される給水手段および給気手段などからの配管や配線が長くなる結果、これらの配線、配管を支える構造体も必要となり、設備の大型化、複雑化を招いている。
【0009】
一方、特許文献4に記載の水底耕耘システムの場合、海底に堆積した有機物汚泥中へ効率良く酸素を供給することはできるが、噴射ノズルから噴射される微細気泡混合水で巻き上げられる汚泥によって周辺海域の海水が汚濁するため、汚濁した海水によって生育に悪影響を受けやすい魚貝類を飼育する養殖場では使用することができない。
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、複雑な設備を必要とせず、自然環境に悪影響を与えることなく、水域底部の有機物汚泥を効率良く浄化するとともに、水質の清浄化も図ることのできる水域浄化方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の水域浄化方法は、流体旋回室を内蔵した微細気泡発生手段を浄化対象である水域中に配置し、前記微細気泡発生手段に水および空気を供給して前記流体旋回室内に形成される流体旋回流によって発生する微細気泡混じりの水を前記水域中へ供給することにより、前記水域の底部に生息する底生生物に酸素を供給することを特徴とする。
【0012】
このような構成とすれば、微細気泡発生手段の流体旋回室から水と共に供給される微細気泡が水域の底部に向かって沈降していき、これによって底層へ酸素が供給され、貧酸素領域が無くなるため、底部に生息する底生生物に酸素が供給される。その結果、底生生物の生命活動が著しく活性化され、その有機物分解能力が高まるため、水域底部の有機物汚泥が効率良く浄化されるとともに、水の清浄化も図ることができる。また、浄化対象水域に配置した微細気泡発生手段を用いて微細気泡混じりの水を当該水域に供給すればよいので、複雑な設備を必要とせず、自然環境に悪影響を与えることもない。
【0013】
なお、浄化対象である水域の底部に好塩菌、EM菌、硝化菌などを撒布し、当該水域に対して前記微細気泡発生手段による微細気泡混じりの水の供給を行えば、浄化作用がさらに向上する。ここで、EM菌とは、Effective Micro−Organisms菌の略称であり、乳酸菌、酵母菌、放射菌、糸状菌、光合成細菌などを含む有機物分解に有効な微生物群を意味する。
【0014】
一方、本発明者は、ベントスを予め大量に培養しておいて、これを、生物が生息できる秋期に、積極的に、海底の有機物汚泥の上に撒くことにより、イトゴカイの有機物消費力を利用して有機物汚泥を効率的に浄化できるという知見を得ている(例えば、特許文献1参照。)。ベントスとしては、スピオ科や小型多毛類などが知られているが、中でも、イトゴカイ類(Capitella属 sp.1)は有機物汚染地域に高密度に出現し、ヘドロ環境条件の回復期には爆発的に増殖することが知られている。そこで、イトゴカイ類の生態などについて鋭意研究を重ねた結果、本発明を完成するに至ったものである。
【0015】
イトゴカイ類は小型多毛類(環形動物)に属し、成体の体長が10mm程度、最大部分の径が1mm程度の糸状の生物である。海底環境が著しく嫌気化した夏季には増殖速度が極度に鈍化するが、秋季から冬季にかけて海底環境が回復し、水温10〜15℃、底層水の溶存酸素が飽和またはそれに近い条件になると、約4〜6週間で成体まで成長し、繁殖を繰り返すことによって爆発的な増殖能力を示す。また、その増殖の過程において、イトゴカイ類に共生する有機物分解能を有する細菌(以下、「有機物分解細菌」という。)も増殖し、この有機物分解細菌が有機物汚泥中の有機物を栄養源とするため、有機物分解細菌の生命活動により汚泥を分解除去することができる。
【0016】
そこで、本発明の水域浄化方法は、浄化対象である海水域の底部にイトゴカイ類を撒布し、流体旋回室を内蔵した微細気泡発生手段を前記イトゴカイ類の撒布領域上の海水域中に配置し、前記微細気泡発生手段に海水および空気を供給して前記流体旋回室内に形成される流体旋回流によって発生する微細気泡混じりの海水を前記海水域中へ供給することを特徴とする。
【0017】
このような構成とすれば、イトゴカイ類の撒布領域上の海水および大気中の空気を微細気泡発生手段に供給することにより流体旋回室内に形成される流体旋回流によって発生する微細気泡混じりの海水を前記撒布領域上の水域に供給することが可能となる。これらの微細気泡は極めて微細であり、外径ナノメートルレベルの微細気泡も大量に含まれるため、浮上速度が極めて小さく、単に海水中での滞留時間が長いだけでなく、時間の経過とともに海底に向かって沈降する性質をも示す。このため、底部付近の海水中の溶存酸素量を高めることが可能となり、貧酸素層をなくすことができる。
【0018】
従って、微細気泡発生手段を海底近くに配置しなくても、底層海水の溶存酸素量が飽和状態に達して、海底の有機物汚泥中に効率良く酸素が供給されるようになり、底部に撒布されたイトゴカイに充分な酸素が供給される。これによって、イトゴカイの生命活動および増殖能力が活性化され、その個体数も著しく増大するので、イトゴカイに共生する有機物分解細菌も増殖する。このため、増殖した有機物分解細菌の分解能力により、海底の有機物汚泥を効率良く分解浄化することができる。また、海中に供給された微細気泡の大部分は海水中に長期間にわたって滞留し続けながら海水中で徐々に消失していくため、海水の溶存酸素量が高まることとなり、貧酸素領域が無くなるため、好気性微生物による浄化作用も活性化され、これによっても海水域の清浄化を図ることができる。
【0019】
