説明

水性インクジェットインキ用バインダー樹脂組成物、およびそれを用いた水性インクジェット用インキ組成物

【課題】印刷適性、耐擦性、耐水性、耐溶剤性、光沢、明度、インキの保存安定性・吐出性に優れ、連続印刷時の印字物間の擦れや、水またはアルコール系溶剤との接触にも耐え、さらには吐出性を向上させ得る、水性インクジェットインキ用バインダー樹脂組成物の提供。
【解決手段】イオン性官能基を有さない芳香族エチレン性不飽和単量体(A)20〜70重量%と、炭素数1〜4のアルキル基含有エチレン性不飽和単量体(B)10〜70重量%とを含むエチレン性不飽和単量体(X)を段階的に乳化重合してなるコアシェル型樹脂微粒子(C)を含む水性インクジェットインキ用バインダー樹脂組成物であって、微粒子(C)の最内核層は、単量体(A)0.1〜40重量%と、前記単量体(A)よりも多量の単量体(B)とを含む単量体(Y)を重合する工程により形成され、微粒子(C)の最内核層と最外殻層とのガラス転移温度差が0〜10℃である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性インクジェットインキに好適に使用することができる水性インクジェットインキ用バインダー樹脂組成物、及び水性インクジェット用インキ組成物に関する。さらに詳しくは、印字物の印刷適性、耐擦性、耐水性、耐溶剤性、光沢、明度、インキの保存安定性・吐出性に優れたインキ組成物を得ることができる、水性インクジェットインキ用バインダー樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、近年高解像度化、高性能化が進み、優れた耐水性、耐候性の期待が高まっている。さらに近年では商業印刷分野での需要も高まり、顧客の要求に応じて小ロットで多様な印刷方式に対応し得るインクジェットインキ、特に上質紙からアート紙、コート紙、さらにはPP(ポリプロピレン)、PET(ポリエチレンテレフタレート)、塩ビ(塩化ビニル)といったフィルムなど、様々な基材に印字可能なインキが求められている。さらには商業印刷にはますますの高速印刷化が求められ、これらの要求を満たすインクジェットインキが求められている。
【0003】
水性インクジェットインキは、一般的に顔料、顔料分散樹脂、水、保湿剤成分、およびバインダーにより構成される。このうちバインダーは、塗膜の耐性を向上させる目的で使用される。バインダーとして、ノズル詰まりをせずに安定な吐出を与え、かつ耐水性やインキの安定性を確保する目的で、樹脂エマルジョンを用いる試みは、従来多く行われていた。例えば、特許文献1では、バインダーとして樹脂エマルジョン等を用い、インキの最低造膜温度(MFT)を40℃以上にすることで、インキの保存安定性や目詰まりを低減させている。しかし、単にインキの最低造膜温度(MFT)を規定するだけの方法では、耐水性や耐溶剤性、さらには塗膜の耐摩擦性といったインキ物性を向上させるには至っていない。さらにインキ造膜温度(MFT)が高温であるため、使用可能な印刷システムにも制限がかかり汎用性に乏しい。
【0004】
また、特許文献2では、樹脂エマルジョンのガラス転移温度(Tg)が35℃以上かつ最低造膜温度(MFT)が20℃以下であることを特徴とし、さらに特許文献3では、樹脂エマルジョンのガラス転移温度(Tg)が40〜80℃であることを特徴としている。これらも単に樹脂の軟化/造膜温度を規定しているだけであり、耐水性や耐溶剤性、さらには耐摩擦性といった耐性を十分に満足するものではない。
【0005】
また、特許文献4では、特殊な長鎖アルキルオリゴマーを有するアクリルエマルジョンをバインダーとして用いることで、金属密着性を向上させたインクジェットインキが開示されている。しかし添加の効果に関する検討が十分ではなく、またアート紙やコート紙、フィルム等の疎水性基材に対する密着性は得られない。
【0006】
さらに、樹脂エマルジョンの軟化/造膜温度や組成を制御するだけでなく、コアシェル型の樹脂エマルジョンによる樹脂の構造制御を行うことによって、バインダー機能を向上させる試みも行われてきた。例えば、特許文献5では、ホモポリマーにTg差のある特定のモノマー成分と親水性モノマー成分とを共重合して得たコアシェルバインダーにより、スミア(擦れ汚れ)耐性を向上させている。しかしながら、実際には樹脂組成の限定による耐性向上が本質であり、コアシェルの構造設計による効果は十分に示されていない。
【0007】
また、特許文献6では、コア/シェル層それぞれに分配する樹脂組成(疎水性モノマー、親水性モノマー、架橋剤)を規定する(コア層に疎水性モノマーと架橋剤必須、シェル層に疎水性・親水性モノマーと架橋剤必須にしている)ことで、擦れ汚れ耐性、熱せん断安定性を確保している。しかしこちらも、単に架橋剤による樹脂ゲル化度向上によって、インキ中での樹脂の安定性や塗膜耐性付与を狙っているだけであり、コアシェルの構造制御を十分に考慮しているとはいえない。この設計では樹脂塗膜の成膜性(硬もろさ)の制御が不十分であり、またシェル層に親水性モノマーを使用していることで、耐摩擦性、耐溶剤性(特に耐アルコール性)の効果が期待できるものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第2867491号公報
【特許文献2】特許第4079339号公報
【特許文献3】特許第3937170号公報
【特許文献4】特許第4033442号公報
【特許文献5】特許第4094224号公報
【特許文献6】特許第4624665号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、印字物の印刷適性、耐擦性、耐水性、耐溶剤性、光沢、明度、インキの保存安定性・吐出性に優れ、連続印刷時の印字物間の擦れや、水またはアルコール系溶剤との接触にも耐え、さらには吐出性を向上させる水性インクジェットインキを得ることが可能な水性インクジェットインキ用バインダー樹脂組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、第1の発明は、
イオン性官能基を有さない芳香族エチレン性不飽和単量体(A)20〜70重量%と、
炭素数1〜4のアルキル基含有エチレン性不飽和単量体(B)10〜70重量%とを含むエチレン性不飽和単量体(X)を段階的に乳化重合してなるコアシェル型樹脂微粒子(C)を含む水性インクジェットインキ用バインダー樹脂組成物であって、
前記コアシェル型樹脂微粒子(C)の最内核層は、単量体(A)0.1〜40重量%と、前記単量体(A)よりも多量の単量体(B)とを含むエチレン性不飽和単量体(Y)を重合する、第一の乳化重合工程により形成されてなり、
さらに、前記コアシェル型樹脂微粒子(C)の最内核層と最外殻層とのガラス転移温度差が0〜10℃である、ことを特徴とする水性インクジェットインキ用バインダー樹脂組成物に関する。
【0011】
また、第2の発明は、エチレン性不飽和単量体(X)が、架橋性エチレン性不飽和単量体(D)を0.1〜10重量%含むことを特徴とする、第1の発明の水性インクジェットインキ用バインダー樹脂組成物に関する。
【0012】
また、第3の発明は、エチレン性不飽和単量体(Y)が、架橋性エチレン性不飽和単量体(D)を0.05〜5重量%含むことを特徴とする、第1または第2の発明の水性インクジェットインキ用バインダー樹脂組成物に関する。
【0013】
また、第4の発明は、架橋性エチレン性不飽和単量体(D)が、アルコキシシリル基含有エチレン性不飽和単量体(E)、または2個以上のアリル基を有する単量体(F)である、第2または第3の発明の水性インクジェットインキ用バインダー樹脂組成物に関する。
【0014】
また、第5の発明は、コアシェル型樹脂微粒子(C)のガラス転移温度が40〜120℃である第1〜第4いずれかの発明の水性インクジェットインキ用バインダー樹脂組成物に関する。
【0015】
さらに、第6の発明は、第1〜第5いずれかの発明の水性インクジェットインキ用バインダー樹脂組成物、および、Fedors法によるSP値が5〜20である保湿溶剤(Z)を含むことを特徴とする水性インクジェット用インキ組成物に関する。
【0016】
さらにまた、第7の発明は、保湿剤(Z)が、グリコール系溶剤(G)およびエチレングリコールエーテル系溶剤(H)を含む、第6の発明の水性インクジェット用インキ組成物に関する。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、印字物の印刷適性、耐擦性、耐水性、耐溶剤性、光沢、明度、インキの保存安定性・吐出性に優れ、さらには、連続印刷時の印字物間の擦れや、水またはアルコール系溶剤との接触にも耐え、さらには吐出性を向上させる水性インクジェットインキを得ることが可能な水性インクジェットインキ用バインダー樹脂組成物を提供できた。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の水性インクジェットインキ用バインダー樹脂組成物は、イオン性官能基を有さない芳香族エチレン性不飽和単量体(A)20〜70重量%と、
炭素数1〜4のアルキル基含有エチレン性不飽和単量体(B)10〜70重量%とを含むエチレン性不飽和単量体(X)を段階的に乳化重合してなるコアシェル型樹脂微粒子(C)を含む水性インクジェットインキ用バインダー樹脂組成物であって、
前記コアシェル型樹脂微粒子(C)の最内核層は、単量体(A)0.1〜40重量%と、前記単量体(A)よりも多量の単量体(B)とを含むエチレン性不飽和単量体(Y)を重合する、第一の乳化重合工程により形成されてなり、
さらに、前記コアシェル型樹脂微粒子(C)の最内核層と最外殻層とのガラス転移温度差が0〜10℃である、
