説明

水性インク組成物

【課題】種々の記録媒体に良好な画像を記録可能な、目詰まり性、保存安定性、インク均一性に優れた水性インク組成物を提供すること。
【解決手段】少なくとも1種の水不溶性の着色剤と、ワックスとを含み、前記ワックスが、融点が60℃〜110℃であって平均粒子径が30nm以上250以下nmのパラフィンワックスである、水性インク組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性インク組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式を用いた印刷方法は、インクの小滴を飛翔させて紙等の記録媒体上に付着させることにより行なう。近年のインクジェット記録方式技術の革新的な進歩により、これまで写真やオフセット印刷が用いられていた高精細な画像記録(画像印刷)の分野にもインクジェット記録方式を用いた印刷方法が用いられるようになってきた。そのため、一般に用いられる普通紙やインクジェット記録用専用紙(マット系、光沢系)のみならず印刷本紙・合成紙・フィルム等のインク非吸収性または低吸収性の記録媒体にも高品質な印刷物が求められてきている。
【0003】
近年では、上述の普通紙、インクジェット記録用専用紙に加えて、印刷本紙、ポリ塩化ビニル系基材等のフィルム系記録媒体、すなわちインク非吸収性記録媒体に対して、記録出来るようなインク組成物が検討されている。これに用いられてきた溶剤系顔料インクに代わり、安全面及び環境を保護する観点から水性インクが用いられるようになってきている。このような水性インクの一例として、具体的には、水、グリコール系溶剤、不溶性着色剤、ポリマー分散剤、シリコーン界面活性剤、フッ素化界面活性剤、水不溶性グラフトコポリマーバインダー、N−メチルピロリドンを含有するインクを用いて疎水性表面上に印刷する方法が提案されている(特許文献1参照)。さらに、沸点285℃以下の揮発性共溶剤を含む水性液体ビヒクル、酸官能化ポリマーコロイド粒子、顔料着色剤からなる非多孔性基材に印刷するためのポリマーコロイド含有水性インクジェットインクが提案されている(特許文献2参照)。また、加熱定着型インクとして特定の溶解度パラメーターを有する有機溶媒を使用して斑を防止したものも提案されている(特許文献3参照)。
【0004】
しかしながら、従来提案されている水性インクでは記録媒体上に形成された画像の印刷品質や耐擦性が充分に優れているとはいえず、それらの特性をより向上させたインク組成物が要求されていた。具体的には、異なる色間での混色や所望の領域以上に拡がってしまう現象(以下、これを「滲み」と記載する)が生じたり、塗りつぶし画像でインクが濃いところと薄いところにまだらになってしまう現象(以下、これを「濃淡ムラ」と記載する)が生じたりして、従来のインク組成物では所望の印刷品質が得られていなかった。また、従来のインク組成物による印刷物では、物が当たって擦れた際に印刷面が記録媒体から削れたり剥がれたりすることが多発しており、実用的な耐擦性が求められていた。ワックスの検討も行われているが、目詰まり性、保存安定性、インク均一性に課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−44858号公報
【特許文献2】特開2005−220352号公報
【特許文献3】特開2008−260820号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、種々の記録媒体に良好な画像を記録可能な、目詰まり性、保存安定性、インク均一性に優れた水性インク組成物を提供する事を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的は下記の発明で達成される。
(1) 少なくとも1種の水不溶性の着色剤と、ワックスとを含み、
前記ワックスが、融点が60℃〜110℃であって平均粒子径が30nm以上250以下nmのパラフィンワックスである、水性インク組成物。
(2) 前記パラフィンワックスの含有量が、0.1質量%以上3質量%以下である上記(1)に記載のインク組成物。
(3) 前記パラフィンワックスの平均粒子径が50以上200nm以下である上記(1)又は(2)に記載のインク組成物。
(4) 前記パラフィンワックスの融点が65℃以上100℃以下である、上記(1)ないし上記(3)のいずれか1項に記載のインク組成物。
(5) 1気圧下の沸点280℃以上のアルキルポリオールを実質的に含有しない、上記(1)ないし上記(4)のいずれか1項に記載のインク組成物。
【0008】
(6) 樹脂粒子を含有し、
前記樹脂粒子と前記ワックスとの合計の含有量は1質量%以上5.5質量%以下である、上記(1)ないし上記(5)のいずれか1項に記載のインク組成物。
(7) 炭素数が5〜7の範囲である1,2−アルキルジオール、樹脂粒子、ノニオン系界面活性剤、ピロリドン誘導体を含有する上記(1)ないし上記(6)のいずれか1項に記載のインク組成物。
(8) ノズル径が10μm以上30μm以下のノズルを有する吐出ヘッドより吐出される、上記(1)ないし上記(7)のいずれか1項に記載のインク組成物。
(9) 圧電素子を有する吐出ヘッドより吐出される、上記(1)ないし上記(8)のいずれか1項に記載のインク組成物。
(10) 加熱機構によって加熱された記録媒体に吐出される、上記(1)ないし上記(9)のいずれか1項に記載のインク組成物。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明に使用される水性インク組成物は、融点が60℃〜110℃であって体積基準の平均粒子径(以下、平均粒子径という)が30〜250nm、好ましくは50〜200nmのパラフィンワックスを含有することを一つの特徴とする。
【0010】
以下、本発明に好適な実施形態について、詳細に説明する。
1. 水性インク組成物
本発明における水性インク組成物は、少なくとも水不溶性の着色剤と、融点が60℃〜110℃であって平均粒子径が30〜250nm、好ましくは50〜200nmのパラフィンワックスを含んでなることを特徴とする。また、本発明における水性インク組成物は上記成分以外の成分をさらに含んでいてもよく、好ましくは炭素数が5〜7の範囲である1,2−アルキルジオール、樹脂粒子、ノニオン系界面活性剤、ピロリドン誘導体及びパラフィンワックス以外のワックス等を含んでよい。
以下に、これら構成材料について詳細に説明する。
【0011】
1.1 着色剤
本発明における水性インク組成物は、水不溶性の着色剤を含有する。
水不溶性の着色剤としては、水不溶性の着色剤は顔料が好ましく、水溶性樹脂でインク中に分散されているのが望ましい。顔料は、水に不溶あるいは難溶であるだけでなく光やガス等に対しても退色しにくい性質を有している。このため、顔料を用いたインク組成物で印刷した印刷物は、耐水性、耐ガス性、耐光性等に優れ、保存性が良好となるからである。顔料として、公知の無機顔料、有機顔料及びカーボンブラックのいずれも用いることができる。これらの中でも、発色が良好であって、比重が小さいために分散時に沈降しにくい観点から、カーボンブラック、有機顔料が好ましい。
