説明

水性塗料用組成物

【課題】 含フッ素重合体を含み、光輝性に優れたプライマー塗膜を形成することができる水性塗料用組成物を提供する。
【解決手段】 耐熱樹脂(A)及び含フッ素重合体(B)を含有する水性分散体からなり、更に、金属粉末(C)と、水溶性で且つ沸点が100℃以上のアルコール(D)とを含むことを特徴とする水性塗料用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性塗料用組成物に関し、より詳しくは含フッ素系水性塗料用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリテトラフルオロエチレン〔PTFE〕等の含フッ素重合体は、耐熱性、耐薬品性、電気絶縁性等の特性に優れるので、アイロン等の家庭用品、フライパンやホットプレート等の厨房器具、食品工業、電気工業、機械工業等の分野で幅広い用途がある。
【0003】
含フッ素重合体は、また、低摩擦係数を有し、非粘着性にも優れている。この表面特性は、撥水撥油性、離型性、摺動性等に結びつくので、含フッ素重合体は、例えば水性塗料用の組成物とし、塗装して物品の表面に存在させることにより、フライパン等の厨房器具のほか、成形金型離型材、OA機器用ロール等にも用途が拡大されている。
【0004】
表面加工は、被塗装物上にフッ素樹脂からなる層を設けることにより行うが、フッ素樹脂の非粘着性により、この層と被塗装物との密着性は乏しい。この密着性の向上を目的として、被塗装物上に下塗りとして予めプライマーを塗装することが行われてきた。
このプライマーとしては、フッ素樹脂からなる層との密着性を持たせるためにフッ素樹脂を配合し、更に、被塗装物との密着性を持たせるためにバインダー樹脂をも配合したものがある。
【0005】
上記のフッ素樹脂は、例えば乳化重合等の従来公知の重合方法等を用いて重合することにより得る場合、水を媒体としているためこれを含有するプライマーも水性である場合が多い。
【0006】
一方、プライマーの塗膜に光輝性を付与する目的でアルミニウム等の金属粉末を添加することが行われてきた(例えば、特許文献1、特許文献2参照。)。
【0007】
プライマーの塗膜に金属フレークを含むと、その上に形成するフッ素樹脂からなる層の引掻き抵抗性が改良されることも報告されている(例えば、特許文献3参照。)。しかし、水性塗料に金属粉末を添加しても乾燥・焼成後の塗膜に光輝性が充分に発現しないという問題点があった。
【特許文献1】特開平6−264000号公報
【特許文献2】国際公開第2004/041537号パンフレット
【特許文献3】特開昭52−18741号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、上記現状に鑑み、含フッ素重合体を含み、光輝性に優れたプライマー塗膜を形成することができる水性塗料用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、耐熱樹脂(A)及び含フッ素重合体(B)を含有する水性分散体からなり、更に、金属粉末(C)と、水溶性で且つ沸点が100℃以上のアルコール(D)とを含むことを特徴とする水性塗料用組成物である。
本発明は、被塗装物上に水性塗料用組成物を塗装することよりなる光輝性塗膜の製造方法であって、上記水性塗料用組成物は、本発明の水性塗料用組成物であることを特徴とする光輝性塗膜の製造方法である。
以下に本発明を詳細に説明する。
【0010】
本発明の水性塗料用組成物は、被塗装物に塗装することにより、上記被塗装物上に塗膜を形成することができるものである。本明細書において、上記水性塗料用組成物についての「塗装」とは、上記水性塗料用組成物を塗布し、必要に応じて乾燥し、次いで焼成することよりなる工程を意味する。
上記水性塗料用組成物は、上述の問題を解決するため種々検討を行った結果、特定のアルコール(D)を配合することにより、得られる塗膜の光輝性を向上させることができることを見出したものである。
【0011】
本発明の水性塗料用組成物は、耐熱樹脂(A)及び含フッ素重合体(B)を含有する水性分散体からなり、更に、金属粉末(C)と、上記特定のアルコール(D)とを含むことを特徴とする。
【0012】
上記含フッ素重合体(B)は、主鎖又は側鎖を構成する炭素原子に直接結合しているフッ素原子を有する重合体である。上記含フッ素重合体(B)は、非溶融加工性であってもよいし、溶融加工性であってもよい。
【0013】
上記含フッ素重合体(B)は、含フッ素モノエチレン系不飽和炭化水素(a)を重合することにより得られるものである。
上記含フッ素モノエチレン系不飽和炭化水素(a)(以下、「不飽和炭化水素(a)」という。)は、フッ素原子により水素原子の一部又は全部が置換されているビニル基を、分子中に1個有する不飽和炭化水素である。
上記不飽和炭化水素(a)は、塩素原子等のフッ素原子以外のハロゲン原子、及び/又は、トリフルオロメチル基等のフッ素化メチル基により置換されているものであってもよい。但し、上記不飽和炭化水素(a)は、後述のトリフルオロエチレンを除く。
【0014】
上記不飽和炭化水素(a)としては特に限定されず、例えば、テトラフルオロエチレン〔TFE〕、ヘキサフルオロプロピレン〔HFP〕、クロロトリフルオロエチレン〔CTFE〕、ビニリデンフルオライド〔VdF〕、フッ化ビニル〔VF〕等が挙げられ、これらは、1種又は2種以上を用いることができる。
【0015】
上記含フッ素重合体(B)は、また、少なくとも1種の上記不飽和炭化水素(a)と、上記不飽和炭化水素(a)と共重合し得る不飽和化合物(b)との共重合体であってもよい。
上記不飽和化合物(b)は、1種又は2種以上の不飽和化合物(b)のみを重合することにより得られる重合体を上記含フッ素重合体(B)として用いないものであるが、上記不飽和炭化水素(a)が1種又は2種以上の上記不飽和炭化水素(a)のみを重合することにより得られる重合体を上記含フッ素重合体(B)として用い得るものである点で、上記不飽和炭化水素(a)と異なるものである。
上記不飽和化合物(b)としては特に限定されず、例えば、トリフルオロエチレン〔3FH〕;エチレン〔Et〕、プロピレン〔Pr〕等のハロゲン原子を有しないモノエチレン系不飽和炭化水素等が挙げられる。これらは、1種又は2種以上を用いることができる。
【0016】
