説明

水性樹脂組成物およびその製造方法

【課題】乳化剤を使用せずに塩素化ポリオレフィン類の水性樹脂組成物を製造することができ、良好な塗膜性能を保持しつつ、従来よりも微小粒子にすることで、分散性および貯蔵安定性の良好な水性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】ポリプロピレン、プロピレン−α−オレフィン共重合体およびメタロセン触媒を用いて重合したポリプロピレン、プロピレン−α−オレフィン共重合体から選ばれる少なくとも1種に対し、α,β−不飽和カルボン酸およびその酸無水物から選ばれる少なくとも1種をグラフト共重合した後に塩素化して得られる酸変性塩素化ポリオレフィンを、エーテル系溶剤、アルコール系溶剤および塩基性物質を用いることにより、乳化剤を使用しないでも水に微分散できることを特徴とする水性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂に対するプライマーとして使用される水性樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂は、優れた性質を持ち安価であることから、自動車部品等に多量に使用されている。しかしながら、ポリオレフィン系樹脂は結晶性で表面は無極性のため、塗装や接着が困難であるという問題を有する。このため、ポリオレフィン系樹脂の塗装や接着には塩素化ポリオレフィン類が使用されている。しかし、塩素化ポリオレフィン類はトルエンやキシレン等の有機溶剤を含んでいるため、環境面や衛生面に深刻な影響を与えている。これを改善するため、塩素化ポリオレフィン類の水性化が盛んに試みられている。ところが、従来の塩素化ポリオレフィン類の水性樹脂組成物は製造時に乳化剤を使用するため、濃縮時に発泡して工程に長時間を要したり、フィルム中に残存して耐水性を低下させたりする問題を有している。これらの問題を解決するため、乳化剤を全く使用せずに水性樹脂組成物を製造する方法が報告されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004−18659号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら上記の方法で製造される分散体は粒子径が大きく平均粒子径が100〜500nm程度であった。このとき用いた粒子径測定装置はMALVERN製Zetasizer Nanoである。粒子径の大きな分散体は塗膜としたときに塗膜欠損が生じる恐れがあり、ストークスの原理から安定性が劣るという欠点がある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは種々検討を重ねた結果、酸変性塩素化ポリオレフィンをエーテル系溶剤、塩基性物質のほかに分散助剤としてアルコール系溶剤を加えることにより、乳化剤を全く使用せずに微小粒子径の水分散体が得られることを見出した。この分散体は驚くべきことに平均粒子径100nm未満の微小粒子にまで微分散された。これはアルコール系溶剤が親水性と塩素化ポリオレフィンへの親和性の双方を有するため分散助剤として効果的に働き、塩素化ポリオレフィンの分散時に電気二重層に入り込み、水と塩素化ポリオレフィンとの表面張力を下げているものと推測される。すなわち、本発明は下記に示すとおりの水性樹脂組成物およびその製造方法を提供するものである。
項1. ポリプロピレン、プロピレン−α−オレフィン共重合体およびメタロセン触媒を用いて重合したポリプロピレン、プロピレン−α−オレフィン共重合体から選ばれる少なくとも1種に対し、α,β−不飽和カルボン酸およびその酸無水物から選ばれる少なくとも1種をグラフト共重合した後に塩素化して得られる酸変性塩素化ポリオレフィンを、エーテル系溶剤、アルコール系溶剤および塩基性物質を用いることにより、乳化剤を使用しないでも水に微分散できることを特徴とする水性樹脂組成物。
項2. ポリプロピレン、プロピレン−α−オレフィン共重合体およびメタロセン触媒を用いて重合したポリプロピレン、プロピレン−α−オレフィン共重合体から選ばれる少なくとも1種に対し、α,β−不飽和カルボン酸およびその酸無水物から選ばれる少なくとも1種を0.1〜10重量%グラフト共重合した項1に記載の組成物。
項3. 酸変性塩素化ポリオレフィンの塩素含有率が15〜35重量%である項1または2に記載の組成物。
項4. 酸変性塩素化ポリオレフィンの重量平均分子量が10000〜150000である項1〜3のいずれかに記載の組成物。
項5. 酸変性塩素化ポリオレフィンとエーテル系溶剤とアルコール系溶剤からなる混合溶剤との重量比が30:70〜10:90である項1〜4のいずれかに記載の組成物。
項6. 酸変性塩素化ポリオレフィンのうち項1〜5のいずれかに記載の組成物を与える製造方法。
【0005】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0006】
本発明の水性樹脂組成物を製造するには、まず、ポリプロピレン、プロピレン−α−オレフィン共重合体およびメタロセン触媒を用いて重合したポリプロピレン、プロピレン−α−オレフィン共重合体から選ばれる少なくとも1種に対し、α,β−不飽和カルボン酸およびその酸無水物から選ばれる少なくとも1種をグラフト共重合して、酸変性ポリオレフィンを得る。
