説明

水性塗料組成物

【課題】皮脂による塗膜の軟化、塗膜の手あか汚れおよび塗膜はがれを抑制し得る1液型水性塗料組成物を提供すること。
【解決手段】本発明の水性塗料組成物は、シアノ基含有エチレン性不飽和モノマー、およびアルキレングリコールの(メタ)アクリル酸アセト酢酸ジエステルを含むモノマー混合物から得られる共重合体を水分散した1液型水性塗料組成物であって、該シアノ基含有エチレン性不飽和モノマーの含有割合が該モノマー混合物の全量に対して5〜30重量%であり、該アルキレングリコールの(メタ)アクリル酸アセト酢酸ジエステルの含有割合が該モノマー混合物の全量に対して1〜10重量%であり、耐皮脂軟化性を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐皮脂軟化性を有する1液型水性塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保護の観点から、溶剤系塗料から水性塗料へ転換することが社会的に求められている。このような水性塗料組成物は、人の手の触れる機会が多い部分(例えば、階段の手すりや扉など)に塗装された場合、溶剤系塗料組成物に比べて、人の手が触れた部分の塗膜が軟化するという問題が発生しやすい。塗膜の軟化は、手あか等の汚れが付着しやすくなる原因となるばかりでなく、人の手の接触が繰り返されるなどの物理的接触による塗膜はがれの原因ともなるので、解決が望まれている。
【特許文献1】特開平8−104829号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は上記従来の課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、皮脂による塗膜の軟化、塗膜の手あか汚れおよび塗膜はがれを抑制し得る1液型水性塗料組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の水性塗料組成物は、シアノ基含有エチレン性不飽和モノマー、およびアルキレングリコールの(メタ)アクリル酸アセト酢酸ジエステルを含むモノマー混合物から得られる共重合体を水分散した1液型水性塗料組成物であって、該シアノ基含有エチレン性不飽和モノマーの含有割合が該モノマー混合物の全量に対して5〜30重量%であり、該アルキレングリコールの(メタ)アクリル酸アセト酢酸ジエステルの含有割合が該モノマー混合物の全量に対して1〜10重量%であり、耐皮脂軟化性を有する。
【0005】
好ましい実施形態においては、上記シアノ基含有エチレン性不飽和モノマーは、アクリロニトリルである。
【0006】
好ましい実施形態においては、上記アルキレングリコールの(メタ)アクリル酸アセト酢酸ジエステルが、2−アセトアセトキシエチルメタクリレートである。
【0007】
本発明の別の局面によれば、建築用塗料が提供される。本発明の建築用塗料は、上記水性塗料を含む。
【0008】
本発明のさらに別の局面によれば、耐皮脂軟化性塗膜形成方法が提供される。本発明の耐皮脂軟化性塗膜形成方法は、上記水性塗料組成物を被塗装物に塗布する工程と、該塗布工程後に塗膜を乾燥させる工程とを含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、シアノ基含有エチレン性不飽和モノマー由来、およびアルキレングリコールの(メタ)アクリル酸アセト酢酸ジエステル由来の繰り返し単位を特定の含有割合で有する共重合体を水分散した水性塗料組成物を用いることによって、環境負荷が少なく、かつ耐皮脂軟化性に優れた塗膜を得ることができる。より具体的には、本発明の水性塗料組成物は、水性でありながら溶剤系塗料組成物と同等以上の耐皮脂軟化性が得られるのみならず、当該耐皮脂軟化性が発現するまでの期間が溶剤系塗料組成物と比べて格段に短い。このような効果は、上記特定の繰り返し単位を特定の含有割合で有する共重合体を用いて水性塗料組成物を実際に調製することによりはじめて得られた知見であり、予期せぬ優れた効果である。さらに、本発明の水性塗料組成物は、1液型塗料として用いられ得るなど、作業性にも優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
A.共重合体
本発明の水性塗料組成物に用いられる共重合体は、シアノ基含有エチレン性不飽和モノマー、およびアルキレングリコールの(メタ)アクリル酸アセト酢酸ジエステルを含むモノマー混合物を共重合させることにより得ることができる。
【0011】
