説明

水性樹脂組成物、これを含有する塗料

【課題】 未処理冷延鋼板上での優れた耐食性と、良好な貯蔵安定性を有する水性樹脂組成物、水性樹脂分散体、およびこれを含有する塗料を提供すること。
【解決手段】 自己乳化型水性樹脂の粒子が分散した水性樹脂組成物であって、該粒子内に、炭素数3〜5のモノカルボン酸と燐原子に結合した水酸基を有する化合物とをエポキシ樹脂に反応させて得られる変性エポキシ樹脂(A)が内包され、且つ、前記自己乳化型水性樹脂がカルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体を必須成分とするエチレン性不飽和化合物を重合して得られる自己乳化型水性樹脂(B)であることを特徴とする水性樹脂組成物、これを含有する塗料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に水性樹脂を含有する水性塗料に好適な水性樹脂組成物、水性樹脂分散体、およびこれを含有する塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、産業機械・工作機械などの機械類や、鋼製家具などの金属用途に用いる塗料として、主剤に溶剤型エポキシ樹脂塗料や溶剤型アルキド樹脂塗料、硬化剤にメラミン樹脂を用いる焼付け塗料が使用されている。しかし近年、塗料分野全般において、塗料から放出される有機溶剤などの揮発性物質低減による環境保護や、塗料の非危険物化といった観点から、溶剤系塗料から水系塗料への置換が進められている。このような中、耐食性や耐水性の付与を目的とした焼付け塗料においても、塗料の水性化が強く求められている。
【0003】
耐水性や耐食性に優れた水性焼付け塗料用樹脂として、例えば、変性エポキシ樹脂から成る水性樹脂が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。しかし、樹脂中に乳化剤を含有するため、例えば基材素地にまで達するようにクロス・カットを入れた鋼板の塩水噴霧試験ではサビ・膨れ等が発生する。
【0004】
また、変性エポキシ樹脂、水溶性ないし水分散性樹脂、メラミン樹脂から成る水性塗料組成物が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。しかし水溶性樹脂は酸価が高く、未処理冷延鋼板上での耐食性には劣る。一方、酸価を低くした自己乳化型の水分散性樹脂は、変性エポキシ樹脂と単に混合するだけでは相溶しないといった問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−2950号公報
【特許文献2】特開平7−242854号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の課題は、未処理冷延鋼板上での優れた耐食性と、良好な貯蔵安定性を有する水性樹脂組成物、水性樹脂分散体、およびこれを含有する塗料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記の課題を解決するため鋭意検討の結果、自己乳化型の水分散性アクリル樹脂の粒子内に変性エポキシ樹脂を内包し、コア・シェル型の粒子とすることで耐食性と貯蔵安定性を満足する水性樹脂組成物が得られることを見出し発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、自己乳化型水性樹脂の粒子が分散した水性樹脂組成物であって、該粒子内に、炭素数3〜5のモノカルボン酸と燐原子に結合した水酸基を有する化合物とをエポキシ樹脂に反応させて得られる変性エポキシ樹脂(A)が内包され、且つ、前記自己乳化型水性樹脂がカルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体を必須成分とするエチレン性不飽和化合物を重合して得られる自己乳化型水性樹脂(B)であることを特徴とする水性樹脂組成物、これを含有する塗料を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、耐食性と貯蔵安定性がともに良好な水性樹脂分散体、水性塗料を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の水性樹脂組成物は、自己乳化型水性樹脂の粒子が水性媒体中に分散した水性樹脂組成物であり、さらに詳しくは、変性エポキシ樹脂(A)を自己乳化型水性樹脂(B)の粒子内に内包した水性樹脂組成物であり、例えば、変性エポキシ樹脂(A)溶液とカルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体を必須成分とするエチレン性不飽和化合物を重合して得られる自己乳化型水性樹脂の有機溶剤溶液とを混合後、必要に応じて、中和剤(塩基性化合物)を添加後、水を添加して、転相乳化して得られる。
【0011】
この際、変性エポキシ樹脂(A)と自己乳化型水性樹脂(B)の構成比は特に限定されないが、変性エポキシ樹脂(A)と自己乳化型水性樹脂(B)の固形分重量比〔(A)/(B)〕が7/3〜9/1となる範囲が、耐食性と貯蔵安定性がともに良好なることから好ましい。
【0012】
本発明で用いる変性エポキシ樹脂(A)は、エポキシ樹脂と炭素数が3〜5であるモノカルボン酸と燐原子に結合した水酸基を有する化合物とを反応させることにより得られる。
