説明

水性インク組成物、インクジェット記録方法及びインクジェット印画物

【課題】インクジェット法により画像を記録する際の吐出性に優れ、記録した画像の耐溶剤性および基材への密着性に優れ、インク組成物の保存安定性にも優れたインク組成物を提供する。
【解決手段】(成分A)水溶性基と特定の構造のマレイミド基を有する化合物、(成分B)色材、及び(成分C)水を含有する、水性インク組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性インク組成物、インクジェット記録方法及びインクジェット印画物に関する。
【背景技術】
【0002】
画像データ信号に基づき、紙などの記録媒体に画像を形成する画像記録方法として、電子写真方式、昇華型及び溶融型熱転写方式、インクジェット方式などがある。電子写真方式は、感光体ドラム上に帯電及び露光により静電潜像を形成するプロセスを必要とし、システムが複雑となり、結果的に製造コストが高価になるなどの問題がある。また熱転写方式は、装置は安価であるが、インクリボンを用いるため、ランニングコストが高く、かつ廃材が出るなどの問題がある。
一方、インクジェット方式は、安価な装置で、且つ必要とされる画像部のみにインクを吐出し記録媒体上に直接画像形成を行うため、インクを効率良く使用でき、ランニングコストが安いという利点を有し、さらに、騒音が少なく、画像記録方式として優れている。
【0003】
インクジェット方式による画像の記録に用いられるインク組成物のなかでも、活性エネルギー線硬化型水性インクは、画像の印刷、記録媒体に印刷適性を付与するための前処理、印刷された画像の保護・装飾の後処理などに好適に使用でき、また、水を主成分とすることから安全性に優れ、低粘度化によって高密度インクジェット記録への適用が可能になるなど、多くの優れた特徴、可能性を有する技術である。
【0004】
活性エネルギー線硬化型水性インクの基本構成材料の一例として、水、重合性物質、放射線によってラジカルなどを発生して重合を開始させる重合開始剤及び色材(顔料あるいは染料)を挙げることができる。このうち重合性物質や重合開始剤は、エマルジョン状態にして調製される場合と、適当な置換基により水溶性を付与されて溶液状態として存在する場合がある。重合性物質および重合開始剤が水溶性である例としては、例えば特許文献1に記載されているものが挙げられ、光照射により密着性などに優れた膜が得られるインクジェット記録用インク組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−307199号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、光重合開始剤を用いる技術である特許文献1は、添加された光重合開始剤の分解物や未反応残存物が硬化膜に残ることで膜物性や印刷物に悪影響を及ぼす懸念があるため、十分な量の光重合開始剤を使用できない場合があり、印刷された画像の密着性や耐溶剤性に未だ改良の余地がある。また、インク組成物の吐出性や保存安定性についてもさらなる改良の余地がある。したがって、密着性、耐溶剤性、吐出性および保存安定性が良好な水性インク組成物が切望されている。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、上記の事情に照らし、インクジェット法により画像を記録する際の吐出性に優れ、記録した画像の耐溶剤性及び基材との密着性に優れ、かつインク組成物の保存安定性にも優れた水性インク組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するための具体的手段は以下の通りである。
<1> (成分A)水溶性基を有し、かつ下記一般式(1)で表される基を2つ以上有する化合物、(成分B)色材、及び(成分C)水、を含有することを特徴とする水性インク組成物。
【0009】
【化1】

【0010】
[式(1)中、R及びRは各々独立に、炭素数1〜4のアルキル基を表し、R及びRは互いに結合して4〜6員環を形成してもよい。]
<2> 前記水溶性基が、カルボン酸のアルカリ金属塩及びオニウム塩、スルホン酸のアルカリ金属塩及びオニウム塩、リン酸、リン酸のアルカリ金属塩及びオニウム塩、ホスホン酸、ホスホン酸のアルカリ金属塩及びオニウム塩、並びに4級アンモニウム塩からなる群から選ばれる少なくとも1種の基である、<1>に記載の水性インク組成物。
<3> 前記(成分A)が、前記一般式(1)で表される基を側鎖に有する高分子化合物である、<1>又は<2>に記載の水性インク組成物。
<4> さらに(成分D)水混和性有機溶剤を含む、<1>〜<3>のいずれか1項に記載の水性インク組成物。
<5> <1>〜<4>のいずれか1項に記載の水性インク組成物を記録媒体上に付与するインク付与工程と、前記インク組成物に活性エネルギー線を照射する照射工程とを含むことを特徴とするインクジェット記録方法。
<6> <5>に記載のインクジェット記録方法によって記録されたことを特徴とするインクジェット印画物。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、インクジェット法により画像を記録する際の吐出性に優れ、記録した画像の耐溶剤性及び基材との密着性に優れ、かつインク組成物の保存安定性にも優れた水性インク組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<水性インク組成物>
本発明のインク水性組成物は、(成分A)水溶性基を有し、かつ下記一般式(1)で表される基を2つ以上有する化合物、(成分B)色材、及び(成分C)水、を含有することを特徴とする。
【0013】
【化2】

【0014】
式(1)中、R及びRは各々独立に、炭素数1〜4のアルキル基を表し、R及びRは互いに結合して4〜6員環を形成してもよい。
なお、本明細書において「〜」とは、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0015】
本発明では、インクジェット記録に好適なインク組成物を鋭意検討した結果、マレイミド構造を有する特定の化合物、色材、及び、水を用いることで、光重合開始剤を使用することなく、または光重合開始剤の使用量を低減しながら、吐出性等を向上させることに成功した。本発明のメカニズムは明らかではないが、発明者は以下のように推察する。本発明では、マレイミド構造を有する特定の化合物、色材、及び水を用いることで、組成物中の各成分の混和性が向上するとともに、揮発性成分の蒸発速度が適切に制御でき、インク組成物中の成分がインクジェットヘッドのノズル周辺に析出しにくくなったことにより吐出性等が向上したと考えられる。
【0016】
以下、本発明の水性インク組成物(以下、単に「インク組成物」ともいう。)について詳細に説明する。
【0017】
〈(成分A)水溶性基を有し、かつ下記一般式(1)で表される基を2つ以上有する化合物〉
本発明に用いられる水溶性基を有し、かつ下記一般式(1)で表される基を2つ以上有する化合物は、分子中に水溶性基を有し、かつ式(1)で表される基を2つ以上有する化合物であれば制限することなく使用できる。 本発明の(成分A)は、水溶性基を有することにより、水中に安定に溶解、又は、分散することが可能である。また、式(1)で表される基を2つ以上有する化合物を使用することで、インク組成物の架橋反応を進めることができる。
【0018】
【化3】

【0019】
式(1)中、R及びRは各々独立に炭素数1〜4のアルキル基を表し、R及びRは互いに結合して4〜6員環を形成してもよい。
【0020】
式(1)において、R及びRは置換基を有していても、置換基を有していなくてもよいが、置換基を有していないことが好ましい。
【0021】
及びRは各々独立に炭素数1〜4のアルキル基を表し、直鎖構造であっても分岐構造であってもよい。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基等を表す。R及びRは互いに結合して4〜6員環を形成してもよい。インク組成物を硬化した後の耐溶剤性及び基材への密着性等といった、インク硬化膜の膜物性の観点から、R及びRは各々独立に、炭素数1〜2のアルキル基、即ち、メチル基、又は、エチル基であることが好ましく、メチル基であることが特に好ましい。また、R及びRが互いに結合して4〜6員環を形成する場合は、5〜6員環であることが好ましく、6員環であることがより好ましい。
【0022】
本発明の(成分A)は、水溶性、又は、水分散性であり、(成分A)の1gを30ml未満の水で溶解、又は、分散できることが好ましく、20ml未満の水で溶解、又は、分散できることがより好ましく、10ml未満の水で溶解、又は、分散できることが好ましい。インクジェット描画での吐出安定性、及び、インク組成物の保存安定性の点から、(成分A)は水溶性であることが好ましい。
【0023】
(成分A)における水溶性基は、成分Aの化合物に水溶性もしくは水分散性を持たせることが可能な基であれば限定されない。水溶性基としては、カルボン酸の金属塩及びオニウム塩、スルホン酸の金属塩及びオニウム塩、リン酸、リン酸の金属塩及びオニウム塩、ホスホン酸、ホスホン酸の金属塩及びオニウム塩、並びに4級アンモニウム塩からなる群から選ばれる基であることが好ましく、カルボン酸の金属塩及びオニウム塩、スルホン酸の金属塩及びオニウム塩、リン酸、リン酸の金属塩及びオニウム塩、ホスホン酸並びにホスホン酸の金属塩及びオニウム塩からなる群から選ばれる基であることがさらに好ましく、カルボン酸の金属塩及びオニウム塩並びにスルホン酸の金属塩及びオニウム塩からなる群から選ばれる基であることが特に好ましく、カルボン酸の金属塩及びオニウム塩からなる群から選ばれる基であることが最も好ましい。
【0024】
カルボン酸の金属塩としては、カルボン酸のアルカリ金属塩であることが好ましい。
カルボン酸の金属塩からなる基の具体例としては、−COOLi、−COONa、−COOK、等が挙げられ、−COONa、−COOK等であることが好ましい。
【0025】
カルボン酸のオニウム塩としては、カルボン酸のアンモニウム塩や、ピリジニウム塩、ホスホニウム塩等が挙げられ、アンモニウム塩であることが好ましい。
カルボン酸のオニウム塩からなる基の具体例としては、カルボン酸のテトラアルキルアンモニウム塩、カルボン酸のトリアルキルアリールアンモニウム塩等が挙げられ、カルボン酸のテトラアルキルアンモニウム塩であることが好ましい。アンモニウム塩を形成するアルキル基としては炭素数1〜4のアルキル基が好ましく、アリール基としてはフェニル基が好ましい。
【0026】
スルホン酸の金属塩としては、スルホン酸のアルカリ金属塩であることが好ましい。
スルホン酸の金属塩からなる基の具体例としては、−SOLi、−SONa、−SOK、等が挙げられ、−SONa、−SOKであることが好ましい。
【0027】
スルホン酸のオニウム塩としては、スルホン酸のアンモニウム塩や、ピリジニウム塩、ホスホニウム塩等が挙げられ、アンモニウム塩であることが好ましい。スルホン酸のオニウム塩からなる基の具体例としては、スルホン酸のテトラアルキルアンモニウム塩、スルホン酸のトリアルキルアリールアンモニウム塩等が挙げられ、スルホン酸のテトラアルキルアンモニウム塩であることが好ましい。アンモニウム塩を形成するアルキル基としては炭素数1〜4のアルキル基が好ましく、アリール基としてはフェニル基が好ましい。
【0028】
リン酸の金属塩としては、リン酸のアルカリ金属塩であることが好ましい。リン酸の金属塩からなる基の具体例としては、リン酸のナトリウム塩やカリウム塩等が挙げられ、リン酸のナトリウム塩であることが好ましい。
【0029】
リン酸のオニウム塩としては、リン酸のアンモニウム塩や、ピリジニウム塩、ホスホニウム塩等が挙げられ、アンモニウム塩であることが好ましい。リン酸のオニウム塩からなる基の具体例としては、リン酸のテトラアルキルアンモニウム塩、リン酸のトリアルキルアリールアンモニウム塩等が挙げられ、リン酸のテトラアルキルアンモニウム塩であることが好ましい。アンモニウム塩を形成するアルキル基としては炭素数1〜4のアルキル基が好ましく、アリール基としてはフェニル基が好ましい。
【0030】
ホスホン酸の金属塩としては、ホスホン酸のアルカリ金属塩であることが好ましい。ホスホン酸の金属塩からなる基の具体例としては、ホスホン酸のナトリウム塩やカリウム塩等が挙げられ、ホスホン酸のナトリウム塩であることが好ましい。
【0031】
ホスホン酸のオニウム塩としては、ホスホン酸のアンモニウム塩や、ピリジニウム塩、ホスホニウム塩等が挙げられ、アンモニウム塩であることが好ましい。ホスホン酸のオニウム塩からなる基の具体例としては、ホスホン酸のテトラアルキルアンモニウム塩、ホスホン酸のトリアルキルアリールアンモニウム塩等が挙げられ、ホスホン酸のテトラアルキルアンモニウム塩であることが好ましい。アンモニウム塩を形成するアルキル基としては炭素数1〜4のアルキル基が好ましく、アリール基としてはフェニル基が好ましい。
【0032】
4級アンモニウム塩としては、4級アンモニウムイオンとハロゲン化物イオンからなる塩、4級アンモニウムイオンとスルホン酸イオン、リン酸イオン、ホスホン酸イオン等の有機アニオンからなる塩、4級アンモニウムイオンとBF、PF、SbF等のフッ素原子を含有するアニオンからなる塩等が挙げられ、4級アンモニウムイオンとハロゲン化物イオンからなる塩であることが好ましい。
4級アンモニウムイオンとしては、トリアルキルアンモニウム構造を有していることが好ましく、前記アルキル基の炭素数は1〜10であることが好ましく、1〜5であることがさらに好ましい。具体的にはトリメチルアンモニウム構造又はトリエチルアンモニウム構造を有していることが好ましい。
4級アンモニウム塩の具体例としては、−N(CHCl、−N(CCl、−N(CCl等が挙げられ、−N(CHCl又は−N(CCl等であることが好ましい。
【0033】
なお、水溶性基の個数は、成分Aが水溶性もしくは水分散性を有する限り限定的でなく、例えば1個でも複数でもよく、その数は、水溶性基の種類、分子量等に応じて適宜選択される。
【0034】
(成分A)は、分子量300〜2,000の低分子化合物であっても、重量平均分子量5,000以上の高分子化合物であってもよい。インク組成物を硬化した後の耐溶剤性及び基材への密着性等の観点から、(成分A)は重量平均分子量が5,000以上の高分子化合物であることが好ましい。
【0035】
(成分A)が、分子量300〜2,000の低分子化合物である場合、(成分A)の1分子中に、式(1)で表される基は2〜6個含まれていることが好ましく、2〜4個含まれていることがより好ましく、2〜3個含まれていることがさらに好ましく、2個含まれていることが特に好ましい。
【0036】
(成分A)が分子量300〜2,000の低分子化合物である場合、以下の一般式(1−L)で表される化合物であることが好ましい。
【0037】
【化4】