上記シアノ基含有エチレン性不飽和モノマーとしては、任意の適切なものを採用し得る。例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、クロロアクリロニトリルなどが用いられ得る。好ましくは、アクリロニトリルである。これらのシアノ基含有エチレン性不飽和モノマーは、単独で、または2種以上を組み合わせて用いられ得る。上記シアノ基含有エチレン性モノマーは極性が高いので、本発明の水性塗料組成物は皮脂となじみ難く、また、シアノ基間の水素結合により緻密化された塗膜を得ることができる。その結果、本発明の水性塗料組成物により得られる塗膜は、皮脂の付着および浸透が少なく、耐皮脂軟化性に優れる。なお、本明細書において「耐皮脂軟化性」とは、人体等から生じる皮脂(例えば、人の手から生じる皮脂)の付着および浸透により塗膜が軟化する現象に対する耐性をいう。
【0012】
上記シアノ基含有エチレン性不飽和モノマーの含有割合は、上記モノマー混合物の全量に対して、5〜30重量%であり、好ましくは10〜25重量%であり、さらに好ましくは12〜18重量%である。シアノ基含有エチレン性不飽和モノマーの含有割合が、5重量%より少ないと、得られる塗膜が十分な耐皮脂軟化性を有さないおそれがある。含有割合が30重量%よりも多いと、被塗装物との密着性が不十分になるおそれがある。
【0013】
上記アルキレングリコールの(メタ)アクリル酸アセト酢酸ジエステルとしては、任意の適切なものが採用され得る。例えば、2−アセトアセトキシエチルアクリレート、2−アセトアセトキシエチルメタクリレート、2−アセトアセトキシプロピルアクリレート、2−アセトアセトキシプロピルメタクリレート、2−シアノアセトアセトキシエチルメタクリレートなどが用いられ得る。好ましくは、2−アセトアセトキシエチルメタクリレートである。これらのアルキレングリコールの(メタ)アクリル酸アセト酢酸ジエステルは、単独で、または2種以上を組み合わせて用いられ得る。アルキレングリコールの(メタ)アクリル酸アセト酢酸ジエステルを含有させることにより、得られる塗膜と被塗層物との密着性を向上させることができる。したがって、本発明の水性塗料組成物は、共重合体の重合時に、被塗層物との密着性を低下させ得るシアノ基含有エチレン性不飽和モノマーを相当量含有させても、当該密着性を十分に有する塗膜を形成させることができる。すなわち、本発明の水性塗料組成物によれば、上記共重合体がシアノ基含有エチレン性不飽和モノマー由来の繰り返し単位を有することにより耐皮脂軟化性効果を有し、かつ上記アルキレングリコールの(メタ)アクリル酸アセト酢酸ジエステル由来の繰り返し単位を有することにより被塗層物との密着性に優れる塗膜を形成することができる。さらに、これらのモノマーを組み合わせて得られる共重合体を含むことにより、塗付後、耐皮脂軟化性が発現するまでの期間が溶剤系塗料組成物に比べて格段に短い塗膜を得ることができる。これは、水素結合による疑似架橋構造が形成されるためと考えられる。
【0014】
上記アルキレングリコールの(メタ)アクリル酸アセト酢酸ジエステルの含有割合は、上記モノマー混合物の全量に対して、1〜10重量%であり、好ましくは3〜7重量%である。アルキレングリコールの(メタ)アクリル酸アセト酢酸ジエステルの含有割合が上記の範囲であれば、被塗装物との密着性に優れた塗膜を得ることができる。さらに、本発明の水性塗料組成物によれば、このような特定の含有割合のアルキレングリコールの(メタ)アクリル酸アセト酢酸ジエステル、および上記特定の含有割合の上記シアノ基含有エチレン性不飽和モノマーを共重合させた共重合体を含むことにより、水性でありながら溶剤系塗料組成物と同等以上の耐皮脂軟化性が得られるのみならず、当該耐皮脂軟化性が発現するまでの期間が溶剤系塗料組成物と比べて格段に短い塗膜を得ることができる。
【0015】
上記モノマー混合物は、シアノ基含有エチレン性不飽和モノマーおよびアルキレングリコールの(メタ)アクリル酸アセト酢酸ジエステルと共重合可能な他のモノマーを含み得る。