説明

水性インク組成物

【課題】発色性に優れ、かつ、印刷物の光沢を損なうことなく、ブロンズ現象を抑制できる水性インク組成物を提供する。
【解決手段】水不溶性ビニルポリマーによって被覆された有彩色顔料と、二酸化チタン顔料と、2−メチル−2−プロピル−1,3−プロパンジオールと、水とを少なくとも含む水性インク組成物とする。

【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
発明の分野
本発明は水性インク組成物に関し、詳しくは、発色性に優れ、かつ、印字物の光沢感を損なうことなく、有彩色インクに映る光源の色が光源の色と異なる現象(ブロンズ現象)を抑制することが可能な水性インク組成物に関する。
【0002】
背景技術
従来から、インク組成物としては、染料や顔料からなる着色剤を水中に分散させた水性インクが提供されている。このような水性インクにおいては、界面活性剤や高分子分散剤等の分散剤を用いて着色剤を水性分散媒中に分散させることが一般的に行われており、そのインク組成に関しては多数の提案がなされている。
【0003】
特開2004−75988号公報には、水不溶性のビニルポリマー微粒子の水分散体を用いることにより、高発色かつ光沢性に優れた印字が可能な顔料インクが提案されている(特許文献1)。また、特開2004−124081号公報には、着色剤として、C.I.ピグメントブルー15:4を含有する水不溶性ビニルポリマー微粒子の水分散体を用いることにより、高印字濃度の印字が可能で、かつ色調の角度依存性に優れる顔料インクが提案されている(特許文献2)。
【0004】
また、インク組成物中に二酸化チタン顔料と着色剤としての顔料が用いられている例として、特開平6−287492号公報には、表面を親水化処理した二酸化チタンとカーボンブラックとを含むインクが、インクジェットプリンタに適用したときに安定した吐出を行うことができ、普通紙に印刷しても良好な印字濃度が得られる旨が開示されている(特許文献3)。
【0005】
また、特開2002−249685号公報には、イエロー、マゼンタ、シアンまたはブラックのうち一色の顔料と、無機酸化物として酸化チタンを含む静止画ディスプレイ用インクが、ホワイトボードのような静止画ディスプレイ画に精細な画像を形成でき、且つ、消去も容易である旨が開示されている(特許文献4)。
【0006】
さらに、特開平8−319442号公報には、インクを被記録媒体上に付与した状態で、あるいは必要に応じ固着処理を行った状態で、さらには洗浄処理を行った状態で、必要とする記録色に影響を与えない微粒子(酸化チタン等)を用いたインクジェット用インク組成物が、被記録媒体上でのインクのにじみが小さく、かつ鮮明な画像を形成し得る旨が開示されている(特許文献5)。
【0007】
さらにまた、特開2005−179482号公報には、ブロンズ現象やフリップフロップ現象を抑制するために、二酸化チタンと有彩色顔料とを、その重量比が0.6以上となるように調製したインク組成物が開示されている(特許文献6)。
【0008】
その一方で、二酸化チタン顔料を含む従来のインク組成物は、ブロンズ現象の抑制に関しては未だ改善の余地がある。このブロンズ現象は特にシアンインク組成物に顕著であり、その改善が望まれている。
【0009】
しかしながら、上記特許文献1および2の水分散体を用いたインク組成物は、発色性には優れるものの、ブロンズ現象の抑制には不十分であった。また、上記特許文献3〜5にはいずれもブロンズ現象については開示も示唆もされていない。さらに、上記特許文献6に開示されているインク組成物については、ブロンズ現象を抑制するものの、インク組成物中の二酸化チタン濃度が増加するにつれて、印刷物の光沢感が劣化する場合があった。即ち、二酸化チタン濃度が増加すると、ブロンズ現象を抑制するために二酸化チタン濃度を増加させる必要が生じ、その結果、有彩色顔料の含有量が3重量%程度を超えると、これに伴い増加した二酸化チタンの影響により、印刷物の光沢感が顕著に劣化する場合があった。また、二酸化チタン濃度の増加に伴い、二酸化チタンがインクジェットプリンタのノズルの目詰まりを引き起こしたり、分散樹脂が凝集して光沢を著しく損ねる場合があった。
【特許文献1】特開2004−75988号公報
【特許文献2】特開2004−124081号公報
【特許文献3】特開平6−287492号公報
【特許文献4】特開2002−249685号公報
【特許文献5】特開平8−319442号公報
【特許文献6】特開2005−179482号公報
【発明の概要】
【0010】
本発明者らは、今般、水不溶性ビニルポリマーによって被覆された有彩色顔料と、二酸化チタン顔料と、特定のアルコールとを組み合わせてインク中に添加することにより、発色性に優れ、かつ、印刷物の光沢を損なうことなく、ブロンズ現象を抑制できる、との知見を得た。本発明はかかる知見によるものである。
【0011】
従って、本発明の目的は、発色性に優れ、かつ、印刷物の光沢を損なうことなく、ブロンズ現象を抑制できる水性インク組成物を提供することにある。
【0012】
そして、本発明による水性インク組成物は、水不溶性ビニルポリマーによって被覆された有彩色顔料と、二酸化チタン顔料と、2−メチル−2−プロピル−1,3−プロパンジオールと、水とを少なくとも含んでなるものである。
【0013】
本発明によれば、印刷物の光沢を損なうことなく、ブロンズ現象を抑制できる水性インク組成物を実現できる。
【発明の具体的説明】
【0014】
本発明による水性インク組成物は、水不溶性ビニルポリマーによって被覆された有彩色顔料と、二酸化チタン顔料と、2−メチル−2−プロピル−1,3−プロパンジオールと、水とを少なくとも含むものである。水性インク組成物を構成する各成分につき以下説明する。
【0015】
<水不溶性ビニルポリマー>
本発明による水性インク組成物に使用する水不溶性ビニルポリマーは、有彩色顔料を被覆するために用いられるものである。有彩色顔料を被覆することで、インク中での顔料の分散性を向上させることができるとともに、印刷物の光沢性を向上させることができる。
【0016】
このような水不溶性ビニルポリマーとしては、(1)マクロマー、(2)ポリオキシアルキレン基含有モノマー、(3)塩生成基含有モノマー、(4)前記マクロマー、前記ポリオキシアルキレン基含有モノマー、および前記塩生成基含有モノマーの各々と共重合可能なモノマー(以下、単に共重合可能なモノマーともいう)、を共重合させたものであることが好ましい。
【0017】
より好ましくは、(1)マクロマー0.1〜40重量%と、(2)ポリオキシアルキレン基含有モノマー5〜50重量%と、(3)塩生成基含有モノマー3〜40重量%と、(4)共重合可能なモノマー15〜90重量%を含有するモノマーとを重合させたポリマーが好適に用いられる。
【0018】
水不溶性ビニルポリマーの合成用原料の1つであるマクロマーの代表例としては、片方の末端(以下「片末端」という)に重合性官能基を有し、好ましくは数平均分子量が500〜500000、より好ましくは1000〜10000であるマクロマーが挙げられる。
【0019】
マクロマーの具体例としては、片末端に重合性官能基を有するスチレン系マクロマー、片末端に重合性官能基を有するシリコーン系マクロマー、片末端に重合性官能基を有するメチルメタクリレート系マクロマー、片末端に重合性官能基を有するスチレン・アクリロニトリル系マクロマー、片末端に重合性官能基を有するブチルアクリレート系マクロマー、片末端に重合性官能基を有するイソブチルメタクリレート系マクロマー等が挙げられる。これらの中では、ビニルポリマーに着色材を十分に含有させる観点から、片末端に重合性官能基を有するスチレン系マクロマーが好ましい。
【0020】
片末端に重合性官能基を有するスチレン系マクロマーとしては、片末端に重合性官能基を有するスチレン単独重合体および片末端に重合性官能基を有する、スチレンと他のモノマーとの共重合体が挙げられる。
【0021】
片末端に重合性官能基を有する、スチレンと他のモノマーとの共重合体において、他のモノマーとしては、アクリロニトリル等が挙げられる。また、そのスチレンの含有量は、顔料が十分にビニルポリマーに含有されるようにする観点から、好ましくは60重量%以上、より好ましくは70重量%以上である。
【0022】
