説明

水性塗料材料、その製造法および該水性塗料材料の使用

本発明は、少なくとも1つの安定化された飽和または不飽和のポリウレタンおよび少なくとも1つのアルコキシル化されたモノアルコールを含有する水性塗料材料、この水性塗料材料の製造法および該水性塗料材料の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明分野
本発明は、安定化された飽和または不飽和のポリウレタンおよび少なくとも1つのアルコキシル化されたモノアルコールを含有する新規の水性塗料材料に関する。
【0002】
更に、本発明は、水性塗料材料を製造するための新規の方法に関する。更に、本発明は、新規の塗料材料の使用、ならびにピンホール限界膜厚(pinholing limit)の増大および/またはピンホールカウント数(pinhole count)の減少のためのポリウレタン含有塗料材料中でのアルコキシル化されたモノアルコールの使用に関する。
【0003】
少なくとも1つの飽和または不飽和の安定化されたポリウレタンを含有する水性塗料材料は、公知である。この水性塗料材料は、物理的に、熱的に、または熱的に、および化学線を用いて硬化されうる。特に、この水性塗料材料は、有色顔料および/または効果顔料を含有し、マルチコート塗装系または一体色上塗り塗装系の一部分としての有色塗装系および/または効果塗装系、殊に下塗り塗装系を形成させるために使用される。
【0004】
自動車車体の塗装の経過中には、多種多様の塗布欠陥が起こりうる。1つのしばしば起こる欠陥パターンは、透明塗膜および下塗り塗膜中の極めて小さな孔として目視可能になるピンホールの発生にある。過去においては、この問題に対処するために、数多くの試みがなされた。
【0005】
背景技術
ドイツ連邦共和国特許出願公開第102005060302号明細書A1においては、塗料材料がポリウレタンと共に、なお湿潤剤または分散剤および有機溶剤を含有することにより、ピンホール限界膜厚を増大させ、および/またはピンホールカウント数を減少させることが試みられた。
【0006】
欧州特許第1054930号明細書B1には、多成分系塗料が開示されており、この場合下塗り塗膜は、被膜形成性の架橋性樹脂およびアルキル部分中に少なくとも7個の連続的なC原子を有するが、しかし、アルコキシを基礎とする基を有しないアルコールを含有する。メタリックの実施形式の塗膜は、なかんずく良好なピンホール耐性を示す。
【0007】
WO 2007−048587A1においては、ポリウレタン、顔料および燐酸エステルを含有する組成物で曇りを減少させることが試みられた。
【0008】
特開2002−126618号公報では、殊にポリエステルを基礎とするマルチコート塗装系の耐衝撃性および砂利の飛び跳ね耐性を改善することを意図している。特に、好ましくは、ポリオキシアルキレン化されたエーテルが分散剤として使用される。
【0009】
特開2007−039616号公報には、結合剤、硬化剤およびホトルミネセンス顔料を含有する優れたフリップフロップ特性を有するメタリック塗膜が記載されている。好ましい分散剤としては、なかんずくポリオキシエチレン−ステアリルエーテルまたはポリオキシエチレン−オレイルエーテルが挙げられる。
【0010】
欧州特許第1412436号明細書B1には、寸法安定性の粒子および湿潤剤と共にアルキル基中に16〜18個のC原子を有するアルコキシル化脂肪アルコールおよび統計的平均で少なくとも20個のオキサアルカンジイル基を有する透明塗料スラリーが開示されている。この種の組成物を用いる意図は、ポップス(pops)および亀裂形成を回避させることである。
【0011】
米国特許第7358294号明細書B2には、親水基を有する架橋性ポリウレタンが記載されている。有利に15個を上廻る酸化エチレン単位を有するポリエチレンオキシド基が挙げられる。この組成物は、改善された乾燥特性を示す。
【0012】
更に、WO 1998/003243には、短鎖状アルコール部分を有する混合されたエトキシル化およびプロポキシル化されたグリセリンまたはポリグリセリン付加物が記載されている。WO 1996/023568には、40〜80質量%の酸化エチレン含量を有するエトキシル化されたトリグリセリドが記載されている。最後の2つの刊行物中に記載された生成物は、消泡剤として使用される。
【0013】
上記の問題解決の全ての取り組み方では、これまでなおピンホールの問題を満足には解決することができなかった。
【0014】