本発明において、海底に撒布するイトゴカイおよびその共生細菌は、古代より自然界に生息し続ける生物であり、微細気泡発生手段はイトゴカイに充分な酸素を与える目的で、大気中の空気から形成される微細気泡混じりの海水を海中へ供給するものであるため、自然環境や魚貝類に悪影響を及ぼすこともない。また、海底にイトゴカイ類を撒布し、比較的浅い海域に配置した微細気泡発生手段を用いて微細気泡混じりの海水を海域に供給すればよいので、複雑な設備も必要としない。
【0020】
ここで、前記微細気泡発生手段として、
流体が軸心の周りを旋回可能な筒体状若しくは回転体状の流体旋回室と、前記軸心とねじれの位置をなす方向に沿って前記流体旋回室内へ水を送給するように配置された流体導入経路と、前記流体旋回室内へ空気を送給するため前記流体旋回室に連通して設けられた空気導入経路と、前記流体旋回室から微細気泡混じりの水を排出するため前記軸心の延長線上に設けられた吐出経路とを備えた微細気泡発生器と、
前記水導入経路を経由して前記流体旋回室内へ水を供給する液体ポンプと、
前記空気導入経路を経由して前記流体旋回室内へ空気を供給する気体ポンプと、
を備えた微細気泡発生装置を用いることができる。
【0021】
このような構成とすれば、微細気泡発生器を水中へ投入し、水上若しくは地上に配置した液体ポンプおよび気体ポンプからそれぞれ水、空気を前記微細気泡発生器へ供給することにより、水中へ微細気泡混じりの水を供給することが可能となるため、防水性および水に対する耐食性を有する液体ポンプ、気体ポンプを用いる必要がなくなり、設備の簡素化を図ることができる。また、水中に投入された複数の微細気泡発生器を一組の液体ポンプおよび気体ポンプによって稼働させることも可能となるため、大規模設備への対応も比較的容易となる。
【0022】
また、前記微細気泡発生手段として、
流体が軸心の周りを旋回可能な筒体形状若しくは回転体形状の流体旋回室と、前記軸心とねじれの位置をなす方向に沿って前記流体旋回室内へ空気混じりの水を送給するように配置された気水導入経路と、前記流体旋回室から微細気泡混じりの水を排出するため前記軸心の延長線上に配置された吐出経路とを備えた微細気泡発生器と、
前記気水導入経路を経由して前記流体旋回室内へ水を供給する液体ポンプと、
前記気水導入経路を経由して前記流体旋回室内へ空気を供給する気体ポンプと、
を備えた微細気泡発生装置を用いることもできる。
【0023】
このような構成とすれば、微細気泡発生器を水中へ投入し、水上若しくは地上に配置した液体ポンプおよび気体ポンプからそれぞれ水、空気を気水導入経路へ送給することにより、一つの気水導入経路を経由して空気混じりの水を前記微細気泡発生器へ供給して、微細気泡混じりの水を水中へ供給することが可能となる。このため、液体ポンプおよび気体ポンプから微細気泡発生器に至る配管経路を一本化することができ、設備の簡素化を図ることができる。
【0024】
さらに、前記微細気泡発生手段として、
流体が軸心の周りを旋回可能な筒体状若しくは回転体状の流体旋回室と、前記軸心とねじれの位置をなす方向に沿って前記流体旋回室内へ水を送給するように配置された水導入経路と、前記流体旋回室内へ空気を送給するため前記流体旋回室に連通して設けられた空気導入経路と、前記流体旋回室から微細気泡混じりの水を排出するため前記軸心の延長線上に設けられた吐出経路とを備えた微細気泡発生器と、
水中に浸漬可能な部分に設けられた吸込口から吸い込んだ水を、前記水導入経路を経由して前記流体旋回室内へ送給する防水性の液体ポンプと、
前記液体ポンプを作動させる防水性の駆動機と、を一体化させた微細気泡発生部と、
前記微細気泡発生部の前記空気導入経路を経由して前記流体旋回室内へ空気を送給する気体ポンプと、
を備えた微細気泡発生装置を用いることもできる。
【0025】
このような構成とすれば、微細気泡発生部を水中へ投入して駆動機を作動させるとともに、水上若しくは地上に配置した気体ポンプから前記微細気泡発生器へ空気を送給するだけで、流体旋回室内に流体旋回流が形成され、これによって発生する微細気泡混じりの水を水中へ供給することが可能となるため、水域浄化方法を容易に実施することができる。微細気泡発生部は、微細気泡発生器、液体ポンプおよび駆動機が一体化された構造であるため、水の導入経路となる配管を最小限とすることができ、設備の簡素化、小型化を図ることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明により、複雑な設備を必要とせず、自然環境や魚貝類に悪影響を与えることなく、水域底部の有機物汚泥を効率良く浄化するとともに水質の清浄化も図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、図面に基づいて、本発明の実施の形態について説明する。図1は本発明の実施の形態である海域浄化方法を利用した魚貝類養殖場を示す概略構成図、図2は図1に示す魚貝類養殖場における管理システムを示す部分拡大図である。
【0028】
図1に示すように、一定の海域に浮かべられた筏51とその下方の海中に配置された網52などによって形成された生け簀50と、生け簀50に隣接して配置された筏71上に設けられた管理システム70とによって魚類養殖場80が形成されている。生け簀50の網52の内部には養殖魚である多数の鯛53が飼育されるとともに、海中に微細気泡発生部1が配置され、生け簀50が設けられた海域の底部54aに大量のイトゴカイ(Capitella属 sp.1)55が撒布されている。これにより、イトゴカイ55の撒布領域である底部54a上の海水W中に微細気泡発生部1が配置された状態となっている。
【0029】