【0038】
式(1−L)において、R及びRは各々独立に炭素数1〜4のアルキル基を表し、R及びRは互いに結合して4〜6員環を形成してもよい。Qは水溶性基を有するg価の連結基を表す。gは2以上の整数を表す。
【0039】
式(1―L)において、R及びRは各々独立に炭素数1〜4のアルキル基を表し、R及びRは互いに結合して4〜6員環を形成してもよい。式(1―L)におけるR及びRは、既述の式(1)におけるR及びRとして例示したものと(好ましい例示も含めて)同様である。
【0040】
式(1―L)において、Qは水溶性基を有するg価の連結基を表す。Qは水溶性基で置換された炭化水素からg個の水素原子が除去された残基であることが好ましい。Qが水溶性基で置換された炭化水素からg個の水素原子が除去された残基である場合、前記炭化水素中にはエーテル基、エステル基、アミノ基、アミド結合、シリルエーテル基、チオール基等が存在していてもよい。前記炭化水素の炭素数は1〜30であることが好ましく、1〜20であることがより好ましい。前記炭化水素は芳香族炭化水素であることが好ましく、芳香族炭化水素としてはベンゼン、ナフタレン等が挙げられる。
【0041】
式(1―L)において、gは2以上の整数を表し、2〜6であることが好ましく、2〜4であることがより好ましく、2〜3であることがさらに好ましく、2であることが特に好ましい。
【0042】
(成分A)が分子量300〜2,000の低分子化合物である場合、本発明では以下の化合物(1−1)〜(1−3)を好ましく用いることができる。
【0043】
【化5】

【0044】
(成分A)が、重量平均分子量5,000以上の高分子化合物である場合、(成分A)の1分子中に、式(1)で表される基を2つ以上含有しかつ水溶性基を有していればよく、式(1)で表される基の数に特に制限はないが、2つ以上500以下が好ましく、10以上200以下がさらに好ましい。また(成分A)が高分子化合物である場合、式(1)で表される基の少なくとも1つが高分子化合物の側鎖に存在することが好ましく、式(1)で表される基の2つ以上が高分子化合物の側鎖に存在することがより好ましい。
【0045】
インク組成物をインクジェット法により吐出する際の吐出性等の観点から、重量平均分子量は5,000〜200,000であることが好ましく、7,000〜100,000であることがより好ましく、10,000〜50,000であることがさらに好ましく、10,000〜40,000であることが特に好ましい。
【0046】
なお重量平均分子量は、ゲル透過クロマトグラフ(GPC)で測定される。GPCは、HLC−8020GPC(東ソー(株)製)を用い、カラムとしてTSKgel SuperHZM−H、TSKgel SuperHZ4000、TSKgel SuperHZ200(東ソー(株)製、4.6mmID×15cm)を、溶離液としてTHF(テトラヒドロフラン)を用いる。
【0047】
(成分A)が、重量平均分子量5,000以上の高分子化合物である場合、高分子化合物の側鎖または末端に式(1)で表される基を有する高分子化合物であれば、その他の高分子構造に限定はなく、ポリアクリレート、ポリエステル、ポリエチレンイミン、ポリスチレン等の高分子構造を使用することができる。インクジェット法によるインク組成物の吐出性、インク組成物を硬化した後の耐溶剤性及び基材への密着性等の観点から、(成分A)は、ポリアクリレート構造を有することが好ましい。
【0048】
(成分A)が高分子化合物である場合、(成分A)は下記一般式(1´)で表される構造を含む高分子化合物であることが好ましい。
【0049】
【化6】

【0050】
式(1´)において、R及びRは各々独立に炭素数1〜4のアルキル基を表し、R及びRは互いに結合して4〜6員環を形成してもよい。Rは水素原子又はメチル基を表す。Zは−COO−、−CONR−を表し、Rは水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表す。Xは2価の有機基を表す。
【0051】
式(1´)において、R及びRは各々独立に炭素数1〜4のアルキル基を表し、R及びRは互いに結合して4〜6員環を形成してもよい。式(1´)におけるR及びRは、既述の式(1)におけるR及びRとして例示したものと(好ましい例示も含めて)同様である。
【0052】
式(1´)において、Rは水素原子又はメチル基を表す。Rはメチル基であることが好ましい。
【0053】
式(1´)において、Zは−COO−、−CONR−を表す。Zは−COO−であることが好ましい。
また、Rは水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表す。炭素数1〜4のアルキル基は、直鎖構造であっても分岐構造であってもよい。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基を表す。Rは水素原子または炭素数1〜2のアルキル基、即ち、メチル基、又は、エチル基であることが好ましく、水素原子であることが特に好ましい。なお、Rは置換基を有していても、置換基を有していなくてもよいが、置換基を有していないことが好ましい。
【0054】
式(1´)において、Xは2価の有機基を表す。2価の有機基としては、炭素数2〜20のアルキレン基であることが好ましい。前記アルキレン基は直鎖構造であっても分岐構造であっても環状構造であってもよい。また、アルキレン基中には、エーテル結合、エステル結合、アミド結合、ウレタン結合、アリーレン基が存在していてもよい。Xがアルキレン基である場合の炭素数は2〜20であることが好ましく、炭素数2〜12であることがより好ましく、炭素数2〜8であることがさらに好ましい。
【0055】
式(1´)において、R及びRは各々独立に炭素数1〜2のアルキル基であり、Rはメチル基であり、Zは−COO−であり、Xは炭素数2〜12のアルキレン基であることが好ましい。
【0056】
(成分A)が上記一般式(1´)で表される構造を含む高分子化合物である場合、当該高分子化合物は下記一般式(1´−1)で表される単量体を重合して得られる高分子化合物であることが好ましい。前記重合は一般式(1´−1)で表される単量体と水溶性基を有する単量体とを共重合したものであることが好ましい。また、インク組成物を硬化した後の膜物性を制御する観点からその他の単量体を共重合成分に含んでいることが好ましい。
【0057】
【化7】

【0058】
一般式(1´−1)におけるR、R、R、Z、及びXは、既述の式(1´)における定義と(好ましい例示も含めて)同様である。
【0059】
式(1´−1)で表される単量体の好ましい例としては以下の化合物(1−1−1)〜(1−1−16)を挙げることができるが、本発明はこれらに限定されない。
【0060】
【化8】

【0061】
【化9】

【0062】
【化10】

【0063】
【化11】

【0064】
(成分A)が高分子化合物である場合、当該高分子化合物は前記(1´)の構造に加えて、下記一般式(2)の構造を有することが好ましい。
【0065】
【化12】

