説明

水性インク組成物、インクジェット記録方法及び着色体

【課題】インクジェット記録に適する高い鮮明性をもつ色相を有し、且つ記録物の耐光性が強く、又保存安定性が優れた特定の含銅アントラピリドン化合物とマゼンタ色素を含有するインク組成物を提供する。
【解決手段】少なくとも1種類の、2つのアントラピリドン構造を有する式(1)で表わされる含銅アントラピリドン化合物又はその塩、及び、少なくとも1種類の1つのアントラピリドン構造を持つ化合物又はその塩を色素として含有する水性インク組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1種類ずつの含銅アントラピリドン化合物及びアントラピリドン化合物を含有するインク組成物該インク組成物を用いる記録方法、及び該インク組成物により着色された着色体に関する。
【背景技術】
【0002】
各種カラー記録方法の中で、その代表的方法の一つであるインクジェットプリンタによる記録方法、すなわちインクジェット記録方法は、インクの吐出方式が各種開発されているが、いずれもインクの小滴を発生させ、これを種々の被記録材、例えば、紙、フィルム、布帛等に付着させ記録を行うものである。この方法は、記録ヘッドと被記録材とが直接接触しない為、音の発生がなく静かである。また小型化、高速化、カラー化が容易という特長の為、近年急速に普及しつつあり、今後とも大きな伸長が期待されている。従来、万年筆、フェルトペン等のインク及びインクジェット記録用インクとしては、色素として水溶性の染料を水性媒体に溶解したインクが使用されている。これらの水性インクにおいてはペン先やインク吐出ノズルでのインクの目詰まりを防止すべく、一般に水溶性の有機溶剤が添加されている。これらのインクにおいては、十分な濃度の記録画像を与えること、ペン先やノズルの目詰まりを生じないこと、被記録材上での乾燥性がよいこと、滲みが少ないこと、保存安定性に優れること等が要求される。また形成される記録画像には、耐水性、耐湿性、耐光性、及び耐ガス性等の各種堅牢度が求められている。
また水、溶剤や添加剤に対する高い溶解性も色素に求められる性質のひとつである。
【0003】
これらのうちで、耐ガス性とは、空気中に存在する酸化作用を持つオゾンガス等が記録紙上、又は記録紙中で色素に作用し、記録画像を変退色させるという現象に対する耐性のことである。オゾンガスの他にも、この種の作用を持つ酸化性ガスとしては、NOx、SOx等が挙げられる。しかし、これらの酸化性ガスの中でも、オゾンガスがインクジェット記録画像の変退色現象を促進させる主原因物質とされており、特に耐オゾンガス性が重要視されている。写真画質が得られるインクジェット専用紙の表面には、インクの乾燥を早め、また高画質でのにじみを少なくするためにインク受容層が設けられる。このインク受容層の材質として、多孔性白色無機物等の材料を用いているものが多い。このような記録紙上で、オゾンガス等による変退色が顕著に見られる。この酸化性ガスによる変退色現象は、インクジェット記録画像に特徴的なものであるため、耐ガス性、特に耐オゾンガス性の向上は、インクジェット記録における重要な課題の1つである。
【0004】
近年のインクジェット記録技術の発達により、記録(印刷)スピードの向上がめざましい。この理由から、オフィス環境での主用途である普通紙へのドキュメントの印刷に、電子トナーを用いたレーザープリンタと同じ様に、インクジェットプリンタを用いる動きがある。インクジェットプリンタは、記録紙の種類を選ばない;機械の価格が比較的安い;という利点があり、特にSOHO等の小〜中規模オフィス環境での普及が進んでいる。このように普通紙への記録にインクジェットプリンタを使用する際には、記録物に求められる各種の品質の中でも、色相や画像(印字)濃度がより重視される傾向がある。
【0005】
インクジェット記録用水性インクに用いられるマゼンタ色素としては、キサンテン系色素と、アゾ系色素が代表的である。このうちキサンテン系色素は、色相及び鮮明性は非常に優れるが、耐光性が非常に劣る。また、アゾ系色素は、色相及び耐水性の点では良いものもあるが、耐光性、耐オゾンガス性、及び鮮明性が劣る。アゾ系色素の中には鮮明性、耐酸化性ガス性及び耐光性を改良したものも開発されている。しかし、銅フタロシアニン系色素に代表されるシアン色素や、イエロー色素等の、他の色相の色素に比べると、その性能は依然として劣る水準である。
【0006】
鮮明性、耐酸化性ガス性及び耐光性に優れるマゼンタ色素としては、アントラピリドン系色素(例えば、特許文献1〜13参照)が挙げられる。しかし、色相、鮮明性、耐光性、耐水性、耐酸化性ガス性、及び該色素を含有するインク(組成物)の保存安定性の全てを満足させるものは依然として得られていない。
特許文献9、12及び13には、2分子のアントラピリドン化合物を架橋基により架橋した構造を有するマゼンタ色素、及び該色素を含有するインク組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−306221号公報
【特許文献2】特開2000−109464号公報
【特許文献3】特開2000−169776号公報
【特許文献4】特開2000−191660号公報
【特許文献5】特開2000−256587号公報
【特許文献6】特開2001−72884号公報
【特許文献7】特開2001−139836号公報
【特許文献8】国際公開2004/104108号パンフレット
【特許文献9】特開2003−192930号公報
【特許文献10】特開2005−8868号公報
【特許文献11】特開2005−314514号公報
【特許文献12】国際公開2006/075706号パンフレット
【特許文献13】国際公開2008/066062号パンフレット
【特許文献14】国際公開2009/093433号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、記録画像の耐光性に優れる水性インク組成物、特に水性マゼンタインク組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は前記課題を解決すべく、鋭意検討の結果、少なくとも1種類の下記式(1)で表される化合物又はその塩と、少なくとも1種類の下記式(106)で表される化合物又はその塩とを含有するインク組成物が前記課題を解決するものであることを見出し、本発明を完成させたものである。
即ち、本発明は、
1)
少なくとも1種類の下記式(1)で表される化合物又はその塩、及び、少なくとも1種類の下記式(106)で表される化合物又はその塩を、色素として含有する水性インク組成物、
【0010】
【化1】

【0011】
[式(1)中、
1は水素原子、C1−C5アルキル基、ヒドロキシC1−C5アルキル基、シクロヘキシル基、又はシアノC1−C5アルキル基を表し
Xは下記式(101)で表される基である。]、
【0012】
【化101】

【0013】
[式(101)中、
**は2つのアミド基との結合部位を表し、
2及びR3はそれぞれ独立に水素原子又はC1−C5アルキル基を表し、R2とR3は結合して、これらがそれぞれ置換する2つの炭素原子と共に結合してC5−C10シクロアルキレン環を形成しても良い。]、
【0014】
【化106】

【0015】
[式(106)中、
1060乃至R1064は、水素原子又は置換基を表すが、全てが水素原子となることは無く、且つ、少なくともいずれか1つはスルホ基、カルボキシ基、ホスホ基、アリールオキシ基、及び4級アンモニウム基から選択される基であるか、又はこれらの基を有する置換基を表す。また、式(106)で表される化合物は、架橋基を介して2量体を形成してもよい。]、
【0016】
2)
式(106)で表されるアントラピリドン化合物又はその塩が、下記式(102)乃至(104)で表される化合物又はその塩である、前記1)に記載のインク組成物、
【0017】
【化102】

【0018】
[式(102)中、
1021は、スルホ基で置換されたベンゾイル基又はエトキシカルボニル基を表し、
1022は、C1−C4アルキル基;又は、置換基として、シアノ基、ヒドロキシ基、モノC1−C4アルキルアミノ基、ジC1−C4アルキルアミノ基よりなる群から選択される基で置換されたアルキル基;を表し、
1023乃至R1025は、それぞれ独立に、水素原子;スルホ基;C1−C12アルキルスルホニル基;カルボキシ基で置換されたC1−C10アルキルアミノ基により置換されたC1−C4アルキルカルボニルアミノ基;を表し、且つR1023乃至R1025の1つ又は2つはスルホ基を表す。]、
【0019】
【化103】

【0020】
[式(103)中、
1031は、水素原子、又はスルホ基で置換されたベンゾイル基を表し、
1032は、C1−C4アルキル基;又は、置換基として、シアノ基、ヒドロキシ基、モノC1−C4アルキルアミノ基、ジC1−C4アルキルアミノ基よりなる群から選択される基で置換されたアルキル基;を表し、
1035は、水素原子又はスルホ基を表し、
103はヒドロキシ基を表し、
103は、カルボキシ基で置換されたアニリノ基、又はスルホ基で置換されたアニリノ基を表す。]、
【0021】
【化104】

【0022】
[式(104)中、
1041は、スルホ基で置換されたベンゾイル基を表し、
1042は、C1−C4アルキル基;置換基として、シアノ基、ヒドロキシ基、モノC1−C4アルキルアミノ基、ジC1−C4アルキルアミノ基よりなる群から選択される基で置換されたアルキル基;を表し、
104は、下記式(2)乃至(8)で表される基を表し、
104は、アミノ基;又は、置換基として、ヒドロキシ基、カルボキシ基、スルホ基よりなる群から選択される基で置換されたフェノキシ基;を表す。]、
【0023】
【化2】