上記含フッ素重合体(B)は、単独重合体であってもよいし、共重合体であってよいし、単独重合体及び少なくとも1種以上の共重合体からなる混合物であってもよいし、少なくとも2種以上の共重合体からなる混合物であってもよい。
上記単独重合体としては特に限定されず、例えば、ポリテトラフルオロエチレン〔PTFE〕、ポリクロロトリフルオロエチレン〔PCTFE〕、ポリビニリデンフルオライド〔PVdF〕、ポリフッ化ビニル〔PVF〕等が挙げられる。
上記共重合体としては特に限定されず、例えば、2元共重合体、3元共重合体等が挙げられる。上記2元共重合体としては、例えば、TFE/HFP共重合体〔FEP〕、TFE/CTFE共重合体、TFE/VdF共重合体、TFE/3FH共重合体、Et/TFE共重合体〔ETFE〕、TFE/Pr共重合体等のTFE系共重合体;VdF/HFP共重合体;Et/CTFE共重合体〔ECTFE〕;Et/HFP共重合体等が挙げられる。本明細書において、上記「TFE系共重合体」とは、TFEと、TFE以外のその他の単量体の1種又は2種以上とを共重合して得られるものを意味する。上記TFE系共重合体は、通常、上記TFE系共重合体中に付加されているTFE以外のその他の単量体の割合が、上記TFEと上記その他の単量体との合計質量の1質量%を超えていることが好ましい。
上記3元共重合体としては、VdF/TFE/HFP共重合体等が挙げられる。
【0017】
上記TFE系共重合体における上記TFE以外のその他の単量体としては、下記のTFEと共重合し得るその他の単量体(c)であってもよい。上記その他の単量体(c)は、下記一般式:
X(CFCF=CF
(式中、Xは、水素原子、塩素原子又はフッ素原子を表し、mは、1〜6の整数を表し、nは、0又は1の整数を表す。)で表される化合物(但し、HFPを除く。)、下記一般式:
O[CF(CF)CFO]−CF=CF
(式中、pは、1又は2の整数を表す。)で表される化合物、又は、下記一般式:
X(CFCY=CH
(式中、Xは、上記と同じであり、Yは、水素原子又はフッ素原子を表し、qは、1〜6の整数を表す。)で表される化合物である。これらは、1種又は2種以上を用いることができる。
【0018】
上記その他の単量体(c)としては、上記一般式で表されるものであれば特に限定されず、例えば、パーフルオロブチレン等の炭素数4以上のパーフルオロオレフィン;パーフルオロ(メチルビニルエーテル)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)、パーフルオロ(フロピルビニルエーテル)等のパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)〔PAVE〕等が挙げられる。
【0019】
TFEとその他の単量体(c)とを共重合することにより得られるTFE系共重合体としては、例えば、TFE/PAVE共重合体〔PFA〕等が挙げられる。
上記「単独重合体及び少なくとも1種以上の共重合体からなる混合物」としては特に限定されず、例えば、PTFEとPFAとの混合物、PTFEとFEPとの混合物、PTFEとPFAとFEPとの混合物等が挙げられる。上記「少なくとも2種以上の共重合体からなる混合物」としては特に限定されず、例えば、PFAとFEPとの混合物等が挙げられる。
【0020】
上記含フッ素重合体(B)は、また、パーフルオロアルキル基を有するパーフルオロアルキル基含有エチレン性不飽和単量体(d)(以下、「PAE(d)」という。)を重合することにより得られるものであってもよい。上記PAE(d)は、下記一般式:
【0021】
【化1】

【0022】
(式中、Rfは、炭素数4〜20のパーフルオロアルキル基を表し、Rは、水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基を表し、Rは、炭素数1〜10のアルキレン基を表し、Rは、水素原子又はメチル基を表し、Rは、炭素数1〜17のアルキル基を表し、rは、1〜10の整数を表し、sは、0〜10の整数を表す。)で表されるものである。
【0023】
上記含フッ素重合体(B)は、上記PAE(d)の単独重合体であってもよいし、また、上記PAE(d)と上記PAE(d)と共重合し得る単量体(e)との共重合体であってもよい。上記単量体(e)としては特に限定されず、例えば、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ベンジルエステル、ジ(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコール、N−メチロールプロパンアクリルアミド、(メタ)アクリル酸アミド、アルキル基の炭素数が1〜20である(メタ)アクリル酸のアルキルエステル等の(メタ)アクリル酸誘導体;エチレン、塩化ビニル、フッ化ビニル、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン等の置換又は非置換エチレン;アルキル基の炭素数が1〜20であるアルキルビニルエーテル、アルキル基の炭素数が1〜20であるハロゲン化アルキルビニルエーテル等のビニルエーテル類;アルキル基の炭素数が1〜20であるビニルアルキルケトン等のビニルケトン類;無水マレイン酸等の脂肪族不飽和ポリカルボン酸及びその誘導体;ブタジエン、イソプレン、クロロプレン等のポリエン等が挙げられる。
【0024】
上記含フッ素重合体(B)は、非粘着性、滑り性、耐熱性等に優れる点から、PTFE、FEP及び/又はPFAが好ましく、上記「PTFE、FEP及び/又はPFA」としては、例えば、PTFE、FEP、PFA、PTFEとFEPとの混合物、PTFEとPFAとの混合物等が挙げられる。
【0025】
上記PTFEはTFE、FEPはTFEとHFP、PFAはTFEとPAVEがそれぞれ必須単量体であるが、これらの必須単量体以外のその他の微量単量体が付加されているものであってもよい。
【0026】
上記微量単量体としては特に限定されず、例えば、CTFE等の上記不飽和炭化水素(a);3FH等の上記不飽和化合物(b);パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)、(パーフルオロアルキル)エチレン等の上記その他の単量体(c)等が挙げられる。上記微量単量体としては、含フッ素重合体(B)が上記PTFEである場合、更に、HFP、PAVEが挙げられ、上記FEPである場合、更に、PAVEが挙げられ、上記PFAである場合、更に、HFPが挙げられる。上記微量単量体は、1種又は2種以上を用いることができる。