【0012】
カーボンブラックの好ましい具体例としては、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、もしくはチャンネルブラック等(C.I.ピグメントブラック7)、また市販品としてNo.2300、900、MCF88、No.20B、No.33、No.40、No.45、No.52、MA7、MA8、MA100、No2200B等(以上全て商品名、三菱化学株式会社製)、カラーブラックFW1、FW2、FW2V、FW18、FW200、S150、S160、S170、プリテックス35、U、V、140U、スペシャルブラック6、5、4A、4、250等(以上全て商品名、デグサ社製)、コンダクテックスSC、ラーベン1255、5750、5250、5000、3500、1255、700等(以上全て商品名、コロンビアカーボン社製)、リガール400R、330R、660R、モグルL、モナーク700、800、880、900、1000、1100、1300、1400、エルフテックス12等(以上全て商品名、キャボット社製)が挙げられる。
なお、これらは本発明に好適なカーボンブラックの一例の記載であり、これらによって本発明が限定されるものではない。
これらのカーボンブラックは単独あるいは二種類以上の混合物として用いてもよい。
これらのカーボンブラックの含有量は、ブラックインク組成物全量に対して0.1質量%〜20質量%、好ましくは0.5質量%〜10質量%である。
【0013】
本発明で好ましい有機顔料としては、キナクリドン系顔料、キナクリドンキノン系顔料、ジオキサジン系顔料、フタロシアニン系顔料、アントラピリミジン系顔料、アンサンスロン系顔料、インダンスロン系顔料、フラバンスロン系顔料、ペリレン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、ペリノン系顔料、キノフタロン系顔料、アントラキノン系顔料、チオインジゴ系顔料、ベンツイミダゾロン系顔料、イソインドリノン系顔料、アゾメチン系顔料またはアゾ系顔料等が挙げられる。
本発明による水性インク組成物に用いられる有機顔料の具体例としては、下記のものが挙げられる。
シアンインク組成物に使用される顔料としては、C.I.ピグメントブルー1、2、3、15:3、15:4、15:34、16、22、60、C.I.バットブルー4、60等が挙げられ、好ましくは、C.I.ピグメントブルー15:3、15:4、及び60からなる群から選択される単独あるいは二種類以上の混合物である。
また、これらの顔料の含有量は、シアンインク組成物全量に対して0.1質量%〜20質量%程度、好ましくは0.5質量%〜10質量%程度である。
マゼンタインク組成物に使用される顔料としては、C.I.ピグメントレッド5、7、12、48(Ca)、48(Mn)、57(Ca)、57:1、112、122、123、168、184、202、209、C.I.ピグメントバイオレット19等が挙げられ、好ましくはC.I.ピグメントレッド122、202、209、及びC.I.ピグメントバイオレット19からなる群から選択される単独あるいは二種類以上の混合物である。
また、これらの顔料の含有量は、マゼンタインク組成物全量に対して0.1質量%〜20質量%程度、好ましくは0.5質量%〜10質量%程度である。
イエローインク組成物に使用される顔料としては、C.I.ピグメントイエロー1、2、3、12、13、14C、16、17、73、74、75、83、93、95、97、98、109、110、114、128、129、138、150、151、154、155、180、185、213等が挙げられ、好ましくはC.I.ピグメントイエロー74、155、180、213からなる群から選択される単独あるいは二種類以上の混合物である。
また、これらの顔料の含有量は、イエローインク組成物全量に対して0.1質量%〜20質量%程度、好ましくは0.5質量%〜10質量%程度である。
【0014】
上記の顔料を水性インク組成物に適用するためには、顔料が水中で安定的に分散保持できるようにする必要がある。
その方法としては、水溶性樹脂及び/または水分散性樹脂等の樹脂分散剤にて分散させる方法(以下、この方法により処理された顔料を「樹脂分散顔料」と記載する)、水溶性界面活性剤及び/または水分散性界面活性剤の界面活性剤にて分散させる方法(以下、この方法により処理された顔料を「界面活性剤分散顔料」と記載する)、顔料粒子表面に親水性官能基を化学的・物理的に導入し、上記の樹脂あるいは界面活性剤等の分散剤なしで水中に分散及び/または溶解可能とする方法(以下、この方法により処理された顔料を「表面処理顔料」と記載する)等が挙げられる。
本発明における水性インク組成物は、上記の樹脂分散顔料、界面活性剤分散顔料、表面処理顔料のいずれも用いることができ、必要に応じて複数種混合した形で用いることもできる。特に、樹脂分散顔料は、水性インク記録物が記録媒体に付着したときに、記録媒体とインク組成物、および/または、インク組成物中の固化物間の密着性を高めることがあり好ましい。また、表面処理顔料は、顔料の分散安定性を高め、該水性インク組成物の保存安定性を良好にする点で好ましい。
【0015】
樹脂分散顔料に用いられる樹脂分散剤としては、ポリビニルアルコール類、ポリアクリル酸、アクリル酸−アクリルニトリル共重合体、酢酸ビニル−アクリル酸エステル共重合体、アクリル酸−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−α―メチルスチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−α―メチルスチレン−アクリル酸−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、ビニルナフタレン−アクリル酸共重合体、ビニルナフタレン−マレイン酸共重合体、酢酸ビニル−マレイン酸エステル共重合体、酢酸ビニル−クロトン酸共重合体、酢酸ビニル−アクリル酸共重合体等及びこれらの塩が挙げられる。
これらの中で、特に疎水性官能基を有するモノマーと親水性官能基を持つモノマーとの共重合体、疎水性官能基と親水性官能基とを併せ持つモノマーからなる重合体が好ましい。
共重合体の形態としては、ランダム共重合体、ブロック共重合体、交互共重合体、グラフト共重合体のいずれの形態でも用いることができる。
【0016】
上記の塩としては、アンモニア、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ジプロピルアミン、ブチルアミン、イソブチルアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、アミノメチルプロパノール、モルホリン等の塩基性化合物との塩が挙げられる。
