説明

水平支承装置

【課題】構造を簡単にすると共に、全方向にわたってせん断変形により水平力を分散させることができる水平支承装置を提供する。
【解決手段】水平方向にせん断変形して、上部構造物1の水平荷重を支持する積層ゴム体2を備えた水平支承装置であって、前記積層ゴム体2の上部鋼板21上面に上沓13が固定され、かつ上部構造物1の下面にソールプレート10が固定され、上沓13とソールプレート10との間には隙間g1が形成され、前記ソールプレート10が前記上沓13よりも水平方向に張り出しており、この張り出し部の下面にキーストッパ15が突設され、該キーストッパ15にはボルト挿通孔16が穿設され、上沓13の端面にはキーストッパ15のボルト挿通孔16を挿通した拘束ボルト17が螺着され、前記ボルト挿通孔は、上部構造1の活荷重による回転変形により追随する該拘束ボルトの移動を拘束しない隙間を形成する大きさである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋梁、陸橋、建築構造物、機械等の構造物を支承する、いわゆる機能分離型支承装置のうち、特に水平方向の荷重を支持するための水平支承装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、橋梁などの上部構造物と橋脚などの下部構造物との間に支承装置を配置し、上部構造物から作用する力を下部構造物に伝達して、上部構造の荷重の載荷によるたわみやねじれ変形を吸収することが行われている。
荷重伝達機能には、鉛直力支持機能と水平力支持機能とがある。従来の橋梁用支承装置は、各機能を集約させた機能一体型支承装置が多かった。機能一体型支承は各機能を集約させるために支点構造が簡素であるという利点はあるが、各々の機能の兼ね合いにより支承部が大型化するケースや、支承部に局部的な損傷や一部の機能不全が生じた場合に他の機能にその影響が大きく波及するという懸念もある。
【0003】
このようなことから、近時、上部構造物の鉛直荷重を支持する鉛直支承装置と、上部構造物の鉛直荷重を支持することなく、弾性体が水平方向にせん断変形して上部構造物の水平荷重を支持する水平支承装置とを備えた機能分離型支承装置が提案されている(特許文献1)。
【0004】
特許文献1に開示されている水平支承装置は、図4に示すように、下部構造物30の上面に固定され、上部に上部構造物との間に隙間C1を形成する方形のフランジプレート31(上部鋼板)を有する弾性体32と、前記上部構造物の下面に固定され前記フランジプレート31の橋軸方向及び橋軸直角方向に沿う周面に係合可能で且つ該フランジプレート31の下面に隙間を介して係合するサイドブロック33とを備えている。サイドブロック33の下部には係合片34が設けられる。弾性体32はフランジプレート31と下部鋼板(図示せず)との間に鋼板とゴム層とを交互に積層し、加硫接着により同時成形したものである。
【0005】
【特許文献1】特許第3634288号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記水平支承装置は、弾性体32がせん断変形して水平荷重を支持すると共に、上部構造物に回転が生じても、前記した隙間によって回転を許容することができ、さらに上揚力に対しても前記した係合片34がフランジプレート31に係合し、これにより、弾性体20を介して上下部構造物間で上揚力を伝達することができ、上部構造物の落下を防止することができる。
【0007】
しかしながら、弾性体20は、該弾性体の本体からはみ出した大きなフランジプレート31を有し、かつ該フランジプレート31を抱え込むようにサイドブロック33が上沓35の下面に取付けられているため、構造が複雑になり、補修や部品の取り替えが容易でないという問題がある。
【0008】
本発明の課題は、補修や取り替えが容易になるように構造を簡単にすると共に、全方向にわたってせん断変形により水平力を分散させることができる水平支承装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明の水平支承装置は、上部構造物の鉛直荷重を支持することなく、水平方向にせん断変形して、前記上部構造物の水平荷重を支持する積層ゴム体を備えたものであって、前記積層ゴム体は、上部鋼板と下部鋼板との間に中間鋼板とゴム層とを交互に積層し一体に成形したものであり、前記上部鋼板の上面には上沓が固定され、かつ上部構造物の下面にソールプレートが固定され、前記上沓とソールプレートとの間には隙間が形成されており、前記ソールプレートおよび前記上沓の一方が他方よりも水平方向に張り出しており、この張り出し部にキーストッパが突設され、該キーストッパにはボルト挿通孔が穿設されており、前記ソールプレートおよび前記上沓の他方の端面には、前記キーストッパのボルト挿通孔を挿通した拘束ボルトが螺着されており、前記ボルト挿通孔は、前記上部構造物の活荷重による回転変形により追随する前記拘束ボルトの移動を拘束しない隙間を形成する大きさであることを特徴とする。