ことを特徴とする。
【0019】
まず、本発明のコアシェル型樹脂微粒子(C)について説明する。
本発明のコアシェル型樹脂微粒子(C)はイオン性官能基を有さない芳香族エチレン性不飽和単量体(A)〔以下、単に「単量体(A)」とも表記する。〕、炭素数1〜4のアルキル基含有エチレン性不飽和単量体(B)〔以下、単に「単量体(B)」とも表記する。〕とを含むエチレン性不飽和単量体(X)〔以下、単に「単量体(X)」とも表記する。〕をラジカル重合開始剤によって乳化重合する事で得られる。
【0020】
イオン性官能基を有さない芳香族エチレン性不飽和単量体(A)は乳化重合初期に粒子核形成を安定化させる働き、また重合の副生成物である溶融樹脂成分を低減させる効果がある。そのため、インキ印字物の耐摩擦性や吐出性を良好にする効果がある。さらに重合安定性が良好であること、それを用いて得られるポリマーの疎水性が高いという理由により、インキ組成物に含まれる保湿剤に対する安定性も高い。このため、メチルトリグリコール(MTG)、ブチルジグリコール(BDG)などのグリコールエーテル系などの保湿剤を多く含むインキ組成物を調製した場合、保存安定性や吐出性に良好な効果を与える。
さらには印字物の塗膜物性(耐摩擦性、耐溶剤性、光沢・明度)を向上させる働きをする。
【0021】
本発明におけるイオン性官能基としては、具体的には、アニオン性官能基としてカルボキシル基、リン酸基、スルホン酸基、およびそれらの塩などが挙げられ、カチオン性官能基としてアミノ基、その塩、および4級アンモニウム塩基などを挙げることができる。
【0022】
イオン性官能基を有さない芳香族エチレン性不飽和単量体(A)としては例えば、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、m−メチルスチレン、ビニルナフタレン、ベンジルアクリレート、ベンジルメタクリレート、フェノキシエチルアクリレート、フェノキシエチルメタクリレート、フェノキシジエチレングリコールアクリレート、フェノキシジエチレングリコールメタクリレート、フェノキシテトラエチレングリコールアクリレート、フェノキシテトラエチレングリコールメタクリレート、フェノキシヘキサエチレングリコールアクリレート、フェノキシヘキサエチレングリコールメタクリレート、フェニルアクリレート、フェニルメタクリレート等があげられる。
【0023】
コアシェル型樹脂微粒子(C)を得るために用いられるエチレン性不飽和単量体(X)の合計100重量%中、イオン性官能基を有さない芳香族エチレン性不飽和単量体(A)の含有量は、20〜70重量%であることが好ましく、さらには20〜50重量%であることがより好ましい。含有量が20重量%未満であると乳化重合時の粒子核形成が不安定になり、インキ組成物の吐出安定性に影響をもたらす凝集物の発生が多くなってしまう。さらに印字物の塗膜物性(耐摩擦性、耐溶剤性、光沢・明度)を向上させる効果も低くなってしまう。含有量が70重量%を超える場合にも、粒子核形成が不安定となり、吐出性に悪影響をもたらす凝集物が多くなる。またコアシェル型樹脂微粒子(C)のグリコール系溶剤ならびにエチレングリコールエーテル系溶剤への耐性が低下して、これらの溶剤が含まれる場合、インキ組成物が増粘してしまう。
【0024】
炭素数1〜4のアルキル基含有エチレン性不飽和単量体(B)は、コアシェル型樹脂微粒子(C)の成膜性を制御し、ひいては印字物の塗膜物性(耐摩擦性、耐溶剤性、光沢・明度)を向上させる働きをする。
【0025】
炭素数1〜4のアルキル基含有エチレン性不飽和単量体(B)としては例えば、
メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tーブチル(メタ)アクリレート等の直鎖または分岐アルキル基含有エチレン性不飽和単量体が挙げられる。
【0026】
コアシェル型樹脂微粒子(C)を得るために用いられるエチレン性不飽和単量体(X)の合計100重量%中、炭素数1〜4のアルキル基含有エチレン性不飽和単量体(B)の含有量は、10〜70重量%であることが好ましく、さらには20〜60重量%であることがより好ましい。含有量が10重量%未満であると、コアシェル型樹脂微粒子(C)の成膜性を制御する効果が低くなってしまう。また、含有量が70重量%を超えると、乳化重合時に凝集物が発生しやすく、インキ組成物の吐出安定性に悪影響をもたらす上、印字物の印刷適性、耐水性、耐溶剤性が低下してしまう。
【0027】
本発明のコアシェル型樹脂微粒子(C)は、イオン性官能基を有さない芳香族エチレン性不飽和単量体(A)および炭素数1〜4のアルキル基含有エチレン性不飽和単量体(B)を含有するエチレン性不飽和単量体(X)を水中にて界面活性剤の存在下、段階的に乳化重合することによって得られるが、このうちの第一の乳化重合工程で形成される最内核層(コア層)は、単量体(A)0.1〜40重量%と、前記単量体(A)よりも多量の単量体(B)とを含むエチレン性不飽和単量体(Y)〔以下、単に「単量体(Y)」とも表記する。〕を重合してなるものである。
【0028】
最内核層(コア層)を形成するための第一の乳化重合工程において、重合に供する単量体〔すなわち単量体(Y)〕のうち、単量体(A)の量よりも単量体(B)の量を多くすることによって、コアシェル型樹脂微粒子(C)が塗膜形成する際の成膜性を向上させる効果がある。
短鎖アルキル基を有するエチレン性不飽和単量体(B)の方が、芳香環を有するエチレン性不飽和単量体(A)よりも単量体の側鎖の立体障害が少なく、また側鎖同士のスタッキング効果も低いため、加熱による流動性が高い。このため、単量体(B)を最内核層(コア層)に多く含むことによって、コアシェル型樹脂微粒子(C)が成膜した際の粒子間融着力が高まる。これによって、インキ中での塗膜耐性(耐摩擦性、耐溶剤性)が向上する。
【0029】
逆に、単量体(Y)において、単量体(A)の量よりも単量体(B)の量が少ないと、コアシェル型樹脂微粒子(C)が成膜した際、最内核層(コア層)同士が十分に融着に関与せず、膜が硬もろく、クラックが生じる場合がある。これによって、インキ中での塗膜耐性(耐摩擦性、耐溶剤性)はむしろ低下してしまう。
【0030】
コアシェル型樹脂微粒子(C)のコア層を得るために用いられるエチレン性不飽和単量体(Y)の合計100重量%中、イオン性官能基を有さない芳香族エチレン性不飽和単量体(A)は0.1〜40重量%であることが好ましい。含有量が0.1重量%未満であると、乳化重合時の粒子核形成が不安定になり、インキ組成物の吐出安定性に影響をもたらす凝集物の発生が多くなってしまう。また、含有量が40重量%を超えると、コアシェル型樹脂微粒子(C)の成膜性を悪化させ、印字物の印刷適性、耐水性、耐溶剤性が低下してしまう。
【0031】
さらに本発明のコアシェル型樹脂微粒子(C)は、最内核層(コア層)と最外殻層(シェル層)とのガラス転移温度(Tg)差が、0〜10℃であることを特徴とする。
最内核層(コア層)と最外殻層(シェル層)のガラス転移温度(Tg)差とは、層間におけるガラス転移温度(Tg)の高い方から低い方を引いた値であり、それらが同じ場合には0となる。
【0032】
最内核層(コア層)と最外殻層(シェル層)とのガラス転移温度(Tg)差を少なく、さらには無くすことによって、ガラス転移温度(軟化点)から影響される塗膜耐性(耐摩擦性、耐溶剤性)の悪化を抑制する働きがある。
【0033】
一般的に、コアシェル型樹脂微粒子(C)の成膜性を制御する方法として、コア層とシェル層のガラス転移温度差を大きくする手法が従来から使われてきている。特にコア層には高Tg成分を、シェル層には低Tg成分を用いることにより、粒子外殻同士の融着力を高めて成膜性を向上させるという手法が多く用いられてきている。しかしながら、この方法を用いると、結果的に樹脂微粒子シェル層由来の樹脂成分が塗膜表層に局在化するため、塗膜表層の樹脂の熱軟化点が低くなり、塗膜耐性(耐摩擦性、耐溶剤性)の低下を引き起こしてしまう。
【0034】
さらに、本発明のコアシェル型樹脂微粒子(C)は、上記とは逆に、コア層には低Tg成分を、シェル層には高Tg成分を用いた場合、インキの吐出性を悪化させる場合がある。特にコア層とシェル層のTg差が大きくなるにつれて、吐出性の悪化が顕著となる。
【0035】
よって本発明では、最内核層(コア層)の重合生成物と最外殻層(シェル層)の重合生成物とのガラス転移温度(Tg)差による塗膜耐性(耐摩擦性、耐溶剤性)の低下を防ぐため、最内核層(コア層)の重合生成物と最外殻層(シェル層)の重合生成物とのガラス転移温度(Tg)差を0〜10℃にする必要があり、さらには0〜5℃であることがより好ましい。
【0036】
上記のガラス転移温度(Tg)は、Fox式を用いて計算することができる。(T.G.Fox,Bull.Am.Physics Soc.、第1巻、Issue No.3、123ページ(1956)参照。)
すなわち、例えば、モノマーM1及びM2のコポリマーのTgの計算については、
1/Tg(計算値)=W(M1)/Tg(M1)+W(M2)/Tg(M2)
(式中、Tg(計算値)はコポリマーについて計算されたガラス転移温度、W(M1)はコポリマー中のモノマーM1の重量分率、W(M2)はコポリマー中のモノマーM2の重量分率、Tg(M1)はM1のホモポリマーのガラス転移温度、Tg(M2)はM2のホモポリマーのガラス転移温度を表している。また、全ての温度はK(ケルビン)で表される。)
【0037】
ホモポリマーのガラス転移温度は、例えば「POLYMER HANDBOOK」(J.BrandrupおよびE.H.Immergut編、Interscience Publishers)より引用することができる。
【0038】