片末端に重合性官能基を有するスチレン系マクロマーの中では、片末端に重合性官能基としてアクリロイル基またはメタクリロイル基を有するスチレン系マクロマーが好ましい。
【0023】
商業的に入手しうるスチレン系マクロマーとしては、例えば、東亜合成(株)製のAS−6、AS−6S、AN−6、AN−6S、HS−6S、HS−6等が挙げられる。
【0024】
なお、マクロマーの数平均分子量は、溶媒として1mmol/Lのドデシルジメチルアミン含有クロロホルムを用いたゲルクロマトグラフィーにより、標準物質としてポリスチレンを用いて測定される。
【0025】
水不溶性ビニルポリマーにおける前記マクロマーの含有量は、耐水性および耐擦過性の観点から、好ましくは0.1〜40重量%、より好ましくは1〜30重量%である。
【0026】
水不溶性ビニルポリマーの合成用原料の1つとして用いられるポリオキシアルキレン基含有モノマーとしては、例えば、
式(II):
【化1】

(式中、R1は水素原子またはメチル基、R2は水素原子、炭素数1〜20のアルキル基または炭素数1〜9のアルキルフェニル基、mは1〜30の数を示す)
で表されるモノマー(以下、「モノマーA」と称する」、および
式(III):
【化2】

(式中、R1およびR2は前記と同じ。nは1〜30の数を表す)
で表されるモノマー(以下、「モノマーB1」と称する)、
式(IV):
【化3】

(式中、R1、R2、mおよびnは前記と同じ。オキシエチレン基およびオキシプロピレン基は〔 〕内においてその順序は問わず、ランダムであってもブロックであってもよい)で表されるモノマー(以下、「モノマーB2」と称する)および
式(V):
【化4】

(式中、R1、R2、mおよびnは前記と同じ。オキシプロピレン基およびオキシテトラメチレン基は〔 〕内においてその順序は問わず、ランダムであってもブロックであってもよい)で表されるモノマー(以下、「モノマーB3」と称する)からなる群より選ばれた1種以上の前記モノマー(以下、「モノマーB」と称する)であるのが好ましい。
【0027】
水不溶性ビニルポリマーに前記モノマーAが用いられていることにより、印刷画像の光沢、インク保存性および目詰まり回復性に優れた水性インク組成物を得ることができるという利点がある。これは、モノマーAが有する親水性の高いオキシエチレン基の親水性水和層がインク組成物の中で広がることに基づくものと考えられる。
【0028】
水不溶性ビニルポリマーに前記モノマーB1が用いられている場合、吐出性に優れたインク組成物を得ることができる。これは、モノマーB1の疎水性の高いオキシプロピレン基と有彩色顔料との間で疎水性相互作用が強くなるので、水不溶性ビニルポリマーが有彩色顔料に対して強い吸着性を発現するため、有彩色顔料を含有するポリマー粒子の疎水性が強くなり、その結果、インク組成物の粘度が低くなることに基づくものと考えられる。
【0029】
また、水不溶性ビニルポリマーに、モノマーB2またはB3が用いられていることにより、優れた分散安定性を有彩色顔料に付与できる。これは、親水性の高いオキシエチレン基またはオキシテトラメチレン基の親水性水和層がインク組成物中で広がることに基づくものと考えられる。
【0030】
また、水不溶性ビニルポリマーに、ポリオキシアルキレン基含有モノマーの前記モノマーAが、前記マクロマー、前記塩生成基含有モノマーおよび前記共重合可能なモノマーがとともに用いられる場合、得られるインク組成物は普通紙(コピー用紙)に浸透し過ぎる傾向がある。
【0031】
したがって、普通紙への浸透性を調整し、印字濃度を高める観点から、水不溶性ビニルポリマーには、モノマーAとモノマーBとを併用することが好ましい。この場合、モノマーAとモノマーBとの重量比(モノマーA/モノマーB)は、優れた光沢性および高印字濃度を付与する観点から、好ましくは1/5〜5/1、より好ましくは1/3〜3/1とするのが好ましい。
【0032】
なお、オキシプロピレン基のみを含有する(メタ)アクリル酸エステルモノマーと、オキシエチレン基のみを含有する(メタ)アクリル酸エステルモノマーとを共重合させたビニルポリマー、およびオキシプロピレン基のみを含有する(メタ)アクリル酸エステルモノマーと、オキシテトラメチレン基のみを含有する(メタ)アクリル酸エステルモノマーとを共重合させたビニルポリマーでは、有彩色顔料を含有する水不溶性ポリマーの分散安定性を高めることができない。これは、親水性水和層のインク組成物中での広がりが充分ではないことに基づくものと考えられる。
【0033】
前述のように、前記式(II)〜(V)において、R1は水素原子またはメチル基である。R2は水素原子、炭素数1〜20のアルキル基または炭素数1〜9のアルキルフェニル基である。これらの中では、オクチル基およびノニルフェニル基が耐水性および耐擦過性の観点から好ましい。
【0034】
mは1〜30の数である。吐出性および印字濃度の観点から、mは2〜25の数が好ましい。また、nは1〜30の数である。吐出性および印字濃度の観点から、nは2〜25の数が好ましい。
【0035】
モノマーB2において、オキシエチレン基およびオキシプロピレン基は、ブロック付加またはランダム付加している。
【0036】
モノマーB3において、オキシプロピレン基およびオキシテトラメチレン基は、ブロック付加またはランダム付加している。
【0037】
前記モノマーAの代表例としては、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。商業的に入手しうるモノマーAの具体例としては、新中村化学(株)製のNKエステル M−20G、40G、90G、230G、日本油脂(株)のブレンマーPEシリーズ、PME−100、200、400、1000等が挙げられる。
【0038】
ビニルポリマーにおけるモノマーAの含有量は、印字濃度およびインク粘度の観点から、2〜45重量%、好ましくは2〜30重量%である。
【0039】
前記モノマーB1の具体例としては、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0040】
前記モノマーB2の具体例としては、エチレングリコール・プロピレングリコール(メタ)アクリレート、ポリ(エチレングリコール・プロピレングリコール)モノ(メタ)アクリレート、オクトキシポリエチレングリコール・ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、オクトキシポリ(エチレングリコール・プロピレングリコール)モノ(メタ)アクリレート、ステアロキシポリエチレングリコール・ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ステアロキシポリ(エチレングリコール・プロピレングリコール)モノ(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシポリエチレングリコール・ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシポリ(エチレングリコール・プロピレングリコール)モノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらは、それぞれ単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
【0041】
前記モノマーB3の具体例としては、プロピレングリコール・テトラメチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリ(プロピレングリコール・テトラメチレングリコール)モノ(メタ)アクリレート、プロピレングリコール・ポリブチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリ(プロピレングリコール・ブチレングリコール)モノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらはそれぞれ単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
【0042】
モノマーB1〜B3の中では、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、エチレングリコール・プロピレングリコール(メタ)アクリレートおよびポリ(エチレングリコール・プロピレングリコール)モノ(メタ)アクリレートは、インク粘度および吐出性の観点から好ましい。