当該他のモノマーの具体例としては、メタクリル酸、アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸;メタクリル酸メチル、アクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸n−ブチル、アクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、アクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル、アクリル酸t−ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピルエステル、アクリル酸2−ヒドロキシプロピルエステル、プラクセルFM−1(アクリル酸2−ヒドロキシエチルとε−カプロラクトンとの付加物、ダイセル化学工業(株)製);アクリルアミドおよびその誘導体;スチレン、α−メチルスチレン、t−ブチルスチレン、パラクロロスチレン、ビニルナフタレンなどのスチレン系モノマー;酢酸ビニルなどが挙げられる。これらの他のモノマーは、単独で、または2種以上を組み合わせて用いられ得る。用いられる他のモノマーの数、種類、組み合わせおよび量は、目的に応じて適切に設定され得る。
【0016】
上記共重合体は、1つの実施形態においては水分散しており、その形状は、好ましくは粒状、球状であり、さらに好ましくは球状である。その寸法(例えば、球状の場合には直径)は、本発明の効果が発揮される限り特に限定されない。寸法は、好ましくは0.05μm〜0.5μmであり、さらに好ましくは0.08μm〜0.3μmであり、特に好ましくは0.1μm〜0.2μmである。
【0017】
上記共重合体のガラス転移温度は、好ましくは−40℃〜50℃であり、さらに好ましくは0℃〜25℃である。なお、ガラス転移温度は、示差走査型熱量計(DSC)等によって測定することができる。
【0018】
上記共重合体は、任意の適切な重合方法によって重合することができる。好ましくは、上記共重合体は、乳化剤および重合開始剤を使用し、水性媒体中で上記モノマー混合物を乳化重合法によって共重合することで得ることができる。
【0019】
上記乳化剤は任意の適切なアニオン性、カチオン性、非イオン性または両性界面活性剤を採用し得る。乳化剤は市販品の反応性乳化剤を用いてもよい。反応性乳化剤の市販品の具体例としては、日本乳化剤社製 商品名「Antox MS−60」、第一工業製薬社製 商品名「アクアロンHS−10」、旭電化工業社製 商品名「アデカリアソープSE−10N」などが挙げられる。これらの乳化剤は、単独で、または2種以上を組み合わせて用いられ得る。
【0020】
上記乳化剤の含有割合は、上記モノマー混合物の全量に対して好ましくは1〜5重量%である。
【0021】
上記重合開始剤としては、水溶性の重合開始剤であれば任意の適切な重合開始剤が採用され得る。重合開始剤の具体例としては、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩;4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)ジ塩酸塩、2,2’−アゾビス(N,N’−ジメチレンイソブチロアミジン)等のアゾ化合物などが挙げられる。重合開始剤は市販品を用いてもよい。重合開始剤の市販品の具体例としては、和光純薬工業社製 商品名「V−50」、商品名「VA−061」などが挙げられる。これらの重合開始剤は、単独で、または2種以上を組み合わせて用いられ得る。
【0022】
上記重合開始剤の含有割合は、上記モノマー混合物の全量に対して好ましくは0.1〜5重量%である。
【0023】
B.水性塗料組成物
本発明の水性塗料組成物は、上記共重合体を含む。本発明の水性塗料組成物中の共重合体の割合は、好ましくは60〜90重量%である。
【0024】
本発明の水性塗料組成物は、任意の適切なその他の成分を含み得る。例えば、下地隠蔽性や得られる塗膜の諸性能を高めるために、顔料を含み得る。当該顔料としては、例えば、黄鉛、黄色酸化鉄、酸化鉄、カーボンブラック、二酸化チタン、弁柄、アゾキレート系顔料、不溶性アゾ系顔料、縮合アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、インジゴ顔料、ペリノン系顔料、ペリレン系顔料、ジオキサン系顔料、キナクリドン系顔料、イソインドリノン系顔料、金属錯体顔料等の着色顔料、および、炭酸カルシウム、沈降性硫酸バリウム、クレー、タルク等の体質顔料等が挙げられる。
【0025】
本発明の水性塗料組成物が上記顔料を含む場合、[全顔料重量/(全顔料重量+全固形分重量)]×100で表される全顔料濃度は、好ましくは1〜30重量%であり、さらに好ましくは5〜25重量%である。
【0026】