【0024】
[式(2)中、nは2乃至8であり、*は異なる2つのトリアジン環との結合部位を表す。]、
【0025】
【化3】

【0026】
[式(3)中、R30は水素原子、又はメチル基を表し、*は異なる2つのトリアジン環との結合部位を表す。]、
【0027】
【化4】

[式(4)中、*は異なる2つのトリアジン環との結合部位を表す。]、
【0028】
【化5】

【0029】
[式(5)中、*は異なる2つのトリアジン環との結合部位を表す。]、
【0030】
【化6】

【0031】
[式(6)中、*は異なる2つのトリアジン環との結合部位を表す。]、
【0032】
【化7】

【0033】
[式(7)中、mは2乃至4であり、*は異なる2つのトリアジン環との結合部位を表す。]、
【0034】
【化8】

[式(8)中、*は異なる2つのトリアジン環との結合部位を表す。]、
【0035】
3)
水溶性有機溶剤をさらに含有する前記1)又は2)に記載の水性インク組成物、
4)
インクジェット記録に用いる前記3)に記載の水性インク組成物、
5)
水性インク組成物の総質量に対して、色素として含有する式(1)で表される化合物又はその塩、及び式(106)で表される化合物又はその塩の総含有量が、0.1〜20質量%である前記1)乃至4)のいずれか一項に記載の水性インク組成物、
6)
前記1)乃至5)のいずれか一項に記載の水性インク組成物の液滴を記録信号に応じて吐出させ、被記録材に付着させることにより記録を行うインクジェット記録方法、
7)
被記録材が、情報伝達用シートである前記6)に記載のインクジェット記録方法、
8)
情報伝達用シートが、多孔性白色無機物を含有するインク受容層を有するシートである前記7)に記載のインクジェット記録方法、
9)
前記1)乃至5)のいずれか一項に記載の水性インク組成物により着色された着色体、
10)
前記6)に記載のインクジェット記録方法により着色された着色体、
11)
前記1)乃至5)のいずれか一項に記載のインク組成物を含有する容器が装填されたインクジェットプリンタ、
に関する。
【発明の効果】
【0036】
本発明により、記録画像の耐光性に優れるインク組成物、特にマゼンタインク組成物を提供することができた。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明を詳細に説明する。
本発明のインク組成物は、少なくとも1種類の前記式(1)で表される化合物又はその塩、及び、少なくとも1種類の前記式(106)で表される化合物又はその塩を含有する、実質的に溶液の水性インク組成物であり、好ましくはマゼンタの色相を有する水性マゼンタインク組成物である。
特に断りの無い限り、本明細書においては煩雑さを避けるため、「化合物又はその塩」の両者を含めて、以下「化合物」と簡略化して記載し、「化合物又はその塩」の両者を含む意味として用いる。
本発明の水性インク組成物中、式(1)で表される化合物はマゼンタの色相を有する色素、すなわちマゼンタ色素である。該式(1)で表される化合物と、前記式(106)で表される化合物の両者を含有する本発明のインク組成物により記録された画像は、いずれか1種類の化合物を含有する従来のインク組成物により記録された画像と比較して、耐光性に優れる。
【0038】
前記式(1)で表される化合物について以下に記載する。
【0039】
式(1)中、R1におけるC1−C5アルキル基としては、直鎖又は分岐鎖のものが挙げられる。その具体例としては例えば、メチル、エチル、n−プロピル、n−ブチル、n−ペンチルといった直鎖のもの;イソプロピル、イソブチル、sec−ブチル、t−ブチル、イソペンチル、t−ペンチル、といった分岐鎖のもの;等が挙げられる。好ましい具体例としては、メチル、エチルが挙げられ、メチルが特に好ましい。
【0040】
1におけるヒドロキシC1−C5アルキル基としては、前記「R1におけるC1−C5アルキル基」における任意の炭素原子にヒドロキシ基が置換したものが挙げられ、同一の炭素原子に該ヒドロキシ基と窒素原子の両者が置換しないものが好ましい。具体例としては、2−ヒドロキシエチル、2−ヒドロキシプロピル、3−ヒドロキシプロピル、3−ヒドロキシブチル、4−ヒドロキシブチル等のC1−C5アルキル部分が直鎖のもの;1−ヒドロキシ−2−プロピル、1−ヒドロキシ−2−ブチル、1−ヒドロキシ−3−ブチル、2−ヒドロキシ−3−ペンチル、2−ヒドロキシ−1,1−ジメチルエチル等のC1−C5アルキル部分が分岐鎖のもの;等が挙げられる。好ましい具体例としては、2−ヒドロキシエチルが挙げられる。
【0041】
1におけるシアノC1−C5アルキル基としては、前記「R1におけるC1−C5アルキル基」における任意の炭素原子にヒドロキシ基が置換したものが挙げられ、同一の炭素原子に該ヒドロキシ基と窒素原子の両者が置換しないものが好ましい。具体例としては、2−シアノエチル、2−シアノプロピル、3−シアノプロピル、3−シアノブチル、4−シアノブチル等のC1−C5アルキル部分が直鎖のもの;1−シアノ−2−プロピル、1−シアノ−2−ブチル、1−シアノ−3−ブチル、2−シアノ−3−ペンチル、2−シアノ−1,1−ジメチルエチル等のC1−C5アルキル部分が分岐鎖のもの;等が挙げられる。好ましい具体例としては、2−シアノエチルが挙げられる。
【0042】
前記のうち、好ましいR1としては水素原子、又はC1−C5アルキル基が挙げられ、後者がより好ましい。
【0043】
式(1)中、Xは前記式(101)で表される基である。
式(101)中、R2及びR3におけるC1−C5アルキル基としては、前記「R1におけるC1−C5アルキル基」に記載のものと、好ましいもの等を含めて同じものが挙げられる。
【0044】
2とR3が結合して形成するC5−C10シクロアルキレン環としては、シクロペンチレン、シクロヘキシレン、シクロへプチレン、シクロオクチレン等が挙げられる。
炭素数の範囲としては通常C5−C10、好ましくはC5−C8、より好ましくはC5−C7の範囲が挙げられ、特に好ましくはC6である。
好ましい具体例としてはシクロヘキシレンが挙げられる。
【0045】
好ましいR2及びR3としては水素原子、メチル基又はR2とR3が結合したシクロヘキシレンが挙げられ、水素原子及びメチルがより好ましく、水素原子が特に好ましい。
【0046】
前記式(1)で表される化合物におけるXとして、具体的に式(101)で表される基を記載したものが下記式(42)で表される化合物である。すなわち、前記式(1)で表される化合物と、下記式(42)で表される化合物は同じ化合物である。
【0047】
【化42】

【0048】
前記式(42)中、R1は式(1)におけるのと、またR2及びR3は式(101)におけるのと、それぞれ好ましいもの等を含めて同じ意味を表す。
【0049】
前記式(1)(又は式(42)、以下同様)におけるR1乃至R3について、好ましいもの同士を組み合わせた化合物はより好ましく、より好ましいもの同士を組み合わせたものはさらに好ましい。好ましいものとより好ましいものとの組み合わせ等についても同様である。
【0050】
本発明の前記式(1)で示されるアントラピリドン化合物の具体例を下記表1に示すが、本発明はこれらの具体例に限定されるものではない。
なお、表1中、No.11及びNo.12における「シクロヘキシレン環」は、前記式(1)において、R2とR3が結合して、これらがそれぞれ置換する2つの炭素原子と共に形成したシクロヘキシレン環を意味する。
【0051】
【表1】

【0052】
以下に前記式(1)で示される化合物の製造方法を記載する。なお下記式(71)、式(81)、及び式(9)中に記載のR1は、前記式(1)におけるのと同じ意味を表し、下記式(100)中に記載のR2及びR3は、前記式(101)におけるのと同じ意味を表す。
前記式(1)で表される化合物は、例えば次の方法により製造される。即ち、前記の特許文献3等に記載の公知の方法、又はその方法に準じて合成を行うことにより、下記式(71)の化合物が得られる。
【0053】
【化71】

【0054】
次いで得られた前記式(71)の化合物1モルに、水酸化ナトリウム水溶液等を加えてpH7の水溶液として中和した後、水;メタノール、エタノール、エチレングリコール等のアルコールやポリオール類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類;等の溶媒中、下記式(81)の化合物0.5モルと30〜100℃で反応させることにより下記式(9)の化合物が得られる。なお、中和後の式(71)の化合物を含む水溶液はそのまま使用するよりも、乾燥させて式(71)の化合物を含む固体とした後、次の反応に使用する方が好ましい。
【0055】
【化81】

【0056】
【化9】

【0057】
前記式(9)中、Zは下記式(100)で表される基である。
【0058】
【化100】

【0059】
前記式(100)中、**は2つのアミド基との結合部位をそれぞれ表す。
【0060】
次いで得られた前記式(9)の化合物1モルと、酢酸銅、硫酸銅、ハロゲン化銅(例えば塩化銅、ヨウ化銅等)等の銅化合物1モルとを、水;メタノール、エタノール、エチレングリコール等アルコールやポリオール類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類;等の溶媒中、pH5〜9、10〜100℃で反応させることにより本発明のインク組成物に少なくとも1種類含有する前記式(1)のアントラピリドン化合物が得られる。
なお、この反応におけるpHの調整には任意の塩基が使用できるが、アルカリ金属の炭酸塩(例えば炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等)、アルカリ金属の水酸化物(例えば水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等)等が好ましく挙げられる。
【0061】
本発明の水性インク組成物に含有するアントラピリドン化合物は、下記式(106)で表される水溶性の化合物である。
なお、本明細書において「水溶性の化合物」とは、25℃において、pH6〜9の水1リットルに対して、通常25g以上、好ましくは50g以上、より好ましくは100g以上溶解する化合物を意味する。
【0062】
【化106】

