説明

水性ゲル状組成物およびその製造方法

【課題】サクシノイルトレハロース脂質を含む水性ゲル状組成物を提供する。
【解決手段】本発明に係る水性ゲル状組成物は、サクシノイルトレハロース脂質の塩と、水性成分とを含んでいることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性ゲル状組成物およびその製造方法に関するものであり、より詳細には、バイオサーファクタントを含む水性ゲル状組成物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、微生物が作り出す機能性物質であるバイオサーファクタントが、新規な化粧品等の添加剤として注目されている。バイオサーファクタントは疎水性部分と親水性部分とを有する両親媒性物質であり、糖脂質型、リポペプチド型等のバイオサーファクタントが知られている。例えば、糖脂質型のバイオサーファクタントとして、サクシノイルトレハロース脂質(STL:Succinoyl Trehalose Lipid)、リポペプチド型のバイオサーファクタントとして、サーファクチン等が挙げられる。特許文献1には、バイオサーファクタントの水溶液を乳化剤および可溶化剤として用いる技術が開示されている。
【0003】
また、化粧品、医薬品等に適度な粘性を付与し、液だれせず塗布しやすくするための添加剤として、ゲル状組成物が広く用いられている。特に水性のゲル状組成物は、水性であることに由来し、みずみずしく、さっぱりとした使用感が得られるので、広範な用途に好適に使用されている。従来、このような水性ゲル状組成物は、ポリビニルアルコールのようなポリビニル系高分子化合物、エチルセルロースのようなセルロース系高分子化合物、寒天またはカラギーナンのような天然水溶性高分子化合物等をゲル化剤として水に添加して製造されている。
【特許文献1】特開2007−181789号公報(2007年7月19日公開)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
バイオサーファクタントの中でも糖脂質型のバイオサーファクタントは、優れた生分解性を示す天然の界面活性剤として注目されており、さらに、高い保湿効果および乳化作用を示すことが知られている。したがって、このようなバイオサーファクタントを用いた水性ゲル状組成物は、化粧品等の添加剤として非常に有用である。
【0005】
しかしながら、水性のゲル状組成物を形成し得る糖脂質型のバイオサーファクタントについては未だ知られていない。特許文献1には、マンノシルエリスリトールリピッドを水に高濃度に溶解させたとき、溶液の粘度が上昇したことが記載されているが、ゲル化には及ばず、大量のバイオサーファクタントを必要とすることから、低コストで大量生産することはできない。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、サクシノイルトレハロース脂質の塩を含有する水性ゲル状組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討をおこなった結果、サクシノイルトレハロース脂質の塩と、水性成分とを混合することによって、水性ゲル状組成物を調製できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明に係る水性ゲル状組成物は、サクシノイルトレハロース脂質の塩と、水性成分とを含むことを特徴としている。
【0009】
本発明に係る水性ゲル状組成物は、サクシノイルトレハロース脂質の塩を2質量%〜30質量%含むことが好ましい。なお、上記のサクシノイルトレハロース脂質の塩の濃度は、水性ゲル状組成物に対する濃度である。
【0010】
また、本発明に係る水性ゲル状組成物は、水性成分を、70質量%〜98質量%含むことが好ましい。なお、上記水性成分の濃度は、水性ゲル状組成物に対する濃度である。
【0011】
また、本発明に係る水性ゲル状組成物は、酸性であることが好ましく、pH6.0〜6.9であることが好ましい。
【0012】
さらに、本発明に係る水性ゲル状組成物において、サクシノイルトレハロース脂質の塩は、サクシノイルトレハロースとアルカリ金属およびアルカリ土類金属の少なくとも一方との塩であることが好ましい。サクシノイルトレハロース脂質とアルカリ金属またはアルカリ土類金属との塩を用いることにより、サクシノイルトレハロース脂質の塩を水などの水性成分に良好に溶解させることができる。
【0013】