【0043】
商業的に入手しうるモノマーB1〜B3の例としては、日本油脂(株)製のブレンマーPP−1000、PP−500、PP−800、AP−150、AP−400、AP−550、AP−800、50PEP−300、70PEP−350B、AEPシリーズ、30PPT−800、50PPT−800、70PPT−800、APTシリーズ、10PPB−500B、10APB−500B、50POEP−800B、50AOEP−800B、ASEPシリーズ、PNEPシリーズ、PNPEシリーズ、43ANEP−500、70ANEP−550等が挙げられる。
【0044】
また、水不溶性ビニルポリマーにおけるモノマーBの含有量は、印刷物の光沢および高い印字濃度の観点から、好ましくは5〜45重量%、より好ましくは5〜40重量%である。
【0045】
水不溶性ポリマーにおけるポリオキシアルキレン基含有モノマーの含有量は、インク組成物の吐出安定性や印刷画像の光沢性を高め、また、普通紙での発色性低下を防止する観点から、好ましくは5〜50重量%、より好ましくは10〜40重量%とされる。
【0046】
前記塩生成基含有モノマーとしては、アニオン性モノマーおよびカチオン性モノマーが好ましい。アニオン性モノマーおよびカチオン性モノマーは、それぞれ単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
【0047】
アニオン性モノマーとしては、不飽和カルボン酸モノマー、不飽和スルホン酸モノマーおよび不飽和リン酸モノマーからなる群より選ばれた1種以上が挙げられる。
【0048】
不飽和カルボン酸モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、2−メタクリロイルオキシメチルコハク酸等が挙げられる。これらは、それぞれ単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
【0049】
不飽和スルホン酸モノマーとしては、例えば、スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、3−スルホプロピル(メタ)アクリル酸エステル、ビス−(3−スルホプロピル)−イタコン酸エステル等が挙げられる。これらは、それぞれ単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
【0050】
不飽和リン酸モノマーとしては、例えば、ビニルホスホン酸、ビニルホスフェート、ビス(メタクリロキシエチル)ホスフェート、ジフェニル−2−アクリロイロキシエチルホスフェート、ジフェニル−2−メタクリロイロキシエチルホスフェート、ジブチル−2−アクリロイロキシエチルホスフェート等が挙げられる。これらは、それぞれ単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
【0051】
アニオン性モノマーの中では、インク粘度および吐出性の観点から、不飽和カルボン酸モノマーが好ましく、アクリル酸およびメタクリル酸がより好ましい。
【0052】
カチオン性モノマーとしては、不飽和3級アミン含有ビニルモノマーおよび不飽和アンモニウム塩含有ビニルモノマーからなる群より選ばれた1種以上が挙げられる。
【0053】
不飽和3級アミン含有モノマーとしては、例えば、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアリールアミン、ビニルピロリドン、2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジン、2−メチル−6−ビニルピリジン、5−エチル−2−ビニルピリジン等が挙げられる。これらは、それぞれ単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
【0054】
不飽和アンモニウム塩含有モノマーとしては、例えば、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート四級化物、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート四級化物、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート四級化物等が挙げられる。これらは、それぞれ単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
【0055】
カチオン性モノマーの中では、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N−N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドおよびビニルピロリドンが好ましい。
【0056】
水不溶性ビニルポリマーにおける塩生成基含有モノマーの含有量は、分散安定性および吐出安定性の観点から、3〜40重量%、好ましくは5〜30重量%である。
【0057】
共重合可能なモノマー(前記マクロマー、前記ポリオキシアルキレン基含有モノマーおよび前記塩生成基含有モノマーと共重合可能なモノマー)としては、例えば、長鎖アルキル基含有モノマー、芳香環含有モノマー、(メタ)アクリル酸エステル等が挙げられるが、これらの中でも、長鎖アルキル基含有モノマーおよび芳香環含有モノマーの中の1種以上を用いるのが、インク組成物の調製時に添加する湿潤剤や分散剤によるインク組成物の粘度変化を抑制し、インク組成物の保存安定性を高める観点から特に好ましい。これらは、それぞれ単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。共重合可能なモノマーには、長鎖アルキル基含有モノマーおよび芳香環含有モノマーからなる群より選ばれた1種以上が含有されていることが好ましい。
【0058】
長鎖アルキル基含有モノマー(以下、単に「長鎖アルキル基含有モノマー」という)において、長鎖アルキル基の炭素数は、モノマーの入手容易性の観点から、好ましくは16〜30、より好ましくは18〜22である。長鎖アルキル基含有モノマーの代表例としては、式(I):
【化5】

(式中、R1 は水素原子または炭素数1〜4の低級アルキル基、R2 はヘテロ原子を有していてもよい炭素数16〜30、好ましくは炭素数18〜30、より好ましくは炭素数18〜22の1価の炭化水素基を示す)で表されるモノマーが挙げられる。
【0059】
長鎖アルキル基含有モノマーの具体例としては、(イソ)セチル(メタ)アクリレート、(イソ)ステアリル(メタ)アクリレート、(イソ)ベヘニル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類が挙げられ、これらは、それぞれ単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。これらの中では、(イソ)ステアリル(メタ)アクリレートおよび/または(イソ)ベヘニル(メタ)アクリレートがさらに好ましい。長鎖アルキル基含有モノマーは、インク組成物の調製時に添加する湿潤剤や分散剤によるインク組成物の粘度変化を抑制し、保存安定性を十分に高める観点から好ましい。この場合、モノマー混合物におけるステアリル(メタ)アクリレートおよびベヘニル(メタ)アクリレートの合計含量は、インク組成物の粘度変化を抑制し、保存安定性を十分に高める観点から、好ましくは5〜50重量%、より好ましくは10〜30重量%である。
【0060】
芳香環含有モノマーは、耐水性の観点から、スチレン、ビニルナフタレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、エチルビニルベンゼン、4−ビニルビフェニル、1,1−ジフェニルエチレン、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレート、2−メタクリロイロキシエチル−2−ヒドロキシプロピルフタレート、2−アクリロイロキシエチルフタル酸およびネオペンチルグリコールアクリル酸安息香酸エステルからなる群より選ばれた1種以上が好ましい。これらの中ではスチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエンおよびビニルナフタレンからなる群より選ばれた1種以上が、耐水性および耐擦過性の観点からより好ましい。