【0066】
一般式(2)において、Rcyは水素原子またはメチル基を表す。Zは−COO−、−CONRdy−または単結合を表し、Rdyは水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表す。Rは単結合または2価の有機基を表す。Aは水溶性基を表す。
【0067】
一般式(2)において、Rcyは水素原子またはメチル基を表し、水素原子であることが好ましい。
【0068】
一般式(2)において、Zは−COO−、−CONRdy−または単結合を表し、−COO−であることが好ましい。Rdyは水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表す。炭素数1〜4のアルキル基は、直鎖構造であっても分岐構造であってもよい。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基を表す。Rdyは水素原子または炭素数1〜2のアルキル基、即ち、メチル基、又は、エチル基であることが好ましく、水素原子であることが特に好ましい。なお、Rdyは置換基を有していても、置換基を有していなくてもよいが、置換基を有していないことが好ましい。
【0069】
一般式(2)において、Rは単結合または2価の有機基を表す。Rが2価の有機基である場合、前記2価の有機基は、炭素数1〜20のアルキレン基、炭素数6〜20のアリーレン基又は炭素数7〜20のアラルキレン基であることが好ましい。これらの基は置換基を有していても、置換基を有していなくてもよい。また、これらの基の中には、エーテル結合、エステル結合、アミド結合、ウレタン結合が存在していてもよい。
【0070】
が炭素数1〜20のアルキレン基である場合、前記アルキレン基は直鎖構造であっても分岐構造であっても環状構造であってもよい。Rがアルキレン基である場合の炭素数は2〜12であることがより好ましく、炭素数2〜8であることがさらに好ましい。Rのアルキレン基の具体例としては、−CH−、−C−、−C(CH−CH−、−CHC(CHCH−、−C12−、C(C)C−、C1836、1,4−trans−シクロヘキシレン基、−C−OCO−C−、−C−OCO−、−C−O−C10−、−CH−O−C(C11)−、−C−CONH−C−、−C−CONH−、−C−OCONH−C12−、−CH−OCONHC1020−等を挙げることができる。
【0071】
が炭素数6〜20のアリーレン基である場合、前記アリーレン基の炭素数は6〜18であることが好ましく、6〜14であることがさらに好ましく、6〜10であることが最も好ましい。Rのアリーレン基の具体例としては、フェニレン基、ビフェニレン基、−C−CO−C−、ナフチレン基等を挙げることができる。
【0072】
が炭素数7〜20のアラルキレン基である場合、前記アラルキレン基の炭素数は7〜18であることが好ましく、7〜14であることがさらに好ましく、7〜10であることが最も好ましい。アラルキレン基の具体例としては、−C−C−、−C−C−C−、−CH−C−C−C−、−C−OCO−C−等を挙げることができる。
【0073】
一般式(2)におけるAは水溶性基を表し、−COOM、−SO、−P(O)(OM、−OP(O)(OMであることが好ましく、−COOM、又は−SOであることがより好ましく、−COOMであることが最も好ましい。
はアルカリ金属またはオニウムイオンを表し、アルカリ金属であることが好ましい。Mとして具体的には、リチウム原子、ナトリウム原子、カリウム原子、アンモニウムイオン等が挙げられる。
は水素原子、アルカリ金属またはオニウムイオンを表し、水素原子であることが好ましい。Mとして具体的には、水素原子、リチウム原子、ナトリウム原子、カリウム原子、アンモニウムイオン等が挙げられる。
Aとしては−COOM、又は−SOであり、Mがアルカリ金属であることが好ましく、−COOMであり、Mがアルカリ金属であることがより好ましい。
【0074】
一般式(2)において、Rcyは水素原子であり、Zは−COO−であり、Rは単結合、炭素数2〜8のアルキレン基又は炭素数6〜10のアリーレン基であり、Aは−COOM、又は−SOであることが好ましい。
【0075】
上記一般式(2)で表される構造は、(2−1)で表される単量体を重合して得ることができる。
【0076】
【化13】

【0077】
式(2−1)において、Rcy、Z、R、Aは(2)における定義と好ましい範囲も含めて同様である。
【0078】
式(2−1)で表される単量体の好ましい例としては以下の化合物(2−1−1)〜(2−1−15)を挙げることができるが、本発明はこれらに限定されない。
【0079】
【化14】

【0080】
【化15】

【0081】
式(1´−1)で表される単量体および式(2−1)に代表される構造を有する単量体と共重合し得るその他の単量体としては、スチレン、p−メトキシスチレン、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ボルニル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2−エチヘキシルジグリコール(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、ブトシキメチル(メタ)アクリレート、3−メトキシブチル(メタ)アクリレート、2−(2−メトキシエトキシ)エチル(メタ)アクリレート、2−(2−ブトキシエトキシ)エチル(メタ)アクリレート、2,2,2−テトラフルオロエチル(メタ)アクリレート、1H,1H,2H,2H−パーフルオロデシル(メタ)アクリレート、4−ブチルフェニル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、2,4,5−テトラメチルフェニル(メタ)アクリレート、4−クロロフェニル(メタ)アクリレート、フェノキシメチル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、グリシジロキシブチル(メタ)アクリレート、グリシジロキシエチル(メタ)アクリレート、グリシジロキシプロピル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ブトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、ペルフルオロオクチルエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、N−ブチル(メタ)アクリルアミド、N−p−ヒドロキシフェニル(メタ)アクリルアミド、p−スルファモイルフェニル(メタ)アクリルアミドが挙げられる。式(1´−1)で表される単量体と共重合し得る単量体としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート等の炭素数1〜8程度のアルキル(メタ)アクリレートが好ましい。なお、上記以外の公知のモノマーを、必要に応じて使用することもできる。
【0082】
(成分A)が共重合体である場合、下記一般式(A´)の構造を有することが好ましい。
【0083】
【化16】

【0084】
一般式(A´)におけるRcxはそれぞれ独立に、水素原子又はメチル基を表す。Zは−COO−、−CONRdx−または単結合を表し、Rdxは水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表す。Rは水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基又は炭素数7〜20のアラルキル基を表す。a、b及びcは高分子化合物における共重合比を表し、a、b及びcの総和は100となる。
一般式(A´)におけるR、R、R、Z及びXは、一般式(1´)における定義と好ましい範囲も含めて同様である。
一般式(A´)におけるRcy、Z、R及びAは、一般式(2)における定義と好ましい範囲も含めて同様である。
【0085】
一般式(A´)において、Rcxは、水素原子又はメチル基を表し、水素原子であることが好ましい。
【0086】
一般式(A´)において、Zは−COO−、−CONRdx−または単結合を表し、−COO−であることが好ましい。Rdxは水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表す。炭素数1〜4のアルキル基は、直鎖構造であっても分岐構造であってもよい。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基を表す。Rdxは水素原子または炭素数1〜2のアルキル基、即ち、メチル基、又は、エチル基であることが好ましく、水素原子であることが特に好ましい。なお、Rdxは置換基を有していても、置換基を有していなくてもよいが、置換基を有していないことが好ましい。
【0087】
式(A´)において、Rは水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基または炭素数7〜20のアラルキル基を表す。これらの基は置換基を有していても、置換基を有していなくてもよい。また、これらの基の中には、エーテル結合、エステル結合、アミド結合、ウレタン結合が存在していてもよい。
【0088】
が炭素数1〜10のアルキル基である場合、前記アルキル基は直鎖構造であっても、分岐構造であっても、環状構造であってもよい。Rが炭素数1〜10のアルキル基である場合、炭素数は1〜8であることが好ましく、1〜6であることがさらに好ましい。
が炭素数1〜10のアルキル基である場合の具体例としては、−CH、−C、−CH(CH、−CHC(CH、−C13、シクロヘキシル基、−C−OCO−C、−C−O−C11、−C−CONH−C、−C−OCONH−C13、等を挙げることができる。
【0089】
が炭素数6〜20のアリール基である場合、前記アリール基の炭素数は6〜20であり、6〜18であることが好ましく、6〜14であることがさらに好ましく、6〜10であることが最も好ましい。Rのアリール基の具体例としては、フェニル基、ビフェニル基、−C−CO−C、ナフチル基等を挙げることができる。
【0090】
が炭素数7〜20のアラルキル基である場合、前記アラルキル基の炭素数は7〜20であり、7〜18であることが好ましく、7〜14であることがさらに好ましく、7〜10であることが最も好ましい。Rのアラルキル基の具体例としては、−C−C、−C−C−C、−CH−C−C−C、−C−OCO−C等を挙げることができる。
【0091】
式(A´)において、a、b及びcは高分子化合物における共重合比を表し、a、b及びcの総和は100となる(共重合比はモル基準である)。30≦a+b≦90かつ10≦c≦70であることが好ましく、40≦a+b≦90かつ10≦c≦60であることがさらに好ましい。
【0092】
一般式(A´)において、R及びRは各々独立に炭素数1〜2のアルキル基であり、Rはメチル基であり、Zは−COO−であり、Xは炭素数2〜12のアルキレン基であり、Rcyは水素原子であり、Zは−COO−であり、Rは単結合、炭素数2〜8のアルキレン基又は炭素数6〜10のアリーレン基であり、Aは−COOM、又は−SOであり、Rcxは水素原子であり、Zは−COO−であり、Rは炭素数1〜6のアルキル基または炭素数6〜10のアリール基であり、a、b及びcは、40≦a+b≦90かつ10≦c≦60を満たす値であることが好ましい。
【0093】
(成分A)として、以下の化合物(A−1)〜(A−11)を挙げることができるが、本願はこれに限定されない。
【0094】
【化17】