また、本発明に係る水性ゲル状組成物の製造方法は、サクシノイルトレハロース脂質の塩を含む溶液を酸性にする工程を包含していることを特徴としている。これにより、例えば、溶液中に含まれるサクシニルトレハロース脂質の塩の濃度が比較的低くても、当該溶液をゲル化させることが可能である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、サクシノイルトレハロース脂質の塩を含む、新規な水性ゲル状組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
〔水性ゲル状組成物〕
本発明に係る水性ゲル状組成物は、サクシノイルトレハロース脂質の塩と、水性成分とを含んでいる。本明細書中において、「水性ゲル状組成物」は、ゲル化した水性の組成物を意図しており、「ゲル化」は、コロイド粒子が独立した運動性を失って、集合して固化した状態になることを意図している。
【0016】
(サクシノイルトレハロース脂質)
まず、本発明において用いられるサクシノイルトレハロース脂質およびその製造方法について説明する。
【0017】
本発明の水性ゲル状組成物に用いるサクシノイルトレハロース脂質(以下、STLと記載する)の塩は、炭素源を含む培地中で微生物を培養して得られたSTLを使用している。
【0018】
炭素源を含む培地中で微生物を培養して得られるSTLは、糖部分がトレハロースであり、トレハロース1モル当りコハク酸および脂肪酸がそれぞれ1〜2モルエステル結合した糖脂質である。この糖脂質の脂肪酸部分は、培養基質である炭素源を変えることによって、それぞれ異なった脂肪酸が結合している。
【0019】
なお、本明細書において、「微生物」は、STLを生産し得る微生物であることが意図される。このような微生物は、特に限定されないが、ロドコッカス属に属する微生物であることが好ましく、ロドコッカス・エリスロポリス SD−74株、ロドコッカス・エスピー TB−42株、またはロドコッカス・バイコヌレンシス NBRC 100611株であることが好ましい。
【0020】
本明細書において、「炭素源」とは、上記微生物が培養中に吸収利用する炭素化合物であることが意図される。このような炭素源としては、天然油脂、炭化水素、脂肪酸、脂肪酸エステル、または高級アルコールであることが好ましい。ここで、炭素化合物は、炭素と水素、窒素などとの化合物が意図される。サクシノイルトレハロース脂質の製造方法において用いられる炭素源は天然油脂であり得、動物油脂であっても植物油脂であってもよいが、入手がより容易であるため、植物油脂であることが好ましい。上記製造方法において用いられる植物油脂は、たとえばパーム油、ヤシ油、大豆油、オリーブ油、サフラワー油、菜種油、トウモロコシ油、綿実油、およびトール油などであることが好ましいが、これに限定されない。
【0021】
また、炭素源として用いる炭化水素としては、n−デカン、n−ウンデカン、n−トリデカン、n−テトラデカン、n−ペンタデカン、n−ヘキサデカン、n−ヘプタデカン、n−オクタデカン、n−ノナデカンなどのノルマルアルカン、1−デセン、1−ウンデセン、1−ドデセン、1−トリデセン、1−テトラデセン、1−ペンタデセン、1−ヘキサデセン、1−ヘプタデセン、および1−オクタデセンなどのノルマルアルケン、などを好適に使用することが可能である。
【0022】
炭素源として用いる脂肪酸としては、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸(ラウリン酸)、トリデカン酸、テトラデカン酸(ミリスチン酸)、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸(パルミチン酸)、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸(ステアリン酸)、およびオレイン酸などを好適に使用することが可能である。また、脂肪酸エステル、ウンデシルアルコール、およびドデシルアルコール(ラウリルアルコール)などの高級アルコールを炭素源として用いてもよい。
【0023】
STL組成物は、炭素源を含む培地中で微生物を培養する培養工程と、上記培養工程によって得られた生成物を析出させる析出工程と、上記析出工程によって得られた析出物からSTL組成物を抽出する抽出工程と、上記抽出工程によって得られた抽出物から脂溶性物質を取り除く脂溶性物質除去工程と、を包含する製造方法により製造され得る。なお、STL組成物とは、STLを一成分とする組成物が意図される。本実施形態においてSTLは、STL組成物に50質量%以上含まれていればよく、80質量%以上含まれていることが好ましく、90質量%以上含まれていることがより好ましい。以下、STLの製造方法について詳細に説明する。
【0024】