【0013】
エポキシ樹脂としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリトリトール、グリセリン、ジグリセリン、ソルビトール、スピログリコールもしくは水添ビスフェノールA等の脂肪族ポリオールジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;
【0014】
ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ビスフェノールAD等のジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂やフェノールノボラック樹脂やクレゾールノボラック樹脂のグリシジルエールであるノボラック型エポキシ樹脂等の芳香族エポキシ樹脂;芳香族系ポリヒドロキシ化合物のエチレンオキシドもしくはプロピレンオキシド付加体等のポリオール類のジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂
【0015】
ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールもしくはポリテトラメチレングリコール等のポリエーテルポリオールのポリグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキシルカルボキシレート等の環状脂肪族型ポリエポキシ樹脂;
【0016】
プロパントリカルボン酸、ブタンテトラカルボン酸、アジピン酸、フタル酸、テレフタル酸もしくはトリメリット酸等のポリカルボン酸のポリグリシジルエステル型エポキシ樹脂;ブタジエン、ヘキサジエン、オクタジエン、ドデカジエン、シクロオクタジエン、α−ピネンもしくはビニルシクロヘキセン等の炭化水素系ジエンのビスエポキシ樹脂;
【0017】
ポリブタジエンもしくはポリイソプレン等のジエンポリマーのエポキシ樹脂;あるいは、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、テトラグリシジルビスアミノメチルシクロヘキサン、ジグリシジルアニリンもしくはテトラグリシジルメタキシリレンジアミン等のグリシジルアミン型エポキシ樹脂、または、トリアジンもしくはヒダントインの如き、各種の複素環を含有するエポキシ樹脂などが挙げられる。
【0018】
具体例として、たとえば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂としては、「EPICLON 850、860、1050、1055、2055」[DIC(株)製品]、「エピコート 828、834、1001、1002、1004、1007」((株)JER製)等が挙げられる。
【0019】
これらの中でも、ビスフェノールA型エポキシ樹脂等の芳香族エポキシ樹脂が耐食性が良好なことから好ましい。
【0020】
炭素数が3〜5であるモノカルボン酸としては、例えば、プロピオン酸、乳酸、酪酸、吉草酸等の飽和カルボン酸類やアクリル酸、メタクリル酸、ビニル酢酸、クロトン酸、チグリン酸、3,3−ジメチルアクリル酸またはペンテン酸等のエチレン性不飽和モノカルボン酸類が挙げられる。
【0021】
これらの中でも、エチレン性不飽和モノカルボン酸が好ましく、アクリル酸および/またはメタクリル酸が特に好ましい。
【0022】
燐原子に結合した水酸基をする化合物としては、例えば、燐酸、亜燐酸または次亜燐酸等が挙げられる。
【0023】
燐原子に結合した水酸基をする化合物としては、燐原子に結合した水酸基を少なくとも2個有する化合物が、耐食性の点から好ましい。
【0024】
また、モノメチルホスフェート、モノエチルホスフェート、モノブチルホスフェートまたはモノプロピルホスフェート等の燐酸モノエステルを用いることもできる。
【0025】
これらの中でも、オルト燐酸が好ましい。
【0026】
前記変性エポキシ樹脂(A)を得るには、炭素数が3〜5のモノカルボン酸、及び燐原子に結合した水酸基を有する化合物の反応比率は前記エポキシ樹脂中に存在するエポキシ基の1.0モルに対し、カルボン酸中のカルボキシル基のモル数と燐原子に結合した水酸基を有する化合物中の燐原子に結合した水酸基のモル数の合計のモル数が、0.9〜1.0モルとなるように調整することが好ましい。
また、カルボン酸中のカルボキシル基のモル数と燐原子に結合した水酸基のモル数との比〔(-COOH)/(-P-OH)〕は、5/5〜7/3となるように調整することが好ましい。
【0027】
前記変性エポキシ樹脂(A)を製造する方法としては、例えば、下記の(1)〜(3)の方法が挙げられる。
下記の方法では、必要に応じて、有機溶媒、触媒等を用いてもよい。
(1)エポキシ樹脂と炭素数が3〜5のモノカルボン酸と燐原子に結合した水酸基を有する化合物とを一括で仕込んで反応させる方法。
(2)前記エポキシ樹脂と前記カルボン酸とを反応させ、次いで前記リン化合物を反応させる。
(3)前記エポキシ樹脂と前記リン化合物を反応させ、次いで、前記カルボン酸とを反応させる。
【0028】
これらの中でも、前記(2)の方法が、反応効率の点から好ましい。また、前記触媒としては、トリフェニルホスフィンやアミン化合物等のエポキシ基と酸との反応に用いられる物質を用いることが好ましい。
【0029】