【0061】
(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、(イソ)プロピル(メタ)アクリレート、(イソまたはターシャリー)ブチル(メタ)アクリレート、(イソ)アミル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、(イソ)オクチル(メタ)アクリレート、(イソ)デシル(メタ)アクリレート、(イソ)ドデシル(メタ)アクリレート、(イソ)ステアリル(メタ)アクリレート等のエステル部分が炭素数1〜18のアルキル基である(メタ)アクリル酸エステル類が挙げられ、これらは、それぞれ単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
【0062】
なお、前記(イソまたはターシャリー)および(イソ)は、これらの基が存在している場合とそうでない場合の双方を意味し、これらの基が存在していない場合には、ノルマルを示す。
【0063】
水不溶性ビニルポリマーにおける前記共重合可能なモノマーの含有量は、印字濃度および耐水性の観点から、15〜90重量%、好ましくは35〜80重量%である。
【0064】
また、水不溶性ビニルポリマーに芳香環含有モノマーを含有させる場合、その含有量は、耐水性、耐擦過性、インク粘度および吐出安定性の観点から、好ましくは0.1〜70重量%、より好ましくは1〜50重量%である。
【0065】
水不溶性ビニルポリマーの重量平均分子量は、印字濃度と吐出安定性の観点から通常3,000〜300,000程度であることが好ましい。なお、該水不溶性ビニルポリマーの重量平均分子量は、メルカプタン等の連鎖移動材を添加する慣用の操作によりコントロールできる。
【0066】
水不溶性ビニルポリマーの重量平均分子量は、得られた水不溶性ビニルポリマー溶液の一部を、減圧下で105℃で2時間乾燥させ、溶媒を除去することによって単離し、標準物質としてポリスチレン、溶媒として60mmol/Lのリン酸および50mmol/Lのリチウムブロマイド含有ジメチルホルムアミドを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより求められる。
【0067】
水不溶性ビニルポリマーは前記の(1)マクロマー、(2)ポリオキシアルキレン基含有モノマー、(3)塩生成基含有モノマーおよび(4)共重合可能なモノマーをそれぞれ所定量配合して、これらを重合させることによって得られる。具体的には、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等の公知の重合法により、各モノマー組成物を重合させることによって製造される。これらの重合法の中では、溶液重合法が好ましい。
【0068】
溶液重合法で用いる溶媒は、極性有機溶媒であることが好ましい。極性有機溶媒が水混和性を有する場合には、水と混合して用いることもできる。
【0069】
極性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール等の炭素数1〜3の脂肪族アルコール;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;酢酸エチル等のエステル類等が挙げられる。これらの中では、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、アセトン、メチルエチルケトンまたはこれらと水との混合液が好ましい。
【0070】
なお、重合の際には、ラジカル重合開始剤を用いることができる。ラジカル重合開始剤としては、2,2'−アゾビスイソブチロニトリル、2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、ジメチル−2,2'−アゾビスブチレート、2,2'−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、1,1'−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボニトリル)等のアゾ化合物が好適である。また、t−ブチルペルオキシオクトエート、ジ−t−ブチルペルオキシド、ジベンゾイルオキシド等の有機過酸化物を使用することもできる。
【0071】
重合開始剤の量は、モノマー組成物1モルあたり、好ましくは0.001〜5モル、より好ましくは0.01〜2モルである。
【0072】
また、重合の際には、さらに重合連鎖移動剤を添加してもよい。重合連鎖移動剤の具体例としては、オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−テトラデシルメルカプタン、2−メルカプトエタノール等のメルカプタン類;ジメチルキサントゲンジスルフィド、ジイソプロピルキサントゲンジスルフィド等のキサントゲンジスルフィド類;テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラブチルチウラムジスルフィド等のチウラムジスルフィド類;四塩化炭素、臭化エチレン等のハロゲン化炭化水素類;ペンタフェニルエタン等の炭化水素類;アクロレイン、メタクロレイン、アリルアルコール、2−エチルヘキシルチオグリコレート、タービノーレン、α−テルピネン、γ−テルピネン、ジペンテン、α−メチルスチレンダイマー、9,10−ジヒドロアントラセン、1,4−ジヒドロナフタレン、インデン、1,4−シクロヘキサジエン等の不飽和環状炭化水素化合物;2,5−ジヒドロフラン等の不飽和ヘテロ環状化合物等が挙げられる。これらの重合連鎖移動剤は、それぞれ単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
【0073】
モノマー組成物の重合条件は、使用するラジカル重合開始剤、モノマー、溶媒の種類等によって異なるので一概には決定することができない。通常、重合温度は、好ましくは30〜100℃、より好ましくは50〜80℃であり、重合時間は好ましくは1〜20時間である。また、重合雰囲気は、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気であることが好ましい。
【0074】
重合反応の終了後、反応溶液から再沈澱、溶媒留去等の公知の方法により、生成した水不溶性ビニルポリマーを単離する。また、得られた水不溶性ビニルポリマーは、再沈澱を繰り返したり、膜分離、クロマトグラフ法、抽出法等により、未反応のモノマー等を除去して精製することができる。
【0075】
<有彩色顔料>
水不溶性ビニルポリマーで被覆する有彩色顔料としては、例えば、シアン顔料、イエロー顔料、マゼンタ顔料等を挙げることができる。なお、「有彩色」とは、白から灰色を経て黒に至る系列の色(無彩色)以外のすべての色をいう。
【0076】
シアン顔料としては、例えば、C.I.ピグメントブルー1、2、15、15:1、15:2、15:3、15:4、16、およびC.I.バットブルー4、60等が挙げられる。これらシアン顔料は、単独でも、2種以上混合して用いることができる。
【0077】
イエロー顔料としては、C.I.ピグメントイエロー1、3、12、13、14、17、24、35、37、42、53、55、74、81、83、95、97、98、100、101、104、108、109、110、117、120、128、138、147、150、153、155、174、180、188、198等が挙げられる。これらイエロー顔料は、単独でも、2種以上混合して用いることができる。
【0078】
マゼンタ顔料としては、C.I.ピグメントレッド、1、3、5、8、9、16、17、19、22、38、57:1、90、112、122、123、127、146、184、202、207、209、およびC.I.ピグメントバイオレット1、3、5:1、16、19、23、38等が挙げられる。これらマゼンタ顔料は、単独でも、2種以上混合して用いることができる。
【0079】
上記有彩色顔料のうち、シアン顔料はブロンズ現象の発現抑制効果がより大となるのでより好ましい。特に、シアン顔料のうち、C.I.ピグメントブルー15、15:1、15:2、15:3、15:4、16から選択された1種以上を用いることが上記と同様の理由から好ましい。