炭素源を含む培地中で微生物を培養する培養工程は慣用的な方法に従っておこなわれ、炭素源を添加した培地に、必要に応じて窒素源、および無機塩などの栄養分を添加してもよい。培地中に添加される炭素源としては、上述した各炭素源が好適に用いられ、培地中の炭素源の添加濃度は、5〜20%であることが好ましく、10%であればより好ましい。培地中に添加される窒素源としては、微生物の培養に際して通常使用される窒素含有の有機物または無機物が用いられ、たとえば硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、リン酸水素カリウム、およびリン酸二水素カリウムなどを使用可能である。上述した他に、微生物の生育に必要であれば、酵母エキス、およびペプトンなどの栄養素を培地に添加してもよい。
【0025】
培養は、振とう攪拌による好気的条件下でおこなわれ、培養温度は、20〜35℃であることが好ましく、30℃であることがより好ましい。培養pHは、5.5〜9.5であることが好ましい。また、培養期間は、15〜50g/lの濃度のSTL混合物が生成されるまで培養することが好ましく、後述する実施例においては、培養5日後にSTL濃度が15g/lに達していることから、5〜12日間培養することが好ましい。
【0026】
炭素源を含む培地中で微生物を培養する工程においては、当該微生物を本培養する前にシード培養してもよい。微生物をシード培養することによって、最適な条件に微生物を調整することが可能であり、その結果効率よくSTLを製造することができる。
【0027】
次に、析出工程において、上記培養工程において微生物によって産生された生成物(STL)を析出させる。つまり、微生物が培地中に生成するSTLを含む培地あるいは培養液に対して析出をおこなう。このとき、析出の対象となる当該培地あるいは当該培養液は、微生物を培養した培養液を遠心分離し、培養液中から菌体および残存基質を取り除いたものであってもよい。ここで、「析出させる」とは、培地中に溶解した物質を、固体として取り出すことが意図される。すなわち、析出工程においては、培養工程において微生物が培地中に生成した糖脂質を、培地中から固形物として取り出すことができる。
【0028】
析出工程では、培養液中からSTLを固形物として分離することができる方法であれば特に限定されず、慣用的な方法を用いることができる。たとえば、上記培養工程において微生物を培養した培地を酸性にし、培地中の酸性物質を析出させることによって酸性の糖脂質であるSTLを析出させることができる(酸析)。具体的には、培養液中のpHを低下させることにより析出させる。培養液のpHを低下させるためには、酸性物質、たとえば、HClを添加すればよい。その後、たとえば、遠心処理をおこない析出物を取り出す。以下、析出工程を経て得られた生成物を、「析出生成物」と称する。
【0029】
次に、抽出工程において、析出生成物からSTL組成物を抽出する。抽出工程では、析出生成物に、水と相溶せず、かつ糖脂質が可溶である溶媒を添加することによって、析出生成物中に含まれるSTLを溶媒層に溶解させる。ついで、STLが溶解した溶媒層を分離することによって、水溶性物質を除去したSTL組成物を得ることができる。なお、「水溶性物質」は、水に対して可溶な物質であり、培地中から析出させた固形物状の析出物が水と共に包含している塩等の水溶性の不純物であるといえる。ここで、「塩」とは酸の水素原子を金属または他の金属性基で置き換えた化合物である。
【0030】
微生物を培養した培地から析出させた上述の析出生成物は、含水しており水溶性の不純物を多く含んでいる。このような析出生成物は、さらに脂溶性の不純物を含んでおり、固形物状であるため、これを水で洗浄しても析出物内部に含まれる水溶性物質を十分に取り除くことは困難であったが、水と相溶せず、かつ糖脂質が可溶である溶媒を用いた抽出工程により、水溶性物質を除去したSTL組成物を得ることができる。
【0031】
抽出工程においては、溶媒を添加して抽出する対象物である析出物から完全に水溶性物質を取り除く必要はなく、抽出処理の前後において、析出物中の水溶性物質の量が減少していればよい。これにより、不純物の含有量が低下したSTL組成物を得ることが可能である。
【0032】
ここで、析出物に添加する溶媒としては、水溶性物質を溶解しえる他の溶媒(たとえば水)と相溶せず、かつ糖脂質が可溶である溶媒を用いることができる。そのような溶媒としては、エステル系溶媒、アルコール系溶媒、または炭化水素系溶媒が挙げられ、具体的には、たとえば酢酸エチル、1−ブタノール、およびキシレンなどが挙げられる。析出物に添加する溶媒の量は、析出物量に対して0.1〜10倍重量であることが好ましく、析出物量と同等であることがより好ましい。
【0033】