本発明で用いる自己乳化型水性樹脂(B)は、カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体を必須成分とするエチレン性不飽和化合物を重合して得られる樹脂であれば特に限定されないが、例えば、カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体と該カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体以外のビニル重合性の化合物を共重合して得られる共重合体からなる水性樹脂が挙げられる。
【0030】
本発明で用いるカルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、2−メタクリロキシエチルサクシニク酸、2−メタクリロキシエチルヘキサハイドロフタル酸、2−メタクリロキシエチルグルタレート;(無水)マレイン酸,フマル酸,(無水)イタコン酸の如きジカルボン酸及びその無水物;モノメチルマレイン酸、モノエチルマレイン酸、モノブチルマレイン酸、モノオクチルマレイン酸、モノメチルフマル酸、モノエチルフマル酸、モノブチルフマレイン酸、モノオクチルフマル酸、モノメチルイタコン酸、モノエチルイタコン酸、モノブチルイタコン酸、モノオクチルイタコン酸等のジカルボン酸のモノアルキルエステル等が挙げられる。カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体としてはアクリル酸、メタクリル酸等の(メタ)アクリル酸が好ましい。カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体は単独種で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体の中でも、低粘度で分散性に優れる樹脂が得られることからアクリル酸、メタクリル酸が好ましい。
【0031】
カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体以外のビニル重合性の化合物としては、例えば、メチルアクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、iso−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、iso−ブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、ドコサニル(メタ)アクリレート、シクロペンチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ボルニル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、シクロアルキル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート;
【0032】
ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートやこれらの単量体へのε−カプロラクトンまたはγ−バレロラクトン等のラクトン類の付加物等の水酸基含有エチレン性不飽和単量体;
【0033】
スチレン、p−tert−ブチルスチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等の芳香族ビニル化合物;
【0034】
2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、4−メトキシブチル(メタ)アクリレート等のω−アルコキシアルキル(メタ)アクリレート;N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド等の3級アミド基含有ビニル系単量体類;メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレンレングリコール(メタ)アクリレート等のポリアルキレンオキサイド構造を有するビニル単量体;n−メチロール(メタ)アクリルアミド、n−メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、n−エトキシメチル(メタ)アクリルアミド、n−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、iso−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド等の如きアルコキシメチル(メタ)アクリルアミド;
【0035】
n−メチルアミノエチル(メタ)アクリレート等の二級アミノ基含有ビニル系単量体;ビニルアセトアセテート、2−アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート等の活性メチレン基を有するビニル単量体;ビニルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン等の加水分解性シリル基を有するビニル系単量体;
【0036】