これら塩基性化合物の添加量は、上記樹脂分散剤の中和当量以上であれば特に制限はない。
【0017】
上記樹脂分散剤の分子量は、重量平均分子量として1,000〜100,000の範囲であることが好ましく、3,000〜10,000の範囲であることがより好ましい。
分子量が上記範囲であることにより、着色剤の水中での安定的な分散が得られ、また水性インク組成物に適用した際の粘度制御等がしやすい。
【0018】
また、酸価としては50〜300の範囲であることが好ましく、70〜150の範囲であることがより好ましい。
酸価がこの範囲であることにより、着色剤粒子の水中での分散性が安定的に確保でき、またこれを用いた水性インク組成物にて印刷された印刷物の耐水性が良好である。
【0019】
以上述べた樹脂分散剤としては市販品を用いることもできる。
詳しくは、ジョンクリル67(重量平均分子量:12,500、酸価:213)、ジョンクリル678(重量平均分子量:8,500、酸価:215)、ジョンクリル586(重量平均分子量:4,600、酸価:108)、ジョンクリル611(重量平均分子量:8,100、酸価:53)、ジョンクリル680(重量平均分子量:4,900、酸価:215)、ジョンクリル682(重量平均分子量:1,700、酸価:238)、ジョンクリル683(重量平均分子量:8,000、酸価:160)、ジョンクリル690(重量平均分子量:16,500、酸価:240)(以上商品名、BASFジャパン株式会社製)等が挙げられる。
【0020】
また、界面活性剤分散顔料に用いられる界面活性剤としては、アルカンスルホン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アシルメチルタウリン酸塩、ジアルキルスルホ琥珀酸塩、アルキル硫酸エステル塩、硫酸化オレフィン、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、アルキルリン酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル塩、モノグリセライトリン酸エステル塩等のアニオン性界面活性剤、アルキルピリジウム塩、アルキルアミノ酸塩、アルキルジメチルベタイン等の両性界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンアルキルアミド、グリセリンアルキルエステル、ソルビタンアルキルエステル等のノニオン性界面活性剤が挙げられる。
【0021】
上記樹脂分散剤または上記界面活性剤の顔料に対する添加量は、顔料100質量部に対して好ましくは1質量部〜100質量部であり、より好ましくは5質量部〜50質量部である。この範囲であることにより、顔料の水中への分散安定性が確保できる。
【0022】
また、表面処理顔料としては、親水性官能基として、−OM、−COOM、−CO−、−SO3M、−SO2NH2、−RSO2M、−PO3HM、−PO32、−SO2NHCOR、−NH3、−NR3(但し、式中のMは、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム又は有機アンモニウムを表し、Rは、炭素数1〜12のアルキル基、置換基を有していてもよいフェニル基または置換基を有していてもよいナフチル基を示す。
)等が挙げられる。
これらの官能基は、顔料粒子表面に直接及び/または多価の基を介してグラフトされることによって、物理的及び/または化学的に導入される。
多価の基としては、炭素数が1〜12のアルキレン基、置換基を有していてもよいフェニレン基又は置換基を有していてもよいナフチレン基等を挙げることができる。
【0023】
また、前記の表面処理顔料としては、硫黄を含む処理剤によりその顔料粒子表面に−SO3M及び/または−RSO2M(Mは対イオンであって、水素イオン、アルカリ金属イオン、アンモニウムイオン、又は有機アンモニウムイオンを示す。)が化学結合するように表面処理されたもの、すなわち、前記顔料が、活性プロトンを持たず、スルホン酸との反応性を有せず、顔料が不溶ないしは難溶である溶剤中に、顔料を分散させ、次いでアミド硫酸、又は三酸化硫黄と第三アミンとの錯体によりその粒子表面に−SO3M及び/または−RSO2Mが化学結合するように表面処理され、水に分散及び/または溶解が可能なものとされたものであることが好ましい。
【0024】
一つの顔料粒子にグラフトされる官能基は単一でも複数種であってもよい。
グラフトされる官能基の種類及びその程度は、インク中での分散安定性、色濃度、及びインクジェットヘッド前面での乾燥性等を考慮しながら適宜決定されてよい。
【0025】
以上述べた樹脂分散顔料、界面活性剤分散顔料、表面処理顔料を水中に分散させる方法としては、樹脂分散顔料については顔料と水と樹脂分散剤、界面活性剤分散顔料については顔料と水と界面活性剤、表面処理顔料については表面処理顔料と水、また各々に必要に応じて水溶性有機溶剤・中和剤等を加えて、ボールミル、サンドミル、アトライター、ロールミル、アジテータミル、ヘンシェルミキサー、コロイドミル、超音波ホモジナイザー、ジェットミル、オングミル等の従来用いられている分散機にて行なうことができる。
この場合、顔料の平均粒子径としては、平均粒子径で20nm〜500nmの範囲になるまで、より好ましくは50nm〜200nmの範囲になるまで分散することが、顔料の水中での分散安定性を確保する点で好ましい。
【0026】
1.2 水
本発明における水性インク組成物は、水を含有する。
水は、前記水性インク組成物の主となる媒体であり、後述する第2の工程(乾燥工程)において蒸発飛散する成分である。水は、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水または超純水のようなイオン性不純物を極力除去したものであることが好ましい。また、紫外線照射または過酸化水素添加等により滅菌した水を用いると、顔料分散液及びこれを用いた水性インク組成物を長期保存する場合にカビやバクテリアの発生を防止することができるので好適である。なお、水の含有量は特に限定されないが50質量%以上である事が好ましい。
【0027】
1.3 ワックス
1.3.1 パラフィンワックス
本発明における水性インク組成物はワックスとしての、パラフィンワックスを必須として含む。パラフィンワックスはいわゆる石油系ワックスであり、炭素数20〜30位の直鎖状のパラフィン系炭化水素(ノルマル・パラフィン)を主成分とし、少量のイソ・パラフィンを含む分子量300〜500程度の炭化水素の混合物をいう。パラフィンワックスを含むことによって、定着・固化性に優れ、目詰まり性(吐出安定性)も優れたインク組成物となる。なお、本発明において「ワックス」とは、インク組成物中に複数種類のワックスが添加されている場合はそれら全てを指すものとする。
【0028】
