説明

水性コーティング組成物及び積層体

【課題】 ポリエチレンテレフタレートフィルム等のプラスチックフィルムに対し、水蒸気バリア性とともに、耐加水分解性を付与するための水性コーティング組成物及び該組成物をフィルムに塗工した積層体を提供する。
【解決手段】 第一に、水性アクリル系エマルジョン樹脂(A)及び炭素数20〜50で融点が45〜70℃のパラフィンワックスエマルジョン(B)を含有する水性コーティング組成物であって、前記(A)に対する前記(B)の含有量が、不揮発分換算で0.1〜20質量%であることを特徴とする水性コーティング組成物。第二に、前記水性コーティング組成物の乾燥皮膜を有することを特徴とする積層体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチックフィルムに塗工することで、優れた耐加水分解性を付与することの出来る水性コーティング組成物、特に、太陽電池モジュールのバックシートに用いる水性コーティング組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレートフィルム(以下PETフィルム)は機械的強度、耐熱性、光学特性、耐薬品性等の優れた特性を有しており、食品包材から工業用途まで幅広い分野で使用されている。しかしながら、その優れた特性の反面、耐加水分解性が低いという欠点を有し、窓ガラス用フィルムなど屋外に長期間使用されるフィルムにおいては、耐加水分解性が使用限界の要因となっている。
【0003】
より高い耐加水分解性が求められる場合はポリエチレンナフタレートやポリイミドフィルム等の他ポリマーのフィルムが使用されるがPETフィルムと比較して非常に高価であるという問題がある。
【0004】
ポリエステルフィルムの耐加水分解性を向上させるために、フィルム製造工程中にカルボジイミド等の耐加水分解剤を添加する方法が知られている。しかしながら、このような耐加水分解剤を含有するフィルムは、製造工程中や使用環境によっては、フィルムに含有される副生物等によるガスが発生し、健康被害をもたらす恐れがある。また、耐加水分解剤等の影響で透明性が失われ、その結果、使用用途が限定され、更には製造コストもアップする問題がある。
【0005】
安全性を考慮し、PETフィルムの耐加水分解性を向上させるために、フィルム製造工程中にエポキシ基を有する脂肪酸エステル等の耐加水分解剤を添加する方法が知られている(例えば、特許文献1,2参照)。
【0006】
PETフィルム等のフィルムに耐加水分解性を付与するためのコーティング剤に用いられる重合体として、アクリル系重合体が知られている(例えば、特許文献3参照)。又、ポリプロピレンフィルムに防湿性を付与する目的で、ポリビニルアルコールと層状珪酸塩を含有するコーティング剤を塗工すること、各種紙基材に防湿性を付与する目的で、α−オレフィン・不飽和カルボン酸共重合体と無機層状化合物を含有するコーティング剤を塗工することが知られている(例えば、特許文献4、5参照)。更に、合成樹脂エマルション及びパラフィンワックスを含有する防湿加工用樹脂組成物も知られている(例えば、特許文献6参照)。
【0007】
近年、環境問題に対する意識の高まりから、太陽電池が注目されているが、耐加水分解性を付与されたプラスチックフィルムは、太陽エネルギーを使用した太陽電池のバックシートにも適用される。太陽電池は長期間にわたって屋外に放置されることから、発電効率などの機能低下を招く要因となる水蒸気などから保護するために、アルミ箔や金属蒸着フィルムを積層したフィルム(バックシート)が使用されている(例えば、特許文献7,8参照)。しかしながら、アルミ箔や金属蒸着は発電した電気を集める配線と接触すると電気的な不良が発生し、アルミ箔、金属蒸着面等の端面に絶縁処理を施す必要があり、その作業負荷が課題となっている。そこで、安価なバックシートを製造するために、非金属で水蒸気バリア性能が高い塗膜が得られるコーティング剤が求められている。
【0008】
【特許文献1】特開2007−276478号公報
【特許文献2】特開2006−77249号公報
【特許文献3】特開平10−231325号公報
【特許文献4】特開2006−316279号公報
