説明

水性溶媒の存在下での押出成形による正極材料の作製方法、前記方法によって得られる正極、およびその使用

本発明は、鉄およびリン酸塩でできた少なくとも1種類の活性正極材料と、リチウム塩の存在下でイオン伝導性を有する少なくとも1種類の水溶性ポリマーとを含有する複合材料でできた正極の作製方法であって、押出成形された複合材料を得るために、押出成形によって、前記複合材料の成分を混合する少なくとも1つの工程を含み、前記押出成形工程が、水性溶媒の存在下20〜95℃の温度でコニーダーまたは押出機によって行われる、方法に関する。本発明は、前記方法により得られた正極、リチウム電池を生産するための前記電極の使用、およびそのような電極が組み込まれた前記リチウム電池にも関する。この電極は、60重量%を超える活物質を含有することを特に特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水、または水と少なくとも1つの水混和性溶媒との混合物の存在下での押出成形による、リン酸鉄、特にLiFePO4を主成分とする、正極として使用するための複合材料の製造プロセス、このプロセスを実施することによって得られる正極、ならびにその応用に関する。
【0002】
本発明は、リチウム金属ポリマー(LMP)電池を生産する分野に関する。この種の電池は、n回巻き上げられた一連の薄膜(以下の構成のロール:電解質/カソード/集電体/カソード/電解質/リチウム)、またはn枚の薄膜の多層(上記構成の切断し重ねられたもの、またはn層の多層)の形態をとる。この単一の積層/複合構造は、約100ミクロンの厚さを有する。これは、以下の4つの機能性シートを含む:i)一般にリチウム金属またはリチウム合金箔からなる負極(アノード)、ii)ポリマー(一般にポリオキシエチレン(POE))およびリチウム塩から構成される電解質、iii)金属酸化物(たとえばV25、LiV38、LiCoO2、LiNiO2、LiMn24、およびLiNi0.5Mn0.52など)を主成分とする、あるいは、たとえばLiFePO4などのLiMPO4型リン酸塩(式中、Mは、Fe、Mn、Co、Ni、およびTiから選択される金属陽イオン、またはこれらの陽イオンの組み合わせを表す)を主成分とする、炭素およびポリマー上の活性電極材料から構成される正極(カソード)、ならびに最後にiv)一般に金属箔からなり電気的接続を可能にする集電体。
【背景技術】
【0003】
一般に、リチウム電池用のカソード膜の製造プロセスは、通常粉末形態である活性電極材料を、炭素もしくは黒鉛粒子、またはそれら2種類の混合物などの導電性材料、ならびにポリマーバインダーと有機溶媒中で混合して、均一ペーストを形成することに存する。次に、このペーストを集電体に塗布して薄膜を形成し、次に加熱することによって有機溶媒を蒸発させる。これらのプロセスによって得られる電極膜は、一般に多孔質であり、電解質を含有しない。次に、このカソード薄膜を電池の他の要素と組み合わせ、次に得られた組立体を、リチウム塩を含むイオン伝導性液体電解質で飽和させる。次に、カソードを形成する多孔質膜に電解質を充填することで、カソードとアノードとの間のイオン交換が可能になる。
【0004】
固体リチウム(LMP)電池用の正極材料の薄膜を製造する別のプロセスでは、溶媒和性ポリマーおよびリチウム塩からなる電解質を取り込む混合物が使用される。その混合物は、有機溶媒中で混合された粒子形態の活性電極材料、導電性材料、溶媒和性ポリマー、およびリチウム塩を含み、均一な電極ペーストを形成する。次にこのペーストを集電体に塗布して膜または薄膜を形成し、次に加熱することによって有機溶媒を蒸発させて、電極を形成する。この様式で得られる正極は、溶媒が蒸発する前に電解質が最初に電極材料中に導入され、活性電極材料の粒子間の空隙が満たされる限りは、低い多孔度を有する。次に、この正極膜は、固体リチウム電池を形成するために、固体イオン伝導性セパレーター(ポリマー電解質)および対負極と組み合わされる。
【0005】
どちらの場合も、カソードの生産に使用される混合物の粘度を低下させ、薄膜の形態で電極ペーストを集電体に塗布できるようにするために、有機溶媒が使用される。次に、有機溶媒は、ほとんどの場合加熱後に蒸発させることによって除去する必要があり、その後、電池の種々の構成要素が互いに組み合わされる。この種の電極が商業規模または連続プロセスで生産される場合、環境を汚染しないために、蒸発した有機溶媒を回収する必要がある。有機溶媒を回収するプロセスには、溶媒蒸気が環境中に漏れるのを防止する特殊な施設が必要となり、使用中に大量のこれらの溶媒の保管および取り扱いに適した設備が必要となる。
【0006】
これらのプロセスで使用される有機溶媒の代わりに、水などの無公害の溶媒を用いることが、特に国際公開第2004/045007号パンフレットですでに想定されている。このプロセスによると、活性正極材料と、増粘剤が混合された水溶性合成ゴムからなるバインダーとを含有する水溶液で担体が被覆される。次に、含水率を2000ppm未満、好ましくは50ppm未満の値まで低下させるために、担体上に堆積した膜を少なくとも12〜24時間乾燥させる必要がある。リチウム塩をこの溶液中に取り込むことは、これらの塩の場合は不可能であるが、その理由は、吸湿性であるため、膜中に存在する水を保持し、担体上への水溶液の被覆後に水を除去する乾燥工程に要する時間がさらに増加するからである。この場合、この結果得られる膜は、多孔質となり、そのため、後に電池の他の構成材料と組み合わせるときにリチウム塩に含浸させることができ、カソードとアノードとの間のイオン交換が可能となる。したがって、国際公開第2004/045007号パンフレットに記載のプロセスは、電池の他の構成材料と組み合わせる前にリチウム塩を正極材料中に取り込む必要があるリチウム系電池を製造するために使用することはできない。
【0007】