【0095】
【化18】

【0096】
本発明において、(成分A)として、(A−1)〜(A−9)を好ましく使用することができ、(A−1)〜(A−3)及び(A−7)〜(A−9)が特に好ましい。
【0097】
本発明における(成分A)やその前駆体は、一般的には公知慣用の方法により製造することができる。例えば、例示化合物(1−1)〜(1−3)のような低分子化合物は、米国特許公開公報US2009/0224203A1、Synlett 13巻2172〜2176頁(2009年)、Journal of Polymer Science Part A−1 Polymer Chemistry 10巻6号1687〜1699頁(1972年)等に記載の方法を参考にして製造できる。例示化合物(1−1−1)〜(1−1−16)のような高分子化合物の前駆体となるアクリレート類は、特開昭52−988号公報、特開平4−251258号公報等に記載の方法を参考にして製造できる。例示化合物(2−1−1)〜(2−1−15)のような高分子化合物の前駆体となる化合物は、いずれも市販の化合物、または、市販の化合物の酸性基をアルカリ金属の水酸化物等により中和したものである。例示化合物(A−1)〜(A−11)のような高分子化合物は、前記の前駆体を公知の重合方法により重合し、必要に応じて酸性基をアルカリ金属の水酸化物等により中和することにより得ることができ、例えば、特開昭52−988号公報、特開昭55−154970号公報、Langmuir 18巻14号5414〜5421頁(2002年)等に記載の重合方法準じた方法で製造することができる。
【0098】
(成分A)のインク組成物中における含有量としては、1〜50質量%が好ましく、2〜35質量%がより好ましく、3〜30質量%がさらに好ましい。(成分A)の含有量は、1質量%以上であると、良好な硬化膜物性が得られ、50質量%以下であると、インク粘度を適性に保てる。
【0099】
〈(成分B)色材〉
本発明のインク組成物は、(成分B)色材を含有する。
本発明に用いることができる色材としては、特に制限はなく、顔料、水溶性染料、分散染料等の公知の色材から任意に選択して使用することができる。この中でも、色材としては、耐候性に優れ、色再現性に富む点から、顔料を含むことがより好ましい。
【0100】
(顔料)
顔料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、公知の有機顔料及び無機顔料などが挙げられ、また、染料で染色した樹脂粒子、市販の顔料分散体や表面処理された顔料(例えば、顔料を分散媒として水、液状有機化合物や不溶性の樹脂等に分散させたもの、及び、樹脂や顔料誘導体等で顔料表面を処理したもの等)も挙げられる。なお、前記顔料としては、例えば、伊藤征司郎編「顔料の辞典」(2000年、朝倉書店発行)、橋本勲著「有機顔料ハンドブック」(2006年、カラーオフィス発行)、W. Herbst, K. Hunger編「Industrial Organic Pigments」(1992年、Wiley−VHC発行)、特開2002−12607号公報、特開2002−188025号公報、特開2003−26978号公報、特開2003−342503号公報、特開2009−235370号公報に記載のものが挙げられる。
【0101】
前記有機顔料及び無機顔料としては、例えば、黄色顔料、赤色顔料、マゼンタ顔料、青色顔料、シアン顔料、緑色顔料、橙色顔料、紫色顔料、褐色顔料、黒色顔料、白色顔料等が挙げられる。
前記黄色顔料としては、C.I.ピグメントイエロー 1、2、3、4、5、10、65、73、74、75、97、98、111、116、130、167、205等のモノアゾ顔料、61、62、100、168、169、183、191、206、209、212等のモノアゾレーキ顔料、12、13、14、16、17、55、63、77、81、83、106、124、126、127、152、155、170、172、174、176、214、219等のジスアゾ顔料、24、99、108、193、199等のアントラキノン顔料、60等のモノアゾピラゾロン顔料、93、95、128、166等の縮合アゾ顔料、109、110、139、173、185等のイソインドリン顔料、120、151、154、175、180、181、194等のベンズイミダゾロン顔料、117、129、150、153等のアゾメチン金属錯体顔料、138等のキノフタロン顔料、213等のキノキサリン顔料が好ましい。
【0102】
前記赤色又はマゼンタ顔料としては、C.I.ピグメントレッド 193等のモノアゾレーキ顔料、38等のジスアゾ顔料、2、5、8、9、10、11、12、14、15、16、17、18、22、23、31、32、112、114、146、147、150、170、184、187、188、210、213、238、245、253、256、258、266、268、269等のナフトールAS顔料、3、4、6等のβ−ナフトール顔料、49、53、68等のβ−ナフトールレーキ顔料、237、239、247等のナフトールASレーキ顔料、41等のピラゾロン顔料、48、52、57、58、63、64:1、200等のBONAレーキ顔料、81:1、169、172等のキサンテンレーキ顔料、88、181、279等のチオインジゴ顔料、123、149、178、179、190、224等のペリレン顔料、144、166、214、220、221、242、262等の縮合アゾ顔料、168、177、182、226、263等のアントラキノン顔料、83等のアントラキノンレーキ顔料、171、175、176、185、208等のベンズイミダゾロン顔料、122、202(C.I.ピグメントバイオレット 19との混合物を含む)、207、209等のキナクリドン顔料、254、255、264、270、272等のジケトピロロピロール顔料、257、271等のアゾメチン金属錯体顔料が好ましい。
【0103】
前記青色又はシアン顔料としては、C.I.ピグメントブルー 25、26等のナフトールAS顔料、15、15:1、15:2、15:3、15:4、15:6、16、17:1、75、79等のフタロシアニン顔料、1、24:1、56、61、62等の染付けレーキ顔料、60等のアントラキノン系顔料、63等のインジゴ顔料、80等のジオキサジン顔料が好ましい。
前記緑色顔料としては、C.I.ピグメントグリーン 1、4等の染付けレーキ顔料、7、36等のフタロシアニン顔料、8等のアゾメチン金属錯体顔料が好ましい。
前記橙色顔料としては、C.I.ピグメントオレンジ 1等のモノアゾ顔料、2、3、5等のβ−ナフトール顔料、4、24、38、74等のナフトールAS顔料、13、34等のピラゾロン顔料、36、60、62、64、72等のベンズイミダゾロン顔料、15、16等のジスアゾ顔料、17、46等のβ−ナフトールレーキ顔料、19等のナフタレンスルホン酸レーキ顔料、43等のペリノン顔料、48、49等のキナクリドン顔料、51等のアントラキノン系顔料、61等のイソインドリノン顔料、66等のイソインドリン系顔料、68等のアゾメチン金属錯体顔料、71、73、81等のジケトピロロピロール顔料が好ましい。
【0104】
前記褐色顔料としては、C.I.ピグメントブラウン 5等のBONAレーキ顔料、23、41、42等の縮合アゾ顔料、25、32等のベンズイミダゾロン顔料が好ましい。
前記紫色顔料としては、C.I.ピグメントバイオレット 1、2、3、27等の染付けレーキ顔料、13、17、25、50等のナフトールAS顔料、5:1等のアントラキノンレーキ顔料、19等のキナクリドン顔料、23、37等のジオキサジン顔料、29等のペリレン顔料、32等のベンズイミダゾロン顔料、38等のチオインジゴ顔料が好ましい。
前記黒色顔料としては、C.I.ピグメントブラック 1等のインダジン顔料、7であるカーボンブラック、10であるグラファイト、11であるマグネタイト、20等のアントラキノン顔料、31、32等のペリレン顔料が好ましい。
前記白色顔料としては、C.I.ピグメントホワイト 4である酸化亜鉛、6である酸化チタン、7である硫化亜鉛、12である酸化ジルコニウム(ジルコニウムホワイト)、18である炭酸カルシウム、19である酸化アルミニウム・酸化ケイ素(カオリンクレー)、21又は22である硫酸バリウム、23である水酸化アルミニウム(アルミナホワイト)、27である酸化ケイ素、28であるケイ酸カルシウムが好ましい。
白色顔料に使用される無機粒子は単体でもよいし、ケイ素、アルミニウム、ジルコニウム、チタン等の酸化物や有機金属化合物、有機化合物との複合粒子であってもよい。
中でも前記酸化チタンは、他の白色顔料と比べて比重が小さい、屈折率が大きい、隠蔽力や着色力が大きい、酸やアルカリ、その他の環境に対する耐久性にも優れていることから、好適に使用される。なお、前記酸化チタンに加えて他の白色顔料(上述した白色顔料以外のものであってもよい。)を併用してもよい。
【0105】
顔料粒子の体積平均粒径は、好ましくは0.005〜0.5μm、より好ましくは0.01〜0.45μm、更に好ましくは0.015〜0.4μmとなるよう、顔料、分散剤、媒体の選定、分散条件、ろ過条件を設定することが好ましい。平均粒径を上記の範囲とすることで、本発明の効果をより向上させることができる。
なお、本発明においては、粒子の平均粒子径及び粒径分布は、ナノトラック粒度分布測定装置UPA−EX150(日機装(株)製)等の市販の粒径測定装置を用いて、動的光散乱法により体積平均粒径を測定することにより求められるものである。
【0106】
(水溶性染料)
本発明に用いることができる水溶性染料としては、例えば酸性染料や直接染料が挙げられる。酸性染料、直接染料は、可溶化基として、酸性基をもつ構造となっている。酸性基としては、スルホン酸基およびその塩、カルボン酸基およびその塩、リン酸基およびその塩が挙げられる。酸性基の数はひとつでも複数でもよく、組み合わせでもよい。水溶性染料が含有する発色団の化学構造としては、アゾ系、フタロシアニン系、トリフェニルメタン系、キサンテン系、ピラゾロン系、ニトロ系、スチルベン系、キノリン系、メチン系、チアゾール系、キノンイミン系、インジゴイド系、ローダミン系、アントラキノン系、アンスラキノン系のものなどが挙げられる。
以下に限定されるものではないが、好ましい油溶性染料の具体例としては、例えば、C.I.アシッドイエロー19、C.I.アシッドレッド37、C.I.アシッドブルー62、C.I.アシッドオレンジ10、C.I.アシッドブルー83、C.I.アシッドブラック01、C.I.ダイレクトイエロー44、C.I.ダイレクトイエロー142、C.I.ダイレクトイエロー12、C.I.ダイレクトブルー15、C.I.ダイレクトブルー25、C.I.ダイレクトブルー249、C.I.ダイレクトレッド81、C.I.ダイレクトレッド9、C.I.ダイレクトレッド31、C.I.ダイレクトブラック154、C.I.ダイレクトブラック17等が挙げられる。
【0107】
(分散染料)
また、本発明においては、分散染料を用いることもできる。
分散染料の好ましい具体例としては、C.I.ディスパースイエロー 5,42,54,64,79,82,83,93,99、100,119,122,124,126,160,184:1,186,198,199,201,204,224及び237;C.I.ディスパーズオレンジ 13,29,31:1,33,49,54,55,66,73,118,119及び163;C.I.ディスパーズレッド 54,60,72,73,86,88,91,92,93,111,126,127,134,135,143,145,152,153,154,159,164,167:1,177,181,204,206,207,221,239,240,258,277,278,283,311,323,343,348,356及び362;C.I.ディスパーズバイオレット 33;C.I.ディスパーズブルー 56,60,73,87,113,128,143,148,154,158,165,165:1,165:2,176,183,185,197,198,201,214,224,225,257,266,267,287,354,358,365及び368;並びにC.I.ディスパーズグリーン 6:1及び9等が挙げられる。
【0108】
本発明に用いることができる色材は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0109】
(成分B)のインク組成物中における含有量は、色材の物性(比重、着色力や色味等)、インク組成物を何色組み合わせて印刷物を作製するかといった条件により適宜選択することができるが、インク組成物全体の質量に対して、0.1〜30質量%であることが好ましく、0.5〜20質量%であることがより好ましい。
【0110】
(分散剤)
色材として顔料を用いる場合には、顔料粒子を調製する際に、必要に応じて顔料分散剤を用いてもよく、用いることのできる顔料分散剤としては、例えば、高級脂肪酸塩、アルキル硫酸塩、アルキルエステル硫酸塩、アルキルスルホン酸塩、スルホコハク酸塩、ナフタレンスルホン酸塩、アルキルリン酸塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸塩、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、グリセリンエステル、ソルビタンエステル、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、アミンオキシド等の活性剤、あるいはスチレン、スチレン誘導体、ビニルナフタレン誘導体、アクリル酸、アクリル酸誘導体、マレイン酸、マレイン酸誘導体、イタコン酸、イタコン酸誘導体、フマル酸、フマル酸誘導体から選ばれた2種以上の単量体からなるブロック共重合体、ランダム共重合体およびこれらの塩を挙げることができる。
【0111】
また、本発明のインク組成物には、自己分散顔料を用いることもできる。本発明でいう自己分散顔料とは、分散剤なしで分散が可能な顔料を指し、特に好ましくは、表面に極性基を有している顔料粒子である。
【0112】
本発明でいう表面に極性基を有する顔料粒子とは、顔料粒子表面に直接極性基で修飾させた顔料、あるいは有機顔料母核を有する有機物で直接に又はジョイントを介して極性基が結合しているもの(以下、顔料誘導体という)をいう。
極性基としては、例えば、スルホン酸基、カルボン酸基、燐酸基、硼酸基、水酸基が挙げられるが、好ましくはスルホン酸基、カルボン酸基であり、更に好ましくは、スルホン酸基である。
【0113】
このような表面に極性基を有する顔料粒子を得る方法としては、例えば、WO97/48769号公報、特開平10−110129号公報、特開平11−246807号公報、特開平11−57458号公報、同11−189739号公報、特開平11−323232号公報、特開2000−265094公報等に記載の顔料粒子表面を適当な酸化剤で酸化させることにより、顔料表面の少なくとも一部に、スルホン酸基もしくはその塩といった極性基を導入する方法が挙げられる。具体的には、カーボンブラックを濃硝酸で酸化したり、カラー顔料の場合は、スルフォランやN−メチル−2−ピロリドン中で、スルファミン酸、スルフォン化ピリジン塩、アミド硫酸などで酸化することにより調製することができる。これらの反応で、酸化が進みすぎ、水溶性となってしまった物は除去、精製することにより、顔料分散体を得ることができる。また、酸化によりスルフォン酸基を表面に導入した場合は、酸性基を必要に応じて、塩基性化合物を用いて中和してもよい。
【0114】