最内核層(コア層)の重合生成物と最外殻層(シェル層)の重合生成物とのガラス転移温度(Tg)差は、コア層、及びシェル層それぞれの樹脂のガラス転移温度(Tg)を算出後、Tgの高い方から低い方を引いた値として得ることができる。
ただし、本発明のコアシェル型樹脂微粒子(C)に架橋性エチレン性不飽和単量体(D)を共重合する場合は、単量体(D)はガラス転移温度の計算には含めないこととする。これは、架橋性エチレン性不飽和単量体(D)は、実際の重合反応において、微粒子が三次元架橋構造を形成するのに大きな影響を与えるため、計算により得られたガラス転移温度と実際のガラス転移温度との誤差が大きくなり易いためである。
また、その他の単量体に含まれる単量体のうち、2重量%以下の単量体についても、ガラス転移温度の計算に含めないこととする。
【0039】
本発明のコアシェル型樹脂微粒子(C)は、架橋性エチレン性不飽和単量体(D)を共重合することが好ましい。架橋性エチレン性不飽和単量体(D)は、樹脂微粒子内部を架橋する事でコアシェル型樹脂微粒子(C)のインキ組成物中での安定性をさらに向上させる働きをする。
【0040】
架橋性エチレン性不飽和単量体(D)としては、例えば、
アリル(メタ)アクリレート、ビニル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジメタクリレート、ジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリストールテトラ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン、アジピン酸ジビニル、イソフタル酸ジアリル、フタル酸ジアリル、マレイン酸ジアリル等の2個以上のエチレン性不飽和基を有するエチレン性不飽和単量体;
γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリブトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシメチルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシメチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリブトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン等のアルコキシシリル基含有エチレン性不飽和単量体;
N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチロール(メタ)アクリルアミド、アルキルエーテル化N−メチロール(メタ)アクリルアミド等のメチロール基含有エチレン性不飽和単量体が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。これらは1種類または2種以上を併用して用いることができる。
【0041】
架橋性エチレン性不飽和単量体(D)の含有量は、コアシェル型樹脂微粒子(C)を得るために用いられるエチレン性不飽和単量体(X)の合計100重量%中、0.1〜10重量%であることが好ましく、さらには0.5〜8重量%であることがより好ましい。含有量が0.1重量%未満であると、インキ組成物の吐出安定性、保存安定性が向上しない。一方、含有量が10重量%を超えると、樹脂微粒子の成膜性が低下し、印字物の耐擦性、耐溶剤性が低下する場合がある。また、印字物の光沢や明度にも悪影響をおよぼす場合がある。
【0042】
さらに本発明では、コアシェル型樹脂微粒子(C)のコア層を得るために用いられるエチレン性不飽和単量体(Y)の合計100重量%中、架橋性エチレン性不飽和単量体(D)を0.05〜5重量%含むことが好ましい。
【0043】
架橋性エチレン性不飽和単量体(D)は、樹脂微粒子内部を架橋し、インキ組成物中での安定性を向上させる働きがあるが、最内核層(コア層)における含有量が多すぎると樹脂微粒子の成膜性を悪化させてしまう。粒子間の融着が十分でなく、膜が硬もろく、クラックが生じる場合がある。これによって、インキ中での塗膜耐性(耐摩擦性、耐溶剤性)の悪化が生じてしまう。また、最外殻層(シェル層)における含有量が少なすぎると、インキ組成物の吐出安定性、保存安定性の悪化を引き起こしやすく、さらには塗膜耐性(耐溶剤性)が悪化しやすくなる。
【0044】
よって、本発明ではコアシェル型樹脂微粒子(C)のコア層を得るために用いられるエチレン性不飽和単量体(Y)の合計100重量%中、架橋性エチレン性不飽和単量体(D)を0.05〜5重量%、さらには0.5〜3重量%含むことがより好ましい。含有量が0.05重量%未満であると、インキ組成物の吐出安定性、保存安定性が確保できない。一方、含有量が5重量%を超えると、樹脂微粒子の成膜性が低下し、印字物の耐擦性、耐溶剤性が低下する場合がある。また、印字物の光沢や明度にも悪影響をおよぼす場合がある。
【0045】
上記に挙げた架橋性エチレン性不飽和単量体の中でも、架橋性エチレン性不飽和単量体(D)は、アルコキシシリル基含有エチレン性不飽和単量体(E)または2個以上のアリル基を有する単量体(F)である事が好ましい。一般的に架橋性エチレン性不飽和単量体を使用すると、樹脂微粒子のインキ組成物中での安定性は増加するが、乾燥時の成膜性はやや低下してしまう傾向にある。しかしながら、これらの架橋性エチレン性不飽和単量体は、樹脂微粒子の乾燥時の成膜性を低下させる事がほとんど無く、グリコール系溶剤、エチレングリコールエーテル系溶剤といった保湿剤成分を含むインキ組成物中での安定性を向上させる事ができる。
【0046】
アルコキシシリル基含有エチレン性不飽和単量体(E)としては、例えば、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリブトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシメチルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシメチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリブトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン等が挙げられる。
【0047】
2個以上のアリル基を有する単量体(F)としては、例えば、イソフタル酸ジアリル、フタル酸ジアリル、マレイン酸ジアリル等が挙げられる。
【0048】
さらに、コアシェル型樹脂微粒子(C)を得るために用いられるエチレン性不飽和単量体(X)には、上記のエチレン性単量体(A)(B)(D)の他に、エチレン性単量体(A)(B)(D)と共重合可能なエチレン性不飽和単量体が含有されてもよい。
【0049】
エチレン性単量体(A)(B)(D)と共重合可能なエチレン性単量体としては、例えば、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート等の直鎖または分岐アルキル基含有エチレン性不飽和単量体;
シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレート等の脂環式アルキル基含有エチレン性不飽和単量体;
トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、ヘプタデカフルオロデシル(メタ)アクリレート等のフッ素化アルキル基含有エチレン性不飽和単量体;
(メタ)アクリロニトリル等のニトリル基含有エチレン性不飽和単量体;
グリシジル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシル(メタ)アクリレートなどのエポキシ基含有エチレン性不飽和単量体;
(2−ヒドロキシエチル)メタクリレートアッシドホスフェート、などのリン酸基含有エチレン性不飽和単量体;
マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、または、これらのアルキルもしくはアルケニルモノエステル、フタル酸β−(メタ)アクリロキシエチルモノエステル、イソフタル酸β−(メタ)アクリロキシエチルモノエステル、テレフタル酸β−(メタ)アクリロキシエチルモノエステル、コハク酸β−(メタ)アクリロキシエチルモノエステル、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、けい皮酸などのカルボキシル基を含むエチレン性不飽和単量体;
スチレンスルホン酸、スチレンスルホン酸ナトリウム、スチレンスルホン酸アンモニウム、2−アクリルアミド2−メチルプロパンスルホン酸、2−アクリルアミド2−メチルプロパンスルホン酸ナトリウム、メタリルスルホン酸、メタリルスルホン酸、メタリルスルホン酸ナトリウム、アリルスルホン酸、アリルスルホン酸ナトリウム、アリルスルホン酸アンモニウム、ビニルスルホン酸、アリルオキシベンゼンスルホン酸、アリルオキシベンゼンスルホン酸ナトリウム、アリルオキシベンゼンスルホン酸アンモニウム等のスルホン酸基含有エチレン性不飽和単量体;