また、本発明のパラフィンワックスは融点が60℃〜110℃であって平均粒子径が30〜250nmである。好ましくは平均粒子径が50〜200nmのパラフィンワックスを配合することにより記録物にスリップ性が付与され、それにより耐擦性が向上する。また、パラフィンワックスは撥水性を持つため、適量であれば記録物の耐水性を向上させることができる。好ましくはパラフィンワックスの融点が65℃〜100℃である。パラフィンワックスの融点が60℃未満では、記録面が乾燥せずにべたつく。一方、パラフィンワックスの融点が110℃を超えると、パラフィンワックスが固化してインクジェット記録ヘッドの目詰まりが起こり易い。さらに、平均粒子径が30nm未満では、インク中においてパラフィンワックスの分散が不安定になるためインクが増粘し保存安定性が実用レベル以下になる。平均粒子径が250nmを超えるとインク中に均一に分散しにくくなる。
【0029】
本発明では、パラフィンワックスは微粒子状態(すなわち、エマルジョン状態またはサスペンジョン状態)で含有されていることが好ましい。パラフィンワックスを微粒子状態で含有することにより、水性インク組成物の粘度をインクジェット記録方式において適正な範囲に調整しやすく、また保存安定性・吐出安定性を確保しやすい。
パラフィンワックスの含有量は、水性インク組成物全量に対して、固形分換算で0.1質量%〜3質量%、より好ましくは0.1質量%〜1.5質量%の範囲であり、一層好ましくは0.5質量%〜1.5質量%の範囲である。
【0030】
1.3.2 パラフィンワックス以外のワックス
本発明における水性インク組成物は、好ましくは上記パラフィンワックス以外のワックスを含む。パラフィンワックス以外のワックスは、パラフィンワックスと同様、形成された印刷物の表面にスリップ性を付与し耐擦性を向上させる機能を有する。パラフィンワックス以外のワックスは水性インク組成物に微粒子状態(すなわち、エマルジョン状態またはサスペンジョン状態)で含有されていることが好ましい。これにより、水性インク組成物の粘度をインクジェット記録方式において適正な範囲に調整しやすく、また保存安定性・吐出安定性を確保しやすい。
【0031】
上記のパラフィンワックス以外のワックスを構成する成分としては、例えばカルナバワックス、キャンデリワックス、みつろう、ライスワックス、ラノリン等の植物・動物系ワックス;マイクロクリスタリンワックス、ポリエチレンワックス、酸化ポリエチレンワックス、ペトロラタム等の石油系ワックス;モンタンワックス、オゾケライト等の鉱物系ワックス;カーボンワックス、ヘキストワックス、ポリオレフィンワックス、ステアリン酸アミド等の合成ワックス類、α−オレフィン・無水マレイン酸共重合体等の天然・合成ワックスエマルジョンや配合ワックス等を単独あるいは複数種を混合して用いることができる。この中で好ましい種類としてはポリオレフィンワックスであり、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックスが好ましく、ポリエチレンワックスが最も好ましい。
また、市販品をそのまま利用することもでき、例えばノプコートPEM17(商品名、サンノプコ株式会社製)、ケミパールW4005(商品名、三井化学株式会社製)、AQUACER515、AQUACER593(以上商品名、ビックケミー・ジャパン株式会社製)等が挙げられる。パラフィンワックス以外のワックスの平均粒子径は、水性インク組成物の保存安定性・吐出安定性を確保する点から、好ましくは5nm〜400nmの範囲であり、より好ましくは50nm〜200nmの範囲である。
【0032】
パラフィン以外のワックスの含有量は、水性インク組成物全量に対して、固形分換算で好ましくは5質量%以下であり、より好ましくは0.1質量%〜1質量%の範囲である。この範囲内であることにより、インク非吸収性または低吸収性の記録媒体上においても良好な固化・定着性を有する。また、好ましくは、本発明のインクジェット記録方法の後述する加熱工程と組み合わせることで、水性インク組成物を一層良好に固化・定着させることができる。
【0033】
1.4 その他好ましい構成材料
1.4.1 炭素数が5〜7の範囲である1,2−アルキルジオール類
本発明における水性インク組成物は、炭素数が5〜7(以下、C5〜7と略記することもある)の範囲である1,2−アルキルジオール類を含んでもよい。C5〜7の1,2−アルキルジオール類は、加熱機構によって加熱されたプラスチック、フィルム、ガラス等のインク非吸収性の記録媒体と組み合わせると一層好ましい。
C5〜7の1,2−アルキルジオール類は記録媒体に対する水性インク組成物の濡れ性をさらに高めて均一に濡らす作用、及び浸透性をさらに高める効果を有する。そのため、水性インク組成物にC5〜7の1,2−アルキルジオール類を含有させることで、さらにインクの濃淡ムラや滲みを低減させることができる。
【0034】
C5〜7の1,2−アルキルジオール類として、具体的には、1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−ヘプタンジオール、、4−メチル−1,2−ペンタンジオール等が挙げられる。
【0035】
C5〜7の1,2−アルキルジオール類の添加量は、水性インク組成物の保存安定性・吐出安定性確保の観点から、水性インク組成物全量に対して好ましくは0.5質量%〜20質量%の範囲、より好ましくは1質量%〜8質量%の範囲である。C5〜7の1,2−アルキルジオール類の含有量が0.5質量%未満であると、記録媒体に対する水性インク組成物の濡れ性が乏しくなって印刷物に濃淡ムラや滲みが発生してしまう場合がある。また20質量%より多くした場合、水性インク組成物の粘度がインクジェット記録方式において適正な範囲に収めることが困難となり吐出が不安定化したり、長期間に渡る水性インク組成物の保存安定性が確保し難くなる場合がある。より好ましい1質量%〜8質量%の範囲であると、本発明のインクジェット記録方法の後述する加熱工程を経れば、C5〜7の1,2−アルキルジオール類の蒸発飛散速度が充分速いため、結果的に印刷物の乾燥が迅速となって印刷速度が向上するという格別な効果がある。また印刷工程中での臭気の点でも問題が出ない。
【0036】
1.4.2 樹脂粒子
本発明における水性インク組成物は、好ましくは樹脂粒子を含む。なお、樹脂粒子は前述に記載するワックスは含まない。また、樹脂粒子としては熱可塑性樹脂を用いるのが好ましい。
水性インク組成物に樹脂粒子を含有させることにより、記録媒体上により耐擦性に優れた画像を形成することができる。特に、塩化ビニルフィルム・ポリプロピレンフィルム・ポリエチレンテレフタレート等のインク非吸収性またはインク低吸収性の記録媒体上に該樹脂粒子を含んだ水性インク組成物を用いて印刷する際においては、本発明のインクジェット記録方法の加熱工程と組み合わせることで、耐擦性にさらに優れる画像が得られる。なお、記録媒体がインク低吸収性、非吸収性のものに限定されるわけではない。
その理由は、本発明のインクジェット記録方法の後述する加熱工程において、該樹脂粒子が、インクを固化させさらにインク固化物を記録媒体上に強固に定着させる作用を有するためであり、加熱によってこの作用をより高めることができる。