発明の課題および解決
塗装プロセス中に存在する1つの現象は、ピンホールが発生することである。塗装系中のこの極めて小さな孔は、車体または欠陥位置に修復の必要性を生じ、したがって、回避させるのに多額の費用をまねく。
【0015】
この問題に対するこれまでの取り組み方にも拘わらず、ピンホールの問題は、なお十分には、解決することができなかった。
【0016】
従って、本発明は、極めて僅かなピンホールを示すかまたは全くピンホールを示さず、および/または増大されたピンホール限界膜厚を示す、新規の塗料材料を提供するという課題を基礎にするものである。
【0017】
ピンホール限界膜厚は、ピンホールが起こる下塗り塗膜の最も低い乾燥膜厚である。
【0018】
新規の水性塗料材料は、殊にウェット・オン・ウェット塗布法によるマルチコート塗料系の有色塗装系および/または効果塗装系を得るための水性下塗り塗膜として適している。
【0019】
新規の水性塗料材料は、最も十分にピンホールを含有しない、塗料、有利に有色塗料および/または効果塗料、有利に下塗り塗装系および一体色上塗り塗装系、殊にマルチコート塗装系における下塗り塗装系を提供する。
【0020】
意外なことに、(a)イオン性または非イオン性の飽和または不飽和ポリウレタン、(b)少なくとも1つの湿潤剤および/または分散剤および(c)次の式
R−[AO]n−H
で示される少なくとも1つのアルコキシル化モノアルコールを含有する水性塗料材料であって、アルコキシル化モノアルコールが塗料材料の質量に対して0.1〜5質量%の量で存在し、上記式中、基Rは、8〜20個のC原子を有するアルキル基であり、係数nは、1〜5の整数であり、基[AO]は、アルキレンオキシド基を表わすことを特徴とする、水性塗料材料は、上記課題を解決することが見出された。
【0021】
殊に、本発明による塗料材料が簡単に製造されうることは、意外なことであり、得られた塗装系は、本発明によらない塗装系と比較して、ピンホールを全く有しないかまたは高い層厚で初めてピンホールを有する。
【0022】
従って、本発明による水性塗料材料は、ウェット・オン・ウェット塗布法によるマルチコート塗料系の有色塗装系および/または効果塗装系を得るための水性下塗り塗膜として適している。
【0023】
従って、新規の水性塗料材料は、塗料、特に有色塗料および/または効果塗料中、特に有利に下塗り塗装系および一体色上塗り塗装系、殊に有利にマルチコート塗装系の下塗り塗装系中に使用される。
【0024】
この場合、好ましい支持体は、自動車車体またはその部材である。
【0025】
更に、本発明による水性塗料材料を製造するための新規方法が見出された。この場合、塗料材料の全質量に対して、(a)少なくとも1つの飽和または不飽和のイオン性または非イオン性の安定化されたポリウレタン、(b)少なくとも1つの湿潤剤または分散剤および(c)アルコキシル化されたモノアルコール少なくとも0.1〜5質量%は、互いに混合され、この場合アルコキシル化されたモノアルコールは、式R−[AO]n−H〔式中、基Rは、8〜20個のC原子を有するアルキル基を表わし、係数nは、1〜5の整数を表わし、および基[AO]は、アルキレンオキシド基を表わす〕を有する。
【0026】
とりわけ、有色マルチコート塗装系および/または効果マルチコート塗装系を得るための本発明による塗料材料および本発明による方法により製造された塗料材料の新規使用が見い出された。
【0027】
本発明による塗料材料が付加的に顔料および/または充填剤、殊に有色顔料および/または効果顔料を含有する場合には、この本発明による塗料材料は、特に高い隠蔽力(DIN EN ISO 28199−3による)および優れた全体的な目視的印象(外観)を有する本発明による塗料を提供する。従って、本発明による塗料材料は、自動車車体の塗装に卓越して好適である。
【0028】
本発明による塗料材料は、水性塗料材料である。上記記載の中の"水性"は、全ての塗料材料に対して水30〜70質量%が含有されていることを意味する。
【0029】
発明の詳細な説明
本発明による塗料材料の第1の本質的な成分は、飽和または不飽和のポリウレタンである。適当なポリウレタンは、例えば
ドイツ連邦共和国特許出願公開第19914896号明細書A1、第1欄、第29〜49頁、および第4欄、第23行〜第11欄、第5行、
ドイツ連邦共和国特許出願公開第19948004号明細書A1、第4頁、第19行〜第13頁、第48行、