トリメチルシリル(メタ)アクリレート等のシリルエステル基を含有するビニル系単量体;グリシジル(メタ)アクリレート、メチルグリシジル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシル(メタ)アクリレート、グリシジルビニルエーテル、アリルグリシジルエーテル等のエポキシ基を含有するビニル系単量体;2−イソシアナートプロペン、2−イソシアナートエチルビニルエーテル、2−イソシアナートエチルメタアクリレート、m−イソプロペニル−α,α−ジメチルベンジルイソシアネート等のイソシアネート基を含有するビニル系単量体等が挙げられる。これらは単独種で使用してもよいし、2種以上を併用しても良い。
【0037】
自己乳化型水性樹脂(B)に用いる共重合体(B)は、例えば、重合開始剤を溶解した有機溶媒中、カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体、カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体以外のビニル重合性の化合物を滴下し、加熱攪拌して重合する方法が挙げられる。
【0038】
また、前記の単量体類の一部を滴下して反応したのち、残りの単量体を滴下して反応させてもよい。
【0039】
さらに詳しくは、エチレン性不飽和単量体を、エチレン性不飽和化合物類(I)とカルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体を必須成分とするエチレン性不飽和化合物類(II)として、エチレン性不飽和化合物類(I)を重合したのち、更にカルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体を必須成分とするエチレン性不飽和化合物類(II)を追加して重合して得られる共重合体とすることが、得られる水性樹脂組成物の保存安定性が向上する点から好ましい。
なお、前記エチレン性不飽和化合物類(I)、前記カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体を必須成分とするエチレン性不飽和化合物類(II)とは、前記エチレン性不飽和化合物類(I)中のカルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体の含有率(x)と前記エチレン性不飽和化合物類(II)のカルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体の含有率(y)の比〔(x)/(y)〕が1未満となる組み合わせの単量体混合物を意味する。
【0040】
このように、反応させることで自己乳化型水性樹脂(B)中のカルボキシル基が偏在化し、前記エポキシ樹脂を内包する際に、シェル部である自己乳化型水性樹脂(B)が水相側にカルボキシル基が配置されるようになり、且つ、疎水性部分がコア側に配置されることから水性媒体中での安定性が一層向上する。
【0041】
前記含有率(y)の比〔(x)/(y)〕は、1未満であり、特に0が好ましい。また、前記エチレン性不飽和化合物類(I)、エチレン性不飽和化合物類(II)は、前述のエチレン性不飽和単量体、ビニル重合性の化合物から適宜選択することができる。
【0042】
また、共重合体(B)の重量平均分子量(Mw)としては、貯蔵安定性に優れ、且つ、粘度も上昇しすぎない水性樹脂組成物や塗料が得られることから10,000〜100,000であることが好ましく、中でも15,000〜50,000がより好ましい。
【0043】
前記共重合体(B)の合成の際に用いる有機溶剤としては、水と分離することなく混和する水混和性有機溶剤が好ましく、中でも水に対する溶解度(水100gに溶解する有機溶剤のグラム数)が25℃において3g以上の有機溶剤が好ましい。これら水混和性有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール系溶剤;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶剤;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、モノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル等のグリコールエーテル系溶剤などが挙げられる。これら水混和性有機溶剤は、それぞれ単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0044】
前記溶液重合法等による共重合体(B)の合成で使用できるラジカル重合開始剤としては、例えば、2,2´−アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2´−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、アゾビスシアノ吉草酸等のアゾ化合物;tert−ブチルパーオキシピバレート、tert−ブチルパーオキシベンゾエート、tert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ジ−tert−ブチルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物;過酸化水素、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム等の無機過酸化物が挙げられ、これらを単独又は2種以上併用できる。前記ラジカル重合開始剤は、アクリル樹脂を構成する成分の総量に対して、0.1〜10重量%の範囲内で使用することが好ましい。