抽出工程について、溶媒として酢酸エチルを用いた場合を例にして説明する。まず、培養液から培養生成物を析出させ、析出した析出物に酢酸エチルを添加し十分に攪拌し、酢酸エチル層および水層の2層に分離させる。ついで、上層に形成された酢酸エチル層を分液漏斗等によって分離する。酢酸エチル層には水溶性物質は溶解せず、STLが溶解しているため、酢酸エチル層を分離することによって糖脂質から水溶性物質を除去することが可能である。ついで、たとえばエヴァポレーター等を用いて、酢酸エチル層から酢酸エチルを除去することによって、水溶性物質が除去された固体状のSTL組成物を得ることができる。
【0034】
なお、上述の説明では、析出工程と抽出工程とを順次おこなう場合について説明したが、必ずしもこれに限られない。たとえば、培養生成物を培地または培養液中から析出させずに、生成物が溶解した培地または培養液に溶媒を添加し溶媒層を分離することによって、水溶性物質を取り除いたSTL組成物を得ることも可能である。このとき、微生物を培養した培養液から、遠心分離などによって、菌体および残存基質を取り除いたものを、溶媒を用いて水溶性物質を除去する対象としてもよい。すなわち、抽出工程において、溶媒を用いて水溶性物質を除去する対象となる物質は、培養中の微生物が培地中に生成するSTLを含む培地あるいは培養液、または、反応系から分離された固体状のSTL混合物であってもよい。
【0035】
この抽出工程までを経て得られた生成物を「抽出生成物」と称する。
【0036】
次に、脂溶性物質除去工程において、抽出工程によって得られた抽出生成物から、脂溶性物質を取り除く。ここで「脂溶性物質」とは、脂に対して可溶な物質であることが意図される。
【0037】
水溶性物質が取り除かれた固形物状のSTL組成物から脂溶性物質を取り除く方法は、STLと脂溶性物質とを分離させることが可能な方法であれば特に限定されず、慣用的な方法を用いることができる。たとえば、まず、抽出生成物から溶媒を留去し、ついで、溶媒を留去して得られた固形物に糖脂質と脂溶性物質とを分離させることが可能な溶媒を添加し、当該溶媒層を除去することによって、脂溶性物質が除去された糖脂質を得ることができる。これにより、糖脂質から効率よく脂溶性の不純物を取り除くことができる。
【0038】
ここで、糖脂質と脂溶性物質とを分離させることが可能な溶媒とは、糖脂質が難溶または不溶であり、脂溶性物質が可溶な溶媒である。このような溶媒として、たとえばヘキサンを用いた場合には、培養液から析出した生成物から、溶媒を用いて水溶性物質を除去した後、この溶媒を留去して得られる固形物をヘキサンに懸濁し、ろ過または遠心分離してヘキサンを除去する。これにより、STL組成物から効率よく脂溶性の不純物を取り除くことができ、本発明において用いられるSTLを得ることができる。
【0039】
上述の製造方法により得られたSTLは、白色固形物である。具体的には、メタノールに5質量%溶解させたときの溶液の吸光度が、波長400nm〜700nmの領域にわたって0.05以下を示すことが好ましい。また、このSTLは、水に少なくとも1質量%溶解し得、特に、水に5質量%溶解しえるSTLである。なお、上記吸光度は、分光光度計(UV−2550、島津製作所)によって測定した値である。
【0040】
(STLの塩)
本発明に係る水性ゲル状組成物に含まれるSTLの塩は、上述の製造方法により得られたSTLにおいて、1分子あるいは2分子エステル結合しているコハク酸のカルボキシル基のうち、一方あるいは両方のカルボキシル基の水素原子が他の金属カチオンまたは金属性基により置き換えられたものである。
【0041】
本発明に係る水性ゲル状組成物に含まれるSTLの塩は、STLと、アルカリ金属またはアルカリ土類金属との塩であることが好ましい。STLを、アルカリ金属との塩またはアルカリ土類金属との塩として用いることによって、STLを水性の溶媒に良好に溶解することができる。
【0042】
STLとの塩を構成するアルカリ金属として、例えばナトリウム、カリウム、リチウム等、アルカリ土類金属として、例えばカルシウム、マグネシウム、ベリリウム等が挙げられ、ナトリウムまたはカリウムが好ましく、特にナトリウムが好ましい。STLのナトリウム塩は、水溶性が高く、溶媒に対する溶解度がさらに向上するという利点がある。
【0043】
STLと、アルカリ金属またはアルカリ土類金属との塩は、例えば、STLを、水酸化ナトリウム等を用いて中和することによって得られる。具体的には、以下の手法によりSTLの塩を得ることができる。STLを1質量%の水溶液となるように水と混合し、スターラーにより攪拌しながら任意のアルカリを添加して水溶液を中和し、STLを溶解させる。最終pHを7.0とした水溶液を凍結乾燥することにより、STLの塩を得ることができる。なお、本発明に係る水性ゲル状組成物においては、上述のように得られた固形のSTLの塩を用いてもよく、凍結乾燥する前のアルカリにより中和されたSTL溶解液(STLの塩が溶解した水溶液)を用いてもよい。