イトゴカイ55は、約80万〜160万個体のイトゴカイ培養コロニーを培養基質の砂とともにビニル袋に入れたものをダイバーが潜水して底部54aまで運んだ後、底部54a付近でビニル袋を破って、イトゴカイ培養コロニーを培養基質の砂と一緒に静かに底部54aに撒布したものである。なお、魚類養殖場80内における水質観測の結果によれば、底部54aに有機物汚泥が集中して堆積する時期が、夏季の成層構造が崩れて鉛直混合が発生する時期に起きることが判明しているため、この時期にイトゴカイ培養コロニーを撒布することが、有機物汚泥54bの浄化を行う上で最も効果的なタイミングであると考えられる。
【0030】
生け簀50中に配置された微細気泡発生部1はワイヤ1aによって一定位置に係止されており、管理システム70を構成する発電機72から供給される交流電流で作動し、生け簀50内から吸い込んだ海水Wと気体ポンプ73から送給される空気とによって形成される微細気泡NB混じりの海水Wを生け簀50内へ吐出する。本実施形態では、魚類養殖場80が設けられた海域の底部54までの水深は約14mであり、微細気泡発生部1は海面W1から水深7mの位置に配置しているが、これに限定するものではなく、ワイヤ1aを下降させたり、引き上げたりすることによって、微細気泡発生部1の位置を変更することができる。
【0031】
筏71上の管理システム70は、図2に示すように、発電機72、気体ポンプ(エアコンプレッサ)73、海水W中の溶存酸素量などを自動測定する水質測定装置74、測定結果を無線送信する送信機77aおよびアンテナ77b、水質測定装置74および送信機77aなどを作動させる蓄電池(図示せず)を充電するための太陽電池パネル76、発電機72および気体ポンプ73などを操作する配電盤75を備えている。水質測定装置74は、ワイヤ74aに係止されたセンサ74bを備え、ワイヤ74aを巻き取ったり、捲き出したりすることによってセンサ74bは海水W中を昇降可能であり、予め設定された複数の水深における海水Wの水質および潮流の流向流速を自動測定することができる。
【0032】
測定結果は送信機77aからアンテナ77bを経由して無線送信され、携帯電話の回線を通してインターネット上のデータサーバに転送され、随時、ウェッブサイト上で閲覧することができる。本実施形態においては、海水Wの水質の鉛直プロファイルを2時間ごとに測定し、流向流速の鉛直プロファイルを1時間ごとに測定して、その測定結果を送信するようにいるが、測定条件はこれらに限定するものではない。
【0033】
このような構成とすることにより、魚類養殖場80の水質構造や潮流の状態を、現象発生から2時間以内にモニターすることが可能となるため、生け簀50のある海水Wの溶存酸素量低下の監視、溶存酸素量低下を防止するための微細気泡発生部1の稼働および稼働に伴う効果の検証、あるいは有機汚泥の堆積を招く水質構造発生の監視などを行うことができる。これにより、魚類養殖場80の水質環境の管理および環境改善技術の効果的な運用に不可欠な情報を迅速に入手することができる。
【0034】
次に、図3〜図9を参照して、微細気泡発生部1の構造、機能などについて詳しく説明する。図3は図1に示す微細気泡発生装置付近の部分拡大図、図4は図3に示す微細気泡発生装置の一部省略平面図、図5は図3に示す微細気泡発生装置を構成する微細気泡発生器を示す一部切欠側面図、図6は図5におけるA−A線断面図、図7は図5におけるB−B線断面図、図8は図5におけるC−C線断面図、図9は図5におけるD−D線断面図である。
【0035】
図3,図4に示すように、微細気泡発生部1は、防水性の液体ポンプ2と、液体ポンプ2を作動させる駆動機である防水性の電動機3と、微細気泡発生器4と、を一体的に連結した構造である。電動機3は、海上の筏71(図1参照)上に配置された発電機72から電源コード5を介して給電され、配電盤75に設けられたスイッチ(図示せず)によってON−OFFすることができる。液体ポンプ2は電動機3の回転軸(図示せず)と同軸上に連結され、吸引口2aから吸い込んだ海水Wを吐水部8を経由して微細気泡発生器4の水導入経路15へ供給する。
【0036】
微細気泡発生器4は概略形状が円筒形であり、その下部には、筏71(図1参照)上に配置された気体ポンプ73から送給される大気中の空気を導入するための給気管9の先端部が接続され、給気管9の基端部は気体ポンプ73に接続されている。給気管9の途中には、海水Wが海上方向に逆流するのを防ぐための逆止弁13が設けられている。
【0037】
図5〜図7に示すように、微細気泡発生器4は、流体(海水および空気)が軸心S周りを旋回可能な流体旋回室14を内蔵する円筒ケーシング4aと、流体旋回室内14内へ海水Wを導入して流体旋回流Rを発生させるために流体旋回室14内へ海水Wを噴出する水導入経路15と、流体旋回室14内へ空気を導入するため流体旋回室14と連通して形成された空気導入経路16と、流体旋回室14の軸心S方向の端部に形成された吐出経路17とを備えている。吐出経路17は、円筒ケーシング4aの軸心Sと直交する平面状の隔壁17aの中心部分(軸心Sとの交差部分)に形成されている。
【0038】
水導入経路15は円筒ケーシング4aより外径の小さな円筒形であり、その基端部には液体ポンプ2の吐水部8との連結部15cが設けられ、その先端部は、流体旋回室14の吐出経路17と反対側の端部において流体旋回室14内へ突出して配置され、その先端部分は閉塞板15aで閉塞されている。図9に示すように、流体旋回室14内に位置する水導入経路15の外周には、流体旋回室14の軸心Sとねじりの位置をなす方向に沿って海水Wを噴出するための複数の噴出口15bが設けられている。本実施形態では、噴出口15bは、軸心Sを中心に等角度間隔で6個配置するとともに、これら6個の噴出口15bを同じ位相で、軸心S方向に2段配置することにより、合計12個設けているが、これらの個数および配置形態に限定するものではない。
【0039】