上記微量単量体は、その種類によって異なるが、通常、含フッ素重合体(B)の質量の1質量%以下であることが好ましい。より好ましい上限は0.5質量%であり、更に好ましい上限は0.3質量%である。
【0027】
上記含フッ素重合体(B)は、PTFE及び/又はFEPがより好ましい。上記「PTFE及び/又はFEP」とは、PTFE、FEP、PTFEとFEPとの混合物を意味する。
【0028】
上記含フッ素重合体(B)は、例えば、乳化重合、懸濁重合等の従来公知の重合方法を用いて重合することにより得ることができる。上記重合方法により得られる含フッ素重合体(B)は、所望により、後述の範囲内の平均粒子径を有するように粉砕する。上記粉砕の方法としては特に限定されず、例えば、上記含フッ素重合体(B)をロールでシート状に圧縮し、粉砕機により粉砕し分級する方法等が挙げられる。
【0029】
上記含フッ素重合体(B)は、乳化重合や懸濁重合を用いて得る場合、得られる重合体成分のみを単離することなくディスパージョンのまま水性塗料用組成物の調製に用いてもよいし、上記ディスパージョンは、得られる重合体成分からなる分散液に界面活性剤(S1)を添加することにより上記分散液を濃縮し、必要に応じ更に界面活性剤(S2)を添加して、水性塗料用組成物として調製したものであってもよい。本明細書において、重合により得られた含フッ素重合体(B)からなるディスパージョンを濃縮したものであって、上記界面活性剤(S2)を添加していないものを「生成重合体濃縮液」ということがある。上記界面活性剤(S1)及び界面活性剤(S2)としては非イオン性界面活性剤が好ましく用いられる。
【0030】
本発明の水性塗料用組成物において、上記含フッ素重合体(B)は、水性媒体に粒子として分散したものである。上記含フッ素重合体(B)は、平均粒子径が0.01〜50μmである粒子からなるものが好ましい。0.01μm未満であると、含フッ素重合体(B)からなる粒子の分散性が悪く、得られる水性塗料用組成物が機械的安定性及び貯蔵安定性に劣るおそれがある。50μmを超えると、含フッ素重合体(B)からなる粒子の均一分散性に欠け、得られる水性塗料用組成物を用いて塗装する際、表面が平滑な塗膜が得られず、塗膜物性が劣る場合がある。より好ましい上限は、5μmであり、更に好ましい上限は、0.5μmであり、より好ましい下限は、0.05μmである。上記機械的安定性は、送液・再分散の際、ホモジナイザー等による強い攪拌や剪断力を与えても、再分散不可能な凝集体を生成しにくい性質のことである。
【0031】
上記耐熱樹脂(A)は、通常、耐熱性を有すると認識されている樹脂であればよく、連続使用可能温度が150℃以上の樹脂が好ましい。
上記耐熱樹脂(A)としては特に限定されず、例えば、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、芳香族ポリエステル樹脂、ポリアリレンサルファイド樹脂等が挙げられる。上記耐熱樹脂(A)としては、1種又は2種以上を用いることができる。
【0032】
上記ポリアミドイミド樹脂〔PAI〕は、分子構造中にアミド結合及びイミド結合を有する重合体からなる樹脂である。上記PAIとしては特に限定されず、例えば、アミド結合を分子内に有する芳香族ジアミンとピロメリット酸等の芳香族四価カルボン酸との反応;無水トリメリット酸等の芳香族三価カルボン酸と4,4−ジアミノフェニルエーテル等のジアミンやジフェニルメタンジイソシアネート等のジイソシアネートとの反応;芳香族イミド環を分子内に有する二塩基酸とジアミンとの反応等の各反応により得られる高分子量重合体からなる樹脂等が挙げられる。上記PAIとしては、耐熱性に優れる点から、主鎖中に芳香環を有する重合体からなるものが好ましい。
【0033】
上記ポリイミド樹脂〔PI〕は、分子構造中にイミド結合を有する重合体からなる樹脂である。上記PIとしては特に限定されず、例えば、無水ピロメリット酸等の芳香族四価カルボン酸無水物の反応等により得られる高分子量重合体からなる樹脂等が挙げられる。上記PIとしては、耐熱性に優れる点から、主鎖中に芳香環を有する重合体からなるものが好ましい。
【0034】
上記ポリエーテルスルホン樹脂〔PES〕は、下記一般式:
【0035】
【化2】

【0036】
で表される繰り返し単位を有する重合体からなる樹脂である。上記PESとしては特に限定されず、例えば、ジクロロジフェニルスルホンとビスフェノールとの重縮合により得られる重合体からなる樹脂等が挙げられる。
PAI、PI及びPESは、それぞれが1種又は2種以上からなるものであってよい。
【0037】
上記耐熱樹脂(A)は、被塗装物と、水性塗料用組成物を塗装することにより得られる塗膜との密着性を向上させることができ、この密着性を高温下においても維持することができる点から、PAI及び/又はPIがより好ましい。上記「PAI及び/又はPI」とは、PAI、PI、又は、PAIとPIとの混合物を意味する。
【0038】
上記耐熱樹脂(A)は、被塗装物との密着性に優れ、上記塗膜を形成する際に焼成時の温度下でも充分な耐熱性を有し、得られる塗膜が耐食性及び耐水蒸気性に優れる点から、PAI、PI及び/又はPESが好ましい。上記「PAI、PI及び/又はPES」とは、PAI、PI及びPESの何れか1つ、PAIとPIとの混合物、PESとPAIとの混合物、PESとPIとの混合物、PESとPAIとPIとの混合物を意味する。
【0039】
上記耐熱樹脂(A)は、耐熱性、被塗装物への密着性に優れ、なかでも、上記塗膜の耐食性及び耐水蒸気性が特に優れる点から、PESと、PAI及び/又はPIがより好ましい。上記「PESと、PAI及び/又はPI」とは、PESとPAIとの混合物、PESとPIとの混合物、又は、PESとPAIとPIとの混合物を意味する。上記耐熱樹脂(A)は、上記PES及びPAIの混合物であることが更に好ましい。
【0040】
本発明の水性塗料用組成物において、PESは、PESと、PAI及び/又はPIとの合計質量の65〜85質量%であることが好ましい。65質量%未満であると、水性塗料用組成物から得られる塗膜の耐水蒸気性が低下するおそれがあり、85質量%を超えると、塗膜の耐食性が低下するおそれがある。