【0007】
本発明に使用するプロピレン−α−オレフィン共重合体は、プロピレンを主体としてこれにα−オレフィンを共重合したものである。α−オレフィンとしては、例えば、エチレン、1−ブテン、1−ヘプテン、1−オクテン、4−メチル−1−ペンテンなどを1種または数種用いることができる。プロピレン−α−オレフィン共重合体のプロピレン成分とα−オレフィン成分との比率に特に制限はないが、プロピレン成分が50モル%以上であることが望ましい。
【0008】
本発明に使用するポリプロピレンおよびプロピレン−α−オレフィン共重合体にグラフト共重合するα,β−不飽和カルボン酸およびその酸無水物としては、例えば、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸およびこれらの酸無水物が挙げられる。これらの中でも酸無水物が好ましく、無水マレイン酸、無水イタコン酸がより好ましい。グラフト共重合する量は0.1〜10重量%が好ましく、より好ましくは1〜5重量%である。
【0009】
ポリプロピレン、プロピレン−α−オレフィン共重合体およびメタロセン触媒を用いて重合したポリプロピレン、プロピレン−α−オレフィン共重合体にα,β−不飽和カルボン酸およびその酸無水物をグラフト共重合する方法としては、溶液法や溶融法などの公知の方法が挙げられる。
【0010】
溶液法としては、例えば次のようにして行う。ポリプロピレンおよびプロピレン−α−オレフィン共重合体を、トルエン等の芳香族系有機溶媒に100〜180℃で溶解させた後、α,β−不飽和カルボン酸およびその酸無水物を添加し、さらにラジカル発生剤を一括または分割で添加して反応させる。
【0011】
溶融法としては、例えば次のようにして行う。ポリプロピレンおよびプロピレン−α−オレフィン共重合体を、融点以上に加熱溶融した後、α,β−不飽和カルボン酸およびその酸無水物とラジカル発生剤を添加して反応させる。
【0012】
ラジカル発生剤としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド等が挙げられ、反応温度と分解温度によって選定することができる。
【0013】
次に、上記方法で得られた酸変性ポリオレフィンを塩素化して酸変性塩素化ポリオレフィンを得る。
【0014】
この塩素化は、例えば、塩素系溶媒中に酸変性ポリオレフィンを溶解し、ラジカル発生剤の存在下または不存在下で、塩素含有率が15〜35重量%になるまで塩素ガスを吹き込んで行うことができる。塩素系溶剤としては、例えば、テトラクロロエチレン、テトラクロロエタン、四塩化炭素、クロロホルム等が挙げられる。
【0015】
酸変性塩素化ポリオレフィンの塩素含有率は15〜35重量%であり、15重量%未満の場合は溶解状態が悪く水への分散が行えず、35重量%を超えると塗膜の凝集力が弱くなり密着性が劣る。より好ましくは17〜27重量%である。
【0016】
酸変性塩素化ポリオレフィンの重量平均分子量は10000〜150000であり、10000未満では凝集力が弱くなり密着性が劣り、150000を超えると溶解状態が悪く水への分散が行えない。より好ましくは30000〜100000である。なお、重量平均分子量はGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)で測定することができる。
【0017】
次に、上記方法で得られた酸変性塩素化ポリオレフィンを水に分散して水性樹脂組成物を得る。
【0018】
まず、上記方法で得られた酸変性塩素化ポリオレフィンをエーテル系溶剤とアルコール系溶剤からなる混合溶剤に溶解し、塩基性物質を加えて水を滴下した後、減圧蒸留により溶剤を溜去して分散体を得ることができる。
【0019】
エーテル系溶剤としてはテトラヒドロフラン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル等が挙げらる。
【0020】
アルコール系溶剤としては炭素数1〜7の脂肪族系アルコール、芳香族系アルコール、脂環式アルコールおよびエチレングリコールモノアルキルエーテルを用いることができ、炭素数3〜5のアルコールが望ましい。
【0021】
エーテル系溶剤とアルコール系溶剤の混合比率は任意に選択することができるが、重量比で60:40〜90:10が望ましい。
【0022】
酸変性塩素化ポリオレフィンと混合溶剤との重量比は30:70〜10:90が望ましい。
【0023】
塩基性物質としては、例えば、モルホリン、アンモニア、メチルアミン、エチルアミン、ジメチルアミン、トリエチルアミン、エタノールアミン、ジメチルエタノールアミン等が挙げられる。
【発明の効果】
【0024】
本発明により乳化剤を使用せずに塩素化ポリオレフィン類の水性樹脂組成物を製造することができ、良好な塗膜性能を保持しつつ、従来よりも微小粒子にすることで、分散性および貯蔵安定性を改善することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下に、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0026】
実施例1