【0063】
前記式(106)中、
1060乃至R1064は、水素原子又は置換基を表すが、全てが水素原子となることは無く、且つ、少なくともいずれか1つは、水溶性を付与するため、スルホ基、カルボキシ基、ホスホ基(本明細書においては、「−PO(OH)2」で表される基を意味する。)、アリールオキシ基、及び4級アンモニウム基から選択される基であるか、又はこれらの基を有する置換基を表す。また、式(106)で表される化合物は、架橋基を介して2量体を形成してもよい
【0064】
1060乃至R1064における置換基としては、
直鎖、分岐鎖又は環状のC1−C10アルキル基(具体例としては、メチル、エチル、n−プロピル、n−ブチル、n−ペンチル、n−ヘキシル、n−ヘプチル、n−オクチル、n−ノニル、n−デシルといった直鎖のもの;イソプロピル、イソブチル、sec−ブチル、t−ブチル、イソアミル、t−アミル、イソヘキシル、t−ヘキシル、イソヘプチル、t−ヘプチル、イソオクチル、t−オクチル、2−エチルヘキシル、イソノニル、イソデシル等の分岐鎖のもの;シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル等の環状のもの;好ましくは直鎖又は分岐鎖のもの、より好ましくは直鎖のものが挙げられる。);
C6−C12のアリール基(具体例としては、フェニル、ナフチル、ビフェニル等が挙げられる。);
環構成原子として窒素原子、酸素原子、硫黄原子から選択される1乃至3つの原子を含む、5又は6員環の複素環基(具体例としては、ピロリジニル、テトラヒドロフリル、テトラヒドロチオフェン−2−イル、テトラヒドロチオフェン−3−イル等の5員脂環式のもの;ピペリジニル、ピペラジニル、ジオキサン−2−イル、モルホリニル、チオモルホリニル等の6員脂環式のもの;ピロール、ピラゾール、イミダゾール、トリアゾール、フリル、チオフェン−2−イル、チオフェン−3−イル、オキサゾール、チアゾール等の5員芳香環式のもの;ピリジン、ピラジン、ピリダジン、トリアジン等の6員芳香環式のもの;等が挙げられる。);
直鎖、分岐鎖又は環状のC1−C10アルコキシ基(具体例としては、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、n−ブトキシ、n−ペントキシ、n−ヘキシロキシ、n−ヘプトキシ、n−オクチロキシ、n−ノニロキシ、n−デシロキシといった直鎖のもの;イソプロポキシ、イソブトキシ、sec−ブトキシ、t−ブトキシ、イソアミロキシ、t−アミロキシ、イソヘキシロキシ、t−ヘキシロキシ、イソヘプトキシ、t−ヘプトキシ、イソオクチロキシ、t−オクチロキシ、2−エチルヘキシロキシ、イソノニロキシ、イソデシロキシ等の分岐鎖のもの;シクロプロポキシ、シクロブトキシ、シクロペントキシ、シクロヘキシロキシ、シクロヘプトキシ等の環状のもの;好ましくは直鎖又は分岐鎖のものが挙げられる。);
C6−C10アリールオキシ基(具体例としては、フェノキシ、ナフチロキシ、ビフェニロキシ等が挙げられる。);
直鎖、分岐鎖又は環状のC1−C10アルキルカルボニルアミノ基(具体例としては、メチルカルボニルアミノ、エチルカルボニルアミノ、n−プロピルカルボニルアミノ、n−ブチルカルボニルアミノ、n−ペンチルカルボニルアミノ、n−ヘキシルカルボニルアミノ、n−ヘプチルカルボニルアミノ、n−オクチルカルボニルアミノ、n−ノニルカルボニルアミノ、n−デシルカルボニルアミノといった直鎖のもの;イソプロピルカルボニルアミノ、イソブチルカルボニルアミノ、sec−ブチルカルボニルアミノ、t−ブチルカルボニルアミノ、イソアミルカルボニルアミノ、t−アミルカルボニルアミノ、イソヘキシルカルボニルアミノ、t−ヘキシルカルボニルアミノ、イソヘプチルカルボニルアミノ、t−ヘプチルカルボニルアミノ、イソオクチルカルボニルアミノ、t−オクチルカルボニルアミノ、2−エチルヘキシルカルボニルアミノ、イソノニルカルボニルアミノ、イソデシルカルボニルアミノ等の分岐鎖のもの;シクロプロピルカルボニルアミノ、シクロブチルカルボニルアミノ、シクロペンチルカルボニルアミノ、シクロヘキシルカルボニルアミノ、シクロヘプチルカルボニルアミノ等の環状のもの;好ましくは直鎖又は分岐鎖のもの、より好ましくは直鎖のものが挙げられる。);
C6−C10アリールカルボニルアミノ基(具体例としては、フェニルカルボニルアミノ、ナフチルカルボニルアミノ、ビフェニルカルボニルアミノ等が挙げられる。);
直鎖、分岐鎖又は環状のC1−C10アルキルカルボニルオキシ基(具体例としては、メチルカルボニルオキシ、エチルカルボニルオキシ、n−プロピルカルボニルオキシ、n−ブチルカルボニルオキシ、n−ペンチルカルボニルオキシ、n−ヘキシルカルボニルオキシ、n−ヘプチルカルボニルオキシ、n−オクチルカルボニルオキシ、n−ノニルカルボニルオキシ、n−デシルカルボニルオキシといった直鎖のもの;イソプロピルカルボニルオキシ、イソブチルカルボニルオキシ、sec−ブチルカルボニルオキシ、t−ブチルカルボニルオキシ、イソアミルカルボニルオキシ、t−アミルカルボニルオキシ、イソヘキシルカルボニルオキシ、t−ヘキシルカルボニルオキシ、イソヘプチルカルボニルオキシ、t−ヘプチルカルボニルオキシ、イソオクチルカルボニルオキシ、t−オクチルカルボニルオキシ、2−エチルヘキシルカルボニルオキシ、イソノニルカルボニルオキシ、イソデシルカルボニルオキシ等の分岐鎖のもの;シクロプロピルカルボニルオキシ、シクロブチルカルボニルオキシ、シクロペンチルカルボニルオキシ、シクロヘキシルカルボニルオキシ、シクロヘプチルカルボニルオキシ等の環状のもの;好ましくは直鎖又は分岐鎖のもの、より好ましくは直鎖のものが挙げられる。);
C6−C10アリールカルボニルオキシ基(具体例としては、フェニルカルボニルオキシ、ナフチルカルボニルオキシ、ビフェニルカルボニルオキシ等が挙げられる。);
直鎖、分岐鎖又は環状のC1−C10アルキルカルボニル基(具体例としては、メチルカルボニル、エチルカルボニル、n−プロピルカルボニル、n−ブチルカルボニル、n−ペンチルカルボニル、n−ヘキシルカルボニル、n−ヘプチルカルボニル、n−オクチルカルボニル、n−ノニルカルボニル、n−デシルカルボニルといった直鎖のもの;イソプロピルカルボニル、イソブチルカルボニル、sec−ブチルカルボニル、t−ブチルカルボニル、イソアミルカルボニル、t−アミルカルボニル、イソヘキシルカルボニル、t−ヘキシルカルボニル、イソヘプチルカルボニル、t−ヘプチルカルボニル、イソオクチルカルボニル、t−オクチルカルボニル、2−エチルヘキシルカルボニル、イソノニルカルボニル、イソデシルカルボニル等の分岐鎖のもの;シクロプロピルカルボニル、シクロブチルカルボニル、シクロペンチルカルボニル、シクロヘキシルカルボニル、シクロヘプチルカルボニル等の環状のもの;好ましくは直鎖又は分岐鎖のもの、より好ましくは直鎖のものが挙げられる。);
C6−C10アリールカルボニル基(具体例としては、フェニルカルボニル(ベンゾイル)、ナフチルカルボニル、ビフェニルカルボニル等が挙げられる。);
カルバモイル基;
直鎖、分岐鎖又は環状のモノC1−C10アルキルカルバモイル基(具体例としては、メチルカルバモイル、エチルカルバモイル、n−プロピルカルバモイル、n−ブチルカルバモイル、n−ペンチルカルバモイル、n−ヘキシルカルバモイル、n−ヘプチルカルバモイル、n−オクチルカルバモイル、n−ノニルカルバモイル、n−デシルカルバモイルといった直鎖のもの;イソプロピルカルバモイル、イソブチルカルバモイル、sec−ブチルカルバモイル、t−ブチルカルバモイル、イソアミルカルバモイル、t−アミルカルバモイル、イソヘキシルカルバモイル、t−ヘキシルカルバモイル、イソヘプチルカルバモイル、t−ヘプチルカルバモイル、イソオクチルカルバモイル、t−オクチルカルバモイル、2−エチルヘキシルカルバモイル、イソノニルカルバモイル、イソデシルカルバモイル等の分岐鎖のもの;シクロプロピルカルバモイル、シクロブチルカルバモイル、シクロペンチルカルバモイル、シクロヘキシルカルバモイル、シクロヘプチルカルバモイル等の環状のもの;好ましくは直鎖又は分岐鎖のもの、より好ましくは直鎖のものが挙げられる。);
直鎖、分岐鎖又は環状のジC1−C10アルキルカルバモイル基(具体例としては、ジメチルカルバモイル、ジエチルカルバモイル、ジ−n−プロピルカルバモイル、ジ−n−ブチルカルバモイル、ジ−n−ペンチルカルバモイル、ジ−n−ヘキシルカルバモイル、ジ−n−ヘプチルカルバモイル、ジ−n−オクチルカルバモイル、ジ−n−ノニルカルバモイル、ジ−n−デシルカルバモイルといった直鎖のもの;ジイソプロピルカルバモイル、ジイソブチルカルバモイル、ジ−sec−ブチルカルバモイル、ジ−t−ブチルカルバモイル、ジイソアミルカルバモイル、ジ−t−アミルカルバモイル、ジイソヘキシルカルバモイル、ジ−t−ヘキシルカルバモイル、ジイソヘプチルカルバモイル、ジ−t−ヘプチルカルバモイル、ジイソオクチルカルバモイル、ジ−t−オクチルカルバモイル、ジ−(2−エチルヘキシル)カルバモイル、ジイソノニルカルバモイル、ジイソデシルカルバモイル等の分岐鎖のもの;ジシクロプロピルカルバモイル、ジシクロブチルカルバモイル、ジシクロペンチルカルバモイル、ジシクロヘキシルカルバモイル、ジシクロヘプチルカルバモイル等の環状のもの;好ましくは直鎖又は分岐鎖のもの、より好ましくは直鎖のものが挙げられる。);
モノC6−C10アリールカルバモイル基(具体例としては、フェニルカルバモイル、ナフチルカルバモイル、ビフェニルカルバモイル等が挙げられる。);
ジC6−C10アリールカルバモイル基(具体例としては、ジフェニルカルバモイル、ジナフチルカルバモイル、ジ(ビフェニル)カルバモイル等が挙げられる。);
直鎖、分岐鎖又は環状のC1−C10アルコキシカルボニル基(具体例としては、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、n−プロポキシカルボニル、n−ブトキシカルボニル、n−ペントキシカルボニル、n−ヘキシロキシカルボニル、n−ヘプトキシカルボニル、n−オクチロキシカルボニル、n−ノニロキシカルボニル、n−デシロキシカルボニルといった直鎖のもの;イソプロポキシカルボニル、イソブトキシカルボニル、sec−ブトキシカルボニル、t−ブトキシカルボニル、イソアミロキシカルボニル、t−アミロキシカルボニル、イソヘキシロキシカルボニル、t−ヘキシロキシカルボニル、イソヘプトキシカルボニル、t−ヘプトキシカルボニル、イソオクチロキシカルボニル、t−オクチロキシカルボニル、2−エチルヘキシロキシカルボニル、イソノニロキシカルボニル、イソデシロキシカルボニル等の分岐鎖のもの;シクロプロポキシカルボニル、シクロブトキシカルボニル、シクロペントキシカルボニル、シクロヘキシロキシカルボニル、シクロヘプトキシカルボニル等の環状のもの;好ましくは直鎖又は分岐鎖のもの、より好ましくは直鎖のものが挙げられる。);
C6−C10アリールオキシカルボニル基(具体例としては、フェノキシカルボニル、ナフチロキシカルボニル、ビフェニロキシカルボニル等が挙げられる。);
直鎖、分岐鎖又は環状のC1−C10アルキルスルホニルアミノ基(具体例としては、メチルスルホニルアミノ、エチルスルホニルアミノ、n−プロピルスルホニルアミノ、n−ブチルスルホニルアミノ、n−ペンチルスルホニルアミノ、n−ヘキシルスルホニルアミノ、n−ヘプチルスルホニルアミノ、n−オクチルスルホニルアミノ、n−ノニルスルホニルアミノ、n−デシルスルホニルアミノといった直鎖のもの;イソプロピルスルホニルアミノ、イソブチルスルホニルアミノ、sec−ブチルスルホニルアミノ、t−ブチルスルホニルアミノ、イソアミルスルホニルアミノ、t−アミルスルホニルアミノ、イソヘキシルスルホニルアミノ、t−ヘキシルスルホニルアミノ、イソヘプチルスルホニルアミノ、t−ヘプチルスルホニルアミノ、イソオクチルスルホニルアミノ、t−オクチルスルホニルアミノ、2−エチルヘキシルスルホニルアミノ、イソノニルスルホニルアミノ、イソデシルスルホニルアミノ等の分岐鎖のもの;シクロプロピルスルホニルアミノ、シクロブチルスルホニルアミノ、シクロペンチルスルホニルアミノ、シクロヘキシルスルホニルアミノ、シクロヘプチルスルホニルアミノ等の環状のもの;好ましくは直鎖又は分岐鎖のもの、より好ましくは直鎖のものが挙げられる。);
C6−C10アリールスルホニルアミノ基(具体例としては、フェニルスルホニルアミノ、ナフチルスルホニルアミノ、ビフェニルスルホニルアミノ等が挙げられる。);