【0041】
本発明の水性塗料用組成物において、上記耐熱樹脂(A)は、後述の水性媒体に粒子として分散したもの、又は、水性媒体に溶解したものである。上記耐熱樹脂(A)が水性媒体に粒子として分散している場合、上記耐熱樹脂(A)からなる粒子は、上記水性媒体に粒子として分散した平均粒子径が0.1〜10μmである粒子であることが好ましい。上記耐熱樹脂(A)の平均粒子径が上記範囲内であると、水性塗料用組成物から得られる塗膜の耐食性が良好である。
【0042】
上記金属粉末(C)としてはアルミニウム、鉄、すず、亜鉛、銅等の金属単体の粉末;アルミニウム合金、ステンレス等の合金の粉末を例示することができるが、アルミニウム粉末及び/又はステンレス粉末が好ましく、アルミニウム粉末が更に好ましく用いられる。
本明細書において、上記金属粉末(C)は、後述の顔料が着色を主目的とするものであるのに対し、光輝性を付与することができるものである点で、後述の顔料とは区別される。
上記金属粉末(C)の形状としては特に限定されず、例えば、粒子状、フレーク状等が挙げられるが、光輝性に優れる点からフレーク状が好ましい。金属粉末(C)の平均粒子径は、通常1〜100μm、好ましくは5〜50μm、更に好ましくは10〜40μmである。上記金属粉末(C)の添加量は含フッ素重合体(B)及び耐熱樹脂(A)の合計固形分100質量部に対して通常0.01〜50質量部、好ましくは0.05〜20質量部、更に好ましくは0.1〜10質量部である。下限未満では光輝性が不十分である場合があり、上限を超えると被塗物への接着性が低下する場合がある。
【0043】
本発明の水性塗料用組成物では、水溶性で且つ沸点が100℃以上のアルコール(D)を含むことにより、塗膜の光輝性を向上させることが可能となる。
上記特定のアルコール(D)の沸点は、150℃以上が好ましく、170℃以上がより好ましい。
【0044】
上記特定のアルコール(D)は、沸点が上記範囲内にあることに加え、表面張力が40dyn/cm以下であることが好ましい。上記特定のアルコール(D)は、表面張力が上記範囲内である場合、金属粉末(C)との濡れ性を向上することができ、本発明の水性塗料用組成物を被塗装物に塗装した際、蒸発時に塗膜表面に金属粉末(C)を移行させる結果、光輝性を向上することができると考えられる。
上記特定のアルコール(D)の表面張力は、より好ましい上限が35dyn/cmである。
上記特定のアルコール(D)としては、沸点が170℃以上、且つ、表面張力が40dyn/cm以下であるものがより好ましい。
【0045】
上記特定のアルコール(D)としては、例えば、アルキレングリコール類、モノアルコール類が挙げられる。
上記アルキレングリコール類としては、例えば、エチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール等が挙げられる。
上記アルキレングリコール類としては、下記一般式(I)
R−(OCHCH−(OCHCHCH−OH (I)
(式中、Rは、H又は炭素数1〜4のアルキル基を表し、nは、0〜3の整数を表し、mは、0〜2の整数を表す。但し、(n+m)=1〜3を満たす。)
で表されるオキシアルキレン単位含有アルコールであってもよい。
上記一般式(I)において、Rは、炭素数1〜4のアルキル基であることが好ましい。また、上記n及びmは、何れか一方が0であり、他方が1又は2であることが好ましい。即ち、上記一般式(I)におけるオキシアルキレン単位は、1分子中に2個有する場合、各オキシアルキレン単位は、調製容易である点で、同じ種類であることがより好ましい。
上記モノアルコール類としては、フルフリルアルコール、ジアセトンアルコール等が好ましい。
【0046】
上記特定のアルコール(D)としては、1種又は2種以上を用いることができ、光輝性の向上の点から、アルキレングリコール類、フルフリルアルコール及びジアセトンアルコールよりなる群から選ばれる1種又は2種以上であることが好ましく、エチレングリコール、プロピレングリコール、フルフリルアルコールの何れかを含むことがより好ましく、フルフリルアルコールを含むことが更に好ましい。上記特定のアルコール(D)として、フルフリルアルコールは、アルキレングリコール類及び/又はジアセトンアルコールを併用しなくても充分に光輝性を向上することができ、フルフリルアルコール単独で用いてもよい。
また、上記特定のアルコール(D)としては、光輝性のみならず攪拌安定性をも向上する点から、上記一般式(I)で表されるオキシアルキレン単位含有アルコールが好ましく、なかでも、モノアルキルエーテルがより好ましく、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテルが更に好ましい。更に、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のジアルキルエーテルをも含むものであってもよい。
【0047】
上記特定のアルコール(D)の添加量は、含フッ素重合体(B)及び耐熱樹脂(A)の合計固形分100質量部に対して通常0.1〜50質量部、好ましくは1〜40質量部、更に好ましくは3〜30質量部である。下限未満では塗膜の光輝性の向上が不十分である場合があり、上限を超えると水性塗料組成物の機械的安定性が低下する場合がある。
【0048】
本発明の水性塗料用組成物は、必要に応じて、その他の公知の有機液体(E)を含んでいてもよい。このような有機液体(E)としては、例えば、トルエン、キシレン、トリメチルベンゼン、メチルエチルベンゼン、プロピルベンゼン、ブチルベンゼン等の芳香族炭化水素系溶剤;炭素数が6〜12の飽和炭化水素系溶剤;N−メチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド等の含窒素系溶剤;γ−ブチロラクトン等のラクトン類;酢酸ブチル等の非環状エステル類;メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン等のケトン類;ブチルセロソルブ等のグリコールエーテル類等が挙げられる。
【0049】
上記芳香族炭化水素系溶剤としては、市販品であるソルベッソ100、ソルベッソ150、ソルベッソ200(何れも商品名、エクソン化学社製)等を用いてもよい。上記飽和炭化水素系溶剤としては、市販品であるミネラルスピリット(日本工業規格、工業ガソリン4号)等を用いてもよい。上記有機液体(E)は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0050】