図6に示すように、空気導入経路16は、水導入経路15の側面部を貫通してその内部へ進入し、軸心S方向へ直角に曲がった後、その先端開口部16aが閉塞板15aの表面側(流体旋回室14側)に開口している。水導入経路15の側面に突出した空気導入経路16に給気管9の基端部が着脱可能に連結されている。従って、給気管9から送られる空気は空気導入経路16を経由して、閉塞板15a表面に開口した先端開口部16aから流体旋回室14内に直接供給される。
【0040】
図6,図7に示すように、流体旋回室14を内蔵する円筒ケーシング4aの吐出経路17の外側において、この吐出経路17と対向する位置には、軸心Sと交差する平面18aを有する円板状の誘導部材18が配置されている。誘導部材18は、円弧状をした3つの連結部材18b,18cを介して円筒ケーシング4aの先端部分に接合されており、これらの連結部材18b,18cの間に形成された3つの吹き出し口19から、後述する、微細気泡NB混じりの海水Wを海中へ吹き出すことができる。なお、これら3つの吹き出し口19は、平面視状態において、電動機3の配置方向を除く3方向へ90度間隔で配置されている。
【0041】
図1で示したように、微細気泡発生部1を生け簀50内の海水W中に投入し、海水W中で起立状態に保持し、配電盤75のスイッチ(図示せず)を操作して電動機3を作動させると、海水ポンプ2の吸引口2aから吸い込まれた海水Wが吐水部8から水導入経路15へ流れ込み、噴出口15bを経由して流体旋回室14内へ噴出される。このとき、海水Wの噴出方向は流体旋回室14の軸心Sとねじれの位置をなす方向となっているため、流体旋回室14内には軸心S周りに旋回する海水流が発生するとともに、この海水流の一部は吐出経路17から海水W中へ排出される。
【0042】
このとき、図6に示すように、流体旋回室14内の軸心S付近には負圧空洞部Vが発生し、この負圧空洞部Vの存在によって流体旋回室14内が負圧となるため、流体旋回室14と連通する空気導入経路16および給気管9を経由して大気中の空気が円滑に導入され、空気導入経路16の先端開口部16aから流体旋回室14内へ流入する。これにより、流体旋回室14内には、軸心S付近に位置する負圧空洞部Vと、その周りを回転する空気混じりの海水とからなる旋回流(例えば、旋回二層流とも呼ばれる。)が形成される。
【0043】
このような旋回流が流体旋回室14内に形成されている状態において、空気導入経路16の先端開口部16aを経由して流体旋回室14内へ導入された空気は前述した旋回流の剪断作用によって微細化され、流体旋回流Rとなって流体旋回室14内を高速旋回する。そして、流体旋回流Rはやがて流体旋回室14の隔壁17a方向へ移動し、この隔壁17aに当接することによって吐出経路17に向かって収束し、流体旋回室14の内径より細い吐出経路17を通過することによって、さらに高速で旋回する微細気泡NB混じりの海水となった後、生け簀50内の海水W中へ吐出される。即ち、大気中から吸い込んで給気管9を経由して送給された空気を流体旋回室14内で微細気泡NBに変化させて海水W中へ供給することができる。
【0044】
従って、図1に示すように、海水Wおよび大気中の空気を微細気泡発生部1に供給して流体旋回室14内に形成される流体旋回流Rによって発生する微細気泡NB混じりの海水Wを、イトゴカイ55の撒布領域上(底部54a上)の海水域に供給することができる。これらの微細気泡NBは極めて微細であり、外径ナノメートルレベルの微細気泡NBが大量に含まれているため、海水W中における浮上速度が極めて小さい。このため、単に海水W中での滞留時間が長いだけでなく、その大部分は時間の経過とともに底部54aに向かって沈降する現象が生じる。また、外径ナノメートルレベルの微細気泡NBが海水W中に供給されることによって海水W中への酸素溶解が促進されるため、飽和濃度レベルまで酸素が溶解して周囲の海水よりも比重の増大した海水Wが底部54aに向かって下降する現象も生じ、これによって底層の貧酸素領域の解消が進行していると考えられる。
【0045】
従って、微細気泡発生部1が底部54aから離れた位置に配置されていても、底層海水の溶存酸素が飽和状態に達して、底部54aの有機物汚泥54b中に効率良く酸素が供給されるようになる。このため、底部54aに撒布されたイトゴカイ55に充分な酸素が供給され、イトゴカイ55の生命活動および増殖能力が活性化され、その個体数が著しく増大するので、イトゴカイ55に共生する有機物分解細菌(図示せず)も増殖する。このため、増殖した有機物分解細菌の分解能力により、底部54aの有機物汚泥54bを効率良く分解浄化することができる。
【0046】
流体旋回室14内に発生する流体旋回流Rによって形成される外径ナノメートルレベルの微細気泡NBが、海水W中において、時間の経過とともに沈降する性質を示す理由については、不明な点も多いが、気泡自体の浮力で浮上する分は少なく、微細気泡NBの大部分は海水鉛直混合流とともに、表層または底層へ移動・分散することによるものではないか、と推測される。また、流体旋回流Rが発生している流体旋回室14内およびその近傍では超音波が発生することが確認されているため、この超音波の放射圧の作用によって微細気泡NBが下降するのではないかとも推測される。
【0047】
また、海水中へ空気を吹き込んで形成される従来の微細気泡の場合、その内圧が大気圧より大であるため海水中で壊れにくく、その殆どが海面まで上昇して消失するのに対し、微細気泡発生器4から供給される微細気泡NBは、流体旋回室14内に発生する流体旋回流Rにより負圧雰囲気下で形成されるため、その内圧は大気圧より小さく、海水W中で消失しやすい傾向がある。このため、消失した微細気泡NBに内包されていた空気中の酸素が海水W中へ溶解して、溶存酸素量の増加に寄与していることも予測される。また、これらの微細気泡NBが海水W中で消失するときに発生する超音波の放射圧も微細気泡NBの下降に有効であると考えられる。