本発明の水性塗料組成物は、水を含む。水は、上記共重合体の重合時に得られるエマルションに含まれる水であっても良いし、エマルションとは別に配合した水であっても良いし、それらの組み合わせであってもよい。水の量は、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な量を採用し得る。水の量は、代表的には水性塗料組成物の全量に対して30〜50重量%である。
【0027】
本発明の水性塗料組成物は、必要に応じて、分散剤、粘性調整剤、有機溶剤、硬化触媒、表面調整剤、消泡剤、可塑剤、造膜助剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤等を含み得る。
【0028】
本発明の水性塗料組成物の製造方法は、任意の適切な方法を採用し得る。例えば、上記共重合体および顔料等の配合物をニーダーやロール等を用いて混練、サンドグラインドミルやディスパー等を用いて分散する等の方法が挙げられる。
【0029】
本発明の水性塗料組成物は、1液型水性塗料組成物として用いることができる。本発明の水性塗料組成物は、上記共重合体を含有することにより、貯蔵安定性および作業性に優れる1液性水性塗料組成物でありながら、上記耐皮脂軟化性を有する塗膜を得ることができる。
【0030】
C.耐皮脂軟化性塗膜形成方法
本発明の耐皮脂軟化性塗膜形成方法は、上記水性塗料組成物を被塗装物に塗布する塗布工程と、該塗布工程後に塗膜を乾燥させる乾燥工程とを含む。
【0031】
上記塗布工程における塗布方法としては、例えば、刷毛塗り、エアスプレー、エアレススプレー、静電塗装などが挙げられる。得られる塗膜の膜厚は、用途等に応じて任意の適切な膜厚に設定し得る。一般的には1回の塗装における乾燥膜厚が20〜30μmであることが好ましい。
【0032】
上記乾燥工程における乾燥方法は、任意の適切な乾燥方法が採用され得る。代表的には、自然乾燥である。当該塗膜の乾燥時間は、好ましくは24時間以上、さらに好ましくは5日以上である。
【0033】
本発明の水性塗料組成物により形成された塗膜が耐皮脂軟化性を発現するまでの期間は、常温下において、好ましくは24時間以上、さらに好ましくは5日以上、特に好ましくは1ヶ月以上である。このように短期間(例えば、24時間)で耐皮脂軟化性を発現し得る水性塗料組成物を得たことは、本発明の大きな成果のひとつである。
【0034】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例には限定されない。なお、特に明記しない限り、実施例における部および%は質量基準である。
【0035】
[製造例1]
攪拌機、冷却管および滴下ロートを備えたフラスコに、脱イオン水260部と、Antox MS−60(日本乳化剤(株)製反応性乳化剤)1.2部を仕込み、80℃に昇温した。次いで脱イオン水140部と過硫酸カリウム1.2部よりなる開始剤と、脱イオン水340部、Antox
MS−60 3.2部、スチレン(ST)170部、メタクリル酸メチル(MMA)85部、アクリル酸ブチル(BA)170部、メタクリル酸(MAA)25部、2−アセトアセトキシエチルメタレート(AAEM)25部、アクリロニトリル(AN)25部よりあらかじめ調製したモノマープレ乳化液を2時間かけて滴下した。その後内容物を80℃に1時間保持し、エマルション樹脂組成物Aを得た。さらに25%アンモニア水10部を加え、pH7.5に調整した。固形分40%,粒子径0.12μm(レーザー光散乱法による。以下同じ。)であった。
【0036】
[製造例2〜7]
モノマー(ST,MMA、BA、MAA、AAEMおよびAN)の組成を表1に示すように調整した以外は製造例1と同様にして、エマルション樹脂組成物B〜Gを得た。
【0037】
【表1】

【0038】
[実施例1]
製造例1で得られたエマルション樹脂組成物Aを固形分として22部、溶媒として水を43部(上記エマルション樹脂組成物Aの溶媒としての水と塗料製造時に使用する水の合計量)、顔料(二酸化チタン)を22部、添加剤(分散剤、消泡剤、粘性調整剤、造膜助剤等)13部を混合し、水性塗料組成物を得た。
【0039】
[実施例2]
エマルション樹脂組成物Aに代えてエマルション樹脂組成物Bを用いた以外は、実施例1と同様にして、水性塗料組成物を得た。
【0040】
[実施例3]
エマルション樹脂組成物Aに代えてエマルション樹脂組成物Cを用いた以外は、実施例1と同様にして、水性塗料組成物を得た。
【0041】
[比較例1]
エマルション樹脂組成物Aに代えてエマルション樹脂組成物Dを用いた以外は、実施例1と同様にして、水性塗料組成物を得た。
【0042】
[比較例2]