【特許文献5】特開2002−53811号公報
【特許文献6】特開2004−308052号公報
【特許文献7】特開2008−227203号公報
【特許文献8】特開2008−1111号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、PETフィルム等のプラスチックフィルムに対し、水蒸気バリア性とともに、耐加水分解性を付与するための水性コーティング組成物及び該組成物をフィルムに塗工した積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、特定のアクリル系樹脂、特定のパラフィンワックスを配合した水性コーティング組成物が、特に塗膜の水蒸気バリア性とともに耐加水分解性を向上させることを見出し、本発明を完成させるに至った
【0011】
即ち、本発明は、第一に、水性アクリル系エマルジョン樹脂(A)及び炭素数20〜50で融点が45〜70℃のパラフィンワックスエマルジョン(B)を含有する水性コーティング組成物であって、前記(A)に対する前記(B)の含有量が、不揮発分換算で0.1〜20質量%であることを特徴とする水性コーティング組成物を提供する。
【0012】
又、本発明は第二に、PETフィルム基材に、前記した水性コーティング組成物の乾燥皮膜を有することを特徴とする積層体を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の水性コーティング組成物は、同組成物を塗布したプラスチックフィルム積層体に、水蒸気バリア性とともに耐加水分解性を付与することができる。特に、太陽電池モジュールのバックシート用コーティング組成物として用いられる場合、バックシートの絶縁処理工程を不要としコストダウンに貢献する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の水性コーティング組成物について更に詳細に説明する。本発明の水性コーティング組成物に使用する水性アクリル系エマルション樹脂の市販品としては、ヨドゾールAD−157(ヘンケルジャパン株式会社の水性アクリルエマルジョン樹脂)、T−XP290(星光PMC株式会社製の水性アクリルスチレンエマルジョン樹脂)等が挙げられる。
【0015】
本発明の水性コーティング組成物に使用するパラフィンワックスエマルションは、市販品としては、エマスター0136(日本精鑞株式会社)が挙げられる。本発明の水性コーティング組成物中の不揮発分換算で、パラフィンワックスエマルションの含有量は、水性アクリル系エマルション樹脂に対して、0.1〜20質量%であり、1〜10質量%が好ましく、特に好ましくは、3〜5質量%である。
【0016】
本発明の水性コーティング組成物は各種プラスチックフィルムに塗工され、水蒸気バリア性とともに耐加水分解性を付与する。特に、PETフィルム等、耐加水分解性に劣るフィルムに適用するときに効果を奏する。
【0017】
層構成は、例えば、窓ガラス用フィルムの場合、「本発明の水性コーティング組成物の乾燥皮膜/PETフィルム/ガラス層」、「本発明の水性コーティング組成物の乾燥皮膜/ポリカーボネートフィルム/ガラス層」等の構成がある。太陽電池モジュール用バックシートの場合、「本発明の水性コーティング組成物の乾燥皮膜/PETフィルム/接着剤/PETフィルム」等の構成が挙げられる。
【0018】
各種フィルムへの塗工適性の観点から、構成成分の比率は、水性コーティング組成物中、水性アクリル系エマルション樹脂30〜50質量%、パラフィンワックスエマルション3〜5質量%であることが好ましい。
【0019】
本発明の水性コーティング組成物の調製は、水性アクリル系エマルション樹脂、パラフィンワックスエマルションを定法にしたがって混合すれば良い。必要に応じて、消泡剤、レベリング剤、滑剤、顔料等の添加剤を含有させても良い。
【0020】
本発明の水性コーティング組成物はグラビアコート、ロールコート、スプレー、シルクスクリーン、フレキソ印刷等公知の手段により、各種プラスチックフィルム上に塗工することが出来る。
【0021】
また、本発明の水性コーティング組成物は、60〜150℃、30〜60秒程度の条件の広範な乾燥条件に於いて、性能良好な硬化塗膜を形成することが出来るが性能を最大限満足させる最適な乾燥条件は120〜150℃、30〜60秒である。