【0048】
一方、底部54aにおいてイトゴカイ55が高密度に増殖した地点では、その底質表層において有機物の分解促進および嫌気性の酸揮発性硫化物の酸化が促進されていることも確認された。従って、魚類養殖場80において、イトゴカイ培養コロニー撒布と、海水W中への微細気泡NBの供給とを行うことにより底部54,54aの有機物汚泥を確実に浄化することができる。また、イトゴカイ55が増殖した海域では海水W中のアンモニア濃度が急速に減少し、硝酸塩・亜硝酸塩濃度の上昇が見られたが、このような現象は、イトゴカイ55の生物活性や代謝活動により、アンモニアなどの窒素化合物を硝酸イオンに変化させる働きを有する微生物(硝化菌)の活性が高まったことを示すものではないかと推測される。
【0049】
また、生け簀50内に供給された微細気泡NBの大部分は海水W中に長期間にわたって滞留し続け海水W中で徐々に消失していく結果、海水Wの溶存酸素量が高まるため、貧酸素領域が無くなり、好気性微生物による浄化作用も活性化され、これによっても海水Wの清浄化を図ることができる。さらに、微細気泡発生部1を作動させ、生け簀50内の海水W中に微細気泡NB混じりの海水を供給することにより、この海域の表層から底部54a付近の底層に至るまで、効率良く酸素を溶解させることができるため、養殖されている鯛53の生命活動が活性化され、生育状態も促進される結果、従来方法と比べると、同じ飼育期間で約10%程度の体長増加が見られた。なお、本実施形態では鯛53を養殖する場合について説明しているが、本発明の利用分野はこれに限定するものではないので、ハマチ、フグ、クルマエビ、ホタテ、アワビ、カキ、真珠貝などの魚貝類の養殖場あるいはワカメ、コンブ、カジメなどの海草類の養殖場などにおいても広く利用することができる。
【0050】
イトゴカイ55およびその共生細菌は古代より自然界に生息し続ける生物であり、微細気泡発生部1はイトゴカイ55に充分な酸素を与える目的で、微細気泡NB混じりの海水Wを海中へ供給するものであるため、周辺海域の自然環境や魚貝類に悪影響を及ぼすことがない。また、海底にイトゴカイ55を撒布し、比較的浅い海域に配置した微細気泡発生部1を用いて微細気泡NB混じりの海水Wを海域に供給すればよいので、複雑な設備も必要としない。
【0051】
本実施形態においては、微細気泡発生部1を海中へ投入して電動機3を作動させるとともに、海上に配置した気体ポンプ73から微細気泡発生器4へ空気を送給するだけで、流体旋回室14内に流体旋回流Rが形成され、これによって発生する微細気泡NB混じりの海水Wを海中へ供給することができるため、魚類養殖場80のある海域を容易に浄化することができる。微細気泡発生部1は、微細気泡発生器4、液体ポンプ2および電動機3が一体化された構造であるため、海水Wの導入経路となる配管を最小限とすることができ、設備の簡素化、小型化を図ることができる。また、微細気泡発生部1は、微細気泡発生器4、液体ポンプ2および電動機3を一体化することで小型化を図っているため、占有スペースが小さくてすむ。このため、生け簀50内で養殖されている鯛53や魚類養殖場80付近の海流などに対する影響も極めて小さい。なお、微細気泡発生部1を連続的に作動させれば生け簀50内およびその周辺海域の海水W中の溶存酸素量を飽和濃度レベルに保つことができるが、生け簀50内の海水Wの溶存酸素量が低下する夕方から翌朝にかけて作動させるだけであっても、充分な酸素供給効果を得ることができる。
【0052】
魚類養殖場80内において、海底環境が回復する秋から冬に、予め培養しておいた大量のイトゴカイ培養コロニーを有機物汚泥54bが堆積する底部54aに撒布するとともに微細気泡発生部1を用いて微細気泡NBを海水W中へ供給することにより、自然現象では起こり得ない高密度個体群を短期間に発生させることにより、底部54aに堆積した有機物汚泥54bを効率的に浄化することができる。また、有機物汚泥54bの堆積した魚類養殖場80の底部54,54a付近における貧酸素水の発生を無くすことができるため、酸素低下に伴う養殖魚(鯛53)の活動低下、生育不良などを防止することができる。
【0053】
微細気泡発生部1から生け簀50内の海水W中へ微細気泡NBを供給すると、微細気泡NBは水平方向だけでなく鉛直方向にも広がり、表層から底層(水深14m程度)に至るまで、1〜2mg/L程度の溶存酸素量の上昇を確認することができた。また、1基の生け簀50について、微細気泡発生部を1基配置すれば、表層から海底付近の底層まで、溶存酸素量を効率良く高めることができることも分かった。
【0054】
本実施形態の微細気泡発生部1は、ポンプ2、電動機3および微細気泡発生器4が一体化されているため、そのままの状態で自由に移動させることが可能であり、微細気泡発生部1全体を海水W中に浸漬した状態で電動機3を作動させるだけで海水W中に微細気泡NB混じりの海水を供給することができるため、使い方は極めて容易である。また、海上の筏上に配置された発電機が稼働している限り、電動機3によって連続作動させることができるため、大量の微細気泡NBを海水W中へ安定供給することができる。
【0055】
微細気泡発生部1においは、水導入経路15の噴出口15bを、流体旋回室14の内周面14aから離れた位置に設けているため、噴出口15bから噴き出す水によって負圧空洞部Vに水圧が加わることがない。したがって、負圧空洞部Vは流体旋回室14の軸心S上にほぼ直線状に形成され、その位置および形状も安定した状態が保たれることとなり、キャビテーションエロージョンの発生が防止されるため、微細気泡発生器4は優れた耐久性を発揮する。