【0044】
本発明に係る水性ゲル状組成物におけるSTLの塩の含有量は、水性ゲル状組成物全量の2質量%〜30質量%であることが好ましく、3質量%〜10質量%であることがより好ましい。本発明によれば、上記のようにSTLの塩を低濃度で含有する水性ゲル状組成物を提供することが可能である。STLの塩の量が3質量%未満では十分にゲル化せず、また10質量%を超えて用いると粘度が高くなり過ぎるため、好ましくない。なお水性ゲル状組成物全量とは、STLの塩および水性成分の総量をいう。
【0045】
(水性成分)
本発明に係る水性ゲル状組成物は、水性成分を含む。本発明に係る水性ゲル状組成物において用いる水性成分は、STLの塩を溶解し得る水性の溶媒であればよく、水または水に炭素数1〜4の低級アルコール、グリコール等が溶解または分散した水溶液である。水性の溶媒とは、水または親水性の溶媒を主体とした溶媒が意図され、好ましくは疎水性の溶媒が全く含まれていないものが意図される。
【0046】
本発明に係る水性ゲル状組成物における水性成分の含有量は、水性ゲル状組成物全量の70質量%〜98質量%であることが好ましく、より好ましくは90質量%〜97質量%である。
【0047】
本発明に係る水性ゲル状組成物の外観は無色透明である。水性ゲル状組成物の外観が、無色透明であることによって、例えば化粧品、医薬品等の添加剤として用いた場合に、化粧品、医薬品等を不要に着色しないため、好適に使用することが可能である。無色透明の外観を、溶液の濁度を示す指標として一般に用いられる波長660nmにおける光透過率によって表せば、当該光透過率は95%以上であり、好ましくは97%以上、より好ましくは99%以上であり得る。
【0048】
一つの局面において、本発明に係る水性ゲル状組成物は、酸性であり、特にpH6.0〜6.9であり得る。本発明に係る水性ゲル状組成物は、後述するように、STLの塩を水性成分に溶解させて得られる中性の溶液を酸性にすることによって、ゲル化して得られるものである。したがって、得られた水性ゲル状組成物は、酸性であり得る。STLの塩を水性成分に溶解させても、特に溶液中のSTL濃度が低い場合はゲル化させるのことが困難であるが、溶液を酸性にすることによって、STL濃度が低い溶液であっても容易にゲル化させることが可能である。特に、STLの塩を含む溶液をpH6.0〜6.9にしたときに、好適に水性ゲル状組成物が得られるので、得られた水性ゲル状組成物は、pH6.0〜6.9であり得る。
【0049】
(その他の添加物)
本発明の水性ゲル状組成物には、本発明の効果を損なわない範囲において、紫外線吸収剤が配合されていてもよい。紫外線吸収剤とは、通常サンスクリーン化粧品などに用いられ、紫外線A波あるいは紫外線B波、またはその両方を低減させ、皮膚に対する紫外線の有害作用を低減させることのできる物質のことをいう。
【0050】
このような紫外線吸収剤としては、p−アミノ安息香酸、グリセリル−p−アミノ安息香酸、アミル−p−N,N−ジメチルアミノ安息香酸、2−エチルヘキシル−p−N,N−ジメチルアミノ安息香酸などのp−アミノ安息香酸誘導体;2,4−ジイソプロピルケイ皮酸メチル、2,4−ジイソプロピルケイ皮酸エチル、p−メトキシケイ皮酸カリウム、p−メトキシケイ皮酸ナトリウム、p−メトキシケイ皮酸イソプロピル、p−メトキシケイ皮酸2−エチルヘキシル、p−メトキシケイ皮酸2−エトキシエチル、p−エトキシケイ皮酸エチルなどのケイ皮酸誘導体;2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−5−スルホベンゾフェノンナトリウム、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン−5−スルホン酸、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシ−5−スルホベンゾフェノンナトリウムなどのベンゾフェノン誘導体;サリチル酸−2−エチルヘキシル、サリチル酸フェニル、サリチル酸−3,3,5−トリメチルシクロヘキシルなどのサリチル酸誘導体;2−(2’−ヒドロキシ−5’−メトキシフェニル)ベンゾトリアゾール、4−tert−ブチル−4’−メトキシベンゾイルメタンなどが挙げられる。
【0051】
また、本発明の水性ゲル状組成物には、本発明の効果を損なわない範囲において、抗酸化剤および香料を配合することもできる。抗酸化剤としては、たとえば、トコフェロール、酢酸トコフェロール、およびビタミンA類(たとえば、レチノイン酸、レチノイン酸エステル、レチノール、レチノイドなど)が挙げられる。