欧州特許出願公開第0228003号明細書A1、第3頁、第24行〜第5頁、第40行、
欧州特許出願公開第0634431号明細書A1、第3頁、第38行〜第8頁、第9行または
WO 92/15405、第2頁、第35行〜第10頁、第32行の記載から公知である。
【0030】
安定化のために、ポリウレタンは、特に
中和剤および/または四級化剤によってカチオンに変換されうる官能基、および/またはカチオン基
または中和剤によってアニオンに変換されうる官能基、および/またはアニオン基および/または
非イオン性親水性基を含有する。
【0031】
ポリウレタンは、直鎖状であるか、または分枝を含有する。ポリウレタンは、グラフトポリマーとして存在していてもよい。この場合、ポリウレタンは、有利にアクリレート基でグラフトされている。相応するアクリレート基は、ポリウレタン一次分散液の製造後にポリマー中に導入される。
【0032】
このようなグラフトポリマーは、当業者に公知であり、例えばドイツ連邦共和国特許出願公開第19948004号明細書A1中に記載されている。
【0033】
本発明による塗料材料が物理的に硬化性、熱的に自己架橋性、または熱的に自己架橋性および化学線で硬化性である場合には、この本発明による塗料材料のポリウレタン含量は、それぞれ本発明による塗料材料の被膜形成性固体に対して50〜100質量%、有利に50〜90質量%、殊に50〜80質量%である。
【0034】
被膜形成性固体は、顔料および/または充填剤なしの塗料材料の非揮発性質量分を意味する。
【0035】
本発明による塗料材料が熱的に外部架橋的に硬化性であるかまたは熱的に外部架橋的に化学線で硬化性である場合には、本発明による塗料材料のポリウレタン含量は、それぞれ本発明による塗料材料の被膜形成性固体に対して10〜80質量%、有利に15〜75質量%、殊に20〜70質量%である。
【0036】
更に、本発明にとって本質的な成分として、式
R−[AO]n−H
で示されるアルコキシル化されたモノアルコールが使用される。
【0037】
アルコキシル化されたモノアルコールは、塗料材料の全質量に対して0.1〜5質量%の量で塗料材料中に含有されている。基Rは、アルキル基である。アルキル基Rは、直鎖状であってもよいし、分枝を有していてもよい。係数nは、1〜5の整数を意味し、基[AO]は、アルキレンオキシド基を表わす。
【0038】
アルキル鎖Rは、分枝鎖状であってもよいし、非分枝鎖状であってもよく、少なくとも8個のC原子、有利に少なくとも10個のC原子、特に有利に少なくとも12個のC原子を含有する。
【0039】
基Rが分枝を有する場合には、この分枝は、特に、例えばA.J.O’Lenick jr.:"A Review of Guerbet Chemistry"中に記載されている。
【0040】
基Rが分枝を有する場合には、基Rは、同様に少なくとも8個のC原子を含有する。
【0041】
式R−[AO]n−Hにおいて、互いに結合されたアルキレンオキシド基[AO]の数は、係数nによって特徴付けられている。係数nは、1つの整数であり、1〜5で変動する。好ましくは、nは、1〜3であり、特に有利に、nは、1または2である。
【0042】
単独のアルキレンオキシド単位[AO]は、有利に1〜4個のC原子、特に有利に1〜3個のC原子を有する。
【0043】
アルキレンオキシド基の概念は、酸素原子に結合したアルキレン鎖を有するような単位を意味する。この場合、例として基CH2−CH2−Oが挙げられる。従って、式R−[AO]n−Hにおいて、酸素原子は、常に直接に末位のH原子に結合されている。
【0044】
アルコキシル化されたモノアルコールは、通常の公知の、市場で入手可能な製品である。例えば、このようなアルコキシル化されたモノアルコールは、Lutensol(登録商標)。Degressai(登録商標)、Piurioi(登録商標)、Dehydro(登録商標)、Disponil(登録商標)またはDehypon(登録商標)の商品名で販売されている。
【0045】
アルコキシル化されたモノアルコールの量は、変動可能であり、個々の場合の要件に最適に適合させることができる。この場合、それぞれ本発明による塗料材料に対して0.1〜5質量%、有利に0.1〜4質量%、殊に0.2〜3質量%のアルコキシル化されたモノアルコールの含量で十分であり、本発明の好ましい技術的効果が達成されることが強調される。前記含量が本発明による塗料材料に対して5質量%を上廻る場合には、場合により欠点、例えば下方焼き付けされた構造体(unterbrannten Aufbauten)における付着の劣化を許容しなければならない。