【0056】
また、空気導入経路16の先端開口部16aを、流体旋回室14の軸心S上に配置しているため、流体旋回室14内の流体旋回流Rによって軸心S付近に発生する負圧空洞部Vに生じる大きな負圧を利用して、大気中の空気を効率良く流体旋回室14内へ導入して微細気泡NBを形成することができる。
【0057】
一方、隔壁17aに開設された吐出経路17と対向する位置に、軸心S方向と交差する平面18aを有する誘導部材18を配置しているため、吐出経路17から旋回しながら吐出された微細気泡NB混じりの海水を誘導部材18の平面18aに沿って周辺へ拡がるように誘導した後、3つの吹き出し口19から互いに異なる3つの方向へすることが可能であり、微細気泡NBの拡散性も良好である。
【0058】
また、これによって流体旋回室14内の負圧レベルが高まり、大量の空気が流体旋回室14内へ導入されるようになるため、微細気泡NBの発生量も増大する。さらに、流体旋回室14内に生じている負圧空洞部Vの負圧により、微細気泡発生器4外部の吐出経路17付近の海水Wが、吐出経路17へ誘引されるのを当該誘導部材18が阻止するので、流体旋回室14内への海水Wの逆流入を防止することができる。
【0059】
本実施形態は、自然閉鎖水域の一つである湾内に設けられた魚類養殖場80において水域浄化を行った事例であるが、イトゴカイ55は、海水と河川などから流入する淡水とが混合して形成される汽水が恒常的にあるいは季節的に存在する河口域や内湾(いわゆる汽水域)の底部においても生息可能である。このため、本発明の水域浄化方法は、このような汽水域においても利用可能であり、その場合においても前述したような優れた水域浄化作用を得ることができる。
【0060】
ここで、図10を参照して、微細気泡発生器4に関するその他の実施の形態について説明する。図10に示す微細気泡発生器4Xにおいては、流体旋回室14の内周面14aの接線方向に排出口36を開設し、この排出口36に開閉弁35aを有する排出管35を連結している。通常運転の際、開閉弁35aは閉じられているが、流体旋回室14内にゴミや異物などが侵入した場合、開閉弁35aを開いて排出することができる。排出口36が流体旋回室14の内周面14aの接線方向を向いていれば、排出口36の位置は、円筒ケーシング4aのどの位置であってもよいが、流体旋回室14の内径が一定でない場合は、最大内径部分に設けることが望ましい。その他の部分の構造、機能などは微細気泡発生器4と同様である。
【0061】
次に、図11〜図14を参照して、微細気泡発生器に関するその他の実施の形態について説明する。図11は微細気泡発生器に関する第2実施形態を示す図、図12は図11に示す微細気泡発生器の斜視図、図13は図12におけるE−E線断面図、図14は図11に示す微細気泡発生器の稼働状態を示す模式図である。
【0062】
図11〜図14に示すように、微細気泡発生器20は、略直方体形状のケーシング21内に流体(海水および空気)が旋回可能な円筒状の流体旋回室22が設けられ、流体旋回室22の軸心S方向の中央部分の内周面22aには、その法線方向に、空気を導入するための1つの空気導入経路24が開設され、この空気導入経路24を挟む両端寄り部分には、流体旋回室22の内周面22aの接線方向に、海水を導入可能な2つの水導入経路23が開設されている。
【0063】
これらの水導入経路23および空気導入経路24は、それぞれケーシング21を貫通して形成され、ケーシング21外面のそれぞれの開口部分に水導入管23a、空気導入管24aが接続されている。2本の水導入管23aは、その上流側で一本化された状態で送水管23bに連結され、空気導入管24aはそのまま送水管23b方向に延長されている。
【0064】
また、流体旋回室22の軸心S方向の両端部には、軸心Sと直交する平面状の隔壁21aが設けられ、これらの隔壁21aの中心部分(軸心Sとの交差部分)には、それぞれ円形の吐出経路25が開設され、2つの吐出経路25にそれぞれ誘導管26が連結されている。誘導管26は、後述するように、吐出経路25から吐出される微細気泡NB混じりの海水の吐出方向に沿って直線状に突出するように連通され、この誘導管26によって、その吐出方向を規制している。
【0065】
図1と同様に、生け簀60内の海水W中へ微細気泡発生器20を浸漬し、筏71上に配置した液体ポンプ(図示せず)から送水管23bおよび水導入管23aを経由して海水を圧送し、水導入経路23から流体旋回室22内へ海水を圧送するとともに、気体ポンプ73(図1参照)から空気導入管24aを経由して空気導入経路24から流体旋回室22内へ空気を流入させると、流体旋回室22内に軸心S周りの流体旋回流Rが発生するとともに、軸心S付近には負圧空洞部Vが形成される。
【0066】
空気導入経路24から流体旋回室22内に流入する空気は、流体旋回流Rの剪断作用によって細かく砕かれ、負圧空洞部Vの周りを回転しながら微細気泡NBとなっていき、やがて、吐出経路25から微細気泡NB混じりの海水となって吐出される。吐出経路25から吐出された微細気泡NB混じりの海水は、誘導管26によって誘導されながら生け簀50内の海水W中へ吐出される。これによって、海水W中の溶存酸素量が高まり、微細気泡発生部1を用いた場合と同様の作用効果を得ることができる。
【0067】
また、気体ポンプ73で空気を圧送することにより、微細気泡NBと共に、微細気泡NBよりも外径が大きな気泡(外径が数mm程度と推測される)を発生させることもできるので、これらの気泡によって海水Wを撹拌する作用も得ることができる。なお、酸素富化膜を内蔵した酸素富化器(図示せず)を空気送給経路の途中に設け、酸素濃度を高めた空気を微細気泡発生器20の流体旋回室22に送り込めば、酸素濃度の高い微細気泡NBを海水W中へ供給することができるため、海水W中の溶存酸素濃度を大幅に高めることができる。