エマルション樹脂組成物Aに代えてエマルション樹脂組成物Eを用いた以外は、実施例1と同様にして、水性塗料組成物を得た。
【0043】
[比較例3]
エマルション樹脂組成物Aに代えてエマルション樹脂組成物Fを用いた以外は、実施例1と同様にして、水性塗料組成物を得た。
【0044】
[比較例4]
エマルション樹脂組成物Aに代えてエマルション樹脂組成物Gを用いた以外は、実施例1と同様にして、水性塗料組成物を得た。
【0045】
<評価1>
上記で得られた水性塗料組成物により得られる塗膜を下記の方法で評価した。結果を表2に示す。
(耐皮脂軟化性)
(i)得られた塗料組成物を水道水で5%希釈し、湿時約100g/mで2回刷毛にてボンデ鋼板の上に塗装し(塗り重ね乾燥条件:室温3時間)、7日間室温で静置させたものを試験体とした。
(ii)耐皮脂軟化評価液は、疑似皮脂として、オレイン酸と市販油(日清オイリオ製 ヘルシーリセッタ)を3:7で混合した評価液を使用した。
(iii)試験体の一部に評価液を約1ccスポットし、室温で24時間静置した後、評価液を拭き取った。その後、直ちにJIS
K 5600−5−4に定めるひっかき硬度(鉛筆法)に従い、評価液をスポットした部分としていない部分を評価した。
(密着性)
(i)鋼板(JIS G 3141(SPCC―SB)に定める磨き鋼板をキシレンにて脱脂して使用)上に、プライマーとして水性ハイポンプライマー(日本ペイント株式会社製)を湿時140g/m刷毛で塗装し、室温で4時間乾燥させた後、水性ファインウレタンU100(日本ペイント株式会社製)を2回刷毛にて塗装(塗り重ね乾燥条件:室温3時間)し、室温で7日以上乾燥させた。
(ii)上記で得られた塗料組成物を水道水で5%希釈し、湿時約100g/mで2回刷毛にて上記の処理をされた鋼板状に、塗装し(塗り重ね乾燥条件:室温3時間)、7日間室温で静置させたのち、JIS
K 5600―5―6で定められた方法にて測定した。JIS K 5600―5―6の評価の分類に準じて、密着性を点数化した。具体的には、JIS K 5600―5―6における分類0を10点とし、分類1を8点とし、分類2を6点とし、分類3を4点とし、分類4を2点とし、分類5を0点とした。
【0046】
【表2】

【0047】
[実施例4]
実施例2で得られた塗料組成物を水道水で5%希釈し、湿時約100g/mで2回刷毛にてボンデ鋼板の上に塗装し(塗り重ね乾燥条件:室温3時間)、塗膜を得た。
1日間室温下静置後、5日間室温下静置後および1カ月室温下静置後の当該塗膜の耐皮脂軟化性をそれぞれ評価した。
評価は、上記耐皮脂軟化性評価(ii)〜(iii)と同様の方法で行った。結果を表3に示す。
【0048】
[比較例5]
ターペン可溶2液形ウレタン樹脂塗料(商品名「ファインウレタンU100」、日本ペイント社製)をミネラルスピリットで5%希釈し、湿時約100g/mで2回刷毛にてボンデ鋼板の上に塗装し(塗り重ね乾燥条件:室温3時間)、塗膜を得た。
得られた塗膜を実施例4と同様の評価に供した。結果を表3に示す。
【0049】
[比較例6]
合成樹脂調合ペイント(商品名「Hi・CRデラックス300G」、日本ペイント社製)をミネラルスピリットで5%希釈し、湿時約100g/mで2回刷毛にてボンデ鋼板の上に塗装し(塗り重ね乾燥条件:室温16時間)、塗膜を得た。
得られた塗膜を実施例4と同様の評価に供した。結果を表3に示す。
【0050】
【表3】

【0051】
[実施例5]
実施例2で得られた塗料組成物を水道水で5%希釈し、湿時約100g/mで2回刷毛にてボンデ鋼板の上に塗装(塗り重ね乾燥条件:室温3時間)後、5日間室温下で静置し、塗膜が形成されたテストピース(3cm×3.5cm)を得た。
【0052】
[比較例7]
比較例1で得られた塗料組成物を水道水で5%希釈し、湿時約100g/mで2回刷毛にてボンデ鋼板の上に塗装(塗り重ね乾燥条件:室温3時間)後、5日間室温下で静置し、塗膜が形成されたテストピース(3cm×3.5cm)を得た。
【0053】
[比較例8]
比較例2で得られた塗料組成物を水道水で5%希釈し、湿時約100g/mで2回刷毛にてボンデ鋼板の上に塗装(塗り重ね乾燥条件:室温3時間)後、5日間室温下で静置し、塗膜が形成されたテストピース(3cm×3.5cm)を得た。
【0054】
[比較例9]
合成樹脂調合ペイント(商品名「Hi・CRデラックス300G」、日本ペイント社製)をミネラルスピリットで5%希釈し、湿時約100g/mで2回刷毛にてボンデ鋼板の上に塗装(塗り重ね乾燥条件:室温16時間)後、5日間室温下で静置し、塗膜が形成されたテストピース(3cm×3.5cm)を得た。