乾式(無溶媒)押出成形によって正極を製造することも可能である。この場合、電極材料の組成物の種々の構成材料が一軸スクリューまたは二軸スクリュー押出機中に導入され、次にフラットダイから担体上に押出成形される。しかし電極材料の種々の構成材料の混合物は高粘度であり、そのため一般には、取り込みが可能である活性電極材料の内容が限定される。したがって、LiFePO4が活性正極材料として用いられる場合、最終電極材料中に取り込まれ得る最大%値は、電極の全乾燥重量約65%、より一般的には60%未満である。この点において、使用されるポリマー(ポリエーテル)が感熱性であり分解が生じるというまさにその性質のために、押出成形中に系の粘度を低下させるため温度を上昇させることは一般に不可能である。さらに、最初に得られる、一般に数百ミクロンの厚さから、目標とする用途に応じて数十ミクロンの厚さ、一般に≦65μmの厚さの電極膜を得るためには、圧延またはカレンダー加工が必要である。この圧延またはカレンダー加工工程は、粘度に関連する圧縮応力および剪断応力が大きすぎ、多くの場合集電体の破壊(アルミニウム集電体の厚さ<30μm)を引き起こすため、集電体に対して直接行うことは一般に不可能である。したがって、最初の工程で、電極材料を製造し、次に続いて、材料を集電体に組み合わせる工程である複合化工程と呼ばれる追加の工程(カソードの集電体への熱圧着接合)を行う必要がある。この「段階的」複合化の状況では、電極材料と集電体との間の界面の最適な品質を得ることは一般により困難であり、一方、集電体上に押出成形された電極材料に対して直接圧延またはカレンダー加工を行う場合には、厚さの機能に加えて圧延またはカレンダー加工の応力のため、電極膜の集電体表面への接着が強化され、従ってより高品質の界面が形成され、電池内の電子交換の均一性および性質が向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2004/045007号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、リン酸鉄を主成分とし、特にLiFePO4を主成分とする正極材料の製造プロセスであって:
−一般に60%を超え、好ましくは70%を超える高活性物質含有率を有し、同時に多孔度が最小となるカソードを得ること;
−複合化工程を必要とすることなく、カソード材料を集電体上に直接堆積すること;
−100μm未満、好ましくは65μm未満の厚さのカソード膜を得ること;
−高品質の膜(前述したような均一で低多孔度の膜であり、端部が薄くなることなく幅全体に渡って均一な厚さプロファイルを有し、良好な電気化学的性能が得られる)を得ること;および
−電極を電池の他の構成要素と組み合わせる前に、所望により、電極構成物の混合物中にリチウム塩を取り込むこと、
を可能とするプロセスが必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
したがって、本発明の主題の1つは、以下の成分:
−鉄−リン酸塩を主成分とする材料から選択される少なくとも1種類の活性正極材料と;
−リチウム塩の存在下でイオンを伝導する少なくとも1種類の水溶性ポリマーと;
−場合により、導電性を付与する少なくとも1種類の材料と、
を含む複合材料からなる正極の製造プロセスであって、
押出成形された複合材料を得るために、押出成形によって、前記複合材料の成分を混合する少なくとも1つの工程と、ダイから押出成形される前記複合材料を形成する少なくとも1つの工程と、前記押出成形した複合材料を圧延またはカレンダー加工することによって、集電体上に正極膜を形成する少なくとも1つの工程と、前記集電体に塗布された前記正極膜を乾燥させる少なくとも1つの工程とを含み、
前記押出成形工程が、コニーダー(co−kneader)、二軸スクリュー押出機、またはマルチスクリュー押出機(スクリュー数>2)によって、水性溶媒であって、脱塩水または蒸留水、あるいは脱塩水または蒸留水と、水性溶媒の全重量の最大30重量%の少なくとも1種類の水混和性溶媒との混合物からなる水性溶媒(前記水性溶媒は、前記複合材料を形成する成分の全重量の約3〜25重量%である)の存在下、20〜95℃の温度で行われることを特徴とする、製造プロセスである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によるプロセスは以下の利点を有する:
−温度を上昇させる必要なしに、混合物の粘度を低下させる可塑剤として機能することにより、押出成形を容易にする添加剤として水性溶媒が使用され、それによって、感熱性ポリマーの使用に適合した低い押出成形温度(20〜95℃の押出成形温度)が可能となる;
−スクリュープロファイル、温度プロファイル、および供給構造のモジュール式性質によって、種々の配合物の使用、およびカソードの特性の選択/改良が可能となる;
−粘度および押出成形温度が低下することで、材料を溶融させ供給材料を被覆するために乾式押出成形において通常もたらされる機械応力および熱応力が制限され;その結果、正極複合材料に酸化防止剤を加える必要が必ずしも生じない;
−一般に60%を超え、好ましくは70%を超える高活性物質含有率を有しながら、多孔度は制限されたカソードを得ることができ、100μm未満、好ましくは65μm未満の厚さのカソード膜を得ることができる。
【0012】
乾式押出成形によって電極材料を製造するプロセスと比較すると、本発明によるプロセスは以下の利点を有する:
−乾式押出成形によって生じる応力によって、一般に、ポリマーが分解され、それによって、さらに、最終的に電気化学を妨害しやすい汚染物質が生成され得る;
−押出機器中の混合工程は、集電体上に押出成形された複合材料を圧延またはカレンダー加工する工程とインラインで行われる;
−集電体上に押出成形された材料を直接圧延またはカレンダー加工することによって、凝集した高品質の界面が確実に得られる。本発明によるプロセスにより、たとえば約15ミクロンの厚さのアルミニウム基板からなる集電体上の<65μmの厚さのカソード膜の圧延またはカレンダー加工が可能となる。粘度を調節することによって、≦12μmの厚さのアルミニウム基板上のカソード膜の圧延またはカレンダー加工が可能となる;
−押出成形された複合材料を形成する成分の混合物が低粘度であることにより、押出機の出口のダイがきれいになり、次いでインラインの圧延またはカレンダー加工が容易になり、安定した幅を有するカソード膜を直接得ることができる。したがって、本発明によるプロセスによって、幅が一定の膜を得るためにトリミングの必要なしに700mmを超える幅のカソードが生産可能となる。
したがって、本発明による湿式プロセスは、消費電力が少なく、機器の摩耗が少なく、ポリマーおよび電気化学に関する「混乱」が少ない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】使用した配列を示す図である。
【図2】走査型電子顕微鏡(SEM)顕微鏡写真を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
押出成形工程は、好ましくは35〜80℃の温度で実施される。
【0015】
本発明の好ましい一実施形態によると、押出成形工程は、二軸スクリュー押出機によって実施される。
【0016】
本発明のプロセスにより場合により使用される二軸スクリュー押出機は、好ましくは共回転二軸スクリュー押出機である。
【0017】