【0046】
更に、本発明による塗料材料は、なお少なくとも1つの添加剤を含有することができる。特に、この本発明による塗料材料は、少なくとも2つの添加剤を含有する。好ましくは、添加剤は、塗料材料の分野で通常使用される添加剤の群から選択される。特に好ましくは、添加剤は、残留物不含または本質的に残留物不含の熱分解可能な塩からなり、ポリウレタンとは異なる、物理的に、熱的におよび/または化学線で硬化可能な結合剤、架橋剤、有機溶剤、熱的に硬化可能な反応性希釈剤、化学線で硬化可能な反応性希釈剤、有色顔料および/または効果顔料、透明顔料、充填剤、分子分散性で可溶性の染料、ナノ粒子、光安定剤、酸化防止剤、脱気剤、乳化剤、スリップ添加剤、重合抑制剤、ラジカル重合開始剤、熱不安定性のラジカル開始剤;付着助剤、流展剤、被膜形成助剤、例えば濃稠化剤および構造粘性のサグ調整剤(SCA)、難燃剤、耐蝕剤、易流動性助剤、ワックス、乾燥剤、殺生剤および艶消剤の群から選択される。
【0047】
前記種類の適当な添加剤は、例えば
ドイツ連邦共和国特許出願公開第19948004号明細書A1、第14頁、第4行〜第17頁、第5行、
ドイツ連邦共和国特許第10043405号明細書C1、第5欄、段落[0031]〜[0033]の記載から公知である。前記の添加剤は、通常の公知の量で使用される。
【0048】
本発明による塗料材料の固体含量は、変動可能であり、したがって、個々の場合の要件に最適に適合させることができる。第1に、固体含量は、用途、殊に噴霧用途に必要とされる粘度により左右され、したがって、この固体含量は、当業者によって一般的な専門知識に基づいて、場合によっては僅かな範囲の検出試験により調節されることができる。
【0049】
特に、塗料材料の固体含量は、5〜70質量%、特に有利に10〜65質量%、殊に有利に15〜60質量%である。
【0050】
固体含量は、定められた条件下で蒸発濃縮の際に残留物として残留する質量分である。本明細書中では、固体は、DIN EN ISO 3251により測定された。測定時間は、125℃で60分間であった。
【0051】
本発明による塗料材料は、特に本発明による方法により製造される。この場合、ポリウレタン樹脂、湿潤剤または分散剤およびアルコール成分は、水性媒体中、殊に水中に分散され、その後に生じる混合物は、均質化される。この方法に関連して、本発明による方法は、特殊性を有するのではなく、通常の公知の混合方法および混合装置、例えば攪拌タンク、ディスソルバー、攪拌ミル、混練機、静的ミキサーまたは押出機を用いて実施されてよい。
【0052】
特に好ましくは、本発明による塗料材料は、単層の一体色上塗り塗装系を得るための一体色上塗り塗膜、または有色マルチコート塗装系および/または効果マルチコート塗装系を得るための水性下塗り塗膜として使用される。この場合、本発明による塗料材料は、殊に有利にマルチコート塗装系の有色下塗り塗装系および/または効果下塗り塗装系を得るための水性下塗り塗膜として使用される。この場合、本発明による塗料材料は、OEM仕上塗装および修復仕上塗装に卓越的に適している。
【0053】
殊に好ましくは、本発明によるマルチコート塗装系は、ウェット・オン・ウェット塗布法によって得られ、この場合には、
(1)少なくとも1つの水性下塗り塗料は、プライマーを塗装したかまたはプライマーを塗装していない支持体上に塗布され、それによって少なくとも1つの水性下塗り塗膜(1)が生じ、
(2)少なくとも1つの透明塗料が水性下塗り塗膜(1)上に塗布され、それによって少なくとも1つの透明塗膜(2)が生じ、および
(3)少なくとも1つの単数または複数の水性下塗り塗膜(1)および単数または複数の透明塗膜(2)が共通に硬化し、それによって下塗り塗装(1)および透明塗装(2)が生じる。
【0054】
このようなウェット・オン・ウェット塗布法の例は、
ドイツ連邦共和国特許出願公開第19948004号明細書、第17頁、第37行〜第19頁、第22行、または
ドイツ連邦共和国特許第10043405号明細書、第3欄、段落[0018]および第6欄、段落[0039]〜第8欄、段落[0050]と関連して第8欄、段落[0052]ないし第9欄、段落[0057]の記載から公知である。
【0055】
本発明による透明塗料は、物理的に、熱的に、または熱的に、および化学線で硬化可能である。この場合、熱的に、または熱的に、および化学線で行なわれる硬化は、物理的硬化によって補助されてよい。