そのほかの表面に極性基を有する顔料粒子を得る方法としては、特開平11−49974号公報、特開2000−273383公報、同2000−303014公報等に記載の顔料誘導体をミリングなどの処理で顔料粒子表面に吸着させる方法、特願2000−377068、同2001−1495、同2001−234966に記載の顔料を顔料誘導体と共に溶媒で溶解した後、貧溶媒中で晶析させる方法等を挙げることができ、いずれの方法でも容易に、表面に極性基を有する顔料粒子を得ることができる。
【0115】
顔料表面における極性基は、フリーでも塩の状態でも良いし、あるいはカウンター塩を有していても良い。カウンター塩としては、例えば、無機塩(リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム、ニッケル、アンモニウム)、有機塩(トリエチルアンモニウム、ジエチルアンモニウム、ピリジニウム、トリエタノールアンモニウム等)が挙げられ、好ましくは1価の価数を有するカウンター塩である。
【0116】
顔料の分散方法としては、例えば、ボールミル、サンドミル、アトライター、ロールミル、アジテータ、ヘンシェルミキサ、コロイドミル、超音波ホモジナイザー、パールミル、湿式ジェットミル、ペイントシェーカー等の各種分散機を用いることができる。また、顔料分散体の粗粒分を除去する目的で、遠心分離装置を使用すること、フィルターを使用することも好ましい。
【0117】
インク組成物中の分散剤の好ましい添加量は、インク組成物中における顔料の質量をP、インク組成物中における高分子分散剤の質量をDとした場合、その質量比(D/P)が、0.01≦D/P≦2.0であることが好ましく、0.03≦D/P≦1.5であることがより好ましく、0.05≦D/P≦0.6であることが更に好ましい。上記範囲であると、顔料の凝集・沈降、インク粘度上昇が生じず、保存安定性に優れるインク組成物が得られ、インク粘度が低粘度で吐出安定性にも優れるインク組成物が得られる。
【0118】
さらに、分散時には、分散剤に加えて、一般にシナジストと呼ばれる分散助剤(例えば、ルーブリゾール社より市販されているSOLSPERSEシリーズの5000、12000、22000、チバ・ジャパン社より市販されているEFKA6745等)や、各種界面活性剤、消泡剤を添加して、顔料の分散性、濡れ性を向上させることも好ましい。
【0119】
本発明において、顔料の分散を行う場合には、顔料と分散剤とを混合した後、極性有機溶媒に添加して分散する、又は、極性有機溶媒と分散剤とを混合した後、顔料を添加して分散することが好ましい。分散には、例えば、ボールミル、ビーズミル、サンドミル、ソルトミル、アトライター、ロールミル、アジテーター、ヘンシェルミキサー、コロイドミル、超音波ホモジナイザー、パールミル、湿式ジェットミル、ペイントシェーカー等の各分散装置を用いることができる。中でもビーズミル分散装置は、分散性に優れるので好ましい。
ビーズミル分散を行う際に使用するビーズは、好ましくは0.01〜3.0mm、より好ましくは0.05〜1.5mm、更に好ましくは0.1〜1.0mmの体積平均径を有するものを用いることにより、安定性に優れた顔料分散物を得ることができる。
【0120】
〈(成分C)水〉
本発明のインク組成物は、主たる溶媒として水を含有する。
水としては、不純物を含まないイオン交換水、蒸留水などを用いることが好ましい。
本発明のインク組成物における水の含有量は、10〜97質量%であることが好ましく、また、のインク組成物の場合には、30〜95質量%であることが好ましく、35〜93質量%であることがより好ましい。
【0121】
<その他の添加剤>
本発明のインク組成物には、必須成分である(成分A)〜(成分C)に加えて、本発明の効果を損なわない限りにおいて、公知の添加剤を併用することができる。以下、インク組成物に使用しうる添加剤について説明する。
【0122】
〈(成分D)水混和性有機溶剤〉
本発明の水性インク組成物は、主たる溶剤として水を含有するが、目的に応じて、溶媒中に、さらに、水混和性有機溶剤を併用することが好ましい。
ここで水混和性有機溶剤とは、25℃の水に対する溶解度が10質量%以上である有機溶剤をいう。
【0123】
本発明で用いることのできる水混和性有機溶剤としては、例えば、下記のものが挙げられる。
・アルコール類(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、セカンダリーブタノール、ターシャリーブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコール等)、
・多価アルコール類(例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキサンジオール、ペンタンジオール、グリセリン、ヘキサントリオール、チオジグリコール、2−メチルプロパンジオール等)、
・多価アルコールエーテル類(例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテル等)、
・アミン類(例えば、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、モルホリン、N−エチルモルホリン、エチレンジアミン、ジエチレンジアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ポリエチレンイミン、ペンタメチルジエチレントリアミン、テトラメチルプロピレンジアミン等)、
・アミド類(例えば、ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等)、
・複素環類(例えば、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、シクロヘキシルピロリドン、2−オキサゾリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、γ−ブチロラクトン等)、
・スルホキシド類(例えば、ジメチルスルホキシド等)、
・スルホン類(例えば、スルホラン等)、
・その他(尿素、アセトニトリル、アセトン等)
【0124】
好ましい水混和性有機溶剤としては、多価アルコールエーテル類、複素環類が挙げられ、これらを併用して使用することが好ましい。多価アルコールエーテル類では、いわゆるグリコールエーテル類が好ましく、具体的には、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテルが好ましい。複素環類としては、2−ピロリドン、γ−ブチロラクトン等が好ましく、2−ピロリドンが特に好ましい。特に沸点の高い溶媒は吐出性向上の観点で好ましく用いることができ、常圧での沸点が120℃以上であることが好ましく、150℃以上であることがさらに好ましい。
【0125】
水混和性有機溶剤は、単独もしくは複数を併用しても良い。水混和性有機溶剤のインク組成物中の添加量としては、総量で1〜60質量%であり、好ましくは2〜35質量%である。
【0126】
本発明では、(成分A)、(成分B)及び(成分C)に加えて(成分D)として水混和性有機溶剤を含むことが好ましく、インク組成物中におけるそれぞれの含有量は、(成分A)1〜50質量%、(成分B)0.1〜30質量%、(成分C)10〜97質量%、(成分D)1〜60質量%であることが好ましく、(成分A)2〜35質量%、(成分B)0.5〜20質量%、(成分C)30〜95質量%、(成分D)2〜40質量%であることがさらに好ましく、(成分A)3〜30質量%、(成分B)0.5〜20質量%、(成分C)35〜93質量%、(成分D)2〜35質量%であることが最も好ましい。
【0127】
本発明において(成分D)として水混和性有機溶剤を含有する場合、(成分C)と(成分D)の含有比率(質量基準)は、(成分C):(成分D)=1:0.1〜1:10であることが好ましく、1:0.2〜1:5であることがさらに好ましく、1:0.2〜1:2であることがさらにより好ましく、1:0.3〜1:0.6であることが最も好ましい。
【0128】
(界面活性剤)
本発明のインク組成物には、界面活性剤を添加することができる。好ましく使用される界面活性剤としては、ジアルキルスルホコハク酸塩類、アルキルナフタレンスルホン酸塩類、脂肪酸塩類等のアニオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル類、アセチレングリコール類、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロックコポリマー類等のノニオン性界面活性剤、アルキルアミン塩類、第四級アンモニウム塩類等のカチオン性界面活性剤が挙げられる。特にアニオン性界面活性剤およびノニオン性界面活性剤を好ましく用いることができる。
【0129】
また、本発明においては、高分子界面活性剤も用いることができ、以下の水溶性樹脂が、吐出安定性の観点から好ましい高分子界面活性剤として挙げられる。水溶性樹脂として好ましく用いられるのは、スチレン−アクリル酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−マレイン酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−メタクリル酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−マレイン酸ハーフエステル共重合体、ビニルナフタレン−アクリル酸共重合体、ビニルナフタレン−マレイン酸共重合体等を挙げることができる。
【0130】
(ラテックス)
本発明のインク組成物には、ラテックスを添加することができる。本発明に用いうるラテックスとしては、例えば、スチレン−ブタジエン共重合体、ポリスチレン、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、アクリル酸エステル共重合体、ポリウレタン、シリコン−アクリル共重合体およびアクリル変性フッ素授脂等のラテックスが挙げられる。ラテックスは、乳化剤を用いてポリマー粒子を分散させたものであっても、また乳化剤を用いないで分散させた所謂ソープフリーラテックスであってもよい。乳化剤としては界面活性剤が多く用いられるが、スルホン酸基、カルボン酸基等の水に可溶な基を有するポリマー(例えば、可溶化基がグラフト結合しているポリマー、可溶化基を持つ単量体と不溶性の部分を持つ単量体とから得られるポリマー)を用いることも好ましい。
【0131】
本発明のインク組成物に用いられるラテックスにおけるポリマー粒子の体積平均粒径は10nm以上、300nm以下であることが好ましく、10nm以上、100nm以下であることがより好ましい。インク組成物中のラテックスの平均粒径が上記範囲において、画像の光沢感の向上や、耐水性、耐擦過性の向上を達成できる。ラテックス中のポリマー粒子の平均粒子径は、光散乱法、電気泳動法、レーザードップラー法を用いた市販の粒径測定機器により求めることができる。
【0132】
本発明のインク組成物において、ラテックスを用いる場合、その添加量は、固形分添加量で0.1質量%以上、20質量%以下となるように添加されることが好ましく、ラテックスの固形分添加量を0.5質量%以上、10質量%以下とすることが特に好ましい。ラテックスの固形分添加量が0.1質量%以上において、耐水性向上効果を発揮させることができ、また20質量%以下であれば、経時によるインク粘度の上昇や、顔料分散粒径の増大など、ラテックスの影響で生じる問題点を生じることなく、良好なインク保存安定性を維持しうる。
【0133】
(水性ポリマー)
本発明のインク組成物には、(成分A)と異なる水性ポリマーを添加することができる。
水性ポリマーの好ましい例としては、天然高分子が挙げられ、その具体例としては、にかわ、ゼラチン、ガゼイン、若しくはアルブミンなどのたんぱく質類、アラビアゴム、若しくはトラガントゴムなどの天然ゴム類、サボニンなどのグルコシド類、アルギン酸及びアルギン酸プロピレングリコールエステル、アルギン酸トリエタノールアミン、若しくはアルギン酸アンモニウムなどのアルギン酸誘導体、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、若しくはエチルヒドロキシルセルロースなどのセルロース誘導体が挙げられる。
【0134】
水性ポリマーの他の好ましい例としては、合成高分子が挙げられ、例えば、ポリビニルアルコール類、ポリビニルピロリドン類、ポリアクリル酸、アクリル酸−アクリルニトリル共重合体、アクリル酸カリウム−アクリルニトリル共重合体、酢酸ビニル−アクリル酸エステル共重合体、若しくはアクリル酸−アクリル酸エステル共重合体などのアクリル系樹脂、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−α−メチルスチレン−アクリル酸共重合体、若しくはスチレン−α−メチルスチレン−アクリル酸−アクリル酸エステル共重合体などのスチレンアクリル酸樹脂、スチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、ビニルナフタレン−アクリル酸共重合体、ビニルナフタレン−マレイン酸共重合体、及び酢酸ビニル−エチレン共重合体、酢酸ビニル−脂肪酸ビニルエチレン共重合体、酢酸ビニル−マレイン酸エステル共重合体、酢酸ビニル−クロトン酸共重合体、酢酸ビニル−アクリル酸共重合体などの酢酸ビニル系共重合体及びそれらの塩が挙げられる。これらの中で、特に好ましい例としては、ポリビニルピロリドン類が挙げられる。
【0135】
本発明に用いうる水溶性ポリマーの分子量は、1,000以上200,000以下が好ましい。更には、3,000以上20,000以下がより好ましい。1,000未満では顔料粒子の成長及び凝集を抑制する効果が少なくなり、200,000を越えると粘度上昇、溶解不良等の問題が発生し易くなる。
【0136】
水溶性ポリマーの添加量は、溶解された顔料に対して10質量%以上1,000質量%以下が好ましい。更には、50質量%以上200質量%以下がより好ましい。10質量%未満では顔料粒子の成長及び凝集を抑制する効果が少なくなり、1000質量%を越えると粘度上昇、溶解不良等の問題が発生し易くなる。
【0137】
(重合開始剤)
本発明の水性インク組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲で重合開始剤を含有しても良い。重合開始剤は水溶性であることが好ましく、水溶性の程度としては、25℃において蒸留水に0.5質量%以上溶解することが好ましく、1質量%以上溶解することが好ましく、3質量%以上溶解することが特に好ましい。
また、α−アミノケトン類及びアシルフォスフィンオキシド類からなる群より選択される重合開始剤を用いることが好ましい。
【0138】
α−アミノケトン類に包含される化合物の例としては、2−メチル−1−フェニル−2−モルフォリノプロパン−1−オン、2−メチル−1−[4−(ヘキシル)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン、2−エチル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1等が挙げられる。また、チバガイギー社製のイルガキュアシリーズ、例えばイルガキュア907、イルガキュア369、イルガキュア379等の如き市販品としても入手可能であり、これらもα−アミノケトン類に包含される化合物であり、本発明に好適に使用しうる。