(メタ)アクリルアミド、N−メトキシメチル−(メタ)アクリルアミド、N−エトキシメチル−(メタ)アクリルアミド、N−プロポキシメチル−(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル−(メタ)アクリルアミド、N−ペントキシメチル−(メタ)アクリルアミド、N,N−ジ(メトキシメチル)アクリルアミド、N−エトキシメチル−N−メトキシメチルメタアクリルアミド、N,N−ジ(エトキシメチル)アクリルアミド、N−エトキシメチル−N−プロポキシメチルメタアクリルアミド、N,N−ジ(プロポキシメチル)アクリルアミド、N−ブトキシメチル−N−(プロポキシメチル)メタアクリルアミド、N,N−ジ(ブトキシメチル)アクリルアミド、N−ブトキシメチル−N−(メトキシメチル)メタアクリルアミド、N,N−ジ(ペントキシメチル)アクリルアミド、N−メトキシメチル−N−(ペントキシメチル)メタアクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、N,N−ジエチルアミノプロピルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、ダイアセトン(メタ)アクリルアミド等のアミド基含有エチレン性不飽和単量体;
2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシビニルベンゼン、1−エチニル−1−シクロヘキサノール、アリルアルコール等のヒドロキシル基含有エチレン性不飽和単量体;
ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート(日本油脂社製、ブレンマーPE−90、200、350、350G、AE−90、200、400等)ポリエチレングリコール・ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート(日本油脂社製、ブレンマー50PEP−300、70PEP−350等)、メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート(日本油脂社製、ブレンマーPME−100、200、400、550、1000、4000等)等のポリエチレンオキサイド基含有エチレン性不飽和単量体;
等が挙げられる。
これらのエチレン性不飽和単量体は1種を単独で使用しても、複数種を混合して用いても良い。
【0050】
これらエチレン性不飽和単量体のうち、カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体、スルホン酸基含有エチレン性不飽和単量体、アミド基含有エチレン性不飽和単量体は、乳化重合初期に粒子核形成を安定化させる働き、インキ中の保湿剤成分に対する安定性を高める働きがあるため、本発明のコアシェル型樹脂微粒子(C)の合成に使用することがより好ましい。
【0051】
ただし、これら水溶性エチレン性不飽和単量体は、含有量が多すぎると塗膜耐性(特に耐摩擦性、耐溶剤性)を悪化させてしまうおそれがあるため、含有量は5重量%以下であることが好ましい。
【0052】
上記に記載した範囲の各種エチレン性不飽和単量体(X)を乳化重合させてなるコアシェル型樹脂微粒子(C)は、分散安定性に大変優れるため、粒子径を小さく、かつ高固形分にしても水分散体が低粘度であり、ノズル詰まりの原因となる凝集物も非常に少ない。また、インキ組成物に使用されるグリコール系溶剤およびエチレングリコールエーテル系溶剤に対しても、混合時に凝集する事もなく、経時安定性に優れる。その一方で、乾燥時にはこれらの溶剤を含むインキ組成物中での成膜性が大変良好である事から、印字物は優れた塗膜耐性を発現する。
【0053】
本発明のコアシェル型樹脂微粒子(C)は、コア層とシェル層それぞれの重合に使用するエチレン性不飽和単量体(X)の分配比率(「コア/シェル比」ともいう。)は、任意に選択することができ、重合操作により調整できる。ただし、このコア/シェル比は、合成後に得られるコアシェル型樹脂微粒子(C)のコア層及びシェル層の厚さに影響を与えるため、コア層及びシェル層それぞれの機能を十分に発揮し得るコア/シェル比として、コア/シェル=20/80〜80/20(重量比)の分配比率を選択することがより好ましい。
【0054】
コアシェル型樹脂微粒子(C)の平均粒子径は、70〜250nmであることが好ましい。コアシェル型樹脂微粒子(C)の平均粒子径は、インキ組成物の吐出性ならびに保存安定性に大きな影響を及ぼす。平均粒子径が70nm未満であるとコアシェル型樹脂微粒子(C)のインキ組成物中での分散安定性が悪化して吐出性に悪影響を及ぼす上、印字物の印刷適性が悪化する場合がある。平均粒子径が250nmを超えると、インキ組成物の吐出性が悪化したり、コアシェル型樹脂微粒子(C)の造膜不良から印字物の光沢や明度に悪影響を及ぼす場合がある。平均粒子径が大きくなりすぎると、粒子径が1μmを超えるような粗大粒子が多く含有され易く、インクジェットの吐出性が著しく悪化する。
【0055】
上記の平均粒子径とは樹脂微粒子水分散体の水希釈液にレーザー光を照射して、その散乱光から粒子のブラウン運動を検出する動的光散乱法により測定した値である。
【0056】
本発明のコアシェル型樹脂微粒子(C)は、固形分濃度30ppmの水分散液における1.5〜5μmの粗大粒子量が25000個/cm以下、5〜10μmの粗大粒子量が4000個/cm以下であることを特徴とする。上記のように、粒子径が1μmを超えるような粗大粒子がインキ中に多く含まれると、インクジェットの吐出性が著しく悪化する。特に商業用水系インクジェット用インキ組成物のような高速印刷が求められる用途においては、樹脂微粒子の粗大粒子量は分滴・デキャップ性といった吐出性能に大きな影響を及ぼす。
【0057】
コアシェル型樹脂微粒子(C)は、固形分濃度30ppmの水分散液における1.5〜5μmの粗大粒子量が25000個/cmを超えると、インキ組成物の吐出性(分滴、デキャップ性)が著しく悪化する。同様に固形分濃度30ppmの水分散液における5〜10μmの粗大粒子量が4000個/cmを超える場合も、インキ組成物の吐出性(分滴、デキャップ性)が著しく悪化する。
【0058】
上記の粗大粒子量は、樹脂微粒子水分散体の水希釈液にレーザー光を照射して、その投影径の個数をカウントする方式により測定した値である。測定方法としては、例えば、Accusizer SIS/SW788測定装置(インターナショナルビジネス株式会社製)を用い、合成により得られた固形分濃度40%のコアシェル型樹脂微粒子(C)の分散液を15000倍希釈することによって、固形分濃度30ppmの希釈液を得る。この希釈液を試料として測定することによって、各粒子径における粒子数を定量することができる。
【0059】
コアシェル型樹脂微粒子(C)のガラス転移温度(Tg)は40〜120℃であることが好ましい。ここでいう「コアシェル型樹脂微粒子(C)のガラス転移温度(Tg)」とは、コア層からシェル層を構成する全てのエチレン性不飽和単量体(X)から得られる樹脂のガラス転移温度のことをいう。
【0060】
上記のガラス転移温度(Tg)が40℃未満であると、印字物の耐水性や耐溶剤性が十分に発現しない場合がある。ガラス転移温度(Tg)が120℃を超えると、コアシェル型樹脂微粒子(C)の成膜性が悪くなり印字物の耐擦性や耐水性、耐溶剤性が悪化する場合がある。
【0061】
上記のガラス転移温度(Tg)は、前述のFox式(T.G.Fox,Bull.Am.Physics Soc.、第1巻、Issue No.3、123ページ(1956)参照。)を用いて予め計算しておくことができるが、最終的にはDSC(示差走査熱量計)を用いて求めた値を「コアシェル型樹脂微粒子(C)のガラス転移温度(Tg)」とする。
【0062】
インキ調製時において、本発明で使用するコアシェル型樹脂微粒子(C)は水分散体の形態で使用するわけであるが、コアシェル型樹脂微粒子(C)の水分散体は、25℃、固形分(以下、固形分を「NV」と略記する場合がある)40重量%の条件下において測定した粘度が、5〜500mPa・sである事が好ましい。粘度が5mPa・s未満の樹脂微粒子水分散体は、平均粒子径が70〜250nmの範囲では調製が困難であり、粘度が500mPa・sを超えると、インキ組成物が増粘して吐出性が悪化したり、印字物の印刷適性にも悪影響を及ぼす場合がある。
【0063】
ここで言う粘度とは、25℃、水分散体の固形分40重量%の条件下において、二重円筒型粘度計(BL型粘度計)を用いて測定した値である。
固形分40重量%の樹脂微粒子水分散体の調製は、重合反応が完結した時の固形分が40重量%になるように原料を仕込んでも良いし、高固形分となるように合成したものを水で40重量%まで希釈するか、もしくは低固形分となるように合成したものを、ストリッピング等の操作で40重量%まで濃縮して調製しても良い。
【0064】
本発明に使用するコアシェル型樹脂微粒子(C)は、従来既知の乳化重合方法により合成される。
【0065】
乳化重合法とは、水、乳化剤を仕込んだ反応釜を加熱し、合成前に予めエチレン性不飽和単量体、水、乳化剤を乳化させた乳化液(プレエマルジョン)を滴下しながらラジカル重合反応を行う方法である。反応釜には必要に応じてプレエマルジョンを一部仕込む場合もある。コアシェル型樹脂微粒子(C)の合成においては、第一の工程においてエチレン性不飽和単量体(Y)を含む乳化液を滴下しながらラジカル重合反応を行い、更に第二以降の工程において、他のエチレン性不飽和単量体を含む乳化液を滴下しながらラジカル重合反応する操作を段階的に行う。第一の工程と第二の工程の間隔、および第二の工程以降の間隔は、乳化液の滴下を連続的に行うのではなく、数十分の間隔を置くことによって、コア層とシェル層の構造区分がより明確になり、好ましい。
【0066】
また、プレエマルジョンを作製する際には、回転式攪拌装置(新東科学株式会社製スリーワンモーター)の回転速度200〜300rpm/10〜20分の乳化条件にて作製するのが一般的であるが、必要に応じて回転式攪拌装置(特殊機化株式会社製T.K.ホモミキサー)などの高速攪拌装置を用いて、回転速度5000〜12000rpm/10〜30分の強制乳化条件にて作製する方法(以下、「ミニエマルジョン法」ともいう。)を用いてもよい。ミニエマルジョン法を用いた方が、プレエマルジョンの粒子径がより微細となり、合成後の粗大粒子量を抑制できるため、より好ましい。