特に本発明における水性インク組成物には、該樹脂粒子は微粒子状態(すなわち、エマルジョン状態またはサスペンジョン状態)で含有されていることが好ましい。樹脂粒子を微粒子状態で含有することにより、水性インク組成物の粘度をインクジェット記録方式において適正な範囲に調整しやすく、また保存安定性・吐出安定性を確保しやすい。
以下、樹脂粒子について詳細に説明する。
【0037】
樹脂粒子の成分としては、例えば、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、アクリロニトリル、シアノアクリレート、アクリルアミド、オレフィン、スチレン、酢酸ビニル、塩化ビニル、ビニルアルコール、ビニルエーテル、ビニルピロリドン、ビニルピリジン、ビニルカルバゾール、ビニルイミダゾール、塩化ビニリデンの単独重合体もしくは共重合体、フッ素樹脂、天然樹脂等が挙げられる。なお、共重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体、交互共重合体、グラフト共重合体のいずれの形態でも用いることができる。樹脂粒子として好ましくは、アクリル系樹脂またはスチレン−アクリル酸共重合体系樹脂である。
【0038】
また、市販品を用いることもでき、例えば、マイクロジェルE−1002、マイクロジェルE−5002(以上商品名、日本ペイント株式会社製)、ボンコート4001、ボンコート5454(以上商品名、大日本インキ化学工業株式会社製)、SAE1014(商品名、日本ゼオン株式会社製)、サイビノールSK−200(商品名、サイデン化学株式会社製)、ジョンクリル7100、ジョンクリル390、ジョンクリル711、ジョンクリル511、ジョンクリル7001、ジョンクリル632、ジョンクリル741、ジョンクリル450、ジョンクリル840、ジョンクリル74J、ジョンクリルHRC−1645J、ジョンクリル734、ジョンクリル852、ジョンクリル7600、ジョンクリル775、ジョンクリル537J、ジョンクリル1535、ジョンクリルPDX−7630A、ジョンクリル352J、ジョンクリル352D、ジョンクリルPDX−7145、ジョンクリル538J、ジョンクリル7640、ジョンクリル7641、ジョンクリル631、ジョンクリル790、ジョンクリル780、ジョンクリル7610(以上商品名、BASFジャパン株式会社製)等が挙げられる。
【0039】
上記の樹脂粒子は、以下に示す方法で得られ、そのいずれの方法でもよく、必要に応じて複数の方法を組み合わせてもよい。その方法としては、所望の樹脂粒子を構成する成分の単量体中に重合触媒(重合開始剤)と分散剤とを混合して重合(すなわち乳化重合)する方法、親水性部分を持つ樹脂を水溶性有機溶剤に溶解させその溶液を水中に混合した後に水溶性有機溶剤を蒸留等で除去することで粒子を得る方法、樹脂を非水溶性有機溶剤に溶解させその溶液を分散剤と共に水溶液中に混合して粒子を得る方法等が挙げられる。上記の方法は、用いる樹脂の種類・特性に応じて適宜選択することができる。
樹脂を微粒子状態に分散する際に用いることのできる分散剤としては、特に制限はないが、アニオン性界面活性剤(例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム塩、ラウリルリン酸ナトリウム塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェートアンモニウム塩等)、ノニオン性界面活性剤(例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等)を挙げることができ、これらを単独あるいは二種以上を混合して用いることができる。
【0040】
樹脂粒子の平均粒子径は、水性インク組成物の保存安定性・吐出安定性を確保する点から、好ましくは5nm〜400nmの範囲であり、より好ましくは20nm〜300nmの範囲である。
【0041】
樹脂粒子の含有量は、水性インク組成物全量に対して、固形分換算で好ましくは15質量%以下であり、より好ましくは0.2質量%〜10質量%の範囲である。この範囲内であることにより、インク非吸収性または低吸収性の記録媒体上においても、水性インク組成物を固化・定着させることができる。
【0042】
本発明において上述した樹脂粒子及びワックスを併用した場合に印刷物の耐擦性が良好となる理由はいまだ明らかではないが、下記のように推察される。
樹脂粒子を構成する成分は構成する成分は、インク非吸収性または低吸収性の記録媒体及び水不溶性の着色剤に対して良好な親和性を有するため、加熱工程において樹脂皮膜を形成する際に着色剤を包み込みながら記録媒体上に強固に定着する。一方、ワックスの成分は、樹脂皮膜の表面にも存在しており、樹脂皮膜表面の摩擦抵抗を低減する特性を有する。これにより、外部からの擦れによって削れにくく、かつ記録媒体から剥がれにくい樹脂皮膜を形成することができるため、印刷物の耐擦性が向上するものと推察される。
【0043】
樹脂粒子とワックスの含有比率は、固形分換算で樹脂粒子:ワックス=10:3〜10:32の範囲であることが好ましい。この範囲内であると、上述した機構が良好に働くため印刷物の耐擦性が良好となる。また、樹脂粒子とワックスとの合計の含有量は、0.5質量%〜6.5質量%であるのが好ましく、より好ましくは1質量%〜5.5質量%である。
【0044】
1.4.4 ノニオン系界面活性剤
本発明における水性インク組成物は、好ましくはノニオン系界面活性剤を含む。
ノニオン系界面活性剤は、記録媒体上で水性インク組成物を均一に拡げる作用がある。
そのためこれを含む水性インク組成物を用いた場合、濃淡ムラや滲みがより少なくより鮮明な画像が得られるという効果を有する。なお、ノニオン系界面活性剤が好ましく用いられるが、アニオン系、カチオン系の界面活性剤であっても良い。
このような効果を有するノニオン系界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル系、ポリオキシプロピレンアルキルエーテル系、多環フェニルエーテル系、ソルビタン誘導体、フッ素系、シリコーン系、アセチレングリコール系等が挙げられる。
この中でも特に上述した効果に優れ、また本発明における水性インク組成物に好適に用いられる前記C5〜7の1,2−アルキルジオール類との相溶性・相乗効果に優れるものとして、シリコーン系界面活性剤とアセチレングリコール系界面活性剤が好ましい。
【0045】
1.4.4.1 シリコーン系界面活性剤
本発明における水性インク組成物は、好ましくはシリコーン系界面活性剤を含有する。
シリコーン系界面活性剤は、記録媒体上でインクの濃淡ムラや滲みを生じないように均一に広げる作用が他のノニオン系界面活性剤と比較して優れている。また本発明における水性インク組成物に好ましく添加できる前記C5〜7の1,2−アルキルジオール類との相溶性・特性の相乗効果に優れる。