この場合、本プロセスにおいて場合により使用される二軸スクリュー押出機は、好ましくは、連続して約10個のブロックからなり、各ブロックが独立して特定の選択された温度で制御され、ブロック中では2つの平行なスクリューが回転する区画モジュール式バレル(sectional,modular barrel)と、スクリューを駆動する可変速度歯車モーターと、電極複合材料の組成物を構成する成分を押出機に供給することが意図された1つ以上の可変供給速度の供給装置(重量または体積フィーダー)と、液体水性溶媒を導入するためのシステム(水性溶媒を押出機中に導入するための重量測定装置または液体注入ポンプ)と、場合により、成分を二軸スクリュー室に供給するための1つ以上のサイドフィーダーとを含む。さらに、二軸スクリュー押出機には、種々のホッパー(前述のフィーダーおよび供給装置用)と、1つ以上の液体注入ノズルを場合により接続するための1つ以上の特殊なバレル組立体と、場合により、サイドフィーダーの1つ以上の接続部分を受け入れるように意図された1つ以上のバレル組立体とが取り付けられる。これらの種々のモジュール式装置は、選択される構造に依存して二軸スクリューとともに配置することができる。押出成形される混合物の組成物の各成分用にフィーダーを使用できるので、選択されたフィーダーの種類に応じて顆粒または粉末のいずれも使用することができる。
【0018】
二軸スクリュー押出機では、成分に加えられる剪断応力と、分散および分配混合との組み合わせによって、均一ペーストを得る目的で種々の成分が確実に混合される。最終混合物の品質は、スクリュープロファイルを形成する要素、特にニーダー、充填量、および発生する剪断速度に実質的に依存する。同時に、水を加えることによって得られる粘度低下によって、ポリマーマトリックスに対する機械応力および熱応力を制限しながら、種々のニーダーブレードを通過するので、1種類以上の感熱性水溶性ポリマーを分解させる可能性がある自己発熱を防止することができる。剪断応力および分散/分配混合は、二軸スクリュー要素によって、ならびにスクリューの性質、数、状態、および配列によって調節される。主として、選択されるニーダーの種類(単一ローブ、二重ローブ、三重ローブなど)と、ローブ幅(剪断力が作用するローブの先端)と、2つの連続する混練要素のローブの軸の間の角度(所望の分散/分配作用に応じて調節可能)と、スクリューに沿ったこれらのニーダーの分布とを使用することによって、所与の供給構造での混合物の品質を調節することができる。逆工程またはぎざぎざのあるローブなどの特殊な要素を使用することで、処方、ポリマーの特性、フィラーの種類および構成、ならびに所望の最終特性に応じて混合物を最適化することもできる。
【0019】
本発明は、小型の実験室型二軸スクリュー押出機(たとえば直径18mmの押出機)、および直径が200mmを超えてもよい工業用押出機に適用することができる。これらの押出機は、一般に長さ(L)対直径(D)比(L/D)が25〜55の間であり、約10個のゾーン(一般に7〜13個のゾーン)を含む。
【0020】
場合により水性溶媒中で使用可能な水混和性溶媒の中では、グリコール類、ならびにメタノール、エタノール、プロパノール、およびブタノールなどの低級アルコール類を挙げることができる。このような溶媒の中では、エタノールが好ましい。
【0021】
水混和性溶媒が存在する場合、好ましくは水性溶媒の全重量の15重量%未満となる。
【0022】
本発明の別の好ましい実施形態によると、押出成形工程で使用される水性溶媒の量は、複合材料を形成する成分の全重量の約8〜15重量%で変動する。
【0023】
混合パラメーターの調節が望ましい場合は、多数の箇所または多数の個別のゾーンのいずれかで、水性溶媒を押出機中に導入することができる。最初の混合サブ工程は、拡散および分配混合が強められるように、依然として比較的粘稠のペーストに対して行われる場合があり;次に他の連続する導入サブ工程を行うことができ、それによって、混合物の穏やかな混合が続けられるように粘度を徐々に低下させることができる。一般に、プロセス、処方、および所望の特性応じて、二軸スクリュー中に導入される水性溶媒の%量を変動させることで、カソードペーストの粘度を調節することができる。
【0024】
70℃の温度で試験される典型的な混合物の場合、粘度は、約500s-1の剪断速度で約500〜1000Pa・sであり、約1000s-1の剪断速度で100〜500Pa・sであり、>2000s-1の剪断速度で一般に250Pa・s未満である(これはチキソトロピー挙動を明らかに示しており、言い換えると剪断速度とともに粘度が低下する)。これらの粘度測定は、Rosandより販売されるRH 2200(登録商標)ツインボア・キャピラリー・レオメーターを使用して行われ、BagleyおよびRabinowitchの補正を取り込むことができた。
【0025】
規定量の水溶液の導入は、重量測定により、押出機の1つ以上の好適なゾーン中に行うことができる。
【0026】
本発明の別の好ましい実施形態によると、圧力の増加および安定化のための装置は、ダイをきれいにし主として均一になることを確実にするため、ダイの前の押出機出口に配置される。このような装置としては、たとえば一軸スクリュー再処理(rework)押出機および押出成形用ギアポンプ(溶融ポンプ)を挙げることができる。
【0027】
本発明の別の実施形態によると、20〜95℃の温度プロファイルを有する一軸スクリュー再処理押出機が使用される。回転速度は、当業者の一般知識により、供給速度および一軸スクリューの大きさに応じて設定される。
【0028】
次に、ダイは、一般に円筒形または平坦であり、押出成形ラインの終端の圧力を増加および安定化する装置の下流に配置され、圧延またはカレンダー加工装置に押出物を供給する。本発明によると、フラットダイが好ましくは使用され、その形状は、最終製品(正極)の形状に類似しており、安定した幅の製造が促進される。
【0029】
ダイを出た押出物は、次に、集電体上へ圧延またはカレンダー加工される。カソードがローラーに付着するという発生し得る問題を解決するために、圧延またはカレンダー加工の速度で移動する保護フィルム(たとえばポリプロピレン(PP)またはポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムまたは非粘着性のプラスチックフィルム)を使用することができる。次にこのフィルムを除去して、続いて乾燥作業が行われる。フィルムは圧延またはカレンダー加工工程の間に機械応力および熱応力に大きくさらされないので、このフィルムは何度も再利用することができる。別の解決法は、押出物と接触するローラー上を移動する非粘着性ベルトを使用することに存する。非粘着性材料でできたローラーを使用したり、最終製品に望まれる表面仕上げに適合した非粘着性コーティングを使用したりすることもできる。
【0030】
本発明の別の好ましい実施形態では、ダイは圧延システムの近くに配置される。厚さが数百ミクロンである押出物または一次成形物は、複合材料を乾燥させると、目標の厚さを得るために必要な厚さに圧延またはカレンダー加工される。圧延またはカレンダー加工装置の温度、間隙、および押圧を調節することができる。
【0031】