【0139】
アシルフォスフィンオキシド類に包含される化合物の例としては、例えば、[2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド]は、Darocur TPO(チバ ジャパン社製)の商品名で入手可能であり、[ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキシド]は、Irgacure 819(チバ ジャパン社製)の商品名で入手可能である。
【0140】
本発明の水性インク組成物は、重合開始剤として、上記したアシルフォスフィンオキシド類が重合開始剤として好ましいが、本発明の効果を損なわない限り、他の重合開始剤を用いてもよい。またアシルフォスフィンオキシド類との併用も可能である。この場合水溶性の重合開始剤を用いることが好ましい。水溶性は25℃において蒸留水に0.5質量%以上溶解することが好ましく、1質量%以上溶解することが好ましく、3質量%以上溶解することが特に好ましい。
【0141】
他の公知の重合開始剤としては、例えば、カンファーキノン、ベンゾフェノン、ベンゾフェノン誘導体、アセトフェノン、アセトフェノン誘導体、例えば、α−ヒドロキシシクロアルキルフェニルケトン類又は2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパノン、ジアルコキシアセトフェノン類、α−ヒドロキシ−又は4−アロイル−1,3−ジオキソラン類、ベンゾインアルキルエーテル類、及びベンジルケタール類、例えば、ベンジルジメチルケタール、グリオキサル酸フェニル及びその誘導体、二量体グリオキサル酸フェニル、ペルエステル類、例えば、ベンゾフェノンテトラカルボン酸ペルエステル類(例えば、EP 1126,541に記載されるような)、ハロメチルトリアジン類、例えば、2−〔2−(4−メトキシ−フェニル)−ビニル〕−4,6−ビス−トリクロロメチル〔1,3,5〕トリアジン、2−(4−メトキシ−フェニル)−4,6−ビス−トリクロロメチル〔1,3,5〕トリアジン、2−(3,4−ジメトキシ−フェニル)−4,6−ビス−トリクロロメチル〔1,3,5〕トリアジン、2−メチル−4,6−ビス−トリクロロメチル〔1,3,5〕トリアジン、ヘキサアリールビスイミダゾール/共同開始剤系、例えば、2−メルカプトベンゾチアゾールと組合せたオルト−クロロヘキサフェニル−ビスイミダゾール;フェロセニウム化合物又はチタノセン類(titanocenes)、例えば、ジシクロペンタジエニル−ビス(2,6−ジフルオロ−3−ピロロ−フェニル)チタン;例えば、GB 2,339,571に記載されるようなO−アシルオキシムエステル化合物との混合物を使用することもできる。共同開始剤として、ホウ酸化合物を使用することもできる。
【0142】
本発明の水性インク組成物における重合開始剤の含有量は、インク組成物100質量部に対して、好ましくは0〜10質量部が好ましく、より好ましくは0〜5質量部、さらに好ましくは0〜3質量部の範囲で含有されるのが適当である。なお、ここで重合開始剤の含有量とは、重合開始剤の総含有量を意味する。
【0143】
(増感色素)
本発明においては、公知の増感色素を併用することができ、活性エネルギー線照射時の硬化性向上の観点から増感色素を併用することが好ましい。溶解性としては蒸留水に対して室温において、0.5質量%以上溶解するものが好ましく、1質量%以上溶解するものがより好ましく。3質量%以上溶解するものが特に好ましい。
【0144】
併用しうる公知の増感色素の例としては、ベンゾフェノン、チオキサントン、特にまたイソプロピルチオキサントン、アントラキノン及び3−アシルクマリン誘導体、ターフェニル、スチリルケトン及び3−(アロイルメチレン)チアゾリン、ショウノウキノン、エオシン、ローダミン及びエリスロシンなどが挙げられる。また、特開2010−24276号広報に記載の一般式(i)で表される化合物や、特開平6−107718号広報に記載の一般式(I)で表される化合物も、好適に使用できる。
【0145】
(重合性化合物)
本発明の水性インク組成物は、重合性化合物を含有しても良い。重合性化合物は、分子中にラジカル重合可能なエチレン性不飽和結合を少なくとも1つ有する水溶性の化合物であれば、どのようなものでもよく、モノマー、オリゴマー、ポリマー等の化学形態を持つものが含まれる。特定重合性化合物は1種のみ用いてもよく、また目的とする特性を向上するために任意の比率で2種以上を併用してもよい。好ましくは2種以上併用して用いることが、反応性、物性などの性能を制御する上で好ましい。
【0146】
本発明で用いられる重合性化合物は、室温において蒸留水に少なくとも2質量%以上溶解するものであるが、15質量%以上溶解することが好ましく、任意の割合で水と均一に混合するものがとくに好ましい。
【0147】
重合性化合物の例としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、マレイン酸等の不飽和カルボン酸及びそれらのエステル類、およびそれらの塩、エチレン性不飽和基を有する無水物、アクリロニトリル、スチレン、更に種々の不飽和ポリエステル、不飽和ポリエーテル、不飽和ポリアミド、不飽和ウレタン、ビニルエーテル、アリルエーテル等が挙げられ、アクリル酸、メタクリル酸およびそれらのエステル、塩が好ましい。
【0148】
本発明で用いることができる重合性化合物は水溶性を付与するために、ポリ(エチレンオキシ)鎖、ポリ(プロピレンオキシ)鎖、あるいはイオン性基(例えばカルボキシル基、スルホ基など)を有することが好ましい。ポリ(エチレンオキシ)鎖、ポリ(プロピレンオキシ)鎖、を有する場合はエチレンオキシ、プロピレンオキシのユニットの数は1〜10の範囲であることが好ましく、より好ましくは1〜5の範囲である。鎖が長いと、水溶性は得られるものの、硬化した時の皮膜の硬度や記録媒体に対する密着性等が不足する。
【0149】
感度、滲み、記録媒体との密着性をより改善するためには、ラジカル重合性化合物として、モノアクリレートと、分子量400以上、好ましくは500以上の多官能アクリレートモノマー又は多官能アクリレートオリゴマーを併用することが好ましい。特に、PETフィルムやPPフィルムといった柔軟な記録媒体への記録に使用するインク組成物においては、上記化合物群の中から選ばれるモノアクリレートと、多官能アクリレートモノマー又は多官能アクリレートオリゴマーとの併用は、膜に可撓性を持たせて密着性を高めつつ、膜強度を高められるため好ましい。
さらに、単官能、二官能、三官能以上の多官能モノマーの少なくとも3種の重合性化合物を併用する態様が、安全性を維持しつつ、更に、感度、滲み、記録媒体との密着性をより改善することができるという観点から好ましい。
【0150】
本発明に係るインクには、上述した各構成要素に加えて、必要に応じて、吐出安定性、プリントヘッドやインクカートリッジ適合性、保存安定性、画像保存性、その他の諸性能向上の目的に応じて、公知の各種添加剤、例えば、粘度調整剤、表面張力調整剤、比抵抗調整剤、皮膜形成剤、分散剤、界面活性剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、退色防止剤、防ばい剤、防錆剤、固体湿潤剤、シリカ微粒子等を適宜選択して用いることができ、例えば、流動パラフィン、ジオクチルフタレート、トリクレジルホスフェート、シリコンオイル等の油滴微粒子、特開昭57−74193号、同57−87988号及び同62−261476号に記載の紫外線吸収剤、特開昭57−74192号、同57−87989号、同60−72785号、同61−146591号、特開平1−95091号及び同3−13376号等に記載されている退色防止剤、特開昭59−42993号、同59−52689号、同62−280069号、同61−242871号および特開平4−219266号等に記載されている蛍光増白剤、硫酸、リン酸、クエン酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム等のpH調整剤等を挙げることができる。
【0151】
<インク組成物の調製方法>
本発明に係るインク組成物の調製方法としては、特に制限はなく、各成分を、ボールミル、遠心ミル、遊星ボールミルなどの容器駆動媒体ミル、サンドミルなどの高速回転ミル、撹拌槽型ミルなどの媒体撹拌ミル、ディスパーなどの簡単な分散機により撹拌、混合し、分散させることにより調製することができる。各成分の添加順序については任意である。好ましくは、前記の式(1)で表されるアゾ顔料、高分子分散剤及び有機溶媒をプレミックスした後に分散処理し、得られた分散物を樹脂(例えばアニオン性樹脂)と有機溶剤とともに混合する。この場合、添加時や添加後、スリーワンモーター、マグネチックスターラー、ディスパー、ホモジナイザーなどの簡単な撹拌機にて均一に混合する。ラインミキサーなどの混合機を用いて混合してもよい。また、分散粒子をより微細化するために、ビーズミルや高圧噴射ミルなどの分散機を用いて混合してもよい。また、顔料や高分子分散剤の種類によっては、顔料分散前のプレミックス時にアニオン性樹脂を添加するようにしてもよい。
【0152】
本発明のインク組成物は、25℃における表面張力が20〜40mN/mであることが好ましい。表面張力は、Automatic Surface Tensiometer CBVP−Z(協和界面科学(株)製)を用い、25℃の条件下で測定されるものである。また、粘度は、1〜40mPa・sが好ましく、3〜30mPa・sがより好ましい。インク組成物の粘度は、VISCOMETER TV−22(TOKI SANGYOCO.LTD製)を用い、25℃の条件下で測定されるものである。
【0153】
<インクジェット記録方法>
本発明のインクジェット記録方法は、前記インク組成物を記録媒体上に付与するインク付与工程と、前記インク組成物に活性エネルギー線を照射する照射工程とを含むことを特徴とする。これらの工程を行うことで、記録媒体上に定着したインク組成物による画像が形成される。
【0154】
(インク付与工程)
以下、本発明のインクジェット記録方法における、インク付与工程について説明する。本発明におけるインク付与工程は、前記インク組成物を記録媒体上に付与する工程であれば限定されない。
【0155】
本発明のインクジェット記録方法に用いられるインクジェット記録装置としては、特に制限はなく、目的とする解像度を達成し得る公知のインクジェット記録装置を任意に選択して使用することができる。すなわち、市販品を含む公知のインクジェット記録装置であれば、いずれも、本発明のインクジェット記録方法における記録媒体へのインク組成物の吐出を実施することができる。
【0156】
本発明で用いることのできるインクジェット記録装置としては、例えば、インク供給系、温度センサー、加熱手段を含む装置が挙げられる。
インク供給系は、例えば、本発明のインク組成物を含む元タンク、供給配管、インクジェットヘッド直前のインク供給タンク、フィルター、ピエゾ型のインクジェットヘッドからなる。ピエゾ型のインクジェットヘッドは、好ましくは1〜100pl、より好ましくは8〜30plのマルチサイズドットを、好ましくは320×320〜4,000×4,000dpi、より好ましくは400×400〜1,600×1,600dpi、さらに好ましくは720×720dpiの解像度で吐出できるよう駆動することができる。なお、本発明でいうdpiとは、2.54cm当たりのドット数を表す。
【0157】
本発明のインク組成物は、吐出されるインク組成物を一定温度にすることが望ましいことから、インクジェット記録装置には、インク組成物温度の安定化手段を備えることが好ましい。一定温度にする部位はインクタンク(中間タンクがある場合は中間タンク)からノズル射出面までの配管系、部材の全てが対象となる。すなわち、インク供給タンクからインクジェットヘッド部分までは、断熱及び加温を行うことができる。
温度コントロールの方法としては、特に制約はないが、例えば、温度センサーを各配管部位に複数設け、インク組成物の流量、環境温度に応じた加熱制御をすることが好ましい。温度センサーは、インク供給タンク及びインクジェットヘッドのノズル付近に設けることができる。また、加熱するヘッドユニットは、装置本体を外気からの温度の影響を受けないよう、熱的に遮断若しくは断熱されていることが好ましい。加熱に要するプリンタ立上げ時間を短縮するため、あるいは熱エネルギーのロスを低減するために、他部位との断熱を行うとともに、加熱ユニット全体の熱容量を小さくすることが好ましい。
【0158】
上記のインクジェット記録装置を用いて、インク組成物の吐出はインク組成物を好ましくは25〜80℃、より好ましくは25〜50℃に加熱して、インク組成物の粘度を、好ましくは3〜15mPa・s、より好ましくは3〜13mPa・sに下げた後に行うことが好ましい。特に、本発明のインク組成物として、25℃におけるインク組成物の粘度が50mPa・s以下であるものを用いると、良好に吐出が行えるので好ましい。この方法を用いることにより、高い吐出安定性を実現することができる。
【0159】
インク組成物の粘度変動は、液滴サイズの変化及び液滴吐出速度の変化に対して大きな影響を与え、ひいては画質劣化を引き起こす。したがって、吐出時のインク組成物の温度はできるだけ一定に保つことが必要である。よって、本発明において、インク組成物の温度の制御幅は、好ましくは設定温度の±5℃、より好ましくは設定温度の±2℃、さらに好ましくは設定温度±1℃とすることが適当である。
【0160】
本発明において、記録媒体としては、特に限定されず、支持体や記録材料として公知の記録媒体を使用することができる。記録媒体としては、例えば、紙、プラスチック(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン等)がラミネートされた紙、金属板(例えば、アルミニウム、亜鉛、銅等)、プラスチックフィルム(例えば、ポリ塩化ビニル樹脂、二酢酸セルロース、三酢酸セルロース、プロピオン酸セルロース、酪酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、硝酸セルロース、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリビニルアセタール等)、上述した金属がラミネートされ又は蒸着された紙又はプラスチックフィルム等が挙げられる。中でも、本発明のインク組成物は密着性に優れるため、記録媒体として非吸収性記録媒体に対して好適に使用することができ、密着性の観点から、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン等のプラスチック基材が好ましく、ポリ塩化ビニル樹脂基材がより好ましく、ポリ塩化ビニル樹脂シート又はフィルムがさらに好ましい。
【0161】
(照射工程)
以下、本発明のインクジェット記録方法における、照射工程について説明する。本発明における照射工程は、前記記録媒体上に付与されたインク組成物に活性エネルギー線を照射する工程であれば限定されない。本発明のインク組成物に活性エネルギー線を照射することで、インク組成物中の化合物の架橋反応が進行し、画像を定着させ、印画物の耐溶剤性等を向上させることが可能となる。この照射工程により、(成分A)の架橋反応が起こり、インク組成物中に下記一般式(5)の架橋構造が形成される。
【0162】
【化19】