【0080】
なお、カラーインデックスに記載されていない顔料であっても水に不溶であればいずれも使用できる。
【0081】
有彩色顔料を含有させた水不溶性ビニルポリマーを得る方法としては、例えば次の工程1)〜4)の手順で製造される。
1)混合工程:着色材、有機溶媒、水、および必要により使用される中和剤をアンカー翼やタービン翼等の通常の混合攪拌装置を用いて混合することにより原料混合物を得る。その際、微粒子化を十分に行うためにニーダーを用いて混合物を混練することがより好ましい。混練する際のニーダーとして、回分式と連続式があり、前者としては双腕型ニーダー等、後者としてはセルフクリーニング型ニーダー等が挙げられる。これらの中では、品種切替、槽内洗浄等の点から前者の双腕型ニーダーが好ましい。
2)分散化工程:次に、得られた原料混合物を希釈し、所望の固形分濃度にしてに分散処理を施す。分散処理する際には、ボールミル、ロールミル、ビーズミル、高圧ホモジナイザー、高速撹拌型分散機等を用いることができる。これらの中では、無機不純物の混入が少ない高圧ホモジナイザーが好ましい。高圧ホモジナイザーとしては、処理液の流路が固定されたチャンバーを有するもの、処理液の流路の幅を調整しうる均質バルブを有するもの等が挙げられる。処理液の流路が固定されたチャンバーを有する高圧ホモジナイザーとしては、マイクロフルイダイザー(マイクロフルイディクス社製、商品名)、ナノマイザー(ナノマイザー社製、商品名)、アルティマイザー(スギノマシン社製、商品名)等が挙げられる。均質バルブを有する高圧ホモジナイザーとしては、高圧ホモジナイザー(ラニー社製、商品名)、高圧ホモジナイザー(三丸機械工業(株)製、商品名)、高圧ホモゲナイザー(イズミフードマシナリ社製、商品名)等が挙げられる。高圧ホモジナイザーで分散する際の圧力は、所望の粒径を有するポリマー粒子を短時間で容易に得ることができることから、50MPa以上が好ましく、80MPa以上がより好ましい。
3)溶媒除去工程:次いで、分散化処理が施された原料混合物から所定量の有機溶媒および水を除去することにより、所望の濃度を有する本発明による水性インク組成物が得られる。有機溶媒除去工程は分散工程の前、または後のどちらでも良い。水を除去する方法には特に限定がない。有機溶媒の除去方法としては、減圧蒸留法、特に薄膜式減圧蒸留法が好ましい。なお、有機溶媒の除去量は、特に限定がなく、通常、有機溶媒全量が除去されることが好ましい。
4)粗大粒子除去工程:溶媒を除去した後、必要に応じて粗大粒子を除去しても良い。例えば、上述のようにして得られたインクをフィルターにより加圧濾過したり、或いは遠心分離器で処理して、好ましくは2μm以上、さらにこのましくは1μm以上、一層好ましくは0.5μm以上の粒子を除去することにより、分散安定性の高いインクが得られる。
【0082】
なお、水不溶性ビニルポリマーによって被覆された有彩色顔料は、該顔料が水不溶性ビニルポリマーによって完全に被覆されずに、一部の該顔料が露出した形状でもよい。
【0083】
以下、前記1)の混合工程について詳細に説明する。混合工程で使用される有機溶媒としては、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、エーテル系溶媒、芳香族炭化水素系溶媒、脂肪族炭化水素系溶媒、ハロゲン化脂肪族炭化水素系溶媒が好ましく、親水性有機溶媒がさらに好ましい。
【0084】
アルコール系溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、第3級ブタノール、イソブタノール、ジアセトンアルコール等が挙げられる。ケトン系溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン等が挙げられる。エーテル系溶媒としては、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等が挙げられる。芳香族炭化水素系溶媒としては、ベンゼン、トルエン等が挙げられる。脂肪族炭化水素系溶媒としては、ヘプタン、ヘキサン、シクロヘキサン等が挙げられる。ハロゲン化脂肪族炭化水素系溶媒としては、塩化メチレン、1,1,1−トリクロロエタン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン等が挙げられる。これらの中では、アセトンおよびメチルエチルケトンが好ましい。
【0085】
また、必要により、有機溶媒と、高沸点親水性有機溶媒とを併用してもよい。高沸点親水性有機溶媒としては、フェノキシエタノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル等が挙げられる。
【0086】
中和剤として、塩生成基の種類に応じて酸または塩基を使用することができる。酸としては、塩酸、硫酸等の無機酸、酢酸、プロピオン酸、乳酸、コハク酸、グリコール酸、グルコン酸、グリセリン酸等の有機酸が挙げられる。塩基としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン等の3級アミン類、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。
【0087】
中和度には、特に限定がない。通常、得られる水分散体の液性が中性、例えば、pHが4.5〜10であることが好ましい。
【0088】
有彩色顔料の量は、発色性と目詰まり回復性の観点から、ポリマーの樹脂固形分100重量部に対して、好ましくは100〜700重量部、より好ましくは200〜600重量部、さらに好ましくは300〜500重量部である。
【0089】
有機溶媒の量は、有彩色顔料とのなじみやすさの観点から、ポリマーの樹脂固形分100重量部に対して、20重量部以上が好ましく、30重量部以上がより好ましく、50重量部以上がさらに好ましい。また、有機溶媒の量は、混合物を混練する際に、有効な剪断力を得る観点から、ポリマーの樹脂固形分100重量部に対して、500重量部以下が好ましく、300重量部以下がより好ましく、200重量部以下がさらに好ましい。これらの観点から、有機溶媒の量は、ポリマーの樹脂固形分100重量部に対して、好ましくは20〜500重量部、より好ましくは30〜300重量部、さらに好ましくは50〜200重量部である。
【0090】
水の量は、顔料とのなじみやすさの観点から、有機溶媒100重量部に対して、好ましくは50〜1000重量部、より好ましくは100 〜500重量部である。
【0091】
混合物における固形分濃度は、混合物を混練する際に、有効な剪断力を得る観点から、好ましくは50重量%以上、より好ましくは65重量%であり、また得られる混練物の粘度が高くなりすぎて均一な混練を行うことができなくなるのを回避するとともに、混練物が崩壊して粒子状となることを回避する観点から、好ましくは80重量%以下、より好ましくは75重量%以下である。これらの観点から、混合物における固形分濃度は、好ましくは50重量%以上、より好ましくは50〜80重量%、さらに好ましくは65〜80重量%、特に好ましくは65〜75重量%である。
【0092】
なお、混合物における固形分は、顔料、ポリマーおよび中和剤の固形分の総量を意味する。
【0093】
有彩色顔料を含有する水不溶性ビニルポリマーの平均粒子径は、印刷物の光沢、ノズルの目詰まり防止および分散安定性の観点から、好ましくは10〜500nm、より好ましくは20〜300nm、さらに好ましくは50〜200nmとするのがよい。
【0094】
有彩色顔料の含有量は、所望の印字濃度が得られるのであればよく、特に限定されない。通常、該含有量は、十分な吐出性および印字濃度を付与する観点から、0.1〜15重量%、好ましくは0.5〜10重量%、より好ましくは3〜8重量%である。
【0095】
<二酸化チタン顔料>
本発明による水性インク組成物に使用される二酸化チタン顔料は、従来から塗料等に用いられているものを使用することができ、塩素法、硫酸法等の特に製造方法に制限はなく、また、結晶構造はルチル型、アナターゼ型、およびブルッカイト型のいずれであってもよいが、耐候性と安定性の観点から、ルチル型であることが好ましい。さらに二酸化チタン顔料は、アルミニウム、珪素、チタニウム、ジルコニア等の金属の化合物や、リン酸化合物、有機アミン類等で表面処理されたものであってもよい。