シリコーン系界面活性剤の含有量は、水性インク組成物全量に対して、好ましくは1.5質量%以下の範囲である。シリコーン系界面活性剤の含有量が1.5質量%を超えると、水性インク組成物の保存安定性・吐出安定性が確保できない場合がある。
【0046】
シリコーン系界面活性剤としては、ポリシロキサン系化合物等が好ましく用いられ、例えば、ポリエーテル変性オルガノシロキサン等が挙げられる。
より詳しくは、BYK−306、BYK−307、BYK−333、BYK−341、BYK−345、BYK−346、BYK−348(以上商品名、ビックケミー・ジャパン株式会社製)、KF−351A、KF−352A、KF−353、KF−354L、KF−355A、KF−615A、KF−945、KF−640、KF−642、KF−643、KF−6020、X−22−4515、KF−6011、KF−6012、KF−6015、KF−6017(以上商品名、信越化学株式会社製)等が挙げられる。
【0047】
1.4.4.2 アセチレングリコール系界面活性剤
本発明における水性インク組成物は、好ましくはアセチレングリコール系界面活性剤を含有する。
アセチレングリコール系界面活性剤は、他のノニオン系界面活性剤と比較して、表面張力及び界面張力を適正に保つ能力に優れており、かつ起泡性がほとんどないという特性を有する。これにより、アセチレングリコール系界面活性剤を含有する水性インク組成物は、表面張力及びヘッドノズル面等のインクと接触するプリンタ部材との界面張力を適正に保つことができるため、これをインクジェット記録方式に適用した場合、吐出安定性を高めることができる。また、アセチレングリコール系界面活性剤は、前記C5〜7の1,2−アルキルジオール類と同様に記録媒体に対して良好な濡れ性・浸透剤として作用するため、これを含んだ水性インク組成物による印刷画像は濃淡ムラや滲みの少ない高精細なものとなる。アセチレングリコール系界面活性剤の含有量は、水性インク組成物全量に対して、好ましくは1.0質量%以下である。アセチレングリコール系界面活性剤の含有量が1.0質量%を超えると、水性インク組成物の保存安定性・吐出安定性が確保できない場合がある。
【0048】
アセチレングリコール系界面活性剤として、例えば、サーフィノール104、104E、104H、104A、104BC、104DPM、104PA、104PG−50、104S、420、440、465、485、SE、SE−F、504、61、DF37、CT111、CT121、CT131、CT136、TG、GA、DF110D(以上全て商品名、Air Products and Chemicals. Inc.社製)、オルフィンB、Y、P、A、STG、SPC、E1004、E1010、PD−001、PD−002W、PD−003、PD−004、EXP.4001、EXP.4036、EXP.4051、AF−103、AF−104、AK−02、SK−14、AE−3(以上全て商品名、日信化学工業株式会社製)、アセチレノールE00、E00P、E40、E100(以上全て商品名、川研ファインケミカル株式会社製)等が挙げられる。
【0049】
1.4.5 ピロリドン誘導体
本発明における水性インク組成物は、好ましくはピロリドン誘導体を含有する。
ピロリドン誘導体は、上述した樹脂粒子に対して良好な溶解剤または軟化剤として作用することで、インク乾燥時に樹脂粒子による皮膜形成を促進して、インク非吸収性または低吸収性の記録媒体上でのインクの固化・定着を促進する作用を有する。ピロリドン誘導体の含有量は、水性インク組成物全量に対して、好ましくは5質量%〜25質量%である。好ましくは13質量%〜25質量%である。一層好ましくは15質量%〜20質量%である。
【0050】
ピロリドン誘導体として、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、N−ビニル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、N−ブチル−2−ピロリドン、5−メチル−2−ピロリドン等の低分子化合物が挙げられる。この中で特に、水性インク組成物の保存性確保の点、樹脂粒子の皮膜形成促進の点、及び臭気が比較的少ない点で、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドンが好ましい。
【0051】
なお、インク組成物は、インク低吸収性およびインク非吸収性の被記録媒体に対する記録に用いられることが好ましい。インク低吸収性およびインク非吸収性の被記録媒体は、インクが浸透しにくい性質を備えているので、付着したインクの乾燥性に優れない場合がある。この場合に、インク組成物では、インク低吸収性およびインク非吸収性の被記録媒体に付着した際の乾燥性を向上させるために、1気圧下の沸点が280℃以上のアルキルポリオールを実質的に含有しないことが好ましい。なお、本明細書において「アルキルポリオールを実質的に含有しない」とは、インク中において、0.1質量%以上含有しないこと、より好ましくは0.05質量%以上含有しないこと、さらに好ましくは0.01質量%以上含有しないことをいう。1気圧下の沸点が280℃以上のアルキルポリオールの代表例としては、グリセリン(沸点;290℃)が挙げられる。
【0052】
1.5 その他の有機溶剤成分
本発明における水性インク組成物は、保湿作用を持つあるいは低表面張力である溶剤をさらに含有することができる。例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1、6−ヘキサンジオール、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、エチレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、エチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、トリエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、1−メチル−1−メトキシブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、iso−プロピルアルコール、2,2−ジメチル−1−プロパノール、n−ブタノール、2−ブタノール、tert−ブタノール、iso−ブタノール、2−メチル−1−ブタノール、3−メチル−1−ブタノール、3−メチル−2−ブタノール、n−ペンタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、tert−ペンタノール等の水溶性の溶剤が挙げられる。
【0053】
1.6 その他の添加成分
本発明における水性インク組成物は、以上に述べた好ましい構成材料の他に、さらにその特性を向上させる点でpH調整剤、防腐剤・防かび剤、キレート化剤等を添加することができる。
【0054】