【0010】
上記水平支承装置では、上沓、ソールプレートおよび積層ゴム体の上部鋼板にまたがって、それらの中央部にせん断キーが内蔵されているのがよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、前記キーストッパのボルト挿通孔に拘束ボルトを挿通させ、上沓の端面に螺着させて、上沓とソールプレートとを固定するが、前記ボルト挿通孔は、上部構造物の活荷重による回転変形により追随する該拘束ボルトの移動を拘束しない隙間を形成しているので、ソールプレートの荷重や動きを上沓に伝達しない。
また、上部構造物に作用する水平荷重は、内蔵のせん断キーにより全方向にわたって積層ゴム体がせん断変形することにより水平力分散させることができる。さらに、上沓とソールプレートとを固定する構造が簡単であるので、補修や部品の取り替えも容易になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態にかかる水平支承装置について図面を参照して詳細に説明する。図1は本発明の一実施形態にかかる水平支承装置を示す一部破断正面図、図2は図1のA部分を拡大して示す拡大断面図である。
【0013】
図1に示す水平支承装置は、上部構造物1の鉛直荷重に対して非荷重状態で設置されており、四角柱状の積層ゴム体2を有している。積層ゴム体2は厚肉の上部鋼板21と下部鋼板22との間に複数枚の薄肉の中間鋼板23とゴム層24とを交互に積層し、加硫成形により一体に成形したものである。
【0014】
積層ゴム体2はボルト3により下沓4に固定され、この下沓4は、ベースプレート5にボルト6によって固定されている。ベースプレート5は、橋脚7に埋め込まれるアンカーボルト8を有している。
【0015】
一方、上部構造物1の桁フランジ9がソールプレート10上にボルト14によって固定される。ソールプレート10の下面には上沓13が隙間g1(遊間)をもって配置されている。この上沓13は積層ゴム体2の上部鋼板21とセットボルト11によって固定されている。
【0016】
前記ソールプレート10は、上沓13よりも水平方向(具体的には図1に矢印Xで示す橋軸直角方向)に張り出しており、この張り出し部の下面にキーストッパ15が下向きに突設され、該キーストッパ15にはボルト挿通孔16が穿設されている。キーストッパ15は、例えば溶接等によりソールプレート10に固定することができる。
一方、前記上沓13の端面には、前記キーストッパ15のボルト挿通孔16を挿通した拘束ボルト17が螺着されている。このとき、ボルト挿通孔16は拘束ボルト17よりも大きく形成されており(但し、ボルト挿通孔16は拘束ボルト17の頭部を挿通しない大きさである。)、ボルト挿通孔16の上部に隙間g2を形成している。
【0017】
拘束ボルト17による接合位置は特に限定されるものではないが、例えば図1に示すように橋軸直角方向(図1に矢印Xで示す)にある上沓13の2つの端面にそれぞれキーストッパ15を挿通した拘束ボルト17を螺着してもよく、あるいは上沓13の4辺の端面すべてにキーストッパ15を挿通した拘束ボルト17を螺着するようにしてもよい。上沓13の一端面に螺着される拘束ボルト17は1または2以上である。
【0018】
このように構成された水平支承装置では、上部構造物1が活荷重により回転を生じると、上沓13とソールプレート10との間に隙間g1があり、かつ拘束ボルト17が挿通したボルト挿通孔16の上部に隙間g2が形成されているので、上部構造物1の桁フランジ9の回転を吸収することができる。なお、前記隙間g1、g2は、桁の回転による変形量を考慮して調節するのがよく約5mm程度であればよい。
【0019】
また、桁フランジ9が温度変化による伸縮や地震などにより橋軸方向(矢印Y)または橋軸直角方向(矢印X)に水平荷重を受けた場合、せん断キーが水平力を伝達して弾性体20がせん断変形して同方向の水平荷重に応答する。また、上部構造物1に地震等により鉛直方向上向きの荷重(上揚力)が作用した場合には、拘束ボルト17が上揚力に抵抗し、積層ゴム体2を介して上下構造物間で上揚力を伝達することができ、上部構造物の落下を防止することができる。