本発明の別の好ましい実施形態によると、圧延またはカレンダー加工工程は、反対方向に回転する2つのローラーからなる圧延またはカレンダー加工装置で行われる。各ローラーの温度は、個別に15〜95℃の範囲内で制御することができる。線速度は、導入材料の供給速度、ならびに目標とする製品の幅および厚さに依存する。ダイと圧延またはカレンダー加工装置との間の距離を最適化することによって、ローラーの間への押出物の導入を制御でき、最終的な幅を安定化させることができる。
【0032】
本発明の別の好ましい実施形態では、特に活性鉄−リン酸塩系材料の分解を防止するために、複合材料中の水の滞留時間は最低限にされる。未乾燥の押出成形複合材料が集電体と接触する場合に、ある種の集電体上で、被覆によっては、水の存在によって発生し得るある種の腐食を防止するために、水の滞留時間を最低限にすることも必要となる。このことが、製品の完全性を保存し、その品質を最適化しながら、工業的な処理量の要求に適合させるために、乾燥工程が好ましくはインラインで行われる理由である。
【0033】
本発明によるプロセスによると、複合材料を形成する種々の成分は直接押出機に加えられる(特殊な準備をしたり、あらかじめ混合物を調製したりする必要はない)。
【0034】
次に、電極複合材料の組成物の成分は、押出機中に、1つの重量または体積フィーダー中に含有される混合物の形態で導入されたり、あるいは、単独またはグループで互いに直列に配置された複数の重量または体積フィーダーに分配され得る。あるいは重量測定により供給するために、1つ以上のこれらのフィーダーを、押出機に固定された1つ以上のサイドフィーダーに接続して、1種類以上の所望の原材料を押出機に送出させることもできる。この種の配置は、重量測定による供給が困難となり得る生成物を均一に導入することを確実にするために、押出成形において広く用いられている。
【0035】
本発明の別の好ましい実施形態によると、活性正極材料、水溶性ポリマー、および導電性を付与する材料は、それぞれ異なるフィーダー中に収容され、連続および/または同時に、水性溶媒を導入するためのゾーンの下流または上流の、押出機の種々の選択されたゾーン中に導入される。
【0036】
規定量の水性溶媒の導入は、重量測定により、押出機の1つ以上の好適なゾーンで行うことができる。水性溶媒は、好ましくは、液体注入ポンプによって押出機中に直接注入される。
【0037】
本発明の別の好ましい実施形態によると、押出成形は、電極材料の組成物の成分(固形分)の混合物が1時間当たり2〜200kgの供給速度で行われる。したがって、たとえば、固形成分の供給速度が100kg/hであり、約12重量%の水性溶媒が加えられる場合、全供給速度(固形成分+水性溶媒)は約113.6kg/hとなる。
【0038】
活性電極材料は、好ましくは被覆されていない粒子、または炭素質被覆を含む粒子の形態のLiFePO4である。後者の場合、LiFePO4粒子の表面上に炭素が存在するため、複合材料の組成物の成分の混合物に導電性を付与する材料を加える必要はないか、あるいはより少量が必要となる。
【0039】
活性電極材料は、好ましくは、固体状態にある複合材料の組成物の成分の全重量の約60〜85重量%、より好ましくは約70〜80重量%となる。
【0040】
本発明により場合により使用される水溶性ポリマーは、好ましくは粉末、顆粒、または水性分散液の形態をとる。好ましくは、ポリエーテル、たとえばポリオキシエチレン(POE)、ポリオキシプロピレン、およびポリオキシブチレンポリマー、コポリマー、およびターポリマーから選択される。
【0041】
このポリマーは、好ましくは、固体状態にある複合材料の組成物の成分の全重量の約10〜30重量%、より好ましくは約15〜25重量%となる。
【0042】
導電性を付与する材料は、場合により炭素であり、好ましくは、カーボンブラック、たとえばアセチレンブラック、または高比表面積カーボンブラック(AkzoNobelよりKetjenblack(登録商標)EC−600JDの名称で販売される製品など)、カーボンナノチューブ、黒鉛、またはこれらの材料の混合物から選択される。カーボンブラックまたは黒鉛の水性分散液、たとえばAchesonよりElectrodag(登録商標)EB−012の商品名で販売される製品であってもよい。
【0043】
本発明によると、導電性を付与する材料は、好ましくは、低比表面積炭素が使用される場合(比表面積が200m2/gを下回ることを意味する)約0〜10重量%であり、高比表面積炭素が使用される場合(比表面積が1000m2/gを超えることを意味する)約0〜2.5重量%の間であり、前記%値は、固体状態にある複合材料の組成物の成分の全重量に対して表されている。炭素の%値は、LiFePO4粒子中にすでに場合により取り込まれている炭素量に応じて調節される。炭素で十分に被覆されたLiFePO4粒子を使用することによって、炭素質フィラーを加える必要がなくなる場合がある。対照的に、未被覆のLiFePO4粒子の使用は、一般に導電性材料の取り込みが必要となることを意味する。
【0044】
電気化学的に機能するため、正極複合材料は、イオン伝導特性を付与する少なくとも1種類の材料を含有する必要がある。この材料は、特に、LiAlCl4、Li2Al2Cl6O、LiClO4、LiPF6、LiAsF6、LiBF4、LiCF3SO3、LiSbF6、LiSbCl6、Li2TiCl6、Li2SeCl6、Li210Cl10、Li212Cl12、LiBOB、LiBETI、LiFSI、およびLiTFSIから選択されるリチウム塩であってよい。
【0045】
リチウム塩の最終含有率は、好ましくは、膜の乾燥後の電極複合材料の全重量の約3〜10重量%、より好ましくは約4〜8重量%まで変動する。
【0046】
本発明の第1の変形例によると、リチウム塩は、押出成形工程において電極複合材料の組成物の成分に加えられる。この場合、LiTFSI、LiClO4、またはLiBETIなどの非加水分解性で水溶性の塩(水中で安定な対イオン)である。
【0047】
本発明のプロセスの特に好ましい一実施形態によると、押出成形工程で使用される水性溶媒は、次に、溶液中の前記リチウム塩を含有する。リチウム塩を含む水性溶媒の使用は、粉末の塩の取り扱いに関する欠点(汚染、および非無水雰囲気中での付着性/潮解性生成物の形成の危険性)を制限する利点を有する。
【0048】
本発明の第2の変形例によると、リチウム塩は、帰納的に電極複合材料中に取り込まれ、すなわち、膜を乾燥させる工程の後、電解質を電極膜の表面と接触させた後に電解質から拡散させることによって取り込まれる。
【0049】
本発明によると、圧延またはカレンダー加工工程は、ダイの出口から押出成形された複合材料への作用を介して、集電体の2つの面の少なくとも1つに対して直接行われる。この圧延またはカレンダー加工工程は、好ましくは20〜95℃、より好ましくは30〜70℃の温度で行われる。
【0050】
集電体に塗布した複合材料膜は、好ましくは厚さが約100μm以下、より好ましくは約65μm以下である。