【0067】
本発明において乳化重合の際に用いられる乳化剤としては、エチレン性不飽和基を有する反応性乳化剤やエチレン性不飽和基を有しない非反応性乳化剤など、従来公知のものを任意に使用することができる。
【0068】
エチレン性不飽和基を有する反応性乳化剤はさらに大別して、アニオン系、非イオン系のノニオン系のものが例示できる。特にエチレン性不飽和基を有するアニオン系反応性乳化剤若しくはノニオン系反応性乳化剤を用いると、共重合体の分散粒子径が微細となるとともに粒度分布が狭くなるため、水性インクジェットインキ用バインダー樹脂として使用した際に耐摩擦性や耐アルコール性を向上することができ好ましい。このエチレン性不飽和基を有するアニオン系反応性乳化剤もしくはノニオン系反応性乳化剤は、1種を単独で使用しても、複数種を混合して用いても良い。
【0069】
エチレン性不飽和基を有するアニオン系反応性乳化剤の一例として、以下にその具体例を例示するが、本発明において使用可能とする乳化剤は、以下に記載するもののみを限定するものではない。前記乳化剤としては、アルキルエーテル系(市販品としては、例えば、第一工業製薬株式会社製アクアロンKH−05、KH−10、KH−20、株式会社ADEKA製アデカリアソープSR−10N、SR−20N、花王株式会社製ラテムルPD−104など);
スルフォコハク酸エステル系(市販品としては、例えば、花王株式会社製ラテムルS−120、S−120A、S−180P、S−180A、三洋化成株式会社製エレミノールJS−2など);
アルキルフェニルエーテル系もしくはアルキルフェニルエステル系(市販品としては、例えば、第一工業製薬株式会社製アクアロンH−2855A、H−3855B、H−3855C、H−3856、HS−05、HS−10、HS−20、HS−30、株式会社ADEKA製アデカリアソープSDX−222、SDX−223、SDX−232、SDX−233、SDX−259、SE−10N、SE−20N、など);
(メタ)アクリレート硫酸エステル系(市販品としては、例えば、日本乳化剤株式会社製アントックスMS−60、MS−2N、三洋化成工業株式会社製エレミノールRS−30など);
リン酸エステル系(市販品としては、例えば、第一工業製薬株式会社製H−3330PL、株式会社ADEKA製アデカリアソープPP−70など)が挙げられる。
【0070】
本発明で用いることのできるノニオン系反応性乳化剤としては、例えばアルキルエーテル系(市販品としては、例えば、株式会社ADEKA製アデカリアソープER−10、ER−20、ER−30、ER−40、花王株式会社製ラテムルPD−420、PD−430、PD−450など);
アルキルフェニルエーテル系もしくはアルキルフェニルエステル系(市販品としては、例えば、第一工業製薬株式会社製アクアロンRN−10、RN−20、RN−30、RN−50、株式会社ADEKA製アデカリアソープNE−10、NE−20、NE−30、NE−40など);
(メタ)アクリレート硫酸エステル系(市販品としては、例えば、日本乳化剤株式会社製RMA−564、RMA−568、RMA−1114など)が挙げられる。
【0071】
本発明のコアシェル型樹脂微粒子(C)を乳化重合により得るに際しては、前記したエチレン性不飽和基を有する反応性乳化剤とともに、必要に応じエチレン性不飽和基を有しない非反応性乳化剤を併用することができる。非反応性乳化剤は、非反応性アニオン系乳化剤と非反応性ノニオン系乳化剤とに大別することができる。
【0072】
非反応性ノニオン系乳化剤の例としては、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテルなどのポリオキシエチレンアルキルエーテル類;
ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルなどのポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類;
ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタントリオレエートなどのソルビタン高級脂肪酸エステル類;
ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレートなどのポリオキシエチレンソルビタン高級脂肪酸エステル類;
ポリオキシエチレンモノラウレート、ポリオキシエチレンモノステアレートなどのポリオキシエチレン高級脂肪酸エステル類;
オレイン酸モノグリセライド、ステアリン酸モノグリセライドなどのグリセリン高級脂肪酸エステル類;
ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン・ブロックコポリマー、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテルなどを例示することができる。
【0073】
また、非反応性アニオン系乳化剤の例としては、オレイン酸ナトリウムなどの高級脂肪酸塩類;
ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどのアルキルアリールスルホン酸塩類;
ラウリル硫酸ナトリウムなどのアルキル硫酸エステル塩類;
ポリエキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウムなどのポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩類;
ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸ナトリウムなどのポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル硫酸エステル塩類;
モノオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルスルホコハク酸ナトリウムなどのアルキルスルホコハク酸エステル塩およびその誘導体類;
ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル硫酸エステル塩類などを例示することができる。
【0074】
乳化重合時に使用する乳化剤量はエチレン性不飽和単量体(X)の合計100重量部に対して、0.5〜2.0重量部である事が好ましい。乳化剤量が0.5重量部未満であると、乳化重合時に凝集物が多くなり、コアシェル型樹脂微粒子(C)の安定化が不十分となってしまう場合がある。一方で乳化剤量が2.0重量部を超えると、低分子量の溶出成分が多くなり、印字物の耐溶剤性が悪化する場合がある。
【0075】
本発明で使用するコアシェル型樹脂微粒子(C)水分散体の乳化重合に際して用いられる水性媒体としては、水が挙げられ、親水性の有機溶剤も本発明の目的を損なわない範囲で使用することができる。
【0076】
本発明で使用するコアシェル型樹脂微粒子(C)水分散体を得るに際して用いられる重合開始剤としては、ラジカル重合を開始する能力を有するものであれば特に制限はなく、公知の油溶性重合開始剤や水溶性重合開始剤を使用することができる。油溶性重合開始剤としては特に限定されず、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシベンゾエート、tert−ブチルハイドロパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシ(2−エチルヘキサノエート)、tert−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、ジ−tert−ブチルパーオキサイドなどの有機過酸化物;
2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、1,1’−アゾビス−シクロヘキサン−1−カルボニトリルなどのアゾビス化合物を挙げることができる。これらは1種類または2種類以上を混合して使用することができる。これら重合開始剤は、エチレン性不飽和単量体(X)100重量部に対して、0.1〜10.0重量部の量を用いるのが好ましい。
【0077】
本発明においては水溶性重合開始剤を使用することが好ましく、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過酸化水素、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)ジハイドロクロライドなど、従来既知のものを好適に使用することができる。また、乳化重合を行うに際して、所望により重合開始剤とともに還元剤を併用することができる。これにより、乳化重合速度を促進したり、低温において乳化重合を行ったりすることが容易になる。このような還元剤としては、例えば、アスコルビン酸、エルソルビン酸、酒石酸、クエン酸、ブドウ糖、ホルムアルデヒドスルホキシラートなどの金属塩等の還元性有機化合物、チオ硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウムなどの還元性無機化合物、塩化第一鉄、ロンガリット、二酸化チオ尿素などを例示できる。これら還元剤は、エチレン性不飽和単量体(X)100重量部に対して、0.05〜5.0重量部の量を用いるのが好ましい。なお、前記した重合開始剤によらずとも、光化学反応や、放射線照射等によっても重合を行うことができる。重合温度は各重合開始剤の重合開始温度以上とする。例えば、過酸化物系重合開始剤では、通常70℃程度とすればよい。重合時間は特に制限されないが、通常2〜24時間である。