スルファモイル基;
直鎖、分岐鎖又は環状のモノC1−C10アルキルスルファモイル基(具体例としては、メチルスルファモイル、エチルスルファモイル、n−プロピルスルファモイル、n−ブチルスルファモイル、n−ペンチルスルファモイル、n−ヘキシルスルファモイル、n−ヘプチルスルファモイル、n−オクチルスルファモイル、n−ノニルスルファモイル、n−デシルスルファモイルといった直鎖のもの;イソプロピルスルファモイル、イソブチルスルファモイル、sec−ブチルスルファモイル、t−ブチルスルファモイル、イソアミルスルファモイル、t−アミルスルファモイル、イソヘキシルスルファモイル、t−ヘキシルスルファモイル、イソヘプチルスルファモイル、t−ヘプチルスルファモイル、イソオクチルスルファモイル、t−オクチルスルファモイル、2−エチルヘキシルスルファモイル、イソノニルスルファモイル、イソデシルスルファモイル等の分岐鎖のもの;シクロプロピルスルファモイル、シクロブチルスルファモイル、シクロペンチルスルファモイル、シクロヘキシルスルファモイル、シクロヘプチルスルファモイル等の環状のもの;好ましくは直鎖又は分岐鎖のもの、より好ましくは直鎖のものが挙げられる。);
直鎖、分岐鎖又は環状のジC1−C10アルキルスルファモイル基(具体例としては、ジメチルスルファモイル、ジエチルスルファモイル、ジ−n−プロピルスルファモイル、ジ−n−ブチルスルファモイル、ジ−n−ペンチルスルファモイル、ジ−n−ヘキシルスルファモイル、ジ−n−ヘプチルスルファモイル、ジ−n−オクチルスルファモイル、ジ−n−ノニルスルファモイル、ジ−n−デシルスルファモイルといった直鎖のもの;ジイソプロピルスルファモイル、ジイソブチルスルファモイル、ジ−sec−ブチルスルファモイル、ジ−t−ブチルスルファモイル、ジイソアミルスルファモイル、ジ−t−アミルスルファモイル、ジイソヘキシルスルファモイル、ジ−t−ヘキシルスルファモイル、ジイソヘプチルスルファモイル、ジ−t−ヘプチルスルファモイル、ジイソオクチルスルファモイル、ジ−t−オクチルスルファモイル、ジ−(2−エチルヘキシル)スルファモイル、ジイソノニルスルファモイル、ジイソデシルスルファモイル等の分岐鎖のもの;ジシクロプロピルスルファモイル、ジシクロブチルスルファモイル、ジシクロペンチルスルファモイル、ジシクロヘキシルスルファモイル、ジシクロヘプチルスルファモイル等の環状のもの;好ましくは直鎖又は分岐鎖のもの、より好ましくは直鎖のものが挙げられる。);
モノC6−C10アリールスルファモイル基(具体例としては、フェニルスルファモイル、ナフチルスルファモイル、ビフェニルスルファモイル等が挙げられる。);
ジC6−C10アリールスルファモイル基(具体例としては、ジフェニルスルファモイル、ジナフチルスルファモイル、ジ(ビフェニル)スルファモイル等が挙げられる。);
ヒドロキシ基;
直鎖、分岐鎖又は環状のC1−C12アルキルスルホニル基(具体例としては、メチルスルホニル、エチルスルホニル、n−プロピルスルホニル、n−ブチルスルホニル、n−ペンチルスルホニル、n−ヘキシルスルホニル、n−ヘプチルスルホニル、n−オクチルスルホニル、n−ノニルスルホニル、n−デシルスルホニル、n−ウンデシルスルホニル、n−ドデシルスルホニルといった直鎖のもの;イソプロピルスルホニル、イソブチルスルホニル、sec−ブチルスルホニル、t−ブチルスルホニル、イソアミルスルホニル、t−アミルスルホニル、イソヘキシルスルホニル、t−ヘキシルスルホニル、イソヘプチルスルホニル、t−ヘプチルスルホニル、イソオクチルスルホニル、t−オクチルスルホニル、2−エチルヘキシルスルホニル、イソノニルスルホニル、イソデシルスルホニル、イソウンデシルスルホニル、t−ウンデシルスルホニル、イソドデシルスルホニル、t−ドデシルスルホニル等の分岐鎖のもの;シクロプロピルスルホニル、シクロブチルスルホニル、シクロペンチルスルホニル、シクロヘキシルスルホニル、シクロヘプチルスルホニル等の環状のもの;好ましくは直鎖又は分岐鎖のもの、より好ましくは直鎖のものが挙げられる。);
C6−C10アリールスルホニル基(具体例としては、フェニルスルホニル、ナフチルスルホニル、ビフェニルスルホニル等が挙げられる。);
直鎖、分岐鎖又は環状のC1−C10アルキルチオ基(具体例としては、メチルチオ、エチルチオ、n−プロピルチオ、n−ブチルチオ、n−ペンチルチオ、n−ヘキシルチオ、n−ヘプチルチオ、n−オクチルチオ、n−ノニルチオ、n−デシルチオといった直鎖のもの;イソプロピルチオ、イソブチルチオ、sec−ブチルチオ、t−ブチルチオ、イソアミルチオ、t−アミルチオ、イソヘキシルチオ、t−ヘキシルチオ、イソヘプチルチオ、t−ヘプチルチオ、イソオクチルチオ、t−オクチルチオ、2−エチルヘキシルチオ、イソノニルチオ、イソデシルチオ等の分岐鎖のもの;シクロプロピルチオ、シクロブチルチオ、シクロペンチルチオ、シクロヘキシルチオ、シクロヘプチルチオ等の環状のもの;好ましくは直鎖又は分岐鎖のもの、より好ましくは直鎖のものが挙げられる。);
C6−C10のアリールチオ基(具体例としては、フェニルチオ、ナフチルチオ、ビフェニルチオ等が挙げられる。);
ウレイド基;
直鎖、分岐鎖又は環状のモノC1−C10アルキルウレイド基(具体例としては、メチルウレイド、エチルウレイド、n−プロピルウレイド、n−ブチルウレイド、n−ペンチルウレイド、n−ヘキシルウレイド、n−ヘプチルウレイド、n−オクチルウレイド、n−ノニルウレイド、n−デシルウレイドといった直鎖のもの;イソプロピルウレイド、イソブチルウレイド、sec−ブチルウレイド、t−ブチルウレイド、イソアミルウレイド、t−アミルウレイド、イソヘキシルウレイド、t−ヘキシルウレイド、イソヘプチルウレイド、t−ヘプチルウレイド、イソオクチルウレイド、t−オクチルウレイド、2−エチルヘキシルウレイド、イソノニルウレイド、イソデシルウレイド等の分岐鎖のもの;シクロプロピルウレイド、シクロブチルウレイド、シクロペンチルウレイド、シクロヘキシルウレイド、シクロヘプチルウレイド等の環状のもの;好ましくは直鎖又は分岐鎖のもの、より好ましくは直鎖のものが挙げられる。);
直鎖、分岐鎖又は環状のジC1−C10アルキルウレイド基(具体例としては、ジメチルウレイド、ジエチルウレイド、ジ−n−プロピルウレイド、ジ−n−ブチルウレイド、ジ−n−ペンチルウレイド、ジ−n−ヘキシルウレイド、ジ−n−ヘプチルウレイド、ジ−n−オクチルウレイド、ジ−n−ノニルウレイド、ジ−n−デシルウレイドといった直鎖のもの;ジイソプロピルウレイド、ジイソブチルウレイド、ジ−sec−ブチルウレイド、ジ−t−ブチルウレイド、ジイソアミルウレイド、ジ−t−アミルウレイド、ジイソヘキシルウレイド、ジ−t−ヘキシルウレイド、ジイソヘプチルウレイド、ジ−t−ヘプチルウレイド、ジイソオクチルウレイド、ジ−t−オクチルウレイド、ジ−(2−エチルヘキシル)ウレイド、ジイソノニルウレイド、ジイソデシルウレイド等の分岐鎖のもの;ジシクロプロピルウレイド、ジシクロブチルウレイド、ジシクロペンチルウレイド、ジシクロヘキシルウレイド、ジシクロヘプチルウレイド等の環状のもの;好ましくは直鎖又は分岐鎖のもの、より好ましくは直鎖のものが挙げられる。);
モノC6−C10アリールウレイド基(具体例としては、フェニルウレイド、ナフチルウレイド、ビフェニルウレイド等が挙げられる。);
ジC6−C10アリールウレイド基(具体例としては、ジフェニルウレイド、ジナフチルウレイド、ジ(ビフェニル)ウレイド等が挙げられる。);
直鎖、分岐鎖又は環状のC1−C10アルコキシカルボニルアミノ基(具体例としては、メトキシカルボニルアミノ、エトキシカルボニルアミノ、n−プロポキシカルボニルアミノ、n−ブトキシカルボニルアミノ、n−ペントキシカルボニルアミノ、n−ヘキシロキシカルボニルアミノ、n−ヘプトキシカルボニルアミノ、n−オクチロキシカルボニルアミノ、n−ノニロキシカルボニルアミノ、n−デシロキシカルボニルアミノといった直鎖のもの;イソプロポキシカルボニルアミノ、イソブトキシカルボニルアミノ、sec−ブトキシカルボニルアミノ、t−ブトキシカルボニルアミノ、イソアミロキシカルボニルアミノ、t−アミロキシカルボニルアミノ、イソヘキシロキシカルボニルアミノ、t−ヘキシロキシカルボニルアミノ、イソヘプトキシカルボニルアミノ、t−ヘプトキシカルボニルアミノ、イソオクチロキシカルボニルアミノ、t−オクチロキシカルボニルアミノ、2−エチルヘキシロキシカルボニルアミノ、イソノニロキシカルボニルアミノ、イソデシロキシカルボニルアミノ等の分岐鎖のもの;シクロプロポキシカルボニルアミノ、シクロブトキシカルボニルアミノ、シクロペントキシカルボニルアミノ、シクロヘキシロキシカルボニルアミノ、シクロヘプトキシカルボニルアミノ等の環状のもの;好ましくは直鎖又は分岐鎖のもの、より好ましくは直鎖のものが挙げられる。);
C6−C10アリールオキシカルボニルアミノ基(具体例としては、フェニルカルボニルアミノ、ナフチルカルボニルアミノ、ビフェニルカルボニルアミノ等が挙げられる。);
シアノ基;
スルホ基;
カルボキシ基;
ホスホ基;
4級アンモニウム基;
ニトロ基;
アミノ基;
直鎖、分岐鎖又は環状のモノC1−C10アルキルアミノ基(具体例としては、メチルアミノ、エチルアミノ、n−プロピルアミノ、n−ブチルアミノ、n−ペンチルアミノ、n−ヘキシルアミノ、n−ヘプチルアミノ、n−オクチルアミノ、n−ノニルアミノ、n−デシルアミノといった直鎖のもの;イソプロピルアミノ、イソブチルアミノ、sec−ブチルアミノ、t−ブチルアミノ、イソアミルアミノ、t−アミルアミノ、イソヘキシルアミノ、t−ヘキシルアミノ、イソヘプチルアミノ、t−ヘプチルアミノ、イソオクチルアミノ、t−オクチルアミノ、2−エチルヘキシルアミノ、イソノニルアミノ、イソデシルアミノ等の分岐鎖のもの;シクロプロピルアミノ、シクロブチルアミノ、シクロペンチルアミノ、シクロヘキシルアミノ、シクロヘプチルアミノ等の環状のもの;好ましくは直鎖又は分岐鎖のもの、より好ましくは直鎖のものが挙げられる。);
直鎖、分岐鎖又は環状のジC1−C10アルキルアミノ基(具体例としては、ジメチルアミノ、ジエチルアミノ、ジ−n−プロピルアミノ、ジ−n−ブチルアミノ、ジ−n−ペンチルアミノ、ジ−n−ヘキシルアミノ、ジ−n−ヘプチルアミノ、ジ−n−オクチルアミノ、ジ−n−ノニルアミノ、ジ−n−デシルアミノといった直鎖のもの;ジイソプロピルアミノ、ジイソブチルアミノ、ジ−sec−ブチルアミノ、ジ−t−ブチルアミノ、ジイソアミルアミノ、ジ−t−アミルアミノ、ジイソヘキシルアミノ、ジ−t−ヘキシルアミノ、ジイソヘプチルアミノ、ジ−t−ヘプチルアミノ、ジイソオクチルアミノ、ジ−t−オクチルアミノ、ジ−(2−エチルヘキシル)アミノ、ジイソノニルアミノ、ジイソデシルアミノ等の分岐鎖のもの;ジシクロプロピルアミノ、ジシクロブチルアミノ、ジシクロペンチルアミノ、ジシクロヘキシルアミノ、ジシクロヘプチルアミノ等の環状のもの;好ましくは直鎖又は分岐鎖のもの、より好ましくは直鎖のものが挙げられる。);
モノC6−C10アリールアミノ基(具体例としては、フェニルアミノ(アニリノ)、ナフチルアミノ、ビフェニルアミノ等が挙げられる。);
ジC6−C10アリールアミノ基(具体例としては、ジフェニルアミノ、ジナフチルアミノ、ジ(ビフェニル)アミノ等が挙げられる。);
メルカプト基(本明細書においては、「−SH」で表される基を意味する。);
ハロゲン原子(具体例としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子;好ましくはフッ素原子、塩素原子;より好ましくは塩素原子が挙げられる。);等が挙げられる。
1060乃至R1064における前記の置換基は、これらの置換基から選択される基を1乃至2つ、好ましくは1つさらに有してもよい。
【0065】
前記のうち、
1060としては、置換基を有してもよいモノC6−C10アリールアミノ基が好ましい。
1061としては、置換基を有してもよいC6−C10アリールカルボニル基が好ましい。
1062としては、直鎖、分岐鎖又は環状の、置換基を有してもよいC1−C10アルキル基が好ましく、直鎖又は環状のものがより好ましく、直鎖のものがさらに好ましい。
1063及びR1064としては、いずれも水素原子が好ましい。
【0066】
前記式(106)で表される化合物が、架橋基を介して2量体を形成するとき、架橋基としては特に制限されないが、下記式(107)で表される架橋基が好ましい。
【0067】
【化107】