【0051】
正極用の集電体は、一般に、4μm〜30μm、好ましくは5〜15μmの範囲の厚さのアルミニウム箔からなり、さらに、電極複合材料と接触する各面上に保護防食層を有し、それによって、その構成物、特にリチウム塩に接触することによるいかなる化学反応も防止され、その構成物は、押出機の二軸スクリュー中に導入される成分の1つか、または電池の種々の構成要素の組立中に後に加えられる。この保護防食層は、たとえば、カソードの構成要素に対して化学的に不活性である導電性ラッカー、あるいは、たとえば金層または窒化チタン層などのカソードの構成要素に対して化学的に不活性である被覆からなり得る。
【0052】
集電体に塗布された膜を乾燥させる工程は、好ましくはインラインで行われる。これは、押出成形工程で使用され膜中に存在する水を除去するという目的を有する。当分野で従来使用され当業者に周知の種々の膜乾燥技術を、場合により組み合わせて、乾燥工程で使用してもよい。このような技術の中では、特に伝導加熱、対流加熱、および放射加熱を挙げることができる。
【0053】
本発明によるプロセスの好ましい一実施形態によると、集電体(箔)に塗布された膜の乾燥は、水平フロート(自立)技術を含む乾燥オーブン中、すなわち乾燥トンネルとも呼ばれる、箔を確実に支持するための互いに連続して配置された上部および下部エアナイフを備えた乾燥オーブン中で、対流加熱によって行われる。
【0054】
この場合、オーブン中に導入された複合材料膜を支持する集電体は自立しており、すなわち、膜の下面および上面への方向に交互に向かったエアナイフによってオーブン中所与の高さで維持される。これらのエアナイフは、膜の両側に交互に配置されたブロアーノズルから放出されることで、ノズルおよび/またはオーブンの他の機械的部品と機械的に接触することなくシートを確実に支持する。このようなオーブンは、一般に、種々の個別に温度制御されたゾーンからなり、それによってある温度プロファイルを乾燥空気に付与することができ、ノズルの吹き付け圧力/流量を調節することによって空気の速度を制御することができる。所与の供給速度および所与のカソード構成に対して調節された圧延またはカレンダー加工の速度で、膜がオーブンを通過する。強制対流加熱によって、膜から水が除去される。空気の吸水能力を最適化するために乾燥機に入る空気が乾燥するように、オーブン中に除湿システムを組み込むこともできる。たとえば、特に、複数の別個の乾燥ゾーンを含み、それぞれの長さが数メートルであり、その中で空気が加熱される乾燥トンネルを使用することができる。一般に、各ゾーンにおいて、空気の温度は60℃〜200℃で変動してよく、ノズルから噴射される空気の速度は約25〜50m/sである。各温度ゾーンにおいて、膜の変形や孔隙の形成を引き起こすことなく膜中に存在する水性溶媒分子の最大量を除去するために、特に気流速度を調整することができる。これらのゾーンのそれぞれは、実質的に乾燥した膜が得られるまで、すなわち膜が1000ppm未満、より好ましくは600ppm未満の水を含有するまで、徐々に多量の水性溶媒を除去する。当然ながら、乾燥トンネルは、その形状および有用な長さ、ならびに膜を十分乾燥させるのに必要な温度レベルに応じて、より多いまたは少ない乾燥ゾーンを含むこともできる。
【0055】
本発明の別の主題は、上記プロセスにより得られた正極である。これは、活性電極材料が、リン酸鉄、好ましくはLiFePO4を主成分とする材料である複合材料膜の形態であり:
−活性電極材料含有率が、固体状態にある電極の全重量の60重量%を超え、好ましくは70重量%を超え;
−その厚さが100μm未満、好ましくは65μm未満であり;
−その多孔度が3%未満、好ましくは1%未満であり;
−その含水率が1000ppm未満、好ましくは600ppm未満
であることを特徴とする。
【0056】
本発明による電極は、最小の幅、すなわち約1センチメートルから、場合により700mmを超える値まで典型的には変動する多数の幅で提供することができる。特に、本発明によるプロセスを実施することによって、観察される正極の固有の特性が不都合に変化することなく、従来技術の公知のプロセスを使用して一般に可能な幅よりも広い幅を得ることができる。
【0057】
本発明の別の主題は、上記規定の正極のリチウム電池、特にLMP電池の製造への使用である。
【0058】
最後に、本発明の別の主題は、少なくとも1つの正極、1つの負極、電解質、および集電体を含み、正極が前述の規定のような電極であることを特徴とするリチウム電池である。
【実施例】
【0059】
本発明を以下の例示的実施形態によって例示するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0060】
例1:本発明のプロセスによる正極の作製
【0061】
この実施例では、10kg/hの供給速度において、多数の重量フィーダーを備え、その1つがサイドフィーダーに接続された共回転二軸スクリュー押出機、液体注入ポンプ、フラットダイに連結した再処理一軸スクリュー押出機、電極を集電体上に圧延するためのユニット、および乾燥トンネルを使用して、本発明のプロセスを用いて正極を製造した。
【0062】
使用した配列は、添付の図1に示され、長さが1.1メートルであり、10個のゾーンを含み、25mmの直径を有する二軸スクリュー押出機(1)は、重量フィーダー(2a、2b、2c)によって固体成分を供給し、液体注入ポンプ(3)によって水性溶媒(脱塩水+LiTFSI)を供給し、押出機(1)は、30mmの直径を有する再処理一軸スクリュー押出機(4)に連結され、これはフラットダイ(5)を備え、圧延ステーション(6)上に開放され、強制対流乾燥オーブン(7)で終わっている。
【0063】
第一工業製薬(DKS)よりHQSEBの商品名で販売される顆粒の形態のポリ(エチレンオキシド)/ポリ(ブチレンオキシド)コポリマーをフィーダー(2a)中に導入し、AkzoNobelよりKetjen Black EC−600 JDの商品名で販売される高比表面積炭素粒子をフィーダー(2b)中に導入し、LiFePO4粒子をサイドフィーダーに接続されたフィーダー(2c)中に導入することによって、正極を作製した。押出機中の混合後および乾燥前に、16.4重量%のポリマー、1.3重量%の炭素粒子、および65.1重量%のLiFePO4を含有する押出成形複合材料が得られるように、重量フィーダーの供給速度を調節した。フィーダー(2a)、(2b)、および(2c)の内容物を、連続して二軸スクリュー(1aおよび1b)中に導入した。すべての成分を押出機(1)の二軸スクリュー中で混合した後に10重量%の水を含有する押出成形複合材料を得るのに十分な量の30重量%のLiTFSIを含有する脱塩水を、液体注入ポンプ(3)によって二軸スクリュー(1c)中に導入した。全乾燥供給速度を10kg/hに調節し、すなわち注入した水の重量を考慮すれば約11.1kg/hの供給速度に調節した。押出成形は80℃の温度で行いながら、二軸スクリューは約220rpmで回転させた。押出成形によって得られた複合材料は、次に、再処理一軸スクリュー(4)によって25rpmの速度および80℃の温度で再処理し、フラットダイ(5)に送出した後、最終の圧延工程(6)に進め、そこで、30重量%のアセチレンブラックおよび70重量%のポリフッ化ビニリデン/ヘキサフルオロ−プロピレン(PVDF−HFP)で構成される厚さが2μmの導電性保護ラッカーが両面に被覆された厚さ15μmのアルミニウム箔からなる集電体上に、押出成形した混合物を、4.5m/分の圧延速度で圧延した。次に、有効長が6メートルであり乾燥空気(露点−30℃)が約120m3/hの流速で130℃の温度で向流で流される強制対流乾燥オーブン(7)に通すことによって、水を除去するために、集電体に塗布された押出成形材料の膜をインラインで乾燥させた。