【0163】
式(5)中、R、R、R及びRは各々独立に、炭素数1〜4のアルキル基を表し、R及びRは互いに結合して4〜6員環を形成してもよい。R及びRは互いに結合して4〜6員環を形成してもよい。R及びRは、好ましい範囲も含めて、式(1)に記載されたものと同様である。Rは好ましい範囲も含めて式(1)に記載されたRと同様である。Rは好ましい範囲も含めて式(1)に記載されたRと同様である。
【0164】
前記照射工程で用いることができる活性エネルギー線としては、紫外線(以下、UV光とも称する)、可視光腺、電子線等をあげることができ、UV光を使用することが好ましい。
【0165】
UV光のピーク波長は、必要に応じて用いられる増感色素の吸収特性にもよるが、例えば、200〜405nmであることが好ましく、250〜405nmであることがより好ましく、250〜390nmであることが更に好ましい。
【0166】
UV光の出力は、2,000mJ/cm以下であることが好ましく、より好ましくは、10mJ/cm〜2,000mJ/cmであり、更に好ましくは、20mJ/cm〜1,000mJ/cmであり、特に好ましくは、50mJ/cm〜800mJ/cmである。
更に、UV光は、露光面照度が、例えば、10mW/cm〜2,000mW/cm、好ましくは、20mW/cm〜1,000mW/cmで照射されることが適当である。
【0167】
UV光源としては、水銀ランプやガス・固体レーザー等が主に利用されており、水銀ランプ、メタルハライドランプが広く知られている。また、GaN系半導体紫外発光デバイスへの置き換えは産業的、環境的にも非常に有用であり、LED(UV−LED)、LD(UV−LD)は小型、高寿命、高効率、低コストであり、UV光源として期待されている。
【0168】
本発明のインク組成物は、このようなUV光に、例えば、0.01秒間〜120秒間、好ましくは、0.1秒間〜90秒間照射されることが適当である。
照射条件並びに基本的な照射方法は、特開昭60−132767号公報に開示されている。具体的には、インクの吐出装置を含むヘッドユニットの両側に光源を設け、いわゆるシャトル方式でヘッドユニットと光源を走査する方式や、駆動を伴わない別光源によって行われ、駆動を伴わない別光源によって行われる方式が好ましい。活性放射線の照射は、インク着弾、熱定着後、一定時間(例えば、0.01秒間〜60秒間、好ましくは、0.01秒間〜30秒間、より好ましくは、0.01秒間〜15秒間)をおいて行われることになる。
【0169】
(加熱乾燥工程)
記録媒体上に吐出されたインク組成物は、加熱手段により(成分C)および必要に応じて併用される水混和性有機溶剤が蒸発されることにより定着されることが好ましい。吐出された本発明のインク組成物に熱を加え、定着する工程について説明する。
加熱手段としては、(成分C)および必要に応じて併用される水混和性有機溶剤を乾燥させることができればよく、限定されないが、ヒートドラム、温風、赤外線ランプ、熱オーブン、ヒート版加熱などを使用することができる。
加熱温度は、インク組成物中に存在する(成分C)および必要に応じて併用される水混和性有機溶剤が蒸発し、かつ(成分A)および、必要に応じて添加されるポリマーバインダーの皮膜を形成することができれば特に制限はないが、40℃以上であればその効果が得られ、40℃〜150℃程度が好ましく、より好ましくは、40℃〜80℃程度である。温度が100℃を超えてくると、記録媒体が変形等を生じ搬送に不具合を生じたりする場合がある。
なお、乾燥/加熱時間は、インク組成物中に存在する(成分C)および必要に応じて併用される水混和性有機溶剤が蒸発し、かつ樹脂剤の皮膜を形成することができれば特に制限はなく、用いるインク組成物の組成・印刷速度を加味して適宜設定することができる。
加熱により定着された前記溶剤型インク組成物は、必要に応じ、UV光を照射して、さらに光定着することができる。印刷物の強度、耐水性、耐溶剤性を向上するためにUV光による定着をすることが好ましい。
【0170】
<インクジェット印画物>
本発明のインクジェット印画物は、本発明のインクジェット記録方法によって記録されたことを特徴とする。本発明のインクジェット印画物は、本発明のインクジェット記録方法によって記録された印画物であることから、記録された画像の耐溶剤性及び基材への密着性に優れた印画物となる。
【実施例】
【0171】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」及び「%」は質量基準である。
【0172】
実施例、比較例で使用した顔料分散物、インク組成部の素材を以下に示す。
【0173】
<ポリマー分散剤D−1の合成>
攪拌機、冷却管を備えた500mlの三口フラスコにメチルエチルケトン44gを加えて窒素雰囲気下で72℃に加熱し、ここにメチルエチルケトン25gにジメチル2,2’−アゾビスイソブチレート0.43g、ベンジルメタクリレート30g、メタクリル酸5g、及びメチルメタクリレート15gを溶解した溶液を3時間かけて滴下した。滴下終了後、さらに1時間反応した後、メチルエチルケトン1gにジメチル2,2’−アゾビスイソブチレート0.21gを溶解した溶液を加え、78℃に昇温して4時間加熱した。得られた反応溶液は大過剰量のヘキサンに2回再沈殿し、析出した樹脂を乾燥し、ポリマー分散剤D−1を43g得た。
得られた樹脂の組成は、H−NMRで確認し、GPCより求めた重量平均分子量(Mw)は42,000であった。さらに、JIS規格(JISK0070:1992)に記載の方法により酸価を求めたところ、65.4mgKOH/gであった。
【0174】
<樹脂被覆顔料の分散物の調製>
(樹脂被覆シアン顔料分散物)
ピグメント・ブルー15:3(フタロシアニンブルーA220、大日精化(株)製)10部と、上記ポリマー分散剤D−1を5部と、メチルエチルケトン42部と、1mol/L NaOH水溶液5.5部と、イオン交換水87.2部とを混合し、ビーズミルにより0.1mmφジルコニアビーズを用いて2〜6時間分散した。
得られた分散物を減圧下、55℃でメチルエチルケトンを除去し、更に一部の水を除去することにより、顔料濃度が10.2質量%の樹脂被覆シアン顔料の分散物A(着色粒子)を得た。
【0175】
(樹脂被覆マゼンタ顔料分散物)
上記樹脂被覆シアン顔料分散物の調製において、顔料として用いたフタロシアニンブルーA220の代わりに、Chromophthal Jet Magenta DMQ(ピグメント・レッド122、チバ・ジャパン社製)を用いた以外は上記と同様にして樹脂被覆マゼンタ顔料の分散物B(着色粒子)を得た。
【0176】
(樹脂被覆イエロー顔料分散物)
上記樹脂被覆シアン顔料分散物の調製において、顔料として用いたフタロシアニンブルーA220の代わりに、Irgalite Yellow GS(ピグメント・イエロー74、チバ・ジャパン社製)を用いた以外は上記と同様にして樹脂被覆イエロー顔料の分散物C(着色粒子)を得た。
【0177】
(樹脂被覆ブラック顔料分散物)
上記樹脂被覆シアン顔料分散物の調製において、顔料として用いたフタロシアニンブルーA220の代わりに、顔料分散体CAB−O−JETTM 200(カーボンブラック、CABOT社製)を用いた以外は上記と同様にして樹脂被覆ブラック顔料の分散物D(着色粒子)を得た。
【0178】
<水溶性基を有し、かつ前記一般式(1)で表される構造を2つ以上有する化合物>
【0179】
【化20】