【0078】
さらに必要に応じて、緩衝剤として、酢酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、重炭酸ナトリウムなどが、また、連鎖移動剤としてのオクチルメルカプタン、チオグリコール酸2−エチルヘキシル、チオグリコール酸オクチル、ステアリルメルカプタン、ラウリルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタンなどのメルカプタン類が適量使用できる。
【0079】
乳化重合終了後に得られたコアシェル型樹脂微粒子(C)水分散体について、塩基性化合物で中和することができる。中和する際、アンモニアもしくはトリメチルアミン、トリエチルアミン、ブチルアミンなどのアルキルアミン類;
2−ジメチルアミノエタノール、2−ジエチルアミノエタノール、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、アミノメチルプロパノールなどのアルコールアミン類;
モルホリン
等の塩基で中和することができる。
【0080】
本発明の水性インクジェット用インキ組成物は、本発明の水性インクジェットインキ用バインダー樹脂組成物に、顔料、顔料分散樹脂、水、保湿剤を配合している。
【0081】
本発明の水性インクジェット用インキ組成物は、上記のコアシェル型樹脂微粒子(C)水分散体を固形分換算で1〜20重量%使用するのが好ましく、2〜15重量%使用するのがより好ましい。コアシェル型樹脂微粒子(C)水分散体が固形分換算で重量1%未満であると、被印刷体上と顔料粒子、もしくは顔料粒子同士の結着が不十分となり、印字物の耐擦性や耐水性が低下する場合がある。一方、コアシェル型樹脂微粒子(C)水分散体が固形分換算で20重量%を超えると、インキ組成物の粘度が上昇し、吐出性に悪影響を及ぼす場合がある。
【0082】
顔料としては、例えば、カーボンブラック、酸化チタン、炭酸カルシウム等の無彩色の顔料または有彩色の有機顔料が使用できる。有機顔料としては、トルイジンレッド、トルイジンマルーン、ハンザエロー、ベンジジンエロー、ピラゾロンレッドなどの不溶性アゾ顔料、リトールレッド、ヘリオボルドー、ピグメントスカーレット、パーマネントレッド2Bなどの溶性アゾ顔料、アリザリン、インダントロン、チオインジゴマルーンなどの建染染料からの誘導体、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーンなどのフタロシアニン系有機顔料、キナクリドンレッド、キナクリドンマゼンタなどのキナクリドン系有機顔料、ペリレンレッド、ペリレンスカーレットなどのペリレン系有機顔料、イソインドリノンエロー、イソインドリノンオレンジなどのイソインドリノン系有機顔料、ピランスロンレッド、ピランスロンオレンジなどのピランスロン系有機顔料、チオインジゴ系有機顔料、縮合アゾ系有機顔料、ベンズイミダゾロン系有機顔料、キノフタロンエローなどのキノフタロン系有機顔料、イソインドリンエローなどのイソインドリン系有機顔料、その他の顔料として、フラバンスロンエロー、アシルアミドエロー、ニッケルアゾエロー、銅アゾメチンエロー、ペリノンオレンジ、アンスロンオレンジ、ジアンスラキノニルレッド、ジオキサジンバイオレット等が挙げられる。
【0083】
有機顔料をカラーインデックス(C.I.)ナンバーで例示すると、C.I.ピグメントエロー12、13、14、17、20、24、74、83、86 93、109、110、117、120、125、128、129、137、138、139、147、148、150、151、153、154、155、166、168、180、185、C.I.ピグメントオレンジ16、36、43、51、55、59、61、C.I.ピグメントレッド9、48、49、52、53、57、97、122、123、149、168、177、180、192、202、206、215、216、217、220、223、224、226、227、228、238、240、C.I.ピグメントバイオレット19、23、29、30、37、40、50、C.I.ピグメントブルー15、15:1、15:3、15:4、15:6、22、60、64、C.I.ピグメントグリーン7、36、C.I.ピグメントブラウン23、25、26等が挙げられる。
【0084】
カーボンブラックの具体例としては、デグサ社製「Special Black350、250、100、550、5、4、4A、6」「PrintexU、V、140U、140V、95、90、85、80、75、55、45、40、P、60、L6、L、300、30、3、35、25、A、G」、キャボット社製「REGAL400R、660R、330R、250R」「MOGUL E、L」、三菱化学社製「MA7、8、11、77、100、100R、100S、220、230」「#2700、#2650、#2600、#200、#2350、#2300、#2200、#1000、#990、#980、#970、#960、#950、#900、#850、#750、#650、#52、#50、#47、#45、#45L、#44、#40、#33、#332、#30、#25、#20、#10、#5、CF9、#95、#260」等が挙げられる。
【0085】
酸化チタンの具体例としては、石原産業社製「タイペークCR−50、50−2、57、80、90、93、95、953、97、60、60−2、63、67、58、58−2、85」「タイペークR−820,830、930、550、630、680、670、580、780、780−2、850、855」「タイペークA−100、220」「タイペークW−10」「タイペークPF−740、744」「TTO−55(A)、55(B)、55(C)、55(D)、55(S)、55(N)、51(A)、51(C)」「TTO−S−1、2」「TTO−M−1、2」、テイカ社製「チタニックスJR−301、403、405、600A、605、600E、603、805、806、701、800、808」「チタニックスJA−1、C、3、4、5」、デュポン社製「タイピュアR−900、902、960、706、931」などが挙げられる。イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックなどの有機顔料は、水性インクジェットインキ100重量%中に通常0.2〜15重量%、好ましくは0.5〜10重量%用いられる。また、白の酸化チタンの場合は通常5〜50重量%、好ましくは10〜45重量%の割合で配合することが好ましい。
【0086】
顔料分散樹脂としては、水系での分散安定化の観点から、カルボキシル基を有する水溶性樹脂が好ましく、例えばアクリル系、スチレン−アクリル系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリウレタン系の樹脂が挙げられる。これらの樹脂は、市販品を使用しても構わない。市販品としては、例えば、BASF社製JONCRYL67、JONCRYL678、JONCRYL586、JONCRYL611、JONCRYL683、JONCRYL690、JONCRYL57J、JONCRYL60J、JONCRYL61J、 JONCRYL62J、JONCRYL63J、JONCRYLHPD‐96J、JONCRYL501J、JONCRYLPDX‐6102B、ビックケミー社製DISPERBYK、DISPERBYK180、DISPERBYK187、DISPERBYK190、DISPERBYK191、DISPERBYK194、DISPERBYK2010、DISPERBYK2015、DISPERBYK2090、DISPERBYK2091、DISPERBYK2095、DISPERBYK2155、ゼネカ社製SOLSPERS41000、サートマー社製、SMA1000H、SMA1440H、SMA2000H、SMA3000H、SMA17352H等が挙げられる。
顔料分散樹脂は、顔料10重量部に対して0.5〜20重量部、好ましくは1〜10重量部の範囲で用いられる。顔料分散樹脂が顔料10重量部に対して0.5重量部未満であると顔料分散安定性が低下し、インキ組成物の経時安定性に問題を生ずる場合がある。一方、顔料分散樹脂が顔料10重量部に対して20重量部を超えるとインキ組成物の粘度が上昇し、吐出性に悪影響を及ぼす場合がある。
【0087】
本発明の水性インクジェット用インキ組成物は、Fedors法によるSP値が5〜20である保湿溶剤(Z)を含むことが好ましい。
【0088】
Fedors法によるSP値は、溶媒の溶解度パラメーター(SP値)を意味し、分子凝集エネルギーの平方根で表される値である。また、単位は(cal/cm1/2であり、25℃における値を示す。
【0089】
保湿溶剤(Z)のSP値が5未満である場合、インキの保存安定性、吐出性が悪化してしまう場合がある。またSP値が20を超えた場合、インキの基材に対する濡れ広がり、浸透性が悪化し、印字適性を損なう恐れがある。
【0090】