【0064】
このようにして、集電体上に直接堆積された正極が得られ、前記電極は、厚さが62±2μm、多孔度が1.5%未満、幅が250±1mm、および含水率が600ppm未満である複合材料薄膜の形態であった。
【0065】
走査型電子顕微鏡(SEM)顕微鏡写真を添付の図2(倍率1000倍)に示す。
【0066】
この顕微鏡写真は、電極膜が高品質の端部および均一な厚さを有することを示している。
【0067】
さらに、電極の作製に使用したポリマーの分解がないことを調べるために、押出成形前のHQSEBポリマーに対して溶液中の粘度測定を行った。作業手順の工程は、1重量%で水中にリチウム塩の存在下でポリマーを溶解させる工程(水浴中で穏やかに撹拌しながら40℃で18時間)、「Durieux(登録商標)無灰急速濾過」濾紙で濾過する工程と、Ubbelohde型毛細管からなるSchott(登録商標)粘度計(Icシリーズ、較正K〜0.03)を30℃の恒温槽(モデルSchott(登録商標)CT32)に入れ、底部にはタイマーに接続された光学センサー(Schott(登録商標)Gerate−type AVS 310)を取り付け、それによって、既知の特定直径の毛細管を正確な特定体積の溶液が通過する流下時間を正確に測定することによって動粘度を測定する工程を含んだ。粘度は、ポアズイユの法則を用いて混合時間から求めた。押出成形前では7±0.1mm2/sの粘度が得られた。同じ分析を、押出成形したカソード膜からサンプリングしたポリマーに対して行い、カソードを溶解させ(水浴中で穏やかに撹拌しながら40℃で18時間)1重量%のポリマーの溶液を最終的に得る第1の工程の後に、フィラー(活性材料および炭素質充填材料)を遠心分離(350rpmで20分間)で分離する第2の工程、および濾過工程(Durieux(登録商標)濾紙を使用)を行った後、溶液をUbbelohde管に導入した。
【0068】
押出成形後には6.8±0.1mm2/sの粘度が得られ、これは、本発明による押出成形プロセスによって、電極の製造に使用される混合物の組成物のポリマーが分解されないことを示している。
【0069】
例2:本発明のプロセスによる正極の作製
【0070】
この実施例では、100kg/hの供給速度において、多数の重量フィーダーを備え、その1つがサイドフィーダーに接続された共回転二軸スクリュー押出機、液体注入ポンプ、フラットダイに連結した再処理一軸スクリュー押出機、電極を集電体上に圧延するためのユニット、および乾燥トンネルを使用して、本発明によるプロセスを用いて正極を製造した。
【0071】
使用した配列は、実施例1の配列と類似のものである。
【0072】
第一工業製薬(DKS)よりHQSEBの商品名で販売される顆粒の形態のポリ(エチレンオキシド)/ポリ(ブチレンオキシド)コポリマーをフィーダー(2a)中に導入し、AkzoNobelよりKetjen Black EC−600 JDの商品名で販売される高比表面積炭素粒子をフィーダー(2b)中に導入し、LiFePO4粒子をサイドフィーダーに接続されたフィーダー(2c)中に導入することによって、正極を作製した。押出機中の混合後および乾燥前に、16.4重量%のポリマー、1.3重量%の炭素粒子、および65.1重量%のLiFePO4を含有する押出成形複合材料が得られるように、重量フィーダーの供給速度を調節した。フィーダー(2a)、(2b)の内容物を、重力によって連続して二軸スクリュー押出機(1aおよび1b)中に導入した。フィーダー2cの内容物は、サイドフィーダーを介して二軸スクリュー中に導入した。すべての成分を押出機(1)の二軸スクリュー中で混合した後に8〜16重量%の水を含有する押出成形複合材料を得るのに十分な量の15〜40重量%のLiTFSIを含有する脱塩水も、液体注入ポンプ(3)によって二軸スクリュー(1c)中に導入した。全乾燥供給速度を100kg/hに調節し、すなわち注入した水の重量を考慮すれば約108〜119kg/hの供給速度に調節した。押出成形を65℃の温度で行いながら、二軸スクリューは約180rpmで回転させた。押出成形によって得られた複合材料は、次に、再処理一軸スクリュー押出機(4)によって24rpmの速度および65℃の温度で再処理し、フラットダイ(5)に送出した後、最終の圧延工程(6)に進め、そこで、厚さが2μmの導電性保護ラッカー(このラッカーは前述の実施例1に記載のものと同一である)が両面に被覆された厚さ12μmのアルミニウム箔からなる集電体上に、押出成形した混合物を、35m/minの圧延速度で圧延した。次に、30〜50mの間の長さを有し、30〜60m/sの速度で空気を吹き出す上部および下部ノズルを有し、ゾーンの位置に応じて60〜180℃の温度が使用される水平フロート乾燥トンネル(7)に通すことによって、水を除去するために、集電体に塗布された押出成形材料の膜を乾燥させた。
【0073】
このようにして、集電体上に直接堆積された正極が得られ、前記電極は、厚さが52±2μm(Mitutoyo(登録商標)プロフィロメータ−を使用して実験室でサンプルを測定)、多孔度が2.5%未満であり、幅が380±1.5mmであり、含水率が600ppm未満である複合材料薄膜の形態であった。
【0074】
第1のカソード面の乾燥後の厚さを測定するために、集電体系上で零点調整したインライン厚さ測定によって、平均厚さが52μm±2μmであることを確認した。このインライン厚さ測定は、一連のLEDを使用するKeyence(登録商標)LS 7030移動式光学装置(幅全体を分析するために横方向に移動)によって行った。
【0075】
多孔度は、従来の質量/体積技術によって製品の真密度を求めることによって測定し、Micromeritics AccuPyc 1330ヘリウムピクノメーターを用いて行った測定で小さな多孔度値を確認した。実際の密度測定を行うことで、最終製品が低い多孔度レベルであることが分かった。表面および端面のSEM観察(図示せず)によってこれらの性質を確認した。表面には孔隙が観察されず、試験したサンプルには空隙は見られなかった。