【0068】
前記式(107)中、
104は、N,N’−ヒドラジンジイル、又は下記式(2)乃至(8)で表される基を表し、
107は、ヒドロキシ基;アミノ基;C1−C4アルコキシ基;モノC1−C4アルキルアミノ基;ジC1−C4アルキルアミノ基;置換基として、ヒドロキシ基、カルボキシ基、スルホ基、及びジC1−C4アルキルアミノ基よりなる群から選択される基で置換されたモノC1−C4アルキルアミノ基;置換基として、ヒドロキシ基、カルボキシ基、及びスルホ基よりなる群から選択される基で置換されたジC1−C4アルキルアミノ基;モルホリノ基;置換基として、カルボキシ基、スルホ基、C1−C8アルキル基よりなる群から選択される基で置換されたアニリノ基;置換基として、ヒドロキシ基、カルボキシ基、スルホ基、C1−C8アルキル基よりなる群から選択される基で置換されたフェノキシ基;を表し、
APは前記式(106)で表される化合物を表す。
【0069】
【化2】

【0070】
[式(2)中、nは2乃至8であり、*は異なる2つのトリアジン環との結合部位を表す。]、
【0071】
【化3】

【0072】
[式(3)中、R30は水素原子、又はメチル基を表し、*は異なる2つのトリアジン環との結合部位を表す。]、
【0073】
【化4】

[式(4)中、*は異なる2つのトリアジン環との結合部位を表す。]、
【化5】

【0074】
[式(5)中、*は異なる2つのトリアジン環との結合部位を表す。]、
【0075】
【化6】

【0076】
[式(6)中、*は異なる2つのトリアジン環との結合部位を表す。]、
【0077】
【化7】

【0078】
[式(7)中、mは2乃至4であり、*は異なる2つのトリアジン環との結合部位を表す。]、
【0079】
【化8】

【0080】
[式(8)中、*は異なる2つのトリアジン環との結合部位を表す。]。
【0081】
前記式(2)乃至(8)中に記載した「*」は、2つの異なるトリアジン環と結合する部位をそれぞれ表し、その結合様式は直接結合である。すなわち式(2)乃至(8)中に記載した「*」を付した結合手は、各窒素原子の結合手を意味し、各窒素原子と2つの異なるトリアジン環は直接結合している。
【0082】
104が式(2)で表される基のとき、nは通常2乃至8、好ましくは2乃至6、より好ましくは2乃至4の整数であり、特に好ましくは2である。
【0083】
104が式(3)で表される基のとき、R3は水素原子又はメチル基を表し、水素原子が好ましい。
【0084】
104が式(7)で表される基のとき、mは2乃至4の整数が好ましく、より好ましくは3である。
【0085】
前記のうちX104として好ましいものは、N,N’−ヒドラジンジイル;nが2乃至6である式(2);式(3);式(4);式(5);式(6);mが3である式(7);及び式(8);である。
より好ましくは、nが2乃至4である式(2)、又はR3が水素原子である式(3)であり;さらに好ましくはnが2乃至4である式(2)、又はR3が水素原子である式(3)であり;最も好ましくはnが2である式(2)、又はR3が水素原子である式(3)である。
【0086】
前記式(107)中、Y107におけるC1−C4アルコキシ基としては、直鎖、分岐鎖、又は環状のものが挙げられ、直鎖又は分岐鎖のものが好ましく、直鎖のものがより好ましい。具体例としては、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、n−ブトキシといった直鎖のもの;イソプロポキシ、イソブトキシ、sec−ブトキシ、t−ブトキシといった分岐鎖のもの;シクロプロポキシ、シクロブトキシといった環状のもの;が挙げられる。
【0087】
107におけるモノC1−C4アルキルアミノ基としては、直鎖、分岐鎖、又は環状のものが挙げられ、直鎖又は分岐鎖のものが好ましく、直鎖のものがより好ましい。具体例としては、メチルアミノ、エチルアミノ、n−プロピルアミノ、n−ブチルアミノといった直鎖のもの;イソプロピルアミノ、イソブチルアミノ、sec−ブチルアミノ、t−ブチルアミノといった分岐鎖のもの;シクロプロピルアミノ、シクロブチルアミノといった環状のもの;が挙げられる。
【0088】
107におけるジC1−C4アルキルアミノ基としては、直鎖、分岐鎖、又は環状のものが挙げられ、直鎖又は分岐鎖のものが好ましく、直鎖のものがより好ましい。具体例としては、ジメチルアミノ、ジエチルアミノ、ジ−n−プロピルアミノ、ジ−n−ブチルアミノといった直鎖のもの;ジイソプロピルアミノ、ジイソブチルアミノ、ジ−sec−ブチルアミノ等の分岐鎖のもの;ジシクロプロピルアミノ、ジシクロブチルアミノ等の環状のもの;等が挙げられる。
【0089】
107における、置換基として、ヒドロキシ基、カルボキシ基、スルホ基、及びジC1−C4アルキルアミノ基よりなる群から選択される基で置換されたモノC1−C4アルキルアミノ基としては、2−ヒドロキシエチルアミノ、3−ヒドロキシプロピルアミノ、4−ヒドロキシブチルアミノ等のヒドロキシ基で置換されたもの;2−カルボキシエチルアミノ、3−カルボキシプロピルアミノ、4−カルボキシブチルアミノ等のカルボキシ基で置換されたもの;2−スルホエチルアミノ、3−スルホプロピルアミノ、4−スルホブチルアミノ等のスルホ基で置換されたもの;2−ジメチルアミノエチルアミノ、3−ジメチルアミノプロピルアミノ、4−ジメチルアミノブチルアミノ等のジC1−C4アルキルアミノ基で置換されたもの;等が挙げられる。
【0090】
107における、置換基として、ヒドロキシ基、カルボキシ基、及びスルホ基よりなる群から選択される基で置換されたジC1−C4アルキルアミノ基としては、2,2’−ジヒドロキシジエチルアミノ、3,3’−ジヒドロキシジプロピルアミノ、4,4’−ジヒドロキシジブチルアミノ等のヒドロキシ基で置換されたもの;2,2’−ジカルボキシジエチルアミノ、3,3’−ジカルボキシジプロピルアミノ、4,4’−ジカルボキシジブチルアミノ等のカルボキシ基で置換されたもの;2,2’−ジスルホジエチルアミノ、3,3’−ジスルホジプロピルアミノ、4,4’−ジスルホジブチルアミノ等のスルホ基で置換されたもの;等が挙げられる。
【0091】
107における、置換基として、カルボキシ基、スルホ基、C1−C8アルキル基よりなる群から選択される基で置換されたアニリノ基としては、2−カルボキシアニリノ、3−カルボキシアニリノ、4−カルボキシアニリノ、2,4−ジカルボキシアニリノ、2,5−ジカルボキシアニリノ、3,4−ジカルボキシアニリノ、3,5−ジカルボキシアニリノ等の、1つ又は2つのカルボキシ基で置換されたもの;2−スルホアニリノ、3−スルホアニリノ、4−スルホアニリノ、2,4−ジスルホアニリノ、2,5−ジスルホアニリノ、3,4−ジスルホアニリノ、3,5−ジスルホアニリノ等の、1つ又は2つのスルホ基で置換されたもの;2−メチルアニリノ、3−メチルアニリノ、4−メチルアニリノ、2,4−ジメチルアニリノ、2,5−ジメチルアニリノ、3,4−ジメチルアニリノ、3,5−ジメチルアニリノ等の、1つ又は2つのC1−C8アルキル基で置換されたもの;等が挙げられる。
【0092】
107における、置換基として、ヒドロキシ基、カルボキシ基、スルホ基、C1−C8アルキル基よりなる群から選択される基で置換されたフェノキシ基としては、2−ヒドロキシフェノキシ、3−ヒドロキシフェノキシ、4−ヒドロキシフェノキシ等のヒドロキシ基で置換されたもの;2−カルボキシフェノキシ、3−カルボキシフェノキシ、4−カルボキシフェノキシ、2,4−ジカルボキシフェノキシ、2,5−ジカルボキシフェノキシ、3,4−ジカルボキシフェノキシ、3,5−ジカルボキシフェノキシ等の、1つ又は2つのカルボキシ基で置換されたもの;2−スルホフェノキシ、3−スルホフェノキシ、4−スルホフェノキシ、2,4−ジスルホフェノキシ、2,5−ジスルホフェノキシ、3,4−ジスルホフェノキシ、3,5−ジスルホフェノキシ等の、1つ又は2つのスルホ基で置換されたもの;2−メチルフェノキシ、3−メチルフェノキシ、4−メチルフェノキシ、2,4−ジメチルフェノキシ、2,5−ジメチルフェノキシ、3,4−ジメチルフェノキシ、3,5−ジメチルフェノキシ等の、1つ又は2つのC1−C8アルキル基で置換されたもの;3−ヒドロキシ−4−カルボキシフェノキシ、3−カルボキシ−4−ヒドロキシフェノキシ等の、1つずつのヒドロキシ基及びカルボキシ基で置換されたもの;等が挙げられる。
【0093】
前記のうち、Y107としては、ヒドロキシ基;アミノ基;置換基として、カルボキシ基、スルホ基、C1−C8アルキル基よりなる群から選択される基で置換されたアニリノ基;置換基として、ヒドロキシ基、カルボキシ基、スルホ基、C1−C8アルキル基よりなる群から選択される基で置換されたフェノキシ基;が好ましい。
また、アミノ基;置換基として、カルボキシ基、スルホ基よりなる群から選択される基で置換されたアニリノ基;置換基として、ヒドロキシ基、カルボキシ基、スルホ基よりなる群から選択される基で置換されたフェノキシ基;がより好ましい。
さらに好ましくは、アミノ基;置換基として、ヒドロキシ基、カルボキシ基、スルホ基よりなる群から選択される基で置換されたフェノキシ基;が挙げられる。
【0094】
104とY107の組み合わせとしては、X104が式(2)のとき、Y107が2つのカルボキシ基で置換されたフェノキシ基、1つのスルホ基で置換されたフェノキシ基、又は1つずつのヒドロキシ基及びカルボキシ基で置換されたフェノキシ基;X104が式(3)のとき、Y107がアミノ基;の組み合わせが好ましく挙げられる。
【0095】
前記式(106)及び式(107)における、R1060乃至R1064、X104、及びY107において、好ましいもの同士を組み合わせた化合物はより好ましく、より好ましいもの同士を組み合わせた化合物はさらに好ましい。さらに好ましいもの同士、好ましいものとより好ましいものとを組み合わせた化合物等についても同様である。
【0096】
前記式(106)で表されるアントラピリドン化合物の好ましいものとして、前記式(102)〜式(104)で表される化合物が挙げられる。
【0097】
前記式(102)〜式(104)中、R1021、R1031、及びR1041におけるスルホ基で置換されたベンゾイル基としては、2−スルホベンゾイル、3−スルホベンゾイル、4−スルホベンゾイルが挙げられ、3−スルホベンゾイルが好ましい。
【0098】
前記のうち、R1021、R1031、及びR1041としては、水素原子、又はスルホ基で置換されたベンゾイル基が好ましい。
1021及びR1041としてはスルホ基で置換されたベンゾイル基が、また、R1031としては水素原子、又はスルホ基で置換されたベンゾイル基が、それぞれより好ましい。
【0099】
前記式(102)〜式(104)中、R1022、R1032、及びR1042におけるC1−C4アルキル基としては、直鎖、分岐鎖、又は環状のものが挙げられ、直鎖のものが好ましい。具体例としては、メチル、エチル、n−プロピル、n−ブチルといった直鎖のもの;イソプロピル、イソブチル、sec−ブチル、t−ブチルといった分岐鎖のもの;シクロプロピル、シクロブチルといった環状のもの;が挙げられる。
【0100】
1022、R1032、及びR1042における、置換基として、シアノ基、ヒドロキシ基、モノC1−C4アルキルアミノ基、ジC1−C4アルキルアミノ基よりなる群から選択される基で置換されたC1−C4アルキル基としては、前記「R1022、R1032、及びR1042におけるC1−C4アルキル基」中の任意の炭素原子が、これらの群から選択される基で置換されたものが挙げられる。置換基の数は1つが好ましく、アルキル基上におけるこれらの基の置換位置は特に制限されないが、同一の炭素原子に2つの窒素原子、又は酸素原子と窒素原子が置換しないものが好ましい。この際のC1−C4アルキル基としては直鎖のものが好ましく、炭素数の範囲としてはC2−C4が好ましい。
具体例としては、シアノメチル、シアノエチル、シアノプロピル、シアノブチル等、好ましくは2−シアノエチル、3−シアノプロピル、4−シアノブチル等のシアノ基で置換されたもの;ヒドロキシメチル、ヒドロキシエチル、ヒドロキシプロピル、ヒドロキシブチル等、好ましくは2−ヒドロキシエチル、3−ヒドロキシプロピル、4−ヒドロキシブチル等のヒドロキシ基で置換されたもの;メチルアミノメチル、エチルアミノメチル、プロピルアミノメチル、ブチルアミノメチル等、好ましくは2−エチルアミノメチル、3−プロピルアミノメチル、4−ブチルアミノメチル等のモノC1−C4アルキルアミノ基で置換されたもの;ジメチルアミノメチル、ジメチルアミノエチル、ジメチルアミノプロピル、ジメチルアミノブチル等、好ましくは2−ジメチルアミノエチル、3−ジメチルアミノプロピル、4−ジメチルアミノブチル等のジC1−C4アルキルアミノ基で置換されたもの;等が挙げられる。
【0101】
前記のうち、R1022、R1032、及びR1042としては、C1−C4アルキル基が好ましく、中でもメチルが特に好ましい。
【0102】
1023乃至R1025におけるC1−C12アルキルスルホニル基としては、前記R1060乃至R1064における置換基」中、「C1−C12アルキルスルホニル基」に記載のものと同じものが挙げられる。
好ましい炭素数の範囲はC1−C8、より好ましくはC1−C8、さらに好ましくはC1−C6、特に好ましくはC6である。直鎖のものと分岐鎖のものとでは、直鎖のものが好ましい。
これらの中では、n−ヘキシルスルホニルが特に好ましい。
【0103】
1023乃至R1025中、「カルボキシ基で置換されたC1−C10アルキルアミノ基により置換されたC1−C4アルキルカルボニルアミノ基」における、C1−C4アルキル部分の炭素数の範囲としては通常C1−C4、好ましくはC1−C3、より好ましくはC1−C2、特に好ましくはC1である。
その具体例としては、としては、カルボキシメチルアミノメチルカルボニルアミノ、2−カルボキシエチルアミノメチルカルボニルアミノ、3−カルボキシプロピルアミノメチルカルボニルアミノ、4−カルボキシブチルアミノメチルカルボニルアミノ、5−カルボキシペンチルアミノメチルカルボニルアミノ、6−カルボキシヘキシルアミノメチルカルボニルアミノ、7−カルボキシペンチルアミノメチルカルボニルアミノ、8−カルボキシクチルアミノメチルカルボニルアミノ、9−カルボキシノニルアミノメチルカルボニルアミノ、10−カルボキシデシルアミノメチルカルボニルアミノ等の、カルボキシ基で置換されたC1−C10アルキルアミノ基(好ましくはアルキル部分が直鎖のもの;より好ましくはアルキル部分が直鎖であり、且つ1つのカルボキシ基で置換されたC1−C10アルキルアミノ基)により置換されたC1−C4アルキルカルボニルアミノ基が挙げられる。
これらの中では、6−カルボキシヘキシルアミノメチルカルボニルアミノが特に好ましい。
【0104】
1023乃至R1025の置換位置は特に限定されないが、式(102)における、これらが置換するベンゼン環に結合する窒素原子の置換位置を1位として、R1023が5位、R1024が2位、R1025が4位に、それぞれ置換するのが好ましい。
【0105】
1023乃至R1025としては、いずれか1つが水素原子で、2つがスルホ基;1つが水素原子、1つがスルホ基、1つがC1−C12アルキルスルホニル基;又は、いずれか2つがスルホ基、1つがカルボキシ基で置換されたC1−C10アルキルアミノ基により置換されたC1−C4アルキルカルボニルアミノ基;である組み合わせが好ましい。
より好ましくは、R1023が水素原子、R1024及びR1025がスルホ基;R1023が水素原子、R1024がスルホ基、R1025がC1−C12アルキルスルホニル基;R1023がカルボキシ基で置換されたC1−C10アルキルアミノ基により置換されたC1−C4アルキルカルボニルアミノ基、R1024及びR1025がスルホ基;である組み合わせが挙げられる。
【0106】
前記式(102)におけるR1021乃至R1025において、好ましいもの同士を組み合わせた化合物はより好ましく、より好ましいもの同士を組み合わせた化合物はさらに好ましい。さらに好ましいもの同士、好ましいものとより好ましいものとを組み合わせた化合物等についても同様である。
【0107】
前記式(102)で表される化合物の具体例を、下記表2乃至5に示すが、本発明はこれらの具体例に限定されるものではない。
表2乃至5中、R1023乃至R1025の置換位置は、前記のように定義した、R1023が5位、R1024が2位、R1025が4位である。また、表2乃至5中の記号(略号)は、以下の意味である。
3−S−Bz:3−スルホベンゾイル。
3−S−4−OMe−Bz:3−スルホ−4−メトキシベンゾイル。
Me:メチル。
H:水素原子。
n−:ノルマル(直鎖を意味する)。
K:カルボキシ。
S:スルホ。
例として、「5−K−n−ペンチル−メチルカルボニルアミノ」は「5−カルボキシ−ノルマルペンチルアミノ」を、また、「2,4−ジ−S−フェニルスルホニル」は「2,4−ジ−スルホ−フェニルスルホニル」を、それぞれ意味する。
【0108】
【表2】