【0068】
さらに、本実施形態では、微細気泡発生器20の吐出経路25に誘導管26を設けているため、吐出経路25から吐出される微細気泡NB混じりの海水は、周囲の海水Wに邪魔されることなく、速やかに一定方向へ吐出される。従って、周囲の海水Wが吐出経路25内へ誘引されたり、流体旋回室22内へ海水Wが逆流入したりすることがなくなり、流体旋回室22内に発生している負圧レベルが大幅に高まり、大量の微細気泡NBを安定供給することができる。また、微細気泡NB混じりの海水が誘導管26を通過して海水W中へ放出されることにより、流動方向が収束され、その直進性が向上するため、生け簀50内のより遠い領域へ微細気泡NBを供給することが可能であり、周囲の海水Wに対する撹拌作用も発揮する。微細気泡発生器20は、筏上に配置した液体ポンプなどから海水を供給する方式であるため、海中投入部分を微細気泡発生部1よりも小型化することができる。このため、魚類養殖場で使用した場合、養殖されている魚貝類や付近の海流に対する影響をさらに小さくすることができる。
【0069】
ここで、図15を参照して、微細気泡発生器20に関するその他の実施の形態について説明する。図10に示す微細気泡発生器20Xにおいては、流体旋回室22の内周面22aの接線方向に排出口38を開設し、この排出口38に開閉弁37aを有する排出管37を連結している。図10で示した微細気泡発生器4Xと同様、通常運転の際、開閉弁37aは閉じられているが、流体旋回室22内にゴミや異物などが侵入した場合、開閉弁37aを開いて排出することができる。排出口38が流体旋回室22の内周面22aの接線方向を向いていれば、排出口38の位置は、ケーシング21のどの位置であってもよいが、水導入経路23と対向する位置に開設すれば、水導入経路23から流入する水流により、ゴミや異物などを迅速に排出することができる。また、流体旋回室22の内径が一定でない場合は、最大内径部分に設けることが望ましい。なお、水導入管23aからの海水Wの導入を止め、開閉弁37aを開いた状態にした排出管37を経由して、外部から流体旋回室22内へ海水Wを送り込むことも可能であり、その場合、流体旋回室22内に、流体旋回流Rと逆方向に旋回する気液旋回流を発生させることができる。その他の部分の構造、機能などは微細気泡発生器20と同様である。
【0070】
次に、図16〜図18を参照して、微細気泡発生器に関するその他の実施の形態について説明する。図16は微細気泡発生器に関する第3実施形態を示す斜視図、図17は図16におけるF−F線断面図、図18は図16に示す微細気泡発生器の稼働状態を示す模式図である。なお、図16〜図18に示す微細気泡発生器において、前述した微細気泡発生器20と同じ構造、機能を有する部分については図11〜図14に示す符号と同じ符合を付して説明を省略する。
【0071】
図16〜図18に示すように、微細気泡発生器30は、前述した微細気泡発生器20における空気導入経路24および空気導入管24aを無くした構造であり、その他は微細気泡発生器20と同じである。微細気泡発生器30においては、海水と空気との混合流体を流体送給管33bおよび流体導入管33aを経由して送給し、この混合流体を流体旋回室32の内周面の接線方向に配置された流体導入経路33から流体旋回室32内へ導入して高速旋回させることによって発生させた微細気泡NB混じりの海水を吐出経路25および誘導管26を通して生け簀50内の海水中へ供給する。
【0072】
微細気泡発生器30の場合、1本の流体送給管33bを経由して、海水と空気との混合流体を流体旋回室32内へ送給することによって微細気泡NB混じりの海水を吐出することができるため、長尺の空気送給管などが不要であり、配管や取り扱いが容易で、空気送給管が目詰まりするおそれもない。また、海上から流体送給管33bを経由して送給する空気と海水との混合流体中の空気混入率を増減させることにより、発生する微細気泡NBの外径を増減させることができる。その他の構造、機能などは微細気泡発生器20と同様である。
【0073】
以上の実施形態においては、微細気泡発生器4,20,30などを海水W中に配置して海域を浄化する場合について説明しているが、本発明はこれらの実施形態に限定するものではなく、淡水域あるいは汽水域の浄化方法としても利用することができる。即ち、微細気泡発生器4,20,30などを淡水域中あるいは汽水域中に配置し、水および空気を微細気泡発生器4,20,30に供給して流体旋回室14,22,32内に形成される流体旋回流Rによって発生する微細気泡NB混じりの淡水を当該淡水域中へ供給することにより、これらの水域の底部に生息する底生生物に酸素を供給することもできる。これによって、淡水域や汽水域の水質および底質の浄化を図ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の水域浄化方法は、沿岸海域に設けられた魚貝類養殖場などの人工的な海域の清浄化手段として利用できるほか、自然海域あるいは淡水域の浄化手段としても広く利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の実施の形態である海域浄化方法を用いた魚貝類養殖場を示す概略構成図である。
【図2】図1に示す魚貝類養殖場の管理システムを示す部分拡大図である。
【図3】図1に示す微細気泡発生装置付近の部分拡大図である。
【図4】図3に示す微細気泡発生装置の一部省略平面図である。
【図5】図3に示す微細気泡発生装置を構成する微細気泡発生器を示す一部切欠側面図である。
【図6】図5におけるA−A線断面図である。
【図7】図5におけるB−B線断面図である。