【0180】
【化21】

【0181】
【化22】

【0182】
【化23】

【0183】
<水混和性有機溶剤>
・2−ピロリドン(シグマアルドリッチジャパン株式会社製)
・2−メチルプロパンジオール(シグマアルドリッチジャパン株式会社製)
・ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(シグマアルドリッチジャパン株式会社製)
・γ−ブチロラクトン(シグマアルドリッチジャパン株式会社製)
【0184】
<ポリマーバインダー>
【0185】
【化24】

【0186】
<水溶性重合開始剤>
・イルガキュア 2959 (BASFジャパン製)
【0187】
<水溶性重合性物質>
・ポリ(エチレングリコール)ジアクリレート(Mn 700, シグマ・アルドリッチ社製)
【0188】
水溶性基を有し、かつ前記一般式(1)で表される構造を2つ以上有する化合物は、特開昭52−988号公報を参考に合成を行った。
【0189】
実施例及び比較例で使用する化合物のうち、製造元の記載のない化合物は、公知の方法、又は、公知の方法を応用し、合成した。
【0190】
(実施例1〜13、及び比較例1)
<インク組成物の調製>
得られた色材分散物A〜Dを用い、下記の表1〜表2に示す組成の実施例1〜13、及び比較例1のインク組成物を、ミキサー(シルバーソン社製L4R)を用いて2,500回転/分にて撹拌して、それぞれ調製した。得られたインク組成物は、プラスチック製のディスポーザブルシリンジに詰め、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)製の孔径5μmフィルタ(ミリポア社製のMillex−SV、直径25mm)にて濾過して完成インクとした。なお、表1〜表2における配合量の各数値は、質量部を表す。
【0191】
次に、インクジェット記録装置として、市販のインクジェットプリンタ(ローランド ディー.ジー.社製SP−300V)を用意した。
得られた各インク組成物を上記インクジェットプリンタに装填し、ポリ塩化ビニルシート(エイブリィ・デニソン社製、AVERY 400 GLOSS WHITE PERMANENT)に画像を形成し、以下の各評価用の印画物を得た。
【0192】
さらに、メタルハライドランプ(GSユアサ社製、MAN400L、最大波長365nm、パワー120W/cm)の光線下に20m/minの速度で印画物を通過させることにより、UV光照射を行った。
得られた各インク組成物及び印刷物を使用し、以下の評価を行った。評価結果を表1〜表2に示す。
【0193】
<密着性評価(クロスハッチテスト)>
基材との密着性評価方法としてクロスハッチテスト(JIS K 5600−5−6)を行った。上記インクジェット画像記録方法に従い、画像部の平均膜厚が12μmのベタ画像を描画した。
その後、各々の印刷物に対して、クロスハッチテストを実施した。なお、評価は、JIS K5600−5−6に従い、0〜5の6段階評価とした。ここで、評価0がカットの縁が完全に滑らかで、どの格子の目にも剥がれがないことを意味する。
【0194】
<耐溶剤性評価>
上記インクジェット画像記録方法に従い、平均膜厚が12μmのベタ画像の描画を行った後、印刷物の表面をイソプロピルアルコールを含浸した綿棒にてこすり、以下の基準で評価した。
A:10回以上こすっても、画像に変化が認められなかった。
B:5〜9回のこすりで、画像の濃度が低下した。
C:2〜4回のこすりで、画像の濃度が低下した。
D:1回こすっただけで、画像の濃度が著しく低下した。
【0195】
<吐出性評価>
上記インクジェットプリンタを用いて、ヘッドから30分間吐出し、停止後、5分間経過した後に記録媒体(エイブリィ・デニソン社製、AVERY 400 GLOSS WHITE PERMANENT)上にベタ画像及び細線を記録して得られた画像(5cm×5cm)を観察した。観察した画像を下記の評価基準に従って目視により評価した。
A:抜けの発生等によるドット欠けの発生が認められず、良好な画像が得られた。
B:抜けの発生等によるドット欠けの発生がわずかに認められたが、実用上支障を来さない程度であった。
C:抜けの発生等によるドット欠けの発生があり、実用に耐えない画像であった。
D:吐出ができなかった。
【0196】
<インク組成物の保存安定性評価>
得られたインク組成物を容器に密封し、60℃で2週間経時させたのち、上記の吐出性評価と同様の評価を実施し、同様の基準で評価した。
【0197】
【表1】

【0198】
【表2】

【0199】
前記表1に示すように、本発明における実施例では、密着性、耐溶剤性、吐出性及び保存安定性のいずれにおいても優れた効果が得られた。これに対し、比較例では、密着性、耐溶剤性、吐出性及び保存安定性のすべてにおいて優れた効果が得られたものはなかった。さらに、実施例4及び実施例10〜13より、インク組成物に水混和性有機溶剤を含有し、さらに水と水混和性有機溶剤の質量比が1:0.3〜1:0.6の範囲にある場合に、特に優れた効果が得られることがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(成分A)水溶性基を有し、かつ下記一般式(1)で表される基を2つ以上有する化合物、
(成分B)色材、及び
(成分C)水、
を含有することを特徴とする水性インク組成物。
【化1】


(式(1)中、R及びRは各々独立に、炭素数1〜4のアルキル基を表し、R及びRは互いに結合して4〜6員環を形成してもよい。)
【請求項2】
前記水溶性基が、カルボン酸のアルカリ金属塩及びオニウム塩、スルホン酸のアルカリ金属塩及びオニウム塩、リン酸、リン酸のアルカリ金属塩及びオニウム塩、ホスホン酸、ホスホン酸のアルカリ金属塩及びオニウム塩、並びに4級アンモニウム塩からなる群から選ばれる少なくとも1種の基である、請求項1に記載の水性インク組成物。
【請求項3】
前記(成分A)が、前記一般式(1)で表される基を側鎖に有する高分子化合物である、請求項1又は請求項2に記載の水性インク組成物。
【請求項4】
さらに水混和性有機溶剤(成分D)を含む、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の水性インク組成物。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の水性インク組成物を記録媒体上に付与するインク付与工程と、
前記インク組成物に活性エネルギー線を照射する照射工程と
を含むことを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項6】
請求項5に記載のインクジェット記録方法によって記録されたことを特徴とするインクジェット印画物。

【公開番号】特開2012−46569(P2012−46569A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−187584(P2010−187584)
【出願日】平成22年8月24日(2010.8.24)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】