【0076】
インライン欠陥検出システム(Incore Systems(登録商標)ソフトウェアを備えたAviiva(登録商標)SM2 4096−ピクセル高解像度リニアカメラ)によって、製造全体で、膜の品質(異物、すりきず、孔隙などがないこと)を監視し、カソードおよび集電体端部の幅をインラインで制御することもできる。この測定システムにより測定すると平均値が380±1.5mmであった。
【0077】
上記系{集電体/カソード/第1の面}の自由面に対して同じパラメーターで、第2のカソード面の押出成形および処理を行った。これによって、各面上に正極膜が被覆された集電体が得られ、全体の厚さが120±4μm(両方のカソード面、集電体、およびその保護層を含む)、多孔度が1.5%未満であり、幅が380±1.5mmであり、含水率が500ppm未満であった。乾燥後の第2のカソード面の固有の厚さを測定するために、この場合は第1の集電体/カソード系上で零点調整したインライン厚さ測定を行うと、平均統計的厚さが52μm±2μmとなった。
【0078】
例3:リチウム電池の作製
【0079】
この実施例では:
−前述の実施例2で生産した正極;
−仏国特許出願第2 881 275号明細書に記載の二重層膜、すなわち重量基準で38%のポリオキシエチレン(POE)、53%のPVDF/HFP、9%のLiTFSIを含有しカソードと接触する厚さ10μmの第1の膜と、70%のPOE、2.2%のPVDF/HFP、17.8%のLiTFSi、および10%のMgOを含有しリチウムと接触する厚さ10μmの第2の膜とからなる膜からなる電解質;
−負極としての厚さ70μmのリチウム膜;および
−アルミニウム集電体
を有するリチウム電池を製造した。
【0080】
巻き取ることでこれらの要素を組み合わせた。
【0081】
3.6V〜2.5Vの間の電圧を端子に印加することによって、電池をC/2の放電計画およびC/4の充電計画で動作させた。
【0082】
得られた電圧=f(容量)チャート(図示せず)は正常であり、プロセスに関連する欠陥は示されなかった。
【0083】
寿命を測定すると1308サイクルとなり(電池の初期容量から20%低下に相当する寿命の終了)、これは目標設定の1000サイクルよりもはるかに長い。
【0084】
したがって、本発明による正極膜の作製プロセスを使用することで、この膜を用いた電池の性能が低下することはないと思われる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の成分:
−鉄−リン酸塩系材料から選択される少なくとも1種類の活性正極材料と;
−リチウム塩の存在下でイオンを伝導する少なくとも1種類の水溶性ポリマーと;
−場合により、導電性を付与する少なくとも1種類の材料と、
を含む複合材料からなる正極の製造方法であって、
押出成形された複合材料を得るために、押出成形によって、前記複合材料の成分を混合する少なくとも1つの工程と、ダイから押出成形して前記複合材料を形成する少なくとも1つの工程と、前記押出成形した複合材料を圧延またはカレンダー加工することによって、集電体上の正極膜の形態にする少なくとも1つの工程と、前記集電体に塗布された前記正極膜を乾燥させる少なくとも1つの工程とを含み、
前記押出成形工程が、コニーダー、二軸スクリュー押出機、またはマルチスクリュー押出機によって、水性溶媒であって、脱塩水または蒸留水、あるいは脱塩水または蒸留水と、前記水性溶媒の全重量の最大30重量%の少なくとも1種類の水混和性溶媒との混合物からなる水性溶媒(前記水性溶媒は、前記複合材料を形成する前記成分の全重量の約3〜25重量%である)の存在下、20〜95℃の温度で行われることを特徴とする、製造方法。
【請求項2】
前記押出成形工程が35〜80℃の温度で行われることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記押出成形工程が二軸スクリュー押出機によって行われることを特徴とする、請求項1および2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項4】
前記二軸スクリュー押出機が共回転二軸スクリュー押出機であることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記二軸スクリュー押出機が、連続して約10個のブロックからなり、各ブロックが独立して特定の選択された温度で制御され、ブロック中では2つの平行なスクリューが回転する区画モジュール式バレルと、前記スクリューを駆動する可変速度歯車モーターと、前記電極複合材料の組成物を構成する前記成分を前記押出機に供給することが意図された1つ以上の可変供給速度の供給装置と、前記液体水性溶媒を導入するためのシステムと、場合により、1つ以上のサイドフィーダーとを含み、前記二軸スクリュー押出機には、種々のホッパーと、1つ以上の液体注入ノズルに場合により接続するための1つ以上の特定のバレル組立体と、サイドフィーダーの1つ以上の接続部分を受け入れるように意図された場合により1つ以上のバレル組立体とがさらに取り付けられることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記水混和性溶媒が低級アルコール類およびグリコール類から選択されることを特徴とする、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記水混和性溶媒が存在する場合、前記水性溶媒の全重量の15重量%未満となることを特徴とする、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記押出成形工程で使用される水性溶媒の量が、前記複合材料を形成する前記成分の全重量の8〜15重量%まで変動することを特徴とする、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記ダイの前の前記押出機の出口に圧力の増加および安定化のための装置が配置されることを特徴とする、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記装置が、20〜95℃の温度プロファイルを有する一軸スクリュー再処理押出機であることを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記ダイがフラットダイであることを特徴とする、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記圧延またはカレンダー加工工程が、反対方向に回転する2つのローラーからなる圧延またはカレンダー加工装置で行われることを特徴とする、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