【0052】
本発明の水性ゲル状組成物の用途としては、好ましくは化粧品が挙げられ、たとえばクリーム、ローション、クレンジングジェル、クレンジングクリームなどの基礎化粧料;ファンデーション、アイシャドウ、リップカラー、リップグロスなどのメーキャップ化粧料;ヘアクリーム、スタイリングジェル、ヘアワックスなどの頭髪用化粧料;シャンプー、リンス、ハンドソープ、ボディーソープ、洗顔フォームなどの洗浄料などに好適に用いることができる。
【0053】
水性ゲル状組成物を化粧料の用途に使用する場合には、化粧料に通常用いられる任意の成分を、本発明の効果を損なわない範囲において、配合することができる。
【0054】
このような成分としては、たとえば、ワセリン、マイクロクリスタリンワックスなどの炭化水素類;ミリスチン酸オクチルドデシル、ミリスチン酸イソプロピルなどのエステル類、トリイソオクタン酸グリセリル、オリーブ油などのトリグリセライド類;メチルフェニルポリシロキサン、メチルポリシロキサンなどのシリコーン油類;セタノール、ベヘニルアルコールなどの高級アルコール類、ステアリン酸、オレイン酸などの脂肪酸類;グリセリン、1,3−ブタンジオール、プロピレングリコールなどの多価アルコール類;エタノール、イソプロピルアルコールなどの低級アルコール類;非イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤、両性界面活性剤、増粘剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、エモリエント剤、乳化剤、可溶化剤、抗炎症剤、保湿剤、防腐剤、pH調整剤、色素、香料、粉体類、水などが挙げられる。
【0055】
水性ゲル状組成物を化粧料の用途に使用する場合に添加する好ましい任意成分としては、非イオン界面活性剤類、高級脂肪酸類、および高級アルコール類である。中でもステアリン酸、ベヘニルアルコールが好ましい。これらの好ましい含有量は、化粧料全量に対して0.01質量%〜10質量%であり、さらに好ましくは0.1質量%〜5質量%である。このようにして得られる化粧料は、皮膚刺激が少なく、クレンジング剤、保湿剤、クリーム、およびローションとしてきわめて優れている。
【0056】
本発明によれば、糖脂質型バイオサーファクタントであるSTLの塩を包含する新規の水性ゲル状組成物を提供することが可能である。また、本発明によれば、含有するSTLの濃度が低い水性ゲル状組成物を提供することが可能であるので、低コストで大量の水性ゲル状組成物を生産することが可能である。
【0057】
〔水性ゲル状組成物の製造方法〕
本発明に係る水性ゲル状組成物の製造方法は、STLの塩を含む溶液を酸性にする工程を包含している。
【0058】
本発明に係る水性ゲル状組成物の製造方法において、STLの塩を含む溶液を酸性にする工程は、例えば、STLの塩を含む溶液に塩酸等の酸性物質を添加することによって行われ得る。STLの塩を含む溶液は中性であり、当該溶液中に酸性物質を添加することによって、溶液を酸性にする。これにより、STLの塩を含む溶液を容易にゲル化させることができる。なお、溶液の状態を安定させるために、上述したように調整した溶液を一定時間静置することが好ましい。
【0059】
一般に、溶液をゲル化させる場合、ゲル化剤を溶液中に高濃度溶解させる必要があるが、STLの塩を含む溶液を酸性にすることによって、溶液中に含まれるSTLの塩の濃度が比較的低い場合であっても、溶液を容易にゲル化させることが可能である。
【0060】
また、STLの塩を含む溶液を酸性にする工程において、STLの塩を含む溶液をpH6.0〜6.9にすることが好ましい。STLの塩を含む溶液を、特に上記pH範囲にすることによって、低濃度のSTLを含む水性ゲル状組成物をより容易に製造することが可能である。
【0061】
一実施形態において、本発明に係る水性ゲル状組成物の製造方法は、STLの塩を含む溶液を調製する工程をさらに包含していてもよい。まず、STLの塩を水性成分に溶解させることによってSTLの塩を含む溶液を調整する。例えば、上述の製造方法により製造した固形のSTL組成物を水酸化ナトリウム溶液等のアルカリ性物質とともに水性成分に溶解させることによって、STLの塩を含む溶液を調製する。
【0062】
上述の製造方法により製造した固形のSTL組成物中に含まれるSTLは、分子構造中にカルボキシル基を有する酸性物質である。したがって、STLを水性成分中に十分に溶解させるためには、STLの塩を水性成分中に溶解させて溶液を中性にすることが好ましい。例えば、STLをアルカリ性物質と共に水性成分中に添加することによって、STLの水素原子をアルカリ金属イオンまたはアルカリ土類金属イオン等で置き換えたSTLの塩を水性成分に溶解させる。これにより、STLの塩を含む溶液を調製することができる。