【0109】
【表3】

【0110】
【表4】

【0111】
【表5】

【0112】
前記式(103)中、R1035としては、R1031が水素原子のときは水素原子が好ましく、R1031がスルホ基で置換されたベンゾイル基のときはスルホ基が好ましい。
1035の置換位置は特に限定されないが、アントラピリドン骨格に結合する窒素原子の置換位置を1位、スルホ基の置換位置を2位、トリアジン環に結合する窒素原子の置換位置を5位として、4位に置換するのが特に好ましい。
【0113】
前記式(103)中、Y103における、カルボキシ基で置換されたアニリノ基としては、前記「Y107における、置換基として、カルボキシ基、スルホ基、C1−C8アルキル基よりなる群から選択される基で置換されたアニリノ基」に挙げたもののうち、「カルボキシ基で置換されたもの」として挙げたものと同じものが挙げられる。これらのうち、1つ又は2つのカルボキシ基で置換されたものが好ましく、1つのカルボキシ基で置換されたものがより好ましく、中でも2−カルボキシアニリノが特に好ましい。
【0114】
103における、スルホ基で置換されたアニリノ基としては、前記「Y107における、置換基として、カルボキシ基、スルホ基、C1−C8アルキル基よりなる群から選択される基で置換されたアニリノ基」に挙げたもののうち、「スルホ基で置換されたもの」として挙げたものと同じものが挙げられる。これらのうち、1つ又は2つのスルホ基で置換されたものが好ましく、2つのスルホ基で置換されたモノがより好ましく、中でも2,5−ジスルホアニリノが特に好ましい。
【0115】
前記式(103)におけるR1031、R1032、R1035、X103及びY103において、好ましいもの同士を組み合わせた化合物はより好ましく、より好ましいもの同士を組み合わせた化合物はさらに好ましい。好ましいものとより好ましいものとを組み合わせた化合物等についても同様である。
【0116】
前記式(103)で表される化合物の具体例を、下記表6及び7に示すが、本発明はこれらの具体例に限定されるものではない。
表6及び7中、R1035の置換位置は、前記のように定義した「4位」である。
また、表6及び7中の記号(略号)は、以下の意味である。
3−S−Bz:3−スルホベンゾイル。
Me:メチル。
H:水素原子。
K:カルボキシ。
S:スルホ。
例として、「2,5−ジ−S−アニリノ」は「2,5−ジスルホアニリノ」を、また、「2−K−4−S−アニリノ」は「2−カルボキシ−4−スルホアニリノ」を、それぞれ意味する。
【0117】
【表6】

【0118】
【表7】

【0119】
前記式(104)におけるX104は、前記式(107)におけるX104と同じ意味を表す。すなわち、好ましいもの等を含めて同じである。
また、Y104は、前記式(107)におけるY107のうち、相当するものと好ましいもの等を含めて同じ意味を表す。また、X104とY107の組合せについても同様である。
【0120】
前記式(104)で表される化合物の具体例を、下記表8乃至11に示すが、本発明はこれらの具体例に限定されるものではない。
また、表8乃至11中の記号(略号)は、以下の意味である。
3−S−Bz:3−スルホベンゾイル。
Me:メチル。
H:水素原子。
K:カルボキシ。
S:スルホ。
例として、「ジ(K−メチル)アミノ」は「ジ(カルボキシメチル)アミノ」、すなわち「(HOOCCH22NH」を、また、「3,6,8−トリ−S−ナフチル−2−イルアミノ」は「3,6,8−トリスルホナフチル−2−イルアミノ」を、それぞれ意味する。
【0121】
【表8】

【0122】
【表9】

【0123】
【表10】

【0124】
【表11】

【0125】
前記式(102)で表される化合物は、例えば、特開平10−306221号公報、国際公開2009/060654号パンフレット、国際公開2009/093433号パンフレット、国際公開2008/018495号パンフレット等に記載の公知の方法、又はその方法に準じて容易に合成することができる。
【0126】
前記式(103)で表される化合物は、例えば、特開2000−109464号公報、国際公開2004/104108号パンフレット等に記載の公知の方法、又はその方法に準じて容易に合成することができる。
【0127】
前記式(104)で表される化合物は、例えば、特開2003−192930号公報、国際公開2008/066062号パンフレット、国際公開2006/075706号パンフレット等に記載の公知の方法、又はその方法に準じて容易に合成することができる。
なお、式(104)で表される化合物のうち、化合物No.104−83乃至104−98については、以下のように合成することができる。すなわち、国際公開2008/066062号パンフレットに記載の方法に準じて、下記式(108)の化合物を得る。得られた式(108)の化合物1モルに対して、Y104に対応する1つずつのヒドロキシ基及びカルボキシ基で置換されたフェノール誘導体2〜2.1モルを、pH7.5〜9、0〜35℃、15分〜3時間反応させた後、得られた反応液に前記式(2)乃至(8)で表される基に対応するジアミノ化合物0.9〜1モルを加え、pH6〜10、60〜90℃、10分〜5時間反応させることにより、式(104)で表される化合物を得ることができる。
【0128】
【化108】

【0129】
前記式(1)、式(4)、式(106)、式(102)乃至式(104)で表される各化合物は、その分子内に酸性官能基(例えばスルホ基、カルボキシ基等)が存在するとき、これを利用して塩を形成することができる。これらの化合物の塩としては、無機又は有機陽イオンと形成する塩が挙げられる。無機陽イオンと形成する塩としては、アルカリ金属塩等、例えばリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩;又はアンモニウム塩;との塩等が好ましく挙げられる。有機陽イオンと形成する塩としては、下記式(41)で表される4級アンモニウム塩と形成する塩等が好ましく挙げられる。
【0130】
【化41】