記乾燥工程がインラインで行われることを特徴とする、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記活性正極材料、前記水溶性ポリマー、および前記導電性を付与する材料が、それぞれ異なるフィーダー中に収容され、連続および/または同時に、前記水性溶媒を導入するためのゾーンの下流または上流の、前記押出機の種々の選択されたゾーン中に導入されることを特徴とする、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記水性溶媒が、液体注入ポンプによって前記押出機中に直接注入されることを特徴とする、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記押出成形が、前記電極材料の組成物の前記成分(固形分)の混合物が1時間当たり2〜200kgの供給速度で行われることを特徴とする、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記活性電極材料が、被覆されていない粒子、または炭素質被覆を含む粒子の形態のLiFePO4であることを特徴とする、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記活性電極材料が、固体状態にある前記複合材料の組成物の前記成分の全重量の約60〜85重量%であることを特徴とする、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記水溶性のポリマーが粉末、顆粒、または水性分散液の形態をとることを特徴とする、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記水溶性ポリマーが、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン、およびポリオキシブチレンポリマー、コポリマー、およびターポリマーから選択されることを特徴とする、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記水溶性ポリマーが、固体状態にある前記複合材料の組成物の前記成分の全重量の10〜30重量%であることを特徴とする、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記導電性を付与する材料が炭素であり、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、黒鉛、またはこれらの材料の混合物から選択されることを特徴とする、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記導電性を付与する材料が、カーボンブラックまたは黒鉛の水性分散液であることを特徴とする、請求項1から21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記正極複合材料が、LiAlCl4、Li2Al2Cl6O、LiClO4、LiPF6、LiAsF6、LiBF4、LiCF3SO3、LiSbF6、LiSbCl6、Li2TiCl6、Li2SeCl6、Li210Cl10、Li212Cl12、LiBOB、LiBETI、LiFSI、およびLiTFSIから選択されるリチウム塩を含有することを特徴とする、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
リチウム塩の最終含有率が、前記膜の乾燥後の前記電極複合材料の全重量の3〜10重量%まで変動することを特徴とする、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記リチウム塩が前記押出成形工程において前記電極複合材料の組成物の前記成分に加えられ、LiTFSI、LiClO4、およびLiBETIから選択されることを特徴とする、請求項24および25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記押出成形工程に使用される前記水性溶媒が、溶液中の前記リチウム塩を含有することを特徴とする、請求項24から26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記圧延またはカレンダー加工工程が、前記ダイの出口から押出成形された前記複合材料への作用を介して、集電体の2つの面の少なくとも1つに対して直接行われることを特徴とする、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記正極用の前記集電体が、4μm〜30μmの範囲の厚さのアルミニウム箔からなることを特徴とする、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記集電体に塗布された前記膜を乾燥させる前記工程が自立技術を備えた乾燥オーブン中の対流加熱によって行われることを特徴とする、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
先行する請求項のいずれか一項に記載の方法を実施することによって得られた正極であって、複合材料膜の形態をとり、前記活性電極材料がリン酸鉄を主成分とする材料であり:
−前記活性電極材料の含有率が、固体状態にある前記電極の全重量の60重量%を超え;
−その厚さが100μm未満であり;
−その多孔度が3%未満であり;
−その含水率が1000ppm未満である
ことを特徴とする正極。
【請求項32】
その多孔度が1%未満であることを特徴とする、請求項31に記載の電極。
【請求項33】
その幅が、1センチメートルから700nmを超える値まで変動することを特徴とする、請求項31および32のいずれか一項に記載の電極。
【請求項34】
リチウム電池を生産するための、請求項31から33のいずれか一項に記載の正極の使用。
【請求項35】
少なくとも1つの正極と、1つの負極と、電解質と、集電体とを含むリチウム電池であって、前記正極が請求項31から33のいずれか一項に記載されるような電極であることを特徴とする、リチウム電池。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2013−504846(P2013−504846A)
【公表日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−528423(P2012−528423)
【出願日】平成22年9月8日(2010.9.8)
【国際出願番号】PCT/FR2010/051871
【国際公開番号】WO2011/030058
【国際公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(507001612)
【Fターム(参考)】