本発明の水性インクジェット用インキ組成物は、保湿溶剤(Z)としてグリコール系溶剤(G)ならびにエチレングリコールエーテル系溶剤(H)を含む事が好ましい。これらの溶剤はインキ組成物中で保湿剤ならびに浸透剤として添加される。グリコール系溶剤(G)は、インキの表面張力を下げる他に、コアシェル型樹脂微粒子(C)の乾燥性を改善する働きをする。グリコール系溶剤(G)を使用しないとコアシェル型樹脂微粒子(C)が乾燥しやすくなり、インキ組成物のノズル詰まりが発生してしまう。また、エチレングリコールエーテル系溶剤(H)は、インキ自体の表面張力を下げ、難吸収性基材上でのインキ液滴の濡れ広がりを改善する他に、乾燥時のコアシェル型樹脂微粒子(C)の造膜を促進させる働きをする。エチレングリコールエーテル系溶剤(H)を使用しないと、コアシェル型樹脂微粒子(C)の成膜性が大きく低下して印字物の物性に悪影響を及ぼす。インキ自体の表面張力を下げることで、難吸収性基材上でのインキ液滴の濡れ広がりを改善する事が目的であるインキ組成物中において、樹脂微粒子の分散安定性を維持した上で、乾燥時の十分な成膜性を発現させるためには、樹脂微粒子の組成と保湿剤成分の組み合わせが非常に重要である。グリコール系溶剤(G)ならびにエチレングリコールエーテル系溶剤(H)を含むインキ組成物において、コアシェル型樹脂微粒子(C)は、保湿剤性分に侵されて分散安定性が低下する事がほとんど無い。そのため、インキ組成物の保存安定性、吐出性には大変優れている。一方で、乾燥時には、コアシェル型樹脂微粒子(C)の成膜性を促進するので、印字物は良好な塗膜耐性を発現する。
【0091】
グリコール系溶剤(G)としては、例えば、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、プロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ペンチレングリコール、1,2−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール等が挙げられる。
【0092】
エチレングリコールエーテル系溶剤(H)としては、例えば、メチルグリコール、メチルジグリコール、メチルトリグリコール、イソプロピルジグリコール、ブチルグリコール、ブチルジグリコール、ブチルトリグリコール、イソブチルグリコール、イソブチルジグリコール、ヘキシルグリコール、ヘキシルジグリコール、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル等が挙げられる。
これらの保湿剤成分は1種を単独で使用しても、複数種を混合して用いても良い。
【0093】
水性インクジェット用インキ組成物100重量%中において、グリコール系溶剤(G)は、10〜40重量%含有していることが好ましい。グリコール系溶剤(G)の含有量が10重量%未満であるとコアシェル型樹脂微粒子(C)の成膜性が不十分になる上、インキ組成物が乾燥しやすくなり、ノズル詰まりが発生してしまう場合がある。一方、グリコール系溶剤(G)の含有量が40重量%を超えると、印字物の乾燥性が不十分となり、印字物の印刷適性、密着性、耐溶剤性に悪影響が出てしまう場合がある。
【0094】
更に水性インクジェット用インキ組成物100重量%中において、エチレングリコールエーテル系溶剤(H)を0.1〜15重量%含有していることが好ましく、より好ましくは0.1〜5重量%の範囲内である。グリコールエーテル系溶剤(F)の含有量が0.1重量%未満であると樹脂微粒子の成膜性が不十分となり、印字物の密着性、耐溶剤性が悪化する場合がある。一方、グリコールエーテル系溶剤(F)の含有量が15重量%を超えると、インキ組成物中でのコアシェル型樹脂微粒子(C)の分散安定性が悪化してしまい、インキの保存安定性、吐出性、印字物の印刷適性に悪影響を及ぼす可能性がある。
【0095】
本発明の水性インクジェット用インキ組成物は上記に挙げたグリコール系溶剤(G)ならびにエチレングリコールエーテル系溶剤(H)に加えて、表面張力や浸透性を調整する目的で、その他の保湿剤を併用してもかまわない。
【0096】
併用できるその他の保湿剤としてはN−メチル−2−ピロリドン、N−ヒドロキシエチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、ε−カプロラクタム等のラクタム系化合物;
ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、出光製エクアミドM−100、エクアミドB−100等のアミド系化合物;
等があげられる。
【0097】
保湿剤成分全体としては、水性インクジェット用インキ組成物100重量%中に通常10〜60重量%、好ましくは20〜50重量%用いられる。保湿剤成分が10重量%未満であると、ノズルでのインキ組成物の乾燥により吐出性に問題を生ずる場合がある。一方、保湿剤成分が60重量%を超えると、印字物の乾燥性が不十分となり、塗膜耐性に悪影響が出てしまう場合がある。
【0098】
本発明の水性インクジェット用インキ組成物を好適に塗布し得る基材としては、例えば、上質紙等の浸透系基材、アート紙、コート紙、ポリ塩化ビニルシート等の非浸透系基材が挙げられる。
【0099】
本発明の水性インクジェット用インキ組成物を用いたインクジェット印刷方式としてはオンデマンド型の記録ヘッドを有するインクジェット方式が挙げられる。オンデマンド型としては、例えばピエゾ方式、サーマルインクジェット方式、静電方式等が例示されるが、ピエゾ方式が最も好ましい。
【0100】
また、本発明の水性インクジェット用インキ組成物を用いての印刷に際しては、印字物の乾燥性および耐性を補強する目的で、印字工程に必要に応じて加熱乾燥工程を導入することができる。加熱乾燥工程を導入することでバインダー樹脂組成物の成膜性も向上する場合があり、適度な加熱処理は好ましい。加熱処理工程は印刷工程(インクジェット印字速度)に影響のない程度に用いることができ、例えば、40〜100℃で1〜200秒の範囲で処理されることが一般的である。
【実施例】
【0101】
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、以下の実施例は本発明の権利範囲を何ら制限するものではない。なお、実施例における「部」は「重量部」、「%」は「重量%」を表す。
【0102】
[実施例1]
攪拌器、温度計、滴下ロート、還流器を備えた反応容器に、イオン交換水55部と乳化剤としてアクアロンKH−10(第一工業製薬株式会社製)0.2部とを仕込み、別途、α‐メチルスチレン1部、エチルメタクリレート25部、ターシャリーブチルメタクリレート5部、シクロヘキシルメタクリレート2部、スチレンスルホン酸ナトリウム0.5部、アクリルアミド0.5部、エチレングリコールジメタクリレート4.5部、イオン交換水15部および乳化剤としてアクアロンKH−10 0.4部をホモミキサーで攪拌混合して調製した乳化液を、5部分取して加えた。内温を70℃に昇温し十分に窒素置換した後、過硫酸カリウムの5%水溶液2.0部、および無水重亜硫酸ナトリウムの1%水溶液5.0部を添加して重合を開始した。反応開始後、内温を75℃に保ちながら上記の乳化液の残りと過硫酸カリウムの5%水溶液1.3部、および無水重亜硫酸ナトリウムの1%水溶液2.6部を1.0時間かけて滴下し、さらに0.5時間攪拌を継続した。引き続きベンジルメタクリレート40部、α‐メチルスチレン10部、ターシャリーブチルメタクリレート5部、スチレンスルホン酸ナトリウム0.5部、アクリルアミド0.5部、エチレングリコールジメタクリレート5.5部、イオン交換水15部および乳化剤としてアクアロンKH−10 0.4部をホモミキサーで攪拌混合して調製した乳化液を1.0時間かけて滴下した。この時も内温を75℃に保ちながら過硫酸カリウムの5%水溶液1.3部、および無水重亜硫酸ナトリウムの1%水溶液2.6部を同時に滴下し、さらに1.5時間攪拌を継続した。反応終了後、温度を30℃まで冷却し、ジメチルアミノエタノールを添加して、pHを8.9とした。さらにイオン交換水で固形分を40%に調整して樹脂微粒子(C)水分散体を得た。得られた樹脂微粒子(C)の平均粒子径は202nm、ガラス転移温度は75℃、樹脂微粒子水分散体の粘度は12.1mPa・sであった。
【0103】
[実施例2〜11]
表1に示す配合組成で、実施例1と同様の方法で合成し、樹脂微粒子(C)水分散体を得た。得られた樹脂微粒子(C)水分散体の基礎物性として、凝集物の有無、ガラス転移温度(Tg)、平均粒子径、粘度について評価をおこなった。
【0104】
[凝集物の有無]
樹脂微粒子(C)水分散体を180メッシュ(100μm)のろ布で濾過し、合成時に発生する樹脂微粒子(C)水分散体1kg当たりの凝集物量を測定した。評価基準は以下の通りである。
○:0.1g未満である
△:0.1g以上、0.3g未満である
×:0.3g以上である
【0105】
[ガラス転移温度(Tg)]
ガラス転移温度(Tg)は、DSC(示差走査熱量計 TAインスツルメント社製)により測定した。樹脂微粒子(C)水分散体を乾固したサンプル約2mgをアルミニウムパン上で秤量し、該アルミニウムパンをDSC測定ホルダーにセットし、5℃/分の昇温条件にて得られるチャートの吸熱ピークを読み取り、ガラス転移温度(Tg)を得た。
【0106】
[平均粒子径]
樹脂微粒子(C)水分散体を500倍に水希釈し、該希釈液約5mlを動的光散乱測定法(測定装置はマイクロトラック(株)日機装製)により測定をおこなった。この時得られた体積粒子径分布データ(ヒストグラム)のピークを平均粒子径とした。
【0107】
[粘度]
重円筒型粘度計(BL型粘度計 TOKIMEC製)で温度25℃、ローターNo.1、回転数30rpm、樹脂微粒子水分散体の固形分40重量%の条件下において、樹脂微粒子(C)水分散体の粘度を測定した。
【0108】
【表1】

【0109】
[比較例1〜8]
表2に示す配合組成で、実施例1と同様の方法で合成し、樹脂微粒子(C)水分散体を得た。得られた樹脂微粒子(C)水分散体の基礎物性として、凝集物の有無、ガラス転移温度(Tg)、平均粒子径、粘度についても同様に評価をおこなった。
【0110】
【表2】

【0111】
<濃縮顔料分散液の製造>
[シアン顔料分散液の製造]