【0096】
二酸化チタン顔料の一次粒子径は、印刷物の光沢とブロンズ現象抑制効果の観点から、好ましくは1μm以下、より好ましくは200nm以下、さらに好ましくは100nm以下である。
【0097】
本発明において、「一次粒子径」とは、単結晶またはそれに近い結晶子が集まって形成している粒子の大きさをいう。顔料の一次粒子径の測定は、電子顕微鏡法による。これは電子顕微鏡写真から顔料粒子の大きさを計測するもので、顔料を有機溶媒に分散し、支持膜に固定して透過型電子顕微鏡写真から画像処理し計測することにより、より信頼性がある値を求めることができる。具体的には、個々の一次粒子径の短軸径と長軸径を計測し、その面積と等しい円の直径を算術的に求めそれを一次粒子径とし、一定の視野から50個以上の顔料粒子をランダムに選択して平均値を求める。他の測定法でも同等の信頼性が得られれば差し支えないが、数値に実質的な差がある場合は上記の方法で求めた値を採用する。
【0098】
二酸化チタン顔料の含有量は、印刷物の光沢とブロンズ現象抑制効果の観点から、インク組成物の重量を基準(100重量%)とした場合に、固形分換算で、好ましくは0.01重量%以上、より好ましくは0.1重量%以上、さらに好ましくは0.1重量%以上5重量%以下である。さらに、前述した有彩色顔料の添加量との関係を考慮すれば、印刷物の光沢とブロンズ現象の発現抑制効果の観点から、二酸化チタン顔料と有彩色顔料の重量比が、1:20〜5:1であることが好ましく、1:8〜5:2であることがより好ましく、1:2〜5:2であることがさらに好ましい。
【0099】
<2−メチル−2−プロピル−1,3−プロパンジオール>
本発明による水性インク組成物は、2−メチル−2−プロピル−1,3−プロパンジオールを必須成分として含有する。上記した水不溶性ビニルポリマーによって被覆された有彩色顔料と、二酸化チタン顔料とを含むインク組成物に、このような特定のアルコールを添加することによって、普通紙での発色性に優れるとともに、光沢紙に対しての光沢性にも優れる。また、上記の特定アルコールを添加することにより、発色性や光沢性に加え、吐出安定性、目詰まり回復性、保存安定性等のインクの信頼性が向上する。
【0100】
<水、その他の成分>
本発明による水性インク組成物は、主溶媒としての水を含む。水としては、イオン交換水、限外ろ過水、逆浸透水、蒸留水等の純粋または超純水を用いることが好ましい。特に、これらの水を、紫外線照射または過酸化水素添加等により滅菌処理した水は、長期間に亘ってカビやバクテリアの発生が防止されるので好ましい。
【0101】
本発明による水性インク組成物は、記録媒体への濡れ性を高めて有機顔料の浸透性を高める観点から、浸透促進剤を添加することが好ましい。浸透促進剤としては、1価アルコール、1,2−アルカンジオールおよび/またはグリコールエーテルを含有することが好ましい。
【0102】
1価アルコールの具体的な例としては、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、iso−プロピルアルコール、n−ブタノール、2−ブタノール、tert−ブタノール、iso−ブタノール、n−ペンタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、2−メチル−1−ブタノール、2−エチル−1−ブタノール、3−メチル−2−ブタノール、tert−ペンチルアルコール、ネオペンチルアルコール、2,3−ジメチル−2−ブタノール、3,3−ジメチル−2−ブタノール、2,4−ジメチル−3−ペンタノール、3−エチル−3−ペンタノール、2−メチル−2−ペンタノール、4−メチル−2−ペンタノール、2,4,4−トリメチル−1−ペンタノール、2,2−ジメチル−3−ペンタノール、4−メチル−1−ペンタノール、3−メチル−2−ペンタノール、2−メチル−3−ペンタノール、3−メチル−1−ペンタノール、2−エチルヘキサノール、2−メチル−2−ヘキサノール、2−メチル−3−ヘキサノール等が挙げられる。
【0103】
2−アルカンジオールの具体的な例としては、1,2−オクタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−ペンタンジオール、4−メチル−1,2−ペンタンジオール等が挙げられる。
【0104】
また、グリコールエーテルの具体的な例としては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、エチレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、エチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、1−メチル−1−メトキシブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル等が挙げられる。
【0105】
これらの溶剤は、1種または2種以上を用いることができ、適切な浸透性および乾燥性の確保という観点で、インク組成物中に2〜15重量%含まれることが好ましい。
【0106】
さらに、浸透促進剤のその他の好ましい例としては、表面張力調整剤を挙げることができる。表面張力調整剤としては、アセチレングリコール系界面活性剤やポリエーテル変性シロキサン類が好ましい。アセチレングリコール系界面活性剤の例としては、サーフィノール420、440、465、485、104、STG(エアープロダクツ社製品)、オルフィンPD−001、SPC、E1004、E1010(日信化学工業(株)製品)、アセチレノールE00、E40、E100、LH(川研ファインケミカル(株)製品)等が挙げられる。またポリエーテル変性シロキサン類としては、BYK−346、347、348、UV3530(ビックケミー社製品)などが挙げられる。これらは、インク組成物中に1種または2種以上を用いることができ、表面張力20〜40mN/mに調整されることが好ましく、インク組成物中には0.1〜3.0重量%含まれる。
【0107】
また、本発明においては、インク組成物の乾燥を防いでインクジェットプリンタのヘッドでの目詰りを防止する観点から、湿潤剤を添加することが好ましい。湿潤剤としては、例えば、グリセリン、1,2,6−ヘキサントリオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ペンタエチレンフリコール、ジプロピレングリコール、2−ブテン−1,4−ジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール等の多価アルコール類、グルコース、マンノース、フルクトース、リボース、キシロース、アラビノース、ガラクトース、アルドン酸、グルシトール(ソルビット)、マルトース、セロビオース、ラクトース、スクロース、トレハロース、マルトトリオース等の糖類、糖アルコール類、ヒアルロン酸類、1,2−ジメチル尿素、尿素類、エタノール、メタノール、ブタノール、プロパノール、イソプロパノールなどの炭素数1〜4のアルキルアルコール類、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、ホルムアミド、アセトアミド、ジメチルスルホキシド、ソルビット、ソルビタン、アセチン、ジアセチン、トリアセチン、スルホラン等が挙げられる。これらは、インク組成物中に1種または2種以上を用いることができ、インク組成物の適正な物性値(粘度等)の確保、印刷品質、信頼性の確保という観点で、インク組成物中に10〜50重量%含まれることが好
ましい。
【0108】
さらに、本発明による水性インク組成物には、pH調整剤、防腐剤、防カビ剤、防錆剤、溶解助剤、酸化防止剤等から選ばれる材料を所望により添加することができる。これらの成分は、各種別に一種または二種以上を混合して用いることができる。また、添加する必要がなければ添加しなくてもよい。当業者は本発明の効果を損なわない範囲で、選択された好ましい添加剤を好ましい量で用いることができる。
【0109】