【0063】
アルカリ性物質としては、ナトリウム、カリウム、リチウム等のアルカリ金属、またはマグネシウムイオン、カルシウムイオン、ベリリウムイオン等のアルカリ土類金属を好適に用いることが可能であるが、これらに限定されない。水性成分中のSTLを塩型とし得る物質あれば好適に使用可能である。また、アルカリ性物質の水性成分に対する添加量は、特に限定されず、水性成分中のSTLを塩型とし得る量を添加することが好ましい。
【0064】
ここでSTLの塩を含む溶液中には、溶液全量に対してSTLの塩が2質量%〜30質量%の濃度で溶解されていることが好ましい。また、溶液中の水性成分の含有量は、水性ゲル状組成物全量の70質量%〜98質量%であることが好ましく、より好ましくは90質量%〜97質量%である。
【0065】
また、他の成分を添加する場合には、STLの塩を含む溶液を酸性にする前に添加してもよく、STLの塩を含む溶液を酸性にしている途中、またはSTLの塩を含む溶液を所望のpHにした後に添加してもよい。
【0066】
本発明に係る水性ゲル状組成物の製造方法において、上記濃度でSTLの塩を含有する溶液を用いて、当該溶液を酸性にしてゲル化させることによって、水性ゲル状組成物を製造することが可能である。このように、本発明に係る水性ゲル状組成物の製造方法によれば、低濃度のSTLの塩を含む溶液であっても容易にゲル化させることができるので、低コストで大量の水性ゲル状組成物を製造することが可能である。
【0067】
本発明は、上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0068】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例によって何ら限定されるものではない。
【0069】
〔STLの生産〕
ロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis) SD−74株を以下の条件でシード培養した。本実施例において用いたロドコッカス・エリスロポリス SD−74株は、植物油脂資化性菌として分離され、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに、「受託番号:FERM AP−21299」として寄託されている。
【0070】
500ml容坂口フラスコ中のFPY培地100ml(フルクトース2%、ポリペプトン0.5%、酵母エキス0.5%、NaNO0.1%、KHPO0.1%、MgSO−7HO0.02%)に、プレート上に形成された菌体コロニーを植菌し、30℃で38時間振とう培養をおこなった。
【0071】
改変MedD培地(1L当たり、KHPO5.44g、KHPO10.45g、KNO3g、MgSO−7HO0.1g、KSO35g、酵母エキス3g、パーム油100mlを含む溶液を、水道水で1Lにメスアップ)6000mlに、シード培養後の培養液全量を接種し、以下の条件で本培養を開始した。10Lジャー培養槽を用いて、培養温度30℃で、500rpmで攪拌させながら培養した。培地のpHを7.0に設定し、5NのKOHを自動添加することによって培地のpHを維持した。
【0072】
上記本培養中の培地から、2日に1回程度サンプリングをおこない、培養液中のSTL濃度を以下に示すように定量した。
【0073】
サンプリングした培養液を15000rpmで10分間遠心分離し、上層の油成分が混入しないように注意して水層を抜き出した。抜き出した液体を適宜希釈した後、以下に示すアンスロン硫酸法によってトレハロース濃度を定量した。まず、希釈した試料1mlにアンスロン試薬(75%硫酸に0.2%の濃度でアンスロンを溶解させることによって、測定時に調整)5mlを添加し攪拌した。攪拌後の溶液を沸騰水中で10分間反応させ、5分間氷冷することによって反応を停止させた後、室温で20分間放置した。
【0074】
得られた反応液に対して波長620nmの吸光度を測定した。スタンダードとして4mMトレハロースを20倍希釈したものを用いた。STLは1分子のトレハロースを含んでいるため、トレハロース濃度としてSTL濃度を定量した。STLの分子量を840としてSTLの質量濃度を算出した。培養開始120時間後にパーム油600mlを追加し、200時間後にパーム油300mlをさらに追加した。培養285時間後に培養液のSTL濃度が37g/Lになった。
【0075】