【0056】
本発明の範囲内で、"物理的硬化"の概念は、ポリマー溶液または分散液からの溶剤の放出による被膜の形成を意味する。このためには、通常、架橋剤は不要である。場合によっては、物理的硬化は、空気酸素によって補助されてよいし、化学線による照射によって補助されてよい。
【0057】
本発明の範囲内で"熱的硬化"の概念は、塗料材料からの膜の熱により開始される硬化を意味し、この場合には、通常、別個に存在する架橋剤が使用される。架橋剤は、反応性の官能基を含有し、この官能基は、ポリウレタン中に存在する反応性の官能基に対して補足的なものである。これは、通常、当業界によって外部架橋と呼ばれている。補足的に反応性の官能基または自動反応性の官能基、即ち"それ自体"と反応する基がポリウレタン中に存在する場合には、これらの基自体は、架橋性である。適した補足的な反応性の官能基および自動反応性の官能基の例は、ドイツ連邦共和国特許出願公開第19930665号明細書A1、第7頁、第28行〜第9頁、第24行の記載から公知である。
【0058】
本発明の範囲内において化学線とは、電磁線、例えば近赤外線(NIR)、可視光線、UV線、X線またはγ線、殊にUV線、および粒子線、例えば電子線、β線、α線、陽子線または中性子線、殊に電子線を意味する。UV線による硬化は、通常、ラジカル光開始剤または陽イオン性光開始剤によって開始される。
【0059】
本発明による塗料材料において、熱硬化および化学線での硬化を一緒に使用する場合には、"デュアル硬化"とも呼ばれる。
【0060】
本発明による塗料材料は、一成分(1K)系であってよい。
【0061】
本発明の範囲内において、一成分(1K)系は、熱硬化性の塗料材料であることができ、この場合結合剤および架橋剤は、互いに並んで、即ち一成分で存在する。このための前提条件は、2つの成分が高い温度で初めて、および/または化学線での照射の際に初めて互いに架橋することである。
【0062】
更に、本発明による塗料材料は、二成分(2K)系または多成分(3K,4K)系であることができる。
【0063】
本発明の範囲内において、これは、塗料材料中で、殊に結合剤および架橋剤が互いに別々に少なくとも2つの成分中に存在し、これらが適用直前まで結合されないことを意味する。この形は、結合剤および架橋剤が既に室温で互いに反応する場合に選択される。この種の塗料材料は、なかんずく熱的に敏感な支持体の被覆のために、殊に自動車の修復仕上塗装において使用される。
【0064】
更に、本発明の対象は、有色マルチコート塗装系および/または効果マルチコート塗装系、殊にウェット・オン・ウェット塗布法による塗装系を得るために、水性下塗り塗膜としての本発明による塗料材料の使用である。支持体としては、特に金属支持体が適している。支持体の好ましい例は、自動車車体またはその部材である。
【0065】
また、本発明の対象は、同一のポリウレタン塗料材料ではあるが、しかし、アルコキシル化されたモノアルコールが添加されていないポリウレタン塗料材料に対してピンホール限界膜厚を増大させるため、および/またはピンホールカウント数を減少させるための、本発明による塗料材料中で使用される、ポリウレタン含有塗料材料中でのアルコキシル化されたモノアルコールの使用である。また、本発明によれば、相応してアルコキシル化されたモノアルコールなしに製造される、同じポリウレタン含有塗料材料と比較して隠蔽力を増大させるための、顔料が含有されたポリウレタン含有塗料材料中での、本発明による塗料材料中で使用されるようなアルコキシル化されたモノアルコールの使用である。
【0066】
以下に、本発明は、実施例につき詳説される。
【実施例】
【0067】
実施例
灰色の水性下塗り塗装材料1の製造
場合によっては発生する塗膜欠陥をよりいっそう良好に評価するために、次の規定により製造された灰色の水性下塗り塗装材料を使用した。
【0068】
混合物1a:
ディスソルバー中に、無機濃稠化剤の分散液26質量部(ナトリウム−マグネシウム層状珪酸塩、水中で3質量%)を装入した。このために、脱イオン水30質量部、ブチルグリコール107.5質量部、ドイツ連邦共和国特許出願公開第4437535号明細書A1の第7頁、第55行〜第8頁、第23行の記載により製造された、ポリウレタン変性されたポリアクリレート4.5質量部および市販の消泡剤の20.5質量%の溶液0.6質量部(Cognis社のNopco(登録商標)DSX 1550)を攪拌しながら添加した。混合物1aを生じた。