pH調整剤としては、水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属の水酸化物、アンモニア、トリエタノールアミン、トリプロパノールアミン、ジエタノールアミン、モノエタノールアミン等のアミン類等を用いることが出来るが、好ましくは、アルカリ金属の水酸化物、アンモニア、トリエタノールアミン、トリプロパノールアミンから選択される少なくとも1種類のpH調整剤を含み、pH6〜10に調整されることが好ましい。pHがこの範囲を外れると、インクジェットプリンタを構成する材料等に悪影響を与えたり、目詰まり回復性が劣化する。
【0110】
防腐剤または防カビ剤としては、例えば、安息香酸ナトリウム、ペンタクロロフェノールナトリウム、2−ピリジンチオール−1−オキサイドナトリウム、ソルビン酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、および1,2−ジベンジソチアゾリン−3−オン(AVECIA社のプロキセルCRL、プロキセルBDN、プロキセルGXL、プロキセルXL−2、およびプロキセルTN(以上商品名)等を例示できるが、これらに限定されない。
【0111】
溶解助剤とは、インク組成物から不溶物が析出する場合に、その不溶物を溶解し、インク組成物を均一な溶液に保つための添加剤である。溶解助剤としては、N−メチル−2−ピロリドン、2−ピロリドンなどのピロリドン類、尿素、チオ尿素、テトラメチル尿素などの尿素類、アロハネート、メチルアロハネート等のアロハネート類、ビウレット、ジメチルビウレット、テトラメチルビウレットなどのビウレット類などを挙げることができるがこれらに限定されない。
【0112】
酸化防止剤の例としては、L−アスコルビン酸およびその塩類等が例示できるが、これらに限定されない。
【0113】
<記録方法>
本発明による記録方法は、上記した水性インク組成物を用いた記録方法である。インク組成物を用いた記録方法とは、例えば、インクジェット記録方法、ペン等の筆記具による記録方法、その他各種の印刷方法が挙げられる。したがって、本発明による水性インク組成物は、例えば水性ペンなどの筆記具類、インクジェット記録方法、印刷、スタンプなどの用途に好ましく用いることができる。
【0114】
本発明による記録方法の好ましい態様によれば、上記した水性インク組成物の液滴を吐出し記録媒体に付着させて印刷を行うインクジェット記録方法が提供される。本発明によるインクジェット記録方法としては、前記水性インク組成物を微細なノズルより液滴として吐出して、その液滴を記録媒体に付着させる方法であればいかなる方法も使用することができる。そのような方法の具体例としては、種々の態様の方法が知られている。
【0115】
そのような方法の一例としては、例えば、静電吸引方式が挙げられる。この方式では、ノズルとノズルの前方に置いた加速電極の間に強電界を印可し、ノズルからインクを液滴状で連続的に噴射させ、インク滴が偏向電極間を飛翔する間に印刷情報信号を偏向電極に与えて記録する。また、この方法においては必要に応じて、インク滴を偏向させることなく印刷情報信号に対応して噴射させてもよい。
【0116】
他の態様としては、小型ポンプでインク液に圧力を加え、ノズルを水晶振動子等で機械的に振動させることにより、強制的にインク滴を噴射させる方法がある。この方法では、噴射したインク滴は噴射と同時に帯電させ、インク滴が偏向電極間を飛翔する間に印刷情報信号を偏向電極に与えて記録する。別の態様としては、圧電素子を用いる方法が挙げられる。この方法では、インク液に圧電素子で圧力と印刷情報信号を同時に加え、インク滴を噴射させ、記録を行う。さらに別の態様としては、熱エネルギーの作用によりインク液を急激に体積膨張させる方法がある。この方法では、インク液を印刷情報信号に従って微小電極で加熱発泡させ、インク滴を噴射させ、記録を行う。
【0117】
記録媒体としては、特に制限はなく、例えば、普通紙、インクジェット専用紙、プラスチック、フィルム、金属等の種々の記録媒体を用いることができる。
【0118】
<記録物>
さらに、本発明によれば、上記の記録方法により記録された記録物も提供される。この記録物は、少なくとも上記した水性インク組成物の液滴を吐出し、該液滴を記録媒体に付着して記録が行われたものである。本発明による記録物は、上記の水性インク組成物を用いて記録が行われたものであるため、光沢に優れていると共に、ブロンズ現象が抑制されたものとなる。なお、記録媒体の具体例としては、上記に示した記録媒体を用いることが可能である。
【実施例】
【0119】
以下、本発明を下記の例によりさらに詳細に説明するが、本発明の範囲がこれら例に限定されるものではない。
【0120】
A.水不溶性ビニルポリマーの調製
反応容器に、メチルエチルケトン20重量%、重合連鎖移動剤(2−メルカプタンエタルール)0.03重量%、および表1に示すモノマーの全量の10%を充填し、混合した。その後、容器を窒素ガス置換した。一方、滴下装置に上記モノマー組成の残り90%を充填した。重合連鎖移動剤(2−メルカプタンエタノール)0.27重量%、メチルエチルケトン60重量%、および2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)を次いで滴下装置に加え、混合した。その後、滴下装置を窒素ガス置換した。反応容器内の混合物の温度を、窒素雰囲気下、撹拌しながら65℃まで上げ、滴下装置内の混合物を反応容器に3時間かけて滴下した。65℃下での滴下終了後2時間経過した後に、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)0.3重量%をメチルエチルケトン5重量%に溶解した溶液を加えた。混合物を65℃で2時間、さらに70℃で2時間熟成させ、ポリマー溶液を得た。
【0121】
上記のようにして得たポリマー溶液の一部を、減圧留去して溶媒を除いて乾燥させて単離することにより、所望の水不溶性ビニルポリマー(水不溶性ポリマー1〜3)を得た。表1に各水不溶性ビニルポリマーのモノマー組成比(重量%)を示す。
【0122】
得られた各水不溶性ビニルポリマーの重量平均分子量を、ポリスチレンを標準物質とし、濃度60mmol/Lのリン酸および50mmol/Lのリチウムブロマイド含有ジメチルホルムアミドを溶媒としたゲルパーシエーションクロマトグラフィーにより決定した。その結果、重量平均分子量は、70,000であった。
【表1】

【0123】
B.顔料分散液の調製
(顔料分散液1)
前記で得られた水不溶性ビニルポリマー1.5重量%を、メチルエチルケトン45重量%に溶解させて、その中に中和剤(20%の水酸化ナトリウム水溶液)を所定量加えて塩生性基を完全に中和し、さらに有彩色顔料として、C.I.ピグメントブルー15:4を20重量%加えて、ビーズミルで2時間混練した。上記で得られた混練物に、超純水120重量%を加えて攪拌した後、減圧下、60℃にてメチルエチルケトンを除去し、さらに一部の水を除去することにより、固形分濃度が20重量%の顔料分散液1を得た。
【0124】
(顔料分散液2)
同様に、水不溶性ビニルポリマー2を用いて、顔料分散液2を得た。
【0125】
(顔料分散液3)
同様に、水不溶性ビニルポリマー3を用いて、顔料分散液3を得た。
【0126】
(二酸化チタン顔料分散液)
二酸化チタン顔料(テイカ社製MT−600B、結晶形:ルチル、一次粒径50nm)10重量%を、分散剤としてスチレンーアクリル樹脂(ジョンソンポリマー社製ジョンクリル61J、30.5%水溶液)10重量%と、超純水70重量%とを混合し、サンドミル(安川製作所製)中でガラスビーズ(直径1.7mm、混合液の1.5倍量(重量))とともに2時間分散させた。分散後、ガラスビーズを取り除き、固形分濃度が10重量%の二酸化チタン顔料分散液を得た。
【0127】
C.水性インク組成物の調製
(参考例1〜9および比較例1)
下記表2に示す割合で各成分を混合し、室温にて2時間攪拌した後、孔経約8μmのメンブランフィルター(商品名、日本ミリポア・リミテッド製)を用いて濾過して、参考例1〜9および比較例1の水性インク組成物を調製した。
【0128】
(比較例2)
C.I.ピグメントブルー15:4と、二酸化チタン顔料(テイカ社製MT−600B、結晶形:ルチル、一次粒径:50nm)と、分散剤としてのスチレン−アクリル樹脂(ジョンソンポリマー社製ジョンクリル61J、30.5%水溶液)と、を混合しサンドミル(安川製作所製)中でガラスビーズ(直径1.7mm、混合液の1.5倍量(重量))とともに2時間分散させた。分散後、ガラスビーズを取り除き、下記表2に示す溶剤および超純水を加え、常温で30分攪拌し、8μmのメンブレンフィルターでろ過して、比較例2の水性インク組成物を得た。