【図8】図5におけるC−C線断面図である。
【図9】図5におけるD−D線断面図である。
【図10】図5に示す微細気泡発生器に関するその他の実施の形態を示す断面図である。
【図11】微細気泡発生器に関する第2実施形態を示す図である。
【図12】図11に示す微細気泡発生器の斜視図である。
【図13】図12におけるE−E線断面図である。
【図14】図11に示す微細気泡発生器の稼働状態を示す模式図である。
【図15】図11に示す微細気泡発生器に関するその他の実施の形態を示す断面図である。
【図16】微細気泡発生器に関する第3実施形態を示す斜視図である。
【図17】図16におけるF−F線断面図である。
【図18】図16に示す微細気泡発生器の稼働状態を示す模式図である。
【符号の説明】
【0076】
1 微細気泡発生部
1a,74a ワイヤ
2 液体ポンプ
2a 吸引口
3 電動機
4,4X,20,20X,30 微細気泡発生器
4a 円筒ケーシング
5 電源コード
8 吐水部
9 給気管
13 逆止弁
14,22,32 流体旋回室
14a,22a 内周面
15,23 水導入経路
15a 閉塞板
15b 噴出口
15c 連結部
16,24 空気導入経路
16a 先端開口部
17,25 吐出経路
17a,21a 隔壁
18 誘導部材
18a 平面
18b,18c 連結部材
19 吹出口
21 ケーシング
23a 水導入管
23b 送水管
24a 空気導入管
26 誘導管
33 流体導入経路
33a 流体導入管
33b 流体送給管
35,37 排出管
35a,37a 開閉弁
36,38 排出口
50 生け簀
51,71 筏
52 網
53 鯛
54,54a 底部
54b 有機物汚泥
55 イトゴカイ
70 管理システム
72 発電機
73 気体ポンプ
74 水質測定装置
74b センサ
75 配電盤
76 太陽電池パネル
77a 送信機
77b アンテナ
80 魚類養殖場
NB 微細気泡
R 流体旋回流
S 軸心
V 負圧空洞部
W 海水
W1 海面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体旋回室を内蔵した微細気泡発生手段を浄化対象である水域中に配置し、前記微細気泡発生手段に水および空気を供給して前記流体旋回室内に形成される流体旋回流によって発生する微細気泡混じりの水を前記水域中へ供給することにより、前記水域の底部に生息する底生生物に酸素を供給することを特徴とする水域浄化方法。
【請求項2】
浄化対象である海水域の底部にイトゴカイ類を撒布し、流体旋回室を内蔵した微細気泡発生手段を前記イトゴカイ類の撒布領域上の海水域中に配置し、前記微細気泡発生手段に海水および空気を供給して前記流体旋回室内に形成される流体旋回流によって発生する微細気泡混じりの海水を前記海水域中へ供給することを特徴とする水域浄化方法。
【請求項3】
前記微細気泡発生手段として、
流体が軸心の周りを旋回可能な筒体状若しくは回転体状の流体旋回室と、前記軸心とねじれの位置をなす方向に沿って前記流体旋回室内へ水を送給するように配置された流体導入経路と、前記流体旋回室内へ空気を送給するため前記流体旋回室に連通して設けられた空気導入経路と、前記流体旋回室から微細気泡混じりの水を排出するため前記軸心の延長線上に設けられた吐出経路とを備えた微細気泡発生器と、
前記水導入経路を経由して前記流体旋回室内へ水を供給する液体ポンプと、
前記空気導入経路を経由して前記流体旋回室内へ空気を供給する気体ポンプと、
を備えた微細気泡発生装置を用いた請求項1または2記載の水域浄化方法。
【請求項4】
前記微細気泡発生手段として、
流体が軸心の周りを旋回可能な筒体形状若しくは回転体形状の流体旋回室と、前記軸心とねじれの位置をなす方向に沿って前記流体旋回室内へ空気混じりの水を送給するように配置された気水導入経路と、前記流体旋回室から微細気泡混じりの水を排出するため前記軸心の延長線上に配置された吐出経路とを備えた微細気泡発生器と、
前記気水導入経路を経由して前記流体旋回室内へ水を供給する液体ポンプと、
前記気水導入経路を経由して前記流体旋回室内へ空気を供給する気体ポンプと、
を備えた微細気泡発生装置を用いた請求項1または2記載の水域浄化方法。
【請求項5】
前記微細気泡発生手段として、
流体が軸心の周りを旋回可能な筒体状若しくは回転体状の流体旋回室と、前記軸心とねじれの位置をなす方向に沿って前記流体旋回室内へ水を送給するように配置された水導入経路と、前記流体旋回室内へ空気を送給するため前記流体旋回室に連通して設けられた空気導入経路と、前記流体旋回室から微細気泡混じりの水を排出するため前記軸心の延長線上に設けられた吐出経路とを備えた微細気泡発生器と、
水中に浸漬可能な部分に設けられた吸込口から吸い込んだ水を、前記水導入経路を経由して前記流体旋回室内へ送給する防水性の液体ポンプと、
前記液体ポンプを作動させる防水性の駆動機と、を一体化させた微細気泡発生部と、
前記微細気泡発生部の前記空気導入経路を経由して前記流体旋回室内へ空気を送給する気体ポンプと、
を備えた微細気泡発生装置を用いた請求項1または2記載の水域浄化方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate


【公開番号】特開2006−314954(P2006−314954A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−141595(P2005−141595)
【出願日】平成17年5月13日(2005.5.13)
【出願人】(597073405)株式会社 多自然テクノワークス (12)
【出願人】(505176822)
【出願人】(505176844)株式会社恵天 (2)
【Fターム(参考)】