【0069】
混合物1b:
これとは別に、ドイツ連邦共和国特許出願公開第4009858号明細書A1の実施例D.、第16欄、第37〜59行の記載により製造された、水性ポリエステル樹脂分散液3.2質量部、Air Products社のSurfynol(登録商標)104 52質量%を含有する界面活性剤溶液0.3質量部、ブチルグリコール55質量部、n−ブタノール中の市販の水希釈可能なメラミンホルムアルデヒド樹脂4.1質量部(Surface Specialties Austria社のCymel(登録商標)203)および水中のジメチルエタノールアミンの10質量%の溶液0.3質量部を互いに混合した。混合物1bを生じた。
【0070】
混合物1c:
混合物1aおよび1bを互いに混合した。混合物1cを生じた。
【0071】
混合物1d:
混合物1cを、脱イオン水6質量部、ドイツ連邦共和国特許出願公開第19948004号明細書A1の第19頁、第44行〜第20頁、第7行の記載により製造された、アクリル化されたポリウレタン20.4質量部、Air Products社のSurfynol(登録商標)104 52質量%を含有する界面活性剤溶液1.6質量部、ブトキシエタノール48質量部、水中のジメチルエタノールアミンの10質量%の溶液0.4質量部、n−ブタノール1.6質量部およびポリアクリレート濃稠化剤の3質量%の溶液3.9質量部(Ciba社のViscalex(登録商標))と混合した。混合物1dを生じた。
【0072】
カーボンブラックペースト:
カーボンブラックペーストを、WO 91/15528(第23頁、第29行〜第24頁、第24行)の記載により製造されたポリアクリレート分散液25質量部、カーボンブラック10質量部、メチルイソブチルケトン0.1質量部、ジメチルエタノールアミン36質量部、市販のポリエーテル2質量部(BASF AG社のPluriol(登録商標)P900)および脱イオン水61.45質量部から混合によって製造した。
【0073】
ブルーペースト:
ブルーペーストを、ドイツ連邦共和国特許出願公開第4009858号明細書A1の第16欄、第10〜35行の記載により製造されたポリウレタン分散液19.4質量部、BASF AG社のPaliogen(登録商標)Blau L 6482 13.5質量部、ブトキシエタノール4.3質量部、メチルエチルケトン0.18質量部、ジメチルエタノールアミン0.62質量部、BASF AG社のPluriol(登録商標)P900 1.2質量部および水61質量部から混合によって製造した。
【0074】
ペースト混合物:
ペースト混合物を、カーボンブラックペースト0.5質量部、ブルーペースト0.1質量部およびドイツ連邦共和国特許出願公開第10004494号明細書A1のNo.9の記載により製造されたペースト0.5質量部から製造した。
【0075】
混合物1e:
混合物1eを、得られた全てのペースト混合物と得られた全ての混合物1dとを混合することによって製造した。
【0076】
アルミニウム効果顔料ペースト:
アルミニウム効果顔料ペーストを、第1の65質量%のアルミニウム効果顔料捏和(混練)物3.2質量部(Eckart社のAlu−Stapa−Hydrolux(登録商標)2153)および第2の65質量%のアルミニウム効果顔料捏和物3.2質量部(Eckart社のAlu−Starter−Hydrolux(登録商標)8154)、ブチルグリコール7.5質量部およびドイツ連邦共和国特許出願公開第4009858号明細書A1の実施例D、第16欄、第37〜59行の記載により製造された水性ポリエステル樹脂分散液5.0質量部から製造した。
【0077】
水性下塗り塗装材料1:
水性下塗り塗装材料1を、得られた全ての混合物1eと得られた全てのアルミニウム効果顔料ペーストと水2質量部とを混合することによって製造した。引続き、この水性下塗り塗装材料1を、ジメチルエタノールアミンで8のpH値に調節しかつ23℃で回転粘度計(Mettler−Toledo社のRheomat RM 180機器)で測定した、1000/秒の剪断負荷の際に脱イオン水で58mPa.sの粘度に調節した。
【0078】
水性下塗り塗装材料E2:
本発明による水性下塗り塗装材料E2の製造のために、水性下塗り塗装材料1に商業的に入手可能なLutensol(登録商標)AO3 1.5質量部を添加した。
【0079】
水性下塗り塗装材料E3:
本発明による水性下塗り塗装材料E3の製造のために、水性下塗り塗装材料1に商業的に入手可能なLutensol(登録商標)XL40 1.5質量部を添加した。