酸変性塩素化ポリオレフィン(プロピレン成分が94.5モル%のプロピレン−エチレン共重合体、酸無水物グラフト量:2.0重量%、塩素含有率:20.1重量%、重量平均分子量:51000)50g、テトラヒドロフラン95gおよび1−ブタノール20gを撹拌機付きフラスコにとり、65℃に加熱溶解させた。その後ジメチルエタノールアミンを1.5gを添加し、温度を65℃に保ちながら60℃の水を少量ずつ滴下させた。水を150g加えてW/OからO/Wに転相させた後、91Kpa減圧度で溶剤を溜去し、微濁黄色の分散体を得た。この時の分散体の固形分濃度は30重量%、平均粒子径は21nmであった。
【0027】
実施例2
酸変性塩素化ポリオレフィン(プロピレン成分が97.5モル%のプロピレン−エチレン共重合体、酸無水物グラフト量:1.3重量%、塩素含有率:19.9重量%、重量平均分子量:85000)50g、テトラヒドロフラン95gおよび2−ブタノ−ル20gを撹拌機付きフラスコにとり、65℃に加熱溶解させた。その後ジメチルエタノ−ルアミンを1.1gを添加した。温度を65℃に保ちながら60℃の水を少量ずつ滴下させた。水を150g加えてW/OからO/Wに転相させた後、92Kpa減圧度で溶剤を留去し、微濁黄色の分散体を得た。この時の分散体の固形分濃度は30重量%、平均粒子径は36nmであった。
【0028】
比較例1
酸変性塩素化ポリオレフィン(プロピレン成分が97.5モル%のプロピレン−エチレン共重合体、酸無水物グラフト量:1.3重量%、塩素含有率:19.9重量%、重量平均分子量:85000)50gおよびテトラヒドロフラン94gとプロピレングリコールモノプロピルエーテルを撹拌機付きフラスコにとり、65℃に加熱溶解させた。その後、ジメチルエタノールアミン1.3glを添加した。温度を65℃に保ちながら60℃の水を少量ずつ滴下させた。水を167g加えてW/OからO/Wに転相させた後、92Kpa減圧度で溶剤を溜去し乳白色の分散体を得た。この時の分散体の固形分濃度は30重量%、平均粒子径は190nmであった。
【0029】
実施例1〜2および比較例1で得られた水性樹脂組成物の密着性、耐ガソリン性および耐水性試験を行った。
【0030】
密着性: 固形分濃度30重量%の水性樹脂組成物をポリプロピレン板に塗装し、80℃で10分間乾燥した後、2液ウレタン塗料を塗装し、90℃で20分間乾燥した。この塗装片の塗面にカッターナイフで切り目を入れて、1mm間隔で100個の碁盤目を作り、その上にセロハン粘着テープを密着させて180°の方向に10回引き剥がした。10回剥離しても変化の無かった場合を10点とした。
【0031】
耐ガソリン性: 上記と同様にして塗装片を作製し、20℃のレギュラーガソリンに塗装片を2時間浸漬させて塗膜表面に変化が無かった場合を良好、塗膜表面に剥離が生じた場合を不良とした。
【0032】
耐水性: 上記と同様にして塗装片を作製し、40℃の温水に塗装片を10日間浸漬させて塗膜表面に変化が無かった場合を良好、塗膜表面にブリスターが生じた場合を不良とした。
【0033】
耐水後の密着性: 上記の耐水性を行った後の試験片に対し、塗面にカッターナイフで切り目を入れて、1mm間隔で100個の碁盤目を作り、その上にセロハン粘着テープを密着させて180°の方向に10回引き剥がした。10回剥離しても変化の無かった場合を10点とした。
【0034】
試験結果を表1に示した。
【0035】
【表1】

【0036】
次に貯蔵安定性試験を行った。固形分濃度30重量%の水性樹脂組成物を25℃および40℃の環境下で固化するまで静置した。10日毎に200日までその状態を観察し、固化するまでの日数を記録した。
【0037】
試験結果を表2に示した。
【0038】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸変性塩素化ポリオレフィンを乳化剤を使用することなくエーテル系溶剤、アルコール系溶剤および塩基性物質を用いて水に分散させることを特徴とする水性樹脂組成物。
【請求項2】
酸変性塩素化ポリオレフィンのポリオレフィンはポリプロピレン、プロピレン−α−オレフィン共重合体およびメタロセン触媒を用いて重合したポリプロピレン、プロピレン−α−オレフィン共重合体から選ばれる少なくとも1種に対し、α,β−不飽和カルボン酸およびその酸無水物から選ばれる少なくとも1種を0.1〜10重量%グラフト共重合した請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
酸変性塩素化ポリオレフィンの塩素含有率が15〜35重量%である請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
酸変性塩素化ポリオレフィンの重量平均分子量が10000〜150000である請求項1〜3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
酸変性塩素化ポリオレフィンのうち請求項1〜4のいずれかに記載の組成物を与える製造方法。

【公開番号】特開2006−104432(P2006−104432A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−324295(P2004−324295)
【出願日】平成16年10月8日(2004.10.8)
【出願人】(000222554)東洋化成工業株式会社 (52)
【Fターム(参考)】