上記有機液体(E)としては、含窒素系溶剤を用いることが好ましく、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミドを用いることがより好ましい。
【0051】
上記水性媒体は、例えば、後述の各種添加剤が溶解又は分散しているものであってもよい。上記水性媒体は、含フッ素重合体(B)の重合に用いた水性媒体であってもよいし、重合に用いた水性媒体とは別に用意したものであってもよいが、上記含フッ素重合体(B)を乳化重合や懸濁重合により得る場合、含フッ素重合体(B)の重合に用いた水性媒体をそのまま用いることができる。
【0052】
本発明の水性塗料用組成物は、含フッ素重合体(B)及び耐熱樹脂(A)の他に、必要に応じ、公知の樹脂を含んでいてもよい。公知のその他の樹脂を配合することにより、水性塗料用組成物から得られる塗膜の造膜性、耐食性等を向上させることができる場合がある。
上記その他の樹脂としては特に限定されず、例えば、フェノール樹脂、尿素樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、アクリル樹脂、アクリルシリコーン樹脂、シリコーン樹脂、シリコーンポリエステル樹脂等が挙げられる。
【0053】
本発明の水性塗料用組成物は、必要に応じて、顔料を含んでいてもよい。顔料を含むことで、水性塗料用組成物から得られる塗膜の着色が可能となる。顔料としては、特に限定されないが、カーボンブラック、酸化チタン、酸化鉄等を例示することができる。
【0054】
本発明の水性塗料用組成物は、塗装性、水性塗料用組成物から得られる塗膜の性質向上等を目的として、更に、一般的なコーティング用組成物に通常用いられる各種添加剤を含んでいてもよい。上記各種添加剤としては特に限定されず、本発明の水性塗料用組成物を用いることにより得られる後述の被覆物品の用途に応じて選択され、例えば、レベリング剤、固体潤滑剤、マイカ等の充填材、顔料分散剤、沈降防止剤、水分吸収剤、表面調整剤、チキソトロピー性付与剤、粘度調節剤、ゲル化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、可塑剤、色分かれ防止剤、皮張り防止剤、スリ傷防止剤、防カビ剤、抗菌剤、酸化防止剤、帯電防止剤、シランカップリング剤等が挙げられる。
【0055】
本発明の水性塗料用組成物は、25℃における粘度が0.1〜50000mPa・sであることが好ましい。粘度が0.1mPa・s未満であると、被塗装物上への塗布時にタレ等を生じやすく、目的とする膜厚を得ることが困難となる場合があり、50000mPa・sを超えると、塗装作業性が悪くなる場合があり、得られる塗膜の膜厚が均一とならず、表面平滑性等に劣る場合がある。より好ましい下限は、1mPa・sであり、より好ましい上限は、30000mPa・sである。上記粘度は、BM型単一円筒型回転粘度計(東京計器社製)を用いて測定することにより得られる値である。
【0056】
本発明の水性塗料用組成物は、後述のワンコートに用いる塗料組成物であってもよいし、後述のツーコートに用いるプライマー組成物であってもよいが、プライマー組成物に好適である。
【0057】
本発明の水性塗料用組成物をプライマー組成物として用いる場合、上記耐熱樹脂(A)は、上記耐熱樹脂(A)と含フッ素重合体(B)との合計固形分質量の10〜50質量%であることが好ましい。
本明細書において、上記「耐熱樹脂(A)と含フッ素重合体(B)との合計固形分質量」とは、本発明の水性塗料用組成物を被塗装物上に塗布したのち80〜100℃以下の温度で乾燥し、380〜400℃で45分間焼成した後の残渣における上記耐熱樹脂(A)と含フッ素重合体(B)との合計質量を意味する。
上記耐熱樹脂(A)は、上記耐熱樹脂(A)及び含フッ素重合体(B)の固形分合計量の10質量%未満であると、耐熱樹脂が少ないので、水性塗料用組成物から得られる塗膜と被塗装物との密着性が不充分である場合がある。50質量%を超えると、含フッ素重合体(B)が少ないので、上記塗膜と上塗り塗膜との密着性が不充分であるおそれがある。より好ましい下限は、15質量%であり、より好ましい上限は、40質量%である。
【0058】
本発明の水性塗料用組成物は、従来公知の方法等により調製することができ、例えば、上記耐熱樹脂(A)、含フッ素重合体(B)、金属粉末(C)及び上記特定のアルコール(D)、並びに、必要に応じて配合する有機液体(E)やその他の樹脂を適宜混合して上記水性媒体に分散することにより水性ディスパージョンを得、必要に応じて粘度調節剤等を用いて塗装しやすい粘度に調整し、所望に応じて上記粘度調節剤以外の各種添加剤を配合する方法等が挙げられる。本発明の水性塗料用組成物は、また、上記耐熱樹脂(A)、含フッ素重合体(B)、金属粉末(C)、必要に応じて配合する顔料等のそれぞれの分散体を予め調製し、得られる分散体と上記特定のアルコール(D)とを混合することより調製を行うものであってもよい。上記それぞれの分散体の調製は、必要に応じてノニオン界面活性剤等を用いてもよい。
【0059】
本発明の水性塗料用組成物は、また、含フッ素重合体(B)を含むので、水性塗料用組成物が後述のワンコートに用いる塗料組成物である場合、被塗装物に非粘着性、潤滑性等を付与することができ、後述のツーコートに用いるプライマー組成物である場合、塗装することにより得られる塗膜と後述の上塗り塗膜との密着性を向上させることができるものである。
本発明の水性塗料用組成物は、また、耐熱樹脂(A)を含むことにより、上記耐熱樹脂が被塗装物との接着性を有するので、塗装することにより得られる塗膜が被塗装物への密着性に優れたものである。
本発明の水性塗料用組成物は、上記特定のアルコール(D)を含むことにより、攪拌安定性にも優れ、塗装した際、光輝性に優れた塗膜を得ることができる。
【0060】
本発明の水性塗料用組成物は、上記特定のアルコール(D)を含むので、塗料組成物として塗装した場合、光輝性に優れた塗膜を形成することができる。
被塗装物上に本発明の水性塗料用組成物を塗装することよりなる光輝性塗膜の製造方法もまた、本発明の一つである。
上記被塗装物については、後述する。
【0061】