【0129】
なお、表2中に示す添加量は全て重量%として表されている。また超純水の「残量」とは、インク全量が100重量%となるように超純水を加えることを意味する。この水性インク組成物中の二酸化チタン顔料と有彩色顔料との重量比(表2において、「TiO2/有彩色顔料」と表記する)は、下記表2に示される通りであった。
【表2】

【0130】
D.評価試験
(1)ブロンズの評価
参考例1〜9および比較例1、2の水性インク組成物を用い、以下の要領によりブロンズの評価を行った。インクジェットプリンタPX−A550(商品名:セイコーエプソン株式会社製)を用いて、写真用紙<光沢>(商品名:セイコーエプソン株式会社製)に、印字Dutyが100%および40%のパッチパターンを1440×720dpiの印字解像度で印刷し、25℃で24時間放置後、蛍光灯(F11光源)下で、印刷物の角度を変えたときの反射光の色変化について目視で観察し、下記の基準に基づきブロンズを評価した。
A:Duty100%と40%のパッチの両方において、反射光の色が白く、違和感がない。
B:Duty100%と40%のパッチのいずれかにおいて、反射光の色が白く、違和感がない。
C:Duty100%と40%のパッチの両方において、反射光に色が確認でき、違和感がある。
【0131】
結果は下記の表3に示される通りであった。
【0132】
(2)光沢性の評価
評価試験(1)で用いたDuty100%の印刷物の45度鏡面光沢度を、ゴニオメーター(商品名:村上色彩技術研究所製)を用いて測定し、下記の基準に基づき光沢性を評価した。
AA:45度鏡面光沢度が35以上
A:45度鏡面光沢度が30以上35未満
B:45度鏡面光沢度が25以上30未満
C:45度鏡面光沢度が25未満
【0133】
結果は下記の表3に示される通りであった。
【0134】
(3)普通紙発色性の評価
参考例1〜9および比較例1、2の水性インク組成物を用い、以下の要領により普通紙における発色性の評価を行った。評価試験(1)で用いたインクジェットプリンタを用いて、Xerox−4024に、印字Dutyが100%のべたパターンを、720×720dpiの印字解像度で印刷し、25℃で24時間放置後、印刷物のOD値をSpectrolino(商品名:Gretag社製)を用いて測色し、下記の基準に基づき判定した。
A:OD値1.2以上
B:OD値1.0〜1.2
C:OD値1.0未満
【0135】
結果は下記の表3に示される通りであった。
【0136】
(4)吐出安定性の評価
参考例1〜9および比較例1、2の水性インク組成物を用い、以下の要領により吐出安定性の評価を行った。評価試験(1)で用いたインクジェットプリンタを用いて、各水性インク組成物をインクカートリッジに充填し、前記インクジェットプリンタに装着して全ノズルが正常に吐出することを確認した後、40℃の環境下で、写真用紙<光沢>に、評価1と同じ条件でパッチパターンを連続印刷した。各水性インク組成物について、印刷の際のドット抜け、および水性インク組成物の飛び散りの有無を観察し、下記の基準に基づき吐出安定性を評価した。
A:4時間経過後でも、ドット抜け、またはインク組成物の飛び散りの発生がない。
B:3時間経過後に、ドット抜け、またはインク組成物の飛び散りの発生があった。
C:2時間経過後に、ドット抜け、またはインク組成物の飛び散りの発生があった。
【0137】
結果は下記の表3に示される通りであった。
【0138】
(5)目詰まり回復性の評価
参考例1〜9および比較例1、2の水性インク組成物を用い、以下の要領により目詰まり回復性の評価を行った。評価試験(1)で用いたインクジェットプリンタを用いて、各水性インク組成物をインクカートリッジに充填し、前記インクジェットプリンタに装着して全ノズルが正常に吐出することを確認した後、前記インクジェットプリンタを停止し、前記カートリッジを前記インクジェットプリンタより抜き取り、さらにプリンタヘッドをキャップしない状態で、40℃の環境下で1週間放置した。放置後、同一のインク組成物を充填したインクカートリッジを装着し、再び全ノズルよりインク組成物が吐出するまでに要したクリーニングの回数を調べ、下記の基準に基づき目詰まり回復性の評価を行った。
A:2回以内のクリーニングで全ノズルが回復した。
B:3〜5回のクリーニングで全ノズルが回復した。
C:6回のクリーニングでは全ノズル回復できなかった。
【0139】
結果は下記の表3に示される通りであった。
【0140】
(6)保存安定性の評価
参考例1〜9および比較例1、2の水性インク組成物を用い、以下の要領により保存安定性の評価を行った。アルミパックに各インク組成物を50g入れた状態で60℃の環境下に2週間放置した。放置後の異物(浮遊物または沈降物)の有無を目視観察し、異物の発生がないものについては、さらに物性(粘度、表面張力、pH、粒子径)の変化について調べ、下記の基準に基づき保存安定性を評価した。
A:異物の発生がなく、物性の変化もない。
B:異物の発生はないが、物性が若干変化する。
C:異物が発生するか、物性が著しく変化する。
【0141】
結果は下記の表3に示される通りであった。
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水不溶性ビニルポリマーによって被覆された有彩色顔料と、二酸化チタン顔料と、2−メチル−2−プロピル−1,3−プロパンジオールと、水とを少なくとも含んでなる、水性インク組成物。
【請求項2】
前記水不溶性ビニルポリマーが、
(1)マクロマー、
(2)ポリオキシアルキレン基含有モノマー、
(3)塩生成基含有モノマー、および、
(4)前記マクロマー、前記ポリオキシアルキレン基含有モノマー、および前記塩生成基含有モノマーの各々と共重合可能なモノマー、
を共重合させたものである、請求項1に記載の水性インク組成物。
【請求項3】
前記共重合可能なモノマーが、長鎖アルキル基含有モノマー、芳香環含有モノマーおよびマクロマーからなる群より選ばれた1種以上である、請求項2に記載の水性インク組成物。
【請求項4】
前記マクロマーが、片方の末端に重合性官能基を有するスチレン系マクロマーである、請求項2または3に記載の水性インク組成物。
【請求項5】
前記長鎖アルキル基含有モノマーが、下記一般式(I):
【化1】

(式中、R1は水素原子または低級アルキル基、R2はヘテロ原子を有してもよい炭素数16〜30の1価の炭化水素を示す)
で表されるものである、請求項2〜4のいずれか一項に記載の水性インク組成物。
【請求項6】
前記二酸化チタン顔料と前記有彩色顔料の重量比が、1:20〜5:1である請求項1〜5のいずれか一項に記載の水性インク組成物。
【請求項7】
前記二酸化チタン顔料の一次粒子径が、1μm以下である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の水性インク組成物。
【請求項8】
前記有彩色顔料が、シアン顔料である請求項1〜7のいずれか一項に記載の水性インク組成物。
【請求項9】
前記シアン顔料が、C.I.ピグメントブルー15、15:1、15:2、15:3、15:4、16からなる群より選ばれた1種以上である、請求項8に記載の水性インク組成物。
【請求項10】
一価アルコール類、グリコールエーテル、および1,2−アルカンジオール類からなる群から選択される浸透性有機溶剤を、さらに含んでなる、請求項1〜9のいずれか一項に記載の水性インク組成物。
【請求項11】
インク組成物の液滴を吐出し、該液滴を記録媒体に付着させて印字を行うインクジェット記録方法であって、請求項1〜10のいずれか一項に記載の水性インク組成物を用いる、インクジェット記録方法。
【請求項12】
請求項11に記載のインクジェット記録方法によって記録が行われた、記録物。

【公開番号】特開2007−277354(P2007−277354A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−103461(P2006−103461)
【出願日】平成18年4月4日(2006.4.4)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】