【0045】
前記溶液重合をする際の反応容器中の不揮発分は、30〜90重量%であることが好ましく、50〜85重量%であることがより好ましい。
共重合体(B)を含有する水分散性組成物は、水性媒体中に分散する前に、後述する中和剤(塩基性化合物)で樹脂中のカルボキシル基を中和しておくことが好ましい。
【0046】
共重合体(B)中のカルボキシル基を中和するのに用いる中和剤(塩基性化合物)としては、例えば、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノプロピルルアミン、ジプロピルルアミントリプロピルルアミン等のアルキルアミン;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、N−メチルエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン、2−アミノ−2−メチルプロパノール、2−(ジメチルアミノ)−2−メチルプロパノール、N−メチルジエタノールアミン等のアルカノールアミン;エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン等の多価アミン等の有機アミンやアンモニア(水)が挙げられる。塩基性化合物の中でも揮発性が高い為、硬化塗膜に残りにくく、貯蔵安定性に優れる硬化塗膜が得られることからN,N−ジエチルエタノールアミンが好ましい。中和剤(塩基性化合物)は単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0047】
本発明の水性樹脂組成物には、更に、硬化剤を配合して使用できる。該硬化剤としては、例えば、アミノ樹脂、ブロックイソシアネート樹脂等が挙げられる。
【0048】
前記アミノ樹脂としては、例えば、メラミン、ベンゾグアナミン、アセトグアナミン、尿素等のアミノ基含有化合物を、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド等のアルデヒド化合物(又はアルデヒド供給物質)と反応させることによって得られるアルキロール基を有する種々のアミノ樹脂;前記アルキロール基を有するアミノ樹脂と、メタノール、エタノール、n−ブタノール、iso−ブタノール等の低級アルコールとを反応させて得られる、アルコキシアルキル基含有アミノ樹脂などが挙げられる。
【0049】
前記ブロックイソシアネートとしては、例えば、有機ジイソシアネート化合物と、多価アルコール、低分子量水酸基含有ポリエステル樹脂、低分子水酸基含有アルキド樹脂又は水等との付加物及び前記した有機ジイソシアネート化合物同士の重合体(イソシアヌレート型ポリイソシアネート化合物、ウレトジオン化合物をも含む。)を、オキシム類、フェノール類、アルコール類、ジケトン類などの種々のブロック化剤でブロック化させて得られるブロックイソシアネートを使用することができる。
【0050】
前記有機ジイソシアネート化合物としては、例えば、キシリレンジイソシアネートもしくはイソホロンジイソシアネート等の各種環状ジイソシアネート類(脂環式ジイソシアネート類)、トリレンジイソシアネートもしくは4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート等の各種の芳香族ジイソシアネート類、ヘキサメチレンジイソシアネートもしくはトリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート類が挙げられる。
【0051】
水性樹脂組成物中の変性エポキシ樹脂(A)、自己乳化型水性樹脂(B)及び硬化剤(C)の含有比率としては、重量比〔変性エポキシ樹脂樹脂(A)+自己乳化型水性樹脂(B)(B)〕/硬化剤(C)が、50/50〜95/5の範囲であることが好ましく、70/30〜90/10の範囲であることがより好ましい
【0052】
前記共重合体(B)の固形分の酸価は、10〜50mgKOHの範囲であることが好ましく、15〜30であることが特に好ましい。
また、共重合体(B)中のカルボキシル基の中和率は、50〜100%が好ましい。
【0053】
本発明において共重合体(A)等の樹脂の数平均分子量と重量平均分子量の測定は、ゲルパーミュエーションクロマトグラフを用い、下記の条件でポリスチレン換算により、分子量1000以下の成分を除いて求めた
測定装置 ; 東ソー株式会社製 HLC−8220
カラム ; 東ソー株式会社製 ガードカラムHXL−H+東ソー株式会社製 TSKgel G5000HXL
+東ソー株式会社製 TSKgel G4000HXL
+東ソー株式会社製 TSKgel G3000HXL
+東ソー株式会社製 TSKgel G2000HXL
検出器 ; RI(示差屈折計)
データ処理; 東ソー株式会社製 SC−8010
測定条件 ; カラム温度 40℃ 、溶媒 テトラヒドロフラン 、流速 1.0ml/分 、標準 ; ポリスチレン 、
試料 ; 樹脂固形分換算で0.4重量%のテトラヒドロフラン溶液をマイクロフィルターでろ過したもの(100μl)。
【実施例】
【0054】
合成例1(変性エポキシ樹脂の調製)