培養285時間後の培養液860mlを、6000rpmで30分間遠心分離し、液中の菌体および残存基質を除去した後、6NのHClを40ml添加し、溶液のpHを2.98にした。それにより、溶液中に白色のゲル状析出物が析出した。この溶液を6000rpmで30分間遠心分離することによって、液層を除去した結果、湿重量182gの析出物が得られた。
【0076】
得られた析出物に186gの酢酸エチルを添加し、十分に攪拌した。水層と酢酸エチル層とに分離した溶液を、分液漏斗を用いて分離し上層の酢酸エチル層を回収した。回収した酢酸エチル溶液から、エヴァポレーターを用いて酢酸エチルを除去した。酢酸エチルを除去して得られた固形物を等量のヘキサンで懸濁した後、懸濁液を遠心分離してヘキサンを除去する工程を3回繰り返した。ヘキサンを除去して得られた液体をエヴァポレーターで乾固し、白色のSTL固形物12.6gを得た。
【0077】
上述の製造方法により得られたSTLをメタノールに溶解させ、濃度が5質量%のSTL溶液を調製した。STL溶液の可視光領域での吸収スペクトルを分光光度計(UV−2550、島津製作所)を用いて測定した。その結果、STL溶液は、波長400nm〜700nmの領域にわたって0.05を超えることはなかった。
【0078】
〔水性ゲル状組成物〕
上述した方法により精製したSTLを用いて水性ゲル状組成物を調製した。なお以下の実施例において、wt%は質量%のことである。
【0079】
STLを、NaOHにより中和しながら蒸留水に溶解させ、1wt%、3wt%および5wt%の濃度でSTLの塩を含むSTL水溶液を調製した。このとき、水溶液はpH7.0であった。ついで、調製した中性のSTL水溶液に塩酸を添加し、pH6.0〜7.0の間において任意のpHの水溶液を調整した。具体的には、STL濃度5wt%の水溶液のpHをそれぞれ6.82、6.62および6.29に調製した。また、STL濃度3wt%の水溶液のpHをそれぞれ6.68、6.54および6.12に調製した。調製した水溶液を4℃下において4日間保存し、水溶液の状態を観察した。結果を図1に示す。
【0080】
図1は、各pHに調製した水溶液がゲル化しているか否かを示すグラフである。図中、横軸に調製時のサンプルのpHを示し、縦軸にSTLの濃度を示している。丸印で示される条件における水溶液はゲル化したことを示し、三角印で示される条件における水溶液はゲル化しなかったことを示している。なお、水溶液が入ったサンプル瓶を逆さまにしても液がたれ落ちてこないものをゲル化したと判断した。図1に示すように、STL濃度が3wt%以上、かつpH7.0よりも低い条件に調製したサンプルがゲル化した。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明に係る水性ゲル状組成物は、低コストで大量生産可能であり、化粧品、医薬品、食品等の添加剤として好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】図1は、STLの塩を含む水溶液のゲル化条件を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サクシノイルトレハロース脂質の塩と、水性成分とを含むことを特徴とする水性ゲル状組成物。
【請求項2】
前記サクシノイルトレハロース脂質の塩を、2質量%〜30質量%含むことを特徴とする請求項1に記載の水性ゲル状組成物。
【請求項3】
前記水性成分を、70質量%〜98質量%含むことを特徴とする請求項1または2に記載の水性ゲル状組成物。
【請求項4】
酸性であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の水性ゲル状組成物。
【請求項5】
pH6.0〜6.9であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の水性ゲル状組成物。
【請求項6】
前記サクシノイルトレハロース脂質の塩は、サクシノイルトレハロース脂質とアルカリ金属およびアルカリ土類金属の少なくとも一方との塩であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の水性ゲル状組成物。
【請求項7】
サクシノイルトレハロース脂質の塩を含む溶液を酸性にする工程を包含していることを特徴とする水性ゲル状組成物の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−67686(P2009−67686A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−234674(P2007−234674)
【出願日】平成19年9月10日(2007.9.10)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】