水性下塗り塗装材料E4:
本発明による水性下塗り塗装材料E4の製造のために、水性下塗り塗装材料1に商業的に入手可能なLutensol(登録商標)XP30 1.5質量部を添加した。
【0080】
水性下塗り塗装材料E5:
本発明による水性下塗り塗装材料E5の製造のために、水性下塗り塗装材料1に商業的に入手可能なLutensol(登録商標)XP40 1.5質量部を添加した。
【0081】
水性下塗り塗装材料E6:
本発明による水性下塗り塗装材料E6の製造のために、水性下塗り塗装材料1に商業的に入手可能なDehydol(登録商標)LS2 1.5質量部を添加した。
【0082】
水性下塗り塗装材料E7:
本発明による水性下塗り塗装材料E7の製造のために、水性下塗り塗装材料1に商業的に入手可能なDehydol(登録商標)LT2 1.5質量部を添加した。
【0083】
水性下塗り塗装材料E8:
本発明による水性下塗り塗装材料E8の製造のために、水性下塗り塗装材料1に商業的に入手可能なDehydol(登録商標)LS3DEO N 1.5質量部を添加した。
【0084】
水性下塗り塗装材料E9:
本発明による水性下塗り塗装材料E9の製造のために、水性下塗り塗装材料1に商業的に入手可能なDehypon(登録商標)OCP502 1.5質量部を添加した。
【0085】
水性下塗り塗装材料E10(比較):
本発明による水性下塗り塗装材料E10の製造のために、水性下塗り塗装材料1に商業的に入手可能なAgitan(登録商標)281 1.5質量部(消泡剤)を添加した。
【0086】
水性下塗り塗装材料E11(比較):
本発明による水性下塗り塗装材料E11の製造のために、水性下塗り塗装材料1に商業的に入手可能な1−オクタノール1.5質量部を添加した。
【0087】
【表1】

【0088】
第1表中の質量%の記載は、それぞれ水性下塗り塗装材料中のアルコキシル化されたモノアルコールの割合に関連する。
【0089】
水性下塗り塗装材料1と水性下塗り塗装材料E2〜E11との比較試験
ピンホール限界膜厚およびピンホールカウント数を測定するために、マルチコート塗装系を次の一般的な規定により得た:
被覆後に層厚の差を測定することができるようにするために、プライマーサーフェイサーで被覆された、寸法30×50cmの鋼製パネルの1つの長手縁部に、接着剤ストリップを備えさせた。水性下塗り塗装材料を楔の形で静電塗布した。生じる水性下塗り塗膜を室温で1分間でフラッシュオフし、引続き空気循環炉中で70℃で10分間乾燥させた。乾燥した水性下塗り塗膜上に、通常の二成分(2K)系透明塗装材料を塗布した。生じる透明塗膜を室温で20分間フラッシュオフした。引続き、水性下塗り塗膜および透明塗膜を空気循環炉中で140℃で20分間硬化させた。生じる楔形のマルチコート塗装系中のピンホールの目視的評価により、ピンホール限界膜厚を測定した。この結果は、第2表中に見出される。
【0090】
【表2】

【0091】
この結果は、本発明によるアルコキシル化されたモノアルコールの使用が水性下塗り塗装材料1、高度にアルコキシル化された消泡剤(E10)およびアルコキシル化されていないモノアルコール(E11;1−オクタノール)と比較してピンホール限界膜厚を著しく増大させ、幾つかの場合には同時にピンホールカウント数を減少させるという事実を明示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)少なくとも1つのイオン性または非イオン性の安定化された、飽和または不飽和ポリウレタン、(b)少なくとも1つの湿潤剤および/または分散剤および(c)次の式
R−[AO]n−H
で示される少なくとも1つのアルコキシル化モノアルコールを含有する水性塗料材料において、アルコキシル化モノアルコールが塗料材料の質量に対して0.1〜5質量%の量で存在し、上記式中、基Rは、8〜20個のC原子を有するアルキル基であり、係数nは、1〜5の整数であり、基[AO]は、アルキレンオキシド基を表わすことを特徴とする、上記水性塗料材料。
【請求項2】
基Rが直鎖状である、請求項1記載の塗料材料。
【請求項3】
基Rが分枝を有する、請求項1記載の塗料材料。
【請求項4】
係数nが1〜3の整数である、請求項1から3までのいずれか1項に記載の塗料材料。
【請求項5】
アルキレンオキシド基[AO]が1〜4個の炭素原子を含有する、請求項1から4までのいずれか1項に記載の塗料材料。