本発明の水性塗料用組成物は、上述の構成からなるものであるので、塗料組成物として被覆物品の作製に好適に用いることができる。
上記被覆物品の作製は、本発明の水性塗料用組成物を被塗装物上に塗布し、必要に応じて乾燥することにより塗布膜を得ることよりなる。
本発明の水性塗料用組成物は、上記特定のアルコール(D)からなる液体組成物(A01)と、耐熱樹脂(A)及び含フッ素重合体(B)及び金属粉末(C)を含有する水性分散体からなる水性組成物(A02)とを、塗布前に混合したものであってもよい。具体的には、液体組成物(A01)と水性組成物(A02)とを別々に保管しておき、塗装直前に液体組成物(A01)と水性組成物(A02)とを混合、攪拌してから、塗装することも可能であり、この手法により、塗膜の光輝性は更に良好になる。
【0062】
上記被塗装物としては特に限定されず、例えば、鉄、アルミニウム、銅等の金属単体及びこれらの合金類等の金属;ホーロー、ガラス、セラミックス等の非金属無機材料等が挙げられる。上記合金類としては、ステンレス等が挙げられる。
上記被塗装物は、その種類に応じて予め脱脂処理、粗面化処理等の表面処理を行ったものであってもよい。上記粗面化処理の方法としては特に限定されず、例えば、酸又はアルカリによるケミカルエッチング、陽極酸化(アルマイト処理)、サンドブラスト等が挙げられる。上記表面処理は、上記水性塗料用組成物をハジキを生じず均一に塗布することができる点、及び、被塗装物と塗布膜との密着性が向上する点から、行うことが好ましい。
【0063】
上記塗布の方法としては特に限定されず、例えば、スプレー塗装、ロール塗装、ドクターブレードによる塗装、ディップ(浸漬)塗装、含浸塗装、スピンフロー塗装、カーテンフロー塗装等が挙げられる。
上記乾燥としては特に限定されず、例えば、従来公知の方法等が用いられ、60〜300℃の温度で5〜60分間行うことが好ましい。
上記被覆物品の作製は、上記塗膜の上に上塗り塗膜を積層させないワンコートの場合、上記塗布膜を得た後、この塗布膜を焼成することにより塗膜を得るものである。上記焼成としては特に限定されず、例えば、従来公知の方法等が用いられ、上記含フッ素重合体(B)、上記耐熱樹脂(A)等の種類によるが、通常、260〜410℃で10〜30分間行う。
【0064】
上記被覆物品の作製は、上記塗膜の上に上塗り塗膜を積層させるツーコートの場合、上記塗布膜を得た後、この塗布膜上に上塗り塗料を塗布し、必要に応じて乾燥し、次いで焼成することにより、水性塗料用組成物からなる塗膜と、上塗り塗料からなる上塗り塗膜とを得るものである。
【0065】
本明細書において、上記「上塗り塗料」は、上記塗布膜上に塗布する塗料であって、上塗り用含フッ素重合体からなるものである。上記上塗り用含フッ素重合体は、主鎖又は側鎖を構成する炭素原子に直接結合しているフッ素原子を有する重合体である。上記上塗り用含フッ素重合体は、主鎖又は側鎖を構成する炭素原子に直接結合しているフッ素原子を有する重合体である点で上記含フッ素重合体(B)と共通するが、上記上塗り塗料に配合されている点で、本発明の水性塗料用組成物に配合されている上記含フッ素重合体(B)とは概念上異なるものである。上記上塗り用含フッ素重合体は、上記上塗り塗膜中に存在することにより、被塗装物に非粘着性、潤滑性等を付与することができ、上記含フッ素重合体(B)と親和性を有するので上記塗膜との密着性も向上することができる。
【0066】
上記上塗り用含フッ素重合体としては特に限定されず、例えば、PTFE、PFA、FEP等が挙げられるが、上記塗膜と上塗り塗膜との層間密着性を向上させる点から、本発明の水性塗料用組成物における上記含フッ素重合体(B)と同じもの、又は、溶融加工性の有無等の性質が類似するものが好ましい。上記上塗り塗料としては、主成分がPTFEであるPTFE系塗料、主成分がPFAであるPFA系塗料、主成分がFEPであるFEP系塗料等が挙げられる。
【0067】
上記上塗り塗料は、上記上塗り用含フッ素重合体とともに、塗装性、得られる塗膜の性質向上等を目的として、更に、上述の水性塗料用組成物に用い得る各種添加剤と同様の添加剤を配合してなるものであってもよい。
【0068】
上記上塗り塗料は、例えば、主成分がPTFE、PFA又はFEPである場合、水性ディスパージョン系塗料、溶剤系塗料等の液状塗料が挙げられ、主成分がPFA又はFEPである場合、粉体塗料が挙げられる。
【0069】
上記塗布膜は、上記上塗り塗料として液状塗料を用いる場合、通常、上記上塗り塗料を塗布する前に焼成を行わないが、必要に応じて焼成を行ってもよい。上記上塗り塗料を塗布する前の焼成は、工程の簡略化や、エネルギー、労力、時間等の低減を図ることができる点で、行わないことが好ましい。
上記塗布膜は、上記上塗り塗料として粉体塗料を用いる場合、通常、上記上塗り塗料を塗布する前に焼成を行う。
【0070】
上記上塗り塗料の塗布の方法としては特に限定されず、例えば、上記上塗り塗料が液状塗料である場合、本発明の水性塗料用組成物を塗布する方法と同様の方法等が挙げられ、上記上塗り塗料が粉体塗料である場合、静電スプレー塗装、流動浸漬塗装、ロトライニング法等が挙げられる。
上記上塗り塗料を塗布した後の乾燥及び焼成は、それぞれ上述の水性塗料用組成物を塗布した後に行う乾燥及び焼成と同様の条件で行うことができる。
【0071】
上記被覆物品の作製は、上述のツーコートの場合、上記上塗り塗料の代わりにフィルムを用いることにより上記上塗り塗膜を得るものであってもよい。
本明細書において、上記フィルムは、主として上記上塗り用含フッ素重合体からなるものであり、フィルム状に成形されたものである。上記上塗り塗膜の形成に上記フィルムを用いる場合、上記塗布膜上に上記フィルムを載置し、加熱圧着することにより上記塗布膜と上記フィルムとを密着させる等の従来公知の方法等を用いることができる。
【0072】
焼成後における上記塗膜の膜厚及び上記上塗り塗膜の膜厚としては特に限定されず、被覆物品の用途によるが、上記塗膜の膜厚が1〜100μmであり、上記上塗り塗膜の膜厚が10〜200μmであることが好ましい。
【0073】
上記塗膜は、上述のワンコートにより上記被塗装物上に形成されたものである場合、上記含フッ素重合体(B)が有する非粘着性、潤滑性等を被塗装物に付与することができ、上述のツーコートにより上記塗膜の上に上塗り塗膜が積層されたものである場合、被塗装物との密着性と上記上塗り塗膜との密着性の両方に優れたものである。