【0055】
[比較例10]
ターペン可溶2液形ウレタン樹脂塗料(商品名「ファインウレタンU100」、日本ペイント社製)をミネラルスピリットで5%希釈し、湿時約100g/mで2回刷毛にてボンデ鋼板の上に塗装(塗り重ね乾燥条件:室温3時間)後、5日間室温下で静置し、塗膜が形成されたテストピース(3cm×3.5cm)を得た。
【0056】
[比較例11]
比較例4で得られた塗料組成物を水道水で5%希釈し、湿時約100g/mで2回刷毛にてボンデ鋼板の上に塗装(塗り重ね乾燥条件:室温3時間)後、5日間室温下で静置し、塗膜が形成されたテストピース(3cm×3.5cm)を得た。
【0057】
<評価2>
(手あか汚れ性評価)
上記実施例5および比較例7〜11で得られたテストピースを以下の方法で評価した。結果を図1に示す。
(i)人の手に触れられる機会の多い手押し式の鉄扉に、上記テストピースを、図1(a)、図2(a)および図3(a)に示すようにそれぞれ近接した状態で貼り付けた。
(ii)6ヵ月経過(人の手の接触回数:約10000回)後の、テストピースの状態を目視観察した(図1(b)、図2(b)および図3(b))。
【0058】
表2から明らかなように、本発明の水性塗料組成物は、耐皮脂軟化性に優れ、かつ密着性にも優れる塗膜を形成することができる。また、表3から明らかなように、本発明の水性塗料組成物により得られる塗膜は、塗装後1日で耐皮脂軟化性を得ることができ、溶剤系塗料組成物の1ヵ月に比べて格段に短い。さらに、図1〜図3から明らかなように、本発明の水性塗料組成物は、手あか汚れを防止する機能を有し、その効果は、溶剤系塗料組成物と同等以上である。
すなわち、本発明によれば、環境負荷の少ない水性塗料組成物でありながら、溶剤系塗料組成物と同等以上の効果(耐皮脂軟化性および手あか汚れ防止性)を発揮する塗膜を得ることができる。さらに、本発明によれば、上記効果を発現するまでの期間が溶剤系塗料組成物よりも短く、作業性にも優れる水性塗料組成物を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の塗料組成物は、建物、建材等の塗装等に好適に利用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】(a)は比較例7および比較例8におけるテストピース設置直後の写真であり、(b)は設置から6ヵ月経過後のテストピースの写真である。
【図2】(a)は比較例9および実施例5におけるテストピース設置直後の写真であり、(b)は設置から6ヵ月経過後のテストピースの写真である。
【図3】(a)は比較例10および比較例11におけるテストピース設置直後の写真であり、(b)は設置から6ヵ月経過後のテストピースの写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シアノ基含有エチレン性不飽和モノマー、およびアルキレングリコールの(メタ)アクリル酸アセト酢酸ジエステルを含むモノマー混合物から得られる共重合体を水分散した1液型水性塗料組成物であって、
該シアノ基含有エチレン性不飽和モノマーの含有割合が該モノマー混合物の全量に対して5〜30重量%であり、該アルキレングリコールの(メタ)アクリル酸アセト酢酸ジエステルの含有割合が該モノマー混合物の全量に対して1〜10重量%であり、
耐皮脂軟化性を有する、
水性塗料組成物。
【請求項2】
前記シアノ基含有エチレン性不飽和モノマーが、アクリロニトリルである、請求項1に記載の水性塗料組成物。
【請求項3】
前記アルキレングリコールの(メタ)アクリル酸アセト酢酸ジエステルが、2−アセトアセトキシエチルメタクリレートである、請求項1または2に記載の水性塗料組成物。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の水性塗料組成物を含む、建築用塗料。
【請求項5】
請求項1から3のいずれかに記載の水性塗料組成物を被塗装物に塗布する工程と、
該塗布工程後に塗膜を乾燥させる工程とを含む、耐皮脂軟化性塗膜形成方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−6930(P2010−6930A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−166960(P2008−166960)
【出願日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】