【実施例】
【0022】
以下、本発明を実施例にて具体的に説明する。例中「部」及び「%」は、「質量部」、「質量%」を各々表わす。
【0023】
(実施例コーティング剤1の調製)
T−XP290(水性アクリルスチレンエマルション樹脂:星光PMC製、固形分40%)100g、エマスター0136(パラフィンワックスエマルション:日本精鑞株式会社製、固形分40%、融点61℃、炭素数:21〜38)5gをエアーモーター攪拌機で混合して、実施例コーティング剤1を得た。
【0024】
同様に、表1の組成にしたがって、実施例コーティング剤2〜3及び比較例コーティング剤1〜3を得た。上記で得られた各水性コーティング組成物を、厚さ50μmのコロナ処理PETフィルム(東洋紡製)の一方の面及至両面に、バーコーターにて、5g/m塗布し、150℃で60秒の条件で乾燥して、評価サンプルを得た。以下に示す評価方法で各項目を評価した。結果を表1に示す。
【0025】
(水蒸気バリア性)
JIS−Z0208にしたがった。カップの中に塩化カルシウムを入れ、厚さ50μmのコロナ処理PETフィルムの一方の面に、5g/m塗布した試料フィルムで、塗布面を内側にしてカバーしたカップを恒温恒湿槽(40℃、90%)に置き、一定時間ごとの質量増加を測定し、透湿度(g/m・1day)を算出した。
○:1〜4(g/m・1day)、
△:4〜8(g/m・1day)、
×:8(g/m・1day)以上。
【0026】
(耐加水分解性)
厚さ50μmのコロナ処理PETフィルムの両面に各水性コーティング組成物を5g/m塗布した試料フィルムを、プレッシャークッカー試験機(120℃、100%、50時間)で促進試験を実施し、PETフィルムの破断強度を測定(N/15mm幅)する。
○:100N/15mm幅以上、
△:30〜100N/15mm幅
×:、0〜30N/15mm幅。
【0027】
【表1】

【0028】
表1中の略号は以下を表す。
・T−XP290:アクリルスチレンエマルジョン樹脂(星光PMC株式会社製、固形分40%)、
・ヨドゾールAD−157:アクリルエマルジョン樹脂(ヘンケルジャパン株式会社製、固形分51%)、
・エマスター0136:パラフィンワックスエマルジョン(日本精鑞株式会社製、固形分40%、融点61℃、炭素数:21〜38)
・エマスター6315:パラフィンワックスエマルジョン(日本精鑞株式会社製、固形分40%、融点113℃、炭素数:21〜38)
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の水性コーティング組成物は、同組成物を塗布したプラスチックフィルム積層体に、水蒸気バリア性とともに耐加水分解性を付与することができ、太陽電池モジュールのバックシート用を始め、各種包装材料にも広く適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性アクリル系エマルジョン樹脂(A)及び炭素数20〜50で融点が45〜70℃のパラフィンワックスエマルジョン(B)を含有する水性コーティング組成物であって、前記(A)に対する前記(B)の含有量が、不揮発分換算で0.1〜20質量%であることを特徴とする水性コーティング組成物。
【請求項2】
ポリエチレンテレフタレートフィルム基材に、水性アクリル系エマルジョン樹脂(A)及び炭素数20〜50で融点が45〜70℃のパラフィンワックスエマルジョン(B)を含有し、前記(A)に対する前記(B)の含有量が、不揮発分換算で0.1〜20質量%である水性コーティング組成物の乾燥皮膜を有することを特徴とする積層体。

【公開番号】特開2011−219624(P2011−219624A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−90328(P2010−90328)
【出願日】平成22年4月9日(2010.4.9)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【出願人】(310000244)DICグラフィックス株式会社 (27)
【Fターム(参考)】