pH調整剤としては、例えば、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム、アンモニア、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等が挙げられる。
【0055】
防腐剤・防かび剤としては、例えば、安息香酸ナトリウム、ペンタクロロフェノールナトリウム、2−ピリジンチオール−1−オキサイドナトリウム、ソルビン酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、1,2−ジベンジソチアゾリン−3−オン等が挙げられる。市販品では、プロキセルXL2、プロキセルGXL(以上商品名、アビシア社製)や、デニサイドCSA、NS−500W(以上商品名、ナガセケムテックス株式会社製)等が挙げられる。
【0056】
防錆剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール等が挙げられる。
【0057】
キレート化剤としては、例えば、エチレンジアミン四酢酸及びそれらの塩類(エチレンジアミン四酢酸二水素二ナトリウム塩等)等が挙げられる。
【0058】
1.7 水性インク組成物の物性
水性インク組成物の粘度は、20℃において1.5mPa・s〜15mPa・sの範囲であることが好ましい。この範囲内であれば、吐出ヘッドからのインクの吐出安定性を確保することができる。水性インク組成物の粘度は、振動式粘度計VM−100AL(山一電機株式会社製)を用いて、水性インク組成物の温度を20℃に保持することで測定できる。
【0059】
水性インク組成物の表面張力は、25℃において20mN/m〜40mN/mであることが好ましく、25mN/m〜35mN/mであることがより好ましい。この範囲内であれば、吐出ヘッドからのインクの吐出安定性を確保することができ、インク非吸収性または低吸収性の記録媒体に対する適正な濡れ性を確保することができる。水性インク組成物の表面張力は、表面張力計CBVP−Z(協和界面科学株式会社製)を用いて測定できる。
【0060】
1.8 水性インク組成物の製造方法
本発明における水性インク組成物は、上述した材料を任意な順序で混合し、必要に応じて濾過等をして不純物を除去することにより得られる。ここで、着色剤は、あらかじめ水性媒体中に均一に分散させた状態に調製した上で混合した方が、取り扱いの簡便さ等から好ましい。
【0061】
各材料の混合方法としては、メカニカルスターラー、マグネチックスターラー等の撹拌装置を備えた容器に順次材料を添加して撹拌混合する方法が好適に用いられる。濾過方法としては、遠心濾過、フィルター濾過等を必要に応じて行なうことができる。
【0062】
2. インクジェット記録方法
次に、本発明のインクジェット記録方法の各工程について詳細に説明する。本発明のインクジェット記録方法は、普通紙、インクジェット記録用専用紙(マット系、光沢系)、印刷本紙、合成紙、フィルム、プラスチック、布帛、等にインク組成物を吐出する。記録媒体上に上述した水性インク組成物の液滴を吐出して形成された画像を加熱する加熱工程を有する事が好ましい。また、加熱工程(機構)を有する場合は、インク非吸収性又は低吸収性の記録媒体であるのが好ましい。ここで、本明細書において「インク非吸収性及び低吸収性の記録媒体」とは、「ブリストー(Bristow)法において接触開始から30msec1/2までの水吸収量が10mL/m以下である記録媒体」を示す。このブリストー法は、短時間での液体吸収量の測定方法として最も普及している方法であり、日本紙パルプ技術協会(JAPAN TAPPI)でも採用されている。試験方法の詳細は「JAPAN TAPPI紙パルプ試験方法2000年版」の規格No.51「紙及び板紙−液体吸収性試験方法−ブリストー法」に述べられている。
【0063】
2.1 加熱工程(機構)
本発明のインク組成物は加熱工程を備えていると好ましい。加熱工程で、インクジェット記録装置に備えられたプリントヒーター等で40℃以上110℃以下の温度範囲に加熱した記録媒体上に、水性インク組成物を液滴として吐出する。加熱工程は、特にインク非吸収性または低吸収性の記録媒体と組み合わせることで、水の蒸発、ワックスや樹脂粒子の定着などを促進してより良好な効果を発揮する。なお、加熱温度は、インク組成物が接触する記録媒体表面の温度である。このとき、加熱機構を二段階に分けて行う場合には、第一加熱工程では40℃以上80℃以下の温度範囲で、第二加熱工程では50℃以上110℃以下の温度範囲で、記録媒体の耐熱性に応じて適宜調整することが好ましい。また、第一加熱工程の加熱は、記録媒体への画像記録中に行われ、第二加熱工程の加熱は、記録が終了した後に行われるのが好ましい。また、第二加熱工程の加熱温度は第一加熱工程の加熱温度超である事が好ましい。
【0064】
加熱工程は水性インク組成物中に存在する液媒体の蒸発飛散を促進させる方法であれば特に限定されない。例えば、記録媒体に熱を加える方法、記録媒体上の水性インク組成物に風を吹きつける方法、さらにそれらを組み合わせる方法等が挙げられる。具体的には、強制空気加熱等、輻射加熱、伝導加熱、高周波乾燥、マイクロ波乾燥等の温風処理やヒーターによる加熱が好ましく用いられる。
【0065】
2.2 吐出ヘッド
インク組成物を吐出する方式としては、例えば圧電素子方式、サーマルジェット方式、静電吸引方式等、公知の吐出方式を用いることが出来る。中でも圧電素子方式は本発明を適用するのに好ましい。圧電素子方式の場合は、圧電素子の撓み量によってインク組成物を吐出し、液適量を自在に調整可能であり、高精彩な画像を記録するのに適している。一方で、液適量を自在に調整する際に、ノズル付近のインク組成物の乾燥、固化の影響を受けやすいため、目詰まり性に優れるパラフィンワックスは適している。さらに、1気圧下の沸点が280℃以上のアルキルポリオールを実質的に含有しないインク組成物に組み合わせる際に一層効果的である。
【0066】
吐出ヘッドのノズル径としては特に限定されないが、5μm以上35μm以下であるのが好ましく、一層好ましくは10μm以上30μm以下である。上述の範囲にノズル径があることで、ノズル付近の乾燥を防止しつつ、インクジェット方式を用いて記録する場合の良好な液適量を確保する事が出来る。
【実施例】
【0067】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0068】
1.顔料分散液の調製
本実施例で使用する水性インク組成物は、着色剤として水不溶性の顔料を使用した。顔料を水性インク組成物に添加する際には、あらかじめ該顔料を樹脂分散剤で分散させた樹脂分散顔料を用いた。顔料分散物は以下のようにして調製した。
【0069】
高分子分散剤(メタクリル酸/ブチルアクリレート/スチレン/ヒドロキシエチルアクリレート=25/50/15/10の質量比で共重合したもの。重量平均分子量12,000)40質量部を水酸化カリウム7質量部、水23質量部およびトリエチレングリコール−モノ−n−ブチルエーテル30質量部の混合液に投入し、80℃で加熱および撹拌して重合反応を行い、高分子分散剤ワニスを調整する。