【0131】
式(41)中、Z1乃至Z4はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、ヒドロキシアルキル基又はヒドロキシアルコキシアルキル基を表わし、Z1乃至Z4の少なくともいずれか1つは水素原子以外の基である。
【0132】
式(41)中、Z1乃至Z4における具体例としては、メチル、エチル、ブチル等のC1−C6アルキル基(好ましくはC1−C4アルキル基);ヒドロキシメチル、2−ヒドロキシエチル、3−ヒドロキシプロピル、2−ヒドロキシプロピル、4−ヒドロキシブチル、3−ヒドロキシブチル、2−ヒドロキシブチル等のヒドロキシC1−C6アルキル基(好ましくはヒドロキシC1−C4アルキル基);ヒドロキシエトキシメチル、2−ヒドロキシエトキシエチル、3−ヒドロキシエトキシプロピル、3−ヒドロキシエトキシブチル、2−ヒドロキシエトキシブチル等のヒドロキシC1−C6アルコキシC1−C6アルキル基(好ましくはヒドロキシC1−C4アルコキシC1−C4アルキル基);等が挙げられる。
【0133】
これらのうち、より好ましいものとしては、ナトリウム、カリウム、リチウム、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、アンモニウム等と形成する各塩が挙げられる。これらのうち、特に好ましいものは、リチウム、アンモニウムおよびナトリウムと形成する各塩である。
【0134】
前記の塩の製造方法を記載する。
例えば、前記の各化合物を含む反応液、ウェットケーキ、又は乾燥品を水に溶解し、これに塩化ナトリウムを加えて塩析し、析出固体を濾過することにより、各化合物のナトリウム塩をウェットケーキとして得ることができる。又、得られたウェットケーキを再び水に溶解後、塩酸等の鉱酸を加えてpHを強酸性(通常pH1以下)に調整して得られる固体を濾過することにより、各化合物を遊離酸の形で得ることができる。あるいはpHを適宜調整することによりナトリウム塩と遊離酸の混合物を望みの比率で得ること等も可能である。更に、その遊離酸のウェットケーキを水と共に撹拌しながら、例えば、水酸化カリウム、水酸化リチウム、アンモニア水、前記式(41)に相当する4級アンモニウム塩等を添加して造塩することにより、各々相当するカリウム塩、リチウム塩、アンモニウム塩、4級アンモニウム塩等が得られる。この際に遊離酸と、例えばナトリウム塩との混合物のウェットケーキを使用し、水酸化カリウムを添加することにより、ナトリウムとカリウムの混塩、又はナトリウム、カリウム及び遊離酸の混合物等を得ることも同様に可能である。これらの塩のうち、特に好ましいものは、前記の通り、リチウム、アンモニウム及びナトリウムの塩である。
【0135】
本発明のインク組成物は、少なくとも1種類の前記式(1)で表される化合物と、少なくとも1種類の前記式(106)(好ましくは前記式(102)乃至(104)で表される化合物)とを、水、又は水と水溶性有機溶剤との混和液に溶解した水性インク組成物である。
本発明のインク組成物を製造するとき、例えば、該インク組成物に含有するそれぞれの化合物の合成工程における、最終の反応工程終了後の反応液等を、本発明のインク組成物の製造に直接使用することができる。一方、前記反応液から目的化合物をウェットケーキ等として単離したもの、又はそのウェットケーキ等を乾燥させたものを使用し、該インク組成物を調製することもできる。本発明のインク組成物の調製に使用する化合物としては、単離したウェットケーキ又はそれを乾燥させたものが好ましく、後者がより好ましい。
本発明の水性インク組成物は、少なくとも1種類の式(1)、及び少なくとも1種類の式(106)で表される化合物の両者を色素として含有する。その含有量は、該水性インク組成物の総質量に対して、式(1)で表される化合物、及び式(106)で表される化合物の両者の総含有量として、通常0.1〜20質量%、好ましくは1〜15質量%、より好ましくは2〜10質量%である。
また、色素として含有する式(1)、及び式(106)で表される化合物の含有比率は、いずれも質量基準で通常1/20から10/1、好ましくは1/15から5/1、より好ましくは1/10から2/1、特に好ましくは1/4〜1/1である。
【0136】
本発明のインク組成物は必要に応じて、水溶性有機溶剤及びインク調製剤を、本発明の効果を害しない範囲内において含有しても良い。一般に水溶性有機溶剤は、色素の溶解;組成物の乾燥防止(湿潤);組成物の粘度の調整;被記録材への色素の浸透促進;組成物の表面張力の調整;組成物の消泡;等の効果を有する場合があるため、好ましく使用される。この理由から、本発明のインク組成物は、水溶性有機溶剤を含有するのが好ましく、その含有量の目安としては通常0〜30質量%、好ましくは5〜30質量%である。
また本発明のインク組成物は、インク調製剤を0〜15質量%含有してもよい。
【0137】
前記の水溶性有機溶剤としては、例えばメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、第二ブタノール、第三ブタノール等のC1−C4アルカノール;N,N−ジメチルホルムアミド又はN,N−ジメチルアセトアミド等のカルボン酸アミド;2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチルイミダゾリジン−2−オン又は1,3−ジメチルヘキサヒドロピリミド−2−オン等の複素環式尿素類;アセトン、メチルエチルケトン、2−メチル−2−ヒドロキシペンタン−4−オン等のケトン又はケトアルコール;テトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテル;エチレングリコール、1,2−又は1,3−プロピレングリコール、1,2−又は1,4−ブチレングリコール、1,6−ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、チオジグリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のC2−C6アルキレン単位を有するモノ、オリゴ又はポリアルキレングリコール若しくはチオグリコール;グリセリン、ヘキサン−1,2,6−トリオール等のポリオール(好ましくはトリオール);エチレングリコールモノメチルエーテル又はエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルカルビトール)、トリエチレングリコールモノメチルエーテル又はトリエチレングリコールモノエチルエーテル等の多価アルコールのC1−C4アルキルエーテル;γーブチロラクトン;又はジメチルスルホキシド;等が挙げられる。
これらの水溶性有機溶剤は、単独もしくは混合して用いられる。
【0138】
前記のうち好ましい水溶性有機溶剤としては、イソプロパノール;グリセリン;モノ、ジ又はトリエチレングリコール;ジプロピレングリコール;2−ピロリドン;N−メチル−2−ピロリドン;ジエチレングリコールモノブチルエーテル;が挙げられる。より好ましくは、イソプロパノール、グリセリン、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドンが挙げられる。
【0139】
以下、本発明のインク組成物に含有しても良いインク調製剤について説明する。インク調製剤の具体例としては、例えば防腐防黴剤、pH調整剤、キレート試薬、防錆剤、水溶性紫外線吸収剤、水溶性高分子化合物、染料溶解剤、及び界面活性剤等が挙げられる。
【0140】
前記の防腐防黴剤としては、例えば、有機硫黄系、有機窒素硫黄系、有機ハロゲン系、ハロアリールスルホン系、ヨードプロパギル系、N−ハロアルキルチオ系、ニトリル系、ピリジン系、8−オキシキノリン系、ベンゾチアゾール系、イソチアゾリン系、ジチオール系、ピリジンオキシド系、ニトロプロパン系、有機スズ系、フェノール系、第4アンモニウム塩系、トリアジン系、チアジアジン系、アニリド系、アダマンタン系、ジチオカーバメイト系、ブロム化インダノン系、ベンジルブロムアセテート系、無機塩系等の化合物が挙げられる。
有機ハロゲン系化合物としては、例えばペンタクロロフェノールナトリウムが挙げられる。
ピリジンオキシド系化合物としては、例えば2−ピリジンチオール−1−オキシドナトリウムが挙げられる。
イソチアゾリン系化合物としては、例えば1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オン、2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンマグネシウムクロライド、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンカルシウムクロライド、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンカルシウムクロライド等が挙げられる。
その他の防腐防黴剤として無水酢酸ナトリウム、ソルビン酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、さらにはアベシア社製の市販品として、商品名:プロクセルRTMGXL(S)、プロクセルRTMXL−2(S)等が挙げられる。
なお本明細書において、上付きの「RTM」は登録商標を意味する。
【0141】
前記のpH調整剤としては、調製されるインク組成物に悪影響を及ぼさずに、そのpHを7.5〜11.0の範囲に制御できるものであれば任意の物質を使用することができる。例えば、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミン;水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物;水酸化アンモニウム(アンモニア水);又は炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属の炭酸塩;等が挙げられる。
【0142】
前記のキレート試薬としては、例えばエチレンジアミン四酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸ナトリウム、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸ナトリウム、ウラシル二酢酸ナトリウム等が挙げられる。
【0143】
前記の防錆剤としては、例えば、酸性亜硫酸塩、チオ硫酸ナトリウム、チオグリコール酸アンモニウム、ジイソプロピルアンモニウムナイトライト、四硝酸ペンタエリスリトール、ジシクロヘキシルアンモニウムナイトライト等が挙げられる。
【0144】
前記の水溶性紫外線吸収剤としては、例えばスルホ化されたベンゾフェノン、スルホ化されたベンゾトリアゾール等が挙げられる。
【0145】
前記の水溶性高分子化合物としては、例えばポリビニルアルコール、セルロース誘導体、ポリアミン、ポリイミン等が挙げられる。
【0146】
前記の染料溶解剤としては、例えば尿素、ε−カプロラクタム、エチレンカーボネート等が挙げられる。尿素が好ましい。
【0147】
前記の界面活性剤としては、例えばアニオン界面活性剤、両性界面活性剤、カチオン界面活性剤、及びノニオン界面活性剤等が挙げられる。
【0148】
アニオン界面活性剤としてはアルキルスルホカルボン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩、N−アシルアミノ酸及び/又はその塩、N−アシルメチルタウリン塩、アルキル硫酸塩ポリオキシアルキルエーテル硫酸塩、アルキル硫酸塩ポリオキシエチレンアルキルエーテル燐酸塩、ロジン酸石鹸、ヒマシ油硫酸エステル塩、ラウリルアルコール硫酸エステル塩、アルキルフェノール型燐酸エステル、アルキル型燐酸エステル、アルキルアリールスルホン酸塩、ジエチルスルホ琥珀酸塩、ジエチルヘキルシルスルホ琥珀酸塩、ジオクチルスルホ琥珀酸塩等が挙げられる。
【0149】
カチオン界面活性剤としては2−ビニルピリジン誘導体、ポリ4−ビニルピリジン誘導体等が挙げられる。
【0150】
両性界面活性剤としてはラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ポリオクチルポリアミノエチルグリシン、その他のものとしてイミダゾリン誘導体等が挙げられる。
ノニオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等のエーテル系;ポリオキシエチレンオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンジステアリン酸エステル、ソルビタンラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンセスキオレエート、ポリオキシエチレンモノオレエート、ポリオキシエチレンステアレート等のエステル系;2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール等のアセチレンアルコール系;等が挙げられる。また日信化学社製の市販品として、商品名:サーフィノールRTM104E、同104PG50、同82、同465;オルフィンRTMSTG;等が挙げられる。
前記のインク調製剤はいずれも、単独で用いても混合して用いても良い。
【0151】
本発明の水性インク組成物の製造方法について記載する。
本発明の水性インク組成物は、少なくとも1種類の前記式(1)で表されるアントラピリドン化合物、及び少なくとも1種類のアントラピリドン化合物を、必要に応じて水溶性有機溶剤及びインク調製剤と共に、水に溶解させることによって製造できる。
本発明の水性インク組成物が含有する各成分を溶解させる順序は、特に制限されない。例えば、式(1)及び/又はアントラピリドン化合物を水、又は水と水溶性有機溶剤との混和液に溶解させた後、この溶液にインク調製剤等の他の成分を添加しても良い。また、式(1)及び/又はアントラピリドン化合物を水に溶解させた後、この溶液に水溶性有機溶剤、及びインク調製剤等を添加しても良い。また、これらの2例とは添加する成分の順序が異なっても良い。さらに前記の通り、式(1)及びアントラピリドン化合物の合成工程における、それぞれの最終の反応工程終了後の反応液;又は、前記無機不純物の除去のため、逆浸透膜により脱塩処理を行った該化合物を含有する精製された水溶液;等の液体に、水、必要に応じて水溶性有機溶剤及びインク調製剤を添加して、本発明のインク組成物を製造しても良い。
本発明のインク組成物の調製に使用する水は、イオン交換水又は蒸留水等の、不純物の少ないものが好ましい。また必要に応じ、調製したインク組成物中の夾雑物を、メンブランフィルター等を用いる精密濾過により除いても良い。特に、本発明のインク組成物をインクジェット記録用のインクとして使用するときは、精密濾過を行うことが好ましい。精密濾過を行うフィルターの孔径は通常1μm〜0.1μm、好ましくは0.8μm〜0.1μmである。
【0152】
本発明のインクジェット記録方法は、本発明のインク組成物を含有する容器をインクジェットプリンタの所定の位置に装填し、該インク組成物の液滴を記録信号に応じて吐出させて、被記録材に付着させることにより記録を行う方法である。
本発明のインクジェット記録方法で記録を行うことにより、マゼンタの単色からなる記録物を得ることができる。しかし、本発明のインク組成物に加えて、イエロー、シアン、グリーン、オレンジ、ブルー(又はバイオレット)及び必要に応じてブラック等の各色のインクを併用し、フルカラーの記録物を得ることもできる。この際には、本発明のインク組成物を含有する容器と同様に、前記各色のインクをそれぞれ別個に含有する容器をインクジェットプリンタの所定の位置に装填した後、インクジェット記録を行えば良い。
インクジェットプリンタとしては、例えば機械的振動を利用したピエゾ方式;加熱により生じる泡を利用したバブルジェット(登録商標)方式;等のプリンタが挙げられる。本発明のインク組成物は、いずれの方式のプリンタでも使用できる。
【0153】
本発明のインクジェット記録方法に用いる被記録材としては、例えば、紙、フィルム等の情報伝達用シート、繊維や布(セルロース、ナイロン、羊毛等)、皮革、及びカラーフィルター用基材等が挙げられ、情報伝達用シートが好ましい。
情報伝達用シートとしては、表面処理されたもの、具体的には該シートを基材としてインク受容層を設けたものが好ましい。インク受容層は、例えば前記シートにカチオンポリマーを含浸あるいは塗工すること;又は、インク中の色素を吸着し得る多孔性白色無機物を親水性ポリマー(例えば、ポリビニルアルコールやポリビニールピロリドン等)と共に前記シート表面に塗工すること;等により設けられる。
前記の多孔性白色無機物としては、例えば、多孔質シリカ、アルミナゾルや特殊セラミックス等が挙げられる。その材質としては、例えば、炭酸カルシウム、カオリン、タルク、クレー、珪藻土、合成非晶質シリカ、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウム、珪酸カルシウム、水酸化アルミニウム、アルミナ、リトポン、ゼオライト、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、二酸化チタン、硫化亜鉛、炭酸亜鉛等が挙げられる。
このようなインク受容層を設けたものは、通常インクジェット専用紙(フィルム)や光沢紙(フィルム)等と呼ばれる。市販品として入手できるものとしては、例えば、旭硝子(株)社製、商品名ピクトリコRTM;キャノン(株)社製、商品名プロフェッショナルフォトペーパー、スーパーフォトペーパー、マットフォトペーパー、写真用紙光沢プロ プラチナグレード、写真用紙光沢ゴールド;エプソン(株)社製、商品名クリスピアRTM(高光沢)、写真用紙(光沢)、フォトマット紙、スーパーファイン専用光沢フィルム;日本ヒューレットパッカード(株)社製、商品名アドバンスフォトペーパー、プレミアムプラスフォト用紙、プレミアム光沢フィルム、フォト用紙;コニカ(株)社製、商品名フォトライクQP;等が挙げられる。なお、プレインペーパーコピー(PPC)紙等のインク受容層を有しない普通紙等の被記録材も、当然本発明のインクジェット記録方法の被記録材として使用できる。
【0154】
前記被記録材のうち、多孔性白色無機物を表面に塗工した情報伝達用シートにインクジェット記録した画像のオゾンガスによる変退色は、特に大きいことが知られている。しかし、本発明の水性インク組成物はオゾンガスに対する耐性も優れているため、このような被記録材へ記録する際に大きな効果を発揮する。
【0155】
本発明の着色体は、本発明のインク組成物により着色された物質を意味する。着色される物質には特に制限はなく、例えば前記の被記録材等が挙げられるがこれらに限定されない。好ましくは前記の被記録材が挙げられる。
物質への着色方法は特に制限されないが、例えば浸染法、捺染法、スクリーン印刷等の印刷方法、及び前記本発明のインクジェット記録方法等が挙げられ、本発明のインクジェット記録方法が好ましい。
前記着色体の中でも、本発明のインクジェット記録方法により着色された着色体が好ましい。
【0156】
本発明のインク組成物は長期間保存後の固体析出、物性変化、色相変化等もなく、貯蔵安定性が極めて良好である。本発明のインク組成物をインクジェット記録用のインクとして使用した印刷物は被記録材(例えば紙、フィルム等)を選択することなくマゼンタ色の色相として理想的な色相であり、写真調のカラー画像を紙の上に忠実に再現させることも可能である。
更に本発明のインク組成物は、特に普通紙上での発色性が高く、鮮明性が極めて向上している。また、写真画質用インクジェット専用紙やフィルムのような多孔性白色無機物を表面に塗工した被記録材に記録しても各種堅牢性、すなわち耐水性、耐湿性、耐オゾンガス性等の耐ガス性、及び耐光性が良好であり、写真調の記録画像の長期保存安定性にも優れている。このため、記録メディアを選ばないことが特徴の一つであるインクジェット記録に好適である。また、本発明のインク組成物をインクジェット記録に使用した場合、ノズル付近におけるインク組成物の乾燥による固体の析出は非常に起こりにくく、噴射器(インクヘッド)を閉塞することもない。
このように、本発明のインク組成物はインク用、特にインクジェット記録用インクとして極めて有用である。
【実施例】
【0157】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明する。尚、本文中「部」及び「%」とあるのは、特別の記載のない限り質量基準である。実施例中の反応及び晶析等の操作については、特に断りのない限りいずれも攪拌下に行った。また、実施例に記載した化合物のうち、最大吸収波長(λmax)の測定は、いずれも水溶液中で行った。
【0158】
[実施例1]
(工程1)
水70部に特許文献3記載の方法を追試することによって得た下記式(11)の化合物のウェットケーキ97.5部(ジアゾ化値分析による純度45.9%)を加え、さらに25%水酸化ナトリウム水溶液を加えることによりpH7の水溶液を得た。得られた水溶液を80℃の熱風乾燥機で乾燥させ、式(11)の化合物を含有する固体を得た。
【0159】
【化11】