顔料[Lionogen Blue 7351東洋インキ社製]20部、顔料分散樹脂[BASF(株)社製 ジョンクリル61J、固形分30%水溶液]30部、イオン交換水29.3部、消泡剤[サーフィノール104E 日信化学工業製]0.5部をペイントコンディショナーにて2時間分散し、濃縮シアン顔料分散液を得た。
【0112】
[マゼンタ顔料分散液の製造]
顔料をFastogen Super Magenta RGT DIC社製 20部に変えた以外は、シアン顔料分散液と同様の方法で、濃縮マゼンタ顔料分散液を得た。
【0113】
[イエロー顔料分散液の製造]
顔料をNovoperm Yellow H2G クラリアント社製 20部に変えた以外は、シアン顔料分散液と同様の方法で、濃縮マゼンタ顔料分散液を得た。
【0114】
[ブラック顔料分散液の製造]
顔料をPrintex 85 エボニックデグサ社製 20部に変えた以外は、シアン顔料分散液と同様の方法で、濃縮マゼンタ顔料分散液を得た。
【0115】
[実施例13]
実施例1で得られた樹脂微粒子水分散体12.5部に対して、上記のシアン顔料分散液20.8部、保湿剤成分としてプロピレングリコール28部、ヘキシルジグリコール2部、イオン交換水37.5部を加えた後、混練して水性インクジェット用インキ組成物を得た。同様の調製をマゼンタ顔料分散液、イエロー顔料分散液、ブラック顔料分散液のそれぞれについてもおこない、4色の水性インクジェット用インキ組成物を得た。
【0116】
[実施例14〜38および比較例8〜20]
表3および表4に示す配合組成で、実施例13と同様の方法で調製し、水性インクジェット用インキ組成物を得た。
【0117】
【表3】

【0118】
【表4】

【0119】
[水性インクジェット用インキ組成物の評価]
上記で調製した4色の水性インクジェット用インキ組成物を、25℃環境下でセイコーアイ・インフォテック社製ソルベントインクインクジェットプリンタColor Painter 64SPlusに充填し、基材を50℃に加温しながら画像を印刷した。インキ組成物について、保存安定性、ノズル詰まり、ノズル抜けを評価した。ここで言うノズル詰まりとは印字の待機中(室温、新しいインキが供給されない状態)に乾燥して印字できなくなる状態、ノズル抜けとは印字中(50℃、常に新しいインキが供給される状態)に乾燥して印字できなくなる状態の事を指す。ノズル詰まりとノズル抜けはインキの吐出性の重要な指標である。基材にインキを塗布後、80℃、3分で加熱処理をおこない、評価用印字物を得た。これを用いて、印刷適性、密着性、耐擦性、耐水性、耐溶剤性、光沢、明度の各種塗膜物性を評価した。表5および表6にその結果を示す。
【0120】
[保存安定性]
水性インクジェット用インキ組成物について、70℃、6週間の条件下で、粘度の経時変化を評価した。粘度はレオメーター(TAインスツルメンツ社製AR−2000)を使用して測定した。評価基準は以下の通りである。
◎;インキの粘度変化が±0.25mPa・s未満である
○;インキの粘度変化が±0.25mPa・s以上、0.5mPa・s未満である
△;インキの粘度変化が±0.5mPa・s以上、1.0mPa・s未満である
×;インキの粘度変化が±1.0mPa・s以上である
【0121】
[ノズル詰まり]
上記のプリンタにて、印字の待機中(室温、新しいインキが供給されない状態)に乾燥してノズル詰まりが発生するまでの時間を評価した。評価基準は以下の通りである。
○:30分でノズル詰まりが発生しない
△:30分でノズル詰まり発生する
×:10分でノズル詰まり発生する
【0122】
[ノズル抜け]
上記のプリンタにて、印字中(50℃、常に新しいインキが供給される状態)に乾燥してノズル詰まりが発生するまでの時間を評価した。評価基準は以下の通りである。尚、ノズル詰まりが発生した場合には評価を×とした。
◎:30分でノズル抜けが発生しない
○:30分でノズル抜けが発生する
△:10分でノズル抜けが発生する
×:5分でノズル抜けが発生する
【0123】
[印刷適性]
上記のプリンタにて、基材としてコート紙(王子製紙製OKトップコート+)ならびに塩化ビニルシート(METAMARK社製 MD5)を使用して印刷をおこなった。印刷物をルーペで観察し、ドットのつながりや色のムラなどを評価した。評価基準は以下の通りである。
◎:印刷品質が非常に良好なもの
○:良好なもの
△:ある程度良好なもの
×:良好でないもの
【0124】
[密着性]
印刷適性の評価用に作成した印刷物と同様の方法で、基材としてコート紙を使用して、印刷物を作成した。印刷物の印刷にセロハンテープを貼り付けた後、低速で剥がした。評価基準は以下の通りである。
○:剥離物がセロハンテープに付着していない
×:剥離物がセロハンテープに付着している
【0125】
[耐擦性]
印刷適性の評価用に作成した印刷物と同様の方法で、基材としてコート紙を使用して、印刷物を作成した。印刷物の印刷面に対して学振耐摩試験機(テスター産業製 AB−301)で荷重200g/cm(接触面はコート紙)の条件で50回往復させて印字面の傷を評価した。評価基準は以下の通りである。
○:傷が無い状態である
△:傷は有るが基材は見えない
×:傷が多く基材が見える
【0126】
[耐水性・耐溶剤性]
印刷適性の評価用に作成した印刷物と同様の方法で、基材としてコート紙を使用して、印刷物を作成した。印刷物の印刷面上で水、水/エタノール混合溶剤(重量比:50/50)、エタノールのいずれかを綿棒に浸したものを5往復程ラビングした。評価基準は以下の通りである。
○:侵食が無く、綿棒にインキが付着していない
△:綿棒にインキは付着するが、基材表面が見えない
×:綿棒にインキが付着し、基材表面も見える
【0127】
[光沢]
ブラックインキのみを使用した他は、印刷適性の評価用に作成した印刷物と同様の方法で、基材としてコート紙を使用して、ブラックの印刷物を作成した。印刷物について、光沢計(BYK Gardner社製 Micro-TRI-gloss)にて60°光沢を測定した。評価基準は以下の通りである。
◎:光沢100以上である
○:光沢70以上、100未満である
△:光沢55以上、70未満である
×:光沢55未満である
【0128】
[明度]
光沢の評価用に作成した印刷物と同様の方法で、基材としてコート紙を使用して、ブラックの印刷物を作成した。印刷物について、色差計(SE2000 日本電色製)で明度(L値)を測定した。評価基準は以下の通りである。
○;L値が8.5未満である
△;L値が8.5以上、10未満である
×;L値が10以上である
【0129】
【表5】

【0130】
【表6】

【0131】
表5および表6に示すように、実施例12〜36の水性インクジェット用インキ組成物は保存安定性や吐出性(ノズル詰まり、ノズル抜け)等のインキ物性に優れ、その印字物は、密着性、耐擦性、耐水性、耐溶剤性、光沢、明度が良好で、優れた塗膜物性を有することがわかった。一方、比較例9〜22の水性インクジェット用インキ組成物はインキ物性が悪い上に、印字物の塗膜物性も不良であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン性官能基を有さない芳香族エチレン性不飽和単量体(A)20〜70重量%と、
炭素数1〜4のアルキル基含有エチレン性不飽和単量体(B)10〜70重量%とを含むエチレン性不飽和単量体(X)を段階的に乳化重合してなるコアシェル型樹脂微粒子(C)を含む水性インクジェットインキ用バインダー樹脂組成物であって、
前記コアシェル型樹脂微粒子(C)の最内核層は、単量体(A)0.1〜40重量%と、前記単量体(A)よりも多量の単量体(B)とを含むエチレン性不飽和単量体(Y)を重合する、第一の乳化重合工程により形成されてなり、
さらに、前記コアシェル型樹脂微粒子(C)の最内核層と最外殻層とのガラス転移温度差が0〜10℃である、ことを特徴とする水性インクジェットインキ用バインダー樹脂組成物。
【請求項2】
エチレン性不飽和単量体(X)が、架橋性エチレン性不飽和単量体(D)を0.1〜10重量%含むことを特徴とする、請求項1記載の水性インクジェットインキ用バインダー樹脂組成物。
【請求項3】
エチレン性不飽和単量体(Y)が、架橋性エチレン性不飽和単量体(D)を0.05〜5重量%含むことを特徴とする、請求項1または2記載の水性インクジェットインキ用バインダー樹脂組成物。
【請求項4】
架橋性エチレン性不飽和単量体(D)が、アルコキシシリル基含有エチレン性不飽和単量体(E)、または2個以上のアリル基を有する単量体(F)である、請求項2または3記載の水性インクジェットインキ用バインダー樹脂組成物。
【請求項5】
コアシェル型樹脂微粒子(C)のガラス転移温度が40〜120℃である請求項1〜4いずれか記載の水性インクジェットインキ用バインダー樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5いずれか記載の水性インクジェットインキ用バインダー樹脂組成物、および、Fedors法によるSP値が5〜20である保湿溶剤(Z)を含むことを特徴とする水性インクジェット用インキ組成物。
【請求項7】
保湿剤(Z)が、グリコール系溶剤(G)およびエチレングリコールエーテル系溶剤(H)を含む、請求項6記載の水性インクジェット用インキ組成物。

【公開番号】特開2012−201692(P2012−201692A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−64367(P2011−64367)
【出願日】平成23年3月23日(2011.3.23)
【出願人】(000222118)東洋インキSCホールディングス株式会社 (2,229)
【Fターム(参考)】