【0074】
上記被覆物品は、被塗装物と、上記塗膜とからなるものであって、上記塗膜は、上記被塗装物上に上述の本発明の水性塗料用組成物を塗装することにより得られたものである。上記被覆物品は、少なくとも上記被塗装物と上記塗膜とからなるものであれば、更に、上記上塗り塗膜を有するものであってもよい。
【0075】
上記塗膜は、上述の本発明の水性塗料用組成物から得られるものであるので、光輝性に優れている。
上記塗膜は、上記含フッ素重合体(B)と上記耐熱樹脂(A)とが表面張力に差を有することから、焼成時に上記含フッ素重合体(B)が浮上し、塗膜の表面側に主として上記含フッ素重合体(B)が配置し、被塗装物側に主として上記耐熱樹脂(A)が配置しているものである。
上記塗膜は、上記耐熱樹脂(A)が被塗装物との接着性を有するので、被塗装物に対して優れた密着性を有し得るものである。また、上記塗膜は、塗膜の上に上塗り塗膜を積層させる場合、上記含フッ素重合体(B)が上記上塗り用含フッ素重合体と親和性を有するので、上塗り塗膜との密着性にも優れている。
【0076】
上記被覆物品は、上述のワンコートに用いた含フッ素重合体(B)、又は、上述のツーコートに用いた上塗り用含フッ素重合体が有する特性を利用した用途に使用することができる。
【0077】
上記被覆物品としては特に限定されず、例えば、上記特性として非粘着性を利用する場合、フライパン、グリル鍋、圧力鍋、その他の各種鍋、炊飯器、餅つき器、オーブン、ホットプレート、パン焼き型、包丁、ガステーブル等の調理器具;電気ポット、製氷トレー等の飲食用容器;練りロール、圧延ロール、コンベアホッパー等の食品工業用部品;オフィスオートメーション機器〔OA〕用ロール、OA用ベルト、製紙ロール、フィルム製造用カレンダーロール等の工業用品;発泡スチロール成形用等の金型、合板・化粧板製造用離型板等の成形金型離型;レンジフード等の厨房用品;コンベアーベルト等の冷凍食品製造装置等が挙げられる。
上記被覆物品としては、また、上記特性として滑り性を利用する場合、のこぎり、やすり等の工具;アイロン等の家庭用品;金属箔;食品加工機、包装機、紡繊機械等のすべり軸受;カメラ・時計の摺動部品;自動車部品等が挙げられる。
【発明の効果】
【0078】
本発明の水性塗料用組成物は、上述の構成を有するので、攪拌安定性に優れ、乾燥・焼成後の塗膜の光輝性が良好で、被塗装物への密着性に優れた塗膜を得ることができるものである。本発明の光輝性塗膜の製造方法は、上記水性塗料用組成物を塗装してなるものであるので、光輝性に優れた塗膜を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0079】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。以下、「%」「部」は、それぞれ質量%、質量部を表す。
製造例1 ポリエーテルスルホン樹脂水性分散体の調製
数平均分子量約24000のポリエーテルスルホン樹脂〔PES〕60部及び脱イオン水60部を、セラミックボールミル中でPESからなる粒子が完全に粉砕されるまで約10分間攪拌した。次いで、N−メチル−2−ピロリドン〔NMP〕180部を添加し、更に、48時間粉砕し、分散体を得た。得られた分散体を更にサンドミルで1時間粉砕し、PES濃度が約20%のPES水性分散体を得た。PES水性分散体中のPESからなる粒子の粒子径は、2〜3μmであった。
【0080】
製造例2 ポリアミドイミド樹脂水性分散体の調製
固形分29%のポリアミドイミド樹脂〔PAI〕ワニス(NMPを71%含む)を水中に投入してPAIを析出させた。これをボールミル中で48時間粉砕してPAI水性分散体を得た。得られたPAI水性分散体において、固形分は、20%であり、PAIからなる粒子の平均粒子径は、2μmであった。
【0081】
製造例3 顔料の水性分散体の調製
脱イオン水90.2部、非イオン性界面活性剤6.24部、カーボン31.1部の混合物をボールミルを用いて混合し、顔料の水性分散液を調製した。
【0082】
実施例1
製造例2で得られたPAI水性分散体に、ポリテトラフルオロエチレン〔PTFE〕水性分散体(平均粒子径0.28μm、固形分60%、分散剤としてポリエーテル系ノニオン界面活性剤(HLB値=14)をPTFEの固形分100部に対して6部含有している)を、PAIが、PAI及びPTFEの合計固形分質量の20%となるように加え、製造例3で得られた顔料の水性分散液をPAI及びPTFEの合計固形分質量の12.3%となるように添加、アルミニウム粉末を含む水性分散液(平均粒子径25μm、同質量の水に分散させたもの)をアルミニウム粉末の含量がPAI及びPTFEの合計固形分100部に対して3部となるように添加、増粘剤としてメチルセルロースをPTFEの固形分100部に対して0.7部添加し、分散安定剤としてポリオキシエチレントリデシルエーテル(HLB値=10)をPTFEの固形分100部に対して6部添加して、PTFEの固形分34%の塗料組成物を得た。この塗料組成物にフルフリルアルコールをPAI及びPTFEの固形分100部に対して18部添加して攪拌して水性塗料用組成物を調製し、直ちに塗装し、下記に示す手順で評価用塗装板を作製した。
上記水性塗料用組成物及び評価用塗装板について、下記の評価を行った。
【0083】
(評価用塗装板の作製)
厚さ2.0mmのアルミニウム板(A−1050F)の表面をアセトンで脱脂した後、JIS B 1982に準拠して測定した表面粗度Ra値が2.5〜3.5μmとなるようにサンドブラストを行い、粗面化した。エアーブローにより表面のダストを除去した後、得られた水性塗料用組成物を、重力式スプレーガンRG−2型(商品名、アネスト岩田社製、ノズル径1.0mm)を用い、乾燥膜厚が10〜15μmとなるように、吹き付け圧力0.2MPaでスプレー塗装により塗布した。得られた塗布膜を80〜100℃で15分間乾燥し、室温まで冷却した。得られた塗布膜の上に、上塗り塗料としてPTFEを含有する水性塗料ポリフロンPTFE EK−3700C−201(商品名、ダイキン工業社製)を同様の条件でスプレー塗装により塗布し、80〜100℃で15分間乾燥した。その後380℃で20分間焼成し、膜厚約20μmの上塗り塗膜を作製し、評価用塗装板を得た。
【0084】
(塗膜外観)