このワニス(固形分43%)2.4kgに、シアン顔料であるC.I.ピグメントブルー15を33.0kg、エチレングリコールを1.5kgおよび水8.1kgを配合し、混合撹拌機で撹拌しプレミキシングを行う。この顔料分散混合液を0.5mmのジルコニアビーズを85%充填した1.5リットルの有効容積を有する多ディスク型羽根車を備えた横型のビーズミルで多パス方式により分散を行った。具体的には、ビーズ周速を8m/秒、1時間に30リットルの吐出量で2パス行い、平均粒子径325nmの顔料分散混合液を得た。次に0.05mmのジルコニアビーズを95%充填した1.5リットルの有効容積を有する横型のアニュラー型のビーズミルで循環分散を行った。スクリーンは0.015mmのものを使用し、ビーズ周速を10m/秒で、顔料分散混合液量10kgを循環量300リットル/時で4時間分散処理を行い、シアン顔料分散液を得た。
【0070】
2.水性顔料インクの調製
前記1.で調製したシアン顔料分散物を用い、表1に示す材料組成にて水性シアン顔料インクを調製した。
各水性インク組成物は、表1に示す材料を容器中に入れ、マグネチックスターラーにて2時間撹拌混合した後、孔径5μmのメンブランフィルターにて濾過してゴミや粗大粒子等の不純物を除去することにより調製した。なお、表1中の数値は、全て質量%を示し、イオン交換水はインク全量が100質量%となるように添加した。
【0071】
【表1】

【0072】
3.水性シアン顔料インクの評価試験
試験方法
圧電素子を用いるプリンターPX−G930(セイコーエプソン(株)社製)(ノズル径20μm)の一部を改造して、記録時記録メディアを加熱調節できるプリンタを製造し、そのプリンタを用いて、前記実施例及び比較例にあげるインクを用いて下記の評価を行った。尚、下記の各評価において、いずれのサンプルについても縦720dpi×横720dpiの解像度でインクジェット記録を行った。
【0073】
1.目詰まり
PX−G930にインクを充填して正常に記録できることを確認する。次いで電源オフにして、40℃の環境下で24時間静置する。室温に戻してから電源ONにして記録を行い状態を確認する。
判定基準:
○: 電源ONで正常に記録する。
△: 一部最初に曲がりが発生するが記録を続けると正常に記録できるようになる。
×: 曲がりが発生して正常に記録できなくなる。
【0074】
2.保存安定性
各インク30gをガラス製のサンプル瓶に入れ蓋をし、60℃で5日間放置する。放置前後のインクの粘度を測定する。
粘度測定器 振動式粘度計VM−100AL(山一電機(株)社製)、測定温度20℃
判定基準:
○: 粘度に変化がない
△: 粘度がやや上昇する。
【0075】
3.速乾性
記録時に下記の記録メディアを45℃で加熱し、記録後60℃の環境下で1分間乾燥させたあと、インクの乾燥状態を印刷後のメディアを指で触れたときの状況で判定した。
記録メディア:塩ビフィルム(PVC) 品番LLSP EX113(桜井(株)社製)
印刷パターン:50%dutyベタ
判定基準:
○: 指へのインクの転写なし
×: 指へのインクの転写あり
【0076】
4.インク均一性
各インク30gをガラス製のサンプル瓶に入れ蓋をし、室温で1週間静置する。1週間後蓋を取り、分離物の有無を目視で観察する。
判定基準:
○: 分離物が無く、均一に分散できている
×: 表面に分離物が見られる
【0077】
5.耐擦性
記録時に下記の記録メディアを45℃で加熱し、記録後60℃の環境下で1分間乾燥させたあと、16時間室温で放置した記録メディアについて擦れを調べた。方法は、学振型摩擦堅牢度試験機で、荷重500g、綿布にて記録物を50回擦った時の記録面の擦れの有無を目視で調べる方法である。
記録メディア:塩ビフィルム(PVC) 品番LLSP EX113(桜井(株)社製)
判定基準:
○: 傷が認められない
△: やや傷が認められる
結果は表2のとおりである。
【0078】
【表2】

【0079】
表2から、パラフィンワックスの融点が60℃〜110℃で且つ平均粒子径が30〜200nmのものは目詰まり、保存安定性、速乾性、インク均一性および耐擦性のすべての項目で実用できるレベルにあることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種の水不溶性の着色剤と、ワックスとを含み、
前記ワックスが、融点が60℃〜110℃であって平均粒子径が30nm以上250以下nmのパラフィンワックスである、水性インク組成物。
【請求項2】
前記パラフィンワックスの含有量が、0.1質量%以上3質量%以下である請求項1に記載のインク組成物。
【請求項3】
前記パラフィンワックスの平均粒子径が50以上200nm以下である請求項1又は2に記載のインク組成物。
【請求項4】
前記パラフィンワックスの融点が65℃以上100℃以下である、請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のインク組成物。
【請求項5】
1気圧下の沸点280℃以上のアルキルポリオールを実質的に含有しない、請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載のインク組成物。
【請求項6】
樹脂粒子を含有し、
前記樹脂粒子と前記ワックスとの合計の含有量は1質量%以上5.5質量%以下である、請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載のインク組成物。
【請求項7】
炭素数が5〜7の範囲である1,2−アルキルジオール、樹脂粒子、ノニオン系界面活性剤、ピロリドン誘導体を含有する請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載のインク組成物。
【請求項8】
ノズル径が10μm以上30μm以下のノズルを有する吐出ヘッドより吐出される、請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載のインク組成物。
【請求項9】
圧電素子を有する吐出ヘッドより吐出される、請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載のインク組成物。
【請求項10】
加熱機構によって加熱された記録媒体に吐出される、請求項1ないし9のいずれか1項に記載のインク組成物。

【公開番号】特開2012−214650(P2012−214650A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−81678(P2011−81678)
【出願日】平成23年4月1日(2011.4.1)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】