攪拌機、温度計、還流冷却器および窒素ガス導入管を備えた反応容器に、「エピコート 1001」545.5部と、ジエチレングリコールジメチルエーテル259.0部とを仕込んで、加熱溶解させながら、80℃まで昇温した。溶解後、80℃にてアクリル酸59.7部を仕込み、続いてジブチルヒドロキシトルエン0.6部、トリフェニルホスフィン2.4部を仕込み、110℃まで1時間かけて昇温しながら撹拌した。110℃で3時間保持して反応を続行せしめて、酸価が1.0mgKOH/g以下となった処で、80℃にまで下げて、85%リン酸12.1部およびジエチレングリコールジメチルエーテル70.2部からなる混合物を、1時間かけて連続滴下した。滴下終了後も引き続いて、80℃で4時間反応させ、次いで、ジエチレングリコールジメチルエーテル50.5部仕込むことにより、不揮発分が64.0%で、かつ、酸価が9.0なる、変性エポキシ樹脂の溶液を得た。以下、これを変性エポキシ樹脂Aと略記する。
【0055】
合成例2(変性エポキシ樹脂内包水性アクリル樹脂の調製)
還流冷却器、撹拌機および窒素導入管を具備した反応容器に、ジエチレングリコールジメチルエーテル327.7部を仕込んで撹拌を開始し、135℃まで昇温した。ここに窒素気流下で、スチレン212.8部、メタクリル酸メチル83.7部、アクリル酸n−ブチル390.9部、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル129.8部、「プラクセルFM1」(ダイセル化学工業(株)製:不飽和脂肪酸ヒドロキシアルキルエステル修飾 イプシロン−カプロラクトン)243.0部、からなる単量体混合物と、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート33.6部とを3.5時間かけて連続滴下した。続いて、スチレン91.2部、メタクリル酸メチル35.8部、アクリル酸n−ブチル167.5部、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル55.6部、「プラクセルFM1」104.2部、アクリル酸39.0部、「NK エステル M−230G」(新中村化学工業(株)製:メトキシポリエチレングリコール#1000メタクリレート)16.0部からなる単量体混合物と、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート14.4部とを1.5時間かけて連続滴下した。同温度で1時間撹拌後、120℃に降温し、スチレン16.0部、t−ブチルパーオキシベンゾエート5.9部を仕込んで、さらに2時間撹拌後に反応を終了し、アクリル樹脂の溶液を得た。このアクリル樹脂溶液と変性エポキシ樹脂Aを302.4部混合し、次いでジメチルエタノールアミン44.6部により中和を行い、イオン交換水1856.3部を用いて転相乳化を行った後、変性エポキシ樹脂内包水性アクリル樹脂を得た。以下、これを変性アクリル樹脂Xと略記する。この変性アクリル樹脂Xは、不揮発分44%、pH8.3であった。
【0056】
合成例3(変性エポキシ樹脂内包水性アクリル樹脂の調製)
還流冷却器、撹拌機および窒素導入管を具備した反応容器に、ジエチレングリコールジメチルエーテル329.6部を仕込んで撹拌を開始し、135℃まで昇温した。ここに窒素気流下で、スチレン214.1部、メタクリル酸メチル240.8部、アクリル酸n−ブチル396.3部、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル78.3部、「プラクセルFM1」47.0部、からなる単量体混合物と、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート39.4部とを3.5時間かけて連続滴下した。続いて、スチレン91.7部、メタクリル酸メチル103.2部、アクリル酸n−ブチル169.8部、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル33.6部、「プラクセルFM1」63.0部、アクリル酸39.3部、「NK エステル M−230G」16.1部からなる単量体混合物と、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート16.9部とを1.5時間かけて連続滴下した。同温度で1時間撹拌後、120℃に降温し、スチレン16.1部、t−ブチルパーオキシベンゾエート4.8部を仕込んで、さらに2時間撹拌後に反応を終了し、アクリル樹脂の溶液を得た。このアクリル樹脂溶液と変性エポキシ樹脂Aを307.2部混合し、次いでジメチルエタノールアミン41.4部により中和を行い、イオン交換水1891.2部を用いて転相乳化を行った後、変性エポキシ樹脂内包水性アクリル樹脂を得た。以下、これを変性アクリル樹脂Yと略記する。この変性アクリル樹脂Yは、不揮発分44%、pH7.8であった。
【0057】
実施例1〜2
上記のようにして得られた水性アクリル樹脂とメラミン化合物を用い、表1に示した配合割合(重量部)にて混合して塗料組成物を作成した。下記の性能評価を行なった。
【0058】
比較例1〜2
変性エポキシ樹脂、水溶性アクリル樹脂とメラミン化合物を用い、表2に示した配合割合(重量部)にて混合して塗料組成物を作成した。下記の性能評価を行なった。
【0059】
物性評価
これらの塗料組成物について、厚さが0.4mmの未処理冷延鋼板(SPCC−SB)に、乾燥後の膜厚が15〜20ミクロン(μm)となるように、エアスプレーを用いて塗布し、150℃で30分間の加熱乾燥を行なって、試験塗装板を作成し、次の各特性(付着性、硬度、耐沸騰水性、耐衝撃性、耐屈曲性、耐食性)を評価した。