上記評価用塗装板の作製過程において、上塗り塗料を塗布し、次いで乾燥、焼成した後の塗装板の外観(光輝性)を目視で観察し、以下の判定基準に基づき評価を行った。
判定基準
◎:著しく良好である。
○:良好である。
△:やや劣る。
×:劣る。
(攪拌安定性)
水性塗料用組成物100gを容量100mlのステレンスビーカーに入れ、40℃にて300rpmで連続して攪拌を行った。水性塗料用組成物が攪拌開始後ゲル化するまでの時間を目安として、以下の判定基準に基づき評価した。
判定基準
◎:3時間以上ゲル化しない。
○:1〜3時間でゲル化する。
△:1時間以内でゲル化する。
【0085】
実施例2
製造例1で得られたPES水性分散体、及び、製造例2で得られたPAI水性分散体を、PESが、PESとPAIとの合計固形分質量の80%となるように混合し、これにPTFE水性分散体(平均粒子径0.28μm、固形分60%、分散剤としてポリエーテル系ノニオン界面活性剤(HLB値=14)をPTFEの固形分100部に対して6部含有している)を、PES及びPAIが、PES、PAI及びPTFEの合計固形分質量の20%となるように加え、製造例3で得られた顔料の水性分散液をPESとPAI及びPTFEの合計固形分質量の12.3%となるように添加、アルミニウム粉末を含む水性分散液(平均粒子径25μm、同質量の水に分散させたもの)をアルミニウム粉末の含量がPESとPAI及びPTFEの合計固形分100部に対して3部となるように添加、増粘剤としてメチルセルロースをPTFEの固形分100部に対して0.7部添加し、分散安定剤としてポリオキシエチレントリデシルエーテル(HLB値=10)をPTFEの固形分100部に対して6部添加して、PTFEの固形分34%の塗料組成物を得た。この塗料組成物にフルフリルアルコールをPES及びPAI及びPTFEの固形分100部に対して18部添加して攪拌し、直ちに塗装した。
得られた水性塗料用組成物を用いて、実施例1と同様に評価用塗装板を作製し、評価を行った。
【0086】
実施例3〜7
塗料組成物に添加するアルコール(D)の種類を、それぞれ表1に示すものに変える以外は、実施例1と同様に塗料組成物及び水性塗料用組成物を調製し、各評価を行った。
【0087】
比較例1
フルフリルアルコールを添加しなかったこと以外は、実施例1と同様に塗料組成物を得た。
得られた水性塗料用組成物を用いて、実施例1と同様に評価用塗装板を作製し、評価を行った。
【0088】
比較例2
フルフリルアルコールを添加しなかったこと以外は、実施例2と同様に塗料組成物を得た。
得られた水性塗料用組成物を用いて、実施例2と同様に評価用塗装板を作製し、評価を行った。
各実施例及び各比較例の結果を表1に示す。
【0089】
【表1】

【0090】
表1に示すように、アルコール(D)を添加した実施例1〜7では、光輝性が著しく良好であったが、アルコール(D)を添加しない比較例1〜2では光輝性が劣っていた。また、アルコール(D)として3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールを添加した実施例4の水性塗料用組成物は、攪拌安定性が優れており、アルコール(D)として、それぞれ上述のアルキレングリコール類を添加した実施例3、5〜7の水性塗料用組成物は、攪拌安定性に非常に優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明の水性塗料用組成物は、攪拌安定性に優れ、乾燥・焼成後の塗膜の光輝性が良好で、被塗装物への密着性に優れた塗膜を得ることができるものであるので、各種被覆物品の製造に幅広く用いることができる。
本発明の光輝性塗膜の製造方法は、上記水性塗料用組成物を塗装してなるものであるので、光輝性に優れた塗膜を得ることができ、各種電化製品等の塗装に好適に使用ことができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐熱樹脂(A)及び含フッ素重合体(B)を含有する水性分散体からなり、更に、金属粉末(C)と、水溶性で且つ沸点が100℃以上のアルコール(D)とを含むことを特徴とする水性塗料用組成物。
【請求項2】
アルコール(D)は、沸点が170℃以上、且つ、表面張力が40dyn/cm以下である請求項1記載の水性塗料用組成物。
【請求項3】
アルコール(D)は、下記一般式(I)
R−(OCHCH−(OCHCHCH−OH (I)
(式中、Rは、H又は炭素数1〜4のアルキル基を表し、nは、0〜3の整数を表し、mは、0〜2の整数を表す。但し、(n+m)=1〜3を満たす。)で表されるオキシアルキレン単位含有アルコールである請求項1又は2記載の水性塗料用組成物。
【請求項4】
アルコール(D)としてフルフリルアルコールを含む請求項1又は2記載の水性塗料用組成物。
【請求項5】
耐熱樹脂(A)は、ポリアミドイミド樹脂及び/又はポリイミド樹脂である請求項1、2、3又は4記載の水性塗料用組成物。
【請求項6】
耐熱樹脂(A)は、ポリエーテルスルホン樹脂と、ポリアミドイミド樹脂及び/又はポリイミド樹脂とであり、
前記ポリエーテルスルホン樹脂は、前記ポリエーテルスルホン樹脂と、前記ポリアミドイミド樹脂及び/又はポリイミド樹脂との合計質量の65〜85質量%である請求項1、2、3、4又は5記載の水性塗料用組成物。
【請求項7】
含フッ素重合体(B)は、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、及び/又は、テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体である請求項1、2、3、4、5又は6記載の水性塗料用組成物。
【請求項8】
被塗装物上に水性塗料用組成物を塗装することよりなる光輝性塗膜の製造方法であって、
前記水性塗料用組成物は、請求項1、2、3、4、5、6又は7記載の水性塗料用組成物である
ことを特徴とする光輝性塗膜の製造方法。

【公開番号】特開2006−45490(P2006−45490A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−13142(P2005−13142)
【出願日】平成17年1月20日(2005.1.20)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】