【0160】
(工程2)
N−メチルピロリドン320部に、実施例1(工程1)で得た式(11)の化合物の全量及びエチレンジアミン4酢酸2無水物7.8部を加え、75〜85℃に加熱して6時間反応させた。得られた反応液を濾過することにより不溶物を除去し、濾液に2−プロパノール400部を加えて析出した固体を濾過分取した。得られた固体を2−プロパノール120部で懸濁精製することにより、前記式(9)におけるR1がメチル、Zが式(100)であり、式(100)中のR2及びR3が水素原子で表される化合物のウェットケーキ220部を得た。
【0161】
(工程3)
水300部に実施例1(工程2)で得た式(9)の化合物のウェットケーキ220部及び酢酸銅(II)1水和物6.6部を加えて溶液とした後、15%炭酸ナトリウム水溶液を適宜加えて反応液のpHを6.5〜7.5に保持しながら、室温で10時間反応させた。得られた反応液に、メタノール300部及び2−プロパノール300部を加えて析出した固体を濾過分取し、ウェットケーキを得た。得られたウェットケーキをイオン交換水300部に加えて溶液とし、ここに陰イオン交換樹脂ダイアイオンRTMSA10AOH75部及び陽イオン交換樹脂ダイアイオンRTMSK1BH26部(共に三菱化学社製)を適宜添加して、液のpHを6〜8に保持しながら、液温20〜30℃で2時間撹拌することにより脱塩を行なった。得られた液を濾過することによりイオン交換樹脂を除去した後、濾液にエタノール400部及び2−プロパノール800部を加えて15時間撹拌した。この液から析出した固体を濾過分取し、乾燥することにより、前記式(1)におけるR1がメチル、Xが式(101)であり、式(101)中のR2及びR3が水素原子で表される本発明の化合物47.8部を得た。
λmax:513nm。
【0162】
[実施例2〜15]
(A)インクの調製
前記式(1)で表される化合物として、実施例1で得られた化合物(前記表1のNo.2の化合物)を、また、前記式(106)で表される化合物として特許文献1の実施例7に開示された、下記式(12)の化合物を用い、下記表12に示した各成分を混合して本発明のインク組成物を調製した。得られたインク組成物を0.45μmのメンブランフィルターで濾過することにより、評価試験用のインクジェットインクを得た。インクの調製に際し、水としてはイオン交換水を使用した。尚、インク組成物のpHが8〜10になるように25%水酸化ナトリウム水溶液で調整し、総量100部になるように水を加えた。このpHの調整に用いた25%水酸化ナトリウム水溶液と、液の総量の調整に使用した水の総量を、下記表12中では「aq.NaOH」として記載した。このインクの調製を実施例2とする。
実施例2と同様にして、下記表12に記載の各成分を混合し、評価試験用のインクジェットインクをそれぞれ調製した。これらをそれぞれ実施例3〜15とする。表中の各数値は「式番号」を除いて質量部である。
前記式(106)の化合物として用いた、下記表12中の「式番号(13)〜(18)」の化合物は、それぞれ特許文献5の実施例1、特許文献8の実施例4、特許文献9の実施例3、特許文献12の実施例1、特許文献13の実施例1、及び、特許文献14の実施例1に開示された化合物であり、その構造式を下記式(13)〜式(18)に示す。
また、下記表12中で使用した略号等は、以下の意味を表す。
NMP:N−メチル−2−ピロリドン。
IPA:イソプロパノール。
BuCt:ブチルカルビトール。
EDTA・2Na:エチレンジアミンテトラ酢酸2ナトリウム。
なお、下記表3中、「界面活性剤」は、日信化学社製の商品名サーフィノールRTM104PG50を使用した。
【0163】
【化12】

【0164】
【化13】

【0165】
【化14】

【0166】
【化15】

【0167】
【化16】

【0168】
【化17】

【0169】
【化18】

【0170】
【表12】

【0171】
[比較例1〜8]
実施例で併用した式(1)の化合物、及び式(106)の化合物のそれぞれを、下記表13に示すようにそれぞれ単独で含有する以外は実施例2〜15と同様にして、比較用のインクを調製した。これら比較用インクの調製を比較例1〜8とする。
なお、各比較用インクにおける色素の含有量は、実施例と同様に全て3.5部とし、他の成分の含有量は、全て各実施例と同じである。また、表13中の各数値についても、「式番号」を除いていずれも質量部数である。
【0172】
【表13】

【0173】
(B)インクジェット記録
インクジェットプリンタ(キヤノン社製、商品名:PixusRTMiP4500)を用いて、多孔性白色無機物を含有するインク受容層を有するインクジェット専用紙である下記の被記録材(光沢紙1)にインクジェット記録を行った。
光沢紙1:
セイコーエプソン社製、商品名:写真用紙クリスピアRTM(高光沢)。
【0174】
インクジェット記録の際、100、85、70、55、40、25%の階調が得られるように画像パターンを作り記録物を得た。得られた記録物を試験片とし、下記するキセノン耐光試験を行った。キセノン耐光性試験における反射濃度の測定は、試験片の70%階調部分について行った。また、反射濃度は測色システム(商品名SpectroEyeRTM、X−right社製)を用いて測色した。測色は、濃度基準にDIN、視野角2度、光源D65の条件で行なった。
記録画像の各種試験方法を以下に記載する。
【0175】
[(C)キセノン耐光性試験]
各試験片をホルダ−に設置して、キセノンウェザオメータXL75[スガ試験機(株)社製]を用い、温度24℃、湿度60%RH、100klux照度で168時間照射した。試験前後の各試験片の反射濃度を上記測色システムにより測色し、色素残存率を(試験後の反射濃度/試験前の反射濃度)×100(%)で計算して求めた。結果を下記表14に示す。
なお、下記表14中には便宜のため、各インクが含有する色素成分を併記した。例えば、実施例2の色素成分が「No.2+式(12)」とあるのは、前記表1のNo.2の化合物と、前記式(12)の化合物の両者を含有する意味である。また、実施例2と実施例3とは、配合比率は異なるものの含有する色素成分は同じ2種類であるため、両者共に色素成分としては同じ記載とした。また、表13中、色素成分における「No.2」は、いずれも前記表1のNo.2の化合物であることを意味する。
【0176】
【表14】

【0177】
表14中、実施例2及び実施例3は、比較例1と比較例2の色素成分、すなわちNo.2及び式(12)の化合物の両者を、比率を変えて配合し併用するものである。耐光性試験結果における色素残存率は、No.2を単独で含有する比較例1、式(12)を単独で含有する比較例2のそれぞれより、実施例2及び実施例3の方が大きい数値を示し、2種類の化合物を配合することによる相乗効果が確認できる。この効果は、前記式(106)で表される化合物の耐光性がより低いもの(例えば比較例4、比較例5、比較例8)において、より顕著に認められる。
従って、本発明のインク組成物は、従来の式(106)で表される化合物を単独で含有するインク組成物の耐光性を向上させるものとしての意味も含めて極めて有用である。
【産業上の利用可能性】
【0178】
本発明のインク組成物は、筆記用具等の各種記録用、特にインクジェット記録用のマゼンタインクとして好適に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種類の下記式(1)で表される化合物又はその塩、及び、少なくとも1種類の下記式(106)で表される化合物又はその塩を、色素として含有する水性インク組成物、
【化1】

[式(1)中、
1は水素原子、C1−C5アルキル基、ヒドロキシC1−C5アルキル基、シクロヘキシル基、又はシアノC1−C5アルキル基を表し
Xは下記式(101)で表される基である。]、
【化101】

[式(101)中、
**は2つのアミド基との結合部位を表し、
2及びR3はそれぞれ独立に水素原子又はC1−C5アルキル基を表し、R2とR3は結合して、これらがそれぞれ置換する2つの炭素原子と共に結合してC5−C10シクロアルキレン環を形成しても良い。]、
【化106】

[式(106)中、
1060乃至R1064は、水素原子又は置換基を表すが、全てが水素原子となることは無く、且つ、少なくともいずれか1つはスルホ基、カルボキシ基、ホスホ基、アリールオキシ基、及び4級アンモニウム基から選択される基であるか、又はこれらの基を有する置換基を表す。また、式(106)で表される化合物は、架橋基を介して2量体を形成してもよい。]。
【請求項2】
式(106)で表されるアントラピリドン化合物又はその塩が、下記式(102)乃至(104)で表される化合物又はその塩である、請求項1に記載のインク組成物。
【化102】

[式(102)中、
1021は、スルホ基で置換されたベンゾイル基又はエトキシカルボニル基を表し、
1022は、C1−C4アルキル基;又は、置換基として、シアノ基、ヒドロキシ基、モノC1−C4アルキルアミノ基、ジC1−C4アルキルアミノ基よりなる群から選択される基で置換されたアルキル基;を表し、
1023乃至R1025は、それぞれ独立に、水素原子;スルホ基;C1−C12アルキルスルホニル基;カルボキシ基で置換されたC1−C10アルキルアミノ基により置換されたC1−C4アルキルカルボニルアミノ基;を表し、且つR1023乃至R1025の1つ又は2つはスルホ基を表す。]、
【化103】

[式(103)中、
1031は、水素原子、又はスルホ基で置換されたベンゾイル基を表し、
1032は、C1−C4アルキル基;又は、置換基として、シアノ基、ヒドロキシ基、モノC1−C4アルキルアミノ基、ジC1−C4アルキルアミノ基よりなる群から選択される基で置換されたアルキル基;を表し、
1035は、水素原子又はスルホ基を表し、
103はヒドロキシ基を表し、
103は、カルボキシ基で置換されたアニリノ基、又はスルホ基で置換されたアニリノ基を表す。]、
【化104】

[式(104)中、
1041は、スルホ基で置換されたベンゾイル基を表し、
1042は、C1−C4アルキル基;置換基として、シアノ基、ヒドロキシ基、モノC1−C4アルキルアミノ基、ジC1−C4アルキルアミノ基よりなる群から選択される基で置換されたアルキル基;を表し、
104は、下記式(2)乃至(8)で表される基を表し、
104は、アミノ基;又は、置換基として、ヒドロキシ基、カルボキシ基、スルホ基よりなる群から選択される基で置換されたフェノキシ基;を表す。]、
【化2】

[式(2)中、nは2乃至8であり、*は異なる2つのトリアジン環との結合部位を表す。]、
【化3】

[式(3)中、R30は水素原子、又はメチル基を表し、*は異なる2つのトリアジン環との結合部位を表す。]、
【化4】

[式(4)中、*は異なる2つのトリアジン環との結合部位を表す。]、
【化5】

[式(5)中、*は異なる2つのトリアジン環との結合部位を表す。]、
【化6】

[式(6)中、*は異なる2つのトリアジン環との結合部位を表す。]、
【化7】

[式(7)中、mは2乃至4であり、*は異なる2つのトリアジン環との結合部位を表す。]、
【化8】

[式(8)中、*は異なる2つのトリアジン環との結合部位を表す。]。
【請求項3】
水溶性有機溶剤をさらに含有する請求項1又は2に記載の水性インク組成物。
【請求項4】
インクジェット記録に用いる請求項3に記載の水性インク組成物。
【請求項5】
水性インク組成物の総質量に対して、色素として含有する式(1)で表される化合物又はその塩、及び式(106)で表される化合物又はその塩の総含有量が、0.1〜20質量%である請求項1乃至4のいずれか一項に記載の水性インク組成物。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の水性インク組成物の液滴を記録信号に応じて吐出させ、被記録材に付着させることにより記録を行うインクジェット記録方法。
【請求項7】
被記録材が、情報伝達用シートである請求項6に記載のインクジェット記録方法。
【請求項8】
情報伝達用シートが、多孔性白色無機物を含有するインク受容層を有するシートである請求項7に記載のインクジェット記録方法。
【請求項9】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の水性インク組成物により着色された着色体。
【請求項10】
請求項6に記載のインクジェット記録方法により着色された着色体。
【請求項11】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載のインク組成物を含有する容器が装填されたインクジェットプリンタ。

【公開番号】特開2012−36258(P2012−36258A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−175590(P2010−175590)
【出願日】平成22年8月4日(2010.8.4)
【出願人】(000004086)日本化薬株式会社 (921)
【Fターム(参考)】