【請求項6】
ポリウレタンが直鎖状または分枝鎖状である、請求項1から5までのいずれか1項に記載の塗料材料。
【請求項7】
ポリウレタンがグラフト化されている、請求項1から6までのいずれか1項に記載の塗料材料。
【請求項8】
顔料および/または充填剤が塗料材料の全質量に対して40質量%までの量で含有されている、請求項1から7までのいずれか1項に記載の塗料材料。
【請求項9】
請求項1から8までのいずれか1項に記載の水性塗料材料の製造法において、塗料材料の全質量に対して、(a)少なくとも1つのイオン性または非イオン性の安定化された飽和または不飽和のポリウレタン、(b)少なくとも1つの湿潤剤および/または分散剤および(c)アルコキシル化されたモノアルコール少なくとも0.1〜5質量%を互いに混合することを特徴とする、請求項1から8までのいずれか1項に記載の水性塗料材料の製造法。
【請求項10】
請求項1から8までのいずれか1項に記載の水性塗料材料または請求項9記載の方法により製造された水性塗料材料の使用において、水性塗料材料を有色マルチコート塗装系および/または効果マルチコート塗装系を得るための水性下塗り塗装材料として使用することを特徴とする、請求項1から8までのいずれか1項に記載の水性塗料材料または請求項9記載の方法により製造された水性塗料材料の使用。
【請求項11】
ウェット・オン・ウェット塗布法により有色マルチコート塗装系および/または効果マルチコート塗装系で支持体を塗装するための請求項10記載の水性塗料材料の使用。
【請求項12】
支持体は、自動車車体またはその部材である、請求項10または11記載の水性塗料材料の使用。
【請求項13】
請求項1記載のアルコキシル化されたモノアルコールなしのポリウレタン含有塗料材料に対してピンホール限界膜厚を増大させるため、および/またはピンホールカウント数を減少させるための、ポリウレタン含有塗料材料中での請求項1記載の式R−[AO]n−Hのアルコキシル化されたモノアルコールの使用において、アルコキシル化モノアルコールが塗料材料中で0.1〜5質量%の量で使用され、上記式中、基Rは、8〜20個のC原子を有するアルキル基であり、係数nは、1〜5の整数であり、基[AO]は、アルキレンオキシド基を表わすことを特徴とする、請求項1記載のアルコキシル化されたモノアルコールなしのポリウレタン含有塗料材料に対してピンホール限界膜厚を増大させるため、および/またはピンホールカウント数を減少させるための、ポリウレタン含有塗料材料中での請求項1記載の式R−[AO]n−Hのアルコキシル化されたモノアルコールの使用。
【請求項14】
請求項1記載のアルコキシル化されたモノアルコールなしのポリウレタン含有塗料材料に対して隠蔽力を増大させるための、顔料が含有されたポリウレタン含有塗料材料中での請求項1記載の式R−[AO]n−Hのアルコキシル化されたモノアルコールの使用において、アルコキシル化モノアルコールが塗料材料中に0.1〜5質量%の量で存在し、上記式中、基Rは、8〜20個のC原子を有するアルキル基であり、係数nは、1〜5の整数であり、基[AO]は、アルキレンオキシド基を表わすことを特徴とする、請求項1記載のアルコキシル化されたモノアルコールなしのポリウレタン含有塗料材料に対して隠蔽力を増大させるための、顔料が含有されたポリウレタン含有塗料材料中での請求項1記載の式R−[AO]n−Hのアルコキシル化されたモノアルコールの使用。

【公表番号】特表2012−512291(P2012−512291A)
【公表日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−541209(P2011−541209)
【出願日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際出願番号】PCT/EP2009/009065
【国際公開番号】WO2010/069568
【国際公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【出願人】(390008981)ビーエーエスエフ コーティングス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (155)
【氏名又は名称原語表記】BASF Coatings GmbH
【住所又は居所原語表記】Glasuritstrasse 1, D−48165 Muenster,Germany
【Fターム(参考)】