【0060】
着性試験:JIS K−5400 8.5.2に準じて評価を行った。ニチバン社製セロハンテープにより1mm×1mm×100個の碁盤目中のn個が剥離せずに残っていることを示す。
【0061】
鉛筆硬度試験:試験塗装板の塗装面をJIS−K−5400 8.4.2に準じて傷がつかない硬さを調べた。
【0062】
耐沸騰水試験:試験塗装板を100℃の沸騰水中に30分間浸漬した後に、外観の変化の様子を目視で判定し、さらに前記付着性試験を行った。
【0063】
耐衝撃性試験:JIS K−5400 8.3.2に準じてデュポン式衝撃試験機により、質量1000gの重りを用いて塗装板に対し耐衝撃試験を行った。試験後の塗膜の割れの有無及びその程度を下記の基準により目視判定した。詳細な測定条件は、撃心棒1/2″、ノッチ付、凹型、落下高さ50cmである;
◎:全く異状が認められない、
○:落下衝撃部に僅かながら塗膜の割れ、剥離が認めら
れる、
△:落下衝撃部にかなりの程度の塗膜の割れ、剥離が認
められる、
×:全面剥離、使用不可能である。
【0064】
耐屈曲性試験:屈曲試験器を用い、JIS K5400 8.1に準じて2mmの心棒にて屈曲試験を行い、目視によって塗膜の割れ及び剥がれ状態を調べて評価した。
○:塗膜に割れ、剥がれ共に無し
△:塗膜に割れが認められる
×:塗膜に剥がれが認められる
【0065】
耐食性試験:基材素地にまで達するようにクロス・カットを入れた試験塗装板を、JISZ−2371に準じて塩水噴霧試験を行い、96時間後、クロス・カット部からの錆の幅(片側、mm)と、クロス・カット部をセロハンテープで剥離した後のクロス・カット部から剥離幅(片側、mm)を確認した。
【0066】
実施例、比較例に用いたメラミン樹脂は、硬化剤(C)で、品名:サイメル350(日本サイテックインダストリーズ(株)製)、メトキシメチルタイプメラミン化合物である。
また、比較例に用いたウォーターゾールS−701、744(DIC(株)製)は、水溶性アクリル樹脂である。
【0067】
【表1】

【0068】
【表2】

【0069】
実施例1、2および比較例1、2に用いた水性樹脂の貯蔵安定性試験
変性アクリル樹脂XおよびYは、23℃または40℃の温度条件下、1ヶ月貯蔵した後にも分離や固化といった現象は見られなかった。
一方、変性アクリル樹脂XおよびYについて、変性エポキシ樹脂A添加前のアクリル樹脂単独を水分散したものを用意し、これら水分散性アクリル樹脂と変性エポキシ樹脂Aを混合したところ、相溶せず、均一な溶液とならなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自己乳化型水性樹脂の粒子が分散した水性樹脂組成物であって、
該粒子内に、
炭素数3〜5のモノカルボン酸と燐原子に結合した水酸基を有する化合物とをエポキシ樹脂に反応させて得られる変性エポキシ樹脂(A)が内包され、
且つ、
前記自己乳化型水性樹脂がカルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体を必須成分とするエチレン性不飽和化合物を重合して得られる自己乳化型水性樹脂(B)であることを特徴とする水性樹脂組成物。
【請求項2】
前記炭素数3〜5のモノカルボン酸がエチレン性不飽和カルボン酸である請求項1記載の水性樹脂組成物。
【請求項3】
前記自己乳化型水性樹脂(B)が、エチレン性不飽和化合物類(I)を重合したのち、更にカルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体を必須成分とするエチレン性不飽和化合物類(II)を追加して重合して得られる共重合体であり、且つ、前記エチレン性不飽和化合物類(I)中のカルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体の含有率(x)と前記エチレン性不飽和化合物類(II)のカルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(y)の比〔(x)/(y)〕が1未満である請求項1または2記載の水性樹脂組成物。
【請求項4】
前記カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体がアクリル酸及び/またはメタクリル酸である請求項3記載の水性樹脂組成物。
【請求項5】
前記燐原子に結合した水酸基を有する化合物が燐原子に結合した水酸基を少なくとも2個有する化合物である請求項1記載の水性樹脂組成物。
【請求項6】
変性エポキシ樹脂(A)が、芳香族エポキシ樹脂から誘導される樹脂である請求項1記載の水性樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1つに記載の水性樹脂分散体と硬化剤とを含有する塗料。

【公開番号】特開2012−92198(P2012−92198A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−239560(P2010−239560)
【出願日】平成22年10月26日(2010.10.26)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】