【0020】
一方、上沓13、ソールプレート10および積層ゴム体2の上部鋼板21にまたがって、それらの中央部にせん断キー18が内蔵されている。従って、地震時の水平力は積層ゴム体2の全方向にわたるせん断変形により分散することができる。
【0021】
図3は本発明の他の実施形態を示している。同図に示すように、この実施形態では、上沓13'はソールプレート10'よりも水平方向(橋軸直角方向)に張り出しており、この張り出し部の下面にキーストッパ15'が上向きに突設され、該キーストッパ15'にはボルト挿通孔16'が穿設されている。一方、前記ソールプレート10'の端面には、前記キーストッパ15'のボルト挿通孔16'を挿通した拘束ボルト17'が螺着されている。このとき、ボルト挿通孔16'は拘束ボルト17'よりも大きく形成されており、ボルト挿通孔16'の上部に隙間g2を形成している。その他は前述の実施形態と同様であるので、同一符号を付して説明を省略する。
【0022】
以上のように、本発明では、キーストッパ15、15'のボルト挿通孔16、16'に拘束ボルト17、17'を挿通させ、上沓13、13'の端面に螺着させて、前記上沓13、13'とソールプレート10、10'とを固定し、拘束ボルト17、17'は前記ボルト挿通孔16、16'の少なくとも上部に隙間g2を形成しているので、鉛直方向の荷重や回転変形による動きを上沓13、13'に伝達しない。一方、水平方向の荷重や温度変化による動きはせん断キー18を介して上沓13、13'に伝達される。従って、地震時には全方向への分散が可能となる。しかも、上沓13、13'とソールプレート10、10'とを固定する構造が簡単であるので、補修や部品の取り替えも容易になる。
【0023】
なお、本発明は以上の実施形態に限定されるものではなく、種々の改良や変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施形態にかかる水平支承装置を示す一部破断概略正面図である。
【図2】図1の要部(A部)拡大概略断面図である。
【図3】本発明の他の実施形態にかかる水平支承装置を示す、図2と同様な要部拡大概略断面図である。
【図4】従来の水平支承装置を示す正面図である。
【符号の説明】
【0025】
1 上部構造物
2 積層ゴム体
4 下沓
5 ベースプレート
7 橋脚
9 連結桁
10 ソールプレート
11 セットボルト
13 上沓
14 ボルト
15 キーストッパ
16 ボルト挿通孔
17 拘束ボルト
18 せん断キー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上沓とソールプレートとの鉛直荷重を支持することなく、水平方向にせん断変形して、前記上部構造物の水平荷重を支持する積層ゴム体を備えた水平支承装置であって、
前記積層ゴム体は、上部鋼板と下部鋼板との間に中間鋼板とゴム層とを交互に積層し一体に成形したものであり、
前記上部鋼板の上面には上沓が固定され、かつ上部構造物の下面にソールプレートが固定され、前記上沓とソールプレートとの間には隙間が形成されており、
前記ソールプレートおよび前記上沓の一方が他方よりも水平方向に張り出しており、この張り出し部にキーストッパが突設され、該キーストッパにはボルト挿通孔が穿設されており、
前記ソールプレートおよび前記上沓の他方の端面には、前記キーストッパのボルト挿通孔を挿通した拘束ボルトが螺着されており、
前記ボルト挿通孔は、前記上部構造物の活荷重による回転変形により追随する前記拘束ボルトの移動を拘束しない隙間を形成する大きさであることを特徴とする水平支承装置。
【請求項2】
前記上沓、ソールプレートおよび積層ゴム体の上部鋼板にまたがって、それらの中央部にせん断キーが内蔵されている請求項1に記載の水平支承装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−14056(P2008−14056A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−187546(P2006−187546)
【出願日】平成18年7月7日(2006.7.7)
【出願人】(000111085)ニッタ株式会社 (588)
【Fターム(参考)】